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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024009507
(43)【公開日】2024-01-23
(54)【発明の名称】セラミック電子部品及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01G 4/30 20060101AFI20240116BHJP
【FI】
H01G4/30 201F
H01G4/30 311E
H01G4/30 513
H01G4/30 517
【審査請求】未請求
【請求項の数】20
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022111080
(22)【出願日】2022-07-11
(71)【出願人】
【識別番号】000204284
【氏名又は名称】太陽誘電株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100087480
【弁理士】
【氏名又は名称】片山 修平
(72)【発明者】
【氏名】工藤 哲
(72)【発明者】
【氏名】関口 芳昭
【テーマコード(参考)】
5E001
5E082
【Fターム(参考)】
5E001AB03
5E001AC09
5E001AC10
5E001AE01
5E001AE02
5E001AE03
5E001AF06
5E001AH01
5E001AJ03
5E082AA01
5E082AB03
5E082BC19
5E082BC33
5E082EE04
5E082EE23
5E082EE35
5E082FF05
5E082FG04
5E082FG26
5E082FG46
5E082GG10
5E082GG11
5E082GG28
5E082JJ03
5E082JJ12
5E082JJ23
5E082PP09
(57)【要約】
【課題】 品質の低下を抑制しつつ、クラックの発生を抑制することができるセラミック電子部品及びその製造方法を提供する。
【解決手段】 交互に積層された内部電極層及び誘電体層を含む略直方体形状の積層体と、前記積層体において互いに対向する一対の端面をそれぞれ覆い、前記積層体の積層方向に沿って前記内部電極層と交互に接続された一対の外部電極とを有し、前記積層体は、前記一対の端面が対向する方向及び前記積層方向に対し略直交する直交方向において各内部電極層の両端にそれぞれ隣接する一対のサイドマージン部と、前記一対のサイドマージン部により挟まれ、前記内部電極層を含む電極部とを有し、前記一対の外部電極の少なくとも一方は、前記直交方向において一方の前記サイドマージン部側に、前記直交方向に沿って厚みが変化する段差を有し、前記段差から見て前記一対のサイドマージン部側の領域が、前記電極部側の領域より薄い。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
交互に積層された複数の内部電極層及び複数の誘電体層を含む略直方体形状の積層体と、
前記積層体において互いに対向する一対の端面をそれぞれ覆い、前記積層体の積層方向に沿って前記複数の内部電極層と交互に接続された一対の外部電極とを有し、
前記積層体は、前記一対の端面が対向する方向及び前記積層方向に対し略直交する直交方向において前記複数の内部電極層の各々の両端にそれぞれ隣接する一対のサイドマージン部と、前記一対のサイドマージン部により挟まれ、前記複数の内部電極層を含む電極部とを有し、
前記一対の外部電極の少なくとも一方は、前記直交方向において前記一対のサイドマージン部の一方側に、前記直交方向に沿って厚みが変化する段差を有し、前記段差から見て前記一対のサイドマージン部側の領域が、前記電極部側の領域より薄いことを特徴とするセラミック電子部品。
【請求項2】
前記段差は、前記積層方向に沿って形成されていることを特徴とする請求項1に記載のセラミック電子部品。
【請求項3】
前記段差は、前記積層方向にわたって連続して形成されていることを特徴とする請求項2に記載のセラミック電子部品。
【請求項4】
前記段差は、前記端面において、前記積層方向に沿って前記一対のサイドマージン部の一方側に凸の弧を描くように形成されていることを特徴とする請求項3に記載のセラミック電子部品。
【請求項5】
前記段差の前記積層方向における中央と両端は、前記直交方向において1.2~15.5(μm)だけ離れていることを特徴とする請求項4に記載のセラミック電子部品。
【請求項6】
前記段差は、前記端面において、前記積層方向に沿って前記電極部側に凸の弧を描くように形成されていることを特徴とする請求項3に記載のセラミック電子部品。
【請求項7】
前記段差は、前記端面において、前記一対のサイドマージン部の一方を覆う領域内に形成されていることを特徴とする請求項3乃至6の何れかに記載のセラミック電子部品。
【請求項8】
前記段差は、前記端面において、前記電極部を覆う領域内に形成されていることを特徴とする請求項3乃至6の何れかに記載のセラミック電子部品。
【請求項9】
前記一対の外部電極の少なくとも一方において、前記段差から見て前記一対のサイドマージン部側の領域の厚みは、前記電極部側の領域の厚みの0.2倍以下であることを特徴とする請求項1乃至6の何れかに記載のセラミック電子部品。
【請求項10】
前記一対の外部電極の少なくとも一方において、前記段差から見て前記一対のサイドマージン部側の領域の厚みは、前記電極部側の領域の厚みの0.14倍以下であることを特徴とする請求項1乃至6の何れかに記載のセラミック電子部品。
【請求項11】
