(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024095120
(43)【公開日】2024-07-10
(54)【発明の名称】透過型投影スクリーン
(51)【国際特許分類】
G02F 1/139 20060101AFI20240703BHJP
G02F 1/1334 20060101ALI20240703BHJP
G03B 21/62 20140101ALI20240703BHJP
【FI】
G02F1/139
G02F1/1334
G03B21/62
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022212162
(22)【出願日】2022-12-28
(71)【出願人】
【識別番号】000003193
【氏名又は名称】TOPPANホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】吉田 哲志
(72)【発明者】
【氏名】野田 里志
(72)【発明者】
【氏名】安原 寿二
【テーマコード(参考)】
2H021
2H088
2H189
【Fターム(参考)】
2H021BA30
2H088EA32
2H088GA10
2H088GA13
2H088KA02
2H088KA26
2H088KA30
2H189AA04
2H189DA04
2H189DA07
2H189FA81
2H189KA01
2H189KA19
2H189MA15
(57)【要約】
【課題】映像を鮮明化する透過型投影スクリーンを提供する。
【解決手段】2つの透明電極層と、透明電極層の間に位置する高分子分散型液晶と、を備える調光シート20Aと、調光シート20Aの裏面が貼り付けられる表面を備えた透明基材11と、を備え、高分子分散型液晶が、少なくとも1種の二色性色素を含み、透明電極層の間に印加される電圧の変更によって、調光シート20Aが透明状態から散乱状態に可逆的に変わる透過型投影スクリーンであって、高分子分散型液晶の厚さが膜厚Dであり、高分子分散型液晶の質量に対する二色性色素の質量の割合が色素濃度Cであり、C×D≧48を満たす。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
2つの透明電極層と、前記透明電極層の間に位置する高分子分散型液晶と、を備える調光シートと、
前記調光シートの裏面が貼り付けられる表面を備えた透明基材と、を備え、
前記高分子分散型液晶が、少なくとも1種の二色性色素を含み、前記透明電極層の間に印加される電圧の変更によって、前記調光シートが透明状態から散乱状態に可逆的に変わる透過型投影スクリーンであって、
前記高分子分散型液晶の厚さが膜厚Dであり、
前記高分子分散型液晶の質量に対する前記二色性色素の質量の割合が色素濃度Cであり、
C×D≧48を満たす
ことを特徴とする透過型投影スクリーン。
【請求項2】
前記膜厚Dが15μm以上32μm以下である
請求項1に記載の透過型投影スクリーン。
【請求項3】
前記膜厚Dが20μm以下である
請求項2に記載の透過型投影スクリーン。
【請求項4】
前記色素濃度Cが1.6質量%以上4.0質量%以下である
請求項2に記載の透過型投影スクリーン。
【請求項5】
2つの透明電極層と、前記透明電極層の間に位置する高分子分散型液晶と、を備える調光シートと、
前記調光シートの裏面が貼り付けられる表面を備えた透明基材と、を備え、
前記高分子分散型液晶が、少なくとも1種の二色性色素を含み、前記透明電極層の間に印加される電圧の変更によって、前記調光シートが透明状態から散乱状態に可逆的に変わる透過型投影スクリーンであって、
透過型投影スクリーンは、前記散乱状態における前記調光シートの表面に、直線光による白領域と前記白領域に囲まれた黒領域とを備えた映像が投影されたとき、前記透明基材の裏面における前記白領域の透過率に対する前記黒領域の透過率の比率が3%以下である
ことを特徴とする透過型投影スクリーン。
【請求項6】
前記散乱状態における前記調光シートのヘイズが90%以上である
請求項5に記載の透過型投影スクリーン。
【請求項7】
前記高分子分散型液晶の質量に対する液晶組成物の質量の割合が45質量%以上55質量%以下である
請求項1から6のいずれか一項に記載の透過型投影スクリーン。
【請求項8】
前記二色性色素が黒色混合色素である
請求項1から6のいずれか一項に記載の透過型投影スクリーン。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、光透過率を変更する透過型投影スクリーンに関する。
【背景技術】
【0002】
調光シートは、透明樹脂のなかに分散された液晶組成物を含む調光層と、調光層を挟む一対の透明電極層とを備える。一対の透明電極層間における駆動電圧の変化に応じて液晶化合物の配向状態が変わる。液晶化合物の配向状態が変わることによって、調光層が光を透過する透明状態と、調光層が光を散乱する散乱状態とに切り替わる。散乱状態の調光シートは、映像を投影される映像スクリーンに用いられる(例えば、特許文献1、2を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2021-76802号公報
