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  • 特開-光電変換素子及びその製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024095333
(43)【公開日】2024-07-10
(54)【発明の名称】光電変換素子及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   H10K 30/50 20230101AFI20240703BHJP
   H10K 30/40 20230101ALI20240703BHJP
   H10K 30/86 20230101ALI20240703BHJP
   H10K 85/50 20230101ALI20240703BHJP
   H10K 85/60 20230101ALI20240703BHJP
【FI】
H10K30/50
H10K30/40
H10K30/86
H10K85/50
H10K85/60
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022212547
(22)【出願日】2022-12-28
(71)【出願人】
【識別番号】519259342
【氏名又は名称】株式会社エネコートテクノロジーズ
(74)【代理人】
【識別番号】100105315
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 温
(74)【代理人】
【識別番号】100132137
【弁理士】
【氏名又は名称】佐々木 謙一郎
(72)【発明者】
【氏名】中道 真司
(72)【発明者】
【氏名】太田 美也子
【テーマコード(参考)】
3K107
5F151
5F251
【Fターム(参考)】
3K107AA03
3K107CC03
3K107CC21
3K107DD58
3K107DD71
3K107DD74
3K107DD78
3K107FF14
5F151AA11
5F151FA04
5F151FA06
5F251AA11
5F251FA04
5F251FA06
(57)【要約】      (修正有)
【課題】優れた光電変換特性を示し、かつ特性の偏りが少ない光電変換素子を提供する。
【解決手段】光電変換素子10は、第1の電極12、正孔輸送層13、ペロブスカイト化合物を含む光電変換層14、電子輸送層15、及び第2の電極。正孔輸送層13は、化学式(I)で表される化合物を含み、化学式(I)で表される化合物の少なくとも一部のArにおいて、芳香環を構成する窒素原子とアニオンとから塩が形成されている。
Ar-(L-X)n...(I)
化学式(I)において、Arは、芳香環を含む構造であり、芳香環を構成する原子中にヘテロ原子を含んでいてもよく、Arは、-L-X以外の置換基を有していてもよい。nは1以上の整数であり、nが2以上の場合は、-L-Xで表される構造は、互いに同一であっても異なっていてもよい。Lは、ArとXとを結合する2価の連結基、または単結合である。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の電極、正孔輸送層、光電変換層、電子輸送層、及び第2の電極が、この順序で積層され、
前記光電変換層が、ペロブスカイト化合物を含み、
前記正孔輸送層が、下記化学式(I)で表される化合物を含み、下記化学式(I)で表される化合物の少なくとも一部のArにおいて、前記芳香環を構成する窒素原子とアニオンとから塩が形成されている、光電変換素子。
Ar-(L-X)n...(I)
前記化学式(I)において、Arは、芳香環を含む構造であり、前記芳香環を構成する原子中に窒素原子を含み、Arは、-L-X以外の置換基を有していてもよい。nは1以上の整数であり、nが2以上の場合は、-L-Xで表される構造は、互いに同一であっても異なっていてもよい。Lは、ArとXとを結合する2価の連結基、または単結合である。Xは、前記第1の電極と化学結合あるいは水素結合が可能な基である。
【請求項2】
第1の電極、正孔輸送層、光電変換層、電子輸送層、及び第2の電極が、この順序で積層され、
前記光電変換層が、ペロブスカイト化合物を含み、
前記正孔輸送層が、下記化学式(I)で表される化合物および下記化学式(II)で表される化合物を含み、下記条件(a)または条件(b)のうち少なくとも一方を満たす、光電変換素子。
Ar-(L-X)n...(I)
前記化学式(I)において、Arは、芳香環を含む構造であり、前記芳香環を構成する原子中にヘテロ原子を含んでいてもよく、Arは、-L-X以外の置換基を有していてもよい。nは1以上の整数であり、nが2以上の場合は、-L-Xで表される構造は、互いに同一であっても異なっていてもよい。Lは、ArとXとを結合する2価の連結基、または単結合である。Xは、前記第1の電極と化学結合あるいは水素結合が可能な基である。
-L-X...(II)
は、アルコキシ基、ヒドロキシ基、カルボキシ基、ジヒドロキシホスホリル基、ジアルキルホスホリル基、ヒドロキシスルホニル基、アミノ基、モノアルキルアミノ基、ジアルキルアミノ基、モノアリールアミノ基、ジアリールアミノ基、モノアルキルアミノカルボニル基、ジアルキルアミノカルボニル基、アルキルカルボニルオキシ基、アルコキシカルボニル基、アミノカルボニル基、アミノカルボニルアミノ基、アルキルカルボニルアミノ基、アルキルスルホニルアミノ基、アミノスルホニル基、窒素含有ヘテロ環基からなる群より選ばれる置換基または構造を1つ以上含む原子団である。LはAとXを結合する2価の連結基、または単結合である。Xは前記第1の電極と化学結合あるいは水素結合が可能な基である。
条件(a):化学式(I)で表される化合物におけるArが前記芳香環を構成する原子中に窒素原子を含み、かつ、化学式(I)で表される化合物の少なくとも一部のArにおいて、前記芳香環を構成する窒素原子とアニオンとから塩が形成されている。
条件(b):化学式(II)で表される化合物におけるAが窒素原子を含み、かつ、化学式(II)で表される化合物の少なくとも一部のAにおいて、窒素原子とアニオンとから塩が形成されている。
【請求項3】
前記化学式(I)で表される化合物に対する前記化学式(II)で表される化合物のモル比率が、1:100~1:1であることを特徴とする請求項2に記載の光電変換素子。
【請求項4】
前記化学式(I)におけるXが、それぞれ独立に、ジヒドロキシホスホリル基(-P=O(OH))、カルボキシ基(-COOH)、スルホ基(-SOH)、ボロン酸基(-B(OH))、又はトリハロゲン化シリル基(-SiX、ただしXはハロ基)、トリアルコキシシリル基(-Si(OR)、ただしRはアルキル基)からなる群より選ばれる、請求項1または2に記載の光電変換素子。
【請求項5】
前記化学式(II)におけるXが、ジヒドロキシホスホリル基(-P=O(OH))、カルボキシ基(-COOH)、スルホ基(-SOH)、ボロン酸基(-B(OH))、トリハロゲン化シリル基(-SiX、ただしXはハロ基)、トリアルコキシシリル基(-Si(OR)、ただしRはアルキル基)、トリヒドロキシシリル基、ジアルキルホスホリル基からなる群より選ばれる、請求項2または3に記載の光電変換素子。
【請求項6】
前記ペロブスカイト化合物が有機無機ペロブスカイト化合物である、請求項1または2に記載の光電変換素子。
【請求項7】
前記ペロブスカイト化合物が、スズまたは鉛の少なくとも一方を含む、請求項1または2に記載の光電変換素子。
【請求項8】
前記有機無機ペロブスカイト化合物が、スズまたは鉛の少なくとも一方を含む、請求項6に記載の光電変換素子。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光電変換素子に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、クリーンエネルギーとして、太陽光発電が注目を浴びており、太陽電池の開発が進んでいる。その一つとして、低コストで製造可能な次世代型の太陽電池として、ペロブスカイト材料を光吸収層に用いた太陽電池が急速に注目を集めている。例えば、非特許文献1では、ペロブスカイト材料を光吸収層に用いた溶液型の太陽電池が報告されている。また、非特許文献2には、固体型のペロブスカイト型太陽電池が高効率を示すことも報告されている。
【0003】
ペロブスカイト型太陽電池の基本構造としては、電極の上に、電子輸送層、光吸収層(ペロブスカイト層)、正孔輸送層(ホール輸送層とも言う)及び裏面電極をこの順に積層する順型構造、電極の上に、正孔輸送層、光吸収層、電子輸送層及び裏面電極を個の順に積層する逆型構造が知られている。電子輸送層とペロブスカイト層との間に多孔質形状からなる電子輸送層を備えることもある。このうち、正孔輸送層には、一般的には、有機半導体の正孔輸送性材料が用いられている(例えば、非特許文献3~10)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Journal of the American Chemical Society, 2009, 131, 6050-6051.
【非特許文献2】Science, 2012, 388, 643-647.
【非特許文献3】ACS Appl. Mater. Interfaces, 2017, 9, 24778-24787.
【非特許文献4】Energy Environ. Sci., 2014, 7, 1454-1460.
【非特許文献5】J. Mater. Chem. A, 2014, 2, 6305-6309.
【非特許文献6】J. Mater. Chem. A, 2015, 3, 12139-12144.
【非特許文献7】J. Mater. Chem. A, 2018, 6, 7950-7958.
【非特許文献8】ACS Appl. Mater. Interfaces, 2015, 7, 11107-11116.
【非特許文献9】Energy & Environmental Science 2014, 7, 2963-2967.
