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特開2024-95016保冷保温器および保冷保温器の制御方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024095016
(43)【公開日】2024-07-10
(54)【発明の名称】保冷保温器および保冷保温器の制御方法
(51)【国際特許分類】
   A01N 1/02 20060101AFI20240703BHJP
   B65D 81/18 20060101ALI20240703BHJP
   A61J 3/00 20060101ALI20240703BHJP
   F25D 11/00 20060101ALI20240703BHJP
【FI】
A01N1/02
B65D81/18
A61J3/00 301
F25D11/00 101W
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022211991
(22)【出願日】2022-12-28
(71)【出願人】
【識別番号】398032289
【氏名又は名称】株式会社テックスイージー
(71)【出願人】
【識別番号】523001887
【氏名又は名称】モルーラ合同会社
(74)【代理人】
【識別番号】100112737
【弁理士】
【氏名又は名称】藤田 考晴
(74)【代理人】
【識別番号】100136168
【弁理士】
【氏名又は名称】川上 美紀
(74)【代理人】
【識別番号】100172524
【弁理士】
【氏名又は名称】長田 大輔
(72)【発明者】
【氏名】小林 隆秀
(72)【発明者】
【氏名】篠田 麻子
【テーマコード(参考)】
3E067
3L045
4C047
4H011
【Fターム(参考)】
3E067AB83
3E067AC01
3E067BA01A
3E067BB11A
3E067BB14A
3E067BC07A
3E067CA04
3E067CA18
3E067CA19
3E067EB27
3E067FA01
3E067FC01
3E067GA01
3E067GA06
3E067GD01
3L045AA04
3L045BA02
3L045CA02
3L045EA03
3L045MA02
3L045PA01
3L045PA03
3L045PA04
4C047AA31
4C047BB03
4C047BB04
4C047BB11
4C047CC30
4C047GG37
4H011CA01
4H011CB08
4H011CC01
4H011CD06
(57)【要約】
【課題】小型化を実現しつつ低温環境および高温環境の双方における採取物の特性の変化を防止する。
【解決手段】採取物210が封入された容器220を収容する本体部10と、蓋部20と、を備え、本体部10は、筒状に形成される金属製の第1筒部11と、筒状に形成される金属製の第2筒部12と、第1筒部11の第1底部11bと熱伝導可能に配置される第1伝熱面13aと第2筒部12の第2底部12bと熱伝導可能に配置される第2伝熱面13bとを有するペルチェ素子13と、容器220が収容される収容空間S1の温度が所定の温度となるようにペルチェ素子13に印加する電力を制御する制御基板17と、を有し、第1筒部11は、収容空間S1に露出して配置され、第2筒部12は、軸線Xに対して第1筒部11の外側で外部空間S3に露出して配置される保冷保温器100を提供する。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
採取物が封入された容器を所定の温度に調節する保冷保温器であって、
前記容器を収容する本体部と、
前記本体部に着脱可能に取り付けられるとともに前記容器が収容される前記本体部の収容空間を封止する蓋部と、を備え、
前記本体部は、
軸線に沿って延びる筒状に形成されるとともに第1底部を有する金属製の第1筒部と、
前記軸線に沿って延びる筒状に形成されるとともに第2底部を有する金属製の第2筒部と、
前記第1底部と熱伝導可能に配置される第1伝熱面と前記第2底部と熱伝導可能に配置される第2伝熱面とを有するペルチェ素子と、
前記収容空間の温度が前記所定の温度となるように前記ペルチェ素子に印加する電力を制御する制御部と、を有し、
前記第1筒部は、前記収容空間に露出して配置され、
前記第2筒部は、前記軸線に対して前記第1筒部の外側で外部空間に露出して配置される保冷保温器。
【請求項2】
前記蓋部は、
前記軸線に沿って延びる筒状に形成される側面部と、
前記側面部の上端に連結されるともに前記容器の上方に配置される上面部と、を有し、
前記上面部には、前記軸線が通過する中心位置において前記収容空間に向けて突出する突出部が形成されている請求項1に記載の保冷保温器。
【請求項3】
前記本体部は、前記第1筒部と前記第2筒部との間に形成される内部空間の上方に配置されるとともに前記軸線回りの周方向に沿って旋回する雄ねじが形成された締結部を有し、
前記蓋部の前記側面部の内周面には、前記周方向に沿って旋回するとともに前記雄ねじと係合する雌ねじが形成されている請求項2に記載の保冷保温器。
【請求項4】
前記第1筒部と前記第2筒部との間に形成される内部空間に配置される断熱材を備える請求項1または請求項2に記載の保冷保温器。
【請求項5】
前記収容空間の温度を検出する温度検出部を備え、
前記制御部は、前記温度検出部が検出する温度の単位時間あたりの変化値が予め定めた所定の閾値以内となるように前記ペルチェ素子に印加する電力を制御する請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の保冷保温器。
【請求項6】
前記制御部は、前記第1筒部および前記第2筒部に接触しない状態で、前記第2底部の下方に配置される請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の保冷保温器。
【請求項7】
前記制御部と外部機器とを着脱可能に接続するインターフェースを備え、
前記制御部は、前記インターフェースを介して前記外部機器から受電した電力を前記ペルチェ素子に印加する請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の保冷保温器。
【請求項8】
採取物が封入された容器を所定の温度に調節する保冷保温器の制御方法であって、
前記保冷保温器は、
前記容器を収容する本体部と、
前記本体部に着脱可能に取り付けられるとともに前記容器が収容される前記本体部の収容空間を封止する蓋部と、を有し、
前記本体部は、
軸線に沿って延びる筒状に形成されるとともに第1底部を有する金属製の第1筒部と、
前記軸線に沿って延びる筒状に形成されるとともに第2底部を有する金属製の第2筒部と、
前記第1底部と熱伝導可能に配置される第1伝熱面と前記第2底部と熱伝導可能に配置される第2伝熱面とを有するペルチェ素子と、を有し、
前記第1筒部は、前記収容空間に露出して配置され、
前記第2筒部は、前記軸線に対して前記第1筒部の外側で外部空間に露出して配置され、
