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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024095167
(43)【公開日】2024-07-10
(54)【発明の名称】積層コンデンサ及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01G 4/30 20060101AFI20240703BHJP
   H01G 4/32 20060101ALI20240703BHJP
【FI】
H01G4/30 311F
H01G4/30 201A
H01G4/32 511A
H01G4/32 551A
H01G4/32 551B
H01G4/30 201C
H01G4/30 201K
H01G4/30 311D
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022212251
(22)【出願日】2022-12-28
(71)【出願人】
【識別番号】000190091
【氏名又は名称】ルビコン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100123593
【弁理士】
【氏名又は名称】関根 宣夫
(74)【代理人】
【識別番号】100208225
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 修二郎
(74)【代理人】
【識別番号】100217179
【弁理士】
【氏名又は名称】村上 智史
(72)【発明者】
【氏名】石原 悠太
(72)【発明者】
【氏名】加古 智直
【テーマコード(参考)】
5E082
【Fターム(参考)】
5E082AA01
5E082AB03
5E082BC36
5E082BC38
5E082EE07
5E082EE23
5E082EE37
5E082EE45
5E082FF05
5E082FG03
5E082FG34
5E082FG42
5E082FG56
5E082KK01
5E082LL02
5E082PP02
5E082PP09
(57)【要約】      (修正有)
【課題】マージン部を有し、向上した品質を有する積層コンデンサ及びその製造方法を提供する。
【解決手段】積層コンデンサの製造装置10は、真空チャンバ12内において、回転ドラム14上で、モノマー蒸着装置18によるモノマーの蒸着によって形成したモノマー層を電子線照射装置19による電子線の照射によって硬化処理して、樹脂薄膜層を形成する工程と、樹脂薄膜層の上に、部分的に、非接触的にオイルを塗布する工程と、オイルが塗布された樹脂薄膜層の上に金属蒸着装置26により金属材料を蒸着して、電気絶縁部を有する金属薄膜層を形成する工程とを、この順で少なくとも100回にわたって繰り返し行うことによって、樹脂薄膜層と金属薄膜層とが交互に積層された母素子積層体を回転ドラム上に形成する。工程中、電子線を照射してから少なくとも1.0秒以上経過した後、かつ、電子線を照射してから3.8秒経過する前に非接触的にオイルを塗布する。
【選択図】図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
真空チャンバ内において、回転ドラム上で、
(a)モノマーの蒸着によって形成したモノマー層を電子線の照射によって硬化処理して、樹脂薄膜層を形成すること、
(b)前記樹脂薄膜層の上に、部分的に、非接触的にオイルを塗布すること、及び、
(c)前記オイルが塗布された前記樹脂薄膜層の上に金属材料を蒸着して、電気絶縁部を有する金属薄膜層を形成すること、
を、この順で、少なくとも100回にわたって繰り返し行うことによって、前記樹脂薄膜層と前記金属薄膜層とが交互に積層された母素子積層体を前記回転ドラム上に形成することを含む、積層コンデンサの製造方法であって、
前記工程(a)で前記電子線を照射開始してから少なくとも1.0秒以上経過した後に、かつ前記電子線を照射開始してから3.8秒経過する前に、前記工程(b)で非接触的に前記オイルを塗布する、
積層コンデンサの製造方法。
【請求項2】
前記母素子積層体の少なくとも一部が、アクティブ部を構成しており、このアクティブ部において1つの前記樹脂薄膜層を介して互いに隣接する2つの前記金属薄膜層に関して、それぞれの前記電気絶縁部の位置が、積層方向で互いに重なっていない、
請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記金属薄膜層のうちひとつおきで積層される一群の金属薄膜層に関して、それぞれの前記電気絶縁部の位置が積層方向で互いに重なり合ってマージン部を形成しており、このマージン部におけるそれぞれの前記電気絶縁部の位置のずれの平均が、これらの前記電気絶縁部の平均幅に対して、5%未満である、
請求項1又は2に記載の製造方法。
【請求項4】
前記金属薄膜層の平均厚が、1nm~20nmであり、かつ/又は、10~45Ω/□の蒸着抵抗値を有する、請求項1又は2に記載の製造方法。
【請求項5】
前記モノマーに4.5kVで100μAの電子線を5秒間にわたって照射したときの前記モノマーの硬化度をxとしたときに、
制御値Sが、
24.85e-0.041x≦S≦85.018e-0.026x
を満たし、
前記制御値Sは、下記の式1:
S=(A/C)/D×T (式1)
(式中、Aは電子線の電流値(単位:mA)、Cはドラムの回転速度(単位:m/分)、Dは樹脂薄膜層の1層あたりの厚み(単位:μm)、Tは電子線の照射からオイル塗布までの時間(単位:秒))
に従って算出される、
請求項1又は2に記載の製造方法。
【請求項6】
前記母素子積層体の形成が完了した時点において、前記樹脂薄膜層の硬化度が85%以下である、請求項1又は2に記載の製造方法。
【請求項7】
樹脂薄膜層と金属薄膜層とがそれぞれ少なくとも100層で交互に積層された構造を有する積層コンデンサであって、
前記金属薄膜層が、それぞれ、電気絶縁部を有しており、
1つの前記樹脂薄膜層を介して互いに隣接する2つの前記金属薄膜層に関して、それぞれの前記電気絶縁部の位置が、積層方向で互いに重なっておらず、
前記金属薄膜層のうちひとつおきで積層されている一群の金属薄膜層に関して、それぞれの前記電気絶縁部の位置が積層方向で互いに重なり合ってマージン部を形成しており、かつ、このマージン部におけるそれぞれの前記電気絶縁部の位置におけるずれの平均が、これらの前記電気絶縁部の平均幅に対して5%未満であり、かつ、
前記積層コンデンサの表面のうち、積層方向で前記マージン部に対応する部位に、凹部が形成されておらず、又は、一定以下の大きさの凹部が形成されている、
積層コンデンサ。
【請求項8】
前記一定以下の大きさの凹部の高さが、前記積層コンデンサの厚みに対して1/25未満である、請求項7に記載の積層コンデンサ。
【請求項9】
前記一定以下の大きさの凹部、及びこの凹部に隣接して形成されている凸部に関して、
前記凹部の高さと前記凸部の高さとの合計が、前記積層コンデンサの厚みに対して1/20未満であり、かつ/又は、
前記凸部の高さが、前記積層コンデンサの厚みに対して1/75未満である、
請求項7又は8に記載の積層コンデンサ。
【請求項10】
前記金属薄膜層の平均厚が、1nm~20nmであり、かつ/又は、10~45Ω/□の蒸着抵抗値を有する、請求項7又は8に記載の積層コンデンサ。
【請求項11】
前記電気絶縁部の平均幅が、600μm以下である、請求項7又は8に記載の積層コンデンサ。
【請求項12】
前記積層コンデンサの厚みが、3mm以下である、請求項7又は8に記載の積層コンデンサ。
【請求項13】
前記樹脂薄膜層が、熱硬化性樹脂及び/又は放射線硬化型樹脂を含む、請求項7又は8に記載の積層コンデンサ。
【請求項14】
前記樹脂薄膜層の平均の厚みが、1.5μm以下である、請求項7又は8に記載の積層コンデンサ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、積層コンデンサ及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
コンデンサとして、樹脂を含む誘電体層と金属を含む電極層とが交互に積層された構造を有する積層コンデンサ(「薄膜高分子積層コンデンサ」ともいう。)が知られている。
【0003】
特許文献1は、薄膜高分子積層フィルムコンデンサ及びその製造方法を記載している。この文献に記載されている製造方法は、真空チャンバ内でモノマーを蒸着してモノマー層を形成した後に当該モノマー層に電子線を照射してモノマー層を硬化して樹脂薄膜層を形成する工程と、金属材料を蒸着して金属薄膜層を形成する工程とを、回転ドラム上で交互に繰り返して行うことによって、回転ドラム上に樹脂薄膜層と金属薄膜層とが交互に積層された積層体を製造することを含む。
【0004】
このような積層コンデンサでは、樹脂薄膜層の上に蒸着される金属薄膜層に、帯状の電気絶縁部が設けられることがある。この電気絶縁部は、積層方向におけるそれらの位置が重なり合うことによって「マージン部」を形成することができる。