【特許文献2】国際公開第2016/035227号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
透過型投影スクリーンに備えられる調光シートの裏面は、ガラスや樹脂などの透明基材の表面に貼りつけられる。この場合、調光シートの表面は、透過型投影スクリーンにおいて投影装置から光を受ける映像入射面として機能する。透明基材の裏面は、観察者に向けて映像を出射する映像出射面として機能する。こうした透過型投影スクリーンでは、散乱状態の調光シートが映像を視認可能にする一方、映像入射面から映像出射面までの間で散乱した光が映像の鮮明性を映像出射面で低めてしまう。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するための透過型投影スクリーンは、2つの透明電極層と、前記透明電極層の間に位置する高分子分散型液晶と、を備える調光シートと、前記調光シートの裏面が貼り付けられる表面を備えた透明基材と、を備え、前記高分子分散型液晶が、少なくとも1種の二色性色素を含み、前記透明電極層の間に印加される電圧の変更によって、前記調光シートが透明状態から散乱状態に可逆的に変わる透過型投影スクリーンである。前記高分子分散型液晶の厚さが膜厚Dであり、前記高分子分散型液晶の質量に対する前記二色性色素の質量の割合が色素濃度Cであり、C×D≧48を満たす。
【0006】
散乱状態の透過型投影スクリーンにおいて、調光シートによる散乱が高まるほど、明領域を形成するための光は、明領域の周辺に漏れやすい。明領域の周辺である暗領域に漏れた光は、明領域と暗領域との境界をぼやかしてしまう。一方、調光シートによる散乱が高まるほど、暗領域を形成するための吸収は高められる。このように、調光シートの散乱による(a)明領域の漏れと(b)暗領域の透過とは、一方を低めると他方が高まるというトレードオフの関係を有する。この点、上述した構成であれば、膜厚Dと色素濃度Cとの積が48以上である。このため、明領域を形成するための光の一部が明領域から暗領域に漏れる一方で、当該漏れた光が暗領域で吸収される。このため、明領域に対する暗領域のコントラストが高められる。ひいては、明領域と暗領域との境界における映像の鮮明化が可能になる。
【0007】
上記透過型投影スクリーンにおいて、前記膜厚Dが15μm以上32μm以下でもよい。この構成によれば、映像を鮮明化できることの実効性が高まると共に、駆動電圧の低下が実現可能ともなる。
【0008】
上記透過型投影スクリーンにおいて、前記膜厚Dが20μm以下でもよい。この構成によれば、映像を鮮明化できることの効果が顕著である。
上記透過型投影スクリーンにおいて、前記色素濃度Cが1.6質量%以上4.0質量%以下でもよい。この構成によれば、二色性色素の均一化が可能ともなる。
【0009】
上記課題を解決するための透過型投影スクリーンは、2つの透明電極層と、前記透明電極層の間に位置する高分子分散型液晶と、を備える調光シートと、前記調光シートの裏面が貼り付けられる表面を備えた透明基材と、を備え、前記高分子分散型液晶が、少なくとも1種の二色性色素を含み、前記透明電極層の間に印加される電圧の変更によって、前記調光シートが透明状態から散乱状態に可逆的に変わる透過型投影スクリーンである。透過型投影スクリーンは、前記散乱状態における前記調光シートの表面に、直線光による白領域と前記白領域に囲まれた黒領域とを備えた映像が投影されたとき、前記透明基材の裏面における前記白領域の透過率に対する前記黒領域の透過率の比率が3%以下である。
【0010】
上述した構成であれば、白領域の透過率に対する黒領域の透過率の比率が3%以下である。白領域に対する黒領域の透過率の比率が3%以下であることは、白領域を形成するための光の一部が白領域から黒領域に漏れる一方で、当該漏れた光が黒領域で吸収される範囲である。このため、上述した明領域に対する暗領域のコントラストが高められる。ひいては、明領域と暗領域との境界における映像の鮮明化が可能になる。
【0011】
上記透過型投影スクリーンにおいて、前記散乱状態における前記調光シートのヘイズが90%以上でもよい。
上記透過型投影スクリーンにおいて、前記高分子分散型液晶の質量に対する液晶組成物の質量の割合が45質量%以上55質量%以下でもよい。
【0012】
上記透過型投影スクリーンにおいて、前記二色性色素が黒色混合色素でもよい。
【発明の効果】
【0013】
本開示の透過型投影スクリーンは、映像の鮮明化が可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】
図1は、透過型投影スクリーンを投影装置と共に示す構成図である。
【
図2】
図2は、透過型投影スクリーンの断面構成を示す断面図である。
【
図3】
図3は、調光シートの断面構成を示す部分断面である。
【
図4】
図4は、透過型投影スクリーンの評価映像を示す平面図である。
【
図5】
図5は、透過型投影スクリーンの評価形態を示す装置配置図である。
【
図7】
図7は、透過型投影スクリーンの光学作用を示す作用図である。
【
図8】
図8は、吸光度と膜厚との関係を示すグラフである。
【
図9】
図9は、実効膜厚増加率とヘイズとの関係を示すグラフである。