前記一対の外部電極の少なくとも一方において、前記段差から見て前記一対のサイドマージン部側の領域の厚みは、前記電極部側の領域の厚みの0.06倍以下であることを特徴とする請求項1乃至6の何れかに記載のセラミック電子部品。
【請求項12】
積層セラミックコンデンサであることを特徴とする請求項1乃至6の何れかに記載のセラミック電子部品。
【請求項13】
前記積層方向の高さが、前記直交方向の幅より大きいことを特徴とする請求項1乃至6の何れかに記載のセラミック電子部品。
【請求項14】
交互に積層された複数の内部電極層及び複数の誘電体層を含む略直方体形状の積層体を形成する工程と、
前記積層体において互いに対向する一対の端面をそれぞれ覆うように導電ペーストを塗布することにより、前記積層体の積層方向に沿って前記複数の内部電極層と交互に接続された一対の外部電極を形成する工程と、
前記一対の外部電極が形成された前記積層体を焼成する工程とを有し、
前記積層体を形成する工程は、前記一対の端面が対向する方向及び前記積層方向に対し略直交する直交方向において前記複数の内部電極層の各々の両端にそれぞれ隣接する一対のサイドマージン部と、前記一対のサイドマージン部により挟まれ、前記複数の内部電極層を含む電極部とを有する前記積層体を形成し、
前記一対の外部電極を形成する工程は、前記一対の端面の少なくとも一方における前記導電ペーストの濡れ性を領域ごとに異ならせることによって、前記直交方向に沿って前記導電ペーストの厚みが変化する一組の段差を、前記直交方向において前記一対のサイドマージン部の一方側に形成し、前記段差から見て前記一対のサイドマージン部側の領域が、前記電極部側の領域より薄くなるように前記導電ペーストを塗布することを特徴とするセラミック電子部品の製造方法。
【請求項15】
前記一対の外部電極を形成する工程は、前記段差を前記積層方向に沿って形成することを特徴とする請求項14に記載のセラミック電子部品の製造方法。
【請求項16】
前記一対の外部電極を形成する工程は、前記段差を前記積層方向にわたって連続して形成することを特徴とする請求項15に記載のセラミック電子部品の製造方法。
【請求項17】
前記一対の外部電極を形成する工程は、前記段差を、前記端面において、前記積層方向に沿って前記一対のサイドマージン部の一方側に凸の弧を描くように形成することを特徴とする請求項16に記載のセラミック電子部品の製造方法。
【請求項18】
前記一対の外部電極を形成する工程は、前記段差を、前記端面において、前記積層方向に沿って前記電極部側に凸の弧を描くように形成することを特徴とする請求項16に記載のセラミック電子部品の製造方法。
【請求項19】
前記一対の外部電極を形成する工程は、前記段差を、前記端面において、前記一対のサイドマージン部の一方を覆う領域内に形成することを特徴とする請求項16乃至18の何れかに記載のセラミック電子部品の製造方法。
【請求項20】
前記一対の外部電極を形成する工程は、前記段差を、前記端面において、前記電極部を覆う領域内に形成することを特徴とする請求項16乃至18の何れかに記載のセラミック電子部品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セラミック電子部品及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
積層セラミックコンデンサなどのセラミック電子部品は、セラミックを主成分とする複数の誘電体層と、内部電極層とを交互に積層して構成された積層チップを備えている。積層チップの端面に内部電極層が引き出され、その表面を覆うように外部電極が形成されている。セラミック電子部品の製造工程において、例えば、積層チップ形成用のシートと外部電極形成用ペーストとが同時に焼成される場合、焼成後、外部電極と誘電体層の熱膨張係数の差に起因した応力によって角部(コバ部)における外部電極下の誘電体部分にクラックが発生するおそれがある。
【0003】
これに対し、特許文献1には、外部電極形成用ペーストを、内部電極の形成部分では厚くし、コバ部では薄くなるように塗布して、焼成時の応力を低減してクラックの発生を抑制する点が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2019-102766号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、上記のようなクラックは、コバ部に限定されず、積層チップの両側面を構成する誘電体部分(サイドマージン部)にも発生するおそれがある。これに対し、外部電極を薄く形成すればクラックの発生を抑制し得るが、外部電極を薄くするほど、セラミック電子部品の耐湿性及び耐酸化性などの品質が低下するおそれがある。
【0006】
そこで本発明は、上記課題に鑑みなされたものであり、品質の低下を抑制しつつ、クラックの発生を抑制することができるセラミック電子部品及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明のセラミック電子部品は、交互に積層された複数の内部電極層及び複数の誘電体層を含む略直方体形状の積層体と、前記積層体の積層方向において互いに対向する一対の端面をそれぞれ覆い、前記積層方向に沿って前記複数の内部電極層と交互に接続された一対の外部電極とを有し、前記積層体は、前記一対の端面が対向する方向及び前記積層方向に対し略直交する直交方向において前記複数の内部電極層の各々の両端にそれぞれ隣接する一対のサイドマージン部と、前記一対のサイドマージン部により挟まれ、前記複数の内部電極層を含む電極部とを有し、前記一対の外部電極の少なくとも一方は、前記直交方向において前記一対のサイドマージン部の一方側に、前記直交方向に沿って厚みが変化する段差を有し、前記段差から見て前記一対のサイドマージン部側の領域が、前記電極部側の領域より薄いことを特徴とする。