前記収容空間の温度が前記所定の温度となるように前記ペルチェ素子に印加する電力を制御する制御工程を備える保冷保温器の制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、不妊治療において患者が採取した精液等の採取物が封入された容器を運搬する際に用いられる保冷保温器および保冷保温器の制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
不妊治療においては、不妊治療患者が自宅で採精した精液等の採取物を容器に封入し、自宅から運搬先(例えば、クリニック)に運搬する必要がある。この際、冬場の低温環境や夏場の高温環境では、自宅から運搬先への容器の運搬中に採取物の特性が変化してしまう場合がある。例えば、採取物が精液である場合、精子の運動性や生存率などが低下してしまう可能性がある。そこで、低温環境における採取物の特性の変化を防止するため、容器を布等の断熱材で覆う、あるいは飲料用の真空断熱容器を用いる等の方法が用いられることがある。
【0003】
また、特許文献1には、精液を収容する採精容器を保温容器の収容空間に収容し、収容空間の中の温度が所定の温度を下回った場合に、収容空間に配置される電熱器を発熱させることで、低温環境における精子の運動率の低下を防止する精液運搬容器が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2022-70511号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に開示される運搬容器は、低温環境における採取物の特性の変化を防止することができるものの、高温環境における採取物の特性の変化を防止することはできない。また、特許文献1において、電熱器とは別途に冷却装置を設けることで高温環境における採取物の特性の変化を防止することができるが、装置が大型化してしまう。特に、換気を行うためのファン等の機構を設けると、装置の大型化が顕著となる。
【0006】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、小型化を実現しつつ低温環境および高温環境の双方における採取物の特性の変化を防止することが可能な保冷保温器および保冷保温器の制御方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、上記の課題を解決するため、下記の手段を採用した。
本発明の一態様に係る保冷保温器は、採取物が封入された容器を所定の温度に調節する保冷保温器であって、前記容器を収容する本体部と、前記本体部に着脱可能に取り付けられるとともに前記容器が収容される前記本体部の収容空間を封止する蓋部と、を備え、前記本体部は、軸線に沿って延びる筒状に形成されるとともに第1底部を有する金属製の第1筒部と、前記軸線に沿って延びる筒状に形成されるとともに第2底部を有する金属製の第2筒部と、前記第1底部と伝熱可能に配置される第1伝熱面と前記第2底部と伝熱可能に配置される第2伝熱面とを有するペルチェ素子と、前記収容空間の温度が前記所定の温度となるように前記ペルチェ素子に印加する電力を制御する制御部と、を有し、前記第1筒部は、前記収容空間に露出して配置され、前記第2筒部は、前記軸線に対して前記第1筒部の外側で外部空間に露出して配置される。
【0008】
本発明の一態様に係る保冷保温器によれば、採取物が封入された容器を本体部の収容空間に収容し、本体部に蓋部を取り付けることにより、容器が収容空間に封止される。本体部は、金属製の第1筒部と、金属製の第2筒部とを備える。ペルチェ素子の第1伝熱面が第1筒部と熱伝導可能に配置され、ペルチェ素子の第2伝熱面が第2筒部と熱伝導可能に配置される。制御部は、収容空間の温度が所定の温度となるようにペルチェ素子に印加する電力を制御する。制御部は、収容空間を加熱する場合は第1伝熱面を放熱面とする一方で第2伝熱面を吸熱面とする。また、制御部は、収容空間を冷却する場合は第1伝熱面を吸熱面とし第2伝熱面を放熱面とする。
【0009】
また、本発明の一態様に係る保冷保温器によれば、第1筒部は、収容空間に露出して配置される。そのため、第1伝熱面が放熱面となる場合は第1伝熱面により第1筒部を介して収容空間が加熱され、第1伝熱面が吸熱面となる場合は第1伝熱面により第1筒部を介して収容空間が冷却される。また、本発明の一態様に係る保冷保温器によれば、第2筒部は、軸線に対して第1筒部の外側で外部空間に露出して配置される。そのため、第2伝熱面が吸熱面となる場合は第2伝熱面により第2筒部を介して外部空間の外気が冷却され、第2伝熱面が放熱面となる場合は第2伝熱面により第2筒部を介して外部空間の外気が加熱される。したがって、低温環境および高温環境の双方における採取物の特性の変化を防止することができる。
【0010】
また、本発明の一態様に係る保冷保温器によれば、金属製の第1筒部を介してペルチェ素子の第1伝熱面と収容空間との熱交換を行い、金属製の第2筒部を介してペルチェ素子の第2伝熱面と外気との熱交換を行う。ファン等の換気機構を用いずに熱交換を行うため、保冷保温器の小型化を実現することができる。
【0011】
本発明の一態様に係る保冷保温器において、前記蓋部は、前記軸線に沿って延びる筒状に形成される側面部と、前記側面部の上端に連結されるともに前記容器の上方に配置される上面部と、を有し、前記上面部には、前記軸線が通過する中心位置において前記収容空間に向けて突出する突出部が形成されている構成としてもよい。
【0012】
本構成の保冷保温器によれば、蓋部の上面部に突出部が形成されているため、蓋部を本体部に取り付ける際に突出部を容器の上端に接触させることにより、収容空間における容器の軸線に沿った位置が固定される。また、突出部が容器の上端にのみ接触するため、蓋部を軸線回りに回転させながら本体部に取り付ける際に、本体部に対して容器が回転することが抑制される。そのため、突出部を設けない場合に比べ、収容空間における容器の移動とそれに伴う採取物の損傷を適切に防止することができる。
【0013】
本発明の一態様に係る保冷保温器において、前記本体部は、前記第1筒部と前記第2筒部との間に形成される内部空間の上方に配置されるとともに前記軸線回りの周方向に沿って旋回する雄ねじが形成された締結部を有し、前記蓋部の前記側面部の内周面には、前記周方向に沿って旋回するとともに前記雄ねじと係合する雌ねじが形成されている構成としてもよい。
【0014】
本構成の保冷保温器によれば、本体部の締結部に形成された雄ねじに対して、蓋部の側面部の内周面に形成された雌ねじを係合させることにより、蓋部を本体部に取り付けることができる。そして、蓋部の上面部に形成された突出部が適切な荷重で容器の上端を押し付け、収容空間における容器の軸線に沿った位置が固定された状態とすることができる。また、雄ねじと雌ねじとが係合する長さを調整することにより、高さの異なる複数種類の容器のいずれが本体部の収容空間に収容される場合であっても、収容空間における容器の軸線に沿った位置を確実に固定することができる。
