(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024009519
(43)【公開日】2024-01-23
(54)【発明の名称】蒸着マスク製造方法
(51)【国際特許分類】
C23C 14/04 20060101AFI20240116BHJP
H05B 33/10 20060101ALI20240116BHJP
H10K 50/10 20230101ALI20240116BHJP
【FI】
C23C14/04 A
H05B33/10
H05B33/14 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022111107
(22)【出願日】2022-07-11
(71)【出願人】
【識別番号】000102212
【氏名又は名称】ウシオ電機株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】522277722
【氏名又は名称】株式会社ブイ・イー・ティー
(74)【代理人】
【識別番号】100109380
【弁理士】
【氏名又は名称】小西 恵
(74)【代理人】
【識別番号】100109036
【弁理士】
【氏名又は名称】永岡 重幸
(72)【発明者】
【氏名】羽生 智行
(72)【発明者】
【氏名】遠藤 真一
(72)【発明者】
【氏名】塩尻 和也
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 雄二
【テーマコード(参考)】
3K107
4K029
【Fターム(参考)】
3K107AA01
3K107CC33
3K107FF13
3K107GG28
3K107GG33
4K029AA09
4K029AA24
4K029BA62
4K029BB03
4K029BD01
4K029CA01
4K029DB06
4K029DB18
4K029HA02
4K029HA03
4K029HA04
4K029JA01
4K029JA06
(57)【要約】
【課題】有機発光材料の蒸着における蒸着不足および汚染物質の蒸着を抑制する。
【解決手段】蒸着マスク製造方法の一態様は、複数の開口が設けられた金属層と、当該金属層に接して広がる樹脂層とを有した複合材に当該金属層側からレーザ光を照射して、当該開口内に露出した当該樹脂層部分に貫通孔を形成する孔形成工程と、上記貫通孔が形成された複合材に対し、上記金属層側から紫外光を照射することで当該金属層上のデブリを除去する除去工程と、を経る。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の開口が設けられた金属層と、当該金属層に接して広がる樹脂層とを有した複合材に当該金属層側からレーザ光を照射して、当該開口内に露出した当該樹脂層部分に貫通孔を形成する孔形成工程と、
前記貫通孔が形成された複合材に対し、前記金属層側から紫外光を照射することで当該金属層上のデブリを除去する除去工程と、
を経ることを特徴とする蒸着マスク製造方法。
【請求項2】
前記除去工程では、前記紫外光として波長が200nm以下の紫外光が用いられることを特徴とする請求項1に記載の蒸着マスク製造方法。
【請求項3】
前記除去工程では、波長が200nm以下の前記紫外光としてキセノンエキシマランプからの紫外光が用いられることを特徴とする請求項2に記載の蒸着マスク製造方法。
【請求項4】
前記除去工程では、波長が200nm以下の前記紫外光として低圧水銀ランプからの紫外光が用いられることを特徴とする請求項2に記載の蒸着マスク製造方法。
【請求項5】
前記樹脂層が、ポリイミドおよびポリエチレンテレフタレートの少なくとも一方からなることを特徴とする請求項1に記載の蒸着マスク製造方法。
【請求項6】
前記除去工程は、前記貫通孔が形成された後、前記紫外光が照射される前の前記複合材に対して超音波洗浄を行う前洗浄を含むことを特徴とする請求項1に記載の蒸着マスク製造方法。
【請求項7】
前記除去工程は、前記紫外光が照射された後の前記複合材に対して超音波洗浄を行う後洗浄を含むことを特徴とする請求項1に記載の蒸着マスク製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蒸着マスク製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
