(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024095297
(43)【公開日】2024-07-10
(54)【発明の名称】2-インドールカルボン酸脱炭酸活性を有するポリペプチド及びその利用
(51)【国際特許分類】
C12N 15/60 20060101AFI20240703BHJP
C12N 9/88 20060101ALI20240703BHJP
C12N 15/10 20060101ALI20240703BHJP
C12N 1/14 20060101ALI20240703BHJP
C12N 1/15 20060101ALI20240703BHJP
C12N 1/19 20060101ALI20240703BHJP
C12N 15/63 20060101ALI20240703BHJP
C12P 13/00 20060101ALI20240703BHJP
【FI】
C12N15/60 ZNA
C12N9/88
C12N15/10 200Z
C12N1/14
C12N1/15
C12N1/19
C12N15/63 Z
C12P13/00
【審査請求】有
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022212471
(22)【出願日】2022-12-28
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和2年度、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構、「カーボンリサイクル実現を加速するバイオ由来製品生産技術の開発/カーボンリサイクル実現を加速するバイオ由来製品生産技術の開発/データベース空間からの新規酵素リソースの創出」委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】000000918
【氏名又は名称】花王株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000084
【氏名又は名称】弁理士法人アルガ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】野中 鏡士朗
(72)【発明者】
【氏名】高橋 史員
【テーマコード(参考)】
4B050
4B064
4B065
【Fターム(参考)】
4B050CC04
4B050DD02
4B050LL05
4B064AE45
4B064CA19
4B064CC24
4B064DA16
4B065AA26X
4B065AB01
4B065AC14
4B065BA02
4B065CA16
4B065CA18
(57)【要約】
【課題】2-インドールカルボン酸類の脱炭酸活性を有するポリペプチド及びその利用法を提供する。
【解決手段】配列番号2で示されるアミノ酸配列において、当該アミノ酸配列の322位におけるアミノ酸残基が下記のアミノ酸である、又は配列番号2で示されるアミノ酸配列と少なくとも90%の同一性を有するアミノ酸配列において、配列番号2で示されるアミノ酸配列の322位に相当する位置におけるアミノ酸残基が下記のアミノ酸である、インドール-2-カルボン酸脱炭酸活性を有するポリペプチド;
アラニン、システイン、アスパラギン酸、グルタミン酸、フェニルアラニン、グリシン、イソロイシン、ロイシン、メチオニン、アスパラギン、プロリン、グルタミン、セリン、スレオニン、バリン又はチロシン。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
配列番号2で示されるアミノ酸配列において、当該アミノ酸配列の322位におけるアミノ酸残基が下記のアミノ酸である、又は配列番号2で示されるアミノ酸配列と少なくとも90%の同一性を有するアミノ酸配列において、配列番号2で示されるアミノ酸配列の322位に相当する位置におけるアミノ酸残基が下記のアミノ酸である、インドール-2-カルボン酸脱炭酸活性を有するポリペプチド;
アラニン、システイン、アスパラギン酸、グルタミン酸、フェニルアラニン、グリシン、イソロイシン、ロイシン、メチオニン、アスパラギン、プロリン、グルタミン、セリン、スレオニン、バリン又はチロシン。
【請求項2】
配列番号2で示されるアミノ酸配列において、当該アミノ酸配列の322位におけるアミノ酸残基を下記のアミノ酸に置換すること、又は配列番号2で示されるアミノ酸配列と少なくとも90%の同一性を有するアミノ酸配列において、配列番号2で示されるアミノ酸配列の322位に相当する位置におけるアミノ酸残基を下記のアミノ酸に置換することを含む、インドール-2-カルボン酸脱炭酸活性を有する変異ポリペプチドの製造方法;
アラニン、システイン、アスパラギン酸、グルタミン酸、フェニルアラニン、グリシン、イソロイシン、ロイシン、メチオニン、アスパラギン、プロリン、グルタミン、セリン、スレオニン、バリン又はチロシン。
【請求項3】
配列番号2で示されるアミノ酸配列において、当該アミノ酸配列の322位におけるアミノ酸残基を下記のアミノ酸に置換すること、又は配列番号2で示されるアミノ酸配列と少なくとも90%の同一性を有するアミノ酸配列において、配列番号2で示されるアミノ酸配列の322位に相当する位置におけるアミノ酸残基を下記のアミノ酸に置換することを含む、インドール-2-カルボン酸に対する脱炭酸活性の付与方法;
アラニン、システイン、アスパラギン酸、グルタミン酸、フェニルアラニン、グリシン、イソロイシン、ロイシン、メチオニン、アスパラギン、プロリン、グルタミン、セリン、スレオニン、バリン又はチロシン。
【請求項4】
請求項1記載のポリペプチドをコードするポリヌクレオチド。
【請求項5】
請求項4記載のポリヌクレオチドを含むベクター又はDNA断片。
【請求項6】
フラビンモノヌクレオチドプレニルトランスフェラーゼをコードするポリヌクレオチド配列をさらに含む、請求項5記載のベクター又はDNA断片。
【請求項7】
請求項5又は6記載のベクター又はDNA断片を含有する形質転換細胞。
【請求項8】
前記形質転換細胞又はその宿主がフラビンモノヌクレオチドプレニルトランスフェラーゼをコードする遺伝子をさらに保有する、請求項7記載の形質転換細胞。
【請求項9】
細胞が大腸菌、酵母又はコリネ型細菌である、請求項7又は8記載の形質転換細胞。
【請求項10】
下記の一般式(1):
【化1】
〔式中、R
1及びR
2は同一又は異なっていてもよく、水素原子、ヒドロキシ基、ハロゲン原子、炭素数1~3のアルキル基、炭素数1~3のアルコキシ基、カルボキシ基又はアミノ基を示す。〕
で表されるインドール-2-カルボン酸類を、請求項1記載のポリペプチド又は請求項7~9のいずれか1項記載の形質転換細胞と接触させる工程を含む、下記の一般式(2):
【化2】
〔式中、R
1及びR
2は前記と同じものを示す。〕
で示されるインドール類の製造方法。
【請求項11】
一般式(1)及び(2)におけるR1及びR2が共に水素原子である、請求項10記載の方法。
【請求項12】
インドール類を回収する工程を含む、請求項10又は11記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は2-インドールカルボン酸脱炭酸活性を有するポリペプチド及びその利用に関する。
【背景技術】
【0002】
インドールはベンゼン環とピロール環が縮合した構造をとる有機化合物であり、天然ジャスミン精油に約2.5%含まれ、合成インドールはオレンジやジャスミン系の香料や香水に使用されている。また、インドールはインディゴ色素の原料としても知られている。さらに、インドール環上に置換基を有するインドール類は、医薬品や各種化成品、それらの合成中間体としても重要である。
【0003】
インドール類の合成は、Reissert法、Fischer法、Rees-Moody法などの合成法が古くから知られている。しかし、歴史あるこれらの方法を用いたインドール環の形成反応においては、反応性の点から2-インドールカルボン酸等のインドールカルボン酸を合成した後に脱炭酸する手法が採用される。例えば、フェニルヒドラジンとピルビン酸を用いて2-インドールカルボン酸を製造し、その後脱炭酸反応に付して、インドールを合成することが行われている。ここで行われる脱炭酸反応は、主に加熱条件下(200~300℃)で行われるため、生成物の分解と精製時の追加的な分解を引き起こすという問題があった(非特許文献1)。
【0004】
一方、近年、常温常圧下で1段階かつ可逆的にヘテロ芳香族カルボン酸のカルボキシル基を脱離可能な酵素触媒として、PaHudA、CbHmfF、AnFDC1等のプレニル化フラビン型デカルボキシラーゼ(prFMN-DC)が見出されている(非特許文献2)。このうち、代表的なprFMN-DCであるAnFDC1では多様な芳香族性基質への特異性改変が行われ、2-インドールカルボン酸に対して脱炭酸活性を有する変異体が見出されている(非特許文献3)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】U. Tilstam, Organic Process Research & Development 2012, 16, 1449.
