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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024095197
(43)【公開日】2024-07-10
(54)【発明の名称】代謝改善用組成物
(51)【国際特許分類】
   A61K 36/18 20060101AFI20240703BHJP
   A61P 1/02 20060101ALI20240703BHJP
   A61P 29/00 20060101ALI20240703BHJP
   A61P 3/00 20060101ALI20240703BHJP
   A61K 31/164 20060101ALI20240703BHJP
   A61K 31/047 20060101ALI20240703BHJP
   A61K 31/593 20060101ALI20240703BHJP
   A61K 31/4166 20060101ALI20240703BHJP
   A61K 31/704 20060101ALI20240703BHJP
   A61K 31/185 20060101ALI20240703BHJP
   A61K 31/198 20060101ALI20240703BHJP
   A61K 36/074 20060101ALI20240703BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20240703BHJP
   A61K 33/06 20060101ALI20240703BHJP
   A61K 35/50 20150101ALI20240703BHJP
   A61K 31/11 20060101ALI20240703BHJP
   A61K 31/191 20060101ALI20240703BHJP
   A61K 31/51 20060101ALI20240703BHJP
   A61K 31/7032 20060101ALI20240703BHJP
   A61K 31/724 20060101ALI20240703BHJP
   A61K 31/4172 20060101ALI20240703BHJP
   A61K 31/205 20060101ALI20240703BHJP
   A61K 31/401 20060101ALI20240703BHJP
   A23L 33/105 20160101ALI20240703BHJP
   A23L 33/15 20160101ALI20240703BHJP
   A23L 33/175 20160101ALI20240703BHJP
   A23L 33/10 20160101ALI20240703BHJP
【FI】
A61K36/18
A61P1/02
A61P29/00
A61P3/00
A61K31/164
A61K31/047
A61K31/593
A61K31/4166
A61K31/704
A61K31/185
A61K31/198
A61K36/074
A61P43/00 121
A61K33/06
A61K35/50
A61K31/11
A61K31/191
A61K31/51
A61K31/7032
A61K31/724
A61K31/4172
A61K31/205
A61K31/401
A23L33/105
A23L33/15
A23L33/175
A23L33/10
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022212303
(22)【出願日】2022-12-28
(71)【出願人】
【識別番号】000106324
【氏名又は名称】サンスター株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】リハブ アルシャルガビ
(72)【発明者】
【氏名】石角 篤
(72)【発明者】
【氏名】松本 元伸
【テーマコード(参考)】
4B018
4C086
4C087
4C088
4C206
【Fターム(参考)】
4B018LB01
4B018LB08
4B018LB10
4B018MD03
4B018MD07
4B018MD09
4B018MD18
4B018MD19
4B018MD20
4B018MD22
4B018MD23
4B018MD27
4B018MD29
4B018MD31
4B018MD32
4B018MD36
4B018MD48
4B018MD49
4B018MD50
4B018MD51
4B018MD52
4B018MD53
4B018MD54
4B018MD55
4B018MD58
4B018MD59
4B018MD61
4B018MD63
4B018MD64
4B018MD67
4B018MD69
4B018MD84
4B018ME09
4B018ME14
4C086AA01
4C086AA02
4C086BC38
4C086BC83
4C086DA14
4C086EA05
4C086EA10
4C086GA07
4C086GA10
4C086HA04
4C086MA04
4C086NA05
4C086NA14
4C086ZA67
4C086ZB11
4C086ZC21
4C086ZC75
4C087AA01
4C087AA02
4C087BB58
4C087CA06
4C087MA02
4C087NA05
4C087NA14
4C087ZA67
4C087ZB11
4C087ZC21
4C087ZC75
4C088AA06
4C088AB12
4C088AB71
4C088AB73
4C088AB74
4C088BA08
4C088MA08
4C088NA05
4C088NA14
4C088ZA67
4C088ZB11
4C088ZC21
4C088ZC75
4C206AA01
4C206AA02
4C206CA13
4C206CB05
4C206DA02
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4C206GA05