【
図10】
図10は、透過率と膜厚との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
[透過型投影スクリーン10]
図1が示すように、透過型投影スクリーン10は、駆動装置51に接続される。駆動装置51は、透過型投影スクリーン10に、透過型投影スクリーン10を透明状態にするための電圧信号を入力する。駆動装置51は、透過型投影スクリーン10に、透過型投影スクリーン10を散乱状態にするための電圧信号を入力する。透過型投影スクリーン10は、駆動装置51の出力する電圧信号の変更によって、透明状態から散乱状態に可逆的に変わる。
【0016】
透過型投影スクリーン10の表面10Fは、投影装置101に面する。透過型投影スクリーン10の表面10Fは、映像入射面である。透過型投影スクリーン10の裏面10Rは、観察者102に面する。透過型投影スクリーン10の表面10Fは、映像出射面である。投影装置101は、散乱状態の透過型投影スクリーン10における裏面10Rに映像10Pを投影する。観察者102は、透過型投影スクリーン10に対する投影装置101とは反対側から映像10Pを観察する。
【0017】
図2が示すように、透過型投影スクリーン10は、透明基材11と、調光シート20Aとを備える。調光シート20Aの表面は、透過型投影スクリーン10の表面10Fである。透明基材11の裏面は、透過型投影スクリーン10の裏面10Rである。
【0018】
透明基材11は、透明ガラス基板でもよいし、透明樹脂基板でもよい。透明基材11は、車両や航空機などの移動体に搭載される窓ガラスでもよいし、建物に設置された窓ガラスでもよいし、車内や屋内に配置された間仕切りでもよい。透明基材11の表面は、平面状でもよいし、曲面状でもよい。
【0019】
透明基材11の厚さは、調光シート20Aの厚さよりも十分に厚い。透明基材11の厚さは、1mm以上20mm以下でもよい。調光シート20Aの厚さは、200μm以上500μm以下でもよい。透明基材11は、単層構造体でもよいし、積層構造体でもよい。透明基材11は、フロート板ガラスでもよいし、合わせガラスでもよいし、複層ガラスでもよいし、強化ガラスでもよい。透明基材11が積層構造体である場合、透明基材11が1つの透明構造体に見なされるように、透明基材11を構成する構造体の屈折率が1.4以上1.6以下でもよい。
【0020】
調光シート20Aは、調光層20、第1透明電極層12F、第2透明電極層12R、第1透明支持層13F、および第2透明支持層13Rを備える。調光層20は、第1透明電極層12Fと第2透明電極層12Rとに挟まれ、第1透明電極層12Fと第2透明電極層12Rとに接している。第1透明支持層13Fは、第1透明電極層12Fに対して調光層20とは反対側で第1透明電極層12Fを支持する。第2透明支持層13Rは、第2透明電極層12Rに対して調光層20とは反対側で第2透明電極層12Rを支持する。第2透明支持層13Rは、透明接着層14を介して透明基材11に接着されている。
【0021】
第1透明電極層12F、および第2透明電極層12Rは、それぞれ導電性を有し、かつ可視光に対して透明である。第1透明電極層12F、および第2透明電極層12Rを構成する材料は、酸化インジウムスズ、フッ素ドープ酸化スズ、酸化スズ、および酸化亜鉛などの透明無機酸化物でもよい。第1透明電極層12F、および第2透明電極層12Rを構成する材料は、カーボンナノチューブでもよいし、ポリ(3,4‐エチレンジオキシチオフェン)などの導電性樹脂でもよいし、銀や銀合金などの金属、あるいは金属と樹脂との複合材でもよい。
【0022】
第1透明支持層13F、および第2透明支持層13Rは、それぞれ可視光に対して透明である。第1透明支持層13F、および第2透明支持層13Rは、単層構造体でもよいし、多層構造体でもよい。第1透明支持層13F、および第2透明支持層13Rを構成する材料は、合成樹脂や無機化合物である。合成樹脂は、ポリエチレンテレフタレートやポリエチレンナフタレートなどのポリエステルでもよいし、ポリメチルメタクリレートなどのポリアクリレートでもよいし、ポリカーボネートやポリオレフィンでもよい。無機化合物は、二酸化ケイ素、酸窒化ケイ素、および窒化ケイ素などのケイ素化合物でもよい。
【0023】
[調光層20]
図3が示すように、調光層20は、透明高分子層21、液晶組成物22、およびスペーサ23を備える。調光層20は、高分子分散型液晶である。
【0024】
透明高分子層21は、光重合性化合物の硬化体である。透明高分子層21は、調光層20のなかに分散した複数の空隙21Dを区画している。空隙21Dの形状は、球形状でもよいし、楕円体状でもよいし、不定形状でもよい。液晶組成物22は、空隙21Dに充填されている。調光層20に対する透明高分子層21の割合は、30質量%以上60質量%以下でもよい。透明高分子層21の割合が上記範囲内である場合、映像に観察に要求される適度な密度の空隙21Dを得られる。なお、透明高分子層21の割合が大きいほど、調光層20の機械的な強度が高められる。透明高分子層21の割合が小さいほど、調光シート20Aの駆動に要求される電圧を低められる。
【0025】