【非特許文献10】Adv. Energy Mater., 2018, 8, 1801892.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来のペロブスカイト型太陽電池は、その光電変換効率が十分とは言えない。太陽電池の光電変換効率を改善するためには、特に、正孔輸送層の特性の改善が重要である。正孔輸送層に用いる正孔輸送性材料としては、例えば、これまでに、トラクセン化合物(非特許文献3)、ジケトピロロピロール化合物(非特許文献4)、チオフェン化合物(非特許文献5、6)、ジチエノピロール(非特許文献7)等が報告されている。しかし、ペロブスカイト型太陽電池として有用と言えるほどの光電変換効率を発揮することができる化合物はほとんど報告されていない。そこで、色素増感型太陽電池用の正孔輸送材料として開発されたSpiro-OMeTAD([2,2’,7,7’-テトラキス(N,N-ジ-p-メトキシフェニルアミノ)-9,9’-スピロビフルオレン])が提案されているが、耐熱性が低いことが知られている(非特許文献8)。また、PTAA(ポリ[ビス(4-フェニル)(2,4,6-トリメチルフェニル)アミン])とよばれるトリフェニルアミン骨格をもつポリマー材料も耐光性が低いことが知られている。さらに、これらの材料をpバッファ層用の正孔輸送材料として用いる場合、添加物としてLiTFSI塩(リチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド)を加えて導電性を改良する必要があり、これが素子の劣化の原因の一つになってしまうと考えられる(非特許文献9)。また、近年、ホスホン酸を有するカルバゾール型の正孔輸送材料が報告された(非特許文献10)。この化合物は透明電極として用いられているインジウムスズ化合物(ITO)と反応し、透明電極上で単分子層を形成するものである。この単分子層を形成する正孔輸送化合物は、20%を超える光電変換効率が報告されており非常に優れた化合物であるが、正孔輸送層の表面が疎水性になってしまい、この正孔輸送層上にペロブスカイト層を形成する際に、ペロブスカイト溶液のはじきの原因となってしまう。正孔輸送層の面内に一部でもはじきが発生してしまうと、光電変換特性に偏りが生じ、大型化の際には大きな問題となってしまう。
【0006】
本発明は、優れた光電変換特性を示し、かつ特性の偏りが少ない光電変換素子の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明のある態様は、光電変換素子である。当該光電変換素子は、
第1の電極、正孔輸送層、光電変換層、電子輸送層、及び第2の電極が、この順序で積層され、
前記光電変換層が、ペロブスカイト化合物を含み、
前記正孔輸送層が、下記化学式(I)で表される化合物を含み、下記化学式(I)で表される化合物の少なくとも一部のArにおいて、前記芳香環を構成する窒素原子とアニオンとから塩が形成されている。
Ar-(L-X)n...(I)
前記化学式(I)において、Arは、芳香環を含む構造であり、前記芳香環を構成する原子中にヘテロ原子を含んでいてもよく、Arは、-L-X以外の置換基を有していてもよい。nは1以上の整数であり、nが2以上の場合は、-L-Xで表される構造は、互いに同一であっても異なっていてもよい。Lは、ArとXとを結合する2価の連結基、または単結合である。Xは、前記第1の電極と化学結合あるいは水素結合が可能な基である。
本発明の他の態様は、光電変換素子である。当該光電変換素子は、
第1の電極、正孔輸送層、光電変換層、電子輸送層、及び第2の電極が、この順序で積層され、
前記光電変換層が、ペロブスカイト化合物を含み、
前記正孔輸送層が、下記化学式(I)で表される化合物および下記化学式(II)で表される化合物を含み、下記条件(a)または条件(b)のうち少なくとも一方を満たす。
Ar-(L-X)n...(I)
前記化学式(I)において、Arは、芳香環を含む構造であり、前記芳香環を構成する原子中に窒素原子を含み、Arは、-L-X以外の置換基を有していてもよい。nは1以上の整数であり、nが2以上の場合は、-L-Xで表される構造は、互いに同一であっても異なっていてもよい。Lは、ArとXとを結合する2価の連結基、または単結合である。Xは、前記第1の電極と化学結合あるいは水素結合が可能な基である。
-L-X...(II)
は、アルコキシ基、ヒドロキシ基、カルボキシ基、ジヒドロキシホスホリル基、ジアルキルホスホリル基、ヒドロキシスルホニル基、アミノ基、モノアルキルアミノ基、ジアルキルアミノ基、モノアリールアミノ基、ジアリールアミノ基、モノアルキルアミノカルボニル基、ジアルキルアミノカルボニル基、アルキルカルボニルオキシ基、アルコキシカルボニル基、アミノカルボニル基、アミノカルボニルアミノ基、アルキルカルボニルアミノ基、アルキルスルホニルアミノ基、アミノスルホニル基、窒素含有ヘテロ環基からなる群より選ばれる置換基または構造を1つ以上含む原子団である。LはAとXを結合する2価の連結基、または単結合である。Xは前記第1の電極と化学結合あるいは水素結合が可能な基である。
条件(a):化学式(I)で表される化合物におけるArが前記芳香環を構成する原子中に窒素原子を含み、かつ、化学式(I)で表される化合物の少なくとも一部のArにおいて、前記芳香環を構成する窒素原子とアニオンとから塩が形成されている。
条件(b):化学式(II)で表される化合物におけるAが窒素原子を含み、かつ、化学式(II)で表される化合物の少なくとも一部のAにおいて、窒素原子とアニオンとから塩が形成されている。
上記態様の光電変換素子において、前記化学式(I)で表される化合物に対する前記化学式(II)で表される化合物のモル比率が、1:100~1:1であってもよい。
また、前記化学式(I)におけるXが、それぞれ独立に、ジヒドロキシホスホリル基(-P=O(OH))、カルボキシ基(-COOH)、スルホ基(-SOH)、ボロン酸基(-B(OH))、又はトリハロゲン化シリル基(-SiX、ただしXはハロ基)、トリアルコキシシリル基(-Si(OR)、ただしRはアルキル基)からなる群より選ばれてもよい。
前記化学式(II)におけるXが、ジヒドロキシホスホリル基(-P=O(OH))、カルボキシ基(-COOH)、スルホ基(-SOH)、ボロン酸基(-B(OH))、トリハロゲン化シリル基(-SiX、ただしXはハロ基)、トリアルコキシシリル基(-Si(OR)、ただしRはアルキル基)、トリヒドロキシシリル基、ジアルキルホスホリル基からなる群より選ばれてもよい。
前記ペロブスカイト化合物が有機無機ペロブスカイト化合物であってもよい。
前記ペロブスカイト化合物が、スズまたは鉛の少なくとも一方を含んでもよい。
前記有機無機ペロブスカイト化合物が、スズまたは鉛の少なくとも一方を含んでもよい。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、正孔輸送層が優れた光電変換特性を示し、かつ均一なペロブスカイト層が形成されることによってサイズが大きくなっても特性の偏りが少ない光電変換素子を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1図1は、実施形態に係る光電変換素子の構成の一例を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明について、例を挙げてさらに詳細に説明する。ただし、本発明は、以下の説明により限定されない。なお、以下においては、実施形態に係る光電変換素子が太陽電池である場合について説明する。
【0011】
[光電変換素子]
図1は、実施形態に係る光電変換素子10の構成の一例を示す断面図である。なお、図1は、説明の便宜のため、適宜省略、誇張等をして模式的に描いている。図1に示すように、光電変換素子10は、支持体(基板、基材などとも言う)11上に、第1の電極12、正孔輸送層13、光電変換層14、電子輸送層15、及び第2の電極16が、この順序で積層された積層構造を有する。
以下、光電変換素子10の各構成について詳細に説明する。
【0012】
[支持体]
支持体11は、特に限定されず、例えば、一般的な太陽電池等の光電変換素子に使用可能な基板を適宜用いてもよい。前記基板としては、例えば、ガラス、プラスチック板、プラスチック膜、無機結晶体等が挙げられる。また、これらの基板表面の一部又は全部の上に,金属膜,半導体膜,導電性膜及び絶縁性膜の少なくとも1種の膜が形成されている基板も、支持体11として好適に用いることができる。支持体11の大きさ、厚み等も特に限定されず、例えば、一般的な太陽電池等の光電変換素子と同様又はそれに準じてもよい。
【0013】
[第1の電極]
第1の電極12は、例えば、正孔輸送層13を支持するとともに、光電変換層14から正孔を取り出す機能を有する層である。また、第1の電極12は、例えば、カソード(正極)として働く層である。
【0014】
第1の電極12は、例えば、支持体11上に直接形成してもよい。第1の電極12は、例えば、導電体から形成された透明電極であってもよい。前記透明電極はとしては、特に限定されないが、例えば、スズドープ酸化インジウム(ITO)膜、不純物ドープの酸化インジウム(In2O3)膜、不純物ドープの酸化亜鉛(ZnO)膜、フッ素ドープ二酸化スズ(FTO)膜、これらの二種以上を積層して形成された積層膜、金、銀、銅、アルミニウム、タングステン、チタン、クロム、ニッケル、及びコバルトなどが挙げられる。これらは単独でも2種類以上の混合であっても、また、単層でも積層であっても構わない。また、これらの膜は、例えば拡散防止層として機能するものであってもよい。第1の電極12の厚みは特に制限されないが、例えば、シート抵抗が5~15Ω/□(単位面積当たり)となるように調整することが好ましい。第1の電極12の形成方法は特に限定されないが、例えば、形成する材料に応じ、公知の成膜方法により得ることができる。また、第1の電極12の形状も特に限定されないが、例えば、膜状であっても、メッシュ状のような格子状に形成されていても構わない。支持体11上に第1の電極12を形成する方法は特に限定されないが、例えば、公知の方法でもよく、例えば、真空蒸着やスパッタリング等の真空製膜が好ましい。また第1の電極12はパターニングされたものを用いてもよい。パターニング方法としては、という二限定されないが、例えば、レーザーやエッチング液に浸す方法、真空製膜時にマスクを用いてパターニングする方法等が挙げられ、本発明においては何れの方法であっても構わない。また、第1の電極12は、電気的抵抗値を下げる目的で、金属配線などを併用してもよい。前記金属配線(金属リード線)の材質としては、特に限定されないが、例えば、アルミニウム、銅、銀、金、白金、ニッケルなどが挙げられる。前記金属リード線は、例えば、蒸着、スパッタリング、圧着などで第1の基板に形成し、その上にITOやFTOの層を設ける、あるいはITOやFTOの上に設けることにより併用することが可能である。
【0015】
[正孔輸送層]
(正孔輸送層の第1の態様)
正孔輸送層13の第1の態様において、正孔輸送層13は、下記化学式(I)で表される化合物を含み、下記化学式(I)で表される化合物の少なくとも一部のArにおいて、前記芳香環を構成する窒素原子とアニオンとから塩が形成されている。なお、より好ましい態様では、正孔輸送層13において、下記化学式(I)で表される化合物が第1の電極12と化学結合あるいは水素結合している。
なお、塩が形成されている少なくとも一部のArにおいて、芳香環を構成する窒素原子が複数存在する場合、それらの全てにおいてアニオンと塩を形成していてもよいし、一部のみでアニオンと塩を形成していてもよい。
