(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024009521
(43)【公開日】2024-01-23
(54)【発明の名称】スタック性と加飾性とを備えた金属カップ
(51)【国際特許分類】
B65D 25/34 20060101AFI20240116BHJP
B65D 21/02 20060101ALI20240116BHJP
【FI】
B65D25/34 C
B65D21/02 400
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022111109
(22)【出願日】2022-07-11
(71)【出願人】
【識別番号】313005282
【氏名又は名称】東洋製罐株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100113217
【弁理士】
【氏名又は名称】奥貫 佐知子
(72)【発明者】
【氏名】田中 章太
(72)【発明者】
【氏名】村瀬 健
(72)【発明者】
【氏名】篠島 信宏
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 江利華
(72)【発明者】
【氏名】小路 勇人
【テーマコード(参考)】
3E006
3E062
【Fターム(参考)】
3E006AA01
3E006BA08
3E006CA05
3E006DA10
3E062AA10
3E062AB02
3E062AC03
3E062JA01
3E062JA07
3E062JA08
3E062JB22
3E062JB23
3E062JC02
(57)【要約】
【課題】スタック性と加飾性とを備えた金属カップを提供することにある。
【解決手段】上部が開口している中空形状を有しており、上端内径Dが下端外径dよりも大きく、上方から下方に向かって傾斜している形状の胴部3と、該胴部の下端に曲率部を介して連なっている接地部5を備えた底部7とを有するスタック性金属カップ1において、外面及び又は内面の全体にわたって、着色されたポリエステル塗膜21を介して樹脂被覆層22が設けられていることを特徴とする。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
上部が開口している中空形状を有しており、上端内径が下端外径よりも大きく、上方から下方に向かって傾斜している形状の胴部と、該胴部の下端に曲率部を介して連なっている接地部を備えた底部とを有するスタック性金属カップにおいて、
カップを形成している金属壁の内面及び又は外面の全体にわたって、着色されたポリエステル塗膜を介して樹脂被覆層が設けられていることを特徴とするスタック性金属カップ。
【請求項2】
側面でみて、前記胴部の外面には、上端を含む上部領域A1と、前記接地部を含む下部領域A2とのそれぞれに、垂直面に対する傾斜角の変化により形成される変曲点部分αを少なくとも1個含んでいる請求項1に記載のスタック性金属カップ。
【請求項3】
前記接地部から上端までの高さHを100%として、前記上部領域A1は、高さが70%~100%の範囲であり、前記下部領域A2は、高さが40%以下の範囲である請求項2に記載のスタック性金属カップ。
【請求項4】
前記変曲点部分αを画定する傾斜角差Δθが25度以下である請求項3に記載のスタック性金属カップ。
【請求項5】
前記上部領域A1と下部領域A2との間の中間領域A3に、前記胴部の傾斜角が変化する変曲点部分αが複数形成されており、該中間領域A3に形成されている変曲点部分αを画定する傾斜角差Δθは、全て、前記上部領域A1及び下部領域A2に存在している変曲点部分αを画定する傾斜角差Δθよりも小さい請求項4に記載のスタック性金属カップ。
【請求項6】
前記ポリエステル塗膜の厚みが10μm以下である請求項1に記載のスタック性金属カップ。
【請求項7】
前記ポリエステル塗膜は、フェノール樹脂、アミノ樹脂及びイソシアネート樹脂の何れかを硬化剤樹脂成分として含んでいる請求項1~6の何れかに記載のスタック性金属カップ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、積み重ねて保管できるスタック性を有する金属カップに関するものであり、さらには、加飾性をも備えた金属カップに関する。