【0005】
従来、このマージン部に起因して積層コンデンサ表面にへこみ(凹部)が生ずるとの報告があった。より具体的には、マージン部は金属薄膜層を有しないので、積層体全体で見たときに周囲よりも厚みが小さくなり、結果として積層コンデンサの表面にへこみが生じると考えられていた。
【0006】
特許文献2は、このような認識に基づいて、積層コンデンサの表面におけるへこみを解消するための方策を提案している。この文献は、誘電体層とこの誘電体層に積層される第1の金属薄膜層と第2の金属薄膜層とを有する積層単位を有する積層体を記載している。第1の金属薄膜層と第2の金属薄膜層とは、帯状の電気絶縁部分によって区別される。この文献では、隣接する積層単位の電気的絶縁部分の積層位置が異なるとともに、ひとつおきの積層単位の電気的絶縁部分の積層位置が積層体全体で同一でない態様を記載している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】国際公開第2015/118693号
【特許文献2】特開平11-1147272号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本件発明者は、マージン部を有する積層コンデンサにおいて、マージン部に対応するコンデンサ表面に凹みが生じうるだけでなく、凹みに隣接する凸部も形成されうることを見出した。マージン部に起因するこのような凹凸部は、積層コンデンサの品質に悪影響を及ぼし得る。具体的には、このような凹凸部は、絶縁破壊の発生のおそれを増加させるという問題や、回転ドラムから母素子積層体を取り外したのちに加熱プレス処理する際に割れてクラックを生じやすいといった問題を生じる。特に、絶縁破壊については、高電圧(200V以上)用途の積層コンデンサにおいて問題となる場合がある。
【0009】
本発明は、マージン部を有しており向上した品質を有する積層コンデンサ及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の課題は、本発明に係る下記の態様によって、解決することができる。
<態様1>
真空チャンバ内において、回転ドラム上で、
(a)モノマーの蒸着によって形成したモノマー層を電子線の照射によって硬化処理して、樹脂薄膜層を形成すること、
(b)前記樹脂薄膜層の上に、部分的に、非接触的にオイルを塗布すること、及び、
(c)前記オイルが塗布された前記樹脂薄膜層の上に金属材料を蒸着して、電気絶縁部を有する金属薄膜層を形成すること、
を、この順で、少なくとも100回にわたって繰り返し行うことによって、前記樹脂薄膜層と前記金属薄膜層とが交互に積層された母素子積層体を前記回転ドラム上に形成することを含む、積層コンデンサの製造方法であって、
前記工程(a)で前記電子線を照射開始してから少なくとも1.0秒以上経過した後に、かつ前記電子線を照射開始してから3.8秒経過する前に、前記工程(b)で非接触的に前記オイルを塗布する、
積層コンデンサの製造方法。
<態様2>
前記母素子積層体の少なくとも一部が、アクティブ部を構成しており、このアクティブ部において1つの前記樹脂薄膜層を介して互いに隣接する2つの前記金属薄膜層に関して、それぞれの前記電気絶縁部の位置が、積層方向で互いに重なっていない、
態様1に記載の製造方法。
<態様3>
前記金属薄膜層のうちひとつおきで積層される一群の金属薄膜層に関して、それぞれの前記電気絶縁部の位置が積層方向で互いに重なり合ってマージン部を形成しており、このマージン部におけるそれぞれの前記電気絶縁部の位置のずれの平均が、これらの前記電気絶縁部の平均幅に対して、5%未満である、
態様1又は2に記載の製造方法。
<態様4>
前記金属薄膜層の平均厚が、1nm~20nmであり、かつ/又は、10~45Ω/□の蒸着抵抗値を有する、態様1~3のいずれかに記載の製造方法。
<態様5>
前記モノマーに4.5kVで100μAの電子線を5秒間にわたって照射したときの前記モノマーの硬化度をxとしたときに、
制御値Sが、
24.85e-0.041x≦S≦85.018e-0.026x
を満たし、
前記制御値Sは、下記の式1:
S=(A/C)/D×T (式1)
(式中、Aは電子線の電流値(単位:mA)、Cはドラムの回転速度(単位:m/分)、Dは樹脂薄膜層の1層あたりの厚み(単位:μm)、Tは電子線の照射からオイル塗布までの時間(単位:秒))
に従って算出される、
態様1~4のいずれかに記載の製造方法。
<態様6>
前記母素子積層体の形成が完了した時点において、前記樹脂薄膜層の硬化度が85%以下である、態様1~5のいずれかに記載の製造方法。
<態様7>
樹脂薄膜層と金属薄膜層とがそれぞれ少なくとも100層で交互に積層された構造を有する積層コンデンサであって、
前記金属薄膜層が、それぞれ、電気絶縁部を有しており、
1つの前記樹脂薄膜層を介して互いに隣接する2つの前記金属薄膜層に関して、それぞれの前記電気絶縁部の位置が、積層方向で互いに重なっておらず、
前記金属薄膜層のうちひとつおきで積層されている一群の金属薄膜層に関して、それぞれの前記電気絶縁部の位置が積層方向で互いに重なり合ってマージン部を形成しており、かつ、このマージン部におけるそれぞれの前記電気絶縁部の位置におけるずれの平均が、これらの前記電気絶縁部の平均幅に対して5%未満であり、かつ、
前記積層コンデンサの表面のうち、積層方向で前記マージン部に対応する部位に、凹部が形成されておらず、又は、一定以下の大きさの凹部が形成されている、
積層コンデンサ。
<態様8>
前記一定以下の大きさの凹部の高さが、前記積層コンデンサの厚みに対して1/25未満である、態様7に記載の積層コンデンサ。
<態様9>
前記一定以下の大きさの凹部、及びこの凹部に隣接して形成されている凸部に関して、
前記凹部の高さと前記凸部の高さとの合計が、前記積層コンデンサの厚みに対して1/20未満であり、かつ/又は、
前記凸部の高さが、前記積層コンデンサの厚みに対して1/75未満である、
態様7又は8に記載の積層コンデンサ。
<態様10>
前記金属薄膜層の平均厚が、1nm~20nmであり、かつ/又は、10~45Ω/□の蒸着抵抗値を有する、態様7~9のいずれかに記載の積層コンデンサ。
<態様11>
前記電気絶縁部の平均幅が、600μm以下である、態様7~10のいずれかに記載の積層コンデンサ。
<態様12>
前記積層コンデンサの厚みが、3mm以下である、態様7~11のいずれかに記載の積層コンデンサ。
<態様13>
前記樹脂薄膜層が、熱硬化性樹脂及び/又は放射線硬化型樹脂を含む、態様7~12のいずれかに記載の積層コンデンサ。
<態様14>
前記樹脂薄膜層の平均の厚みが、1.5μm以下である、態様7~13のいずれかに記載の積層コンデンサ。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、マージン部を有しており向上した品質を有する積層コンデンサ及びその製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1図1は、本開示に係る積層コンデンサの1つの実施態様に係る斜視概略図である。
図2図2は、従来技術に係る積層コンデンサの断面概略図を示す。
図3図3は、本開示に係る積層コンデンサの断面概略図を示す。
図4図4は、積層コンデンサを製造するための製造装置の1つの実施態様を示す概略図である。
図5図5は、積層コンデンサの一部の表面近傍の断面概略図であり、凹凸部のサイズの決定方法を説明するための概略図である。
図6図6は、実施例1~8及び比較例1~8に関して、製造条件に関する制御値Sと、一定の硬化条件におけるモノマーの硬化度(%)との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本開示に係る積層コンデンサの製造方法は、真空チャンバ内において、回転ドラム上で、
下記の(a)~(c)の工程をこの順で少なくとも100回にわたって繰り返し行うことによって、樹脂薄膜層と金属薄膜層とが交互に積層された母素子積層体を回転ドラム上に形成することを含む:
(a)モノマーの蒸着によって形成されたモノマー層を電子線の照射によって硬化処理して樹脂薄膜層を形成すること、
(b)樹脂薄膜層の上に、部分的に、非接触的にオイルを塗布すること、及び、
(c)オイルが塗布された樹脂薄膜層の上に金属材料を蒸着して、電気絶縁部を有する金属薄膜層を形成すること。
【0014】
本開示に係る積層コンデンサの製造方法は、さらに、上記工程(a)で電子線を照射開始してから少なくとも1.0秒以上経過した後に、かつ電子線を照射開始してから3.8秒経過する前に、工程(b)で非接触的にオイルを塗布することを特徴とする。
【0015】
以下で、図面を参照して、本発明について説明する。図面は縮尺どおりではない。図面は、本発明を説明するための例示であり、本発明を限定しない。
【0016】
