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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024095326
(43)【公開日】2024-07-10
(54)【発明の名称】試料回収方法
(51)【国際特許分類】
   C12N 1/02 20060101AFI20240703BHJP
   C12N 15/10 20060101ALI20240703BHJP
【FI】
C12N1/02
C12N15/10 110Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022212531
(22)【出願日】2022-12-28
(71)【出願人】
【識別番号】000006507
【氏名又は名称】横河電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】三森 裕示
(72)【発明者】
【氏名】田口 朋之
【テーマコード(参考)】
4B065
【Fターム(参考)】
4B065AA01X
4B065AA57X
4B065AA87X
4B065AA95X
4B065BD15
4B065BD16
4B065CA23
(57)【要約】
【課題】遠心分離によって試料を効率よく回収すること。
【解決手段】菌体回収方法は、所定の色彩を有する着色ビーズBを菌体培養液Sに添加し、遠心分離機30を用いて着色ビーズBが添加された菌体培養液Sを上清Lと沈殿Pとに分離し、分離した上清Lを除去し、分離した沈殿Pを回収する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料を含む試料溶液から前記試料を回収する試料回収方法であって、
所定の色彩を有するビーズを前記試料溶液に添加する添加工程と、
遠心分離機を用いて、前記ビーズが添加された前記試料溶液を上清と沈殿物とに分離する分離工程と、
前記上清を除去し、前記沈殿物を回収する除去工程と、
を含む試料回収方法。
【請求項2】
前記添加工程は、
回収対象となる前記試料の比重に対して所定の範囲内の比重である前記ビーズを添加する、
請求項1に記載の試料回収方法。
【請求項3】
前記添加工程は、
回収対象となる前記試料の大きさに対して所定の範囲内の粒径である前記ビーズを添加する、
請求項1に記載の試料回収方法。
【請求項4】
前記ビーズは、ラテックス、ポリ乳酸、シリカ、ポリスチレンまたはポリエチレンである、
請求項1に記載の試料回収方法。
【請求項5】
前記試料溶液は、菌体培養液である、
請求項1から4のいずれか1項に記載の試料回収方法。
【請求項6】
前記除去工程によって回収された菌体の細胞から核酸を抽出する抽出工程、
をさらに含む請求項5に記載の試料回収方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、試料回収方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、菌体培養液を遠心分離することによって菌体(適宜、「微生物」とも表記)を回収する技術がある。この技術では、菌体培養液を遠心分離することによって培地と菌体ペレットに分離した後、デカンテーションによって培地を取り除くことで菌体を回収する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2010-081832号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、従来技術では、遠心分離によって試料を効率よく回収することが難しい。例えば、従来技術では、遠心分離後のデカンテーションは目視で菌体ペレットを確認しながら操作するので、目に見えない少量の菌体を残してデカンテーションすることが困難である。
【0005】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、遠心分離によって試料を効率よく回収することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、試料を含む試料溶液から前記試料を回収する試料回収方法であって、所定の色彩を有するビーズを前記試料溶液に添加する添加工程と、遠心分離機を用いて、前記ビーズが添加された前記試料溶液を上清と沈殿物とに分離する分離工程と、前記上清を除去し、前記沈殿物を回収する除去工程と、を含む試料回収方法を提供する。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、遠心分離によって試料を効率よく回収することができるという効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】実施形態に係る菌体回収システムの構成例を示す図である。
図2】実施形態に係る着色ビーズの具体例を示す図である。
図3】実施形態に係る実験結果1を説明するための図である。
図4】実施形態に係る実験結果2-1を説明するための図である。
図5】実施形態に係る実験結果2-2を説明するための図である。
図6】実施形態に係る実験結果3を説明するための図である。
図7】実施形態に係る菌体回収工程の流れの一例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下に、本発明の一実施形態に係る試料回収方法を、図面を参照して詳細に説明する。なお、本発明は、以下に説明する実施形態により限定されるものではない。
【0010】
〔実施形態〕
以下に、実施形態に係る菌体回収システム100の構成、各工程の詳細、各工程の流れを順に説明し、最後に実施形態の効果を説明する。
【0011】
〔1.菌体回収システム100の構成〕
