(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024009516
(43)【公開日】2024-01-23
(54)【発明の名称】水和電子の生成方法
(51)【国際特許分類】
B01J 35/39 20240101AFI20240116BHJP
C01G 9/08 20060101ALI20240116BHJP
C01B 19/04 20060101ALI20240116BHJP
B01J 31/04 20060101ALI20240116BHJP
【FI】
B01J35/02 J
C01G9/08
C01B19/04 W
B01J31/04 M
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022111098
(22)【出願日】2022-07-11
(71)【出願人】
【識別番号】593006630
【氏名又は名称】学校法人立命館
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小林 洋一
(72)【発明者】
【氏名】真田 優介
【テーマコード(参考)】
4G169
【Fターム(参考)】
4G169AA02
4G169BB09B
4G169BB20B
4G169BC31B
4G169BC35A
4G169BC35B
4G169BD08B
4G169BD09B
4G169BE01
4G169BE08
4G169BE36
4G169CB81
4G169DA03
4G169EA01Y
4G169HA02
4G169HB10
4G169HC01
4G169HE20
(57)【要約】
【課題】フェムト秒パルスレーザー照射装置又は深紫外光照射装置などといった、高エネルギーの大型且つ高価な光源を使用することなく、且つ、レアメタルも不要な、水和電子の生成方法を提供すること。
【解決手段】 遷移金属がドープ、及び/又は、吸着されており、表面に、有機配位子を有する下記一般式(1)で表されるナノ粒子に、可視光又は紫外光を照射する工程を有する、水和電子の生成方法。
ZnX (1)
〔式(1)中、Xは第16族元素を示す〕
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
遷移金属がドープ、及び/又は、吸着されており、表面に、有機配位子を有する下記一般式(1)で表されるナノ粒子に、可視光又は紫外光を照射する工程を有する、水和電子の生成方法。
[化1]
ZnX (1)
〔式(1)中、Xは第16族元素を示す〕
【請求項2】
前記式(1)におけるZnに対する前記遷移金属のドープ率が0.5~11.0モル%である、請求項1に記載の生成方法。
【請求項3】
前記可視光又は紫外光の強度は50mW/cm2~300kW/cm2である、請求項1に記載の生成方法。
【請求項4】
前記可視光又は紫外光の波長は300~600nmである、請求項1~3の何れか1項に記載の生成方法。
【請求項5】
遷移金属がドープ、及び/又は、吸着されており、表面に、有機配位子を有する下記一般式(1)で表されるナノ粒子に、可視光又は紫外光を照射することにより得られる水和電子により炭素-ハロゲン結合を切断する工程を有する、ハロゲン化合物を分解する方法。
[化2]
ZnX (1)
〔式(1)中、Xは第16族元素を示す〕
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水和電子の生成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
水和電子は、アルカリ金属類と同程度の高い還元電位と、分子間反応を起こすために充分な長さの寿命とを有することから、難分解性のハロゲン系物質の分解反応、並びに窒素又は二酸化炭素の固定化などといった、多様な化学反応分野での利用が期待されている。
【0003】
しかしながら、一般的に水和電子生成のためにはフェムト秒パルスレーザー照射装置といった、高エネルギーの大型且つ高価な光源又は世界的に生産が制限されている低圧水銀灯などの深紫外光照射装置を使用する必要がある。
【0004】
比較的低強度の光源による水和電子の生成方法の報告もされているが、イリジウム触媒などの極めて高額なレアメタルが必要であり、コスト面等を考慮すれば産業技術として実用化することは困難である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記のような事情に鑑み、本発明の目的とするところは、フェムト秒パルスレーザー照射装置又は深紫外光照射装置などといった、高エネルギーの大型且つ高価な光源、または環境負荷の高い光源を使用することなく、且つ、レアメタルも不要な、水和電子の生成方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは上記課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、所定のナノ粒子を使用することにより、上記課題を解決できることを見出した。本発明者らは、かかる知見に基づきさらに研究を重ね、本発明を完成するに至った。
【0007】
即ち、本発明は、以下の水和電子の生成方法を提供する。
項1.
遷移金属がドープ、及び/又は、吸着されており、表面に、有機配位子を有する下記一般式(1)で表されるナノ粒子に、可視光又は紫外光を照射する工程を有する、水和電子の生成方法。
[化1]
ZnX (1)
〔式(1)中、Xは第16族元素を示す〕
項2.