図1は、本開示に係る積層コンデンサの1つの実施態様に係る斜視概略図である。積層コンデンサ1は、樹脂薄膜層と金属薄膜層とが交互に積層された構造2を有しており、かつ外部電極3及び4を有する。
【0017】
図2は、従来技術に係る製造方法によって製造された積層コンデンサ20の断面概略図を示す。積層コンデンサ20は、積層方向Dに沿って積層された金属薄膜層(211a~211f及び212a~212e)と樹脂薄膜層(金属薄膜層の上下及び間の白部分)とを含む。なお、図2では、簡略さの観点から、それぞれ約10層の金属薄膜層及び樹脂薄膜層を図示しているが、実際の積層コンデンサは、100層以上(例えば10000層)の金属薄膜層及び樹脂薄膜層を有しうる。図2の積層コンデンサ20の両側部(図2の左右側)に、外部電極を取り付けることができる(図示しない)。
【0018】
図2の金属薄膜層は、それぞれ、電気絶縁部(図中で黒線が中断された部分)を有している。それぞれの電気絶縁部は、1つの金属薄膜層を2つの部分に互いに分離しており、これら2つの部分を互いに電気的に隔離する。電気絶縁部は、好ましくは、一定の幅を有する帯状の形状である。
【0019】
図2は、積層コンデンサのうちアクティブ部のみを図示している。積層コンデンサのアクティブ部では、隣接する金属薄膜層、例えば金属薄膜層211a及び212aに関して、それぞれの電気絶縁部の積層位置が異なっており、それによりこれらが積層方向で互いに重ならないようになっている。積層体の両側部に外部電極を設けることによって、例えば、金属薄膜層212aと金属薄膜層211aとがそれぞれ電極として機能し、かつこれらの間に挟持された誘電体層が誘電体として機能し、そのようにして、コンデンサが形成される。すなわち、アクティブ部は、コンデンサの容量発生部である。容量発生に寄与する部分(有効部分)が最大化されるように、電気絶縁部を配置することが好ましい。なお、積層コンデンサは、積層方向におけるアクティブ部の上及び/又は下に、補強部及び/又は保護部を有してよい(図2では図示せず)。
【0020】
図2の積層コンデンサ20では、ひとつおきの一群の金属薄膜層に関して、金属薄膜層に形成されている電気絶縁部(図中で黒直線が中断している部位)が積層方向で互いに重なっており、それによってマージン部M1、M2が形成されている(図中の点線で示されている領域)。
【0021】
すなわち、ひとつおきの一群の金属薄膜層211a~211fに関して、金属薄膜層に形成されている電気絶縁部(図中で黒線が中断された部分)が積層方向Dで互いに重なっており、それによってマージン部M2が形成されている。
【0022】
また、ひとつおきの一群の金属薄膜層212a~212eに関して、金属薄膜層に形成されている電気絶縁部(図中で黒直線が中断している部位)が積層方向で互いに重なっており、それによってマージン部M1が形成されている。
【0023】
従来技術に係る製造方法によって製造された積層コンデンサでは、電気絶縁部の位置が積層方向で重なり合って形成されるこれら「マージン部」(図中のM1及びM2)に起因して、コンデンサの上面に凹部(図中の251及び252)が生じることがあった。さらに、本件発明者らは、このような凹部に加えて、これに隣接して凸部(図中の241a、241b、242a、242b)も生じうることを見出した。
【0024】
マージン部に起因するこのような凹凸部は、耐電圧の低下や絶縁性の低下などを生じ、絶縁破壊の発生のおそれを増加させるという問題がある。特に、絶縁破壊については、高電圧(200V以上)用途の積層コンデンサで問題になる場合がある。
【0025】
また、凸部は、母素子積層体を回転ドラムから取り外したのちに熱プレス処理する際に、圧力が集中し、積層体にクラック(割れ)が発生するという問題を生じうる。クラックが大きい場合には、コンデンサを製造することができなくなり、生産効率が低下する。また、微細なクラックが生じた場合、絶縁が低下したり、ショートしたりするなどコンデンサ性能が低下する。
【0026】
また、凸部は、外部電極(特にはメタリコン)の適用の際に隙間を生ずる原因になりうる。この場合、コンデンサ表面にメタリコンが回り込み、ショートや外観不良が生じうる。
【0027】
従来、上記電気絶縁部の位置を積層方向でずらすことによって凹部の形成を抑制する解決策が知られていたが、このような解決策では凹凸部を有効に解消できない場合があった。また、このような解決策では、コンデンサとして機能する面積(幅)が比較的小さくなるので、一定容量のコンデンサを作製するために必要なコンデンサのサイズが大きくなるという問題があった。
【0028】
これに対して、本件発明者らは、上記の問題を解決するうえで、コンデンサの製造の過程で電気絶縁部を形成する際の製造条件が重要であることを見出した。
【0029】
具体的には、電気絶縁部を形成する際には、モノマー層を電子線で硬化処理した後で、硬化処理されたモノマー層(樹脂薄膜層)の上に、オイルを、マージン部に対応するパターンで非接触的に塗布する。オイルを有するこの樹脂薄膜層の上に金属材料を蒸着した場合には、オイルに対応する部分に金属薄膜層が形成されず、その結果として、電気絶縁部を有する金属薄膜層が形成される。
【0030】
本件発明者は、オイルを非接触で塗布する際に、電子線で硬化処理されたモノマー層の硬化度が不十分である(すなわち軟らかい)と、オイルの塗布圧力よって樹脂薄膜層が押しのけられて凹みが発生し、かつ押しのけられた樹脂が両脇に移動して、凸部が形成されてしまうことを見出した。
【0031】
この場合、凹凸部を抑制する手法として、オイルの塗布圧力を低減することも考えられる。具体的には、オイルの非接触的な塗布に用いるノズルから樹脂薄膜層までの距離を大きくする、又は噴射孔を拡大するなどの方法によって、オイルの塗布圧力を低減することも考えられる。しかしながら、このような方法では、所望のマージン部の幅を得られない場合があり、特にはマージン部の幅が大きくなり、結果として、コンデンサの容量出現効率の低下、及びそれに伴うサイズアップが生じてしまうおそれがある。
【0032】
これに対して、本件発明者らは、硬化処理における電子線照射開始からオイル塗布までの時間を一定以上(1.0秒以上)に設定することによって、凹凸部の発生を回避又は抑制できることを見出した。一般に、電子線照射後の時間が経過するほど、モノマー層の硬化が進むと考えられる。すなわち、電子線照射の間に硬化が進行するとともに、電子線照射後にも、熱などによって硬化が進むと考えられる。理論によって限定する意図はないが、硬化処理における電子線照射開始からオイル塗布までの時間を一定以上(1.0秒以上)に設定することによって、オイルを塗布する際の樹脂薄膜層の硬化度が比較的高くなり、その結果として、オイル塗布圧力に起因する樹脂薄膜層の凹みなどが抑制されると考えられる。
【0033】
なお、電子線照射の強度を強くすることによって、オイル塗布の際の硬化度を単純に増加させれば凹凸の発生を抑制することも可能ではあるものの、この場合には、積層体が過度に硬化してしまう。これは、製膜の過程又は製膜後の加圧熱処理過程における割れの発生などの問題を生じうる。また、電子線照射からオイル塗布までの時間を長くし過ぎると、積層体が過度に硬化してしまう問題に加えて、生産効率の低下や装置の大型化を招くため、工業的に好ましくない。
【0034】
これに対して、本発明の方法では、硬化処理における電子線照射からオイル塗布までの時間を一定以下(3.8秒以下)に設定することによって、このような問題を回避している。これにより、プレス処理の間又はその後における割れの発生が回避又は抑制される。また、割れが発生しない場合であっても、比較的硬化度が高い積層体をプレス処理することに起因する積層体内部の残存応力を低減できるので、過酷な条件下でも長期間にわたる機械的安定性を確保できる。
【0035】
本開示に係る製造方法によれば、製造過程における樹脂薄膜層の硬化度を過度に高めることなく凹凸部の発生を抑制できるので、樹脂薄膜層の硬化度が過度に高いことによる問題を回避しつつ、凹凸部に起因する問題を回避でき、その結果として、優れた品質を有する積層コンデンサを提供することができる。
【0036】
本発明は、積層コンデンサも含み、その1つの態様は:
樹脂薄膜層と金属薄膜層とがそれぞれ少なくとも100層で交互に積層された構造(特にはアクティブ部)を有する積層コンデンサであって、
金属薄膜層が、それぞれ、電気絶縁部を有しており、
1つの樹脂薄膜層を介して互いに隣接する2つの金属薄膜層に関して、それぞれの電気絶縁部の位置が、積層方向で互いに重なっておらず、
金属薄膜層のうちひとつおきで積層されている一群の金属薄膜層に関して、それぞれの電気絶縁部が、積層方向において互いに重なり合ってマージン部を形成しており、かつこれらの電気絶縁部の位置におけるずれの平均が、電気絶縁部の平均幅に対して5%未満であり、かつ、
積層コンデンサの表面のうち、積層方向でマージン部に対応する部位に、凹部が形成されておらず、又は、一定以下の大きさの凹部が形成されている。
【0037】
図3は、本開示に係る積層コンデンサ30の断面概略図を示す。積層コンデンサ30の基本的な構成は、積層コンデンサ20について上述したものと同様である。
