(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024095170
(43)【公開日】2024-07-10
(54)【発明の名称】蛍光体および光源装置
(51)【国際特許分類】
C09K 11/77 20060101AFI20240703BHJP
C09K 11/08 20060101ALI20240703BHJP
C09K 11/80 20060101ALI20240703BHJP
C30B 29/22 20060101ALN20240703BHJP
【FI】
C09K11/77
C09K11/08 C
C09K11/80
C30B29/22 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022212264
(22)【出願日】2022-12-28
(71)【出願人】
【識別番号】000003067
【氏名又は名称】TDK株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001494
【氏名又は名称】前田・鈴木国際特許弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼橋 和子
(72)【発明者】
【氏名】照井 達也
【テーマコード(参考)】
4G077
4H001
【Fターム(参考)】
4G077AA02
4G077BC01
4G077CF01
4G077HA01
4H001CA02
4H001CF01
4H001XA08
4H001XA13
4H001XA39
4H001YA58
(57)【要約】
【課題】耐温度消光特性に優れた蛍光体、およびその蛍光体を有する光源装置を提供すること。
【解決手段】1以上の高濃度領域と、高濃度領域よりも添加物の濃度の低い1以上の低濃度領域と、を有し、低濃度領域が高濃度領域よりも外側に位置している蛍光体。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
1以上の高濃度領域と、前記高濃度領域よりも添加物の濃度の低い1以上の低濃度領域と、を有し、
前記低濃度領域が前記高濃度領域よりも外側に位置している蛍光体。
【請求項2】
前記蛍光体は単一の結晶方位を有する単結晶である請求項1に記載の蛍光体。
【請求項3】
前記低濃度領域が前記高濃度領域を挟んでいる請求項1に記載の蛍光体。
【請求項4】
前記蛍光体を透過する光の入射部に前記低濃度領域を有する請求項1に記載の蛍光体。
【請求項5】
前記蛍光体を透過する光の光路の方向に平行な前記蛍光体の光路断面において、
前記低濃度領域が前記高濃度領域よりも外側に位置している請求項1に記載の蛍光体。
【請求項6】
前記蛍光体は平板状であり、
前記蛍光体を透過する光の光路の方向は前記蛍光体の短手方向に平行な請求項5に記載の蛍光体。
【請求項7】
前記光路断面の断面積に対する前記高濃度領域の断面積の比率が10%以上90%以下である請求項5に記載の蛍光体。
【請求項8】
前記蛍光体は元素αと、前記添加物である元素βと、を有し、
前記元素αは少なくともYを含み、
前記元素βは少なくともCeを含む請求項1に記載の蛍光体。
【請求項9】
前記元素αと前記元素βとの合計含有量に対する前記元素βの含有量のモル比率を元素β比率としたとき、
前記低濃度領域における前記元素β比率は0.50モル%以下である請求項8に記載の蛍光体。
【請求項10】
前記高濃度領域における前記元素β比率は0.50モル%を超えており、
前記高濃度領域における前記元素β比率の平均値と前記低濃度領域における前記元素β比率の平均値との差が0.20モル%以上である請求項9に記載の蛍光体。
【請求項11】
前記蛍光体はマイクロ引き下げ法によって生成される請求項1に記載の蛍光体。
【請求項12】
請求項1~11のいずれかに記載の蛍光体と、青色発光素子と、を有し、
前記青色発光素子は、青色発光ダイオードおよび青色半導体レーザーから選ばれる少なくともいずれか一方である光源装置。
【請求項13】
前記蛍光体を透過する青色光は少なくとも前記高濃度領域を透過する請求項12に記載の光源装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は蛍光体および光源装置に関する。
【背景技術】
【0002】
蛍光体は、車用照明や、高出力プロジェクターといった高輝度照明の色調変換材料としての用途が検討されている。これらの用途においては、励起光源に高出力のLEDやレーザーが用いられるため、受光部である蛍光体の温度が高くなり易い。
【0003】
特許文献1に記載の多結晶セラミックスは、高温で発光効率が低下する「温度消光」現象が発生するという問題がある。温度消光は発光効率の高効率化に悪影響を及ぼす。このため、高温環境下においても一定の発光特性を保つ蛍光体、言い換えると耐温度消光特性の高い蛍光体が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、外部量子収率が高く、なおかつ耐温度消光特性に優れた蛍光体、およびその蛍光体を有する光源装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、本発明に係る蛍光体は、
1以上の高濃度領域と、前記高濃度領域よりも添加物の濃度の低い1以上の低濃度領域と、を有し、
前記低濃度領域が前記高濃度領域よりも外側に位置している。
【0007】
本発明に係る蛍光体によれば、高濃度領域を有することにより発光特性が高い。さらに、熱伝導率の高い低濃度領域が高濃度領域よりも外側に位置していることにより放熱性が向上する。その結果、外部量子収率が高く、なおかつ蛍光体の耐温度消光特性が優れている。