前記式(1)におけるZnに対する前記遷移金属のドープ率が0.5~11.0モル%である、項1に記載の生成方法。
項3.
前記可視光又は紫外光の強度は50mW/cm2~300kW/cm2である、項1に記載の生成方法。
項4.
前記可視光又は紫外光の波長は300~600nmである、項1~3の何れかに記載の生成方法。
項5.
前記可視光又は紫外光の波長は355~405nmである、項1~3の何れかに記載の生成方法。
項6.
遷移金属がドープ、及び/又は、吸着されており、表面に、有機配位子を有する下記一般式(1)で表されるナノ粒子に、可視光又は紫外光を照射することにより得られる水和電子により炭素-ハロゲン結合を切断する工程を有する、ハロゲン化合物を分解する方法。
[化2]
ZnX (1)
〔式(1)中、Xは第16族元素を示す〕
【発明の効果】
【0008】
以上にしてなる本発明に係る水和電子の生成方法によれば、フェムト秒パルスレーザー照射装置や深紫外光照射装置といった高エネルギーの大型且つ高価な光源を使用することなく、且つ、レアメタルも不要である。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】CuをZn原子組成に対して1%ドープしたZnSナノ結晶水溶液の(a) 時間分解吸収スペクトルと(b) 700 nmにおける吸光度時間変化。
【
図2】CuをZn原子組成に対して4%ドープしたZnSナノ結晶水溶液の(a) 時間分解吸収スペクトルと(b) 700 nmにおける吸光度時間変化。
【
図3】CuをZn原子組成に対して6%ドープしたZnSナノ結晶水溶液の(a) 時間分解吸収スペクトルと(b) 700 nmにおける吸光度時間変化。
【
図4】異なる励起光強度におけるCuをZn原子組成に対して6%ドープしたZnSナノ結晶水溶液の(a) 700 nmにおける吸光度時間変化と(b) 励起直後のシグナルと10 マイクロ秒におけるシグナルの差分の励起光強度依存性。
【
図5】CuをZn原子組成に対して11%ドープしたZnSナノ結晶水溶液の(a) 時間分解吸収スペクトルと(b) 700 nmにおける吸光度時間変化。
【
図6】CuをZn原子組成に対して4%ドープしたZnSeナノ結晶水溶液の(a) 時間分解吸収スペクトルと(b) 700 nmにおける吸光度時間変化。
【
図7】紫外光照射前後のクロロ酢酸、ナノ結晶、トリエタノールアミン混合水溶液の
1H NMRスペクトル。
【
図8】紫外光照射前後の4-トリフルオロメチル安息香酸、ナノ結晶、トリエタノールアミン混合水溶液の
19F NMRスペクトル。
【
図9】紫外光照射前後のペルフルオロオ クタンスルホン酸(PFOS)、ナノ結晶、トリエタノールアミン混合水溶液の
19F NMRスペクトル。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本明細書において、「含有」は、「含む(comprise)」、「実質的にのみからなる(consist essentially of)」、及び「のみからなる(consist of)」のいずれも包含する概念である。また、本明細書において、数値範囲を「A~B」で示す場合、A以上B以下を意味する。
【0011】
本発明の水和電子の生成方法は、遷移金属がドープ、及び/又は、吸着されており、表面に、硫黄元素を含有する有機配位子を有する下記一般式(1)で表されるナノ粒子に、可視光又は紫外光を照射する工程を有する。
【0012】
[化3]
ZnX (1)
〔式(1)中、Xは第16族元素を示す〕
【0013】
(1.可視光又は紫外光)
可視光又は紫外光の強度は、50mW/cm2以上とすることが好ましく、100mW/cm2以上とすることがより好ましく、1kW/cm2以上とすることがさらに好ましく、10kW/cm2以上とすることが特に好ましい。可視光又は紫外線の強度を50mW/cm2以上とすることにより、より確実に水和電子を生成させることができる。
【0014】
また、可視光又は紫外光の強度の上限値については、特に制限されない。例えば、選択的に光反応を進行させるため、10MW/cm2とすることが好ましい。
