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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024095254
(43)【公開日】2024-07-10
(54)【発明の名称】ドライバ
(51)【国際特許分類】
   H02P 21/22 20160101AFI20240703BHJP
【FI】
H02P21/22
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022212403
(22)【出願日】2022-12-28
(71)【出願人】
【識別番号】000002945
【氏名又は名称】オムロン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002860
【氏名又は名称】弁理士法人秀和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】桐淵 岳
【テーマコード(参考)】
5H505
【Fターム(参考)】
5H505AA18
5H505CC04
5H505CC05
5H505DD03
5H505DD08
5H505EE30
5H505EE41
5H505EE55
5H505GG01
5H505GG02
5H505GG04
5H505LL07
5H505LL28
5H505LL41
5H505LL45
5H505LL50
(57)【要約】
【課題】モータの運転状態への影響を可及的に抑制しつつ、モータに関連する外部装置への安定した電力供給を実現する。
【解決手段】外部から供給された電力の一部を抽出する抽出部と、該抽出部により抽出された電力を外部装置に供給する供給部と、を備えるモータに対して、又は、該抽出部と該供給部が設けられたモータ用動力線に対して、駆動電力を供給するドライバであって、モータの運転状態に基づいて、抽出部を介して外部装置に第1電力を供給するために、モータの駆動電流におけるd軸電流値の調整が必要か否かを判定する判定部と、判定部による判定結果に基づいて、モータの駆動に必要な駆動電力と第1電力を含む所定電力を抽出部に対して出力する出力部と、を備える。
【選択図】図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
外部から供給された電力の一部を抽出する抽出部と、該抽出部により抽出された電力を外部装置に供給する供給部と、を備えるモータに対して、又は、該抽出部と該供給部が設けられたモータ用動力線に対して、駆動電力を供給するドライバであって、
前記モータの運転状態に基づいて、前記抽出部を介して前記外部装置に第1電力を供給するために、前記モータの駆動電流におけるd軸電流値の調整が必要か否かを判定する判定部と、
前記判定部による判定結果に基づいて、前記モータの駆動に必要な駆動電力と前記第1電力を含む所定電力を前記抽出部に対して出力する出力部と、
を備える、ドライバ。
【請求項2】
前記モータの運転状態が、該モータの駆動電流と回転速度に基づいて算出される、前記抽出部により抽出される抽出電力が所定の閾値電力を超える領域に属する場合、前記判定部は、前記第1電力を供給するために前記d軸電流値の調整は必要ではないと判定し、
前記出力部は、前記モータの駆動に必要な駆動電力に対応するd軸電流を調整せずに前記所定電力を出力する、
請求項1に記載のドライバ。
【請求項3】
前記モータの運転状態が、該モータの駆動電流と回転速度に基づいて算出される、前記抽出部により抽出される抽出電力が所定の閾値電力を超えない領域に属する場合、前記判定部は、前記第1電力を供給するために前記d軸電流値の調整は必要であると判定し、
前記出力部は、前記モータの駆動に必要な駆動電力に対応するd軸電流に対して、追加d軸電流を重畳して前記所定電力を出力する、
請求項1又は請求項2に記載のドライバ。
【請求項4】
更に、前記モータの回転速度が所定の閾値より高い場合、前記出力部は、前記モータの駆動に必要な駆動電力に対応するd軸電流に対して、d軸電流値が時間経過とともに変動しない方式で前記追加d軸電流を重畳して前記所定電力を出力する、
請求項3に記載のドライバ。
【請求項5】
更に、前記モータの回転速度が所定の閾値以下である場合、前記出力部は、前記モータの駆動に必要な駆動電力に対応するd軸電流に対して、d軸電流値が時間経過とともに変動する方式で前記追加d軸電流を重畳して前記所定電力を出力する、
請求項3に記載のドライバ。
【請求項6】
前記追加d軸電流は、時間経過とともに電流値が変動する第1要素と、時間経過とともに電流値が変動しない第2要素と、を含む、
請求項5に記載のドライバ。
【請求項7】
前記モータの駆動電流と回転速度に基づいて前記抽出部により抽出される電力を推定する電力推定部を更に備え、
前記出力部は、前記電力推定部によって推定された前記抽出される電力に基づいて、前記追加d軸電流を生成し、前記モータの駆動に必要な駆動電力に重畳する、
請求項5に記載のドライバ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ドライバに関する。
【背景技術】
【0002】
様々な目的で負荷を駆動するためのモータにとって、その制御を正確に実行するためにはモータの状態を把握する必要があり、一般にはエンコーダ等の検出装置が利用されている。エンコーダを駆動するためには電力を供給しなければならないが、一般には、サーボシステム(例えば、ドライバ)等とエンコーダとをケーブルで結び、そのケーブルを介して電力供給を行う場合がある。また、別法として、特許文献1には、サーボシステム側と無線通信を行うエンコーダに対して、その電力を外部から無線で供給する構成が開示されている。
【0003】
また、特許文献2には、モータの駆動電力にエンコーダ等の外部装置の駆動に必要な電力を重畳させて一度モータに供給し、その後、モータで供給電力の一部を抽出して外部装置に電力供給を行う構成が開示されている。当該技術では、モータの駆動電流におけるd軸電流値を調整することで外部装置のための供給電力の重畳が行われる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2001-297389号公報
