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特開2024-9531新規ポリペプチド、新規ポリヌクレオチド及びそれらの用途
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024009531
(43)【公開日】2024-01-23
(54)【発明の名称】新規ポリペプチド、新規ポリヌクレオチド及びそれらの用途
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/31 20060101AFI20240116BHJP
   C07K 14/37 20060101ALI20240116BHJP
   C12N 15/63 20060101ALI20240116BHJP
   A01N 63/30 20200101ALI20240116BHJP
   A01N 63/50 20200101ALI20240116BHJP
   A01P 3/00 20060101ALI20240116BHJP
【FI】
C12N15/31
C07K14/37 ZNA
C12N15/63 Z
A01N63/30
A01N63/50
A01P3/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022111133
(22)【出願日】2022-07-11
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TWEEN
(71)【出願人】
【識別番号】516357373
【氏名又は名称】原 富次郎
(71)【出願人】
【識別番号】522278578
【氏名又は名称】株式会社ワンネス
(74)【代理人】
【識別番号】110002697
【氏名又は名称】めぶき弁理士法人
(74)【代理人】
【識別番号】100110973
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 洋
(74)【代理人】
【識別番号】100116528
【弁理士】
【氏名又は名称】三宅 俊男
(72)【発明者】
【氏名】原 富次郎
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼塚 由美子
(72)【発明者】
【氏名】山岸 純一
(72)【発明者】
【氏名】横田 健治
(72)【発明者】
【氏名】志波 優
【テーマコード(参考)】
4H011
4H045
【Fターム(参考)】
4H011AA01
4H011BB19
4H011BB21
4H011DH11
4H045AA10
4H045AA20
4H045AA30
4H045BA10
4H045CA15
4H045DA83
4H045EA06
4H045FA20
4H045FA33
4H045FA72
4H045FA74
(57)【要約】
【課題】リゾクトニア・ソラニの分泌物質から、新規な抗糸状菌活性を有する物質を探索する。
【解決手段】配列番号1で表されるアミノ酸配列を有するポリペプチド又は前記アミノ酸配列において1又は数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列を有し、かつ抗糸状菌活性を有するポリペプチドを提供する。
【選択図】図13



【特許請求の範囲】
【請求項1】
配列番号1で表されるアミノ酸配列を有するポリペプチド又は前記アミノ酸配列において1又は数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列を有し、かつ抗糸状菌活性を有するポリペプチド。
【請求項2】
配列番号1で表されるアミノ酸配列を有するポリペプチド又は前記アミノ酸配列と配列同一性70%以上のアミノ酸配列を有し、かつ抗糸状菌活性を有するポリペプチド。
【請求項3】
配列番号2で表される塩基配列の155~418番目の塩基配列を有するポリヌクレオチド又は前記ポリヌクレオチドと配列同一性70%以上の塩基配列を有し、かつ抗糸状菌活性を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチド。
【請求項4】
請求項3に記載のポリヌクレオチドを含む発現ベクター。
【請求項5】
請求項1又は2に記載のポリペプチドの誘導体又は修飾体。
【請求項6】
請求項1又は2に記載のポリペプチド又はその誘導体若しくはその修飾体を含む植物伝染性糸状菌類防除用組成物。
【請求項7】
請求項1又は2に記載のポリペプチド又はその誘導体若しくはその修飾体を含む農薬。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規ポリペプチド、新規ポリヌクレオチド及びそれらの用途に関する。
【背景技術】
【0002】
リゾクトニア属菌は、その中にイネの紋枯病菌、ジャガイモの黒あざ病菌など多くの植物病原菌があることから、古くから注目をあび、これまでに百数十種類のリゾクトニアの種が報告されている。リゾクトニア・ソラニ(Rhizoctonia solani)は、ふすま培地で増殖する際に、エンド型β-1,3-グルカナーゼやプロテアーゼなどの加水分解酵素群を分泌し、これらが酵母の細胞壁を溶解することが一般的に知られる(非特許文献1~3参照)。
【0003】
一方、このリゾクトニア・ソラニの分泌物質は、水稲伝染性糸状菌の菌糸生長阻害性や分生子形成阻害性も示すことが、報告されており(例えば、特許文献1参照)、詳細には、リゾクトニア・ソラニD138株から分泌されるβ-1,3-グルカナーゼはエキソ型も含み、あるいはエンド型、エキソ型も含む両特性が、水稲伝染性糸状菌の生育阻害性を示すことが強調して述べられている。従って、リゾクトニア・ソラニ又はその培養物は、微生物、特に糸状菌による植物伝染病害を防除しうることが示唆されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Totani K,Harumiya S,Nanjo F,et al.,Substrate affinity chromatography of β-1,3-glucanase from Basidiomycetes species,Agric. Biol. Chem.,47(5),1159-1162,1982
【非特許文献2】Usui T,Oguchi M,Purification of a protease from Rhizoctonia solani lysing yeast cell walls,Agric. Biol. Chem.,50(2),535-537,1986
【非特許文献3】Totsuka A,Usui T,Separation and characterrization of the endo-β-(1->3)-D-glucanase from Rhizoctonia solani,Agric.Biol.Chem.,50(3),543-550,1986
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2021-20864号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、リゾクトニア・ソラニの分泌物質から、新規な抗糸状菌活性を有する物質を探索することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
このような経緯を踏まえ、リゾクトニア・ソラニの分泌物質から、エキソ型やエンド型のβ-1,3-グルカナーゼ、あるいはグルカナーゼと同様な細胞膜溶解性を示すことが知られるプロテアーゼ、他の加水分解酵素類の調査・取得を目的に精製を行ったところ、以下に述べる糸状菌の菌糸生長阻害性を示す、分子量約10kDaの新規なポリペプチドを取得するに至った。すなわち、本発明は以下の実施形態を含む。
【0008】
(1)配列番号1で表されるアミノ酸配列を有するポリペプチド又は前記アミノ酸配列において1又は数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列を有し、かつ抗糸状菌活性を有するポリペプチド。
(2)配列番号1で表されるアミノ酸配列を有するポリペプチド又は前記アミノ酸配列と配列同一性70%以上のアミノ酸配列を有し、かつ抗糸状菌活性を有するポリペプチド。
(3)配列番号2で表される塩基配列の155~418番目の塩基配列を有するポリヌクレオチド又は前記ポリヌクレオチドと配列同一性70%以上の塩基配列を有し、かつ抗糸状菌活性を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチド。
(4)(3)に記載のポリヌクレオチドを含む発現ベクター。
(5)(1)又は(2)に記載のポリペプチドの誘導体又は修飾体。
(6)(1)又は(2)に記載のポリペプチド又はその誘導体若しくはその修飾体を含む植物伝染性糸状菌類防除用組成物。
(7)(1)又は(2)に記載のポリペプチド又はその誘導体若しくはその修飾体を含む農薬。
【発明の効果】
【0009】
