IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ アドバンスコンポジット株式会社の特許一覧

<>
  • 特開-接合体及び接合体の製造方法 図1
  • 特開-接合体及び接合体の製造方法 図2
  • 特開-接合体及び接合体の製造方法 図3
  • 特開-接合体及び接合体の製造方法 図4
  • 特開-接合体及び接合体の製造方法 図5
  • 特開-接合体及び接合体の製造方法 図6
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024095036
(43)【公開日】2024-07-10
(54)【発明の名称】接合体及び接合体の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C22C 49/06 20060101AFI20240703BHJP
   B22F 1/00 20220101ALI20240703BHJP
   B22F 1/062 20220101ALI20240703BHJP
   B22F 1/05 20220101ALI20240703BHJP
   C22C 47/08 20060101ALI20240703BHJP
   B22F 3/11 20060101ALI20240703BHJP
   B22F 3/14 20060101ALI20240703BHJP
   B22F 7/08 20060101ALI20240703BHJP
   B22F 3/26 20060101ALI20240703BHJP
   B22D 19/14 20060101ALI20240703BHJP
【FI】
C22C49/06
B22F1/00 S
B22F1/062
B22F1/05
C22C47/08
B22F3/11 C
B22F3/14 101C
B22F7/08 D
B22F3/26 B
B22D19/14 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022212033
(22)【出願日】2022-12-28
(71)【出願人】
【識別番号】515243372
【氏名又は名称】アドバンスコンポジット株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100098707
【弁理士】
【氏名又は名称】近藤 利英子
(74)【代理人】
【識別番号】100135987
【弁理士】
【氏名又は名称】菅野 重慶
(74)【代理人】
【識別番号】100168033
【弁理士】
【氏名又は名称】竹山 圭太
(74)【代理人】
【識別番号】100161377
【弁理士】
【氏名又は名称】岡田 薫
(72)【発明者】
【氏名】北村 仁
(72)【発明者】
【氏名】高木 義夫
【テーマコード(参考)】
4K018
4K020
【Fターム(参考)】
4K018AA24
4K018AB07
4K018BA03
4K018BA07
4K018BA14
4K018BB02
4K018BB04
4K018EA21
4K018FA32
4K018GA06
4K018JA34
4K018JA40
4K018KA22
4K020AA10
4K020AC01
4K020BA08
4K020BB05
4K020BC03
(57)【要約】
【課題】アルミニウム合金の溶湯を用いた接合でありながら、該合金よりも融点の高い金属材料からなる金属部材との反応を抑制でき、さらに機械的接合のメカニズムを巧みに取り入れた、接合強度を高め、しかもリサイクルの難しさを低減した資源保護でも有用な接合体及びその製造方法の提供。
【解決手段】アルミニウム合金からなるアルミニウム合金部材と、該アルミニウム合金よりも高融点の鉄系又は銅系の金属材料からなる金属部材が、前記アルミニウム合金よりも高融点の鉄族元素を含む金属繊維からなり、且つ、該金属繊維同士が点接合した部分を有する成形体である多孔質体に、前記アルミニウム合金が含浸・充填した状態の多孔質体層を介して接合されてなる接合体及びその製造方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルミニウム合金からなるアルミニウム合金部材と、前記アルミニウム合金よりも高融点の鉄系又は銅系の金属材料からなる金属部材が、前記アルミニウム合金よりも高融点の鉄族元素を含む金属繊維からなり、且つ、該金属繊維同士が点接合した部分を有する成形体である多孔質体に、前記アルミニウム合金が含浸・充填した状態の多孔質体層を介して接合されてなることを特徴とする接合体。
【請求項2】
前記鉄族元素が鉄であり、前記金属繊維が鉄を50質量%以上含む請求項1に記載の接合体。
【請求項3】
前記多孔質体が、太さ10μm~300μmの前記金属繊維で構成されており、且つ、気孔率が30%~70%である請求項1又は2に記載の接合体。
【請求項4】
前記多孔質体と前記金属部材との接合面に、さらに1mm以下の厚みの緻密な焼結体層が形成されている請求項1又は2に記載の接合体。
【請求項5】
前記多孔質体が、その厚み方向に少なくとも1個の貫通孔を有するものである請求項1又は2に記載の接合体。
【請求項6】
アルミニウム合金からなるアルミニウム合金部材と、該アルミニウム合金よりも高融点の鉄系又は銅系の金属材料からなる金属部材が、前記アルミニウム合金よりも高融点の鉄族元素を含む金属繊維からなる成形体である多孔質体に、前記アルミニウム合金が含浸・充填した状態の多孔質体層を介して接合されてなる接合体の製造方法であって、
前記金属繊維に電気を流し、該金属繊維同士を点接合させることで、金属部材と接合させる前に予め前記多孔質体を作製する、或いは、金属部材に接合させるとともに前記多孔質体を作製する、多孔質体の作製工程と、
