(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024095334
(43)【公開日】2024-07-10
(54)【発明の名称】工作機械
(51)【国際特許分類】
B23Q 17/09 20060101AFI20240703BHJP
B23Q 17/12 20060101ALI20240703BHJP
B23Q 11/00 20060101ALI20240703BHJP
G05B 19/18 20060101ALI20240703BHJP
【FI】
B23Q17/09 A
B23Q17/12
B23Q11/00 K
B23Q11/00 L
G05B19/18 X
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022212549
(22)【出願日】2022-12-28
(71)【出願人】
【識別番号】000001960
【氏名又は名称】シチズン時計株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100114018
【弁理士】
【氏名又は名称】南山 知広
(74)【代理人】
【識別番号】100180806
【弁理士】
【氏名又は名称】三浦 剛
(74)【代理人】
【氏名又は名称】阿形 直起
(72)【発明者】
【氏名】高橋 雅人
【テーマコード(参考)】
3C029
3C269
【Fターム(参考)】
3C029CC01
3C269AB01
3C269BB12
3C269CC02
3C269MN24
3C269MN27
3C269PP02
(57)【要約】
【課題】切粉絡みまたは切粉詰まりの異常を適切に判定することを可能とする工作機械を提供する。
【解決手段】工作機械は、所定の方向に延伸しワークに対向して配置された切削工具と、ワークおよび切削工具のうちの一方を保持して延伸方向を軸として回転させる主軸と、保持されたワークおよび切削工具のうちの一方を延伸方向に往復動させることによりワークに穴開け加工を施す加工部と、穴開け加工の前または後において、ワークと切削工具とが相対的に移動している移動期間を特定する特定部と、主軸または切削工具の振動に関する情報を検出するセンサと、移動期間のうちから振動が特定の条件を満たす振動期間を抽出し、移動期間の長さに対する振動期間の長さの比率に基づいて、ワークおよび切削工具の異常を判定する判定部と、を有する。
【選択図】
図7
【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定の方向に延伸しワークに対向して配置された切削工具と、前記ワークおよび前記切削工具のうちの一方を保持して延伸方向を軸として回転させる主軸と、
前記保持されたワークおよび切削工具のうちの一方を前記延伸方向に往復動させることにより前記ワークに穴開け加工を施す加工部と、
前記穴開け加工の前または後において、前記ワークと前記切削工具とが相対的に移動している移動期間を特定する特定部と、
前記主軸または前記切削工具の振動に関する情報を検出するセンサと、
前記移動期間のうちから前記振動が特定の条件を満たす振動期間を抽出し、前記移動期間の長さに対する前記振動期間の長さの比率に基づいて、前記ワークおよび前記切削工具の異常を判定する判定部と、
を有することを特徴とする工作機械。
【請求項2】
前記切削工具を洗浄する洗浄装置をさらに有し、
前記判定部は、前記洗浄の前後における前記移動期間の長さに対する前記振動期間の比率を比較して、前記ワークおよび前記切削工具のいずれに異常があるかを判定する、
請求項1に記載の工作機械。
【請求項3】
前記判定部は、前記振動期間の長さに基づいて、前記切削工具の異常がある位置をさらに判定する、
請求項1に記載の工作機械。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、工作機械に関する。
【背景技術】
【0002】
ドリルでの穴開け加工において、ドリルに切粉が絡む、あるいは加工穴に切粉が詰まることによりドリルの摩耗または折損が起こることがある。このような切粉絡みおよび切粉詰まりを防止するため、ドリルを少ない送り量で往復動することにより、段階的に深穴を開けるステップ加工が行われている。しかしながら、ステップ加工においても切粉の絡みまたは詰まりを完全に防止することは難しい。
【0003】