【特許文献2】国際公開2022/186200号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
モータに取り付けられるエンコーダで消費される電力は、モータでの消費電力と比べると小さいものの、駆動するモータの状態を常にモニターする必要があるため、安定した電力供給が求められる。有線ケーブルでエンコーダとモータのドライバをつなぐことで電力供給を行うのが一般であるが、その場合、モータの動力線に加えて、エンコーダに関するケーブルを配線する必要があり、配線の作業負荷の増加やケーブルに起因するコスト増加等が生じ得る。
【0006】
また、エンコーダ等の外部装置への電力供給の形態において、先行技術において開示されているように、モータ駆動のための駆動電流に含まれるd軸電流を利用する場合、モータの運転状態(回転速度やトルク等で画定される状態)への影響を考慮する必要がある。一般にd軸電流はモータ駆動のための磁界形成と強い相関を有している。そのため、外部装置への電力供給を優先してd軸電流値を決定してしまうと、所望のモータ駆動が阻害されてしまうおそれがある。
【0007】
本発明は、このような問題に鑑みてなされたものであり、モータの運転状態への影響を可及的に抑制しつつ、モータに関連する外部装置への安定した電力供給を実現する技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本願開示のドライバは、外部から供給された電力の一部を抽出する抽出部と、該抽出部により抽出された電力を外部装置に供給する供給部と、を備えるモータに対して、又は、該抽出部と該供給部が設けられたモータ用動力線に対して、駆動電力を供給するように構成される。そして、当該ドライバは、前記モータの運転状態に基づいて、前記抽出部を介
して前記外部装置に第1電力を供給するために、前記モータの駆動電流におけるd軸電流値の調整が必要か否かを判定する判定部と、前記判定部による判定結果に基づいて、前記モータの駆動に必要な駆動電力と前記第1電力を含む所定電力を前記抽出部に対して出力する出力部と、を備える。
【0009】
上記モータは、単相の交流モータでもよく三相の交流モータでもよい。また、モータの巻線部でのコイルの結線態様は、いわゆるデルタ結線でもよくスター結線(もしくはY結線)でもよい。また、モータのステータに対する巻線部のコイルの巻き方については、分布巻きでも集中巻きでもよい。すなわち、本発明のモータにおいて、巻線部の具体的な形成については、特段に制限する意図は無い。
【0010】
そして、抽出部はモータの巻線部やモータとドライバを繋ぐ動力線に対して、電力を抽出可能となるように配置される限りにおいて、抽出部の具体的な形態や構成は特定の態様に限定されるものではない。例えば、前記抽出部は、モータの巻線部や動力線に対して、それらに供給されている電力の一部がその一次コイルに入力されるように配置されたトランス構造が形成されるように配置され、該トランス構造を介して前記電力の一部を抽出するように構成されてもよい。トランス構造は、単巻型の変圧器、複巻型の変圧器のいずれでもよい。なお、単巻型の変圧器の場合、二次コイルは、一次コイルの一部を両者で共有する部分のコイルをいう。
【0011】
そして、トランス構造の二次コイルからは、一次コイルを流れる交流電流およびトランス構造による巻線比(一次コイルの巻線数に対する二次コイルの巻線数の比)に応じた交流電流が抽出される。そして、供給部が抽出された交流電流を整流して外部装置に供給する。なお、供給部は、必要に応じて、整流後の電圧を、外部装置の駆動に適した電圧に変圧しても構わない。また、供給部は、整流後の電力を二次電池に蓄電しておくことで、外部装置に、より安定した電力供給を行うことができる。
【0012】
ここで、ドライバからモータ又は動力線に、モータの駆動電流におけるd軸電流値を調整することで供給された電力の一部が抽出部によって抽出され、その抽出された電力は、供給部を介して外部装置に供給され得る。しかし、d軸電流は基本的にはモータのトルクに寄与しない(寄与しにくい)駆動電流とされているが、d軸電流がモータの巻線部を流れることで、モータ内部(ステータ、ロータ等)に形成される磁界に変化が生じ得る。そのため、外部装置への電力供給の結果、モータの駆動に好ましくない影響が及ぶ可能性がある。
【0013】
そこで、上記ドライバにおいては、判定部によってモータの運転状態に基づいて、外部装置への第1電力の供給のために、d軸電流値の調整が必要か否かが判定される。そして、その判定結果に基づいて、少なくともモータの駆動に必要な駆動電力と第1電力とを含む所定電力が出力部によって出力される。なお、出力部による所定電力の出力には、d軸電流値の調整を介した電力出力と、d軸電流値の調整を介さない電力出力の両者が含まれる。モータの運転状態を表す所定のパラメータとしては、モータの駆動に要する電力に関連する、その回転速度やトルク(駆動電流値)等が例示できる。このようにモータの運転状態に基づいて、電力供給のためのd軸電流値の要否判定を行うことで、電力供給に起因してモータの運転状態が乱れてしまうことを回避することができる。なお、外部装置は、前記モータに取り付けられたエンコーダであってもよく、別法として、モータの内部や外部に配置された、温度センサや振動センサ等のセンサ装置であってもよい。
【0014】
ここで、上記のドライバにおいて、前記モータの運転状態が、該モータの駆動電流と回転速度に基づいて算出される、前記抽出部により抽出される抽出電力が所定の閾値電力を超える領域に属する場合、前記判定部は、前記第1電力を供給するために前記d軸電流値
