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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024095474
(43)【公開日】2024-07-10
(54)【発明の名称】人体部位固定用シェル材料
(51)【国際特許分類】
   A61N 5/10 20060101AFI20240703BHJP
【FI】
A61N5/10 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022212786
(22)【出願日】2022-12-28
(71)【出願人】
【識別番号】514257000
【氏名又は名称】三洋展創工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100126675
【弁理士】
【氏名又は名称】福本 将彦
(72)【発明者】
【氏名】吉岡 義紘
【テーマコード(参考)】
4C082
【Fターム(参考)】
4C082AC01
4C082AE01
4C082AR02
(57)【要約】      (修正有)
【課題】加熱時透明性を保持しつつ、加熱時の引張り変形への耐性を改善した人体部位固定用シェル材料を提供する。
【解決手段】人体部位固定用シェル材料は、トランス-1,4結合量が60重量%以上であり、50°Cのトルエン中における極限粘度が0.8~3.0であるトランス-1,4―ポリイソプレンである第1の熱可塑性エラストマー(TPE)を主成分として含み、第1のTPEにブレンドされ、拘束形式として結晶部を有し、硬質相としてシンジオタクチック1,2ポリブタジエン、軟質相として非結晶ポリブタジエンである第2のTPE(すなわちRB)を、さらに含むとともに、加熱時透明性を有している。
【選択図】図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
トランス-1,4結合量が60重量%以上であり、50°Cのトルエン中における極限粘度が0.8~3.0であるトランス-1,4―ポリイソプレンである第1の熱可塑性エラストマー(TPE)を主成分として含み、
前記第1のTPEにブレンドされ、拘束形式として結晶部を有し、硬質相としてシンジオタクチック1,2ポリブタジエン、軟質相として非結晶ポリブタジエンである第2のTPEを、さらに含み、
加熱時透明性を有する、人体部位固定用シェル材料。
【請求項2】
トランス-1,4結合量が60重量%以上であり、50°Cのトルエン中における極限粘度が0.8~3.0であるトランス-1,4―ポリイソプレンである第1の熱可塑性エラストマー(TPE)を主成分として含み、
前記第1のTPEにブレンドされ、拘束形式としてイオン架橋部を有し、硬質相として金属カルボキシレートイオンクラスター、軟質相として非結晶ポリエチレンである第2のTPEを、さらに含み、
加熱時透明性を有する、人体部位固定用シェル材料。
【請求項3】
前記第2のTPEの前記第1のTPEに対する重量比率が、前記第1のTPE100に対し、前記第2のTPEが3から30の範囲である、請求項1又は2に記載の人体部位固定用シェル材料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、放射線治療等に用いられる人体部位固定用シェル材料に関する。
【背景技術】
【0002】
放射線を用いた癌治療等の放射線治療においては、副作用を抑えるために、被治療者の身体のうち標的部位以外への照射量を可能な限り低く抑え、標的部位を選択的に照射することが求められる。照射位置について高い精度を実現するために、被治療者の体位を治療ベッド上において一定に保持する用具としてシェルが用いられる。シェルは加熱されると柔らかく伸展し、常温に戻すと硬化する性質を持つ。このシェルを加熱して柔らかくした上で、標的部位に応じて、被治療者の頭部、頭頸部、体幹部などに適用し、型取りがなされる。型取りされたシェルは、その端部などが被治療者が横臥する治療ベッド台に固定されることにより、被治療者の身体の部分を治療寝台上の一定位置に固定する用具として機能する。
【0003】
特許文献1には、鬘(かつら)の製作を目的として人の頭部の形状を写し取る、型取りシートが開示されている。開示される型取りシートは、トランス-1,4―ポリイソプレンを主成分とする熱可塑性組成物を、材料としている。この熱可塑性組成物は、その後、鬘製作のみならず、放射線治療等のために身体の部分を固定するシェルの材料としても、使用されるようになった。当初は、頭部、頭頸部などを固定するのに用いられていたが、最近では、腹部内臓の放射線治療のために上半身の固定、さらには下半身の固定にも使用されるようになっている。このように、より幅の広いシェルが使用されるようになり、それに伴いシェルの材料に対する要求は、より厳しくなっている。