特許文献1には、加工データ上、工具と被切削物とが接触しないはずの非接触区間において工具の保持部が大きな加速度を示した場合に異常判定を行う切削加工機が記載されている。特許文献1の切削加工機によれば、異常が検出された際に作業者が適切な対処を行うことにより、工具の折損等を防止することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
このような切削加工機において、異常判定をより適切に行うことが求められている。
【0006】
本発明は上述の課題を解決するためになされたものであり、切粉絡みまたは切粉詰まりの異常を適切に判定することを可能とする工作機械を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の実施形態に係る工作機械は、所定の方向に延伸しワークに対向して配置された切削工具と、ワークおよび切削工具のうちの一方を保持して延伸方向を軸として回転させる主軸と、保持されたワークおよび切削工具のうちの一方を延伸方向に往復動させることによりワークに穴開け加工を施す加工部と、穴開け加工の前または後において、ワークと切削工具とが相対的に移動している移動期間を特定する特定部と、主軸または切削工具の振動に関する情報を検出するセンサと、移動期間のうちから振動が特定の条件を満たす振動期間を抽出し、移動期間の長さに対する振動期間の長さの比率に基づいて、ワークおよび切削工具の異常を判定する判定部と、を有することを特徴とする。
【0008】
また、工作機械は、切削工具を洗浄する洗浄装置をさらに有し、判定部は、洗浄の前後における移動期間の長さに対する振動期間の比率を比較して、ワークおよび切削工具のいずれに異常があるかを判定することが好ましい。
【0009】
また、判定部は、振動期間の長さに基づいて、切削工具の異常がある位置をさらに判定することが好ましい。
【発明の効果】
【0010】
本発明に係る工作機械は、切粉絡みまたは切粉詰まりの異常を適切に判定することを可能とする。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図2】加工装置2およびセンサ3の概略構成を示す模式図である。
【
図5】(A)-(D)は、切削工具211の振動に関する情報の時間変化の例を示す図である。
【
図6】加工処理の流れの例を示すシーケンス図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面を参照しつつ、本発明の様々な実施形態について説明する。本発明の技術的範囲はそれらの実施形態に限定されず、特許請求の範囲に記載された発明及びその均等物に及ぶ点に留意されたい。
【0013】
図1は、本発明の実施形態に係る工作機械1の機能ブロック図である。工作機械1は、切削工具を用いてワークに切削加工を施すとともに、ワークおよび切削工具の異常を判定する。工作機械1は、加工装置2、センサ3、洗浄装置4および演算処理装置5を有する。
【0014】
加工装置2は、切削工具を用いたステップ加工によりワークに切削加工を施す。センサ3は、ワークまたは切削工具に加わる振動に関する情報を検出する。洗浄装置4は、ステップ加工の各ステップの間に切削工具およびワークを洗浄する。演算処理装置5は、加工装置2、センサ3および洗浄装置4を制御するとともに、ワークおよび切削工具の異常を判定する。
【0015】
図2は、加工装置2およびセンサ3の概略構成を示す模式図である。加工装置2は、基台Bに載置された工具台21、主軸22、主軸台23および移動機構24を有する。
【0016】
工具台21は、基台Bに対して固定され、穴開けドリル、外径切削バイト等の、所定の方向(
図2に示す例では、Z方向)に延伸する切削工具211を保持する。主軸22は、軸方向が切削工具211の延伸方向と平行になるように工具台21と対向して配置され、ワークWを保持する。主軸台23は、主軸22を切削工具211の延伸方向を軸として回転可能に保持する。移動機構24は、主軸台23を3軸方向(
図2に示す例では、X方向、Y方向およびZ方向)に移動可能に保持する。ワークWを保持した主軸22が回転している状態で、ワークWと切削工具211が接触するように移動機構24が主軸台23を移動させることにより、ワークWに穴開け加工が施される。
【0017】