【0015】
照射する可視光又は紫外光の波長は、300nm以上とすることが好ましく、330nm以上とすることがより好ましく、355nm以上とすることがさらに好ましく、365nm以上とすることが特に好ましく、405nm以上とすることが最も好ましい。
【0016】
また、照射する可視光又は紫外光の波長は、600nm以下とすることが好ましく、500nm以下とすることがより好ましい。
【0017】
照射する態様として、連続光による照射でもパルス光による照射でもよい。但し、分光学的な水和電子の直接検出の場合においては、パルス光による照射が好ましい。
【0018】
パルス光照射におけるパルス幅は、光源の汎用性とコストとを考慮し、フェムト(10-15)秒以上とすることが好ましく、ピコ(10-15)秒以上とすることがより好ましく、ナノ(10-9)秒以上とすることがさらに好ましい。また、ナノ結晶に二つの励起電子を生成する必要があるため、パルス幅はミリ秒以下とすることが好ましく、マイクロ(10-6)秒以下とすることがより好ましく、ナノ秒以下とすることがさらに好ましい。
【0019】
(2.ナノ粒子)
ナノ粒子は、下記一般式(1)で表され、遷移金属がドープ、及び/又は、吸着されており、表面に有機配位子を有する。水和電子生成にはオージェ再結合とよばれる半導体特有の非線形現象が重要であるため、ボーア半径よりも小さな半導体ナノ粒子がより好ましい。また、水和電子を効率的に生成するためには長寿命の電荷分離状態を生成する必要があるため、遷移金属がドープされた半導体ナノ結晶が、より好ましい。さらに、水和電子を生成するためには、物質のイオン化エネルギーよりも高い状態にオージェ再結合によって励起させる必要があるため、バンドギャップの比較的広い化合物半導体ナノ粒子が望ましい
【0020】
[化4]
ZnX (1)
〔式(1)中、Xは第16族元素を示す〕
【0021】
上記一般式(1)中、Xは第16族元素を示す。具体的には、Xは、O、S、Se、Teが挙げられる。これらの中でも、周期表の下の列に行くほど電子状態のエネルギー準位が上がるため、S、Se、Teを使用することが好ましく、また地球資源の豊富さの観点から、Sを使用することがより好ましい。
【0022】
上記Xは、一種単独で用いてもよいし、二種以上を併用してもよい。
【0023】
ナノ粒子は、遷移金属がドープ、及び/又は、吸着されている。すなわち、ナノ粒子は、遷移金属がドープされている場合、ZnXで示される粒子核においてZnの一部が遷移金属に置き換わっている。また、ナノ粒子は、遷移金属が吸着されている場合、ZnXで示される粒子核の表面に、遷移金属が吸着している。ナノ粒子は、遷移金属がドープされていてもよいし、遷移金属に吸着されていてもよいし、一部が遷移金属にドープされ、一部が遷移金属に吸着されていてもよい。
【0024】
遷移金属としては特に限定されず、マンガン、コバルト、ニッケル、鉄、クロム、銅、アルミニウム、モリブデン、バナジウム、チタン、ジルコニウム、ニオブ、銀、ビスマス、インジウム等が挙げられる。これらの中でも、入手しやすく、また安価であることから、銅を使用することが好ましい。
【0025】
上記遷移金属は、一種単独で用いてもよいし、二種以上を混合して用いてもよい。
【0026】
遷移金属のドープ率は、Zn元素及び遷移金属元素のモル数の合計を100モル%として、0.1モル%以上が好ましく、1.0モル%以上がより好ましく、3.0モル%以上がさらに好ましく、5.0モル%以上が特に好ましい。また、遷移金属のドープ率は、11.5モル%以下が好ましく、10モル%以下がより好ましく、7.0モル%以下がさらに好ましい。遷移金属のドープ率を上記数値範囲内とすることにより、水和電子を効率的に生成することが可能となる。
【0027】
上記ドープ率は、ナノ粒子をX線蛍光分析を実施することにより得ることができる。
【0028】
遷移金属の吸着は、ZnXで示される粒子核の表面に、遷移金属が吸着できれば特に限定されず、物理吸着が好ましい。物理吸着の形態は明確ではないが、ZnXで示される粒子核の表面において、遷移金属がファンデルワールス力等の電気的作用により吸着する形態が挙げられる。