の調整は必要ではないと判定してもよい。その場合、前記出力部は、前記モータの駆動に必要な駆動電力に対応するd軸電流を調整せずに前記所定電力を出力する。モータの運転状態が、抽出電力が所定の閾値電力を超える領域に属している場合、一般的に、モータの回転速度が比較的高くそのトルクも比較的高い、いわゆる高速高トルク領域に属している状態と言える。そこで、モータへの駆動電流が抽出部に流れ込んで電力の抽出が行われる構成を踏まえ、このような場合には、上記の通り、d軸電流値の調整を伴わない形でドライバからの電力供給を行い、以て出力部により所定電力の出力が行われる。
【0015】
また、上述までのドライバにおいて、前記モータの運転状態が、該モータの駆動電流と回転速度に基づいて算出される、前記抽出部により抽出される抽出電力が所定の閾値電力を超えない領域に属する場合、前記判定部は、前記第1電力を供給するために前記d軸電流値の調整は必要であると判定してもよい。その場合、前記出力部は、前記モータの駆動に必要な駆動電力に対応するd軸電流に対して、追加d軸電流を重畳して前記所定電力を出力する。すなわち、モータの運転の安定性の観点からd軸電流値の調整余裕がある場合には、判定部によりd軸電流値の調整は必要であると判断され、それに従って出力部により所定電力の出力が行われる。
【0016】
ここで、d軸電流値の調整が必要と判定される形態に関し、更に、前記モータの回転速度が所定の閾値より高い場合、前記出力部は、前記モータの駆動に必要な駆動電力に対応するd軸電流に対して、d軸電流値が時間経過とともに変動しない方式で前記追加d軸電流を重畳して前記所定電力を出力してもよい。所定の閾値は、抽出部における電力抽出の効率が比較的高くなる、駆動電流の電気角周波数に対応するモータの回転速度である。したがって、モータの回転速度が所定の閾値より高い場合には、抽出部における電力抽出の効率が比較的高く見込まれるため、d軸電流値が時間経過とともに変動しない方式で制御すればよい。
【0017】
一方で、モータの回転速度が所定の閾値以下である場合には、抽出部における高効率の電力抽出が見込まれにくいため、前記出力部は、前記モータの駆動に必要な駆動電力に対応するd軸電流に対して、d軸電流値が時間経過とともに変動する方式で前記追加d軸電流を重畳して前記所定電力を出力してもよい。また、前記d軸電流値が時間経過とともに変動する方式の一例として、モータの回転速度に対応する電気角周波数より高い周波数で変動させればよい。なお、d軸電流値が時間経過とともに変動する推移として、正弦波形状の推移、矩形波形状の推移、三角波形状の推移等を採用することができる。また、前記追加d軸電流は、時間経過とともに電流値が変動する第1要素と、時間経過とともに電流値が変動しない第2要素と、を含んでもよい。このように両者の要素が含まれることで、単位時間あたりに供給できる電力を効率的に増加させることができる。
【0018】
また、上記のドライバは、前記モータの駆動電流と回転速度に基づいて前記抽出部により抽出される電力を推定する電力推定部を更に備えてもよく、その場合、前記出力部は、前記電力推定部によって推定された前記抽出される電力に基づいて、前記追加d軸電流を生成し、前記モータの駆動に必要な駆動電力に重畳する。電力推定部を備えることで外部装置への電力供給に必要な電力を的確に把握することが可能となる。このことはモータの運転状態に影響を及ぼし得るd軸電流値の調整に際して極めて重要なことであり、安定したモータの運転と、安定した外部装置への電量供給の両立が好適に図られることになる。
【発明の効果】
【0019】
モータの運転状態への影響を可及的に抑制しつつ、モータに関連する外部装置への安定した電力供給を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】モータを駆動制御する制御システムの概略構成を示す図である。
図2】モータの概略構成を示す図である。
図3】モータの巻線部、および巻線部に対して設けられたトランス構造の配置を模式的に示す第1の図である。
図4】モータの回転速度と発揮されるトルクとの相関を示す図である。
図5】ドライバによるモータへの電力供給制御の流れを示すフローチャートである。
図6】電力供給制御において、トランス構造により抽出される電力を推定するためのモデル回路を示す図である。
図7】電力供給のためのd軸電流値の増加形態を示す図である。
図8】モータの巻線部、および巻線部に対して設けられたトランス構造の配置を模式的に示す第2の図である。
図9】モータの巻線部、および巻線部に対して設けられたトランス構造の配置を模式的に示す第3の図である。
図10】変形例に係るモータの概略構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
<実施形態>
図1は、モータの駆動制御を行う制御システムの概略構成を示す図である。先ず、制御システムについて説明する。制御システムは、PLC(Programmable Logic Controller)
5が、上位コントローラとしてネットワーク1に接続されている。そして、そのネットワーク1には、複数台のサーボドライバ(以下、「ドライバ」という)4が接続され、PLC5との信号の授受が可能となるように構成されている。なお、図1においては、1台のドライバ4について、代表的にその機能的な構成を詳細に記載しているが、他のドライバ4a、4bについてもドライバ4と同等の機能的構成を有している。また、モータ2は、ドライバ4と動力線11で接続され、駆動電力の供給を受けている。同じように、モータ2a、2bは、それぞれ動力線11a、11bを介してドライバ4a、4bから駆動電力の供給を受けている。以降、モータおよびドライバの構造については、代表的にモータ2およびドライバ4に基づいて説明する。
【0022】
ここで、モータ2は、所定の負荷装置を駆動するために、PLC5からの指令に従って駆動制御される。一例として、負荷装置としては、各種の機械装置(例えば、産業用ロボットのアームや搬送装置)が例示でき、モータ2はその負荷装置を駆動するアクチュエータとして装置内に組み込まれている。また、モータ2は、ACサーボモータである。別法として、モータ2は誘導モータやDCモータであってもよい。モータ2は、コイルがステータコアに巻かれて形成された巻線部を含むステータと、永久磁石が組み込まれたロータとを有するモータ本体21と、当該ロータの回転に連動して回転する検出円盤を有し、ロータの回転状態を検出可能なエンコーダ22を備える。エンコーダ22による回転検出は、インクリメンタル方式であってもよく、アブソリュート方式であってもよい。
