(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024095218
(43)【公開日】2024-07-10
(54)【発明の名称】駆動装置および駆動装置の制御方法
(51)【国際特許分類】
H02P 25/024 20160101AFI20240703BHJP
【FI】
H02P25/024
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022212334
(22)【出願日】2022-12-28
(71)【出願人】
【識別番号】000006208
【氏名又は名称】三菱重工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100162868
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 英輔
(74)【代理人】
【識別番号】100161702
【弁理士】
【氏名又は名称】橋本 宏之
(74)【代理人】
【識別番号】100189348
【弁理士】
【氏名又は名称】古都 智
(74)【代理人】
【識別番号】100196689
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 康一郎
(72)【発明者】
【氏名】若狭 強志
(72)【発明者】
【氏名】有永 眞司
(72)【発明者】
【氏名】湯下 篤
【テーマコード(参考)】
5H505
【Fターム(参考)】
5H505DD03
5H505DD06
5H505DD10
5H505EE48
5H505GG08
5H505HB01
5H505JJ03
5H505JJ04
5H505JJ17
5H505JJ25
5H505JJ28
5H505LL01
5H505LL22
5H505LL38
5H505LL39
5H505LL45
5H505MM10
(57)【要約】
【課題】大きな負荷変動が生じた場合など、磁気バネの動作点が大きく変化する場合でも効果的な軸ねじれ減衰を得ることができる駆動装置を提供する。
【解決手段】駆動装置は、高速ロータおよび低速ロータを有する同期機と、前記同期機の動作を制御する制御装置と、を備える駆動装置であって、前記制御装置は、前記同期機が出力するトルクを調整するトルク指令値を取得するトルク指令値取得部と、前記高速ロータおよび前記低速ロータの回転速度を計測する速度計測部と、前記高速ロータおよび前記低速ロータの速度差に比例して、前記高速ロータおよび前記低速ロータの磁気的なねじれ角の変化速度を減衰させるトルク補正量を算出し、前記トルク指令値を補正するトルク指令値補正部と、を備える。
【選択図】
図8
【特許請求の範囲】
【請求項1】
高速ロータおよび低速ロータを有する同期機と、前記同期機の動作を制御する制御装置と、を備える駆動装置であって、
前記制御装置は、
前記同期機が出力するトルクを調整するトルク指令値を取得するトルク指令値取得部と、
前記高速ロータおよび前記低速ロータの回転速度を計測する速度計測部と、
前記高速ロータおよび前記低速ロータの速度差に比例して、前記高速ロータおよび前記低速ロータの磁気的なねじれ角の変化速度を減衰させるトルク補正量を算出し、前記トルク指令値を補正するトルク指令値補正部と、
を備える駆動装置。
【請求項2】
前記トルク指令値補正部は、前記高速ロータおよび前記低速ロータの速度差に所定のゲインを乗じて前記トルク補正量を算出する、
請求項1に記載の駆動装置。
【請求項3】
前記トルク指令値補正部は、前記同期機の負荷の大きさに応じて前記ゲインの値を変更する、
請求項2に記載の駆動装置。
【請求項4】
前記トルク指令値補正部は、前記高速ロータおよび前記低速ロータの速度差に応じて前記ゲインの値を変更する、
請求項2に記載の駆動装置。
【請求項5】
前記トルク指令値補正部は、前記トルク補正量の変化率を制限するレートリミット部を有する、
請求項1に記載の駆動装置。
【請求項6】
前記レートリミット部は、前記高速ロータおよび前記低速ロータの速度差に応じて前記変化率を変更する、
請求項5に記載の駆動装置。
【請求項7】
前記同期機との間で入出力される電力を調整する電力変換器をさらに備え、
前記電力変換器は、
前記制御装置から入力される前記トルク指令値に応じた電流指令値を生成する電流指令値生成部と、
前記高速ロータおよび前記低速ロータの回転速度を計測する速度計測部と、
前記高速ロータおよび前記低速ロータの速度差に比例して、前記高速ロータおよび前記低速ロータの磁気的なねじれ角を減衰させる電流補正量を算出し、前記電流指令値を補正する電流指令値補正部と、
補正後の前記電流指令値に基づいて、前記同期機との間で入出力される電力を調整するインバータと、
を備える、
請求項1から6の何れか一項に記載の駆動装置。
【請求項8】
高速ロータおよび低速ロータを有する同期機と、前記同期機の動作を制御する制御装置と、を備える駆動装置の制御方法であって、
前記同期機が出力するトルクを調整するトルク指令値を取得するステップと、
前記高速ロータおよび前記低速ロータの回転速度を計測するステップと、
前記高速ロータおよび前記低速ロータの速度差に比例して、前記高速ロータおよび前記低速ロータの磁気的なねじれ角の変化速度を減衰させるトルク補正量を算出し、前記トルク指令値を補正するステップと、
を有する駆動装置の制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、駆動装置および駆動装置の制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
磁気ギアードモータは、同心軸上に配置された高速ロータ、低速ロータ、およびステータを備える。ステータのコイルに交流を供給することにより高速ロータが回転し、また、高速ロータの回転によって低速ロータが所定の減速比で回転する。
【0003】
磁気ギアードモータは、高速ロータと低速ロータの磁気的なねじれ角が、静的には90度を超えると脱調する。したがって、ねじれ角が90度を超えないように、磁気ギアードモータ、または、磁気ギアードモータに接続される負荷(もしくは原動機)の出力を調整すれば、脱調しにくくなる。
【0004】
脱調を抑制する方法として、例えば特許文献1には、原動機(タービン)の回転出力を発電機に伝達するマグネットカップリングにおいて、原動機側の駆動側回転軸と、発電機側の受動側回転軸とのねじれ角が許容範囲を超える場合に、原動機の回転出力を低減させることが記載されている。また、温度の上昇に伴ってマグネットカップリングに用いる磁石の磁力が低下することを考慮して、ねじれ角の許容範囲をマグネットカップリング周辺の温度に応じて変化させることが記載されている。
【0005】
また、脱調は、例えば磁気ギアードモータに急激な過負荷が作用した場合に発生する。したがって、負荷変化に対し、ねじれ角が変化しにくくなるようにできれば、脱調を抑制することができる。ねじれ角を変化しにくくするには、例えば、軸ねじれ減衰を増やせばよい。モータトルクをねじれ角の変化速度(=高速ロータの極対数×高速ロータの速度-ポールピースの数×低速ロータの速度)に比例するように変化させれば、見かけ上、軸ねじれ減衰が増えることになる。すなわち、両ロータの回転数をフィードバックして、モータのトルク制御を行うことで軸ねじれ減衰を増やすことができる。
【0006】
例えば、特許文献2には、線形オブザーバを用いることにより、速度センサを設けずに高速ロータおよび低速ロータの回転数を推定し、両ロータの回転数をフィードバックする方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2014-125991号公報