本発明のポリペプチド及びポリヌクレオチドは、新規な抗糸状菌活性を有する物質として使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1図1は、リゾクトニア・ソラニ由来の分泌物質試料をCMカラムクロマトグラフィーにより分画したときのクロマトグラムである。
図2図2は、CMカラムクロマトグラフィーにより分画した画分F35~F40について、アガー・ウェル法による糸状菌の菌糸成長阻害性を評価した結果である。
図3図3は、CMカラムクロマトグラフィーによる分画画分をSDS-PAGEにより分析した結果である。
図4図4は、CMカラムクロマトグラフィーによる分画画分F37とF38をさらにSPカラムクロマトグラフィーで分画したときのクロマトグラムである。
図5図5は、SPカラムクロマトグラフィーによる分画画分を、アガー・ウェル法による糸状菌の菌糸成長阻害性を評価した結果である。
図6図6は、SPカラムクロマトグラフィーによる分画画分を、SDS-PAGEにより分析した結果である。
図7図7は、SPカラムクロマトグラフィーによる分画画分を、Capto HiRes Sカラムクロマトグラフィーにより分画したときのクロマトグラムである。
図8図8は、Capto HiRes Sカラムクロマトグラフィーにより溶出した画分をアガー・ウェル法による糸状菌の菌糸成長阻害性を評価した結果である。
図9図9は、Capto HiRes Sカラムクロマトグラフィーにより溶出した画分をSDS-PAGEにより分析した結果である。
図10図10は、10kDa抗糸状菌ポリペプチドのcDNA及びアミノ酸配列である。
図11図11は、10kDa抗糸状菌ポリペプチド発現ベクターのインサート及びその周辺配列である。
図12図12は、大腸菌で発現させた組換えタンパク質のSDS-PAGEによる分析結果である。
図13図13は、大腸菌で発現させた組換えタンパク質の糸状菌生育阻害活性をアガー・ウェル法により測定した結果である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
次に、本発明の各実施形態について、図面を参照して説明する。なお、以下に説明する各実施形態は、特許請求の範囲に係る発明を限定するものではなく、また、各実施形態の中で説明されている諸要素及びその組み合わせの全てが本発明の解決手段に必須であるとは限らない。
【0012】
(新規ポリペプチド)
本発明の一実施形態に係るポリペプチドは、以下のアミノ酸配列を有する。なお、特定のアミノ酸配列等を「有する(having)」ポリペプチドとは、当該アミノ酸配列等「からなる(consisting of)」ポリペプチド、及び当該アミノ酸配列等を「含む(comprising)」ポリペプチドを含む。また、本明細書において、ペプチド標記の慣例に従って左端がN末端(アミノ末端)、右端がC末端(カルボキシ末端)である。
【0013】
N末端側 ETSYGNPDLVTDQGNRFKLNFGSTDGHPNACPGHYICYISKNGAQHGDVSLGNPDDFVDEGNRWRLNYGSTDGHPNACPGHYICYISK(配列番号1)
【0014】
本実施形態に係るポリペプチドは、配列番号1で表されるアミノ酸配列において、1~数個のアミノ酸が欠失、付加、及び/又は置換された相同性を有するポリペプチドであっても、抗糸状菌活性を有するものは包含する。本明細書において、「1~数個のアミノ酸が欠失、付加、及び/又は置換されているポリペプチド」という場合、それらのアミノ酸の個数は、そのポリペプチドが抗糸状菌活性を有する限りは特に限定されないが、好ましくは1~10個、より好ましくは1~5個、さらに好ましくは1個、2個若しくは3個である。欠失、付加、及び/又は置換されている場所は、ペプチドの末端であっても、中間であってもよく、1ヶ所であっても2ヶ所以上であってもよい。
【0015】
本明細書において、「抗糸状菌活性」とは糸状菌に対する静菌活性及び殺菌活性のいずれであってもよい。例えば、糸状菌の菌糸の伸長阻害又は抑制、糸状菌の分生子形成阻害又は抑制、及び糸状菌の菌糸体の形成阻害又は抑制等のいずれを意味してもよい。本明細書において、糸状菌とは、真菌門または変形菌門に属する真核生物で、真菌門には担子菌亜門、子嚢菌亜門、不完全菌亜門、接合菌亜門及び鞭毛菌亜門(卵菌類)が含まれ、細胞壁はキチン・グルカンまたはセルロース・グルカンからなり、糸状、分岐を持つ栄養体を形成し、胞子を形成する顕微鏡的大きさの微生物である。
【0016】
このような上記アミノ酸配列において1~数個のアミノ酸が欠失、付加、及び/又は置換されたアミノ酸配列として、上記アミノ酸配列と、BLAST(Basic Local Alignment Search Tool at the National Center for Biological Information(米国国立生物学情報センターの基本ローカルアラインメント検索ツール))等(例えば、デフォルトすなわち初期設定のパラメータを用いて)を用いて計算したときに、少なくとも50%以上、好ましくは70%以上、さらに好ましくは80%以上、特に好ましくは90%以上の同一性を有しているものが挙げられる。
【0017】
本実施形態に係るポリペプチドは、本発明の課題を解決するものである限り、その種々の誘導体、及び/又は修飾体も包含する。ポリペプチドの誘導体とは、アミノ酸置換、欠失、又は挿入により変化したアミノ酸配列を有するポリペプチド、糖鎖付加、糖鎖欠失、非天然アミノ酸挿入、リング挿入、メチル残基のような化学的修飾、タンパク質分解断片並びに欠失断片を含む。これらのポリペプチド誘導体は、天然に存在することができ、又は天然に存在しなくてもよい。天然に存在しない誘導体は、当技術分野で公知の突然変異誘発技術を使用して産生することができる。ポリペプチド誘導体は、官能側鎖基の反応により化学的に誘導体化された1つ以上の残基を有するポリペプチドを含む。同様に、20個の標準アミノ酸の1つ以上の天然に存在するアミノ酸誘導体を含有するそれらのペプチドも、「誘導体」に含まれる。例えば、4-ヒドロキシプロリンをプロリンの代わりに使用することができ、5-ヒドロキシリジンをリジンの代わりに使用することができ、3-メチルヒスチジンをヒスチジンの代わりに使用することができ、ホモセリンをセリンの代わりに使用することができ、及びオルニチンをリジンの代わりに使用することができる。
【0018】
修飾体とは、本実施形態のポリペプチドに、化学的又は生物学的な修飾が施されてなるものを意味する。化学的な修飾体には、アミノ酸骨格への化学部分の結合、N-結合またはO-結合糖鎖の化学修飾体等が含まれる。化学的修飾体に含まれる化学部分としては、ポリエチレングリコール、エチレングリコール/プロピレングリコールコポリマー、カルボキシメチルセルロース、デキストラン、ポリビニルアルコール等の水溶性ポリマーを例示することができる。生物学的な修飾体には、翻訳後修飾(例えば、N-結合またはO-結合への糖鎖付加、N末またはC末のプロセッシング、脱アミド化、アスパラギン酸の異性化、メチオニンの酸化)されたもの、原核生物宿主細胞を用いて発現させることによりN末にメチオニン残基が付加したもの、遺伝子組換えによりタグ等他のペプチドが付加された融合体等が含まれる。また、酵素標識体、蛍光標識体、アフィニティ標識体もかかる修飾物の意味に含まれる。
【0019】
本実施形態に係るポリペプチドの製造は、種々の宿主生物および宿主細胞中においての好適な核酸コンストラクトの異種発現によりなされてもよい。必要な遺伝子操作の方法は、Sambrook and Russell 2001 Molecular Cloning:A Laboratory Manual,Cold Spring Harbor Laboratory Press,NJに記載されている。原核生物のシステム(例えば、大腸菌)又は真核生物のシステム(例えば、昆虫細胞、植物細胞、または哺乳動物細胞)を用いることができる。
【0020】
あるいは本実施形態に係るポリペプチドは、化学的ペプチド合成法によって製造することができる。これは、例えばB.Merrifieldに従う公知の固相法の使用を含み得る。合成は、FmocまたはBoc保護基戦略を用いて、自動ペプチド合成装置の助けを借りるかまたは手作業で行われ得る。より小さな断片を後から繋ぎ合わせることでポリペプチドを合成することができる。
【0021】
(新規ポリヌクレオチド)
本発明の別の実施形態に係るポリヌクレオチドは、以下の塩基配列において、155~418番目の塩基配列(下線を付した)を有する。
5’-ATCCAACAGATCTCGTCTCAAGCTCACTTTCCAAGCACACACCAACTCAGCCATGTTTTCCTCTGCTCATCTCGCTTTCTTTGCTGCTGCTGCTGCCGCTCTTGTTGCTGCAAGCCCTGTCACTGAGCTCGAAGGACAGACTCTTGCCAAGCGCGAGACGTCATACGGCAATCCCGACTTGGTAACTGACCAGGGCAATCGCTTCAAGCTCAACTTTGGCAGCACCGACGGCCACCCGAACGCGTGTCCCGGACACTACATCTGCTACATCTCAAAGAACGGAGCCCAACATGGCGACGTCTCTCTCGGCAATCCCGACGACTTTGTAGATGAGGGCAACCGTTGGCGCCTGAACTATGGTAGCACCGATGGACACCCGAACGCCTGCCCTGGACACTACATCTGCTATATCAGCAAGTGAACTTATCAACTTAACTCGTCATTTCCCGCAGTTTCCTTTATGTTTGTATTACTTCTCAGTTAAATCAACCATAGGAAATATAGCTATCTTTAACACCAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA-3’(配列番号2)
