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特開2024-95363受信機,周波数スペクトラム再生方法及び周波数スペクトラム再生プログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024095363
(43)【公開日】2024-07-10
(54)【発明の名称】受信機,周波数スペクトラム再生方法及び周波数スペクトラム再生プログラム
(51)【国際特許分類】
   H04B 1/16 20060101AFI20240703BHJP
【FI】
H04B1/16 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022212594
(22)【出願日】2022-12-28
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和4年度、総務省、戦略的情報通信研究開発推進事業、「製造分野における5G高度化技術の研究開発」
(71)【出願人】
【識別番号】504157024
【氏名又は名称】国立大学法人東北大学
(74)【代理人】
【識別番号】110003649
【氏名又は名称】弁理士法人真田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】芝 隆司
(72)【発明者】
【氏名】末松 憲治
【テーマコード(参考)】
5K061
【Fターム(参考)】
5K061CC02
5K061CC08
5K061CC14
5K061JJ06
5K061JJ07
(57)【要約】
【課題】低雑音のスペクトラム再生処理を実現する。
【解決手段】無線周波数の共通分岐点からサンプリング処理を行う回路までの回路の伝達関数特性H(ω)を予め測定し、K種類のサンプリング周波数でサンプリングし、独立にフーリエ変換して、0からナイキスト周波数群までの周波数スペクトラムを取得し、K個の周波数スペクトラムの周波数刻み幅を等しく設定し、それぞれの周波数スペクトラム要素を結合したベクトル(y)を生成し、0から受信機の上限周波数までの周波数で周波数刻み幅に相当する分解能で与えられた周波数群に対応した周波数とナイキスト周波数群での折り返し周波数とに相当する周波数要素及び(y)の要素に対応する行列要素を、予め測定した伝達関数特性で無線周波数に対応する特性とし、その他の要素をゼロとした係数行列(A)を生成し、(y)=(A)(x)の解(x)を算出する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
アンダーサンプリング受信方式を用いた周波数スペクトラム再生を行う受信機において、
受信した周波数スペクトラムを、共通分岐点を介して、K(Kは2以上の自然数)種類のサンプリング周波数を変えてサンプリングした時間軸データから生成する処理装置を有し、
前記処理装置は、
(1)無線周波数の前記共通分岐点からサンプリング処理を行う回路までの回路の伝達関数特性を予め測定する手段と、
(2)前記K種類のサンプリング周波数でサンプリングし、それぞれを独立にフーリエ変換して、0からナイキスト周波数群までの周波数スペクトラムを得て、1~K個の周波数スペクトラムの周波数刻み幅を等しく設定し、それぞれの周波数スペクトラム要素を結合したベクトル(y)を生成する手段と、
(3)0から受信機の上限周波数まで、あるいは必要観測帯域の周波数で、前記周波数刻み幅の分解能に相当する分解能で与えられた周波数群に対応した周波数と前記ナイキスト周波数群での折り返し周波数に相当する周波数要素と前記ベクトル(y)の要素に対応する行列要素を、予め測定した前記伝達関数特性で前記無線周波数に対応する特性とし、その他の要素をゼロとした係数行列(A)を生成する手段と、
(4)前記ベクトル(y)と前記係数行列(A)を用い、(y)=(A)(x)((x)は解ベクトル)の線型方程式の関係から、圧縮センシング法または最小二乗法により(x)を求める手段と、
(5)前記(4)の解ベクトル(x)の条件として、前記ナイキスト周波数群での折り返しが0又は偶数の場合の解xeとし、同じ所望の周波数帯域群の周波数における、前記ナイキスト周波数群での折り返しが奇数の場合の解xoとしたとき、xoとxeが複素共役である条件を前記(4)の繰り返しアルゴリズム内に実装する手段と、
(6)得られた前記解ベクトル(x)のうち、所定の帯域を抽出する手段と、
を備える、受信機。
【請求項2】
前記処理装置は、
瞬時信号帯域番号をi、観測される瞬時信号帯域をb、拡大観測帯域番号をj、拡大観測帯域をβとしたとき、
前記瞬時信号帯域biの総和がアナログデジタル変換器の独立の情報を持つサンプリング周波数の総和の半分以下の場合に、前記圧縮センシング法により前記無線周波数のスペクトラムを再生し、
前記拡大観測帯域βの総和が前記アナログデジタル変換器の独立の情報を持つサンプリング周波数の総和の半分以下の場合に、前記最小二乗法により前記無線周波数のスペクトラムを再生する、
請求項1に記載の受信機。
【請求項3】
前記処理装置は、
データのサンプリングを行う前に、低域通過フィルタと、必要とされる周波数帯域のみを通過させる帯域通過フィルタとの少なくとも一方に、前記受信した周波数スペクトラムを通過させる、
請求項1又は2に記載の受信機。
【請求項4】
全てのサンプリング数Nsは互いに素であり、
全ての独立の情報を持つサンプリング周波数の和の半分は受信機で必要とする観測帯域の総和以上である、
請求項1又は2に記載の受信機。