【0038】
図3も、図2と同様に、積層コンデンサのうちアクティブ部のみを図示している。アクティブ部では、隣接する金属薄膜層、例えば金属薄膜層311a及び312aに関して、それぞれの電気絶縁部の積層位置が異なっており、それにより、これらが積層方向で互いに重ならないようになっている。なお、積層コンデンサは、積層方向におけるこのアクティブ部の上及び/又は下に、補強部及び/又は保護部を有してよい(図3では図示せず)。
【0039】
図3の積層コンデンサ30では、ひとつおきの一群の金属薄膜層に関して、金属薄膜層に形成されている電気絶縁部(図中で黒直線が中断している部位)が積層方向で互いに重なっており、それによってマージン部が形成されている(図中の点線で示されている領域)。
【0040】
すなわち、ひとつおきの一群の金属薄膜層311a~311fに関して、金属薄膜層に形成されている電気絶縁部(図中で黒線が中断された部分)が積層方向Dで互いに重なっており、それによってマージン部M2´が形成されている。
【0041】
また、ひとつおきの一群の金属薄膜層312a~312eに関して、金属薄膜層に形成されている電気絶縁部(図中で黒直線が中断している部位)が積層方向で互いに重なっており、それによってマージン部M1´が形成されている。
【0042】
一方で、図3の積層コンデンサ30では、図2の積層コンデンサ20とは異なり、マージン部M1´及びM2´に対応する表面部位(351及び352)に凹凸部が形成されておらず、又は、凹凸部が抑制されている。
【0043】
本発明の1つの態様に係る積層コンデンサ30では、電気絶縁部の位置が積層方向で互いに重なっているので、コンデンサとして機能する面積(有効面積)が最大化されている。この場合には、比較的コンパクトなサイズで、比較的容量の大きいコンデンサを製造することができる。
【0044】
その一方で、本発明の1つの態様に係る積層コンデンサ30では、金属薄膜層の電気絶縁部の位置が積層方向で互いに重なってマージン部を形成しているにもかかわらず、このマージン部に対応する積層コンデンサ表層部分における凹凸部の形成が、抑制又は回避されている。
【0045】
さらに、図3の積層コンデンサ30は、その製造過程での樹脂薄膜層の硬化度が抑制されているので、割れなどの発生が低減されており、良好な品質を有する。
【0046】
図3に係るこのような積層コンデンサは、本開示に係る製造方法に従って電気絶縁部を形成する際の製造条件を最適化することによって、得ることができる。したがって、本開示は、本発明に係る製造方法に従って製造された積層コンデンサを含む。
【0047】
なお、マージン部における電気絶縁部の位置は、積層方向で互いに実質的に完全に重なり合っている必要は必ずしもない。
【0048】
すなわち、本発明の1つの実施態様では、(特にはアクティブ部における)金属薄膜層のうちひとつおきの一群の金属薄膜層に関して、金属薄膜層に形成されている電気絶縁部が積層方向で互いに少なくとも部分的に(特には部分的に)重なっており、それによってマージン部が形成されている。
【0049】
この場合、例えば、マージン部において互いに隣接する(となり合う)電気絶縁部が、それらの平均幅に対して50%以下、40%以下、30%以下、20%以下、10%以下、5%以下、5%未満、4%以下、3%以下、2%以下、又は1%以下のずれを有するようにしてよい。
【0050】
マージン部における電気絶縁部の積層方向における位置を互いに完全に重なり合わせずに少なくとも部分的にずらした場合には、本発明に従って電気絶縁部を形成する際の製造条件(特にはオイル塗布のタイミング)を最適化することによる効果に加えて、マージン部における電気絶縁部の位置をずらしたことによる効果が加わり、コンデンサ表面における凹凸形成が、さらに効果的に抑制・回避されうる。
【0051】
以下、本開示に係る方法について、下記でより詳細に説明する。
【0052】
<<積層コンデンサの製造方法>>
<樹脂薄膜層形成工程>
本開示に係る方法は、モノマーの蒸着によって形成されたモノマー層を電子線の照射によって硬化処理して樹脂薄膜層を形成する工程(樹脂薄膜層形成工程、工程a)を含む。
【0053】
樹脂薄膜層形成工程では、例えば、モノマーとなる化合物を加熱して蒸発・気化させ、この蒸発・気化されたモノマー化合物を、冷却されている回転ドラム上(又は回転ドラム上に形成された積層体前駆体上)に堆積させて、モノマー層を形成する。
【0054】
そして、このようにして形成されたモノマー層を電子線の照射によって硬化処理して、樹脂薄膜層を形成する。
【0055】
電子線の照射条件に関して、その強度(単位:mA)が、10~200mAであることが好ましく、20~180mAであることがより好ましい。また、樹脂薄膜層の層厚1μm当たりの加速電圧が、2kV/μm~30kV/μmであることが好ましく、3kV/μm~20kV/μmであることがより好ましい。電子線源とモノマー層との間の距離は、20mm~450mmであってよく、50mm~200mmであることが好ましい。
【0056】
電子線の照射時間は、好ましくは0.01秒~0.6秒であり、より好ましくは0.02秒~0.5秒、さらに好ましくは0.03~0.4秒、特に好ましくは0.04~0.3秒である。
【0057】
(樹脂)
樹脂薄膜層は、電子線の照射によって硬化処理されたモノマー層である。樹脂薄膜層は、モノマー層中のモノマーから形成されたポリマーを含有する。樹脂薄膜層は、完全に硬化されている必要はなく、未重合のモノマーを含有してよい。
【0058】
樹脂薄膜層は、好ましくは、熱硬化性樹脂及び/又は放射線硬化型樹脂を含む。
【0059】
樹脂薄膜層は、好ましくは、アクリレート樹脂及び/又はビニル樹脂を含む。
【0060】
(モノマー)
モノマーとしては、1分子中に複数の(特には2つの)重合性官能基を有する多官能モノマー、及び、1分子中に1つの重合性官能基を有する単官能モノマー、並びにこれらの混合体が挙げられる。多官能モノマー及び単官能モノマーは、電子線照射などの条件下で重合性官能基を介して重合して、ポリマーを形成することができる。
【0061】
モノマー中の重合性官能基としては、ビニル基(特には、アクリレート基、メタクリレート基)、アクリロニトリル基、エポキシ基が挙げられる。好ましくは、多官能モノマー及び/又単官能モノマーが、少なくとも、アクリレート基及びメタクリレート基のいずれかを有する。最も好ましくは、多官能モノマー及び単官能モノマーが、いずれも、アクリレート基を有する。
【0062】
(多官能モノマー)
多官能モノマーは、特には、2官能モノマーである。多官能モノマーは、好ましくは、アクリレート基又はメタクリレート基を有する。多官能モノマーは、最も好ましくは、アクリレート基を有する。
【0063】
特に好ましい多官能モノマーとしては、
トリシクロデカンジメタノールジアクリレート、
トリシクロデカンジメタノールジメタクリレート、
ドデカン-1,12-ジイル=ジメタクリレート、
ドデカン-1,12-ジイル=ジアクリレート、
1,9‐ノナンジオールジアクリレート、
α,α’-〔プロパン‐2,2-ジイルビス-(4,1-フェニレン)〕ビス〔ω-(アクリロイルオキシ)ポリ(オキシエチレン)〕
が挙げられる。
【0064】
(単官能モノマー)
単官能モノマーは、好ましくは、アクリレート基又はメタクリレート基を有する。単官能モノマーは、最も好ましくは、アクリレート基を有する。
【0065】
特に好ましい単官能モノマーとしては、
2-(ビフェニル-2-イルオキシ)-エチル=アクリレート、
4-フェニルベンジル=アクリレート、
2-〔(トリシクロ〔5.2.1.0(2,6)〕デカ‐4-エン-9-イル)オキシ〕エチル=アクリレート、
2-〔(トリシクロ〔5.2.1.0(2,6)〕デカ-4-エン‐9-イル)オキシ〕エチル=メタクリレート
が挙げられる。
【0066】
樹脂薄膜層の平均の厚みは、好ましくは1.5μm以下である。樹脂薄膜層の平均の厚みの下限は、特に限定されないが、50nm以上、又はさらには100nm以上であってよい。より好ましくは、樹脂薄膜層の平均の厚みは、0.1~1.2μmである。
【0067】
<パターニング工程>
本開示に係る製造方法は、上記のようにして形成された樹脂薄膜層の上に、部分的に、非接触的にオイルを塗布する工程(パターニング工程、工程b)を含む。
【0068】
「非接触的なオイルの塗布」は、「パターニング処理」とも呼ばれ、例えば、蒸発・気化させたオイルをノズルから噴射し、樹脂薄膜層表面で液化して帯状に堆積させるによって、行うことができる。
【0069】
このようにしてオイルが塗布された樹脂薄膜層の上に金属薄膜層の原料を堆積すると、オイルが塗布された樹脂薄膜層の部位には金属薄膜層が形成されず、この部位が電気絶縁部になる。オイルの塗布は、公知の方法に従って、所望の電気絶縁部の形状に応じて行うことができ、特に、所望の電気絶縁部の幅に応じて適宜調節することができる。
【0070】