【0022】
一実施形態では、配列番号2で表される塩基配列の155~418番目の塩基配列を有するポリヌクレオチドは、配列番号2で表される塩基配列の155~418番目の塩基配列と所定の配列同一性を有する塩基配列を有するポリヌクレオチドであり得る。塩基配列の同一性の程度は、約70%以上、好ましくは約90%以上、より好ましくは約95%以上、さらにより好ましくは約96%以上、最も好ましくは約97%以上、約98%以上又は約99%以上であり得る。塩基配列同一性は自体公知の方法により決定できる。例えば、塩基配列同一性(%)は、上述したアミノ酸配列同一性(%)と同様の方法により決定できる。
【0023】
別の実施形態では、上記ポリヌクレオチドは、配列番号2で表される塩基配列の155~418番目の塩基配列において1以上のヌクレオチドが置換、付加、欠失及び挿入から選ばれる1以上の修飾を施された塩基配列であり得る。修飾されるヌクレオチドの数は、1以上であれば特に限定されないが、例えば1~約100個、好ましくは1~約70個、より好ましくは1~約50個、さらにより好ましくは1~約30個、最も好ましくは1~約20個、1~約10個又は1~約5個(例、1個又は2個)であり得る。
【0024】
さらに別の実施形態では、上記ポリヌクレオチドは、配列番号2で表される塩基配列の155~418番目の塩基配列に対してハイストリンジェント条件下でハイブリダイズし得るポリヌクレオチドであり得る。ハイストリンジェント条件下でのハイブリダイゼーションの条件は、既報の条件を参考に設定することができる(例、Current Protocols in Molecular Biology, John Wiley & Sons, 6.3.1-6.3.6 (1999)参照)。例えば、ハイストリンジェント条件下でのハイブリダイゼーションの条件としては、6×SSC(sodium chloride/sodium citrate)/45℃でのハイブリダイゼーション、次いで0.2×SSC/0.1%SDS/50~65℃での1回又は2回以上の洗浄が挙げられる。
【0025】
本実施形態のポリヌクレオチドは、本実施形態のポリペプチドをコードし得る。従って、本実施形態のポリヌクレオチドは、それによりコードされるポリペプチドが本実施形態のポリペプチドと同様の機能を示し得るようなポリヌクレオチドであり得る。
【0026】
(発現ベクター)
本発明の一実施形態に係る発現ベクターは、発現されるべき目的ポリペプチドをコードするポリヌクレオチド又は発現されるべき目的ポリヌクレオチド、及び当該ポリヌクレオチドに機能的に連結されたプロモーターを含み得る。「プロモーターがポリヌクレオチドに機能的に連結されている」とは、プロモーターが、その制御下にあるポリヌクレオチド自体の発現又はポリヌクレオチドによりコードされるポリペプチドの発現を可能とするように、該遺伝子をコードするポリヌクレオチドに結合していることを意味する。
【0027】
本実施形態の発現ベクターのバックボーンとしては、所定の細胞で目的の物質を産生できるものであれば特に制限されないが、例えば、プラスミドベクター、ウイルスベクターが挙げられる。発現ベクターを医薬として用いる場合、哺乳動物への投与に好適なベクターとしては、アデノウイルス、レトロウイルス、アデノ随伴ウイルス、ヘルペスウイルス、ワクシニアウイルス、ポックスウイルス、ポリオウイルス、シンドビスウイルス、センダイウイルス等のウイルスベクターが挙げられる。
【0028】
宿主細胞として原核生物細胞を用いる場合、原核生物細胞を宿主細胞として利用可能な発現ベクターが用いられ得る。このような発現ベクターは、例えば、プロモーター-オペレーター領域、開始コドン、本実施形態のポリペプチド又はその部分ペプチドをコードするポリヌクレオチド、終止コドン、ターミネーター領域、複製起点等のエレメントを含み得る。細菌中で本発明のポリペプチドを発現させるためのプロモーター-オペレーター領域は、プロモーター、オペレーター及びShine-Dalgarno(SD)配列を含むものである。これらのエレメントについては、自体公知のものを用いることができる。
【0029】
また、宿主細胞として真核生物細胞を用いる場合、真核生物細胞を宿主細胞として利用可能な発現ベクターが用いられ得る。この場合、使用されるプロモーターは、哺乳動物等の真核生物で機能し得るものであれば特に制限されない。ポリペプチドの発現を目的とする場合、このようなプロモーターとしては、例えば、SV40由来初期プロモーター、サイトメガロウイルスLTR、ラウス肉腫ウイルスLTR、MoMuLV由来LTR、アデノウイルス由来初期プロモーター等のウイルスプロモーター、並びにβ-アクチン遺伝子プロモーター、PGK遺伝子プロモーター、トランスフェリン遺伝子プロモーター等の哺乳動物の構成タンパク質遺伝子プロモーターなどが挙げられる。ポリヌクレオチドの発現を目的とする場合、プロモーターは、polIIIプロモーター(例、tRNAプロモーター、U6プロモーター、H1プロモーター)であり得る。
【0030】
本発明の発現ベクターはさらに、転写開始及び転写終結のための部位、及び転写領域において翻訳に必要とされ得るリボソーム結合部位、複製起点並びに選択マーカー遺伝子(例、アンピシリン、テトラサイクリン、カナマイシン、スペクチノマイシン、エリスロマイシン、クロラムフェニコール)などを含み得る。本発明の発現ベクターは、自体公知の方法により作製できる(例えば、上掲のMolecular Cloningなど参照)。
【0031】
(植物伝染性糸状菌類防除用組成物)
本実施形態の植物伝染性糸状菌類防除用組成物(以下、「本実施形態の組成物」という。)は、上記ポリペプチド又はその誘導体若しくはその修飾体を含むことを特徴とする。本実施形態の組成物は、常法に従って、製造することができる。すなわち、本実施形態の組成物は、有効成分として上記ポリペプチド又はその誘導体若しくはその修飾体の少なくとも1種を含む限り、他の有効成分を含むことができる。さらに、担体を混合して用いることができ、必要に応じて、例えば、界面活性剤、湿潤剤、固着剤、増粘剤、防菌防黴剤、着色剤、安定剤などの製剤用補助剤を添加して、常法に従って、適時、例えば、粒剤、水和剤、フロアブル剤、顆粒水和剤、粉剤、乳剤などに製剤化することができる。
【0032】
本実施形態の組成物における有効成分の含有量は、通常、重量比で、0.005~99%の範囲であり、好ましくは、0.1~90%の範囲であり、さらに好ましくは、0.3~80%の範囲である。本実施形態の組成物における有効成分の含有量は、製剤形態によっても異なり、適宜選択されるが、通常、粉剤では、0.01~30重量%であり、水和剤では、0.1~80重量%であり、粒剤では、0.5~25重量%であり、乳剤では、2~50重量%であり、フロアブル製剤では、1~50重量%であり、ドライフロアブル製剤では、1~80重量%である。
【0033】
本実施形態の組成物は、例えば、種々の糸状菌に由来する植物病害に対して有効であり、好ましくは、植物伝染性糸状菌類の防除に有効である。以下に、本実施形態の組成物が防除対象とする具体的病害を例示すると、例えば、イネいもち病(Pyricularia oryzae)、紋枯病(Thanatephorus cucumeris)、ごま葉枯病(Cochliobolus miyabeanus)、馬鹿苗病(Gibberella fujikuroi);ムギ類のうどんこ病(Erysiphe graminis)、さび病(Puccinia striiformis)、斑葉病(Pyrenophora graminea)、網斑病(Pyrenophora teres);トウモロコシ赤かび病(Fusarium graminearumなど)、苗立枯病(Fusarium avenaceum)、ごま葉枯病(Cochliobolus heterostrophus)、黒穂病(Ustilago maydis);ナシの黒斑病(Alternaria alternata)、黒星病(Venturia nashicola)、赤星病(Gymnosporangium haraeanum);モモ黒星病(Cladosporium carpophilum)、フォモプシス腐敗病(Phomopsis sp.)