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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024095343
(43)【公開日】2024-07-10
(54)【発明の名称】釉薬層を備えた陶器
(51)【国際特許分類】
   C04B 41/86 20060101AFI20240703BHJP
   C04B 33/24 20060101ALI20240703BHJP
【FI】
C04B41/86 R
C04B33/24
【審査請求】有
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022212563
(22)【出願日】2022-12-28
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2024-01-23
(71)【出願人】
【識別番号】000010087
【氏名又は名称】TOTO株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100094640
【弁理士】
【氏名又は名称】紺野 昭男
(74)【代理人】
【識別番号】100103447
【弁理士】
【氏名又は名称】井波 実
(74)【代理人】
【識別番号】100111730
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 武泰
(74)【代理人】
【識別番号】100187377
【弁理士】
【氏名又は名称】芳野 理之
(74)【代理人】
【識別番号】100180873
【弁理士】
【氏名又は名称】田村 慶政
(72)【発明者】
【氏名】笠原 慎吾
(72)【発明者】
【氏名】新崎 朝規
(72)【発明者】
【氏名】岩澤 亜希
(57)【要約】
【課題】 熔化質素地を用いながら、良好な性能の陶器、例えば耐貫入性、耐急冷性に優れ、釉薬面の剥げの発生が有効に防止された陶器の提供。
【解決手段】 熔化質素地と釉薬からなる層とを少なくとも備えてなる陶器であって、熔化質素地の熱膨張率が釉薬の熱膨張率より大であり、その差が5×10-7/K乃至25×10-7/Kの範囲にあり、熔化質素地が石英を含み、該石英の最大粒径が50μm以下であり、熔化質素地の吸水率が0.5%以下である陶器は、耐貫入性、耐急冷性に優れ、釉薬面の剥げの発生が有効に防止される。
【選択図】 なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
熔化質素地と、釉薬からなる層とを少なくとも備えてなる陶器であって、
前記素地の熱膨張率が前記釉薬の熱膨張率より大であり、その差が5×10-7/K乃至25×10-7/Kの範囲にあり、
前記熔化質素地が石英を含み、該石英の最大粒径が50μm以下であり、
前記熔化質素地の吸水率が0.5%以下である
ことを特徴とする、陶器。
【請求項2】
前記熔化質素地の熱膨張率と前記釉薬の熱膨張率との差が6×10-7/K以上である、請求項1に記載の陶器。
【請求項3】
前記熔化質素地の熱膨張率と前記釉薬の熱膨張率との差が22×10-7/K以下である、請求項1又は2に記載の陶器。
【請求項4】
前記熔化質素地の熱膨張率が63×10-7/K乃至75×10-7/Kである、請求項1又は2に記載の陶器。
【請求項5】
前記熔化質素地の熱膨張率が50×10-7/K乃至58×10-7/Kである、請求項1又は2に記載の陶器。
【請求項6】
前記熔化質素地が石英を22重量%以下含み、かつ該石英の最大粒径が15μm以上50μm以下である、請求項1又は2に記載の陶器。
【請求項7】
前記熔化質素地の組成が、
SiOを60~75重量%、好ましくは65~72.5重量%、
Alを20~30重量%、好ましくは22.5~27.5重量%、
Feを0.4~1.5重量%、好ましくは0.5~1.4重量%、
CaO を0.1~2.0重量%、好ましくは0.2~1.5重量%、
MgO を0.1~1.5重量%、好ましくは0.2~1.2重量%、
O を0.8~5.0重量%、好ましくは1.0~4.0重量%、そして
NaO を0.4~4.0重量%、好ましくは0.8~3.0重量%
である、請求項1又は2に記載の陶器。
【請求項8】