該作製工程で得られる多孔質体と前記金属部材とを接合させて中間の接合体を得る中間接合体の作製工程と、
該中間接合体の作製工程で得た多孔質体を有する中間接合体に、溶解したアルミニウム合金を加圧鋳造して、前記多孔質体に前記溶解したアルミニウム合金を加圧含浸させて充填し、且つ、アルミニウム合金が充填した多孔質体層に接合した状態の前記アルミニウム合金部材を形成するための鋳造工程を有することを特徴とする接合体の製造方法。
【請求項7】
型の中で、前記金属繊維を前記金属部材の接合面上に配置し、その状態で通電加圧して、前記多孔質体の作製工程で行う前記多孔質体の作製と、前記中間接合体の作製工程で行う、前記多孔質体の作製工程で得られる多孔質体と前記金属部材との接合を一緒に行って中間接合体を得る請求項6に記載の接合体の製造方法。
【請求項8】
前記中間接合体の作製工程で、前記多孔質体の作製工程で作製する多孔質体と前記金属部材とを接合させる際に、前記多孔質体と前記金属部材との接合面にさらに金属微粉末を配置することで、前記接合面に緻密な焼結体層を形成させる請求項6又は7に記載の接合体の製造方法。
【請求項9】
前記鋳造工程で、前記多孔質体と前記金属部材とを接合させた中間の接合体の金属部材側を金型底部に固定し、該金型の上部からアルミニウム合金の溶湯を注ぎ込み加圧鋳造して、前記アルミニウム合金が含浸・充填した状態の多孔質体層を介してアルミニウム合金部材と前記金属部材とを一体成型して接合する請求項6又は7に記載の接合体の製造方法。
【請求項10】
前記多孔質体の作製工程で、その厚み方向に少なくとも1個の貫通孔を有する形状の多孔質体を作製する請求項6又は7に記載の接合体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、接合体及び接合体の製造方法に関し、具体的には、軽量で低融点のアルミニウム合金からなるアルミニウム合金部材と、該アルミニウム合金よりも高融点の鉄系又は銅系の金属材料からなる金属部材とを、簡便に且つ強固に接合する技術に関する。さらに詳しくは、アルミニウム合金よりも高融点の金属の繊維からなる多孔質体を形成し、該多孔質体を、アルミニウム合金よりも高融点の金属部材の接合面に配置させた状態で接合し、得られた中間の接合体の多孔質体の部分に溶解したアルミニウム合金を加圧含浸させて多孔質体層を形成するとともに、アルミニウム合金からなるアルミニウム合金部材を形成して、金属部材とアルミニウム合金部材が上記多孔質体層を介して接合してなる接合体及びその製造方法を提供する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
アルミニウム合金は軽量な金属材料であるため、輸送機器を中心に様々な用途が開発され、実用化がされている。さらに、アルミニウム合金を他の特性を有する金属材料と組み合わせて接合等して用いる、マルチマテリアルへの展開が期待されている。特に、アルミニウム合金よりも融点が高く高強度な金属材料である、鉄合金や銅合金との接合が期待されている。金属材料の接合技術としては、接合する金属材料を一部溶解して接合する溶接技術が一般的である。しかし、酸化被膜を生成しやすいアルミニウム合金においては、必ずしも適した方法ではない。また、近年の技術動向である資源の有効活用の観点から、リサイクルすることが強く求められているのに対して、高温の溶接では、硬くて脆い金属間化合物が生成するのでリサイクルを難しくしているとした課題がある。このため、高温の溶接に替わる、アルミニウム合金からなる部材と金属部材の有用な接合技術が求められており、種々の提案がされている。
【0003】
特許文献1では、アルミニウム合金の溶湯を用いるダイキャスト鋳造等の高圧鋳造によって、アルミニウム合金の母材に鉄系合金を鋳ぐるむ際の接合面の改質に関する技術を提案している。具体的には、純アルミの溶融材を用い特定の反応温度で、鉄系合金部材の表面に特定のアルミナイズド処理を施し、該アルミナイズド処理をした鉄系合金を、アルミニウム合金の母材に鋳ぐるみ、鋳ぐるみ製品を熱処理することで鋳ぐるみ品の接合面を改質できるとしている。また、特許文献2は、金属材と、該金属材に積層されたアルミニウム鋳物とを有する金属複合材に関し、アルミニウム鋳物よりも融点が高い金属材の表面に、該金属材からなる合金隆起部が形成された構成の、金属材とアルミニウム鋳物とが高い密着強度で一体化された金属複合材の技術が開示されている。さらに、特許文献3では、アルミニウム材等の第2金属部材の塑性変形を利用して行う異種金属部品接合方法についての提案がされている。この方法では、第1金属部材に設けた逆テーパー状の袋穴部を塞ぐように第2金属部材の端部を配置し、この第2金属部材を圧縮する方向に圧力を加えることで、第2金属部材の端部を塑性変形させ、該第2金属部材を前記袋穴部に流動し充填させて、第1金属部材と第2金属部材とを機械的に接合している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平9-192818号公報
【特許文献2】特開2021-104530号公報
【特許文献3】特開2022-117102号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、本願の発明者らの検討によれば、特許文献1の技術のような、溶解したアルミニウム合金を用いた接合方法では過度に加熱するため、接合部に生じる硬くて脆いFe-Al金属間化合物等の生成が防止できず、近年の技術動向において要望されている製品のリサイクルが難しくなる。加えて、金属間化合物が生成すると、接合部が硬化し、マルチマテリアルに要求される付加機能(例えば、制振性や加工性など)を持たせることができなくなるので、この点でも金属間化合物の生成を抑制する必要がある。