主軸22は、筒体221、チャック222およびチャックスリーブ223を有する。筒体221は、テーパ形状の内周面を有するチャックスリーブ223を内部に収容する。チャック222は、チャックスリーブ223の内側に収容され、チャックスリーブ223の内周面に係合するテーパ形状の外周面を有する。チャックスリーブ223は、筒体221の内部で主軸22の軸方向に摺動可能であり、チャックスリーブ223が主軸22の軸方向に摺動することにより、チャックスリーブ223の内周面と係合するチャック222が開閉する。チャック222が開いた状態でワークWがチャック222の開口部に挿入され、チャック222が閉じられることにより、ワークWが主軸22に保持される。
【0018】
主軸台23は、主軸モータおよび制御回路を有する。主軸モータは、主軸22と接続されて主軸22を回転させる。主軸モータは、例えば主軸22と主軸第23との間に配置されるビルトインモータである。制御回路は、演算処理装置5から送信されて加工装置2が備える記憶装置(不図示)にあらかじめ記憶された加工プログラムに基づいて主軸モータを制御する。記憶装置は、例えば半導体メモリである。制御回路は、主軸モータを任意の速度で回転させ、または停止させる。
【0019】
移動機構24は、X軸移動機構、Y軸移動機構およびZ軸移動機構並びに制御回路を有する。X軸移動機構、Y軸移動機構およびZ軸移動機構は、例えばガイドレール機構であり、主軸台23を3軸方向に移動可能に保持する。制御回路は、記憶装置にあらかじめ記憶された加工プログラムに基づいてX軸移動機構、Y軸移動機構およびZ軸移動機構を制御する。
【0020】
ワークWに穴開け加工を施すときには、切削工具211がワークWに対向して配置された状態で、ワークWを保持した主軸22が切削工具211の延伸方向を軸として回転することにより、ワークWを回転させる。移動機構24は、ワークWが回転した状態で、ワークWと切削工具211とが接触するように、主軸台23および主軸22とともにワークWを切削工具211の延伸方向に往復動させることにより、ワークWに穴開け加工を施す。ワークWは、演算処理装置5からあらかじめ送信されて記憶装置に記憶された加工プログラムに基づいて回転および往復動する。なお、移動機構24は加工部の一例である。
【0021】
センサ3は、工具台21に配置され、工具台21に保持される切削工具211の振動に関する情報を検出する。センサ3は、検出部と通信回路とを備える。検出部は、切削工具211の振動に関する情報を生成するための構成であり、加速度センサ、AE(Acoustic Emission)センサ、変位計、マイクロフォン等を備える。検出部は、主軸台23の主軸モータの負荷を検出するための電流計または電圧計を備えてもよい。通信回路は、所定の時間間隔ごとに、検出部によって生成される切削工具211の振動に関する情報を取得して演算処理装置5に送信する。
【0022】
図3は、洗浄装置4の概略構成を示す模式図である。洗浄装置4は、ポンプ41、チューブ42、複数のコネクタ43、複数の電磁弁44および複数の吐出口45を有する。
【0023】
ポンプ41は、演算処理装置5から送信された制御信号に基づいてクーラント液をチューブ42に送出する。例えば、ポンプ41は、クーラント液をチューブ42に任意の圧力で送出し、またはクーラント液の送出を停止する。複数のコネクタ43は、チューブ42と複数の吐出口45とをそれぞれ接続する。電磁弁44は、演算処理装置5から供給された制御信号に基づいてポンプ41から送出されたクーラント液の流路を開放し、または閉塞する。
【0024】
複数の吐出口45は、所定の方向(
図3に示す例では、上下方向)に沿って配置される。吐出口45は、切削工具211の長さよりも長い距離にわたって配置される。これにより、洗浄装置4は切削工具211の全体を洗浄して切粉絡みを解消することができる。また、吐出口45は、ワークWの近傍にも配置される。これにより、洗浄装置4はワークWを洗浄して切粉詰まりを解消することができる。複数の電磁弁44は、それぞれ独立に開閉する。これにより、洗浄装置4は、切削工具211およびワークの一部のみを洗浄することもできる。
【0025】
洗浄装置4は、演算処理装置5から送信される制御信号に基づいて、切削工具211を洗浄する。例えば、洗浄装置4は、ステップ加工における複数のステップの間に、ワークWに形成された穴から引き抜かれた切削工具211と、ワークWの穴とを洗浄する。
【0026】
図4は、演算処理装置5の機能ブロック図である。演算処理装置5は、工作機械1に有線接続されたPC(Personal Computer)、サーバ、タブレット端末、スマートフォン等の情報処理端末である。演算処理装置5は、通信ネットワークを介して工作機械1に接続された情報処理端末でもよい。演算処理装置5は、工作機械1に内蔵されてもよい。演算処理装置5は、記憶部51、通信部52および処理部53を有する。