本開示に係る1つの実施態様では、製造される母素子積層体の少なくとも一部(特にはアクティブ部)において1つの樹脂薄膜層を介して互いに隣接する2つの前記金属薄膜層に関して、それぞれの電気絶縁部の位置が、積層方向で互いに重なっていないように、パターニング処理を行う。
【0071】
アクティブ部のみを図示している図3の例を参考として説明する。図3の積層コンデン30では、例えば、2つの金属薄膜層311f及び金属薄膜層312e(それぞれ図の黒線)は、樹脂薄膜層(図の白部分)を介して互いに隣接している。金属薄膜層311f及び金属薄膜層312eは、それぞれ、電気絶縁部(図の黒線が中断された部分)によって、2つの部分に分離されている。
【0072】
金属薄膜層311fの電気絶縁部と、金属薄膜層312eの電気絶縁部とは、積層方向Dで互いに重なっておらず、それにより、コンデンサ側部に外部電極を取り付けた場合に、マージン部M1´とマージン部M2´との間でコンデンサが形成されるようになっている。
【0073】
コンデンサの有効面積を最大化する観点からは、マージン部M1´とマージン部M2´との間の距離が大きいことが好ましい。マージン部M1´及びマージン部M2´は、積層コンデンサの中央部から離れて、側部に近接して、設けられている。
【0074】
(オイル塗布の最適化)
本発明に係る製造方法では、モノマー層への電子線の照射開始から少なくとも1.0秒以上経過した後に、かつ電子線の照射開始から3.8秒経過する前に、非接触的にオイルを塗布する。
【0075】
上述のとおり、これによって、硬化処理されたモノマー層は、非接触的なオイルの塗布による変形圧に対抗できる程度の硬化度を有することができ、その一方で、硬化が過度に進行することに伴う割れの発生などの問題を回避できる。
【0076】
非接触的なオイルの塗布は、好ましくは、モノマー層への電子線の照射開始から少なくとも1.1秒以上経過した後に、かつ電子線の照射開始から3.7秒経過する前に、行う。
【0077】
非接触的なオイルの塗布は、より好ましくは、モノマー層への電子線の照射開始から少なくとも1.1秒以上経過した後に、かつ電子線の照射から3.5秒経過する前に、行う。
【0078】
非接触的なオイルの塗布のタイミングは、用いるモノマーに応じて最適化することが好ましい。例えば、モノマーがトリシクロデカンジメタノールジメタクリレートである場合には、モノマー層への電子線照射開始から1.5秒~3.5秒でオイルを非接触的に塗布することが好ましい。また、モノマーがトリシクロデカンジメタノールジアクリレートである場合には、モノマー層への電子線照射開始から1.0秒~3.0秒でオイルを非接触的に塗布することが好ましい。また、モノマーが1,9-ノナンジオールジアクリレートである場合には、モノマー層への電子線照射から1.0秒~2.5秒でオイルを非接触的に塗布することが好ましい。
【0079】
(制御値Sの最適化)
本開示に係る好ましい1つの実施態様では、製造方法における制御値(制御値S)が最適化されている。具体的には、モノマーに電子線(4.5kV、100μA)を5秒間にわたって照射したときのモノマーの硬化度をxとしたときに、
制御値Sが、
24.85e-0.041x≦S≦85.018e-0.026x
を満たす。
【0080】
この制御値Sは、より好ましくは、
33.98e-0.040x≦S≦77.21e-0.028x
を満たす。
【0081】
制御値Sは、「S=(A/C)/D×T」の式に従って算出することができ、式中、Aは電子線の電流値(単位:mA)、Cはドラムの回転速度(単位:m/分)、Dは樹脂薄膜層の1層あたりの厚み(単位:μm)、Tは電子線の照射開始からオイル塗布までの時間(単位:秒)である。
【0082】
電子線の電流値は、好ましくは、20~180mAである。
【0083】
ドラムの回転速度は、10m/分~150m/分であってよく、好ましくは、30m/分~100m/分である。
【0084】
樹脂薄膜層の1層あたりの厚みは、好ましくは、1.5μm以下であり、特には0.01~1.5μm又はさらには0.1~1.2μmであってよい。
【0085】
電子線の照射開始からオイル塗布までの時間は、1.0秒~3.8秒である。
【0086】
<金属薄膜層形成工程>
本開示に係る製造方法は、上記のようにしてオイルが塗布された樹脂薄膜層の上に金属材料を蒸着して、電気絶縁部を有する金属薄膜層を形成する工程(金属薄膜層形成工程、工程c)を含む。
【0087】
上述したとおり、オイルが塗布された樹脂薄膜層の上に金属薄膜層の原料を堆積すると、オイルが塗布された樹脂薄膜層の部位には金属薄膜層が形成されず、この部位が電気絶縁部になる。すなわち、塗布されたオイルの存在に起因して、電気絶縁部が形成される。
【0088】
金属薄膜層形成工程については、従来公知の方法によって行うことができ、例えば、国際公開第2015/118693号に記載されている方法を用いることができる。
【0089】
金属薄膜層形成工程では、例えば、電子ビーム加熱蒸着法を用いて金属材料を蒸着して、金属薄膜層を形成する。より具体的には、例えば、坩堝(金属蒸着源)に収容された金属材料に電子銃から電子線を照射して、電子線のエネルギーにより坩堝内の金属材料を蒸発・気化させて、堆積を行う。この際に、蒸発源と回転ドラムとの距離は、例えば50mm~300mmの範囲であってよい。
【0090】
金属薄膜層を構成する金属材料は、特に限定されないが、例えば、Al、Cu、Zn、Sn、Au、Ag及びPt、並びにこれらの組み合わせからなる群から選択される少なくとも1つが挙げられる。金属材料は、好ましくはAlである。
【0091】
金属薄膜層は、樹脂薄膜層よりも小さい厚みを有することが好ましい。
【0092】
金属薄膜層は、1nm~40nmの厚みを有してよく、好ましくは1~20nmの厚みを有する。また、金属薄膜層は、好ましくは、1~60Ω/□、5~50Ω/□、又は10~450Ω/□の蒸着抵抗値を有する。
【0093】
本開示に係る1つの実施態様では、金属薄膜層の厚みが低減されており、それにより、金属薄膜層が、1nm~20nmの平均厚みを有し、かつ/又は10~45Ω/□の蒸着抵抗値を有する。より好ましくは、金属薄膜層が、1nm~15nmの平均厚みを有し、かつ/又は15~40Ω/□の蒸着抵抗値を有する。
【0094】
上述のとおり、電子線照射開始からオイル塗布までの時間を1.0秒以上に設定することによって、オイル塗布時の樹脂薄膜層の硬化度が一定以上となり、その結果として、マージン部に対応する表面部位における凹凸部の発生を抑制又は回避できる。
【0095】
一方で、積層コンデンサの製造過程における硬化度が高すぎると、積層体における剥離や割れなどの問題が生じうる。
【0096】
これに対して、上記のように金属薄膜層の厚みが低減されている場合には、金属薄膜層の厚みが比較的低減されているので、樹脂薄膜層の硬化度が比較的高くなったとしても、積層体全体としての硬さが低減され、その結果として、割れの発生などをさらに効果的に抑制できる。
【0097】
金属薄膜層の厚みは、樹脂薄膜層の厚みに対して、好ましくは1/8~1/70、より好ましくは1/10~1/60である。
【0098】
(電気絶縁部)
電気絶縁部は、0.01mm~1.5mm、0.05mm~1.0mm、0.1mm~0.6mm、又はさらには0.1mm~0.3mmの幅を有することが好ましい。電気絶縁部の幅が大きすぎる場合には、コンデンサの所望の有効部分(容量発生部分)を確保できない場合がある。また、電気絶縁部の幅が小さすぎる場合には、電気絶縁部における良好な電気絶縁が確保できない場合があり、また、製造の容易性が損なわれる場合がある。
【0099】
(マージン部)
本開示に係る1つの実施態様では、(特にはアクティブ部において)ひとつおきで積層される一群の金属薄膜層に関して、それぞれの電気絶縁部の位置が積層方向で互いに少なくとも部分的に重なり合って、マージン部を形成する。
【0100】
さらに、本開示に係る1つの実施態様では、(特にはアクティブ部において)マージン部を形成している一群の電気絶縁部に関して、それらの積層方向での位置が、実質的に互いに重なり合っている。より具体的には、マージン部におけるそれぞれの電気絶縁部の位置のずれの平均が、電気絶縁部の平均幅に対して5%未満になるようになっている。
【0101】
このずれの平均は、より好ましくは、電気絶縁部の平均幅に対して、4%以下、3%以下、2%以下、又は1%以下である。
【0102】
図3を例として説明すると、金属薄膜層312a~312eの電気絶縁部が、一群を構成し、マージン部M1´を形成している。図3の場合には、このマージン部M1´において、それぞれの電気絶縁部の位置が、積層方向で実質的にそろっており、それにより、それぞれの電気絶縁部の位置のずれの平均が、これらの電気絶縁部の平均幅に対して、実質的にゼロになっている。
【0103】
この場合には、マージン部における電気絶縁部の位置をずらす場合と比較して、コンデンサとして機能する面積(有効面積)が最大化されるので、比較的コンパクトなサイズで、比較的容量の大きいコンデンサを製造することができる。また、電気絶縁部の位置をずらす場合と比較して、オイルの塗布などの工程が単純化されうるので、製造過程における制御負担が軽減される。