【特許文献2】中国特許出願公開第110880893号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、ねじれ角が変化する速度に対し、温度が変化する速度の方が大幅に(1~2桁以上)遅いため、特許文献1に記載の方法では、負荷急変などのねじれ角が急激に変化する事象に対しては、脱調回避の改善効果が小さくなる可能性がある。
【0009】
また、特許文献2に記載の方法では線形オブザーバを用いるが、磁気ギアは非線形特性を有している。このため、特許文献2に記載の方法では、線形化の動作点近傍では性能が保証されるが、磁気バネの動作点が大きく変化する場合(例えば、過度負荷変化や、脱調が生じたとき)にはモデルが不正確となる。そうすると、軸ねじれ減衰を付与できないばかりか、設計によっては系が不安定になる可能性がある。
【0010】
本開示の目的は、大きな負荷変動が生じた場合など、磁気バネの動作点が大きく変化する場合でも効果的な軸ねじれ減衰を得ることができる駆動装置および駆動装置の制御方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本開示の一態様によれば、駆動装置は、高速ロータおよび低速ロータを有する同期機と、前記同期機の動作を制御する制御装置と、を備える駆動装置であって、前記制御装置は、前記同期機が出力するトルクを調整するトルク指令値を取得するトルク指令値取得部と、前記高速ロータおよび前記低速ロータの回転速度を計測する速度計測部と、前記高速ロータおよび前記低速ロータの速度差に比例して、前記高速ロータおよび前記低速ロータの磁気的なねじれ角の変化速度を減衰させるトルク補正量を算出し、前記トルク指令値を補正するトルク指令値補正部と、を備える。
【0012】
本開示の一態様によれば、駆動装置の制御方法は、高速ロータおよび低速ロータを有する同期機と、前記同期機の動作を制御する制御装置と、を備える駆動装置の制御方法であって、前記同期機が出力するトルクを調整するトルク指令値を取得するステップと、前記高速ロータおよび前記低速ロータの回転速度を計測するステップと、前記高速ロータおよび前記低速ロータの速度差に比例して、前記高速ロータおよび前記低速ロータの磁気的なねじれ角の変化速度を減衰させるトルク補正量を算出し、前記トルク指令値を補正するステップと、を有する。
【発明の効果】
【0013】
上記態様によれば、大きな負荷変動が生じた場合など、磁気バネの動作点が大きく変化する場合でも効果的な軸ねじれ減衰を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】第1の実施形態に係る駆動装置の全体構成を示す概略図である。
【
図2】第1の実施形態に係る制御装置の機能構成を示すブロック図である。
【
図3】第1の実施形態に係る制御装置の処理の一例を示すフローチャートである。
【
図4】第1の実施形態に係る駆動装置の機能を説明するための図である。
【
図5】第2の実施形態に係る制御装置の機能を説明するための図である。
【
図6】第3の実施形態に係る制御装置の機能を説明するための図である。
【
図7】第4の実施形態に係る制御装置の機能を説明するための図である。
【
図8】第5の実施形態に係る制御装置の機能構成を示すブロック図である。
【
図9】第6の実施形態に係る制御装置の機能構成を示す第1のブロック図である。
【
図10】第6の実施形態に係る制御装置の機能構成を示す第2のブロック図である。
【
図11】第6の実施形態に係る可変ゲインの一例を示す図である。
【
図12】第7の実施形態に係る制御装置の機能構成を示すブロック図である。
【
図13】第8の実施形態に係る電力変換器の機能構成を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
<第1の実施形態>
(駆動装置の全体構成)
以下、本開示の第1の実施形態に係る駆動装置1について、
図1~
図4を参照しながら説明する。
図1は、第1の実施形態に係る駆動装置の全体構成を示す概略図である。
図1に示すように、駆動装置1は、同期機10と、制御装置20と、電力変換器30とを備える。
【0016】
同期機10は、磁気ギアードモータである。同期機10は、電動機または発電機として機能する。本実施形態では、同期機10を電動機として使用する例について説明する。
【0017】
同期機10は、ステータ11と、高速ロータ12と、低速ロータ13とを備える。ステータ11は、軸線Oを中心とする円筒型を有しており、高速ロータ12および低速ロータ13を外周側から覆う。高速ロータ12は、軸線O回りに回転可能である。低速ロータ13は、ステータ11と高速ロータ12の間に配置され、軸線O回りに回転可能である。電力変換器30からステータ11のコイルに電流が供給されると、高速ロータ12が回転する。また、高速ロータ12が回転すると、低速ロータ13は所定の減速比で回転する。低速ロータ13は負荷と回転軸15で接続され、低速ロータ13とともに回転軸15が回転することにより、負荷を駆動する。
【0018】
制御装置20は、同期機10の動作を制御する。特に、本実施形態に係る制御装置20は、同期機10の高速ロータ12と低速ロータ13との脱調を抑制するために、同期機10が出力するトルクを調整するトルク指令を出力する。
【0019】
電力変換器30は、同期機10が制御装置20のトルク指令に応じたトルクを出力できるように、同期機10のステータ11のコイルに電流を供給する。
【0020】
(制御装置の機能構成)
図2は、第1の実施形態に係る駆動装置の全体構成を示す概略図である。
図2に示すように、制御装置20は、プロセッサ21と、メモリ22と、ストレージ23と、インタフェース24とを備える。
【0021】
プロセッサ21は、所定のプログラムに従って動作することにより、取得部210、トルク推定部211、ねじれ角推定部212、ねじれ角計測部213、判定部214、および調整部215としての機能を発揮する。
【0022】
取得部210は、同期機10のセンサから計測値を取得する。本実施形態では、取得部210は、高速ロータ12の回転軸14に設けられた第1センサ16、および低速ロータ13の回転軸15に設けられた第2センサ17から、高速ロータ12および低速ロータ13のねじれ角を検出するための計測値を取得する。また、取得部210は、電力変換器30とステータ11のコイルとの間の電力線に設けられた電流計18から、同期機10を駆動する電力の電流値を取得する。
【0023】
トルク推定部211は、同期機10を駆動する電力の電流値に基づいて、同期機10が出力するトルクを推定する。
【0024】
ねじれ角推定部212は、トルク推定値に基づいて、高速ロータ12と低速ロータ13とのねじれ角を推定する。
【0025】
ねじれ角計測部213は、第1センサ16の計測値および第2センサ17の計測値に基づいて、高速ロータ12と低速ロータ13とのねじれ角を推定する。
【0026】
判定部214は、ねじれ角推定値とねじれ角計測値との差が所定の閾値を超えるか否かを判定する。
【0027】
調整部215は、ねじれ角推定値とねじれ角計測値との差が閾値を超えると判定された場合に、同期機10のトルクを増加または減少させるトルク指令を出力する。
【0028】
メモリ22は、プロセッサ21の動作に必要なメモリ領域を有する。
【0029】
ストレージ23は、いわゆる補助記憶装置であって、例えば、HDD(Hard Disk Drive)、SSD(Solid State Drive)等である。
【0030】
インタフェース24は、外部装置(電力変換器30など)との間で各種情報の送受信を行うためのインタフェースである。