【0008】
前記蛍光体は単一の結晶方位を有する単結晶であってもよい。
【0009】
前記低濃度領域が前記高濃度領域を挟んでいてもよい。
【0010】
前記蛍光体を透過する光の入射部に前記低濃度領域を有していてもよい。
【0011】
これにより、蛍光体の温度が高くなり易い光の入射部、すなわち受光部に低濃度領域が配置されることとなる。このため、蛍光体が放熱し易いことから蛍光体の温度が高くなり過ぎることを防ぐことができる。その結果、耐温度消光特性をより向上させることができる。
【0012】
好ましくは、前記蛍光体を透過する光の光路の方向に平行な前記蛍光体の光路断面において、
前記低濃度領域が前記高濃度領域よりも外側に位置している。
【0013】
これにより、蛍光体の温度が高くなり易い光の入射部および光の出射部に低濃度領域が配置されることとなる。このため、蛍光体が放熱し易いことから蛍光体の温度が高くなり過ぎることを防ぐことができる。その結果、耐温度消光特性をより向上させることができる。
【0014】
前記蛍光体は平板状であってもよく、
前記蛍光体を透過する光の光路の方向は前記蛍光体の短手方向に平行であってもよい。
【0015】
好ましくは、前記光路断面の断面積に対する前記高濃度領域の断面積の比率が10%以上90%以下である。
【0016】
これにより、低濃度領域による放熱性の向上効果と高濃度領域による蛍光特性の向上効果とを両立させることができるため、外部量子収率がより高くなり、なおかつ耐温度消光特性がより向上する。
【0017】
好ましくは、前記蛍光体は元素αと、前記添加物である元素βと、を有し、
前記元素αは少なくともYを含み、
前記元素βは少なくともCeを含む。
【0018】
これにより、青色光との組み合わせで白色光源として使用可能な蛍光体を提供することができる。
【0019】
前記元素αと前記元素βとの合計含有量に対する前記元素βの含有量のモル比率を元素β比率としたとき、
前記低濃度領域における前記元素β比率は、好ましくは0.50モル%以下である。
【0020】
これにより、低濃度領域による放熱性の向上効果と高濃度領域による蛍光特性の向上効果とを両立させることができるため、外部量子収率がより高くなり、なおかつ耐温度消光特性がより向上する。
【0021】
好ましくは、前記高濃度領域における前記元素β比率は0.50モル%を超えており、
好ましくは、前記高濃度領域における前記元素β比率の平均値と前記低濃度領域における前記元素β比率の平均値との差が0.20モル%以上である。
【0022】
これにより、低濃度領域による放熱性の向上効果と高濃度領域による蛍光特性の向上効果とを両立させることができるため、外部量子収率がより高くなり、なおかつ耐温度消光特性がより向上する。
【0023】
好ましくは、前記蛍光体はマイクロ引き下げ法によって生成される。
【0024】
これにより、低濃度領域が高濃度領域を挟んでいる構造を作製し易い。
【0025】
本発明に係る光源装置は前記蛍光体と、青色発光素子と、を有し、
前記青色発光素子は、青色発光ダイオードおよび青色半導体レーザーから選ばれる少なくともいずれか一方である。
【0026】
これにより、光源装置を白色光源として使用することができる。
【0027】
好ましくは、蛍光体を透過する青色光の光路は高濃度領域を透過する。
【0028】
これにより、発光特性がより向上する。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【
図1】
図1は本発明の一実施形態に係る蛍光体の概略斜視図である。
【
図3】
図3は本発明の他の実施形態に係る光源装置の断面図である。
【
図4】
図4は本発明の他の実施形態に係る光源装置の断面図である。
【
図5】
図5は本発明の他の実施形態に係る光源装置の断面図である。
【
図6】
図6は比較例3に係る光源装置の断面図である。
【
図7】
図7は比較例4に係る光源装置の断面図である。
【
図8】
図8は本発明の一実施形態に係る蛍光体を製造するための結晶製造装置の概略断面図である。
【
図9】
図9は
図8に示す結晶製造装置のIX部の拡大断面図である。
【
図11】
図11は本発明の他の実施形態にダイ部の断面図である。
【
図12】
図12は本発明の他の実施形態にダイ部の断面図である。
【
図13】
図13は本発明の他の実施形態にダイ部の断面図である。
【
図14】
図14は本発明の他の実施形態にダイ部の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
[
第1実施形態]
(
光源装置)
本実施形態に係る光源装置102を
図2に示す。本実施形態に係る光源装置102は、少なくとも本実施形態に係る蛍光体104と、青色発光素子106とを有する。
図2に示すように本実施形態では、蛍光体104と青色発光素子106との間に空隙が備えられている。
【0031】
なお、本実施形態において、X軸、Y軸、Z軸は、相互に垂直である。また、本実施形態において、「内側」は、蛍光体104の中心により近い側を意味し、「外側」は、蛍光体104の中心からより離れた側を意味する。
【0032】
(
青色発光素子)
図2に示すように青色発光素子106は、蛍光体104を励起するための励起光である青色光L1を発する。青色発光素子106の青色光L1は通常ピーク波長が425nm~475nmである。蛍光体104の第1面1041の入射部1041aに入射した青色光L1のうちの一部は蛍光体104に吸収されて波長変換され、蛍光を発する。このようにして発せられた蛍光と青色光L1とが混合して蛍光体104の第2面1042の出射部1042aから白色光L2を発する。
