(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024095219
(43)【公開日】2024-07-10
(54)【発明の名称】対物レンズ装置、顕微鏡観察方法及び光学性能検査方法
(51)【国際特許分類】
G02B 21/00 20060101AFI20240703BHJP
G02B 21/02 20060101ALI20240703BHJP
G01M 11/02 20060101ALI20240703BHJP
G01M 11/00 20060101ALI20240703BHJP
G02B 13/14 20060101ALN20240703BHJP
【FI】
G02B21/00
G02B21/02
G01M11/02 B
G01M11/00 L
G02B13/14
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022212336
(22)【出願日】2022-12-28
(71)【出願人】
【識別番号】592163734
【氏名又は名称】京セラSOC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001379
【氏名又は名称】弁理士法人大島特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山中 健史
【テーマコード(参考)】
2G086
2H052
2H087
【Fターム(参考)】
2G086FF04
2G086HH06
2H052AA09
2H052AB01
2H052AC04
2H052AC09
2H052AC12
2H052AC19
2H052AD20
2H052AD31
2H052AF14
2H087KA09
2H087LA01
2H087LA30
2H087NA01
2H087NA04
2H087PA09
2H087PA11
2H087PA13
2H087PA17
2H087PB09
2H087PB11
2H087PB13
2H087QA02
2H087QA03
2H087QA06
2H087QA14
2H087QA17
2H087QA19
2H087QA21
2H087QA22
2H087QA26
2H087QA32
2H087QA41
2H087QA45
2H087UA03
(57)【要約】
【課題】真空環境と大気環境との両方で良好な光学性能を得られる対物レンズを実現する。
【解決手段】対物レンズ装置1は、無限遠補正型の対物レンズ2と、対物レンズ2の無限遠共役側に着脱可能に設けられ、真空環境から大気環境に変化した場合に装着される、負の屈折力を有する大気-真空補正レンズ3と、を備える。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
対物レンズ装置であって、
無限遠補正された対物レンズと、
前記対物レンズの無限遠共役側に着脱可能に設けられ、真空環境から大気環境に変化した場合に装着される、負の屈折力を有する大気-真空補正レンズと、を備える対物レンズ装置。
【請求項2】
前記大気-真空補正レンズは2枚のレンズから構成されることを特徴とする請求項1に記載の対物レンズ装置。
【請求項3】
顕微鏡を用いた観察方法であって、
前記顕微鏡は、真空環境にて収差補正された対物レンズと、真空環境から大気環境への環境変化に起因する収差を補正する着脱可能な大気-真空補正レンズとを有する対物レンズ装置を含み、
真空環境での観察時には前記対物レンズを用い、大気環境での観察時には前記対物レンズの無限遠共役側に前記大気-真空補正レンズを装着してなる前記対物レンズ装置を用いて試料を観察することを特徴とする顕微鏡観察方法。
【請求項4】
真空環境にて収差補正してなる無限遠補正された対物レンズの光学性能検査方法であって、
前記対物レンズの無限遠共役側に、真空下から大気下への環境変化に起因して発生する収差を補正する大気-真空補正レンズを装着して光学系を構成し、
前記対物レンズ及び前記大気-真空補正レンズを含む前記光学系を大気環境に配置して光学性能を測定する光学性能検査方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体検査や顕微鏡観察に好適な無限遠補正型の対物レンズに関し、特に、大気下-真空下間の環境変化に対して良好な光学性能を実現できる対物レンズ、それを用いた顕微鏡観察方法、及び光学性能検査方法に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体検査装置や顕微鏡などには無限遠補正型の種々の対物レンズが用いられている。
【0003】
また近年、EUVを扱う半導体検査装置や、電子顕微鏡と光学顕微鏡とを組み合わせた観察装置など、真空環境で使用される対物レンズの需要が高まっている。これらの対物レンズは真空環境で最適な光学性能を発揮できるように収差補正されている。
【0004】
一方、これらの対物レンズを大気環境に配置すると、真空から大気への環境変化によって屈折率が変化するため、光学性能も変化することが知られている。