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4C206GA36
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4C206HA28
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4C206KA01
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4C206NA14
4C206ZA67
4C206ZB11
4C206ZC21
4C206ZC75
(57)【要約】
【課題】高グルコース負荷によって生じる代謝異常、及び過剰脂肪酸によって生じる脂質代謝異常、を抑制し得る素材を提供すること。
【解決手段】特定の素材を含有する、代謝異常改善用組成物。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の表に記載される成分からなる群より選択される少なくとも1種を含む、
口腔内細胞における代謝改善用組成物。
【表1】
【請求項2】
以下の表に記載される成分からなる群より選択される少なくとも1種を含む、
口腔内細胞における代謝改善用組成物。
【表2】
【請求項3】
口腔内細胞における、高グルコース負荷起因の炎症抑制用である、請求項1又は2に記載の組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、代謝改善用組成物等に関する。
【背景技術】
【0002】
高グルコース負荷により、細胞内での酸化ストレスが亢進し代謝異常が引き起こされることが知られている。特に、糖尿病患者や糖尿病予備群対象者においては、高グルコース負荷がかかり、代謝が異常になり、各種症状が引き起こされると考えられている。当該症状の中には、口腔内における症状も含まれ得る。
【0003】
例えば、これまでに、糖尿病状態では歯周組織の代謝機能が障害されていることや、糖尿病ラットの歯肉の代謝機能を活性化すると歯槽骨吸収が抑制されること等が報告されている。
【0004】
また、糖尿病患者ではインスリン抵抗性が生じていることが知られている。また、糖尿病と歯周病との間には関連性があると考えられており、例えば糖尿病モデル動物の歯肉においてインスリン抵抗性が生じていることが報告されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】J Clin Periodontol 2017; 44: 463-471. IADR/PER General Session 2018; Presentation ID 1622
【非特許文献2】J Dent Res 2014: 93; 596-601.
【非特許文献3】PLOS ONE 2017; 12: e0189601.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
脂肪酸(特にパルミチン酸)の過剰投与がインスリン抵抗性を引き起こし得ることが知られているが、歯肉細胞においても同様にインスリン抵抗性を引き起こすかは確認されていなかった。
【0007】
本発明者らは、インスリンは歯根膜細胞において濃度依存的にAktのリン酸化を亢進すること、及び、パルミチン酸を歯根膜細胞に適用するとインスリンによるAktリン酸化亢進が抑制されること、を見いだした。Aktのリン酸化の阻害は、インスリン抵抗性の指標の一つとして広く知られている。このことから、歯肉細胞においても脂肪酸がインスリン抵抗性を引き起こし得ることが分かった。
【0008】
またさらに、本発明者らは、インスリン抵抗性を引き起こす可能性が考えられた脂肪酸以外の成分である高濃度の糖(グルコース)やLPS(Lipopolysaccharide)についても同様の検討を行ったが、高濃度の糖処理やLPS処理によってはAktのリン酸化の阻害はみられず、よってこれらの成分によってインスリン抵抗性は引き起こされないと考えられた。
【0009】
これらの知見に基づけば、肥満や糖尿病(特に2型糖尿病)で起こる遊離脂肪酸 (特にパルミチン酸) の増加が、各種細胞において、炎症・単球接着を誘導し、持続的な骨吸収を引き起こしていると考えることができる。また、特に、糖尿病と歯周病の間の関連性についても、遊離脂肪酸(特にパルミチン酸)が歯根膜細胞において炎症・単球接着を誘導し、持続的な骨吸収をともなう歯周炎を悪化させ、ひいては歯の喪失に繋がり得る、と考えることができる。
【0010】
そこでさらに、遊離脂肪酸(特にパルミチン酸)により、炎症性サイトカイン、ケモカイン、接着因子の発現や、その炎症性サイトカイン、ケモカイン、接着因子発現カスケードの上流に位置する受容体(Toll-like receptor 4(TLR4)やCD36)の発現が向上するか確認したところ、これらの遺伝子発現はいずれも亢進することを見いだした。なお、TLR4はLPSなどを認識する受容体タンパク質である。また、CD36は、脂肪酸の取り込みに関与する主要な膜タンパク質であり、高脂肪食によるインスリン抵抗性や糖尿病性心筋症などの病態生理学的状態の発症に伴って発生する脂肪酸および脂質代謝の障害に関与していると考えられている。
【0011】
これらのことから、前述の遺伝子発現を指標とすることで、肥満や糖尿病で起こる遊離脂肪酸の増加による脂質代謝異常を抑制する成分を探索できると考えられた。
【0012】
そこで、本発明者らは、高グルコース負荷によって生じる代謝異常を抑制することができ、さらには、肥満や糖尿病で起こる遊離脂肪酸の増加による脂質代謝異常も抑制することができる成分を探索することを目的として、さらに検討を行った。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、高グルコース負荷によって生じる代謝異常を抑制することができ、さらには、肥満や糖尿病で起こる遊離脂肪酸の増加による脂質代謝異常も抑制することができる成分をスクリーニングにより見いだし、さらに改良を重ねた。
【0014】
本開示は例えば以下の項に記載の主題を包含する。
項1.