Ar-(L-X)n...(I)
正孔輸送層が第1の態様である場合、前記化学式(I)において、Arは、芳香環を含む構造であり、前記芳香環を構成する原子中に窒素原子を含み、Arは、-L-X以外の置換基を有していてもよい。nは1以上の整数であり、nが2以上の場合は、-L-Xで表される構造は、互いに同一であっても異なっていてもよい。Lは、ArとXとを結合する2価の連結基、または単結合である。Xは、前記第1の電極と化学結合あるいは水素結合が可能な基である。
【0016】
(化学式(I)で表される化合物)
化学式(I)において、Xはそれぞれ独立に、ジヒドロキシホスホリル基(-P=O(OH))、カルボキシ基(-COOH)、スルホ基(-SOH)、ボロン酸基(-B(OH))、トリハロゲン化シリル基(-SiX、ただしXはハロ基)、トリアルコキシシリル基(-Si(OR)、ただしRはアルキル基)、トリヒドロキシシリル基、ジアルキルホスホリル基からなる群より選ばれる。
【0017】
正孔輸送層が第1の態様である場合、化学式(I)において、Arは、具体的には、例えば、芳香環基、複数の芳香環基が単結合で結合してなる基、及び1以上の芳香環基が芳香族性を有さない環に縮環してなる基のいずれかであって、これらの基に含まれる1以上の芳香環基のうちの少なくとも1つが窒素原子を(好ましくは1~5個)含むものである基が好ましい。
【0018】
上記芳香環基、上記複数の芳香環基が単結合で結合してなる基、及び上記1以上の芳香環基が芳香族性を有さない環に縮環してなる基における、各芳香環基は、それぞれ独立に、単環でも多環(例えば2~14環)でもよく、1以上(例えば1~10)のヘテロ原子(窒素原子、硫黄原子、及び/又は酸素原子等)を有していてもよい。上記芳香環基の環員原子数は、5~40が好ましい。
上記芳香環基としては、例えば、ベンゼン環基、ピロール環基、フラン環基、チオフェン環基、及び、これらから選択される2以上(例えば2~14)が縮環してなる基が挙げられる。
ただし、Arが、芳香環基そのものである場合、当該芳香環基は、窒素原子を有する芳香環基である。
窒素原子を有する芳香環基は、単環でも多環(例えば2~14環)でもよく、1以上(例えば1~10)の窒素原子を有し、窒素原子以外のヘテロ原子(硫黄原子、及び/又は酸素原子等)を1以上(例えば1~10)有していてもよく、環員原子数は、5~40が好ましい。なお、芳香環基が多環の場合、複数の環のうちの少なくとも1つにおいて環員原子として窒素原子が存在していれば、当該多環は窒素原子を有する芳香環基に該当する。
【0019】
上記複数の芳香環基が単結合で結合してなる基を構成する芳香環基において単結合で結合する芳香環基の数は、例えば、2~6が好ましい。これらの芳香環基のうちの少なくとも1つ(例えば1~6)は、上述の窒素原子を有する芳香環基である。
【0020】
上記1以上の芳香環基が芳香族性を有さない環に縮環してなる基のうち、芳香族性を有さない環に縮環する芳香環基の数は、例えば、2~6が好ましい。上記縮環する芳香環基の数が1の場合、当該芳香環基は上述の窒素原子を有する芳香環基である。上記縮環する芳香環基の数が2以上の場合、これらの芳香環基のうちの少なくとも1つ(例えば1~6)は、上述の窒素原子を有する芳香環基である。
上記1以上の芳香環基が芳香族性を有さない環に縮環してなる基に、芳香族性を有さない環は、1つのみ存在していても複数存在していてもよい。
上記1以上の芳香環基が芳香族性を有さない環に縮環してなる基のうち、芳香族性を有さない環は、それぞれ独立に、単環でも多環(例えば2~14環)でもよく、1以上(例えば1~10)のヘテロ原子(窒素原子、硫黄原子、及び/又は酸素原子等)を有していてもよい。
上記1以上の芳香環基が芳香族性を有さない環に縮環してなる基の具体例としては、フェノチアジン環基、及び1,2:3,4:5,6:7,8-テトラキス[イミノ(1,2-フェニレン)]シクロオクタテトラエン環基が挙げられる。
【0021】
正孔輸送層が第1の態様である場合、化学式(I)において、2価の連結基であるLは、例えば、*1-アルキレン基-*2、*1-アルキレン基-芳香環基-*2が挙げられる。ここで、*1はAr側の結合位置を表し、*2はX側の結合位置を表す。上記アルキレン基は、直鎖状でも分岐鎖状でもよく、炭素数は1~6が好ましい。上記芳香環基は、例えばArがなり得る芳香環基として上述したものと同様の芳香環基が挙げられる。上記アルキレン基及び上記芳香環基は、更に置換基を有していてもよい。
【0022】
正孔輸送層が第1の態様である場合、上記化学式(I)で表される化合物の少なくとも一部のArにおいて、芳香環を構成する窒素原子とアニオンとから塩が形成される場合、塩は、酸付加塩でもよいが、塩基付加塩でもよい。さらに、前記酸付加塩を形成する酸は無機酸でも有機酸でもよく、前記塩基付加塩を形成する塩基は無機塩基でも有機塩基でもよい。前記無機酸としては、特に限定されないが、例えば、硫酸、リン酸、フッ化水素酸、塩酸、臭化水素酸、ヨウ化水素酸、次亜フッ素酸、次亜塩素酸、次亜臭素酸、次亜ヨウ素酸、亜フッ素酸、亜塩素酸、亜臭素酸、亜ヨウ素酸、フッ素酸、塩素酸、臭素酸、ヨウ素酸、過フッ素酸、過塩素酸、過臭素酸、および過ヨウ素酸等があげられる。前記有機酸も特に限定されないが、例えば、p-トルエンスルホン酸、メタンスルホン酸、シュウ酸、p-ブロモベンゼンスルホン酸、炭酸、コハク酸、クエン酸、安息香酸および酢酸等があげられる。前記無機塩基としては、特に限定されないが、例えば、水酸化アンモニウム、アルカリ金属水酸化物、アルカリ土類金属水酸化物、炭酸塩および炭酸水素塩等があげられ、より具体的には、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム、水酸化カルシウムおよび炭酸カルシウム等があげられる。前記有機塩基も特に限定されないが、例えば、エタノールアミン、トリエチルアミンおよびトリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン等があげられる。これらの塩の製造方法も特に限定されず、例えば、上記化学式(I)で表される化合物に、上述した酸や塩基を公知の方法により適宜付加させる等の方法で製造することができる。
【0023】
正孔輸送層が第1の態様である場合に、化学式(I)で表される化合物の少なくとも一部のArにおいて、芳香環を構成する窒素原子と塩を形成するアニオンの例としては、OH,O 、SO 2-、PO 3-、F、Cl、Br、I、CN、FO、ClO、BrO、IO、ClO 、BrO 、IO 、ClO 、BrO 、IO 、ClO 、BrO 、IO 、HIO 、HIO 2-、HIO 3-、HCO 、CO 2-、p-トルエンスルホン酸アニオン、メタンスルホン酸アニオン、シュウ酸アニオン、p-ブロモベンゼンスルホン酸アニオン、コハク酸アニオン、クエン酸アニオン、安息香酸アニオン、及び酢酸アニオンが挙げられる。
また、アニオンは、RCOO、RSO 、ROPO(OH)O、RPO(OH)O、ROSO 、L(-COOで表されるアニオンであってもよい。
上記においてRは、それぞれ独立に水素原子又は有機基を表す。有機基としては炭素数1~14が好ましい。
上記においてnは、2以上の整数を表し、2~6が好ましい。
上記においてLは、n価の連結基を表し、nが2の場合は単結合であってもよい。n価の連結基は炭素数1~10が好ましい。
アニオンの価数に制限はなく、例えば1~6である。
【0024】
化学式(I)で表される化合物およびその塩は、例えば、第1の電極12上に単分子層として形成されていてもよい。
正孔輸送層が第1の態様である場合、正孔輸送層13において、化学式(I)で表される化合物(ただし、上述した塩の形態を含む)の含有量は、正孔輸送層13の質量に対して、20~100質量%が好ましく、60~100質量%がより好ましく、99~100質量%がさらに好ましい。
【0025】
(正孔輸送層の第2の態様)
正孔輸送層13の第2の態様において、正孔輸送層13は、下記化学式(I)で表される化合物および下記化学式(II)で表される化合物を含み、下記条件(a)または条件(b)のうち少なくとも一方を満たす。なお、より好ましい態様では、正孔輸送層13において、下記化学式(I)で表される化合物および下記化学式(II)で表される化合物が前記第1の電極と化学結合あるいは水素結合している。
Ar-(L-X)n...(I)
正孔輸送層が第2の態様である場合、前記化学式(I)において、Arは、芳香環を含む構造であり、前記芳香環を構成する原子中にヘテロ原子を含んでいてもよく、Arは、-L-X以外の置換基を有していてもよい。nは1以上の整数であり、nが2以上の場合は、-L-Xで表される構造は、互いに同一であっても異なっていてもよい。Lは、ArとXとを結合する2価の連結基、または単結合である。Xは、前記第1の電極と化学結合あるいは水素結合が可能な基である。
-L-X...(II)
は、アルコキシ基、ヒドロキシ基、カルボキシ基、ジヒドロキシホスホリル基、ジアルキルホスホリル基、ヒドロキシスルホニル基、アミノ基、モノアルキルアミノ基、ジアルキルアミノ基、モノアリールアミノ基、ジアリールアミノ基、モノアルキルアミノカルボニル基、ジアルキルアミノカルボニル基、アルキルカルボニルオキシ基、アルコキシカルボニル基、アミノカルボニル基、アミノカルボニルアミノ基、アルキルカルボニルアミノ基、アルキルスルホニルアミノ基、アミノスルホニル基、窒素含有ヘテロ環基からなる群より選ばれる置換基または構造を1つ以上含む原子団である。LはAとXを結合する2価の連結基、または単結合である。Xは前記第1の電極と化学結合あるいは水素結合が可能な基である。
条件(a):化学式(I)で表される化合物におけるArが前記芳香環を構成する原子中に窒素原子を含み、かつ、化学式(I)で表される化合物の少なくとも一部のArにおいて、前記芳香環を構成する窒素原子とアニオンとから塩が形成されている。
なお、塩が形成されている少なくとも一部のArにおいて、芳香環を構成する窒素原子が複数存在する場合、それらの全てにおいてアニオンと塩を形成していてもよいし、一部のみでアニオンと塩を形成していてもよい。
条件(b):化学式(II)で表される化合物におけるAが窒素原子を含み、かつ、化学式(II)で表される化合物の少なくとも一部のAにおいて、窒素原子とアニオンとから塩が形成されている。
なお、塩が形成されている少なくとも一部のAにおいて、窒素原子が複数存在する場合、それらの全てにおいてアニオンと塩を形成していてもよいし、一部のみでアニオンと塩を形成していてもよい。
【0026】
(化学式(I)で表される化合物)
・条件(a)を満たす場合
光電変換素子が条件(a)を満たす場合は、化学式(I)で表される化合物は、正孔輸送層の第1の態様で説明した化学式(I)で表される化合物と同様であり、説明を省略する。
条件(a)を満たす場合に化学式(I)で表される化合物の少なくとも一部のArにおいて、芳香環を構成する窒素原子とアニオンとから塩を形成される態様についても、正孔輸送層の第1の態様で説明した化学式(I)で表される化合物が少なくとも一部のArにおいて、芳香環を構成する窒素原子とアニオンとから塩が形成される態様と同様であり、説明を省略する。塩を形成するために使用可能な酸、塩基、及びアニオンについても同様であり、説明を省略する。
【0027】
・条件(a)を満たさない場合
光電変換素子が条件(a)を満たさない場合、化学式(I)で表される化合物は、Arに相当する構造(芳香環を含む構造)が、芳香環を構成する原子中に窒素原子を含まない形態でも、含む形態でもよい。また、Arに相当する構造(芳香環を含む構造)が、芳香環を構成する原子中に窒素原子を含む場合であっても、いずれのArにおいても芳香環を構成する窒素原子とアニオンとから塩が形成されていないのであれば、条件(a)を満たさない。