【0005】
このことを具体的な数値を用いて説明する。真空中における屈折率(絶対屈折率)nabsと、大気中における屈折率(相対屈折率)nrelとの間には下式(1)の関係がある。
nabs=nair・nrel ・・・(1)
ここで、nairは空気の屈折率である。
【0006】
例えば、波長266nmの光に対して、大気(空気)の屈折率は1.00028程度である。代表的な光学材料である石英を例にすると、大気中での屈折率は1.49972、真空中での屈折率は1.50015程度となる。この屈折率の変化が光学系の光学性能に影響を及ぼすことになる。
【0007】
ところで、真空環境で使用される対物レンズの調整・検査方法として最も単純なものは、実際に被検対物レンズを真空環境に配置することである。具体的には被検光学系を真空チャンバー内に配置し、被検光学系の光学性能を測定する、あるいは被検光学系を調整するような設備を用意することである。しかし、設備が複雑化するうえに、時間及びコストが増大してしまうという課題が生じる。
【0008】
したがって、真空環境で使用される対物レンズであっても、大気環境で組み立て・調整・検査されることがある。具体的な手順としては、環境変化の影響による光学性能の変化、例えば、結像位置や収差の変化量を予め求めておき、この変化を考慮して大気環境にて対物レンズを調整する。しかし、製造誤差や調整誤差の影響によって、光学性能が予め求めた変化量だけ変化するとは限らない。したがって、真空環境では光学性能が想定よりも著しく劣化する虞がある。換言すれば、環境変化に応じて光学性能が大きく変化すると、高精度な調整・検査ができず、ひいては実使用時に対物レンズが本来の機能を果たすことができなくなる。
【0009】
大気下-真空下間の環境変化に対する光学性能の変化を少なくする対物レンズないし観察方法が様々提案されている(特許文献1-2参照)。
【0010】
例えば、特許文献1には、2つの結像光学系を組み合わせて、大気下-真空下間の気圧変化に伴う結像位置のずれが少ない光学系が開示されている。
【0011】
特許文献2には、環境変化に伴う屈折率変化を光源の波長変化による屈折率変化で補償することが提案されている。この考え方を応用すれば、複数波長で良好な光学性能を得られるように光学設計をすることで、大気下-真空下間の環境変化においても頑健な光学性能を有する光学系が得られると考えられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特許4819419号公報
【特許文献2】特開2007-109926号公報
【特許文献3】特許3805735号公報
【特許文献4】特開平05―196873号公報
【特許文献5】特開平10-227977号公報
【非特許文献】
【0013】
【非特許文献1】J.Webb et al,Optical Design Forms for DUV&VUV Microlithographic Processes,Optical Microlithography XIV,Proceedings of SPIE Vol.4,346(2001)
【非特許文献2】W.T.Welford,Aberrations of Optical Systems,Adam Hilger(1986)
【非特許文献3】R.Kingslake,B.Johnson,Lens Design Fundamentals,Academic Press,2010
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
しかし、特許文献1に開示された光学系では、対物レンズ単体でなく、結像レンズに組み合わせての設計及び使用が必要になり、使用上の自由度が制限されてしまう。また、結像光学系の片方が真空中、もう片方が大気中といった使用方法をする場合には、原理的に適用できないという課題もある。
【0015】
次に、特許文献2の考え方を応用し、複数波長で色消しをすることで、気圧変化に対し頑健な光学性能を有するような光学系について検討する。
【0016】
一般に、気圧変化による屈折率変化を波長変化に換算した際の変化量は光学材料によって異なる。したがって、複数の光学材料を用いる場合においては、大気下-真空下間の環境変化によって光学性能が変化する場合がある。
【0017】
また、真空環境で使用される対物レンズはDUVやEUVといった短波長を扱うものが多い。一般に短波長になるほど光学材料の分散は大きくなるうえに、266nmを含む深紫外・極紫外領域では透過率の特性上、使用できる材料が限られる。このような制約から、特許文献3や非特許文献1に述べられているように、DUV、EUV領域において色消しを実現するにはレンズ枚数の大幅な増加が必要になる。レンズ枚数が大幅に増加すると、対物レンズのサイズが大きくなるだけでなく、コストも大幅に増大してしまう。
【0018】
よって、気圧変化による屈折率変化を波長変化に置換し、その範囲での色消しによって光学性能の維持を図った光学系は、性能変化、コスト、サイズ等の観点から課題があると考えられる。