以下の表に記載される成分からなる群より選択される少なくとも1種を含む、
口腔内細胞における代謝改善用組成物。
【0015】
【表1】
【0016】
【0017】
【0018】
【0019】
項2.
以下の表に記載される成分からなる群より選択される少なくとも1種を含む、
口腔内細胞における代謝改善用組成物。
【0020】
【表2】
【0021】
項3.
糖代謝異常及び/又は脂質代謝異常を有する対象のための、項1又は2に記載の組成物。
項4.
口腔内細胞における、糖代謝改善用及び/又は脂質代謝改善用組成物である、項1~3のいずれかに記載の組成物。
項5.
口腔内細胞における、高グルコース負荷起因のATP代謝異常改善用である、項1~3のいずれかに記載の組成物。
項6.
口腔内細胞における、高グルコース負荷起因の炎症抑制用である、項1~3のいずれかに記載の組成物。
項7.
口腔内細胞における、遊離脂肪酸の増加に起因する炎症抑制用である、項1~3のいずれかに記載の組成物。
項8.
口腔内細胞が、歯根膜細胞である、項4~7のいずれかに記載の組成物。
項9.
食品組成物である、項4~8のいずれかに記載の組成物。
【発明の効果】
【0022】
高グルコース負荷によって生じる代謝異常と、遊離脂肪酸の増加による脂質代謝異常とを、抑制し得る。特に、口腔内の細胞において、生じるこのような代謝異常や炎症を抑制し得る。これにより、歯周病を予防または治療することが可能になる。より詳細には、例えば、骨吸収を伴う歯周炎を抑制することにつながり、ひいては当該歯周炎進行に伴う歯喪失をも抑制することが期待できる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】ヒト歯根膜線維芽細胞(Human periodontal ligament fibroblasts; HPDLF) に対して高グルコース負荷をかけ、それによって、ATP代謝がどのように変化するか、及び炎症性サイトカインの遺伝子発現量がどのように変化するかを検討した実験の概要を示す。
図2】ヒト歯根膜線維芽細胞に予め被験物質(サンプル)を適用しておき、その後に高グルコース負荷をかけた際に、どのようにATP代謝や炎症性サイトカインの遺伝子発現量が変化するかを検討した実験の概要を示す。
図3図1に示す検討(被験物質の適用無し)の細胞内ATP測定結果を示す。3dは3日後の結果を、6dは6日後の結果を、9dは9日後の結果を、それぞれ示す。また、各日数後の結果を示す棒グラフは、左から順に、コントロール(L-グルコース)、D-グルコース25mM、D-グルコース50mM、D-グルコース100mM、の結果について、コントロールを100%としたときの相対値を示す。なお、D-グルコース25mMのコントロールはL-グルコース25mM、D-グルコース50mMのコントロールはL-グルコース50mM、D-グルコース100mMのコントロールはL-グルコース100mMである。
図4図1に示す検討(被験物質の適用無し)のMCP-1遺伝子発現量測定結果をRPS18の発現レベルで補正して示す。3dは3日後の結果を、6dは6日後の結果を、それぞれ示す。また、各日数後の結果を示す棒グラフは、左から順に、コントロール(L-グルコース)、D-グルコース25mM、D-グルコース50mM、D-グルコース100mM、の結果について、コントロールを1としたときの相対値を示す。なお、D-グルコース25mMのコントロールはL-グルコース25mM、D-グルコース50mMのコントロールはL-グルコース50mM、D-グルコース100mMのコントロールはL-グルコース100mMである。
図5A】ヒト歯根膜線維芽細胞(Human periodontal ligament fibroblasts; HPDLF)にパルミチン酸処理を行い6時間又は24時間培養した後に、どのように炎症性サイトカイン、ケモカイン、接着因子遺伝子発現量が変化するかを検討した結果を示す。パルミチン酸はBovine Serum Albumin(BSA)にコンジュゲートさせることによって投与した。コントロールはパルミチン酸をコンジュゲートしていない同量のBSAで処置した。当該結果は、各遺伝子の発現レベルをそれぞれ、Ribosomal protein S18(RPS18)の発現レベルで補正した値である。
