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  • 特開-果菜植物栽培用照明装置 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024009511
(43)【公開日】2024-01-23
(54)【発明の名称】果菜植物栽培用照明装置
(51)【国際特許分類】
   A01G 7/00 20060101AFI20240116BHJP
   A01G 9/20 20060101ALI20240116BHJP
【FI】
A01G7/00 601C
A01G9/20 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022111085
(22)【出願日】2022-07-11
(71)【出願人】
【識別番号】520006735
【氏名又は名称】株式会社三鷹ホールディングス
(74)【代理人】
【識別番号】110003454
【氏名又は名称】弁理士法人友野国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】羽澤 学
【テーマコード(参考)】
2B022
2B029
【Fターム(参考)】
2B022DA03
2B022DA05
2B022DA06
2B022DA08
2B029KB01
2B029KB03
2B029KB10
(57)【要約】
【課題】
太陽光線による栽培と同等なイチゴ果実の肥大、糖度の向上、生育期間の短縮、ひいては果菜植物の収穫拡大と言う効果が期待できる果菜植物栽培用照明装置を提供すること。
【解決手段】
本発明の第1の態様に係る果菜植物栽培用照明装置は、果菜植物5を温室1内において栽培するために用いる照明装置において、複数の点光源型LED2と、前記複数の点光源型LEDを覆う光拡散フィルタ4とを備えることにより不快グレアの発生を抑える。典型的には、点光源型LEDを多数並べたLEDボード3を光拡散フィルタ4で覆う。
【選択図】図1

【特許請求の範囲】
【請求項1】
果菜植物を温室内において栽培するために用いる照明装置において、
複数の点光源型LEDと、
前記複数の点光源型LEDを覆う光拡散フィルタと
を備えることにより不快グレアの発生を抑えることを特徴とする果菜植物栽培用照明装置。
【請求項2】
紫外線発生装置をさらに具備することを特徴とする請求項1記載の果菜植物栽培用照明装置。
【請求項3】
前記複数の点光源型LEDに係るLED照明の点灯を手動あるいは自動によって制御できる機能をさらに有することを特徴とする請求項1記載の果菜植物栽培用照明装置。
【請求項4】
前記複数の点光源型LEDに係るLED照明の点灯及び前記紫外線発生装置に係る紫外線照射の時間について手動あるいは自動によって制御できる機能をさらに有することを特徴とする請求項2記載の果菜植物栽培用照明装置。
【請求項5】
前記紫外線発生装置に係る紫外線が果菜植物の葉裏に到達するよう、果菜植物の苗床に紫外線反射体がさらに設置されることを特徴とする請求項2記載の果菜植物栽培用照明装置。
【請求項6】
前記温室内に人感センサをさらに具備し、該人感センサは前記温室内に人員が存在する場合は前記紫外線発生装置に係る紫外線照射を停止することを特徴とする請求項2記載の果菜植物栽培用照明装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はたとえば果菜植物栽培用照明装置に係り、特に、イチゴ、メロン、プチトマトのごとき果菜植物の温室内人工栽培に用いることの可能な果菜植物栽培用照明装置に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、日本ではイチゴ、メロン、プチトマトのごとき果菜植物は人気が高く、一般家庭や飲食店での生食用として、生菓ばかりでなく、ジャムやゼリーなどのように加工・調整したものを贈答商品としたり、輸出用品としたりなど様々な用途において人気であり、通年を通して需要が高い。
【0003】
特にイチゴは、消費者の嗜好や食生活の変化に対応した新品種の開発が盛んになり、従来の人気品種のほか、各地の生産地でいわゆる地域ブランドイチゴが開発されている。 しかし、イチゴは一年を通じて市場に供給されてはいるが、それは主に11月~5月の期間で供給されているのが現状であり、それ以外の期間での供給は輸入品に頼っているのが現状である。
【0004】
そのため、特許文献1を例として、通年を通して安定的にイチゴを生産するための各種の発明が発表されている。それらの多くは、露地栽培に換えて、温室内でのプランタ栽培方法あるいは水耕栽培方法を応用し、自然太陽光に換えて人工光を用いている。
【0005】
イチゴは、品種によって多少の違いはあるが、一般的には人工光の光強度が強いほうが好ましいとされている。また、人工光の波長としては、遠赤色光である約700~780nmをイチゴに照射することによりイチゴ果実の肥大を促進できることが報告されている(特許文献2)。