【背景技術】
【0002】
喫飲などのために使用されるカップ形状の器としては、従来、紙やプラスチック製のものが広く使用されていた。これらの素材から成形された器は、軽量であり、しかも成形容易であるため、安価であり、使い捨ての用途に適しているからである。しかしながら、近年における資源の枯渇、ゴミ問題などの環境上の観点から、金属カップが注目されている。金属カップは、紙やプラスチック製のカップに比して、強度や耐久性が高く、繰り返し使用に適しており、資源の枯渇化やゴミの発生を大幅に抑制することができるからである。
【0003】
ところで、このような金属カップは、例えば、ビールなどのアルコール飲料を喫飲するために使用される場合が多く、所謂小ジョッキ~大ジョッキ程度の大きさを有していると同時に、スタック性を持たせるために、上端の開口内径を底部の外径よりも大きく設定された形態を有している。このような形態を有する金属カップは、例えば特許文献1に示されているように、胴部の途中に2~3の数の段差が形成されている。また、特許文献2に記載されているように、上端の開口内径を底部の外径よりも大きくするために、胴部をテーパー状の傾斜壁とすることもできるが、この場合においても、例えば胴部壁(傾斜壁)に2個程度の段差が形成されている。何れの形態の金属カップにおいても、複数のカップがスタックされたとき、胴部壁同士の密着が抑制され、スタックされた金属カップの出し入れがスムーズに行い得るようになっている。
【0004】
即ち、特許文献1,2の金属カップでは、胴部壁に段差が形成されているため、スタックされている上側のカップの胴部壁外面と、これを保持している下側のカップの胴部壁内面との間に空隙が形成され、両者が密着する部分が大幅に減じられており、スタックしやすいばかりか、スタックされているカップを引き抜き易くなっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特表2015-506842号公報
【特許文献2】特開2021-155121号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記のようなスタック性を有する金属カップは、加飾性に乏しいという欠点がる。即ち、スタック性を確保するため、カップの胴部外面には、水平方向に段差或いはビードの如き凸部がけいせいされるため、印刷範囲が大きく制限されるからである。さらに、円筒形状の金属製筒体を成形し、この外面に印刷を施した後、該筒体の下端から再絞りして上端径が大きく、下端径が小さいカップ形状に成形する場合、金属製筒体側壁の傾斜部(下端に向かって絞られた形状の傾斜部)が印刷が施されていない非加飾面となるため、やはり、印刷面が制限され、加飾性が低いものとなっている。
【0007】
また、近年における金属加工技術の発展により、絞りしごき加工により、アルミ缶に代表される金属缶の極薄肉化が実現され、金属カップでも薄肉化が実現されるようになり、カップの軽量化、省資源化が達成されている。しかしながら、このような胴部壁の薄肉化は、上記のような利点をもたらす半面、強度低下をもたらし、金属カップが変形し易くなり、スタック性が損なわれるという問題が生じている。このような強度低下を防止するという点でも、カップの胴部外面に凹凸を形成することが好適であるが、このような凹凸によっても印刷範囲が制限され、加飾性が低下する。
【0008】
従って、本発明の目的は、スタック性と加飾性とを備えた金属カップを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明によれば、上部が開口している中空形状を有しており、上端内径が下端外径よりも大きく、上方から下方に向かって傾斜している形状の胴部と、該胴部の下端に曲率部を介して連なっている接地部を備えた底部とを有するスタック性金属カップにおいて、
外面及び又は内面の全体にわたって、着色されたポリエステル塗膜を介して樹脂被覆層が設けられていることを特徴とするスタック性金属カップが提供される。
【0010】
本発明のスタック性金属カップにおいては、以下の態様が好適に採用される。