【0033】
青色発光素子106としては、蛍光と混合することにより白色光L2を発し、なおかつ蛍光体104により蛍光に波長変換されることができる青色光L1を発することができれば特に限定されないが、たとえば青色発光ダイオード(青色LED)または青色半導体レーザー(青色LD)が挙げられる。
【0034】
青色光L1の光束の断面形状は特に限定されず、円形、楕円形または多角形であってもよい。
【0035】
(
蛍光体)
図1に示すように、本実施形態に係る蛍光体104の形状は平板状である。蛍光体104の形状は特に限定されず、平板状の他、たとえば円板状または直方体の柱状などであってもよいが、平板状であることが好ましい。
【0036】
蛍光体104のサイズは特に限定されず、たとえば幅方向(X0)は1mm~10mm、奥行方向(Z0)は1mm~10mm、厚み方向(Y0)は0.03mm~2mmである。
【0037】
蛍光体104の組成は特に限定されないが、たとえば、少なくともイットリウム(Y)を含む元素αと、添加物であり、少なくともセリウム(Ce)を含む元素βと、を有し、(α1-xβx)3+aAl5-aO12(0.0001≦x≦0.007、-0.016≦a≦0.315)で表される。
【0038】
元素αはYの他に、たとえばルテチウム(Lu)、ガドリウム(Gd)、テルビウム(Tb)および/またはランタン(La)を含んでいてもよい。
【0039】
また、添加物である元素βは発光特性を付与することができれば特に限定されない。元素βはCeの他に、たとえばプラセオジム(Pr)、サマリウム(Sm)、ユウロピウム(Eu)、テルビウム(Tb)、ジスプロシウム(Dy)、ツリウム(Tm)および/またはイッテルビウム(Yb)を含んでいてもよい。
【0040】
図1において、蛍光体104を透過する青色光L1の光路は、蛍光体104の短手方向であるY軸方向に平行である。
図1のII-II線に沿う断面図を
図2に示す。
図2に示すように、蛍光体104を透過する青色光L1の光路の方向、すなわちY軸方向に平行な蛍光体104の断面を光路断面とする。なお、
図1および
図2では、光路断面をX-Y平面としているが、たとえば光路断面はY-Z平面であってもよく、特に限定されない。
【0041】
図2に示すように、蛍光体104は添加物の濃度の高い高濃度領域104aと、高濃度領域104aよりも添加物の濃度の低い低濃度領域104bと、を有する。なお、高濃度領域104aおよび低濃度領域104bはそれぞれZ軸方向に奥行を有する。したがって、高濃度領域104aおよび低濃度領域104bはそれぞれZ-X平面に平行な層状構造である。高濃度領域104aと低濃度領域104bとの境界は必ずしも明確でなくてもよい。また、光路断面における高濃度領域104aおよび低濃度領域104bの形状は特に限定されず、四角形等の多角形でもよいし、円形でもよい。
【0042】
蛍光体104において、低濃度領域104bは高濃度領域104aよりも外側に位置している。なお、蛍光体104の全ての部位において低濃度領域104bが高濃度領域104aよりも外側に位置している必要はない。たとえば、
図2に示すように、蛍光体104のX軸方向の端部のY軸方向の中央部において、高濃度領域104aが最も外側に配置されていてもよい。
【0043】
また、低濃度領域104bは、蛍光体104を透過する青色光L1の入射部1041a(受光部)および該青色光L1の出射部1042aに配置されている。
【0044】
蛍光体104を透過する青色光L1の光路の方向(Y軸方向)に平行な方向に沿って、層状の低濃度領域104が層状の高濃度領域104bを挟んでいる。
【0045】
高濃度領域104aは低濃度領域104bに比べて、青色光L1から蛍光への変換効率が高い。このため、蛍光体104が高濃度領域104aを有することにより、蛍光体104の第1面1041の入射部1041aから入射した青色光L1が蛍光体104に吸収されて、蛍光に変換され易いため、発光特性が高くなり、外部量子収率が高くなる傾向となる。
【0046】
一方、低濃度領域104bは高濃度領域104aに比べて熱伝導率が高い、すなわち放熱性が高い。このような低濃度領域104bが高濃度領域104aの外側に配置されていることから、蛍光体104から外部に向かって熱が放出され易い。
【0047】
上記の構成により、低濃度領域104bによる熱の外部への放出効果の向上と、高濃度領域104aによる発光特性の向上の両方の効果を得ることができる。その結果、本実施形態に係る蛍光体104は、高い外部量子収率が得られると共に、高温環境下で発光特性が低下する温度消光現象を抑制することができることから耐温度消光特性に優れている。
【0048】
図2に示すように、蛍光体104と青色発光素子106との間に空隙が備えられており、空気への放熱により蛍光体104の温度を下げているが、蛍光体104と青色発光素子106との間に保持部として熱伝導性樹脂を配置して、熱伝導性樹脂を介して放熱して蛍光体104の温度を下げてもよい。このような蛍光体104と保持部との組み合わせを波長変換部材とすることができる。
【0049】
熱伝導性樹脂としては、特に限定されないが、カーボン(C)または窒化ホウ素(BN)などの高熱伝導性物質をフィラーとして含む樹脂などが挙げられる。
【0050】
元素αと元素βの合計含有量に対する元素βの含有量のモル比率(以下では「元素β比率」とする)が0.50モル%以下である領域を低濃度領域104bとすることが好ましい。これにより、低濃度領域104bによる放熱の向上の効果を高めることができる。上記の観点から、低濃度領域104bにおける元素β比率は0.30モル%以下であることがより好ましい。