【0104】
なお、積層方向における電気絶縁部の位置のずれの平均は、1つのマージン部に属する一群の電気絶縁部からランダムに選択した50以上の電気絶縁部について、それぞれ、積層方向で下方に隣接する電気絶縁部からのずれ幅(μm)を計測し、平均値を算出し、かつ、上記ランダムに選択した50以上の電気絶縁部の平均幅に対する割合を算出することによって、得ることができる。
【0105】
<積層工程>
本開示に係る方法では、真空チャンバ内において、回転ドラム上で、上記の工程、すなわち「樹脂薄膜層形成工程(工程a)」、「パターニング工程(工程b)」、及び「金属薄膜層形成工程(工程c)」を、少なくとも100回にわたって繰返し行うことによって、樹脂薄膜層と金属薄膜層とが交互に積層された母素子積層体を回転ドラム上に形成する。
【0106】
真空チャンバ内において回転ドラム上でこのようにして樹脂薄膜層と金属薄膜層とを交互に積層させる方法については、公知の方法を用いることができ、例えば、国際公開第2015/118693号に記載されている方法を用いることができる。
【0107】
(回転ドラム)
回転ドラムは、0℃~20℃の範囲内にある所定温度に冷却してよい。回転ドラムを0℃~20℃の範囲内にある所定温度に冷却するためには、例えば、回転ドラムの内側にある空間に-5℃~20℃の範囲内の冷却媒体(不凍液又は水)を循環させることで行うことができる。
【0108】
回転ドラムの回転速度は、通常10m/分~150m/分程度である。回転ドラムの外周面(基板面)は平滑に、好ましくは鏡面状に仕上げられている。
【0109】
母素子積層体は、10層~10,000層の層、50層~5000層の層、又は100層~3,000層の層を有することができる。このうち、アクティブ部は、5~9800層であってよい。
【0110】
<後の工程>
上記のようにして形成された母素子積層体から、従来の方法(例えば国際公開第2015/118693号に記載されている方法)に従って、積層コンデンサを形成することができる。
【0111】
具体的には、例えば、回転ドラム上に形成された母素子積層体を回転ドラム上から取り外し、真空チャンバから取り出す。真空チャンバから取り出した母素子積層体は、通常、回転ドラムの外周面とほぼ同じ曲率の円弧状に湾曲している。この母素子積層体を加熱下でプレスすることによって、平坦化できる。平坦化された母素子積層体をスティック状に切断した後に、外部電極を形成し、これをさらにチップ状に切断することによって、積層コンデンサを得ることができる。外部電極の形成なども、公知の方法で行うことができる。
【0112】
本開示に係る製造方法の1つの好ましい実施態様では、母素子積層体の形成が完了した時点において、樹脂薄膜層の硬化度が85%以下であり、より好ましくは70%以下である。
【0113】
この場合には、母素子積層体を加熱プレス処理して平板化する際の割れの発生を抑制又は回避できるので、特に優れた品質を有する積層コンデンサを提供できる。
【0114】
樹脂薄膜層の硬化度は、赤外分光光度計で計測できる。積層体の樹脂薄膜層及び原料モノマーにおけるC=O基の吸光度とC=C基の吸光度を測定するとともに、樹脂薄膜層におけるC=O基の吸光度とC=C基の吸光度との第1比率と、原料モノマーにおけるC=O基の吸光度とC=C基の吸光度との第2比率とを用いて、硬化度(%)を算出できる。
【0115】
より具体的には、下記の式によって、硬化度(%)を算出することができる:

硬化度(%)=100×{1-(樹脂薄膜層におけるC=C基の吸光度/樹脂薄膜層におけるC=O基の吸光度)/(原料モノマーにおけるC=C基の吸光度/原料モノマーにおけるC=O基の吸光度)}
【0116】
本開示に係る製造方法によれば、マージン部に対応する表面部位における凹凸部が低減された積層コンデンサを得ることができる。特には、本開示に係る製造方法によれば、マージン部に対応する表面部位における凹凸部が低減されつつ、かつ割れやクラックが低減された積層コンデンサを得ることができる。本開示に係る製造方法によって得られる積層コンデンサの詳細については、本開示に係る積層コンデンサについての後述の記載を参照できる。
【0117】
本発明に係る製造方法の1つの実施態様について、図面を参照して詳細に説明する。
【0118】
図4は、積層コンデンサを製造するための本発明に係る方法を実施するための製造装置10を示す。製造装置10は、真空チャンバ12と、真空チャンバ12内で回転する回転ドラム14と、回転ドラム14の回転方向14aに沿って回転ドラム14の周囲に配設された、モノマー蒸着装置18と、電子線照射装置19と、第1プラズマ処理装置22と、金属薄膜層パターニング装置24と、金属蒸着装置26と、第2プラズマ処理装置28とを備える。なお、真空チャンバ12には、図示しない真空排気装置及びパージ装置が接続されている。
【0119】
回転ドラム14は、図示しない回転駆動装置によって、回転方向14a方向に回転駆動される。回転ドラム14は、冷却機構16によって、好ましくは0℃~20℃の範囲内、より好ましくは5℃~15℃の範囲内の所定温度に冷却されている。
【0120】
モノマー蒸着装置18は、樹脂薄膜層を形成するためのモノマーを加熱して蒸発・気化させ、回転ドラム14上に蒸着・堆積させ、それにより、モノマー層が形成される。
【0121】
電子線照射装置19は、モノマー層を重合又は架橋させ、それにより、樹脂薄膜層が形成される。
【0122】
第1プラズマ処理装置22は、例えば酸素プラズマ装置であり、樹脂薄膜層の表面を酸素プラズマ処理によって活性化させて、樹脂薄膜層と金属薄膜層との接着性を向上させる。なお、第1プラズマ処理装置22は、酸素プラズマ処理装置に限定されず、窒素プラズマ処理装置、アルゴンプラズマ処理装置その他のプラズマ処理装置であってもよい。
【0123】
第1プラズマ処理装置22を用いたプラズマ処理では、樹脂薄膜層形成工程で形成された樹脂薄膜層を、50W~1000Wの範囲内の条件でプラズマ処理してよい。
【0124】
金属薄膜層パターニング装置24は、パターニング材料としてのオイルを蒸発・気化させたものをノズルから噴射し、樹脂薄膜層表面に帯状に堆積させる。
【0125】
金属蒸着装置26は、電子ビーム加熱蒸着法により、回転ドラム14の表面に金属材料を蒸着して金属薄膜層を形成する。具体的には、坩堝(金属蒸着源)に収容された金属材料に電子銃から電子線が照射され、電子線のエネルギーにより坩堝内の金属材料が蒸発・気化して回転ドラム14上に堆積する。なお、金属蒸着装置26は、電子ビーム加熱蒸着法によるものに限定されず、抵抗加熱蒸着法等の他の真空蒸着法又はスパッタリング法等によるものであってもよい。
【0126】
第2プラズマ処理装置28は、例えば酸素プラズマ処理装置であり、金属薄膜層パターニング装置24により堆積されたパターニング材料を除去するとともに、金属薄膜層の表面を酸素プラズマ処理により活性化させて、金属薄膜層と樹脂薄膜層との接着性を向上させる。なお、第2プラズマ処理装置28は、酸素プラズマ処理装置に限定されず、窒素プラズマ処理装置、アルゴンプラズマ処理装置その他のプラズマ処理装置であってもよい。
【0127】
第2プラズマ処理装置28によるプラズマ処理では、金属薄膜層形成工程で形成された金属薄膜層を、50W~1000Wの範囲内の条件でプラズマ処理してよい。
【0128】
モノマー蒸着装置18、電子線照射装置19、第1プラズマ処理装置22、金属薄膜層パターニング装置24、金属蒸着装置26及び第2プラズマ処理装置28並びに図示しない真空排気装置及びパージ装置の動作を、制御装置によって制御できる。
【0129】
この製造装置10を用いた積層コンデンサの例示的な態様は、下記のとおりである:
まず、モノマー蒸着装置18により回転ドラム14の外周にモノマー層を形成し、当該モノマー層を電子線照射装置19により硬化させて樹脂薄膜層とする(樹脂薄膜層形成工程)。次に、第1プラズマ処理装置22により樹脂薄膜層の表面を酸素プラズマ処理により活性化する(第1プラズマ処理工程)。次に、金属薄膜層パターニング装置24により樹脂薄膜層上にパターニング材料を帯状に堆積させる。次に、金属蒸着装置26により樹脂薄膜層上に金属薄膜層を形成する(金属薄膜層形成工程)。この際、パターニング材料が堆積された箇所には金属薄膜層は形成されず、この箇所が積層体の電気的絶縁部分となる。次に、第2プラズマ処理装置28により金属薄膜層の表面を酸素プラズマ処理により活性化する(第2プラズマ処理工程)。これにより、金属薄膜層パターニング装置24により堆積されたパターニング材料を除去することができる。また、モノマー蒸着装置18により再度モノマー層を形成する際に、金属薄膜層を構成する金属と樹脂薄膜層を構成するモノマーに含まれる炭素とが化学的に結合し、その結果、金属薄膜層と樹脂薄膜層との接着性が向上する。
【0130】
<<積層コンデンサ>>
本開示は、下記の積層コンデンサを含む:
樹脂薄膜層と金属薄膜層とがそれぞれ少なくとも100層で交互に積層された構造(特にはアクティブ部)を有する積層コンデンサであって、
金属薄膜層が、それぞれ、電気絶縁部を有しており、
1つの樹脂薄膜層を介して互いに隣接する2つの金属薄膜層に関して、それぞれの電気絶縁部の位置が、積層方向で互いに重なっておらず、
金属薄膜層のうちひとつおきで積層されている一群の金属薄膜層に関して、それぞれの電気絶縁部が、積層方向において互いに少なくとも部分的に重なり合ってマージン部を形成しており、
好ましくは、これらの電気絶縁部の位置におけるずれの平均が、電気絶縁部の平均幅に対して5%未満になっており、かつ、
積層コンデンサの表面のうち、積層方向で前記マージン部に対応する部位に、凹部が形成されておらず、又は、一定以下の大きさの凹部が形成されている。
【0131】
この「樹脂薄膜層と金属薄膜層とがそれぞれ少なくとも100層で交互に積層された構造」は、特には、積層コンデンサのアクティブ部である。
【0132】
本開示に係る積層コンデンサを製造するための方法は、特に限定されないが、好ましくは、上記の本開示に係る製造方法によって、製造することができる。
【0133】
本開示に係る積層コンデンサの構成要素(樹脂薄膜層、金属薄膜層、電気絶縁部、マージン部など)の詳細については、本開示に係る製造方法に関する上記の記載を参照できる。
【0134】
<電気絶縁部>
本開示に係る積層コンデンサでは、積層コンデンサの少なくとも一部(特にはアクティブ部)において1つの樹脂薄膜層を介して互いに隣接する2つの金属薄膜層に関して、それぞれの電気絶縁部の位置が、積層方向で互いに重なっていない。
【0135】
また、本開示に係る積層コンデンサでは、積層コンデンサの少なくとも一部(特にはアクティブ部)においてひとつおきで積層されている一群の金属薄膜層に関して、それぞれの電気絶縁部の位置が積層方向で互いに少なくとも部分的(特には部分的)に重なり合ってマージン部を形成している。
【0136】
好ましくは、このマージン部におけるそれぞれの電気絶縁部の位置におけるずれの平均が、これら電気絶縁部の平均幅に対して5%未満になっている。
【0137】
電気絶縁部の位置に関するこれらの特徴については、上述したとおりである。
【0138】
<凹凸部>
上記のとおり、本開示に係る積層コンデンサでは、積層コンデンサの表面のうち、積層方向でマージン部に対応する部位に、凹部が形成されておらず、又は、一定以下の大きさの凹部が形成されている。
【0139】
本開示に係る積層コンデンサの好ましい1つの実施態様では、少なくとも1つのマージン部に対応する表面において、一定以下の大きさの凹部が形成されており、この高さが、積層コンデンサの厚みに対して、1/25未満である。この高さは、より好ましくは1/30以下、さらに好ましくは1/40以下である。
【0140】
本開示に係る積層コンデンサの好ましい別の実施態様では、少なくとも1つのマージン部に対応する表面において、一定以下の大きさの凹部及びこの凹部に隣接する凸部が形成されており、凹部の高さと凸部の高さとの合計が、積層コンデンサの厚みに対して1/20未満であり、かつ/又は、凸部の高さが、積層コンデンサの厚みに対して1/75未満である。より好ましくは、凹部の高さと凸部の高さとの合計が、積層コンデンサの厚みに対して1/25未満であり、かつ/又は、凸部の高さが、積層コンデンサの厚みに対して1/80未満である。
【0141】
凹凸部のサイズがこれら条件を満たす場合には、凹凸部に起因する不具合が抑制又は回避され、良好な品質の積層コンデンサを得ることができる。
【0142】
なお、凹部に隣接して2つの凸部が形成されることがあるが、好ましくは凹部に隣接する2つの凸部が、いずれも、その高さに関する上記の規定を満たす。また、積層コンデンサがマージン部を2つ以上(特には2つ)有する場合、マージン部の少なくとも1つに対応する表面部位、好ましくは全てのマージン部(特には2つのマージン部)に対応する表面部位が、凹凸部に関する上記の条件を満たす。
【0143】
凹凸部のサイズの計測方法について、図5を参照して説明する。図5は、積層コンデンサ50の一部を示す断面概略図であり、マージン部に対応するコンデンサ表面部位の拡大図である。なお、図5では、説明のため、凹凸部のサイズを強調して描写している。
【0144】
凹凸部のサイズは、積層コンデンサ50の表面510(凹凸部の外に位置する表面)を基準として計測できる。具体的には、凹部551の高さHcは、表面510に対する凹部551の深さとして規定され、凸部541の高さHvは、表面510に対する凸部541の高さとして規定される。凹部551の高さと凸部541の高さとの合計は、HT=Hc+Hvである。凸部542についても同様にして高さを決定できる。
【0145】
凹部及び凸部の高さは、それぞれ、100μm以下であることが好ましく、より好ましくは50μm以下、さらに好ましくは25μm以下、特に好ましくは10μm以下である。
【0146】
積層コンデンサの積層数(樹脂薄膜層と金属薄膜層とからなる積層単位の積層数)は、10層~10,000層、50層~5000層、又は100層~3,000層であってよい。このうちアクティブ部における積層数は、5~9800層、又はさらには300~8000層であってよい。
【0147】
積層コンデンサの厚みは、好ましくは3mm以下である。この厚みの下限は特に限定されないが、例えば、0.5mm以上、又は1mm以上であってよい。
【0148】
(補強部)
本開示に係る積層コンデンサは、その片側又は両側に、さらに、補強部を有することができる。補強部の厚みは、特に限定されないが、例えば20~200μmであってよい。
【0149】
補強部は、樹脂薄膜層及び電気絶縁部を有する金属薄膜層が交互に積層された構造を有することができる。補強部における電気絶縁部は、好ましくは、積層コンデンサの中央部に位置し、すなわち、積層コンデンサの両側部から離れた部分に位置する。これらの電気絶縁部の位置は、積層方向で互いに重なり合って、補強部マージン部を形成できる。
【0150】
補強部は、図3等を参照して上記で説明した積層構造(アクティブ部ともいう)を保護する役割を有しうる。すなわち、補強部は、積層コンデンサの製造過程又は使用時に、上記のアクティブ部を熱負荷及び/又は外力損傷から保護する役割を有しうる。また、補強部中の金属層によって、外部電極の付着強度が向上する。
【0151】
(保護部)
積層コンデンサは、特にはその最外層(片側又は両側)に、樹脂のみで構成される保護部を有することができる。保護部の厚みは、特に限定されないが、例えば2μm~20μmであってよい。保護部は、積層コンデンサの製造過程又は使用時に、上記のアクティブ部を熱負荷及び/又は外力損傷から保護する役割を有しうる。
【0152】
(用途)
本開示に係る積層コンデンサは、種々の電子部品の用途に使用でき、特に、高圧用途で使用することに適している。
【実施例0153】
以下、実施例を参照して、本発明をさらに詳細に説明する。本発明は、実施例によって限定されない。
【0154】
<<硬化度の決定>>
以下のモノマー1~モノマー4について、一定の電子線照射を行ったときの硬化度を調べた:
・モノマー1: トリシクロデカンジメタノールジメタクリレート
・モノマー2: トリシクロデカンジメタノールジメタクリレートとトリシクロデカンジメタノールジアクリレートとの混合モノマー=7:3
・モノマー3: トリシクロデカンジメタノールジアクリレート
・モノマー4: 1,9-ノナンジオールジアクリレート
【0155】
硬化度は、モノマー1~4それぞれについて、下記のとおりにして決定した:
(1)スライドガラス上にモノマー原液を滴下し、22μmコーターで塗り拡げ、スライドガラス上にモノマー層を形成する。
(2)上記モノマー層に、真空中で4.5kV及び電流100μAの出力の条件で電子線を5秒間にわたって照射して、硬化させる。
(3)上記硬化処理後のモノマー層の表面を赤外分光光度計で測定し、硬化前のモノマー層における計測値と比較し、明細書中で上述したとおりにして、硬化度(%)を算出した。
【0156】
その結果、赤外分光光度計で計測した各モノマーの硬化度(x)は、下記の表1のとおりであった。
【0157】
【表1】
【0158】
<<実施例1~2及び比較例1~2>>
実施例1~2及び比較例1~2では、電子線5秒照射後の硬化度が12.5%であった「モノマー1」について、種々の製造条件で積層コンデンサを製造し、凹凸の有無を調べた。
【0159】
<実施例1>
(積層コンデンサの製造)
下記の手順で積層体を製造した:
真空チャンバ内において、回転ドラム上で、
(a)モノマーを蒸着してモノマー層を形成し、モノマー層に電子線を照射してモノマー層を硬化して、樹脂薄膜層を形成し、
(b)樹脂薄膜層の上に、幅200μmの帯状のパターンで、非接触的にオイルを塗布し、
(c)オイルが塗布された樹脂薄膜層の上に、金属材料を蒸着して、金属薄膜層を形成し、それによって、オイルが塗布された部位に対応する部位にマージン部(電気絶縁部)が形成されるようにし、