【0031】
なお、制御装置20のプロセッサ21が実行する所定のプログラムは、コンピュータ読み取り可能な記録媒体に記憶される。また、コンピュータ読み取り可能な記録媒体とは、磁気ディスク、光磁気ディスク、CD-ROM、DVD-ROM、半導体メモリ等をいう。また、このコンピュータプログラムを通信回線によってコンピュータに配信し、この配信を受けたコンピュータが当該プログラムを実行するようにしてもよい。さらに、このプログラムは、上述した機能の一部を実現するためのものであってもよい。更に、上述した機能をコンピュータシステムにすでに記録されているプログラムとの組み合わせで実現できるもの、いわゆる差分ファイル(差分プログラム)であってもよい。
【0032】
(制御装置の処理フロー)
図3は、第1の実施形態に係る制御装置の機能構成を示すブロック図である。
以下、
図3を参照しながら制御装置20の処理の流れについて詳細に説明する。
【0033】
まず、取得部210は、同期機10の各センサから計測値を取得する(ステップS10)。具体的には、取得部210は、電流計18から同期機10の現在の電流値を取得するとともに、第1センサ16および第2センサ17の計測値を取得する。
【0034】
また、トルク推定部211は、現在の電流値に基づいて同期機10が出力するトルク推定値^τmを算出する(ステップS11)。
【0035】
ねじれ角推定部212は、負荷トルクと同期機10が出力するトルクが平衡している(定常状態にある)と仮定して、トルク推定値^τmに基づいて同期機10の高速ロータ12と低速ロータ13とのねじれ角推定値^θeを算出する(ステップS12)。例えば、ねじれ角推定部212は、同期機10の最大伝達トルクをτmaxとして、以下の式(1)によりねじれ角推定値^θeを算出する。このねじれ角推定値^θeは、定常的(または準定常的)な負荷状態の指標となる。
【0036】
【0037】
次に、ねじれ角計測部213は、第1センサ16および第2センサ17の計測値に基づいて、同期機10の高速ロータ12と低速ロータ13とのねじれ角計測値θeを取得する(ステップS13)。
【0038】
負荷が急変すると、トルクの平衡が崩れて、定常的なねじれ角を表すねじれ角推定値^θeと、実際のねじれ角であるねじれ角計測値θeとの間には乖離が生じる。本実施形態では、この乖離の程度が閾値δを超えた場合に、同期機10のトルクをねじれ角の変化が抑制される方向に減少(もしくは増加)させる。
【0039】
具体的には、まず、判定部214は、ねじれ角推定値^θeに基づいてねじれ角上限値およびねじれ角下限値を算出する(ステップS14)。具体的には、判定部214は、以下の式(2)および(3)のように、ねじれ角推定値^θeと閾値δとに基づいてねじれ角上限値θe,maxおよびねじれ角下限値θe,minを計算する。
【0040】
【0041】
【0042】
閾値δは、予め設定された値であり、例えば10度である。閾値δの値は、駆動装置1の特性や運転条件などに応じて任意に変更してもよい。
【0043】
次に、判定部214は、ねじれ角計測値θeがねじれ角上限値θe,maxを超えたか判定する(ステップS15)。
【0044】
ねじれ角計測値θeがねじれ角上限値θe,maxを超えた(θe>θe,maxである)場合、調整部215は、同期機10のトルクを減少させるトルク指令を出力する(ステップS16)。
【0045】
一方、ねじれ角計測値θeがねじれ角上限値θe,maxを超えていない(θe≦θe,maxである)場合、判定部214はねじれ角計測値θeがねじれ角下限値θe,minを下回ったか判定する(ステップS17)。
【0046】
ねじれ角計測値θeがねじれ角下限値θe,minを下回った(θe<θe,minである)場合、調整部215は、同期機10のトルクを増加させるトルク指令を出力する(ステップS18)。
【0047】
一方、ねじれ角計測値θeがねじれ角下限値θe,minを下回っていない場合、すなわち、ねじれ角計測値θeがねじれ角下限値θe,min以上、ねじれ角上限値θe,max以下の正常範囲内である場合、調整部215は、同期機10のトルクを変更せずに処理を終了する。
【0048】
電力変換器30は、制御装置20から入力されたトルク指令に基づいて、同期機10の出力するトルクが適切に増減するように、同期機10に供給する電流を調整する。
【0049】
制御装置20は、同期機10を駆動中、各計測値を計測(取得)する毎に
図3の一連の処理を実行することにより、同期機10の脱調を抑制する。
【0050】
図4は、第1の実施形態に係る駆動装置の機能を説明するための図である。
図4を参照しながら負荷が増大したときケースを例として、駆動装置1の処理および動作を説明する。
【0051】
図4のグラフD10は、同期機10の高速ロータ12および低速ロータ13の回転速度の計測値の時系列である。グラフD10において、D101は高速ロータ12の回転速度を低速ロータ13との減速比で補正したもの、D102は低速ロータ13の回転速度を表す。
【0052】
図4のグラフD11において、D111は、ねじれ角計測値θ
e、D112はねじれ角推定値^θ
e、D113はねじれ角上限値θ
e,max、D114はねじれ角下限値θ
e,minの時系列を表す。なお、
図4では簡略化して記載しているが、実際には、ねじれ角推定値^θ
eは電流値に応じて時々刻々と異なる値となる。同様に、ねじれ角上限値θ
e,maxおよびねじれ角下限値θ
e,minもねじれ角推定値^θ
eに応じて時々刻々と異なる値となる。
【0053】
図4のグラフD12において、D121は試験的に計測した同期機10のトルク計測値τ
m、D122は制御装置20が出力したトルク指令Tの時系列である。
【0054】
図4のグラフD11の例では、時刻t1において負荷が上昇してねじれ角計測値θ
eが大きくなり、ねじれ角上限値θ
e,maxを超える。したがって、制御装置20の調整部215は、時刻t1において、同期機10のトルクを減少させるトルク指令Tを出力する。
【0055】
また、時刻t2において、ねじれ角計測値θeがねじれ角上限値θe,max以下となる。そうすると、制御装置20の調整部215は、時刻t2において、同期機10に対し負荷に応じたトルクを発生させるようにトルク指令Tを出力する。
【0056】
同様に、時刻t3~t4の期間、および、時刻t5~t6の期間においても、ねじれ角計測値θeがねじれ角上限値θe,maxを超えるため、調整部215は、この期間に同期機10のトルクを減少させるトルク指令Tを出力する。このようにして、駆動装置1は、負荷増大によりねじれ角推定値^θeとねじれ角計測値θeとの乖離が大きくなった場合には、同期機10のトルクを一時的に減少させて、ねじれ角計測値θeが負荷状態に追随して指標値であるねじれ角推定値^θeに近づくように調整する。これにより、駆動装置1は、ねじれ角が限界値(90度)を超えて脱調することを抑制する。
【0057】
(作用、効果)
以上のように、本実施形態に係る駆動装置1は、高速ロータ12および低速ロータ13を有する同期機10と、同期機10の動作を制御する制御装置20とを備える。制御装置20は、同期機10を駆動する電力の電流値に基づいて同期機10が出力するトルク推定値^τmを推定するトルク推定部211と、トルク推定値^τmに基づいて高速ロータ12と低速ロータ13とのねじれ角推定値^θeを推定するねじれ角推定部212と、高速ロータ12と低速ロータ13のねじれ角計測値θeを計測するねじれ角計測部213と、ねじれ角推定値^θeおよびねじれ角計測値θeの差が所定の閾値δを超えるか否かを判定する判定部214と、ねじれ角推定値^θeおよびねじれ角計測値θeの差が閾値δを超えると判定された場合に、同期機10のトルクを増加または減少させるトルク指令Tを出力する調整部215と、を備える。