【0004】
トランス-1,4―ポリイソプレン(以下、適宜「TPI」と略記する)は、熱可塑性である上に、医師が作業をする加熱時に求められる透明性に優れている点において、人体部位固定用シェルの材料として好ましいと言うことができる。しかしTPIは、引張り変形を加えたときに破断し易い(すなわち、ネッキングが起こり易い)という問題があった。上記の通り、人体部位固定用シェルとして、より幅の広いシェルが使用されるようになるのに伴い、この問題がより顕在化するようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開昭55-93806号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は上記の問題点に鑑みてなされたもので、加熱時透明性を保持しつつ、加熱時の引張り変形への耐性を改善した人体部位固定用シェル材料を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、本発明のうち第1の態様によるものは、人体部位固定用シェル材料であって、トランス-1,4結合量が60重量%以上であり、50°Cのトルエン中における極限粘度が0.8~3.0であるトランス-1,4―ポリイソプレンである第1の熱可塑性エラストマー(TPE)を主成分として含み、前記第1のTPEにブレンドされ、拘束形式として結晶部を有し、硬質相としてシンジオタクチック1,2ポリブタジエン、軟質相として非結晶ポリブタジエンである第2のTPE(すなわちRB)を、さらに含んでいる。そして、前記人体部位固定用シェル材料は、加熱時透明性を有している。
【0008】
この構成によれば、トランス-1,4―ポリイソプレンの持つ加熱時透明性を保持しつつ、加熱時に引張り変形を加えたときに破断し易いという、トランス-1,4―ポリイソプレンの持つ問題点を改善した人体部位固定用シェル材料が得られる。
【0009】
本発明のうち第2の態様によるものは、人体部位固定用シェル材料であって、トランス-1,4結合量が60重量%以上であり、50°Cのトルエン中における極限粘度が0.8~3.0であるトランス-1,4―ポリイソプレンである第1の熱可塑性エラストマー(TPE)を主成分として含み、前記第1のTPEにブレンドされ、拘束形式としてイオン架橋部を有し、硬質相として金属カルボキシレートイオンクラスター、軟質相として非結晶ポリエチレンである第2のTPE(すなわちアイオノマー)を、さらに含んでいる。そして、前記人体部位固定用シェル材料は、加熱時透明性を有している。
【0010】
この構成によれば、トランス-1,4―ポリイソプレンの持つ加熱時透明性を保持しつつ、加熱時に引張り変形を加えたときに破断し易いという、トランス-1,4―ポリイソプレンの持つ問題点を改善した人体部位固定用シェル材料が得られる。
【0011】
本発明のうち第3の態様によるものは、第1又は第2の態様による人体部位固定用シェル材料であって、前記第2のTPEの前記第1のTPEに対する重量比率が、前記第1のTPE100に対し、前記第2のTPEが3から30の範囲である。
【0012】
この構成によれば、加熱時に付与された引張り変形が自然冷却時に戻る、引張り戻り特性に特に優れた人体部位固定用シェル材料が得られる。
【発明の効果】
【0013】
以上のように本発明によれば、加熱時透明性を保持しつつ、加熱時の引張り変形への耐性を改善した人体部位固定用シェル材料が実現する。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明の候補材料について行った引張り試験における試料の概略形状を示す平面図である。
図2】本発明の候補材料について行った引張り戻り試験における試料の概略形状を示す平面図である。
図3】本発明の候補材料について行った硬度試験に用いた装置を示す平面図代用写真である。
図4】本発明の候補材料について行った硬度試験の結果を示すグラフである。
図5】本発明の候補材料について行った硬度試験の結果を示すグラフである。