有機EL素子の製造においては蒸着マスクが用いられる。有機EL素子は、被蒸着基板のあらかじめ決められた位置(即ち画素となる部分)に有機発光材料を蒸着することにより作成される。被蒸着基板の画素の部分のみに有機発光材料を蒸着させるために蒸着マスクが用いられる。
【0003】
蒸着マスクは、従来は金属製であった。しかし、より高精細の有機EL素子を作るためには、蒸着マスクの厚さをより薄くする必要があり、そのため、金属に替えて例えばポリイミドの樹脂薄膜を使用することが提案されている。
【0004】
樹脂薄膜を使用する蒸着マスクは、具体的には、金属枠が格子状に並んだ金属層に樹脂薄膜が積層された構造で提供される(例えば特許文献1参照。)。樹脂薄膜には、金属枠側からレーザ光が照射されることで貫通孔が形成されている。このような蒸着マスクのことを本明細書では金属枠付き薄膜マスクと称する。
【0005】
被蒸着基板に有機発光材料を蒸着する場合、金属枠付き薄膜マスクは、樹脂薄膜側が被蒸着基板側に向くように設置される。金属層に対して磁力が作用されることにより、金属枠付き薄膜マスクは、被蒸着基板上に固定され、有機発光材料が蒸着される。被蒸着基板には、金属枠付き薄膜マスクの貫通孔が形成された部分のみに有機発光材料が蒸着される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、実際に作成された金属枠付き薄膜マスクで有機発光材料の蒸着が行われたところ、以下のような現象が見られた。
【0008】
(1)ガラス基板において、樹脂薄膜に貫通孔が形成された各箇所に有機発光材料が蒸着されるべきであるのに、十分に蒸着されていない部分が生じる場合があった。
(2)有機発光材料以外の物質(汚染物質)が蒸着されている場合があった。
そこで、本発明は、上記(1)、(2)の現象を抑制することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、本発明に係る蒸着マスク製造方法の一態様は、複数の開口が設けられた金属層と、当該金属層に接して広がる樹脂層とを有した複合材に当該金属層側からレーザ光を照射して、当該開口内に露出した当該樹脂層部分に貫通孔を形成する孔形成工程と、上記貫通孔が形成された複合材に対し、上記金属層側から紫外光を照射することで当該金属層上のデブリを除去する除去工程と、を経る。
【0010】
このような蒸着マスク製造方法によれば、孔形成工程でレーザ光によって生じた樹脂のデブリが金属層上から除去されるので、デブリが貫通孔の一部を塞いでしまうことで生じる上記(1)の現象と、デブリが有機発光材料の蒸着源(例えばるつぼ)内に落下することで生じる上記(2)の現象との双方が抑制される。
【0011】
デブリとは、樹脂がレーザを用いた開口工程でアブレーションする際にできる有機物の滓である。この滓は樹脂層がレーザによって加熱気化して飛散したものである。有機物の滓は、主に炭化水素化合物であるが、分子量は樹脂層より小さく幅がある。分子量が小さいものは気体のまま飛散するが、大きいものは、レーザで開けられた開口部付近で固化して堆積する。
有機物の滓は、固化するときに金属枠の表面でタール状に付着したり、気中で固化して金属枠の表面に降り積もったりする。デブリはもともと樹脂層であった時の分子構造を有していないため、紫外線に対する吸収分解特性が樹脂層とは異なる。具体的には、樹脂層は一般に芳香族化合物で共役二重結合構造を持つため、紫外線耐性がある。この耐性により、デブリの除去に際して樹脂層がダメージを受けない選択性が生じる。
なお、上記(1)、(2)の現象の原因が金属層上のデブリであることについては従来知られておらず、本願の発明者らが鋭意検討した結果として今回初めて明らかとなった。
【0012】
上記蒸着マスク製造方法において、上記除去工程では、上記紫外光としてキセノンエキシマランプからの紫外光が用いられることが望ましい。キセノンエキシマランプからは高強度の紫外光が発せられるため、短時間の照射でデブリが十分に除去される。
【0013】
上記蒸着マスク製造方法において、上記除去工程では、上記紫外光として低圧水銀ランプからの紫外光が用いられることも好ましい。低圧水銀ランプからの紫外光はキセノンエキシマランプからの紫外光に較べて空気中で遠くまで到達することができる。このため、除去工程におけるランプと上記複合材との配置が容易である。
