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▶ 三菱鉛筆株式会社の特許一覧

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024095215
(43)【公開日】2024-07-10
(54)【発明の名称】筆記具
(51)【国際特許分類】
   B43K 3/00 20060101AFI20240703BHJP
【FI】
B43K3/00 N
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022212331
(22)【出願日】2022-12-28
(71)【出願人】
【識別番号】000005957
【氏名又は名称】三菱鉛筆株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小野寺 裕
(57)【要約】
【課題】筆記具部品の表面よりも内面側に、表面が摩耗した状態でも削れることのない、視認性が良好な刻印を施す。
【解決手段】内部が視認可能な合成樹脂で形成されているとともに、最外層と、前記最外層より内側に位置する少なくとも一つの内層とで構成される筆記具部品と、前記最外層と前記内層との間において、前記合成樹脂が発泡若しくは炭化又はその両方を被って形成された刻印と、を有する、筆記具。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
内部が視認可能な合成樹脂で形成されているとともに、最外層と、前記最外層より内側に位置する少なくとも一つの内層とで構成される筆記具部品と、
前記最外層と前記内層との間において、前記合成樹脂が発泡若しくは炭化又はその両方を被って形成された刻印と、を有する、筆記具。
【請求項2】
前記内層にのみ、反応性添加剤が配合されている、請求項1に記載の筆記具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、軸筒やキャップ、クリップといった刻印が施された筆記具部材の刻印方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、特許文献1に示されるように軸筒内面に可飾することで、装飾の汚れや摩耗等を防ぐ塗布具が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】WO2013/008811
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、転写フィルム等は、フィルムを巻く手間がかかることがあり、軸筒内面への可飾は製造技術として容易ではなく、また接着不良等により剥がれてしまう可能性がある。そこで、筆記具部品の表面よりも内面側に、表面が摩耗した状態でも削れることのない、視認性が良好な刻印を施すことが可能な筆記具を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示の実施態様の筆記具は、内部が視認可能な合成樹脂で形成されているとともに、最外層と、前記最外層より内側に位置する少なくとも一つの内層とで構成される筆記具部品と、前記最外層と前記内層との間において、前記合成樹脂が発泡若しくは炭化又はその両方を被って形成された刻印と、を有する。
【0006】
また、本開示の実施態様の筆記具は、上記の構成に加え、前記内層にのみ、前記反応性添加剤が配合されていることが望ましい。
【発明の効果】
【0007】
本開示の実施態様により、筆記具部品の表面よりも内面側に、表面が摩耗した状態でも削れることのない、視認性が良好な刻印を施すことが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】実施形態の筆記具の外観を正面図(A)及び側面図(B)で示す。
図2図1の筆記具の軸筒を斜視図(A)、側面図(B)並びに図2(B)におけるIIc-IIc断面図(C)及びIId-IId断面図(D)で示す。
図3図1の筆記具のクリップを正面図(A)、斜視図(B)、側面図(C)並びに図3(A)におけるIIId-IIId断面図(D)及びIIIe-IIIe断面図(E)で示す。
図4図1の筆記具の天冠を側面図(A)、平面図(B)、底面図(C)、平面斜視図(D)、底面斜視図(E)及び図4(A)におけるIV-IV断面図(F)で示す。
