(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024095041
(43)【公開日】2024-07-10
(54)【発明の名称】バイオマスガス化炉、液体燃料製造設備、及びバイオマスガス化炉の運転方法
(51)【国際特許分類】
C10J 3/48 20060101AFI20240703BHJP
C10J 3/46 20060101ALI20240703BHJP
C10G 2/00 20060101ALI20240703BHJP
【FI】
C10J3/48
C10J3/46 J
C10G2/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022212040
(22)【出願日】2022-12-28
(71)【出願人】
【識別番号】000006208
【氏名又は名称】三菱重工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100112737
【弁理士】
【氏名又は名称】藤田 考晴
(74)【代理人】
【識別番号】100140914
【弁理士】
【氏名又は名称】三苫 貴織
(74)【代理人】
【識別番号】100136168
【弁理士】
【氏名又は名称】川上 美紀
(74)【代理人】
【識別番号】100172524
【弁理士】
【氏名又は名称】長田 大輔
(72)【発明者】
【氏名】山内 康弘
(72)【発明者】
【氏名】松井 直也
(72)【発明者】
【氏名】松本 啓吾
(72)【発明者】
【氏名】藤井 篤
【テーマコード(参考)】
4H129
【Fターム(参考)】
4H129AA01
4H129BA12
4H129BB07
4H129BC45
4H129KA15
4H129NA21
4H129NA43
(57)【要約】
【課題】ガス化炉本体の内壁に固着するクリンカを抑制することができるバイオマスガス化炉を提供する。
【解決手段】鉛直方向に中心軸線CLを有する筒体とされ、内部でバイオマス原料をガス化するガス化炉本体2と、バイオマス原料をガス化炉本体2の内部に投入するスクリューフィーダ3と、スクリューフィーダ3よりも下方に設けられ、中心軸線CLの周りに旋回流が形成されるようにガス化剤をガス化炉本体2の内部に投入するガス化剤投入管5と、を備えている。
【選択図】
図2A
【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉛直方向に中心軸線を有する筒体とされ、内部でバイオマス原料をガス化するガス化炉本体と、
バイオマス原料を前記ガス化炉本体の内部に投入するバイオマス原料投入部と、
前記バイオマス原料投入部よりも下方に設けられ、前記中心軸線の周りに旋回流が形成されるようにガス化剤を前記ガス化炉本体の内部に投入するガス化剤投入部と、
を備えているバイオマスガス化炉。
【請求項2】
前記ガス化剤投入部は、前記バイオマス原料投入部の高さ位置における水平面の全体においてガス流速の鉛直方向上向きの成分が0m/s以上となるように旋回流を形成する請求項1に記載のバイオマスガス化炉。
【請求項3】
前記ガス化剤投入部は、投入位置と前記中心軸線とを通る基準線に対して5°以上50°以下の角度を有してガス化剤を投入する請求項1に記載のバイオマスガス化炉。
【請求項4】
前記ガス化剤投入部によって形成される旋回流のスワール数が、0.1以上0.25以下とされている請求項1に記載のバイオマスガス化炉。
【請求項5】
請求項1から4のいずれかに記載されたバイオマスガス化炉と、
前記ガス化炉で生成した生成ガスの少なくとも一部から液体燃料を合成する液体燃料合成設備と、
を備えている液体燃料製造設備。
【請求項6】
鉛直方向に中心軸線を有する筒体とされ、内部でバイオマス原料をガス化するガス化炉本体と、
バイオマス原料を前記ガス化炉本体の内部に投入するバイオマス原料投入部と、