【0027】
記憶部51は、プログラムおよびデータを記憶するための構成であり、例えば半導体メモリを備える。記憶部51は、プログラムとして、処理部53による処理に用いられるオペレーティングシステムプログラム、ドライバプログラム、アプリケーションプログラム等を記憶する。プログラムは、CD-ROM(Compact Disc Read Only Memory)、DVD-ROM(Digital Versatile Disc Read Only Memory)等のコンピュータ読取可能かつ非一時的な可搬型記憶媒体から記憶部51にインストールされる。
【0028】
通信部52は、演算処理装置5を加工装置2、センサ3および洗浄装置4と通信可能にする構成であり、インタフェース回路を備える。インタフェース回路は、例えばUSB(Universal Serial Bus)等のシリアル接続インタフェースのインタフェース回路である。インタフェース回路は、有線LAN、無線LAN等の通信インタフェース回路でもよい。通信部52は、データを加工装置2、センサ3および洗浄装置4から受信して処理部53に供給するとともに、処理部53から供給されたデータを加工装置2、センサ3および洗浄装置4に送信する。
【0029】
処理部53は、演算処理装置5の動作を統括的に制御する構成であり、一つまたは複数のプロセッサおよびその周辺回路を備える。処理部53は、例えばCPU(Central Processing Unit)を備える。処理部53は、GPU(Graphics Processing Unit)、DSP(Digital Signal Processor)、LSI(Large Scale Integration)、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)、FPGA(Field Programmable Gate Array)等を備えてもよい。処理部53は、記憶部51に記憶されているプログラムに基づいて演算処理装置5の各種処理が適切な手順で実行されるように、各構成の動作を制御するとともに、各種の処理を実行する。
【0030】
処理部53は、駆動制御部531、取得部532、特定部533および判定部534を機能ブロックとして有する。これらの各部は、処理部53が実行するプログラムによって実現される機能モジュールである。これらの各部は、専用の演算回路として演算処理装置5に実装されてもよい。
【0031】
図5(A)-(D)は、演算処理装置5による異常判定に用いられる、切削工具211の振動に関する情報の時間変化の例を示す図である。
図5(A)-(D)の各グラフの縦軸は切削工具211の振動に起因して切削工具211に加わる加速度、横軸は時間を示す。切削工具211に加わる加速度は、センサ3によって検出される。
図5(A)-(D)は、ステップ加工における特定のステップでの穴開け加工から次のステップでの穴開け加工までの期間における加速度の時間変化を示している。
【0032】
図5(A)-(D)に示す例では、特定のステップでの穴開け加工から次のステップでの穴開け加工までの期間は、期間P1-P5に区分されている。期間P1は、特定のステップにおいてワークWに穴開け加工が施されている期間である。期間P2は、特定のステップの穴開け加工の後に、穴開け加工によってワークWに設けられた穴から切削工具211が引き抜かれている期間である。期間P3は、切削工具211の全体がワークWに設けられた穴から引き抜かれている期間である。期間P4は、次のステップの穴開け加工の前に、切削工具211がワークWに設けられた穴に進入している期間である。期間P5は、特定のステップの次のステップにおいてワークWに穴開け加工が施されている期間である。なお、期間P2およびP4は、穴開け加工の前または後において、ワークWと切削工具211とが相対的に移動している移動期間の一例である。
【0033】
図5(A)は、ワークWおよび切削工具211に異常が発生していない場合の加速度の時間変化の例を示す図である。
図5(A)に示す例では、ワークWに穴開け加工が施されている期間P1およびP5においては、切削工具211が回転するワークWと接触しているため、切削工具211の振動が大きい。期間P2では、ワークWにすでに形成された穴から切削工具211が引き抜かれているため、切削工具211とワークWとが接触することがなく、切削工具211の振動は小さい。期間P3では、切削工具211の全体がワークWの外側にあるため、切削工具211とワークWとが接触することがなく、切削工具211の振動は小さい。期間P4においては、ワークWにすでに形成された穴に切削工具211が進入しているため、切削工具211とワークWとが接触することがなく、切削工具211の振動は小さくなる。