図1を用いて、実施形態に係る菌体回収システム100の構成を説明する。図1は、実施形態に係る菌体回収システム100の構成例を示す図である。以下では、菌体回収システム100全体の構成例、菌体回収システム100の各工程、菌体回収システム100の効果の順に説明する。
【0012】
(1-1.菌体回収システム100全体の構成例)
菌体回収システム100は、菌体培養容器10、遠心チューブ20、遠心分離機30およびピペット40を有する。以下では、菌体培養容器10、遠心チューブ20、遠心分離機30、ピペット40の順に説明する。
【0013】
(1-1-1.菌体培養容器10)
菌体培養容器10は、菌体培養液Sを収容する容器である。菌体培養液Sは、菌体C等の微生物を培養する溶液である。なお、図1の例では、菌体培養容器10は、栓の付いた三角フラスコであるが、菌体培養容器10の形状、材質、容量等は限定されない。
【0014】
(1-1-2.遠心チューブ20)
遠心チューブ20は、採取された菌体培養液Sおよび添加された着色ビーズBを収容する容器である。なお、遠心チューブ20の形状、材質、容量等は限定されない。
【0015】
(1-1-3.遠心分離機30)
遠心分離機30は、設置された遠心チューブ20を遠心分離する装置である。なお、遠心分離機30の種類、遠心加速度等は限定されない。
【0016】
(1-1-4.ピペット40)
ピペット40は、分離された菌体培養液Sの上清を除去する器具である。図1の例では、ピペット40は、ガラス製の駒込ピペットであるが、ピペット40の形状、材質、容量等は限定されない。
【0017】
(1-1-5.その他)
図1に示した菌体回収システム100には、複数の菌体培養容器10、複数の遠心チューブ20、複数台の遠心分離機30または複数のピペット40が含まれてもよい。また、菌体培養容器10は、遠心チューブ20と統合した構成であってもよい。また、以下では、実施形態に係る菌体回収システム100として、菌体培養容器10が収容する菌体培養液Sから菌体Cを回収する例について説明するが、培養されていない菌体Cを回収する工程にも適用可能であり、菌体回収システム100の適用範囲は特に限定されるものではない。
【0018】
(1-2.菌体回収システム100の工程)
上記の菌体回収システム100の工程について説明する。以下では、菌体培養液採取工程、着色ビーズ添加工程、遠心分離工程、上清除去工程の順に説明する。なお、各工程は、異なる順序で実行することもできる。また、各工程のうち、省略される工程があってもよい。
【0019】
(1-2-1.菌体培養液採取工程)
第1に、菌体回収システム100では、図1(1)に示す菌体培養液採取工程を実施する。例えば、菌体培養液採取工程では、菌体Cとして、大腸菌(Escherichia coli:E.coli)や黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus:S.aureus)を使用し、SCD(Soybean Casein Digest)液体培地において37℃で一晩培養した菌体培養液Sの一部を、滅菌済みのホールピペットを使用して遠心チューブ20に採取する。
【0020】
(1-2-2.着色ビーズ添加工程)
第2に、菌体回収システム100では、図1(2)に示す着色ビーズ添加工程を実施する。例えば、着色ビーズ添加工程では、着色ビーズBとして、赤色、粒径1.0μm、ポリスチレン製の球状のビーズを使用し、菌体培養液Sが採取された遠心チューブ20に着色ビーズBの懸濁液を添加する。
【0021】
(1-2-3.遠心分離工程)
第3に、菌体回収システム100では、図1(3)に示す遠心分離工程を実施する。例えば、遠心分離工程では、着色ビーズBが添加された遠心チューブ20を遠心分離機30に設置し、遠心チューブ20を3000G、10分間回転させ、着色ビーズBと菌体Cが含まれる沈殿(適宜、「沈殿物」とも表記)Pと菌体培養液Sの培地成分が含まれる上清Lとを分離する。
【0022】
(1-2-4.上清除去工程)
第4に、菌体回収システム100では、図1(4)に示す上清除去工程を実施する。例えば、上清除去工程では、滅菌済みの駒込ピペットであるピペット40を使用して、遠心チューブ20の上清Lを除去し、沈殿Pに含まれる菌体Cを回収する。
【0023】
(1-2-5.その他)
菌体回収システム100では、回収した菌体Cから核酸を抽出する核酸抽出工程をさらに実施することができる。例えば、核酸抽出工程では、沈殿Pを収容する遠心チューブ20に菌体Cの細胞の溶解を促進する溶解補助剤を添加し、得られた懸濁液を加熱用容器に移し替え、密閉した加熱用容器を140℃、45秒間加熱することによって、菌体Cから核酸を抽出することができる。
【0024】
(1-3.菌体回収システム100の効果)
以下では、参考技術としての菌体回収技術の概要、参考技術の改善点を順に説明した上で、菌体回収システム100の効果について説明する。
【0025】
(1-3-1.参考技術の概要)
参考技術の菌体回収技術では、以下の工程が実施される。第1に、菌体培養液を遠心チューブに採取する。第2に、菌体培養液が採取された遠心チューブを遠心分離機に設置し、遠心分離する。第3に、遠心分離後の菌体培養液についてデカンテーションを実施することによって、培地成分を含む上清を除去する。
【0026】
(1-3-2.参考技術の改善点)
参考技術の菌体回収技術では、以下の改善点がある。第1に、少量の菌体を含む菌体培養液を遠心分離した際に沈殿(ペレット)が確認できないので、分離できているのかを判断できない。第2に、遠心分離後のデカンテーションは目視で菌体ペレットを確認しながら操作するので、目に見えない少量の菌体を回収することが困難である。
【0027】
(1-3-3.菌体回収システム100の概要)
