(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024009522
(43)【公開日】2024-01-23
(54)【発明の名称】フレイル推定装置、フレイル推定方法及びプログラム
(51)【国際特許分類】
G16H 50/30 20180101AFI20240116BHJP
G16H 10/00 20180101ALI20240116BHJP
【FI】
G16H50/30
G16H10/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022111110
(22)【出願日】2022-07-11
(71)【出願人】
【識別番号】598121341
【氏名又は名称】慶應義塾
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】新井 康通
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 貴史
(72)【発明者】
【氏名】漆原 尚巳
(72)【発明者】
【氏名】安藤 崇之
【テーマコード(参考)】
5L099
【Fターム(参考)】
5L099AA15
5L099AA21
(57)【要約】
【課題】医療機関を受診した履歴に基づいてフレイル状態を推定する。
【解決手段】フレイル推定装置が、対象者が医療機関を受診した履歴を表す医療受診データに基づいて対象者の健康状態を表す特徴データを抽出するように構成されている特徴抽出部と、対象者に関する特徴データを、特徴データとフレイル評価指標との関係を学習したモデルに入力することで、対象者のフレイル評価指標を推定するように構成されている指標推定部と、を備える。
【選択図】
図13
【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象者が医療機関を受診した履歴を表す医療受診データに基づいて前記対象者の健康状態を表す特徴データを抽出するように構成されている特徴抽出部と、
前記対象者に関する前記特徴データを、前記特徴データとフレイル評価指標との関係を学習したモデルに入力することで、前記対象者の前記フレイル評価指標を推定するように構成されている指標推定部と、
を備えるフレイル推定装置。
【請求項2】
請求項1に記載のフレイル推定装置であって、
前記医療受診データは、前記対象者に発行された医療レセプトを表すデータを含む、
フレイル推定装置。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のフレイル推定装置であって、
前記特徴データは、前記対象者が診察された疾患を表す情報又は前記対象者に処方された薬剤を表す情報を含む、
フレイル推定装置。
【請求項4】
請求項3に記載のフレイル推定装置であって、
前記医療受診データは、前記対象者が受診した健康診断結果を表すデータを含む、
フレイル推定装置。
【請求項5】
請求項4に記載のフレイル推定装置であって、
前記疾患は、脳卒中、心疾患、高血圧、糖尿病、呼吸器疾患、骨疾患、関節疾患、骨折及び悪性腫瘍であり、
前記薬剤は、抗凝固剤であり、
前記健康診断結果は、血色素量、血清レアチニン量及び年齢である、
フレイル推定装置。
【請求項6】
請求項4に記載のフレイル推定装置であって、
前記疾患は、脳卒中、心疾患、高血圧、糖尿病、呼吸器疾患、腎疾患、骨疾患、関節疾患、高尿酸血症、骨折及び悪性腫瘍であり、
前記薬剤は、インシュリン、血糖降下薬、血糖降下薬その他、利尿薬、β受容体拮抗薬、アンジオテンシン変換酵素阻害薬、アンジオテンシンII受容体阻害薬、脂質降下薬その他、抗凝固剤、直接経口抗凝固薬及び抗血小板剤であり、
前記健康診断結果は、血色素量、血清レアチニン量、血清アルブミン量、年齢及びボディマス指数であり、
前記特徴データは、喫煙歴をさらに含む、
フレイル推定装置。
【請求項7】
コンピュータが、
対象者が医療機関を受診した履歴を表す医療受診データに基づいて前記対象者の健康状態を表す特徴データを抽出する手順と、
前記対象者に関する前記特徴データを、前記特徴データとフレイル評価指標との関係を学習したモデルに入力することで、前記対象者の前記フレイル評価指標を推定する手順と、
を実行するフレイル推定方法。
【請求項8】
コンピュータに、
対象者が医療機関を受診した履歴を表す医療受診データに基づいて前記対象者の健康状態を表す特徴データを抽出する手順と、
前記対象者に関する前記特徴データを、前記特徴データとフレイル評価指標との関係を学習したモデルに入力することで、前記対象者の前記フレイル評価指標を推定する手順と、
を実行させるためのプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フレイル推定装置、フレイル推定方法及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
フレイルは、加齢に伴う心身の活力の低下に起因する健康な状態と要介護状態との中間にある状態である。フレイルの高齢者に対して、適切な治療や予防を行うことで要介護状態に進むことを遅延又は予防できる可能性があると考えられている。そのため、フレイルの高齢者をスクリーニングし、適切な介入を行うことは重要である。
【0003】
フレイルを診断する評価方法として、例えば、ロックウッドらにより提唱された障害蓄積モデル(非特許文献1参照)、及びフリードらにより提唱された表現型モデル(非特許文献2参照)等が提案されている。障害蓄積モデルでは、日常生活動作、健康度、併存症及び身体能力等における機能的障害又は異常所見の数に基づくスコアを利用してフレイルを評価する。表現型モデルでは、歩行速度、筋力、活動性、倦怠感及び疲労感、並びに体重減少の該当数を表すスコアを利用してフレイルを評価する。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Kenneth Rockwood, Arnold Mitnitski, "Frailty in relation to the accumulation of deficits", The Journals of Gerontology: Series A, vol. 62(7), pp. 722-727, 2007.