【0051】
低濃度領域104bにおける元素β比率が0.50モル%以下であり、高濃度領域104aにおける元素β比率が0.50モル%を超えるとき、高濃度領域104aにおける元素β比率の平均値(Hβ)と低濃度領域104bにおける元素β比率の平均値(Lβ)との差が0.20モル%以上であることが好ましく、0.30モル%以上であることがより好ましい。
【0052】
なお、高濃度領域104aにおける元素β比率の下限は0.5モル%以上であってもよく、0.7モル%以上であってもよい。
【0053】
高濃度領域104aにおける元素β比率の平均値(Hβ)は特に限定されないが、1~2モル%であることが好ましい。Hβが上記の範囲内に含まれる場合は、Hβが上記の範囲を上回る場合に比べて、外部量子収率がより高くなり、耐温度消光特性がより向上する。その理由としては、Hβが上記の範囲内に含まれる場合は、Hβが上記の範囲を上回る場合に比べて、濃度消光を抑制することができるためであると考えられる。濃度消光とは、蛍光の発光に寄与する元素βの濃度が高くなり過ぎることにより、蛍光体の発光効率が低下する現象である。濃度消光の原因の一つとしては高濃度添加した元素β同士の相互作用によって無輻射遷移が生じ、元素βの励起エネルギーが蛍光に変換されず熱として放出されることが考えられる。
【0054】
また、本実施形態に係る蛍光体104は、高濃度領域104aにおける元素β比率の下限よりも元素β比率が低く、低濃度領域104bにおける元素β比率の上限よりも元素β比率が高い中濃度領域を有していてもよい。さらに、低濃度領域104bが中濃度領域を介して高濃度領域104aを挟んでいてもよい。
【0055】
図2に示す光路断面の断面積に対する、光路断面における高濃度領域104aの断面積の比率(以下では「高濃度面積比率」とする)が10%以上90%以下であることが好ましい。これにより、低濃度領域104bによる放熱性の向上の効果と高濃度領域104aによる発光特性の向上の効果とをバランスよく得ることができ、その結果、高い外部量子収率が得られると共に、耐温度消光特性がより向上する。上記の観点から、高濃度面積比率は、20%以上90%以下であることがより好ましい。
【0056】
高濃度面積比率を変化させる方法は特に限定されないが、たとえば出発原料中の添加物の濃度を変化させることにより調整することができる。
【0057】
なお、蛍光体104の添加物濃度は、レーザアブレーションICP質量分析(LA-ICP-MS)、電子線マイクロアナライザ(EPMA)、エネルギー分散型分光器(EDX)等で測定できる。
【0058】
蛍光体104は単一の結晶方位を有する単結晶である。すなわち単一の結晶方位の中に高濃度領域104aおよび低濃度領域104bを有している。蛍光体104が単結晶であることは、たとえばX線回折(XRD)の結晶ピークにより確認できる。
【0059】
蛍光体104が単結晶であることにより、蛍光体104が多結晶透明セラミックスや共晶体である場合に比べて青色光L1の透過率を向上させることができる。なぜならば、多結晶透明セラミックスは結晶粒界での光散乱により、透過率が低下する傾向となり、共晶体は相境界での光散乱により、透過率が低下する傾向となるからである。したがって、単結晶の蛍光体104は、多結晶透明セラミックスや共晶体に比べて発光特性が高い。
【0060】
また、元素β比率の異なる単結晶またはセラミックスを接着剤により貼り合わせることにより、「低濃度領域104bが高濃度領域104aの外側に位置している」構成としてもよい。しかし、接着剤を用いる場合、接着剤により放熱性が阻害される可能性がある。一方、単一の結晶方位の中に高濃度領域104aおよび低濃度領域104bを有している単結晶である蛍光体104の場合は、接着剤を必要としないため、接着剤により放熱性が阻害されることがなく、良好な放熱性を発揮することができ、耐温度消光特性をより向上させることができる。
【0061】
(
蛍光体の製造方法)
本実施形態に係る蛍光体104の製造方法は、特に限定されないが、たとえばμ-PD法(マイクロ引き下げ法)により製造されることができる。
図8に本実施形態の結晶製造装置2を示す。μ-PD法は、試料を入れた坩堝4を直接的または間接的に加熱することにより坩堝4内に対象物質の融液を得て、坩堝4の下方に設置した種結晶14を坩堝4下端の開口部へ接触させ、そこで固液界面を形成しつつ種結晶14を引き下げることにより結晶を成長させる溶融凝固法である。
【0062】
本実施形態の結晶製造装置2は、坩堝4と、耐火炉6とを有する。耐火炉6は、坩堝4の周りを二重に覆っている。耐火炉6には、坩堝4からの融液の引き下げ状態を観察するための観察窓20が備えられている。
【0063】
耐火炉6は、さらに外ケーシング8により覆われており、外ケーシング8の外周には、坩堝4の全体を加熱するための主ヒータ10が設置してある。本実施形態では、外ケーシング8は、たとえば石英管で形成してあり、主ヒータ10としては、誘導加熱コイル(加熱用高周波コイル)10を用いている。
【0064】
坩堝4の下方には、種結晶保持治具12により保持された種結晶14が配置される。種結晶14としては、特に限定されないが、製造される結晶と同一または同種類の結晶を用いることができる。
【0065】
図8および