【0006】
また、特許文献3の技術のように、溶解せずに、アルミニウム材等の第2金属部材の塑性変形を利用し、機械的に接合を行う異種金属部品の接合方法では、金属間化合物の生成はないものの、アルミニウム合金等の変形時に大きなエネルギーが必要になるという別の問題がある。特許文献3の技術で第2金属部材に対して行っている逆テーパーの加工も、効率が悪い。また、この機械的接合を行う従来技術では、接合部が固体同士の接触であるため、金属部材同士の密着性に劣るという問題がある。
【0007】
また、本発明者らの検討によれば、上記した従来技術のアルミニウム合金を溶解する接合方法では、アルミニウム合金の溶湯の温度や冷却速度によって金属間化合物の生成量が一定にならず、制御が難しいことがわかった。さらに、接合面の大きさや形状によって応用が難しい場合があることもわかった。
【0008】
従って、本発明の目的は、アルミニウム合金を溶解した溶湯を用いた接合方法でありながら、接合させる、アルミニウム合金よりも融点の高い金属材料からなる金属部材との反応を抑制することができ、さらに、機械的接合のメカニズムを巧みに取り入れた、接合強度を高め、しかもリサイクルの難しさを低減した資源保護の点でも有用な接合体及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の目的は、下記の本発明によって達成される。すなわち、本発明では、下記の接合体を提供する。
[1]アルミニウム合金からなるアルミニウム合金部材と、前記アルミニウム合金よりも高融点の鉄系又は銅系の金属材料からなる金属部材が、前記アルミニウム合金よりも高融点の鉄族元素を含む金属繊維からなり、且つ、該金属繊維同士が点接合した部分を有する成形体である多孔質体に、前記アルミニウム合金が含浸・充填した状態の多孔質体層を介して接合されてなることを特徴とする接合体。
【0010】
上記した本発明の接合体の好ましい形態として、下記の構成の接合体が挙げられる。
[2]前記鉄族元素が鉄であり、前記金属繊維が鉄を50質量%以上含む上記[1]に記載の接合体。
[3]前記多孔質体が、太さ10μm~300μmの前記金属繊維で構成されており、且つ、気孔率が30%~70%である上記[1]又は[2]に記載の接合体。
[4]前記多孔質体と前記金属部材との接合面に、さらに1mm以下の厚みの緻密な焼結体層が形成されている上記[1]~[3]のいずれかに記載の接合体。
[5]前記多孔質体が、その厚み方向に少なくとも1個の貫通孔を有するものである上記[1]~[4]のいずれかに記載の接合体。
【0011】
また、本発明は、別の実施形態として、下記の接合体の製造方法を提供する。
[6]アルミニウム合金からなるアルミニウム合金部材と、該アルミニウム合金よりも高融点の鉄系又は銅系の金属材料からなる金属部材が、前記アルミニウム合金よりも高融点の鉄族元素を含む金属繊維からなる成形体である多孔質体に、前記アルミニウム合金が含浸・充填した状態の多孔質体層を介して接合されてなる接合体の製造方法であって、
前記金属繊維に電気を流し、該金属繊維同士を点接合させることで、金属部材と接合させる前に予め前記多孔質体を作製する、或いは、金属部材に接合させるとともに前記多孔質体を作製する、多孔質体の作製工程と、
該作製工程で得られる多孔質体と前記金属部材とを接合させて中間の接合体を得る中間接合体の作製工程と、
該中間接合体の作製工程で得た多孔質体を有する中間接合体に、溶解したアルミニウム合金を加圧鋳造して、前記多孔質体に前記溶解したアルミニウム合金を加圧含浸させて充填し、且つ、アルミニウム合金が充填した多孔質体層に接合した状態の前記アルミニウム合金部材を形成するための鋳造工程を有することを特徴とする接合体の製造方法。
【0012】
上記した本発明の接合体の製造方法の好ましい形態としては、下記の製造方法が挙げられる。
[7]型の中で、前記金属繊維を前記金属部材の接合面上に配置し、その状態で通電加圧して、前記多孔質体の作製工程で行う前記多孔質体の作製と、前記中間接合体の作製工程で行う、前記多孔質体の作製工程で得られる多孔質体と前記金属部材との接合を一緒に行って中間接合体を得る上記[6]に記載の接合体の製造方法。
[8]前記中間接合体の作製工程で、前記多孔質体の作製工程で予め作製した多孔質体と前記金属部材とを接合させる際に、前記多孔質体と前記金属部材との接合面にさらに金属微粉末を配置することで、前記接合面に緻密な焼結体層を形成させる上記[6]又は[7]に記載の接合体の製造方法。
[9]前記鋳造工程で、前記多孔質体と前記金属部材とを接合させた中間の接合体の金属部材側を金型底部に固定し、該金型の上部からアルミニウム合金の溶湯を注ぎ込み加圧鋳造して、前記アルミニウム合金が含浸・充填した状態の多孔質体層を介してアルミニウム合金部材と前記金属部材とを一体成型して接合する上記[6]~[8]のいずれかに記載の接合体の製造方法。
[10]前記多孔質体の作製工程で、その厚み方向に少なくとも1個の貫通孔を有する形状の多孔質体を作製する上記[6]~[9]のいずれかに記載の接合体の製造方法。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、アルミニウム合金を溶解した溶湯を用いた接合方法でありながら、接合させる、アルミニウム合金よりも融点の高い鉄系又は銅系の金属材料からなる金属部材との反応を抑制することができ、さらに、機械的接合のメカニズムを取り入れた構成としたことで、より接合体の接合強度を高めることができ、マルチマテリアルに要求される付加機能の負荷の点で有用であり、リサイクルの難しさも低減される資源保護の点で有用な接合体製品を提供することが可能になる。また、本発明によれば、上記した優れた効果が得られる接合体を、簡便に安定して提供できる接合体の製造方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明の実施例1及び実施例2で確認した、2種類の、鉄部材とアルミニウム合金部材との接合体1と接合体2における、伸び-応力曲線の破断部による違いを説明するためのグラフである。
