(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024095388
(43)【公開日】2024-07-10
(54)【発明の名称】細胞の集合構造体の作製方法および作製装置
(51)【国際特許分類】
C12N 5/07 20100101AFI20240703BHJP
C12M 3/00 20060101ALI20240703BHJP
【FI】
C12N5/07
C12M3/00 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022212659
(22)【出願日】2022-12-28
(71)【出願人】
【識別番号】000253019
【氏名又は名称】澁谷工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100156199
【弁理士】
【氏名又は名称】神崎 真
(74)【代理人】
【識別番号】100124497
【弁理士】
【氏名又は名称】小倉 洋樹
(72)【発明者】
【氏名】中 俊明
(72)【発明者】
【氏名】米田 健二
(72)【発明者】
【氏名】中野 正貴
【テーマコード(参考)】
4B029
4B065
【Fターム(参考)】
4B029AA01
4B029AA27
4B029BB11
4B029CC10
4B029DF10
4B029DG08
4B029DG10
4B029GA08
4B029GB02
4B029GB10
4B065AA90X
4B065AC20
4B065BC46
4B065BD04
4B065CA44
(57)【要約】
【課題】 細胞凝集塊にダメージを与えることなく、安定的に培養容器内で複数の細胞凝集塊を培養して、各細胞凝集塊が相互に融合した集合構造体を作製する。
【解決手段】 複数のピン21bを所定の配置で立設された支持体21を準備するとともに、複数のピン21bにゼラチン粒子3を穿刺させて、細胞凝集塊2を収容可能な収容部Pを形成する。
上記収容部Pのそれぞれに細胞凝集塊2を収容して、上記ピン21bに穿刺されたゼラチン粒子3上に細胞凝集塊2を載置するようにした。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
培養容器内に複数の細胞凝集塊を隣接させて収容し、当該培養容器内で細胞凝集塊を培養して、各細胞凝集塊が相互に融合した集合構造体を作製する細胞の集合構造体の作製方法において、
複数のピンが所定の配置で立設された支持体を準備するステップと、
上記複数のピンにゼラチン粒子を穿刺させて上記支持体の所定位置に保持させるとともに、上記複数のピンの間に上記細胞凝集塊を収容する収容部を形成するステップと、
上記収容部に細胞凝集塊を収容させて、上記ピンに穿刺された複数のゼラチン粒子上に細胞凝集塊を載置させるステップと、
上記細胞凝集塊を複数のゼラチン粒子上に載置させた状態で培養するステップとを有することを特徴とする細胞の集合構造体の作製方法。
【請求項2】
上記複数のピンが上記支持体に行方向および列方向に等ピッチで配置され、上記複数のゼラチン粒子を上記ピンの同じ高さに保持させることを特徴とする請求項1に記載の細胞の集合構造体の作製方法。
【請求項3】
上記ゼラチン粒子は上記ピンのピッチよりも小さく形成され、上記細胞凝集塊は上記ピンのピッチと略同じかそれよりも大きく形成されることを特徴とする請求項2に記載の細胞の集合構造体の作製方法。
【請求項4】
培養容器内に複数の細胞凝集塊を隣接させて収容し、当該培養容器内で細胞凝集塊を培養して、各細胞凝集塊が相互に融合した集合構造体を作製する細胞の集合構造体の作製装置において、
複数のピンが所定の配置で立設された支持体と、上記支持体にゼラチン粒子を供給するゼラチン粒子供給手段と、上記支持体に細胞凝集塊を供給する細胞凝集塊供給手段とを備え、
上記ゼラチン粒子供給手段は、上記支持体の複数のピンにゼラチン粒子を穿刺させて所定位置に保持させ、上記複数のピンの間に上記細胞凝集塊を収容する収容部を形成し、
上記細胞凝集塊供給手段は、上記収容部に細胞凝集塊を収容させて、上記ピンに穿刺された複数のゼラチン粒子上に上記細胞凝集塊を載置させ、
上記細胞凝集塊を複数のゼラチン粒子上に載置させた状態で培養することを特徴とする細胞の集合構造体の作製装置。
【請求項5】
上記ゼラチン粒子供給手段と細胞凝集塊供給手段とを、ゼラチン粒子および細胞凝集塊を吸着可能な吸引ノズルを備えた共通の供給手段により構成したことを特徴とする請求項4に記載の細胞の集合構造体の作製装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は細胞の集合構造体の作製方法および作製装置に関し、詳しくは培養容器内に複数の細胞凝集塊を隣接させて収容し、当該培養容器内で細胞凝集塊を培養して、各細胞凝集塊が相互に融合した細胞の集合構造体を作製する細胞の集合構造体の作製方法および作製装置に関する。
【背景技術】
【0002】
今日、損傷を受けた生体機能を幹細胞などを用いて復元させる再生医療において、予め細胞を略球状に培養した複数の細胞凝集塊(スフェロイド)を隣接させて配置し、これらの細胞凝集塊同士を融合させることで細胞の集合構造体を作製する方法が知られている。
このような細胞の集合構造体の作製方法として、複数の針状のピンに貫通させて複数の細胞凝集塊を隣接させて保持する方法(特許文献1)や、ピンとピンとの間に細胞凝集塊を挟持させて、複数の細胞凝集塊を隣接させて保持する方法が提案されている(特許文献2)。
一方、上述したピンを用いて複数の細胞凝集塊を隣接させて保持する構成に対し、保持部が形成されるとともに架橋されたゼラチン支持体に複数の細胞凝集塊を隣接させて整列させ、ゼラチン支持体ごと培養液に浸漬することにより、ゼラチン支持体を溶解させながら細胞凝集塊を培養して融合させる方法も提案されている(特許文献3)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第5896104号公報
【特許文献2】特許第6882658号公報
【特許文献3】特許第7041346号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ここで、特許文献1や特許文献2のように複数のピンによって複数の細胞凝集塊を隣接させて保持する場合、細胞凝集塊をピンに貫通させる特許文献1の方法では、ピンを貫通させることによる細胞凝集塊へのダメージが懸念されており、細胞凝集塊をピンの間に挟持させる特許文献2の方法では、細胞凝集塊の大きさにはばらつきがあることから、培養容器を移動させた際など、培養液が揺れることで小さめの細胞凝集塊がピンの間から脱落することがあった。