(1)側面でみて、前記胴部の外面には、上端を含む上部領域A1と、前記接地部を含む下部領域A2とのそれぞれに、垂直面に対する傾斜角の変化により形成される変曲点部分αを少なくとも1個含んでいること。
(2)前記接地部から上端までの高さHを100%として、前記上部領域A1は、高さが70%~100%の範囲であり、前記下部領域A2は、高さが40%以下の範囲であること。
(3)前記変曲点部分αを画定する傾斜角差Δθが25度以下であること。
(4)前記上部領域A1と下部領域A2との間の中間領域A3に、前記胴部の傾斜角が変化する変曲点部分αが複数形成されており、該中間領域A3に形成されている変曲点部分αを画定する傾斜角差Δθは、全て、前記上部領域A1及び下部領域A2に存在している変曲点部分αを画定する傾斜角差Δθよりも小さいこと。
(5)前記ポリエステル塗膜の厚みが10μm以下であること。
(6)前記ポリエステル塗膜は、フェノール樹脂、アミノ樹脂及びイソシアネート樹脂の何れかを硬化剤樹脂成分として含んでいること。
【発明の効果】
【0011】
本発明の金属カップは、全体として、胴部の上端内径が下端外径よりも大きく設定されており、これによりスタック性を確保しているのであるが、特に重要な特徴は、外面の全体にわたって、着色されたポリエステル塗膜を介して樹脂被覆層が設けられていることである。即ち、樹脂被覆層の下地が着色されているため、外面及び又は内面全体について、金属色が隠蔽され、下地のポリエステル塗膜の色を視認することができ、加飾性が大きく向上している。例えば、胴部は、上端から下端まで着色され、底部も着色されている。さらに、内面全体が着色された場合には、カール部までもが着色されているのが、本発明の金属カップの大きな特徴である。
【0012】
従って、本発明では、胴部の外面及び又は内面に、どのような形態の凸部(ビード)或いは段差が形成されていても加飾性が確保されている。
【0013】
本発明の金属カップにおいては、胴部壁の傾斜角の変化(即ち傾斜角差)により生じる変曲点部分αを形成することにより、胴部壁に周方向からの圧力に対する耐性を高め、形状変化を抑制することが好適である。
【0014】
このような変曲点部分αを上部域A1(高さが70%~100%の領域)に少なくとも1個形成することにより、金属カップの上端が変形し難くなっており、例えば、下方部分が変形した場合にも、開口の上端形状が変形しないため、スタック性が損なわれることがないという利点がある。
【0015】
また、上記のような変曲点部分αを下部域A2(高さが40%以下の領域)にも少なくとも1個形成することにより、下部域A2も変形が生じ難くなり、開口部の上端部分に加え、下端部分の変形も生じ難くなっている。要するにスタック性を確保するために一番重要な上部形状と下部形状とが変形し難くなっているため、スタック性がより安定的に確保され、このような案宛易したスタック性は、加飾性を損なうことなく実現される。
【0016】
さらに、本発明において、最も好適な形態は、上部領域A1と下部領域A2との間の中間領域A3にも上記のような変曲点部分αが複数形成されており、さらには、このような変曲点部分αを画定する角度差Δθが、上部領域A1及び下部領域A2での角度差Δθよりも小さく、例えば触感でわずかに感じる程度の段差であることが最適である。即ち、この中間領域A3は、この金属カップを手で握る頻度の高い部分である。この領域は、最も変形が生じる頻度の高い部分であるため、多くの変曲点部分αを設けた方がよいのであるが、上部領域A1や下部領域A2と同程度の角度差Δθにより形成される変曲点部分は、段差として明確に認識されるほど大きく、このような段差として認識される変曲点部分が多くなると、胴部壁の平滑性が損なわれ、例えば印刷適性やラベル貼布性などが損なわれてしまう。また、スタックしたとき、重ねられているカップがガタつくようになり、スタック時の安定性が損なわれてしまうこともある。そこで、この中間領域A3では、段差として認識されにくい僅かな角度差により変曲点部分αを形成し、上記不都合を防止しながら強度の向上を図ることが最適となる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本発明の金属カップの形態の一例を示す概略側断面図及び胴部の部分断面図。
【
図2】本発明の金属カップを形成している金属壁の側断面を拡大して示す図。
