(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024095353
(43)【公開日】2024-07-10
(54)【発明の名称】円筒の内面を研磨する研磨装置及び研磨方法
(51)【国際特許分類】
B24B 21/02 20060101AFI20240703BHJP
【FI】
B24B21/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022212580
(22)【出願日】2022-12-28
(71)【出願人】
【識別番号】390037165
【氏名又は名称】Mipox株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100096725
【弁理士】
【氏名又は名称】堀 明▲ひこ▼
(74)【代理人】
【識別番号】100087480
【弁理士】
【氏名又は名称】片山 修平
(72)【発明者】
【氏名】セパシィ・ザマティ モハマド・サイド
(72)【発明者】
【氏名】中川 紗央里
【テーマコード(参考)】
3C158
【Fターム(参考)】
3C158AA05
3C158AA12
3C158AA14
3C158AA16
3C158AB01
3C158AB04
3C158CA01
3C158CA02
3C158CB03
3C158CB04
3C158DA11
(57)【要約】
【課題】従来の研磨フィルムを使用でき、磁性流体を使用して容易に円筒の内面を研磨できる装置及び方法を提供する。
【解決手段】非磁性体円筒の内面を研磨する研磨装置は、非磁性体円筒を支持し、その軸線にそって回転させる複数のローラと、非研磨体円筒の外側に配置される磁性体と、片面に研磨層が形成され、その研磨層が内面の、磁性体円筒に対応する位置で内面と接して研磨する研磨フィルムと、磁性体円筒内の研磨フィルムに接して配置され、内部に磁性流体が封入される研磨フィルム押圧器と、から構成される。研磨フィルム押圧器に封入された磁性流体と、非磁性体円筒の外に位置する磁性体との間に形成される磁気力により、研磨フィルムが内面に押圧され、 ローラの回転により非磁性体筒体は回転し、前記内面を押圧する前記研磨フィルムは前記内面を研磨する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
非磁性体円筒の内面を研磨する研磨装置であって、
非磁性体円筒を支持し、その軸線にそって回転させる複数のローラと、
前記非研磨体円筒の外側に配置される磁性体と、
片面に研磨層が形成され、その研磨層が前記内面の、前記磁性体円筒に対応する位置で前記内面と接して研磨する研磨フィルムと、
前記磁性体円筒内の前記研磨フィルムに接して配置され、内部に磁性流体が封入される研磨フィルム押圧器と、
から構成され、
前記研磨フィルム押圧器に封入された磁性流体と、前記非磁性体円筒の外に位置する前記磁性体との間に形成される磁気力により、前記研磨フィルムが前記内面に押圧され、
前記ローラの回転により前記非磁性体筒体は回転し、前記内面を押圧する前記研磨フィルムは前記内面を研磨する研磨装置。
【請求項2】
前記研磨フィルム押圧器は押圧する研磨フィルムに対応する開口部を有し、前記開口部は、低摩擦係数をもつ弾性シートで覆われ、
前記弾性シートが前記研磨テープと接する、請求項1に記載の研磨装置
【請求項3】
前記研磨フィルムを軸線方向にそって一方向に移動する移動手段を有する、請求項1に記載の研磨装置。
【請求項4】
前記研磨フィルムを軸線方向にそって往復移動する往復移動手段を有る、請求項1に記載の研磨装置。
【請求項5】
非磁性体円筒の内面を研磨する研磨方法であって、
非磁性体円筒を軸線方向に回転可能に支持する複数のローラ間に、前記非磁性体筒体を配置する工程と、
前記非研磨体円筒の外側に配置される磁性体に対応する前記磁性体筒体の内面の位置に、研磨層が形成されている研磨フィルムを、前記研磨層を前記内面に接するように配置する工程と、
前記磁性体筒体内に配置された前記研磨フィルムに、磁性流体が封入される研磨フィルム押圧器を接して配置する工程と、
前記研磨フィルム押圧器に封入された磁性流体と、前記非磁性体円筒の外に位置する前記磁性体との間に形成される磁気力により、前記研磨フィルムの前記研磨層が前記内面に押圧されているとき、前記ローラの回転により前記非磁性体筒体を回転させる工程と、