図2図1に示した接合体1における引張試験後の、アルミニウム合金部材が多孔質体層から引きちぎられ破断部において確認された「アルミニウム合金の伸び」の外観を説明するための図である。
図3図1に示した接合体1における引張試験後の、破断部の部分拡大図であり、鉄部材と多孔質体層との接合面に形成されることを確認した緻密な焼結体層の存在を説明するための図である。
図4】日本金属学会発行の「講座・現代の金属学 材料編」第4巻の「鉄鋼材料」(1985)から抜粋した、鉄/炭素の2元状態図である。
図5】本発明の実施例3の、銅部材/多孔質体層/アルミニウム合金部材の接合体の引張試験を行った際に使用した試験用の引張試験接合体の外観と、接合部における組織を示す拡大図である。
図6】厚み方向に1個の貫通孔を有する多孔質体を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の好ましい実施形態について説明するが、本発明はこれらの実施形態に限定されるものではない。
【0016】
本発明の接合体は、アルミニウム合金からなるアルミニウム合金部材と、前記アルミニウム合金よりも高融点の鉄系又は銅系の金属材料からなる金属部材とを、前記アルミニウム合金よりも高融点の鉄族元素を含む金属繊維からなる成形体である特有の多孔質体に、前記アルミニウム合金が含浸・充填された状態の多孔質体層を介して接合してなることを特徴とする。上記本発明の構成により本発明の効果を実現できる接合体が容易に得られた理由は、下記のようであると考えられる。まず、特有の材料及び構造を有する多孔質体を用いることで、該多孔質体と前記金属部材とを接合させた中間の接合体を容易に得ることができる。そして、この中間の接合体の多孔質体に、アルミニウム合金の溶湯の流動性を利用して、アルミニウム合金を加圧含浸させて多孔質体層を形成するとともに、アルミニウム合金からなるアルミニウム合金部材を形成したことで、アルミニウム合金よりも高融点の鉄系又は銅系の金属材料からなる金属部材(被接合体)と、アルミニウム合金部材(接合体)を効果的に接合することができる。本発明を特徴づける多孔質体は、アルミニウム合金よりも高融点の鉄族元素を含む金属繊維を用いて作製しているため、従来の金属粉末(粒子)を用いた焼結体よりも複雑な強化材構造を有するものになる。本発明者らは、このことに起因して、本発明の製造方法によって得られた、特有の多孔質体層を介して接合した、鉄系又は銅系の金属部材(被接合体)とアルミニウム合金部材(接合体)との接合体を、強度を高めたものできたものと考えている。また、上記特有の構成の多孔質体層としたことで、接合部に生じる金属間化合物の生成が抑制でき、その結果、本発明の顕著な効果が得られたものと考えられる。
【0017】
本発明の効果が得られる本発明の接合体は、例えば、本発明の接合体の製造方法によって、簡便に安定して得ることができる。本発明の接合体の製造方法は、アルミニウム合金からなるアルミニウム合金部材と、該アルミニウム合金よりも高融点の鉄系又は銅系の金属材料からなる金属部材が、前記アルミニウム合金よりも高融点の鉄族元素を含む金属繊維からなる成形体である多孔質体に、前記アルミニウム合金が含浸・充填した状態の多孔質体層を介して接合された接合体を得るための製造方法であり、下記の工程よりなることを特徴とする。本発明の製造方法は、前記金属繊維に電気を流し、該金属繊維同士を点接合させることで、金属部材と接合させる前に予め前記多孔質体を作製する、或いは、金属部材に接合させるとともに前記多孔質体を作製する多孔質体の作製工程と、該作製工程で得られる多孔質体と前記金属部材とを接合させて中間の接合体を得る中間接合体の作製工程と、該多孔質体を有する中間接合体に、溶解したアルミニウム合金を加圧鋳造して、前記多孔質体に前記溶解したアルミニウム合金を加圧含浸させて充填し、且つ、アルミニウム合金が充填した多孔質体層に接合した状態の前記アルミニウム合金部材を形成するための鋳造工程、を有することを特徴とする。
【0018】
本発明を特徴づける接合部の多孔質体層を形成する複雑な強化材構造を有する多孔質体は、上記したように、アルミニウム合金よりも高融点の鉄族元素を含む金属繊維に電気を流して通電加熱をすることで容易に得ることができる。具体的には、鉄族元素を含む金属繊維同士の接触部分の高い電気抵抗を利用して金属繊維同士を点接合させることで、強固で複雑な強化材構造を有する多孔質体を得ることができる。本発明の製造方法では、複雑な強化材構造を有する多孔質体を、下記の第1の実施形態と、第2の実施形態のいずれかの方法で得る。第1の実施形態では、上記のようにして予め調製した鉄族元素を含む金属繊維からなる多孔質体を形成し、形成した多孔質体をアルミニウム合金よりも高融点の鉄系又は銅系の金属部材(被接合体)と接合させて中間の接合体を得る。得られた多孔質体と金属部材は、加熱により焼結接合することができる。また、多孔質体を金属部材の接合面に配置して通電加熱することで、多孔質体と金属部材とを接合させることもできる。第2の実施形態では、型の中で、鉄族元素を含む金属繊維を金属部材(被接合体)の接合面上に配置し、その状態で通電加圧して、多孔質体の形成と、多孔質体と金属部材の接合を一緒に行う。
【0019】