図6】本発明の候補材料について行った硬度試験の結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明は、人体部位固定用シェルの主原料として、熱可塑性である上に加熱時に求められる透明性に優れることから、従来より用いられるトランス1.4ポリイソプレンを用いるとともに、その欠点を排除する目的のために他の高分子ポリマーをブレンドする。以下において、本発明の人体部位固定用シェル材料の原料を、候補材料から選択する過程で行った各種の試験の方法と結果を、本発明の実施例1~5として説明する。
【0016】
(実施例1)
実施例1では、本発明の候補材料について、引張り試験を行うことにより、引張り特性を検証した。候補材料として、トランス1.4ポリイソプレン(TPI)のほか、アイオノマー、RB及びそれらとTPIのブレンド材を選択している。図1は、実施例1として行った引張り試験における、試料の概略形状を示す平面図である。
【0017】
引張り試験を行うには、まず、厚さ2mmの試験材料の板を作成し、この板をJIS3号の規格に基づくダンベル形状に打ち抜くことにより、試料を作成した。図1(a)は、作成された試料の概略平面形状を示している。
【0018】
次に、45℃、60℃、75℃に保温した熱板上に試料を5分間置くことにより、それぞれの温度に加熱した後に、熱板から取り上げた試料を、3秒、6秒、10秒の時間にわたって、引張り力を加える試験を行った。この引張り試験によって試料が切れるか、ネッキングするか、それとも、スムーズに伸びて緩めると戻るか、を観測した。図1(b)は、破断したときの試料の形状を例示し、図1(c)は、ネッキングしたときの試料の形状を例示し、図1(d)は、スムーズに伸びて緩めると戻る試料の形状を例示している。
表1は、引張り試験の結果を示している。
【0019】
【表1】
【0020】
いずれの候補材料も、加熱時の透明性が良好であり、シェルとして扱うことができるが、TPI単味では、切断あるいはネッキングが生じること、TPIにアイオノマー又はRBをブレンドすることにより、切断及びネッキングが防止できることが、明らかとなった。
【0021】
(実施例2)
実施例2では、本発明の候補材料について、透明性及び色相を検証した。候補材料として、ゴム、熱可塑性樹脂、エラストマー、及びそれらとTPIのブレンド材を選択した。ブレンドは、300ミリリットル容量のニーダーを用いて、100℃にて約20分間、混練りする。その後、プレス成型を行った。100℃の温度で20分間にわたり、熱プレスにより加圧(圧力80kgf/cm)した後、冷却プレスにより、20分~30分間、室温にて冷却した。それにより候補材料をシート状に生成した。熱プレスは、口金が300mm×300mm×所定厚さの型枠を用いて、400mm×400mm×10mmの鉄板(表面鍍金済み)に、候補材料を挟んで行った。生成したシート状の候補材料を試料として、色相及び透明性について試験を行った。表2に、試験の結果を示す。
【0022】
【表2】
【0023】
本発明の候補材料として、加熱時の透明性が良好であること、色相が白色であること、さらにブレンド時に混合し易い相溶性を備えていることが望ましい。この観点から表2の結果を見ると、TPIとアイオノマーとのブレンド、及びTPIとRBとのブレンドが優れていることが理解される。
【0024】
(実施例3)
実施例3では、本発明の候補材料について、引張り長さと自然冷却時の戻りとを検証した。候補材料として、TPIとアイオノマー、酢酸ビニル系エラストマーとのブレンド材を選択した。図2は、実施例3及び4において、本発明の候補材料について行った引張り戻り試験における試料の概略形状を示す平面図である。引張り戻り試験に供する試料は、ブレンドされた材料をプレス加工により板状にし、図2に示すように、幅10mm、長さ40mm、厚さ2mmのストリップ型に切り出し、長さ方向とは直角に標線を記すことにより生成した。引張り戻り試験は、加熱時に試料を2倍に伸張し、その後自然放置して戻りを計測することにより行った。表3に試験の結果を示す。
【0025】
【表3】
【0026】
アイオノマーは、一般に、メーカーが付している品番により内容が異なる。表3に記載する硬さ、軟化温度、融点は、メーカーが提供する製品カタログに基づいている。おおよそ、これらの数値に基づいて、材料の選択を行い、試験を行った。加熱温度は、表3に示すとおり、目標とする範囲を考慮した3点を選択した。戻り保持率は、次の数式1に基づいて計算した。
戻り保持率=測定寸法/標線間寸法=測定寸法/40x100(%)・・(数式1)
【0027】