衛生陶器又はタイルである、請求項1又は2に記載の陶器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は釉薬層を備えた陶器に関し、詳しくは熔化質素地に釉薬層が設けられた陶器に関する。
【背景技術】
【0002】
衛生陶器、タイルなどの陶器は、素地とその表面に設けられた釉薬層とから基本的になり、素地と釉薬層との密着性は最終的な陶器の耐久性、外観などに影響を与える。とりわけ、焼成の過程で特に素地は収縮、変形することから、素地と釉薬層と組み合わせは重要になる。
【0003】
特開2002-114566号公報(特許文献1)は、素地と釉薬層との組み合わせにおいて、熱膨張率への配慮を開示する。具体的には、釉薬を、素地よりも熱膨張係数が0~30×10-7/℃小さいものとなるようにし、これによって、釉薬表面の経年変化に伴う微細なひび割れが生じにくくなるとし(段落0022)、さらに素地の熱膨張係数が50~90×-7/℃(50~600℃)である素地の衝撃強度が2×10-1J/cm以上であったとされている(段落0023及び0024)。この公報開示の素地はその組成、焼成条件及び吸水率が18%であること等から非熔化質素地である。
【0004】
また、特開平6-056516号公報(特許文献2)は、いわゆる“釉めくれ”の観点から、熔化質素地と釉薬の昇温時の熱膨張率に着目し、釉薬の昇温時の熱膨張挙動を素地のそれに合せることが好ましいとし、そのための手段を開示する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2002-114566号公報
【特許文献2】特開平6-056516号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明者らは、今般、熔化質素地と釉薬の昇温時の熱膨張率を合せるのではなく、一定の差が生じる関係にあるものの組み合わせとし、さらに石英の存在形態を制御することで、良好な性能の陶器を実現できるとの知見を得た。具体的には、耐貫入性、耐急冷性に優れ、釉薬面の剥げの発生が有効に防止された陶器が実現できるとの知見を得た。
【0007】
したがって、本発明は熔化質素地を用いながら、良好な性能の陶器、例えば耐貫入性、耐急冷性に優れ、釉薬面の剥げの発生が有効に防止された陶器の提供をその目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
そして、本発明による陶器は、
熔化質素地と、釉薬からなる層とを少なくとも備えてなる陶器であって、
前記熔化質素地の熱膨張率が前記釉薬の熱膨張率より大であり、その差が5×10-7/K乃至25×10-7/Kの範囲にあり、
前記熔化質素地が石英を含み、該石英の最大粒径が50μm以下であり、
前記熔化質素地の吸水率が0.5%以下である
ことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、熔化質素地を用いた、良好な性能の陶器、例えば耐貫入性、耐急冷性に優れ、釉薬面の剥げの発生が有効に防止された陶器が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明による陶器
本発明において、「陶器」とは、衛生陶器、タイルなど素地に釉薬層が設けられた基本構成を備えた物を意味する。また、「衛生陶器」とは、バスルーム、トイレ空間、化粧室、洗面所、または台所などで用いられる陶器製品を意味する。具体的には、大便器、小便器、便器のサナ、便器タンク、洗面器、手洗い器などを意味する。
【0011】
本発明による陶器は、熔化質素地と、釉薬からなる層とを少なくとも備えてなる。そして、素地の熱膨張率が釉薬の熱膨張率より大であり、その差が5×10-7/K乃至25×10-7/Kの範囲にあることを特徴とする。両者の熱膨張率の差を上記範囲に置くことで、良好な性質、性能の陶器が実現できる。具体的には、釉薬面への貫入の発生が抑制されるという耐貫入性に優れ、また耐急冷性に優れることから、素地面又は釉薬面におけるクラックの発生が有効に防止でき、さらに、釉飛び、すなわち釉薬面の剥げの発生が防止できるとの利点が得られる。上記した特許文献3が提案するように、素地の熱膨張率が釉薬の熱膨張率を合わせることは釉薬面の剥げの発生を有効に防止できるが、素地の熱膨張率が釉薬の熱膨張率より大であり、その差を上記範囲におくことで、耐貫入性に優れ、また耐急冷性にも優れるということは意外な事実と評価されるべきである。
【0012】