【0008】
上記のセラミック電子部品において、前記段差は、前記積層方向に沿って形成されてもよい。
【0009】
上記のセラミック電子部品において、前記段差は、前記積層方向にわたって連続して形成されてもよい。
【0010】
上記のセラミック電子部品において、前記段差は、前記端面において、前記積層方向に沿って前記一対のサイドマージン部の一方側に凸の弧を描くように形成されてもよい。
【0011】
上記のセラミック電子部品において、前記段差の前記積層方向における中央と両端は、前記直交方向において1.2~15.5(μm)だけ離れていてもよい。
【0012】
上記のセラミック電子部品において、前記段差は、前記端面において、前記積層方向に沿って前記電極部側に凸の弧を描くように形成されてもよい。
【0013】
上記のセラミック電子部品において、前記段差は、前記端面において、前記一対のサイドマージン部の一方を覆う領域内に形成されてもよい。
【0014】
上記のセラミック電子部品において、前記段差は、前記端面において、前記電極部を覆う領域内に形成されてもよい。
【0015】
上記のセラミック電子部品において、前記一対の外部電極の少なくとも一方において、前記段差から見て前記一対のサイドマージン部の側の領域の厚みは、前記電極部側の領域の厚みの0.2倍以下であってもよい。
【0016】
上記のセラミック電子部品において、前記一対の外部電極の少なくとも一方において、前記段差から見て前記一対のサイドマージン部側の領域の厚みは、前記電極部側の領域の厚みの0.14倍以下であってもよい。
【0017】
上記のセラミック電子部品において、前記一対の外部電極の少なくとも一方において、前記段差から見て前記一対のサイドマージン部側の領域の厚みは、前記電極部側の領域の厚みの0.06倍以下であってもよい。
【0018】
上記のセラミック電子部品は、積層セラミックコンデンサであってもよい。
【0019】
上記のセラミック電子部品において、前記積層方向の高さが、前記直交方向の幅より大きくてもよい。
【0020】
本発明に係るセラミック電子部品の製造方法は、交互に積層された複数の内部電極層及び複数の誘電体層を含む略直方体形状の積層体を形成する工程と、前記積層体において互いに対向する一対の端面をそれぞれ覆うように導電ペーストを塗布することにより、前記積層体の積層方向に沿って前記複数の内部電極層と交互に接続された一対の外部電極を形成する工程と、前記一対の外部電極が形成された前記積層体を焼成する工程とを有し、前記積層体を形成する工程は、前記一対の端面が対向する方向及び前記積層方向に対し略直交する直交方向において前記複数の内部電極層の各々の両端にそれぞれ隣接する一対のサイドマージン部と、前記一対のサイドマージン部により挟まれ、前記複数の内部電極層を含む電極部とを有する前記積層体を形成し、前記一対の外部電極を形成する工程は、前記一対の端面の少なくとも一方における前記導電ペーストの濡れ性を領域ごとに異ならせることによって、前記直交方向に沿って前記導電ペーストの厚みが変化する一組の段差を、前記直交方向において前記一対のサイドマージン部の一方側に形成し、前記段差から見て前記一対のサイドマージン部側の領域が、前記電極部側の領域より薄くなるように前記導電ペーストを塗布することを特徴とする。
【0021】
上記の製造方法において、前記一対の外部電極を形成する工程は、前記段差を前記積層方向に沿って形成してもよい。
【0022】
上記の製造方法において、前記一対の外部電極を形成する工程は、前記段差を前記積層方向にわたって連続して形成してもよい。
【0023】
上記の製造方法において、前記一対の外部電極を形成する工程は、前記段差を、前記端面において、前記積層方向に沿って前記一対のサイドマージン部の一方側に凸の弧を描くように形成してもよい。
【0024】
上記の製造方法において、前記一対の外部電極を形成する工程は、前記段差を、前記端面において、前記積層方向に沿って前記電極部側に凸の弧を描くように形成してもよい。
【0025】
上記の製造方法において、前記一対の外部電極を形成する工程は、前記段差を、前記端面において、前記一対のサイドマージン部の一方を覆う領域内に形成してもよい。
【0026】
上記の製造方法において、前記一対の外部電極を形成する工程は、前記段差を、前記端面において、前記電極部を覆う領域内に形成してもよい。
【発明の効果】
【0027】
1つの側面として品質の低下を抑制しつつ、クラックの発生を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
図1】積層セラミックコンデンサの斜視図である。
図2図1のA-A線に沿った積層セラミックコンデンサの断面図である。
図3図2のB-B線に沿った積層セラミックコンデンサの断面図である。
図4】積層チップの端面を正面視した場合の段差の形成パターンの一例を示す平面図である。
図5】積層チップの端面を正面視した場合の段差の形成パターンの他の例を示す平面図である。
図6】積層チップの端面を正面視した場合の段差の形成パターンの他の例を示す平面図である。
図7】積層チップの端面を正面視した場合の段差の形成パターンの他の例を示す平面図である。
図8】積層セラミックコンデンサの製造工程の一例を示すフローチャートである。
図9】外部電極形成工程の手順の一例を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
(積層セラミックコンデンサの実施形態)