透明高分子層21を形成するための光重合性化合物は、紫外線硬化性化合物でもよいし、電子線硬化性化合物でもよい。光重合性化合物は、液晶組成物22と相溶性を有する。光重合性化合物が紫外線硬化性化合物である場合、空隙21Dの寸法の制御性が高められる。光重合性化合物は、1種の重合性化合物であってもよいし、2種以上の重合性化合物の組み合わせであってもよい。
【0026】
紫外線硬化性化合物の一例は、アクリレート化合物、メタクリレート化合物、チオール化合物、スチレン化合物、これらの各化合物のオリゴマーである。アクリレート化合物は、ジアクリレート化合物、トリアクリレート化合物、テトラアクリレート化合物を含む。アクリレート化合物の一例は、ブチルエチルアクリレート、エチルヘキシルアクリレート、シクロヘキシルアクリレートである。メタクリレート化合物は、ジメタクリレート化合物、トリメタクリレート化合物、テトラメタクリレート化合物を含む。メタクリレート化合物の一例は、N,N‐ジメチルアミノエチルメタクリレート、フェノキシエチルメタクリレート、メトキシエチルメタクリレート、テトラヒドロフルフリルメタクリレートである。チオール化合物の一例は、1,3-プロパンジチオール、1,6-ヘキサンジチオールである。スチレン化合物の一例は、スチレン、メチルスチレンである。
【0027】
液晶組成物22は、液晶化合物22L、および二色性色素22Pを含む。なお、液晶組成物22は、さらに、粘度低下剤、消泡剤、酸化防止剤、耐候剤等を含有してもよい。耐候剤の一例は、紫外線吸収剤や光安定剤である。調光層20に対する液晶組成物22の割合は、40質量%以上70質量%以下でもよい。透明状態における調光シート20Aの透過率向上と、散乱状態における調光シート20Aのヘイズ向上とを要求される場合、液晶組成物22の割合が45質量%以上55質量%以下であることが好ましい。
【0028】
液晶化合物22Lは、非重合性の化合物である。液晶化合物22Lの長軸方向の誘電率は、液晶化合物22Lの短軸方向の誘電率よりも高い。すなわち、液晶化合物22Lは、正の誘電異方性を有する。液晶化合物22Lは、シッフ塩基系液晶化合物、アゾ系液晶化合物、アゾキシ系液晶化合物、ビフェニル系液晶化合物、ターフェニル系液晶化合物、安息香酸エステル系液晶化合物、トラン系液晶化合物、ピリミジン系液晶化合物、ピリダジン系液晶化合物、シクロヘキサンカルボン酸エステル系液晶化合物、フェニルシクロヘキサン系液晶化合物、ビフェニルシクロヘキサン系液晶化合物、シアノ系液晶化合物、ジシアノベンゼン系液晶化合物、ナフタレン系液晶化合物、ジオキサン系液晶化合物、およびフッ素系液晶化合物からなる群から選択される少なくとも一種でもよい。液晶化合物22Lは、1種の液晶化合物であってもよいし、2種以上の液晶化合物の組み合わせであってもよい。
【0029】
二色性色素22Pは、細長い分子形状を有し、分子の長軸方向における可視領域の吸光度が短軸方向における吸光度よりも大きい。二色性色素22Pは、光の入射方向に対して長軸方向が略直交する状態において、所定の色を示す。二色性色素22Pが呈する色は、例えば、黒色または黒色に近い色である。二色性色素22Pは、液晶化合物22Lをホストとしたゲストホスト型式によって駆動されて呈色する。
【0030】
二色性色素22Pは、ポリヨウ素、アゾ系化合物、アントラキノン系化合物、ナフトキノン系化合物、アゾメチン系化合物、テトラジン系化合物、キノフタロン系化合物、メロシアニン系化合物、ペリレン系化合物、およびジオキサジン系化合物からなる群から選択される少なくとも一種でもよい。二色性色素22Pは、1種の色素であってもよいし、2種以上の色素の組み合わせであってもよい。耐光性および二色比を高める観点では、二色性色素22Pは、アゾ系化合物、およびアントラキノン系化合物からなる群から選択される少なくとも一種であることが好ましく、アゾ系化合物であることがより好ましい。
【0031】
調光層20に対する二色性色素22Pの割合である色素濃度Cは、0.5質量%以上10質量%以下でもよい。調光層20に対する二色性色素22Pの割合は、1質量%以上5質量%以下でもよいし、1.6質量%以上4.0質量%以下でもよい。二色性色素22Pの割合が0.5質量%以上である場合、不透明状態において、呈色が明瞭に認識されやすくなり、また光透過率を十分に低下させることができる。呈色の明瞭化を要求される場合、二色性色素22Pの割合が1質量%以上であることが好ましい。映像10Pの鮮明化をさらに要求される場合、二色性色素22Pの割合が1.6質量%以上であることがさらに好ましい。二色性色素22Pの割合が10質量%以下である場合、二色性色素22Pが凝集した粒子の析出を抑制できる。二色性色素22Pの凝集抑制を要求される場合、二色性色素22Pの割合が5質量%以下であることが好ましく、4.0質量%以下であることがさらに好ましい。
【0032】
スペーサ23は、透明高分子層21の全体に渡って分散されている。スペーサ23は、スペーサ23の周辺において調光層20の厚さを定めることによって、調光層20の厚さを均一化する。スペーサ23は、ビーズスペーサでもよいし、フォトレジストの露光および現像によって形成されるフォトスペーサでもよい。スペーサ23は、透光性を有していれば、無色透明でもよいし、有色透明でもよい。有色透明のスペーサ23が呈する色は、二色性色素22Pが呈する色と同色であることが好ましい。