を含む、研磨方法。
【請求項6】
前記研磨テープ押圧器は押圧する研磨フィルムに対応する開口部を有し、前記開口部は、低摩擦係数をもつ弾性シートで覆われ、
前記弾性シートが前記研磨フィルムと接する、請求項5に記載の研磨方法
【請求項7】
前記研磨フィルムは軸線方向にそって一方向に移動する、請求項5に記載の研磨方法。
【請求項8】
前記研磨フィルムは軸線方向にそって往復移動する、請求項5に記載の研磨方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、パイプや小径の筒体の内面を研磨する研磨装置及び研磨方法に関し、特にチタンニウム材、銅材などの非磁性体の筒体の内面を均一に研磨する研磨装置及び研磨方法に関に関するものである。
【背景技術】
【0002】
パイプや、小径の筒体の内面の研磨は中を流れる物の滞留の防止や滞留したものに起因する腐食を防止するために、均一研磨する必要があるものの、研磨作業空間が狭いために、研磨処理について種々の制限がある。
【0003】
金属製のパイプなどの筒体の内面研磨には、電解研磨が利用されている。
【0004】
また、非磁性体の筒体には、磁性研磨材粒子を内部に入れ、筒体の外部より磁場を与え、磁性研磨材粒子に磁気力を与えその力により研磨する方法が利用されている。
【0005】
さらに、筒体の内面に沿わせることが可能な可撓性のある研磨テープを使用する研磨方法が利用されている。この研磨テープには磁性体が塗布され、筒体の外に設けられた磁石が、磁性体が塗布された研磨テープを磁力によりひきつけ、内面に密着させ、内面を研磨する(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
筒体内に電極を挿入して研磨を行う方法では、電解質生成物の除去が課題となっている。さらに、電解液の処理・処置に難があり、取り扱いが難しい。
【0008】
磁性研磨材粒子を使用する研磨では、必要な研磨力が得られず、研磨効率が悪い。磁性体研磨材粒子の寿命が短いという欠点もある。
【0009】
本発明の目的は、従来の研磨フィルムを使用でき、容易に円筒の内面を研磨できる装置及び方法を提供することである。
【0010】
さらに、本発明の目的は、研磨フィルムを円筒の内面に押圧する力を調節可能な、上記装置及び方法を提供することである。
【0011】
また、本発明の他の目的は、円筒の内面の全体を鏡面研磨することができる、上記研磨装置及び方法を提供することである。
【0012】
さらにまた、本発明の他の目的は、研磨くずが散乱しない、上記研磨装置及び方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記目的を達成する本発明の研磨装置は非磁性体円筒の内面を研磨する研磨装置であって、
非磁性体円筒を支持し、その軸線にそって回転させる複数のローラと、
前記非研磨体円筒の外側に配置される磁性体と、
片面に研磨層が形成され、その研磨層が前記内面の、前記磁性体円筒に対応する位置で前記内面と接して研磨する研磨フィルムと、
前記磁性体円筒内の前記研磨フィルムに接して配置され、内部に磁性流体が封入される研磨フィルム押圧器と、
から構成され、
前記研磨フィルム押圧器に封入された磁性流体と、前記非磁性体円筒の外に位置する前記磁性体との間に形成される磁気力により、前記研磨フィルムが前記内面に押圧され、
前記ローラの回転により前記非磁性体筒体は回転し、前記内面を押圧する前記研磨フィルムは前記内面を研磨する。
【0014】
本発明の非磁性体円筒の内面を研磨する研磨装置であって、
非磁性体円筒を軸線方向に回転可能に支持する複数のローラ間に、前記非磁性体筒体を配置する工程と、
前記非研磨体円筒の外側に配置される磁性体に対応する前記磁性体筒体の内面の位置に、研磨層が形成されている研磨フィルムを、前記研磨層を前記内面に接するように配置する工程と、
前記磁性体筒体内に配置された前記研磨フィルムに、磁性流体が封入される研磨フィルム押圧器を接して配置する工程と、
前記研磨フィルム押圧器に封入された磁性流体と、前記非磁性体円筒の外に位置する前記磁性体との間に形成される磁気力により、前記研磨フィルムの前記研磨層が前記内面に押圧されているとき、前記ローラの回転により前記非磁性体筒体を回転させる工程と、