【0014】
また、上記蒸着マスク製造方法において、上記除去工程は、上記貫通孔が形成された後、上記紫外光が照射される前の上記複合材に対して超音波洗浄を行う前洗浄を含むことが望ましい。前洗浄を含むことで、紫外光照射によるデブリ除去との相乗効果による紫外光照射時間の短縮化やデブリ除去の徹底化が図られる。
【0015】
また、上記蒸着マスク製造方法において、上記除去工程は、上記紫外光が照射された後の上記複合材に対して超音波洗浄を行う後洗浄を含むことも望ましい。後洗浄を含むことでも、紫外光照射によるデブリ除去との相乗効果による紫外光照射時間の短縮化やデブリ除去の徹底化が図られる。また、前洗浄と後洗浄とではデブリに対する作用が異なると考えられるため、前洗浄と後洗浄との双方を経ることで更なる相乗効果が期待される。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、上記(1)、(2)の現象を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本発明の蒸着マスク製造方法で製造する蒸着マスク(金属枠付き薄膜マスク)の模式的構造図である。
【
図2】蒸着マスク(金属枠付き薄膜マスク)を用いた蒸着処理を示す図である。
【
図3】本発明の蒸着マスク製造方法の第1実施形態を示す図である
【
図5】蒸着時におけるデブリの影響を示す図である。
【
図6】デブリ除去工程に用いられる紫外光照射装置を示す図である。
【
図7】デブリ除去工程(10J/cm
2のドーズ量)におけるデブリ除去結果を示す図である。
【
図8】デブリ除去工程(20J/cm
2のドーズ量)におけるデブリ除去結果を示す図である。
【
図9】デブリ除去工程(40J/cm
2のドーズ量)におけるデブリ除去結果を示す図である。
【
図10】VUV照射によるデブリ除去結果を示す図である。
【
図11】本発明の蒸着マスク製造方法における第2実施形態を示す図である。
【
図12】本発明の蒸着マスク製造方法における第3実施形態を示す図である。
【
図13】紫外光照射と超音波洗浄とを組み合わせた場合のデブリ除去結果を示す表である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。但し、以下の説明が不必要に冗長になるのを避け、当業者の理解を容易にするため、必要以上に詳細な説明は省略する場合がある。例えば、既によく知られた事項の詳細説明や実質的に同一の構成に対する重複説明を省略する場合がある。また、先に説明した図に記載の要素については、後の図の説明において適宜に参照する場合がある。
【0019】
図1は、本発明の蒸着マスク製造方法で製造する蒸着マスク(金属枠付き薄膜マスク)の模式的構造図である。
図1には、金属枠付き薄膜マスク100の断面図(A)と平面図(B)が示されている。
金属枠付き薄膜マスク100は、多数の開口102aが設けられた格子状の金属枠102を有する。金属枠102は例えばニッケルからなり、本発明にいう金属層の一例に相当する。金属枠102の厚さ(断面図(A)における上下方向のサイズ)は例えば30μm程度である。
【0020】
金属枠付き薄膜マスク100は、金属枠102に重ね合わされた樹脂の薄膜101を有し、薄膜101には、金属枠102の開口102aに繋がった貫通孔103が設けられている。薄膜101は例えば、ポリイミド(PI)あるいはポリエチレンテレフタレート(PET)からなる。以下では、一例として薄膜101がポリイミドからなるものとして説明する。貫通孔103のサイズは例えば20μm程度であり、薄膜101の厚さは例えば10μm程度である。
【0021】
金属枠付き薄膜マスク100の広さは、有機EL素子の画面の広さ以上であり、金属枠付き薄膜マスク100は、強度向上のために外枠104を有してもよい。外枠104は例えば20mm程度の太さ(断面図(A)における上下方向のサイズ)を有した金属製のものである。
図2は、蒸着マスク(金属枠付き薄膜マスク)を用いた蒸着処理を示す図である。
蒸着ガマ200の中には、ステージ202と、蒸着源203と、熱源205が備えられている。
ステージ202は磁気チャックを内蔵している。蒸着源203は例えばるつぼであり、有機発光材料204が載せられて熱源205によって加熱される。