【0019】
本発明はこのような状況を鑑みてなされたものであり、真空環境と大気環境との両方で良好な光学性能を得られる対物レンズ、それを用いた観察方法及び光学性能検査を実現することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0020】
上記課題を解決するために本発明のある態様は、対物レンズ装置(1)であって、無限遠補正型の対物レンズ(2)と、前記対物レンズの無限遠共役側に着脱可能に設けられ、真空環境から大気環境に変化した場合に装着される、負の屈折力を有する大気-真空補正レンズ(3)と、を備えることを特徴としている。
【0021】
この態様によれば、簡便な構成でありながら、真空環境及び大気環境のいずれにおいても対物レンズの収差補正を良好にすることができる。
【0022】
上記の態様において、前記大気-真空補正レンズは2枚のレンズ(L1・L2、L31・L32)から構成されるとよい。
【0023】
この態様によれば、大気-真空補正レンズが3枚以上のレンズから構成される場合に比べ、大気-真空補正レンズのサイズを小さくすることができる。
【0024】
また、上記課題を解決するために本発明のある態様は、顕微鏡(12)を用いた観察方法であって、前記顕微鏡は、真空環境にて収差補正された対物レンズ(2)と、真空環境から大気環境への環境変化に起因する収差を補正する大気-真空補正レンズ(3)とを有する対物レンズ装置(1)を含み、真空環境での観察時には前記対物レンズを用い、大気環境での観察時には前記対物レンズの無限遠共役側に前記大気-真空補正レンズを装着してなる前記対物レンズ装置を用いて試料(S)を観察することを特徴としている。
【0025】
この態様によれば、簡便な構成の対物レンズを用いて、真空環境及び大気環境のいずれにおいても良好な収差補正のもと、試料を観察することができる。
【0026】
さらに、上記課題を解決するために本発明のある態様は、真空環境にて収差補正してなる無限遠補正された対物レンズ(2)の光学性能検査方法であって、前記対物レンズの無限遠共役側に、真空下から大気下への環境変化に起因して発生する収差を補正する大気-真空補正レンズ(3)を装着して光学系(1)を構成し、前記対物レンズ及び前記大気-真空補正レンズを含む前記光学系を大気環境に配置して光学性能を測定することを特徴としている。光学性能の測定においては、例えば干渉計(20)にて透過波面収差測定を行うとよい。
【0027】
この態様によれば、真空環境にて収差補正された対物レンズの光学性能を、大気環境で検査することができる。
【発明の効果】
【0028】
以上の態様によれば、真空環境と大気環境との両方で良好な光学性能を得られる対物レンズ、観察方法及び光学性能検査が実現可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【
図1】本発明の実施例1に係る対物レンズ装置の真空環境配置時の光路図
【
図2】実施例1に係る対物レンズ装置の大気環境配置時の光路図
【
図3】実施例1に係る対物レンズ装置の真空環境配置時の縦収差図
【
図4】実施例1に係る対物レンズ装置の真空環境配置時の横収差図
【
図5】実施例1に係る対物レンズ装置の大気環境配置時の縦収差図
【
図6】実施例1に係る対物レンズ装置の大気環境配置時の横収差図
【
図7】本発明の実施例2に係る対物レンズ装置の大気環境配置時の光路図
【
図8】実施例2に係る対物レンズ装置の真空環境配置時の縦収差図
【
図9】実施例2に係る対物レンズ装置の真空環境配置時の横収差図
【
図10】実施例2に係る対物レンズ装置の大気環境配置時の縦収差図
【
図11】実施例2に係る対物レンズ装置の大気環境配置時の横収差図
【
図13】本発明に係る、干渉計を用いた透過波面測定の模式図
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、図面を参照して本発明の実施形態について説明する。
【実施例0031】
まず、本発明の1つの実施例に係る対物レンズ装置1について、
図1~
図6を参照して説明する。また、本発明に係る観察装置10及び検査方法について
図12及び
図13を参照して説明する。
【0032】
図1は本実施例に係る対物レンズ装置1の真空環境配置時の光路図である。
図2は本実施例に係る対物レンズ装置1の大気環境配置時の光路図である。
図1及び
図2に示すように、真空環境から大気環境へ配置環境が変化する際に、対物レンズ2に対し、着脱可能な大気-真空補正レンズ3が付加される構成となっている。対物レンズ装置1がこのような構成にされることで、真空環境及び大気環境いずれにおいても良好に収差補正がされた対物レンズ装置1が実現可能となる。
【0033】
まず、本発明の基本的な原理を説明する。
【0034】
空気の屈折率は1.00028程度であるため、真空環境での屈折率に比べ、大気環境での屈折率は小さくなる。したがって真空環境で収差補正された対物レンズ2をそのまま大気環境に配置すると球面収差やコマ収差などが変化してしまう。