【0029】
遷移金属の吸着量は、ナノ粒子の主成分であるZn原子のモル数を100モル%として、0.1モル%以上が好ましく、1.0モル%以上がより好ましく、3.0モル%以上がさらに好ましく、5.0モル%以上が特に好ましい。また、遷移金属の吸着量は、11.5モル%以下が好ましく、10モル%以下がより好ましく、7.0モル%以下がさらに好ましい。遷移金属の吸着量を上記数値範囲内とすることにより、水和電子を効率的に生成することが可能となる。
【0030】
ナノ粒子は、表面に、有機配位子を有する。このような有機配位子としては特に限定されず、例えば、下記一般式(2)で表わされる有機配位子が挙げられる。
【0031】
[化5]
-S-R-COOH (2)
【0032】
上記一般式(2)中、Rは、炭素数1~20の有機基である。Rとしては、炭素数が上記範囲であれば特に限定されず、脂肪族炭化水素基、芳香族炭化水素基、脂環式炭化水素基等が挙げられる。
【0033】
脂肪族炭化水素基としては、直鎖状炭化水素基、分枝鎖状炭化水素基、脂環式炭化水素基が挙げられる。これらの中でも、より一層変色量が向上する点で、直鎖状炭化水素基、分枝鎖状炭化水素基が好ましい。
【0034】
Rは、炭素以外の窒素、硫黄、酸素等の元素を含んでいてもよい。
【0035】
Rの炭素数は1以上が好ましい。また、Rの炭素数は20以下が好ましく、12以下がより好ましく、6以下が更に好ましい。Rの炭素数の下限が上記範囲であることにより、より一層変色量が向上する。また、Rの炭素数の上限が上記範囲であることにより、より一層変色量が向上する。上記Rの炭素数は、2であることが特に好ましく、すなわち、有機配位子は、下記式で示される有機配位子であることが特に好ましい。
-S-C2H4-COOH
【0036】
ナノ粒子の平均粒子径は、1nm以上が好ましく、2nm以上がより好ましい。また、ナノ粒子の平均粒子径は、100nm以下が好ましく、10nm以下がより好ましい。ナノ粒子の平均粒子径を上記数値範囲内とすることにより、水和電子生成に必要な非線形反応であるオージェ再結合を効率的に起こすことができる。
【0037】
本明細書において、上記平均粒子径は、試料水平型多目的X線回折装置(リガク社製 製品名Ultima IV)により測定される散乱ピークの線幅から算出される平均粒子径である。
【0038】
ナノ粒子に上記の可視光又は紫外光を照射する際には、ナノ粒子を分散媒に分散させたナノ粒子分散液に照射することが好ましい。かかる分散媒としては特に限定はなく、例えば水を採用することができる。
【0039】
ナノ粒子分散液中のナノ粒子の含有量は、分散液を100質量%として0.1~30質量%が好ましく、0.3~20質量%がより好ましく、0.5~10質量%が更に好ましく、1.0~7質量%が特に好ましい。ナノ粒子の含有量が上記範囲であることにより、均一な溶液として水和電子を好適に発生できる。
【0040】
ナノ粒子分散液の温度は、0~50℃が好ましく、0~30℃がより好ましい。ナノ粒子分散液の温度の下限が上記範囲であることにより、触媒を水溶液に均一に分散させ、水和電子生成反応を効率的に誘起できる。ナノ粒子分散液の温度の上限が上記範囲であることにより、ナノ粒子が水溶液中に安定に存在し、繰り返し反応性により優れた水和電子発生材料となる。
【0041】
上記したナノ粒子は、定法により製造することができる。例えば、国際公開第2020/175245号明細書に開示される方法により得ることができる。
【0042】
本発明は、さらに、遷移金属がドープ、及び/又は、吸着されており、表面に、硫黄元素を含有する有機配位子を有する下記一般式(1)で表されるナノ粒子に、可視光又は紫外光を照射することにより得られる水和電子により炭素-ハロゲン結合を切断する工程を有する、ハロゲン化合物を分解する方法に関する発明を含む。
【0043】
[化6]
ZnX (1)
〔式(1)中、Xは第16族元素を示す〕
【0044】
上記ハロゲン化合物に含まれるハロゲン元素としては、任意のハロゲン元素であってよい。具体的には、塩素及びフッ素を挙げることができる。