【0022】
ステージ202の下方にはガラス基板(被蒸着基板)201と金属枠付き薄膜マスク100が、ステージ202と金属枠付き薄膜マスク100とでガラス基板201を挟んだ状態で添えられる。金属枠付き薄膜マスク100は、ポリイミドの薄膜101がガラス基板201側を向いた状態(金属枠102が蒸着源203側を向いた状態)でガラス基板201に添えられる。
【0023】
ステージ202の磁気チャックによる磁力が作用することで金属枠付き薄膜マスク100の金属枠102がステージ202側に引きつけられ、金属枠付き薄膜マスク100が、間にガラス基板201を挟んでステージ202に保持固定される。ガラス基板201も、金属枠付き薄膜マスク100によりステージ202に押し付けられて、ステージ202に保持固定される。なお、図示は省略されているが、ガラス基板201と金属枠付き薄膜マスク100との間には微小なスペーサが設けられており、ガラス基板201と薄膜101との密着が回避されている。
【0024】
ステージ202にガラス基板201と金属枠付き薄膜マスク100が保持固定された状態で蒸着源203の有機発光材料204が加熱され、気化した有機発光材料204がガラス基板201へと向かって上昇する。そして、有機発光材料204は、ガラス基板201の表面のうち、金属枠付き薄膜マスク100の薄膜101で覆われていない部分(貫通孔103の部分)に蒸着される。
【0025】
図3は、本発明の蒸着マスク製造方法の第1実施形態を示す図である。
図3には、基材形成工程(A)と、孔形成工程(B)と、デブリ除去工程(C)とが示されており、更に、孔形成工程(B)後の中間状態(B‘)と、デブリ除去工程(C)後の終了状態(C‘)も示されている。
【0026】
基材形成工程(A)では、金属枠102上に樹脂の薄膜111が形成されて貫通孔の無い基材110が形成される。基材110は本発明にいう複合材の一例に相当する。
【0027】
孔形成工程(B)では、金属枠102の開口102a部分に露出している薄膜111に対し、金属枠102側からレーザ光L1が照射され、レーザ光L1によって貫通孔103が形成される。孔形成工程(B)は、本発明にいう孔形成工程の一例に相当する。
【0028】
中間状態(B‘)における基材110には、薄膜101に貫通孔103が形成されていると共に、金属枠102の表面(上面および側面の少なくとも一方)にデブリ300が付着している。このデブリ300は、レーザによる貫通孔103の形成時に、分解蒸発に至らなかったポリイミドの残渣が金属枠102の表面に付着したものである。
ここで、金属枠102の表面のデブリ300について説明する。
【0029】
図4は、デブリ300の状態を示す図である。
図4には、
図3の中間状態(B‘)の基材110に相当する試料がSEM(Scanning Electron Microscope:走査型電子顕微鏡)で観察されて確認された状態が模式的に示されている。
【0030】
図4には、金属枠102の一部が拡大されて示され、図中で縦方向に延びた金属枠102の表面にデブリ300が付着している様子が示されている。デブリ300は、金属枠102の表面を全面的に覆うと共に、デブリ300の表面が毛羽立った状態となっている。
図5は、蒸着時におけるデブリ300の影響を示す図である。
【0031】
金属枠102の表面のデブリ300は、蒸着ガマ200の中で熱されることなどで一部(特に毛羽立った部分)が剥がれ、舞い上がったデブリ300が薄膜101に付着して貫通孔103の一部を塞いだり、落下したデブリ300が蒸着源203の有機発光材料204中に混ざったりする。
【0032】
貫通孔103の一部を塞いだデブリ300は有機発光材料204の蒸着を妨げるので、(1)ガラス基板201において、十分に蒸着されていない部分を生じさせる。
【0033】
また、蒸着源203中に落下したデブリ300は、有機発光材料204とともにガラス基板201上に蒸着されてしまい、(2)ガラス基板201に有機発光材料以外の物質(汚染物質)が蒸着される。
【0034】