図9に示すように、坩堝4の下端外周には、筒状のアフターヒータ16が設置されている。アフターヒータ16は、耐火炉6の観察窓20と同位置に観察窓22が形成してある。アフターヒータ16は、坩堝4に連結して用いられ、筒状のアフターヒータ16の内部空間に、坩堝4のダイ部34のダイ流出口38が位置するように配置され、ダイ部34とダイ流出口38から引き出される融液とを加熱可能になっている。アフターヒータ16は、たとえば坩堝4と同様(同一である必要はない)な材質などで構成され、坩堝4と同様に主ヒータ10によりアフターヒータ16が誘導加熱されることで、アフターヒータ16の外表面から輻射熱が発生し、アフターヒータ16の内部を加熱可能になっている。
【0066】
なお、図示しないが、結晶製造装置2には、耐火炉6の内部を減圧する減圧手段、減圧をモニターする圧力測定手段、耐火炉6の温度を測定する温度測定手段および耐火炉6の内部に不活性ガスGを供給するガス供給手段が設けられている。
【0067】
結晶の融点が高いなどの理由から、坩堝4の材質はイリジウム(Ir)、レニウム(Re)、モリブデン(Mo)、タンタル(Ta)、タングステン(W)、白金(Pt)、または、これらの合金であることが好ましい。また、坩堝4はカーボン(C)製であってもよい。また、坩堝4の材質の酸化による結晶への異物混入を防止するために、坩堝4の材質としては、Irを用いることがより好ましい。
【0068】
なお、1500℃以下の融点の物質を対象とする場合は、坩堝4の材質としてPtを使用することが可能である。また、坩堝4の材質としてPtを使用する場合には、大気中での結晶育成(結晶成長)が可能である。1500℃を超える高融点物質を対象とする場合は、坩堝4の材質として、Ir等を用いるため、結晶育成はアルゴン(Ar)等の不活性ガス雰囲気下で行われることが好ましい。耐火炉6の材質は特に限定されないが、保温性や使用温度、結晶への不純物混入防止の観点からアルミナであることが好ましい。
【0069】
次に、本実施形態の結晶製造装置2に用いる坩堝4について説明する。
図9に示すように、本実施形態に係る坩堝4は、結晶の原料となる融液30を溜める融液貯留部24と、結晶の形状を制御するダイ部34とを有し、これらは一体的に形成してある。なお、坩堝4が大型の場合には、融液貯留部24の長手方向の途中で複数の部材を接合して坩堝4を構成してもよい。
【0070】
本実施形態では、坩堝4は、μ-PD法に用いられ、ダイ部34が融液貯留部24の鉛直方向の下側に位置し、融液貯留部24に貯留してある融液30は、ダイ部34の下端面42に形成してあるダイ流出口38から、種結晶14により鉛直方向Zの下側に引き出されるようになっている。
【0071】
融液貯留部24は、筒状の側壁26と、側壁26に連続して形成してある底壁28とで構成される。側壁26の内面と底壁28の内面とで、一定量の融液30を融液貯留部24に貯留可能になっている。底壁28の略中央部には、貯留部流出口32が形成してある。貯留部流出口32は、ダイ部34に形成してあるダイ流路36に連通してある。ダイ流路36については後述する。
【0072】
底壁28の内面は、下方に向けて内径が小さくなる逆テーパ状の傾斜面となっており、融液貯留部24内の融液30が、貯留部流出口32に向けて流れ易くなっている。底壁28の外側面は、側壁26の外側面と面一となっていることが好ましく、さらに、アフターヒータ16の外側面とも面一となっていることが好ましい。底壁28の下面28aは、融液30の流れ方向(引出方向または引き下げ方向とも言う)Zに略垂直な平面となっており、その外周部にアフターヒータ16が連結される。
【0073】
底壁28の下面28aの略中央部に、ダイ部34の少なくとも一部が下方に突出するように形成してある。具体的には、ダイ部34の下端面42は、底壁28の下面28aから、所定距離で突出している。ダイ部34の下端面42の略中央部に形成してあるダイ流出口38と、底壁28の略中央部に形成してある貯留部流出口32とは、ダイ部34に形成してあるダイ流路36により連絡してある。
【0074】
図10に示すように、ダイ部34の下端面42では、ダイ流出口38の周りには、引出方向Zに実質的に垂直で平坦な端周面42aが形成してある。ダイ部34の下端面42の外形とダイ流出口38の外形との間に、端周面42aが形成される。
【0075】
得られる蛍光体104の横断面(引下方向Zに垂直な断面)形状は、ダイ部34の下端面42の外形に合わせて形成される。すなわち、ダイ部34の下端面42の外形が矩形であれば、得られる蛍光体104の横断面形状も矩形となる。
【0076】
図10に示すようにダイ部34の下端面42には複数のダイ流路36が下端面42のY軸方向の両端にX軸方向に沿って一列ずつ列状に配置されている。ダイ流路36の直下では低濃度領域104bが形成され易い傾向があるため、下端面42のY軸方向の両端のダイ流路36の直下では低濃度領域104bが形成される傾向となる。一方、低濃度領域104bに挟まれたY軸方向の中央部の領域は高濃度領域104aが形成される傾向となる。これにより、低濃度領域104bが高濃度領域104aの外側に位置している構造を形成し易い。
【0077】
なお、
図10に示すダイ流路36のY軸方向の間隔Ypに対するダイ流路36のX軸方向の間隔Xpの比(Xp/Yp)は0以上1未満であることが好ましく、0.1~0.5であることがより好ましい。Xp/Ypが1未満であることにより、Z-X面に平行な層状の低濃度領域104bを形成し易く、低濃度領域104bが高濃度領域104aの外側に位置している構造を形成し易い。なお、ダイ流路36のX軸方向の間隔Xpとは、ダイ流路36と当該ダイ流路36に隣接するダイ流路36とのX軸方向の距離である。また、ダイ流路36のY軸方向の間隔Ypとは、ダイ流路36と当該ダイ流路36に隣接するダイ流路36とのY軸方向の距離である。
