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  • 特開-電食防止転がり軸受 図1
  • 特開-電食防止転がり軸受 図2
  • 特開-電食防止転がり軸受 図3
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024095209
(43)【公開日】2024-07-10
(54)【発明の名称】電食防止転がり軸受
(51)【国際特許分類】
   F16C 33/58 20060101AFI20240703BHJP
   F16C 19/06 20060101ALI20240703BHJP
   F16C 33/78 20060101ALI20240703BHJP
   F16C 35/07 20060101ALI20240703BHJP
【FI】
F16C33/58
F16C19/06
F16C33/78 Z
F16C35/07
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022212320
(22)【出願日】2022-12-28
(71)【出願人】
【識別番号】000005197
【氏名又は名称】株式会社不二越
(74)【代理人】
【識別番号】100120400
【弁理士】
【氏名又は名称】飛田 高介
(74)【代理人】
【識別番号】100124110
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 大介
(72)【発明者】
【氏名】河岸 誠
【テーマコード(参考)】
3J117
3J216
3J701
【Fターム(参考)】
3J117AA01
3J117CA07
3J117DB07
3J216AA02
3J216AA12
3J216AB02
3J216BA19
3J216BA30
3J216CA01
3J216CA04
3J216CB04
3J216CB13
3J216CC45
3J216CC68
3J216CC70
3J216DA08
3J216DA11
3J216EA02
3J216EA09
3J701AA02
3J701AA32
3J701AA42
3J701AA52
3J701AA62
3J701BA53
3J701BA54
3J701BA56
3J701BA73
3J701FA11
3J701GA01
(57)【要約】
【課題】少量生産での絶縁被膜の形成に適していて、且つ外輪や内輪の絶縁性能を十分に確保し、高い電食防止効果を得ることが可能な電食防止転がり軸受を提供することを目的とする。
【解決手段】本発明にかかる電食防止転がり軸受(軸受100)の構成は、外輪120と、内輪110と、転動体130と、外輪120の外径面および側面または内輪110の内径面および側面を覆う絶縁カバー140とを備え、絶縁カバー140は、曲げ加工可能な芯材142と、芯材142のうち外輪側の面(第1面142a)または内輪側の面(第2面142b)に形成された絶縁性皮膜144a・144bと、を有し、外輪120の内径面126a・126bの少なくとも一部まで、または内輪110の外径面116a・116bの少なくとも一部までを覆っていることを特徴とする。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
外輪と、内輪と、転動体と、該外輪の外径面および側面または該内輪の内径面および側面を覆う絶縁カバーとを備え、
前記絶縁カバーは、
曲げ加工可能な芯材と、
前記芯材のうち前記外輪側の面または前記内輪側の面に形成された絶縁性皮膜と、
を有し、
前記外輪の内径面の少なくとも一部まで、または前記内輪の外径面の少なくとも一部までを覆っていることを特徴とする電食防止転がり軸受。
【請求項2】
前記絶縁カバーは、軸方向に2分割されていて、
前記分割されたカバーは、それぞれ、前記外輪の外径面または前記内輪の内径面を覆う円筒部と、前記円筒部と連続していて前記外輪と前記内輪の間の隙間を封止するシール部とを有し、
前記分割されたカバーの円筒部のつなぎ目にOリングが配置されていることを特徴とする請求項1に記載の電食防止転がり軸受。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電食防止対策に有効な電食防止転がり軸受に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、EV車(electric car)やHV車(hybrid car)等の開発の進展もあり、一台の自動車に搭載される高電圧部品の数が増加しつつある。この高電圧部品の電流が軸受に通電すると、軸受の転動体の表面、外輪や内輪の軌道面に電食が生じてしまい、損傷の一因となる。そこで例えば特許文献1では、軌道輪の表面に絶縁皮膜を設けた電食防止転がり軸受が開示されている。
【0003】
特許文献1では、「軸受1を形成するには、標準型の軸受の内輪2と外輪3の表面に、円周溝4、5を機械加工等により形成し、内輪と外輪を単独で金型内に入れ、その周面に、インサート射出成形により被膜6、7を形成する。」と記載されている。また他の例として、「内外輪2、3の表面に、環状に成形した絶縁被膜6、7を被せ、ベーキング、コーティング等により接着して形成してもよい。」と記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第3068311号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