【非特許文献2】S. E. Payer et al., Advanced Synthesis & Catalysis 2019, 361, 2402.
【非特許文献3】D. Leys et al., Nature Chemical Biology 2020, 16, 1255.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、2-インドールカルボン酸類の脱炭酸活性を有するポリペプチド及びその利用法を提供することに関する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、ピロール-2-カルボン酸に対して脱炭酸活性を有するプレニル化フラビン型デカルボキシラーゼであるPaHudAの特定の変異体が、2-インドールカルボン酸に対して優れた脱炭酸活性を有し、インドール酸類の製造に有用であることを見出した。
【0008】
本発明は以下の1)~7)に係るものである。
1)配列番号2で示されるアミノ酸配列において、当該アミノ酸配列の322位におけるアミノ酸残基が下記のアミノ酸である、又は配列番号2で示されるアミノ酸配列と少なくとも90%の同一性を有するアミノ酸配列において、配列番号2で示されるアミノ酸配列の322位に相当する位置におけるアミノ酸残基が下記のアミノ酸である、インドール-2-カルボン酸脱炭酸活性を有するポリペプチド;
アラニン、システイン、アスパラギン酸、グルタミン酸、フェニルアラニン、グリシン、イソロイシン、ロイシン、メチオニン、アスパラギン、プロリン、グルタミン、セリン、スレオニン、バリン又はチロシン。
2)配列番号2で示されるアミノ酸配列において、当該アミノ酸配列の322位におけるアミノ酸残基を下記のアミノ酸に置換すること、又は配列番号2で示されるアミノ酸配列と少なくとも90%の同一性を有するアミノ酸配列において、配列番号2で示されるアミノ酸配列の322位に相当する位置におけるアミノ酸残基を下記のアミノ酸に置換することを含む、インドール-2-カルボン酸脱炭酸活性を有する変異ポリペプチドの製造方法;
アラニン、システイン、アスパラギン酸、グルタミン酸、フェニルアラニン、グリシン、イソロイシン、ロイシン、メチオニン、アスパラギン、プロリン、グルタミン、セリン、スレオニン、バリン又はチロシン。
3)配列番号2で示されるアミノ酸配列において、当該アミノ酸配列の322位におけるアミノ酸残基を下記のアミノ酸に置換すること、又は配列番号2で示されるアミノ酸配列と少なくとも90%の同一性を有するアミノ酸配列において、配列番号2で示されるアミノ酸配列の322位に相当する位置におけるアミノ酸残基を下記のアミノ酸に置換することを含む、インドール-2-カルボン酸に対する脱炭酸活性の付与方法;
アラニン、システイン、アスパラギン酸、グルタミン酸、フェニルアラニン、グリシン、イソロイシン、ロイシン、メチオニン、アスパラギン、プロリン、グルタミン、セリン、スレオニン、バリン又はチロシン。
4)1)のポリペプチドをコードするポリヌクレオチド。
5)4)のポリヌクレオチドを含むベクター又はDNA断片。
6)5)のベクター又はDNA断片を含有する形質転換細胞。
7)下記の一般式(1):
【0009】
【化1】
〔式中、R
1及びR
2は同一又は異なっていてもよく、水素原子、ヒドロキシ基、ハロゲン原子、炭素数1~3のアルキル基、炭素数1~3のアルコキシ基、カルボキシ基又はアミノ基を示す。〕
【0010】
で表されるインドール-2-カルボン酸類を、1)のポリペプチド又は6)の形質転換細胞と接触させる工程を含む、下記の一般式(2):
【0011】
【化2】
〔式中、R
1及びR
2は前記と同じものを示す。〕
【0012】
で示されるインドール類の製造方法。
【発明の効果】
【0013】
本発明のポリペプチドは優れたインドール-2-カルボン酸脱炭酸活性を有することから、これを用いることにより、常温常圧下でインドール-2-カルボン酸類から効率よくインドール類を製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本明細書において、アミノ酸配列又はヌクレオチド配列の同一性は、Lipman-Pearson法(Science,1985,227:1435-1441)によって計算される。具体的には、遺伝情報処理ソフトウェアGENETYX Ver.12のホモロジー解析(Search homology)プログラムを用いて、Unit size to compare(ktup)を2として解析を行うことにより算出される。
【0015】
本明細書において、アミノ酸配列又はヌクレオチド配列上の「相当する位置」は、目的配列と参照配列(例えば、配列番号2で示されるアミノ酸配列)とを、最大の相同性を与えるように整列(アラインメント)させることにより決定することができる。アミノ酸配列またはヌクレオチド配列のアラインメントは、公知のアルゴリズムを用いて実行することができ、その手順は当業者に公知である。例えば、アラインメントは、Clustal Wマルチプルアラインメントプログラム(Thompson,J.D.et al,1994,Nucleic Acids Res.22:4673-4680)をデフォルト設定で用いることにより、行うことができる。あるいは、Clustal Wの改訂版であるClustal W2やClustal omegaを使用することもできる。Clustal W、Clustal W2及びClustal omegaは、例えば、欧州バイオインフォマティクス研究所(European Bioinformatics Institute:EBI[www.ebi.ac.uk/index.html])や、国立遺伝学研究所が運営する日本DNAデータバンク(DDBJ[www.ddbj.nig.ac.jp/searches-j.html])のウェブサイト上で利用することができる。上述のアラインメントにより参照配列の任意の位置にアラインされた目的配列の位置は、当該任意の位置に「相当する位置」とみなされる。
【0016】