前記バイオマス原料投入部よりも下方に設けられ、ガス化剤を前記ガス化炉本体の内部に投入するガス化剤投入部と、を備えたバイオマスガス化炉の運転方法であって、
前記ガス化剤投入部によって、前記中心軸線の周りに旋回流を形成するバイオマスガス化炉の運転方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、バイオマスガス化炉、液体燃料製造設備、及びバイオマスガス化炉の運転方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、特許文献1のように、ガス化炉として、石炭をミルで砕いて分級した微粉炭燃料をガス化炉内に供給し、微粉炭燃料を部分燃焼させてガス化することで、可燃性ガスを生成するガス化設備が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
近年、地球温暖化対策の一手段としてバイオマス原料の利用が注目されている。バイオマス原料をガス化するバイオマスガス化炉では、ガス化剤としてガス化炉の下部から酸素と水蒸気をガス化炉に投入し、バイオマス原料を酸素で部分燃焼して約1200℃に加熱し、この際に発生する熱量でバイオマス原料のガス化反応熱を賄う。ガス化反応したガス化ガスは平衡反応である水蒸気とCOのシフト反応によって水素を生成し、ガス化炉出口で水素、COを主成分とするガス化ガスを生成する。
【0005】
ガス化炉に投入されるバイオマス原料の灰軟化点がガス化炉内の最高温度よりも低い場合、炉内で灰が溶融して炉内の内壁部に固着してクリンカとなり、クリンカが増大した場合にはガス化炉が閉塞するおそれがある。
【0006】
なお、特許文献1のような石炭を用いたガス化炉は、一般に、灰はガス化炉内で溶融させ、炉壁を伝わってガス化炉底部の排出部から排出する湿式炉が用いられる。しかし、バイオマス原料を用いるバイオマスガス化炉の場合、石炭より灰分が少ないことから、灰はガス化炉内で溶融させることなく、固体のままガス化炉の後流側に配置された集塵装置でガス化ガスから分離する乾式炉が用いられる。したがって、灰の処理について、湿式炉である石炭ガス化炉と同様の技術思想を乾式炉であるバイオマスガス化炉にそのまま用いることができない。
【0007】
本開示は、このような事情に鑑みてなされたものであって、ガス化炉本体の内壁に固着するクリンカを抑制することができるバイオマスガス化炉、液体燃料製造設備、及びバイオマスガス化炉の運転方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本開示のバイオマスガス化炉は、鉛直方向に中心軸線を有する筒体とされ、内部でバイオマス原料をガス化するガス化炉本体と、バイオマス原料を前記ガス化炉本体の内部に投入するバイオマス原料投入部と、前記バイオマス原料投入部よりも下方に設けられ、前記中心軸線の周りに旋回流が形成されるようにガス化剤を前記ガス化炉本体の内部に投入するガス化剤投入部と、を備えている。
【0009】
本開示の液体燃料製造設備は、上記のバイオマスガス化炉と、前記ガス化炉で生成した生成ガスの少なくとも一部から液体燃料を合成する液体燃料合成設備と、を備えている。
【0010】
本開示のバイオマスガス化炉の運転方法は、鉛直方向に中心軸線を有する筒体とされ、内部でバイオマス原料をガス化するガス化炉本体と、バイオマス原料を前記ガス化炉本体の内部に投入するバイオマス原料投入部と、前記バイオマス原料投入部よりも下方に設けられ、ガス化剤を前記ガス化炉本体の内部に投入するガス化剤投入部と、を備えたバイオマスガス化炉の運転方法であって、前記ガス化剤投入部によって、前記中心軸線の周りに旋回流を形成する。
【発明の効果】
【0011】
ガス化炉本体の内壁に固着するクリンカを抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本開示の一実施形態である液体燃料製造設備を示した概略構成図である。