、疫病(Phytophthora sp.);オウトウ炭疽病(Glomerella cingulata)、幼果菌核病(Monilinia kusanoi)、灰星病(Monilinia fructicola);カキ炭疽病(Gloeosporium kaki)、落葉病(Cercospora kaki)、うどんこ病(Phyllactinia kakikora);カンキツ黒点病(Diaporthe citri)、緑かび病(Penicillium digitatum)、青かび病(Penicillium italicum);トマト、キュウリ、豆類、イチゴ、ジャガイモ、キャベツ、ナス、レタスなどの灰色かび病(Botrytis cinerea);トマト、キュウリ、豆類、イチゴ、ジャガイモ、ナタネ、キャベツ、ナス、レタスなどの菌核病(Sclerotinia sclerotiorum);トマト、キュウリ、豆類、ダイコン、スイカ、ナス、ナタネ、ピーマン、ホウレンソウ、テンサイなど各種野菜の苗立枯病(Rhizoctonia spp.);ウリ類のべと病(Pseudoperonospora cubensis)、キュウリうどんこ病(Sphaerotheca cucurbitae);トマト輪紋病(Alternaria solani)、葉かび病(Cladosporium fulvam)、トマトうどんこ病(Oidium neolycopersici);キャベツ株腐病(Rhizoctonia solani)、萎黄病(Fusarium oxysporum);ハクサイ尻腐病(Rhizoctonia solani)、黄化病(Verticillium dahlie);ネギさび病(Puccinia allii)、黒斑病(Alternaria porri);ダイズ紫斑病(Cercospora kikuchii)、黒とう病(Elsinoe glycinnes)、黒点病(Diaporthe phaseololum)などが挙げられるがこれらに限定されない。
【0034】
(農薬)
本実施形態の農薬は、前述のように、上記ポリペプチド又はその誘導体若しくはその修飾体を含むことを特徴とする。本実施形態の農薬によれば、例えば、微生物による植物伝染病害を防除できる。本発明の農薬は、上記植物伝染性糸状菌類防除用組成物の説明を援用できる。
【0035】
本実施形態の農薬の剤形は、特に制限されず、例えば、散剤、細粒剤、顆粒剤、等の固形剤、液剤、乳剤等があげられる。本実施形態の農薬は、例えば、公知の農薬を含んでもよい。前記公知の農薬は、例えば、生物学的農薬、化学的農薬でもよい。前記生物学的農薬は、例えば、抗菌活性、殺虫活性、殺菌活性、除草活性、植物成長調節活性、昆虫忌避活性等の活性を有する微生物(例えば、細菌、真菌)を含む農薬である。また、前記化学的農薬は、例えば、抗菌物質、殺虫物質、殺菌物質、除草物質、植物成長調節物質、昆虫忌避物質等があげられる。
【0036】
前記農薬の使用対象は、特に制限されないが、例えば、植物、前記植物を栽培する土壌、水等の培地があげられる。前記植物は、例えば、イネ等のイネ科植物等があげられ、水稲が好ましい。前記農薬を前記植物に使用する場合、前記植物において前記農薬を接触させる位置は、特に制限されず、前記植物個体全体でもよいし、前記植物個体の部分でもよい。前記植物個体の部分は、例えば、器官、組織、細胞または栄養繁殖体等があげられ、いずれでもよい。前記器官は、例えば、花弁、花冠、花、葉、種子、果実、茎、根等があげられる。具体例として、前記使用対象は、例えば、イネの種子(種もみ)、苗等があげられる。前記農薬を使用する際の植物の成長状態は、特に制限されず、例えば、種子でもよいし、苗でもよいし、成長体でもよい。
【0037】
前記農薬の使用量および使用回数は、特に制限されず、例えば、前記使用対象に応じて適宜設定できる。本実施形態の農薬は、例えば、一般的な使用方法により、使用できる。前記使用方法は、例えば、前記農薬を手で直接散布する方法、背負い式散粒機、パイプ散粒機、空中散粒機、動力散粒機、育苗箱用散粒機、多口ホース散粒機、田植え機等に付設した散粒機等の散粒機を用いて散粒する方法等があげられる。また、本発明の農薬が液剤の場合、前記農薬は、例えば、背負い式散布機、動力散布機、スプリンクラー、トラクター等に搭載される型の散布機、多口ホース散布機等の散布機を用いて散布できる。
【0038】
本発明の農薬の使用場所は、特に制限されず、例えば、水田、乾田、育苗箱、畑地、果樹園、桑畑、温室、露地等の農耕地等に使用できる。
【0039】
本発明の農薬をイネに使用する場合について、例をあげて説明する。本発明の農薬をイネに使用する場合、本発明の農薬は、例えば、播種時、育苗期、田植時等に使用できる。本発明の農薬は、例えば、未希釈の状態で使用してもよいし、希釈した状態で使用してもよく、例えば、前記水田に使用する場合、例えば、前述の散粒機、散布機、スプリンクラー等を用いて散粒、散布等できる。また、本発明の農薬を前記イネの種もみの消毒に使用する場合、前記農薬は、例えば、前記イネの種もみのコート剤として使用できる。前記本発明の農薬は、例えば、さらに、前記イネの種もみの浸種の際、浸漬する水に溶解して使用してもよいし、前記イネの種もみを種子消毒する際、温湯に溶解して使用してもよいし、前記イネの種もみの催芽の際、水に噴霧してもよい。
【0040】
前記水田に使用する場合、本発明の農薬の使用量および使用回数は、特に制限されず、前記水田の大きさおよび前記使用方法に応じて適宜決定できる。
【0041】
次に実施例を挙げ、本発明を更に詳しく説明するが、本発明はこれら実施例に何ら制約されるものではない。
【実施例0042】
[実施例1]新規な抗糸状菌ポリペプチドの精製
(分泌物質試料の調製、及び酸沈殿とCMカラムクロマトグラフィーによる分画)
本精製に使用した分泌物質試料は、特許文献1に記載された方法により作製したリゾクトニア・ソラニD138株の分泌酵素群乾燥粉末(富士フィルム和光純薬社ならびにケイ・アイ化成社)を用いた。
【0043】
上記乾燥粉末を2g秤量し、20mLの50mM酢酸緩衝液(pH4.8)(以下、「バッファーA」とする)に溶解して乾燥粉末溶解液とした。これを4℃で18時間以上静置して生じた酸沈殿物を、8000×g、4℃、15分間の遠心分離により除去し、回収した上清をセルロースチューブ27/32(エーディア社)を用いてバッファーAに対して18時間透析した。透析後の溶液を再び8000×gで15分間遠心し、得られた上清を0.2μmのフィルター(DISMIC-25CS、アドバンテック社)でろ過したものを酸沈殿上清溶液とし、カラムクロマトグラフィーへ供した。
【0044】
タンパク質の定量は、Quick Startプロテインアッセイキット(バイオラッド・ラボラトリーズ社)を用い、ウシ血清アルブミンを標準品としたBradford法によりおこなった。上記の乾燥粉末溶解液及び酸沈殿上清溶液の総タンパク質量は、それぞれ554mg及び375mgであった。
【0045】
カラムクロマトグラフィーは、AKTApurifier100クロマトグラフィーシステム(Cytiva社)を用いて、4℃に設定したクロマトチャンバー内でおこなった。酸沈殿上清溶液を、弱陽イオン交換カラムであるHiTrap CM FFカラム(容量5mL、平均粒子径90μm、Cytiva社)に供した。バッファーAを用いて流速2.5mL/分で20分間平衡化したカラムを装置から一旦外し、35mLの酸沈殿上清溶液を30mL容量のシリンジを使用して2.4分間かけて手動で導入した。カラムを再び装置に装着し、バッファーAで流速2.5mL/分で50分間洗浄し、続けて0~250mM塩化ナトリウムの直線濃度勾配で80分間(200mL)送液してタンパク質を分離・溶出させた。その後、速やかに塩化ナトリウム濃度を1Mまで上昇させ、流速2.5mL/分で28分間カラムを洗浄した後、バッファーAを流速2.5mL/分で20分間送液した。検出器の波長は280nmとし、溶出溶液は自動フラクションコレクターを用いて、5mLずつ(2分間/本)回収した。その結果を図1に示す。
【0046】
図1のような溶出クロマトグラムが得られたため、カラム非吸着画分及び分画番号F30からF49についての抗真菌活性を、糸状菌の菌糸生長阻害性、及び酵母の増殖阻害性について調査した。
【0047】
(抗真菌活性の評価1:糸状菌の菌糸生長阻害性評価)
糸状菌の菌糸生長阻害性の評価は、アガー・ウェル法を用いておこなった。本法における指標菌には、独立行政法人農業生物資源研究所から分与を受けたフザリウム・フジクロイMAFF235949株を使用し、培地はポテトデキストロース寒天培地(以下、「PDA」とする)を用いた。
【0048】
MAFF235949株の胞子保存液を、あらかじめ以下の手順で調製した。PDA斜面培地の種菌をPDA平面培地へ播種し、およそ2週間、28℃で培養した。生育した菌糸体の一部をスライドグラスへ塗抹し、オリンパスBX43システム顕微鏡(エビデント社)による位相差観察により胞子の存在を確認した後、直径9cmのシャーレ1枚あたり4mLの0.25%(v/v)Tween20を加えてスプレッダーで懸濁し、次に局方滅菌ガーゼでろ過して菌糸体を取り除いた。回収したろ液に胞子が含まれていることを位相差観察により確認した後、ろ液を8000×g、4℃で15分間遠心し、パスツールピペットで上清を除き、直ちに8mLの滅菌純水を加えて沈殿した胞子を懸濁洗浄した。この洗浄操作を2回繰り返した後、再び8000×g、4℃で15分間遠心した上清をパスツールピペットで除き、1.5mLの滅菌純水を加えて胞子を懸濁した。さらに、滅菌した80%グリセロール溶液を0.5mL加えて混合した後、分注して-80℃で凍結保存した。
【0049】