さらに、上記したいずれかの方法で多孔質体と金属部材とを接合させる際に、多孔質体と金属部材との界面部(接合部)に金属微粉末を介在させることで、より高強度の接合を可能にできる。金属微粉末としては、金属部材が鉄系のものである場合は、例えば、鉄粉等が挙げられる。さらに、この場合においては、界面部に介在させる鉄粉等の金属微粉末に、共晶反応や発熱反応を誘発する、例えば、炭素元素を添加することで、共晶の反応による液相線温度が低くなり、低い温度でも強い接合を実現でき、接合部に生じる金属間化合物の生成をより抑制することができる。また、金属部材が銅系のものである場合は、例えば、マグネシウム(Mg)、リン(P)及びチタン(Ti)等の金属微粉末を利用することができる。多孔質体と金属部材の界面に、上記に挙げたような金属微粉末を介在させることで、共晶の反応による液相線温度が低くなり、低い温度でも強い接合を実現でき、接合部に生じる金属間化合物の生成をより抑制することができる。
【0020】
本発明の接合体の製造方法では、上記のようにして得た、多孔質体と鉄系又は銅系の金属部材(被接合体)とを接合させた中間の接合体に、溶解したアルミニウム合金を加圧鋳造して、前記多孔質体に前記溶解したアルミニウム合金を加圧含浸させて充填して多孔質体層を形成し、且つ、該多孔質体層に接合した状態のアルミニウム合金部材を形成して接合体を得る。アルミニウム合金を溶解して、溶湯を、先に作製した中間の接合体を構成する多孔質体に鋳造含浸させると、アルミニウム合金の融点以下の温度にて短時間で、多孔質体の空間(複雑な強化材構造を有する多孔)内へアルミニウム合金の溶湯を含浸させ、充填して多孔質体層を形成することができる。また、本発明の製造方法によれば、これとともにアルミニウム合金部材を形成できるので、短時間で且つ低温で、多孔質体層を介して金属部材(被接合体)とアルミニウム合金部材(接合体)とが接合してなる接合体の製造を実現することができる。
【0021】
上記した製造方法では、多孔質体に鋳造含浸して充填されたアルミニウム溶湯は、冷却されるだけであるため、接合させた部材の、アルミニウム合金と、該アルミニウム合金よりも高融点の金属材料との化学的な反応は抑制される。しかも、アルミニウム合金が有する延性はそのまま接合体に残っているため、該接合体はアルミニウム合金と同じように変形し易く、接合体を製品に使用した場合に振動などの緩和が可能になる。
【0022】
次に、上記した優れた効果が得られる本発明の接合体技術に至った経緯について説明する。まず、本発明者らは、先に挙げた従来技術の課題を安定して高いレベルで解決するためには、アルミニウム合金からなる部材と、それよりも高融点の鉄系又は銅系の金属材料からなる金属部材を、できるだけ低温下で接合させることを実現するとともに、その接合部に、アルミニウム合金が複雑に該金属材料に絡み合った構造を付与する機械的に接合(嵌合)した状態を形成することが有効であると予想した。しかしながら、本発明者らが検討した結果、アルミニウム合金よりも高融点の鉄系又は銅系の金属材料からなる部材表面を機械加工した程度では、接合強度が弱く、使用に際して、その後に行われる接合体の旋盤などの機械加工が困難になることがわかった。また、従来技術の課題を解決する目的で、上記した金属部材の表面に複雑な加工を施すことは、多くの作業時間を必要とするので製造効率に劣り、この点だけでも製品として実用化することが難しいことがわかった。
【0023】
本発明者らは、鉄系又は銅系の金属部材に、アルミニウム合金からなる部材を機械的に接合(嵌合)できる構造について鋭意研究を行い、アルミニウム合金からなる部材と、該アルミニウム合金よりも高融点の金属材料からなる部材との接合部に、複雑で微細な空洞(複雑な強化材構造を有する多孔)を有する多孔質体層を作りこむことで、アルミニウム合金の融点を超えない温度域で良好な接合ができることを見出して、本発明に至った。
【0024】
[多孔質体の作製]
本発明者らは、複雑な形状を有する機械的な接合部分を金属材料の削り込みで作製するのではなく、新たに、金属材料の繊維から、複雑で微細な前述の強化材構造(空胴)を有する多孔質体を作製し、該多孔質体を同種の金属材料からなる鉄系又は銅系の金属部材に追加して、アルミニウム合金からなるアルミニウム合金部材との接合に利用する新たな手段を見出した。多孔質体を形成する金属繊維としては、接合するアルミニウム合金よりも高融点の鉄系又は銅系の金属部材に含まれる元素と周期律表上の近隣の鉄族元素を含み、化合物が容易に形成されない金属材料であればいずれも使用できる。具体的には、例えば、鉄系の金属部材に接合する多孔質体の形成には、鉄繊維やステンレス繊維などを利用することができる。アルミニウム合金よりも高融点の鉄系又は銅系の金属材料からなる部材を接合対象としている本発明では、鉄を含む金属繊維が一般的であり、さらに、鉄を50質量%以上含む金属繊維が、接合する高融点の鉄系又は銅系の金属部材に対して広く利用できる。本発明者らの検討によれば、金属繊維は、金属粒子に比べてかさ密度が低く、所望する任意の気孔率の多孔質体を作製することに適している。
【0025】
本発明を特徴づける多孔質体に用いる金属繊維の形状は特に限定されない。本発明者らの検討によれば、アルミニウム合金の溶湯を十分に含浸させ充填させるためには、該多孔質体の気孔率が30%~70%であることが好ましい。気孔率が30%未満の多孔質体では、アルミニウム合金溶湯で多孔質体の内部を完全に充填させることが難しい。一方、気孔率が70%超では強度が十分でなく、アルミニウム合金溶湯を加圧含浸する際の力で多孔質体が変形する場合があることがわかった。
【0026】