【
図2A】ガス化炉本体の下部を示した正面図である。
【
図2B】
図2Aのガス化剤投入管の高さ位置における断面図である。
【
図3】ガス化剤投入部の投入方向を示した横断面図である。
【
図6】傾斜角度ごとに微粉粒子の最大粒子径に対するスワール比を示したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本開示の一実施形態について、図面を参照して説明する。
図1には、本開示の一実施形態に係る液体燃料製造設備10が示されている。
以降の説明では、上方とは鉛直上側の方向を、上部や上面などの“上”とは鉛直上側の部分を示している。また同様に“下”とは鉛直下側の部分を示すものであり、鉛直方向は厳密ではなく誤差を含むものである。
【0014】
本実施形態に係る液体燃料製造設備10は、酸素及び水蒸気をガス化剤として用いるガス化炉1を備えている。ガス化炉1では、バイオマス原料から可燃性ガス(生成ガス)を生成する。
【0015】
液体燃料製造設備10は、ガス化炉1で生成した生成ガスを、ガス精製設備16で精製した後、液体燃料合成設備17に、液体燃料合成の原料として供給する。ガス化炉1に供給する原料としては、例えば、間伐材、廃材木、流木、バーク、ペーパスラッジ、農業残渣等の木質系バイオマス原料が用いられる。
【0016】
液体燃料製造設備10は、バイオマス原料供給設備11と、ガス化炉1と、灰回収設備15と、ガス精製設備16と、液体燃料合成設備17とを備えている。
【0017】
バイオマス原料供給設備11は、粉砕前のバイオマス原料が供給され、ミル(図示略)などで粉砕することで、細かい粒子状に粉砕した原料を製造する。バイオマス原料供給設備11で製造された粒子状の原料は、スクリューフィーダ3(バイオマス原料投入部)によって、ガス化炉1へ供給される。
【0018】
ガス化炉1は、鉛直方向に中心軸線を有する筒体とされたガス化炉本体2を備えている。ガス化炉本体2の内部には、バイオマス原料供給設備11で製造された粒子状の原料が供給される。
【0019】
空気分離設備42は、大気中の空気から酸素を分離生成するものであり、ガス化炉本体2に向けて酸素を供給する酸素供給ライン47が接続されている。また、酸素供給ライン47には、水蒸気が流通する水蒸気供給ライン46が接続されている。空気分離設備42によって分離された酸素は、酸素供給ライン47を流通することで、ガス化炉1においてガス化剤として利用される。また、ガス化炉本体2にはガス化剤として水蒸気供給ライン46から水蒸気が供給される。
【0020】
ガス化炉1では、ガス化炉本体2の内部に供給された粒子状の原料が、酸素によって部分燃焼し、水蒸気との水性シフト反応を経て、水素と一酸化炭素を含む生成ガスを生成する。
【0021】
ガス化炉1には、灰回収設備15に向けて生成ガスを供給する第1生成ガスライン49が接続されており、灰を含む生成ガスが排出可能となっている。この場合、第1生成ガスライン49に生成ガスクーラ(図示せず)を設けることで、生成ガスを所定温度まで冷却してから灰回収設備15に供給してもよい。
【0022】
灰回収設備15は、集塵装置51を備えている。この場合、集塵装置51は、1つまたは複数のサイクロンやポーラスフィルタにより構成され、ガス化炉1で生成された生成ガスに含有する灰を分離することができる。そして、灰が分離された生成ガスは、第2生成ガスライン53を通してガス精製設備16に送られる。生成ガスから分離された灰は、例えばホッパ(図示せず)等に送られて一時的に貯留される。
【0023】
ガス精製設備16は、灰回収設備15により灰が分離された生成ガスに対して、硫黄化合物や窒素化合物などの不純物を取り除くことで、ガス精製を行うものである。そして、ガス精製設備16は、生成ガスを精製して液体燃料合成設備17に供給する。
【0024】
液体燃料合成設備17は、ガス精製設備16で精製された生成ガスを原料にメタノールやアンモニア等の液体燃料を製造するものである。