【0058】
ねじれ角の許容範囲を常に固定(例えば、静的な限界値90度より10度だけ手前の80度に固定)した場合、急激かつ大きな負荷変動に対して、トルク操作が間に合わず脱調してしまう可能性がある。一方、脱調を抑制するために許容範囲を小さく設定しすぎると、大きな負荷を駆動すること(高負荷運転)が困難となる。しかしながら、本実施形態に係る駆動装置1は、ねじれ角の許容範囲を固定ではなく、各時点で推定したねじれ角推定値^θeを基準として、つまり、定常状態(または準定常状態)における整定値(モータの動作点)を基準として動的に変化させる。これにより、高速ロータ12および低速ロータ13の脱調の抑制と、高負荷運転とを両立することができる。
【0059】
また、上記したように、特許文献1では、マグネットカップリング周辺の温度に応じて許容範囲を変更するため、負荷が急激に変化した場合に脱調を抑制することが困難となる場合がある。これに対し、本実施形態に係る駆動装置1は、同期機10の電流値の変化に応じて指標となるねじれ角推定値^θeを変化させ、実際のねじれ角計測値θeとの差が閾値δを超えるか否かを判定する。このようにすることで、駆動装置1は、負荷の急激な変化によるねじれ角の増大を迅速に検出することができる。
【0060】
さらに、特許文献1では、ねじれ角が許容範囲を超える場合に、原動機の回転出力を低減させている。これに対し、本実施形態に係る駆動装置1は、負荷(または原動機)ではなく、同期機10のトルクを変化させるので、負荷(または原動機)に与える影響を低減しつつ脱調を抑制することができる。例えば、駆動装置1は、高負荷状態を維持したまま脱調を抑制することができる。
【0061】
また、本実施形態に係る駆動装置1において、制御装置20の調整部215は、ねじれ角計測値θeが、ねじれ角推定値^θeに閾値δを加算した上限値θe,maxを超えると判定された場合に、同期機10のトルクを減少させるトルク指令Tを出力し、ねじれ角計測値θeが、ねじれ角推定値^θeから閾値δを減じた下限値θe,minを下回る場合に、同期機10のトルクを増加させるトルク指令Tを出力する。
【0062】
このようにすることで、駆動装置1は、ねじれ角推定値^θeに応じてねじれ角の上限値および下限値を可変とすることができる。これにより、駆動装置1は、ねじれ角の変化に過敏に反応することなく、同期機10のトルクを調整すべきであるか否かを精度よく判定することができる。
【0063】
<第2の実施形態>
次に、本発明の第2の実施形態に係る駆動装置1について
図5を参照しながら説明する。第1の実施形態と共通の構成要素には同一の符号を付して詳細説明を省略する。
【0064】
第1の実施形態では、制御装置20の判定部214は、閾値δを固定値としていた。これに対し、本実施形態に係る判定部214は、負荷状態に応じて閾値δを変更する。
【0065】
図5は、第2の実施形態に係る制御装置の機能を説明するための図である。
図5には、ねじれ角-トルク特性の一例を表すグラフD20と、閾値δの変更例を表すグラフD21とが示されている。
【0066】
本実施形態に係る判定部214は、
図5のグラフD21に示すように、予め規定した関数により、ねじれ角推定値^θeの大きさに応じて閾値δの値を変更する。同期機10は、ねじれ角θ
eが大きくなるとトルクも大きくなり、ねじれ角θeが限界値(90度)のとき最大伝達トルクに達する。また、ねじれ角θ
eが限界値を超えると脱調する。また、同期機10は、グラフD20に示すように、負荷が軽い(トルクが小さい)ときよりも、負荷が重い(トルクが大きい)ときの方が負荷変動に対する許容度合が小さくなる。すなわち、負荷が重いほど、負荷変動による脱調が発生しやすくなる。
【0067】
このため、判定部214は、グラフD21の例のように、ねじれ角推定値^θ
eが限界値に近いほど閾値δを小さくする。これにより、駆動装置1は、例えば、高負荷時(
図5の運転点P2)においては、ねじれ角推定値^θ
eに対するねじれ角計測値θ
eの乖離度合いに敏感に反応して、より確実に脱調を抑制することができる。一方で、駆動装置1は、低負荷時(
図5の運転点P1)においては、ねじれ角推定値^θ
eに対するねじれ角計測値θ
eの乖離度合いに過敏に反応することを抑制し、不必要なトルク調整を抑制することができる。
【0068】
なお、判定部214は、ねじれ角推定値^θeと閾値δとを対応させたマップまたはテーブルを予め用意しておき、このマップまたはテーブルを参照して閾値δを決定してもよい。
【0069】
このようにすることで、駆動装置1は、負荷状態に応じてきめ細かくトルクを調整することができるので、より確実に脱調を抑制することができるとともに、同期機10のトルクの利用率を向上させることができる。
【0070】
<第3の実施形態>
次に、本発明の第3の実施形態に係る駆動装置1について
図6を参照しながら説明する。第1および第2の実施形態と共通の構成要素には同一の符号を付して詳細説明を省略する。
【0071】
第1の実施形態に係る制御装置20の判定部214は、各計測値を計測(取得)する毎に、各時点におけるねじれ角計測値θeおよびねじれ角推定値^θeの差が閾値δを超えるか否かを判定した。これに対し、本実施形態に係る判定部214は、ねじれ角計測値θeおよびねじれ角推定値^θeの移動平均値の差が閾値δを超えるか否かを判定する。
【0072】
具体的には、ねじれ角推定部212が推定した時刻毎のねじれ角推定値^θ
e、およびねじれ角計測部213が計測した時刻毎のねじれ角計測値θ
eは、ストレージ23に記録される。判定部214は、
図3のステップS14において、判定時点から過去n秒分のねじれ角推定値^θ
eの移動平均値と、閾値δとに基づいて、ねじれ角上限値およびねじれ角下限値を算出する。また、判定部214は、
図3のステップS15において、判定時点から過去n秒分のねじれ角計測値θ
eの移動平均値がねじれ角上限値を超えたか判定する。同様に、判定部214は、
図3のステップS17において、判定時点から過去n秒分のねじれ角計測値θ
eの移動平均値がねじれ角下限値を下回ったか判定する。
【0073】
このようにすることで、駆動装置1は、ノイズや計測誤差などの影響でねじれ角計測値θeとねじれ角推定値^θeとの差が閾値δを超えたと誤判定することを抑制することができる。
【0074】
なお、判定部214は、平均化時間n秒を固定値としてもよいし、可変としてもよい。
【0075】
図6は、第3の実施形態に係る制御装置の機能を説明するための図である。
図6には、ねじれ角-トルク特性の一例を表すグラフD30と、平均化時間nの変更例を表すグラフD31とが示されている。
【0076】
判定部214は、
図6のグラフD31に示すように、予め規定した関数を使って、移動平均時の平均化時間n(秒)を負荷状態に応じて可変としてもよい。例えば、判定部214は、ねじれ角推定値^θ
eが限界値に近いほど平均化時間nを短くする。
【0077】
なお、判定部214は、ねじれ角推定値^θeと平均化時間nとを対応させたマップまたはテーブルを予め用意しておき、このマップまたはテーブルを参照して平均化時間nを決定してもよい。
【0078】
このようにすることで、駆動装置1は、低負荷時(
図6の運転点P3)においては、平均化時間nを長くすることにより、ノイズや計測誤差などの影響による誤判定を抑制することができる。また、駆動装置1は、高負荷時(
図6の運転点P4)においては、平均化時間nを短くすることにより、負荷変動前の過去のデータに影響されて判定が遅れることを抑制することができる。