菌体回収システム100では、所定の色彩を有する着色ビーズBを、菌体Cを含む菌体培養液Sに添加し、着色ビーズBが添加された菌体培養液Sを遠心分離機30によって上清Lと沈殿Pとに分離し、上清Lを除去し、沈殿Pを回収する。また、菌体回収システム100では、回収された菌体Cの細胞から核酸を抽出する。
【0028】
(1-3-4.菌体回収システム100の効果)
菌体回収システム100は、以下のような効果が期待できる。第1に、菌体回収システム100では、菌体培養液Sに着色ビーズBを添加することによって、目視で沈殿Pが確認できないような少量な菌体Cにおいても、菌体培養液Sに含まれる菌体Cを回収することが可能となる。第2に、菌体回収システム100では、回収後に実施する核酸抽出工程を阻害することなく、菌体培養液Sに含まれる菌体Cを効率よく回収することが可能となる。
【0029】
〔2.菌体回収システム100の各工程の詳細〕
図1に示した菌体回収システム100の各工程の詳細について説明する。以下では、実施形態に係る各工程について、菌体培養工程、菌体培養液採取工程、着色ビーズ添加工程、遠心分離工程、上清除去工程、核酸抽出工程の順に説明する。
【0030】
(2-1.菌体培養工程)
以下では、菌体回収システム100の菌体培養液採取工程に先立って実施される、試料である菌体Cを培養する菌体培養工程について説明する。
【0031】
(2-1-1.菌体培養工程の具体例)
例えば、菌体培養工程では、菌体培養容器10に収容される菌体培養液Sにおいて、菌体Cを培養する。培養に使用する器具の一例について説明すると、菌体培養工程では、菌体培養容器10として滅菌したガラス製の栓付き三角フラスコを使用し、菌体Cを培養する。培養する菌体Cの一例について説明すると、菌体培養工程では、大腸菌や黄色ブドウ球菌を培養する。培養する条件の一例について説明すると、菌体培養工程では、SCD液体培地において菌体Cを37℃で一晩培養する。
【0032】
(2-1-2.菌体培養液Sの培養方法)
上記の菌体培養工程で使用される菌体培養液Sは、核酸を有する試料を培養することにより得られる。試料の培養方法は、特に限定されず、例えば、試料を捕集したフィルターを直接固体培地上に置き、フィルターを介して試料を培養する方法(固相培養)が挙げられる。また、試料の別の培養方法としては、例えば、液体培地または固体培地を水に溶解させた溶液の存在下で試料を培養する方法(液相培養)が挙げられる。また、使用する液体培地や固体培地の種類は、培養する試料の種類や生理的条件によって選択される。
【0033】
(2-1-3.菌体培養液Sの試料)
上記の菌体培養工程において、処理対象である試料は、特に限定されない。例えば、処理対象である試料としては、微生物、微生物以外の動物細胞(例えば、昆虫細胞等)、植物細胞、マイコプラズマ、ウィルス等であってもよい。
【0034】
上記微生物としては、例えば、アシネトバクター(Acinetobacter)種、アクチノミセス(Actinomyces)種、アエロコッカス(Aerococcus)種、アエロモナス(Aeromonas)種、アルカリゲネス(Alcaligenes)種、バチルス(Bacillus)種、バクテリオデス(Bacteriodes)種、ボルデテラ(Bordetella)種、ブランハメラ(Branhamella)種、ブレビバクテリウム(Brevibacterium)種、カンピロバクター(Campylobacter)種、カンジダ(Candida)種、カプノシトファギア(Capnocytophagia)種、クロモバクテリウム(Chromobacterium)種、クロストリジウム(Clostridium)種、コリネバクテリウム(Corynebacterium)種、クリプトコッカス(Cryptococcus)種、デイノコッカス(Deinococcus)種、エンテロコッカス(Enterococcus)種、エリジペロスリックス(Erysipelothrix)種、エシェリシア(Escherichia)種、フラボバクテリウム(Flavobacterium)種、ゲメラ(Gemella)種、ヘモフィルス(Haemophilus)種、クレブシエラ(Klebsiella)種、ラクトバチルス(Lactobacillus)種、ラクトコッカス(Lactococcus)種、レジオネラ(Legionella)種、ロイコノストック(Leuconostoc)種、リステリア(Listeria)種、ミクロコッカス(Micrococcus)種、マイコバクテリウム(Mycobacterium)種、ナイセリア(Neisseria)種、クリプトスポリジウム(Cryptosporidium)種、ノカルディア(Nocardia)種、オエルスコビア(Oerskovia)種、パラコッカス(Paracoccus)種、ペディオコッカス(Pediococcus)種、ペプトストレプトコッカス(Peptostreptococcus)種、プロピオニバクテリウム(Propionibacterium)種、プロテウス(Proteus)種、シュードモナス(Pseudomonas)種、ラーネラ(Rahnella)種、ロドコッカス(Rhodococcus)種、ロドスピリルム(Rhodospirillum)種、スタフィロコッカス(Staphylococcus)種、ストレプトミセス(Streptomyces)種、ストレプトコッカス(Streptococcus)種、ビブリオ(Vibrio)種、およびイェルシニア(Yersinia)種、メチロバクテリウム(Methylobacterium)種、ラルストニア(Ralstonia)種、スフィンゴモナス(Sphingomonas)種からなる群より選ばれる少なくとも1種である。
【0035】
上述した微生物の中には、生育状態によって芽胞や胞子といった形態をとる微生物が存在する。菌体回収システム100において、処理対象である試料の形態は、特に限定されない。また、菌体回収システム100において、処理対象である試料は、1種類であってもよく、2種類以上であってもよい。
【0036】