【非特許文献2】Linda P. Fried, Jeremy D. Walston, Luigi Ferrucci, "Hazzard's Geriatric Medicine and Gerontology", 6th edition, McGraw Hill, pp. 631-645, 2009.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来技術では、フレイルを評価するために新たに情報を収集する必要がある、という課題がある。例えば、障害蓄積モデルや表現型モデルでは、筋力や体力等の情報が必要となる。筋力や体力等の情報は通常の健康診断では検査項目に含まれないため、フレイルを評価するためには新たに検査を実施する必要がある。
【0006】
本発明は、上記のような技術的課題に鑑みて、医療機関を受診した履歴に基づいてフレイルを推定することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決するために、本発明の一態様によるフレイル推定装置は、対象者が医療機関を受診した履歴を表す医療受診データに基づいて対象者の健康状態を表す特徴データを抽出するように構成されている特徴抽出部と、対象者に関する特徴データを、特徴データとフレイル評価指標との関係を学習したモデルに入力することで、対象者のフレイル評価指標を推定するように構成されている指標推定部と、を備える。
【発明の効果】
【0008】
本発明の一態様によれば、医療機関を受診した履歴に基づいてフレイルを推定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】フリード評価指標の分布の一例を示す図である。
【
図2】ロックウッド評価指標の分布の一例を示す図である。
【
図3】フレイル評価指標の相関関係の一例を示す図である。
【
図4】ロックウッド評価指標と予後との関係の一例を示す図である。
【
図5】一般化線形モデルを使った多変量解析の結果の一例を示す図である。
【
図6】一般化線形モデルを使った多変量解析の結果の一例を示す図である。
【
図7】予測フレイル評価指標とロックウッド評価指標との相関関係の一例を示す図である。
【
図8】レセプトに基づく予測フレイル評価指標と他のフレイル評価指標との相関関係の一例を示す図である。
【
図9】聞き取りに基づく予測フレイル評価指標と予後との関係の一例を示す図である。
【
図10】レセプトに基づく予測フレイル評価指標と予後との関係の一例を示す図である。
【
図11】一実施形態におけるフレイル推定システムの全体構成の一例を示す図である。
【
図12】一実施形態におけるコンピュータのハードウェア構成の一例を示す図である。
【
図13】一実施形態におけるフレイル推定装置の機能構成の一例を示す図である。
【
図14】一実施形態における学習処理の手順の一例を示す図である。
【
図15】一実施形態における推定処理の手順の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の各実施形態について添付の図面を参照しながら説明する。なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能構成を有する構成要素については、同一の符号を付することにより重複した説明を省略する。
【0011】
<概要>
フレイルは、加齢に伴う心身の活力の低下に起因する、健康な状態と要介護状態との中間にある状態である。フレイルの高齢者に対して、適切な治療や予防を行うことで要介護状態に進むことを遅延又は防止できる可能性があると考えられている。
【0012】
フレイルには、筋力の低下等が起きる「身体的フレイル」、認知機能の低下や鬱から起きる「精神的、心理的フレイル」、独居や経済的困窮を背景にした「社会的フレイル」等、複数の要素が含まれる。フレイルの発症や進展のメカニズム、及び遺伝的要因等は未だ解明されていない。
【0013】
≪フレイル評価指標(frailty score index)≫
フレイルは複合的な状態であるため、フレイルの診断には何らかの評価方法が必要となる。従来、フレイルを評価する方法として、主に2種類の評価方法が提案されている。第1の評価方法は、ロックウッドらにより提唱された「障害蓄積モデル(accumulated deficit model)」である。第2の評価方法は、フリードらにより提唱された「表現型モデル(phenotype model)」である。
【0014】
ロックウッドの障害蓄積モデルは、日常生活動作、健康度、併存症及び身体能力等における機能的障害や異常所見の数を、全体の評価項目数で除したスコアを利用する。フリードの表現型モデルは、歩行速度、筋力、活動性、倦怠感及び疲労感、並びに体重減少の該当数をスコアとする。フリードの表現型モデルは、主に身体的フレイルの評価方法として利用されている。
【0015】
≪従来のフレイル評価指標の検証≫
本願の発明者らは「川崎市における高齢者の暮らし方と健康に関する学術調査(KAWP; Kawasaki Aging and Wellbeing Project)」を実施している。KAWPは、日常生活において介護を必要としない、85歳から89歳までの超高齢者を対象とし、健康と生活の質の維持につながる要因を、身体的領域(医療及び介護)、心理的領域(幸福感及び認知機能)、生活習慣領域(食習慣、運動習慣及び趣味)、及び地域社会領域(社会参加及び地域環境)から多面的に検討するプロジェクトである。
【0016】