本発明の好ましい態様によれば、素地の熱膨張率と釉薬の熱膨張率との差の範囲は、その下限が好ましくは6×10-7/Kであり、より好ましくは10×10-7/Kであり、また上限は好ましくは22×10-7/K、より好ましくは20×10-7/Kである。差が、これら好ましい範囲にあることで、耐貫入性又は耐急冷性においてより有利となる。
【0013】
本発明において、熔化質素地は石英を含み、この石英の最大粒径が15μm以上50μm以下とされる。好ましい態様によれば、石英の最大粒径は17μm以上48μm以下、より好ましくは19μm以上46μm以下とされる。石英の最大粒径が上記範囲にあることで、良好な性質、性能の陶器が実現でき、具体的には、耐貫入性、耐急冷性に優れた陶器が実現できる。
【0014】
また、本発明の好ましい態様によれば、石英の含有量は、22重量%以下とされる。好ましい態様によれば、石英の含有量は8~22重量%、より好ましくは10~20重量%とされる。
【0015】
本発明において、熔化質素地の吸水率は0.5%以下とされ、好ましくは0.48%以下であり、より好ましくは0.46%以下とされる。
【0016】
本発明の好ましい態様によれば、熔化質素地自体の熱膨張率は63×10-7/K乃至75×10-7/Kであることが好ましく、より好ましくは64×10-7/K乃至5874×10-7/Kである。
【0017】
また、本発明の好ましい態様によれば、釉薬自体の熱膨張率は50×10-7/K乃至58×10-7/K程度であることが好ましく、より好ましくは51×10-7/K乃至57×10-7/Kである。
【0018】
熔化質素地
本発明による陶器を構成する熔化質素地とは、緻密で均質な組織であって、開気孔がほとんど又は実質的に全くなくなるまで焼き締めた素地を意味する。ここで、「熔化」(vitrification) とは、焼成中に素地粒子が熔融してガラス相が生成され、このガラス相が高温下で流動状態になり、熔融しなかった素地粒子のスキマを埋めていく現象を指している。この熔融する粒子と熔融しない粒子の区別は、粒子を構成する結晶の種類による融点の違い、及びその組み合せ(単独では融点が高い結晶でも別の結晶が存在することにより融点が下る場合もある)と焼成温度・時間によって決定される。熔融する原料としては、熔剤としてはたらく長石類や、成形時に素地に可塑性を与える粘土類があげられ、又、熔融しない原料としては、石英をあげることができる。ただし石英は、全く熔融しないわけではなく、一部が熔融してガラス相中に熔け込み、一部が結晶としてそのまま残るという構造をとってもよい。
【0019】
本発明において利用可能な熔化質素地の原料である粘土類の例としては、カオリナイト、ハロイサイト、メタハロイサイト、ディッカイト、パイロフィライト等の粘土質鉱物と、セリサイト、イライト等の粘土状雲母等が挙げられる。これらの鉱物は、蛙目粘土、木節粘土、カオリン、ボールクレー、チャイナクレー等の粘土質原料や各種陶石中に豊富に含まれており、又、長石質原料中にも一部含まれている。これらの粘土類としては、カオリナイト、ハロイサイトが特に成形時の可塑性を向上させるのに優れており、セリサイトは素地の焼成温度を低下させることに効果が大きい。これらの粘土類の鉱物は焼成中に熔融してガラス相を形成するものであるが、一部未熔融のまま結晶として残存してもよい。
【0020】
また、本発明において利用可能な熔化質素地の原料である長石類の例としては、カリ長石、ソーダ長石、灰長石の様な長石質鉱物やネフェライト、及び天然ガラス、フリット等が挙げられる。これらの原料は各種の長石質原料やネフェリンサイアナイト、コーニッシューストーン、さば、ガラス質火山岩、及び各種陶石中に豊富に含まれており、又、粘土質原料中にも一部含まれている。これらの長石類としては特にアルカリ成分としてKO及びNaOを豊富に含むものが好ましく、その例としてはカリ長石、ソーダ長石、及びネフェライトが挙げられる。また、その組成中に石英を実質的に全く含んでいないネフェリンサイアナイトを用いることもできる。これらの長石類の鉱物は焼成中に熔融してガラス相を形成するものであるが、一部未熔融のまま結晶として残存してもよい。
【0021】
本発明において利用可能な熔化質素地の原料である石英の例としては珪砂、珪石の様なほぼ全量が石英からなる原料を用いることもでき、又、上記各種陶石や、サバ、長石質原料、粘土質原料中にも含まれているため、これらを用いることもできる。