【0034】
図5(B)は、切削工具211の根元に切粉絡みの異常が発生している場合の加速度の時間変化の例を示す図である。
図5(B)に示す例では、期間P2の開始時点から途中までの期間t1においては切削工具211の振動が大きく、以後の期間においては切削工具211の振動が小さい。これは、切削工具211がワークWから引き抜かれ始めてから切削工具211の根元がワークWの外側に出るまでの期間において、切削工具211の根元に絡んだ切粉が回転するワークWに接触するためである。また、期間P4の開始時点から途中までの期間においては切削工具211の振動が小さく、以後の期間t2においては振動が大きい。これは、切削工具211の根元がワークWの穴に進入してからの期間において、切削工具211の根元に絡んだ切粉が回転するワークWに接触するためである。
【0035】
図5(C)は、切削工具211の先端に切粉絡みの異常が発生している場合の加速度の時間変化の例を示す図である。
図5(C)に示す例では、切削工具211の振動が大きい期間t1が期間P2のほぼ全てを占めている。これは、切削工具211の全体がワークWから引き抜かれるまでの期間において、切削工具211の先端に絡んだ切粉が回転するワークWに接触するためである。同様に、切削工具211の振動が大きい期間t2が期間P4のほぼ全てを占めている。これは、切削工具211の一部がワークWに進入してからの期間において、切削工具211の先端に絡んだ切粉が回転するワークWに接触するためである。
【0036】
図5(D)は、切削工具211の根元に切粉絡みの異常が発生している場合において、期間P3において切削工具211が洗浄されて切粉絡みが解消された場合の加速度の時間変化の例を示す図である。この場合、
図5(B)に示した例と同様に、期間P2のうち切削工具211の根元がワークWの穴から引き抜かれるまでの期間t1において、切削工具211の根元に絡んだ切粉が回転するワークWに接触するため、切削工具211が大きく振動する。一方、期間P3において切削工具211が洗浄されて切削工具211の根元に絡んだ切粉が除去されるため、期間P4においては、切削工具211が大きく振動することはない。
【0037】
図5(A)-(C)に示したように、切削工具211に切粉絡みの異常が発生している場合には、期間P2およびP4において、切削工具211の振動が大きい振動期間が発生する。したがって、期間P2およびP4の長さに対する振動期間の長さの比率に基づいて切削工具211に切粉絡みの異常が発生していることが検出可能である。例えば、期間P2の長さに対する振動期間の長さの比率が第1閾値より大きい場合に、切削工具211に切粉絡みの異常が発生していると判定される。
【0038】
また、
図5(B)および(C)に示したように、切粉絡みが切削工具211の根元に発生しているか先端に発生しているかに応じて、振動期間の長さが異なる。したがって、期間P2の長さに対する振動期間の長さの比率に基づいて、切削工具211において切粉絡みの異常が発生している位置が検出可能である。例えば、期間P2の長さに対する振動期間の長さの比率が第1閾値より大きい第2閾値以下である場合には切削工具211の根元に異常が発生していると判定され、第2閾値より大きい場合には切削工具211の先端に異常が発生していると判定される。
【0039】
図5(A)-(C)では切削工具211に切粉絡みの異常が発生している場合について説明したが、ワークWに設けられた穴に切粉詰まりの異常が発生している場合も、同様にして異常が検出可能である。例えば、期間P2の長さに対する振動期間の長さの比率が第1閾値以上である場合に、ワークWに切粉詰まりの異常が発生していると判定される。また、期間P2の長さに対する振動期間の長さの比率が第2閾値未満である場合にはワークWの穴の手前側に異常が発生していると判定され、第2閾値以上である場合にはワークWの穴の奥側に異常が発生していると判定される。
【0040】