KAWPでは、ベースライン調査として、川崎市に居住する超高齢者1,026人に対して、身体機能及び身体組成、認知機能、身体活動、社会的活動、聴力、並びに病歴等の調査を行った。さらに、KAWPでは、その後の死亡及び要介護状態の電話による追跡調査を行った。
【0017】
図1は、フリードの表現型モデルに基づくフレイル評価指標(以下、「フリード評価指標(Fried frailty score index)」と呼ぶ)の分布の一例を示す図である。
図2は、ロックウッドの障害蓄積モデルに基づくフレイル評価指標(以下、「ロックウッド評価指標(Rockwood frailty score index)」と呼ぶ)の分布の一例を示す図である。
図1及び
図2は、KAWPのベースライン調査における身体機能、社会的活動及び病歴から各フレイル評価指標を算出し、その分布を解析した結果である。
図1に示されているように、フリード評価指標によると、約2割がフレイル(Frail)、約6割がプレフレイル(Prefrail)、残りの2割弱がロバスト(Robust)であると評価された。
【0018】
図3は、フリード評価指標とロックウッド評価指標との相関関係の一例を示すである。
図3に示されているように、フリード評価指標とロックウッド評価指標との間に相関が認められた。
【0019】
次に、フレイル評価指標と予後との関係を明らかにするために、ロックウッド評価指標と、電話調査による3年後の健康状態(死亡、要介護、要支援、又は自立)との相関関係を解析した。ロックウッド評価指標をスコア順に4分位に分類し、それぞれの集団での死亡率、要介護率、要支援率、及び自立率を算出した。なお、自立率は、自立及び要支援1であった割合とし、要支援率は、要支援2であった割合とした。
【0020】
図4は、ロックウッド評価指標と予後との関係の一例を示す図である。group1からgroup4は、ロックウッド評価指標が小さい順に分類した集団である。
図4に示されているように、group4は、死亡率、要介護率及び要支援率のすべてが最も高かった。また、group1は、死亡率、要介護率及び要支援率のすべてが最も低かった。この結果から、ロックウッド評価指標は、日本人の超高齢者の集団であっても、死亡率及び要介護率を適切に予測できる指標であることが明らかになった。
【0021】
≪病歴聞き取り情報及び健康診断結果によるフレイル評価≫
従来のフレイル評価指標には、筋力及び体力等の情報が必要である。筋力及び体力等を正しく測定するためには、専用の器具を用いた実地調査が必要となる。しかしながら、筋力及び体力等の測定は高齢者に対して行う通常の健康診断では実施されない。そのため、筋力及び体力等の情報を得ることは容易ではない。
【0022】
本願の発明者らは、性別やボディマス指数(BMI; Body mass index)等の基礎情報、健康診断結果、病歴及び薬剤等の容易にアクセスできる既存の情報を用いたフレイル評価の実現性を検証した。なお、病歴及び薬剤に関しては、聞き取りにより情報収集をしている。
【0023】
第1に、基礎情報として、以下2つのカテゴリ変数を選択した。
【0024】
1-1.性別(sex)
1-2.喫煙歴(smoking)
【0025】
第2に、健康診断結果として、以下5つの連続変数を選択した。
【0026】
2-1.血色素量(Hb)
2-2.血清レアチニン量(CRTNN)
2-3.血清アルブミン量(ALB)
2-4.年齢(age)
2-5.ボディマス指数(BMI)
【0027】
第3に、病歴情報として、以下20のカテゴリ変数を選択した。
【0028】
3-1.脳卒中歴(APO01)
3-2.心疾患歴(HEART01)
3-3.高血圧歴(HBP01)
3-4.糖尿病歴(DM01)
3-5.高脂血症歴(HL01)
3-6.呼吸器疾患歴(RESPI01)
3-7.消化器疾患歴(GI01)
3-8.腎疾患歴(RENAL01)
3-9.前立腺疾患歴(PRO01)
3-10.甲状腺疾患歴(THYROID01)
3-11.パーキンソン病歴(PERKIN01)
3-12.膠原病歴(COLLAG01)
3-13.眼疾患歴(EYEDISEASE01)
3-14.骨疾患歴(OST01)
3-15.関節疾患歴(JOINT01)
3-16.高尿酸血症歴(HUA01)
3-17.骨折歴(FX01)
3-18.悪性腫瘍歴(CANCER01)
3-19.手術歴(OPE01)
3-20.認知症歴(DEMENT01)
【0029】
第4に、薬剤情報として、以下15のカテゴリ変数を選択した。
【0030】
4-1.インシュリン(insulin01)
4-2.血糖降下薬(hypoglycemic_drug01)
4-3.血糖降下薬その他(other_drug01)
4-4.α受容体拮抗薬(alpha_blocker01)
4-5.利尿薬(diuretic01)
4-6.β受容体拮抗薬(beta_blocker01)
4-7.カルシウム拮抗薬(Ca_antagonist01)
4-8.アンジオテンシン変換酵素阻害薬(ACE_inhibitor01)
4-9.アンジオテンシンII受容体阻害薬(ARB01)
4-10.脂質降下薬スタチン(statins01)
4-11.脂質降下薬フィブラート(fibrate01)
4-12.脂質降下薬その他(other_A01)
4-13.抗凝固薬(warfarin01)
4-14.直接経口抗凝固薬(DOAC01)
4-15.抗血小板剤(antiplatelet_drug01)
【0031】
ロックウッド評価指標に対してLASSO(least absolute shrinkage and selection operator)回帰を行い、上記の42変数から変数選択及び正規化を行った。このとき、ベースライン調査において上記の42変数を欠損なく収集できた超高齢者854人を対象とした。なお、LASSO回帰には、R言語のglmnetパッケージ(バージョン4.1-3)を用いた。また、ロックウッド評価指標は、非特許文献1に記載された従来手法により算出した。その結果、以下の28変数が選択された。