【請求項5】
前記処理装置は、
瞬時信号帯域番号をi、観測される瞬時信号帯域をb、拡大観測帯域番号をj、拡大観測帯域をβとしたとき、
前記瞬時信号帯域bの総和が、受信機の独立変数の数Nivと受信機のスペクトラムの周波数刻み幅との積の総和の半分以下である場合に、圧縮センシング法により前記無線周波数のスペクトラムを再生し、
前記拡大観測帯域βの総和が、受信機の独立変数の数Nivと受信機のスペクトラムの周波数刻み幅Δfとの積の総和の半分以下である場合に、最小二乗アルゴリズムにより前記無線周波数のスペクトラムを再生する、
請求項1に記載の受信機。
【請求項6】
前記処理装置は、
高速フーリエ変換処理を必要とし、且つ、全てのサンプリング数Nsが互いに素で無い場合に、受信機で必要とする観測帯域の総和に対応する独立変数の数Nivは、並列アナログデジタル変換器の回路数をK、最大公約数を表す関数をgcdとするとき、
【数16】
で求められるNivと前記周波数刻み幅の積の半分の値と前記瞬時信号帯域bの総和と拡大観測帯域βの総和により、最小二乗アルゴリズム又は圧縮センシング法を選択する、
ことを特徴とする、請求項5に記載の受信機。
【請求項7】
前記処理装置は、
前記受信した周波数スペクトラムの各帯域の合成前の段階に設置されるスイッチにより必要帯域のみを考慮することによって、前記瞬時信号帯域bの総和が、受信機の独立変数の数Nivと受信機のスペクトラムの周波数刻み幅との積の総和の半分以下、あるいは拡大観測帯域βの総和が、受信機の独立変数の数Nivと受信機のスペクトラムの周波数刻み幅Δfとの積の総和の半分以下条件を満足させる、
ことを特徴とする、請求項5記載の受信機。
【請求項8】
アンダーサンプリング受信方式を用いた周波数スペクトラム再生方法において、
受信した周波数スペクトラムを、共通分岐点を介して、K(Kは2以上の自然数)種類のサンプリング周波数を変えてサンプリングした時間軸データから生成する際に、
(1)無線周波数の前記共通分岐点からサンプリング処理を行う回路までの回路の伝達関数特性を予め測定し、
(2)前記K種類のサンプリング周波数でサンプリングし、それぞれを独立にフーリエ変換して、0からナイキスト周波数群までの周波数スペクトラムを得て、1~K個の周波数スペクトラムの周波数刻み幅を等しく設定し、それぞれの周波数スペクトラム要素を結合したベクトル(y)を生成し、
(3)0から受信機の上限周波数まで、あるいは必要観測帯域の周波数で、前記周波数刻み幅の分解能に相当する分解能で与えられた周波数群に対応した周波数と前記ナイキスト周波数群での折り返し周波数に相当する周波数要素と前記ベクトル(y)の要素に対応する行列要素を、予め測定した前記伝達関数特性で前記無線周波数に対応する特性とし、その他の要素をゼロとした係数行列(A)を生成し、
(4)前記ベクトル(y)と前記係数行列(A)を用い、(y)=(A)(x)((x)は解ベクトル)の関係から、圧縮センシング法または最小二乗法により(x)を求め、
(5)前記(4)の解ベクトル(x)の条件として、前記ナイキスト周波数群での折り返しが0又は偶数の場合の解xeとし、同じ所望の周波数帯域群の周波数における、前記ナイキスト周波数群での折り返しが奇数の場合の解xoとしたとき、xoとxeが複素共役である条件を前記(4)の繰り返しアルゴリズム内に実装し、
(6)得られた前記解ベクトル(x)のうち、所定の帯域を抽出する、
周波数スペクトラム再生方法。
【請求項9】
受信した周波数スペクトラムを、共通分岐点を介して、K(Kは2以上の自然数)種類のサンプリング周波数を変えてサンプリングした時間軸データから生成する際に、無線周波数の前記共通分岐点からサンプリング処理を行う回路までの予め測定した回路の伝達関数特性を使用し、アンダーサンプリング受信方式を用いた周波数スペクトラム再生プログラムにおいて、
(1)前記K種類のサンプリング周波数でサンプリングし、それぞれを独立にフーリエ変換して、0からナイキスト周波数群までの周波数スペクトラムを得て、1~K個の周波数スペクトラムの周波数刻み幅を等しく設定し、それぞれの周波数スペクトラム要素を結合したベクトル(y)を生成し、
(2)0から受信機の上限周波数まで、あるいは必要観測帯域の周波数で、前記周波数刻み幅の分解能に相当する分解能で与えられた周波数群に対応した周波数と前記ナイキスト周波数群での折り返し周波数に相当する周波数要素と前記ベクトル(y)の要素に対応する行列要素を、予め測定した前記伝達関数特性で前記無線周波数に対応する特性とし、その他の要素をゼロとした係数行列(A)を生成し、
(3)前記ベクトル(y)と前記係数行列(A)を用い、(y)=(A)(x)((x)は解ベクトル)の関係から、圧縮センシング法または最小二乗法により(x)を求め、
(4)前記(3)の解ベクトル(x)の条件として、前記ナイキスト周波数群での折り返しが0又は偶数の場合の解xeとし、同じ所望の周波数帯域群の周波数における、前記ナイキスト周波数群での折り返しが奇数の場合の解xoとしたとき、xoとxeが複素共役である条件を前記(3)の繰り返しアルゴリズム内に実装し、
(5)得られた解ベクトル(x)のうち、所定の帯域を抽出する、
処理をコンピュータに実行させる、周波数スペクトラム再生プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書に記載する技術は、受信機,周波数スペクトラム再生方法及び周波数スペクトラム再生プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
