(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024095338
(43)【公開日】2024-07-10
(54)【発明の名称】ポケット構造
(51)【国際特許分類】
A41D 27/20 20060101AFI20240703BHJP
【FI】
A41D27/20 C
A41D27/20 H
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022212554
(22)【出願日】2022-12-28
(71)【出願人】
【識別番号】598172907
【氏名又は名称】株式会社コヤナギ
(74)【代理人】
【識別番号】100210295
【弁理士】
【氏名又は名称】宮田 誠心
(74)【代理人】
【識別番号】100088133
【弁理士】
【氏名又は名称】宮田 正道
(72)【発明者】
【氏名】佐久間 大典
【テーマコード(参考)】
3B035
【Fターム(参考)】
3B035AA18
3B035AB02
3B035AC02
3B035AC20
(57)【要約】
【課題】防水性を要求される被服において、構成するパーツを減らすことができることに加えて、容易にファスナーからの浸水を抑制することができるポケット構造を提供すること。
【解決手段】ポケット構造は、一方の主面が防水性を有し、表地の構成する被服用生地を少なくとも2回折り返すことによって、第一の折り返し1を境界として水切り面5と重なり部6とが形成され、重なり部6は、第二の折り返し2を境界として表面62と背面61とを有し、重なり部6は、その背面61が水切り面5と対向した状態で水切り面5を覆うようになっており、水切り面5と対向する重なり部6の背面62にファスナー8が設けられている。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
一方の主面が防水性を有し、表地の一部を構成する被服用生地を少なくとも2回折り返すことによって、
第一の折り返しを境界として水切り面と重なり部とが形成され、
重なり部は、第二の折り返しを境界として表面と背面とを有し、
重なり部は、その背面が水切り面と対向した状態で水切り面を覆うようになっており、
水切り面と対向する重なり部の背面にファスナーが設けられていることを特徴とするポケット構造。
【請求項2】
被服用生地を一方の主面側から見て、第一の折り返しが谷折り、第二の折り返しが山折りであることを特徴とする請求項1に記載のポケット構造。
【請求項3】
被服用生地をさらに2回折り返すことによって、水切り面と重なり部に加えて蓋部が形成され、
第三の折り返しを境界として水切り面と蓋部とが形成され、
蓋部は、第四の折り返しを境界として表面と背面とを有し、
蓋部は、その背面が水切り面と重なり部の第二の折り返しとで構成される開口を覆うようになっていることを特徴とする請求項1又は2に記載のポケット構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被服のポケット構造に関する。
【背景技術】
【0002】
被服の製造においては、生地などを裁ち複数のパーツに分けて、そのパーツを縫製することによって、着心地・動きやすさ・耐久性・多数のサイズ対応を実現した被服を実現することができる。
【0003】
レインコートなどの防水性を要求される被服において、一方の主面に防水性を有する被服用生地が使用されている。着用時に他方の主面が体に近い内側となり、防水性を有する一方の主面が外側となることによって被服の防水性を実現することができる。
【0004】
被服用生地自体は防水性を有するが、例えば、縫製によって生地に穴が開くこととなる。そのため、縫製による穴を通して浸水することがある。
【0005】
特許文献1に示すようなポケット構造では、縫製した箇所が多いため浸水可能性がある箇所も多くなる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
防水性を要求される被服においては、ポケットの袋体に収納されているものが出てこないように、ポケットの口にファスナーが設けられることがある。
【0008】
ファスナー自体に防水性はないため、ファスナーが設けられている面が水濡れすると袋体内部に浸水する。
【0009】
多様なポケットの中で、袋体が被服の外から見えないようになっているシームポケットやスラッシュポケット等がある。
【0010】
防水性を要求される被服において、シームポケットやスラッシュポケット等の内部にファスナーが設けられていることがある。
【0011】
雨蓋によってファスナーが覆われていることもある。
【0012】
このようなポケットでは、外からはファスナーが見えず、ポケットの袋体への浸水が避けられるように見える。
【0013】
しかし、縫製による穴や防水性のある一方の主面を流れる水によって、ファスナーが設けられている面が水濡れすることがある。
【0014】
ファスナーが設けられている面が水濡れすると、ファスナーからさらに袋体内部に浸水して、袋体に収納されたものが濡れてしまうことがある。
【0015】
着用時に体に近い内側において、他方の主面同士が重なった状態でパーツ同士の縫製されている場合であれば、浸水可能性がある箇所に防水性のシールを張り付けることによって、浸水を防止することができる場合がある。
【0016】
浸水可能性がある箇所が一方の主面と他方の主面とが重なっている場合は、一方の主面と他方の主面とを跨ぐように防水性シールを張り付けることとなる。
【0017】