光電変換素子が条件(a)を満たさない場合、化学式(I)において、Arは、具体的には、例えば、芳香環基、複数の芳香環基が単結合で結合してなる基、及び1以上の芳香環基が芳香族性を有さない環に縮環してなる基が好ましい。
【0028】
上記芳香環基は、単環でも多環(例えば2~14環)でもよく、1以上(例えば1~10)のヘテロ原子(窒素原子、硫黄原子、及び/又は酸素原子等)を有していてもよい。上記芳香環基の環員原子数は、5~40が好ましい。
上記芳香環基としては、例えば、ベンゼン環基、ピロール環基、フラン環基、チオフェン環基、及び、これらから選択される2以上(例えば2~14)が縮環してなる基が挙げられる。
【0029】
上記複数の芳香環基が単結合で結合してなる基を構成する芳香環基は、例えば、上述した芳香環基が挙げられる。単結合で結合する芳香環基の数は、例えば、2~6が好ましい。
上記複数の芳香環基が単結合で結合してなる基の具体例としては、ビフェニル環基、ビチオフェン環基が挙げられる。
【0030】
上記1以上の芳香環基が芳香族性を有さない環に縮環してなる基を構成する芳香環基は、例えば、上述した芳香環基が挙げられる。
上記1以上の芳香環基が芳香族性を有さない環に縮環してなる基のうち、芳香族性を有さない環に縮環する芳香環基の数は、例えば、2~6が好ましい。
上記1以上の芳香環基が芳香族性を有さない環に縮環してなる基に、芳香族性を有さない環は、1つのみ存在していても複数存在していてもよい。
上記1以上の芳香環基が芳香族性を有さない環に縮環してなる基のうち、芳香族性を有さない環は、それぞれ独立に、単環でも多環(例えば2~14環)でもよく、1以上(例えば1~10)のヘテロ原子(窒素原子、硫黄原子、及び/又は酸素原子等)を有していてもよい。
上記1以上の芳香環基が芳香族性を有さない環に縮環してなる基の具体例としては、フェノチアジン環基、及び1,2:3,4:5,6:7,8-テトラキス[イミノ(1,2-フェニレン)]シクロオクタテトラエン環基が挙げられる。
【0031】
光電変換素子が条件(a)を満たさない場合の化学式(I)は、Arの要件以外については正孔輸送層の第1の態様で説明した化学式(I)と同様であり、その他の説明を省略する。
光電変換素子が条件(a)を満たさない場合の化学式(I)で表される化合物も、可能である場合、アニオンと塩を形成していてもよく、塩は、酸付加塩でもよいが、塩基付加塩でもよい。前記酸付加塩を形成する酸、及び前記塩基付加塩を形成する塩基については、正孔輸送層が第1の態様である場合に化学式(I)で表される化合物の少なくとも一部のArにおいて、芳香環を構成する窒素原子とアニオンとから塩が形成される場合について説明した酸及び塩基と同様であり、説明を省略する。塩を形成するために使用可能なアニオンについても同様であり、説明を省略する。
【0032】
正孔輸送層の第1又は第2の態様で使用可能な化学式(I)で表される化合物の具体例として、以下の構造の化合物(A-01)~(A-30)が挙げられる。なお、以下において、化学式(I)で表される化合物が化合物(A-01)~(A-06)である場合は、条件(a)を満たさない。
【化1】
【化2】
【化3】
【化4】
【化5】
【化6】
【化7】
【0033】
化学式(I)で表される化合物において、芳香環を構成する窒素原子とアニオンとから塩が形成されている場合として、以下の構造の化合物(A-06a)~(A-30a)が挙げられる。なお、化合物(A-06a)~(A-30a)において、「AN」はアニオンを表す。アニオン(AN)としては、例えば、正孔輸送層が第1の態様である場合に化学式(I)で表される化合物と塩を形成するアニオンの例としては挙げたアニオンのうちの1価のアニオンが挙げられる。
【化8】
【化9】
【化10】
【化11】
【化12】
【化13】
【化14】
【0034】
化学式(I)で表される化合物およびその塩は、例えば、第1の電極12上に単分子層として形成されていてもよい。
【0035】
(化学式(II)で表される化合物)
正孔輸送層が第2の態様である場合、本実施形態に係る光電変換素子10を構成する正孔輸送層13では、上述の化学式(I)で表される化合物に加えて、上述の化学式(II)で表される化合物が共吸着剤として併用されている。
化学式(II)で表される化合物において、Aが、親水性の機能を有することにより、正孔輸送層13の上に塗布形成されるペロブスカイト溶液に対する濡れ性が改良される。ペロブスカイト溶液に対する濡れ性が改良されることにより、ペロブスカイト層の膜厚を均一に塗布することができるため、特に大面積塗布の際にバラツキが少なくなる効果が奏されると考えられる。
【0036】
化学式(II)において、Aは、モノアルキルアミノ基、ジアルキルアミノ基、モノアリールアミノ基、ジアリールアミノ基、アミノカルボニルアミノ基、アルキルカルボニルアミノ基、アルキルスルホニルアミノ基などの有機アミノ基、アルコキシ基、ヒドロキシ基、カルボキシ基、ジヒドロキシホスホリル基、ジアルキルホスホリル基、ヒドロキシスルホニル基、アミノ基、モノアルキルアミノカルボニル基、ジアルキルアミノカルボニル基、アルキルカルボニルオキシ基、アルコキシカルボニル基、アミノカルボニル基、アミノスルホニル基、窒素含有ヘテロ環基(芳香族性を有していても有していなくてもよく、単環でも多環でもよく、環員原子数は5~15が好ましく、環員原子中の窒素原子の数は1~5が好ましく、窒素原子以外のヘテロ原子を(好ましくは1~3個)有していてもよい。例えばピリジン環基、キノリン環基、アジリジン環基、アゼチジン環基、ピロリジン環基、イミダゾリジン環基、イミダゾリジン-2-オン環基、2,3-ジヒドロ-1H-ピロール環基、ピロール環基、ピラゾール環基、イミダゾール環基、1H-1,2,3-トリアゾール環基、2H-1,2,3-トリアゾール環基、チアゾール環基、モルホリン環基、ピペリジン環基、ピペラジン環基、ピラジン環基、ヘキサメチレンイミン環基、1H-アゼピン環基、インドール環基、2,3-トリメチレンインドリン環基、キノキサリン環基)からなる群より選ばれる置換基または構造を1つ以上含む原子団である。Aは、上記において列挙した置換基または構造そのものであってもよい。なお、Aにおいて上記において列挙した置換基または構造がアルキル基部分(アルコキシ基におけるアルキル基である部分等を含む)を有する場合、当該アルキル基は、それぞれ独立に、直鎖状でも分岐鎖状でもよく、炭素数は1~8が好ましい。
【0037】
ただし、条件(b)を満たす場合、化学式(II)おけるAは窒素原子を含む。
条件(b)を満たす場合、化学式(II)おけるAは具体的には、アミノ基、モノアルキルアミノ基、ジアルキルアミノ基、モノアリールアミノ基、ジアリールアミノ基、モノアルキルアミノカルボニル基、ジアルキルアミノカルボニル基、アミノカルボニルアミノ基、アルキルカルボニルアミノ基、アルキルスルホニルアミノ基、アミノスルホニル基、又は窒素含有ヘテロ環基であることが好ましい。
なお、塩が形成されている少なくとも一部のAにおいて、窒素原子が複数存在する場合、それらの全てにおいてアニオンと塩を形成していてもよいし、一部のみでアニオンと塩を形成していてもよい。
【0038】
光電変換素子が条件(b)を満たさない場合、化学式(II)で表される化合物は、Aに相当する原子団が、窒素原子を含まない形態でも、含む形態でもよい。なお、Aに相当する原子団が、窒素原子を含む場合であっても、いずれのAにおいても窒素原子とアニオンとから塩が形成されていないのであれば、条件(b)を満たさない。
化学式(II)において、Xはそれぞれ独立に、ジヒドロキシホスホリル基(-P=O(OH))、カルボキシ基(-COOH)、スルホ基(-SOH)、ボロン酸基(-B(OH))、トリハロゲン化シリル基(-SiX、ただしXはハロ基)、又はトリアルコキシシリル基(-Si(OR)、ただしRはアルキル基)、トリヒドロキシシリル基の、ジアルキルホスホリル基からなる群より選ばれる。
【0039】
化学式(II)において、2価の連結基であるLは、例えば、アルキレン基(直鎖状でも分岐鎖状でもよく、炭素数は1~8が好ましい)、ビニレン基、ビニリデン基、アセチレン基、芳香環基(例えば条件(a)を満たさない場合の化学式(I)におけるArがなり得る芳香環基として説明した芳香環基)、非芳香環基(単環でも多環でもよく、ヘテロ原子を有していてもよい。例えばピペラジン環基が挙げられる)、-O-、-S-、-NR-(Rは水素原子又はアルキル基。アルキル基は直鎖状でも分岐鎖状でもよく、炭素数は1~8が好ましい)、及び、これらのうちの2以上(例えば2~6)の組み合わせからなる2価の連結基が挙げられる。上記2以上の組み合わせからなる2価の連結基は、同種の基の組み合わせであってもよい(ただし、アルキレン基同士が連続して結合する組み合わせは含まない)。
これらの2価の連結基は可能な場合は更に置換基を1個以上(例えば1~6個)有していてもよく、例えば、置換基として1個以上(例えば1~6個)のA又はXとして説明したものと同様の基を有していてもよい。
【0040】
化学式(II)で表される化合物の具体例としては、3-メトキシプロピオン酸、3-ヒドロキシプロピオン酸、2-ヒドロキシプロピオン酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、セバシン酸、フタル酸、テレフタル酸、マレイン酸、フマル酸、シトラコン酸、メサコン酸、メチレンコハク酸、アリルマロン酸、イソプロピリデンコハク酸、アセチレンジカルボン酸、テレフテル酸ジメチル、テレフタル酸ジエチル、4,4‘-ビフェニルジカルボン酸、4,4‘-ビフェニルジカルボン酸ジエチル、4-メトキシ安息香酸、3,4-ジメトキシ安息香酸、4-(メチルアミノ)安息香酸、4-(メチルアミノ)ベンゼンスルホン酸、4-(メチルアミノ)ブタン酸、3-(カルボキシメチルアミノ)プロピオン酸、6-アセトキシ-2-ナフトエ酸、アセチルサリチル酸、4-(メトキシカルボニル)シクロヘキサンカルボン酸、4-(メトキシカルボニル)フェニルボロン酸、4-(N,N-ジエチルアミノカルボニル)フェニルボロン酸、3-(メチルアミノカルボニル)アクリル酸、N-(アミノカルボニル)アスパラギン酸、4-アセチルアミノ安息香酸、2-(アセチルアミノ)アクリル酸、没食子酸、4-ピリジンカルボン酸、6-キノリンカルボン酸、アスパラギン酸、2,2-ジエトキシエチルホスホン酸、メチレンジホスホン酸、1,2-エチレンジホスホン酸、1,2-エチレンジホスホン酸テトラエチル、1,3-プロピレンジホスホン酸、3,4-ジメトキシフェニルホスホン酸、(4-ヒドロキシベンジル)ホスホン酸、4-ヒドロキシフェニルホスホン酸、[3-(3-カルボキシピペラジン-1-イル)プロピル]ホスホン酸、(ピリジン-4-イルメチル)ホスホン酸、(ピリジン-3-イルメチル)ホスホン酸、4-ホスホノ安息香酸、3-ホスホノプロピオン酸、4-ホスホノブチル酸、ジエチル(4-メトキシベンジル)ホスホネート、p-カルボキシベンゼンスルホニルアミド、2-(ジメチルアミノ)エタンスルホン酸、1,2-エタンスルホン酸などが挙げられる。
【0041】
の具体例としては、1,1-エチレン、1,2-エチレン、1,3-プロピレン、2-エチル-1,6-ヘキシレンなどのアルキレンが挙げられ、アルキレンの一部が炭素-炭素二重結合を有するアルケニレンや三重結合を有するアルキニレンであっても構わない。また、1,2-フェニレン、1,4-フェニレン、1,5-ナフチレン、4,4‘-ビフェニレンなどのアリーレン、2,5-チエニレン、5,5’-ビチエニレン、2,5-チエノ[3,2-b]チエニレン、2,6-ピリジレンなどの2価のヘテロ環を挙げることができる。