当業者であれば、上記で得られたアミノ酸配列のアラインメントを、最適化するようにさらに微調整することができる。そのような最適アラインメントは、アミノ酸配列の類似性や挿入されるギャップの頻度等を考慮して決定するのが好ましい。ここでアミノ酸配列の類似性とは、2つのアミノ酸配列をアラインメントしたときにその両方の配列に同一又は類似のアミノ酸残基が存在する位置の数の全長アミノ酸残基数に対する割合(%)をいう。類似のアミノ酸残基とは、タンパク質を構成する20種のアミノ酸のうち、極性や電荷の点で互いに類似した性質を有しており、いわゆる保存的置換を生じるようなアミノ酸残基を意味する。そのような類似のアミノ酸残基からなるグループは当業者にはよく知られており、例えば、アルギニンとリシン又はグルタミン;グルタミン酸とアスパラギン酸又はグルタミン;セリンとトレオニン又はアラニン;グルタミンとアスパラギン又はアルギニン;ロイシンとイソロイシン等がそれぞれ挙げられるが、これらに限定されない。
【0017】
本明細書において、「アミノ酸残基」とは、タンパク質を構成する20種のアミノ酸残基、アラニン(Ala又はA)、アルギニン(Arg又はR)、アスパラギン(Asn又はN)、アスパラギン酸(Asp又はD)、システイン(Cys又はC)、グルタミン(Gln又はQ)、グルタミン酸(Glu又はE)、グリシン(Gly又はG)、ヒスチジン(His又はH)、イソロイシン(Ile又はI)、ロイシン(Leu又はL)、リシン(Lys又はK)、メチオニン(Met又はM)、フェニルアラニン(Phe又はF)、プロリン(Pro又はP)、セリン(Ser又はS)、スレオニン(Thr又はT)、トリプトファン(Trp又はW)、チロシン(Tyr又はY)及びバリン(Val又はV)を意味する。
【0018】
本明細書において、プロモーター等の制御領域と遺伝子の「作動可能な連結」とは、遺伝子と制御領域とが、該遺伝子が該制御領域の制御の下で発現し得るように連結されていることをいう。遺伝子と制御領域との「作動可能な連結」の手順は当業者に周知である。
【0019】
本明細書において、遺伝子に関する「上流」及び「下流」とは、該遺伝子の転写方向の上流及び下流をいう。例えば、「プロモーターの下流に配置された遺伝子」とは、DNAセンス鎖においてプロモーターの3'側に該遺伝子が存在することを意味し、遺伝子の上流とは、DNAセンス鎖における該遺伝子の5'側の領域を意味する。
【0020】
本明細書において、細胞の機能や性状、形質に対して使用する用語「本来」とは、当該機能や性状、形質が当該細胞に元から存在していることを表すために使用される。対照的に、用語「外来」とは、当該細胞に元から存在するのではなく、外部から導入された機能や性状、形質を表すために使用される。例えば、「外来」遺伝子又はポリヌクレオチドとは、細胞に外部から導入された遺伝子又はポリヌクレオチドである。外来遺伝子又はポリヌクレオチドは、それが導入された細胞と同種の生物由来であっても、異種の生物由来(すなわち異種遺伝子又はポリヌクレオチド)であってもよい。
【0021】
<インドール-2-カルボン酸脱炭酸活性を有するポリペプチド>
本発明のインドール-2-カルボン酸脱炭酸活性を有するポリペプチド(「本発明のポリペプチド」と称す)は、配列番号2で示されるアミノ酸配列において、当該アミノ酸配列の322位におけるアミノ酸残基、又は配列番号2で示されるアミノ酸配列と少なくとも90%の同一性を有するアミノ酸配列において、配列番号2で示されるアミノ酸配列の322位に相当する位置におけるアミノ酸残基がアラニン、システイン、アスパラギン酸、グルタミン酸、フェニルアラニン、グリシン、イソロイシン、ロイシン、メチオニン、アスパラギン、プロリン、グルタミン、セリン、スレオニン、バリン又はチロシンであり、好ましくはアラニン、システイン、アスパラギン酸、グルタミン酸、フェニルアラニン、グリシン、ロイシン、メチオニン、アスパラギン、セリン又はスレオニンであるポリペプチドである。
【0022】
当該ポリペプチドは、基準となるポリペプチド、すなわち配列番号2で示されるアミノ酸配列からなるポリペプチドにおいて、当該アミノ酸配列の322位におけるアミノ酸残基、又は配列番号2で示されるアミノ酸配列と少なくとも90%の同一性を有するアミノ酸配列からなるポリペプチドにおいて、配列番号2で示されるアミノ酸配列の322位に相当する位置におけるアミノ酸残基がアラニン、システイン、アスパラギン酸、グルタミン酸、フェニルアラニン、グリシン、イソロイシン、ロイシン、メチオニン、アスパラギン、プロリン、グルタミン、セリン、スレオニン、バリン又はチロシン、好ましくはアラニン、システイン、アスパラギン酸、グルタミン酸、フェニルアラニン、グリシン、ロイシン、メチオニン、アスパラギン、セリン又はスレオニンに置換された、インドール-2-カルボン酸脱炭酸活性を有する変異ポリペプチドである。
【0023】
本発明において、「インドール-2-カルボン酸脱炭酸活性」とは、インドール-2-カルボン酸の脱炭酸反応を触媒する活性を意味する。
インドール-2-カルボン酸脱炭酸活性は、後述する実施例に示すとおり、インドール-2-カルボン酸を、本発明のポリペプチド又はこれを産生する微生物と接触させ、生成するインドール量をHPLC等により測定することによって決定することができる。
【0024】
斯かる本発明のポリペプチドは、配列番号2で示されるアミノ酸配列において、当該アミノ酸配列の322位におけるアミノ酸残基、又は配列番号2で示されるアミノ酸配列と少なくとも90%の同一性を有するアミノ酸配列において、配列番号2で示されるアミノ酸配列の322位に相当する位置のアミノ酸残基をアラニン、システイン、アスパラギン酸、グルタミン酸、フェニルアラニン、グリシン、イソロイシン、ロイシン、メチオニン、アスパラギン、プロリン、グルタミン、セリン、スレオニン、バリン又はチロシン、好ましくはアラニン、システイン、アスパラギン酸、グルタミン酸、フェニルアラニン、グリシン、ロイシン、メチオニン、アスパラギン、セリン又はスレオニンに置換することにより製造できる。
ここで、配列番号2で示されるアミノ酸配列又はこれと少なくとも90%の同一性を有するアミノ酸配列からなるポリペプチドは、本発明のポリペプチドの「親」ポリペプチドである。
当該親ポリペプチドは、そのアミノ酸残基に所定の変異がなされることにより、本発明のポリペプチドとなる基準ポリペプチドを指す。
【0025】
配列番号2で示されるアミノ酸配列からなるポリペプチドは、プレニル化フラビン型デカルボキシラーゼ(prFMN-DC)の一種であるPaHudA(NCBI Reference Sequence:WP_003115722.1)として知られている。PaHudAは、Pseudomonas aeruginosa由来のプレニル化フラビン型デカルボキシラーゼであり、活性中心にプレニル化フラビンモノヌクレオチド(prFMN)を保持し、ピロール-2-カルボン酸の脱炭酸反応を促進する触媒活性を有する。