【0022】
本発明において利用可能な熔化質素地は、α-アルミナを含むことができる。
【0023】
本発明の好ましい態様によれば、本発明による陶器を構成する素地は、以下の組成を有する。
SiOを60~75重量%、好ましくは65~72.5重量%、
Alを20~30重量%、好ましくは22.5~27.5重量%、
Feを0.4~1.5重量%、好ましくは0.5~1.4重量%、
CaOを0.1~2.0重量%、好ましくは0.2~1.5重量%、
MgOを0.1~1.5重量%、好ましくは0.2~1.2重量%、
Oを0.8~5.0重量%、好ましくは1.0~4.0重量%、そして
NaOを0.4~4.0重量%、好ましくは0.8~3.0重量%
を含む。
【0024】
釉薬
本発明による陶器の釉薬層を形成する釉薬は、特に限定されず種々の釉薬を利用することができ、さらに、その色も種々のものを利用することができる。
【0025】
本発明において釉薬は、珪砂、長石、石灰石などの天然鉱物粒子の混合物及び/又は非晶質釉薬に顔料及び/又は乳濁剤を添加したものを使用できる。例えば、釉薬の組成は、SiO:52~80重量部、Al:5~14重量部、CaO:6~17重量部、MgO:0.5~4.0重量部、ZnO:1~11重量部、KO:1~5重量部、NaO:0.5~2.5重量部、乳濁剤:0.1~15重量部、顔料:0.001~20重量部である。釉薬は、その他に糊剤、分散剤、防腐剤、抗菌剤などが含有されていてもよい。顔料としては、コバルト化合物、鉄化合物などが挙げられる。乳濁剤としては、ジルコン、酸化錫などが挙げられる。また、非晶質釉薬とは、上記のような天然鉱物粒子などの混合物からなる釉薬原料を高温で溶融し、ガラス化させた釉薬をいい、例えばフリット釉薬が好適に利用可能である。
【0026】
本発明において利用可能な釉薬の色は、ホワイト、アイボリー、グレー、ピンク、ブラウンと表現される色、またはホワイト、パステルアイボリー、ホワイトグレー、パステルピンク、ハーベストブラウンと表現される色が例示できる。ホワイト、アイボリー、グレー、ピンク、ブラウンは、例えば、マンセル値で表すと、それぞれN8.6、3.0Y 8.7/0.9、1.4Y 7.8/0.5、0.9YR8.2/1.9、8.3YR7.1/1.2に近似する色、また一般社団法人日本塗料工業会の塗料用標準色で表すと、それぞれLN93、L19-92B、LN-80、L09-80D、L19-70Bに近似する色である。
【0027】
本発明の一つの態様によれば、釉薬層は着色された釉薬層の上に、透明な釉薬層を設けることができる。
【0028】
焼成条件
本発明による陶器は、素地及び釉薬の組成を考慮して、その焼成条件を適宜定め、製造されてよい。例えば、素地に釉薬を適用した後、1100~1300℃の温度で、2~2.5時間、昇温温度を1.2~25℃/分程度で焼成することにより、成形素地を焼結させ、かつ釉薬層を固着させることができる。
【実施例0029】
本発明をさらに以下の実施例により説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0030】
試験1:熔化質素地試験片の用意
表1に記載の組成からなる熔化質素地1~3を以下のようにして得た。原料として、骨格形成材料であるセリサイト陶石およびカオリン陶石、または珪石を8~45重量%、可塑性材料であるチャイナクレー(粉体)およびボールクレー(粉体)を28~65重量%、主焼結助剤である長石を約10~35重量%、およびドロマイトを1~4重量%秤量し、水と解膠剤として珪酸ソーダを適量添加したものを一括してボールミルに入れ、レーザー回折式粒度分布計を用いた粉砕後の素地スラリーの粒度測定結果が、10μm以下が52~60%、50%平均粒径(D50)が7~9μm程度になるまで湿式粉砕し、陶器素地材料を得た。得られた陶器素地材料を、石膏型を用いた泥漿鋳込み成形法により成形し、成形体を得た。得られた成形体を電気炉により焼成して、表1に記載の熔化質素地1~3を得た。ヒートカーブの最高温度は約1200℃とした。
【0031】
【表1】
【0032】
物性評価
得られた熔化質素地1~3について、以下の項目及び方法につき測定を行った。これらの結果は、前記表1に記載のとおりであった。
【0033】
インキ浸透度
JIS A5207に則して測定した。
【0034】
吸水率