(2-2.菌体培養液採取工程)
以下では、菌体回収システム100の菌体培養液採取工程の後に実施される、試料溶液である菌体培養液Sを採取する菌体培養液採取工程について説明する。
【0037】
(2-2-1.菌体培養液採取工程の具体例)
例えば、菌体培養液採取工程では、菌体培養容器10に収容される菌体培養液Sの一部を遠心チューブ20に採取する。採取に使用する器具の一例について説明すると、菌体培養液採取工程では、採取する器具として滅菌したガラス製のホールピペットを使用し、遠心チューブ20として滅菌したポリプロピレン製の遠沈管を使用し、菌体培養液Sを採取する。
【0038】
(2-2-2.遠心チューブ20)
上記の菌体培養液採取工程において、遠心チューブ20は、特に限定されない。例えば、遠心チューブ20は、15mL~50mL容量の遠沈管の他、マイクロチューブや、耐圧ガラス製の試験管等であってもよい。また、遠心チューブ20は、遠心分離機30による高速回転時に20000G程度の遠心加速度に対する耐久性があればよい。
【0039】
(2-3.着色ビーズ添加工程)
以下では、菌体回収システム100の菌体培養液採取工程の後に実施される、所定の色彩を有するビーズである着色ビーズBを試料溶液に添加する着色ビーズ添加工程について説明する。
【0040】
(2-3-1.着色ビーズ添加工程の具体例)
例えば、着色ビーズ添加工程では、赤色、粒径1.0μm、ポリスチレン製の着色ビーズBの懸濁液を、菌体培養液Sが採取された遠心チューブ20に注入することによって、着色ビーズBを添加する。
【0041】
(2-3-2.着色ビーズBの色彩および形状)
上記の着色ビーズ添加工程において、着色ビーズBの色彩および形状は、特に限定されない。例えば、着色ビーズBの色彩は、目視によって視認できる色であればよく、上記の赤色の他、青色、黄色、紫色、白色等であってもよい。また、着色ビーズBの形状は、一定範囲の粒径の微粒子であればよく、球状の他、楕円体、多面体であってもよいし、粒子の表面に凹凸があってもよいし、粒子を貫通する穴があってもよい。
【0042】
(2-3-3.着色ビーズBの材質)
上記の着色ビーズ添加工程において、着色ビーズBの材質は、特に限定されない。例えば、着色ビーズBの材質は、核酸抽出工程や核酸増幅工程において抽出や増幅を阻害する影響(例:阻害物質の放出)がなければよく、上記のポリスチレンの他、ラテックス、ポリ乳酸、シリカ、ポリエチレン等であってもよい。また、着色ビーズBに付着している色素も同様に、核酸抽出工程や核酸増幅工程において抽出や増幅を阻害する影響がなければよい。
【0043】
(2-3-4.着色ビーズBの比重)
上記の着色ビーズ添加工程において、着色ビーズBの比重は、特に限定されない。例えば、着色ビーズBの比重は、回収対象となる試料である菌体Cの比重に対して所定の範囲内の比重1.1~1.4g/mL程度であればよい。すなわち、着色ビーズBの比重は、回収対象となる菌体Cと同程度の比重であればよい。
【0044】
(2-3-5.着色ビーズBの粒径)
上記の着色ビーズ添加工程において、着色ビーズBの粒径は、特に限定されない。例えば、着色ビーズBの粒径は、回収対象となる試料である菌体Cの大きさ(例:桿菌2μm)に対して所定の範囲内の粒径1.0~32μm程度であればよい。すなわち、着色ビーズBの粒径は、回収対象となる菌体Cと同程度の大きさであればよい。
【0045】
(2-3-6.着色ビーズBの具体例)
図2を用いて、上記の着色ビーズ添加工程において使用する着色ビーズBの具体例について説明する。図2は、実施形態に係る着色ビーズBの具体例を示す図である。
【0046】
(2-3-6-1.着色ビーズ「A」)
図2の着色ビーズ「A」は、製品名「micromer-blue」、メーカ「micromod社」、品番「60-02-203」、材質「ラテックス」、色「青」、粒径「2μm」の着色ビーズB-Aである。
【0047】
(2-3-6-2.着色ビーズ「B」)
図2の着色ビーズ「B」は、製品名「PLA-color particles」、メーカ「micromod社」、品番「54-00-203」、材質「着色ポリ乳酸粒子」、色「青」、粒径「2μm」の着色ビーズB-Bである。
【0048】
(2-3-6-3.着色ビーズ「C」)
図2の着色ビーズ「C」は、製品名「sicastar」、メーカ「micromod社」、品番「74-01-303」、材質「シリカ」、色「赤」、粒径「3μm」の着色ビーズB-Cである。
【0049】
(2-3-6-4.着色ビーズ「D」)
図2の着色ビーズ「D」は、製品名「Polybead Dyed Microsphere」、メーカ「Polysciences社」、品番「16906-1」、材質「ポリスチレン」、色「白」、粒径「1.06μm」の着色ビーズB-Dである。
【0050】
(2-3-6-5.着色ビーズ「E」)
図2の着色ビーズ「E」は、製品名「Polybead Dyed Microsphere」、メーカ「Polysciences社」、品番「16906-1」、材質「ポリスチレン」、色「赤」、粒径「1.0μm」の着色ビーズB-Eである。
【0051】
(2-3-6-6.着色ビーズ「F」)
図2の着色ビーズ「F」は、製品名「Polybead Dyed Microsphere」、メーカ「Polysciences社」、品番「16906-1」、材質「ポリスチレン」、色「青」、粒径「1.0μm」の着色ビーズB-Fである。
【0052】
(2-3-6-7.着色ビーズ「G」)
図2の着色ビーズ「G」は、製品名「Polybead Dyed Microsphere」、メーカ「Polysciences社」、品番「16906-1」、材質「ポリスチレン」、色「黄」、粒径「1.0μm」の着色ビーズB-Gである。
【0053】
(2-3-6-8.着色ビーズ「H」)