ダイレクトRadio Frequency(RF)アンダーサンプリング技術は、比較的低周波のサンプリングでRF信号を捉えることができるため、高周波回路のデジタル化に必須な技術である。しかし、アンダーサンプリングの性質上、スペクトラムの折り返しが発生し、RF信号の特定には特殊な方法が必要である。そのため、ダイレクトRFアンダーサンプリング技術を用いたRFスペクトラム再生方法が、種々提案されている。
【0003】
RFスペクトラム再生方法として、Analog-Digital Converter(ADC)のサンプリン周波数を選定し必要な帯域のスペクトラムが復元される技術がある。この手法では、各観測帯域の帯域通過フィルタ(Band Pass Filter;BPF)を配置し、折り返し雑音や帯域外妨害波の除去が行われている。また、RFアンダーサンプリングされたデータからFast Fourier Transform(FFT)により必要な観測帯域の周波数スペクトラムが得られる。
【0004】
他のRFスペクトラム再生方法として、受信信号が複数並列に接続されたサンプリング周波数の異なるADCによりサンプリングされ、圧縮センシングアルゴリズムにより、元のRFスペクトラムが再生される技術も存在する。この技術でのRFスペクトラム再生アルゴリズムにおいて、アンダーサンプリングで得られたスペクトラム(以下、「アンダーサンプリングスペクトラム」と称す場合がある。)は、元のRFスペクトラムの折り返しを加算したものである。この圧縮センシングアルゴリズムでは、受信したRF信号に対して、トップフィルタを通過させてスペクトラム再生が行われてよい(例えば、特許文献1)。
【0005】
また、受信したRF信号に対して、トップフィルタを通過させずにスペクトラム再生を行う最小二乗アルゴリズムも提案されている(例えば、非特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2021-106340号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】芝隆司,亀田卓,末松憲治「折り返し雑音除去用トップフィルタを用いないダイレクトRFアンダーサンプリング方式の提案」IEICE Technical Report、2021年10月28日
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、従来例におけるRFスペクトラム再生方法では、受信したRF信号の特性を正確に捉えることができず、各周波数帯域におけるADCへの信号入力の際に誤差が生じるおそれがあることがわかった。
【0009】
本発明者らはこの原因を鋭意検討した結果、これは、特許文献1の図4や、非特許文献の図3に示されるように、従来の信号処理では、結合行列要素を1としていたため、特に、高周波においては、受信したRF信号の特性を正確に表すことができていなかったためであることがわかった。
【0010】
1つの側面では、本明細書に記載する技術は、低雑音のスペクトラム再生処理を実現することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
1つの側面において、受信機は、アンダーサンプリング受信方式を用いた周波数スペクトラム再生を行う受信機において、受信した周波数スペクトラムを、共通分岐点を介して、K(Kは2以上の自然数)種類のサンプリング周波数を変えてサンプリングした時間軸データから生成する処理装置を有し、前記処理装置は、(1)無線周波数の前記共通分岐点からサンプリング処理を行う回路までの回路の伝達関数特性を予め測定する手段と、(2)前記K種類のサンプリング周波数でサンプリングし、それぞれを独立にフーリエ変換して、0からナイキスト周波数群までの周波数スペクトラムを得て、1~K個の周波数スペクトラムの周波数刻み幅を等しく設定し、それぞれの周波数スペクトラム要素を結合したベクトル(y)を生成する手段と、(3)0から受信機の上限周波数まで、あるいは必要観測帯域の周波数で前記周波数刻み幅の分解能に相当する分解能で与えられた周波数群に対応した周波数と前記ナイキスト周波数群での折り返し周波数に相当する周波数要素と前記ベクトル(y)の要素に対応する行列要素を、予め測定した前記伝達関数特性で前記無線周波数に対応する特性とし、その他の要素をゼロとした係数行列(A)を生成する手段と、(4)前記ベクトル(y)と前記係数行列(A)を用い、(y)=(A)(x)((x)は解ベクトル)の線型方程式の関係から、圧縮センシング法または最小二乗法により(x)を求める手段と、(5)前記(4)の解ベクトル(x)の条件として、前記ナイキスト周波数群での折り返しが0又は偶数の場合の解xeとし、同じ所望の周波数帯域群の周波数における、前記ナイキスト周波数群での折り返しが奇数の場合の解xoとしたとき、xoとxeが複素共役である条件を前記(4)の繰り返しアルゴリズム内に実装する手段と、(6)得られた前記解ベクトル(x)のうち、所定の帯域を抽出する手段と、を備える。
【発明の効果】
【0012】
1つの側面として、低雑音のスペクトラム再生処理を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】実施形態としての受信機の信号処理回路を例示するブロック図である。
図2図1に示した受信機におけるRF帯域とRFスペクトラムとの関係を模式的に示すグラフである。
図3】独立変数の数を説明する図である。
図4】実施形態としての受信機の実装例を例示するブロック図である。