【発明を実施するための形態】
【0018】
<金属カップの形態>
先ず、本発明の金属カップの好適な形態について説明する。
図1において、全体として1で示す本発明の金属カップは、胴部3と、接地部5を備えた底部7を備えている。胴部3の上端には、通常、カール部9が形成されており、鋭利な端部が外部に露出しないようになっている。また、胴部3の下端は、曲率部Rを介して接地部5に連なっている。
底部7は、通常、接地部5よりも上方に位置するフラットな形態、所謂、上げ底形態を有しているが、中央部分がドーム状に凹んだ形状を有していてもよい。
胴部3は、上端が開口されている中空部10を形成しており、この中空部10は底部7により閉じられ、用途に応じて、飲料等の液体が収容されるようになっている。
【0019】
上記の金属カップ1では、スタック性を確保するために、中空空間(又は中空開口)10の上端の開口径D(即ち、胴部3の上端の内径)が下端の外径dよりも大きく、下方に行くにしたがって傾斜している。
【0020】
尚、この金属カップ1の構成素材である金属は、種々の金属ないし合金材であってよく、例えば、アルミニウム、銅、鉄或いは、これらの金属を含む合金、さらにはブリキなどの錫めっき鋼板や化成処理を施したアルミニウム板などの表面処理鋼板であってよい。一般的には、スチール、ステンレススチール、アルミニウムもしくはアルミニウム合金などが好適であるが、特に軽量性や加工性などの観点から、アルミニウム若しくはその合金が好適である。即ち、上記の金属の薄肉の素板を用いて金属カップ1が成形されるが、素板の形態や成形手段等については、後述する加飾の項で詳述する。
【0021】
上記のような金属カップ1において、底部7の中心部分の厚みは、このカップ1の成形に用いる素板の厚みに相当し、カップ1の用途によっても相違するが、一般に0.10乃至0.50mmの厚みを有しており、胴部3の厚みやカップ1のハイトH(接地部5から胴部3の上端までの高さ)は、しごきの程度によって異なり、しごき率を次第に高くしてしごき加工を多段で行うにつれて、胴部3は薄肉化され、且つハイトHは高くなる。特に近年では、この薄肉化が顕著となっており、このような薄肉化に対応し得るように、本発明の金属カップ1は、以下のような形態を有するものである。
【0022】
この胴部3には、
図1に示されているように、傾斜角度(垂直面に対する角度)が変化している箇所が多数存在しており、この傾斜角の角度差Δθにより変曲点部分αが生じる。この角度差Δθが大きいと、この変曲点部分αは、段差として明確に視認される。このような変曲点部分αは、この金属カップ1の胴部3の周方向外面からの応力に対して耐性を示し、胴部3の変形を有効に抑制する。
尚、以下の説明において、傾斜角と記載するときは、特記しない限り、垂直面に対する角度を意味する。
【0023】
例えば、
図1に示されている例では、垂直面に対する傾斜角が2度以下、特に1度以下、好ましくは0.5度以下(即ち、傾斜角がほぼゼロである)である基準垂壁3aと、基準垂壁3aとの角度差Δθを有する傾斜壁3bが交互に連なっており、複数の変曲点部分αが形成されている。この場合、前記基準垂壁3aの傾斜角は、前記角度差△θよりも小さい。なお、上記角度差Δθ(即ち、基準垂壁3aとの角度差)は、25度以下の範囲であり、複数の変曲点部分αを形成する角度差Δθは、一律に同一でもよいし、傾斜角が25度以下であることを条件に、それぞれ異なる値であってもよい。
【0024】
本発明において、上記のような胴部3の垂直面に対する傾斜角や垂直壁3aとの角度差Δθは、当然、中空部10の上端の開口径Dが下端の外径dよりも大きいという条件を満足するように設定されるわけであるが、必要以上に大きく設定されていると、下端の外径dが必要以上に小さくなったり、或いは、変曲点部分α(段差)の数が制限されてしまい、さらには、胴部3の外面の平坦性が損なわれてしまい、印刷適性やラベル貼布性が損なわれてしまう。このような観点から、胴部3の傾斜角度(垂直面に対する角度)は、7度以下であり、且つ角度差Δθが5度以下、特に1度以下、最も好ましくは0.5度以下に設定することが好ましい。これにより、変曲点部分αの数を適度に多くすることができる。例えば、水平方向に凹んだ凹部により変曲点部分を形成することは望ましくない。