また、特許文献1、2とも、細胞凝集塊を立体的に積層させて集合構造体を作製する場合には、集合構造体の中心部分は細胞凝集塊同士が密着して培養液が十分に行き届かず、栄養不足によって細胞の成長および増殖が不良となる場合があった。
一方特許文献3の方法の場合、細胞の集合構造体の作製のためにゼラチン支持体を自作しなければならない。つまりその製造工程は、原料ゼラチンを液体に溶解してゼラチン溶解液とし、当該ゼラチン溶解液を型に注入して凍結乾燥機で低温乾燥した後、真空オーブンで架橋してゼラチン支持体とするものであり、ゼラチン支持体の製造が煩雑であるという問題があった。
このような問題に鑑み、立設させた複数のピンによってダメージを与えることなく安定的に培養容器の内部に複数の細胞凝集塊を隣接させて配置することが可能であり、さらに、細胞凝集塊を立体的に積層させて集合構造体を作製する場合にも、細胞が栄養不足となって成長や増殖が不良となることのない、細胞の集合構造体の作製方法および作製装置を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
すなわち請求項1の発明にかかる細胞の集合構造体の作製方法は、培養容器内に複数の細胞凝集塊を隣接させて収容し、当該培養容器内で細胞凝集塊を培養して、各細胞凝集塊が相互に融合した集合構造体を作製する細胞の集合構造体の作製方法において、
複数のピンが所定の配置で立設された支持体を準備するステップと、
上記複数のピンにゼラチン粒子を穿刺させて上記支持体の所定位置に保持させるとともに、上記複数のピンの間に上記細胞凝集塊を収容する収容部を形成するステップと、
上記収容部に細胞凝集塊を収容させて、上記ピンに穿刺された複数のゼラチン粒子上に細胞凝集塊を載置させるステップと、
上記細胞凝集塊を複数のゼラチン粒子上に載置させた状態で培養するステップとを有することを特徴としている。
また請求項4の発明にかかる細胞の集合構造体の作製装置は、培養容器内に複数の細胞凝集塊を隣接させて収容し、当該培養容器内で細胞凝集塊を培養して、各細胞凝集塊が相互に融合した集合構造体を作製する細胞の集合構造体の作製装置において、
複数のピンが所定の配置で立設された支持体と、上記支持体にゼラチン粒子を供給するゼラチン粒子供給手段と、上記支持体に細胞凝集塊を供給する細胞凝集塊供給手段とを備え、
上記ゼラチン粒子供給手段は、上記支持体の複数のピンにゼラチン粒子を穿刺させて所定位置に保持させ、上記複数のピンの間に上記細胞凝集塊を収容する収容部を形成し、
上記細胞凝集塊供給手段は、上記収容部に細胞凝集塊を収容させて、上記ピンに穿刺された複数のゼラチン粒子上に上記細胞凝集塊を載置させ、
上記細胞凝集塊を複数のゼラチン粒子上に載置させた状態で培養することを特徴としている。
【発明の効果】
【0006】
上記請求項1および請求項4の発明によれば、支持体に立設させた複数のピンにゼラチン粒子を穿刺させて保持させて、上記複数のピンの間に上記細胞凝集塊を収容可能な収容部を形成するようになっている。
これにより、上記収容部に細胞凝集塊を収容させると、上記ピンに穿刺された複数のゼラチン粒子上に細胞凝集塊を載置させるようになっている。
つまり、細胞凝集塊にダメージを与えることなく、安定的に培養容器内に複数の細胞凝集塊を隣接させて収容して培養することができる。
さらに、細胞凝集塊を立体的に積層させて集合構造体を作製する場合には、細胞凝集塊同士を直接積層させず、細胞凝集塊を複数のゼラチン粒子上に載置させた状態で培養することで、立体的に構成された集合構造体の中心部分で細胞が栄養不足となって成長や増殖が不良となることが防止される。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】細胞の集合構造体の作製装置を構成するアイソレータとインキュベータの正面図
【
図6】支持体に保持された細胞凝集塊およびゼラチン粒子の拡大図
【
図7】第2の実施形態に係る細胞の集合構造体の作製装置の構成図
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、図示実施形態について説明すると、
図1はアイソレータ5を示し、
図2、
図3は第1実施形態にかかる細胞の集合構造体の作製装置1を示している。
この細胞の集合構造体の作製装置1では、
図4に示すように複数の細胞凝集塊2(スフェロイド)およびゼラチン粒子3を培養容器4の内部で積層させて立体的に保持し、その状態で細胞凝集塊2を培養することにより、複数の細胞凝集塊2が相互に融合した細胞の集合構造体(図示せず)を作製するものとなっている。
上記細胞凝集塊2は、例えば上記特許文献1~3に記載されるように、細胞同士が集合し凝集化した100~500μm程度の直径を有した略球状の細胞集合体をいう。
上記細胞凝集塊2は例えば特許第4517125号に開示される方法で作製することが可能であり、ウエルプレートに形成された非接着性のウエル(略半球状の収容部)に細胞を播種して培養すると、細胞は足場を求めて互いに接着し合うことで凝集し、これらがさらに融合することで直径が最大で500μm程度の略球状の細胞凝集塊2が形成される。
なお、細胞凝集塊2の作製方法はこれに限らず、旋回している培養液中に細胞懸濁液を入れる旋回培養法、試験管に細胞懸濁液を入れて遠心分離器で沈殿させる方法、あるいはアルギン酸ビーズを用いて培養する方法など公知の様々な方法で作製することができる。
【0009】
上記ゼラチン粒子3は、ゼラチンを造粒した後、架橋することで粒子状にしたものであって、例えば特許第6989757号に記載されている通り、その製造方法は公知となっている。
また本実施形態において、ゼラチン粒子3とは培養液に浸潤させることでゲル化したものを指し、上記培養液が浸潤したゼラチン粒子3の大きさは、後に詳述するように、細胞凝集塊2の直径よりも小さく、かつ細胞凝集塊2を下方から支持可能な程度の大きさとしている。
【0010】
本実施形態の細胞の集合構造体の作製装置1は、
図1に示す内部が無菌状態に維持されたアイソレータ5に収容され、当該アイソレータ5には接離可能なインキュベータ6と、アイソレータ5内に搬入する物品を除染するためのパスボックス5aとが備えられている。