【0033】
調光層20の厚さである膜厚Dは、10μm以上50μm未満でもよい。調光層20の厚さは、スペーサ23の大きさとおおよそ一致する。調光層20の厚さは、スペーサ23の平均粒径の変更によって調整される。スペーサ23の平均粒径は、メジアン径D50で10μm以上50μm未満でもよい。映像10Pの鮮明化をさらに要求され、かつ駆動電圧の低減を要求される場合、調光層20の厚さが32μm以下であることが好ましい。映像10Pの鮮明化をさらに要求され、かつ二色性色素22Pの均一化を要求される場合、調光層20の厚さが15μm以下であることが好ましい。
【0034】
調光シート20Aは、第1透明電極層12Fと調光層20との間に、配向層をさらに備えてもよい。調光シート20Aは、第2透明電極層12Rと調光層20との間に、配向層をさらに備えてもよい。調光シート20Aの駆動型式は、リバース型でもよい。調光シート20Aの駆動型式は、ノーマル型でもよい。
【0035】
リバース型の調光シート20Aは、第1透明電極層12Fと第2透明電極層12Rとの間の電圧印加によって、透明状態から散乱状態に変わる。リバース型の調光シート20Aは、電圧印加の停止に伴い、配向層の配向規制力によって散乱状態から透明状態に戻る。ノーマル型の調光シート20Aは、第1透明電極層12Fと第2透明電極層12Rとの間の電圧印加によって、散乱状態から透明状態に変わる。ノーマル型の調光シート20Aは、電圧印加の停止に伴い、透明状態から散乱状態に戻る。
【0036】
[光学特性]
図4が示すように、透過型投影スクリーン10の光学特性を定めるための映像10Pは、黒領域10Bと白領域10Wとを備える。白領域10Wは、黒領域10Bの全体を囲う矩形枠画像である。黒領域10Bは、領域全体に黒色を設定された矩形画像である。黒領域10Bは、透過型投影スクリーン10の表面10Fにおいて5cm×5cmの大きさを有した矩形枠画像として投影される。黒領域10Bの周囲は、白領域10Wによって満たされている。白領域10Wは、透過型投影スクリーン10の表面10Fのなかで投影装置101から直線光を照射される。黒領域10Bは、透過型投影スクリーン10の表面10Fのなかで投影装置101から直線光を照射されない。直線光は、表面10Fの法線方向に沿って投影装置101から出射される平行光の光軸に対して±2.5°以内の角度に進行する。
【0037】
図5が示すように、透過型投影スクリーン10の光学特性を定める輝度は、投影装置101、および輝度計103を用いて得られる。投影装置101は、透過型投影スクリーン10に対して輝度計103とは反対側に配置されている。投影装置101の高さH1は780mmであり、かつ投影装置101と透過型投影スクリーン10の表面10Fとの距離L1は565mmである。輝度計103の高さH3は1180mmであり、輝度計103と透過型投影スクリーン10の裏面10Rとの距離L3は1140mmである。輝度計103は、直径が3cmである円を測定範囲として、当該円のなかに含まれる各測定点の輝度における平均値を測定値として算出する。黒領域10Bの輝度は、黒領域10Bにおける幾何学中心と、測定範囲の円の中心とを一致させて、黒領域10Bの中央部における測定範囲の平均値を輝度の測定値として算出した。なお、輝度計は、CS-1000(コニカミノルタ社製)を用いることができる。ここで、投影装置101が設置されている空間の照度は6lxである。透過型投影スクリーン10の設置されている空間の照度は、映像10Pの投影によって23lxになる。すなわち、透過型投影スクリーン10は、環境光による影響をほぼ受けない空間に設置される。照度計は、LX-204(カスタム社製)を用いることができる。
【0038】
透過型投影スクリーン10の裏面10Rのなかで白領域10Wと対向する領域の輝度は、白領域10Wとして照射された直線光の透過率に依存する。透過型投影スクリーン10の裏面10Rのなかで黒領域10Bと対向する領域の輝度は、白領域10Wとして照射された直線光の漏れに依存する。裏面10Rにおける白領域10Wの透過率に対する黒領域の透過率の比率は、透過型投影スクリーン10の平行線透過に対する散乱の比率である。裏面10Rにおいて、白領域10Wと対向する領域の透過率に対する、黒領域10Bと対向する領域の透過率の比率は、透過率領域比である。透過率領域比は、裏面10Rのなかで白領域10Wに対向する領域の輝度に対する、黒領域10Bに対向する領域の輝度の比率として得られる。透過型投影スクリーン10の透過率領域比は、3%以下である。
【0039】
[試験例]
図6は、試験例1~10の調光シート20Aにおける色素濃度C、および膜厚Dをそれぞれ示す。試験例1~10の調光シート20A、および透過型投影スクリーン10は、以下に示す材料、配合、および方法によって得られた。
【0040】
まず、液晶化合物22Lに、シアノ系液晶化合物とフッ素系液晶化合物とを主成分として、誘電異方性が正であるネマチック液晶化合物の混合物を用いた。透明高分子層21を形成するための光重合性化合物に、多官能アクリレート、多官能メタクリレート、単官能アクリレート、およびウレタンアクリレートの混合物を用いた。そして、液晶組成物22、光重合性化合物、重合開始剤、およびスペーサ23を混合することによって、試験例1の調光層20を形成するための塗工液を得た。この際、塗工液に対する光重合性化合物の割合が52質量%であるように、塗工液に光重合性化合物を配合した。また、平均粒径がメジアン径D50で20μmであるスペーサ23を配合した。