図1は、積層セラミックコンデンサ1の斜視図である。図2は、図1のA-A線に沿った積層セラミックコンデンサ1の断面図である。図3は、図2のB-B線に沿った積層セラミックコンデンサ1の断面図である。図1図3には、互いに直交するX方向、Y方向、及びZ方向が示されている。なお、積層セラミックコンデンサ1はセラミック電子部品の一例である。
【0030】
X方向は、積層セラミックコンデンサ1の長さ方向であり、一対の端面2A,2Bが対向する方向に一致する。Y方向は、積層セラミックコンデンサ1の幅方向であり、一対の端面2A,2Bに沿った方向に一致する。Z方向は、積層セラミックコンデンサ1の高さ方向であり、積層セラミックコンデンサ1の積層方向に一致する。なお、Y方向は、X方向及びZ方向に対し略直交する直交方向の一例である。
【0031】
積層チップ2において積層方向の上下の面を上面2Cおよび下面2Dと称する。積層チップ2において、2端面、上面および下面以外の2面を側面2E,2Fと称する。
【0032】
積層セラミックコンデンサ1のサイズは、例えば、長さ0.2mm、幅0.125mm、高さ0.125mmであり、または長さ0.6mm、幅0.3mm、高さ0.3mmであり、または長さ1.0mm、幅0.5mm、高さ0.5mmであり、または長さ3.2mm、幅1.6mm、高さ1.6mmであり、または長さ4.5mm、幅3.2mm、高さ2.5mmであるが、これらのサイズに限定されるものではない。また、サイズとして記載した数値はそれぞれ製造時の一般的な公差を含んでおり、上記の数値のみに限定されるものではない。
【0033】
積層セラミックコンデンサ1は、直方体形状を有する積層チップ2と、積層チップ2において互いに対向する一対の端面2A,2Bに設けられた外部電極部3a,3bとを有する。積層チップ2は、誘電体として機能するセラミック材料を含む誘電体層22と、内部電極層23とが、交互に積層された積層構造を有する。なお、積層チップ2は積層体の一例である。
【0034】
内部電極層23は、Ni(ニッケル),Cu(銅),Sn(スズ)等の卑金属を主成分とする。内部電極層23として、Pt(白金)、Pd(パラジウム)、Ag(銀)、Au(金)などの貴金属やこれらを含む合金を用いてもよい。誘電体層22は、例えば、一般式ABOで表されるペロブスカイト構造を有するセラミック材料を主相とする。なお、当該ペロブスカイト構造は、化学量論組成から外れたABO3-αを含む。例えば、当該セラミック材料として、BaTiO(チタン酸バリウム),CaZrO(ジルコン酸カルシウム),CaTiO(チタン酸カルシウム),SrTiO(チタン酸ストロンチウム),MgTiO(チタン酸マグネシウム),ペロブスカイト構造を形成するBa1-x-yCaSrTi1-zZr(0≦x≦1,0≦y≦1,0≦z≦1)等のうち少なくとも1つから選択して用いることができる。Ba1-x-yCaSrTi1-zZrは、チタン酸バリウムストロンチウム、チタン酸バリウムカルシウム、ジルコン酸バリウム、チタン酸ジルコン酸バリウム、チタン酸ジルコン酸カルシウムおよびチタン酸ジルコン酸バリウムカルシウムなどである。
【0035】
外部電極部3a,3bは、上面2C、下面2Dおよび2側面2E,2Fに延在している。ただし、外部電極部3a,3bは、上面2C、下面2Dおよび2側面2E,2Fにおいて互いに離間している。外部電極部3a,3bは、それぞれ、下地層としての外部電極30、及び外部電極30を覆う3層のメッキ層31~33を含む。一対の外部電極30は、積層チップ2において互いに対向する端面2A,2Bをそれぞれ覆う。
【0036】
外部電極30は、Cu,Ni,Al(アルミニウム),Zn(亜鉛)などの金属、またはこれらの2以上の合金(例えば、CuとNiとの合金)を主成分とし、外部電極30の緻密化のためのガラス成分、外部電極30の焼結性を制御するための共材、などのセラミックを含んでいる。ガラス成分は、Ba(バリウム),Sr(ストロンチウム),Ca(カルシウム),Zn(亜鉛),Al,Si(ケイ素),B(ホウ素)等の酸化物である。共材は、例えば、誘電体層22の主成分と同じ材料を主成分とするセラミック成分である。
【0037】
メッキ層31~33は、例えばNi,Cu,Sn等の卑金属を主成分とする。外部電極30及びメッキ層31~33の各主成分の組み合わせは限定されない。例えば外部電極30の主成分をNiとし、メッキ層31~33の各主成分をそれぞれCu、Ni、Snとしてもよい。
【0038】
また、メッキ層31~33の少なくとも一部に代えて、あるいは、メッキ層31~33に加えて、エポキシ樹脂及びウレタン樹脂などの導電性樹脂の層を外部電極30の表面に形成してもよい。この場合、例えば外部電極30の主成分をCuとし、メッキ層31に代えて導電性樹脂層を形成し、メッキ層32,33の各主成分をそれぞれNi、Snとしてもよい。この場合、実装先の電子回路基板の撓みなどにより積層セラミックコンデンサ1に生ずる応力が導電性樹脂により緩和される。また、メッキ層31~33は3層に限定されない。例えば外部電極30の主成分をCuとし、外部電極30を、Niを主成分とするメッキ層で覆い、さらにNiのメッキ層を、Snを主成分とするメッキ層で覆ってもよい。
【0039】
図2から理解されるように、長さ方向における各内部電極層23の端縁は、積層チップ2の外部電極部3aが設けられた端面2Aと、外部電極部3bが設けられた端面2Bとに、交互に露出している。これにより、各内部電極層23は、積層方向において外部電極部3aと外部電極部3bとに、交互に導通している。つまり、各端面2A,2Bの外部電極30は、積層方向に沿って各内部電極層23と交互に接続されている。
【0040】
また、積層チップ2の積層方向の上部および下部は、カバー層20,21によりそれぞれ覆われている。カバー層20,21は積層チップ2の上面2C及び下面2Dを構成する。カバー層20,21はセラミック材料を主成分とし、誘電体層22と同様の主成分材料により形成されている。