【0025】
次に、本実施形態の液体燃料製造設備10の動作について説明する。
液体燃料製造設備10において、バイオマス原料供給設備11にバイオマス原料が供給されると、バイオマス原料は、バイオマス原料供給設備11のミルにおいて粒子状に粉砕される。バイオマス原料供給設備11で製造された粒子状の原料は、原料供給ライン12を流通し、スクリューフィーダ3を介してガス化炉1に供給される。
【0026】
ガス化炉1では、供給された粒子状の原料が酸素によって部分燃焼し、水蒸気による水性シフト反応を経て、生成ガスを生成する。そして、生成ガスは、ガス化炉1から第1生成ガスライン49を通って排出され、灰回収設備15に送られる。
【0027】
灰回収設備15にて、生成ガスは、まず、集塵装置51に供給されることで、生成ガスに含有する微粒の灰が分離される。そして、灰が分離された生成ガスは、第2生成ガスライン53を通してガス精製設備16に送られる。一方、生成ガスから分離した微粒の灰は、例えば、ホッパ(図示せず)等に送られて一時的に貯留された後、系外に排出される。
【0028】
灰回収設備15によって灰が分離された生成ガスは、ガス精製設備16にて、硫黄化合物や窒素化合物などの不純物が取り除かれてガス精製され液体燃料合成設備17に送られる。液体燃料合成設備17では、精製ガスを原料としてメタノールやアンモニア等の液体燃料が製造される。
【0029】
次に、
図2A及び
図2Bを用いて、ガス化炉1に対するバイオマス原料及びガス化剤の供給について具体的に説明する。
図2Aには、ガス化炉1のガス化炉本体2の下方が示されている。ガス化炉1は、バイオマス原料から発生した灰をガス化炉本体2内で溶融させることなく、固体のままガス化炉1の後流側に配置された灰回収設備15の集塵装置51でガス化ガスから分離する乾式炉とされている。
【0030】
図2Aに示すように、ガス化炉本体2は、鉛直方向に延在する中心軸線CLを有する筒形状とされている。ガス化炉本体2は、バイオマス原料の部分燃焼及びガス化が主として行われる本体部2aと、本体部2aの下端に接続されて下方に向かって漸次縮径された第1テーパ部2bと、第1テーパ部2bの下端に接続されて一定の径を有する第1筒部2cと、第1筒部2cの下端に接続されて下方に向かって漸次縮径された第2テーパ部2dと、第2テーパ部2dの下端に接続されて一定の径を有する第2筒部2eとを備えている。したがって、ガス化炉本体2内を流れるガスの流路面積は、第2筒部2e、第1筒部2c、本体部2aの順に大きくなる。
【0031】
原料供給ライン12は、スクリューフィーダ(バイオマス原料投入部)3に接続されている。スクリューフィーダ3は、電動モータ3aによって回転駆動され、図示しない制御部によって指令された回転数で回転する。これにより、所定量の原料(粉砕されたバイオマス原料)がガス化炉本体2内に供給される。スクリューフィーダ3の外周には、冷却ジャケット3bが設けられており、供給前の原料の過熱等を防止する。
【0032】
スクリューフィーダ3は、第1筒部2cに接続されており、略水平方向に向かって原料を投入する。スクリューフィーダ3は図示のように1つでも、あるいは複数でも良い。なお、原料の供給方法としては、スクリューフィーダ3に代えて、気流搬送等の他の投入方法であっても良い。
【0033】
スクリューフィーダ3の下方に、ガス化剤投入管(ガス化剤投入部)5が設けられている。ガス化剤投入管5は、第2筒部2eに設けられている。ガス化剤投入管5は複数設けられているのが好ましく、本実施形態では
図2Bのように第2筒部2eの周方向に等角度間隔で4つ設けられている。各ガス化剤投入管5は、
図2Aのように同じ高さ位置に設けられている。ガス化剤投入管5からは、空気分離設備42(
図1参照)から導かれた酸素と水蒸気がガス化炉本体2の内部に供給される。
【0034】