【0015】
本発明の一態様に係る保冷保温器においては、前記第1筒部と前記第2筒部との間に形成される内部空間に配置される断熱材を備える構成としてもよい。
本構成の保冷保温器によれば、断熱材により第1筒部と第2筒部との間での直接的な熱交換が行われることを適切に防止し、ペルチェ素子による収容空間と外部空間の外気との熱交換効率を高めることができる。
【0016】
本発明の一態様に係る保冷保温器においては、前記収容空間の温度を検出する温度検出部を備え、前記制御部は、前記温度検出部が検出する温度の単位時間あたりの変化値が予め定めた所定の閾値以内となるように前記ペルチェ素子に印加する電力を制御する構成としてもよい。
【0017】
本構成の保冷保温器によれば、温度検出部が検出する温度の単位時間あたりの変化値を予め定めた所定の閾値以内とすることで、容器に収容される採取物の温度の単位時間あたりの変化値が所定の閾値よりも大きくなって採取物の特性が大きく変化する不具合を防止することができる。
【0018】
本発明の一態様に係る保冷保温器において、前記制御部は、前記第1筒部および前記第2筒部に接触しない状態で、前記第2底部の下方に配置される構成としてもよい。
【0019】
本構成の保冷保温器によれば、ペルチェ素子に電力を印加する制御部は、動作時に発熱するものの、第1筒部および第2筒部に接触しない状態で、第2底部の下方に配置される。そのため、制御部を第1筒部または第2筒部のいずれかに接触させる場合、あるいは、制御部を第1筒部と第2筒部との間に形成される内部空間に配置する場合に比べ、制御部の動作時の発熱による影響を抑制することができる。これにより、ペルチェ素子による収容空間と外部空間の外気との熱交換効率を高めることができる。
【0020】
本発明の一態様に係る保冷保温器においては、前記制御部と外部機器とを着脱可能に接続するインターフェースを備え、前記制御部は、前記インターフェースを介して前記外部機器から受電した電力を前記ペルチェ素子に印加する構成としてもよい。
【0021】
本構成の保冷保温器によれば、インターフェースに外部機器を接続することにより、外部機器からインターフェースを介して制御部に電力を供給することができる。そのため、保冷保温器に電源を設けずに小型化を実現しつつ、外部機器から容易に電力を供給して保冷保温機能を実現することができる。
【0022】
本発明の一態様に係る保冷保温器の制御方法は、採取物が封入された容器を所定の温度に調節する保冷保温器の制御方法であって、前記保冷保温器は、前記容器を収容する本体部と、前記本体部に着脱可能に取り付けられるとともに前記容器が収容される前記本体部の収容空間を封止する蓋部と、を有し、前記本体部は、軸線に沿って延びる筒状に形成されるとともに第1底部を有する金属製の第1筒部と、前記軸線に沿って延びる筒状に形成されるとともに第2底部を有する金属製の第2筒部と、前記第1底部と熱伝導可能に配置される第1伝熱面と前記第2底部と熱伝導可能に配置される第2伝熱面とを有するペルチェ素子と、を有し、前記第1筒部は、前記収容空間に露出して配置され、前記第2筒部は、前記軸線に対して前記第1筒部の外側で外部空間に露出して配置され、前記収容空間の温度が前記所定の温度となるように前記ペルチェ素子に印加する電力を制御する制御工程を備える。
【0023】
本発明の一態様に係る保冷保温器の制御方法によれば、採取物が封入された容器を本体部の収容空間に収容し、本体部に蓋部を取り付けることにより、容器が収容空間に封止される。本体部は、金属製の第1筒部と、金属製の第2筒部とを備える。ペルチェ素子の第1伝熱面が第1筒部と熱伝導可能に配置され、ペルチェ素子の第2伝熱面が第2筒部と熱伝導可能に配置される。制御工程は、収容空間の温度が所定の温度となるようにペルチェ素子に印加する電力を制御する。制御工程は、収容空間を加熱する場合は第1伝熱面を放熱面とする一方で第2伝熱面を吸熱面とする。また、制御工程は、収容空間を冷却する場合は第1伝熱面を吸熱面とし第2伝熱面を放熱面とする。
【0024】
また、本発明の一態様に係る保冷保温器の制御方法によれば、第1筒部は、収容空間に対して露出して配置される。そのため、第1伝熱面が放熱面となる場合は第1伝熱面により第1筒部を介して収容空間が加熱され、第1伝熱面が吸熱面となる場合は第1伝熱面により第1筒部を介して収容空間が冷却される。また、本発明の一態様に係る保冷保温器の制御方法によれば、第2筒部は、保冷保温器の外周面の一部を形成するように軸線に対して第1筒部の外側に配置される。そのため、第2伝熱面が吸熱面となる場合は第2伝熱面により第2筒部を介して外部空間の外気が冷却され、第2伝熱面が放熱面となる場合は第2伝熱面により第2筒部を介して外部空間の外気が加熱される。したがって、低温環境および高温環境の双方における採取物の特性の変化を防止することができる。
【0025】
また、本発明の一態様に係る保冷保温器の制御方法によれば、金属製の第1筒部を介してペルチェ素子の第1伝熱面と収容空間との熱交換を行い、金属製の第2筒部を介してペルチェ素子の第2伝熱面と外部空間の外気との熱交換を行う。ファン等の換気機構を用いずに熱交換を行うため、保冷保温器の小型化を実現することができる。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、小型化を実現しつつ低温環境および高温環境の双方における採取物の特性の変化を防止することが可能な保冷保温器および保冷保温器の制御方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
図1】本発明の一実施形態の保冷保温器を示す正面図である。
図2図1に示す保冷保温器のA-A矢視断面図である。
図3図2に示す保冷保温器の分解図である。
図4図3に示す本体部の分解図である。
図5】本発明の一実施形態の保冷保温器を示す斜視図である。
図6】保冷保温器の縦断面図である。
図7】本発明の一実施形態の保冷保温器を用いた容器の運搬方法を示すフローチャートである。
図8】本発明の一実施形態の保冷保温器の制御方法を示すフローチャートである。
図9】本発明の一実施形態の保冷保温器の温度センサが検出する温度の一例を示すグラフである。
図10】本発明の一実施形態の保冷保温器の外部空間の環境温度と収容空間の温度との関係の一例を示すグラフである。
図11】本発明の一実施形態の保冷保温器の環境温度を0℃とした場合の収容空間の温度の変化を示すグラフである。
図12】本発明の一実施形態の保冷保温器の環境温度を39℃とした場合の収容空間の温度の変化を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、本発明の一実施形態に係る保冷保温器100について、図面を参照して説明する。図1は、本発明の一実施形態の保冷保温器100を示す正面図である。図2は、図1に示す保冷保温器100のA-A矢視断面図である。図3は、図2に示す保冷保温器100の分解図である。図4は、図3に示す本体部10の分解図である。図5は、本発明の一実施形態の保冷保温器100を示す斜視図である。