吸水率は、JIS A1509-3に則して測定した。素地材料の焼成体サンプルを110℃で24hr乾燥させ、冷却した後、質量W1を測定した。次に、サンプルをデシケータ内で水中に浸漬し、真空状態で1hr保持することで、強制的に開気孔を水で飽和させ、このときの質量W2を測定した。吸水率を下記式にて求めた。
吸水率=(W2-W1)/W1×100(%)
【0035】
結晶相構成状態
結晶相として存在する石英およびムライトはX線回折装置により各結晶相の量を標準物質による検量線から定量し重量%で示した。また、石英は電子顕微鏡により観察し、その画像の解析にて平均粒径および最大粒径を求めた。
【0036】
熱膨張係数
焼成した直径5mm、長さ20mmのテストピースを用い、示差膨張計によって、圧縮荷重法また測定温度範囲50~600℃にて測定した線熱膨張係数を求め、これを熱膨張率係数とした。
【0037】
試験2:釉薬の用意
表2の組成からなる釉薬1~8を以下のようにして得た。釉薬原料2Kgと水1Kg及び球石4Kgを、容積6リットルの陶器製ポットに入れ、レーザー回折式粒度分布計を用いた粉砕後の着色性釉薬スラリーの粒度測定結果が、10μm以下が65%、50%平均粒径(D50)が6.0μm程度になるように、ボールミルにより粉砕を行い、釉薬を得た。釉薬の色は焼成後の釉薬層の色がホワイトになるよう調整した。
【0038】
熱膨張係数
得られた釉薬1~8について、熱膨張係数を次のように測定した。彫り込みを入れた耐火材に釉薬を注入して焼成した後、釉薬部分を切り出して直径5mm、長さ20mmのテストピースに加工を行ない、示差膨張計によって、圧縮荷重法また測定温度範囲50~600℃にて測定した線熱膨張係数を求め、これを熱膨張率係数とした。
【0039】
【表2】
【0040】
試験3:陶器の製造
試験1と同様の方法により熔化質素地1~3に対応する成形体を得て、この成形体に試験2で得た釉薬1~8を塗布し、焼成して陶器を得た。陶器素地及び釉薬の組成を考慮して、その焼成条件を適宜定めた。例えば、陶器素地に釉薬を適用した後、1100~1300℃の温度で、2時間~25時間、昇温温度を1.2~25℃/分程度で焼成することにより、成形素地を焼結させ、かつ釉薬層を固着させた。
【0041】
物性評価
得られた熔化質素地1~3と釉薬1~8とを組み合わせた陶器について、それぞれ以下の試験を行った。
【0042】
耐貫入性
JIS A 5207 8.1.1 c)に準じて試験した。
【0043】
耐急冷性
JIS A 5207 8.1.1 b)に準じて試験した。そして、素地面及び釉薬面におけるクラックを抑制できているものを「〇」、製品の部位によってはクラックが発生しているものを「△」、製品全体にクラックが発生しているものを「×」と評価した。
【0044】
釉飛び
焼成して得られた陶器について、目視による陶器表面の外観検査を行い、釉薬面の外観検査を行い、釉薬剥げが発生しているかを試験した。そして、釉薬面における釉薬剥げを抑制できているものを「〇」、製品の部位によっては釉薬剥げが発生しているものを「△」、製品全体に釉薬剥げが発生しているものを「×」と評価した。
【0045】
結果は、以下の表3~表5に記載のとおりであった。
【表3】
【表4】
【表5】
【0046】
以上の表3~表5に示される結果は、前記素地の熱膨張率が前記釉薬の熱膨張率より大であり、その差が5×10-7/K乃至25×10-7/Kの範囲にあることで、耐貫入性、耐急冷性に優れ、釉薬面の剥げの発生が防止できることを示している。
【0047】
本発明の好ましい態様
本発明の好ましい態様は以下のとおりである。
(1) 熔化質素地と、釉薬からなる層とを少なくとも備えてなる陶器であって、
前記素地の熱膨張率が前記釉薬の熱膨張率より大であり、その差が5×10-7/K乃至25×10-7/Kの範囲にあり、
前記熔化質素地が石英を含み、該石英の最大粒径が50μm以下であり、
前記熔化質素地の吸水率が0.5%以下である
ことを特徴とする、陶器。
(2) 前記熔化質素地の熱膨張率と前記釉薬の熱膨張率との差が6×10-7/K以上である、(1)に記載の陶器。
(3) 前記熔化質素地の熱膨張率と前記釉薬の熱膨張率との差が22×10-7/K以下である、(1)又は(2)に記載の陶器。
(4) 前記熔化質素地の熱膨張率が63×10-7/K乃至75×10-7/Kである、(1)乃至(3)に記載の陶器。
(5) 前記熔化質素地の熱膨張率が50×10-7/K乃至58×10-7/Kである、(1)乃至(4)に記載の陶器。