【0023】
エンコーダ22による検出信号は、後述するドライバ4が有する通信部42を介して、無線でドライバ4に送信される。送信された検出信号は、同じく後述するドライバ4が有する制御部41におけるサーボ制御に供される。エンコーダ22による検出信号は、例えば、モータ2の回転軸の回転位置(角度)についての位置情報、その回転軸の回転速度の情報等を含む。
【0024】
ここで、ドライバ4は、制御部41、通信部42、電力変換部43を有する。制御部41は、PLC5からの指令に基づいたモータ2のサーボ制御を司る機能部である。制御部41は、ネットワーク1を介してPLC5からモータ2の動作(モーション)に関する動作指令信号とエンコーダ22から出力された検出信号を受けとって、モータ2の駆動に関
するサーボ制御、すなわち、モータ2の動作に関する指令値を算出する。制御部41は、位置制御器、速度制御器、電流制御器を利用したフィードバック制御等を実行する。また、制御部41は、ドライバ4で行われる、モータ2のサーボ制御以外の制御も司るように構成される。
【0025】
通信部42は、エンコーダ22とドライバ4との間の無線通信を司る機能部である。ドライバ4の通信部42は、無線通信を開始するに当たり、自己の通信対象となるエンコーダを識別する処理により、エンコーダ22が無線通信の対象であることを特定している。したがって、通信部42は、モータ2aのエンコーダやモータ2bのエンコーダと混線して無線通信を行うことはない。同様に、モータ2aのエンコーダ、モータ2bのエンコーダは、それぞれ、ドライバ4a、4bとのみ無線通信を行う。電力変換部43は、制御部41で算出されたモータ2の動作に関する指令値に基づいて、モータ2に駆動電力を、動力線11を介して供給する。なお、この供給電力の生成には、交流電源7からドライバ4に対して送られる交流電力が利用される。本実施例では、ドライバ4は三相交流を受けるタイプのものであるが、単相交流を受けるタイプのものでもよい。別法として、ドライバ4は直流を受けるタイプのものでもよい。
【0026】
次に、モータ2の概略構成について、図2に基づいて説明する。モータ2は、三相(U相、V相、W相)の交流モータであり、モータ本体21とエンコーダ22を有する。モータ本体21には、ロータ212とステータ213が含まれる。ロータ212には永久磁石が組み込まれ、回転可能に支持されている。ステータ213には、電磁鋼板で形成されたステータコアにコイルが巻かれ、巻線部25が形成されている。本実施形態では、巻線部25における各相の結線態様はY結線であるが、それに代えてデルタ結線であっても構わない。また、ステータコアに対するコイルの巻き方は、本実施形態では分布巻き、集中巻きのどちらであっても構わない。図2に示す構成はあくまでも概略的なものであり、本発明の技術思想は、モータの具体的な構成にかかわらず適用することが可能である。
【0027】
ドライバ4から駆動電力を供給するための動力線11は、コネクタ211に接続される。コネクタ211は、巻線部25の各相に接続されている。そして、モータ2においては、巻線部25に対してトランス構造(図3に示す53、63、73を参照。詳細は後述する。)が配置され、そのトランス構造を利用して、巻線部25のコイルに供給された駆動電力の一部をエンコーダの電力として抽出する抽出部214が設けられている。すなわち、抽出部214は、モータ本体21の巻線部25に流れている交流電流をトランス構造の一次コイル側に流すことで、二次コイル側にエンコーダ22の駆動電流として利用できる電流を抽出する。
【0028】
抽出部214は、トランス構造の2次コイルから出力される交流電流による電力を、エンコーダ22のための電力として抽出する。そこで、供給部215によって整流され、必要に応じて供給部215が有するDC―DCコンバータによってエンコーダ22の駆動に適した直流電圧に昇降圧される。供給部215は、エンコーダ22がモータ本体21に取り付けられた状態で、直流電力をエンコーダ22側に、特に、ロータ212の回転の検出処理を行う処理部221に供給可能となるように、エンコーダ22に対して電気的に接続された状態が形成される。また、供給部215は、整流後の直流電力を蓄電できる二次電池を有していてもよい。その場合、巻線部25に駆動電流が流れない期間や、もしくは駆動電流が極めて低い期間においても、エンコーダ22に対して電力を供給することができる。
【0029】
また、本実施形態のモータ2では、抽出部214による抽出処理を利用して、モータ本体21の巻線部25とエンコーダ22の処理部221との間で所定信号の授受が可能となるように構成される。当該所定信号の授受は、信号交換部216により、上記のトランス
構造を利用して実現される。巻線部25から処理部221に所定信号を送る場合には、巻線部25のコイルに所定信号を重畳させた電流を流すとともに当該電流がトランス構造の一次コイル側を流れることで、抽出部214がトランス構造の二次コイル側において所定信号に対応する電流を生成することができる。そして、信号交換部216により、この抽出された対応電流が処理部221に渡される。この場合、所定信号の持つ情報を正確に伝えるために、信号交換部216は、抽出部214によって抽出された対応電流に対して整流処理は行わない。一方で、抽出された対応電流が微弱な場合には、信号交換部216は所定の増幅処理を行ってもよい。
【0030】