作製した胞子懸濁液は、一部を使用して胞子濃度を以下のように求めた。滅菌水で1/10~1/10000倍まで段階希釈し、各希釈溶液の0.1mLをPDAへ塗布播種した。28℃で4日間培養して生じたコロニー数から、発芽可能な胞子数を算出した結果、1mLあたり約5×10個であった。凍結保存した胞子懸濁液のうち1本を解凍し、20%グリセロール溶液を用いて約5×10個/mLとなるように希釈溶液を調製した。これを分注して、再度-80℃に凍結保存したものを、以下の抗糸状菌活性評価試験に用いた。
【0050】
アガー・ウェル法に使用する培地は、直径9cmの滅菌シャーレに、滅菌したPDAを20mLずつ分注して固化させた後、外径約7mmの滅菌ガラス管を用いてシャーレ中心よりウェル端が2cmの距離になるように4か所開穴し(以下、「PDAアッセイプレート」とする)、これを使用するまで4℃で保存した。乾燥粉末溶解液、酸沈殿上清溶液、及びCMカラムクロマトグラフィーで得られた溶出画分をバッファーAで2~16倍まで段階希釈し、PDAアッセイプレートのウェルへ80μLずつ添加した。抗糸状菌活性の無いコントロールとしては、バッファーAのみをウェルへ80μL添加した。各試料をウェルへ添加した後、PDAアッセイプレートの中心部に、約5×10個/mLのMAFF235949株の保存胞子懸濁液を10μL滴下播種した。30℃で4日間培養した後、培養温度を15℃に変更し、菌糸がコントロールのウェル端に0.5cm以内に到達するまで、さらに5日間培養した。各試料の菌糸生長阻害作用の有無は、ウェル端と生育した菌糸との距離をコントロールと比較した目視で判別し、阻害性の強度は阻害作用を示した被験液の最大希釈倍率で評価した。
【0051】
その結果を表1及び図2に示す。表1において、乾燥粉末溶解液(I)及び酸沈殿上清(II)については、調査した最大の希釈倍率16倍(タンパク質量としてそれぞれ、126μg及び54μg/ウェル)でも、強い抗糸状菌活性を確認した。CMカラムクロマトグラフィー分画後については、カラム非吸着画分である分画番号F2、及び分画番号F35~F38(50~69mM塩化ナトリウム溶出画分)に強い菌糸生長阻害作用が認められ(図2)、調査した最大希釈倍率16倍まで抗糸状菌活性を確認した(表1)。
【0052】
【表1】
【0053】
[凡例等]
1)+:活性あり、±:弱い活性あり、-:活性なし
2)分画番号は、I及IIはそれぞれ乾燥粉末溶解液及び酸沈殿上清溶液を示し、その他の数字はCMカラムクロマトグラフィーの分画番号(図1)を示した
3)ウェル位置:PDAアッセイプレート上のウェルの1つをAとして固定し、右回りにB、C、Dとした。
【0054】
(抗真菌活性の評価2:酵母の増殖阻害性)
酵母の増殖阻害作用は、96穴マイクロタイタープレートを用いた微量液体希釈法で評価した。指標菌には独立行政法人製品評価技術基盤機構から分与を受けたサッカロマイセス・セレビシエNBRC10074株を使用し、培地はポテトデキストロース液体培地(以下、「PDB」とする)を用いた。
【0055】
あらかじめ2.4×10cfu/mLの濃度に調製し、-80℃で凍結保存しておいたNBRC10074株を、10mLのPDBへ20μL接種し、30℃、120rpmで18時間振とう培養することで、2.4×10cfu/mLの新鮮な酵母培養液を得た。これをさらに、2×PDBで100倍希釈し、2.4×10cfu/mLの酵母懸濁液とした。96穴マイクロタイタープレート(8行12列)のすべてのウェルに100μLのバッファーAを分注した後、1列目の各ウェルへ乾燥粉末溶解液、酸沈殿上清溶液、またはCMカラムクロマトグラフィー溶出画分液(原液)を100μLずつ分注した(希釈倍率は2倍となる)。次に8連マルチピペットを用いて、1列目のウェルより100μLずつ取り2列目へ混和した(希釈倍率4倍)。さらに2列目のウェルより100μLずつ取り3列目へ混和した(希釈倍率8倍)。同様の分取及び混和操作を11列目まで繰り返すことで、希釈倍率2~2048倍の試料希釈溶液を調製した(12列目はバッファーAのみの陰性コントロールとした)。さらに、全てのウェル へ上記の酵母懸濁液を100μL(2.4×10cfu)ずつ添加した。この操作により、活性評価に使用した試料溶液の希釈倍率は4~4096倍となった。マイクロタイタープレートは水分蒸発を防ぐためにプラスチックバックへ収納し、28℃で18時間静置培養した。酵母増殖阻害性の強度は、各ウェルの濁度をコントロールと比較し、目視で増殖阻害を確認できる被験液の最大希釈倍率で示した。その結果を以下の表2に示す。
【0056】
表2に示したように、乾燥粉末溶解液、及び酸沈殿上清溶液においては、希釈倍率256倍までの強い酵母増殖阻害活性を確認した。CMカラムクロマトグラフィー分画溶液については、カラム非吸着画分である分画番号F2及びF3でそれぞれ、128倍及び64倍希釈までの強い増殖阻害性が認められた(表2)。一方で、分画番号F30~F41の溶出画分においては、希釈倍率4倍でもはっきりとした酵母増殖阻害活性が認められず(表2)、上記(抗真菌活性の評価1:糸状菌の菌糸生長阻害性評価)で、分画番号F2及びF3とF35~F38の両方に抗糸状菌活性が検出された結果とは、異なる傾向が認められた。
【0057】
【表2】
【0058】
[凡例]
判定結果 +:増殖あり、±:弱い増殖あり、-:増殖なし
【0059】
以上の2種類の抗真菌活性評価における結果から、リゾクトニア・ソラニD138株の分泌物質試料中には抗真菌タンパク質が少なくとも2種類以上存在し、一方は糸状菌及び酵母の両方を阻害するCMカラムに非吸着な性質(上記の実験条件において)を有し、もう一方はCMカラムに吸着・分離され、糸状菌のみに対して強い阻害活性を示すことが明らかとなった。以降では、糸状菌のみに作用する特徴的な性質を有する後者の活性画分(分画番号F35~F38)をターゲットにさらに精製を進めた。分画番号F35~F38の総タンパク質量は、Bradford法による定量で、65.3mgであった。
【0060】
(CMカラムクロマトグラフィー溶出画分のタンパク質分子組成の確認)
糸状菌のみに阻害活性を有するCMカラムクロマトグラフィー分画番号F35~F38とその周辺画分について、SDS-ポリアクリルアミドゲル電気泳動(SDS-PAGE)によりタンパク質の組成と分子量を確認した。
【0061】
SDS-PAGEは一般的によく用いられるLaemmliの方法に従っておこない、タンパク質の染色にはクイック-CBBキット(富士フィルム和光純薬社)を用いた。また、分子量マーカーには色素結合したタンパク質マーカーであるBlueStar Prestained Protein Ladder(日本ジェネティクス社)を使用した。その結果を図3に示す。分画番号F35~F38には幅広い分子量の多くのタンパク質が混在しており、また各画分間において泳動パターンに著しい相違は認められなかった。
【0062】
(SPカラムクロマトグラフィーによる分画)
CMカラムクロマトグラフィーで回収した分画番号F37とF38 の溶液について、アミコンウルトラ遠心式限外ろ過フィルター(メルクミリポア社)を用いて脱塩・濃縮した後、強陽イオン交換カラムであるHiTrap SP HPカラム(容量1mL、平均粒子径34μm、Cytiva社)に供した。バッファーAを流速1mL/分で10分間送液して平衡化したカラムに、試料全量(2mL)をサンプルループを使用して注入し、さらにバッファーAをサンプルループを流路として6分間送液 した。バッファーAでカラムを18分間洗浄した後、0~250mM塩化ナトリウムの直線濃度勾配で40分間(40mL)送液し、タンパク質を分離・溶出させた。その後、速やかに塩化ナトリウム濃度を1Mまで上昇させて流速1mL/分で18分間カラムを洗浄した後、バッファーAを流速1mL/分で10分間送液した。検出器の波長は280nmとし、溶出溶液は自動フラクションコレクターを用いて、試料導入後の洗浄液(カラム非吸着画分)は2mLずつ(2分間/本)、直線塩濃度勾配開始後は1mLずつ(1分間/本)回収した。
【0063】
その結果を図4に示す。図4に示したような溶出クロマトグラムが得られたため、カラム非吸着画分である分画番号F1~F3、及び分画番号F18~F29(38~106mM塩化ナトリウム溶出画分)について、次のSPカラムクロマトグラフィー溶出画分の抗糸状菌活性評価へ供した。
【0064】
(SPカラムクロマトグラフィー溶出画分の抗糸状菌活性評価)
抗糸状菌活性評価は、上記の「抗真菌活性の評価1:糸状菌の菌糸生長阻害性評価」へ記載の方法に準じておこなった。
【0065】
その結果を図5に示す。図5に示したように、分画番号F20~F23(50~69mM塩化ナトリウム溶出画分)において、フザリウム・フジクロイMAFF235949株に対する菌糸生長阻害作用が認められ、分画番号F20~F22では調査した最大の希釈倍率8倍まで、分画番号F23では希釈倍率4倍まで、抗糸状菌活性を確認した(表3)。活性画分として回収した分画番号F20~F23の総タンパク質量は、Bradford法による定量で、2.86mgであった。
【0066】
【表3】
【0067】
[凡例]
1)+:活性あり、±:弱い活性あり、-:活性なし
2)ウェル位置:PDAアッセイプレート上のウェルの1つをAとして固定し、右回りにB、C、Dとした。
【0068】