【0045】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明はこうした例に何ら限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々なる形態で実施し得ることは勿論である。
【実施例0046】
以下、実施例に基づき、本発明の実施形態をより具体的に説明するが、本発明がこれらに限定されるものではない。
【0047】
(実施例1)
CuをZn原子組成に対して1%ドープしたZnSナノ結晶(粒径:3.7ナノメートル、閃亜鉛鉱型)の水溶液に355nmのナノ秒パルスレーザー(1.6MW/cm
2、パルス幅:約5ナノ秒)を照射すると、700nmに水和電子に由来するスペクトルが観測された(
図1)。
【0048】
(実施例2)
CuをZn原子組成に対して4%ドープしたZnSナノ結晶(粒径:3.3ナノメートル、閃亜鉛鉱型)の水溶液に355nmのナノ秒パルスレーザー(1.6MW/cm
2、パルス幅:約5ナノ秒)を照射すると、700nmに水和電子に由来するスペクトルが観測された(
図2)。
【0049】
(実施例3)
CuをZn原子組成に対して6%ドープしたZnSナノ結晶(粒径:3.4ナノメートル、閃亜鉛鉱型)の水溶液に355nmのナノ秒パルスレーザー(1.6MW/cm
2、パルス幅:約5ナノ秒)を照射すると、700nmに水和電子に由来するスペクトルが観測された(
図3)。比較的弱い励起光強度に対してシグナル強度が非線形的に増加することから(
図4)、オージェ再結合などの非線形過程によってイオン化反応が起こることが分かった。
【0050】
(実施例4)
CuをZn原子組成に対して11%ドープしたZnSナノ結晶(粒径:10.7ナノメートル、閃亜鉛鉱型)の水溶液に355nmのナノ秒パルスレーザー(0.81MW/cm
2、パルス幅:約5ナノ秒)を照射すると、水和電子に由来するシグナルは一切観測されなかった(
図5)。
【0051】
(実施例5)
CuをZn原子組成に対して4%ドープしたZnSeナノ結晶(粒径:2.3ナノメートル、閃亜鉛鉱型)の水溶液に355nmのナノ秒パルスレーザー(1.6MW/cm
2、パルス幅:約5ナノ秒)を照射すると、700 nmに水和電子に由来するスペクトルが観測された(
図6)。
【0052】
(実施例6)
クロロ酢酸のC-Cl結合の解離反応には極めて高い還元力を必要とし、水和電子の生成の確認反応としてよく用いられる。CuをZn原子組成に対して1%ドープしたZnSナノ結晶(粒径:3.7ナノメートル、閃亜鉛鉱型)の水溶液にクロロ酢酸を50mM溶解させ、365nmのLED光(53mW/cm
2)を29時間照射すると、生成した水和電子に由来するクロロ酢酸のC-Cl結合が解離した分解生成物が観測された(
図7)。
【0053】
(実施例7)
4-トリフルオロメチル安息香酸のC-F結合の解離反応には極めて高い還元力を必要とし、クロロ酢酸同様に水和電子の生成の確認反応としてよく用いられる。CuをZn原子組成に対して1%ドープしたZnSナノ結晶(粒径:3.7ナノメートル、閃亜鉛鉱型)の水溶液に4-トリフルオロメチル安息香酸を15mM溶解させ、365nmのLED光(485mW/cm
2)を25時間照射すると、生成した水和電子に由来する4-トリフルオロメチル安息香酸のC-F結合が解離した分解生成物が観測された(
図8)。
【0054】
(実施例8)
ペルフルオロオ クタンスルホン酸(PFOS)は半導体、表面処理、発泡剤など、広範な産業分野で活用されてきた一方、きわめて分解しづらく、また生体蓄積性が高く、発がん性などが示されている化合物である。これらの分解には一般に強い酸化剤と260 nm以下の深紫外光など、過激な条件が必要不可欠である。CuをZn原子組成に対して1.1%ドープしたZnSナノ結晶(粒径:3.7ナノメートル、閃亜鉛鉱型)の水溶液にPFOSを0.93mM溶解させ、365nmのLED光(672mW/cm
2)を48時間照射すると、生成した水和電子によってPFOSのC-F結合が解離し、フッ化物イオンに由来する
19F-NMRシグナルのみが観測された(
図9)。