【0029】
本実施形態の保冷保温器100は、精液等の採取物210が封入された容器220を所定の目標温度に調整する装置である。図1から図3に示すように、保冷保温器100は、容器220を収容する本体部10と、本体部10に着脱可能に取り付けられるとともに容器220が収容される本体部10の収容空間S1を封止する蓋部20と、を備える。
【0030】
本体部10は、第1筒部11と、第2筒部12と、ペルチェ素子13と、伝熱部材14と、保持部材15と、断熱材16と、制御基板(制御部)17と、インターフェース17aと、温度センサ(温度検出部)17bと、締結部18と、脚部19と、を有する。
【0031】
第1筒部11は、軸線Xに沿って延びる筒状に形成される金属製(例えば、アルミニウム合金または銅合金等)の部材である。第1筒部11は、軸線Xに沿って円筒状に形成される側面部11aと、側面部11aの下端に連結されるとともに軸線Xに沿った平面視が円形の第1底部11bと、を有する。第1筒部11は、側面部11aと第1底部11bとを金属材料により一体に成形した部材である。
【0032】
第2筒部12は、軸線Xに沿って延びる筒状に形成される金属製(例えば、アルミニウム合金や銅合金等)の部材である。第2筒部12は、軸線Xに沿って円筒状に形成される側面部12aと、側面部12aの下端に連結されるとともに軸線Xに沿った平面視が円形の第2底部12bと、を有する。第2筒部12は、側面部12aと第2底部12bとを金属材料により一体に成形した部材である。
【0033】
図1から図4に示すように、第2筒部12の軸線Xに直交する方向の外径は、第1筒部11の軸線Xに直交する方向の外径よりも大きい。第2筒部12は、軸線Xに対して第1筒部11の外側に配置される。図2に示すように、第1筒部11は、保冷保温器100の内周面の一部を形成するように収容空間S1に露出して配置される。図1および図2に示すように、第2筒部12は、保冷保温器100の外周面の一部を形成するように外部空間S3に露出して配置される。
【0034】
ペルチェ素子13は、ペルチェ効果を利用して一方の面と他方の面とに温度差を生じさせる半導体素子である。ペルチェ素子13は、第1筒部11の第1底部11bと熱伝導可能に配置される第1伝熱面13aと、第2筒部12の第2底部12bと熱伝導可能に配置される第2伝熱面13bと、を有する。ペルチェ素子13は、例えば、軸線Xに沿ってみた平面視が正方形に形成される。
【0035】
ペルチェ素子13に印加される電力は、制御基板17により制御される。制御基板17は、ペルチェ素子13に印加される直流電流を制御し、第1伝熱面13aが吸熱面となり第2伝熱面13bが放熱面となる冷却状態と、第1伝熱面13aが放熱面となり第2伝熱面13bが吸熱面となる冷却状態とを切り替える。
【0036】
図2に示すように、本実施形態の保冷保温器100は、第1筒部11の第1底部11bと第1伝熱面13aとの双方に伝熱部材14を接触させて配置することにより、第1伝熱面13aと第1底部11bとが伝熱部材14を介して熱伝導可能となっている。また、第2筒部12の第2底部12bと第2伝熱面13bとを直接的に接触させて配置することにより、第2伝熱面13bと第2底部12bとが熱伝導可能となっている。
【0037】
なお、第1伝熱面13aと第1底部11bとを直接的に接触させて配置することにより、第1伝熱面13aと第1底部11bとが熱伝導可能となるようにしてもよい。また、第2筒部12の第2底部12bと第2伝熱面13bとの双方に伝熱部材(図示略)を接触させて配置することにより、第2伝熱面13bと第2底部12bとが伝熱部材(図示略)を介して熱伝導可能となるようにしてもよい。
【0038】
図2に示すように、第1筒部11は、収容空間S1に露出して配置される。そのため、ペルチェ素子13の第1伝熱面13aが放熱面となる場合は、伝熱部材14および第1筒部11を介して収容空間S1が加熱され、ペルチェ素子13の第1伝熱面13aが吸熱面となる場合は、伝熱部材14および第1筒部11を介して収容空間S1が冷却される。
【0039】
図1および図2に示すように、第2筒部12は、外部空間S3に露出して配置される。そのため、ペルチェ素子13の第1伝熱面13aが放熱面となる場合は、伝熱部材14および第1筒部11を介して収容空間S1が加熱され、ペルチェ素子13の第1伝熱面13aが吸熱面となる場合は、伝熱部材14および第1筒部11を介して収容空間S1が冷却される。
【0040】
伝熱部材14は、第1伝熱面13aと第1底部11bとの双方に直接的に接触した状態で配置される金属製(例えば、アルミニウム合金や銅合金等)の部材である。伝熱部材14は、第1伝熱面13aと第1底部11bとの間の熱伝導を促進する部材である。図4に示すように、伝熱部材14の外径D1は、ペルチェ素子13の幅W1よりも大きい。
【0041】
外径D1を幅W1よりも大きくすることで、ペルチェ素子13の第1伝熱面13aの熱を、幅W1よりも広い範囲で第1底部11bに伝達することができる。そのため、収容空間S1の第1底部11bの近傍の各位置における温度差を少なくし、容器220に収容される採取物210を均等に冷却または加熱することができる。
【0042】
保持部材15は、伝熱部材14と第2筒部12の第2底部12bとの間にペルチェ素子13を保持するための部材である。保持部材15は、伝熱部材14と第2底部12bとの双方に接触して配置される。保持部材15は、伝熱部材14と第2底部12bとの間の熱伝導を抑制するため、例えば、熱伝導率が金属材料に比べて極めて低い樹脂材料等により形成される。
【0043】
断熱材16は、第1筒部11の側面部11aと第2筒部12の側面部12aとの間の熱伝導を抑制するための部材である。断熱材16は、第1筒部11と第2筒部12の双方に接触するように、第1筒部11と第2筒部12との間に形成される内部空間S2に充填される。断熱材16として、例えば、ポリウレタン樹脂が用いられる。本実施形態では、第1筒部11と第2筒部12との間に形成される内部空間S2に断熱材16を充填するものとしたが、他の態様であってもよい。例えば、内部空間S2を気密に封止して減圧し、内部空間S2を真空断熱層として機能させてもよい。
【0044】
制御基板17は、容器220を収容する収容空間S1の温度が所定の目標温度Ttarとなるようにペルチェ素子13に印加する電力を制御する装置である。ここで、所定の温度とは、例えば、予め設定された目標温度である。容器220に封入された採取物210が精液である場合、例えば、25℃に設定するのが好ましい。目標温度Ttarは、採取物210の特性や、保冷保温器100の特性等を考慮して、25℃以外の他の温度に設定してもよい。
【0045】
制御基板17は、ペルチェ素子13に印加する電圧の極性を切り替えることにより、第1伝熱面13aが吸熱面となり第2伝熱面13bが放熱面となる冷却状態と、第1伝熱面13aが放熱面となり第2伝熱面13bが吸熱面となる冷却状態とを切り替える。また、制御基板17は、ペルチェ素子13に印加する電圧の大きさを調整することにより、第1伝熱面13aおよび第2伝熱面13bの伝熱量(発熱量または吸熱量)を制御する。