本発明を特徴づける多孔質体の大きさは、接合体であるアルミニウム合金部材と接合される被接合体である、アルミニウム合金よりも高融点の鉄系又は銅系の金属材料からなる金属部材の接合面の大きさや形状によって適宜に決定すればよく、特に限定されない。例えば、予め、アルミニウム合金部材と接合する接合面に一致する大きさの多孔質体を用意することや、所望の型内に金属部材とともに金属繊維を配置して多孔質体を形成することが望まれる。多孔質体の厚み(高さ)も特に限定されないが、例えば、数ミリ程度の厚みで、本発明の強固な接合の効果を得ることができる。具体的には、1mm~15mm程度とすることが好ましいく、より好ましくは、3mm~10mm程度とすると、より安定した効果が得られる。
【0027】
多孔質体に用いる金属繊維の形状は特に限定されないが、本発明者らの検討によれば、繊維径が10μm~100μm程度の金属繊維が多孔質化しやすい。一方、10μm未満の繊維では、多孔質体を、アルミニウム合金よりも高融点の金属材料からなる金属部材表面に接合して中間の接合体を作製する際に緻密化してしまい、作製された多孔質体が、所望する目的の気孔率を維持することが難しいものになる。また、100μmを超える金属繊維では、剛性が高く、多孔質体を任意の形状へ成形することが難しくなる。金属繊維には、連続繊維も短繊維も利用できるが、多孔質体内の空洞の均質性を考えると、短繊維の方が好ましい。
【0028】
多孔質体に用いる金属繊維としては、アスペクト比が1:5~1:100のものが利用できるが、1:20~1:50程度のアスペクト比の繊維を用いることが好ましい。アスペクト比が極端に小さいもの(=球)は、繊維を用いたことによる効果(複雑な空洞の形成など)が得られなくなり、一方、アスペクト比が大きいと充填することが難しく、通電時に特定方向(XY2次元平面)に整列する可能性が高くなるので好ましくない。また、球であると焼結機構が働き、緻密化しやすい。一方、長繊維では、多孔質体を通電して作製する際に、繊維の接合界面での発熱量が低下し、接合強度が低くなる傾向がある。
【0029】
本発明を構成する多孔質体の作製方法としては、例えば、上記したような金属繊維を用い、目的の形状の型に金属繊維を充填し、一般的な加熱による加熱焼結で作製することができる。本発明では、鉄族元素を含む金属繊維を用いているため、直流通電による加熱、接合が有効である。例えば、特許第3735712号公報に記載されている、導電性を有する繊維を通電しながら加圧することによって、繊維の接触部分での大きな加熱を利用して任意の空孔率を有する任意形状の成形体を作製するとした、接合技術を利用することができる。
【0030】
[多孔質体と金属部材との中間接合体]
本発明の接合体は、例えば、下記に挙げるような製造方法で簡便に得られる。まず、上記のような方法で予め調製した多孔質体を用い、該多孔質体と、アルミニウム合金よりも高融点の鉄系又は銅系の金属材料からなる金属部材(以下、単に金属部材と呼ぶ)とを接合して中間の接合体を作製する。多孔質体と金属部材との接合方法としては、例えば、真空中での加熱による焼結が利用できる。効率的な接合を行うためには、先に多孔質体の作製の際に説明した直流通電を利用した加熱、接合が最も好ましい。多孔質体と同様に、鉄系又は銅系の金属材料からなる金属部材も導電性を有するため、短時間で高速な通電加熱ができ、接合が行える。内部に空胴を有する多孔質体は、一般に金属部材より高い電気抵抗を示すので発熱量が多く、両部材の界面部(接合部)はさらに高い電気抵抗を示すため短時間で強固な接合を実現できる。
【0031】
本発明者らの検討によれば、上記したような方法で多孔質体と金属部材との接合を行う際に、多孔質体と金属部材との間に金属微粉末を挿入し、通電加熱時に局所加熱を行う構成とすることで、多孔質体と金属部材とをより強固に接合することが可能になる。多孔質体と金属部材との間に金属微粉末を介在させると、金属微粉末同士、或いは、金属微粉末が金属部材と点接触しているため、電気抵抗が高く、通電時に局所的に高温を発生させることができる。なお、金属微粉末を介在させて行う接合時は、不活性ガス雰囲気や真空雰囲気での加熱が望ましい。さらに、金属微粉末が鉄系微粉末であった場合、鉄系微粉末に炭素粉末を混合することが好ましい。鉄系微粉末に炭素粉末を混合することで、炭素粉末による局所的な加熱と鉄系微粉末と炭素粉末の共晶反応により、液相線温度が低くなり、鉄系微粉末と多孔質体、高融点の金属部材の一部が溶解して、より強固な接合が可能になる。本発明者らの検討によれば、上記した点は、鉄系の金属部材を接合させる場合も、銅系の金属部材を接合させる場合も同様である。また、上記で使用した炭素粉末は、溶融した鉄系微粉末や、高融点の金属部材や、多孔質体に固溶し、最終的な接合体には残存しなくなる。図4に、炭素と鉄の2元状態図を記した。高融点の金属部材が銅系である場合は、金属微粉末として、例えば、チタン、リン、マグネシウム若しくはチタン合金、マグネシウム合金を使用してもよい。本明細書における金属微粉末は、最大粒子径が300μm程度であるものを意味する。炭素粉末も、上記した金属微粉末と同程度の粒径のものを用いるとよい。
【0032】
先に説明した、多孔質体と被接合材である金属部材を接合する際には、加圧をした方が強固な接合を実現できる。しかし、加圧により多孔質体が変形し、気孔率が低下する可能性があるため、加圧力は低い方が好ましい。また、従来の電気抵抗溶接では、高い加圧力で通電し、接合材/被接合材の界面での電気抵抗を利用して接合が行われているが、本発明で行う中間の接合体の作製では、電気が通電可能な低い加圧力であることが望ましい。一般には5MPa以下が好ましい。上記したような方法で接合された中間の接合体を構成する多孔質体は、気孔率が30%~70%であり、且つ、複雑な形状の気孔(空胴)を多数有するものになる。
【0033】
[アルミニウム合金溶湯の含浸]