上記(1)、(2)の現象の原因がデブリ300であることは、本願の発明者らが上記(1)、(2)の現象について鋭意検討した結果、今回初めて明らかとなった事実である。本願の発明者らは、上記(1)、(2)の現象について鋭意検討し、金属枠102の表面に異物(デブリ300)が付着していることを発見した。発明者らは、さらに検討を加え、この異物は、レーザにより貫通孔103を形成した際に、分解蒸発に至らなかったポリイミドの残渣であることを見出した。そして、更に考察の結果、落下したデブリ300や舞い上がったデブリ300による上述した影響で上記(1)、(2)の現象が生じることに思い至った。
【0035】
そこで、
図3に示す蒸着マスク製造方法の一実施形態においては、中間状態(B‘)の基材110に対し、デブリ除去工程(C)を施してデブリ300を除去する。即ち、
図3のデブリ除去工程(C)では、紫外光L2が金属枠102側から基材110に照射されてデブリ300が除去される。デブリ除去工程(C)は、本発明にいう除去工程の一例に相当する。
【0036】
デブリ除去工程(C)で用いられる紫外光L2としては、キセノンエキシマランプから発せられる波長172nmにピークを有する真空紫外光(Vacuum Ultra-Violet Light:VUV)や、低圧水銀ランプから発せられる波長185nmと波長254nmにピークを有する紫外光(Ultra-Violet Light:UV)などが好ましい紫外光である。これらの紫外光のうち、特に、波長が200nm以下の紫外光がデブリ除去工程(C)での使用に適している。
上述したキセノンエキシマランプや低圧水銀ランプのような拡散光源が用いられることにより、紫外光L2が金属枠102側から基材110に照射された際に、金属枠102の側面のデブリ300も除去される。
図6は、デブリ除去工程に用いられる紫外光照射装置を示す図である。
紫外光照射装置400は、筐体401と、紫外光照射器402と、リニアシリンダー装置404と、ステージ406を有する。
【0037】
紫外光照射器402には光源403が搭載されており、紫外光照射器402は筐体401の上部に設置され、下部が開放されている。紫外光照射器402は、光源403から発せられる紫外光を下方に照射する。
【0038】
リニアシリンダー装置404は筐体401内の下方に設置されており、リニアシリンダー装置404は、シリンダー部404aと、駆動部404bと、台座部404cとを有する。
台座部404cはシリンダー部404aの全長に対して一部に設置され、シリンダー部404aに対して図の左右方向へと移動可能となっている。
【0039】
シリンダー部404aは内部にボールねじ(図示せず)を備え、ボールねじが駆動部404bによって駆動されることによって台座部404cが所定の速度で水平に正確に移動する。
【0040】
台座部404cには支柱405を介してステージ406が固定されている。ステージ406上には、上述した基材110であるワークWが載置され、台座部404cの移動によってステージ406およびワークWが紫外光照射器402の下方を通過する。
図6に示すように台座部404cが紫外光照射器402の下方を完全に通過することで、光源403からの紫外光がワークWの端から端まで均一に照射される。
【0041】
紫外光照射装置400が用いられた
図3に示すデブリ除去工程(C)を経ることにより、デブリ除去工程(C)後の終了状態(C‘)では、金属枠102からデブリ300が除去された金属枠付き薄膜マスク100が得られる。なお、デブリ除去工程(C)におけるデブリ300の除去は、金属枠102からの完全なデブリ300除去に限定されず、上記(1)、(2)の現象が十分に抑制される程度にデブリ300が除去されればよい。
樹脂の薄膜101が、ポリイミド(PI)およびポリエチレンテレフタレート(PET)の少なくとも一方からなる場合、マスク材料として要求される特性、耐熱性、引張強度、曲げ弾性、熱膨張係数が適しているだけでなく、真空紫外線によるデブリ300の分解速度が高く、マスク材料として優れている。
【0042】
図7~
図9は、デブリ除去工程(C)におけるデブリ除去結果を示す図である。
図7~
図9には、一例として、低圧水銀ランプが用いられたUV照射によるデブリ除去結果が示されている。
図7~
図9には、SEM観察で確認された状態が模式的に示されている。
また、
図7には、紫外光が10J/cm
2のドーズ量で照射された結果が示され、
図8には、紫外光が20J/cm
2のドーズ量で照射された結果が示され、
図9には、紫外光が40J/cm