図5(D)に示したように、切削工具211に切粉絡みの異常が発生している場合において、切削工具211が洗浄された場合には、以後、切粉絡みに起因して切削工具211が大きく振動することはなくなる。したがって、洗浄の前後における移動期間の長さに対する振動期間の長さの比率を比較することにより、ワークWおよび切削工具211のいずれに異常があるかが判定可能である。例えば、期間P2の長さに対する振動期間の長さの比率が第1閾値以上であり、期間P3において切削工具211が洗浄され、その後の期間P4の長さに対する振動期間の長さの比率が洗浄の前よりも減少している場合には、切削工具211に異常があると判定される。
【0041】
図6は、工作機械1によって実行される加工処理の流れの例を示すシーケンス図である。加工処理は、演算処理装置5の記憶部51に記憶されたプログラムに基づいて、処理部53が加工装置2、センサ3、洗浄装置4および演算処理装置5の他の構成と協働することにより実現される。
【0042】
最初に、加工装置2は、ワークWの加工を開始する(ステップS101)。例えば、加工装置2は、演算処理装置5の駆動制御部531が供給する制御信号に基づいて主軸22を回転させるとともに主軸台23を移動させることにより、ワークWの加工を開始する。また、加工装置2は、加工が開始されたことを示すパルス信号を演算処理装置5に供給する。
【0043】
次に、演算処理装置5の取得部532は、振動に関する情報を取得する(ステップS102)。取得部532は、通信部52を介して、加工が開始されたことを示すパルス信号を受信する。取得部532は、パルス信号を受信したことに応じて、通信部52を介して、振動に関する情報をセンサ3から受信することにより取得する。例えば、取得部532は、ワークWの加工が開始されたことを示すパルス信号が受信された時刻と加工プログラムとに基づいて、
図5(A)-(D)に示した期間P1の開始時点から期間P5の終了時点までの期間における振動に関する情報を取得する。
【0044】
次に、特定部533は、穴開け加工の前または後において、ワークWと切削工具211が相対的に移動している移動期間を特定する(ステップS103)。移動期間は、
図5(A)-(D)に示した期間P2およびP4である。特定部533は、ワークWの加工が開始されたことを示すパルス信号が受信された時刻と加工プログラムとに基づいて、移動期間を特定する。
【0045】
次に、判定部534は、ワークWおよび切削工具211の異常を判定するための判定処理を実行する(ステップS104)。判定処理の詳細は後述する。判定部534は、通信部52を介して、ワークWおよび切削工具211に異常があるか否かを示す判定結果に応じた制御信号を洗浄装置4に送信する。判定結果は、例えば、ワークWおよび切削工具211に異常がないこと、切削工具211の先端に異常があること、切削工具211の根元に異常があること、ワークWの奥側に異常があること、およびワークWの手前側に異常があることのいずれかを示す情報である。
【0046】
次に、洗浄装置4は、演算処理装置5から送信された制御信号に基づいて異常制御を実行する(ステップS105)。例えば、切削工具211の先端に切粉絡みの異常がある場合には、洗浄装置4は、次回以降の洗浄で切削工具211の先端にクーラント液が強く射出されるようにポンプ41および電磁弁44を制御する。切削工具211の根元に切粉絡みの異常がある場合には、洗浄装置4は、次回以降の洗浄で切削工具211の根元にクーラント液が強く射出されるようにポンプ41および電磁弁44を制御する。ワークWの穴に異常がある場合には、穴に洗浄液を射出するようにポンプ41および電磁弁44を制御する。以上で、加工処理が終了する。
【0047】
図7は、判定処理の流れの例を示すフロー図である。判定処理は、加工処理のステップS104において実行される。
【0048】
最初に、判定部534は、移動期間のうちから切削工具211の振動が特定の条件を満たす振動期間を抽出する(ステップS201)。特定の条件は、例えば、所定の期間において切削工具211に加わる加速度の分散値が所定の基準値以上であることである。基準値は、ワークWと切削工具211とが接触していない状態で測定された切削工具211の加速度の分散値と、ワークWと切削工具211とが接触している状態で測定された切削工具211の加速度の分散値との間の値である。特定の条件は、加速度に基づいて算出される切削工具211の変位の周波数成分に関する条件であってもよい。
【0049】
次に、判定部534は、移動期間の長さに対する振動期間の長さの比率である振動比率を算出する(ステップS202)。振動比率は、例えば、