【0032】
1-2.喫煙歴(smoking)
2-1.血色素量(Hb)
2-2.血清レアチニン量(CRTNN)
2-3.血清アルブミン量(ALB)
2-4.年齢(age)
2-5.ボディマス指数(BMI)
3-1.脳卒中歴(APO01)
3-2.心疾患歴(HEART01)
3-3.高血圧歴(HBP01)
3-4.糖尿病歴(DM01)
3-6.呼吸器疾患歴(RESPI01)
3-8.腎疾患歴(RENAL01)
3-14.骨疾患歴(OST01)
3-15.関節疾患歴(JOINT01)
3-16.高尿酸血症歴(HUA01)
3-17.骨折歴(FX01)
3-18.悪性腫瘍歴(CANCER01)
4-1.インシュリン(insulin01)
4-2.血糖降下薬(hypoglycemic_drug01)
4-3.血糖降下薬その他(other_drug01)
4-5.利尿薬(diuretic01)
4-6.β受容体拮抗薬(beta_blocker01)
4-8.アンジオテンシン変換酵素阻害薬(ACE_inhibitor01)
4-9.アンジオテンシンII受容体阻害薬(ARB01)
4-12.脂質降下薬その他(other_A01)
4-13.抗凝固薬(warfarin01)
4-14.直接経口抗凝固薬(DOAC01)
4-15.抗血小板剤(antiplatelet_drug01)
【0033】
LASSO回帰で選択された28変数に対して、一般化線形モデルを使った多変量解析を行った。なお、多変量解析には、R言語のstatsパッケージ(バージョン4.0.3)に含まれるglm関数を用いた。
【0034】
図5及び
図6は、一般化線形モデルを使った多変量解析の結果の一例を示す図である。
図5及び
図6に示されているように、一般化線形モデルを使った多変量解析により、以下の13変数が有意に相関していることが示唆された。
【0035】
2-1.血色素量(Hb)
2-2.血清レアチニン量(CRTNN)
2-4.年齢(age)
3-1.脳卒中歴(APO01)
3-2.心疾患歴(HEART01)
3-3.高血圧歴(HBP01)
3-4.糖尿病歴(DM01)
3-6.呼吸器疾患歴(RESPI01)
3-14.骨疾患歴(OST01)
3-15.関節疾患歴(JOINT01)
3-17.骨折歴(FX01)
3-18.悪性腫瘍歴(CANCER01)
4-13.抗凝固薬(warfarin01)
【0036】
多変量解析により得られた13変数を用いたモデル推定を行い、フレイル評価指標の推定値(以下、「予測フレイル評価指標」と呼ぶ)を計算した。なお、モデル推定には、R言語のstatsパッケージ(バージョン4.0.3)に含まれるpredict関数を用いた。
【0037】
図7は、予測フレイル評価指標とロックウッド評価指標との相関関係の一例を示す図である。
図7に示されているように、予測フレイル評価指標とロックウッド評価指標との相関係数は、r=0.63を示した。
【0038】
≪レセプト情報及び健康診断結果によるフレイル評価≫
レセプト(診療報酬明細書)は、医療機関が医療費を請求する情報である。レセプトに記載される情報の中には、疾患情報、治療情報、投薬情報等が含まれている。そこで、ベースライン調査で聞き取りにより得られた病歴情報を、レセプトから得られた疾患情報に置き換え、フレイル評価指標の予測を行った。
【0039】
まず、レセプトに記載された病名を、国際疾病分類第10版(ICD-10; International Statistical Classification of Diseases and Related Health Problems 10th Revision)で定められたコードに置き換えた。次に、20の病歴に該当するコードを有するレセプトを抽出した。続いて、KAWPにおける調査日から180日前までに診察が行われたレセプトのみを抽出した。そして、抽出されたレセプトを用いて、各調査対象者について、20の病歴に該当するレセプトの有無を解析した。
【0040】
上記のようにして、聞き取りによる病歴情報をレセプトから得られた疾患情報に置き換えた変数を用いたモデル推定を行い、予測フレイル評価指標を計算した。以下、聞き取りによる病歴情報を用いた予測フレイル評価指標を「聞き取りに基づく予測フレイル評価指標(predicted frailty score index)」と呼び、レセプトから得られた疾患情報を用いた予測フレイル評価指標を「レセプトに基づく予測フレイル評価指標(predicted frailty score index (receipt))」と呼ぶ。
【0041】
図8は、レセプトに基づく予測フレイル評価指標と他のフレイル評価指標との相関関係の一例を示す図である。
図8に示されているように、レセプトに基づく予測フレイル評価指標は、聞き取りに基づく予測フレイル評価指標との相関係数が0.59、ロックウッド評価指標との相関係数が0.40であった。
【0042】
≪予測フレイル評価指標と予後との相関解析≫
予測フレイル評価指標が、死亡や要介護状態への移行を予測できるか否かを評価するために、電話調査による3年後の健康状態(死亡、要介護、要支援、又は自立)との相関関係を解析した。聞き取りに基づく予測フレイル評価指標及びレセプトに基づく予測フレイル評価指標をそれぞれスコア順に4分位に分類し、それぞれの集団での死亡率、要介護率、要支援率、及び自立率を解析した。
【0043】
図9は、聞き取りに基づくフレイル評価指標と予後との関係の一例を示す図である。