図2の着色ビーズ「H」は、製品名「Polybead Dyed Microsphere」、メーカ「Polysciences社」、品番「16906-1」、材質「ポリスチレン」、色「紫」、粒径「0.97μm」の着色ビーズB-Hである。
【0054】
(2-3-6-9.着色ビーズ「I」)
図2の着色ビーズ「I」は、製品名「Fluorescent Red Polyethylene Microspheres」、メーカ「Cospheric社」、品番「UVPMS-BR-1.090」、材質「ポリエチレン」、色「赤」、粒径「27-32μm」の着色ビーズB-Iである。
【0055】
(2-3-6-10.着色ビーズ「J」)
図2の着色ビーズ「J」は、製品名「Fluorescent Red Polyethylene Microspheres」、メーカ「Cospheric社」、品番「UVPMS-BB-1.12」、材質「ポリエチレン」、色「青」、粒径「27-32μm」の着色ビーズB-Jである。
【0056】
(2-3-6-11.着色ビーズ「K」)
図2の着色ビーズ「K」は、製品名「Fluorescent Red Polyethylene Microspheres」、メーカ「Cospheric社」、品番「UVPMS-BV-1.00」、材質「ポリエチレン」、色「紫」、粒径「27-32μm」の着色ビーズB-Kである。
【0057】
(2-3-6-12.着色ビーズ「L」)
図2の着色ビーズ「L」は、製品名「Polybead Polystyrene Red Dyed Microsphere 6.00μm」、メーカ「Polysciences社」、品番「15714-5」、材質「ポリスチレン」、色「赤」、粒径「6μm」の着色ビーズB-Lである。
【0058】
(2-4.遠心分離工程)
以下では、菌体回収システム100の着色ビーズ添加工程の後に実施される、所定の色彩を有するビーズである着色ビーズBが添加された試料溶液を遠心分離機30によって上清Lと沈殿Pとに分離する遠心分離工程について説明する。
【0059】
(2-4-1.遠心分離工程の具体例)
例えば、遠心分離工程では、菌体培養液S、および赤色、粒径1.0μm、ポリスチレン製の着色ビーズBの懸濁液を収容した15mL容量の遠心チューブ20を遠心分離機30に設置し、3000G、10分間の条件で遠心分離する。
【0060】
(2-4-2.遠心分離機30)
上記の遠心分離工程において、遠心分離機30の種類は、特に限定されない。例えば、遠心分離機30が対応する遠心チューブ20は、15mL~50mL容量の遠沈管を設置可能な装置の他、マイクロチューブや、耐圧ガラス製の試験管等を設置可能な装置であってもよい。また、遠心分離機30の遠心加速度は、最大遠心加速度として20000G程度あればよいが、特に限定されない。また、遠心分離機30のローターは、アングルローターであっても、スイングローターであってもよい。
【0061】
(2-5.上清除去工程)
以下では、菌体回収システム100の遠心分離工程の後に実施される、上清Lを除去し、沈殿Pを回収する上清除去工程について説明する。
【0062】
(2-5-1.上清除去工程の具体例)
例えば、上清除去工程では、ピペット40として滅菌済みの駒込ピペットを使用して、遠心チューブ20の培地成分が含まれる上清Lを除去する。
【0063】
(2-5-2.ピペット40)
上記の上清除去工程において、ピペット40の種類は、特に限定されない。例えば、ピペット40は、駒込ピペットの他、スポイト、ホールピペット、メスピペット、マイクロピペット、キャピラリー等であってもよい。
【0064】
(2-6.核酸抽出工程)
以下では、菌体回収システム100の上清除去工程の後に実施される、回収された試料である菌体Cの細胞から核酸を抽出する核酸抽出工程について説明する。
【0065】
(2-6-1.核酸抽出工程の具体例)
例えば、核酸抽出工程では、試料である菌体Cに細胞の溶解を促進する溶解補助剤を添加して混合液を調製し、調製した混合液を加熱に耐久性のある核酸抽出用チューブに移し替え、核酸抽出用チューブの蓋を閉めることによって密閉し、混合液が収容された核酸抽出用チューブをヒートブロック等の加熱装置を用いて140℃、45秒間加熱することによって、菌体Cの細胞から核酸を抽出する。
【0066】
(2-6-2.溶解補助剤の種類)
菌体回収システム100の核酸抽出工程では、水のみでも上記効果を発揮するが、試料から核酸をより効率的に抽出する目的で、水以外に、界面活性剤、アルカリ、酸、酸化還元剤およびタンパク質変性剤からなる群から選ばれる少なくとも1種の溶解補助剤を含むことが好ましい。溶解補助剤は、試料の膜構造を溶解させる能力を有する。溶解補助剤が試料の膜構造に作用することで、試料を破壊しやすくなり、試料から核酸をより効率的に抽出することができる。以下では、溶解補助剤の種類について説明する。
【0067】
(2-6-2-1.界面活性剤)
溶解補助剤として使用する界面活性剤は、例えばイオン性であってもよく、非イオン性であってもよい。非イオン性の界面活性剤としては、例えばオクチルフェノールエトキシレート(C14H22O(C2H4O)n)等が挙げられる。菌体回収システム100の核酸抽出工程では、市販品のオクチルフェノールエトキシレートを用いることができ、例えばSIGMA社製のTritonX-100(C14H22O(C2H4O)n,n=100)等が挙げられる。
【0068】
また、イオン性の界面活性剤は、陰イオン性であってもよく、陽イオン性であってもよく、両イオン性であってもよい。陰イオン性の界面活性剤としては、例えばドデシル硫酸ナトリウム(SDS:Sodium Dodecyl Sulfate)等が挙げられる。陽イオン性の界面活性剤としては、例えば臭化セチルトリメチルアンモニウム(CTAB:Cetyltrimethylammonium Bromide)等が挙げられる。両イオン性の界面活性剤としては、例えばベタイン等が挙げられる。ここで、「ベタイン」とは、正電荷と負電荷とを同一分子内の隣り合わない位置に持ち、正電荷をもつ原子には解離しうる水素原子が結合しておらず、分子全体としては電荷を持たない化合物の総称のことである。ベタインの代表例としては、トリメチルグリシンが挙げられる。