(SPカラムクロマトグラフィー溶出画分のタンパク質分子組成の確認)
タンパク質分子組成の確認は、上記「CMカラムクロマトグラフィー溶出画分のタンパク質分子組成の確認」へ記載の方法に準じておこなった。SDS-PAGEによる分析の結果(図6)、分画番号F20~F23の活性画分のうち、分画番号F20~F22の電気泳動パターンは類似しており、また、分子量マーカー(図6、レーン「M」と表記)を参考にすると、約35kDaより低分子のタンパク質が抗糸状菌活性を示していることが示唆された。
【0069】
(Capto HiRes Sカラムクロマトグラフィーによる分画)
SPカラムクロマトグラフィーで回収した分画番号F20~F23の溶液を、アミコンウルトラ遠心式限外ろ過フィルター(メルクミリポア社)を用いて脱塩・濃縮した後、高分離能の強陽イオン交換カラムであるCapto HiRes S 5/50カラム(容量1mL、平均粒子径9μm、Cytiva社)に供した。
【0070】
バッファーAを流速0.5mL/分で20分間送液して平衡化したカラムに、試料全量(2mL)をサンプルループを使用して注入し、さらにバッファーAをサンプルループを流路として12分間送液した。バッファーAでカラムを40分間洗浄した後、0~150mM塩化ナトリウムの直線濃度勾配で80分間(40mL)送液し、タンパク質を分離・溶出させた。その後、速やかに塩化ナトリウム濃度を1Mまで上昇させて流速0.5mL/分で20分間カラムを洗浄した後、バッファーAを流速0.5mL/分で10分間送液した。検出器の波長は280nmとし、溶出溶液は自動フラクションコレクターを用いて、試料導入後の洗浄液(カラム非吸着画分)は2mLずつ(4分間/本)、直線塩濃度勾配開始後は1mLずつ(2分間/本)回収した。
【0071】
その結果、図7に示したような溶出クロマトグラムが得られたため、分画番号F17~F31(15~68mM塩化ナトリウム溶出画分)について、次の「Capto HiRes Sカラムクロマトグラフィー溶出画分の抗糸状菌活性評価」へ供した。
【0072】
(Capto HiRes Sカラムクロマトグラフィー溶出画分の抗糸状菌活性評価)
抗糸状菌活性評価は、上記の「抗真菌活性の評価1:糸状菌の菌糸生長阻害性評価」へ記載の方法に準じておこなった。
【0073】
その結果、分画番号F19~F21(23~30mM塩化ナトリウム溶出画分)において、フザリウム・フジクロイMAFF235949株に対する菌糸生長阻害作用が認められ(図8)、調査した最大の希釈倍率4倍、タンパク質量1.1μg/ウェルでもはっきりとした抗糸状菌活性を確認した(表4)。活性画分として回収した分画番号F19~F21の総タンパク質量は、Bradford法による定量で0.187mgであった。本タンパク質量は、ここまでの一連の精製による抗糸状菌活性ポリペプチドの最終収量であり、タンパク質量としての回収率は0.034% であった。
【0074】
【表4】
【0075】
[凡例]
1)+:活性あり、-:活性なし
2)ウェル位置:PDAアッセイプレート上のウェルの1つをAとして固定し、右回りにB、C、Dとした。
【0076】
(Capto HiRes Sカラムクロマトグラフィー溶出画分のタンパク質分子組成の確認)
タンパク質分子組成の確認は、上記「CMカラムクロマトグラフィー溶出画分のタンパク質分子組成の確認」へ記載の方法に準じておこなった。SDS-PAGEによる分析の結果、分画番号F19~F21では単一のタンパク質バンドが検出されており、分子量マーカー(図9、レーン「M」と表記)を参考にすると、およそ10kDa近傍のポリペプチドが、抗糸状菌活性物質として精製されたことが示された(図9)。
【0077】
[実施例2]10kDa抗糸状菌ポリペプチドのアミノ酸配列情報の分析
(精製タンパク質のN末端アミノ酸配列の分析と相同性検索)
実施例1で得られた分子量約10kDaの抗糸状菌タンパク質について、精製標品(Capto HiRes Sカラムクロマトグラフィー分画番号F20を使用した)を用いて、N末端アミノ酸配列を分析した。
【0078】
タンパク質量として8.1μgの分画番号F20の溶液をSDS-PAGEに供し、電気泳動後のポリアクリルアミドゲルから、タンク式ブロッティング装置(ミニトランスブロットセル、バイオラッド・ラボラトリーズ社)を用いて、タンパク質をPVDF膜(Immobilon-PSQメンブレン、0.2μm、メルク社)に転写した。転写後のPVDF膜は、50%メタノールに溶解した0.1%クマシーブリリアントブルーR250溶液中でゆるやかに振盪しながら2分間染色した後、50%メタノールで脱色し、さらに超純水で洗浄して膜上の余分な色素を除いた。その後、18時間乾燥させたPVDF膜から分子量約10kDaのタンパク質バンドを切り出し、N末端アミノ酸配列分析へ供した。
【0079】
N末端アミノ酸配列分析は、気相シークエンサー(491cLc、アプライドバイオシステム社)を使用して、自動エドマン分解によりおこなった。機器の取り扱いと諸設定は、製造販売元の指定する手順書にしたがっておこなった。その結果、以下に示す13残基のN末端アミノ酸配列が得られた。
N末端側 ETSYGNPDLVTDQ(配列番号3)
【0080】
この13残基の部分アミノ酸配列について、米国バイオテクノロジー情報センター(NCBI)が提供するBLAST検索システムによるアミノ酸配列相同性検索をおこなった結果、相同性100%として、以下に示すHypothetical protein RHS04_00525[Rhizoctonia solani]、Accession番号:KAF8685646.1が提示された。
【0081】
N末端側 MKRHPKKYQTETTDAVAASRLKLTFQAHTNSAMFSSAHLAFFAAAAAALVAASPVTELEGQTLAKRETSYGNPDLVTDQGNRFKLNFGSTDGHPNACPGHYICYISKNGAQHGDVSLGNPDDFVDEGNRWATPELW(配列番号4)
【0082】
上記アミノ酸配列内の下線は、配列番号3と相同性100%の配列を示した。この相同性検索の結果から、本ポリペプチドは生体機能が未知のタンパク質と高い相同性を示すことが明らかとなり、抗糸状菌ポリペプチドとして新規であることが強く示唆された。
【0083】
(リゾクトニア・ソラニD138株の全ゲノム情報に基づく10kDa抗糸状菌ポリペプチド配列の推定)
上記の精製タンパク質のアミノ酸配列分析から得られた情報に基づく解析に加えて、本ポリペプチド生産株であるリゾクトニア・ソラニD138株の全ゲノム配列を決定し、その情報を基にした解析も試みた。
【0084】
全ゲノム配列解析に使用したゲノムDNAは、以下のように調製した。リゾクトニア・ソラニD138株は、PDA斜面培地で継代されてきた種株から菌糸体の一部を掻き取り、これをPDA平面培地へ播種して30℃で約8日間培養した。次に、このPDA平面培地へ4mLの滅菌純水を加えてスプレッダーで懸濁し、一部を1.5mLのマイクロチューブへ回収した。続いて、このマイクロチューブを6000×g、4℃、5分間遠心して上清を除いた。残った菌糸体の沈殿物へ5μLの滅菌純水を再び加えた全量を、破砕用のステンレスビーズが入ったチューブへ再回収した。これにLysis Solution F(ニッポンジーン社)を加え、Shake Master Neo(bms社)を用い、1500rpmで2分間粉砕した。破砕した試料は、65℃で10分間インキュベートし、その後、12000×gで2分間遠心分離をおこなって上清を回収した。MPure-12システムとMPure Bacterial DNA Extraction Kit(共にMP Bio社)を用いて回収した上清からDNAを精製した。
【0085】
ライブラリー作製のために、まずSynergy LX(Bio Tek社)とQuantiFluor dsDNA System(Promega社)を用いて、上記で調製したゲノムDNA溶液の濃度を測定した。次に、MGIEasy FS DNA Library Prep Set(MGI社)を用いて、製造販売元の手順書にしたがってライブラリーを作製した。酵素切断の反応時間は4分間とした。また、その際にMGIEasy DNA Adapters-96(Plate)Kit(MGI社)のアダプターを使用した。ライブラリーの定量は、Qubit 3.0 FluorometerとdsDNA HS Assay Kit(共にThermo Fisher Scientific社)を用いておこなった。ライブラリーの品質確認は、Fragment AnalyzerとdsDNA 915 Reagent Kit(共にAdvanced Analytical Technologies社)を用いておこなった。環状化DNAは、作製したライブラリとMGIEasy Circularization Kit(MGI社)を用いて製造販売元の指示書にしたがって作製した。DNA Nanoball(以下、「DNB」)は、DNBSEQ-G400RS High-throughput Sequencing Set(MGI社)を用いて、製造販売元の指示書にしたがって作製した。DNAシークエンスは、DNBSEQ-G400(MGI社)を用いて、2×200bpの条件の下、上記で作製したDNBを基に解析した。結果は、表5-1および表5-2へ示した。