【0042】
条件(b)を満たす場合、化学式(II)で表される化合物の少なくとも一部のAにおいて、窒素原子とアニオンと塩を形成される場合における、塩の態様、使用可能な酸、塩基、及びアニオンの種類等は、正孔輸送層が第1の態様である場合に化学式(I)で表される化合物の少なくとも一部のArにおいて、芳香環を構成する窒素原子がアニオンと塩が形成される場合における、塩の態様、使用可能な酸、塩基、及びアニオンの種類等と同様であり、説明を省略する。
【0043】
また、条件(b)を満たす場合に、上記化学式(II)で表される化合物において、窒素原子とアニオンとから塩が形成されている場合として、アンモニウム塩、アジリジニウム塩、アジリニウム塩、アゼチジニウム塩、ピロリジニウム塩、ピロリニウム塩、ピラゾリニウム塩、ピロリニウム塩、ピラゾリニウム塩、イミダゾリニウム塩、トリアゾリニウム塩、テトラゾリニウム塩、ピペリジニウム塩、ピペラジニウム塩、ピリジニウム塩、ピラジニウム塩、モルホリニウム塩、チアゾリニウム塩、アゼパニウム塩、アゼピニウム塩、インドリニウム塩、インドリニウム塩、キノリニウム塩、イソキノリニウム塩、キノキサリニウム塩、フェナントロリニウム塩、フェナジニウム塩などが挙げられる。上記化学式(II)で表される化合物と反応して塩を形成する酸としては、上述の有機酸、無機酸のいずれであっても混合であっても構わない。
【0044】
化学式(II)において、塩を形成していない具体例(ITO上に正孔輸送層を形成した後に塩にする手法の場合のための具体例)として、以下の構造の化合物(B-01)~(B-52)が挙げられる。
【化15】
【化16】
【化17】
【化18】
【化19】
【化20】
【0045】
化学式(II)で表される化合物において、窒素原子とアニオンとから塩が形成されている場合として、より具体的には、以下の構造の化合物(B-01a)~(B-52a)が挙げられる。なお、化合物(B-01a)~(B-52a)において、「AN」はアニオンを表す。アニオン(AN)としては、例えば、正孔輸送層が第1の態様である場合に化学式(I)で表される化合物と塩を形成するアニオンの例としては挙げたアニオンのうちの1価のアニオンが挙げられる。
【化21】
【化22】
【化23】
【化24】
【化25】
【化26】
【0046】
化学式(I)で表される化合物およびその塩、ならびに、化学式(II)で表される化合物およびその塩は、例えば、第1の電極12上に単分子層として形成されていてもよい。
【0047】
正孔輸送層が第2の態様である場合、正孔輸送層13において、化学式(I)で表される化合物(ただし、上述した塩の形態を含む)と化学式(II)で表される化合物(ただし、上述した塩の形態を含む)との含有量は、正孔輸送層13の質量に対して、70~100質量%が好ましく、90~100質量%がより好ましく、99~100質量%がさらに好ましい。
化学式(I)で表される化合物(ただし、上述した塩の形態を含む)に対する化学式(II)で表される化合物(ただし、上述した塩の形態を含む)のモル比は、1:100~1:1が好ましく、1:80~1:2がより好ましく、1:50~1:5がさらに好ましい。
【0048】
(正孔輸送層の形成方法)
正孔輸送層13の形成方法は特に限定されないが、例えば、化学式(I)で表される化合物、または化学式(I)及び化学式(II)で表される化合物を第1の電極12に吸着させて単分子層を形成させた後、上述した酸または塩基を公知の方法により適宜付加させる等の方法で本実施形態の正孔輸送層13を製造することができる。
化学式(I)で表される化合物、または化学式(I)及び化学式(II)で表される化合物を第1の電極12に吸着させて単分子層を形成させる方法は、特に限定されないが、例えば、化学式(I)で表される化合物、または化学式(I)及び化学式(II)で表される化合物を溶媒に溶解し、第1の電極12と接触させて結合させればよい。化学式(I)で表される化合物と第1の電極12との結合、及び化学式(II)で表される化合物と第1の電極12との結合は、特に限定されず、物理的な結合であっても化学的な結合であっても構わない。当該結合の種類も特に限定されず、例えば、水素結合、エステル結合、キレート結合などの何れであっても構わない。化学式(I)で表される化合物及び化学式(II)で表される化合物を溶解させるための溶媒も特に限定されず、例えば、水及び有機溶媒の一方でもよいし、両方でもよい。当該溶媒としては、より具体的には、水、メタノール、エタノール、2-プロパノールなどのアルコール類、ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテルなどのエーテル類、アセトン、メチルイソブチルケトンなどのケトン類、酢酸エチル、酢酸イソブチル、γ-ブチロラクトンなどのエステル類、テトラヒドロフラン、チオフェンなどのヘテロ環類、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、N-メチルピロリドンなどのアミド類、ジメチルスルホキシドなどのスルホキシド類、ジエチルスルホン、スルホランなどのスルホン類、アセトニトリル、3-メトキシプロピオニトリルなどのニトリル類、ベンゼン、トルエン、クロロベンゼンなどの芳香族化合物類、ジクロロメタン、クロロホルムなどのハロゲン系溶媒、クロロフロロカーボン、ハイドロクロロフルオロカーボン、ハイドロフルオロカーボンなどのフッ素系溶媒を挙げることができ、単独で用いても2種類以上の混合で用いても構わない。
【0049】
化学式(I)で表される化合物、または化学式(I)及び化学式(II)で表される化合物を第1の電極12に吸着させて単分子層を形成させる具体的な方法は、特に限定されないが、例えば、ディッピング法、スプレー法、スピンコ-ト法、バーコート法など既知の方法を挙げることができる。吸着する際の温度は、特に限定されないが、-20℃~100℃が好ましく、0℃~50℃がより好ましい。吸着する時間も特に限定されないが、例えば、1秒~48時間が好ましく、10秒~1時間がより好ましい。
【0050】
また、上記吸着処理後は、例えば、洗浄を行ってもよいし、行わなくてもよい。当該洗浄の方法も特に限定されないが、例えば、公知の方法を適宜用いてもよい。
【0051】
上記吸着処理後、又は上記洗浄後には、加熱処理を行ってもよいし、行わなくてもよい。当該加熱処理の温度は、50℃~150℃が好ましく、70℃~120℃がより好ましい。加熱処理時間は1秒~48時間が好ましく、10秒~1時間がより好ましい。また、この加熱処理は、例えば、大気下で行なってもよいし、真空中で行なってもよい。
【0052】
本実施形態において、「置換基」は、特に限定されないが、例えば、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、不飽和脂肪族炭化水素基、アルコキシ基、アラルキル基、アリール基、アリールアルケニル基、ヘテロアリール基、ハロゲン原子(フッ素原子、塩素原子、及び/又は臭素原子等)、ヒドロキシ基(-OH)、メルカプト基(-SH)、アルキルチオ基(-SR、Rはアルキル基)、アミノ基、スルホ基、ニトロ基、ジアゾ基、シアノ基、トリフルオロメチル基等が挙げられる。
【0053】
また、本実施形態において、化合物に互変異性体または立体異性体(例:幾何異性体、配座異性体および光学異性体)等の異性体が存在する場合は、特に断らない限り、いずれの異性体も本実施形態に用いることができる。
【0054】
[光電変換層]
光電変換層14は、特に限定されず、例えば、一般的な太陽電池等の光電変換素子に用いられる光電変換層と同様でもよい。光電変換層14は、例えば、ペロブスカイト化合物を含む。前記ペロブスカイト化合物は、例えば、下記化学式(III)で表される有機無機ペロブスカイト化合物であってもよい。
XαYβZγ...(III)
【0055】
前記化学式(III)において、α:β:γの比率は3:1:1であり、β及びγは1より大きい整数を表す。Xはハロゲンイオン、Yはアミノ基を有する有機化合物、Zは金属イオンを表す。ペロブスカイト化合物を含む光電変換層14は、後述する電子輸送層15に隣接して配置されることが好ましい。なお、α:β:γの比率は、例えば、3:1.05:0.95のように、必ずしも3:1:1である必要はない。
【0056】
前記化学式(III)におけるXとしては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、塩素、臭素、ヨウ素などのハロゲンイオンが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0057】
前記化学式(III)におけるYとしては、メチルアミン、エチルアミン、n-ブチルアミン、ホルムアミジンなどのアルキルアミン化合物イオン(アミノ基を有する有機化合物)や、有機に限らず、セシウム、カリウム、ルビジウムなどのアルカリ金属イオンが挙げられる。アルキルアミン化合物イオンやアルカリ金属イオンは、それぞれ1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。また、有機(アルキルアミン化合物イオン)と無機(アルカリ金属イオン)とを併用することもでき、例えば、セシウムイオンとホルムアミジンを併用してもよい。
【0058】
前記化学式(III)におけるZとしては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、鉛、インジウム、アンチモン、スズ、銅、ビスマス等の金属などが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。特に鉛この中でも、特に鉛とスズの併用が好ましい。また、ペロブスカイト層は、ハロゲン化金属からなる層と有機カチオン分子が並んだ層が、交互に積層した層状ペロブスカイト構造を示すことが好ましい。ペロブスカイト層は、アルカリ金属を含有してもよい。ペロブスカイト層がアルカリ金属を少なくとも含有すると、出力が高くなる点で有利である。アルカリ金属としては、例えば、セシウム、ルビジウム、カリウムなどが挙げられる。これらの中でも、セシウムが好ましい。
【0059】
光電変換層14は、前述のとおり、ペロブスカイト化合物から形成されたペロブスカイト層であってもよい。このようなペロブスカイト層を形成する方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、ハロゲン化金属及びハロゲン化アルキルアミンを、溶解又は分散させた溶液を塗布した後に乾燥する方法などが挙げられる。
【0060】
また、ペロブスカイト層を形成する方法としては、例えば、ハロゲン化金属を溶解又は
分散させた溶液を塗布、乾燥した後、ハロゲン化アルキルアミンを溶解させた溶液中に浸
して、ペロブスカイト化合物を形成する二段階析出法などが挙げられる。
【0061】
ペロブスカイト層を形成する方法としては、他に、例えば、ハロゲン化金属及びハロゲン化アルキルアミンを溶解又は分散した溶液を塗布しながら、ペロブスカイト化合物にとっての貧溶媒(溶解度が小さい溶媒)を加えて結晶を析出させる方法などが挙げられる。
【0062】
ペロブスカイト層を形成する方法としては、他に、例えば、メチルアミンなどが充満
したガス中において、ハロゲン化金属を蒸着する方法等も挙げられる。
【0063】