【0025】
上記のような変曲点部分αを有する胴部3を備えた金属カップ1は、胴部3のハイトHを100%としたとき、高さが70%~100%の上となる上部領域A1と、高さがHの40%以下の下部領域A2と、これらの領域A1とA2との間の中間領域A3に3分割することができる。本発明では、これらの領域のそれぞれに、上記のような角度差Δθによる変曲点部分αが分布している。
【0026】
まず、上部領域A1においては、胴部3の傾斜角の角度差Δθにより生ずる変曲点部分αが少なくとも1個、好ましくは2~4個形成される。これにより、上部領域A1を高強度化することができ、中空開口10の上端部分の変形を有効に抑制することができ、スタック性を確保することができる。
【0027】
また、下部領域A2においては、胴部3の傾斜角の角度差Δθにより生ずる変曲点部分αが少なくとも1個、好ましくは3~5個形成することが望ましい。これにより、上部領域A1と共に下部領域A2も高強度化することができ、中空開口10の上端部分及び下端部分の変形を有効に抑制することができ、スタック性をより確実に確保することができる。即ち、スタックに際して、金属カップ1の受け入ればかりか、金属カップ1の挿入もスムーズに行うことができる。
【0028】
尚、上記の上部領域A1及び下部領域A2での傾斜角の角度差Δθは、前述したように、25度以下に設定される。
【0029】
また、
図1においては、垂直面に対する傾斜角が非常に小さい(或いは傾斜角がゼロ)基準垂壁3aと、該基準垂壁3aに対して角度差Δθを有する傾斜壁3bとが交互に連なっているが、角度差Δθが25度以下である限りにおいて、基準垂壁3aと傾斜壁3bとの間にさらに傾斜角の異なる壁(例えば傾斜壁3bよりも傾斜角の大きいテーパー壁)が形成されていてもよい。この場合には、テーパー壁と傾斜壁3b及びテーパー壁と基準垂壁3aとの間にも変曲点部分αが形成されることになる。
【0030】
さらに、本発明においては、中間領域A3にも傾斜角の角度差Δθにより生ずる変曲点部分αを少なくとも4個、好ましくは6~10個形成することが最適である。即ち、この金属カップ1は、ビールなどのアルコール飲料などを喫飲するために使用される場合が最も多い。従って、中間領域A3の部分が最も強く握られて変形しやすい箇所となっている。従って、この部分の強度化を図る上で、上記のような数の変曲点部分αを形成するのがよい。また、中間領域A3は大面積であるため、この部分がフラットであると、金属カップ1をスタックしたとき、重ね合わされている上下のカップ1間で密着する領域が大きくなり、このため、スタック性が低下する恐れがある。このようなスタック性の低下を回避する上でも変曲点部分αを多く形成することが好適である。
【0031】
ところで、中間領域A3を示す
図2を併せて参照して、この中間領域A3は大面積であり、金属カップ1の中央部分に位置している。このため、この部分には、印刷が施されたり、或いはラベルなどが貼布される頻度が極めて高い。このため、この領域では高い平滑性が求められる。このような観点から、この中間領域A3での傾斜角の角度差Δθは、上部領域A1や下部領域A2よりも小さく形成されていることが好ましく、複数存在する角度差Δθは、全て、5度以下、特に1度以下、最も好適には、0.5度以下であることが望ましい。このような小さな角度差による変曲点部分αは、
図2からも理解されるように、触感で認識できる程度の僅かな段差を示すものであり、高強度化という点では上部領域A1や下部領域A2での変曲点部分αよりも劣っている。しかしながら、このような小さな角度差による変曲点部分αであってもスタック性を確保するという点では十分であり、しかも、変曲点部分αの数を多く設定すること(隣り合う変曲点部分αの間隔を小さくすること)により、ある程度の高強度化を図ることができるため、最も好ましい態様である。
【0032】
上述した本発明の金属カップ1は、先に述べたように、ビールを飲む際のジョッキ代わりに使用される頻度が多いことから、高さHが90~150mmの範囲にあり、前記開口の上端内径が70~90mmの範囲にあることが最も好ましい。