また、処理部221から巻線部25に所定信号を送る場合には、信号交換部216を介してトランス構造の二次コイル側に所定信号を含む電流を流すことで、抽出部214がトランス構造の一次コイル側に所定信号に対応する電流を生成し、それを巻線部25のコイルに流すことができる。なお、この場合も、信号交換部216によって所定信号に対して所定の増幅処理を行ってもよい。巻線部25のコイルは、動力線11を介してドライバ4に電気的に接続されているため、処理部221から出された所定信号に対応する電流を介して、エンコーダ22からドライバ4に対して所定信号を送信することができる。上述したように、エンコーダ22とドライバ4との間には、通信部42を介した無線通信が可能となるように構成されているが、信号交換部216を介した所定信号の授受は、当該無線通信が可能となる前の状態等、一定の条件の下で有用な通信形態である。
【0031】
次に、モータ本体21の巻線部25、および巻線部25に対して設けられたトランス構造の配置について図3に基づいて説明する。巻線部25には、U相、V相、W相の三相の巻線部分L5、L6、L7が含まれている。各相の巻線部分の結線態様はY結線であり、各巻線部分の接合箇所が中性点とされる。U相の巻線部分L5について、図3においては、そのインダクタンス成分が51で示され、抵抗成分が52で示される。同じように、V相の巻線部分L6について、そのインダクタンス成分が61で示され、抵抗成分が62で示され、更に、W相の巻線部分L7について、そのインダクタンス成分が71で示され、抵抗成分が72で示される。
【0032】
そして、各相において抽出部214を形成するトランス構造が配置されている。具体的には、U相においては、巻線部分L5に対してU相のトランス構造53の一次コイル531が直列に接続され、V相においては、巻線部分L6に対してV相のトランス構造63の一次コイル631が直列に接続され、W相においては、巻線部分L7に対してW相のトランス構造73の一次コイル731が直列に接続される。そして、U相のトランス構造53の二次コイル532と、V相のトランス構造63の二次コイル632と、W相のトランス構造73の二次コイル732は、供給部215に接続される。更に、各二次コイル532、632、732は、信号交換部216にも接続される。
【0033】
なお、各相のトランス構造の巻線比(一次コイルの巻線数に対する二次コイルの巻線数の比)は、基本的には同じであるが、異なっていても構わない。また、図3に示す形態では、三相の全てにトランス構造を配置し、その二次コイルを供給部215と信号交換部216に接続しているが、三相のうち一部の相にのみトランス構造を配置し、その二次コイルを供給部215と信号交換部216に接続してもよい。別法として、三相の全てにトランス構造を配置し、その一部のトランス構造の二次コイルを供給部215に接続し、残りのトランス構造の二次コイルを信号交換部216に接続してもよい。この場合、供給部215に接続されエンコーダ22への電力供給を司るトランス構造の巻線比と、信号交換部216に接続されエンコーダ22との所定信号の授受を司るトランス構造の巻線比は、それぞれの目的に応じて好適に設定すればよい。
【0034】
このように構成される巻線部25とトランス構造53、63、73を採用することで、
動力線11を介してモータ2に供給された電力の一部を抽出部214によってエンコーダ22の駆動電力として抽出することができる。当該構成によれば、モータ2が駆動している場合は、常に安定してエンコーダ22の電力も供給されることになり、またそのためにエンコーダ22に対して配線するケーブルを必要としないため、ケーブルの配線作業が大きく軽減されそのコストも抑制できる。
【0035】
ここで、図3に示す形態のモータ2においてトランス構造として単相変圧器を採用した場合の、モータ2の回路方程式について検討する。各相のトランス構造の特性は同一とする。なお、以下に示す数式において、電圧Vu、Vv、Vw、電流Iu、Iv、Iwは、ドライバ4の各相の出力電圧と電流を表し、Lu、Lv、Lwは、モータ2の各相の自己インダクタンスを表し、Muv、Mvw、Mwuは、モータ2の相間の相互インダクタンスを表している。また、ωeは電気角周波数を表し、Φuvwは電機子巻線最大鎖交磁束数を表し、Rは巻線抵抗を表し、Keは誘起電圧定数を表しており、sは微分演算子である。また、電圧Vux2、Vvx2、Vwx2、電
流Iux2、Ivx2、Iwx2は、トランス構造の二次側の出力電圧と電流を表し、Lx1、Lx2、Mxは、それぞれ、トランス構造の一次側インダクタンス、二次側インダクタンス、相互インダクタンスを表し、Rx1、Rx2は、トランス構造の一次側と二次側の巻線抵抗を表している。また、θeは電気角である。
【0036】
モータ2の回路方程式は、以下の式1及び式2で表される。
【数1】

・・・(式1)
【数2】


・・・(式2)
【0037】
更に、UVWの三相からdqの2相への変換処理、及び固定座標系から回転座標系への変換処理を施すことで、以下の式3及び式4で示される回路方程式が得られる。
【数3】

・・・(式3)
【数4】

・・・(式4)
【0038】
更に、トランス構造の二次側電力Pdqxは、以下の式5で表される。また、トランス構造の二次側でのd軸電流idx2とq軸電流iqx2は、以下の式6で表される。なお、以下に示す数式において、RLは、抽出部214を形成するトランス構造を介して電力が供給される外部装置(エンコーダ22)の負荷抵抗を表している。
【数5】

・・・(式5)
【数6】

・・・(式6)
【0039】
そして、式5及び式6に基づき、トランス構造の二次側における定常特性の電力Pdqtは、以下の式7で表される。
【数7】

・・・(式7)
【0040】
式7から理解できるように、トランス構造により抽出される電力は、ドライバ4から動力線11を介してモータ2に対して供給されたd軸電流idとq軸電流iq、及びモータの回転速度に関連する電気角周波数ωeで決定されることになる。一方で、本来は、モータ2
を所望の運転状態、すなわち、所望の回転速度において所望のトルクを出す状態にすべく、d軸電流idとq軸電流iqは供給されるべきものであるが、トランス構造により電力を抽出することを優先してd軸電流id及びq軸電流iqが決定されてしまうと、モータの運転状態の安定性に影響が及ぶおそれがあり好ましくない。