本発明の候補材料として、加熱時の透明性に加えて、戻り保持率が小さいことが望ましい。この観点から表3を見ると、ブレンド量が5%~20%の広い範囲で、TPIとアイオノマーとのブレンド材が優れていることが理解される。
【0028】
ブレンド量(%)は、TPIの重量を100としたときの、ブレンドする材料の重量で表している。例えば、アイオノマーのブレンド量が10%とは、TPIの重量100に対し、アイオノマーの重量が10の比率であることを意味する。表3に示すように、アイオノマーのブレンド量については、0%、5%、10%、20%の4種を試験の対象としている。戻り保持率は、アイオノマーのブレンド量に対して劇的に変化するとは考え難いことから、これら4種の試料の結果から内挿及び外挿して推測すれば、アイオノマーのブレンド量が少なくとも3%から30%の広い範囲で、戻り保持率は実用レベルにあることが理解される。
【0029】
(実施例4)
実施例4においても、本発明の候補材料について、引張り長さと自然冷却時の戻りとを検証した。候補材料として、TPIとRB(シンジオタクチック1,2ポリブタジエン)とのブレンド材を選択した。実施例3と同様に、引張り戻り試験に供する試料は、ブレンドされた材料をプレス加工により板状にし、図2に示すように、幅10mm、長さ40mm、厚さ2mmのストリップ型に切り出し、長さ方向とは直角に標線を記すことにより生成した。引張り戻り試験は、加熱時に試料を2倍に伸張し、その後自然放置して戻りを計測することにより行った。表4に試験の結果を示す。
【0030】
【表4】
【0031】
加熱温度は、表4に示すとおり、実施例3と同じ3点のほかに、材料が広いシェルに適用される場合を想定して、90℃をも選択した。戻り保持率は、数式1に基づいて計算した。
本発明の候補材料として、既に述べたように、加熱時の透明性に加えて、戻り保持率が小さいことが望ましい。この観点から表4を見ると、ブレンド量が5%~20%の広い範囲で、TPIと融点が過度に高くはないRBとのブレンド材が優れていることが理解される。RB(RB100%)の融点は、人体に適用するシェル用のブレンド材としては、100℃以下であることが望ましく、95℃以下であることが更に望ましい。
【0032】
実施例3と同様に、ブレンド量(%)は、TPIの重量を100としたときの、ブレンドする材料の重量で表している。表4に示すように、RBのブレンド量については、5%、10%、15%、20%、100%の5種を試験の対象としている。戻り保持率は、RBのブレンド量に対して劇的に変化するとは考え難いことから、これら5種の試料の結果から内挿及び外挿して推測すれば、RBのブレンド量が少なくとも3%から30%の広い範囲で、戻り保持率は実用レベルにあることが理解される。
【0033】
(実施例5)
実施例5では、実施例1~4において試験を行った本発明の候補材料について、昇温過程及び降温過程における硬度の変化を測定することにより、実施例1~4において実証されたブレンド品が、人体部位固定用シェル材料として実用性を具備していることを、更に検証した。
【0034】
図3は、本発明の候補材料について行った硬度試験に用いた装置を例す平面図代用写真である。図示の通り、ヒーター11、熱板13、電源19、温度計測装置27、及び硬度計29を用いている。ヒーター11は、電源19から電線17を通じて電力が供給されることにより発熱する。電源19は、プラグ21を交流100Vのコンセントに差し込むことにより、電線23により電力が供給される。電源19に付随するつまみ24を回すことにより、電源19の出力を調整することができる。熱板13は、遠赤外線塗料が塗布された平坦な金属板であり、ヒーター11の上に固定されている。温度計測装置27は、熱電対25を用いて熱板13の温度を計測する。熱電対25の先端部は、熱板13の中央部の下面に固定されている。硬度計29はJISC型であり、平坦な下面を試料15に押し当てたときに、下面から突出する押針30が試料15によって押し戻される度合いに基づいて、試料15の硬度が表示盤上の針の回転角によって表示される。
【0035】
測定の手順は、次の(1)~(4)の通りである。
(1)本発明の候補材料である試料15を、室温下にある熱板13の上に置く。
(2)電源19をオンすることにより、熱板13を約90℃まで昇温させる。
(3)電源19をオフすることにより、熱板13を室温まで降温させる。
(4)上記(2)~(3)の過程で、試料15の硬度を測定する。
試料15は、硬度を測り易いように、直径50mmの円板状に切り取ったものを、熱板13の中央部に置いた。試料15は熱板13に貼り付いており、温度計測装置27により計測される熱板13の温度と試料15との間の温度差は無視できる。