【0079】
なお、本実施形態では、判定部214がねじれ角計測値θeおよびねじれ角推定値^θeの移動平均値に基づいて判定を行う例について説明したが、これに限られることはない。他の実施形態では、判定部214は、ねじれ角計測値θeおよびねじれ角推定値^θeの差が閾値δを超える状態が判定時間n(秒)以上継続するか否かを判定してもよい。また、判定部214は、平均化時間nと同様に、ねじれ角推定値^θeに応じて判定時間nを変更してもよい。
【0080】
このような態様によっても、駆動装置1はノイズや計測誤差などの影響による誤判定を抑制することができる。
【0081】
<第4の実施形態>
次に、本発明の第4の実施形態に係る駆動装置1について
図7を参照しながら説明する。第1から第3の実施形態と共通の構成要素には同一の符号を付して詳細説明を省略する。
【0082】
第2の実施形態では、判定部214がねじれ角推定値^θeに応じて閾値δを変更する例について説明した。また、第3の実施形態では、判定部214がねじれ角推定値^θeに応じて平均化時間n(判定時間n)を変更する例について説明した。これに対し本実施形態に係る判定部214は、最大伝達トルクに影響を与える状態量にさらに基づいて、閾値δおよび平均化時間n(判定時間n)の少なくとも一方を変更する。
【0083】
また、本実施形態に係る取得部210は、同期機10の最大伝達トルクに影響する状態量をさらに取得する。最大伝達トルクに影響する状態量は、例えば、ステータ11のコイル温度、ステータ11、高速ロータ12、および低速ロータ13それぞれの空隙距離、運転履歴(負荷-時間特性など)、運転計画などである。また、空隙距離は、設計値(初期値)を使用してもよいが、経年劣化による変化を考慮して、同期機10の使用期間に応じた推定値または実測値を使用してもよい。
【0084】
図7は、第4の実施形態に係る制御装置の機能を説明するための図である。
図7には、ねじれ角-トルク特性の一例を表すグラフD40と、閾値δの変更例を表すグラフD41と、平均化時間n(または判定時間n)の変更例を表すグラフD42とが示されている。
【0085】
ここでは、状態量としてステータ11のコイル温度を使用する例について説明する。グラフD41には、D401はコイル温度が高温のとき、D402はコイル温度が低温のときのねじれ角-トルク特性を表す。なお、状態量の種類、大きさ毎のねじれ角-トルク特性は、予めストレージ23に記録されているとする。グラフD40に示すように、最大伝達トルクは、コイル温度が高温のときよりも低温のときの方が大きい。また、同じ負荷を与えたとき、最大伝達トルクが大きいほど脱調までの余裕度が大きくなる。
【0086】
このような特性を踏まえ、判定部214は、例えば
図7のグラフD41に示すように、閾値δを決定する関数をコイル温度の温度範囲毎に用意しておく。なお、
図7には2つの関数が例示されているが、判定部214は3つ以上の関数を用意してもよい。判定部214は、取得部210が取得したコイル温度に対応する関数を使って閾値δを決定する。これら関数は、ねじれ角が同一(例えばA1)であっても、コイル温度が高温のとき(運転点P5)よりも、低温のとき(運転点P7)の方が閾値δが大きくなるように設定される。
【0087】
このようにすることで、判定部214は、状態量に応じた最大伝達トルクの大きさと、ねじれ角推定値^θeとにより、閾値δを適切に調整することができる。
【0088】
なお、判定部214は、状態量(コイル温度)と、ねじれ角推定値^θeと、閾値δとを対応させたマップまたはテーブルを予め用意しておき、このマップまたはテーブルを参照して閾値δを決定してもよい。
【0089】
さらに、判定部214は、第3の実施形態と同様に、ねじれ角計測値θeおよびねじれ角推定値^θeの移動平均値に基づいて判定を行ってもよい。また、ねじれ角計測値θeおよびねじれ角推定値^θeの差が判定時間nを超えるか否かを判定してもよい。このとき、判定部214は、状態量に応じて平均化時間nまたは判定時間nを可変としてもよい。
【0090】
上記したように、同じ負荷を与えたとき、最大伝達トルクが大きいほど脱調までの余裕度が大きくなる。このような特性を踏まえ、判定部214は、
図7のグラフD42に示すように、平均化時間n(または判定時間n)を決定する関数をコイル温度の温度範囲毎に用意しておく。なお、
図7には2つの関数が例示されているが、判定部214は3つ以上の関数を用意してもよい。判定部214は、取得部210が取得したコイル温度に対応する関数を使って平均化時間n(または判定時間n)を決定する。これら関数は、ねじれ角が同一(例えばA1)であっても、コイル温度が高温のとき(運転点P5)よりも、低温のとき(運転点P7)の方が平均化時間n(または判定時間n)が長くなるように設定される。
【0091】
このようにすることで、判定部214は、状態量に応じた最大伝達トルクの大きさと、ねじれ角推定値^θeとにより、平均化時間n(または判定時間n)を適切に調整することができる。
【0092】
なお、判定部214は、状態量(コイル温度)と、ねじれ角推定値^θeと、平均化時間n(または判定時間n)とを対応させたマップまたはテーブルを予め用意しておき、このマップまたはテーブルを参照して平均化時間n(または判定時間n)を決定してもよい。
【0093】
なお、判定部214は、状態量に応じて閾値δおよび平均化時間n(または判定時間n)の両方を可変としてもよいし、何れか一方のみを可変としてもよい。
【0094】
このように、駆動装置1は、負荷状態に加えて、同期機10の状態量に応じてきめ細かくトルクを調整することで、より確実に脱調を抑制することができるとともに、同期機10のトルクの利用率を向上させることができる。
【0095】
<第5の実施形態>
次に、本発明の第5の実施形態に係る駆動装置1について
図8を参照しながら説明する。第1から第4の実施形態と共通の構成要素には同一の符号を付して詳細説明を省略する。なお、本実施形態に係る駆動装置1において、制御装置20は、負荷変化に対して高速ロータ12および低速ロータ13のねじれ角の変化を抑制する制御を行う。
【0096】
(制御装置の機能構成)
図8は、第5の実施形態に係る制御装置の機能構成を示すブロック図である。
図8に示すように、本実施形態に係る制御装置20のプロセッサ21は、所定のプログラムに従って動作することにより、トルク指令値取得部216、速度計測部217、トルク指令値補正部218としての機能を発揮する。
【0097】
トルク指令値取得部216は、同期機10が出力するトルクを調整するトルク指令値を取得する。トルク指令値は、制御装置20が有する既存のトルク制御手段により、同期機10に接続される負荷の状態などに応じて生成されたものである。
【0098】
速度計測部217は、第1センサ16および第2センサ17を通じて高速ロータ12および低速ロータ13の回転速度を計測する。なお、本実施形態では、速度計測部217は両ロータの角速度[rad/s]をそれぞれ計測する。
【0099】
トルク指令値補正部218は、高速ロータ12および低速ロータ13の速度差に比例して、高速ロータ12および低速ロータ13の磁気的なねじれ角を減衰させるトルク補正量を算出し、トルク指令値を補正する。
【0100】
(トルク指令値の補正処理について)
次に、
図8を参照しながら、制御装置20によるトルク指令値の補正処理の詳細について説明する。高速ロータ12の角速度をω
HSR、低速ロータ13の角速度をω
PPR、両ロータのギア比をG
rとすると、高速ロータ12および低速ロータ13が同期している間は、式(4)の関係が成立する。
【0101】
【0102】