アルミニウム合金からなるアルミニウム合金部材との接合は、溶解したアルミニウム合金を、多孔質体と金属部材とを接合した中間接合体を構成する多孔質体の内部に含浸することで実現させる。先に説明した従来技術におけるアルミニウム合金の固体を塑性変形させる場合と異なり、本発明で接合体の作製に用いるアルミニウム合金は完全な液体であるため、加圧力は70MPa以下で、多孔質体内に緻密に充填することができる。多孔質体内に液体が含浸することで、静水圧的な加圧が可能であり、多孔質体の変形を抑えることができる。また、アルミニウム合金の融点は800℃以下であり、鋳造後はすぐに冷却が始まるため、例えば、金属部材に用いた鉄と、アルミニウム合金との反応を抑制することができる。
【0034】
金属部材に接合されたアルミニウム合金からなるアルミニウム合金部材は、鋳造する型の形状によって様々な形状にできるので、所望の形状に対応することができる。また、本発明の接合体は、被接合材である金属部材との界面に複数の多孔質体を配置することで、大きな接合体を作製することも可能である。本発明では、金属部材と、アルミニウム合金からなるアルミニウム合金部材との接合を、下記のようにして簡便に行うことができる。例えば、多孔質体と金属部材とを接合させた中間の接合体の金属部材側を、アルミニウム合金部材を鋳造する際に用いる金型底部に固定し、該金型の上部からアルミニウム合金の溶湯を注ぎ込み加圧鋳造する。その結果、前記アルミニウム合金が含浸・充填した状態の多孔質体層を介して、アルミニウム合金部材と金属部材とが良好な状態に接合された部分を1以上有する接合体を簡便に得ることができる。
【0035】
アルミニウム合金の鋳造時の雰囲気は特に限定されないが、酸化を防止する場合は不活性ガス雰囲気が利用でき、大気中でも問題なく接合することができる。アルミニウム合金は溶解すると、表面に薄い酸化被膜を生成しやすいため、通常の鋳造作業に用いられる脱酸処理を行うことが推奨される。
【実施例0036】
次に、実施例及び比較例を挙げて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は、以下の実施例によって何ら限定されるものではない。
[実施例1]
(接合体の作製)-金属部材が鉄で鉄微粉末と炭素粉末の混合粉末を塗布した場合-
繊維径60μmで長さ1.5mmのステンレス製繊維3gを、内径20mmの黒鉛製の型に充填し、20mmφで高さ4mmの円柱状の多孔質体を、通電焼結機(商品名:PLASMAN、エスエスアロイ社製)にて作製した。通電焼結には、約100kgの加圧を行い、パルス状の直流電流を3分間印加して、気孔率約50%の、上記したサイズの円柱状の多孔質体を得た。鉄微粉末と炭素粉末の混合粉末0.2gを塗布した鉄製棒(20mmφ×150mm)の上に、得られた多孔質体を置き、再度通電焼結機による通電を行った。パルス状の直流電流を2分間印加して、多孔質体を鉄棒に接合した。なお、通電焼結は、いずれも10Pa程度の真空中で行った。
【0037】
上記で作製した多孔質体が接合された鉄棒を、アルミニウム合金部材の鋳造用の金型の底部に固定し、上部から約800℃に加熱されたアルミニウム合金(AC4C)の溶湯を注ぎ込み、上部から70MPaにて加圧鋳造した。冷却後、金型から鋳造体を取り出し、余分なアルミニウム合金部分及び鉄部分を旋盤により除去した。上記で得られた接合体1は、20mmφの円柱であり、アルミニウム合金部の長さが120mm程度、アルミニウム合金が含浸した多孔質体部の厚みが3mm程度、鉄棒部分の長さが120mm程度であった。
【0038】
(接合体1の評価)
上記で得られた接合体1には、旋盤加工によるクラックの発生や接合部の剥離は確認されなかった。また、得られた接合体1について、JIS Z 2241に準拠した方法で引張試験を行って評価をした。図1に、上記で得られた接合体1についての引張試験の結果を示した。実施例1の接合体1についての引張試験での破壊は、アルミニウム合金部材と多孔質体の界面で生じた。そして、その引張試験強度は、80MPaを超えるものであった。また、図1に示したように、接合体1の引張試験において、接合体1に伸びが確認された。図2は、複合体1における引張試験後の、アルミニウム合金部材の破断面の拡大図である。図2中にAで伸びの部分を示したが、図2に示した通り、アルミニウム合金部材が多孔質体から引きちぎられた際に、破断面に伸びを生じていることが確認できる。また、図3は、引張試験による破断後の接合体1における、多孔質体と鉄棒との接合部分の拡大図である。図3に示したように、接合体1では、鉄微粉末と炭素粉末の混合粉末を鉄棒表面(接合面)に塗布したことで、多孔質体と鉄棒とにおける中間の接合体を作製した接合時に、その界面部に緻密焼結体層が形成されたことが確認できた。
【0039】
[実施例2]
(接合体2の作製)-金属部材が鉄で鉄微粉末等の混合粉末を塗布しない場合-
実施例1の接合体1の作製の際に使用した鉄棒表面に、鉄微粉末と炭素粉末の混合粉末を塗布しないこと以外は実施例1と同様にして、接合体2を作製した。
【0040】
(接合体2の評価)
上記で得られた接合体2を用い、実施例1で行ったと同様にして引張試験を行った。図1中に、引張試験における伸び-応力の変化を示し、実施例1の接合体1と比較した。図1に示したように、接合体2では、接合体1の場合と異なり、金属部材である鉄棒と多孔質体の界面で破断が生じた。そして、接合体2の伸びは、実施例1の接合体1に比べて少なく、同じ伸びでは応力が高くなっていることがわかった。接合体2の引張試験で生じたのは、金属部材の鉄棒と、鉄族元素を含む金属繊維からなる多孔質体の界面での破断であり、鉄同士の接合部であるため、ヤング率が高くなっている。しかし、接合体2の引張強度は低くなっている。これは、先に述べたように、実施例1の接合体1では、鉄微粉末と炭素粉末の混合粉末を鉄棒表面(接合面)に塗布したため、その界面部に緻密焼結体層が形成されたことによって強固に接合されたのに対し、接合体2では緻密焼結体層が形成されなかっためであると考えられる。