上記アイソレータ5は内部が無菌環境に維持され、また無菌エア供給手段によって上方から下方へと向かう無菌エアによる一方向流が形成されるようになっている。
またアイソレータ5の正面には作業者が装着可能なグローブ5bが設けられており、各種の作業を行うことが可能となっている。なお、アイソレータ5の内部にロボットや所要の構成を有した移送手段を設けて、細胞の集合構造体の作製作業を自動的に行うようにすることもできる。
次に、上記インキュベータ6は、内部が無菌環境に維持されるとともに、細胞の集合構造体の培養に適した所定の温度および湿度に維持され、上記インキュベータ6を上記アイソレータ5より分離して、当該アイソレータ5より離れた場所に載置することが可能となっている。
そのため、上記アイソレータ5とインキュベータ6とは、例えば特許第4656485号公報に記載されるような、インキュベータ6とアイソレータ5とを無菌状態を維持したまま接離させる接続手段によって接続されている。
【0011】
図2、
図3はアイソレータ5の内部に収容される細胞の集合構造体の作製装置1を示し、細胞凝集塊2を収容する細胞容器7から培養容器4内に細胞凝集塊2を供給する細胞凝集塊供給手段8と、ゼラチン粒子3を収容するゼラチン容器9から培養容器4内にゼラチン粒子3を供給するゼラチン粒子供給手段10と、内部で細胞を培養して集合構造体を形成する培養容器4を支持する培養容器支持部11と、上記細胞凝集塊供給手段8を構成し、上記細胞容器7の細胞凝集塊2を上記培養容器4に移動させる細胞凝集塊移動手段12と、上記ゼラチン粒子供給手段10を構成し、上記ゼラチン容器9のゼラチン粒子3を上記培養容器4に移動させるゼラチン粒子移動手段13とを備えている。そして、これらはコンピュータなどからなる図示しない制御手段によって制御されるようになっている。
本実施形態では、上記培養容器4を中間に配置し、図示左方側に細胞容器7を、図示右方側にゼラチン容器9を配置するように構成され、
図2はゼラチン粒子移動手段13が培養容器4にゼラチン粒子3を移動させている状態を、
図3は細胞凝集塊移動手段12が培養容器4に細胞凝集塊2を移動させている状態をそれぞれ示している。
なお、以下の説明において、
図2、
図3における図示左右横方向をX方向、紙面に対する前後奥行方向をY方向、上下縦方向をZ方向とする。
【0012】
上記細胞凝集塊供給手段8は、上記細胞容器7を支持するとともに上記Y方向に移動させるY方向テーブル8aを備え、その上面に設けた位置決め片8bによって上記細胞容器7をY方向テーブル8a上の所定位置に位置決めするようになっている。
上記細胞容器7には従来公知のウエルプレートを使用することが可能であり、平面視において縦横(行列方向)に複数の収容凹部7a(ウェル)を備え、各収容凹部7aの内部には培養液とともに細胞凝集塊2が一個ずつ収容されている。
上記細胞容器7の収容凹部7aは略半球状に形成され、平面視において直交するX方向およびY方向(X-Y方向)にそれぞれ所定個数ずつ整列している。市販される一般的なウエルプレートでは、ウェルの多いものでは96ウェル(12×8)や384ウェル(24×16)のものがあるが、上記細胞容器7としてはウェルの個数に特に制限はなく、本実施形態では説明を簡単にするため、収容凹部7aはX方向に4個、Y方向に4個ずつ計16個設けられている。
アイソレータ5の内部には上記細胞凝集塊2を収容した細胞容器7が複数収容可能となっており、また図示しないロボットなどからなる移載手段が、細胞凝集塊供給手段8に載置された空の細胞容器7を新たな細胞容器7へと交換するようになっている。
【0013】
上記ゼラチン粒子供給手段10は、上記ゼラチン容器9を支持するとともに上記Y方向に移動させるY方向テーブル10aを備え、その上面に設けた位置決め片10bによって上記ゼラチン容器9をY方向テーブル10a上の所定位置に位置決めするようになっている。
上記ゼラチン容器9も上記細胞容器7と同様に市販のウエルプレートを使用することが可能であり、本実施形態では説明を簡単にするため、収容凹部9aは平面視においてX方向に5個、Y方向に5個ずつ計25個設けられ、各収容凹部9aの内部には培養液とともに略球状のゼラチン粒子3が一個ずつ収容されている。
アイソレータ5の内部には上記ゼラチン粒子3を収容したゼラチン容器9が複数収容可能となっており、また図示しないロボットなどからなる移載手段が、ゼラチン粒子供給手段10に載置された空のゼラチン容器9を新たなゼラチン容器9に交換するようになっている。
【0014】
培養容器支持部11は、培養容器4を支持するとともに上記Y方向に移動させるY方向テーブル11aによって構成され、その上面に設けた位置決め片11bによって上記培養容器4をY方向テーブル11a上の所定位置に位置決めするようになっている。
図4、
図5は上記培養容器4の断面図および平面図を示し、培養容器4は有底箱状を有し、内部には細胞が乾燥することを防ぐために作製する細胞の集合構造体の高さにあわせて、所定量のPBS(リン酸緩衝液)や培養液等の細胞に対する影響の低い液体が収容されている。
培養容器4の内部には上記細胞凝集塊2およびゼラチン粒子3を保持する支持体21が設けられており、当該支持体21は、略立方体形状を有した台座21aと、当該台座21aの上面に立設された複数のピン21bとから構成されている。
上記培養容器4の底面には凹部4aが形成されており、上記台座21aが位置決めされるようになっている。また当該凹部4aに隣接する凹部4aを挟んだ対向位置には、それぞれ上記Z方向に向けてガイドロッド22が立設されている。
【0015】
上記複数のピン21bは上記台座21aの上面にZ方向を向くように立設されており、各ピン21bはステンレス等の金属によって構成されるとともに、その先端部は上記ゼラチン粒子3を穿刺させてこれを貫通するように鋭く形成されている。
また各ピン21bの太さは、ゼラチン粒子3を貫通するとともに、後述するゼラチン粒子3を吸着保持する吸引ノズル31に挿入可能な径に設定され、長さは、作成する細胞の集合体構造の高さに応じて設定可能となっている。
上記ピン21bを立設する本数や配列は、作製する細胞の集合構造体の大きさに応じて設定可能であり、本実施形態では説明を簡単にするため、X方向およびY方向にそれぞれ5本ずつ、計25本を上記台座21a上で行列方向に整列させている。
【0016】
次に、