ペロブスカイト層を形成する方法としては、ハロゲン化金属及びハロゲン化アルキルアミンを溶解又は分散した溶液を塗布しながら、ペロブスカイト化合物にとっての貧溶媒を加えて結晶を析出させる方法が特に好ましい。これらの溶液を塗布する方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、浸漬法、スピンコート法、スプレー法、ディップ法、ローラ法、エアーナイフ法などが挙げられる。また、溶液を塗布する方法としては、例えば、二酸化炭素などを用いた超臨界流体中で析出させる方法であってもよい。上述の貧溶媒を加えて結晶を析出させる方法として、使用される貧溶媒としては、n-ヘキサン、n-オクタンなどの炭化水素類、メタノール、エタノール、2-プロパノールなどのアルコール類、ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテルなどのエーテル類、アセトン、メチルイソブチルケトンなどのケトン類、酢酸エチル、酢酸イソブチル、γ-ブチロラクトンなどのエステル類、アセトニトリル、3-メトキシプロピオニトリルなどのニトリル類、ベンゼン、トルエン、クロロベンゼンなどの芳香族炭化水素化合物類、ジクロロメタン、クロロホルムなどのハロゲン系溶媒、クロロフロロカーボン、ハイドロクロロフルオロカーボン、ハイドロフルオロカーボンなどのフッ素系溶媒を挙げることができる。
【0064】
光電輸送層14(例えば光吸収層であり、例えばペロブスカイト層)の厚みは、特に限定されないが、欠陥や剥離による性能劣化をより抑制する観点から、50~1200nmが好ましく、200~1000nmがより好ましい。
【0065】
[電子輸送層]
電子輸送層15に用いられる材料としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、半導体材料が好ましい。前記半導体材料としては、特に制限はなく、公知のものを用いることができ、例えば、単体半導体、化合物半導体、有機n型半導体などを挙げることができる。
【0066】
前記単体半導体としては、特に限定されないが、例えば、シリコン、ゲルマニウムなどが挙げられる。
【0067】
前記化合物半導体としては、特に限定されないが、例えば、金属のカルコゲニド、具体的には、チタン、スズ、亜鉛、鉄、タングステン、ジルコニウム、ハフニウム、ストロンチウム、インジウム、セリウム、イットリウム、ランタン、バナジウム、ニオブ、タンタル等の酸化物;カドミウム、亜鉛、鉛、銀、アンチモン、ビスマス等の硫化物;カドミウム、鉛等のセレン化物;カドミウム等のテルル化物などが挙げられる。他の化合物半導体としては亜鉛、ガリウム、インジウム、カドミウム等のリン化物、ガリウム砒素、銅-インジウム-セレン化物、銅-インジウム-硫化物等が挙げられる。
【0068】
前記有機n型半導体としては、特に限定されないが、例えば、ペリレンテトラカルボン酸無水物、ペリレンテトラカルボキシジイミド化合物、ナフタレンジイミド-ビチオフェン共重合体、ベンゾビスイミダゾベンゾフェナントロリン重合体、C60、C70、PCBM([6,6]-フェニル-C61-酪酸メチルエステル)などのフレーラン化合物、カルボニルブリッジ-ビチアゾール化合物、ALq
(トリス(8-キノリノラト)アルミニウム)、トリフェニレンビピリジル化合物、シロール化合物、オキサジアゾール化合物などを挙げることができる。
【0069】
電子輸送層15に用いられる前述の材料の中でも、特に有機n型半導体が好ましい。
【0070】
電子輸送層15の形成に用いられる材料は、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。また、半導体材料の結晶型としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、単結晶でも多結晶でもよく、非晶質でも構わない。
【0071】
電子輸送層15の膜厚としては特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、5nm~1000nmが好ましく、10nm~700nmがより好ましい。
【0072】
電子輸送層15の形成方法としては特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。例えば、真空中で薄膜を形成する方法(真空製膜法)、湿式製膜法などが挙げられる。真空製膜法としては、例えば、スパッタリング法、パルスレーザーデポジッション法(PLD法)、イオンビームスパッタ法、イオンアシスト法、イオンプレーティング法、真空蒸着法、アトミックレイヤーデポジッション法(ALD法)、化学気相成長法(CVD法)などが挙げられる。湿式製膜法としては、電子輸送材料を溶解した溶媒を塗布して形成する方法や、酸化物半導体の場合、ゾル-ゲル法が挙げられる。ゾル-ゲル法は、溶液から、加水分解や重合・縮合などの化学反応を経てゲルを作製し、その後、加熱処理によって緻密化を促進させる方法である。ゾル-ゲル法を用いた場合、ゾル溶液の塗布方法としては特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、ディップ法、スプレー法、ワイヤーバー法、スピンコート法、ローラーコート法、ブレードコート法、グラビアコート法、また、湿式印刷方法として、凸版、オフセット、グラビア、凹版、ゴム版、スクリーン印刷などが挙げられる。また、ゾル溶液を塗布した後の加熱処理の際の温度としては、80℃以上が好ましく、100℃以上がより好ましい。
【0073】
電子輸送層15を形成後、第2の電極16との間に電子注入層(ホールブロッキング層)を形成しても構わない。電子注入層に用いられる材料としては、BCP(バソクプロイン)を挙げることができ、セシウムをドープしても構わない。電子注入層は1~100nmが好ましく、3~20nmがより好ましい。
【0074】
[第2の電極]
第2の電極16(例えば裏面電極であってもよい)は、例えば、電子輸送層を介して光電変換層14から電子を取り出す機能を有する層である。また、第2の電極16は、例えば、アノード(負極)として働く層である。
【0075】
第2の電極16は、電子輸送層(電子注入層とも言う)15上に直接形成してもよい。また、第2の電極16の材質は、特に限定されず、例えば、第1の電極12と同様の材質を用いることができる。第2の電極16としては、その形状、構造、大きさについては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。第2の電極16の材質としては、金属、炭素化合物、導電性金属酸化物、導電性高分子などが挙げられる。
【0076】
前記金属としては、例えば、白金、金、銀、銅、アルミニウムなどが挙げられる。
【0077】
前記炭素化合物としては、例えば、グラファイト、フラーレン、カーボンナノチューブ、グラフェンなどが挙げられる。
【0078】
前記導電性金属酸化物としては、例えば、ITO、FTO、ATOなどが挙げられる。
【0079】
前記導電性高分子としては、例えば、ポリチオフェン、ポリアニリンなどが挙げられる。
【0080】
第2の電極16の形成に用いられる材料は、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0081】
第2の電極16は、用いられる材料の種類や正孔輸送層13の種類により、適宜電子輸送層15上に塗布、ラミネート、真空蒸着、CVD、貼り合わせなどの方法を用いることにより形成可能である。
【0082】
また、本実施形態の光電変換素子10においては、第1の電極12及び第2の電極16の少なくとも一方は実質的に透明であることが好ましい。本実施形態の光電変換素子10を使用する際には、電極を透明にして、入射光を電極側から入射させることが好ましい。この場合、裏面電極(透明電極と反対側の電極であり、例えば、第2の電極16)には光を反射させる材料を使用することが好ましく、金属、導電性酸化物を蒸着したガラス、プラスチック、金属薄膜などが好ましく用いられる。また、入射光側の電極に反射防止層を設けることも有効な手段である。
【0083】
なお、光電変換素子10の構成は、図1の構成に限定されない。例えば、支持体11が、図1とは逆側(図1で第2の電極16の上側)に配置されており、支持体11上に、第2の電極16、電子輸送層15、光電変換層14、正孔輸送層13、及び第1の電極12が、前記順序で積層されていてもよい。また、例えば、前述のとおり、支持体11、第1の電極12、正孔輸送層13、光電変換層14、電子輸送層15、及び第2の電極16の各層間に、他の構成要素が存在していてもよいし存在していなくてもよい。また、第1の電極12が透明電極で第2の電極16が裏面電極である例について説明したが、光電変換素子10はこれに限定されない。例えば、光電変換素子10において、逆に、第1の電極12が裏面電極で第2の電極16が透明電極であってもよい。
【0084】
[封止]
本実施形態の光電変換素子10(例えば太陽電池)は、水や酸素からデバイス(本実施形態の光電変換素子10)を守るために封止されることが好ましい。封止の構造は特に限定されないが、例えば、一般的な光電変換素子(例えば太陽電池)と同様でもよく、具体的には、例えば、本実施形態の光電変換素子10の外周部のみに封止材を塗布してガラスやフィルムで覆ってもよく、本実施形態の光電変換素子10の全面に封止材を塗布してガラスやフィルムで覆ってもよく、本実施形態の光電変換素子10の全面に封止材を塗布したのみでもよい。
【0085】
封止部材の材質としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例
えば、エポキシ樹脂やアクリル樹脂を用い、硬化させることが好ましいが、硬化していなくても、一部だけが硬化していても構わない。
【0086】
前記エポキシ樹脂は、特に限定されないが、例えば、水分散系、無溶剤系、固体系、加熱硬化型、硬化剤混合型、紫外線硬化型などが挙げられ、これらの中でも熱硬化型及び紫外線硬化型が好ましく、紫外線硬化型がより好ましい。なお、紫外線硬化型であっても、加熱を行うことは可能であり、紫外線硬化した後であっても加熱を行うことが好ましい。エポキシ樹脂の具体例としては、ビスフェノールA型、ビスフェノールF型、ノボラック型、環状脂肪族型、長鎖脂肪族型、グリシジルアミン型、グリシジルエーテル型、グリシジルエステル型などが挙げられ、これらは、単独で使用しても、2種以上の併用であってもよい。また、エポキシ樹脂には、必要に応じて硬化剤や各種添加剤を混合することが好ましい。既に市販されているエポキシ樹脂組成物を、本実施形態において使用することができる。中でも、太陽電池や有機EL素子用途向けに開発、市販されているエポキシ樹脂組成物もあり、本実施形態において特に有効に使用できる。市販されているエポキシ樹脂組成物としては、例えば、TB3118、TB3114、TB3124、TB3125F(株式会社スリーボンド製)、WorldRock5910、WorldRock5920、WorldRock8723(協立化学産業株式会社製)、WB90US(P)、WB90US-HV(株式会社モレスコ製)等が挙げられる。
【0087】
前記アクリル樹脂としては、特に限定されないが、例えば、太陽電池や有機EL素子用途向けに開発、市販されているものを有効に使用できる。市販されているアクリル樹脂組成物としては、例えば、TB3035B、TB3035C(株式会社スリーボンド製)等が挙げられる。
【0088】