図5】RFの共通分岐点から3つのADCまでの間での振幅特性、群遅延時間特性、伝達関数を示すグラフである。(a)~(c)はRFの共通分岐点から3つのADCまでの間での振幅特性を例示するグラフである。(d)~(f)はRFの共通分岐点から3つのADCまでの間での遅延時間特性を例示するグラフである。(g)~(i)はRFの共通分岐点から3つのADCまでの間での伝達関数を例示するグラフである。
図6】従来の手法における圧縮センシングアルゴリズムを用いたRFスペクトル再生結果を示すグラフである。(a)~(c)は周波数帯域毎の元のスペクトラムを例示するグラフであり、(d)~(f)は周波数帯域毎の再生スペクトラムを例示するグラフである。
図7】本発明の手法における圧縮センシングアルゴリズムを用いたRFスペクトル再生結果を示すグラフである。(a)~(c)は周波数帯域毎の元のスペクトラムを例示するグラフであり、(d)~(f)は実施形態における周波数帯域毎の再生スペクトラムを例示するグラフである。
図8】最小二乗アルゴリズムを用いたRFスペクトル再生結果を示すグラフである。(a)は周波数帯域毎の元のスペクトラムを例示するグラフであり、(b)は実施形態における周波数帯域毎の再生スペクトラムを例示するグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面を参照して実施の形態を説明する。ただし、以下に示す実施形態はあくまでも例示に過ぎず、実施形態で明示しない種々の変形例や技術の適用を排除する意図はない。すなわち、本実施形態を、その趣旨を逸脱しない範囲で種々変形して実施することができる。
【0015】
また、各図は、図中に示す構成要素のみを備えるという趣旨ではなく、他の構成要素を含むことができる。以下、図中において、同一の符号を付した部分は特に断らない限り、同一若しくは同様の部分を示す。
【0016】
[本発明の受信機]
図1は、実施形態としての受信機(システム)100の信号処理回路を例示するブロック図である。
【0017】
受信機100は、アンテナ1,Low Noise Amplifier(LNA)2,複数(図示する例ではK個)のADC3,複数(図示する例ではK個)のClock発振器(CLK)4及び複数(図示する例ではK個)のFFT5を備える。なお、Kは、2以上の自然数であり、
【0018】
アンテナ1,LNA2,ADC3及びCLK4はハードウェアによって実現され、FFT5はソフトウェアによって実現されてよい。
【0019】
受信機100においては、アンテナ1によって受信された信号がLNA2で増幅させられる。増幅された信号は、複数のADC3によってアナログ信号からデジタル信号へ変換される。各ADC3は、CLK4によってそれぞれ制御される。各ADC3から出力されたデジタル信号は、複数のFFT5によってそれぞれ高速フーリエ変換される。なお、本実施例では、一例として、同一期間における各ADC3のサンプリング周波数fsとサンプリング数Nsの比は一定としており、その場合、この値(fs/Ns)はシステムの周波数刻み幅Δfとなる。
【0020】
3つのADC3は、対応するCLK4によって、周波数fs,fs,・・・fsでそれぞれサンプリングを行う。RFの共通分岐点(この場合LNA2)から3つのADC3へ入力される信号の伝達関数は、H(ω),H(ω),・・・H(ω)でそれぞれ表される。すなわち、図1に示す例では、各ADC3へのパスの伝達関数がそれぞれ異なって、同時アンダーサンプリングされる。
【0021】
ここで、一例として、符号20aに示すように、アンテナ1及びLNA2からの入力を信号源2aからの連続波(CW)の入力に置き換え、ω=2πfとすると、以下のように求められる。例えば、周波数fsのCLK4によってサンプリングされる1番目のADC3への入力信号の伝達関数は、信号源2aの周波数が0以上fs/2未満の場合にそのままH(ω)となり、信号源2aの周波数がfs/2以上の場合に折り返し周波数のアンダーサンプリング特性がH(ω)となる。2番目のADC3の場合も同様に、周波数fsのCLK4によって制御されるADC3への入力信号の2番目の伝達関数は、信号源2aの周波数が0以上fs/2未満の場合にそのままH(ω)となり、信号源2aの周波数がfs/2以上の場合に折り返し周波数のアンダーサンプリング特性がH(ω)となる。同様に最終K番目の周波数fsのCLK4によって制御されるADC3への入力信号の伝達関数は、信号源2aの周波数が0以上fs/2未満の場合にそのままH(ω)となり、信号源2aの周波数がfs/2以上の場合に折り返し周波数のアンダーサンプリング特性がH(ω)となる。
【0022】
また、アンテナ1及びLNA2からの入力は、符号20bに示す構成に置き換えられてもよい。符号20bに示す構成では、アンテナ1,LNA2と信号源2aとは、スイッチ(SW)2bに接続され、このSW2bを介して後段の各ADC3に接続される。これにより、伝達関数の測定タイミングにおいては、SW2bの入力が信号源2a側に接続され、各ADCに連続波を入力できる。一方、受信機100の運用中においては、SW2bの入力がLNA2側に接続され、各ADCのLNA2を介したアンテナ1からの受信信号を入力できる。
【0023】
つまり、受信機100の運用中に伝達関数が固定にされる場合には、符号20aに示すように予め伝達関数を測定する段階において受信機100の入力側に信号源2aが接続され、伝達関数の測定が完了したら受信機100の入力側にアンテナ1及びLNA2が接続されてよい。一方、受信機100の運用中に伝達関数の変動補正が考慮される場合には、符号20bに示すように、定期又は不定期にSW2bを切り替えることにより、受信機100への入力をアンテナ1側又は信号源2a側に切り替えるようにしてよい。