【0026】
したがって、本発明のポリペプチドの親ポリペプチドである、配列番号2で示されるアミノ酸配列と少なくとも90%の同一性を有するアミノ酸配列からなるポリペプチドとしては、配列番号2で示されるアミノ酸配列と少なくとも90%以上、より好ましくは95%以上、より好ましくは96%以上、さらに好ましくは97%以上、さらに好ましくは98%以上、さらに好ましくは99%以上の同一性を有するアミノ酸配列からなり、ピロール-2-カルボン酸脱炭酸活性を有するポリペプチドが挙げられる。
【0027】
<本発明のポリペプチドをコードするポリヌクレオチド>
本発明において、親ポリペプチドのアミノ酸残基を変異させる手段としては、当技術分野で公知の各種変異導入技術を使用することができる。例えば、親ポリペプチドのアミノ酸配列をコードするポリヌクレオチド(以下、親遺伝子ともいう)において、変異すべきアミノ酸残基をコードするヌクレオチド配列を、変異後のアミノ酸残基をコードするヌクレオチド配列に変異させることにより、本発明のポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを得ることができる。
【0028】
親遺伝子への目的の変異の導入は、基本的には、当業者に周知の様々な部位特異的変異導入法を用いて行うことができる。部位特異的変異導入法は、例えば、インバースPCR法やアニーリング法などの任意の手法により行うことができる。市販の部位特異的変異導入用キット(例えば、アジレント・テクノロジー社のQuikChange II Site-Directed Mutagenesis Kitや、QuikChange Multi Site-Directed Mutagenesis Kit等)を使用することもできる。
【0029】
親遺伝子への部位特異的変異導入は、最も一般的には、導入すべきヌクレオチド変異を含む変異用プライマーを用いて行うことができる。該変異用プライマーは、親遺伝子における変異すべきアミノ酸残基をコードするヌクレオチド配列を含む領域にアニーリングし、かつその変異すべきアミノ酸残基をコードするヌクレオチド配列(コドン)に代えて変異後のアミノ酸残基をコードするヌクレオチド配列(コドン)を有するヌクレオチド配列を含むように設計すればよい。変異前及び変異後のアミノ酸残基をコードするヌクレオチド配列(コドン)は、当業者であれば通常の教科書等に基づいて適宜認識し選択することができる。あるいは、部位特異的変異導入は、導入すべきヌクレオチド変異を含む相補的な2つのプライマーを別々に用いて変異部位の上流側及び下流側をそれぞれ増幅したDNA断片を、SOE(splicing by overlap extension)-PCR(Gene,1989,77(1):p61-68)により1つに連結する方法を用いることもできる。
【0030】
親遺伝子を含む鋳型DNAは、上述したPaHudAを産生する微生物から、常法によりゲノムDNAを抽出するか、又はRNAを抽出し逆転写によりcDNAを合成することによって、調製することができる。あるいは、親ポリペプチドのアミノ酸配列に基づいて、対応するヌクレオチド配列を化学合成して鋳型DNAとして用いてもよい。ピロール-2-カルボン酸脱炭酸活性を有するポリペプチドとして既述したPaHudAをコードする塩基配列を含むDNA配列を配列番号1に示した。
【0031】
変異用プライマーは、ホスホロアミダイト法(Nucleic Acids R4esearch,1989,17:7059-7071)等の周知のオリゴヌクレオチド合成法により作製することができる。そのようなプライマー合成は、例えば市販のオリゴヌクレオチド合成装置(ABI社製など)を用いて実施することもできる。該変異用プライマーを含むプライマーセットを使用し、親遺伝子を鋳型DNAとして上記のような部位特異的変異導入を行うことにより、目的の変異を有する本発明のポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを得ることができる。
【0032】
当該本発明のポリペプチドをコードするポリヌクレオチドは、一本鎖又は2本鎖のDNA、cDNA、RNAもしくは他の人工核酸を含み得る。該DNA、cDNA及びRNAは、化学合成されていてもよい。また当該ポリヌクレオチドは、オープンリーディングフレーム(ORF)に加えて、非翻訳領域(UTR)のヌクレオチド配列を含んでいてもよい。また当該ポリヌクレオチドは、本発明の変異ポリペプチド産生用の形質転換体の種にあわせて、コドン至適化されていてもよい。各種生物が使用するコドンの情報は、Codon Usage Database([www.kazusa.or.jp/codon/])から入手可能である。
【0033】
<ベクター又はDNA断片>
得られた本発明のポリペプチドをコードするポリヌクレオチドはベクターに組み込むことができる。当該ポリヌクレオチドを含有するベクターは、発現ベクターである。また好ましくは、該ベクターは、本発明のポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを宿主微生物に導入することができ、かつ宿主微生物内で該ポリヌクレオチドを発現することができる発現ベクターである。好ましくは、該ベクターは、本発明のポリペプチドをコードするポリヌクレオチド、及びこれと作動可能に連結された制御領域を含む。該ベクターは、プラスミド等の染色体外で自立増殖及び複製可能なベクターであってもよく、又は染色体内に組み込まれるベクターであってもよい。
【0034】
具体的なベクターの例としては、例えば、pBluescript II SK(-)(Stratagene)、pUC18/19、pUC118/119等のpUC系ベクター(タカラバイオ)、pET系ベクター(タカラバイオ)、pGEX系ベクター(GEヘルスケア)、pCold系ベクター(タカラバイオ)、pHY300PLK(タカラバイオ)、pUB110(Mckenzie,T.et al.,1986,Plasmid 15(2):93-103)、pBR322(タカラバイオ)、pRS403(Stratagene)、pMW218/219(ニッポンジーン)、pRI909/910等のpRI系ベクター(タカラバイオ)、pBI系ベクター(クロンテック)、IN3系ベクター(インプランタイノベーションズ)、pPTR1/2(タカラバイオ)、pDJB2(D.J.Ballance et al.,Gene,36,321-331,1985)、pAB4-1(van Hartingsveldt W et al.,Mol Gen Genet,206,71-75,1987)、pLeu4(M.I.G.Roncero et al.,Gene,84,335-343,1989)、pPyr225(C.D.Skory et al.,Mol Genet Genomics,268,397-406,2002)、pFG1(Gruber,F.et al.,Curr Genet,18,447-451,1990)等が挙げられる。