2のドーズ量で照射された結果が示されている。
【0043】
低圧水銀ランプでは、10J/cm2のドーズ量に約30分の照射時間を要し、20J/cm2のドーズ量では約1時間の照射時間を要し、40J/cm2のドーズ量では約2時間の照射時間を要する。
【0044】
図7に示す状態では、金属枠102の表面にデブリ300が多く残っているものの、毛羽立った状態のデブリ300は殆ど除去されてデブリ300の表面が滑らかになっている。このため、蒸着時におけるデブリ300の剥がれが大幅に抑制され、上記(1)、(2)の現象も抑制される。
図8および
図9に示す状態では、デブリ300が大幅に減少し、金属枠102の直線的な形状が見える程度にデブリ300が除去されている。
【0045】
図10は、エキシマランプからのVUV照射によるデブリ除去結果を示す図である。
図10には、SEM観察で確認された状態が模式的に示されている。
図10には、
図7に示すUV照射によるデブリ除去と対比される、VUV照射によるデブリ除去(即ちUV照射におけるドーズ量と対比されるドーズ量でのVUV照射)の結果(A)と、
図8に示すUV照射によるデブリ除去と対比されるVUV照射によるデブリ除去結果(B)と、
図9に示すUV照射によるデブリ除去と対比されるVUV照射によるデブリ除去結果(C)が示されている。
【0046】
いずれのドーズ量においても、VUV照射によるデブリ除去結果(A)、(B)、(C)は、
図7~
図9に示すUV照射と同様のデブリ除去結果となっている。但し、VUV照射ではキセノンエキシマランプが用いられることで高い照度が得られるため、照射時間は数分~数十分程度であり、UV照射よりも短時間で済む。
【0047】
一方、UV照射の場合は低圧水銀ランプからの紫外光が用いられるため、紫外光の空気中で到達可能な距離がキセノンエキシマランプからの紫外光よりも長い。従って、
図6に示す紫外光照射装置400において、ワークW(およびステージ406)と紫外光照射器402との距離に余裕を持つことができて好ましい。特に、
図1に示す外枠104を有した金属枠付き薄膜マスク100の製造においては光源を近接させなくても外枠104越しに紫外光を照射することができて好適である。
【0048】
次に、本発明の蒸着マスク製造方法における他の実施形態について説明する。
図11は、本発明の蒸着マスク製造方法における第2実施形態を示す図である。
第2実施形態では、上述したデブリ除去(C)と同様の工程である紫外光照射工程(C1)が実行され、上述した孔形成工程(B)と紫外光照射工程(C1)との間で前洗浄工程(C2)が実行される。第2実施形態の場合は、紫外光照射工程(C1)と前洗浄工程(C2)とを併せた工程が、本発明にいう除去工程の一例に相当する。
前洗浄工程(C2)では、孔形成工程(B)を経た基材110に対して超音波洗浄が行われる。即ち、洗浄用の溶液501に基材110が浸されて超音波502が加えられる。このとき超音波502の周波数としては、基材110の薄膜101を保護するため80~1000kHzの周波数が設定され、望ましくは80~200kHzの周波数が設定される。上記周波数に設定された超音波502による超音波洗浄は洗浄力が弱く、超音波洗浄のみではデブリ300を十分に除去することができない。しかし、後述するように、短時間の前洗浄工程(C2)を経ることでその後の紫外光照射工程(C1)において紫外光照射時間の短縮化やデブリ除去の徹底化が図られることが確認できた。
この理由としては、デブリ300は、レーザによる貫通孔103の形成時に、分解蒸発に至らなかったポリイミドの残渣が金属枠102の表面に付着したものであり、その付着形態が
図4に示されるように毛羽立ったものから、微細顆粒状、タール状まで様々な状態で付着していることにつながっている。前洗浄工程(C2)では、上述のとおり超音波洗浄の洗浄力は弱いが、デブリの毛羽立ち部に作用し除去するのに有効で、毛羽立ち部が除去されると光の陰になる部分が少なくなって、紫外光が微細顆粒状、タール状となって付着したデブリ表面に到達しやすくなるためである。超音波502の周波数が1000kHzを超えると、洗浄作用が低くなり、処理時間が数時間以上必要となり大幅に長くなったためマスクの製造方法として経済的ではない。周波数が200kHzを超えると、洗浄に必要な時間は2分からさらに長くなった。
【0049】