図2Bに示すように、ガス化剤投入管5は、水平面内で、中心軸線CLに対して傾斜した方向にガス化剤(酸素及び水蒸気)を投入する。4つの各ガス化剤投入管5の傾斜角度は同じである。これにより、中心軸線CL周りに旋回流が形成される。
【0035】
図3には、ガス化剤投入管5の傾斜角度αが示されている。同図に示されているように、傾斜角度αは、ガス化剤投入管5の投入中心位置5aと中心軸線CLとを結ぶ基準線BSに対してなす角度である。ここで、ガス化剤投入管5の投入中心位置5aとは、ガス化剤投入管5を構成する配管の横断面における中心位置でかつ、第2筒部2eと交差する位置を意味する。傾斜角度αは、5°以上50°以下とされる。
傾斜角度αで投入されたガス化剤は、矢印A1に示す方向に流速Uφで噴射され、仮想円半径rの旋回流を形成する。なお、
図3において符号Rtは第2筒部2eの半径(中心軸線CLから炉壁(内壁)までの距離)を示す。
【0036】
次に、ガス化剤投入管5から投入されるガス化剤によって形成される旋回流のスワール数Swについて検討する。
旋回力の強さに関する無次元数であるスワール数Swは以下の式(1)で表される。
Sw=Gφ/(Gt×Rt) ・・・(1)
ここで、Gφは角運動量流量を示し、Gtは中心軸線CL方向運動量流量を示し、Rtは投入場所のガス化炉半径を示す。
【0037】
スワール数Swを0.2とした場合のガス化炉本体2内のガス化状況を、CFD(Computational Fluid Dynamic)を用いて計算したものを
図4A及び
図4Bに示す。CFDでは、流速と温度の両方を考慮に入れて計算している。
【0038】
図4Aは比較例を示し、
図4Bは本実施形態を示す。
図4A及び
図4Bにおいて、(a)はガス化炉本体2の正面視及び側面視における温度分布を示し、(b)は(a)に示したA-Aの高さ位置における横断面の温度分布である。A-Aの高さ位置は、スクリューフィーダ3によって原料粒子を投入する高さ位置に相当する。
【0039】
比較例(
図4A)は、ガス化剤投入管5の傾斜角度αを0°とした場合である。したがって、比較例では旋回流を形成しない。比較例のガス化炉内温度分布では、ガス化炉本体2のA-A断面上面視(
図4Aの(b))では炉壁(内壁)近傍に高温部(黒い部分)が発生しており、灰軟化点が1200℃以下のバイオマス燃料では炉壁近傍で灰が溶融し、壁面に灰が付着する。
【0040】
これに対して、
図4Bに示した本実施形態のガス化炉1では、ガス化炉本体2のA-A断面上面視(
図4Bの(b))では中央部に高温部が発生しているが、炉壁(内壁)近傍には高温部が無いことが分かる。このため、灰軟化点が1200℃以下のバイオマス燃料でも炉壁近傍の温度が低いため炉壁近傍で灰が融解しにくく、炉壁への灰の付着を防ぐことができる。
【0041】
図5A及び
図5Bには、ガス化剤投入管5から投入されるガス化剤によって形成された旋回流の強さに応じて、ガス化炉本体2の内部の流れが変化する様子が示されている。
図5A及び
図5Bにおいて、左図はガス化炉本体2を正面視したときのガス流れを示し、右図はB-B断面及びC-C断面におけるガス流れの鉛直方向流速(鉛直方向上向きの速度を正の値とする)を示している。B-B断面及びC-C断面は、スクリューフィーダ3によって原料粒子を投入する高さ位置に相当する。
【0042】
図5Aは参考例であり、スワール数Swが0.25よりも大きい比較的強い旋回をかけた場合を示し、ガス化炉本体2の中央領域に下方へ向かう逆流領域が発生する。
【0043】
図5Bは本実施形態であり、スワール数Swが0.1以上0.25以下の比較的弱い旋回の場合を示し、ガス化炉本体2の中央領域に下方へ向かう逆流領域が発生しない。
【0044】
図5Aのようにガス化炉本体2内でガス化剤を投入して比較的強い旋回をかけると、原料粒子を投入するバイオマス投入部における水平面内において逆流領域ができてガス化剤とバイオマス燃料が混合する現象が発生する。一方で、