図10は、レセプトに基づくフレイル評価指標と予後との関係の一例を示す図である。
図9及び
図10に示されているように、聞き取りに基づく予測フレイル評価指標及びレセプトに基づく予測フレイル評価指標は、共にロックウッド評価指標と同程度の予測精度を有していることが明らかになった。
【0044】
[実施形態]
本発明の一実施形態は、医療機関を受診した履歴を表す情報(以下、「医療受診データ」とも呼ぶ)に基づいて、フレイル評価指標を推定するフレイル推定システムである。本実施形態におけるフレイル推定システムは、学習処理及び推定処理を実行する。学習処理は、フレイル評価指標を推定する推定モデルを学習する処理である。推定処理は、学習済みの推定モデルを用いてフレイル評価指標を推定する処理である。
【0045】
本実施形態における医療受診データは、高齢者が医療機関を受診することで発生した履歴情報である。医療受診データは、医療機関で診察された疾患を表す病歴情報、処方された薬剤を表す薬剤情報、及び受診した定期健康診断の結果を含む。病歴情報は、現在及び過去に診察された疾患を含む情報である。
【0046】
病歴情報及び薬剤情報は、例えば、医療レセプト(診療報酬明細書及び調剤報酬明細書)から抽出することができる。病歴情報及び薬剤情報は、高齢者に対する聞き取り調査により収集してもよい。医療レセプト及び定期健康診断結果は、例えば、後期高齢者医療広域連合等の保険組合から取得することができる。また、例えば、個々の高齢者から医療レセプト及び定期健康診断結果の提供を受けて取得することもできる。
【0047】
本実施形態におけるフレイル推定システムは、学習処理において、予め収集した医療受診データに基づいて特徴データを抽出し、特徴データに正解のフレイル評価指標を付与した学習データを用いて推定モデルを学習する。本実施形態におけるフレイル推定システムは、推定処理において、推定対象とする対象者に関する医療受診データ(以下、「対象データ」とも呼ぶ)から特徴データを抽出し、当該特徴データを学習済みの推定モデルに入力することで、対象者のフレイル評価指標を推定する。
【0048】
本実施形態における特徴データは、医療受診データから抽出可能な変数のうち、フレイルと関連が認められた変数を選択したものである。フレイルと関連が認められた変数とは、上記の一般化線形モデルを用いた多変量解析により選択された13変数、又は上記のLASSO回帰により選択された28変数である。
【0049】
すなわち、本実施形態における特徴データの一例は、上記の多変量解析により選択された、血色素量、血清レアチニン量、年齢、脳卒中歴、心疾患歴、高血圧歴、糖尿病歴、呼吸器疾患歴、骨疾患歴、関節疾患歴、骨折歴、悪性腫瘍歴、及び抗凝固薬からなる13項目である。
【0050】
また、本実施形態における特徴データの他の例は、上記のLASSO回帰により選択された、喫煙歴、血色素量、血清レアチニン量、血清アルブミン量、年齢、ボディマス指数、脳卒中歴、心疾患歴、高血圧歴、糖尿病歴、呼吸器疾患歴、腎疾患歴、骨疾患歴、関節疾患歴、高尿酸血症歴、骨折歴、悪性腫瘍歴、インシュリン、血糖降下薬、血糖降下薬その他、利尿薬、β受容体拮抗薬、アンジオテンシン変換酵素阻害薬、アンジオテンシンII受容体阻害薬、脂質降下薬その他、抗凝固剤、直接経口抗凝固薬、及び抗血小板剤からなる28項目である。
【0051】
<フレイル推定システムの全体構成>
本実施形態におけるフレイル推定システムの全体構成について、
図11を参照しながら説明する。
図11は、本実施形態におけるフレイル推定システムの全体構成の一例を示すブロック図である。
【0052】
図11に示されているように、本実施形態におけるフレイル推定システム1は、フレイル推定装置10及びユーザ端末20を含む。フレイル推定装置10及びユーザ端末20は、LAN(Local Area Network)又はインターネット等の通信ネットワークN1を介してデータ通信可能に接続されている。
【0053】
フレイル推定装置10は、ユーザ端末20からの要求に応じて、対象者のフレイル評価指標を推定するパーソナルコンピュータ、ワークステーション、又はサーバ等の情報処理装置である。フレイル推定装置10は、ユーザ端末20から対象データを受信する。また、フレイル推定装置10は、受信した対象データに基づいてフレイル評価指標を推定し、フレイルの推定結果をユーザ端末20に送信する。
【0054】
ユーザ端末20は、ユーザが操作するパーソナルコンピュータ、タブレット端末、又はスマートフォン等の情報処理端末である。ユーザ端末20は、ユーザの操作に応じて、対象データの入力を受け付け、フレイル推定装置10に送信する。また、ユーザ端末20は、フレイル推定装置10からフレイルの推定結果を受信し、ユーザに対して出力する。
【0055】
なお、
図2に示したフレイル推定システム1の全体構成は一例であって、用途や目的に応じて様々なシステム構成例があり得る。例えば、フレイル推定装置10は、複数台のコンピュータにより実現してもよいし、クラウドコンピューティングのサービスとして実現してもよい。また、例えば、フレイル推定システム1は、フレイル推定装置10及びユーザ端末20がそれぞれ備えるべき機能を兼ね備えたスタンドアローンの情報処理装置により実現してもよい。
【0056】
<フレイル推定システムのハードウェア構成>
本実施形態におけるフレイル推定システムのハードウェア構成について、
図12を参照しながら説明する。
【0057】
≪コンピュータのハードウェア構成≫
本実施形態におけるフレイル推定装置10及びユーザ端末20は、例えばコンピュータにより実現される。