一方の主面と他方の主面と表面粗さやコーティングの有無等の違いがあるので、一方の主面と防水性シールとの界面接着強度が、他方の主面と防水性シールとの界面接着強度に比べて弱くなってしまう。
【0018】
そのため、被服の使用を繰り返すと、防水性シールが一方の主面と防水性シールとの界面から剥離する可能性が高くなり、防水性が急激に低下する可能性がある。
【0019】
また、浸水する可能性がある箇所に防水性シールの貼り付け等の追加の防水処理を行う場合、被服の製造工程が増えるとともに、製造コスト及び製造に必要なエネルギーが増大してしまう。
【0020】
防水処理で、防水性シール等の被服用生地以外の異素材が被服に加わることによって、被服のリサイクル性も低下する可能性がある。
【0021】
そこで、本発明は、防水性を要求される被服において、構成するパーツを減らすことができることに加えて、容易にファスナーからの浸水を抑制することができるポケット構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0022】
本発明の請求項1のポケット構造は、一方の主面が防水性を有し、表地の構成する被服用生地を少なくとも2回折り返すことによって、第一の折り返しを境界として水切り面と重なり部とが形成され、重なり部は、第二の折り返しを境界として表面と背面とを有し、重なり部は、その背面が水切り面と対向した状態で水切り面を覆うようになっており、水切り面と対向する重なり部の背面にファスナーが設けられている。
【0023】
請求項1のポケット構造によれば、重なり部が水切り面を覆っているので、水切り面が濡れることを抑制することができる。さらに、水切り面が濡れたとしても、その水切り面に沿って水が流れる。水切り面に沿って流れる水は、第一の折り返しを超えて、水切り面に対向する重なり部の背面に流れにくくなっている。重なり部の背面にファスナーが設けられているので、ファスナーからの浸水を抑制することができる。
【0024】
請求項1のポケット構造によれば、また、連続する1枚の被服用生地を折り返すことによってポケット構造が実現されるので、複数枚の被服用生地でポケット構造を実現することに場合に比べて、構成するパーツ及び縫製箇所を減らすことができる。
【0025】
本発明の請求項2のポケット構造は、請求項1のポケット構造において、被服用生地を一方の主面側から見て、第一の折り返しが谷折り、第二の折り返しが山折りである。
【0026】
請求項2のポケット構造によれば、請求項1のポケット構造と同様の作用に加えて、対向する水切り面と重なり部の背面の両方が防水性のある一方の主面となる。そのため、水切り面と重なり部の背面の間に水が入っても被服用生地を通して浸水することはない。
【0027】
本発明の請求項3のポケット構造は、請求項1又は2のポケット構造において、被服用生地をさらに2回折り返すことによって、水切り面と重なり部に加えて蓋部が形成され、第三の折り返しを境界として水切り面と蓋部とが形成され、蓋部は、第四の折り返しを境界として表面と背面とを有し蓋部は、その背面が水切り面と重なり部の第二の折り返しとで構成される開口を覆うようになっている。
【0028】
請求項3のポケット構造によれば、請求項1又は2のポケット構造と同様の作用に加えて、蓋部が形成されることによって、よりファスナーからの浸水を抑制することができる。
【発明の効果】
【0029】
本発明のポケット構造は、防水性を要求される被服において、構成するパーツを減らすことができることに加えて、容易にファスナーからの浸水を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【
図1】本発明の一実施形態のポケット構造が設けられる被服の一例を示す概略正面図である。
【
図2】
図1のポケット構造用の被服用生地の平面図であって折り返す前の状態を示す。
【
図4】本発明の別の実施形態のポケット構造用の概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
本発明の一実施形態のポケット構造は、例えば、
図1に示すような防水性を有するジャケットにおいて適用できる。
【0032】
ジャケットの前身頃の表地において、セットイン・ポケットが矢印Aの位置に設けられている。
【0033】
このセットイン・ポケットは、ポケットの開口が縦になっているバーティカル・ポケットである。
【0034】
ポケットには、後述するファスナー8が設けられており開閉自在となっている。
【0035】
図1に示すようにジャケットは、正面視でファスナー8が見えないようになっている。
【0036】
図1において、向かって右のポケット構造は、
図2の被服用生地10で実現することができる。向かって左のポケット構造も
図2の被服用生地10の線対称の被服用生地で実現することができる。
【0037】
図2で見える被服用生地10は一方の主面には基材生地に防水層が設けられており防水性を有する。
図2では見えない反対側の他方の主面は、基材生地がそのまま露出している。
【0038】
被服用生地10は、
図2に示すように、折り返す前は第二の折り返し2、第一の折り返し1、第三の折り返し3、第四の折り返し4の順に並ぶ。第一の折り返し1から第四の折り返し4は、被服用生地10において平行に延びている。
【0039】
被服用生地10を一方の主面側から見て、第一の折り返し1を谷折りし、第二の折り返し2を山折りする。さらに第三の折り返し3を谷折りし、第四の折り返し4を山折りする。
【0040】