【0041】
次に、二色性色素22Pに、アゾ系化合物、およびアントラキノン系化合物からなる黒色混合色素を用いた。そして、試験例1の液晶組成物22、光重合性化合物、重合開始剤、スペーサ23、および二色性色素22Pを混合することによって、試験例2の調光層20を形成するための塗工液を得た。この際、塗工液に対する光重合性化合物の割合が52質量%であるように、塗工液に光重合性化合物を配合した。また、塗工液に対する二色性色素22Pの割合である色素濃度Cが2.5質量%であるように、塗工液に二色性色素22Pを配合した。
【0042】
次に、試験例2の塗工液における色素濃度Cを1.6質量%以上4.5質量%以下の範囲で変更し、かつ平均粒径がメジアン径D50で11.1μm以上35.7μm以下の範囲で変更し、それ以外を試験例2と同様にすることによって、試験例3から試験例10の塗工液をそれぞれ得た。
【0043】
次に、上記塗工液を下記方法に適用して試験例1~10の調光シート20Aを得た。
まず、第1透明電極層12F、および第2透明電極層12Rに、それぞれ厚さが100nmの酸化インジウムスズ膜を用いた。第1透明支持層13F、および第2透明支持層13Rに、それぞれ厚さが125μmのポリエチレンテレフタレートフィルムを用いた。
【0044】
次に、第1透明支持層13Fに積層された第1透明電極層12Fに塗工液を塗布すると共に、第2透明支持層13Rに積層された第2透明電極層12Rと第1透明電極層12Fとによって塗工液からなる塗膜を挟むように、積層体を形成した。次いで、中心波長が360nmである紫外光に積層体の全体を露光することによって、光重合性化合物からなる透明高分子層21と液晶組成物22とを相分離させた。
【0045】
これにより、スペーサ23の平均粒径に相当する厚さを有した調光層20を備える試験例1~10の調光シート20Aを得た。そして、透明基材11に厚さが3mmのフロート板ガラスを用い、この透明基材11に透明接着層14を用いて調光シート20Aを貼り付けることによって、試験例1~10の透過型投影スクリーン10を得た。
【0046】
[評価:透過率領域比]
試験例1~10の透過型投影スクリーン10を用い、
図4、および
図5を参照して説明した透過率領域比を測定した。
【0047】
試験例1の白領域10Wにおける輝度は、1000cd/m2であった。試験例1の黒領域10Bにおける輝度は、100cd/m2であった。試験例1の透過率領域比は、10%であった。試験例1で得られた映像10Pには、白領域10Wに接する黒領域10Bの縁部に白味が認められた。そして、試験例1で得られた映像10Pは、白領域10Wと黒領域10Bとの境界を不鮮明にするものであった。
【0048】
試験例2の白領域10Wにおける輝度は、100cd/m2であった。試験例2の黒領域10Bにおける輝度は、2.8cd/m2であった。試験例2の透過率領域比は、2.8%であった。試験例2で得られた映像10Pには、白領域10Wに接する黒領域10Bの縁部に白味が認められなかった。そして、試験例2で得られた映像10Pは、試験例1で得られた映像10Pよりも、白領域10Wと黒領域10Bとの境界を十分に鮮明に視認されるものであった。また、試験例3~試験例8の透過率領域比は、いずれも3%以下であり、これらも試験例2と同じく、白領域10Wと黒領域10Bとの境界を十分に鮮明に視認されるものであった。
【0049】
試験例9、および試験例10の透過率領域比は、試験例1よりも低い値であるが、3%を超える4.2%、および6.0%であった。試験例9、および試験例10で得られた映像10Pには、試験例1よりも白味が抑えられた黒領域10Bが認められたが、白領域10Wに接する黒領域10Bの縁部に若干の白味が認められた。そして、試験例9、および試験例10で得られた映像10Pは、白領域10Wと黒領域10Bとの境界を鮮明に視認させるには至らなかった。
【0050】
以上から、透過率領域比が3%以下であれば、映像10Pの鮮明化が可能であることが認められた。
なお、試験例6の透過型投影スクリーン10は、3%以下の透過率領域比を有し、黒領域10Bに白味を認められない水準ではあったが、二色性色素22Pの一部に凝集を有した。このため、透過型投影スクリーン10に透明状態での美観を要求される場合、色素濃度Cが4.0質量%以下であることが好ましいことも認められた。
【0051】
また、試験例4の透過型投影スクリーン10も、3%以下の透過率領域比を有し、黒領域10Bに白味を認められない水準ではあったが、散乱状態から透明状態に切り替えるために50V以上の電圧を要した。このため、透過型投影スクリーン10に低消費電力化を要求される場合、膜厚Dが32μm以下であることが好ましいことも認められた。
【0052】
[評価:吸光度A]