【0024】
すなわち、伝達関数特性を予め測定する一例として、RFの共通分岐点前に、CWの信号源を配置し、信号源から各ADC3に信号を送り、各ADCの同時サンプリング出力信号にFFT処理が行われる。これにより、各スペクトラムには上記CWの周波数に相当する線スペクトラムが得られる。その系を用い、CW信号を所定周波数刻み幅(Δf)毎、又はその補間が可能な程度の刻み周波数で各ADC3の線スペクトラムが取得される。そこで、CW信号の周波数fが各ADC3のサンプリング周波数の半分までは、fにおける線スペクトラムの複素数値をH(ω)とし、それより高い周波数では、アンダーサンプリングによる折り返しスペクトラムの複素数値をH(ω)とする。
【0025】
なお、伝達関数特性を予め測定できれば、CWを用いず、別の手段を用いてもよい。例えば共通分岐点からADC3までのパスの周波数特性をネットワークアナライザで予め測定するなどの手段が考えられる。
【0026】
このように、受信機100は、受信した周波数スペクトラムを、共通分岐点を介して、K(Kは2以上の自然数)種類のサンプリング周波数を変えてサンプリングした時間軸データから生成する際に、無線周波数の共通分岐点からサンプリング処理を行う回路までの回路の伝達関数特性を予め測定する。
【0027】
アンダーサンプリングで得られたスペクトラム(以下、「アンダーサンプリングスペクトラム」と称す場合がある)は、元のRFスペクトラムの折り返しを加算したものである。そのため、アンダーサンプリングスペクトラムベクトル(y)とRFスペクトラムベクトル(x)は、線形結合の関係で表される。そこで用いる従来法の結合行列を(A’)((A’)の各要素は0か1)とすると、以下の数式1の線型方程式の関係が得られる。
【数1】
【0028】
今回の発明では、この数式1に対して、以下の結合行列(A)を用いた線型方程式を用いることで、数式2が得られる。
【数2】
【0029】
ここで、
【数3】
はアダマール積である。
【0030】
そして、偶数折り返しの場合には以下の数式3が用いられ、奇折り返しの場合には以下の数式4が用いられる。
【数4】
【数5】
【0031】
なお、ここでは、ベクトル(y)の要素がn番目のADC3の場合に、H(ω)=Hn(ω)と記述する事とする。ここで、
【数6】
は共役複素値を表す。
【0032】
ベクトル(y)は、以下の数式5によって表される。数式5の符号B1はclock 1(例えば、図1のfsを発振するCLK4)のADC3でサンプリングされた複素アンダーサンプリングスペクトラムy(1) m (1) (m=1 to M(1))を表し、符号B2はclock K(例えば、図1のfsを発振するCLK4)のADC3でサンプリングされた複素アンダーサンプリングスペクトラムy(K) m (K) (m(K)=1 to M(K))を表す。
【数7】
【0033】
すなわち、受信機100は、K(Kは2以上の自然数)種類のサンプリング周波数でサンプリングし、それぞれを独立にフーリエ変換して、0からナイキスト周波数群までの周波数スペクトラムを得て、1~K個の周波数スペクトラムの周波数刻み幅を等しく設定し、それぞれの周波数スペクトラム要素を結合したベクトル(y)を生成する。
【0034】
行列(A)は、以下の数式6によって表せる。符号C1に示すように、ベクトル(x)の周波数がゼロ又はMxfy_d周波数(サンプリング周波数の1/2)の整数倍の場合は、双方に周波数特性が表れる。符号C2に示すように、ベクトル(x)の周波数がゼロ又はMxfy_d周波数の偶数折り返しの場合には、スペクトラム対の前の要素に周波数特性が表れる。符号C3に示すように、ベクトル(x)の周波数がゼロ又はMxfy_d周波数の奇数折り返しの場合には、スペクトラム対の後の要素に周波数特性が表れる。そして、符号C4に示すように、その他の成分は全てゼロとなる。
【数8】
【0035】
すなわち、受信機100は、必要観測帯域の周波数あるいは、0から受信機(システム)100の上限周波数までで周波数刻み幅の分解能に相当する分解能で与えられた周波数群に対応した周波数と、ナイキスト周波数群での折り返し周波数に相当する周波数要素とベクトル(y)の要素に対応する行列要素を、予め測定した伝達関数特性で無線周波数に対応する特性とし、その他の要素をゼロとした係数行列Aを生成する。
【0036】
ベクトル(x)は、以下の数式7によって表される。符号A1はband 1における求める複素スペクトラムを表し、符号A11~A13はそれぞれゼロ及び偶数折り返しと奇数折り返しに対応した同一周波数スペクトラムを表す。また、符号A2はband Lにおける求める複素スペクトラムを表し、符号A21~A23はそれぞれゼロ及び偶数折り返しと奇数折り返しに対応した同一周波数スペクトラムを表す。
【数9】
【0037】
すなわち、受信機100は、ベクトル(y)と係数行列(A)を用い、(y)=(A)(x)((x)は解ベクトル)の線型方程式から、圧縮センシング法または最小二乗アルゴリズムにより解ベクトル(x)を求める。なお、圧縮センシング法及び最小二乗解は、例えば、上記の特許文献1又は非特許文献1によって公知の手法であってよい。
【0038】