【0035】
また、本発明のポリペプチドをコードするポリヌクレオチドは、これを含むDNA断片として構築されていてもよい。該DNA断片としては、例えば、PCR増幅DNA断片及び制限酵素切断DNA断片が挙げられる。好ましくは、該DNA断片は、本発明のポリペプチドをコードするポリヌクレオチド、及びこれと作動可能に連結された制御領域を含む発現カセットであり得る。
【0036】
上記ベクター又はDNA断片に含まれる制御領域は、該ベクター又はDNA断片が導入された宿主細胞内で本発明のポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを発現させるための配列であり、例えばプロモーターやターミネーター等の発現調節領域、複製開始点等が挙げられる。該制御領域の種類は、ベクター又はDNA断片を導入する宿主微生物の種類に応じて適宜選択することができる。必要に応じて、該ベクター又はDNA断片はさらに、抗生物質耐性遺伝子、アミノ酸合成関連遺伝子等の選択マーカー(例えば、アンピシリン、ネオマイシン、カナマイシン、クロラムフェニコールなどの薬剤の耐性遺伝子)を有していてもよい。
上記ベクター又はDNA断片には、フラビンモノヌクレオチドプレニルトランスフェラーゼ(EC 2.5.1.129)をコードするポリヌクレオチド配列が含まれていてもよい。フラビンモノヌクレオチドプレニルトランスフェラーゼは、ジメチルアリル一リン酸(DMAP)からジメチルアリル構造をフラビンモノヌクレオチド(FMN)のフラビン骨格へと結合し、プレニル化フラビン型デカルボキシラーゼの活性中心を構成するプレニル化フラビンモノヌクレオチド(prFMN)を合成する反応を触媒する酵素である。 本酵素を菌体内において十分に発現させることで、目的とするプレニル化フラビン型デカルボキシラーゼが活性を十分に保持することを補助することができる。
【0037】
本発明のポリペプチドをコードするポリヌクレオチドと上記制御領域や、マーカー遺伝子配列との連結は、上述したSOE-PCR法などの方法によって行うことができる。ベクターへの遺伝子配列の導入手順は、当該分野で周知である。プロモーター領域、ターミネーター、分泌シグナル領域等の制御領域の種類は、特に限定されず、導入する宿主に応じて、通常使用されるプロモーターや分泌シグナル配列を適宜選択して用いることができる。
【0038】
該制御領域の好適な例としては、野生型に比較して発現を強化できる強制御領域、例えば公知の高発現プロモーターであるT7プロモーター、lacプロモーター、tacプロモーター、trpプロモーター等が例示されるが、これらに特に限定されない。
【0039】
<形質転換細胞>
本発明のポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを含むベクターを宿主へ導入するか、又は本発明のポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを含むDNA断片を宿主のゲノムに導入することにより、本発明の形質転換細胞を得ることができる。
斯かる形質転換細胞は、本発明のポリペプチドをコードするポリヌクレオチドが発現可能なように導入された細胞であり、当該ポリヌクレオチドの発現が強化された細胞、ひいては本発明のポリペプチドの発現が強化された細胞であると言える。
【0040】
宿主細胞としては、真菌、酵母、放線菌、大腸菌、枯草菌等、いずれを用いてもよいが、大腸菌、酵母、放線菌が好ましく、より好ましくは大腸菌及び放線菌のうちコリネ型細菌として定義されている一群の微生物(Bergey's Manual of Determinative Bacteriology、Vol. 8、599(1974))が挙げられる。コリネ型細菌としては、具体的には、コリネバクテリウム属菌、ブレビバクテリウム属菌、アースロバクター属菌、マイコバクテリウム属菌、ロドコッカス属菌、ストレプトマイセス属菌、マイクロコッカス属菌等が挙げられる。このうち、好ましくはコリネバクテリウム属菌(例えば、コリネバクテリウム グルタミカム(Corynebacterium glutamicum)、コリネバクテリウム エフィシェンス(Corynebacterium efficiens)、コリネバクテリウム アンモニアゲネス(Corynebacterium ammoniagenes)、コリネバクテリウム ハロトレランス(Corynebacterium halotolerance)、コリネバクテリウム アルカノリティカム(Corynebacterium alkanolyticum)、コリネバクテリウム クレナタム(Corynebacterium crenatum)、コリネバクテリウム クルジラクチス(Corynebacterium crudilactis)、コリネバクテリウム カルナエ(Corynebacterium callunae)等)であり、より好ましくはコリネバクテリウム・グルタミカムである。
【0041】
また、本発明の形質転換細胞又はその宿主細胞としては、フラビンモノヌクレオチドプレニルトランスフェラーゼをコードする遺伝子を保有しフラビンモノヌクレオチドプレニルトランスフェラーゼを発現する細胞、又は予めフラビンモノヌクレオチドプレニルトランスフェラーゼの発現が強化された細胞を用いてもよい。
【0042】
宿主へのベクター又はDNA断片の導入の方法としては、例えばエレクトロポレーション法、トランスフォーメーション法、トランスフェクション法、接合法、プロトプラスト法、パーティクル・ガン法、アグロバクテリウム法等を用いることができる。
【0043】