【0006】
上述した人工光の光源としては、従来の白色光電球に換えて、現在では消費電力が格段に少ないLED(発光ダイオード)が用いられている。LEDは、消費電力が少ないだけでなく、光合成やイチゴ果実の肥大に有効な波長の光源として有効であることが特許文献2以外に特許文献3にも記載されており、当該文献では青色発光ダイオード及び赤色発光ダイオード、或いはそれらの組合せに相当する波長の緑色発光ダイオード、並びに遠赤色発光ダイオードを用いるとする技術思想が開示されている。
【0007】
また、8~10時間程度の日長条件下に保たれた環境室内で栽培を継続することにより、一旦収穫を終えた促成栽培イチゴ株であっても、その草勢が衰えることなく、継続して安定的なイチゴ果実の収穫が達成できることも報告されている。
【0008】
以上の様に、良いことずくめのLED照明であるが、自然太陽光のもとで生育したイチゴに比べ糖度や実の色付きに微妙な差があることが認められる。また、イチゴ育成の障害となるハダニの発生は、自然太陽光での育成の方が少ないとの報告もある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2021-159034号公報
【特許文献2】特開2012-165665号公報
【特許文献3】特開2010-130986号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、上述した問題点を解決するために企図されたものであり、太陽光線による栽培と同等なイチゴ果実の肥大、糖度の向上、生育期間の短縮、ひいては果菜植物の収穫拡大と言う効果が期待できる果菜植物栽培用照明装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するために、まず、本発明者は、上記のLED照明と自然太陽光との差に着目した。すなわち、太陽からの自然光は平行光線による拡散光であるが、白熱電球やLED光源の様な人工光は、略点光源からの放射線状光である。さらに、LEDテープライトの様な照明は、複数の点光源からの指向性のある干渉光照明となる。
【0012】
照明用のLEDは人には見えない紫外線や赤外線をほとんど含まず、イチゴ生育用としてはチップ型あるいは砲弾型のLED、いわゆる点光源型LEDを多数並べた状態で用いられる。このLEDを多数並べた状態の照明はかなり眩しく、長く眺めていると、ちょっと気分がおかしくなる状態になることを発見した。この状態を調べてみると、多数並んだLEDの眩しさはグレア(glare)と呼ばれる現象で、不快感や物の見えづらさを生じさせる。特に、不快感を感ずる場合を不快グレアと呼ばれている。
【0013】
人間の目で見て不快感を感ずる不快グレアを生ずるLED照明をイチゴの生育用に用いた場合はどのような影響を及ぼすかは明らかにされていないが、何らかの影響を及ばし、前述の糖度の差や実の色付きの差に表れていることが予想される。
【0014】
また、イチゴ栽培時に気を付けないといけないことはハダニの発生を抑えることである。ハダニはイチゴの葉に取り付き枯らしてしまうため、イチゴ栽培の大きな障害となる。イチゴ栽培で主に発生するハダニの種類は、「ナミハダニ」と「カンザワハダニ」で、この2種とも非常に小さく、体長は0.5mm前後で、肉眼で識別することは困難である。しかし、ハダニは紫外線を嫌うため、紫外線を多く含む自然太陽光ではかなり発生が抑えられると考えられる。
【0015】
こうした考察の上に立ち、本発明者はさらに、深く考察を進めた結果、上記の解決課題を解決するための方策として次の5点をポイントとして抽出した。
【0016】
第1には、不快グロウを発生せず、太陽光に近い波長成分を有する人工LED照明とすること。
【0017】
第2には、果菜植物の種類によってLED人工照明の照明持続時間を調節する。
【0018】
第3には、LED人工照明と共にハダニの繁殖を防止する紫外線照明を加えた果菜植物栽培用照明装置とすること。人間の目には入射しない安全機構を有する紫外線照明を有すること。
【0019】
第4には、紫外線照明は、栽培作業者等の人員が温室内に存在する場合は紫外線放射を自動停止する安全機構を有すること。
【0020】
第5には、ハダニが取りつく葉裏にも紫外線が到達する構成とすること
【0021】
そこで、上記のような各課題を解決するために、本発明の第1の態様に係る果菜植物栽培用照明装置は、果菜植物を温室内において栽培するために用いる照明装置において、複数の点光源型LEDと、前記複数の点光源型LEDを覆う光拡散フィルタとを備えることにより不快グレアの発生を抑えることを特徴とする。かかる態様によれば、果菜植物栽培用照明として複数のLEDにより構成される光源からの光束を、不快グレアの発生を防ぐ光拡散フィルタによって拡散する。
【0022】
本発明の第2の態様として、第1の態様において、紫外線発生装置をさらに具備するものとしてもよい。第1の態様に用いられるLEDを自然太陽光を構成する光波長と略同様な波長構成となるLEDによる構成、あるいは光波長の異なる複数のLEDにより略自然太陽光となる構成とする。