図7が示すように、白領域10Wを形成するための直線光LFの一部は、調光層20、および透明基材11を透過する。調光層20、および透明基材11を透過した透過光LCが白領域10Wとして視認される。一方、白領域10Wを形成するための直線光LFの一部は、調光層20によって散乱されて黒領域10Bに漏れる。白領域10Wから黒領域10Bに漏れる漏れ光LRは、黒領域10Bに白味を帯びさせる。
【0053】
透過率領域比が3%を上回る試験例1、9、10は、黒領域10Bに漏れ光LRを透過させて黒領域10Bに白味を帯びさせる。これに対し、透過率領域比が3%以下である試験例2~8は、黒領域10Bに漏れ光LRを散乱させながら黒領域10Bの二色性色素22Pに吸収させて、漏れ光LRの視認を抑える。このように、透過率領域比が3%を上回る試験例1、9、10は、(b)黒領域10Bの透過が大きいため、黒領域10Bに白味を帯びさせる。これに対し、透過率領域比が3%以下である試験例2~8は、(b)黒領域10Bで透過を抑え、これによって黒領域10Bを鮮明化する。
【0054】
漏れ光LRが通る光路において二色性色素22Pの存在確率を高めることは、(b)黒領域10Bの透過を抑えるうえで有効である。
図8は、調光層20の膜厚Dと、調光シート20Aの吸光度Aとの関係を示す。なお、吸光度Aは、調光シート20Aの可視領域における全光線透過率の逆数を対数化して得た。また、
図8における試験例12の調光シート20Aは、試験例2の塗工液のなかの光重合性化合物、および重合開始剤を割愛し、かつスペーサ23の平均粒径を6μmと25μmとに変更し、さらに6μmと25μmとの膜厚Dに相当する塗布量に変更することによって得られた。すなわち、試験例12の調光シート20Aは、透明高分子層21に区画された空隙21Dを備えず、試験例12の吸光度Aは、試験例2におけるランダムな配向状態とほぼ等しい配向状態での液晶組成物22のみの吸光度Aであると見なされる。なお、
図8における試験例11の調光シート20Aは、試験例2の塗工液のなかのスペーサ23の平均粒径を6μm以上25μm以下の範囲で変更し、かつ6μm以上25μm以下の膜厚Dに相当する塗布量に変更することによって得られた。
【0055】
図8が示すように、試験例12の調光シート20Aの吸光度Aは、膜厚Dの増加に伴い線形的に増加する。試験例11の調光シート20Aの吸光度Aは、膜厚Dの増加に伴い非線形的に増加する。試験例11の調光シート20Aにおける吸光度Aの膜厚依存性は、試験例12の調光シート20Aに比べて急に高まる部分を有する。なお、膜厚Dの単位増加分あたりの吸光度Aの増加量は、膜厚Dが20μmよりも高まるに連れて、試験例11と試験例12との間でほぼ等しくなる。
【0056】
このように、調光シート20Aによる透過の抑制効果は、透明高分子層21の介在、すなわち二色性色素22Pの存在下で散乱を高めることによって非線形的に高まる。言い換えれば、調光シート20Aにおける透過の抑制効果は、透明高分子層21を備えるうえで、(i)色素濃度Cが高いほど、また(ii)膜厚Dが大きいほど高まる。そして、膜厚Dの単位増加分あたりの吸光度Aの増加量の傾向が示すように、調光シート20Aにおける透過の抑制効果は、20μm以下の膜厚Dにおいて特に顕著である。なお、20μm以下の膜厚Dにおいて透過の抑制効果が顕著である傾向は、2.0質量%以上3.0質量%以下の範囲において認められた。
【0057】
図6に戻り、試験例1、9、10における(i)色素濃度Cと(ii)膜厚Dとの積である実効色素量は、45以下である。これに対し、試験例2~8における色素濃度Cと膜厚Dとの積は、48以上である。
【0058】
以上から、色素濃度Cと膜厚Dとの積である有効色素量が48以上であれば、映像10Pの鮮明化が可能であることが認められた。
なお、試験例6の透過型投影スクリーン10は、色素濃度Cと膜厚Dとの積として48以上を有し、黒領域10Bに白味を認められない水準である。ただし、上述したように、試験例6は二色性色素22Pの一部に凝集を有するため、透過型投影スクリーン10に透明状態での美観を要求される場合、色素濃度Cが4.0質量%以下であることが好ましい。
【0059】
また、試験例4の透過型投影スクリーン10も、色素濃度Cと膜厚Dとの積として48以上を有し、黒領域10Bに白味を認められない水準である。ただし、上述したように、透明状態と散乱状態との切替に50V以上の電圧を要するため、透過型投影スクリーン10に低消費電力化を要求される場合、膜厚Dが32μm以下であることが好ましい。
【0060】
[評価:ヘイズ]
実効膜厚増加率は、液晶組成物22の吸光度Aを基準とした、各試験例における散乱状態での吸光度Aの割合である。例えば、
図8において、膜厚Dが25μmである場合、液晶組成物22の吸光度Aが0.65であり、試験例12の吸光度Aが2.5であり、実効膜厚増加率は385%である。例えば、
図8において、膜厚Dが15μmである場合、液晶組成物22の吸光度Aが0.45であり、試験例12の吸光度Aが1.6であり、実効膜厚増加率は355%である。
【0061】
実効膜厚増加率は、試験例12のように、透明高分子層21を含有しない水準を基準とする。実効膜厚増加率は、透明高分子層21を含有するか否かを相違点として、それ以外を等しくすると見なされる2つの水準間で定められる。これにより、実効膜厚増加率は、色素濃度Cや膜厚Dなどのように、漏れ光LRの吸収に寄与する様々な要素のなかから、透明高分子層21の散乱構造による寄与を際立たせる。