前記硬化剤としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、例えば、アミン系、酸無水物系、ポリアミド系、その他の硬化剤などが挙げられる。アミン系硬化剤としては、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミンなどの脂肪族ポリアミン、メタフェニレンジアミン、ジアミノジフェニルメタン、ジアミノジフェニルスルホン等の芳香族ポリアミンなどが挙げられ、酸無水物系硬化剤としては、無水フタル酸、テトラ及びヘキサヒドロ無水フタル酸、メチルテトラヒドロ無水フタル酸、無水メチルナジック酸、無水ピロメリット酸、無水ヘット酸、ドデセニル無水コハク酸などが挙げられる。その他の硬化剤としては、イミダゾール類、ポリメルカプタンなどが挙げられる。これらは単独で使用しても、2種以上の併用であってもよい。
【0089】
前記添加剤としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、充填材(フィラー)、ギャップ剤、重合開始剤、乾燥剤(吸湿剤)、硬化促進剤、カップリング剤、可とう化剤、着色剤、難燃助剤、酸化防止剤、有機溶剤などが挙げられる。これらの中でも、充填材、ギャップ剤、硬化促進剤、重合開始剤、乾燥剤(吸湿剤)が好ましく、充填材及び重合開始剤がより好ましい。添加剤として充填材を含有することにより、水分や酸素の浸入を抑制し、更には硬化時の体積収縮の低減、硬化時あるいは加熱時のアウトガス量の低減、機械的強度の向上、熱伝導性や流動性の制御などの効果を得ることができる。そのため、添加剤として充填材を含むことは、様々な環境で安定した出力を維持する上で非常に有効である。
【0090】
また、光電変換素子の出力特性やその耐久性に関しては、侵入する水分や酸素の影響だけでなく、封止部材の硬化時あるいは加熱時に発生するアウトガスの影響が無視できない。特に、加熱時に発生するアウトガスの影響は、高温環境保管における出力特性に大きな影響を及ぼす。封止部材に充填材やギャップ剤、乾燥剤を含有させることにより、これら自身が水分や酸素の浸入を抑制できるほか、封止部材の使用量を低減できることにより、アウトガスを低減させる効果を得ることができる。封止部材に充填材やギャップ剤、乾燥剤を含有させることは、硬化時だけでなく、光電変換素子を高温環境で保存する際にも有効である。
【0091】
前記充填材としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、結晶性あるいは不定形のシリカ、タルクなどのケイ酸塩鉱物、アルミナ、窒化アルミ、窒化珪素、珪酸カルシウム、炭酸カルシウム等の無機系充填材などが挙げられる。これらの中でも、特にハイドロタルサイトが好ましい。また、これらは、単独で使用しても、2種以上の併用であってもよい。
【0092】
前記充填材の平均一次粒径は、特に限定されないが、0.1μm以上10μm以下が好ましく、1μm以上5μm以下がより好ましい。前記充填材の平均一次粒径が上記の好ましい範囲内であると、水分や酸素の侵入を抑制する効果を十分に得ることができ、粘度が適正となり、基板との密着性や脱泡性が向上し、封止部の幅の制御や作業性に対しても有効である。
【0093】
前記充填材の含有量としては、封止部材全体(100質量部)に対し、10質量部以上90質量部以下が好ましく、20質量部以上70質量部以下がより好ましい。前記充填材の含有量が上記の好ましい範囲内であることにより、水分や酸素の浸入抑制効果が十分に得られ、粘度も適正となり、密着性や作業性も良好となる。
【0094】
前記ギャップ剤は、ギャップ制御剤あるいはスペーサー剤とも称される。添加剤としてギャップ材を含むことにより、封止部のギャップを制御することが可能になる。例えば、第1の基板又は第1の電極の上に、封止部材を付与し、その上に第2の基板を載せて封止を行う場合、封止部材がギャップ剤を混合していることにより、封止部のギャップがギャップ剤のサイズに揃うため、容易に封止部のギャップを制御することができる。
【0095】
前記ギャップ剤としては、特に限定されないが、例えば、粒状でかつ粒径が均一であり、耐溶剤性や耐熱性が高いものが好ましく、目的に応じて適宜選択することができる。前記ギャップ剤としては、エポキシ樹脂と親和性が高く、粒子形状が球形であるものが好ましい。具体的には、ガラスビーズ、シリカ微粒子、有機樹脂微粒子などが好ましい。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。ギャップ剤の粒径としては、設定する封止部のギャップに合わせて選択可能であるが、1μm以上100μm以下が好ましく、5μm以上50μm以下がより好ましい。
【0096】
前記重合開始剤としては、特に限定されないが、例えば、熱や光を用いて重合を開始させる重合開始剤が挙げられ、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、熱重合開始剤、光重合開始剤などが挙げられる。熱重合開始剤は、加熱によってラジカルやカチオンなどの活性種を発生する化合物であり、2,2’-アゾビスブチロニトリル(AIBN)のようなアゾ化合物や、過酸化ベンゾイル(BPO)などの過酸化物などが挙げられる。熱カチオン重合開始剤としては、ベンゼンスルホン酸エステルやアルキルスルホニウム塩等が用いられる。光重合開始剤は、エポキシ樹脂の場合光カチオン重合開始剤が好ましく用いられる。エポキシ樹脂に光カチオン重合開始剤を混合し、光照射を行うと光カチオン重合開始剤が分解して、酸を発生し、酸がエポキシ樹脂の重合を引き起こし、硬化反応が進行する。光カチオン重合開始剤は、硬化時の体積収縮が少なく、酸素阻害を受けず、貯蔵安定性が高いといった効果を有する。
【0097】
前記光カチオン重合開始剤としては、芳香族ジアゾニウム塩、芳香族ヨードニウム塩、芳香族スルホニウム塩、メタセロン化合物、シラノール・アルミニウム錯体などが挙げられる。また、重合開始剤として、光を照射することにより酸を発生する機能を有する光酸発生剤も使用できる。光酸発生剤は、カチオン重合を開始する酸として作用し、カチオン部とアニオン部からなるイオン性のスルホニウム塩系やヨードニウム塩系などのオニウム塩などが挙げられる。これらは、単独で使用しても、2種以上の併用であってもよい。
【0098】
前記重合開始剤の添加量としては、特に限定されず、使用する材料によって異なる場合があるが、封止部材全体(100質量部)に対し、0.5質量部以上10質量部以下が好ましく、1質量部以上5質量部以下がより好ましい。添加量が上記の好ましい範囲内であることにより、硬化が適正に進み、未硬化物の残存を低減することができ、またアウトガスが過剰になるのを防止できる。
【0099】
前記乾燥剤(吸湿剤とも称される)は、水分を物理的あるいは化学的に吸着、吸湿する機能を有する材料であり、封止部材に含有させることにより、耐湿性を更に高め、アウトガスの影響を低減できる。前記乾燥剤としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、粒子状であるものが好ましく、例えば、酸化カルシウム、酸化バリウム、酸化マグネシウム、硫酸マグネシウム、硫酸ナトリウム、塩化カルシウム、シリカゲル、モレキュラーシーブ、ゼオライトなどの無機吸水材料が挙げられる。これらの中でも、吸湿量が多いゼオライトが好ましい。これらは、単独で使用しても、2種以上の併用であってもよい。
【0100】
前記硬化促進剤(硬化触媒とも称される)は、硬化速度を速める材料であり、主に熱硬化型のエポキシ樹脂に用いられる。前記硬化促進剤としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、DBU(1,8-ジアザビシクロ(5,4,0)-ウンデセン-7)やDBN(1,5-ジアザビシクロ(4,3,0)-ノネン-5)等の三級アミンあるいは三級アミン塩、1-シアノエチル-2-エチル-4-メチルイミダゾールや2-エチル-4-メチルイミダゾール等のイミダゾール系、トリフェニルホスフィンやテトラフェニルホスホニウム・テトラフェニルボレート等のホスフィンあるいはホスホニウム塩などが挙げられる。これらは、単独で使用しても、2種以上の併用であってもよい。
【0101】
前記カップリング剤は、分子結合力を高める効果を有する材料であれば特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、シランカップリング剤などが挙げられる。具体的には、3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、2-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、N-フェニル-γ-アミノプロピルトリメトキシシラン、N-(2-アミノエチル)3-アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N-(2-アミノエチル)3-アミノプロピルメチルトリメトキシシラン、3-アミノプロピルトリエトキシシラン、3-メルカプトプロピルトリメトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、N-(2-(ビニルベンジルアミノ)エチル)3-アミノプロピルトリメトキシシラン塩酸塩、3-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン等のシランカップリング剤などが挙げられる。これらは、単独で使用しても、2種以上の併用であってもよい。
【0102】
本実施形態においては、例えば、シート状接着剤を用いることができる。シート状接着剤とは、例えば、シート上に予め封止樹脂により樹脂層を形成したもので、シートにはガラスやガスバリア性の高いフィルム等を用いることができる。また、封止樹脂のみでシート状接着剤を形成していてもよい。シート状接着剤を、封止フィルム上に貼り付けることも可能である。この場合、封止フィルム上に貼付されたシート状接着剤を構成するシートに中空部を設けた構造にしてからデバイスと貼り合せることも可能である。
【0103】
前記封止フィルムを用いて封止する場合、光電変換デバイスを挟むように支持体と対向して配置される。封止フィルムの基材としては、その形状、構造、大きさ、種類については、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。封止フィルムは、基材の表面に水分や酸素の通過を防ぐバリア層を形成しており、基材の一方の面だけでも両面に形成されていてもよい。
【0104】
前記バリア層は、例えば、金属酸化物、金属、高分子と金属アルコキシドより形成された混合物などを主成分とする材質で構成されていてもよい。前記金属酸化物としては、例えば、酸化アルミニウム、酸化ケイ素、アルミニウム、などを挙げることができ、前記高分子としては、例えば、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、メチルセルロースなどを挙げることができ、前記金属アルコキシドとしては、例えば、テトラエトキシシラン、トリイソプロポキシアルミニウム、3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3-メルカプトプロピルトリメトキシシラン、3-イソシアネートプロピルトリエトキシシランなどを挙げることができる。
【0105】
前記バリア層は、例えば、透明であっても不透明であっても構わない。また、バリア層は上記材料からの組合せによる単層であっても、複数の積層構造であっても構わない。バリア層の形成方法は、既知の方法を用いることができ、スパッタ法などの真空製膜、ディッピング法、ロールコーティング法、スクリーン印刷法、スプレー法、グラビア印刷法などの塗布方法を使用することができる。