ベクトル(x)の要素の奇数番目は偶折り返しのスペクトラムを表し、偶数番目の要素は奇折り返しのベクトルに対応し、両者は複素共役の関係にある。これにより、上記の数式2の形の方程式が得られ、この問題を圧縮センシングアルゴリズムまたは最小二乗アルゴリズムと、複素共役の関係とを繰り返し計算の中に組み込むことで、必要な観測帯域のスペクトラムのベクトル(x)が得られる。
【0039】
すなわち、受信機100は、解ベクトル(x)の条件として、ナイキスト周波数群での折り返しが0又は偶数の場合の解xeとし、同じ所望の周波数帯域群の周波数における、ナイキスト周波数群での折り返しが奇数の場合の解xoとしたとき、xoとxeが複素共役である条件を圧縮センシング法または最小二乗法による繰り返しアルゴリズム内に実装し、得られた解ベクトル(x)のベクトルのうち、所定の帯域を抽出してよい。
【0040】
上記の数式5~数式7によって、周波数特性を考慮したRFスペクトラムと観測スペクトラムの線型方程式化が可能となる。
【0041】
なお、サンプリング時間(一定)をTtとするときスペクトラムの刻みΔfは以下の数式8で表され、ベクトル(x),(y)の周波数刻みは同一である。
【数10】
【0042】
図2は、図1に示した受信機100におけるRF帯域とRFスペクトラムとの関係を模式的に示すグラフである。
【0043】
図2において、bは瞬時信号帯域を表し、Bは規定観測帯域を表し、βは拡大観測帯域を表す。図2に示す例では、拡大観測帯域βの中に規定観測帯域Bが含まれ、更にその中に瞬時信号帯域b,bが観測されている。また、拡大観測帯域βの中に規定観測帯域Bが含まれ、更にその中に瞬時信号帯域bが観測されている。
【0044】
規定帯域の合計が(fsの合計)/2以上であり、且つ、瞬時帯域の合計が(fsの合計)/2以下である場合、すなわち、以下の数式9が満たされる場合に、圧縮センシング法により上記のベクトル(x)が求められてよい。
【数11】
【0045】
拡大観測帯域の合計が(fsの合計)/2以下規定観測帯域である場合、すなわち、以下の数式10が満たされる場合に、最小二乗法により上記のベクトル(x)が求められてよい。
【数12】
【0046】
すなわち、受信機100は、観測帯域番号をi、観測される瞬時信号帯域をbi、拡大観測帯域をβjとしたとき、瞬時信号帯域biの総和がアナログデジタル変換器のサンプリング周波数の総和の半分以下の場合に、圧縮センシング法により前記無線周波数のスペクトラムを再生し、拡大観測帯域βjの総和がアナログデジタル変換器のサンプリング周波数の総和の半分以下の場合に、最小二乗アルゴリズムにより無線周波数のスペクトラムを再生する。また、受信機100は、観測帯域番号をi、観測される瞬時信号帯域をbi、拡大観測帯域をβjとしたとき、瞬時信号帯域biの総和が、受信機(システム)100の独立変数の数Nivと受信機(システム)100のスペクトラムの周波数刻み幅との積の総和の半分以下である場合に、圧縮センシング法により前記無線周波数のスペクトラムを再生し、拡大観測帯域βjの総和が、受信機(システム)100の独立変数の数Nivと受信機(システム)100のスペクトラムの周波数刻み幅との積の総和の半分以下である場合に、最小二乗アルゴリズムにより無線周波数のスペクトラムを再生する。
【0047】
なお、最小二乗法に代えて、その他の優決定型のアルゴリズムが用いられてもよい。
【0048】
図3は、独立変数の数を説明する図である。
【0049】
上記のシステムの独立変数の数Niv(Nivは自然数)は、並列アナログデジタル変換器の回路数をK(Kは2以上の自然数)、最大公約数を表す関数をgcdとするとき、以下の数式11によって表せる。
【数13】
【0050】
すなわち、受信機100は、高速フーリエ変換処理を必要とし、且つ、全てのサンプリング数Nsが互いに素で無い場合に、システムで必要とする観測帯域の総和に対応する独立変数の数Nivは、並列アナログデジタル変換器の回路数をK、最大公約数を表す関数をgcdとするとき、上記の数11で求められるNivと前記周波数刻み幅の積の半分の値とにより、圧縮センシング法または最小二乗アルゴリズムを選択する。
【0051】
従来、サンプリング数の選び方としては、それぞれのサンプリング数Nsの総和が独立変数となるため、Nsを互いに素となるように設定(参考文献:X. G. Xia and K. Liu, “A generalized Chinese remainder theorem for residue sets with errors and its application in frequency determination from multiple sensors with low sampling rates,” IEEE Signal Process. Lett., vol. 12, no. 11, pp. 768-771, Nov. 2005.)していた。この場合、独立変数の数Niv_prは最大で
【数14】
が独立変数の数となる。この場合は、対応する周波数帯域は、
【数15】
となり、この値が独立の情報を持つサンプリング周波数の総和の半分となる。しかしこの場合、実質的な独立変数の数が取れない場合が多い。特に、サンプリング数Nsの素因数分解した素数の最大値は、F F TをF P G A等で回路を組む場合の素子段数にほぼ比例するため、特に大きな問題となる。本発明者らは、このような場合、互いに素とならないNsの組み合わせ(従って、一部重なる点が存在しても)でも、比較的大きな独立変数の数を確保できる事を見出した。以下、最大Nsが12の場合で例を示す。
【0052】