【0035】
球面収差については、光学系の共役長に応じて変化することが知られている(非特許文献2参照)。この理論に基づけば、屈折率が小さくなると球面収差は補正過剰側に変化するので、真空環境で収差補正された対物レンズ2を大気環境で使用する際は、補正不足の球面収差を発生させればよいことになる。そのためには対物レンズ2から見た見かけ上の物点が、対物レンズ2に近づくように共役長を変化させればよい。これは対物レンズ2の無限遠共役側に負の屈折力を有する大気-真空補正レンズ3を付加することで実現できる。このように対物レンズ装置1は、簡便な構成でありながら、真空環境及び大気環境のいずれにおいても対物レンズ2の収差補正を良好に行うことができる。
【0036】
共役長変化で球面収差を補正しても、なおコマ収差が残存してしまう。そこで、大気-真空補正レンズ3が2枚のレンズL1・L2(
図7に示す例では、レンズL31・L32)から構成されることで、余分な球面収差を発生させることなく、大気-真空補正レンズ3と対物レンズ2との合成系として対物レンズ装置1が構成される。これにより、コマ収差を良好に補正できる自由度を確保することができる。
【0037】
一般に、レンズ枚数を増やしたほうが設計上の自由度が増え、収差補正上有利である。しかし、枚数を増やせばその分だけコストが増加するうえに、レンズ及び機構部品の製造誤差や組み立て誤差が累積し、製品としての光学性能の低下につながってしまう。したがって、大気-真空補正レンズ3は最小枚数である2枚のレンズL1・L2、L31・L32から構成することが望ましい。
【0038】
次に、本発明の別の側面としての観察方法について説明する。
【0039】
本明細書で開示された大気-真空補正レンズ3及びそれを備えた対物レンズ装置1は、大気環境及び真空環境のいずれにおいても使用可能なものである。よって、観察対象と対物レンズ2とが配置される空間が、大気環境と真空環境とに変化する場合であっても、良好な光学性能を維持できる観察方法が実現できる。
【0040】
観察方法は
図12に例示される観察装置10によって具現化される。観察装置10は、顕微鏡観察装置であり、大気環境と真空環境とを選択的に内部に創り出すことが可能な容器11と、対物レンズ2と、大気-真空補正レンズ3とを有する。試料S及び対物レンズ装置1(対物レンズ2及び大気-真空補正レンズ3)は容器11内(チャンバーC)に配置される。結像レンズ4は容器11外に配置される。容器11内が真空環境から大気環境に変化した場合において、大気-真空補正レンズ3を対物レンズ2の無限遠共役側に装着した状態の対物レンズ装置1が、撮像光学系を備える顕微鏡12に搭載される。このような構成にすることで、大気環境と真空環境とに容器11内が変化する場合においても、良好な収差補正のもと、試料Sを観察することができる観察装置10が実現できる。
【0041】
次に、本発明の別の側面としての光学系検査方法について説明する。本明細書で開示された大気-真空補正レンズ3の考え方を用いれば、真空環境用に設計・製造された対物レンズ2の光学性能を大気環境で検査する方法が実現できる。
【0042】
検査方法について
図13を参照しながら概略的に説明する。まず、真空環境にて収差補正された被検レンズである対物レンズ2に対し、大気下-真空下間の環境変化による収差変化を補正する大気-真空補正レンズ3が設計・製作される。なお、大気-真空補正レンズ3の製作にあたっては、各レンズの偏芯調整、及び各レンズ間の間隔調整が行われてもよい。次に、対物レンズ2の無限遠共役側に、当該大気-真空補正レンズ3が装着され、全系が大気環境で干渉計20に配置される。干渉計20にて透過波面収差を測定することで、真空環境用途の対物レンズ2の光学性能を大気環境で検査することが可能となる。なお、干渉計20で透過波面収差の測定結果に基づき、対物レンズ2の各レンズの偏芯調整、及び各レンズ間の間隔調整が行われてもよい。
【0043】
ここで、類似の先行例(先行特許文献に記載された発明)と、本明細書に開示された発明との相違点を説明する。
【0044】
顕微鏡12の対物レンズ2において、収差補正を担う光学系を主光学系とは別個に設け、主光学系に着脱自在とすることは一般に周知である。
【0045】
しかし、それらの多くは大気環境に限定された使用条件に基づくものであり、対物レンズ2の配置環境が大気-真空間で変化する際の収差変化については意識されて来なかった。
【0046】
公知の着脱可能な光学系のなかでは、顕微鏡対物レンズにおける、カバーガラスによる収差を補正するための光学系が特に広く研究されている(例えば、特許文献4や特許文献5参照)。
【0047】
しかし、非特許文献3に理論的に示されているように、カバーガラスなどの平行平面板によって球面収差が変化し、くわえて波長幅がある場合には色収差が、テレセントリックでない場合はさらに像面湾曲が変化するが、コマ収差については考慮する必要がない。他方、対物レンズ2の配置環境の気圧変化によってコマ収差も発生し、光学性能低下につながることは、本明細書で説明した通りである。よってこれらの先行例で開示されている光学系は大気・真空の気圧変化に対しては適用できない。