【0046】
インターフェース17aは、制御基板17と携帯可能な充電式のバッテリー(外部機器)300とを着脱可能に接続する装置である。図1に示すように、インターフェース17aは、制御基板17に接続されるケーブル17a1と、ケーブル17a1とバッテリー300とを接続する接続端子17a2とを有する。インターフェース17aは、例えば、USB(Universal Serial Bus)規格に沿ったインターフェースである。
【0047】
制御基板17は、インターフェース17aを介して、バッテリー300に充電された電力の供給を受ける。制御基板17は、インターフェース17aを介してバッテリー300から受電した電力をペルチェ素子13に印加する。
【0048】
温度センサ17bは、伝熱部材14および第2筒部12を介して収容空間S1の温度を検出する装置である。温度センサ17bは、伝熱部材14に取り付けられており、伝熱部材14の温度を検出する。伝熱部材14は、第2筒部12の第2底部12bと接触した状態で配置される。また、第2筒部12は、収容空間S1に露出して配置される。伝熱部材14が第2筒部12を介して収容空間S1と熱伝導可能であるため、温度センサ17bは、伝熱部材14および第2筒部12を介して収容空間S1の温度を間接的に検出する。
【0049】
締結部18は、第1筒部11と第2筒部12との間に形成される内部空間S2の上方に配置される部材である。締結部18は、軸線Xを中心に略円筒状に形成される。図4に示すように、締結部18は、軸線X回りの周方向に沿って旋回する雄ねじ18aが形成された部材である。締結部18は、内部空間S2の上方を封止するように第1筒部11の上端と第2筒部12の上端との間に取り付けられる。締結部18は、第1筒部11と第2筒部12との間の熱伝導を抑制するため、例えば、熱伝導率が金属材料に比べて極めて低い樹脂材料等により形成される。
【0050】
図3から図5に示すように、締結部18は、軸線Xに直交する水平面上に配置される環状の平面部18bを有する。蓋部20が締結部18に締結された状態で、平面部18bと蓋部20の下端に形成される平面部21cとが接触する。平面部21cは、軸線Xに直交する水平面上に配置される環状の面である。
【0051】
図5に示すように、平面部18bには、バッテリー300から制御基板17に電力が供給される場合に点灯し、バッテリー300から制御基板17に電力が供給されない場合に消灯するランプ18cが設けられている。ランプ18cは、平面部18bから上方に突出しないように平面部18bに埋め込まれている。
【0052】
蓋部20を締結部18に締結した状態で、蓋部20の平面部21cと締結部18の平面部18bを接触させた状態となる。ランプ18cが平面部21cにより覆われた状態となる。蓋部20が透光性を有する樹脂材料により形成されているため、ランプ18cが点灯する場合、ランプ18cからの発光を、蓋部20を介して患者が視認することができる。
【0053】
図2に示す保冷保温器100に収容される容器220は、蓋部20の平面部21cと締結部18の平面部18bとが接触するまで蓋部20を締結部18に締結した状態で、蓋部20の突出部22aが容器220の上端に接触する高さH1とした。すなわち、蓋部20の平面部21cと締結部18の平面部18bが接触した状態において、容器220の高さH1が、軸線X上の第1底部11bの位置X1から突出部22aの位置X2までの長さと一致するものとしたが、他の態様であってもよい。
【0054】
例えば、図6の縦断面図に示すように、容器220は、蓋部20の平面部21cと締結部18の平面部18bとが接触しない状態で、蓋部20の突出部22aが容器220の上端に接触する高さH2としてもよい。図6は、本実施形態の保冷保温器100は、締結部18の雄ねじ18aと蓋部20の雌ねじ21bとが係合する長さを調整することにより、異なる高さを有する複数種の容器220を収容空間S1に固定した状態で適切に収容することができる。そのため、保冷保温器100により運搬する容器220の高さが運搬先のクリニックにより異なる場合であっても、保冷保温器100の内部で容器220が移動しないように確実に固定することができる。
【0055】
脚部19は、脚部19を除く保冷保温器100の各部の重量を支持する部材である。図4に示すように、脚部19は、タッピングネジ400(図2および図3参照)が挿入される一対の挿入穴19aを有する。図4に示すように、保持部材15には、タッピングネジ400の先端が締結される一対の締結穴15aが形成されている。一対の締結穴15aは、第2筒部12の第2底部12bに形成された一対の貫通穴12cと、制御基板17に形成された一対の切欠部17cに挿入される。
【0056】
図2に示すように、一対のタッピングネジ400を一対の締結穴15aに締結することにより、脚部19に対して保持部材15および第2筒部12が固定される。また、制御基板17は、保持部材15および脚部19の間に挟まれて固定される。制御基板17は、第1筒部11および第2筒部12のいずれにも接触しない状態で、第2筒部12の第2底部12bの下方に配置される。
【0057】
蓋部20は、軸線Xに沿って延びる筒状に形成される側面部21と、側面部21の上端に連結されるともに容器220の上方に配置される上面部22と、を有する。蓋部20は、収容空間S1と外部空間S3との間の熱伝導を抑制するため、例えば、熱伝導率が金属材料に比べて極めて低い樹脂材料等により形成される。蓋部20は、収容空間S1に配置される容器220を外部空間S3から視認可能となるように、透光性を有する樹脂材料により形成されている。なお、蓋部20を、透光性を有しない樹脂材料により形成してもよい。
【0058】
図2に示すように、蓋部20の上面部22には、軸線Xが通過する中心位置において収容空間S1に向けて突出する突出部22aが形成されている。本実施形態の保冷保温器100によれば、蓋部20の上面部22に突出部22aが形成されているため、蓋部20を本体部10に取り付ける際に突出部22aを容器220の上端に接触させることにより、収容空間S1における容器220の軸線Xに沿った位置が固定される。そのため、突出部22aを設けない場合に比べ、収容空間S1における容器220の移動とそれに伴う採取物の損傷を適切に防止することができる。
【0059】
図3に示すように、蓋部20の側面部21の内周面21aには、軸線X回りの周方向に沿って旋回するとともに本体部10の締結部18の雄ねじ18aと係合する雌ねじ21bが形成されている。患者は、容器220を収容した本体部10の締結部18に蓋部20を接触させ、蓋部20を軸線X回りに回転させて蓋部20の雌ねじ21bを本体部10の雄ねじ18aに係合させることにより、蓋部20を本体部10に取り付ける。
【0060】