図6を用いて上記支持体21を構成する複数のピン21bの配置やピッチ、上記支持体21に収容部を形成するゼラチン粒子3の好適な直径について説明する。
図6は上記支持体21によってゼラチン粒子3および細胞凝集塊2を保持した状態の拡大図を示している。
ここで
図6(a)は側面視を示し、図示左右横方向をX方向、紙面に対する前後奥行方向をY方向、上下縦方向をZ方向とする。
図6(b)は平面視を示し、図示左右横方向がX方向、上下縦方向がY方向、紙面に対する前後奥行方向がZ方向となる。
上記複数のピン21bは、
図6(a)、(b)にXP、YPとして示すように、X方向およびY方向に等ピッチで配置されており、X方向のピッチとY方向のピッチも等しくなっている。
なお、
図6(b)ではX方向を行、Y方向を列としている。また、ピッチは隣接するピン21b間におけるピン21bの中心位置の間隔であり、図中XPはX方向の距離を、YPはY方向の距離を示しており、XPとYPは等しくなっている。
ゼラチン粒子3は複数のピン21bに穿刺されて細胞凝集塊2を収容する収容部Pを複数のピン21bの間に形成するようになっており、細胞凝集塊2は収容部Pにおいて複数のゼラチン粒子3の上部に載置されるようになっている。
細胞凝集塊2を載置させるゼラチン粒子3の個数としては、複数個で周方向に等間隔で配置することができれば特に限定はされず、それらの上に1個の細胞凝集塊2を安定的に載置できればよい。
これらゼラチン粒子3の配置は、培養容器4内に立設したピン21bにゼラチン粒子3を穿刺させて、上記支持体21に保持させることにより行っており、載置された細胞凝集塊2の周囲には複数のゼラチン粒子3を保持する複数のピン21bが立設されている。
本実施形態では、4本のピン21bが上記細胞凝集塊2を囲繞するように立設され、これら4本のピン21bによって保持されたゼラチン粒子3に細胞凝集塊2が載置されるようになっており、このようにして配置される複数のピン21bおよびゼラチン粒子3によって収容部Pが形成されている。
これにより、細胞凝集塊2をピン21bに穿刺することなく支持することが可能となっている。
【0017】
次に、上記ピン21bのピッチは、用いる細胞凝集塊2の直径に対し、同じか、もしくはそれよりも小さくなるように設定する。
具体的に説明すると、細胞凝集塊2の直径がピン21bのピッチと略同じ場合は、各収容部Pに収容された細胞凝集塊2は、行列方向(X-Y方向)に隣接する細胞凝集塊2と接触するか、接近した状態となる。
一方、細胞凝集塊2の直径がピン21bのピッチよりも大きい場合、各収容部Pに収容された細胞凝集塊2は、行列方向に隣接する細胞凝集塊2に干渉することとなるが、細胞凝集塊2は柔らかいため、相互に変形した状態で収容部Pに収容することができる。
しかしながら、細胞凝集塊2の直径が、収容部Pを構成する対角に位置したピン21bとピン21bとの間隔よりも大きくなってしまうと、細胞凝集塊2をピン21bで取り囲まれた収容部Pに収容しにくくなる。
逆に、細胞凝集塊2の直径がピン21bのピッチよりも小さい場合、各収容部Pに収容された細胞凝集塊2は、行列方向に隣接する細胞凝集塊2と接触できず、またピン21bと21bとの間をすり抜けて複数のゼラチン粒子3上から脱落するおそれがある。
但し、細胞凝集塊2をピン21bと21bとの間に挟持させる必要はないため、収容部Pに収容した細胞凝集塊2が、収容部Pピン21bに穿刺されたゼラチン粒子3の上部に載置可能な直径を有していれば、細胞凝集塊2を収容部Pに収容させて培養容器4の所要の位置に配置することができる。
【0018】
上記支持体21に形成される収容部Pは、複数のピン21bと複数のゼラチン粒子3とにより形成され、収容部Pを形成する複数のピン21bのそれぞれにゼラチン粒子3を穿刺するようになっている。
収容部Pの形成にあたっては、ピン21bの先端部でゼラチン粒子3を穿刺し、そのままゼラチン粒子3をピン21bに沿って押し込み、ゼラチン粒子3をピン21bの所要の位置で停止させることで、ゼラチン粒子3をピン21bおよび支持体21の任意の高さで保持することができる。
そして、上記収容部Pを構成する周方向に等間隔で配置された複数個のゼラチン粒子3に、細胞凝集塊2を載置させて培養容器4内に収容することができる。
【0019】
ここで上記ゼラチン粒子3の直径は、上記ピン21bのピッチよりも小さいことが望ましく、換言すると細胞凝集塊2の直径よりも小径であることが望ましい。
すなわち、ゼラチン粒子3の直径をピン21bのピッチよりも小さくすると、行列方向に隣接するピン21bに穿刺されたゼラチン粒子3とゼラチン粒子3との間に間隙が形成されることとなる。
これに対し、ゼラチン粒子3の直径がピン21bのピッチと等しい場合、X方向およびY方向に隣接するゼラチン粒子3同士が接触してしまうため、上記間隙がほとんど形成されないこととなる。
またゼラチン粒子3の直径がピン21bのピッチよりも大きい場合、ゼラチン粒子3同士が干渉し上下に重なり合うため、同じ高さに揃えてゼラチン粒子3を配列することができなくなる。
但し、ゼラチン粒子3が小さすぎると、細胞凝集塊2をゼラチン粒子3の上部に安定的に載置できなくなってしまうこととなる。そこで、使用する細胞凝集塊2の大きさやピン21bの太さを鑑みた上で、用いるゼラチン粒子3の大きさを選定する。
【0020】
そして本実施形態では、
図6(a)に示すように、複数のゼラチン粒子3を上記ピン21bに穿刺することで同じ高さに保持するようになっており、その後各収容部Pに細胞凝集塊2を収容させると、同じ高さに保持されているゼラチン粒子3の上部に、細胞凝集塊2が同じ高さで載置されることとなる。
この状態で細胞凝集塊2を培養することで、集合構造体として細胞凝集塊2の直径よりやや厚みのある平坦な細胞シートを作製することができ、複数の細胞シートを積層してさらに培養することにより、さらに厚みを有する立体構造体を作製することができる。
本実施形態では、合計25本のピン21bに対し、それぞれ上記ゼラチン粒子3を各ピン21bの同じ高さで保持することで、
図6(b)の行列方向(X―Y方向)にそれぞれ5個ずつ、計25個のゼラチン粒子3を水平方向に整列させることが可能となっている。
そしてピン21bにゼラチン粒子3が穿刺されて保持された状態で、上記4本のピン21bによって取り囲まれる収容部Pにそれぞれ細胞凝集塊2を収容すると、細胞凝集塊2はゼラチン粒子3に載置されて下方から支持され、同じ高さに保持されることとなり、行列方向にそれぞれ4個ずつ、計16個の細胞凝集塊2が水平方向に整列するようになっている。
