(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024095483
(43)【公開日】2024-07-10
(54)【発明の名称】プレスフィット端子
(51)【国際特許分類】
H01R 12/58 20110101AFI20240703BHJP
【FI】
H01R12/58
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023044595
(22)【出願日】2023-03-20
(31)【優先権主張番号】P 2022211577
(32)【優先日】2022-12-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】395011665
【氏名又は名称】株式会社オートネットワーク技術研究所
(71)【出願人】
【識別番号】000183406
【氏名又は名称】住友電装株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000002130
【氏名又は名称】住友電気工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002158
【氏名又は名称】弁理士法人上野特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山中 拓哉
【テーマコード(参考)】
5E223
【Fターム(参考)】
5E223AB17
5E223AC04
5E223AC12
5E223AC21
5E223BA27
5E223BB12
5E223CB63
5E223CD01
5E223CD15
5E223DB08
5E223DB13
(57)【要約】
【課題】スルーホールとの干渉・接触を抑制しながら、スルーホールへの挿入時の変形によって生じる応力を分散させることができるプレスフィット端子を提供する。
【解決手段】スルーホールに対する挿入方向を前方、その反対の方向を後方とし、前記挿入方向に直交する方向を幅方向として、前端に位置する先端部10と、前記先端部10よりも後方に位置する基部20と、開口部40を介して互いに対向して配置され、前記先端部10および前記基部20の間に位置して両者を連結するとともに、幅方向外側に向けて張り出した1対の弾性接触片30と、を備え、幅方向外側の側縁1aに応力分散部50が設けられており、前記応力分散部50は、前記先端部10と前記弾性接触片30との境界部よりも前方側に、前記側縁1aが幅方向内側に入り込んだ、前方凹部を有する、プレスフィット端子1とする。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
回路基板に設けられたスルーホール内に挿入されるプレスフィット端子であって、
前記スルーホールに対する前記プレスフィット端子の挿入方向を前方、その反対の方向を後方とし、前記挿入方向に直交する方向を幅方向として、
前記プレスフィット端子は、
前端に位置する先端部と、
前記先端部よりも後方に位置する基部と、
開口部を介して互いに対向して配置され、前記先端部および前記基部の間に位置して両者を連結するとともに、幅方向外側に向けて張り出した1対の弾性接触片と、を備え、
幅方向外側の側縁に応力分散部が設けられており、
前記応力分散部は、前記先端部と前記弾性接触片との境界部よりも前方側に、前記側縁が幅方向内側に入り込んだ、前方凹部を有する、プレスフィット端子。
【請求項2】
前記応力分散部は、前記境界部を含む領域に設けられ、
前記側縁が前方から後方に向かって内側に入り込んだ前記前方凹部の後方側に隣接して、前記側縁が幅方向外側に突出した凸部をさらに有する、請求項1に記載のプレスフィット端子。
【請求項3】
前記応力分散部はさらに、前記凸部の後方側に隣接して、前記側縁が、後方から前方に向かって内側に入り込んだ、後方凹部を有する、請求項2に記載のプレスフィット端子。
【請求項4】
前記弾性接触片のうち、前記応力分散部の後方に隣接する箇所の前記側縁を前方に外挿するとともに、前記先端部のうち、前記応力分散部の前方に隣接する箇所の前記側縁を後方に外挿して得られる仮想線を仮想外縁として、
前記凸部は、前記仮想外縁よりも幅方向外側に突出していない、請求項2または請求項3に記載のプレスフィット端子。
【請求項5】
前記プレスフィット端子を前記スルーホールに挿入していない自然状態において、前記1対の弾性接触片の間で前記凸部の頂部どうしを結ぶ幅方向の寸法である突出幅が、前記スルーホールの内径よりも小さい、請求項4に記載のプレスフィット端子。
【請求項6】
前記弾性接触片のうち、前記応力分散部の後方に隣接する箇所の前記側縁を前方に外挿するとともに、前記先端部のうち、前記応力分散部の前方に隣接する箇所の前記側縁を後方に外挿して得られる仮想線を仮想外縁として、
前記プレスフィット端子を前記スルーホールに挿入していない自然状態において、
前記1対の弾性接触片の間で前記凸部の頂部どうしを結ぶ幅方向の寸法である突出幅が、前記スルーホールの内径よりも小さくなっているとともに、
前記凸部と同じ突出高さを有する突出構造を前記仮想外縁の幅方向外側に設けたものを、仮想凸部とした場合に、前記1対の弾性接触片の間で前記仮想凸部の頂部どうしを結ぶ幅方向の寸法である仮想突出幅が、前記スルーホールの内径よりも大きい、請求項2または請求項3に記載のプレスフィット端子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、プレスフィット端子に関する。