【0048】
したがって、本明細書で開示された大気-真空補正レンズ3及びそれを備えた対物レンズ装置1は、大気・真空の環境変化においても良好な光学性能を得られる対物レンズ装置1を新たに実現したものである。
【0049】
このように本発明によれば、真空環境と大気環境との両方で良好な光学性能を得られる対物レンズ装置1、観察装置10及び光学性能検査方法が実現可能となる。
【0050】
図2に示すように、本実施例に係る大気-真空補正レンズ3は、無限遠共役側から順に、無限遠共役側に凸面を向けた負レンズ、無限遠共役側に凸面を向けた正レンズ、からなる2枚のレンズL1・L2で構成される。
【0051】
図3及び
図4は、本実施例に係る対物レンズ装置1の真空環境配置時の縦収差図及び横収差図を示す。
【0052】
図5及び
図6は、本実施例に係る対物レンズ装置1において、大気-真空補正レンズ3を装着したうえでの大気環境配置時の縦収差図及び横収差図を示す。
【0053】
続いて、以下の表1及び表2は本実施例に係る対物レンズ装置1の諸元値を示す。なお、本実施例は波長266nm、対物レンズ部の焦点距離:2.0mm、NA:0.9、作動距離2.0mm、視野:Φ0.23mmである。レンズデータ中、材質の記載されていない間隔部の屈折率は1.00000である。表2は、バックフォーカスBFの可変間隔データを示す。
【0054】
観察装置10は、内部(チャンバーC)を真空環境にすることができる容器11(真空チャンバー装置)、撮像光学系を備える顕微鏡12、及び顕微鏡画像を取得する撮像装置13を備えている。
顕微鏡12は、試料側から順に配置された、対物レンズ2、大気-真空補正レンズ3及び結像レンズ4から構成される。試料S及び対物レンズ2はチャンバーC内に配置される。
対物レンズ2は無限遠補正型であり、大気-真空補正レンズ3を着脱可能な構造となっている。チャンバーCが真空環境から大気環境へ変化した場合において、対物レンズ2の無限遠共役側に大気-真空補正レンズ3が装着される。
XYZステージ14は顕微鏡12の光軸方向及びこれと直交する方向に3軸に移動可能となっており、試料SをXYZステージ14上に載置することで、試料Sを任意の位置に移動可能な構成となっている。
本実施形態において試料Sは2通りの方法によって照明され得る。1つは第1照明装置15を用いたいわゆる斜光照明であり、他の1つは第2照明装置16により対物レンズ装置1の内部を通して照明するいわゆる落射照明である。
これらの照明光によって試料Sから散乱された光、あるいは照明光により励起された蛍光を対物レンズ装置1により取り込み、さらに結像レンズ4と撮像装置13とにより画像取得することで、試料Sの顕微鏡画像を取得することができる。
以上のような構成にすることで、チャンバーC内が大気環境であっても真空環境であっても良好な収差補正のもと、試料Sを観察することができる観察装置10及び顕微鏡観察方法を実現することができる。
まず、被検レンズである対物レンズ2の無限遠共役側に付加され、大気下-真空下間の環境変化に起因する収差変化を補正する大気-真空補正レンズ3が設計・製造され、対物レンズ2に装着される。大気-真空補正レンズ3は対物レンズ2に対して着脱可能な構造となっている。このようにすることで、真空下と大気下で光学性能が等価となり、大気下において真空下環境を模擬することができる。
光源21からの光は光源用レンズ22を通過することで所望の光束径を有する平行光とされ、ビームスプリッタ23に入射する。この光はビームスプリッタ23を透過後、基準平面板24に至る。
基準平面板24を通過した後、対物レンズ2に至った光は、対物レンズ2の焦点に集光される。その後、光は集光点に曲率中心を持つ高精度な球面反射鏡25により反射され、再び対物レンズ2、基準平面板24、を経てビームスプリッタ23に至る。
そして、基準平面板24で反射した光と対物レンズ2を通過してきた光とが重ね合わされて、干渉縞観察用レンズ26を介して集光され、干渉縞観察装置27で干渉縞が観察される。干渉縞観察装置27で観察された干渉縞を解析することで透過波面収差が測定される。
なお、本実施形態では干渉計20を用いた透過波面収差測定による光学性能検査方法について説明したが、光学性能検査方法は本発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。例えば、本明細書で開示した観察装置10など、被検対物レンズ装置が搭載される装置の試料面に評価用チャートを配置して光学性能(解像度)を検査してもよい。
以上、本発明を、その好適な実施形態について説明したが、本発明はこのような実施形態により限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。また、上記実施形態に示した構成要素は必ずしも全てが必須なものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない限りにおいて適宜取捨選択することが可能である。