【0041】
また、図3を参照すると、積層チップ2は、幅方向において内部電極部2N及び一対のサイドマージン部2Mを有する。内部電極部2Nは、各内部電極層23を含む電極部の一例である。内部電極部2Nは、幅方向において両側部を各サイドマージン部2Mにより挟まれている。各サイドマージン部2Mは、幅方向における各内部電極層23の両端にそれぞれ隣接し、内部電極層23を含んでいない。各サイドマージン部2Mは積層チップ2の側面2E,2Fを構成する。換言すると内部電極部2N及び各サイドマージン部2Mは、積層チップ2を、長さ方向に沿った内部電極層23と誘電体層22の境界線に従って積層方向に3分割して得られる部分である。
【0042】
外部電極30は、例えば、焼成前の積層チップ2の端面2A,2Bに導電性金属ペーストを塗布し、積層チップ2と同時に焼成することにより形成される。このとき、外部電極30及び積層チップ2は、図3の点線の矢印で示されるように、幅方向の中心及び長さ方向の中心に向かって収縮する。このとき、積層チップ2の部分の熱膨張係数と、外部電極30の部分の熱膨張係数との差に起因して、仮に積層チップ10の各サイドマージン部2Mに過剰に大きな応力が集中するとクラックが生ずるおそれがある。クラックが発生すると、積層セラミックコンデンサ1の外観不良や信頼性悪化の懸念がある。
【0043】
そこで、積層チップ2の各端面2A,2Bの外部電極30には、幅方向において各サイドマージン部2M側に、積層チップ2の幅方向に沿って厚みが変化する一組の段差300a,300bがそれぞれ設けられている。具体的には、幅方向における内部電極部2Nの中央を基準として、一方の段差300aは、側面2Eを有するサイドマージン部2M側の位置に形成され、他方の段差300aは、側面2Fを有するサイドマージン部2M側の位置に形成されている。各端面2A,2Bの外部電極30において、段差300a,300bから見て各サイドマージン部2M側の側部領域Rbの厚みDbは、内部電極部2N側の中央領域Raの厚みDaより薄く形成されている。つまり、各端面2A,2Bを正面視したとき、外部電極30の外側の側部領域Rbの厚みDbは内側の中央領域Raの厚みDaより薄い。段差300a,300bは、図3のように厚みの変化率が変わる変曲点を含み、その稜線は曲線であってもよい。
【0044】
このため、中央領域Ra及び各側部領域Rbの各厚みDa,Dbが互いに同一である場合と比べると、厚みDbの領域における応力が低減されてクラックの発生が抑制される。また、中央領域Raの厚みDaは各側部領域Rbの厚みDbより厚く形成されているため、中央領域Raが覆う積層チップ2の端面2A,2Bの中央部をメッキ液による浸食などから十分に保護することができ、積層セラミックコンデンサ1の耐湿性及び耐酸化性などの品質の低下が抑制される。
【0045】
なお、中央領域Raの厚みDaは例えば20~35(μm)であり、各側部領域の厚みDbは0.5~15(μm)である。例えば側部領域Rbの厚みDbは、中央領域Raの厚みDaの0.2倍以下に設定される。さらに側部領域Rbの厚みDbは、中央領域Raの厚みDaの0.14倍以下に設定すると好ましい。さらに好ましくは、側部領域Rbの厚みDbは、中央領域Raの厚みDaの0.06倍以下に設定するとよい。
【0046】
また、中央領域Ra及び各側部領域Rbを仕切る各段差300a,300bは、積層方向において各端面2A,2Bの特定の高さ位置の部分のみに形成されてもよいが、以下に述べるように積層方向に沿って連続して形成されてもよい。
【0047】
図4は、積層チップ2の端面2Bを正面視した場合の段差300a,300bの形成パターンの一例を示す平面図である。図4において、図1図3と共通する構成には同一の符号を付し、その説明は省略する。また、外部電極部3bの外形は点線で示されており、積層チップ2の外形は実線で示されている。また、端面2Bに露出した内部電極層23は実線で示され、他方の端面2Aに露出した内部電極層23は点線で示されている。
【0048】
また、点線Sは、幅方向において各段差300a,300bの形成された位置を示す。点線Sの内側は中央領域Raであり、点線Sの両外側は側部領域Rbである。各段差300a,300bは積層方向に沿って形成されているため、上述したクラックの発生の抑制効果が端面2Bの積層方向にわたって得られる。さらに、段差300a,300bは積層方向にわたって連続するように形成された場合、クラックの発生の抑制効果は向上する。
【0049】
本例において、各段差300a,300bは、それぞれ、端面2Bにおいて、積層方向に沿って各サイドマージン部2M側に凸の弧を描くように形成されている。すなわち点線Sは積層チップ2の両側面2E,2Fに向かって曲がった弧を描いている。点線Sの積層方向における中央と両端は、例えば幅方向において1.2~15(μm)だけ離れている(距離ΔY参照)。
【0050】
図4の符号Maは、端面2Bに露出した内部電極層23のうち、最上部の内部電極層23の端部Pe近傍のX方向及びY方向に沿った断面を示す。図4の符号Mbは、端面2Bに露出した内部電極層23のうち、中心付近の内部電極層23の端部Pc近傍のX方向及びY方向に沿った断面を示す。なお、符号Ma,Mbの断面図において、メッキ層31~33の図示は省略する。
【0051】