また、上述した例では、上端にカール部7が形成されているが、カール7の代わりに水平フランジなどを形成し、食品類などを収容した後、ヒートシールなどにより蓋材を設けて使用することもできる。この場合には、使用後のカップを繰り返し使用する際、その保管に有利である。
【0033】
<加飾性について>
上述した形態を有する本発明の金属カップ1は、外面及び又は内面の全体が着色されており、優れた加飾性を示す。即ち、胴部3の上端から下端までが着色されているばかりか、底部7やカール部9を含む金属カップ1の全体が、胴部3と同様の色に着色されている。
【0034】
具体的に説明すると、上述した形態に成形されている金属カップ1を形成している金属壁の側断面を拡大して示す
図2を参照して、この金属壁20の外面には、着色されたポリエステル塗膜21が全面にわたって形成されており、このポリエステル塗膜21を介して樹脂被覆層22が設けられている。一方、金属壁20の内面には、特に制限されるものではないが、通常、耐腐食性や、過酷な成形加工に際しての表面荒れやなどを抑制し、さらには金属の腐食を防止するために、プライマー塗膜23を介して、熱可塑性又は硬化性樹脂被覆層が設けられる。
【0035】
本発明においては、金属カップ1の成形に用いる金属製の素板の一方の面に(即ち、カップ1の外面となる面)、着色されたポリエステル塗膜21及び樹脂層22を形成し、他方の面には、プライマー塗膜23及び樹脂被覆層24を形成して、ラミネート板を得、このラミネート板を成形素材として所定の塑性加工を行うことにより、
図1に示す形態を有し、且つ外面の全体が着色された金属カップ1を得ることができる。具体的には、上記のラミネート板について、打抜き、絞り加工を行い、ほぼ同時に底部加工を行い、その後、トリミング部の熱処理(膜剥がれ防止)、トリミング、カール工程を行い、ほぼ直胴形状を有した有底缶体を得、この缶体に対して、内部に、有底缶体の内径より小径の円柱状インナーツールを配置し、有底缶体の底部側に、傾斜成形面を有するリング状のアウターツールを配置する。底部側からアウターツールの傾斜成形面を当てて有底缶体の側壁を傾斜状に成形する傾斜壁3bを形成し、これを繰り返して、
図1に示す形態を有し、且つ外面及び又は内面の全体が着色された金属カップ1を得ることができる。
その他の加工方法としては、ラミネート板について、打ち抜き、絞り加工を行い、ほぼ直胴形状を有した有底缶体を形成し、トリミング工程を行い、有底缶体の先端部にカール成形を施した後、拡径ダイを用いて側壁を拡径することで、金属カップ1を得ることができる。
【0036】
本発明において、着色されたポリエステル塗膜21を形成するための塗料組成物としては、例えばWO2020/184200に開示されているポリエステル塗料組成物が好適に使用される。
この塗料組成物は、ベース樹脂成分として公知のポリエステルを含み、さらに、硬化剤樹脂成分及び着色剤を含んでおり、これらの成分が有機溶剤に分散されたものである。ポリエステル及びポリエステルと併用する各成分の詳細は、上記のWO2020/184200に記載されているとおりである。
【0037】
例えば、硬化剤樹脂は、ベース樹脂として使用されているポリエステルが有するOH基やCOOH基と反応する官能基を有するものであり、フェノール樹脂、イソシアネート樹脂、アミノ樹脂等から成る硬化剤を挙げることができる。これらの樹脂は単独でも2種以上の組合せでも使用され、通常、ポリエステル100質量部当り、5~43質量部、特に8~18質量部の量で使用される。
上記硬化剤の内でも、レゾール型フェノール樹脂、アミノ樹脂を好適に使用することができるが、フェノール樹脂を用いた場合には形成される塗膜が黄色くなることから、着色剤本来の色味を発現するためには、アミノ樹脂を用いることが最も好適である。
【0038】
着色剤としては、アゾ系顔料、フタロシアニン系顔料、縮合多環系顔料、及び染色レーキ系顔料等の有機顔料、酸化物、ケイ酸塩、フェロシアン系化合物等の無機顔料、偏光パール顔料等のアルミ系光輝顔料、マイカ系光輝顔料、ガラス系光輝顔料等の光輝顔料等、目的とする金属カップ1の外観のデザインに応じて、適宜の顔料を1種又は2種以上を使用することができる。色味や物性調整などのために、酸化チタン、酸化亜鉛等の白色顔料や、炭酸カルシウム等の体質顔料を配合することもできる。
【0039】