図5Bのような比較的弱い旋回では、水平面内において逆流領域ができないためにバイオマス投入部では流速が0m/s以上の、逆流のない旋回流れが生じることが分かる。
図5Aのように逆流領域が生じると炉壁近傍までガス化反応後の高温ガスが上方から回り込む(
図4A参照)が、
図5Bでは逆流領域がないことで、ガス化剤(500℃程度)が旋回流となって炉壁近傍を流れる。このために
図4Bで示したように炉壁近傍は温度が低くなっている。以上から、ガス化剤投入管5から投入されるガス化剤によって形成される旋回流は、スワール数Swが0.1以上0.25以下の比較的弱いものが好ましい。
【0045】
次に、ガス化剤投入管5の傾斜角度αについて検討する。
式(1)で示した角運動量流量Gφは、傾斜角度α(
図3参照)が大きいほどガス化剤投入方向(
図3の矢印A1)を接線とする円(仮想円と呼ぶ)の半径rが大きくなるため、大きくなる。
【0046】
仮想円の半径rは式(2)で表すことができる。
r=Rt×sinα ・・・(2)
【0047】
角運動量流量Gφは式(3)で表される。
Gφ=(4ヶ所)×(ガス化剤投入管5の1ヶ所あたりの運動量)×(仮想円の半径r)
=4×mφ×uφ×Rt×sinα ・・・(3)
ここで、mφはガス化剤投入配管1本あたりの質量流量を示し、uφはガス化剤投入流速(
図3参照)を示す。
【0048】
ガス化炉鉛直方向の運動量は式(4)で表される。
Gt=(ガス化炉本体2の下部の鉛直方向の運動量)
=mt×Ut ・・・(4)
ここで、mtはガス化炉本体2の下部の質量流量を示し、Utはガス化炉本体2の下部のガス化剤の吹き上げ流速を示す。なお、式(4)において、ガス化炉本体2の下部とは、具体的には第2筒部2e(
図2)の位置を意味する。
【0049】
吹き上げ流速Utは、バイオマス投入部におけるガス化剤の鉛直方向の流速が、供給するバイオマス粒子(粒子状の原料)の略全量を浮遊させるために必要な最大粒子終末速度(バイオマス粒子に含まれる最大径の粒子を浮遊させるためのガス流速)以上となるように決めているため、最大粒子径の関数となる。質量流量mtは、ガス化に必要な酸素量と水蒸気量の合計となる。したがって、式(1)、式(3)、式(4)の関係から、スワール数Swは、バイオマス粒子の最大粒子径と傾斜角度αを用いて求められる。
【0050】
図6には、傾斜角度αをパラメータとして、供給するバイオマス粒子の最大粒子径とスワール数Swの関係が示されている。同図において、横軸はバイオマス粒子の最大粒子径[mm]を示し、縦軸はスワール数Swを示す。
【0051】
バイオマス粒子の最大粒子径が小さいほどバイオマス燃料を砕くミルの動力が大きくなるので、バイオマス粒子の最大粒子径は5mm以上、好ましくは7mm以上、さらに好ましくは8mm以上とするのが良い。そうすると、
図6から、ガス化剤投入管5からガス化剤が投入される傾斜角度αは5°以上とすることが好ましく、スワール数Swを比較的弱い旋回が生じる0.1以上0.25以下にするには、傾斜角度αは50°以下とするのが好ましい。また、傾斜角度αが50°を超えると製作が困難となり、コストが増加するおそれがある。
【0052】
次に、
図7A及び
図7Bを用いて、
図4Aのように旋回が無い場合(参考例)と
図4Bのように旋回がある場合(本実施形態)の作用効果の違いについて考察する。
図7A及び
図7Bにおいて、左上図は
図4Aの(b)及び
図4Bの(b)に相当し、右上図は左上図に示した中心位置Z1及び炉壁位置Z2における原料粒子(黒丸)の密度を模した図であり、下図は中心位置Z1から炉壁位置Z2にかけて流量Q、温度T、流速u、密度ρを示したグラフである。
【0053】
図7Aのように旋回が無い場合には、ガス化炉本体2に投入された原料粒子は対向する壁面に向かって落下していくために、ガス化炉本体2内の粒子密度は炉壁側のほうが高くなる。原料粒子量が多い領域(炉壁側)は、原料粒子の部分燃焼によってガス温度が上昇するので炉壁近傍の温度は上昇する。ガス化剤のガス化炉本体2の中心軸線CL方向の流量は、温度が高い炉壁側の方が熱膨張によってガス容積が増えるため流速が上がるので、中心軸線CL方向の流速も中心部に比べ大きくなる。