【0023】
本発明の第3の態様として、第1の態様において、前記複数の点光源型LEDに係るLED照明の点灯を手動あるいは自動によって制御できる機能をさらに有するものとしてもよい。こうした態様によれば、果菜植物の種苗―出葉―開花―受粉(交配)-収穫の各過程状況により最適な照射強度、照射時間の照明を行うことが可能となる。
【0024】
本発明の第4の態様として、第2の態様において、前記複数の点光源型LEDに係るLED照明の点灯及び前記紫外線発生装置に係る紫外線照射の時間について手動あるいは自動によって制御できる機能をさらに有するものとしてもよい。こうした態様によれば、果菜植物の種苗―出葉―開花―受粉(交配)-収穫の各過程状況により最適な照射強度、照射時間の照明を行うことが可能となる。
【0025】
本発明の第5の態様として、第2の態様において、前記紫外線発生装置に係る紫外線が果菜植物の葉裏に到達するよう、果菜植物の苗床に紫外線反射体がさらに設置されるようにしてもよい。上述の態様に係る果菜植物栽培用照明装置中にハダニの繁殖を防ぐ紫外線放射を含み、これが果菜植物の葉裏にも照射されることが可能となるので、ハダニの繁殖を効果的に防ぐことができる。
【0026】
本発明の第6の態様として、第2の態様において、前記温室内に人感センサをさらに具備し、該人感センサは前記温室内に人員が存在する場合は前記紫外線発生装置に係る紫外線照射を停止するようにしてもよい。上述の態様における紫外線放射は、温室内に作業員が存在することを検出した場合は放射を停止するので、作業員の安全・健康確保がシステム的に担保される。
【発明の効果】
【0027】
本発明の照明装置を用いることにより、イチゴ栽培を例にとれば、太陽光線による栽培と同等なイチゴ果実の肥大、糖度の向上、生育期間の短縮が期待できる。
【0028】
LED照明の不快グレアを防止することにより作業員の効率が向上し、作業のスピードアップ、ひいては果菜植物の収穫拡大と言う効果が期待できる。
【0029】
紫外線の照射によりハダニの発生を抑え、前記と合わせて果菜植物の収穫拡大と言う効果が期待できる。さらに、開花時の受粉を養蜂のミツバチで行う場合、ミツバチの活動能力は紫外線照射で活発となり受粉が確実となる効果を期待できる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
図1】本発明の一実施形態に係る果菜植物栽培用照明装置の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下、図面を参照して、本発明の一実施形態に係る果菜植物栽培用照明装置について詳細に説明する。図1は、本発明の一実施形態に係る果菜植物栽培用照明装置の説明図である。同図を用いて、果菜植物5を栽培するための照明装置を栽培用温室1中に設置した場合について説明する。同図に示されるように、複数の照明ユニット2は、砲弾型あるいはチップ型のLEDを多数並べたLEDボード3に放射光拡散フィルタ4を取り付けた形態とし、LED光を拡散しているため不快グロウの発生を防止している。
【0032】
図1では、LEDユニット2とは別ユニットとしてハダニ発生防止用紫外線照明6を設置した例を示しているが、LEDユニット2と一体化しても良い。さらに、上述した紫外線放射光を果菜植物5の葉裏にも届くように、果菜植物5の苗床に鏡の様な反射体7を設置するのが好適である。温室1内の要所に作業員が存在する場合に紫外線照明6を停止するように、人の発生する赤外線の移動を検知する人感センサ8を設置する。
【0033】
LEDユニット2、紫外線照明6の点灯照射は、果菜植物5の種類や季節、天候により制御装置9を用いて、自動あるいは手動にて点灯照射の時間間隔等を最適条件にコントロールする。
【0034】
上述した形態によれば、複数の照明ユニットは、砲弾型あるいはチップ型のLEDを多数並べたLEDボードに放射光拡散フィルタが取り付けられるため、また、果菜植物の苗床に反射体が設置される場合にはさらに、太陽光線による栽培と同等なイチゴ果実の肥大、糖度の向上、生育期間の短縮が期待できる。
【0035】
また、上述した形態によれば、LEDボードに放射光拡散フィルタが取り付けられることで、LED照明の不快グレアを防止することにより、作業員の効率が向上し、作業のスピードアップ、ひいては果菜植物の収穫拡大が可能となる。
【0036】
さらに、LEDユニットとは別ユニットとしてハダニ発生防止用紫外線照明が設置された形態によれば、紫外線の照射によりハダニの発生を抑え、上記効果と併せて果菜植物の収穫拡大が可能となる。さらに、開花時の受粉を養蜂のミツバチで行う場合、ミツバチの活動能力は紫外線照射で活発となり受粉が確実となるという本願独自の効果が期待できる。
【符号の説明】
【0037】
1…温室
2…LEDユニット
3…LEDボード
4…放射光拡散フィルタ
5…果菜植物
6…紫外線照明
7…反射体
8…人感センサ
9…制御装置

図1