よって、高速ロータ12および低速ロータ13にずれが生じたとき、同期機10から式(5)で得られるトルクを出力させれば、軸ねじれ減衰が増えたのと同じ効果を得ることができる。なお、Kはゲインであり、負荷する軸ねじれ減衰の大きさを決定する。
【0103】
【0104】
具体的には、制御装置20のトルク指令値補正部218は、まず、低速ロータ13の角速度計測値ωPPRに高速ロータ12および低速ロータ13のギア比Grを乗じたものと、高速ロータ12の角速度計測値ωHSRとの速度差Δωを計算する。
【0105】
次に、トルク指令値補正部218は、両ロータの速度差ΔωにゲインKを乗じてトルク補正量を算出する。例えば、トルク指令値補正部218は、負荷が増加して低速ロータ13の角速度が低下した場合、同期機10が出力するトルクを小さくするトルク補正量を算出する。これにより、高速ロータ12および低速ロータ13の相対速度差(ねじれ角の変化速度)が大きくなることを抑制し、脱調が発生することを抑制することができる。
【0106】
なお、本実施形態では、ゲインKの値は同期機10の特性や運転条件などに応じて予め設定された固定値(例えば、「5.0」)である。ゲインKの値を大きくするほど、軸ねじれ減衰を大きくすることができる。
【0107】
また、トルク指令値補正部218は、算出したトルク補正量と、トルク指令値取得部216が取得したトルク指令値とを合計した補正後トルク指令値を電力変換器30に出力する。
【0108】
(作用、効果)
以上のように、本実施形態に係る駆動装置1において、制御装置20は、同期機10が出力するトルクを調整するトルク指令値を取得するトルク指令値取得部216と、高速ロータ12および低速ロータ13の角速度を計測する速度計測部217と、高速ロータ12および低速ロータ13の速度差に比例して高速ロータ12および低速ロータ13の磁気的なねじれ角の変化速度を減衰させるトルク補正量を算出し、トルク指令値を補正するトルク指令値補正部218とを備える。
【0109】
このようにすることで、駆動装置1は、同期機10が出力するトルクを調整することにより、高速ロータ12および低速ロータ13の磁気的なねじれに対し軸ねじれ減衰を与えることができる。この結果、駆動装置1は、高速ロータ12および低速ロータ13のねじれ角を変化しにくくして、脱調の発生を抑制することができる。
【0110】
また、軸ねじれ減衰を効果的に付与するためには、回転数変化の位相(タイミング)が正確に計測できていなければならない。例えば、上記した特許文献2に記載の方法では、大きな負荷変化が生じた場合など、線形化の動作点(平衡点)から大きなずれが生じると、回転数を正しく推定することが困難となる。例えば、回転数の推定に誤りがあった場合、極端には位相が180度ずれた場合には負減衰となり、軸ねじれ振動を増長させてしまう。
【0111】
これに対し、本実施形態に係る駆動装置1は、高速ロータ12および低速ロータ13の回転速度(角速度)を推定によらず、第1センサ16および第2センサ17を通じて直接計測しているので、大きな負荷変化が生じた場合であっても正確な回転速度を計測することができる。このため、駆動装置1は、高速ロータ12および低速ロータ13の速度差に応じた適切な軸ねじれ減衰を得ることができる。
【0112】
さらに、上記した特許文献1に記載の方法では、高速ロータおよび低速ロータの回転角度の差であるねじれ角を監視し、閾値を超えた場合に、すなわち、脱調の予兆を検出した場合に負荷を調整して脱調を抑制している。このとき、閾値が小さいと、高負荷時に負荷変化があった場合に脱調が発生しやすくなる可能性がある。また、閾値が大きいと、低負荷時に過度に負荷の調整が発生して、モータ効率が低下する可能性がある。
【0113】
これに対し、本実施形態に係る駆動装置1は、高速ロータ12および低速ロータ13の速度差に応じてトルク指令値を補正(軸ねじれ減衰を付与)して脱調を抑制するものであるため、駆動装置1の動作中はこのトルク指令値の補正制御を常に動作させておけばよい。なぜなら、高速ロータ12および低速ロータ13が同期している(速度差がゼロに近い)場合には、式(6)となるため、補正制御を切っているのと同じ効果が得られるためである。
【0114】
【0115】
したがって、本実施形態に係る制御装置20は、脱調の予兆の検出処理や、閾値の調整などの煩雑な処理を省略することができる。
【0116】
また、本実施形態に係る駆動装置1において、制御装置20のトルク指令値補正部218は、高速ロータ12および低速ロータ13の速度差に所定のゲインKを乗じてトルク補正量を算出する。
【0117】
このようにすることで、駆動装置1は、ゲインKの値によって軸ねじれ減衰の大きさを調整することができる。
【0118】
<第6の実施形態>
次に、本発明の第6の実施形態に係る駆動装置1について
図9~
図11を参照しながら説明する。第1から第5の実施形態と共通の構成要素には同一の符号を付して詳細説明を省略する。
【0119】
図9は、第6の実施形態に係る制御装置の機能構成を示す第1のブロック図である。
図9に示すように、本実施形態に係る制御装置20において、トルク指令値補正部218はゲインKの値を負荷に応じて可変とする。
【0120】
負荷の大きさは、同期機10のステータ11に流れる電流の大きさ(ステータ電流値)と相関がある。このため、トルク指令値補正部218は、電流計18から取得したステータ電流値の絶対値|Istator|の大きさに応じてゲインKの値を変化させる。
【0121】
図10は、第6の実施形態に係る制御装置の機能構成を示す第2のブロック図である。
また、
図10に示すように、トルク指令値補正部218はゲインKの値をまたは高速ロータ12および低速ロータ13の速度差の絶対値|Δω|に応じて可変としてもよい。
【0122】
図11は、第6の実施形態に係る可変ゲインの一例を示す図である。
同期機10は、負荷が軽いときよりも、負荷が重いときの方が負荷変動に対する許容度合が小さくなる。すなわち、負荷が重いほど、負荷変動による脱調が発生しやすくなる。このため、負荷に応じてゲインKの値を変化させる場合、トルク指令値補正部218は、
図11に示すように、ステータ電流値の絶対値|I
stator|が大きい(負荷が重い)ほど、ゲインKの値を大きくする。
【0123】
また、同期機10は、両ロータの速度差が大きいほどねじれ角が大きくなり、負荷変動による脱調が発生しやすくなる。このため、速度差に応じてゲインKの値を変化させる場合、トルク指令値補正部218は、
図11に示すように、速度差の絶対値|Δω|が大きいほど、ゲインKの値を大きくする。
【0124】
以上のように、本実施形態に係る駆動装置1において、制御装置20のトルク指令値補正部218は、負荷の大きさ、または、高速ロータ12および低速ロータ13の速度差に応じて、ゲインKの値を変更する。
【0125】
このようにすることで、駆動装置1は、磁気ギアの非線形性、すなわち動作点によって磁気バネの復元力が変化しても、軸ねじれ減衰を効果的に得ることが可能となる。
【0126】
例えば、駆動装置1は、負荷が重いほどゲインKを大きくして軸ねじれ減衰を増やすことができるので、負荷変動による脱調が起こりやすい高負荷運転時であっても、効果的に脱調を抑制することができる。一方で、軸ねじれ減衰は系の運動を妨げるものである。このため、駆動装置1は、負荷が軽い(負荷変動に対する許容度が比較的大きい)場合には、ゲインKを小さくすることにより、軸ねじれ減衰による性能低下を抑制することができる。
【0127】