内輪や外輪に絶縁被膜を形成する方法としては、特許文献1に例示されるインサート成形が一般的に用いられる。しかしながら、インサート成形では、その後、切削加工によって適切な寸法に仕上げる処理が必要となる。またインサート成形には比較的大規模な金型が必要である。このため、インサート成形によって絶縁被膜を形成する方法は生産数が少ない軸受の製造には適していない。
【0006】
これに対し、樹脂コーティングによって絶縁被膜を形成する方法は、生産数が少ない軸受の製造に適している。しかしながら樹脂コーティングでは、内輪の内径面および側面や外輪の外径面および側面には絶縁被膜を形成できるものの、外輪の内径面や内輪の外径面には絶縁被膜を形成することができない。このため、十分な絶縁性能を確保することが難しいことがある。
【0007】
本発明は、このような課題に鑑み、少量生産での絶縁被膜の形成に適していて、且つ外輪や内輪の絶縁性能を十分に確保し、高い電食防止効果を得ることが可能な電食防止転がり軸受を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明にかかる電食防止転がり軸受の代表的な構成は、外輪と、内輪と、転動体と、外輪の外径面および側面または内輪の内径面および側面を覆う絶縁カバーとを備え、絶縁カバーは、曲げ加工可能な芯材と、芯材のうち外輪側の面または内輪側の面に形成された絶縁性皮膜と、を有し、外輪の内径面の少なくとも一部まで、または内輪の外径面の少なくとも一部までを覆っていることを特徴とする。
【0009】
上記絶縁カバーは、軸方向に2分割されていて、分割されたカバーは、それぞれ、外輪の外径面または内輪の内径面を覆う円筒部と、円筒部と連続していて外輪と内輪の間の隙間を封止するシール部とを有し、分割されたカバーの円筒部のつなぎ目にOリングが配置されているとよい。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、少量生産での絶縁被膜の形成に適していて、且つ外輪や内輪の絶縁性能を十分に確保し、高い電食防止効果を得ることが可能な電食防止転がり軸受を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本実施形態にかかる電食防止転がり軸受を説明する図である。
図2】絶縁カバーの詳細を説明する断面図である。
図3】本実施形態の電食防止転がり軸受の他の実施例を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。かかる実施形態に示す寸法、形状、材料、その他具体的な数値などは、発明の理解を容易とするための例示に過ぎず、特に断る場合を除き、本発明を限定するものではない。なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能、構成を有する要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略し、また本発明に直接関係のない要素は図示または説明を省略する。
【0013】
図1は、本実施形態にかかる電食防止転がり軸受(以下、単に軸受100と称する)を説明する図であり、軸受100の断面を示している。図1に示すように本実施形態では軸受100として、内輪110と外輪120との間に転動体130として一列の玉を備えた単列の深溝玉軸受を例示している。
【0014】
内輪110は、内周側に位置する内径面112、その両側に配置された側面114a・114b、および側面114a・114bから連続する外径面116a・116bを有する。外輪120は、外周側に位置する外径面122、その両側に配置された側面124a・124b、および側面124a・124bから連続する内径面126a・126bを有する。本実施形態では、外輪120の外径面122、側面124a・124bおよび内径面126a・126bの一部が絶縁カバー140によって覆われている。
【0015】
図2は、絶縁カバー140の詳細を説明する断面図である。図2(a)は、絶縁カバー140の模式的な断面図である。図2(b)、(c)は、絶縁カバー140を外輪120に固定する手順を説明する模式的な断面図である。図2(a)に示すように絶縁カバー140は、芯材142および絶縁性皮膜144a・144bを含んで構成される。
【0016】
芯材142は、曲げ加工すなわち塑性変形が可能な材料からなる板状部材であり、例えば鉄、真鍮、銅、ニッケル合金などの金属を好適に用いることができる。絶縁性皮膜144a・144bは、芯材142のうち、両面(第1面142a・第2面142b)それぞれに形成される。絶縁性皮膜144a・144bとしては、ニトリルゴム等の絶縁性ゴム材料や絶縁性無機材料を好適に用いることができる。
【0017】
なお本実施形態の絶縁カバー140では、第1面142aおよび第2面142bの両方に絶縁性皮膜144a・144bが形成されている構成を示したが、これに限定するものではない。図1に例示するように絶縁カバー140が外輪120に対して設けられる場合には、芯材142の両面のうち少なくとも、外輪側の面である第1面142aに対して絶縁性皮膜144aを設ければよい。反対に、絶縁カバー140が内輪110に対して設けられる場合には、芯材142の両面のうち少なくとも、内輪側の面となる第2面142bに対して絶縁皮膜144bを設ければよい。絶縁カバー140の外側の面を絶縁被覆で覆わない場合、絶縁性が低下するが、ハウジングやシャフトとの摩擦による損耗を低減させることができる。
【0018】
図2(b)では、絶縁カバー140を外輪120に固定する場合を例示している。図2(b)に例示する絶縁カバー140は、絶縁性皮膜144a・144bが形成された芯材142を事前にL字状に曲げ加工した断面L字形状である。すなわち絶縁カバー140は底に穴のあいた有底円筒になっていて、円環状の側壁部140a(底)と、円筒状の天面部140bを含んで構成される。絶縁カバー140を外輪120に固定する際には、外輪120を円筒状の天面部140bに挿入し、側壁部140a(底)に外輪120の一方の側面を当接させる。