【0086】
【表5-1】
【0087】
【表5-2】
【0088】
DNBシークエンス情報を用いて次のような手順で解析をおこなった。まずFastQC1 v0.11.8を用いて、ペアエンド・リード配列の生データの品質を確認し、次にCutadapt2 v3.4を用いて、DNBSEQアダプター配列のトリミングをおこなった。さらにトリミングされたリード配列を、SPAdes3 v3.12.0を用いてアセンブルした。以上の品質確認やトリミング、およびアッセンブルの作業は、Galaxy4(サムソン社)のローカルサーバー上で実行した。遺伝子予測と機能アノテーションの作業は、Funannotate5 pipeline v1.8.10を用いて実行した。
【0089】
以上の方法から導き出されたD138株の全ゲノム配列の情報を基に予測された遺伝子のアミノ酸配列に対し、上記配列番号3を用いて、BLAST検索システムによるアミノ酸相同性検索をおこなったところ、相同性100%として「FUN_009158-T1 FUN_009158」が提示された。提示されたアミノ酸配列及びDNA配列をそれぞれ以下に示す。アミノ酸配列内の下線は配列番号3と相同性100%の配列を示す。
【0090】
N末端側 MFSSAHLAFFAAAAAALVAASPVTELEGQTLAKRETSYGNPDLVTDQGNRFKLNFGSTDGHPNACPGHYICYISKNGAQHGDVSLGNPDDFVDEGNRWA(配列番号5)
【0091】
5’-ATGTTTTCCTCTGCTCATCTCGCTTTCTTTGCTGCTGCTGCTGCCGCTCTTGTTGCTGCAAGCCCTGTCACTGAGCTCGAAGGACAGACTCTTGCCAAGCGCGAGACGTCATACGGCAATCCCGACTTGGTAACTGACCAGGGCAATCGCTTCAAGCTCAACTTTGGCAGCACCGACGGCCACCCGAACGCGTGTCCCGGACACTACATCTGCTACATCTCAAAGAACGGAGCCCAACATGGCGACGTCTCTCTCGGCAATCCCGACGACTTTGTAGATGAGGGCAACCGTTGGGCAA-3’(配列番号6)
【0092】
本結果は、新規な抗糸状菌ポリペプチドをコードするDNA配列が、D138株の全ゲノム情報内のコンティグ配列の中に予測されており、D138株が本抗糸状菌ポリペプチドを産生する遺伝子を確実に有していることを示した。なお、本抗糸状菌ポリペプチドは、リゾクトニア・ソラニから分泌されるが、リゾクトニア・ソラニD138株からの分泌に限定されない。
【0093】
[実施例3]10kDa抗糸状菌ポリペプチドのcDNA配列の解析
(D138株培養菌体からのRNA調製)
10kDa抗糸状菌ポリペプチドのcDNA解析のため、リゾクトニア・ソラニD138株からRNAを以下のように調製した。10kDa抗糸状菌ポリペプチドが得られた分泌物質試料調製の培養条件である、特許文献1に記載されたふすまを固体培地とした培養方法に従ってリゾクトニア・ソラニD138株を培養した。本培養2日目、6日目、および9日目の菌糸が生育したふすま培養物から、MN Bead Tubes Type C及びNucleoSpin(登録商標)RNA Plant and Fungi キット(いずれもMACHEREY-NAGEL社製)を用い、製造販売元の指示書に従ってRNA溶液を調製した(表6)。
【0094】
【表6】
【0095】
(3’-RACE法による10kDa抗糸状菌ポリペプチドcDNAの3’-側配列の解析)
cDNA配列の解析にはRapid Amplification of cDNA Ends(RACE)法を用い、3’-RACE法による3’-側配列の解析、および5’-RACE法による5’-側配列の解析の2段階によりcDNA全長配列を解析した。
【0096】
まず、3’-側配列の解析を、SMARTer(登録商標)RACE5’/3’Kit(Takara Bio USA社製)を用いて、製造販売元の指示書に従って実施した。上記「D138株培養菌体からのRNA調製」で得た、培養2日目、6日目、および9日目のtotal RNA、0.7μg、0.9μg、および1μgのそれぞれを使用して、3’-RACE-Ready 1st-strand cDNAを指示書に従い合成した。
【0097】
次に、合成した各3’-RACE-Ready cDNAを鋳型として3’-RACE PCRを指示書に従い行った。プライマーセットは、キット付属のUniversal Primer Mixと、上記実施例2で得られた10kDa抗糸状菌ポリペプチドのN末端アミノ酸配列情報を基に合成したプライマーP10-N1-F(配列番号7)を使用し、反応条件は[94℃、1分間→(94℃、30秒→72℃、2分間)を5サイクル→(94℃、30秒→70℃、30秒→72℃、2分間)を5サイクル→(94℃、30秒→68℃、30秒→72℃、2分間)を25サイクル]で実施した。
【0098】
プライマーP10-N1-F:5’-GATTACGCCAAGCTTGAGACGTCATACGGCAATCCCGA-3’(配列番号7)
【0099】
その結果、D138株のふすま培養物、2日目、6日目、または9日目から調製したRNA由来のいずれの1st-strand cDNAを鋳型とした3’-RACE PCR反応においても、約450bpの増幅産物が認められ、塩基配列の解析により10kDa抗糸状菌ポリペプチドのC末端側をコードする領域とポリAテイルまでの配列が明らかとなった(図10参照)。
【0100】
(5’-RACE法による10kDa抗糸状菌ポリペプチドcDNAの5’-側未知領域配列の解析)
上記「3’-RACE法による10kDa抗糸状菌ポリペプチドcDNAの3’-側配列の解析」により得られた3’-側の約450bpの配列を利用して、5’-側の未知領域配列の解析を5’-Full RACE Core Set(タカラバイオ社製)を用いて製造販売元の指示書に従って行った。
【0101】
上記「D138株培養菌体からのRNA調製」で得た、培養2日目、6日目、および9日目のtotal RNA、0.9μg、1.1μg、および1.2μgのそれぞれを使用し、3’-RACE法で得た10kDa抗糸状菌ポリペプチドcDNAの既知配列を基に作製した5’末端リン酸化RT-プライマー(P10-3end_3-RP:配列番号8)を用いて1st-strand cDNAを合成した。
【0102】
5’末端リン酸化プライマーP10-3end_3-RP:5’-(P)GGGAAATGACGAGTT-3’(配列番号8)
【0103】
次に、RNaseH処理によりhybrid RNAを分解した後、T4 RNA ligaseにより一本鎖cDNAを環状化(またはコンカテマー化)させた。これを鋳型として、既知領域に作製したプライマーを用い、5’側の未知領域の増幅をインバースPCRにより行った。PCR酵素にはTaKaRa Ex Taqを使用し、1st PCRをプライマーセットP10-D59-F(配列番号9)とP10-G47-R(配列番号10)を用いて、反応条件[94℃、3分間→(94℃、30秒→68℃、30秒→72℃、1分間)を25サイクル→72℃、3分間]で実施した。
【0104】
プライマー P10-D59-F
5’-ATGAGGGCAACCGTTGGCGCCTG-3’(配列番号9)
【0105】
プライマー P10-G47-R
5’-CCATGTTGGGCTCCGTTCTTTGA-3’(配列番号10)
【0106】
さらに、1st PCR反応溶液の原液または10倍希釈液の1μLを25μLの反応系に鋳型として添加し、2nd PCRを下記のA~Eの5種類のプライマーセットを用いて、反応条件[94℃、3分間→(94℃、30秒→68℃、30秒→72℃、1分間)を30サイクル→72℃、3分間]で実施した。
【0107】
5種類のプライマーセット
A:P10-D59-F/P10-S23-R(配列番号11)
B:P10-D59-F/P10-F17-R(配列番号12)
C:P10-Y82-F(配列番号13)/P10-G47-R
D:P10-Y82-F/P10-S23-R
E:P10-Y82-F/P10-F17-R
【0108】
P10-S23-R
5’-GCTGCCAAAGTTGAGCTTGAAGC-3’(配列番号11)
P10-F17-R
5’-AAGCGATTGCCCTGGTCAGTTAC-3’(配列番号12)
P10-Y82-F
5’-CATCTGCTATATCAGCAAGTGAAC-3’(配列番号13)
【0109】
その結果、ふすま培養9日目のtotal RNAを使用して一連の反応を行った試料において、上記A~Eの各プライマーセットを用いた2nd PCR反応で、A:約340bp、B:約320bp、C:約340bp、D:約270bp、E:約250bpの増幅産物が得られた。塩基配列解析の結果、各PCR増幅産物は10kDa抗糸状菌ポリペプチドcDNAの5’側未知領域をコードしており、上記の3’-RACE解析結果と合わせて、10kDa抗糸状菌ポリペプチドcDNAの全長が明らかとなった(図10参照)。この配列内の下線部は5’-RACE法で、それ以外は3’-RACE法でそれぞれ明らかとなった配列を示す。