図12は、本発明の蒸着マスク製造方法における第3実施形態を示す図である。
第3実施形態では、上述した孔形成工程(B)と紫外光照射工程(C1)とを経た後で後洗浄工程(C3)が実行される。第3実施形態の場合は、紫外光照射工程(C1)と後洗浄工程(C3)とを併せた工程が、本発明にいう除去工程の一例に相当する。
後洗浄工程(C3)では、紫外光照射工程(C1)を経た基材110に対して超音波洗浄が行われる。即ち、前洗浄工程(C2)と同様に、洗浄用の溶液501に基材110が浸されて超音波502が加えられる。後洗浄工程(C3)でも、超音波502の周波数としては、基材110の薄膜101を保護するため80~1000kHzの周波数が設定され、望ましくは80~200kHzの周波数が設定されるので洗浄力が弱いが、後述するように、短時間の後洗浄工程(C3)が紫外光照射工程(C1)と組み合わされることで、紫外光照射工程(C1)における紫外光照射時間の短縮化が図られ、後洗浄工程(C3)を経た終了状態におけるデブリ除去の徹底化が図られることが確認できた。この理由としては、紫外光の照射によりデブリに光化学的な作用がおこり、デブリそのものが低分子化して溶解しやすくなるためと、デブリ表面が光改質され洗浄用の溶液との親溶液性があがったことで複雑に堆積するデブリの内部に洗浄用溶液が浸入しやすくなるため気泡がなくなり超音波の伝達性が高くなることによって洗浄効果が上がるためである。このように前洗浄工程と後洗浄工程は本発明に係る紫外光との組み合わせでデブリ除去に及ぼす作用が異なる。超音波502の周波数が1000kHzを超えると、洗浄作用が低くなり、処理時間が数時間以上必要となり大幅に長くなったためマスクの製造方法として経済的ではない。周波数が200kHzを超えると、洗浄に必要な時間は5分からさらに長くなった。
【0050】
図13は、紫外光照射と超音波洗浄とを組み合わせた場合のデブリ除去結果を示す表である。
図13には、紫外光照射の一例としてVUV照射の結果が示されている。また、VUV照射のみの場合の欄601(以下、VUV照射のみ欄601と称する。)、超音波洗浄の後でVUV照射が行われた場合の欄602(以下、前超音波洗浄欄602と称する。)、およびVUV照射の後で超音波洗浄が行われた場合の欄(以下、後超音波洗浄欄603と称する。)603に、各デブリ除去手順における除去結果が示されている。
図13に示す各デブリ除去手順における除去対象は、上述した実施形態における基材110に相当する試験用の基板である。
【0051】
図14は、試験用の基板を模式的に示す図である。
試験用の基板610は、
図3の基材形成工程(A)および孔形成工程(B)と同様の工程を経て多数の貫通孔103(図示せず)が形成された形成領域R1と、貫通孔103が形成されない非形成領域R2とを有する。
【0052】
図14には、試験用の基板610について、超音波洗浄およびVUV照射の双方が全く施されていないデブリ除去未処理の状態(A)と、デブリ除去が施された状態(B)と、デブリ除去が更に施された状態(C)と、デブリ除去でデブリ300が完全に除去された完全除去状態(D)が示されている。
【0053】
基板610の形成領域R1では金属枠102(図示せず)上にデブリ300が付着するため、デブリ除去未処理の状態(A)では形成領域R1と非形成領域R2とでは大きなコントラスト(明暗の差)を生じる。これに対し、デブリ除去が施された状態(B)、(C)では、形成領域R1と非形成領域R2とのコントラストが小さくなり、完全除去状態(D)では形成領域R1と非形成領域R2とのコントラストがゼロとなる。
図13の表には、形成領域R1と非形成領域R2とのコントラストに基づいた除去率が、デブリ除去の結果を表す数値として記載されている。
【0054】
除去率は、デブリ除去後の基板610表面におけるコントラストを数値化したものの平均値を、デブリ除去前の基板610表面におけるコントラストを数値化したものの平均値で割った比の百分率を100から引いた数値である。つまり、除去率は、0%でデブリ除去未処理状態を表し、100%で完全除去状態を表す。
【0055】
図13の各行は、表の左端に示された各ドーズ量[J/cm
2]のVUV照射に対応しており、ドーズ量が0J/cm