また、ポリヌクレオチドを宿主のゲノムに導入する方法としては、特に限定されないが、例えば、該ポリヌクレオチドを含むDNA断片を用いた2重交差法が挙げられる。該DNA断片は、上述する宿主細胞において発現量の多い遺伝子のプロモーター配列の下流に導入されてもよく、あるいは、予め該DNA断片と上述した制御領域とを作動可能に連結した断片を作製し、当該連結断片を宿主のゲノムに導入してもよい。さらに、該DNA断片は、本発明のポリヌクレオチドが適切に導入された細胞を選択するためのマーカー(薬剤耐性遺伝子や栄養要求性相補遺伝子など)と予め連結されていてもよい。
【0044】
目的のベクター又はDNA断片が導入された形質転換細胞は、選択マーカーを利用して選択することができる。例えば、選択マーカーが抗生物質耐性遺伝子である場合、該抗生物質添加培地で培養することで、目的のベクター又はDNA断片が導入された形質転換細胞を選択することができる。また例えば、選択マーカーがアミノ酸合成関連遺伝子である場合、該アミノ酸要求性の宿主微生物に遺伝子導入した後、該アミノ酸要求性の有無を指標に、目的のベクター又はDNA断片が導入された形質転換細胞を選択することができる。あるいは、PCR等によって形質転換細胞のDNA配列を調べることで目的のベクター又はDNA断片の導入を確認することもできる。
【0045】
斯くして得られた形質転換細胞は、これを適切な培地で培養すれば、当該細胞に導入されたポリヌクレオチドが発現して、本発明のポリペプチドが生成される。すなわち、当該形質転換細胞は、インドール-2-カルボン酸脱炭酸活性を有するポリペプチド産生菌となり得る。
そして、後述する実施例に示すとおり、インドール-2-カルボン酸の存在下で、本発明の形質転換細胞を培養した場合、親ポリペプチドを産生する形質転換細胞を用いた場合にはインドールが全く生産されないのに対し、インドールの生産が可能となる。
すなわち、配列番号2で示されるアミノ酸配列又はこれと少なくとも90%の同一性を有するアミノ酸配列からなるポリペプチドにおいて、配列番号2で示されるアミノ酸配列の322位若しくは322位に相当する位置におけるアミノ酸残基をアラニン、システイン、アスパラギン酸、グルタミン酸、フェニルアラニン、グリシン、イソロイシン、ロイシン、メチオニン、アスパラギン、プロリン、グルタミン、セリン、スレオニン、バリン又はチロシンに置換する変異は、インドール-2-カルボン酸に対する脱炭酸活性の付与に有用であり、次に示すように、当該変異ポリペプチドは、インドール-2-カルボン酸類からインドール類の生産に使用できる。
したがって、本発明の形質転換細胞は、インドール-2-カルボン酸類に対する脱炭酸活性が付与されたポリペプチドの産生菌であり、インドール-2-カルボン酸類からインドール類を生産するための有用なインドール類生産株であるといえる。
【0046】
<インドール類の製造>
本発明のインドール類の製造方法は、下記の一般式(1):
【0047】
【0048】
〔式中、R1及びR2は同一又は異なっていてもよく、水素原子、ヒドロキシ基、ハロゲン原子、炭素数1~3のアルキル基、炭素数1~3のアルコキシ基、カルボキシ基又はアミノ基を示す。〕
で表されるインドール-2-カルボン酸類を、本発明のポリペプチド又は本発明の形質転換細胞と接触させることにより、下記の一般式(2):
【0049】
【0050】
〔式中、R1及びR2は前記と同じものを示す。〕
で示されるインドール類を製造するものである。
【0051】
式(1)又は(2)において、R1、R2で示されるハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子が挙げられ、好ましくはフッ素原子、塩素原子、臭素原子である。
炭素数1~3のアルキル基としては、好ましくはメチル基、エチル基である。
炭素数1~3のアルコキシ基としては、好ましくはメトキシ基、エトキシ基である。
R1及びR2は、共に水素原子であるのが好ましい。
【0052】
インドール-2-カルボン酸類と本発明のポリペプチドとの接触は、インドール-2-カルボン酸類と当該ポリペプチドを水性媒体中に接触(共存)させ、撹拌又は振とうしながら一定時間加温することにより行うことができる。
例えば、インドール-2-カルボン酸類の濃度を0.1~10mM、好ましくは1~5mM、本発明のポリペプチドの濃度を0.1~5mg/ml、好ましくは1~5mg/mlとし、pH5~9、10℃~40℃で、6時間~72時間、好ましくは9時間~60時間、より好ましくは12時間~48時間接触させることが挙げられる。
【0053】
インドール-2-カルボン酸類と本発明の本発明の形質転換細胞との接触は、インドール-2-カルボン酸類を添加した培地で当該形質転換細胞を培養することにより行うことができる。
形質転換細胞を培養する培地は、炭素源、窒素源、無機塩類等を含有し、本発明の形質転換細胞の培養を効率的に行うことができる培地であれば、天然培地、合成培地のいずれを用いてもよい。炭素源としては、例えば、グルコース等の糖類、グリセリン等のポリオール類、エタノール等のアルコール類、またはピルビン酸、コハク酸もしくはクエン酸等の有機酸類を使用することができる。また、窒素源としては、例えば、ペプトン、肉エキス、酵母エキス、カゼイン加水分解物、大豆粕アルカリ抽出物、メチルアミン等のアルキルアミン類、またはアンモニアもしくはその塩等を使用することができる。その他、リン酸塩、炭酸塩、硫酸塩、マグネシウム、カルシウム、カリウム、鉄、マンガン、亜鉛等の塩類、特定のアミノ酸、特定のビタミン、消泡剤等も必要に応じて使用してもよい。
【0054】
培養は、通常、10℃~40℃で、6時間~72時間、好ましくは9時間~60時間、より好ましくは12時間~48時間、必要に応じ撹拌または振とうしながら行うことができる。また、培養中は必要に応じてアンピシリンやカナマイシン等の抗生物質を培地に添加してもよい。
【0055】
反応系からのインドール類の回収及び精製方法は特に制限されない。すなわち、周知のイオン交換樹脂法、沈澱法、晶析法、再結晶法、濃縮法その他の方法を組み合わせることにより実施できる。
例えば、形質転換細胞を用いた製造においては、菌体を遠心分離等で除去した後、カチオン及びアニオン交換樹脂でイオン性の物質を除き、濃縮すればインドール類を取得することができる。培養物中に蓄積されたインドール類は、そのまま単離することなく用いてもよい。
【0056】
本発明はまた、例示的実施形態として以下の物質、製造方法、用途、方法等を包含する。但し、本発明はこれらの実施形態に限定されない。