【0062】
図9は、散乱状態における調光シート20Aのヘイズと、調光シート20Aの実効膜厚増加率との関係を示す。
図9におけるヘイズは、JIS K 7136:2000に準拠する方法を用いて試験例11の各水準から得た。調光シート20Aのヘイズは、透明高分子層21の散乱構造に依存する。例えば、調光シート20Aの単位面積あたりにおける空隙21Dの数量が多い場合、調光シート20Aのヘイズは、空隙21Dの数量が少ない水準よりも高まりやすい。例えば、調光シート20Aの単位体積あたりにおける空隙21Dの表面積が大きい場合、調光シート20Aのヘイズは、空隙21Dの表面積が小さい水準よりも高まりやすい。
【0063】
図9が示すように、調光シート20Aのヘイズが90%未満であるとき、調光シート20Aのヘイズが高いほど、調光シート20Aの実効膜厚増加率が高い。すなわち、漏れ光LRの吸収に対する散乱構造の寄与は、当該散乱構造による散乱が高まるほど大きい。一方、調光シート20Aのヘイズが90%以上であるとき、調光シート20Aのヘイズに関わらず、調光シート20Aの実効膜厚増加率は、350%以上の高い範囲で飽和している。すなわち、漏れ光LRの吸収に対する散乱構造の寄与は、当該散乱構造による散乱が高まるとしても、二色性色素22Pの吸収などが律速となり、およそ飽和している。
【0064】
このように、(iii)調光シート20Aのヘイズが90%以上であれば、散乱構造の寄与そのものが飽和するため、調光シート20Aによる透過の抑制効果は、その安定化が図られる。
【0065】
以上から、調光シート20Aのヘイズが90%以上であれば、空隙21Dのサイズや数量などにばらつきが生じるとしても、映像10Pの鮮明化を安定して実現できることが認められた。
【0066】
[評価:液晶比率]
図10は、調光層20の膜厚Dと、調光シート20Aにおける全光線透過率との関係を示す。なお、
図10における試験例13の調光シート20Aは、試験例2の塗工液のなかの液晶比率を55質量%に変更し、かつスペーサ23の平均粒径を7.5μm以上25μm以下の範囲で変更し、さらに7.5μm以上25μm以下の膜厚Dに相当する塗布量に変更することによって得られた。また、
図10における試験例14の調光シート20Aは、試験例2の塗工液のなかの液晶比率を45質量%に変更し、かつスペーサ23の平均粒径を7.5μm以上25μm以下の範囲で変更し、さらに7.5μm以上25μm以下の膜厚Dに相当する塗布量に変更することによって得られた。
【0067】
図10が示すように、膜厚Dが15μm未満であるとき、液晶比率が高いほど、調光シート20Aの透過率差が高い。例えば、膜厚Dが7.5μmであるとき、55質量%の液晶比率における透過率が65%であり、45質量%の液晶比率における透過率が40%である。例えば、膜厚Dが10μmであるとき、55質量%の液晶比率における透過率が40%であり、45質量%の液晶比率における透過率が30%である。一方、膜厚Dが15μm以上であるとき、液晶比率にかかわらず、調光シート20Aの透過率差はほぼ等しい。すなわち、調光シート20Aの透過率に対する液晶比率の寄与は、液晶比率が変わるとしても、膜厚Dそのものの寄与が律速となり、およそ安定している。
【0068】
このように、(iv)調光シート20Aの膜厚Dが15μm以上であれば、液晶比率による透過の変動が抑えられるため、調光シート20Aによる透過の抑制効果は、その安定化が図られる。
【0069】
[効果]
以上、上記実施形態によれば、以下に記載の効果を得ることができる。
(1)透過型投影スクリーン10における色素濃度Cと膜厚Dとの積である実効色素量が48以上であるため、映像10Pを鮮明化できる。
【0070】
(2)透過型投影スクリーン10における透過率領域比が3%以下であるため、映像10Pを鮮明化できる。
(3)調光層20の膜厚Dが15μm以上である場合、液晶比率による鮮明化のばらつきが抑制させる。
【0071】
(4)調光層20の膜厚Dが32μm以下である場合、透過型投影スクリーン10における低消費電力化が可能ともなる。
(5)調光シート20Aのヘイズが90%以上である場合、透明高分子層21における散乱構造のばらつきによる鮮明化のばらつきが抑制される。
【0072】
なお、上述した実施形態は、以下のように変更して実施することができる。
・二色性色素22Pは、黒色混合色素に限らず、黒色の単一色素でもよいし、青色混合色素でもよいし、青色の単色色素でもよい。二色性色素22Pの種類や配合比は、上述した光学条件を満たす範囲のなかで適宜変更できる。
【0073】
・実効色素量が48以上である、あるいは透過率領域比が3%以下である範囲において、調光シート20Aの駆動型式は、リバース型でもよいし、ノーマル型でもよい。
【符号の説明】
【0074】
C…色素濃度
D…膜厚
10…透過型投影スクリーン
10B…黒領域
10F…表面
10P…映像
10R…裏面
10W…白領域
11…透明基材
12F…第1透明電極層
12R…第2透明電極層
13F…第1透明支持層
13R…第2透明支持層
20…調光層
20A…調光シート
22…液晶組成物
22L…液晶化合物
22P…二色性色素
23…スペーサ