(d)上記(a)~(c)の工程を、この順で繰り返し行うことによって、回転ドラム上に、樹脂薄膜層と金属薄膜層とが交互に積層された母素子積層体を形成した。
【0160】
なお、母素子積層体の少なくとも一部がアクティブ部を構成するように、オイルの適用及び電気絶縁部の形成を行った。すなわち、上記(a)~(c)の工程を繰り返し行う際に、1つの樹脂薄膜層を介して互いに隣接する2つの金属薄膜層について、それぞれの電気絶縁部の位置が積層方向で互いに重ならないようにし、それによって、アクティブ部を形成した。
【0161】
回転ドラム上に形成された上記の母素子積層体を、回転ドラムから取り外した後、2kgf/cmの圧力で加熱下においてプレスすることによって平坦化した。そして、平坦化された母素子積層体をスティック状に切断した後に、外部電極を形成し、これをさらにチップ状に切断することによって、薄膜高分子積層コンデンサを得た。
【0162】
実施例1では、母素子積層体の製造条件を、下記の表2のとおりに設定した。(表2中、A:電子線の電流値(単位:mA)、C:ドラムの回転速度(単位:m/分)、D:樹脂薄膜層の1層あたりの厚み(単位:μm)、T:電子線の照射開始からオイル塗布までの時間(単位:秒))。
【0163】
実施例1における制御値S=(A/C)/D×Tは、20.7であった。また、樹脂薄膜層の層厚1μm当たりの加速電圧は、19kV/μmであった。電子線源とモノマー層との間の距離は、100mmであった。
【0164】
実施例1に係る積層コンデンサの各パラメータは、下記のとおりであった:
積層コンデンサの厚み:1700μm
積層コンデンサの長さ×幅:3.2×2.5mm
樹脂薄膜層の平均厚み:0.23μm
金属薄膜層の平均厚み:15nm
電気絶縁部の平均幅:200μm
マージン部における電気絶縁部の位置のずれの平均:3%
【0165】
下記の実施例・比較例における電子線の照射時間は、0.06秒~0.24秒の範囲であった。電子線の照射時間は、モノマー層上における電子線の照射幅(ドラム回転方向における照射領域の長さ)と、ドラム回転速度とから算出できる。例えば、実施例1では、電子線の照射時間は、約0.1秒であった。また、実施例2におけるドラム回転速度は実施例1の半分であったので、電子線の照射時間は、倍の約0.2秒であった。なお、下記の実施例・比較例における積層コンデンサの積層数(樹脂薄膜層と金属薄膜層とからなる積層単位の積層数)は、1000層以上であった。
【0166】
(凹凸の評価)
上記のようにして製造された積層コンデンサについて、表面上の凹凸の有無を評価した。
【0167】
具体的には、積層コンデンサの表面のうちマージン部に対応する表面部分における凹凸を、マイクロスコープを用いて観察して定量化し、下記の基準に従って評価した:
良好(〇):凹部の高さと凸部の高さとの合計が、積層コンデンサの厚みに対して1/20未満であり、凹部の高さが、積層コンデンサの厚みに対して1/25未満であり、かつ、凸部の高さが、積層コンデンサの厚みに対して1/75未満。
不良(×):凹部の高さと凸部の高さとの合計が、積層コンデンサの厚みに対して1/20以上であるか、凹部の高さが、積層コンデンサの厚みに対して1/25以上であるか、又は、凸部の高さが、積層コンデンサの厚みに対して1/75以上。
【0168】
凹凸部の高さは、図5を参照して上述したとおりにして、決定した。
【0169】
実施例1に係る評価結果を、下記の表2に示す。
【0170】
(割れ評価)
さらに、上記のようにして製造された積層コンデンサについて、割れ評価を行った。具体的には、積層コンデンサの断面を目視とマイクロスコープで観察し、割れ及びクラックが見られなかった場合を良好(〇)とし、割れ又はクラックが観察された場合を不良(×)として評価した。結果を下記の表2に示す。
【0171】
<実施例2>
実施例2では、製造条件を下記の表2のとおりに変更したこと以外は、実施例1と同様にして積層コンデンサを製造し、凹凸及び割れの評価を行った。実施例2に係る評価結果を、下記の表2に示す。
【0172】
<比較例1>
比較例1では、製造条件を下記の表2のとおりに変更したこと以外は、実施例1と同様にして積層コンデンサを製造し、凹凸及び割れの評価を行った。比較例1に係る評価結果を、下記の表2に示す。
【0173】
<比較例2>
比較例2では、製造条件を下記の表2のとおりに変更したこと以外は、実施例1と同様にして積層コンデンサを製造し、凹凸及び割れの評価を行った。比較例2に係る評価結果を、下記の表2に示す。
【0174】
【表2】
【0175】
表2で見られるとおり、電子線の照射開始からオイル塗布までの時間が1.0~3.8秒の範囲内であった実施例1及び2は、電子線の照射開始からオイル塗布までの時間が0.80秒、5.00秒であった比較例1及び2と比較して、凹凸の形成又は割れに関して良好な結果を示した。
【0176】
<<実施例3~4及び比較例3~4>>
実施例3~4及び比較例3~4では、モノマー1の代わりにモノマー2を用い、下記の表3に示す製造条件で積層コンデンサを製造したこと以外は、実施例1と同様にして積層コンデンサの製造及び評価を行った。結果を下記の表3に示す。
【0177】
【表3】
【0178】
表3で見られるとおり、モノマー1の代わりにモノマー2を用いた場合にも、電子線の照射開始からオイル塗布までの時間が1.0~3.8秒の範囲内であった実施例3及び4は、電子線の照射開始からオイル塗布までの時間が0.8秒、4.2秒であった比較例3及び4と比較して、凹凸の形成又は割れに関して良好な結果を示した。
【0179】
<<実施例5~6及び比較例5~6>>
実施例5~6及び比較例5~6では、モノマー1の代わりにモノマー3を用い、下記の表4に示す製造条件で積層コンデンサを製造したこと以外は、実施例1と同様にして積層コンデンサの製造及び評価を行った。結果を下記の表4に示す。
【0180】
【表4】
【0181】
表4で見られるとおり、モノマー1の代わりにモノマー3を用いた場合にも、電子線の照射開始からオイル塗布までの時間が1.0~3.8秒の範囲内であった実施例5及び6は、電子線の照射開始からオイル塗布までの時間が0.6秒、5.0秒であった比較例5及び6と比較して、凹凸の形成又は割れに関して良好な結果を示した。
【0182】
<<実施例7~8及び比較例7~8>>
実施例7~8及び比較例7~8では、モノマー1の代わりにモノマー4を用い、下記の表5に示す製造条件で積層コンデンサを製造したこと以外は、実施例1と同様にして積層コンデンサの製造及び評価を行った。結果を下記の表5に示す。
【0183】
【表5】
【0184】
表5で見られるとおり、モノマー1の代わりにモノマー4を用いた場合にも、電子線の照射開始からオイル塗布までの時間が1.0~3.8秒の範囲内であった実施例7及び8は、電子線の照射開始からオイル塗布までの時間が0.5秒、4.1秒であった比較例7及び8と比較して、凹凸の形成又は割れに関して良好な結果を示した。
【0185】
<結果のまとめ>
実施例1~8及び比較例1~8の実験結果を図6にまとめた。図6は、実施例1~8(グラフ中「〇」又は「●」で示されている)及び比較例1~8(グラフ中「×」で示されている)に関して、製造条件に関する制御値Sと、一定の硬化条件におけるモノマーの硬化度(%)との関係を示すグラフである。図6は、それぞれのモノマーに関する結果のうち、制御値Sが比較的高かった例(実施例2、4、6、及び8)、並びに制御値Sが比較的低かった例(実施例1、3、5及び7)について、それぞれ、指数近似によって得られた直線を示している(縦軸y(又はS)、横軸x)。モノマーの硬化のしやすさの指標であるxの値12.5%、40.0%、58.0%及び82.6%のいずれの場合においても、制御値Sが24.85e-0.041x≦S≦85.018e-0.026xを満たす場合(特には33.98e-0.040x≦S≦77.21e-0.028xを満たす場合)に、凹凸部の形成が良好に抑制されていたことが分かった。
【符号の説明】
【0186】
1 積層コンデンサ(薄層高分子積層コンデンサ)
2 樹脂薄膜層及び金属薄膜層の積層構造
3、4 外部電極

20 積層コンデンサ
211a~211f 金属薄膜層
212a~212e 金属薄膜層
M1、M2 マージン部
251、252 凹部
241a、241b、242a、242b 凸部

D 積層方向

30 積層コンデンサ
311a~311f 金属薄膜層
312a~312e 金属薄膜層
M1´、M2´ マージン部
351、352 マージン部に対応する表面部位

10 製造装置
12 真空チャンバ
14 回転ドラム
14a 回転方向
16 冷却装置
18 モノマー蒸着装置
19 電子線照射装置
22 第1プラズマ処理装置
24 金属薄膜層パターニング装置
26 金属蒸着装置
28 第2プラズマ処理装置

50 積層コンデンサ
510 積層コンデンサの表面
551 凹部
541 凸部
542 凸部
HT 凹部の高さと凸部の高さの合計
Hc 凹部の高さ
Hv 凸部の高さ
図1
図2
図3
図4
図5
図6