図5B】ヒト歯根膜線維芽細胞(Human periodontal ligament fibroblasts; HPDLF)にパルミチン酸処理を行い6時間又は24時間培養した後に、どのように受容体遺伝子発現量が変化するかを検討した結果を示す。パルミチン酸はBovine Serum Albumin(BSA)にコンジュゲートさせることによって投与した。コントロールはパルミチン酸をコンジュゲートしていない同量のBSAで処置した。当該結果は、各遺伝子の発現レベルをそれぞれ、Ribosomal protein S18(RPS18)の発現レベルで補正した値である。
図6】ヒト歯根膜線維芽細胞(Human periodontal ligament fibroblasts; HPDLF)に予め被験物質(サンプル)で処理しておき、その後にパルミチン酸処理を行った際に、どのように炎症性サイトカイン、ケモカイン、接着因子や受容体の遺伝子発現量が変化するかを検討した実験の概要を示す。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本開示に包含される各実施形態について、さらに詳細に説明する。本開示は、口腔内細胞における代謝改善用組成物(特に経口組成物)等を好ましく包含するが、これらに限定されるわけではなく、本開示は本明細書に開示され当業者が認識できる全てを包含する。
【0025】
本開示に包含される口腔内細胞における代謝改善用組成物は、次の表に記載される特定の成分を、1種単独で又は2種以上組み合わせて、含有する。本開示に包含される当該代謝改善用組成物を本開示の組成物ということがある。また、これらの特性の成分を本開示の成分ということがある。本開示の組成物は、特に歯周病予防又は治療用組成物として好適に用いることができる。
【0026】
【表3】
【0027】
【0028】
【0029】
【0030】
これらの成分の中でも、次の表に記載される成分がより好ましい。
【0031】
【表4】
【0032】
本開示の組成物における本開示の成分の含有量は、効果が損なわれない範囲であれば特に限定されないが、例えば0.01~99.99質量%程度が挙げられる。
【0033】
本開示の組成物の摂取形態は、特に限定はされないが、経口摂取であることが好ましい。つまり、本開示の組成物は経口組成物であることが好ましい。本開示の組成物を経口摂取することにより、細胞(特に口腔内の細胞)において、高グルコース負荷による代謝の異常、及び脂質代謝異常、を抑制する効果を好ましく奏され得る。本開示の組成物は、例えば経口医薬品組成物や食品組成物(飲料組成物及び食品添加物組成物を包含する)であることが好ましい。
【0034】
本開示の組成物は、上記成分を含み、さらに他の成分を含むことができる。当該他の成分は、当該組成物を用いる分野に応じて適宜選択することができる。例えば、薬学的又は食品衛生学的に許容される担体を用いることができる。
【0035】
医薬組成物として用いる場合、他の成分としては、薬学的に許容される基剤、担体、及び/又は添加剤(例えば溶剤、分散剤、乳化剤、緩衝剤、安定剤、賦形剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤等)等が例示できる。また、医薬組成物の形態も特に制限されず、錠剤、丸剤、散剤、液剤、懸濁剤、乳剤、顆粒剤、カプセル剤、クリーム剤、パップ剤等が例示できる。
【0036】