<1>配列番号2で示されるアミノ酸配列において、当該アミノ酸配列の322位におけるアミノ酸残基が下記のアミノ酸である、又は配列番号2で示されるアミノ酸配列と少なくとも90%の同一性を有するアミノ酸配列において、配列番号2で示されるアミノ酸配列の322位に相当する位置におけるアミノ酸残基が下記のアミノ酸である、インドール-2-カルボン酸脱炭酸活性を有するポリペプチド;
アラニン、システイン、アスパラギン酸、グルタミン酸、フェニルアラニン、グリシン、イソロイシン、ロイシン、メチオニン、アスパラギン、プロリン、グルタミン、セリン、スレオニン、バリン又はチロシン、好ましくはアラニン、システイン、アスパラギン酸、グルタミン酸、フェニルアラニン、グリシン、ロイシン、メチオニン、アスパラギン、セリン又はスレオニン。
<2>配列番号2で示されるアミノ酸配列において、当該アミノ酸配列の322位におけるアミノ酸残基を下記のアミノ酸に置換すること、又は配列番号2で示されるアミノ酸配列と少なくとも90%の同一性を有するアミノ酸配列において、配列番号2で示されるアミノ酸配列の322位に相当する位置におけるアミノ酸残基を下記のアミノ酸に置換することを含む、インドール-2-カルボン酸脱炭酸活性を有する変異ポリペプチドの製造方法;
アラニン、システイン、アスパラギン酸、グルタミン酸、フェニルアラニン、グリシン、イソロイシン、ロイシン、メチオニン、アスパラギン、プロリン、グルタミン、セリン、スレオニン、バリン又はチロシン、好ましくはアラニン、システイン、アスパラギン酸、グルタミン酸、フェニルアラニン、グリシン、ロイシン、メチオニン、アスパラギン、セリン又はスレオニン。
<3>配列番号2で示されるアミノ酸配列において、当該アミノ酸配列の322位におけるアミノ酸残基を下記のアミノ酸に置換すること、又は配列番号2で示されるアミノ酸配列と少なくとも90%の同一性を有するアミノ酸配列において、配列番号2で示されるアミノ酸配列の322位に相当する位置におけるアミノ酸残基を下記のアミノ酸に置換することを含む、インドール-2-カルボン酸に対する脱炭酸活性の付与方法;
アラニン、システイン、アスパラギン酸、グルタミン酸、フェニルアラニン、グリシン、イソロイシン、ロイシン、メチオニン、アスパラギン、プロリン、グルタミン、セリン、スレオニン、バリン又はチロシン、好ましくはアラニン、システイン、アスパラギン酸、グルタミン酸、フェニルアラニン、グリシン、ロイシン、メチオニン、アスパラギン、セリン又はスレオニン。
<4><1>のポリペプチドをコードするポリヌクレオチド。
<5><4>のポリヌクレオチドを含むベクター又はDNA断片。
<6>フラビンモノヌクレオチドプレニルトランスフェラーゼをコードするポリヌクレオチド配列をさらに含む、<5>のベクター又はDNA断片。
<7><5>又は<6>のベクター又はDNA断片を含有する形質転換細胞。
<8>前記形質転換細胞又はその宿主がフラビンモノヌクレオチドプレニルトランスフェラーゼをコードする遺伝子をさらに保有する、<7>の形質転換細胞。
<9>細胞が大腸菌、酵母又はコリネ型細菌である、<7>又は<8>の形質転換細胞。
<10>下記の一般式(1):
【0057】
【化5】
〔式中、R
1及びR
2は同一又は異なっていてもよく、水素原子、ヒドロキシ基、ハロゲン原子、炭素数1~3のアルキル基、炭素数1~3のアルコキシ基、カルボキシ基又はアミノ基を示す。〕
【0058】
で表されるインドール-2-カルボン酸類を、<1>のポリペプチド又は<7>~<9>のいずれかの形質転換細胞と接触させる工程を含む、下記の一般式(2):
【0059】
【化6】
〔式中、R
1及びR
2は前記と同じものを示す。〕
【0060】
で示されるインドール類の製造方法。
<11>一般式(1)及び(2)におけるR1及びR2が共に水素原子である、<10>の方法。
<12>インドール類を回収する工程を含む、<10>又は<11>の方法。
【実施例0061】
以下、実施例に基づき本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0062】
試験例1 インドールの生産
(1)デカルボキシラーゼをコードする遺伝子を含むプラスミドの作製
以下の実施例において、PCRはKOD One PCR Master Mix(東洋紡)を使用して行った。PCR産物に対してDpnI(タカラバイオ)処理を行った後、NucleoSpin Gel and PCR Clean-up(タカラバイオ)を用いてDNA断片を精製した。DNA断片の連結にはIn-Fusion HD Cloning Kit(タカラバイオ)を用いた。連結されたDNA断片を用いてECOS Competent E. coli JM109株(ニッポンジーン)を形質転換し、細胞液をLBAmp寒天培地(Difco LB Broth Lennox 20g/L、アンピシリンナトリウム 50μg/mL、寒天 1.5%)に塗布した後37℃で一晩静置し、得られたコロニーをTBAmp液体培地(Difco Terrific Broth 47.6 g/L、アンピシリンナトリウム 50μg/mL)750μLに接種し、37℃で一晩培養した。得られた菌体からNucleoSpin Plasmid EasyPure(タカラバイオ)を用いてプラスミドを調製した。得られたプラスミドのDNA配列解析はサンガー法により行った(ユーロフィンジェノミクス)。
【0063】
(a)野生型酵素をコードする遺伝子を含むプラスミドの作製
Pseudomonas aeruginosa由来デカルボキシラーゼ(PaHudA)をコードする遺伝子(配列番号1)を人工合成したDNAを鋳型に、プライマーPaHudA-ins-F(配列番号7、GAAGGAGATATACATATGAATCGGAGCGCGTTGGA)とPaHudA-ins-R(配列番号8、TGAATCAAACCTCCTTTAGGCGTCGCCAAAACCAT)を用いたPCRにてDNA断片を増幅した。また、枯草菌由来フラビンモノヌクレオチドプレニルトランスフェラーゼ(BsUbiX)をコードする遺伝子(配列番号5)を人工合成したDNAを鋳型に、プライマーBsUbiX-ins-F(配列番号11、AGGAGGTTTGATTCATGAAAGCCGAATTCAAACGC)とBsUbiX-ins-R(配列番号12、GTGGTGGTGGTGGTGTTACGCTCCACCTTTCTGTT)を用いたPCRにてDNA断片を増幅した。これらのPCR産物を、pET21ベクターを鋳型にプライマーpET-vec-F(配列番号13、CACCACCACCACCACCACTGAGATC)とpET-vec-R(配列番号14、ATGTATATCTCCTTCTTAAAGTTAAACAAAATTAT)を用いたPCRにて増幅したDNA断片と連結することでプラスミドpET21a-PaHudA-BsUbiXを得た。