【0054】
これに対して、
図7Bに示した本実施形態のように比較的弱い旋回をかけた場合には、原料粒子は旋回に乗ってガス化炉本体2の横断面方向の分布が均一化する。このため、原料粒子の部分燃焼による発熱量もガス化炉本体2の横断面方向では均一化する。一方、旋回によって周方向のガス化剤の流量成分が生じており、かつ炉壁近傍の方が流速は速い。このため、炉壁近傍は温度が低いガス化剤流量が中央付近より多く、ガス温度は中央付近より低下する。
このような作用によって、比較的弱い旋回をかけることでガス化炉本体2内のガス温度を炉壁部で低くすることができる。
【0055】
なお、スワール数Swが0.25を超えた比較的強い旋回の場合には、中央部分に逆流した流れが生じる(
図5A参照)。このため、ガス化炉本体2の炉壁近傍を流れるガス化剤の流量が相対的に減ることになる。このため、本実施形態のように炉壁近傍のガス流れによって温度を下げるという効果が減少し、結果として炉壁近傍の温度が上がると考えられる。
【0056】
本実施形態において、ガス化炉本体2の炉壁近傍とは、炉壁から少なくとも0.1Rt以内を意味する。
ガス化炉本体2の炉壁近傍よりも中央部に発生する高温領域は、ガス化炉本体2の中心軸線CLから少なくとも0.2Rt以内を意味する。
【0057】
以上説明した本実施形態の作用効果は以下の通りである。
ガス化剤投入管5によってガス化炉本体2の内部を流れるガスに旋回流が形成される。旋回流を形成することによって、ガス化炉本体2の内壁面に沿う周方向のガス流れが形成されることによって、スクリューフィーダ3から投入された原料粒子(バイオマス燃料)が炉壁近傍で部分燃焼することを抑制できる。これにより、炉壁近傍でバイオマス燃料が部分燃焼し、燃焼温度よりも低い融点を有するバイオマス燃料の灰分が溶融して炉壁にクリンカが固着してしまうことを可及的に回避できる。
【0058】
旋回流が強い場合には、バイオマス燃料を投入するスクリューフィーダ3の高さ位置における水平面において、中心軸線CLを含む中央領域で鉛直方向下方に向かう逆流が生じるおそれがある。そこで、前記水平面の全体においてガス流速の鉛直方向成分が0m/s以上となるように、ガス化剤投入部によって旋回流を形成することとした。これにより、中央領域における逆流によって、炉壁近傍のガス流速が相対的に低下して温度が上昇することを可及的に防止することができる。
【0059】
原料粒子の投入中心位置5aと中心軸線CLとを通る基準線BSに対して5°以上50°以下の傾斜角度αを有してガス化剤を投入することによって、中央領域で逆流が生じない所望の範囲の旋回流の強さを得ることができる。
【0060】
ガス化剤投入管5によって形成される旋回流のスワール数Swを0.1以上0.25以下とすることによって、中央領域で逆流が生じない所望の範囲の旋回流の強さを得ることができる。
【0061】
なお、本開示のガス化炉1は、本実施形態に示した液体燃料合成用に限らず、所望の化学物質を得る化学プラント用ガス化炉や発電用のガス化炉にも適用可能である。
【0062】
以上説明した各実施形態に記載のバイオマスガス化炉、ガス化複合発電設備、及びバイオマスガス化炉の運転方法は、例えば以下のように把握される。
【0063】
本開示の第1態様に係るバイオマスガス化炉は、鉛直方向に中心軸線(CL)を有する筒体とされ、内部でバイオマス燃料をガス化するガス化炉本体(2)と、バイオマス燃料を前記ガス化炉本体(2)の内部に投入するバイオマス燃料投入部(3)と、前記バイオマス燃料投入部(5)よりも下方に設けられ、前記中心軸線(CL)の周りに旋回流が形成されるようにガス化剤を前記ガス化炉本体(2)の内部に投入するガス化剤投入部(5)と、を備えている。