図5図1(A)のV-V断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、図面を参照しつつ、本発明の1の実施の形態を説明する。なお、以下で説明する図面においては、筆記具10において筆記先端(後述するボールペンチップ13)が位置する側を「先端側」と称し、その反対側を「後端側」と称する。また、筆記具10を先端側から見た面を「平面」と称し、筆記具10を後端側から見た面を「底面」と称する。なお、各図面において共通して付されている符号は、各図面の説明において特段の説明がなくとも、共通する部位、部材又は構造を指し示す。
【0010】
(1)筆記具10
本実施の形態に係る筆記具10は、図1に示すようなボールペンとして形成される。図1(A)はこの筆記具10の正面図である。図1(B)はこの筆記具10の側面図である。
【0011】
図1(A)及び図1(B)に示すように、この筆記具10は、筆記具部品50としての軸筒20の先端にキャップ17が装着され、また、軸筒20の後端に後軸14が装着された外観を呈する。キャップ17の側面には筆記具部品50としてのクリップ30が装着される。また、クリップ30の先端には筆記具部品50としての天冠40が装着される。軸筒20、クリップ30及び天冠40はそれぞれ、内部が視認可能な合成樹脂製である。軸筒20、クリップ30及び天冠40にはそれぞれ、外部から視認される刻印60が形成されている。
【0012】
図2は、図1の筆記具10における軸筒20の構造を示す。図2(A)は軸筒20の斜視図である。図2(B)は軸筒20の側面図である。図2(C)は図2(B)のIIc-IIc断面図である。図2(D)は図2(B)のIId-IId断面図である。
【0013】
筆記具部品50としての軸筒20は、図2(A)~図2(C)に示すように、略円筒形状の内筒21の中間部分に、略円筒形状の外筒22が外挿された外観を呈している。内筒21の先端側は開放しており、後端側は閉鎖している。内筒21及び外筒22はいずれも、内部が視認可能で、かつ、互いに成分の異なる合成樹脂の二色成形にて形成されている。内筒21を構成する合成樹脂には、後述する反応性添加剤が添加されているが、外筒22を構成する合成樹脂には添加されていない。すなわち、図2(C)に示すように、外筒22が最外層51を形成し、また、内筒21が内層52を形成している。また、軸筒20に形成されている刻印60(図2(A)及び図3(B)参照)は、外筒22の表面からレーザーマーキングを施すことで形成されている。この点については後述する。
【0014】
以上により軸筒20は、外筒22が外挿されている中間部27に対し、キャップ17が装着される先端部26と、後軸14が装着される後端部28とがいずれも外径を減じた形状を呈している。また、図2(C)に示すように、軸筒20のうち先端部26の内部空間は、後述するコレクター15(図5参照)が収容されるコレクター収容部23となっている。また、軸筒20のうち中間部27及び後端部28の内部空間は、後述するインク18(図5参照)が収容されるインク収容部24となっている。インク収容部24の内周面には、長手方向に沿った突条であるリブ25が複数本、軸心に対し等配されている。
【0015】
内層52としての内筒21を構成する合成樹脂には、レーザーマーキングで放射されるレーザー光のエネルギーを吸収する反応性添加剤が添加されている。反応性添加剤としては、銅酸化物及びモリブデン酸化物の混合物、ビスマス酸化物及びガリウム酸化物の混合物、ビスマス酸化物、ガリウム酸化物及びネオジム酸化物の混合物、アンチモン、砒素、ビスマス、銅、ガリウム若しくはゲルマニウム若しくはこれらのいずれかの酸化物をドープした酸化錫で雲母の薄片状基質を被覆した顔料、並びに水酸化銅一燐酸塩若しくは酸化モリブデンを添加した高分子物質を挙げられる。反応性添加剤は、これらのうちの1種類のみを用いてもよいし、また、2種類以上を混合して併用してもよい。一方、最外層51としての外筒22を構成する合成樹脂には、このような反応性添加剤は添加されていない。
【0016】
反応性添加剤の含有量は、合成樹脂の全体量に対して0.01~10質量%の範囲であることが望ましい。反応性添加剤の含有量が0.01質量%以上であることにより、内筒21における発泡若しくは炭化又はそれらの両方が良好に発生する。一方、反応性添加剤の含有量が10質量%以下であることにより、軸筒20の透明性が確保され、軸筒20内におけるインク18の残量や色の視認が可能となる。
【0017】