次に、本発明の一実施形態の保冷保温器を用いた容器の運搬方法について説明する。図7は、本発明の一実施形態の保冷保温器を用いた容器の運搬方法を示すフローチャートである。
【0061】
ステップS101で、患者は、自身の採取物210(例えば、精液)を採取し、採取した採取物210を容器220へ封入する。
ステップS102で、患者は、保冷保温器100の本体部10の収容空間S1へ容器220を収容し、蓋部20を本体部10に取り付ける。蓋部20が取り付けられた本体部10の収容空間S1は密封された状態となる。
【0062】
ステップS103で、患者は、バッテリー300をインターフェース17aに接続し、バッテリー300から制御基板17へ電力が供給される状態とする。制御基板17は、バッテリー300から電力供給を受けることにより、収容空間S1を所定の目標温度Ttarとするようにペルチェ素子13を制御する動作を開始する。
【0063】
ステップS104で、運搬者(例えば、患者)は、保冷保温器100を自宅からクリニックまで運搬する。患者は、保冷保温器100の運搬中にランプ18cが発光しているかどうかを定期的に確認し、ランプ18cが消灯している場合にはバッテリー300の充電量が不足していると判断し、充電済みの他のバッテリー300に交換する。
【0064】
ステップS105で、運搬者はクリニックの看護士等に保冷保温器100を渡す。看護士等は、運搬者から受け取った保冷保温器100の蓋部20を本体部10から取り外し、容器220を回収する。看護士等は、容器220が患者本人の採取物210(例えば、精液)を封入したものであるかどうかを容器に記入された個人識別情報から特定する。看護士等は、容器220が患者本人であることを確認した場合に、容器220を所定の温度に維持することが可能な保管装置(図示略)に保管する。
【0065】
個人識別情報は、例えば、容器220に貼付されたシールに記入された患者の氏名等の文字情報である。また、個人識別情報は、患者を特定するための情報をコード化したQRコード(登録商標)が印刷されたシール等であってもよい。個人識別情報としてQRコード(登録商標)を用いる場合、クリニックの看護士等は、スマートフォンに搭載されたカメラでQRコード(登録商標)を読み取る操作を行う。スマートフォンは、インストールされた認証用のアプリケーションを介して、読み取られたQRコード(登録商標)を外部装置へ送信し、外部装置からQRコード(登録商標)の認証結果を受信する。クリニックの看護士等は、スマートフォンが受信した認証結果が正しい場合には、容器220が患者本人のものであると判断することができる。
【0066】
なお、患者は、採取物210を採取して容器220に封入した後に、容器220に採取物210が封入された状態が解除されたことを認識可能とする改ざん防止用シールを容器220に貼り付けるのが好ましい。クリニックの看護士等は、改ざん防止用シールが、容器220に採取物210が封入された状態が解除されたことを示す状態となっている場合は、患者本人が採取したものとは異なる採取物210が容器220に封入されている可能性があることを認識することができる。これにより、患者本人の採取物210とは異なる採取物にすり替えられる不具合を防止することができる。
【0067】
次に、本発明の一実施形態の保冷保温器100の制御方法について説明する。図8は、本発明の一実施形態の保冷保温器の制御方法を示すフローチャートである。図8に示す各処理は、制御基板17が有する演算部(図示略)が動作させるプログラムにより実行される。図8に示す処理は、バッテリー300から制御基板17への電力供給が開始されることに応じて実行される。
【0068】
ステップS201で、制御基板17は、温度センサ17bから伝達される温度を読み取ることにより、収容空間S1の温度を検出する。
ステップS202で、制御基板17は、ステップS201で検出された温度が目標温度Ttar未満(例えば、25℃未満)であるかどうかを判定し、YESであればステップS203に処理を進め、NOであればステップS204に処理を進める。
【0069】
ステップS203で、制御基板17は、第1伝熱面13aを放熱面とし、収容空間S1を加熱するようペルチェ素子13に印加する電圧を制御する。制御基板17は、採取物210の温度変化が急激なものとならないように、単位時間あたりの温度変化値の絶対値が所定の閾値Tth以下となるようにペルチェ素子13に印加する電圧を制御する。
【0070】
例えば、制御基板17は、ステップS201で検出した温度と、ステップS201で温度を検出した時刻とを連続的に記憶部(図示略)に記憶させ、下記の式(1)に示す単位時間あたりの温度変化値の絶対値であるTvを算出する。
Tv=|(T2-T1)/(t2-t1)| (1)
【0071】
式(1)で、t1,t2は、温度センサ17bが温度を検出した時刻である。T1は、時刻t1で検出された温度である。T2は、時刻t2で検出された温度である。制御基板17は、Tvが所定の閾値Tth以内となるように時刻t2で温度を検出した後に実行されるステップS203における電圧値の変化量を制御する。所定の閾値Tthは、採取物210の特性に応じて予め制御基板17に設定するものとする。
【0072】
ステップS204で、制御基板17は、ステップS201で検出された温度が目標温度Ttarを超過(例えば、25℃を超過)しているかどうかを判定し、YESであればステップS205に処理を進め、NOであればステップS206に処理を進める。
【0073】
ステップS205で、制御基板17は、第1伝熱面13aを吸熱面とし、収容空間S1を冷却するようペルチェ素子13に印加する電圧を制御する。制御基板17は、採取物の温度変化が急激なものとならないように、単位時間あたりの温度変化値の絶対値が所定の閾値Tth以下となるようにペルチェ素子13に印加する電圧を制御する。
【0074】
ステップS206で、制御基板17は、ステップS201で検出された温度が下限温度Tmin未満(例えば、20℃未満)であるかどうかを判定し、YESであればステップS207に処理を進め、NOであればステップS208に処理を進める。
ステップS207で、制御基板17は、ステップS201で検出された温度が下限温度Tmin未満であることから、異常温度範囲であることを運搬者に報知する。制御基板17は、例えば、ランプ18cを異常であることを示す赤色で点灯させる。
【0075】
ステップS208で、制御基板17は、ステップS201で検出された温度が上限温度Tmaxを超過(例えば、30℃を超過)したかどうかを判定し、YESであればステップS209に処理を進め、NOであればステップS210に処理を進める。
ステップS209で、制御基板17は、ステップS201で検出された温度が上限温度Tmaxを超過したことから、異常温度範囲であることを運搬者に報知する。制御基板17は、例えば、ランプ18cを異常であることを示す赤色で点灯させる。
【0076】
ステップS210で、制御基板17は、ステップS201で検出された温度が下限温度Tmin以上かつ上限温度Tmax以下であるかどうかを判定し、YESであればステップS211に処理を進め、NOであればステップS212に処理を進める。