図5(B)および(C)に示した期間P2の長さに対する期間t1の長さの比率および期間P4の長さに対する期間t2の長さの比率のうちのいずれか一方である。振動比率は、期間P2の長さに対する期間t1の長さの比率と期間P4の長さに対する期間t2の長さの比率との平均値でもよい。
【0050】
次に、ステップS203以降において、判定部534は、振動比率に基づいてワークWおよび切削工具211の異常を判定する。
【0051】
判定部534は、振動比率が第1閾値より大きいか否かを判定する(ステップS203)。第1閾値は、ワークWおよび切削工具211に異常がない場合における平均的な振動比率よりも大きく、ワークWにおける切粉詰まりおよび切削工具211における切粉絡みの異常がある場合における平均的な振動比率よりも小さくなるように設定される。第1閾値は、ゼロに設定されてもよい。
【0052】
振動比率が第1閾値以下である場合(ステップS203-No)、判定部534はワークWおよび切削工具211に異常がないと判定する(ステップS204)。以上で、判定処理が終了する。
【0053】
振動比率が第1閾値より大きい場合(ステップS203-Yes)、判定部534は振動比率が第2閾値より大きいか否かを判定する(ステップS205)。第2閾値は、第1閾値より大きい値である。第2閾値は、切削工具211の根元に切粉絡みの異常がある場合における平均的な振動比率よりも大きく、切削工具211の先端に切粉絡みの異常がある場合における平均的な振動比率よりも小さくなるように設定される。第2閾値は、ワークWの穴の手前側に切粉詰まりの異常がある場合における平均的な振動比率よりも大きく、ワークWの穴の奥側に切粉詰まりの異常がある場合における平均的な振動比率よりも小さくなるように設定されてもよい。第2閾値は、例えば0.5に設定される。
【0054】
振動比率が第2閾値より大きい場合(ステップS205-Yes)、判定部534はワークWの穴の奥側に切粉詰まりの異常があるか、または切削工具211の先端に切粉絡みの異常があると判定する(ステップS206)。
【0055】
振動比率が第2閾値以下である場合(ステップS205-No)、判定部534はワークWの穴の手前側に切粉詰まりの異常があるか、または切削工具211の根元に切粉絡みの異常があると判定する(ステップS207)。
【0056】
次に、判定部534は、洗浄の前後における振動比率を比較して、振動比率に変化があるか否かを判定する(ステップS208)。例えば、判定部534は、
図5(B)および(C)に示した期間P2の長さに対する期間t1の長さの比率と、期間P4の長さに対する期間t2の長さの比率とを比較する。判定部534は、期間P2の長さに対する期間t1の長さの比率よりも期間P2の長さに対する期間t1の長さの比率が所定値以上小さい場合に、振動比率に変化があると判定する。
【0057】
振動比率に変化がある場合(ステップS208-Yes)、判定部534は切削工具211に切粉絡みの異常があると判定する(ステップS209)。判定部534は、ステップS205における判定の結果に応じて、切削工具211の先端または根元に切粉絡みの異常があると判定する。なお、洗浄の後における振動比率が第1閾値以下である場合には、判定部534は洗浄によって切粉絡みの異常が解消され、切削工具211には異常がないと判定してもよい。
【0058】
振動比率に変化がない場合(ステップS208-No)、判定部534はワークWの穴に切粉絡みの異常があると判定する(ステップS210)。判定部534は、ステップS205における判定の結果に応じて、ワークWの穴の奥側または手前側に切粉絡みの異常があると判定する。以上で、判定処理が終了する。
【0059】
以上説明したように、工作機械1は、ワークWと切削工具211とが相対的に移動している移動期間の長さに対する、振動が特定の条件を満たす振動期間の長さの比率に基づいて、ワークWおよび切削工具211の異常を判定する。切粉絡みまたは切粉詰まりが発生している場合には、移動期間の間にワークWと切削工具211が一時的ではなく継続的に接触する。したがって、移動期間に対する振動期間の長さの比率を算出することにより、工作機械1は、切粉絡みまたは切粉詰まりの異常を適切に判定することを可能とする。
【0060】
また、工作機械1は、洗浄の前後における移動期間の長さに対する振動期間の長さの比率を比較して、ワークWおよび切削工具211のいずれに異常があるかを判定する。これにより、工作機械1は、切削工具211における切粉絡みの異常とワークWの穴における切粉詰まりの異常とを適切に区別することを可能とする。