図3に示す例では、3種類のサンプリング数として、Ns=12,Ns=10,Ns=8が設定されている。Nsの12個のサンプリング点を全て有効点(独立変数点;黒丸印を参照)とするとき、Nsの10個のサンプリング点のうち、図面下から1個目のサンプリング点が始点のため外され(白丸印を参照)、図面下から6個目のサンプリング点が重複点(×印を参照)とされ、残りの8個が独立変数(黒丸印を参照)となる。また、Nsの8個のサンプリング点のうち、図面下から1個目のサンプリング点が始点のため外され(白丸印を参照)、図面下から3個目,7個目のサンプリング点が重複点(×印を参照)とされ、図面下から5個目のサンプリング点が複数重複点(二重丸印を参照)とされ、残りの4個が独立変数(黒丸印を参照)となる。
【0053】
図3に示す例を上記の数11に適用すると、Niv = 12 + (10-1) + (8-1) - {gcd(12,10)-1} - {gcd(12,10)-1} - {gcd(12,8)-1} - {gcd(10,8)-1} + {gcd(4,2)-1}=12 + 9 + 7 - (2-1) - (4-1) - (2-1) +(2-1) = 24となり、独立変数(黒丸印を参照)は24個となる。これらの考え方を一般式として表したものが、前述の数11である。これを最大Ns=12で全ての素因数分解後の素数の最大値を5として考え、(上記の12、10、8の組み合わせは、それを満足する。)従来の互いに素であるNsの組み合わせは12、5のみとなり、独立変数の数は16(12+5-1)となり、上記の24に比べ少ない。この場合例えば、最大サンプリング数Ns_maxを8192、4096とし、全ての素因数分解後の素数の最大値MaxPrを13、11、7とした場合で、A D Cの数K=3の場合の独立変数の数の最大値MaxNiv(今回の重複点がある事を許した方式)、MaxNiv_pr(従来の重複点を許さず互いに素とする方式)を計算した結果が下記の表1である。
【表1】
【0054】
表1のいずれの場合も、MaxNivとMaxNiv_prを比較するとMaxNivの方が大きく、今回見出した、本発明の方式の方が優位である事がわかる。
【0055】
すなわち、回路の段数の制約等により全てのNsの素因数分解後の素数の最大値が比較的小さな数で制約される場合でも、全てのサンプリング数Nsが互いに素でなくても、比較的多数の独立変数の総数が得られ、その独立変数の総数にシステムの周波数刻みΔfを掛けた値の半分はシステムで必要とする観測帯域の総和以上である。
【0056】
[実装例]
図4は、実施形態としての受信機100aの実装例を例示するブロック図である。
【0057】
受信機100aは、複数(図示する例では3つ)のアンテナ1,フロントエンド部20,ADC部30,Field Programmable Gate Array50(FPGA)及びデータ格納部10を備える。
【0058】
フロントエンド部20は、複数のBPF21(図示する例では、BPF~BPFの5つ),複数のLNA2,複数のスイッチ22(SW;図示する例ではでは、SW~SWの5つ),クロック23,ミキサ24及びLow Pass Filter25(LPF;図示する例では、LPF)を備える。ADC部30は、複数(図示する例では3つ)のADC3及び複数(図示する例では3つ)のCLK4を備える。FPGA50は、複数(図示する例では3つ)のFFT5,基準クロック51及びRFスペクトラム生成部52を備える。
【0059】
フロントエンド部20において、各帯域通過フィルタBPF21は、接続されたアンテナ1からの受信信号から、所定の帯域の信号を通過させる。BPFは比較的低周波数の帯域の信号を通過させ、BPF~BPFは中間的な周波数のそれぞれ必要帯域の信号を通過させ、BPFは例えばミリ波等の比較的光周波数の帯域信号を通過させてよい。各LNA2は、前段のBPF21を通過した信号を増幅させ、後段のSW22に入力する。ただし、BPFを通過した信号は高周波数帯域の信号であるため、LNA2とSWとの間に、クロック23からの信号を合成するミキサ24と、低周波数帯域の信号を通過させる低域通過フィルタLPFとが挿入されてよい。SW~SWは互いに同期してON/OFF制御され、SWは他のSW22とは非同期にON/OFF制御されてよい。SW22は、ONのタイミングで入力信号を後段のADC部30へ入力し、OFFのタイミングでは入力信号を後段のADC部30へ出力しない。
【0060】
すなわち、受信機100aは、データのサンプリングを行う前に、低域通過フィルタと、必要とされる周波数帯域のみを通過させる帯域通過フィルタとの少なくとも一方に、前記受信した周波数スペクトラムを通過させる。
【0061】
また、受信機100aは、受信した周波数スペクトラムの各帯域の合成前の段階に設置されるスイッチにより不要な帯域をカットする事で、瞬時信号帯域biの総和または拡大観測帯域βiの総和を減らす事ができるため、必要帯域のみを考慮することによって、上記の数式9、数式10の条件を満足させる。
【0062】
ADC部30において、各ADC3は、前段のフロントエンド部20から入力されたアナログ信号をデジタル信号に変換する。各ADC3は、後段のFPGA50に設置された基準クロック51によって制御される対応するCLK4の入力周波数fs,fs,fsに基づき、信号を変換して実信号を後段のFPGA50へ入力する。
【0063】
FPGA50において、各FFT5は、ADC部30の対応するADC3から入力された実信号を高速フーリエ変換して、信号Y(1) (1),Y(2) (2),Y(3) (3)をそれぞれRFスペクトラム生成部52へ入力する。RFスペクトラム生成部52は、処理装置の一例であり、図6の(d)~(e)を用いて後述する再生スペクトラムを生成する。