同様に、Aspergillus niger由来デカルボキシラーゼ(AnFDC1)をコードする遺伝子(配列番号3)を人工合成したDNAを鋳型に、プライマーAnFDC1-ins-F(配列番号9、GAAGGAGATATACATATGTCAGCACAACCAGCGCA)とAnFDC1-ins-R(配列番号10、TGAATCAAACCTCCTTTAATTCGAGAACCCCATTT)を用いたPCRにてDNA断片を増幅した。また、BsUbiXをコードする遺伝子を人工合成したDNAを鋳型に、プライマーBsUbiX-ins-F(配列番号11、AGGAGGTTTGATTCATGAAAGCCGAATTCAAACGC)とBsUbiX-ins-R(配列番号12、GTGGTGGTGGTGGTGTTACGCTCCACCTTTCTGTT)を用いたPCRにてDNA断片を増幅した。これらのPCR産物を、pET21ベクターを鋳型にプライマーpET-vec-F(配列番号13、CACCACCACCACCACCACTGAGATC)とpET-vec-R(配列番号14、ATGTATATCTCCTTCTTAAAGTTAAACAAAATTAT)を用いたPCRにて増幅したDNA断片と連結することでプラスミドpET21a-AnFDC1-BsUbiXを得た。
【0064】
(b)変異型酵素をコードする遺伝子を含むプラスミドの作製
プラスミドpET21a-PaHudA-BsUbiXを鋳型として、相補的プライマーPaHudA-W322A-F(配列番号15、ACGATTGCAGGAACTATGATCTCAGCC)、PaHudA-W322A-R(配列番号16、AGTTCCTGCAATCGTGTGGTTCTCTTC)を用いたPCRにてプラスミドpET21a-PaHudA(W322A)-BsUbiXを構築した。同様に、プライマーPaHudA-W322A-FおよびPaHudA-W322A-Rに代えて表1の「プライマー」に示すプライマーを用いたPCRにて各酵素変異体をコードする遺伝子を含むプラスミドを得た。
【0065】
【0066】
(2)インドールの生産
上記で得られた各プラスミドを用いてECOS competent cell BL21(DE3)(ニッポン・ジーン)を形質転換し、得られた形質転換細胞液をLBAmp寒天培地に塗布した後、37℃で終夜静置し、得られたコロニーを試験株とした。また、同様にpET21aベクターを形質転換して得られたコロニーを対照株とした。得られた菌株をそれぞれTBAmpIC培地(1Lあたり:Overnight Express TB medium(メルク) 60g,グリセリン10mL,アンピシリンナトリウム 50μg,インドール-2-カルボン酸 0.5g)750μLに接種し、30℃で40時間培養した。培養後の上清50μLを0.1%リン酸水溶液250μLと混合し、アクロプレップ96フィルタープレート(0.2μm,WWPTFE膜、日本ポール)を用いて不溶物の除去を行い高速液体クロマトグラフィー(HPLC)に供した。HPLCの装置は、Chromaster(日立ハイテクサイエンス)を用いた。分析カラムには、L-カラム ODS(4.6mm I.D.×150mm、化学物質評価研究機構)を用い、溶離液Aを0.1M リン酸二水素カリウムの0.1%リン酸溶液、溶離液Bを70%メタノールとし、流速1.0mL/分、カラム温度40℃の条件にてグラジエント溶出を行なった。インドール-2-カルボン酸およびインドールの検出にはUV検出器(検出波長280nm)を用い、濃度検量線を用いて定量した。試験株のインドール生産能は下記式(数1)に従い算出した。
【0067】
(数1)
試験株のインドール生産能=試験株の培養上清中のインドール量(mol)/対照株の培養上清中のインドール-2-カルボン酸量(mol)
【0068】
(2)結果
表2に示す通り、PaHudAのW322位がアラニン(A)、システイン(C)、アスパラギン酸(D)、グルタミン酸(E)、フェニルアラニン(F)、グリシン(G)、イソロイシン(I)、ロイシン(L)、メチオニン(M)、アスパラギン(N)、プロリン(P)、グルタミン(Q)、セリン(S)、スレオニン(T)、バリン(V)、チロシン(Y)に置換された酵素を発現する菌株は、AnFDC1のI327位がセリン(S)に置換された酵素を発現する菌株よりも高いインドール生産能を示した。
【0069】
配列番号2で示されるアミノ酸配列において、当該アミノ酸配列の322位におけるアミノ酸残基が下記のアミノ酸である、又は配列番号2で示されるアミノ酸配列と少なくとも90%の同一性を有するアミノ酸配列において、配列番号2で示されるアミノ酸配列の322位に相当する位置におけるアミノ酸残基が下記のアミノ酸である、インドール-2-カルボン酸脱炭酸活性を有するポリペプチド;
アラニン、システイン、アスパラギン酸、グルタミン酸、フェニルアラニン、グリシン、イソロイシン、ロイシン、メチオニン、アスパラギン、プロリン、グルタミン、セリン、スレオニン、バリン又はチロシン。
配列番号2で示されるアミノ酸配列において、当該アミノ酸配列の322位におけるアミノ酸残基を下記のアミノ酸に置換すること、又は配列番号2で示されるアミノ酸配列と少なくとも90%の同一性を有するアミノ酸配列において、配列番号2で示されるアミノ酸配列の322位に相当する位置におけるアミノ酸残基を下記のアミノ酸に置換することを含む、インドール-2-カルボン酸脱炭酸活性を有する変異ポリペプチドの製造方法;
アラニン、システイン、アスパラギン酸、グルタミン酸、フェニルアラニン、グリシン、イソロイシン、ロイシン、メチオニン、アスパラギン、プロリン、グルタミン、セリン、スレオニン、バリン又はチロシン。
配列番号2で示されるアミノ酸配列において、当該アミノ酸配列の322位におけるアミノ酸残基を下記のアミノ酸に置換すること、又は配列番号2で示されるアミノ酸配列と少なくとも90%の同一性を有するアミノ酸配列において、配列番号2で示されるアミノ酸配列の322位に相当する位置におけるアミノ酸残基を下記のアミノ酸に置換することを含む、インドール-2-カルボン酸に対する脱炭酸活性の付与方法;
アラニン、システイン、アスパラギン酸、グルタミン酸、フェニルアラニン、グリシン、イソロイシン、ロイシン、メチオニン、アスパラギン、プロリン、グルタミン、セリン、スレオニン、バリン又はチロシン。