(6) 前記熔化質素地が石英を22重量%以下含み、かつ該石英の最大粒径が15μm以上50μm以下である、(1)乃至(5)に記載の陶器。
(7) 前記熔化質素地の組成が、
SiOを60~75重量%、好ましくは65~72.5重量%、
Alを20~30重量%、好ましくは22.5~27.5重量%、
Feを0.4~1.5重量%、好ましくは0.5~1.4重量%、
CaO を0.1~2.0重量%、好ましくは0.2~1.5重量%、
MgO を0.1~1.5重量%、好ましくは0.2~1.2重量%、
O を0.8~5.0重量%、好ましくは1.0~4.0重量%、そして
NaO を0.4~4.0重量%、好ましくは0.8~3.0重量%
である、(1)乃至(6)に記載の陶器。
(8) 衛生陶器又はタイルである、(1)乃至(7)に記載の陶器。
【手続補正書】
【提出日】2023-04-06
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
コランダムを含まない熔化質素地と、釉薬からなる層とを少なくとも備えてなる陶器であって、
前記素地の熱膨張率が前記釉薬の熱膨張率より大であり、その差が×10-7/K乃至22×10-7/Kの範囲にあり、
前記熔化質素地が石英を10~22重量%含み、該石英の最大粒径が15μm以上50μm以下であり、
前記熔化質素地の吸水率が0.5%以下であり、
前記熔化質素地の組成が、
SiO を60~75重量%、
Al を20~30重量%、
Fe を0.4~1.5重量%、
CaO を0.1~2.0重量%、
MgO を0.1~1.5重量%、
O を0.8~5.0重量%、そして
Na O を0.4~4.0重量%
であ
ことを特徴とする、陶器。
【請求項2】
前記熔化質素地の熱膨張率が63×10-7/K乃至75×10-7/Kである、請求項1又は2に記載の陶器。
【請求項3】
前記釉薬の熱膨張率が50×10-7/K乃至58×10-7/Kである、請求項1又は2に記載の陶器。
【請求項4】
前記熔化質素地の組成が、
SiO を65~72.5重量%、
Al を22.5~27.5重量%、
Fe を0.5~1.4重量%、
CaO を0.2~1.5重量%、
MgO を0.2~1.2重量%、
を1.0~4.0重量%、そして
Naを0.8~3.0重量%
である、請求項1又は2に記載の陶器。
【請求項5】
衛生陶器又はタイルである、請求項1又は2に記載の陶器。
【手続補正書】
【提出日】2023-08-24
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
化質素地(ただし、コランダムを含む熔化質素地は除く)と、釉薬からなる層とを少なくとも備えてなる陶器であって、
前記素地の熱膨張率が前記釉薬の熱膨張率より大であり、その差が6×10-7/K乃至22×10-7/Kの範囲にあり、
前記熔化質素地が石英を10~22重量%含み、該石英の最大粒径が15μm以上50μm以下であり、
前記熔化質素地の吸水率が0.5%以下であり、
前記熔化質素地の組成が、
SiOを60~75重量%、
Alを20~30重量%、
Feを0.4~1.5重量%、
CaO を0.1~2.0重量%、
MgO を0.1~1.5重量%、
O を0.8~5.0重量%、そして
NaO を0.4~4.0重量%
である
ことを特徴とする、陶器。
【請求項2】
前記熔化質素地の熱膨張率が63×10-7/K乃至75×10-7/Kである、請求項1又は2に記載の陶器。
【請求項3】
前記釉薬の熱膨張率が50×10-7/K乃至58×10-7/Kである、請求項1又は2に記載の陶器。
【請求項4】
前記熔化質素地の組成が、
SiOを65~72.5重量%、
Alを22.5~27.5重量%、
Feを0.5~1.4重量%、
CaO を0.2~1.5重量%、
MgO を0.2~1.2重量%、
O を1.0~4.0重量%、そして
NaO を0.8~3.0重量%
である、請求項1又は2に記載の陶器。
【請求項5】
衛生陶器又はタイルである、請求項1又は2に記載の陶器。
【手続補正書】
【提出日】2023-10-27
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】請求項2
【補正方法】変更
【補正の内容】
【請求項2】
前記熔化質素地の熱膨張率が63×10-7/K乃至75×10-7/Kである、請求項1に記載の陶器。