【0069】
(2-6-2-2.アルカリ)
溶解補助剤として使用するアルカリとしては、例えば水酸化ナトリウム(NaOH)、または水酸化カリウム(KOH)等が挙げられる。
【0070】
(2-6-2-3.酸)
溶解補助剤として使用する酸としては、例えば塩酸(HCl)、または硫酸(H2SO4)等が挙げられる。
【0071】
(2-6-2-4.酸化還元剤)
溶解補助剤として使用する酸化還元剤としては、例えば過酸化水素水、β-メルカプトエタノール、ジチオトレイトール等が挙げられる。
【0072】
(2-6-2-5.タンパク質変性剤)
溶解補助剤として使用するタンパク質変性剤としては、例えばグアニジン塩酸塩、尿素等が挙げられる。
【0073】
(2-6-2-6.その他)
溶解補助剤の成分として、キレート剤を使用してもよい。溶解補助剤として使用するキレート剤としては、例えばエチレンジアミン四酢酸(EDTA:Ethylenediaminetetraacetic Acid)等が挙げられる。
【0074】
また、上述した溶解補助剤の中でも、菌体回収システム100の溶解補助剤は、界面活性剤を含むことが好ましく、SDSと、オクチルフェノールエトキシレートとのいずれか一方または両方を含むことがより好ましい。
【0075】
例えば、菌体回収システム100の核酸抽出工程で抽出した核酸を高感度で検出したい場合にはSDSを用いるとよい。これに対し、菌体回収システム100の核酸抽出工程で抽出した核酸を、SDSによって阻害される酵素反応に用いる場合には、試料の膜構造に対してSDSよりも温和に作用するオクチルフェノールエトキシレートを用いるとよい。
【0076】
菌体回収システム100の溶解補助剤は、必要に応じて緩衝剤を含んでもよい。緩衝剤としては、例えばトリスヒドロキシメチルアミノメタン塩酸塩(Tris-HCl)等が挙げられる。
【0077】
(2-6-3.核酸の種類)
上記の核酸抽出工程において、抽出される核酸の種類は、特に限定されない。例えば、抽出される核酸としては、デオキシリボ核酸(DNA:Deoxyribonucleic Acid)であるゲノムDNA、プラスミドDNA等や、リボ核酸(RNA:Ribonucleic Acid)であるメッセンジャーRNA、トランスファーRNA、リボソームRNA等であってもよい。
【0078】
〔3.各種実験結果〕
図3図6を用いて、実施形態に係る菌体回収システム100による各種実験結果について説明する。
【0079】
(3-1.実験結果1)
図3を用いて、菌体回収システム100による着色ビーズBの挙動を確認する実験結果1について説明する。図3は、実施形態に係る実験結果1を説明するための図である。以下では、実験手順を示しつつ、遠心分離前の着色ビーズBの状態、遠心分離後の着色ビーズBの状態、実験結果1の考察の順に説明する。
【0080】
(3-1-1.遠心分離前の着色ビーズBの状態)
図3(1)は、図2に示した着色ビーズ「E」(赤色)である着色ビーズB-Eの懸濁液10μLを、10mLの脱イオン水(DIW:Deionized Water)が入った15mLの遠心チューブ20に添加した状態を示す。図3(1)では、着色ビーズB-Eの色彩に由来する赤色の懸濁液が観察される。
【0081】
(3-1-2.遠心分離後の着色ビーズBの状態)
図3(2)は、図2に示した着色ビーズ「E」(赤色)である着色ビーズB-Eの懸濁液を、遠心分離機30によって3000G、10分間の条件で遠心分離した状態を示す。図3(2)では、着色ビーズB-Eの色彩に由来する濃い赤色の沈殿Pが観察される。
【0082】
(3-1-3.実験結果1の考察)
図3(1)および(2)の実験結果1より、菌体回収システム100では、遠心分離前の赤色の懸濁液が遠心分離後に濃い赤色の沈殿Pとして観察されるので、着色ビーズBが沈殿Pを形成することが確認できる。
【0083】
(3-2.実験結果2)
図4および図5を用いて、菌体回収システム100による菌体Cの回収量を確認する実験結果2(2-1、2-2)について説明する。以下では、着色ビーズBを添加した遠心チューブ20等の状態、着色ビーズBを使用した核酸抽出効率、実験結果2の考察の順に説明する。
【0084】
(3-2-1.遠心チューブ20等の状態)
図4を用いて、着色ビーズBを添加した遠心チューブ20等の状態について説明する。図4は、実施形態に係る実験結果2-1を説明するための図である。以下では、実験手順を示しつつ、懸濁液の状態、沈殿Pの状態、希釈液の状態について説明する。
【0085】
(3-2-1-1.懸濁液の状態)
以下のように、懸濁液の調製を実施する。第1に、SCD培地で37℃、一晩培養した大腸菌(E.coli)および黄色ブドウ球菌(S.aureus)から菌体懸濁液(約10細胞数/mL)を調製する。第2に、調製した菌体懸濁液1mLに着色ビーズB-E(着色ビーズ「E」:赤色)、着色ビーズB-F(着色ビーズ「F」:青色)および着色ビーズB-L(着色ビーズ「L」:赤色)の懸濁液5μLをそれぞれ添加する。第3に、着色ビーズBを添加しない対照試料「NC」を準備する。このとき、調製した各懸濁液(着色ビーズ「E」、着色ビーズ「F」、着色ビーズ「L」、対照試料「NC」)は、図4(1)のように観察される。
【0086】
図4(1)では、着色ビーズB-Eの懸濁液が赤色(図4(1)「E」参照)、着色ビーズB-Fの懸濁液が青色(図4(1)「F」参照)、着色ビーズB-Lの懸濁液が赤色(図4(1)「L」参照)、対照試料が無色(図4(1)「NC」参照)として観察される。
【0087】
(3-2-1-2.沈殿Pの状態)