【0106】
[配線]
本実施形態の光電変換素子10(例えば太陽電池)は、光によって発生した電流を効率的に取り出すため、第1の電極12及び第2の電極裏面電極にリード線(配線)を接続することが好ましい。リード線は、例えば、前記第1の電極及び前記第2の電極と、はんだ、銀ペースト、グラファイトのような導電性材料を用いて接続される。導電性材料は単独でも2種以上の混合または積層構造で用いても構わない。また、リード線を取り付けた部位は、物理的な保護の観点から、アクリル系樹脂やエポキシ系樹脂で覆っても構わない。
【0107】
リード線は、電気回路における電源や電子部品などを電気的に接続するための電線の総称であり、例えば、ビニール線、エナメル線などを挙げることができる。
【0108】
以上説明した光電変換素子10は、光電変換特性に優れるとともに、場所による光電変換特性の偏りが少ないという効果を奏する。
【0109】
[アプリケーション]
本実施形態の光電変換素子10の用途及び使用方法は、特に限定されず、例えば、一般的な光電変換素子(例えば一般的な太陽電池)と同様の用途に広く用いることができる。本実施形態の光電変換素子(例えば太陽電池)は、例えば、発生した電流を制御する回路基盤等と組み合わせることにより電源装置へ応用することができる。電源装置を利用している機器類としては、例えば、電子卓上計算機やソーラー電波腕時計などが挙げられる。また、携帯電話、電子ペーパー、温湿度計等に本実施形態の太陽電池を電源装置として適用することも可能である。また、充電式や乾電池式の電気器具の連続使用時間を延ばすための補助電源や、二次電池と組み合わせることによって夜間使用などにも応用可能である。また、電池交換や電源配線等が不要な自立型電源としても利用可能である。
【実施例0110】
以下、本発明の実施例について説明する。ただし、本発明は、以下の実施例に限定されない。
【0111】
[実施例1]
以下のようにして、光電変換素子である太陽電池を作製(製造)した。
【0112】
上述の(A-15)(0.1mmol/L)を溶解したDMF溶液を、ITOガラス基板(支持体であるガラス基板上に第1の電極が形成されたもの、75mm角サイズ)のITO上に1mL乗せ、スピンコーター(3,000rpm、30秒)を用いて前記ITO(第1の電極)上に単分子層(正孔輸送層)を形成した。この単分子層状に、メタノール性塩酸(0.5mol/L)を乗せて1分静置し、スピンコーター(3,000rpm、30秒)を用いて余分な溶液を除去した。次に、ヨウ化セシウム(0.738g)、ヨウ化ホルムアミジン(7.512g)、臭化メチルアミン(0.905g)、ヨウ化鉛(23.888g)、臭化鉛(1.022g)をDMF(40.0mL)とジメチルスルホキシド(DMSO、12.0mL)に溶解した溶液を、上記基板上にスピンコートを用いて製膜した。スピンコートは3000rpm、開始から30秒後にクロロベンゼン(0.3mL)を滴下した。その後、150℃で10分加熱し、ペロブスカイト層(光電変換層)を得た。次いで、C60を20nm(電子輸送層)、バソキュプロイン(BCP、8nm)(電子注入層)、Ag(100nm)(第2の電極)を真空蒸着で製膜し、光電変換素子を作製した。作製後、75mm角サイズの光電変換素子を25mm角サイズに9分割し、それぞれの太陽電池特性を評価し、ベストセルの性能と、9個の平均値の性能を表1に示す。
【0113】
実施例1で作製した封止デバイスの光電変換特性を、JISC8913:1998のシリコン結晶系太陽電池セルの出力測定方法に準拠した方法で測定した。AM1.5G相当のエアマスフィルターを組み合わせたソーラーシュミレーター(分光計器株式会社製SMO-250III型)に、2次基準Si太陽電池で100mW/cmの光量に調整して測定用光源とし、ペロブスカイト型太陽電池セルの試験サンプル(実施例1で作製した封止デバイス)に光照射をしながら、ソースメーター(KeithleyInstrumentsInc.製、2400型汎用ソースメーター)を使用してI-Vカーブ特性を測定し、I-Vカーブ特性測定から得られた短絡電流(Isc)、開放電圧(Voc)、フィルファクター(FF)、そして、短絡電流密度(Jsc)、及び光電変換効率(PCE)を求めた。
【0114】
式1:短絡電流密度(Jsc;mA/cm)=Isc(mA)/有効受光面S(cm
式2:光電変換効率(PCE;%)=Voc(V)×Jsc(mA/cm)×FF×100/100(mW/cm
【0115】
[実施例2]
実施例1におけるメタノール性塩酸の代わりに、p-トルエンスルホン酸を溶解したクロロベンゼン溶液(0.5mol/L)を用いたこと以外は、実施例1と同様にして光電変換素子を作製(製造)し、光電変換効率を測定した。太陽電池特性結果を下記表1に示す。
【0116】
[実施例3]
実施例1における(A-15)(0.1mmol/L)の代わりに、(A-15)(0.1mmol/L)と(B-35)(12mmol/L)を溶解したDMF溶液を用いたこと以外は、実施例1と同様にして光電変換素子を作製(製造)し、光電変換効率を測定した。太陽電池特性結果を下記表1に示す。
【0117】
[実施例4]
実施例1における(A-15)(0.1mmol/L)の代わりに、(A-25)(0.1mmol/L)を用いたこと以外は実施例1と同様にして光電変換素子を作製(製造)し、光電変換効率を測定した。太陽電池特性結果を下記表1に示す。
【0118】
[実施例5]
実施例2における(A-15)(0.1mmol/L)の代わりに、(A-15)(0.1mmol/L)と(B-35)を用いたこと以外は実施例2と同様にして光電変換素子を作製(製造)し、光電変換効率を測定した。太陽電池特性結果を下記表1に示す。
【0119】
[実施例6]
実施例4におけるメタノール性塩酸の代わりに、p-トルエンスルホン酸を溶解したクロロベンゼン溶液(0.5mol/L)を用いたこと以外は、実施例4と同様にして光電変換素子を作製(製造)し、光電変換効率を測定した。太陽電池特性結果を下記表1に示す。
【0120】
[実施例7]
実施例3における(B-35)(12mmol/L)の代わりに、(B-22)(1mmol/L)のDMF溶液を用いたこと以外は実施例3と同様にして光電変換素子を作製(製造)し、光電変換効率を測定した。太陽電池特性結果を下記表1に示す。
【0121】
[実施例8]
実施例3における(B-35)(12mmol/L)の代わりに、(B-51)(0.1mmol/L)を用いたこと以外は実施例3と同様にして光電変換素子を作製(製造)し、光電変換効率を測定した。太陽電池特性結果を下記表1に示す。
【0122】
[実施例9]
実施例8におけるメタノール性塩酸の代わりに、ヨウ化水素酸を溶解した水溶液(0.1mol/L)を用いたこと以外は、実施例8と同様にして光電変換素子を作製(製造)し、光電変換効率を測定した。太陽電池特性結果を下記表1に示す。
【0123】
[実施例10]
実施例3における(A―15)(0.1mmol/L)の代わりに、(A-04)(0.1mmol/L)を用いたこと以外は実施例3と同様にして光電変換素子を作製(製造)し、光電変換効率を測定した。太陽電池特性結果を下記表1に示す。
【0124】
[実施例11]
実施例8における(A―15)(0.1mmol/L)の代わりに、(A-04)(0.1mmol/L)を用いたこと以外は実施例8と同様にして光電変換素子を作製(製造)し、光電変換効率を測定した。太陽電池特性結果を下記表1に示す。
【0125】
[実施例12]
実施例10における(A-04)(0.1mmol/L)と(B-35)(12mmol/L)の代わりに、(A-04)(0.1mmol/L)と(B-13a)(18mmol/L)を用い、かつITOガラス基板上に正孔輸送層として形成した後、酸処理を行わなかった以外は実施例10と同様にして光電変換素子を作製(製造)し、光電変換効率を測定した。太陽電池特性結果を下記表1に示す。
【0126】
[比較例1]
実施例1におけるメタノール性塩酸の処理(酸処理)を行わなかった以外は実施例1と同様にして光電変換素子を作製(製造)し、光電変換効率を測定した。太陽電池特性結果を下記表1に示す。
【0127】
[比較例2]
比較例1における(A―15)(0.1mmol/L)の代わりに、(B-35)(12mmol/L)を用いたこと以外は比較例1と同様にして光電変換素子を作製(製造)し、光電変換効率を測定した。太陽電池特性結果を下記表1に示す。
【0128】
[比較例3]
実施例1における(A―15)(0.1mmol/L)の代わりに、(A-04)(0.1mmol/L)を用いたこと以外は実施例1と同様にして光電変換素子を作製(製造)し、光電変換効率を測定した。太陽電池特性結果を下記表1に示す。
【0129】
[比較例4]
実施例10における(B-35)(12mmol/L)の代わりに、オクチルホスホン酸(12mmol/L)を用いたこと以外は実施例10と同様にして光電変換素子を作製(製造)し、光電変換効率を測定した。太陽電池特性結果を下記表1に示す。
【0130】
【表1】
【0131】
表1より、実施例1と比較例1の比較から、酸処理を行うことで、光電変換層(ペロブスカイト層)と単分子で形成された正孔輸送層の界面が改良されることにより、均一なペロブスカイト層が形成され、その結果、バラツキの少ない光電変換素子を得ることができることが分かる。また、比較例3から、窒素原子を有していない正孔輸送材料を用いて酸処理を行っても、正孔輸送材料は塩を形成しないため、ペロブスカイト層と単分子で形成された正孔輸送層の界面が改良されることもなく、良好な特性を得ることができなかった。また、同じように、比較例4から、正孔輸送材料と共吸着剤の両方に窒素原子を有していない化合物を用いた場合、酸処理を行っても、正孔輸送材料は塩を形成しないため、ペロブスカイト層と単分子で形成された正孔輸送層の界面が改良されることもなく、良好な特性を得ることができなかった。
一方、実施例3と実施例5、実施例4と実施例6、実施例8と実施例9の比較から、酸として塩酸以外にp-トルエンスルホン酸やヨウ化水素酸塩を用いても良好な特性、良好な均一性が得られており、本発明が優れていることが分かる。また、実施例10や実施例11から、正孔輸送材料に窒素原子を有していない化合物を用いていても、窒素原子を含有する共吸着剤を併用することにより、酸処理によって界面が改良され、良好な性能と均一性を得ることが分かる。これらの結果から、本発明が、優れた光電変換特性を示すことが明確である。
【0132】
以上のとおり、上述した態様の正孔輸送材料を正孔輸送層に用いることにより、バラツキの少ない均一で高性能な光電変換素子を得ることが可能であることが、本実施例により確認された。
【0133】
以上、実施形態及び実施例を用いて本発明を説明した。ただし、本発明は、以上において説明した実施形態及び実施例に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内で、必要に応じて、任意にかつ適宜に組み合わせ、変更し、又は選択して採用できるものである。
【産業上の利用可能性】
【0134】
以上、説明したとおり、本発明の光電変換素子は、例えば、太陽電池として有用である。本発明の光電変換素子の用途及び使用方法は特に限定されず、例えば、一般的な光電変換素子(例えば、一般的な太陽電池)と同様の用途及び使用方法で、広範な分野に適用可能である。
【符号の説明】
【0135】
10 光電変換素子
11 支持体
12 第1の電極
13 正孔輸送層
14 光電変換層
15 電子輸送層
16 第2の電極

図1