【0078】
本実施形態では、
図10に示すように、ダイ部34の下端面42(坩堝底部、言い換えると坩堝の底面)の外形が、得られる蛍光体104の横断面(引下方向Zに垂直な断面)形状に合わせて矩形であり、ダイ流出口38の形状が円形であるが、これに限定されない。たとえばダイ部34の下端面42の外形は、得られる蛍光体104の断面形状に合わせて円形、多角形、楕円形、その他の形状にすることも可能であり、また、ダイ流出口38の断面形状も、円形に限らず、多角形、楕円形、その他の形状にすることも可能である。また、ダイ流路36の断面形状も、円形に限らず、多角形、楕円形、その他の形状にすることも可能である。
【0079】
特にダイ流路36の断面形状を楕円形とし、楕円の長径方向をX軸方向に平行にしてY軸方向の両端に一列ずつ配置することにより、Z-X面に平行な層状の低濃度領域104bを形成し易く、低濃度領域104bが高濃度領域104aの外側に位置している構造を形成し易い。
【0080】
また、ダイ流路36をX軸方向に平行な矩形のスリットとし、Y軸方向の両端に一列ずつ配置することにより、Z-X面に平行な層状の低濃度領域104bを形成し易く、低濃度領域104bが高濃度領域104aの外側に位置している構造を形成し易い。
【0081】
次に、本実施形態の結晶製造装置2を用いる蛍光体104の製造方法について説明する。本実施形態の結晶製造装置2では、まず、炉内を不活性ガスGで置換する。不活性ガスGの種類は特に限定されないが、坩堝4およびアフターヒータ16の酸化を防げることが好ましく、たとえば窒素(N2)、アルゴン(Ar)または水素(H2)などである。
【0082】
次に不活性ガスGを80~300cm3/minで流入させながら主ヒータ10で坩堝4を加熱し、原料を溶融して融液を得る。坩堝4の融液貯留部24に、得ようとする蛍光体104の原料を入れ、主ヒータ10を起動させ融液貯留部24を加熱する。融液貯留部24が加熱されることで原料は融液貯留部24内で溶融し融液30となり、ダイ部34の貯留部流出口32からダイ流路36に流れる。融液30はダイ流出口38で種結晶14の上端に接触する。
【0083】
その前後で、アフターヒータ16も起動され、ダイ部34付近を加熱する。
【0084】
原料が十分溶融されると坩堝4下端のダイ流出口38から融液が滲み出し、ダイ部34の下端面42に濡れ広がる。一方、種結晶14を坩堝4下部から徐々に近づけ、坩堝4下端のダイ流出口38付近に種結晶14を接触させて、種結晶14を下降させ、結晶育成を開始させる。
【0085】
結晶育成速度は固液界面の様子をCCDカメラ、またはサーモカメラで観察しながらマニュアルで温度と共にコントロールする。
【0086】
主ヒータ10の移動により、結晶の成長速度は選択可能である。
【0087】
坩堝4内の融液が出なくなるまで種結晶14を下降させ、坩堝4から種結晶14を離す。
【0088】
耐火炉6内部には、上記の結晶育成の間、加熱時と同条件で不活性ガスGを流入したままにする。なお、添加物は高温側へ移動し易い傾向がある。このため、坩堝4の外周の温度を下げるために炉内に不活性ガスを流入させることにより、低濃度領域104bを高濃度領域104aの外側に位置させ易くなる。
【0089】
本実施形態では、種結晶14の引き下げ方向(結晶育成方向)Zが、蛍光体104のZ0方向に一致する。言い換えると、種結晶14の引き下げ方向Zが蛍光体104を透過する青色光L1の光路の垂直方向と一致する。
【0090】
本実施形態に係る蛍光体104は、μ-PD法により生成されることにより、従来のCZ法(Czochralski Method)により生成される蛍光体に比べて、低濃度領域104bが高濃度領域104aの外側に位置している蛍光体104を得られ易い。このため、本実施形態に係る蛍光体104はμ-PD法により生成されることが好ましい。
【0091】
本実施形態では、低濃度領域104bが高濃度領域104aの外側に位置していることから、低濃度領域104bによる熱の外部への放出効果の向上と、高濃度領域104aによる発光特性の向上の両方の効果を得ることができる。その結果、本実施形態に係る蛍光体104は、外部量子収率が高く、なおかつ高温環境下で発光特性が低下する温度消光現象を抑制することができることから耐温度消光特性に優れている。
【0092】
また、本実施形態の蛍光体104を光源装置102に用いた場合、蛍光体104の熱伝導率が高いため、蛍光体104から熱が放出され易く、光源装置102の熱損傷を防ぐことができる。
【0093】
さらに、温度上昇により、蛍光体104の蛍光波長が変化することがあるが、本実施形態の蛍光体104は熱伝導率が高いため、蛍光体104から熱が放出され易く、温度上昇による蛍光体104の波長変化を防ぐことができる。
【0094】
[
第2実施形態]
図3に示すように、本実施形態に係る光源装置102aは、以下に示す以外は、第1実施形態の光源装置102と同様である。本実施形態に係る光源装置102aでは蛍光体102aのX軸方向において、低濃度領域104bが高濃度領域104aの外側に位置している。また、蛍光体104aのX軸方向において、低濃度領域104bが高濃度領域104aを挟んでいる。蛍光体104aの第1面1041が入射部1041aであり、第2面1042が出射部1042aである。
【0095】
本実施形態に係る蛍光体104の製造方法は特に限定されないが、たとえば、
図11に示すように、複数のダイ流路36が下端面42のX軸方向の両端にY軸方向に沿って一列ずつ列状に配置されているダイ部34を用いて製造することができる。
【0096】