ステップS211で、制御基板17は、ステップS201で検出された温度が下限温度Tmin以上かつ上限温度Tmax以下であることから、正常温度範囲であることを運搬者に報知する。制御基板17は、例えば、ランプ18cを正常であることを示す緑色で点灯させる。
【0077】
ステップS212で、制御基板17は、バッテリー300から供給される電力が所定値以下であるかどうかを判定し、YESであればステップS213へ処理を進め、NOであればステップS201を再び実行する。
【0078】
ステップS213で、制御基板17は、バッテリー300から供給される電力が所定値以下であり、ペルチェ素子13を用いた収容空間S1の温度制御の継続ができないため、ペルチェ素子13への電圧の印加を停止し、本フローチャートの処理を終了させる。
【0079】
ここで、本実施形態の保冷保温器100の温度センサ17bが検出する温度の一例について図面を参照して説明する。図9は、本発明の一実施形態の保冷保温器100の温度センサ17bが検出する温度の一例を示すグラフである。図9における経過時間は、バッテリー300から制御基板17への電力の供給を開始してからの経過時間を示す。図9に実線で示す温度変化は、本実施形態の保冷保温器100の制御基板17により収容空間S1の温度を制御した一例を示す。
【0080】
一方、図9に点線で示す温度変化は、比較例の保冷保温器100の制御基板17により収容空間S1の温度を制御した一例を示す。比較例は、単位時間あたりの温度変化値が所定の閾値以下となるようにペルチェ素子13に印加する電圧を制御する動作を行わない例である。比較例では、単位時間あたりの温度変化値を考慮しないため、本実施形態の収容空間S1の温度変化よりも、単位時間あたりの温度変化値が大きく、所定の閾値を超過している。
【0081】
本実施形態では、単位時間あたりの温度変化値が所定の閾値以下となるようにペルチェ素子13に印加する電圧を制御するため、容器220に収容される採取物210の単位時間あたりの温度変化が所定の閾値以下となる。そのため、採取物210の特性の変化を適切に防止することができる。
【0082】
一方、比較例では、単位時間あたりの温度変化値が所定の閾値以下となるようにペルチェ素子13に印加する電圧を制御する動作を行わないため、容器220に収容される採取物210の単位時間あたりの温度変化が所定の閾値を超過する可能性がある。そのため、単位時間あたりの温度変化が所定の閾値を超過する場合には、採取物210の特性に変化が生じることを防止することができない。
【0083】
次に、本実施形態の保冷保温器100の環境温度と収容空間S1の温度との関係について図面を参照して説明する。図10は、本発明の一実施形態の保冷保温器の外部空間S3の環境温度と収容空間S1の温度との関係の一例を示すグラフである。図10に実線で示す値は、外部空間S3の環境温度を-5℃から40℃超までの範囲で切り替え、各環境温度において収容空間S1の内部の温度を一定時間に渡って計測した際の温度の平均値を示す。
【0084】
図10に示すように、本実施形態の保冷保温器100によれば、目標温度Ttarを25℃に設定した場合、外部空間S3の環境温度が-5℃以上かつ39℃以下の範囲において、収容空間S1の温度(容器220に封入される採取物210の温度)を20℃以上かつ30℃以下(25℃±5℃)の範囲に維持することができる。
【0085】
図11は、本発明の一実施形態の保冷保温器100の環境温度を0℃とした場合の収容空間S1の温度の変化を示すグラフである。図12は、本発明の一実施形態の保冷保温器100の環境温度を39℃とした場合の収容空間S1の温度の変化を示すグラフである。
【0086】
図11および図12において、実線で示す値は、本実施形態の保冷保温器100を用いた場合の温度変化を示す。図11および図12において、点線で示す比較例1の値は、容器220を保冷保温器100に収容せずに外部空間S3に置いた場合の温度変化を示す。図11および図12において、一点鎖線で示す比較例2の値は、容器220をペルチェ素子13を用いた保冷保温機能を有しない真空断熱容器(図示略)に収容した場合の温度変化を示す。
【0087】
図11および図12に示すように、本実施形態の保冷保温器100は、環境温度が0℃の低温環境および39℃の高温環境のいずれでも、6時間(360分)以上に渡って、収容空間S1の温度(容器220に封入される採取物210の温度)を20℃以上かつ30℃以下(25℃±5℃)の範囲に維持することができる。一方、図11および図12に示すように、比較例1および比較例2では、環境温度が0℃の低温環境および39℃の高温環境のいずれでも、経過時間が大きくなるにしたがって収容空間S1の温度が環境温度に漸次近づくように変化してしまい、20℃以上かつ30℃以下(25℃±5℃)の範囲に維持することができない。
【0088】
以上で説明した本実施形態の保冷保温器100が奏する作用および効果について説明する。
本実施形態の保冷保温器100によれば、採取物210が封入された容器220を本体部10の収容空間S1に収容し、本体部10に蓋部20を取り付けることにより、容器220が収容空間S1に封止される。本体部10は、金属製の第1筒部11と、金属製の第2筒部12とを備える。ペルチェ素子13の第1伝熱面13aが第1筒部11と熱伝導可能に配置され、ペルチェ素子13の第2伝熱面13bが第2筒部12と熱伝導可能に配置される。
【0089】
制御基板17は、収容空間S1の温度が所定の温度となるようにペルチェ素子13に印加する電力を制御する。制御基板17は、収容空間S1を加熱する場合は第1伝熱面13aを放熱面とする一方で第2伝熱面13bを吸熱面とする。また、制御基板17は、収容空間S1を冷却する場合は第1伝熱面13aを吸熱面とし第2伝熱面13bを放熱面とする。
【0090】
また、本実施形態の保冷保温器100によれば、第1筒部11は、収容空間S1に露出して配置される。そのため、第1伝熱面13aが放熱面となる場合は第1伝熱面13aにより第1筒部11を介して収容空間S1が加熱され、第1伝熱面13aが吸熱面となる場合は第1伝熱面13aにより第1筒部11を介して収容空間S1が冷却される。また、本実施形態の保冷保温器100によれば、第2筒部12は、軸線Xに対して第1筒部11の外側で外部空間S3に露出して配置される。
【0091】
そのため、第2伝熱面13bが吸熱面となる場合は第2伝熱面13bにより第2筒部12を介して外部空間S3の外気が冷却され、第2伝熱面13bが放熱面となる場合は第2伝熱面13bにより第2筒部12を介して外部空間S3の外気が加熱される。したがって、低温環境および高温環境の双方における採取物の特性の変化を防止することができる。
【0092】
また、本実施形態の保冷保温器100によれば、金属製の第1筒部11を介してペルチェ素子13の第1伝熱面13aと収容空間S1との熱交換を行い、金属製の第2筒部12を介してペルチェ素子13の第2伝熱面13bと外気との熱交換を行う。ファン等の換気機構を用いずに熱交換を行うため、保冷保温器100の小型化を実現することができる。