また、例えば、駆動装置1は、急激な負荷変動で速度差が大きくなった場合には、ゲインKを大きくして軸ねじれ減衰を強く効かせることにより、効果的に脱調を抑制することができる。一方で、速度差が小さい場合、すなわち、負荷が安定し、両ロータの回転数が安定している場合には、軸ねじれ減衰は0であることが望ましい。このため、駆動装置1は、速度差が小さいときは系が安定状態であるとみなしてゲインKを小さくすることにより、軸ねじれ減衰による同期機10の性能低下を抑制することができる。
【0128】
つまり、制御装置20は、系の状態に応じて軸ねじれ減衰に強弱を付けることで、同期機10の性能と、安定性(脱調の起こりにくさ)とを両立することができる。
【0129】
なお、
図11の例では、トルク指令値補正部218は、予めステータ電流値の絶対値|I
stator|または速度差の絶対値|Δω|と、ゲインKの値との関係を示す関数を規定して、この関数に基づいてゲインKの値を決定したが、これに限られることはない。他の実施形態では、トルク指令値補正部218は、ステータ電流値の絶対値|I
stator|または速度差の絶対値|Δω|と、ゲインKの値とを対応させたテーブルを予め用意しておき、このテーブルを参照してゲインKの値を決定してもよい。また、トルク指令値補正部218は、ステータ電流値の絶対値|I
stator|または速度差の絶対値|Δω|の特定の範囲を不感帯(ゲインK=0)として設定してもよい。
【0130】
<第7の実施形態>
次に、本発明の第7の実施形態に係る駆動装置1について
図12を参照しながら説明する。第1から第6の実施形態と共通の構成要素には同一の符号を付して詳細説明を省略する。
【0131】
図12は、第7の実施形態に係る制御装置の機能構成を示すブロック図である。
図12に示すように、本実施形態に係る制御装置20において、トルク指令値補正部218は、レートリミット部218Aを有している。
【0132】
レートリミット部218Aは、トルク指令値補正部218が算出したトルク補正量の変化率を制限する。レートリミット部218Aは、トルクの急変を抑制するため、所定の変化率を超えるトルク補正量が要求される場合に、トルク補正量を段階的に増加させる処理を行う。
【0133】
なお、
図12には、第6の実施形態における速度差に応じた可変ゲインKを用いる構成(
図10)にレートリミット部218Aを追加する例が示されているが、これに限られることはない。他の実施形態では、第5の実施形態における固定ゲインKを用いる構成(
図8)、または、第6の実施形態における負荷の大きさに応じた可変ゲインKを用いる構成(
図9)にレートリミット部218Aを追加してもよい。
【0134】
なお、変化率は予め規定した固定値であってもよいし、可変であってもよい。例えば、レートリミット部218Aは、高速ロータ12および低速ロータ13の速度差Δωに応じて変化率を変更してもよい。
【0135】
以上のように、本実施形態に係る駆動装置1において、制御装置20のトルク指令値補正部218は、トルク補正量の変化率を制限するレートリミット部218Aを有する。
【0136】
このようにすることで、駆動装置1は、脱調抑制のためトルク調整を行ったときに、同期機10のトルクが急変することを抑制することができる。
【0137】
また、レートリミット部218Aは、高速ロータ12および低速ロータ13の速度差に応じて変化率を変更する。
【0138】
このようにすることで、駆動装置1は、速度差が大きく速やかな対応が必要な場合には、トルク補正量の変化率を大きくすることにより脱調抑制の効果を迅速に得ることができる。一方で、速度差が小さく脱調が発生するまでに比較的余裕がある場合には、トルクの急変を抑制することができる。
【0139】
<第8の実施形態>
次に、本発明の第8の実施形態に係る駆動装置1について
図13を参照しながら説明する。第1から第7の実施形態と共通の構成要素には同一の符号を付して詳細説明を省略する。
【0140】
第5~第7の実施形態では、制御装置20が脱調抑制のためトルク指令値を補正する処理を行う例について説明した。これに対し、本実施形態では、電力変換器30が脱調抑制のため電流指令値を補正する例について説明する。
【0141】
(電力変換器の機能構成)
図13は、第8の実施形態に係る電力変換器の機能構成を示すブロック図である。
図13に示すように、電力変換器30は、プロセッサ31およびインバータ32を備える。
【0142】
プロセッサ31は、所定のプログラムに従って動作することにより、電流指令値生成部310、速度計測部311、電流指令値補正部312としての機能を発揮する。
【0143】
電流指令値生成部310は、制御装置20から入力されるトルク指令値に応じた電流指令値を生成する。
【0144】
速度計測部311は、第1センサ16および第2センサ17を通じて高速ロータ12および低速ロータ13の回転速度を計測する。なお、本実施形態では、速度計測部311は両ロータの角速度[rad/s]をそれぞれ計測する。
【0145】
電流指令値補正部312は、高速ロータ12および低速ロータ13の速度差に比例して、高速ロータ12および低速ロータ13のねじれ角を減衰させる電流補正量を算出し、電流指令値を補正する。
【0146】
インバータ32は、補正後の電流指令値に基づいて、同期機10と電力変換器30の間で入出力される電力を調整する。
【0147】
(電流指令値の補正処理について)
次に、
図13を参照しながら、電力変換器30による電流指令値の補正処理の詳細について説明する。
まず、電力変換器30の電流指令値生成部310は、制御装置20から入力されたトルク指令値に基づいて、電流指令値を生成する。なお、トルク指令値から電流指令値を生成する方法は既知であるため説明を省略する。なお、電力変換器30に入力されるトルク指令値は、第5~第7の実施形態の何れかの構成によって補正後のトルク指令値である。
【0148】
また、速度計測部311は、高速ロータ12の角速度計測値ωHSRおよび低速ロータ13の角速度計測値ωPPRを取得する。そうすると、電流指令値補正部312は、低速ロータ13の角速度計測値ωPPRにギア比Grを乗じたものと、高速ロータ12の角速度計測値ωHSRとの速度差Δωを計算する。
【0149】
次に、電流指令値補正部312は、両ロータの速度差ΔωにゲインKを乗じて電流補正量を算出する。
図13の例では、ゲインKは速度差の絶対値|Δω|に応じた可変値としたが、ステータ電流値の絶対値|I
stator|の大きさに応じた可変値としてもよい。可変ゲインKの値の求め方は、第6の実施形態と同様である。また、他の実施形態では、ゲインKを固定値としてもよい。
【0150】
また、電流指令値補正部312は、算出した電流補正量と、電流指令値生成部310が生成した電流指令値とを合計した補正後電流指令値をインバータ32に出力する。
【0151】
なお、電流指令値補正部312は、
図13の例のように、レートリミット部312Aを有し、算出した電流補正量の変化率を制限してもよい。変化率は予め規定した固定値であってもよいし、可変であってもよい。例えば、レートリミット部312Aは、高速ロータ12および低速ロータ13の速度差Δωに応じて変化率を変更してもよい。また、他の実施形態では、レートリミット部312Aを省略してもよい。
【0152】
インバータ32は、補正後の電流指令値に基づいて、同期機10と電力変換器30の間で入出力される電力を調整する。具体的には、インバータ32は、同期機10が電動機として機能する場合に、補正後の電流指令値に基づいて同期機10のステータ11に供給する電力を調整する。また、インバータ32は、同期機10が発電機として機能する場合に、補正後の電流指令値に基づいて同期機10の出力電力を調整する。
【0153】
(作用、効果)