2の行は超音波洗浄のみによるデブリ除去結果を表している。後超音波洗浄欄603を参照すると、80kHzで1分の超音波洗浄では5%の除去率となり、2分の超音波洗浄では7%の除去率となるが、5分以上の超音波洗浄を施しても除去率が7%から増えないことが示されている。80kHzの超音波洗浄のみでは、20時間以上の時間を掛けても除去率が横ばいであることが確認されている。また、このように低い除去率では、
図4に示す毛羽立った状態のデブリ300の除去も不十分であり、上記(1)、(2)の現象が抑制されない。
【0056】
これに対し、VUVのみ欄601を参照すると、ドーズ量が7J/cm2でも35%という高い除去率が得られており、少なくとも毛羽立った状態のデブリ300は除去されることが確認されている。
【0057】
ドーズ量が7J/cm2の場合について、VUV照射のみ欄601と、前超音波洗浄欄602および後超音波洗浄欄603とを比較すると、VUV照射のみ欄601では35%の除去率であるのに対し、前超音波洗浄欄602では80kHzで1分の短時間な超音波洗浄で57%という大きな除去率が得られ、後超音波洗浄欄603でも1分の短時間な超音波洗浄で67%という更に大きな除去率が得られることが示されている。つまり、紫外光による照射と超音波洗浄とが組み合わされることにより、単独のデブリ除去結果の足し合わせを大きく超えたデブリ除去効果が得られ、短時間のデブリ除去時間でも洗浄の徹底化が図られることが示されている。
【0058】
除去率が60%以上に達するデブリ除去結果を参照すると、VUV照射のみ欄601ではドーズ量が14J/cm2の時に65%であるのに対し、前超音波洗浄欄602では2分の超音波洗浄とドーズ量が7J/cm2で60%に達し、後超音波洗浄欄603では1分の超音波洗浄とドーズ量が7J/cm2で67%に達する。つまり、紫外光照射と超音波洗浄とが組み合わされることにより、単独のデブリ除去と同程度のデブリ除去効果を得るために、紫外光照射と超音波印加の合計時間が単独のデブリ除去時よりも短時間で済むことが示されている。
【0059】
なお、
図11に示す前洗浄工程(C2)がデブリの除去に及ぼす作用と、
図12に示す後洗浄工程(C3)がデブリの除去に及ぼす作用とは異なると考えられるため、前洗浄工程(C2)と後洗浄工程(C3)との双方を経ることで、更なる時間短縮化や徹底化が図られることが期待される。
次に、PIとPETそれぞれからなる薄膜101を有した基板610について、上述した試験と同等の試験で除去率が100%となるまでのデブリ除去速度を、他の樹脂からなる薄膜101を有した基板610と比較して評価した。PIとPETが用いられた基板610でのデブリ除去速度は、他の樹脂が用いられた基板610でのデブリ除去速度より大きく、PIの場合は5倍、PETの場合は3倍であった。PIとPETでは、以下のような機構が働いていることが発明者らにより明らかになった。
樹脂のデブリ300を真空紫外線で分解すると、デブリ300は周囲のオゾンやラジカルと反応して二酸化炭素や水分子となって揮発する。すなわち、真空紫外線による樹脂の分解時には、周囲に多量の水分子が存在するため、一部は薄膜101を構成する樹脂に吸着される。
PETおよびPIは、真空紫外線照射を受けているときは、真空紫外線の吸収によって樹脂内部の共役結合状態からエネルギーが高い状態にある。そこに水分子が接触することでエネルギー遷移を起こし、表面に吸着された水分子が再び真空紫外線で分解してヒドロキシラジカル(OHラジカル)になり放出される。水分子の吸着・分解作用は薄膜101上で生じ、OHラジカルは反応性が極めて高いが、薄膜101とデブリ300とは樹脂の分子構造が異なるので、薄膜101の材料の分解よりも、金属枠102の表面におけるデブリ300の分解の方が早く進み、デブリ300の除去をアシストする。
このような機構により、PETおよびPIではデブリ300の除去が他の樹脂よりも効率的に進むため、薄膜101の材料としてはPETおよびPIの少なくとも一方が好ましい。
【符号の説明】
【0060】
100 …金属枠付き薄膜マスク(蒸着マスク)、102 …金属枠、
102a …開口、101、111 …薄膜、103 …貫通孔、104 …外枠、
110 …基材、200 …蒸着ガマ、201 …ガラス基板、203 …蒸着源、
204 …有機発光材料、300 …デブリ、400 …紫外光照射装置、
403 …光源、501 …溶液、502 …超音波、W …ワーク