【0093】
本実施形態の保冷保温器100によれば、蓋部20の上面部22に突出部22aが形成されているため、蓋部20を本体部10に取り付ける際に突出部22aを容器220の上端に接触させることにより、収容空間S1における容器220の軸線Xに沿った位置が固定される。また、突出部22aが容器220の上端にのみ接触するため、蓋部20を軸線X回りに回転させながら本体部10に取り付ける際に、本体部10に対して容器220が回転することが抑制される。そのため、突出部22aを設けない場合に比べ、収容空間S1における容器220の移動とそれに伴う採取物210の損傷を適切に防止することができる。
【0094】
本実施形態の保冷保温器100によれば、本体部10の締結部18に形成された雄ねじ18aに対して、蓋部20の側面部21の内周面21aに形成された雌ねじ21bを係合させることにより、蓋部20を本体部10に取り付けることができる。そして、雄ねじ18aと雌ねじ21bとが係合する長さを調整することにより、蓋部20の上面部22に形成された突出部22aが適切な荷重で容器220の上端を押し付け、収容空間S1における容器220の軸線Xに沿った位置が固定された状態とすることができる。
【0095】
本実施形態の保冷保温器100によれば、断熱材16により第1筒部11と第2筒部12との間での直接的な熱交換が行われることを適切に防止し、ペルチェ素子13による収容空間S1と外部空間S3の外気との熱交換効率を高めることができる。
【0096】
本実施形態の保冷保温器100によれば、温度センサ17bが検出する温度の単位時間あたりの変化値を予め定めた所定の閾値以内とすることで、容器220に収容される採取物210の温度の単位時間あたりの変化値が所定の閾値よりも大きくなって採取物210の特性が大きく変化する不具合を防止することができる。
【0097】
本実施形態の保冷保温器100によれば、ペルチェ素子13に電力を印加する制御基板17は、動作時に発熱するものの、第1筒部11および第2筒部12に接触しない状態で、第2底部12bの下方に配置される。そのため、制御基板17を第1筒部11または第2筒部12のいずれかに接触させる場合、あるいは、制御基板17を第1筒部11と第2筒部12との間に形成される内部空間S2に配置する場合に比べ、制御基板17の動作時の発熱による影響を抑制することができる。これにより、ペルチェ素子13による収容空間S1と外部空間S3の外気との熱交換効率を高めることができる。
【0098】
本実施形態の保冷保温器100によれば、インターフェース17aにバッテリー300を接続することにより、バッテリー300からインターフェース17aを介して制御基板17に電力を供給することができる。そのため、保冷保温器100に電源を設けずに小型化を実現しつつ、バッテリー300から容易に電力を供給して保冷保温機能を実現することができる。
【0099】
〔他の実施形態〕
以上の説明において、制御基板17は、温度センサ17bが検出する収容空間S1の温度が下限温度Tmin以上かつ上限温度Tmax以下の所定の温度となるようにペルチェ素子13に供給する電力を制御するものとしたが、他の態様であってもよい。例えば、制御基板17は、目標温度を設定し、目標温度を上回った場合に収容空間S1の温度を低下させ、目標温度を下回った場合に収容空間S1の温度を上昇させるようにペルチェ素子13に供給する電力を制御してもよい。
【0100】
また、他の態様として、制御基板17は、温度センサ17bが検出する収容空間S1の温度を連続的に記憶する記憶部(図示略)と、記憶部に記憶された温度を外部の読取装置へ送信する送信部(図示略)を有するものとしてもよい。例えば、保冷保温器100の記憶部に記憶された温度を、送信部を用いてクリニックの受信装置に送信する。送信部としては、Bluetooth(登録商標)、Wifi(登録商標)などの各種の無線通信規格に準じた通信手段を用いることができる。
【0101】
これにより、クリニックにて、保冷保温器100が患者の自宅からクリニックに運搬されるまでの採取物210の温度変化を分析することができる。この分析により、運搬中に採取物210が低温環境や高温環境から受けるダメージや、制御基板17による採取物210の温度制御の有効性等を適切に評価することができる。
【0102】
また、他の態様として、保冷保温器100に容器220に収容された採取物210の重量を検知する重量センサを設け、重量センサが検出する採取物210の重量に応じて、式(1)に示す単位時間あたりの温度変化値Tvと比較する閾値Tthを変化させてもよい。具体的には、採取物210の重量が小さいほど閾値Tthを小さくして採取物210の単位時間あたりの温度変化が少なくなるようにしてもよい。採取物210の重量が小さいほど温度変化が発生しやすいため、急激な変化による採取物210の特性の変化を適切に防止することができる。
【0103】
また、他の態様として、保冷保温器100に容器220の姿勢を認識することが可能なジャイロセンサ(図示略)を設け、ジャイロセンサが検出する姿勢の変化が所定の変化量以上となる場合に、ランプ18cを警告用の色(例えば、通常動作時の緑色に変えて赤色)で点灯したり、警告用の色を点滅させてもよい。また、ジャイロセンサが検出する姿勢の変化を記憶部(図示略)に記憶させ、クリニックの受信装置に向けて送信してクリニックにて容器220の姿勢の変化を分析できるようにしてもよい。
【0104】
なお、ここでは、容器220の姿勢の変化をジャイロセンサが検出する例を説明したが、他の例であってもよい。例えば、容器220に照射される紫外線の変化を紫外線センサが検出する態様や、容器220に照射される太陽光の光量の変化を光量センサが検出する態様や、容器220が配置される空間の湿度の変化を湿度センサが検出する態様であってもよい。これらのセンサが検出する情報は、前述した制御基板17が有する送信部によりクリニックの受信装置へ送信してもよい。
【符号の説明】
【0105】
10 本体部
11 第1筒部
11a 側面部
11b 第1底部
12 第2筒部
12a 側面部
12b 第2底部
12c 貫通穴
13 ペルチェ素子
13a 第1伝熱面
13b 第2伝熱面
14 伝熱部材
15 保持部材
15a 締結穴
16 断熱材
17 制御基板
17a インターフェース
17a1 ケーブル
17a2 接続端子
17b 温度センサ
17c 切欠部
18 締結部
18a 雄ねじ
18b 平面部
18c ランプ
19 脚部
19a 挿入穴
20 蓋部
21 側面部
21a 内周面
21b 雌ねじ
21c 平面部
22 上面部
22a 突出部
100 保冷保温器
210 採取物
220 容器
300 バッテリー
400 タッピングネジ
S1 収容空間
S2 内部空間
S3 外部空間
X 軸線
図1
図2
図3
図4
図5
図6
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図12