図12は、本実施形態におけるコンピュータのハードウェア構成の一例を示すブロック図である。
【0058】
図12に示されているように、本実施形態におけるコンピュータ500は、CPU(Central Processing Unit)501、ROM(Read Only Memory)502、RAM(Random Access Memory)503、HDD(Hard Disk Drive)504、入力装置505、表示装置506、通信I/F(Interface)507及び外部I/F508を有する。CPU501、ROM502及びRAM503は、いわゆるコンピュータを形成する。コンピュータ500の各ハードウェアは、バスライン509を介して相互に接続されている。なお、入力装置505及び表示装置506は外部I/F508に接続して利用する形態であってもよい。
【0059】
CPU501は、ROM502又はHDD504等の記憶装置からプログラムやデータをRAM503上に読み出し、処理を実行することで、コンピュータ500全体の制御や機能を実現する演算装置である。
【0060】
ROM502は、電源を切ってもプログラムやデータを保持することができる不揮発性の半導体メモリ(記憶装置)の一例である。ROM502は、HDD504にインストールされている各種プログラムをCPU501が実行するために必要な各種プログラム、データ等を格納する主記憶装置として機能する。具体的には、ROM502には、コンピュータ500の起動時に実行されるBIOS(Basic Input/Output System)、EFI(Extensible Firmware Interface)等のブートプログラムや、OS(Operating System)設定、ネットワーク設定等のデータが格納されている。
【0061】
RAM503は、電源を切るとプログラムやデータが消去される揮発性の半導体メモリ(記憶装置)の一例である。RAM503は、例えば、DRAM(Dynamic Random Access Memory)やSRAM(Static Random Access Memory)等である。RAM503は、HDD504にインストールされている各種プログラムがCPU501によって実行される際に展開される作業領域を提供する。
【0062】
HDD504は、プログラムやデータを格納している不揮発性の記憶装置の一例である。HDD504に格納されるプログラムやデータには、コンピュータ500全体を制御する基本ソフトウェアであるOS、及びOS上において各種機能を提供するアプリケーション等がある。なお、コンピュータ500はHDD504に替えて、記憶媒体としてフラッシュメモリを用いる記憶装置(例えばSSD:Solid State Drive等)を利用するものであってもよい。
【0063】
入力装置505は、ユーザが各種信号を入力するために用いるタッチパネル、操作キーやボタン、キーボードやマウス、音声等の音データを入力するマイクロホン等である。
【0064】
表示装置506は、画面を表示する液晶や有機EL(Electro-Luminescence)等のディスプレイ、音声等の音データを出力するスピーカ等で構成されている。
【0065】
通信I/F507は、通信ネットワークに接続し、コンピュータ500がデータ通信を行うためのインタフェースである。
【0066】
外部I/F508は、外部装置とのインタフェースである。外部装置には、ドライブ装置510等がある。
【0067】
ドライブ装置510は、記録媒体511をセットするためのデバイスである。ここでいう記録媒体511には、CD-ROM、フレキシブルディスク、光磁気ディスク等のように情報を光学的、電気的あるいは磁気的に記録する媒体が含まれる。また、記録媒体511には、ROM、フラッシュメモリ等のように情報を電気的に記録する半導体メモリ等が含まれていてもよい。これにより、コンピュータ500は外部I/F508を介して記録媒体511の読み取り及び/又は書き込みを行うことができる。
【0068】
なお、HDD504にインストールされる各種プログラムは、例えば、配布された記録媒体511が外部I/F508に接続されたドライブ装置510にセットされ、記録媒体511に記録された各種プログラムがドライブ装置510により読み出されることでインストールされる。あるいは、HDD504にインストールされる各種プログラムは、通信I/F507を介して、通信ネットワークとは異なる他のネットワークよりダウンロードされることでインストールされてもよい。
【0069】
<フレイル推定システムの機能構成>
本実施形態におけるフレイル推定システムの機能構成について、
図13を参照しながら説明する。
図13は本実施形態におけるフレイル推定システムの機能構成の一例を示すブロック図である。
【0070】
≪フレイル推定装置の機能構成≫
図13に示されているように、本実施形態におけるフレイル推定装置10は、レセプトデータ記憶部101、健康診断データ記憶部102、正解指標記憶部103、特徴抽出部104、推定モデル学習部105、推定モデル記憶部106、対象データ入力部107、指標推定部108及び推定結果出力部109を備える。
【0071】
レセプトデータ記憶部101、健康診断データ記憶部102、正解指標記憶部103及び推定モデル記憶部106は、例えば、
図12に示されているHDD504によって実現される。
【0072】
特徴抽出部104、推定モデル学習部105、対象データ入力部107、指標推定部108及び推定結果出力部109は、例えば、
図12に示されているHDD504からRAM503上に展開されたプログラムがCPU501に実行させる処理によって実現される。
【0073】