本発明は、上述した実施形態に限定されるものではなく、本発明の範囲内で種々に改変することができる。
【0097】
たとえば、
図4に示すように、光路断面において、高濃度領域104aはY軸方向に沿って2箇所に分かれて配置されていてもよいし、低濃度領域104bはY軸方向に沿って3箇所以上に分かれて配置されていてもよい。
【0098】
なお、上記のように高濃度領域104aが分割されている場合は、光路断面に対する、「光路断面における各高濃度領域104aの断面積の合計」の比率を「高濃度面積比率」とする。
【0099】
図4に示す蛍光体104を製造する方法としては特に限定されないが、たとえばダイ部34の下端面42を
図12に示す構成とすることで製造できる。
図12では、ダイ部34のダイ流路36は下端面42のY軸方向の両端および中央部にX軸方向に沿って3列に並んで配置されており、2列はY軸方向の両端部に配置されており、1列はY軸方向の中央部に配置されている。
【0100】
図示していないが、光路断面において、高濃度領域104aはX軸方向に沿って2箇所以上に分かれて配置されていてもよいし、低濃度領域104bはX軸方向に沿って3箇所以上に分かれて配置されていてもよい。
【0101】
図5に示すように、光路断面において、高濃度領域104aは低濃度領域104bに囲まれて配置されていてもよい。
図5に示す蛍光体104を製造する方法としては特に限定されないが、たとえばダイ部34の下端面42を
図13に示す構成とすることで製造できる。
図13では、ダイ部34のダイ流路36が
図10に示すダイ部34のダイ流路に比べて少ない。
図13では、
図10に比べて、添加物を多く含む融液がY軸方向に濡れ広がり易いことから、X軸方向の両端部のY軸方向中央部には、低濃度領域104bが形成される傾向となり、高濃度領域104aは低濃度領域104bに囲まれて配置されている構成にすることができる。
【0102】
また、上記では、ダイ部34の下端面42の坩堝底面構造により、低濃度領域104bが高濃度領域104aの外側に位置している構造を形成する方法を説明したが、低濃度領域104bが高濃度領域104aの外側に位置している構造を形成する方法は特に限定されない。たとえば、元素β比率の異なる単結晶またはセラミックスを接着剤により貼り合わせることにより、「低濃度領域104bが高濃度領域104aの外側に位置している」構成としてもよい。しかし、μ-PD法により製造された蛍光体、すなわち単一の結晶方位の中に高濃度領域104aおよび低濃度領域104bを有している単結晶である蛍光体は、接着剤を必要としないため、接着剤により放熱性が阻害されることがなく、良好な放熱性を発揮することができ、耐温度消光特性がより向上する。
【0103】
さらに、上記の第1実施形態および第2実施形態では、光源装置102,102aとして透過型の光源装置を示したが、光源装置は反射型の光源装置であってもよい。
【実施例0104】
以下、本発明を、さらに詳細な実施例に基づき説明するが、本発明は、これら実施例に限定されない。
【0105】
[実験1]
実施例1~実施例4、実施例6~実施例17、比較例1~比較例4では、下記の方法により蛍光体104を製造して、「高濃度領域と低濃度領域の分布」の各評価を行い、「低濃度領域の面積比率」、「高濃度領域の面積比率」、「低濃度領域の元素β比率の上限」、「高濃度領域の元素β比率の下限」、「低濃度領域の元素β比率の平均値(Lβ)」、「高濃度領域の元素β比率の平均値(Hβ)」、「外部量子収率比」および「耐温度消光特性」の測定を行った。
【0106】
図8に示す単結晶製造装置2を用いてμ-PD法により蛍光体104を生成した。各実施例または比較例におけるダイ部34の下端面42、すなわち坩堝の底面の構造は表1、表3または表5に記載の通りとした。
【0107】
出発原料としてY2O3、Al2O3およびCeO2を準備し、内径16mmのIr製の坩堝4に投入した。なお、各試料において、所望の高濃度領域と低濃度領域の分布になるように、出発原料中の添加物の濃度を変化させた。
【0108】
次に、これらの原料を投入した坩堝4を耐火炉6に投入し、耐火炉6内の雰囲気をN2に置換した。耐火炉6内を常圧に維持したまま耐火炉6内にN2ガス(不活性ガスG)を流入させて結晶育成を行った。
【0109】
その後、坩堝4の加熱を開始しYAG単結晶の融点に達するまで1時間かけて徐々に加熱した。
【0110】
YAG単結晶を種結晶14として用い、種結晶14の先端を坩堝4下端のダイ流出口38に接触させて、ダイ流出口38から融液が出たことを確認したのち、種結晶14を降下させながら結晶育成を開始した。
【0111】
その結果、X0方向の長さ:10mm、Y0方向の長さ:1mm、Z0方向の長さ:10mmの平板状のCe:YAG単結晶蛍光体が得られた。X線回折法(XRD)および走査型電子顕微鏡(SEM)により、実施例1~実施例4、実施例6~実施例17、比較例1~比較例4の全てにおいて、Ce:YAG単結晶が生成されたことを確認した。
【0112】
(高濃度領域と低濃度領域の分布)
得られた蛍光体104の光路断面(X-Y断面)をEDXによりマッピング分析して、表2、表4または表6に記載の「低濃度領域の元素β比率の上限」以下の範囲を低濃度領域104bとし、「高濃度領域の元素β比率の下限」以上の範囲を高濃度領域104aとした。
【0113】
なお、EDXによるマッピング分析は、Bruker社製のマイクロXRF分光計Tornado plus装置を使用して以下の条件で行った。
測定電圧-電流:50kV-600μA(Rh管球)
測定間隔:50μm/Step
測定時間:40msec
【0114】
得られた光路断面の構造を表1、表3または表5に示す。なお、