これらの断面図から理解されるように、点線Sが各サイドマージン部2M側に凸の弧を描くため、最上部の内部電極層23の端部Pe近傍では、中心付近の内部電極層23の端部Pc近傍より側部領域Rbの幅が広くなる。このように各段差300a,300bを形成することにより、上記の応力が作用する方向を積層方向の中心側に分散することができるため、クラックの発生がよく効果的に抑制される。例えば積層チップ2の誘電体層22に生ずるクラックは直線状に進行しやすいが、幅方向の一方に凸の弧を描くように段差があるため、外部電極30から誘電体層22に加わる応力の方向が直線状になりにくくなることでクラックの進行が抑えられる。なお、本例では一方の端面2Bの段差300a,300bを挙げたが、他方の端面2Aの段差300a,300bについても上記と同様に形成される。
【0052】
また、本例において、点線Sは内部電極部2N及び各サイドマージン部2Mに跨っているが、積層方向における段差300a,300bの形成パターンはこれに限定されない。
【0053】
図5は、積層チップ2の端面2Bを正面視した場合の段差300a,300bの形成パターンの他の例を示す平面図である。図5において、図4と共通する構成には同一の符号を付し、その説明は省略する。
【0054】
本例では、端面2Bを正面視したとき、点線Sは、サイドマージン部2M内で外側に凸となる弧を描いており、内部電極部2Nには重複していない。つまり、段差300a,300bは、それぞれ、端面2Bにおいて、各サイドマージン部2Mを覆う領域内に形成されている。
【0055】
このため、端面2Bにおいて厚みが薄い側部領域Rbの面積が図4の例よりも減少する。逆に言えば、端面2Aにおいて、側部領域Rbより厚く形成された中央領域Raの面積が増加する。これにより、積層セラミックコンデンサ1の耐湿性及び耐酸化性などの品質の低下がより効果的に抑制される。なお、本例では一方の端面2Bの段差300a,300bを挙げたが、他方の端面2Aの段差300a,300bについても上記と同様に形成される。
【0056】
図6は、積層チップ2の端面2Bを正面視した場合の段差300a,300bの形成パターンの他の例を示す平面図である。図6において、図4と共通する構成には同一の符号を付し、その説明は省略する。
【0057】
本例では、端面2Bを正面視したとき、点線Sは、内部電極部2N内で外側に凸となる弧を描いており、各サイドマージン部2Mには重複していない。つまり、段差300a,300bは、それぞれ、端面2Bにおいて、内部電極部2Nを覆う領域内に形成されている。
【0058】
このため、端面2Bにおいて厚みが薄い側部領域Rbの面積が図4の例よりも増加する。逆に言えば、端面2Bにおいて、側部領域Rbより厚く形成された中央領域Raの面積が減少する。これにより、焼成時に外部電極30に生ずる応力が減少してクラックがより効果的に抑制される。なお、本例では一方の端面2Bの段差300a,300bを挙げたが、他方の端面2Aの段差300a,300bについても上記と同様に形成される。
【0059】
図7は、積層チップ2の端面2Bを正面視した場合の段差300a,300bの形成パターンの他の例を示す平面図である。図7において、図4と共通する構成には同一の符号を付し、その説明は省略する。
【0060】
本例において、各段差300a,300bは、それぞれ、端面2Bにおいて、積層方向に沿って内部電極部2N側に凸の弧を描くように形成されている。すなわち、端面2Bを正面視したとき、点線Sは、幅方向において積層チップ2の内側に向かって膨出するように弧を描いている
【0061】
このように各段差300a,300bを形成することにより、上記の例と同様に、応力が作用する方向を積層方向の中心側に分散することができるため、クラックの発生がよく効果的に抑制される。なお、本例では一方の端面2Bの段差300a,300bを挙げたが、他方の端面2Aの段差300a,300bについても上記と同様に形成される。ここで、段差300a,300bは端面2A,2Bの少なくとも一方に形成されればよく、さらに少なくとも一方の段差300a,300bが形成されればよい。
【0062】
上述したように積層セラミックコンデンサ1のサイズに限定はないが、例えば積層方向の高さが幅方向の幅より大きい高背タイプの積層セラミックコンデンサ1は、低背タイプの積層セラミックコンデンサ1よりサイズが大きい分、多くのクラック発生個所を有する。このため、高背タイプの積層セラミックコンデンサ1の外部電極30に段差300a,300bを設けた場合、低背タイプの積層セラミックコンデンサ1より効果的なクラックが抑制される。また、積層セラミックコンデンサ1以外の積層セラミック電子部品にも段差300a,300bを設けることは可能であるが、積層セラミックコンデンサ1の場合、内部電極層23の端部が積層方向で見た場合に同じ位置で重なり、その位置に応力が集中してクラックが発生しやすいため、他の積層セラミック電子部品より効果的にクラックの発生を抑制することができる。
【0063】
(積層セラミックコンデンサの製造方法)
図8は、積層セラミックコンデンサ1の製造工程の一例を示すフローチャートである。本製造工程は、積層セラミックコンデンサ1の製造方法の一例である。
【0064】
(グリーンシート成形工程)
まずグリーンシート成形工程St1が行われる。本工程では、例えばセラミック粉末に各種の添加化合物(焼結補助剤など)を添加することで得た誘電体材料に、ポリビニルブチラール(PVB)樹脂等のバインダと、エタノール、トルエン等の有機溶剤と、可塑剤とを加えて湿式混合する。得られたスラリーを使用して、例えばダイコータ法やドクターブレード法により、基材上に電体グリーンシートを塗工して乾燥させる。基材は、例えば、PET(ポリエチレンテレフタレート)フィルムである。
【0065】
なお、セラミック粉末の添加化合物としては、Mg(マグネシウム),Mn(マンガン),V(バナジウム),Cr(クロム),希土類元素(Y(イットリウム),Sm(サマリウム),Eu(ユウロピウム),Gd(ガドリニウム),Tb(テルビウム),Dy(ジスプロシウム),Ho(ホロミウム),Er(エルビウム),Tm(ツリウム)およびYb(イッテルビウム))の酸化物、並びに、Co(コバルト),Ni,Li(リチウム),B(ホウ素),Na(ナトリウム),K(カリウム)およびSi(シリコン)の酸化物もしくはガラスが用いられる。