【0021】
さらに本実施形態では、複数のゼラチン粒子3の上部に位置させた細胞凝集塊2のさらに上部に、さらに同じ配置でゼラチン粒子3を位置させ、当該ゼラチン粒子3のさらに上部に細胞凝集塊2を位置させて、複数のゼラチン粒子3と複数の細胞凝集塊2とを交互に積層させて保持するようになっている。
なお、
図4、
図6(a)ではゼラチン粒子3と細胞凝集塊2とを交互に2層ずつ積層させたものとなっているが、3層以上積層させてもよく、また、図示するように最上段に位置する細胞凝集塊2の上部に、さらにゼラチン粒子3を位置させることで、細胞凝集塊2の上方への飛び出しを防止することができる。
【0022】
このようにして支持体21によって細胞凝集塊2を整列した状態で支持すると、隣接するピン21bに穿刺されたゼラチン粒子3とゼラチン粒子3との間に隙間が形成されるようになっている。
本実施形態ではゼラチン粒子3の直径をピン21bのピッチよりも小さく設定していることから、ピン21bに穿刺されたゼラチン粒子3と、X方向およびY方向に隣接したゼラチン粒子3との間には隙間が形成されることとなり、また4本のピン21bに穿刺されて周方向に等間隔で配置されたゼラチン粒子3において、周の内側にも隙間が形成されることとなる。
これにより、上記ゼラチン粒子を挟んで上下に積層された細胞凝集塊2と細胞凝集塊2との間には、上記ゼラチン粒子3とゼラチン粒子3とによって構成された上記隙間が形成されるようになっている。
上記隙間には、培養容器4に収容される培養液が流通可能となり、細胞凝集塊2を培養する際には、このような隙間を流通する培養液によって細胞凝集塊2の培養が促進されることとなる。
特に、
図4のように立体的に細胞凝集塊2を配置した場合、立体形状の中心部分に配置された細胞凝集塊2の近傍にも培養液を流通させることができ、中心部分の細胞凝集塊2が栄養不足となって成長や増殖が不良となるのを防止することができる。
これに対して、細胞凝集塊2を直接上下に積層させた場合には、密着する中心部分に培養液が行き渡らずに栄養が不足し、成長や増殖が不良となって細胞が壊死することもある。
以上のことから、上記隙間をできるだけ大きくしてより多くの培養液を流通させるには、ゼラチン粒子3の直径をできるだけ小さく設定すればよいが、その場合であってもピン21bに穿刺されたゼラチン粒子3によって細胞凝集塊2を下方から支持可能な程度の径に設定する必要がある。
【0023】
そして
図4および
図5に示すように、上記培養容器4の内部の支持体21には、培養によって得られた細胞の集合構造体を取り出すための取出しプレート23が設けられており、当該取出しプレート23は、全てのピン21bを貫通させる貫通穴が形成された板状の部材となっている。
取出しプレート23の両端部には、上記ガイドロッド22を貫通させる貫通穴が形成されたガイド部材23aが設けられており、各ガイドロッド22に案内されて取出しプレート23を上記ピン21bに沿って上下に移動させることが可能となっている。
細胞凝集塊2の培養中、上記取出しプレート23は上記台座21aの上面に載置され、細胞凝集塊2が培養されて細胞の集合構造体が作製されると、作業者またはロボットが取出しプレート23を上昇させることにより、細胞の立体構造体を上方に押し上げて上記ピン21bから取り外すようになっている。
ここで、上記ゼラチン粒子3をピン21bに穿刺させて保持させる高さは、上記取出しプレート23の上面から上方に所要の間隔を開けた高さとしており、これにより、整列させたゼラチン粒子3の下方から、ゼラチン粒子3同士によって形成される上記隙間に培養液を流入させることができるようになっており、ゼラチン粒子3上に載置させている細胞凝集塊2に培養液を接触させることができる。
【0024】
続いて、
図2、
図3を用いて細胞の集合構造体の作製装置1の構成について詳細に説明する。
上記細胞凝集塊移動手段12は、上記支持体21のピン21bの間に形成される収容部Pに対応するため、X方向のピン21bの本数より1本少ないX方向に整列した4本の吸引ノズル31と、吸引ノズル31の間隔を調整する間隔調整手段32と、上記吸引ノズル31をX方向に移動させる移動手段33と、吸引ノズル31をZ方向に昇降させる昇降手段34とを備えている。
上記吸引ノズル31は図示しない負圧発生手段に接続された本体部31aと、当該本体部31aの下部に設けられた管状の吸着部31bとを備えており、上記吸着部31bの先端部で細胞凝集塊2を吸着保持するようになっている。
間隔調整手段32は、X方向に整列する4本の吸引ノズル31を、隣り合う吸引ノズル31同士が接近した接近状態と、等間隔に離隔した離隔状態とに拡縮動作させて間隔を調整するものとなっている。
図2に示すように各吸着部31bの間隔を離隔状態として、上記細胞容器7におけるX方向の収容凹部7aの間隔と対応させ、接近状態として上記培養容器4内の支持体21に形成される収容部Pの間隔と対応させることが可能となっている。
【0025】
上記移動手段33は、上記培養容器4を中間として、細胞容器7からゼラチン粒子容器9にかけて、その上方に設けられたX方向レール35に沿って移動可能に設けられている。
上記昇降手段34は上記移動手段33と一体的にX方向に移動するように設けられ、制御手段の制御によって上記吸引ノズル31をZ方向に昇降させることが可能となっている。
上記移動手段33が4つの吸引ノズル31を上記細胞容器7の上方に位置させ、
図2に示すように間隔調整手段32が間隔を拡大した離隔状態で昇降手段34が吸引ノズル31を下降させると、4本の吸引ノズル31が細胞容器7におけるX方向に整列した4つの収容凹部7aに挿入されるようになっている。
ここで、上記細胞凝集塊供給手段8のY方向テーブル8aがY方向に順次細胞容器7を移動させることにより、細胞容器7の全ての収容凹部7aから細胞凝集塊2を取り出すことが可能となっている。
一方、移動手段33が吸引ノズル31を培養容器4の上方に位置させ、
図3に示すように間隔調整手段32が間隔を縮小した接近状態で昇降手段34が吸引ノズル31を下降させると、4本の吸引ノズル31に吸着保持された細胞凝集塊2が、上記支持体21に形成される収容部Pに収容されるようになっている。
ここで、上記培養容器支持部11のY方向テーブル11aがY方向に培養容器4を移動させることにより、支持体21に形成される全ての収容部Pに細胞凝集塊2を収容することが可能となっている。