【0064】
ガス化剤投入部によってガス化炉本体の内部を流れるガスに旋回流が形成される。旋回流を形成することによって、ガス化炉本体の内壁面に沿う周方向のガス流れが形成されることによって、バイオマス燃料投入部から投入されたバイオマス燃料が内壁面近傍で部分燃焼することを抑制できる。これにより、内壁面近傍でバイオマス燃料が部分燃焼し、燃焼温度よりも低い融点を有するバイオマス燃料の灰分が溶融して内壁面にクリンカが固着してしまうことを可及的に回避できる。
バイオマス燃料としては、例えば、間伐材、廃材木、流木等の木質系バイオマス燃料を用いることができる。
ガス化剤としては、例えば、酸素(又は空気)、水蒸気等が用いられる。
【0065】
本開示の第2態様に係るバイオマスガス化炉では、前記第1態様において、前記ガス化剤投入部(5)は、前記バイオマス燃料投入部(3)の高さ位置における水平面の全体においてガス流速の鉛直方向成分が0m/s以上となるように旋回流を形成する。
【0066】
旋回流が強い場合には、バイオマス燃料投入部の高さ位置における水平面において、中心軸線を含む中央領域で鉛直方向下方に向かう逆流が生じるおそれがある。そこで、前記水平面の全体においてガス流速の鉛直方向成分が0m/s以上となるように、ガス化剤投入部によって旋回流を形成することとした。これにより、中央領域における逆流によって、内壁面近傍のガス流速が相対的に低下して温度が上昇することを可及的に防止することができる。
【0067】
本開示の第3態様に係るバイオマスガス化炉では、前記第1態様又は前記第2態様において、前記ガス化剤投入部(5)は、投入位置(5a)と前記中心軸線(CL)とを通る基準線(BS)に対して5°以上50°以下の角度(α)を有してガス化剤を投入する。
【0068】
投入位置と中心軸線とを通る基準線に対して5°以上50°以下の角度を有してガス化剤を投入することによって、中央領域で逆流が生じない所望の範囲の旋回流の強さを得ることができる。
【0069】
本開示の第4態様に係るバイオマスガス化炉では、前記第1態様から前記第3態様のいずれかにおいて、前記ガス化剤投入部(5)によって形成される旋回流のスワール数(Sw)が、0.1以上0.25以下とされている。
【0070】
ガス化剤投入部によって形成される旋回流のスワール数を0.1以上0.25以下とすることによって、中央領域で逆流が生じない所望の範囲の旋回流の強さを得ることができる。
【0071】
本開示の一態様に係る液体燃料製造設備(10)は、前記第1態様から前記第4態様のいずれかに記載されたバイオマスガス化炉と、前記ガス化炉で生成した生成ガスの少なくとも一部から液体燃料を合成する液体燃料合成設備と、を備えている。
【0072】
本開示の一態様に係るバイオマスガス化炉の運転方法は、鉛直方向に中心軸線(CL)を有する筒体とされ、内部でバイオマス燃料をガス化するガス化炉本体(2)と、バイオマス燃料を前記ガス化炉本体(2)の内部に投入するバイオマス燃料投入部(3)と、前記バイオマス燃料投入部(3)よりも下方に設けられ、ガス化剤を前記ガス化炉本体(2)の内部に投入するガス化剤投入部(5)と、を備えたバイオマスガス化炉の運転方法であって、前記ガス化剤投入部(5)によって、前記中心軸線の周りに旋回流を形成する。
【符号の説明】
【0073】
1 ガス化炉
2 ガス化炉本体
2a 本体部
2b 第1テーパ部
2c 第1筒部
2d 第2テーパ部
2e 第2筒部
3 スクリューフィーダ(バイオマス原料投入部)
3a 電動モータ
3b 冷却ジャケット
5 ガス化剤投入管(ガス化剤投入部)
5a 投入中心位置
10 液体燃料製造設備
11 バイオマス原料供給設備
12 原料供給ライン
15 灰回収設備
16 ガス精製設備
17 液体燃料合成設備
42 空気分離設備
46 水蒸気供給ライン
47 酸素供給ライン
49 第1生成ガスライン
51 集塵装置
53 第2生成ガスライン