【0066】
(内部電極印刷工程)
次に内部電極印刷工程St2が行われる。本工程では、基材上の誘電体グリーンシートに、有機バインダを含む内部電極形成用の金属導電ペーストをスクリーン印刷やグラビア印刷等により印刷することで、内部電極層23に対応する複数の内部電極パターンを互いに離間させて成膜する。また、各内部電極パターンとは逆パターンとなるように上記のスラリーをマージンペーストとして塗布する。これにより内部電極パターンの両側にサイドマージン部2Mが確保される。金属導電ペーストには、共材としてセラミック粒子を添加する。セラミック粒子の主成分は、特に限定するものではないが、誘電体層22の主成分セラミックと同じであることが好ましい。
【0067】
(積層工程)
次に積層工程St3が行われる。本工程では、内部電極パターンが印刷された誘電体グリーンシートを積層することにより積層体を形成する。積層体の積層方向の両端面には、カバー層20,21に対応する誘電体グリーンシートがそれぞれ積層される。
【0068】
(圧着工程)
次に圧着工程St4が行われる。本工程では、積層体を加圧することにより複数の誘電体グリーンシート間を圧着する。圧着手段としては、例えば静水圧プレスが挙げられるが、これに限定されない。
【0069】
(切断工程)
次に切断工程St5が行われる。圧着後の積層体を所定のカット線に沿って積層方向に切断することにより複数の積層チップ2が得られる。
【0070】
(研磨工程)
次に研磨工程St6が行われる。本工程では、積層チップ2を例えばバレル研磨などの手法により研磨する。これにより、積層チップ2の角部が丸められる。なお、グリーンシート成形工程St1から研磨工程St6までの一連の工程は、交互に積層された複数の内部電極層23及び複数の誘電体層22を含む略直方体形状の積層チップ2を形成する工程の一例である。この一連の工程により積層チップ2には内部電極部2N及びサイドマージン部2Mが形成される。
【0071】
(脱バインダ工程)
次に脱バインダ工程St7が行われる。本工程では、積層チップ2を高温のN雰囲気中で脱バインダ処理する。
【0072】
(外部電極形成工程)
次に外部電極形成工程St8が行われる。本工程では、例えば金属粉末、ガラスフリット、バインダ、および溶剤を含む導電ペーストを積層チップ10の各端面2A,2B、上面2C、下面2D、及び各側面2E,2Fに塗布する。このとき、導電ペーストは各端面2A,2Bを覆うように塗布され、さらに端面2A,2Bから上面2C、下面2D、及び各側面2E,2Fの端部まで覆うように塗布される。導電ペーストの塗布後、乾燥させることにより、外部電極30が形成される。なお、バインダおよび溶剤は、焼き付けによって蒸発する。導電ペーストの塗布手段としては、例えばスパッタリング法及びディップ法が挙げられる。
【0073】
図9は、外部電極形成工程St8の手順の一例を示す断面図である。図9には、濡れ性の調整剤90を積層チップ2に塗布した状態、導電ペーストを積層チップ2に塗布した状態、及び導電ペーストを乾燥させた状態が、図3と同様の断面で示されている。
【0074】
調整剤90は、導電ペーストの濡れ広がりを抑制する溶剤であり、例えばシリコンまたはフッ素化合部を主成分とする。調整剤90は、積層チップ10の各端面2A,2B及び各側面2E,2Fに塗布される。調整剤90は、端面2A,2Bの中央領域Raに該当する部分に塗布され、また、側面2E,2Fの長さ方向における両端部に塗布される。このように、調整剤90を領域ごとに塗布するため、例えばマスキング材や被覆治具が用いられてもよい。
【0075】
調整剤90の塗布後、端面2A,2B、及び側面2E,2Fの長さ方向における両端部に導電ペーストが塗布される。導電ペーストは、乾燥過程において、調整剤90の塗布された領域に応じて矢印で示される方向に流動する。すなわち、調整剤90が塗布された領域では導電ペーストの濡れ広がりが抑制されるため、導電ペーストが集中し、逆に調整剤90が塗布されていない領域の導電ペーストは少量となる。
【0076】
したがって、導電ペーストの乾燥後、各端面2A,2Bの幅方向における端部において外部電極30の薄い側部領域Rbが形成される。一方、調整剤90が集中した側面2E,2Fの長さ方向における両端部、及び端面2A,2Bの中央には、外部電極30の厚い中央領域Raが形成される。これにより、図9の最下段の点線の丸印で示される段差300a,300bが形成される。
【0077】
このように、外部電極形成工程St8は、端面2A,2Bにおける導電ペーストの濡れ性を領域ごとに異ならせることによって、一組の段差300a,300bを形成し、側部領域Rbが中央領域Raより薄くなるように導電ペーストを塗布する。このとき、段差300a,300bは、それぞれ、積層方向にわたって連続して形成される。
【0078】
外部電極形成工程St8において、中央領域Raの厚みDaは例えば20~35(μm)に形成され、各側部領域の厚みDbは0.5~15(μm)に形成される。例えば側部領域Rbの厚みDbは、中央領域Raの厚みDaの0.2倍以下に形成される。さらに側部領域Rbの厚みDbは、中央領域Raの厚みDaの0.14倍以下に形成すると好ましい。さらに好ましくは、側部領域Rbの厚みDbは、中央領域Raの厚みDaの0.06倍以下に形成するとよい。
【0079】