ここで、光線透過性のある合成樹脂材料で形成された軸筒20にレーザーマーキングを行う場合、波長が10,600nmのCOレーザーマーカーでは刻印を形成することができるが、その刻印は炭化も発泡も生じず凹凸が形成されるのみとなり、十分な視認性は得られない。他方、波長が1,000nm前後の波長のファイバーレーザーマーカーでは、その波長が合成樹脂材料のエネルギー吸収帯ではないので、光透過性のある合成樹脂材料に対しては、レーザー光線が透過するため、刻印を形成することができない。そのため、合成樹脂材料に反応性添加剤を配合することで、合成樹脂材料のエネルギー吸収帯ではない波長域のレーザー光でも文字情報等の刻印の形成が可能となる。すなわち、通常、合成樹脂材料は800~1,500nmの波長のレーザー光に対してはそれ自体では反応しないが、この反応性添加剤がレーザー光のエネルギーを吸収して励起され、合成樹脂を変色させることができる。文字情報等の刻印60は発泡若しくは炭化又はその両方により凸状に隆起する。そのため、文字情報等が表面に対して陥凹する機械的な刻印に比べて視認性が良好である。たとえば、合成樹脂としてポリプロピレン樹脂を使用し、ファイバーレーザーマーカーでレーザーマーキングを行う場合、レーザー光の波長は1,000~1,100nmが望ましい。
【0018】
軸筒20は、上述の合成樹脂の二色成形で形成されている。そして、外筒22の外部から、上述のレーザーマーカーを用いてレーザーマーキングをすることで、レーザー光は外筒22を透過するが、内筒21の表面が反応性添加剤によりレーザー光のエネルギーを吸収することで、発泡若しくは炭化又はその両方が生ずる。これにより、図2(D)の断面図に示すように、外筒22と内筒21との間に刻印60が形成される。そしてこの刻印60が、図2(A)及び図2(B)に示すように、外部から文字、記号又は図形として視認可能となっている。
【0019】
すなわち、筆記具部品50としての軸筒20は、内部が視認可能な合成樹脂で形成されているとともに、最外層51である外筒22と、この最外層51より内側に位置する少なくとも一つの内層52としての内筒21とで構成される。そして、この軸筒20を備えた筆記具10においては、この内層52としての内筒21を構成する合成樹脂にのみ、反応性添加剤が配合されている。これにより、外筒22と内筒21との間で、合成樹脂が発泡若しくは炭化又はその両方を被って形成された刻印60が形成される。
【0020】
図3は、図1の筆記具10におけるクリップ30の構造を示す。図3(A)はクリップ30の正面図である。図3(B)はクリップ30の斜視図である。図3(C)はクリップ30の側面図である。図3(D)は図3(A)のIIId-IIId断面図である。図3(E)は図3(A)のIIIe-IIIe断面図である。
【0021】
筆記具部品50としてのクリップ30は、図3(B)及び図3(C)に示すように、キャップ17(図1(B)参照)の外部に露出する長辺31と、キャップ17に埋設される短辺32と、長辺31と短辺32とを先端側で連結する連結辺33と、長辺31の後端側が内方に折り返された折返し34とで構成される。また、図3(D)に示すように、長辺31を構成する部分は、最外層51と内層52との二層構造となっている。すなわち、最外層51と内層52とは、内部が視認可能で、かつ、互いに成分の異なる合成樹脂の二色成形にて形成されている。内層52を構成する合成樹脂には、先述した反応性添加剤が添加されているが、最外層51を構成する合成樹脂には添加されていない。
【0022】
そして、最外層51の外面側から、上述のレーザーマーカーを用いてレーザーマーキングをすることで、レーザー光は最外層51を透過するが、内層52の表面が反応性添加剤によりレーザー光のエネルギーを吸収することで、発泡若しくは炭化又はその両方が生ずる。これにより、図3(E)の断面図に示すように、最外層51と内層52との間に刻印60が形成される。そしてこの刻印60が、図3(A)及び図3(B)に示すように、長辺31の外部から文字、記号又は図形として視認可能となっている。
【0023】
すなわち、筆記具部品50としてのクリップ30は、内部が視認可能な合成樹脂で形成されているとともに、最外層51と、この最外層51より内側に位置する少なくとも一つの内層52とで構成される。そして、このクリップ30を備えた筆記具10においては、この内層52を構成する合成樹脂にのみ、反応性添加剤が配合されている。これにより、最外層51と内層52との間で、合成樹脂が発泡若しくは炭化又はその両方を被って形成された刻印60が形成される。
【0024】