【0061】
また、工作機械1は、振動期間の長さに基づいて、切削工具211の異常がある位置をさらに判定する。これにより、工作機械1は、切削工具211において切粉詰まりが生じた位置を適切に特定することを可能とする。また、切粉詰まりが生じた位置を洗浄装置4が局所的に洗浄する等の適切な措置をとることを可能とする。
【0062】
工作機械1には、次に述べるような変形例が適用されてもよい。
【0063】
上述した説明では、主軸22に保持されるワークWが回転し、切削工具211に対して移動するものとしたが、このような例に限られない。例えば、主軸22が切削工具211を保持し、切削工具211が回転してワークWに対して切削工具211の延伸方向に移動してもよい。また、ワークWが回転して切削工具211が延伸方向に移動してもよく、切削工具211が回転してワークWが切削工具211の延伸方向に移動してもよい。
【0064】
上述した説明では、センサ3は工具台21に配置され、切削工具211の振動に関する情報を検出するものとしたが、このような例に限られない。センサ3は主軸22、主軸台23、移動機構24等に配置され、ワークWの振動に関する情報を検出してもよい。ただし、この場合、センサ3が切削工具211とワークWとの接触による振動に加えて主軸22の回転による振動を検出し、切削工具211とワークWとの接触を検出しにくくなるため、センサ3は工具台21に配置されることが好ましい。
【0065】
上述した説明では、加工処理のステップS104において、判定部534が判定結果に基づく制御信号を洗浄装置4に送信するものとしたが、ワークWおよび切削工具211に異常がない場合には、判定部534は制御信号を送信しなくてもよい。また、判定部534は、ワークWまたは切削工具211に異常がある場合には、さらに加工装置2に制御信号を供給してもよい。例えば、判定部534は、ワークWまたは切削工具211に異常がある場合に、作業者にワークWまたは切削工具211の洗浄を促すために、加工装置2および洗浄装置4を停止させてもよい。
【0066】
上述した説明では、判定処理のステップS203において、判定部534は振動比率を第1閾値と比較することによりワークWおよび切削工具211の異常を判定するものとしたが、このような例に限られない。判定部534は、ステップ加工における複数のステップの振動比率をそれぞれ算出し、複数の振動比率に基づいてワークWおよび切削工具211の異常を判定してもよい。例えば、判定部534は、振動比率の変化、または複数の振動比率の平均値、中央値等の統計値に基づいてワークWおよび切削工具211の異常を判定してもよい。
【0067】
上述した説明では、判定処理のステップS205において、判定部534は振動比率を第2閾値と比較することによりワークWの穴および切削工具211の異常がある位置を判定するものとしたが、このような例に限られない。例えば、判定部534は、振動比率を複数の閾値と比較して、切削工具211の先端、中央および根元のいずれに切粉絡みの異常があるか、またはワークWの穴の奥側、中程、手前側のいずれに切粉詰まりの異常があるかを判定してもよい。また、判定部534は、切削工具211の根元から先端までの区間、またはワークWの穴の奥から手前までの区間を振動比率で内分した位置を異常がある位置と判定してもよい。また、判定部534は、振動比率に代えて、振動区間の長さと、加工プログラムに基づいて決定されるワークWまたは切削工具211の移動速度とに基づいて異常がある位置を判定してもよい。
【0068】
上述した説明において、判定処理のステップS205-S207は省略されてもよい。すなわち、判定部534は、ワークWまたは切削工具211の異常がある位置を判定しなくてもよい。また、判定処理のステップS208-S210は省略されてもよい。すなわち、判定部534は、ワークWおよび切削工具211の異常がある位置を判定しなくてもよい。
【0069】
上述した演算処理装置5の機能は、複数の装置によって実現されてもよい。
【0070】
当業者は、本発明の範囲から外れることなく、様々な変更、置換及び修正をこれに加えることが可能であることを理解されたい。例えば、上述した実施形態及び変形例は、本発明の範囲において、適宜に組み合わせて実施されてもよい。
【符号の説明】
【0071】
1 工作機械
2 加工装置
211 切削工具
22 主軸
24 移動機構
3 センサ
4 洗浄装置
5 演算処理装置
532 取得部
533 特定部
534 判定部