【0026】
上記ゼラチン粒子移動手段13は、上記細胞凝集塊移動手段12と同様の構成を有しており、上記支持体21のX方向のピン21bに対応する同じ本数のX方向に整列した5本の吸引ノズル41、間隔調整手段42、移動手段43、昇降手段44を備えている。
上記吸引ノズル41は上記吸引ノズル31と同様、本体部41aと吸着部41bを備え、吸着部41bの内径はゼラチン粒子3の直径より小径であってピン21bの太さより大径となっている。
具体的には、吸着部41bの先端でゼラチン粒子3を吸着保持した際に、ゼラチン粒子3を吸い込むことがなく、また吸着したゼラチン粒子3をピン21bに穿刺させた後、ピン21bを管状の吸着部41bの内部に挿入させながら、ピン21bの先端から基部に向けてゼラチン粒子3を押し込むことができるようになっている。
図3に示すように、上記移動手段43が5本の吸引ノズル41を上記ゼラチン容器9の上方に位置させ、間隔調整手段42が間隔を拡大した離隔状態で昇降手段44が吸引ノズル41を下降させると、5本の吸引ノズル41がゼラチン容器9におけるX方向に整列した5つの収容凹部9aに挿入されるようになっている。
ここで、上記ゼラチン粒子供給手段10のY方向テーブル10aがY方向にゼラチン容器9を移動させることにより、ゼラチン容器9の全ての収容凹部9aからゼラチン粒子3を取り出すことが可能となっている。
一方、移動手段43が吸引ノズル41を培養容器4の上方に位置させ、間隔調整手段32が間隔を縮小した接近状態で昇降手段44が吸引ノズル41を下降させると、
図2に示すように5本の吸引ノズル41に吸着保持されたゼラチン粒子3が、上記支持体21に設けられたピン21bに穿刺されるようになっている。
このとき、制御手段が吸引ノズル41の下降量を制御することにより、上記ゼラチン粒子3を上記ピン21bの所定の高さに保持させることができ、また上記培養容器支持部11のY方向テーブル11aがY方向に培養容器4を移動させることにより、支持体21に設けられた全てのピン21bにゼラチン粒子3を穿刺することが可能となっている。
【0027】
また本実施形態の細胞の集合構造体の作製装置1には、上記X方向レール35に沿って移動可能に設けたカメラ45を備えており、培養容器支持部11の培養容器4の内部を上方から撮影するようになっている。
上記カメラ45は上記細胞凝集塊移動手段12がY方向テーブル8a上の細胞容器7から細胞凝集塊2を取り出して培養容器4内の支持体21に供給すると、当該培養容器4内を上方から撮影して、細胞凝集塊2の載置の良否を判定する。
これと同様、ゼラチン容器9から取り出したゼラチン粒子3が、培養容器4内の支持体21のピン21bに正しく穿刺されたか否かを判定するようになっている。
【0028】
以下、上記構成を有する細胞の集合構造体の作製装置1を用いた細胞の集合構造体の作製方法を説明する。
最初に、上記パスボックス5aを介して上記細胞凝集塊2が収容された細胞容器7、ゼラチン粒子3が収容されたゼラチン容器9、培養容器4や支持体21を上記アイソレータ5内に搬入する準備工程を行う。
この準備工程では、併せてアイソレータ5の内部で培養容器4に所定量のPBSを供給するとともに、支持体21を準備するステップ(支持体準備ステップ)として、培養容器4の内部に上記支持体21を設置し、上記取出しプレート23を上記支持体21の台座21aの上面に載置する。なお、支持体21は予め培養容器4内に設置した状態でアイソレータ5に搬入してもよい。
【0029】
上記準備工程が完了すると、上記ゼラチン粒子移動手段13がゼラチン容器9から上記培養容器4にゼラチン粒子3を移動させて、上記支持体21にゼラチン粒子3を供給して保持させるゼラチン供給工程を行う。
図3に示すように、上記ゼラチン粒子移動手段13は吸引ノズル41の間隔を拡大して、上記ゼラチン粒子供給手段10のゼラチン容器9から、X方向に整列した5個のゼラチン粒子3を吸着保持する。
続いて、支持体21に収容部Pを形成するステップ(収容部形成ステップ)として、吸引ノズル41を培養容器4の上方へと移動させて間隔を縮小し、
図2に示すように上記培養容器4の上方から吸引ノズル31を下降させて、吸着保持した5個のゼラチン粒子3を、支持体21を構成するX方向に整列した5本のピン21bに穿刺させる。
このとき、制御手段は吸引ノズル41の下降量を制御し、上記ゼラチン粒子3が上記ピン21bの所定の高さで保持されるように停止させる。これにより、ゼラチン粒子3と上記台座21aに載置された取出しプレート23との間に所要の隙間を形成するようになっている。
【0030】
その後、上記ゼラチン粒子移動手段13は上記吸引ノズル41をゼラチン容器9と培養容器4との間で往復動させ、ゼラチン容器9の全てのゼラチン粒子3を上記培養容器4の支持体21のピン21bに穿刺させる。
このとき、上記ゼラチン粒子供給手段10ではY方向テーブル10aがY方向に移動することにより、全ての収容凹部9aからゼラチン粒子3が取り出されるようになっている。
また上記培養容器支持部11ではY方向テーブル11aがY方向に順次移動することにより、培養容器4に設けられた支持体21を構成する25本全てのピン21bにゼラチン粒子3が穿刺されることとなる。
その後、上記カメラ45が培養容器4の内部を撮影し、ゼラチン粒子3が全てのピン21bに穿刺されているか否かを確認する。
これにより、支持体21の全てのピン21bの間に細胞凝集塊2を収容するための収容部Pが形成される。また上記動作により、ゼラチン粒子供給手段10のY方向テーブル10aに載置されていたゼラチン容器9が空となるため、必要に応じて図示しない移載手段が新たなゼラチン粒子3を収容した新たなゼラチン容器9に交換する。
【0031】
続いて、上記形成された収容部Pに細胞凝集塊2を収容させて、複数のゼラチン粒子3上に載置させるステップ(細胞凝集塊載置ステップ)として、上記細胞凝集塊移動手段12により、細胞凝集塊2を細胞容器7から培養容器4内へと移動させて、上記培養容器4の支持体21に細胞凝集塊2を供給する細胞供給工程を行う。
図2に示すように、上記細胞凝集塊移動手段12は4本の吸引ノズル31の間隔を拡大して、上記細胞凝集塊供給手段8の細胞容器7から、X方向に整列した4個の細胞凝集塊2を吸着保持する。
続いて、
図3に示すように吸引ノズル31を培養容器4の上方へと移動させて間隔を縮小し、上記培養容器4の上方から吸引ノズル31を下降させて、吸着保持した4個の細胞凝集塊2を、支持体21に形成したX方向に整列した4つの収容部Pに収容させる。