【0041】
[実施例3]
(接合体3の作製)-金属部材が銅の場合-
繊維径60μmで長さ1.5mmのステンレス繊維3gを、内径20mmの黒鉛製型に充填し、20mmφで高さ4mmの多孔質体を、通電焼結機(商品名:PLASMAN、エスエスアロイ社製)にて作製した。通電焼結には、約100kgの加圧を行い、パルス状の直流電流を3分間印加して、気孔率約40%の円柱状の多孔質体とした。銅製棒(20mmφ×120mm)の上に、得られた多孔質体を置き、再度、上記した通電焼結機による通電を行った。パルス状の直流電流を3分間印加して、多孔質体を銅棒に接合した。なお、通電焼結はいずれも10Pa程度の真空中で行った。
【0042】
実施例1で行ったと同様に、多孔質体が接合された銅棒をアルミニウム合金部材の鋳造用の金型底部に固定し、上部から約750℃に加熱されたアルミニウム合金(AC4C)溶湯を注ぎ込み、上部から50MPaにて加圧鋳造した。冷却後、金型から鋳造体を取り出し、余分なアルミニウム合金部分を旋盤により除去した。得られた接合体3は、20mmφの円柱であり、アルミニウム合金部の長さが100mm程度であり、アルミニウム合金が含浸した多孔質体部の厚みが3mm程度であり、銅棒部分の長さが100mm程度であった。
【0043】
(接合体3の評価)
上記で得た接合体3では、旋盤加工によるクラックの発生や接合部の剥離は確認されなかった。得られた接合体3を機械加工し、図5に示した板状の引張試験片に加工した。接合体3は、図5に部分拡大図を示したが、鉄繊維からなる多孔質体を介して、アルミニウム合金と銅が強固に接合されていた。クラックや部分的な剥離は観察されなかった。
【0044】
[実施例4]
(接合体4の作製)-多孔質体に貫通孔が設けられている場合-
繊維径60μmで長さ1.5mmのステンレス製繊維3gを、内径20mmの黒鉛製の型に充填し、20mmφで高さ4mmの多孔質体を、通電焼結機(商品名:PLASMAN、エスエスアロイ社製)にて作製した。多孔質体の作製の際に、中心部に10mm径の黒鉛棒を設置して、多孔質体の中心部に貫通穴ができるようにした。通電焼結には、約60kgの加圧を行い、パルス状の直流電流を3分間印加して、気孔率約50%の円筒状の多孔質体とした。図6は、得られた円筒状の多孔質体の外観である。
【0045】
鉄粉末と炭素粉末の混合粉末0.2gを塗布した鉄製棒(20mmφ×150mm)の上に、上記で得られた貫通孔を有する多孔質体を置き、再度通電焼結機による通電を行った。パルス状の直流電流を2分間印加して、多孔質体を鉄棒に接合した。なお、通電焼結はいずれも10Pa程度の真空中で行った。
【0046】
実施例1で行ったと同様に、多孔質体が接合された鉄棒をアルミニウム合金部材の鋳造用の金型の底部に固定し、上部から約800℃に加熱されたアルミニウム合金(AC4C)溶湯を注ぎ込み、上部から50MPaにて加圧鋳造した。冷却後、金型から鋳造体を取り出し、余分なアルミニウム合金部分及び鉄部分を旋盤により除去した。得られた接合体4は、20mmφの円柱であり、アルミニウム合金部の長さが120mm程度であり、アルミニウム合金が含浸した多孔質体部の厚みが3mm程度であり、鉄棒部分の長さが120mm程度であった。旋盤加工によるクラックの発生や接合部の剥離は確認されなかった。
【0047】
[比較例1]-多孔質体を使用しない場合-
多孔質体を接合していない鉄製棒(20mmφ×150mm)を、アルミニウム合金部材の鋳造用の金型の底部に固定し、上部から約800℃に加熱されたアルミニウム合金(AC4C)溶湯を注ぎ込み、上部から50MPaにて加圧鋳造した。冷却後、金型から鋳造体を取り出し、余分なアルミニウム合金部分及び鉄部分を旋盤により除去したところ、旋盤加工中に接合部が剥離することが認められ、良好な接合体を得ることができなかった。
【産業上の利用可能性】
【0048】
以上詳述したように、本発明は、アルミニウム合金とそれよりも高融点の鉄系又は銅系の金属部材の接合体及びその製造方法に関し、本発明によれば、軽量性を有するマルチマテリアル材料を提供することができ、該マルチマテリアル材料を利用することで、輸送機器における振動を低減させる機能などを付与することができる。例えば、電気自動車においては静粛性が高まっているため、走行時の振動やモータなどが発生する周期的な振動が気になる。これに対して、本発明の接合体をマルチマテリアルとして活用することで、アルミニウム合金の軽量性と柔軟性により振動の伝播を抑制することができる。さらに、マルチマテリアル製品にもリサイクル性が求められているが、接合部に新たな化合物が生成していない本発明の接合体では、金属部材(被接合体)と、アルミニウム合金部材(接合体)を、接合部における材料の接合融点差を利用した分離が可能であり、資源の有効利用に対しても効果があり、この点での活用が期待される。本発明の接合体は、特有の構成の多孔質体を被接合体の表面上に配置して接合部となる多孔質体層を形成することで、アルミニウム合金溶湯を大面積で含浸することができ、接合面積を大きくすることが容易であることから、接合強度を向上させることができるといった利点がある。さらに、本発明の接合体は、被接合体である金属部材の接合面へ予め多孔質体を接合して中間の接合体とする際に、通電加熱での接合が利用できるため、自動化も容易である。そのため、本発明の接合体は、大面積が要求される用途への展開も期待できる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6