上記のように、第一の折り返し1から第四の折り返し4を折り返した後の被服用生地10は、第一の折り返し1と第三の折り返し3との間が水切り面5、第一の折り返し1と第二の折り返し3との間が重なり部6の背面61、第二の折り返し2から端までが重なり部6の表面62、第三の折り返し3と第四の折り返し4との間が蓋部7の背面71、第四の折り返し4から端までが蓋部7の表面72となる。
【0041】
水切り面5に重なり部6、蓋部7の順に重なるようになっている。
【0042】
蓋部7は、水切り面5と重なり部6の第二の折り返し2とで構成される開口を露出させることができるようにフラップ開閉させることができるようになっている。
【0043】
安定したフラップ開閉のために、蓋部7の背面71、表面72及び水切り面5は、折り返しが伸びる方向と平行に縫製されている(
図3の灰色の鎖線参照)。
【0044】
第一の折り返し1から第四の折り返し4を折り返して、蓋部7の縫製が行われた被服用生地10は、他の被服パーツと縫製されて、
図1のジャケットの前身頃の表地の一部を構成する。
【0045】
図1の前身頃の表地の一部を構成する被服用生地10は、
図3に示すような概略断面図となる。
【0046】
重なり部6は、背面61が水切り面5と対向した状態で水切り面5を覆うようになっている。
【0047】
蓋部7は、背面71が水切り面5と重なり部6の第二の折り返し2とで構成される開口を覆うようになっている。
【0048】
重なり部6の背面61には一方の主面から他方の主面まで貫通するスリットが形成され、そのスリットに合わせてファスナー8が設けられている。
【0049】
重なり部6の背面61の他方の主面には、袋体9が取り付けられている。ファスナー8を開くと、袋体9にものを出し入れできるようになっている。
【0050】
図3の灰色の鎖線で示すように、蓋部7の背面71、表面72及び水切り面5が縫製されている箇所は、浸水可能性がある。そのため、着用時に体に近い内側まで水が到達しないように、縫製されている箇所を覆うための防水性シール11が張り付けられている。
【0051】
防水性シール11が張り付けられている箇所は、蓋部7の表面72の他方の主面と水切り面5の他方の主面が重なっている。そのため、防水性シール11の界面接着強度に差が生じることなく、縫製されている箇所を覆うように張り付けることができるようになっている。
【0052】
蓋部7の背面71、表面72の縫製によって、蓋部7の表面72から背面71に浸水したとしても、その水は重力によって、防水性を有する蓋部7の背面71又は水切り面5に沿って流れる。そのため、ファスナー8が設けられている重なり部6の背面61にまで、水が到達することが抑制される。
【0053】
本発明の別の実施形態として、上記の実施形態の蓋部7が存在せず、水切り面5と重なり部6とから構成されているポケット構造を
図4に示す。
【0054】
被服用生地10は、折り返す前は第二の折り返し2、第一の折り返し1の順に並ぶ。第一の折り返し1から第二の折り返し2は、被服用生地10において平行に延びている。
【0055】
被服用生地10を一方の主面側から見て、第一の折り返し1を谷折りし、第二の折り返し2を山折りする。
【0056】
上記のように、第一の折り返し1及び第二の折り返し2を折り返した後の被服用生地10は、第一の折り返し1から端までが水切り面5、第一の折り返し1と第二の折り返し3との間が重なり部6の背面61、第二の折り返し2から端までが重なり部6の表面62となる。
【0057】
水切り面5に重なり部6が重なるようになっている。
【0058】
第一の折り返し1及び第二の折り返し2を折り返した被服用生地10は、他の被服パーツと縫製されて、ジャケットの前身頃の表地の一部を構成する。
【0059】
前身頃の表地の一部を構成する被服用生地10は、
図4に示すような概略断面図となる。
【0060】
重なり部6は、背面61が水切り面5と対向した状態で水切り面5を覆うようになっている。
【0061】
重なり部6の背面61の他方の主面には、袋体9が取り付けられている。ファスナー8を開くと、袋体9にものを出し入れできるようになっている。
【0062】
水切り面5と重なり部6の第二折り返し2とで構成される開口から水が浸入したとしても、その水は重力によって、防水性を有する水切り面5に沿って流れる。そのため、ファスナー8が設けられている重なり部6の背面61にまで、水が到達することが抑制される。
【0063】
上記実施形態では、ポケット構造が防水性を有するジャケットにおいて適用されている場合について説明したが、これに限定されることはない。本発明のポケット構造は、例えば、防水性を有するズボン等に適用してもよい。
【0064】
上記実施形態では、ポケット構造を実現する被服用生地10が縫製されて前身頃の表地の一部となる場合について説明したが、これに限定されることはない。ポケット構造を実現する被服用生地が縫製されて、例えば、後身頃、細腹、袖等の表地の一部となってもよい。
【0065】
上記実施形態では、ポケット構造がポケットの開口が縦になっているバーティカル・ポケットに使用されている場合について説明したが、これに限定されることはない。本発明のポケット構造は、例えば、ポケットの開口が横になっているホリゾンタル・ポケット等に使用してもよい。
【符号の説明】
【0066】
1 第一の折り返し
2 第二の折り返し
3 第三の折り返し
4 第四の折り返し
5 水切り面
6 重なり部
7 蓋部
8 ファスナー
9 袋体
10 被服用生地
11 防水性シール
61 背面
62 表面
71 背面
72 表面