これにより、各吸引ノズル31に保持された各細胞凝集塊2はそれぞれ4本のピン21bと4個のゼラチン粒子3によって形成された収容部Pに収容され、ピン21bに穿刺されて保持されている4個のゼラチン粒子3の上部に載置されるようになっている。
【0032】
その後上記細胞凝集塊移動手段12は上記吸引ノズル31を細胞容器7と培養容器4との間を往復動させて、細胞容器7の細胞凝集塊2を上記培養容器4内の支持体21の収容部Pへと移動させる。
このとき、上記細胞凝集塊供給手段8ではY方向テーブル8aがY方向に順次移動することにより、細胞凝集塊2の収容された全ての収容凹部7aから細胞凝集塊2が取り出されるようになっている。
また上記培養容器支持部11ではY方向テーブル11aがY方向に移動することにより、培養容器4に設けられた支持体21を構成する16箇所全ての収容部Pに細胞凝集塊2が収容されることとなる。
その後、上記カメラ45が培養容器4の内部を撮影し、細胞凝集塊2が全ての収容部Pに収容されているか否かを確認する。
細胞凝集塊2が全て収容されたことが確認されると、培養容器4内のPBSを排出して培養液を供給して、全ての細胞凝集塊2が培養液に浸漬されるようにして細胞凝集塊2を培養するステップ(培養ステップ)に移行する。
また上記動作により細胞凝集塊供給手段8に載置された細胞容器7が空となるため、移載手段によって新たな細胞凝集塊2を収容した新たな細胞容器7へと交換される。
なお、上記動作により一段分の16個の細胞凝集塊2が配置されるが、さらに複数段に積層させる場合は、上述した収容部形成ステップと細胞凝集塊載置ステップを必要な回数繰り返してから培養ステップへと移行する。
【0033】
上記動作により細胞凝集塊2を一段分もしくは複数段積層させて配置することで、上記培養容器4の内部の上記支持体21では、
図6(a)に示すように、ゼラチン粒子3の層と、細胞凝集塊2の層とが交互に形成されるようになっている。
このうち上記ゼラチン粒子3による層は、ゼラチン粒子3を各ピン21bに穿刺して保持させたことにより、
図6(b)に示すようにゼラチン粒子3とゼラチン粒子3との間に隙間が形成され、当該ゼラチン粒子3上に載置されている細胞凝集塊2に対して培養液を供給することが可能となっている。
また上記動作の結果、最下段に位置するゼラチン粒子3はピン21bの所定の高さで保持されていることから、当該ゼラチン粒子3の下方には、取出しプレート23との間に培養液が流通可能な空間が形成されている。
これにより、最下段のゼラチン粒子3の層に形成された上記隙間を介して、その上部に載置されている細胞凝集塊2に対して培養液を供給することが可能となっている。
【0034】
しかも、上記ゼラチン粒子3は上記ゼラチン容器9で供給される際に培養液に浸漬されているため、各ゼラチン粒子3には培養液が取り込まれた状態となっている。
これにより、ゼラチン粒子3が培養中に溶解すると、当該ゼラチン粒子から培養液が放出され、細胞凝集塊2におけるゼラチン粒子3に接触している部分にも培養液が供給されるようになっている。
以上のことから、上記支持体21によって保持された細胞凝集塊2の周囲には培養液が流通可能な空間が形成されており、また接触するゼラチン粒子3が溶解しながら放出する培養液もあることから、細胞凝集塊2の培養を確実なものとし、細胞凝集塊2同士を融合させることが可能になる。
【0035】
このようにして培養容器4内にゼラチン粒子3および細胞凝集塊2が配置されると、培養ステップに移行してロボットもしくは作業者の手作業により、上記培養容器4はインキュベータ6に移送され、細胞凝集塊2を培養する培養工程が行われる。
培養容器4がインキュベータ6に収容されると、当該インキュベータを上記アイソレータ5より分離して離隔した位置に移動させ、内部を所定の温度、湿度に維持するとともに、所定の炭酸ガスや酸素の濃度を維持する。
培養容器4内において細胞凝集塊2が培養されると、これに伴って培養容器4中の培養液によってゼラチン粒子3が溶解して最終的には消滅するが、ゼラチン粒子3に取りこまれていた培養液が放出され、隣接する細胞凝集塊2に対して培養液が供給されるようになっている。
そして培養された細胞凝集塊2同士が融合する際、細胞凝集塊2は上記支持体21の収容部Pに収容された状態で保持されているため、上記細胞凝集塊2を配置した通りの形状で細胞の集合構造体を得ることができる。
ただし、細胞凝集塊2を複数段に積層させた場合は、細胞凝集塊2の層と細胞凝集塊2の層との間にゼラチン粒子3の層が位置しているため、培養によってゼラチン粒子3が溶解した後でも、上下の細胞凝集塊2の層からなる平面的な集合構造体と集合構造体との間に隙間が形成される。
その場合には、所定の培養期間が経過して各段の平坦な集合構造体が作製された時点で、上記保持プレート23を上昇させて、各段の集合構造体を相互に密着させ、その状態でさらに所定期間培養することにより、各段の集合構造体が互いに融合し、立体的な集合構造体が形成される。
【0036】
上記培養工程により細胞の集合構造体が作製されたら、インキュベータ6をアイソレータ5に接続して、回収ステップとして当該細胞の集合構造体を培養容器4から回収する回収工程を行う。
回収工程では、上記培養容器4の内部で上記保持プレート23をZ方向に上昇させると、培養後の細胞の集合構造体が下方から持上げられてピン21bに沿って上昇し、上記ピン21bから離脱させることができる。
ここで、培養工程において細胞の集合構造体は保持プレート23に密着していないため、細胞の集合構造体は保持プレート23に張り付くことはなく、これを容易に回収することができる。
なお、上記培養工程の間に、所定期間ごとにインキュベータ6をアイソレータ5に接続して培養液の追加や交換を行い、さらには、培養途中の細胞の集合構造体の培養状態を検査する検査工程を行うようにしてもよい。
【0037】
図7は第2の実施形態にかかる細胞の集合構造体の作製装置1’を示している。
上記第1実施形態では、4本の吸引ノズル31により細胞容器7から4個の細胞凝集塊2を同時に吸着して、培養容器4内の支持体21へ供給し、5本の吸引ノズル31によりゼラチン容器9から5個のゼラチン粒子3を吸着して、培養容器4内の支持体21へ供給している。