【0036】
図4図6のグラフに、測定の結果を示す。硬度の測定は、約30℃~約90℃の温度範囲で、昇温及び降温にともない温度が3℃変化する毎に行った。図4図6のグラフは、多数の測定点を滑らかな曲線でつなぐことにより得ている。
【0037】
人体部位を固定するためにシェル材料を用いるときには、約75℃のシェル材料を被治療者の身体に適用し、型取りの作業が開始される。作業は、温度が約50℃に下がるまでに終了する。その後、被検者の負担を軽減するために、冷却スプレーを使用することにより、冷却が早められる。温度が降下することにより、シェル材料は硬化する。約70℃から約40℃への温度降下の時間が、シェル材料の加工時間(T)となる。加工時間(T)は、10分~15分である。
【0038】
図4は、TPI単味、RB810(10%)/TPI(90%)ブレンド品、RB810単味の3種類を試料15として、硬度測定を行った結果を示す。RB単味では、加熱時と室温時との間の硬度差(a)が小さい。加熱時にも硬度が高いのに加え、温度を降下させると、比較的高い温度で硬化してしまうため、RB単味はシェル材料としての使用には適しない。
【0039】
これに対して、RBブレンド品では、加熱後に室温にまで冷めても、硬度(b)は、TPI単味の硬度(c)より約10℃低いレベルに保たれている。TPI単味ほど硬くはならないが、実用上問題にはならないレベルである。室温においても幾分柔らかいので、作業がし易いという利点がある。RBブレンド品の加熱時の硬度は、TPI単味に比べて2℃ほど高いのみであり、実用上の差異はない。また、図4の曲線から理解されるように、RBブレンド品は、TPI単味と同様に、約70℃から約50℃に温度が降下する間に、型取りの作業を行うことができる。このように、RBブレンド品は、シェル材料としての使用に適している、ということができる。RBのブレンド比率に応じて、加熱時の硬度は、図4において、領域(d)のうちのある高さとなる。ブレンド比率が100%に近づくほど、RB単味の値に近づく。ブレンド比率が30%以下であれば、RBブレンドは、シェル材料として実用的である、と言える。
【0040】
図5は、TPI単味、RB820(10%)/TPI(90%)ブレンド品、RB820単味の3種類を試料15として、硬度測定を行った結果を示す。RB単味では、加熱時と室温時との間の硬度差(e)が殆ど無く、加熱時の硬度も高い。このため、被検者の身体にフィットするよう型取りする作業が容易ではなく、RB単味はシェル材料としての使用には適しない。
【0041】
これに対して、RBブレンド品では、加熱時と室温時との間の硬度差(f)は、TPI単味の硬度差(g)と比較して、約10℃低いレベルに保たれている。加熱時の硬度は、RBブレンド品ではTPI単味よりも約10℃高いのみである。室温時の硬度は、RBブレンド品ではTPI単味よりも、僅かに低いのみである。また、図5の曲線から理解されるように、RBブレンド品は、温度を降下させる過程で、70℃から硬度が緩やかに上昇するが、TPI単味と同様に、約70℃から約50℃に温度が降下する間に、型取りの作業を行うことは妨げられない。このように、RBブレンド品は、シェル材料としての使用に適している、ということができる。
【0042】
図6は、TPI単味、3種のアイオノマー(10%)/TPI(90%)ブレンド品の4種類を試料15として、硬度測定を行った結果を示す。アイオノマー・ブレンド品では、加熱時と室温時との間の硬度差(h)、(i)、(j)は、TPI単味の硬度差(k)と比較して、ほぼ同等(1855)、約10℃低い(2000)、約20℃低い(7327)レベルに保たれている。加熱時の硬度は、アイオノマー・ブレンド品ではTPI単味よりも約15℃以下である。室温時の硬度は、アイオノマー・ブレンド品ではTPI単味よりも、僅かに低いのみである。また、図6の曲線から理解されるように、アイオノマー・ブレンド品は、温度を降下させる過程で、70℃から硬度が緩やかに上昇するが、TPI単味と同様に、約70℃から約50℃に温度が降下する間に、型取りの作業を行うことは妨げられない。このように、アイオノマー・ブレンド品は、シェル材料としての使用に適している、ということができる。
【符号の説明】
【0043】
11 ヒーター、 13 熱板、 19 電源、 27 温度計測装置、 29 硬度計、 17 電線、 21 プラグ、 23 電線、 24 つまみ、 25 熱電対、 15 試料、 30 押針。
図1
図2
図3
図4
図5
図6