【0110】
10kDa抗糸状菌ポリペプチドcDNAの全長配列(配列番号2)
5’-ATCCAACAGATCTCGTCTCAAGCTCACTTTCCAAGCACACACCAACTCAGCCATGTTTTCCTCTGCTCATCTCGCTTTCTTTGCTGCTGCTGCTGCCGCTCTTGTTGCTGCAAGCCCTGTCACTGAGCTCGAAGGACAGACTCTTGCCAAGCGCGAGACGTCATACGGCAATCCCGACTTGGTAACTGACCAGGGCAATCGCTTCAAGCTCAACTTTGGCAGCACCGACGGCCACCCGAACGCGTGTCCCGGACACTACATCTGCTACATCTCAAAGAACGGAGCCCAACATGGCGACGTCTCTCTCGGCAATCCCGACGACTTTGTAGATGAGGGCAACCGTTGGCGCCTGAACTATGGTAGCACCGATGGACACCCGAACGCCTGCCCTGGACACTACATCTGCTATATCAGCAAGTGAACTTATCAACTTAACTCGTCATTTCCCGCAGTTTCCTTTATGTTTGTATTACTTCTCAGTTAAATCAACCATAGGAAATATAGCTATCTTTAACACCAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA-3’
【0111】
10kDa抗糸状菌ポリペプチドcDNAの全長配列について、3’側のポリA部分を除く配列についてBLAST検索を行った結果、Rhizoctonia solani uncharacterized protein(RhiXN_09327),partial mRNA(Accession番号:XM_043329143.1)と93.95%、Rhizoctonia solani uncharacterized protein(RhiXN_09328),partial mRNA(同:XM_043329144.1)と99.12%、それぞれ一致していた。
【0112】
また、上記のcDNA配列より明らかとなった10kDa抗糸状菌ポリペプチドのアミノ酸配列全長、122アミノ酸残基を、配列番号14に示した。シグナルペプチドと推測される配列(配列番号14中の下線部)を除いた、精製タンパク質のN末端アミノ酸配列(上掲の配列番号3)以降の成熟タンパク質は88アミノ酸残基から成り、推定分子量は9648.24であった。
【0113】
10kDa抗糸状菌ポリペプチドのアミノ酸配列全長
N末端側 MFSSAHLAFFAAAAAALVAASPVTELEGQTLAKRETSYGNPDLVTDQGNRFKLNFGSTDGHPNACPGHYICYISKNGAQHGDVSLGNPDDFVDEGNRWRLNYGSTDGHPNACPGHYICYISK(配列番号14)
【0114】
[実施例4]遺伝子組換え型10kDa抗糸状菌ポリペプチドの発現系構築と組換えタンパク質による糸状菌生育阻害活性
(10kDa抗糸状菌ポリペプチド発現用プラスミドの構築)
10kDa抗糸状菌ポリペプチド発現用のプラスミドは、市販のタンパク質発現用ベクターであるpET-15b(Novagen社;T7プロモーター制御、アンピシリン耐性)を基に構築した。
【0115】
まず、88アミノ酸残基の成熟タンパク質のN末端に開始メチオニンを付加した10kDa抗糸状菌ポリペプチド遺伝子とその下流域を含むDNA断片を、以下の条件のPCRで増幅した。上記[実施例3]の「3’-RACE法による10kDa抗糸状菌ポリペプチドcDNAの3’-側配列の解析」で合成した3’-RACE-Ready cDNAを鋳型とし、プライマーiFpET_p10(Met)-Fw(配列番号15)とiFp10(end-2)_pET-Rv(配列番号16)を使用して、反応条件[94℃、1分間→(94℃、30秒→72℃、2分間)を5サイクル→(94℃、30秒→70℃、30秒→72℃、2分間)を5サイクル→(94℃、30秒→68℃、30秒→72℃、2分間)を25サイクル]でPCRを実施した。得られた約300bpのDNA断片をNucleoSpin Gel & PCR Clean-up Kit(MACHEREY-NAGEL社製)を使用して精製した後、制限酵素NcoI及びNdeIで切断したpET-15bベクターに、In-Fusion HD Cloning Kit(Clonthech社製)を用いてクローニングした。これにより、成熟タンパク質88残基に開始メチオニン残基が付加された10kDa抗糸状菌ポリペプチド発現用プラスミドpEp10を得た。図11及び配列番号17に10kDa抗糸状菌ポリペプチド発現ベクターのインサート及びその周辺配列を示す。
【0116】
プライマーiFpET_p10(Met)-Fw:
5’-(AGGAGATATACCATG)GAGACGTCATACGGCAATCCCGA-3’(配列番号15)(下線:制限酵素NcoI認識配列、この配列内のATGは開始メチオニンコドン)
【0117】
プライマーiFp10(end-2)_pET-Rv:
5’-(GGATCCTCGAGCATA)TGGAAACTGCGGGAAATGACGAGTT-3’(配列番号16)(下線:制限酵素NdeI認識配列)
【0118】
配列番号15および配列番号16において、括弧で括った配列はIn-Fusionクローニングに必要な15塩基の配列を示した。
【0119】
(大腸菌での組換えタンパク質の発現)
上記で作製したプラスミドpEp10又はpET-15bで形質転換した大腸菌Rosetta(DE3)株を、アンピシリン(最終濃度100μg/mL)を添加した20mLの2×YT培地(1.6%トリプトン、1.0%酵母エキス、0.5%NaCl)で、温度30℃、120rpmで培養した。波長660nmにおける濁度O.D.660が1~1.1となったところで培養液の一部(200μL)を採取し、菌体を回収した(発現誘導時間0分)。残りの培養液に最終濃度0.2mMとなるようにイソプロピル-β-チオガラクトピラノシド(IPTG)を添加し、90分間培養を継続して組換えタンパク質を発現誘導させた後、培養液200μL分の菌体を採取回収するとともに、残りの培養液の菌体全ても3000×g、6℃、15分間の遠心分離により回収し、-80℃に保存した。
【0120】
発現誘導時間0分および90分において採取した各培養液の菌体について、20mMの酢酸ナトリウム緩衝液(pH5.2)に再懸濁後、SDSおよびメルカプトエタノール存在下で100℃、5分間処理し、得られた溶液中の菌体総タンパク質をゲル濃度12.5%のSDS-ポリアクリルアミドゲル電気泳動(SDS-PAGE)により解析した結果を図12に示した。
【0121】
pEp10形質転換株では、発現誘導時間90分において、誘導前(0分)あるいはpET-15b形質転換株には見られない、約10kDaの位置に顕著なタンパク質のバンドが検出されており、10kDa抗糸状菌ポリペプチド組換えタンパク質が発現していることが確認できた(図12)。
【0122】
(遺伝子組換え型10kDa抗糸状菌ポリペプチドによる糸状菌生育阻害活性)
上記「大腸菌での組換えタンパク質の発現」で、IPTGによる発現誘導90分後に回収して-80℃に保存した菌体を、O.D.660=20となるように20mMの酢酸ナトリウム緩衝液(pH5.2)に再懸濁し、超音波発生機UD-211(トミー工業社製)を使用して超音波破砕した。菌体破砕液を3000×g、6℃、10分間遠心分離し、得られた上清を0.2μmのフィルターで濾過滅菌した溶液を用いて、糸状菌生育阻害活性を測定した。
【0123】
糸状菌生育阻害活性の測定方法は、上記[実施例1]に記載した、PDAアッセイプレートを使用したアガー・ウェル法により行った。被検糸状菌としてFusarium fujikuroi MAFF235949株を使用した結果を、図13(A)に示した。
【0124】
図13(A)のPDAアッセイプレートにおいて、pEp10形質転換株の超音波破砕液上清に、強い菌糸生長阻害活性を確認できた(図13(A)、pEp10)。また、それぞれのウェルに最も近い部分の生育菌糸先端の様子を位相差顕微鏡で観察したところ(図13(B))、緩衝液又はpET-15b形質転換株の超音波破砕液上清を添加したウェル近くでは、菌糸が良く伸長していたのに対し(図13(B)、Buffer及びpET-15b)、pEp10形質転換株破砕液上清を添加したウェル近くにおいては、菌糸の伸長が著しく阻害されている様子が観察された(図13(B)、pEp10)。
【0125】
これらの結果から、大腸菌で発現させた遺伝子組換え型10kDa抗糸状菌ポリペプチドが、糸状菌の菌糸生長阻害活性を有することが確認できた。
【産業上の利用可能性】
【0126】
本発明のポリペプチド及びポリヌクレオチドは、新規な抗糸状菌活性を有する物質として使用することができ、農薬などの植物伝染性糸状菌類防除用組成物として、さらにヒト及び動物における感染症の治療薬として利用できる可能性がある。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
【配列表】
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