以下のように、沈殿Pの回収を実施する。第1に、調製した各懸濁液(着色ビーズ「E」、着色ビーズ「F」、着色ビーズ「L」、対照試料「NC」)を、13000G、10分間遠心分離して沈殿Pを沈降させ、上清980μLを除去する。このとき、沈降した各沈殿P(着色ビーズ「E」、着色ビーズ「F」、着色ビーズ「L」、対照試料「NC」)は、図4(2)のように観察される。
【0088】
図4(2)では、着色ビーズB-Eの沈殿Pが濃い赤色(図4(2)「E」参照)、着色ビーズB-Fの沈殿Pが濃い青色(図4(2)「F」参照)、着色ビーズB-Lの沈殿Pが濃い赤色(図4(2)「L」参照)、対照試料の沈殿Pが無色(図4(2)「NC」参照)として観察される。
【0089】
(3-2-1-3.希釈液の状態)
以下のように、希釈液の調製を実施する。第1に、回収した沈殿Pに溶解補助剤20μLを添加して混合液を調製する。第2に、調製した混合液を核酸抽出用チューブに移し替えて、密閉して140℃、45秒間加熱する高温高圧処理を実施する。第3に、高温高圧処理後の混合液を脱イオン水で1/25倍に希釈して希釈液を調製する。第4に、調製した希釈液を遠心分離する。このとき、調製した各希釈液(着色ビーズ「E」、着色ビーズ「F」、着色ビーズ「L」、対照試料「NC」)は、図4(3)のように観察される。
【0090】
図4(3)では、着色ビーズB-Eの濃い赤色沈殿および薄い赤色溶液(図4(3)「E」参照)、着色ビーズB-Fの濃い青色沈殿および薄い青色溶液(図4(3)「F」参照)、着色ビーズB-Lの濃い赤色沈殿および薄い赤色溶液(図4(3)「L」参照)、対照試料の無色溶液(図4(3)「NC」参照)が観察される。
【0091】
(3-2-2.核酸抽出効率)
図5を用いて、着色ビーズBを使用した核酸抽出効率について説明する。図5は、実施形態に係る実験結果2-2を説明するための図である。以下では、実験手順を示しつつ、大腸菌、黄色ブドウ球菌の順に説明する。
【0092】
(3-2-2-1.大腸菌の核酸抽出効率)
以下のように、大腸菌の核酸抽出効率を算出する。第1に、大腸菌の菌体Cについて、上述した懸濁液の調製、沈殿Pの回収、希釈液の調製の順に操作を実施し、遠心分離後の希釈液を分取する。第2に、分取した大腸菌の希釈液に対して、タカラバイオ社「Bacteria-tuf gene Quntitative PCR」のプロトコルにしたがって、qPCR(quantitative Polymerase Chain Reaction)を実施し、抽出核酸量を定量する。第3に、着色ビーズBを添加していない大腸菌の抽出核酸量を100%として、核酸抽出効率を算出する。
【0093】
図5の「E.Coli」の棒グラフが示すように、着色ビーズB-E(図5「E」左参照)を添加した場合では120%強の抽出効率、着色ビーズB-F(図5「F」左参照)を添加した場合では100%程度の抽出効率、着色ビーズB-L(図5「L」左参照)を添加した場合では100%程度の抽出効率で、回収した大腸菌の沈殿Pから十分量の核酸を抽出することができる。
【0094】
(3-2-2-2.黄色ブドウ球菌の核酸抽出効率)
以下のように、黄色ブドウ球菌の核酸抽出効率を算出する。第1に、黄色ブドウ球菌の菌体Cについて、上述した懸濁液の調製、沈殿Pの回収、希釈液の調製の順に操作を実施し、遠心分離後の希釈液を分取する。第2に、分取した黄色ブドウ球菌の希釈液に対して、タカラバイオ社「Bacteria-tuf gene Quntitative PCR」のプロトコルにしたがって、qPCRを実施し、抽出核酸量を定量する。第3に、着色ビーズBを添加していない黄色ブドウ球菌の抽出核酸量を100%として、核酸抽出効率を算出する。
【0095】
図5の「S.aureus」の棒グラフが示すように、着色ビーズB-E(図5「E」右参照)を添加した場合では80%弱の抽出効率、着色ビーズB-F(図5「F」右参照)を添加した場合では80%弱の抽出効率、着色ビーズB-L(図5「L」右参照)を添加した場合では80%程度の抽出効率で、回収した黄色ブドウ球菌の沈殿Pから十分量の核酸を抽出することができる。
【0096】
(3-2-2-3.実験結果2の考察)
図4および図5の実験結果2より、菌体回収システム100では、大腸菌および黄色ブドウ球菌に対して、着色ビーズBを用いた遠心分離において菌体Cを効率よく回収することが確認できる。また、着色ビーズBの色素成分の一部が核酸を抽出した希釈液に溶出するものの、核酸抽出効率に影響を与えないことが確認できる。
【0097】
(3-3.実験結果3)
図6を用いて、菌体回収システム100による回収した菌体Cを高温高圧処理時のPCR(Polymerase Chain Reaction)阻害物質の溶出を確認する実験結果3について説明する。図6は、実施形態に係る実験結果3を説明するための図である。以下では、PCR阻害物質の評価、実験結果3の考察の順に説明する。
【0098】
(3-3-1.PCR阻害物質の評価)
図6に示す棒グラフは、調製した各懸濁液(着色ビーズ「A」、着色ビーズ「B」、着色ビーズ「C」、着色ビーズ「E」、着色ビーズ「F」、着色ビーズ「I」、着色ビーズ「L」、対照試料「NC」)それぞれについて、溶解補助剤を添加した溶液「L-sol.」、脱イオン水「DIW」、溶解補助剤かつ着色ビーズBを添加した溶液「L-sol.+Beads」ごとの、上述した高温高圧処理した後の希釈液中のPCR阻害物質の濃度nmol/Lを示す。
【0099】
図6の各棒グラフが示すように、着色ビーズB-A(図6「A」参照)では各希釈液について300~330nmol/L程度の濃度、着色ビーズB-B(図6「B」参照)では各希釈液について330~350nmol/L程度の濃度、着色ビーズB-C(図6「C」参照)では各希釈液について300~370nmol/L程度の濃度、着色ビーズB-E(図6「E」参照)では各希釈液について300~360nmol/L程度の濃度、着色ビーズB-F(図6「F」参照)では各希釈液について300nmol/L程度の濃度、着色ビーズB-I(図5「I」参照)では各希釈液について300~340nmol/L程度の濃度、着色ビーズB-L(図6「L」参照)では各希釈液について300~370nmol/L程度の濃度、対照試料(図6「NC」参照)では各希釈液について250~340nmol/L程度の濃度で、PCR阻害物質が溶出したことが確認できる。