以上のように、本実施形態に係る駆動装置1において、電力変換器30は、制御装置20から入力されるトルク指令値に応じた電流指令値を生成する電流指令値生成部310と、高速ロータ12および低速ロータ13の回転速度(角速度)を計測する速度計測部311と、高速ロータ12および低速ロータ13の速度差に比例して、高速ロータ12および低速ロータ13のねじれ角を減衰させる電流補正量を算出し、電流指令値を補正する電流指令値補正部312と、補正後の電流指令値に基づいて、同期機との間で入出力される電力を調整するインバータ32と、を備える。
【0154】
一般に、電力変換器30は上位の制御装置20よりも制御対象である同期機10に近く、また、高速で制御演算を行う。このため、電力変換器30が電流指令値を補正することにより、制御装置20から指令を与える場合と比べて、通信遅延や演算遅れの影響を低減して、脱調抑制の効果をより迅速に得ることが可能となる。
【0155】
以上のとおり、本開示に係るいくつかの実施形態を説明したが、これら全ての実施形態は例として提示したものであり、発明の範囲を限定することを意図していない。これらの実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これらの実施形態及びその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【0156】
<付記>
上述の実施形態に記載の駆動装置および駆動装置の制御方法は、例えば以下のように把握される。
【0157】
(1)本開示の第1の態様によれば、駆動装置1は、高速ロータ12および低速ロータ13を有する同期機10と、同期機10の動作を制御する制御装置20と、を備え、制御装置20は、同期機10が出力するトルクを調整するトルク指令値を取得するトルク指令値取得部216と、高速ロータ12および低速ロータの回転速度を計測する速度計測部217と、高速ロータ12および低速ロータ13の速度差に比例して、高速ロータ12および低速ロータ13の磁気的なねじれ角の変化速度を減衰させるトルク補正量を算出し、トルク指令値を補正するトルク指令値補正部218と、を備える。
【0158】
このようにすることで、駆動装置1は、同期機10が出力するトルクを調整することにより、高速ロータ12および低速ロータ13の磁気的なねじれに対し軸ねじれ減衰を与えることができる。この結果、駆動装置1は、高速ロータ12および低速ロータ13のねじれ角を変化しにくくして、脱調の発生を抑制することができる。また、駆動装置1は、高速ロータ12および低速ロータ13の回転速度を推定によらず、第1センサ16および第2センサ17を通じて直接計測しているので、大きな負荷変化が生じた場合であっても正確な回転速度を計測することができる。このため、駆動装置1は、高速ロータ12および低速ロータ13の速度差に応じた適切な軸ねじれ減衰を得ることができる。
【0159】
(2)本開示の第2の態様によれば、第1の態様に係る駆動装置1において、トルク指令値補正部218は、高速ロータ12および低速ロータ13の速度差に所定のゲインKを乗じてトルク補正量を算出する。
【0160】
このようにすることで、駆動装置1は、ゲインKの値によって軸ねじれ減衰の大きさを調整することができる。
【0161】
(3)本開示の第3の態様によれば、第2の態様に係る駆動装置1において、トルク指令値補正部218は、同期機10の負荷の大きさに応じてゲインKの値を変更する。
【0162】
このようにすることで、駆動装置1は、磁気ギアの非線形性、すなわち動作点によって磁気バネの復元力が変化しても、軸ねじれ減衰を効果的に得ることが可能となる。例えば、駆動装置1は、負荷変動による脱調が起こりやすい高負荷運転時には、ゲインKを大きくして効果的に脱調を抑制することができる。また、駆動装置1は、低負荷時にはゲインKを小さくすることにより、軸ねじれ減衰による性能低下を抑制することができる。
【0163】
(4)本開示の第4の態様によれば、第2の態様に係る駆動装置1において、トルク指令値補正部218は、高速ロータ12および低速ロータ13の速度差に応じてゲインKの値を変更する。
【0164】
このようにすることで、駆動装置1は、磁気ギアの非線形性、すなわち動作点によって磁気バネの復元力が変化しても、軸ねじれ減衰を効果的に得ることが可能となる。例えば、駆動装置1は、急激な負荷変動で速度差が大きくなった場合には、ゲインKを大きくして軸ねじれ減衰を強く効かせることにより、効果的に脱調を抑制することができる。一方で、駆動装置1は、速度差が小さいときは系が安定状態であるとみなしてゲインKを小さくすることにより、軸ねじれ減衰による同期機10の性能低下を抑制することができる。
【0165】
(5)本開示の第5の態様によれば、第1から第4の何れか一の態様に係る駆動装置1において、トルク指令値補正部218は、トルク補正量の変化率を制限するレートリミット部218Aを有する。
【0166】
このようにすることで、駆動装置1は、脱調抑制のためトルク調整を行ったときに、同期機10のトルクが急変することを抑制することができる。
【0167】
(6)本開示の第6の態様によれば、第5の態様に係る駆動装置1において、レートリミット部218Aは、高速ロータ12および低速ロータ13の速度差に応じて変化率を変更する。
【0168】
このようにすることで、駆動装置1は、速度差が大きく速やかな対応が必要な場合には、トルク補正量の変化率を大きくすることにより脱調抑制の効果を迅速に得ることができる。一方で、速度差が小さく脱調が発生するまでに比較的余裕がある場合には、トルクの急変を抑制することができる。
【0169】
(7)本開示の第7の態様によれば、第1から第6の何れか一の態様に係る駆動装置1は、同期機10との間で入出力される電力を調整する電力変換器30をさらに備え、電力変換器30は、制御装置20から入力されるトルク指令値に応じた電流指令値を生成する電流指令値生成部310と、高速ロータ12および低速ロータ13の回転速度を計測する速度計測部311と、高速ロータ12および低速ロータ13の速度差に比例して、高速ロータ12および低速ロータ13の磁気的なねじれ角を減衰させる電流補正量を算出し、電流指令値を補正する電流指令値補正部312と、補正後の電流指令値に基づいて、同期機10との間で入出力される電力を調整するインバータ32と、を備える。
【0170】
このようにすることで、駆動装置1は、制御装置20から指令を与える場合と比べて、通信遅延や演算遅れの影響を低減して、脱調抑制の効果をより迅速に得ることが可能となる。
【0171】
(8)本開示の第8の態様によれば、高速ロータ12および低速ロータ13を有する同期機10と、同期機10の動作を制御する制御装置20と、を備える駆動装置1の制御方法は、同期機10が出力するトルクを調整するトルク指令値を取得するステップと、高速ロータ12および低速ロータ13の回転速度を計測するステップと、高速ロータ12および低速ロータ13の速度差に比例して、高速ロータ12および低速ロータ13の磁気的なねじれ角の変化速度を減衰させるトルク補正量を算出し、トルク指令値を補正するステップと、を有する駆動装置1の制御方法。
【符号の説明】
【0172】
1 駆動装置
10 同期機
11 ステータ
12 高速ロータ
13 低速ロータ
20 制御装置
21 プロセッサ
210 取得部
211 トルク推定部
212 ねじれ角推定部
213 ねじれ角計測部
214 判定部
215 調整部
216 トルク指令値取得部
217 速度計測部
218 トルク指令値補正部
218A レートリミット部
22 メモリ
23 ストレージ
24 インタフェース
30 電力変換器
31 プロセッサ
310 電流指令値生成部
311 速度計測部
312 電流指令値補正部
312A レートリミット部
32 インバータ