上記のような着色剤は、塗料組成物の全樹脂固形分(ポリエステル樹脂と硬化剤の合計)100質量部に対して、20質量部以下で且つ下地の金属の色を隠蔽し得る程度の量、特に1質量部以上の量で使用され、特に特に1~10質量部の量で添加されていることが好ましい。上記範囲よりも着色剤の量が多い場合には、金属板と樹脂被覆との加工密着性が低下すると共に、胴部と、胴部に比して加工の程度が低い底部との色の違いが明確になってしまうおそれがある。また塗料組成物の安定性が低下し、長期保存する際に、沈殿物や分離、粘度変化を生じ、塗工性が低下することもある。
【0040】
有機溶剤としては、ポリエステル樹脂の可塑効果があり、かつ両親媒性を有するものが好ましく、例えば、エタノール、n-プロパノール、イソプロパノール、n-ブタノール、イソブタノール、sec-ブタノール、tert-ブタノール、イソアミルアルコール、sec-アミルアルコール、tert-アミルアルコール、n-ヘキサノール、シクロヘキサノール、などのアルコール類、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、エチルブチルケトンなどのケトン類、テトラヒドロフラン、ジオキサン、1,3-ジオキソラン、などの環状エーテル類、エチレングリコール、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、ジエチレングリコール、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールエチルエーテルアセテート、プロピレングリコール、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールメチルエーテルアセテート等のグリコール誘導体、3-メトキシ-3-メチルブタノール、3-メトキシブタノール、アセトニトリル、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、ジアセトンアルコール、アセト酢酸エチル、等を使用することができる。
【0041】
また、上記のポリエステル塗料組成物には、硬化触媒として酸触媒を全樹脂固形分(ポリエステル樹脂と硬化剤の合計)100質量部に対して0.01~3質量部の量で配合されていることが好ましい。酸触媒としては、例えば、硫酸、p-トルエンスルホン酸、ドデシルベンゼンスルホン酸、ナフタレンスルホン酸、ジノニルナフタレンスルホン酸、ジノニルナフタレンジスルホン酸、樟脳スルホン酸、リン酸、及びこれらをアミンブロック(アミン化合物で一部あるいは全部を中和すること)したもの、等が挙げられ、これらの中から一種又は二種以上を併用することができる。これらの酸触媒の中では、樹脂との相溶性、衛生性の面からドデシルベンゼンスルホン酸、及びドデシルベンゼンスルホン酸をアミンブロックしたものが特に好ましい。
【0042】
このようなポリエステル塗料組成物は、ロールコート法、スプレー法、浸漬法、刷毛塗り法等の従来公知の方法により、塑性加工に供される金属製の素板の一方の表面(カップとしてときに外面となる側の面)に塗布され、100~300℃、特に150~270℃の温度で焼付される。焼付時間は、通常、5秒~30分、好ましくは15秒~15分である。
【0043】
また塗膜の膜厚は、乾燥膜厚(金属カップ1に成形されたときの膜厚に相当)で7μm以下、特に0.4~3.0μmの範囲にあることが好ましい。上記範囲にあることにより、発色の良いポリエステル塗膜を密着性良く金属カップ1の外面となる面に形成できる。
【0044】
上記のようにして金属製の素板に形成されるポリエステル塗膜21の上に、透明な樹脂被覆層22が形成される。かかる樹脂被覆層22は、着色されたポリエステル塗膜21がプライマーとなって、金属製の素板にしっかりと接合され、下地のポリエステル塗膜の色を視認することができる。
【0045】