【0041】
そこで、本実施形態では、図4に示すように、モータ2の運転状態が属する領域に応じて、トランス構造による電力抽出のための、すなわちエンコーダ22への電力供給のためのモータ駆動電流の決定方法を切り替えるものとする。なお、q軸電流iqはモータ2が発揮するトルクに直接的に影響する駆動電流であるから、トランス構造による電力抽出を目的とする場合にq軸電流iqを調整することはモータ2の運転状態に大きく影響を及ぼし好ましくない。そこで、トランス構造による電力抽出を目的とする場合には、d軸電流idを調整するものとする。
【0042】
先ず、領域R1について説明する。領域R1はいわゆる高速高トルク領域である。一般的に、モータ2の回転速度が高くなるに従い、誘起電圧によりドライバの電圧出力が飽和し安定した回転が容易ではなくなる。そのような場合に、モータの円滑な回転を促進するためにd軸電流を適切に設定する必要がある。そこで、モータ2の運転状態が領域R1に属している場合には、トランス構造を介したエンコーダ22への電力供給のためのd軸電流id(モータの本来の駆動に必要なd軸電流とは区別されるものであり、当該本来の駆動に必要なd軸電流に対して追加的に重畳されるd軸電流を意味する)の調整は行わない形でドライバ4からの電力供給を行うものとする。以上を踏まえ、領域R1は、式7で表されるPdqtが所定の閾値電力より大きくなる領域として設定される。
【0043】
したがって、領域R1を除く領域については、トランス構造を介したエンコーダ22への電力供給を行うためには、その供給のためのd軸電流idの調整を行う必要がある。そこで、領域R1を除く領域については、モータ2の回転速度が閾値速度ω0より高い領域である領域R2と、モータ2の回転速度が閾値速度ω0以下である領域R3とに区分される。閾値速度ω0は、トランス構造における電力抽出の効率に関連するものであり、モータ2の回転速度が閾値速度ω0より高い場合には、トランス構造における電力抽出の効率が比較的高くなり、モータ2の回転速度が閾値速度ω0以下である場合には、トランス構造における電力抽出の効率が比較的低くなる。そこで、閾値速度ω0を境界条件として、領域R2と領域R3とでは、トランス構造を介したエンコーダ22への電力供給のためのd軸電流idの調整態様を異ならしめる。
【0044】
次に、図4に示した各領域に応じた、トランス構造を介したエンコーダ22への電力供給に関する制御について、図5に基づいて説明する。図5に示す電力供給制御は、ドライバ4の制御部41により繰り返し実行される、モータ2への電力供給に関する制御である。なお、モータ2への電力供給は、公知のベクトル制御を利用して実現されるため、ベクトル制御の詳細についてはその説明を割愛する。
【0045】
先ず、S101では、モータ2の運転状態(動作点)が特定される。具体的には、図4を踏まえ、モータ2の回転速度及びトルクが特定される。その後、S102では、S101で特定された運転状態に基づいて、エンコーダ22への電力供給を行うためにd軸電流値の調整を行う必要があるか否かが判定される。すなわち、モータ2の運転状態が図4に示す領域R1に属する場合には、d軸電流値の調整は必要ではないと判定(すなわち否定判定)され、処理はS104へ進む。一方で、モータ2の運転状態が図4に示す領域R1に属していない場合には、d軸電流値の調整は必要であると判定(すなわち肯定判定)さ
れ、処理はS103へ進む。
【0046】
S104では、d軸電流値の調整を行わずにエンコーダ22への電力供給を行う。すなわち、モータ2の運転状態が領域R1に属している場合には、式7で表されるPdqtが所定の閾値電力より大きくなるため、d軸電流値の調整を行わなくても、モータ2の運転に伴ってある程度の電力がトランス構造によって抽出され得る状態となっている。そのため、エンコーダ22への継続的な電力供給が実現されるとともに、モータ2の運転状態は安定に維持される。
【0047】
ここで、S102で肯定判定され処理がS103へ進むと、S103ではモータ2の運転状態が低回転領域のR3に属しているか否かが判定される。具体的には、モータ2の回転速度が、図4に示す閾値速度ω0以下である場合にはS103で肯定判定され、閾値速度ω0より高い場合にはS103で否定判定される。S103で肯定判定されると処理はS105へ進み、否定判定されるとS106へ進む。
【0048】
ここで、モータ2の回転速度が低い場合にはトランス構造による電力抽出の効率が低いため、実際にトランス構造によって抽出される電力は不安定なものとなる。一方で、モータ2の構造、大きさ等の制約により、d軸電流の調整のためにトランス構造によって抽出される電力を正確に検出するためのセンサ等をトランス構造の二次側に配置することは容易ではない。そこで、本実施形態では、d軸電流値の調整を行うに当たって図6に示す電力推定モデルを採用した。当該電力推定モデルは、制御部41に含まれる。当該電力推定モデルを用いてトランス構造による抽出電力を推定する構成は、本願発明の電力推定部に相当する。このような構成を採用することで、電力検出のためのセンサを用いなくても、d軸電流の調整介した電力供給を好適に行い得る。
【0049】
トランス構造によって抽出されることが期待される電力を、所望の電力Pdqx*としたと
きに、図6の上段には、d軸電流値の調整を経て電力の推定値Pdqx^が生成されるブロッ
ク図が示されている。当該ブロック図では、所望の電力Pdqx*を得るために、電力推定値Pdqx^をフィードバックしその差分を制御器に加え、d軸電流値のうち時間経過とともに変動する成分idac*を算出する。そして、当該idac*と、d軸電流値のうち時間経過とともに変動しない成分iddc*と、q軸電流iq*と、モータ2の回転速度に関連する電気角周波数ωeが電力推定器に入力され、電力推定値Pdqx^が得られる。すなわち、電力推定器には、モータ2の駆動電流に関連するパラメータ(iq*、iddc*、idac*)と回転速度に関連するパ
ラメータ(ωe)が入力される。そして、電力推定器には、式5が適用される。また、図