【0019】
そして図2(c)に示すように、側壁部140aの端部140cを外輪120の内径面126aに向かって折り曲げる。また天面部140bの開放端140dを外輪120の他方の側面124bに向かって折り曲げ、折り曲げた後の開放端140dを外輪120の内径面126bに向かって更に折り曲げる。これにより図1に示すように外輪120の外径面122、側面124a・124bおよび内径面126a・126bの一部が絶縁カバー140によって覆われた状態となる。
【0020】
上記説明したように本実施形態の軸受100によれば、外輪120に対して絶縁カバー140を取り付けることにより、少量生産される軸受においても、インサート成形の場合と同様に外輪120の内径面126a・126bを絶縁性皮膜144aによって覆うことができる。したがって、外輪120の絶縁性能を十分に確保し、高い電食防止効果を得ることが可能となる。
【0021】
(他の実施例)
図3は、本実施形態の電食防止転がり軸受の他の実施例を説明する図である。図3(a)に例示する電食防止転がり軸受(以下、軸受100aと称する)では、内輪110に対して絶縁カバー140が固定されている。かかる構成によれば、内輪110の内径面112、側面114a・114bおよび外径面116a・116bの一部が絶縁カバー140によって覆われた状態となる。したがって、図1に示す軸受100と同様に高い電食防止効果が得られる。
【0022】
なお、図1では外輪120が絶縁カバー140によって覆われる構成を例示し、図3(a)では内輪110が絶縁カバー140によって覆われる構成を例示したが、内輪110および外輪120の両方が絶縁カバー140によって覆われる構成としてもよい。この場合、内輪110または外輪120の一方を絶縁カバー140によって覆う場合に比してより高い絶縁性能を得ることができる。
【0023】
図3(b)に例示する電食防止転がり軸受(以下、軸受100bと称する)は、外輪120を覆う絶縁カバー240およびOリング200を備えている。絶縁カバー240は、軸方向において2分割された第1カバー242および第2カバー244によって構成されている。第1カバー242および第2カバー244は、図2の絶縁カバー140と同様に芯材142および絶縁性皮膜144a・144bから構成されている。
【0024】
第1カバー242および第2カバー244はそれぞれ、円筒部242a・244aおよびシール部242b・244bを有する。円筒部242a・244aは、外輪120の外径面122の略半分の領域を覆う円筒状の部位である。シール部242b・244bは、円筒部242a・244aと連続していて外輪120と内輪110の間の隙間を封止する部位である。シール部242b・244bの端部242c・244cは、それぞれ内輪110の外径面116a・116bに当接することで、それらの一部を覆っている。
【0025】
第1カバー242の円筒部と第2カバー244の円筒部242a・244aのつなぎ目には、図3(b)に示すようにOリング200が配置されている。これにより、第1カバー242の円筒部242aと第2カバー244の円筒部244aとのつなぎ目が封止される。またつなぎ目にOリング200が配置されることにより、つなぎ目におけるスパークの発生を好適に防止することができる。またOリング200は、クリープ(外輪がハウジングに対して回転する現象)を抑制する効果を有する。
【0026】
上記説明した軸受100bによれば、絶縁カバー240によって外輪120に絶縁性能を付与しつつ、外輪120と内輪110との間の隙間を封止することができる。したがって、外輪120と内輪110との間への異物の混入を好適に防止することが可能となる。
【0027】
なお図3(b)では、外輪120に対して絶縁カバー240を設ける構成を例示したが、これに限定するものではない。内輪110に対して絶縁カバー240(第1カバー242および第2カバー244)を設けて、それぞれの円筒部242a・244aによって内輪110の内径面112の略半分を覆い、それぞれのシール部242b・244bによって外輪と内輪の間の隙間を封止する構成としてもよい。この場合、シール部242b・244bの端部242c・244cは、それぞれ外輪120の内径面126a・126bの一部を覆うこととなる。
【0028】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施例について説明したが、本発明は斯かる例に限定されないことは言うまでもない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【産業上の利用可能性】
【0029】
本発明は、電食防止対策に有効な電食防止転がり軸受として利用することができる。
【符号の説明】
【0030】
100…軸受、100a…軸受、100b…軸受、110…内輪、112…内径面、114a…側面、114b…側面、116a…外径面、116b…外径面、120…外輪、122…外径面、124a…側面、124b…側面、126a…内径面、126b…内径面、130…転動体、140…絶縁カバー、140a…側壁部、140b…天面部、140c…端部、140d…開放端、142…芯材、142a…第1面、142b…第2面、144a…絶縁性皮膜、144b…絶縁性皮膜、200…Oリング、240…絶縁カバー、242…第1カバー、242a…円筒部、242b…シール部、242c…端部、244…第2カバー、244a…円筒部、244b…シール部、244c…端部
図1
図2
図3