図4は、図1の筆記具10における天冠40の構造を示す。図4(A)は天冠40の側面図である。図4(B)は天冠40の平面図である。図4(C)は天冠40の底面図である。図4(D)は天冠40の平面斜視図である。図4(E)は天冠40の底面斜視図である。図4(F)は図4(A)におけるIV-IV断面図である。
【0025】
筆記具部品50としての天冠40は、図4(A)、図4(C)、図4(D)、図4(E)及び図4(F)に示すように、略半球状のドーム部41と、ドーム部41の後端側で拡径する円盤状のフランジ部42と、フランジ部42から後方に突出する略筒状の圧入部43と、ドーム部41、フランジ部42及び圧入部43を貫通する第一貫通孔45に圧入されるインナーピース44とで構成される。インナーピース44には先端から後端まで貫通する第二貫通孔46が設けられる。
【0026】
図4(F)に示すように、ドーム部41に当たる部分は、最外層51と内層52との二層構造となっている。すなわち、最外層51と内層52とは、内部が視認可能で、かつ、互いに成分の異なる合成樹脂の二色成形にて形成されている。内層52を構成する合成樹脂には、先述した反応性添加剤が添加されているが、最外層51を構成する合成樹脂には添加されていない。
【0027】
そして、ドーム部41の最外層51の外面側から、上述のレーザーマーカーを用いてレーザーマーキングをすることで、レーザー光は最外層51を透過するが、内層52の表面が反応性添加剤によりレーザー光のエネルギーを吸収することで、発泡若しくは炭化又はその両方が生ずる。これにより、図4(F)の断面図に示すように、最外層51と内層52との間に刻印60が形成される。そしてこの刻印60が、図4(A)、図4(B)及び図4(D)に示すように、ドーム部41の外部から文字、記号又は図形として視認可能となっている。
【0028】
すなわち、筆記具部品50としての天冠40は、内部が視認可能な合成樹脂で形成されているとともに、最外層51と、この最外層51より内側に位置する少なくとも一つの内層52とで構成される。そして、この天冠40を備えた筆記具10においては、この内層52を構成する合成樹脂にのみ、反応性添加剤が配合されている。これにより、最外層51と内層52との間で、合成樹脂が発泡若しくは炭化又はその両方を被って形成された刻印60が形成される。
【0029】
なお、天冠40は、軸筒20及びクリップ30と比較して微小の部品であることから、シリアルナンバー等の目視でわかりにくい識別を刻印60として付すことに適している。
【0030】
図5は、図1(A)のV-V断面図である。軸筒20の先端には、先端方向に先細りとなっている先軸11が装着される。先軸11の先端には、継手12を介してボールペンチップ13が装着される。軸筒20のコレクター収容部23(図2(C)参照)には、リング状の薄板を軸方向に重ねたコレクター15が形成されている。コレクター15は、直液式ボールペンにおいて、気圧や温度の変化でインク収容部24の空気が膨張した際、インク18を保留し、外部への漏れを防止するためのものである。軸筒20のインク収容部24には、インク18が液体の性状のまま(すなわち、直液式)で収容される。コレクター15の軸心には、インク収容部24とボールペンチップ13とを連絡するインク誘導芯16が貫通している。クリップ30の短辺32は、キャップ17の先端側からキャップ17の内部に挿入され、先端からさらに挿入される天冠40がクリップ30の抜け止めとなっている。
【0031】
以上より、筆記具部品50の表面よりも内面側に、表面が摩耗した状態でも削れることのない、視認性が良好な刻印60を施すことが可能となっている。
【0032】
なお、インク18は、直液式による供給ではなく、インク収容部24に収容した中綿に浸漬させた状態で供給することとしてもよい。また、軸筒20自体にはインク収容部24を設けずに、別体のボールペンリフィールを軸筒20に内装してもよい。
【産業上の利用可能性】
【0033】
本発明は、ボールペン、サインペン、シャープペンシル等の筆記具に利用可能である。
【符号の説明】
【0034】
10 筆記具 11 先軸 12 継手
13 ボールペンチップ 14 後軸 15 コレクター
16 インク誘導芯 17 キャップ 18 インク
20 軸筒 21 内筒 22 外筒
23 コレクター収容部 24 インク収容部 25 リブ
26 先端部 27 中間部 28 後端部
30 クリップ 31 長辺 32 短辺
33 連結辺 34 折返し
40 天冠 41 ドーム部 42 フランジ部
43 圧入部 44 インナーピース 45 第一貫通孔
46 第二貫通孔
50 筆記具部品 51 最外層 52 内層
60 刻印
図1
図2
図3
図4
図5