6の下段に示すように、時間経過とともに変動する成分idac*と時間経過とともに変動し
ない成分iddc*を合わせて、d軸電流値id*となる。なお、図6においては、時間経過とともに変動しない成分iddc*とともに初期値id0*が含まれて記載されているが、一般的に初
期値id0*はゼロと考えてよい。
【0050】
ここで、図7に基づいて、d軸電流値のうち時間経過とともに変動する成分と、時間経過とともに変動しない成分について説明する。図7の上段(a)に示すd軸電流は、時間の経過とともに変化せず一定の値となっている。このようなd軸電流については、時間経過とともに変動する成分は含まず、時間経過とともに変動しない成分(図中のpdcで参照
される成分)のみを含む。一方で、図7の下段(b)に示すd軸電流は、一定のバイアスが掛かった状態で時間の経過とともに変化している。このようなd軸電流については、時間経過とともに変動しない成分(図中のpdcで参照される成分)に加えて、時間経過とと
もに変動する成分(図中のpacで参照される成分)が含まれることになる。
【0051】
ここで、図5に戻る。モータ2の運転状態が領域R3に属する場合に行われるS105では、図6に示す電力推定モデルを用いて、図7(b)に示すように、時間経過とともに
変動する方式でd軸電流値を調整する。すなわち、エンコーダ22に供給すべき分の電力をd軸電流値の調整を介して、モータの駆動電流に重畳させる。このような形態では、調整後のd軸電流値は、時間経過とともに変動しない成分によるバイアスが加わった状態で、時間経過とともに一定の振幅及び一定の周波数で変動する値となる。このようにd軸電流値を時間経過とともに変動させることで、トランス構造による電力抽出の効率低下分を補償することができるとともに、時間経過とともに変動しない成分も含めることで単位時間当たりの電力供給量を高め、より効率的な電力供給を図ることができる。
【0052】
また、モータ2の運転状態が領域R2に属する場合に行われるS106では、図6に示す電力推定モデルを用いて、図7(a)に示すように、時間経過とともに変動しない方式でd軸電流値を調整する。すなわち、エンコーダ22に供給すべき分の電力をd軸電流値の調整を介して、モータの駆動電流に重畳させる。領域R2ではモータ2の回転速度は比較的高いため、トランス構造による電力抽出の効率は比較的保つことができる。そこで、時間経過とともに変動しない成分でd軸電流を画定することで単位時間当たりの電力供給量を高め、より効率的な電力供給を図ることができる。なお、上記の通り、領域R2の場合、モータ2の回転速度は比較的高いため、トランス構造による電力抽出を安定的に行いやすい。そこで、図6に示す電力推定モデルを用いる代わりに、上記の式7から導出される、以下の式8に従って、電力供給のためのd軸電流値を決定してもよい。
【数8】

・・・(式8)
【0053】
以上より、図5に示す電力供給制御によれば、モータ2の運転状態への影響を可及的に抑制しつつ、エンコーダ22への安定した電力供給を実現することができる。
【0054】
<変形例>
抽出部214を形成するトランス構造の変形例について、図8及び図9に基づいて説明する。先ず、変形例の第1の形態について、図8に基づいて説明する。モータ本体21の巻線部25の構成については、図3に示す実施形態と同じであるためその詳細な説明は割愛する。本形態では、三相それぞれの巻線部分L5、L6、L7に対して、U相に対応するトランス構造53の一次コイル531が並列に接続され、且つ、V相に対応するトランス構造63の一次コイル631が並列に接続され、且つ、W相に対応するトランス構造73の一次コイル731が並列に接続される。詳細には、一次コイル531を含むラインL50と、一次コイル631を含むラインL60と、一次コイル731を含むラインL70はY結線されるとともに、他端はそれぞれU相の巻線部分L5、V相の巻線部分L6、W相の巻線部分L7に接続されている。そして、トランス構造53の二次コイル532と、V相のトランス構造63の二次コイル632と、W相のトランス構造73の二次コイル732は、供給部215に接続される。更に、各二次コイル532、632、732は、信号交換部216にも接続される。
【0055】
なお、本形態においても、各相のトランス構造の巻線比は、基本的には同じであるが、異なっていても構わない。また、図8に示す形態では、三相の全てに対応するトランス構造を配置し、その二次コイルを供給部215と信号交換部216に接続しているが、三相のうち一部の相にのみに対応するようにトランス構造を配置し、その二次コイルを供給部215と信号交換部216に接続してもよい。別法として、三相の全てに対応するトラン
ス構造を配置し、その一部のトランス構造の二次コイルを供給部215に接続し、残りのトランス構造の二次コイルを信号交換部216に接続してもよい。この場合、供給部215に接続されエンコーダ22への電力供給を司るトランス構造の巻線比と、信号交換部216に接続されエンコーダ22との所定信号の授受を司るトランス構造の巻線比は、それぞれの目的に応じて好適に設定すればよい。
【0056】
このように構成される巻線部25とトランス構造53、63、73を採用することで、動力線11を介してモータ2に供給された電力の一部を抽出部214によってエンコーダ22の駆動電力として抽出することができる。当該構成によれば、モータ2が駆動している場合は、常に安定してエンコーダ22の電力も供給されることになり、またそのためにエンコーダ22に対して配線するケーブルを必要としないため、ケーブルの配線作業が大きく軽減されそのコストも抑制できる。
【0057】