これに対し、第2実施形態の細胞の集合構造体の作製装置1’では、細胞凝集塊2の吸着とゼラチン粒子3の吸着を、両方を吸着可能な共通の吸引ノズル51によって行い、細胞凝集塊2およびゼラチン粒子3をそれぞれ1個ずつ支持体21へ供給するように構成したものとなっている。
すなわち、吸引ノズル51は移動手段52によりX方向レール35’に案内されてX方向に往復動可能となっており、昇降手段53により上記移動手段52と一体的に移動するとともに、吸引ノズル51を昇降させることが可能となっている。
すなわち、第1実施形態の細胞凝集塊供給手段8とゼラチン粒子供給手段10とが、細胞凝集塊2とゼラチン粒子3とを供給可能な共通の供給手段として構成されている。
また、昇降手段53には上方から培養容器4の内部を撮影するカメラ54が設けられており、当該カメラ54により培養容器4の内部を上方から撮影して、上記ピン21bにゼラチン粒子3が穿刺されているか否か、並びに上記収容部Pに細胞凝集塊2が収容されているか否かを判定するようになっている。
【0038】
第2実施形態における共通の供給手段としての細胞凝集塊供給手段8’は、第1の実施形態の細胞凝集塊供給手段8と同様、細胞容器7を支持してY方向へ移動させるものであるが、細胞容器7を位置決めする位置決め片8’aは枠状のY方向テーブル8’bに設けられており、このY方向テーブル8’bは両側部に設けた一対のレール8’cに案内されてY方向に往復動可能となっている。
そして、一対のレール8’cの間には、Y方向テーブル8’bの下方にカメラ55が配置されており、このカメラ55はリニアスライダー56のガイドレール56a上の可動子56bに支持されて、X方向に往復動可能となっている。
上記細胞容器7は透明なウエルプレートからなり、枠状のY方向テーブル8’bの枠の内側に収容部P7aが位置するように載置されるようになっている。そして上記Y方向テーブル8’bをY方向に移動させ、下方のカメラ55をX方向に移動させることで、全ての収容部P7aを撮影して細胞凝集塊2の有無を確認することができるようになっている。
【0039】
これと同様、第2実施形態における共通の供給手段としてのゼラチン粒子供給手段10’は、第1実施形態のゼラチン粒子供給手段10と同様、ゼラチン容器9を支持してY方向へ移動させるものであり、ゼラチン容器9を位置決めする位置決め片10’aは枠状のY方向テーブル10’bに設けられており、このY方向テーブル10’bは両側部に設けた一対のレール10’cに案内されてY方向に往復動可能となっている。
また一対のレール10’cの間には、Y方向テーブル10’bの下方にカメラ57が配置されており、このカメラ57はリニアスライダー58のガイドレール58a上の可動子58bに支持されて、X方向に往復動可能となっている。
上記ゼラチン容器9は透明なウエルプレートからなり、枠状のY方向テーブル10’bの枠の内側に収容部P9aが位置するように載置されるようになっている。そしてY方向テーブル10’bをY方向に移動させ、下方のカメラ57をX方向に移動させることにより、全ての収容部P9aを撮影してゼラチン粒子3の有無を確認することができるようになっている。
【0040】
このような第2実施形態の細胞の集合構造体の製造装置1’によれば、収容部形成ステップとして、上記吸引ノズル51をゼラチン粒子容器9と培養容器4内の支持体21の間で、立設したピン21bの本数分(
図5に示した例では25本分)に見合う回数だけ往復させて、ピン21bの本数分のゼラチン粒子3を支持体21のピン21bに穿刺させて収容部Pを形成する。
その後、細胞凝集塊載置ステップとして、吸引ノズル51を細胞容器7と培養容器4内の支持体21の間で形成された収容部Pの箇所数分(
図5に示した例では16箇所分)に見合う回数だけ往復させて、収容部Pの箇所数分の細胞凝集塊2を支持体21の収容部Pに収容させ、複数(
図5に示した例では4個)のゼラチン粒子3に載置させるようになっている。
つまり本実施形態の細胞の集合構造体の製造装置1’であっても、第1の実施形態と同様に細胞凝集塊2を培養容器4内の支持体21に配置することができ、細胞の集合構造体を製造することが可能であり、第1の実施形態と同様の効果を得ることができる。
なお、昇降手段53に設けたカメラ54により細胞容器7やゼラチン容器9を上方から撮影して、細胞凝集塊2やゼラチン粒子3の有無を確認することも可能である。
この場合、カメラ55、57やリニアスライダー56、58を省略し、細胞凝集塊供給手段8’のY方向テーブル8’bおよびゼラチン粒子供給手段10’ のY方向テーブル10’bとしては、第1実施形態の細胞凝集塊供給手段8のY方向テーブル8aおよびゼラチン粒子供給手段10のY方向テーブル10aを用いることが可能である。
【0041】
なお上記実施形態では、25本のピン21bの全てにゼラチン粒子3を穿刺しているが、例えば隣接するピン21bに対して交互にゼラチン粒子3を穿刺し、いわゆる市松状に配置してもよい。
この場合であっても、4本のピン21bのうち対角に位置したピン21bにゼラチン粒子3が穿刺されて保持されるため、上記収容部Pに収容された細胞凝集塊2を2個のゼラチン粒子3に載置させることが可能であり、周囲を取り囲む4本のピン21bに支えられることで安定的に細胞凝集塊2を支持体21に保持させることが可能とである。
また、ピン21bの配置を変更して、収容部Pを3本や5本以上のピン21bで取り囲むようにしてもよく、これらのピン21bの全てにゼラチン粒子3を穿刺させてもよいし、周方向に等間隔に配置できれば全てに穿刺しなくてもよい。
【0042】
なお上記第1実施形態では、上記ゼラチン粒子移動手段13と細胞凝集塊移動手段12とを別体に設けているが、これらを共用することも可能である。
この場合、例えば5本の吸引ノズル31を有した上記ゼラチン粒子移動手段13を用いて、当該5本の吸引ノズル31をX方向レール35に沿って細胞凝集塊供給手段8からゼラチン粒子供給手段10の間で移動可能とすればよい。
そしてゼラチン容器9からゼラチン粒子3を取り出す際には5本の吸引ノズル31を用い、細胞容器7から細胞凝集塊2を取り出す際には4本の吸引ノズル31を用いて、ゼラチン粒子3および細胞凝集塊2の両方の移動を行うようにしてもよい。
【符号の説明】
【0043】
1 細胞の集合構造体の作製装置 2 細胞凝集塊
3 ゼラチン粒子 4 培養容器
7 細胞容器 8 細胞凝集塊供給手段
9 ゼラチン容器 10ゼラチン粒子供給手段
11 培養容器支持部 12 細胞凝集塊移動手段
13 ゼラチン粒子移動手段 21 支持体
21b ピン P 収容部P
S 空間