を含む。
【0015】
前記研磨フィルム押圧器は押圧する研磨フィルムに対応する開口部を有し、前記開口部は、低摩擦係数をもつ弾性シートで覆われ、前記弾性シートが前記研磨テープと接する。
【0016】
前記研磨フィルムは一方向に移動する移動手段により軸線方向にそって移動してよい。また軸線方向にそって往復移動する往復移動手段に
より、往復移動してもよい。
【発明の効果】
【0017】
本発明では、研磨フィルム押圧器に封入される磁性流体は、研磨フィルム押圧器の径に従って自在に変形するため、円筒にそって研磨フィルム押圧器の径を変更しても、必要な量の磁性流体を利用でき、研磨フィルムへの押圧力を確保できる。
【0018】
さらに、円筒の外に、磁性体を配置し、円筒内の磁性体との間に磁気力を生じさせるために、磁性体と円筒との間の距離(必要であれば、複数個の磁性体の数)を調節することで、研磨に必要な磁気力を得ることできる。
【0019】
さらに、使用される研磨フィルムは市販のものを利用できる。このことは、研磨フィルムに磁性粒子を含有させる必要がなく、磁性粒子が脱粒により研磨くずの散乱がない、クリーンな研磨が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】
図1は本発明の研磨装置の概略斜視図である。
【
図2】
図2は円筒内に、磁性流体が封入された研磨フィルム押圧器配置された状態を示す研磨装置の略示断面図である。
【
図3】
図3は円筒の斜視図であり、円筒内の表面粗さの測定位置を示す。
【
図4】
図4は、銅製の円筒、チタン製の円筒の内表面の研磨前後の表面粗さを、
図3の測定位置で測定した値を示す。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明の一実施例の研磨装置の概略斜視図が
図1に示されている。中央に、被研磨対象である非磁性体円筒2が、周囲を配置されたローラ3a、3b、3bの中央に配置される。
【0022】
円筒2は、例えば難削材の銅やチタニウム製の円筒で、軸線にそって回転可能に、三つのローラにより支持される。ローラ3aはモータ4からの伸びる軸5に取り付けられ、モータ4の制御により所望(回転速度、回転方向)に回転可能となっている。ローラは円滑な回転が円筒に伝わるようにシリコーン材で覆われている。ローラ3b、3cは円筒2を回転自在に支持する。
【0023】
図2に示されているように、筒体2の外側に、永久磁石のよう磁性体11が配置されている。この磁性体11は、必要な磁気力が発生するように調節可能である。たとえば、通体2と磁性体11との間の距離を変更することや、永久磁石が複数のブロックにし、その重ね方を変更することで、磁気力を調節する。永久磁石を電磁石で置き換えることが可能である。
【0024】
この円筒2に、両側が突き出ように、円筒状の研磨フィルム押圧器6が配置される。研磨フィルム押圧器6は
図1に示されているように、両端は固定ロッド6a、6bにより、上下移動可能に固定されている。この研磨フィルム押圧器6は、
図2に示されているように、軸線にそって開口部61が形成されている。開口部61の軸線方向の長さは、筒体2の軸線方向の長さより長い。
【0025】
その開口部61は、弾性シート63で密封可能に覆われる。開口部61から中に、磁性流体64を流し込むことができる。磁性流体64が流し込まれた後、開口部61は、弾性シート63により密封される。弾性シート63は、軸方向に移動(往復移動)する研磨フィルムと接触することから、低摩擦の材料、例えばクロロプレンゴムシート(厚さ0.5mm)で構成される。
【0026】
封入された磁性流体64は、
図2に示されているように、研磨フィルム押圧器6に底部の開口部61を覆うように溜まることができる。この磁性流体体64と、円筒2の外側に配置された磁性体11との間に形成される磁気力により、以下で説明する研磨フィルムが円筒2に押し付けられる。押し付け力は、磁性体11を調節することにより適宜決定することができる。
【0027】
研磨フィルム押圧器6は円筒6の径に対応して、その径より小さい径をもつようにするが、どのような径となっても、その中の磁性流体64は液状であるため、研磨フィルム押圧器6の径にそって、磁気力(研磨力)を生じさせるのに必要な量をその中に封入することができる。