食品組成物として用いる場合、他の成分としては、食品衛生学上許容される基剤、担体、添加剤や、その他食品として利用され得る成分・材料などが例示できる。また、食品組成物の形態も特に制限されず、例えば加工食品、健康食品(栄養補助食品、栄養機能食品、病者用食品、特定保健用食品、機能性表示商品等)、サプリメント、病者向け食品(病院食、病人食又は介護食等)等が例示できる。これらは常法により調製することができる。特に、健康食品(栄養補助食品、栄養機能食品、病者用食品、特定保健用食品、機能性表示商品等)、又はサプリメントとして、食品組成物を調製する場合は、継続的な摂取が行いやすいように、例えば顆粒、カプセル、錠剤(チュアブル剤等を含む)、飲料(飲料パウダー、ドリンク剤、スムージー等)等の形態で調製することが好ましく、なかでもカプセル、タブレット、錠剤、飲料パウダー、ドリンク剤、ゼリー、グミの形態が摂取の簡便さの点からは好ましいが、特にこれらに限定されるものではない。なお、食品組成物の中でも食品添加物組成物として用いる場合には、その形態として、例えば液状、粉末状、フレーク状、顆粒状、ペースト状のものが挙げられる。
【0037】
本開示の組成物の摂取対象は、効果が好ましく奏され得るという観点から、代謝異常(特に糖代謝異常及び/又は脂質代謝異常)が生じている対象が好ましく、より具体的には例えば高グルコース負荷に起因する代謝異常が生じている対象や、遊離脂肪酸の増加が起こっている対象がより好ましい。高グルコース負荷に起因する代謝異常には、より詳細には例えば、高グルコース負荷起因のATP代謝異常や、ひいては当該代謝異常により引き起こされ得る炎症(高グルコース負荷起因の炎症)なども包含される。また、遊離脂肪酸の増加により、炎症性サイトカイン、ケモカイン、接着因子発現量が増えている対象が中でも好ましい。また、歯肉炎症をおこしている対象が好ましい。特に限定はされないが、炎症の中でも、炎症性サイトカイン、ケモカイン発現量が増加している炎症が好ましく、特にMCP-1(Monocyte chemoattractant protein-1)、IL-8(インターロイキン-8)、MMP1(Matrix metallopeptidase 1)IL-6(インターロイキン-6)、及びCXCL1(C-X-C Motif Chemokine Ligand 1)からなる群より選択される少なくとも1種の炎症性サイトカイン、ケモカインの発現量が増加している炎症が好ましい。
【0038】
また、本開示の組成物を摂取する時期としては、特に限定はされないが、例えば、食事を摂取する前若しくは後に摂取するよう用いられ得る。食事は、糖質(特に体内吸収時にグルコースとなり得る糖質)や脂質を含むものがより好ましい。また例えば、歯周病治療中又は後に、再発防止のために好ましく用いられ得る。
【0039】
また、特に制限はされないが、本開示の組成物の摂取により、代謝異常が抑制され得る細胞としては、口腔内の細胞が好ましく、中でも歯肉細胞や歯根膜細胞(特に歯肉線維芽細胞や歯根膜線維芽細胞)が好ましい。歯根膜細胞は、歯周病における免疫応答や炎症反応、歯槽骨吸収に強く関与していることが知られており、最も好ましい。
【0040】
なお、本明細書において「含む」とは、「本質的にからなる」と、「からなる」をも包含する(The term "comprising" includes "consisting essentially of” and "consisting of.")。また、本開示は、本明細書に説明した構成要件の任意の組み合わせを全て包含する。
【0041】
また、上述した本開示の各実施形態について説明した各種特性(性質、構造、機能等)は、本開示に包含される主題を特定するにあたり、どのように組み合わせられてもよい。すなわち、本開示には、本明細書に記載される組み合わせ可能な各特性のあらゆる組み合わせからなる主題が全て包含される。
【実施例0042】
以下、例を示して本開示の実施形態をより具体的に説明するが、本開示の実施形態は下記の例に限定されるものではない。
【0043】
歯根膜細胞における高グルコース負荷の検討