レセプトデータ記憶部101には、複数の高齢者に発行された医療レセプトの内容を表すレセプトデータが記憶されている。
【0074】
健康診断データ記憶部102には、複数の高齢者が受診した健康診断の結果を表す健康診断データが記憶されている。
【0075】
正解指標記憶部103には、複数の高齢者について算出されたフレイル評価指標の正解値を表す正解ラベルが記憶されている。フレイル評価指標の正解値は、従来のロックウッドの障害蓄積モデルに従って個々の高齢者について算出したフレイル評価指標である。フレイル評価指標の正解値は、従来のフリードの表現型モデルに従って個々の高齢者について算出したフレイル評価指標であってもよい。
【0076】
特徴抽出部104は、レセプトデータ及び健康診断データに基づいて、健康状態を表す特徴データを抽出する。特徴抽出部104は、学習処理においては、レセプトデータ記憶部101に記憶されているレセプトデータ及び健康診断データ記憶部102に記憶されている健康診断データから特徴データを抽出する。特徴抽出部104は、推定処理においては、ユーザ端末20から入力される対象者に関するレセプトデータ及び健康診断データから特徴データを抽出する。
【0077】
推定モデル学習部105は、学習処理において、特徴抽出部104により抽出された特徴データに、正解指標記憶部103に記憶されている正解ラベルを付与し、学習データを生成する。推定モデル学習部105は、生成した学習データを用いて教師有り学習を行うことで、推定モデルを学習する。
【0078】
推定モデル記憶部106には、推定モデル学習部105により学習された推定モデルが記憶される。
【0079】
対象データ入力部107は、ユーザ端末20から対象者に関するレセプトデータ及び健康診断データを受信する。対象データ入力部107は、複数の対象者に関するレセプトデータ及び健康診断データを受信してもよい。
【0080】
指標推定部108は、推定処理において、特徴抽出部104により抽出された特徴データを、推定モデル記憶部106に記憶されている学習済みの推定モデルに入力することで、対象者のフレイル評価指標を推定する。
【0081】
推定結果出力部109は、指標推定部108により推定されたフレイル評価指標に基づいて、フレイルの推定結果をユーザ端末20に送信する。
【0082】
≪ユーザ端末の機能構成≫
図13に示されているように、本実施形態におけるユーザ端末20は、対象データ受付部201及び推定結果表示部202を備える。
【0083】
対象データ受付部201は、例えば、
図12に示されている入力装置505及び通信I/F507によって実現される。推定結果表示部202は、例えば、
図12に示されている表示装置506及び通信I/F507によって実現される。
【0084】
対象データ受付部201は、ユーザの操作に応じて、対象データの入力を受け付ける。対象データ受付部201は、受け付けた対象データをフレイル推定装置10に送信する。
【0085】
推定結果表示部202は、フレイルの推定結果をフレイル推定装置10から受信する。推定結果表示部202は、受信した推定結果を表示装置506に表示する。
【0086】
<フレイル推定システムの処理手順>
本実施形態におけるフレイル推定システムが実行するフレイル推定方法の処理手順について、
図14及び
図15を参照しながら説明する。本実施形態におけるフレイル推定方法は、学習処理(
図14参照)及び推定処理(
図15参照)を含む。
【0087】
≪学習処理≫
図14は本実施形態における学習処理の手順の一例を示すフローチャートである。学習処理は、フレイル評価指標を推定する推定モデルを学習する処理である。
【0088】
ステップS1において、フレイル推定装置10が備える特徴抽出部104は、レセプトデータ記憶部101に記憶されているレセプトデータ及び健康診断データ記憶部102に記憶されている健康診断データを読み出す。特徴抽出部104が読み出すレセプトデータ及び健康診断データは、正解指標記憶部103に正解ラベルが記憶されている高齢者に関するレセプトデータ及び健康診断データである。
【0089】
ステップS2において、フレイル推定装置10が備える特徴抽出部104は、ステップS1において読み出したレセプトデータ及び健康診断データから、健康状態を表す特徴データを抽出する。次に、特徴抽出部104は、抽出された特徴データに、正解指標記憶部103に記憶されている正解ラベルを付与する。これにより、推定モデルの学習データが生成される。続いて、特徴抽出部104は、生成された学習データを推定モデル学習部105に送る。
【0090】
ステップS3において、フレイル推定装置10が備える推定モデル学習部105は、学習データを特徴抽出部104から受け取る。次に、推定モデル学習部105は、受け取った学習データを用いて教師有り学習を行うことで、推定モデルを学習する。
【0091】
推定モデル学習部105は、機械学習モデルの種類に応じた学習アルゴリズムに従って、推定モデルを学習する。機械学習モデルの種類は、例えば、重回帰分析、決定木又はニューラルネットワーク等である。機械学習モデルの種類はこれらに限定されず、教師有り学習が可能な任意の機械学習モデルを用いることができる。
【0092】
ステップS4において、フレイル推定装置10が備える推定モデル学習部105は、ステップS3において学習した推定モデルを、推定モデル記憶部106に記憶する。
【0093】
≪推定処理≫
図15は本実施形態における推定処理の手順の一例を示すフローチャートである。推定処理は、学習済みの推定モデルを用いてフレイル評価指標を推定する処理である。
【0094】