次に、変形例の第2の形態について、図9に基づいて説明する。モータ本体21の巻線部25の構成については、上記の実施形態と同じであるためその詳細な説明は割愛する。ただし、本形態では、各相の巻線部分L5、L6、L7のコイル成分51、61、71を、各相に対応するトランス構造53、63、73の一次コイル531、631、731として利用する。詳細には、U相においては、コイル成分51を一次コイル531としてトランス構造53を形成し、V相においては、コイル成分61を一次コイル631としてトランス構造63を形成し、W相においては、コイル成分71を一次コイル731としてトランス構造73を形成する。したがって、第3の形態では、各相のトランス構造53、63、73の二次コイル532、632、732は、一次コイルでもある巻線部の主要なコイルとともにステータコアに対して巻かれることで、各相のトランス構造53、63、73が形成されることになる。そして、トランス構造53の二次コイル532と、V相のトランス構造63の二次コイル632と、W相のトランス構造73の二次コイル732は、供給部215に接続される。更に、各二次コイル532、632、732は、信号交換部216にも接続される。
【0058】
なお、本形態においても、各相のトランス構造の巻線比は、基本的には同じであるが、異なっていても構わない。また、図9に示す形態では、三相の全てに対応するトランス構造を配置し、その二次コイルを供給部215と信号交換部216に接続しているが、三相のうち一部の相にのみに対応するようにトランス構造を配置し、その二次コイルを供給部215と信号交換部216に接続してもよい。別法として、三相の全てに対応するトランス構造を配置し、その一部のトランス構造の二次コイルを供給部215に接続し、残りのトランス構造の二次コイルを信号交換部216に接続してもよい。この場合、供給部215に接続されエンコーダ22への電力供給を司るトランス構造の巻線比と、信号交換部216に接続されエンコーダ22との所定信号の授受を司るトランス構造の巻線比は、それぞれの目的に応じて好適に設定すればよい。
【0059】
このように構成される巻線部25とトランス構造53、63、73を採用することで、動力線11を介してモータ2に供給された電力の一部を抽出部214によってエンコーダ22の駆動電力として抽出することができる。当該構成によれば、モータ2が駆動している場合は、常に安定してエンコーダ22の電力も供給されることになり、またそのためにエンコーダ22に対して配線するケーブルを必要としないため、ケーブルの配線作業が大きく軽減されそのコストも抑制できる。
【0060】
更に、図3図8図9に示したトランス構造53、63、73は、複巻型のトランス構造であるが、その変形例として、単巻型のトランス構造を採用することもできる。例えば、図9に示す形態に単巻型のトランス構造を採用した場合、モータ2の巻線部25を一次コイルとし、且つ、巻線部25の一部を二次コイルとすることで、トランス構造53、
63、73が形成される。すなわち、巻線部25における二次コイル部分は、一次側と二次側とで共有されることになる。
【0061】
<抽出された電力が供給される装置に関する変形例>
上述までの実施形態では、抽出部214により抽出された電力はエンコーダ22に対して供給されているが、当該抽出された電力は、エンコーダ22以外の装置に対しても供給することができる。例えば、モータ2の内部やその外側に配置されているセンサ装置(例えば、温度センサや振動センサ等)に対して電力供給を行ってもよい。その場合、電力供給に適した、センサとのケーブルの接続口になるポートが、モータ本体21に設けられてもよい。
【0062】
<電力抽出に関する変形例>
本変形例について、図10に基づいて説明する。図10は、本変形例に関する、モータ2の概略構成を示した図である。なお、本形態のモータ2は、図2に示す形態と同じように、巻線部25に対してトランス構造を有する抽出部214が設けられている。抽出部214のトランス構造は、図3図8図9に示す構造と実質的に同じ構造を採用することができる。更に、本変形例では、コネクタ211に接続された動力線11に対しても、電力抽出が実現可能な抽出部214bが設けられている。抽出部214bによる電力抽出も、図3等に示すトランス構造と電気的に同一のトランス構造が動力線11に組み込まれることで実現される。
【0063】
抽出部214bによって抽出された電力は、所定の整流処理等が施されて、モータ2の外部に配置されている温度センサや振動センサ等の装置の電力として供給することができる。また、当該抽出された電力は二次電池に蓄電されることで、温度センサ等に安定的な電力を供給することができる。なお、図10に示すモータ2では抽出部214で抽出された電力がエンコーダ22に供給されているが、それに代えて抽出部214bで抽出された電力がエンコーダ22に供給されてもよく、もしくは、抽出部214、214bの両者で抽出された電力がエンコーダ22に供給されてもよい。また、モータ2において、抽出部214は設けられず、エンコーダ22は内蔵する電池から電力供給を受けたり、ドライバ4から電力供給を受けたりしてもよい。
【0064】
このように、本開示のモータ2においては、その巻線部25だけではなく動力線11からも電力を抽出し、エンコーダ22や外部のセンサ等に電力を供給することが可能となり、以て、サーボシステムでの電力供給のための配線負荷を大きく軽減することができる。
【0065】
<付記1>
外部から供給された電力の一部を抽出する抽出部(214)と、該抽出部(214)により抽出された電力を外部装置に供給する供給部(215)と、を備えるモータ(2)に対して、又は、該抽出部(214)と該供給部(215)が設けられたモータ用動力線(11)に対して、駆動電力を供給するドライバ(4)であって、
前記モータ(2)の運転状態に基づいて、前記抽出部(214)を介して前記外部装置に第1電力を供給するために、前記モータの駆動電流におけるd軸電流値の調整が必要か否かを判定する判定部と、
前記判定部による判定結果に基づいて、前記モータ(2)の駆動に必要な駆動電力と前記第1電力を含む所定電力を前記抽出部に対して出力する出力部と、
を備える、ドライバ。
【符号の説明】
【0066】
2 モータ
4 サーボドライバ
22 エンコーダ
25 巻線部
53、63、73 トランス構造
214 抽出部
215 供給部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10