ヒト歯根膜線維芽細胞(Human periodontal ligament fibroblasts; HPDLF) に対して高グルコース負荷をかけ、それによって、ATP代謝がどのように変化するか、及び炎症性サイトカインの遺伝子発現量がどのように変化するかを検討した(図1)。さらには、ヒト歯根膜線維芽細胞に予め被験物質(サンプル)を適用しておき、その後に高グルコース負荷をかけた際に、どのようにATP代謝や炎症性サイトカインの遺伝子発現量が変化するかを検討した(図2)。より詳細には、次のようにして検討した。なお、以下の詳細な説明は、図2(被験物質有り)記載の検討の説明だが、図1記載の検討についても被験物質を適用しない点及びD-グルコース濃度を振った点以外は同様に行った。
【0044】
[細胞内ATP濃度の測定]
細胞内のATPはLuminescent ATP detection assay kit (ab113849; Abcam) を使用して測定した。ヒト歯根膜線維芽細胞 (Human periodontal ligament fibroblasts; HPDLF) を 0.12×10 cells/100μL/wellの密度で48well プレートに播種し48時間培養した。細胞を24時間、各被験物質(サンプル)(1μg/mL)で前処置後、引き続き50mMのD-glucose(Sigma Aldrich)で72時間処置した。対照には同濃度のL-glucoseを使用した。その後、50μLの細胞溶解液を5分間添加し、細胞を溶解しATPを安定化させた。さらに、D-luciferase試薬を添加し、遮光下で10分間インキュベートを行った。ルシフェラーゼ反応による化学発光をCytation 5 プレートリーダー(BioTek Instruments)を使用して測定し、標準曲線を用いてATP濃度(μM)を測定した。各被験物質(サンプル)を適用したときのATP低下改善率(%)は、次の式を用いて求めた。
【0045】
【数1】
【0046】
すなわち、ATP低下改善率(%)は、サンプル処置後にD-glucoseを処置した時の化学発光値からD-glucoseのみを処置した時の化学発光値を減算した値を、L-glucoseのみを処置した時の化学発光値からD-glucoseのみを処置した時の化学発光値を減算した値で除した割合(%)を示す。
【0047】
[MCP-1、IL-8、MMP-1の遺伝子発現]
ヒト歯根膜線維芽細胞 (Human periodontal ligament fibroblasts; HPDLF) を 0.45×10 cells/1 mL/wellの密度で12-well プレートに播種し72時間培養した。細胞を24時間、各サンプル(1μg/mL)で前処置後、引き続き50mMのD-glucose (Sigma Aldrich) で72時間処置した。対照には同濃度のL-glucoseを使用した。総RNAはRNeasy Mini Kit(Qiagen)を使用して抽出した。1本鎖のcDNAは0.5μgの総RNAよりPrimeScript RT reagent Kit(タカラバイオ)を使用して合成した。各遺伝子発現の定量は、7500 Fast リアルタイムPCRシステム (Applied Biosystems) を使用し、それぞれに特異的なプライマー、およびTB Green Fast qPCR Mix (タカラバイオ) を用いたインターカレーター法により実施した。各遺伝子の発現レベルはそれぞれ、Ribosomal protein S18 (RPS18) の発現レベルで補正し、L-glucoseで処置したときの発現を1としたときの相対値を求めた。各被験物質(サンプル)を適用したときの遺伝子発現抑制率(%)は、次の式を用いて求めた。
【0048】
【数2】
【0049】
すなわち、ここでの遺伝子発現抑制率(%)は、D-glucoseのみを処置した時の相対値からサンプル処置後にD-glucoseを処置した時の相対値を減算した値を、D-glucoseのみを処置した時の相対値からL-glucoseのみを処置した時の相対値を減算した値で除した割合(%)を示す。
【0050】