樹脂被覆層22の形成に使用される樹脂としては、特に限定されず、例えば、結晶性ポリプロピレン、結晶性プロピレン-エチレン共重合体、結晶性ポリブテン-1、結晶性ポリ4-メチルペンテン-1、低-、中-、或いは高密度ポリエチレン、エチレン-酢酸ビニル共重合体(EVA)、エチレン-アクリル酸エチル共重合体(EEA)、イオン架橋オレフィン共重合体(アイオノマー)等のポリオレフィン類;ポリスチレン、スチレン-ブタジエン共重合体等の芳香族ビニル共重合体;ポリ塩化ビニル、塩化ビニリデン樹脂等のハロゲン化ビニル重合体;アクリロニトリル-スチレン共重合体、アクリロニトリル-スチレン-ブタジエン共重合体の如きニトリル重合体;ナイロン6、ナイロン66、パラまたはメタキシリレンアジパミドの如きポリアミド類;ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリテトラメチレンテレフタレート等のポリエステル類;各種ポリカーボネート;ポリオキシメチレン等のポリアセタール類等の熱可塑性樹脂から構成されたプラスチックフイルム、或いは、フェノール樹脂、メラミン樹脂、アルキド樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂、エポキシアクリル樹脂、エポキシフェノール樹脂、エポキシユリア樹脂、ビスマレイミド樹脂、トリアリルシアヌレート樹脂、熱硬化型アクリル樹脂、シリコーン樹脂、油性樹脂等を用いた樹脂塗料、或いは熱可塑性樹脂塗料、例えばビニルオルガノゾル、塩化ビニル-酢酸ビニル共重合体、塩化ビニル-酢酸ビニル共重合体部分ケン化物、塩化ビニル-マレイン酸共重合体、塩化ビニル-マレイン酸-酢酸ビニル共重合体、アクリル重合体、飽和ポリエステル樹脂等を用いた樹脂塗料を挙げることができる。
【0046】
本発明においては、上記樹脂の中でも、しっかりと下地のポリエステル塗膜に密着保持されると同時に、透明性に優れ、ポリエステル塗膜の色が外部から容易に視認できることから、特にポリエステル樹脂、例えばポリエチレンテレフタレート(PET)を好適に使用できる。
【0047】
また、上記の熱可塑性樹脂は、フィルム形成範囲の分子量を有していればよく、また、腐食成分に対するバリヤー性や機械的性質の点から、特にポリエステルは、フェノール/テトラクロロエタン混合溶媒を用いて測定した固有粘度〔η〕が0.5以上、特に0.52~0.70の範囲にあることが好ましく、またガラス転移点が50℃以上、特に60℃~80℃の範囲にあることが好ましい。
【0048】
上述した樹脂には、透明性が損なわれない限り、それ自体公知のフィルム用配合剤、滑剤、アンチブロッキング剤、顔料、各種帯電防止剤、酸化防止剤等を公知の処方によって配合することができる。
【0049】
樹脂被覆層22の形成は、該熱可塑性樹脂によってフィルムを形成した後、熱接着法で上記ポリエステル塗膜に被覆する方法を採用することができるが、加熱溶融した熱可塑性樹脂を押出機を用いてフィルム状に押出し、直接、金属製素板上に形成されているポリエステル塗膜上に被覆する押出ラミネート法によるものであってもよい。
また被覆層22の形成に熱可塑性樹脂フィルムを用いる場合、該フィルムは延伸されていてもよいが、未延伸フィルムであることが成形加工性及び耐デント性の点から好ましい。
ポリエステルフィルムの厚みは、一般に5~40μmの範囲にあることが好ましい。
【0050】
上記のようにして、金属カップ1の外面となる側にポリエステル塗膜21及び樹脂被覆層22が形成されたラミネート板を得ることができる。
【0051】
また、内面側に適宜形成されるプライマー23としては、ポリエステル系塗料、アクリル系塗料、ウレタン系塗料、シリコン系塗料、フッ素系塗料などの塗料に由来する被覆を挙げることができ、このようなプライマー23の上には、前述した樹脂被覆層22と同様の樹脂を用いて、熱接着法或いは押出ラミネート法により形成される。
【0052】
上記のようなラミネート板を
図1に示す形態に塑性加工して得られる本発明の金属カップ1は、例えば外面の胴部の中央領域A3に印刷を施し、熱処理を行い、歪みを解消した後、市販されることにある。
このような金属カップ1は、外面全体が、底部も含めて着色されているため、高い加飾性を示し、胴部に印刷を施したとき、印刷像により外観向上を最大限に発揮させることができ、さらには、安定したスタック性を示し、強度も向上している。
【符号の説明】
【0053】
1:金属カップ
3:胴部
R:曲率部
5:接地部
7:底部
9:カール部
10:中空空間(又は中空開口)
20:金属壁
21:ポリエステル塗膜
22:樹脂被覆層
23:プライマー
24:樹脂被覆層
α:変曲点部分