ステップS11において、ユーザ端末20が備える対象データ受付部201は、ユーザの操作に応じて、対象者に関するレセプトデータ及び健康診断データの入力を受け付ける。対象データ受付部201は、複数の対象者に関するレセプトデータ及び健康診断データの入力を受け付けてもよい。次に、対象データ受付部201は、受け付けたレセプトデータ及び健康診断データをフレイル推定装置10に送信する。
【0095】
フレイル推定装置10では、対象データ入力部107が、対象者に関するレセプトデータ及び健康診断データをユーザ端末20から受信する。次に、対象データ入力部107は、受信したレセプトデータ及び健康診断データを特徴抽出部104に送る。
【0096】
ステップS12において、フレイル推定装置10が備える特徴抽出部104は、対象データ入力部107から対象者に関するレセプトデータ及び健康診断データを受け取る。次に、特徴抽出部104は、受け取ったレセプトデータ及び健康診断データから、健康状態を表す特徴データを抽出する。対象者に関するレセプトデータ及び健康診断データが複数ある場合、特徴抽出部104は、各対象者について特徴データを抽出する。特徴抽出部104は、抽出された特徴データを指標推定部108に送る。
【0097】
ステップS13において、フレイル推定装置10が備える指標推定部108は、特徴抽出部104から対象者に関する特徴データを受け取る。次に、指標推定部108は、推定モデル記憶部106から学習済みの推定モデルを読み出す。続いて、指標推定部108は、対象者に関する特徴データを学習済みの推定モデルに入力することで、対象者のフレイル評価指標を推定する。対象者に関する特徴データが複数ある場合、指標推定部108は、各特徴データについてフレイル評価指標を推定する。指標推定部108は、対象者のフレイル評価指標の推定値を推定結果出力部109に送る。
【0098】
ステップS14において、フレイル推定装置10が備える推定結果出力部109は、対象者のフレイル評価指標の推定値を指標推定部108から受け取る。次に、推定結果出力部109は、対象者のフレイル評価指標の推定値に基づいて、フレイルの推定結果をユーザ端末20に送信する。
【0099】
ユーザ端末20では、推定結果表示部202が、フレイルの推定結果をフレイル推定装置10から受信する。次に、推定結果表示部202が、フレイルの推定結果を表示装置506に表示する。
【0100】
フレイルの推定結果は、対象者のフレイル推定指標の推定値でもよいし、フレイル推定指標に基づいて判定されたフレイルに関する状態(例えば、ロバスト、プレフレイル又はフレイル)を表す情報でもよい。また、フレイルの推定結果は、複数の対象者のうちフレイルである対象者を抽出した結果でもよい。
【0101】
例えば、1人の高齢者に関するレセプトデータ及び健康診断データを入力し、当該高齢者のフレイル評価指標の推定値を出力することで、当該高齢者のフレイルの診察に役立てることができる。また、例えば、複数の対象者に関するレセプトデータ及び健康診断データを入力し、フレイルと推定される対象者の一覧を出力することで、フレイルと推定される高齢者のスクリーニングを行うことができる。
【0102】
<実施形態の効果>
本実施形態におけるフレイル推定装置は、対象者の健康状態を表す特徴データに基づいて、当該対象者のフレイル評価指標を推定する。特徴データは、医療機関を受診した履歴を表す医療受診データに基づいて抽出される。医療受診データは、対象者からの聞き取りにより生成してもよいし、対象者に発行された医療レセプト及び対象者が受診した健康診断結果から生成してもよい。医療レセプトは、対象者が日常的に医療機関を受診した際に発行される。健康診断結果は、対象者が定期的に健康診断を受信した際に発行される。したがって、本実施形態におけるフレイル推定装置によれば、医療機関を受診した履歴に基づいてフレイル評価指標を推定することができる。
【0103】
特に、本実施形態におけるフレイル推定装置は、超高齢者に対する身体機能及び病歴等に関する大規模な調査結果、及びその後の追跡調査の結果に基づいて、フレイルとの相関が認められた変数に基づいて、フレイル評価指標を推定する。本実施形態において用いる13変数又は28変数がフレイルと相関を有することは従来知られていなかった。したがって、本実施形態におけるフレイル推定装置によれば、フレイル評価指標を精度よく推定することができる。
【0104】
[補足]
上記で説明した実施形態の各機能は、一又は複数の処理回路によって実現することが可能である。ここで、本明細書における「処理回路」とは、電子回路により実装されるプロセッサのようにソフトウェアによって各機能を実行するようプログラミングされたプロセッサや、上記で説明した各機能を実行するよう設計されたASIC(Application Specific Integrated Circuit)、DSP(Digital Signal Processor)、FPGA(Field Programmable Gate Array)や従来の回路モジュール等の機器を含むものとする。
【0105】
以上、本発明の実施の形態について詳述したが、本発明はこれらの実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の要旨の範囲内において、種々の変形又は変更が可能である。
【符号の説明】
【0106】
1 フレイル推定システム
10 フレイル推定装置
101 レセプトデータ記憶部
102 健康診断データ記憶部
103 正解指標記憶部
104 特徴抽出部
105 推定モデル学習部
106 推定モデル記憶部
107 対象データ入力部
108 指標推定部
109 推定結果出力部
20 ユーザ端末
201 対象データ受付部
202 推定結果表示部