図1に示す検討(被験物質の適用無し)の結果を図3(細胞内ATP濃度測定結果)及び図4(MCP-1遺伝子発現量測定結果)に示す。図3から、D-グルコース濃度依存的に細胞内ATP産生が減少する(つまり、ATP代謝が低下する)ことが確認できた。また、図4から、D-グルコース濃度依存的に炎症性サイトカイン(MCP-1)の遺伝子発現量が増加することが分かった。
【0051】
さらに、図2に示す検討(被験物質の適用有り)の結果を、表5に併せて示す。具体的には、上述のようにして求めたATP低下改善率(%)及び各炎症サイトカイン遺伝子発現抑制率を示す。
【0052】
歯根膜細胞におけるパルミチン処理による検討
ヒト歯根膜線維芽細胞(Human periodontal ligament fibroblasts; HPDLF) に対してパルミチン処理を行い、各種炎症性サイトカイン、ケモカイン、接着因子遺伝子発現量及び各受容体遺伝子発現量がどのように変化するか、を検討した(図6において、各被験物質の添加の無い条件下での検討)。結果を図5A及び図5Bに示す。(各遺伝子の発現レベルはそれぞれ、Ribosomal protein S18(RPS18)の発現レベルで補正し、BSAで処置したときの発現を1としたときの相対値を求めた。)
またさらに、ヒト歯根膜線維芽細胞に予め各被験物質(サンプル)を処理しておき、その後にパルミチン酸処理を行った際に、各種炎症性サイトカイン、ケモカイン、接着因子遺伝子発現量及び各受容体遺伝子発現量がどのように変化するかを検討した(図6)。より詳細には、次のようにして検討した。なお、以下の詳細な説明は、図6(被験物質添加有り)記載の検討の説明だが、図5A及び図5Bに結果を示す、被験物質添加のない条件下での記載の検討についても、被験物質添加工程以外は同様の条件で行った。
【0053】
[各種炎症性サイトカイン、ケモカイン、接着因子遺伝子及び各受容体遺伝子発現の検討]
ヒト歯根膜線維芽細胞 (Human periodontal ligament fibroblasts; HPDLF) を0.45×10 cells/1mL/wellの密度で12-well プレートに播種し72時間培養した。細胞を24時間、各被験物質(サンプル)(5μg/mL)で前処置後、引き続きBSA(Bovine serum albumin; Sigma Aldrich)にコンジュゲートさせた100μMのパルミチン酸(Sigma Aldrich)で24時間処置した。対照には同濃度のBSAを使用した。総RNAはRNeasy Mini Kit(Qiagen)を使用して抽出した。1本鎖のcDNAは0.5μgの総RNAよりPrimeScript RT reagent Kit(タカラバイオ)を使用して合成した。各遺伝子発現の定量は、7500 Fast リアルタイムPCRシステム(Applied Biosystems)を使用し、それぞれに特異的なプライマー、およびTB Green Fast qPCR Mix(タカラバイオ)を用いたインターカレーター法により実施した。各遺伝子の発現レベルはそれぞれ、Ribosomal protein S18(RPS18)の発現レベルで補正し、BSAで処置したときの発現を1としたときの相対値を求めた。各サンプルの遺伝子発現抑制率(%)は、次の式を用いて求めた。
【0054】
【数3】
【0055】
すなわち、ここでの遺伝子発現抑制率(%)は、パルミチン酸のみを処置した時の相対値からサンプル処置後にパルミチン酸を処置した時の相対値を減算した値を、パルミチン酸のみを処置した時の相対値からBSAのみを処置した時の相対値を減算した値で除した割合(%)を示す。
【0056】
結果を表5にあわせて示す。なお、図6(被験物質添加有り)記載の検討では、各種炎症サイトカイン、ケモカイン、接着因子遺伝子及び各受容体遺伝子として、IL-6、CXCL1、ICAM-1、IL-8、TLR4、及びCD36を選択して用いた。
【0057】
【表5】
【0058】
【0059】
【0060】
【0061】
【0062】
図1
図2
図3
図4
図5A
図5B
図6