また、段差300a,300bは、図4に示されるように、端面2A,2Bにおいて、積層方向に沿って各サイドマージン部2M側に凸の弧を描くように形成されてもよいし、図7に示されるように、端面2A,2Bにおいて、積層方向に沿って内部電極部2N側に凸の弧を描くように形成されてもよい。このとき、段差300a,300bは、図5に示されるように各側部領域Rb内に形成されてもよいし、図6に示されるように中央領域Ra内に形成されてもよい。なお、段差300a,300bは端面2A,2Bの一方だけに形成されてもよく、さらに段差300a,300bの一方のみが端面2A,2Bの少なくとも一方に形成されてもよい。
【0080】
(焼成工程)
再び図8を参照すると、外部電極形成工程St8の次に焼成工程St9が行われる。本工程では、外部電極30が形成された積層チップ2を、250~500℃のN雰囲気中で脱バインダ処理した後に、酸素分圧0.003~0.020(Pa)の還元雰囲気中で1300~1400℃で1時間程度焼成することで、積層チップ2内の各粒子が焼結する。
【0081】
このとき、外部電極30及び積層チップ2は、積層チップ2の幅方向の中心及び長さ方向の中心に向かって収縮する。各側部領域Rbの厚みDbが中央領域Raの厚みDaより薄いため、収縮時の応力が低減されてクラックの発生が抑制される。
【0082】
(めっき処理工程)
次にめっき処理工程St10が行われる。本工程では、各外部電極30上にめっき処理によりCu,Ni,Sn等の金属コーティングが行われる。これによりメッキ層31~33が形成される。なお、各メッキ層31~33の厚みは、例えば約3(μm)としてもよい。
【0083】
本工程において、中央領域Raの厚みDaは各側部領域Rbの厚みDbより厚いため、中央領域Raが覆う積層チップ2の端面2A,2Bの中央部をメッキ液による浸食などから十分に保護することができ、積層セラミックコンデンサ1の耐湿性及び耐酸化性などの品質の低下が抑制される。以上の工程により、上述した積層セラミックコンデンサ1が完成する。
【実施例0084】
次に実施例の積層セラミックコンデンサ1の評価結果を述べる。
【0085】
【表1】
【0086】
表1は、積層セラミックコンデンサ1の焼成工程St9における積層チップ2のクラックの発生率(%)を示す。評価では、サンプルNo.1~11の積層セラミックコンデンサ1を200個ずつ用いた。サンプルNo.1~11について、中央領域Raの厚みDa及び側部領域Rbの厚みRbの組み合わせは相違する。サンプルNo.1~3,5~7,9の端面2A,2Bにおいて段差300a,300bが描く弧の形態は、積層チップ2の外側に凸とした。また、サンプルNo.4,8,20の端面2A,2Bにおいて段差300a,300bが描く弧の形態は、積層チップ2の内側に凸とした。
【0087】
また、サンプルNo.1~8の外部電極30には、積層方向にわたって連続する段差300a,300bを形成し、サンプルNo.9、10の外部電極30には、積層方向において不連続な段差300a,300bを形成した。また、サンプルNo.1~8に対する比較例として、サンプルNo.11の外部電極30には、段差300a,300bを形成しなかった。サンプルNo.1~11の作製後、研磨することにより積層チップ2の角部のクラックの有無を確認した。
【0088】
表1には、厚みDa,Dbの比(Db/Da)が示されている。クラックの発生率は、200個の積層セラミックコンデンサ1のうち、クラックが確認された個数の比率である。
【0089】
表1から理解されるように、Db/Daが0.02~0.20の範囲においてクラックの発生率は0(%)である。したがって、側部領域Rbの厚みDbは、中央領域Raの厚みDaの0.20倍以下に設定すると好ましい。さらに側部領域Rbの厚みDbは、中央領域Raの厚みDaの0.14倍以下に設定すると好ましい。さらに好ましくは、側部領域Rbの厚みDbは、中央領域Raの厚みDaの0.06倍以下に設定するとよい。
【0090】
さらに表1には、サンプルNo.1~11について、図4に示された距離ΔYが示されている。外側に凸の弧を描く段差300a,300bのサンプルNo.1~3,5~7,9ではクラックの発生率が0(%)であった。このため、距離ΔYが1.2~15.5(μm)の範囲では、外部電極30から誘電体層22に加わる応力の作用方向を好適に分散すると考えられる。
【0091】
一方、内側に凸の弧を描く段差300a,300bのサンプルNo.4,8,10のうち、サンプルNo.2,8のクラックの発生率は0(%)であり、サンプルNo.10のクラックの発生率は0.5(%)であった。これは、サンプルNo.10の段差300a,300bは積層方向において不連続に形成されたため、他のサンプルNo.4,8,10より上記の応力の分散の程度が低くなったためと考えられる。このため、段差300a,300bを積層方向にわたって連続して形成したほうが応力の作用方向を好適に分散すると考えられる。
【0092】
また、サンプルNo.10のクラックの発生率は、比較例のサンプルNo.11より低い。このため、段差300a,300bが不連続に形成された場合であっても、クラックの抑制効果を得られると考えられる。
【0093】
以上、本発明の実施例について詳述したが、本発明は係る特定の実施例に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の要旨の範囲内において、種々の変形・変更が可能である。
【符号の説明】
【0094】
1 積層セラミックコンデンサ
2 積層チップ
2A,2B 端面
2N 内部電極部
2M サイドマージン部
3a,3b 外部電極部
22 誘電体層
23 内部電極層
30 外部電極
300a,300b 段差
Ra 中央領域
Rb 側部領域
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9