【0064】
各FFT5から出力された信号Y(1) (1),Y(2) (2),Y(3) (3)は、データ格納部10に格納され、不図示のコンピュータによって使用されてよい。
【0065】
[スペクトル再生例]
図5は、一例として、ADC部30内のRFの共通分岐点から3つのADC3までの間での振幅特性、群遅延時間特性、伝達関数を表している。図5の(a)~(c)はRFの共通分岐点から3つのADCまでの間での振幅特性を例示するグラフである。図5の(d)~(f)はRFの共通分岐点から3つのADCまでの間での遅延時間特性を例示するグラフである。図5の(g)~(i)はRFの共通分岐点から3つのADCまでの間での伝達関数(別言すれば、伝達特性)を例示するグラフである。図5の(g)~(i)において、符号D1で示す曲線はReal特性を表し、符号D2で示す曲線はImaginary特性を表す。
【0066】
ここではアンダーサンプリングによる折り返しは考慮されていない元の伝達関数である。図5(a),(d),(g)は、上から、周波数fsのCLK4によってサンプリングされる1番目のADC3への入力信号の振幅特性、群遅延時間特性、伝達関数H(ω)を示す。図5(b),(e),(h)は、同様に、周波数fsのCLK4によってサンプリングされる2番目のADC3への入力信号の振幅特性、群遅延時間特性、伝達関数H(ω)を示し、図5(c),(f),(i)も同様に、3番目のADC3への入力信号の振幅特性、群遅延時間特性、伝達関数H(ω)を示している。この例からも明らかなように、各パスの伝達特性は振幅特性も位相(群遅延時間特性)も異なる。
【0067】
図6に従来の手法における圧縮センシングアルゴリズムを用いたRFスペクトル再生結果を示し、図7に本発明の手法を用いた圧縮センシングアルゴリズムを用いたRFスペクトル再生結果を示す。
【0068】
図6の(a)~(c)は周波数帯域毎の元のスペクトラムを例示するグラフであり、図6の(d)~(f)は上記伝達関数を、従来の手法である1として、圧縮センシング法により、RFスペクトラムを再生した、実施形態における周波数帯域毎の再生スペクトラムを例示するグラフである。ワイヤレスIoT周波数帯域として、図6の(a),(d)には920MHz帯のスペクトラムが示され、図6の(b),(e)には2.4GHz帯のスペクトラムが示され、図6の(c),(f)には5GHz帯のスペクトラムが示されている。
【0069】
一方、図7の(a)~(c)は周波数帯域毎の元のスペクトラムを例示するグラフであり、図7の(d)~(f)は上記伝達関数を、本発明の手法で補正して、圧縮センシング法により、RFスペクトラムを再生した、実施形態における周波数帯域毎の再生スペクトラムを例示するグラフである。ワイヤレスIoT周波数帯域として、図7の(a),(d)には920MHz帯のスペクトラムが示され、図7の(b),(e)には2.4GHz帯のスペクトラムが示され、図7の(c),(f)には5GHz帯のスペクトラムが示されている。
【0070】
図6図7から明らかなように、従来の各パスでの伝達関数の違いを考慮せず、1とした場合、図6の(a)~(c)に示す元のスペクトラムは図6の(d)~(f)に示す再生スペクトルの再生に失敗した。
【0071】
一方、伝達関数を本発明の手法で補正した場合、図7の(a)~(c)に示す元のスペクトラムは図7の(d)~(f)に示す再生スペクトラムのように再生に成功している。
【0072】
この結果から、高周波帯域での通信の場合には各パスでの伝達関数の影響が無視できない形で大きく表れるため、伝達関数の各パスでの違いを補正することがスペクトラム再生において極めて重要であることがわかる。
【0073】
図5~7と同じ系で、帯域を1.1GHz(それ以上は減衰域)とし、さらにBPF1~4を外し、SW22を用いて(SWのみオン、他オフ)、920MHz帯のみのスペクトラムを上記伝達関数の補正を考慮し、RFのトップ帯域制限フィルタを外した系で、最小二乗法でRFスペクトラムの再生を試みた例を図8に示す。図8の(a)が元のスペクトラム、図8の(b)が再生スペクトラムである。
【0074】
実施形態においてADCパスの伝達関数が異なる場合でも、図8(a)に示す元のスペクトラムは、RFのトップ帯域制限フィルタがない場合であっても、本発明の手法では、図8(b)に示す再生スペクトラムのように再生に成功している。
【0075】
このように、実施形態としての受信機,周波数スペクトラム再生方法及び周波数スペクトラム再生プログラムによれば、低雑音のスペクトラム再生処理を実現することができる。
【0076】
開示の技術は上述した各実施形態に限定されるものではなく、各実施形態の趣旨を逸脱しない範囲で種々変形して実施することができる。各実施形態の各構成及び各処理は、必要に応じて取捨選択することができ、あるいは適宜組み合わせてもよい。
【符号の説明】
【0077】
1 :アンテナ
2 :LNA
2a :信号源
2b,22 :SW
3 :ADC
4 :CLK
5 :FFT
10 :データ格納部
20 :フロントエンド部
21 :BPF
23 :クロック
24 :ミキサ
25 :LPF
30 :ADC部
50 :FPGA
51 :基準クロック
52 :RFスペクトラム生成部
100,100a:受信機
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8