【0028】
円筒2と研磨フィルム押圧器6の間に、研磨フィルム7が配置される。研磨フィルム7は、
図2において、円筒2に向く側に研磨層が形成されている。研磨層は、円筒2を研磨するのに適した研磨粒子がバインダーにより固定されている。
図1に示されているとおり、研磨フィルム7は環状で、ローラ8a、8bに渡されている。ローラ8a、8bの回転より、循環移動する。もちろん、ローラの回転方向を調節することで、往復移動も可能である。
【0029】
研磨フィルム7は、このような環状のものに限らず、一方のローラの巻き付け、他方のローラで巻き取るようにしてもよい。この場合、常に新しい研磨層による研磨が実施される。
【0030】
研磨フィルム7は、円筒2の径に沿ってその幅を変える必要はない。
図2に図示の円筒2より大きな径をもつものを研磨するとき、研磨フィルムは、より大きな円筒の内面により平らになるが、研磨フィルム押圧器の弾性シートは平たくなった研磨フィルムを押圧できる。円筒の径がより小さくなっても同様に行うことができる。
【0031】
研磨操作
図2に示されているように、円筒2をローラ3a、3b、3dの間に配置する。この円筒2の下方には磁性体11が配置されている。円筒2に配置された研磨フィルム7に接するように、研磨フィルム押圧器6が配置される。この研磨フィルム押圧器には、磁性流体が封入されている。
【0032】
研磨フィルム押圧器6の弾性シート63は、封入された磁性流体64と磁性体11とにより発生する磁気力により、研磨フィルム7を上から押圧する。この押圧により、研磨フィルム7は、円筒2にその内壁にそって密接する。
【0033】
磁気力は、磁性体を調節し(たとえば、磁性体の円筒までの距離を調節し、あるいは、磁性体が複数個から構成されるときは、数を調節)し、必要な研磨力を確保する。
【0034】
ローラ8a、8bを回転させ、研磨フィルム押圧器6と円筒2との間にある研磨フィルム7を、ローラの回転方向を適宜変更し走行させるとともに、ローラ3a、3b、3cの回転により、円筒2を回転させる。所定時間研磨後に、円筒をローラから外す。
【0035】
実施例
円筒の研磨を以下の通りに行った。
【0036】
研磨対象
銅製の円筒:径50mm、長さ50mm、厚さ2mm
チタニウム製の円筒:径60.5mm、長さ50mm、厚さ2mm
である。
【0037】
研磨フィルム
VARIOFILM♯320(Mipox(株)製):ポリエステルフィルムに白色溶融アルミナ(粒度:60)がバインダーで固定されている。
【0038】
磁性流体
E-600(シグマハイケミカル社製)1.5g
実施例では、最も深いところで約3mm
磁性体
Ne-Fe-B(永久磁石):
24mm(横)×12.5mm(高さ)×24mm(縦)の上に12mm×10mm×18mmを積層
他の設定値
円筒と磁性体との距離:4mm
円筒の回転速度:12rpm
研磨フィルムの速度:18m/min
一回の研磨時間:5min
上記設定の下で、研磨の状態を測定する位置が
図3に示されている。
図3(A)は横断面からみた測定する位置を示し、
図3(B)は円筒の端面からみた測定する位置を示し、
図3(C)は円筒の斜視図からみた測定する位置を示す(測定はすべて、円筒の内側)。図示に示されているとおり、左端部内側付近上の(P1)、左(P2)、右(P3)、中央部内側付近の上(P4)、左(P5)、右(P6)、右端部内側の上(P7)、左(P8)、右(P9)において測定が行われた。
【0039】
測定結果が
図4に示されている。
磁性体と円筒との距離が4mmと8mmの場合について研磨、測定が行われた。測定値は、平均粗さである。
図4に示されているとおり、研磨後の円筒の内壁の平均粗さ実質的一定となり、磁性流体と磁性体との組み合わせが非常に有効な研磨であることが示されている。
【0040】
磁性流体と磁性体との組み合わせによる本発明は、非磁性体円筒の内壁の研磨に利用することができる。
【符号の説明】
【0041】
1 研磨装置
2 非磁性体円筒
3a、3b、3c ローラ
4 モータ
5 軸
6 研磨フィルム押圧器
6a、6b 固定ロッド
64 磁性流体
63 カム
7 研磨フィルム
8a、8b ローラ