【0100】
(3-3-2.実験結果3の考察)
図6の実験結果3より、菌体回収システム100では、着色ビーズBを用いた遠心分離において回収した菌体Cから核酸を抽出する際に、核酸抽出量に影響を与える着色ビーズB由来のPCR阻害物質(例:色素成分、高分子化合物成分)が溶出されないことが確認できる。
【0101】
〔4.菌体回収システム100の処理の流れ〕
図7を用いて、実施形態に係る菌体回収システム100の工程の流れについて説明する。図7は、実施形態に係る菌体回収工程の流れの一例を示すフローチャートである。なお、下記のステップS101~S104の工程は、異なる順序で実行することもできる。また、下記のステップS101~S104の工程のうち、省略される工程があってもよい。
【0102】
第1に、菌体回収システム100では、菌体培養液採取工程を実施する(ステップS101)。第2に、菌体回収システム100では、着色ビーズ添加工程を実施する(ステップS102)。第3に、菌体回収システム100では、遠心分離工程を実施する(ステップS103)。第4に、菌体回収システム100では、上清除去工程を実施し(ステップS104)、菌体回収工程を終了する。
【0103】
〔5.実施形態の効果〕
最後に、実施形態の効果について説明する。以下では、実施形態に係る工程に対応する効果1~6について説明する。
【0104】
(5-1.効果1)
第1に、上述した実施形態に係る工程では、所定の色彩を有する着色ビーズBを菌体培養液Sに添加し、遠心分離機30を用いて着色ビーズBが添加された菌体培養液Sを上清Lと沈殿Pとに分離し、上清Lを除去し、沈殿Pを回収する。このため、実施形態に係る工程では、遠心分離によって菌体Cを効率よく回収することができる。
【0105】
(5-2.効果2)
第2に、上述した実施形態に係る工程では、回収対象となる菌体Cの比重に対して所定の範囲内の比重である着色ビーズBを添加する。このため、実施形態に係る工程では、菌体Cと同程度の比重の着色ビーズBを使用することによって、遠心分離によって菌体Cを効率よく回収することができる。
【0106】
(5-3.効果3)
第3に、上述した実施形態に係る工程では、回収対象となる菌体Cの大きさに対して所定の範囲内の粒径である着色ビーズBを添加する。このため、実施形態に係る工程では、菌体Cと同程度の大きさの着色ビーズBを使用することによって、遠心分離によって菌体Cを効率よく回収することができる。
【0107】
(5-4.効果4)
第4に、上述した実施形態に係る工程では、着色ビーズBは、ラテックス、ポリ乳酸、シリカ、ポリスチレンまたはポリエチレンである。このため、実施形態に係る工程では、広く流通している着色ビーズBを使用することによって、遠心分離によって菌体Cを効率よく回収することができる。
【0108】
(5-5.効果5)
第5に、上述した実施形態に係る工程では、試料溶液は、菌体培養液Sである。このため、実施形態に係る工程では、遠心分離によって、さまざまな分析対象となる試料の中でも特に菌体Cを効率よく回収することができる。
【0109】
(5-6.効果6)
第6に、上述した実施形態に係る工程では、回収した菌体Cの細胞から核酸を抽出する。このため、実施形態に係る工程では、遠心分離によって菌体Cを効率よく回収し、さらに効率的に核酸を抽出することができる。
【0110】
〔システム〕
上記文書中や図面中で示した処理手順、制御手順、具体的名称、各種のデータやパラメータを含む情報については、特記する場合を除いて任意に変更することができる。
【0111】
また、図示した各装置の各構成要素は機能概念的なものであり、必ずしも物理的に図示の如く構成されていることを要しない。すなわち、各装置の分散や統合の具体的形態は図示のものに限られない。つまり、その全部または一部を、各種の負荷や使用状況などに応じて、任意の単位で機能的または物理的に分散・統合して構成することができる。
【0112】
〔その他〕
開示される技術特徴の組合せのいくつかの例を以下に記載する。
【0113】
(1)試料を含む試料溶液から前記試料を回収する試料回収方法であって、所定の色彩を有するビーズを前記試料溶液に添加する添加工程と、遠心分離機を用いて、前記ビーズが添加された前記試料溶液を上清と沈殿物とに分離する分離工程と、前記上清を除去し、前記沈殿物を回収する除去工程と、を含む試料回収方法。
【0114】
(2)前記添加工程は、回収対象となる前記試料の比重に対して所定の範囲内の比重である前記ビーズを添加する、(1)に記載の試料回収方法。
【0115】
(3)前記添加工程は、回収対象となる前記試料の大きさに対して所定の範囲内の粒径である前記ビーズを添加する、(1)または(2)に記載の試料回収方法。
【0116】
(4)前記ビーズは、ラテックス、ポリ乳酸、シリカ、ポリスチレンまたはポリエチレンである、(1)~(3)のいずれか1つに記載の試料回収方法。
【0117】
(5) 前記試料溶液は、菌体培養液である、(1)~(4)のいずれか1つに記載の試料回収方法。
【0118】
(6)前記除去工程によって回収された菌体の細胞から核酸を抽出する抽出工程、をさらに含む(1)~(5)のいずれか1つに記載の試料回収方法。
【符号の説明】
【0119】
10 菌体培養容器
20 遠心チューブ
30 遠心分離機
40 ピペット
100 菌体回収システム
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7