図2~
図7は概略図であるため、必ずしも高濃度領域104aおよび低濃度領域の104bの正確な範囲を示しているわけではない。
【0115】
「低濃度領域104bが高濃度領域104aの外側に位置しているか否か」、「低濃度領域104bが高濃度領域104aを挟んでいるか否か」および「入射部1041aに低濃度領域を有するか否か」を確認した結果を表1、表3または表5に示す。
【0116】
得られた蛍光体104の光路断面をEDX分析して、「低濃度領域104bの面積比率(低濃度面積比率)」、「高濃度面積比率」、「低濃度領域の元素β比率の平均値(Lβ)」、「高濃度領域の元素β比率の平均値(Hβ)」、「高濃度領域の元素β比率の平均値と低濃度領域の元素β比率の平均値との差(Hβ-Lβ)」を算出した。結果を表2、表4または表6に示す。
【0117】
(外部量子収率比および耐温度消光特性)
外部量子収率の測定は、測定装置として日立ハイテク株式会社製 F-7000形分光蛍光光度計を用いて、25℃、200℃において測定した。測定モードは蛍光スペクトル、測定条件は励起波長450nm、ホトマル電圧400Vとした。なお、蛍光体104において、出射部1042aを有する第2面1042側に第2面1042に平行になるようにミラーを設置して、第2面1042から出射された光を測定した。第2面1042から出射された光を測定することにより、透過式の光源装置と同様の構成にて測定した。また励起光が高濃度領域104aを通過するように装置にセットした。
【0118】
比較例1の25℃における外部量子収率に対する各試料の外部量子収率の比(外部量子収率比)を「ηout25℃」とする。各試料のηout25℃の結果を表2、表4または表6に示す。なお、比較例1の元素β比率の平均値は1モル%であった。各試料の25℃における外部量子収率に対する各試料の200℃における外部量子収率の比(耐温度消光特性)を「ηout200℃/ηout25℃」とする。耐温度消光特性は1に近い方が良い。各試料の「ηout200℃/ηout25℃」の結果を表2、表4または表6に示す。
【0119】
[実験2]
比較例5、比較例6および実施例5では、下記の方法により蛍光体104を製造した以外は実験1と同様にして、「高濃度領域と低濃度領域の分布」の各評価を行い、「低濃度領域の面積比率」、「高濃度領域の面積比率」、「低濃度領域の元素β比率の上限」、「高濃度領域の元素β比率の下限」、「低濃度領域の元素β比率の平均値(Lβ)」、「高濃度領域の元素β比率の平均値(Hβ)」、「(Hβ-Lβ)」、「外部量子収率比」および「耐温度消光特性」の測定を行った。結果を表1に示す。
【0120】
実験2では、元素β比率の異なる二種の単結晶を製造して、それらを貼り合わせた。具体的には、坩堝の底面の構造を
図14に記載の通りとし、製造方法1と同様にして、元素β比率の異なる二種のCe:YAG単結晶を製造した。
【0121】
比較例5では、
図6に記載のように低濃度領域104bに相当する1つのCe:YAG単結晶と、高濃度領域104aに相当する1つのCe:YAG単結晶とを接着剤により貼り合わせた。
【0122】
比較例6では、
図7に記載のように低濃度領域104bに相当する1つのCe:YAG単結晶を、高濃度領域104aに相当する2つのCe:YAG単結晶で挟むようにして接着剤により貼り合わせた。
【0123】
実施例5では、
図2に記載のように高濃度領域104aに相当する1つのCe:YAG単結晶を、低濃度領域104bに相当する2つのCe:YAG単結晶で挟むようにして接着剤により貼り合わせた。
【0124】
【0125】
【0126】
【0127】
【0128】
【0129】
【0130】
表1~表6より、Hβが1~2モル%である比較例1、比較例5、比較例6、実施例1~実施例11、実施例16および実施例17を比較した場合に、低濃度領域が高濃度領域の外側に位置している場合(実施例1~実施例17)は、低濃度領域が高濃度領域の外側に位置していない場合(比較例1、比較例5および比較例6)に比べて、耐温度消光特性が優れていることが確認できた。
【0131】
表1、表2、表5および表6より、Hβが3.5モル%である比較例2、実施例12および実施例13を比較した場合に、低濃度領域が高濃度領域の外側に位置している場合(実施例12および実施例13)は、低濃度領域が高濃度領域の外側に位置していない場合(比較例2)に比べて、外部量子収率および耐温度消光特性が優れていることが確認できた。Hβの3.5モル%との濃度は濃度消光の可能性がある濃度である。しかし、低濃度領域が高濃度領域の外側に位置している場合(実施例12および実施例13)は、低濃度領域での発光が外部量子収率に寄与するため、低濃度領域が高濃度領域の外側に位置していない場合(比較例2)に比べて外部量子収率が高くなり、その結果、耐温度消光特性も高くなると考えられる。
【0132】
表1、表2、表5および表6より、Hβが1モル%未満である比較例3、比較例4、実施例14および実施例15を比較した場合に、低濃度領域が高濃度領域の外側に位置している場合(実施例14および実施例15)は、低濃度領域が高濃度領域の外側に位置していない場合(比較例3、比較例4)に比べて、外部量子収率が優れていることが確認できた。
【0133】
表1および表2より、単一の結晶方位の中で低濃度領域および高濃度領域を有する場合(実施例1)は、2枚の単結晶を接着剤により貼り合わせた場合(実施例5)に比べて耐温度消光特性が優れていることが確認できた。これは、実施例1では接着剤が塗布されていないことにより、放熱性が阻害されず、良好な放熱性を発揮できたためであると考えられる。