【背景技術】
【0002】
回路基板に形成された電子回路に対して、回路基板の外部の部材との間に電気接続を形成するのに、プレスフィット端子が用いられる。プレスフィット端子は、回路基板に設けられたスルーホールに挿入されるタブ状の接続端子であり、弾性変形可能な弾性接触片を有している。プレスフィット端子をスルーホールに圧入すると、弾性接触片がスルーホールの内壁面に対して弾性的に接触し、スルーホールと導通接続される。
【0003】
プレスフィット端子においては、温度や振動による影響に対して接続信頼性を保証するため、また振動等の外力によってプレスフィット端子が回路基板から離脱するのを防止するために、保持力、つまりスルーホールからのプレスフィット端子の引き抜きに要する力を、十分に大きく確保することが求められる。一方で、プレスフィット端子をスルーホールに圧入する際に、スルーホールの開口縁部等の箇所に、プレスフィット端子から大きな荷重が印加されることで、回路基板に負荷が生じる場合がある。また、スルーホールへのプレスフィット端子の挿入に伴う弾性接触片の変形によって、プレスフィット端子のひずみが大きくなるおそれがある。
【0004】
特許文献1,2では、高保持力の確保と、プレスフィット端子のスルーホールへの圧入時に基板に印加される負荷の低減とを両立する観点から、プレスフィット端子の設計がなされている。一方、特許文献3では、スルーホールに挿入したプレスフィット端子において、弾性接触片の変形に伴って生じる応力を分散させる観点から、プレスフィット端子の設計がなされている。特許文献3では、ここで
図8に示しているように、先端部91と基部92の間に弾性接触片93が設けられたプレスフィット端子9’の構造において、先端部91と弾性接触片93との境界部を含む領域、および基部92と弾性接触片93との境界部を含む領域の少なくとも一方に、弾性接触片93の張り出し方向と同方向に突出する応力分散部95を設けることで、応力の分散を図っている。その結果として、プレスフィット端子における大きなひずみの発生を抑制できるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004-127610号公報
【特許文献2】国際公開第2008/038331号
【特許文献3】特開2018-63937号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
近年、電気・電子機器の小型化や電子回路の高集積化に伴い、回路基板に形成されるスルーホールも小径化している。一方で、スルーホールの小径化に合わせて、スルーホールに挿入するプレスフィット端子を幅の狭い形状に設計するのには、限界がある。上にも述べたとおり、スルーホールに挿入したプレスフィット端子の保持力を確保するために、プレスフィット端子からスルーホールの内壁面に対して十分に大きな接触荷重を印加することを要するが、そのためには、弾性接触片にある程度の幅を持たせ、弾性変形による復元力を確保する必要があるからである。また、幅の狭すぎるプレスフィット端子をプレス加工によって製造するのは困難だからである。このように、プレスフィット端子を幅の狭い形状とするのに限界がある中で、スルーホールを小径化すると、スルーホールの径に対する相対的なプレスフィット端子の幅が大きくなってしまう。
【0007】
図8に示した特許文献3の形態のように、弾性接触片93と先端部91との境界部を含む領域に突出形状の応力分散部95を設けることで、弾性接触片93の変形に伴って発生する応力を分散させることができるが、応力分散部95が突出形状を有することで、スルーホールにプレスフィット端子9’を挿入する際に、開口縁部をはじめとして、スルーホールの各部と、応力分散部95が干渉や接触を起こす可能性がある。特に、上記のように、スルーホールの径に対する相対的なプレスフィット端子9’の幅が大きくなっている状況では、スルーホールに対する応力分散部95の干渉や接触が起こりやすくなる。すると、スルーホールへのプレスフィット端子の挿入が行いにくくなる。また、プレスフィット端子の挿入に要する力(挿入力)も大きくなってしまう。このように、突出形状の応力分散部をプレスフィット端子に形成する場合に、応力分散部による応力の分散と、スルーホールとの間の干渉・接触の回避とを両立しながら、プレスフィット端子の幅を小さくすることは困難である。
【0008】
そこで、スルーホールとの干渉・接触を抑制しながら、スルーホールへの挿入時の変形によって生じる応力を分散させることができるプレスフィット端子を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本開示のプレスフィット端子は、回路基板に設けられたスルーホール内に挿入されるプレスフィット端子であって、前記スルーホールに対する前記プレスフィット端子の挿入方向を前方、その反対の方向を後方とし、前記挿入方向に直交する方向を幅方向として、前記プレスフィット端子は、前端に位置する先端部と、前記先端部よりも後方に位置する基部と、開口部を介して互いに対向して配置され、前記先端部および前記基部の間に位置して両者を連結するとともに、幅方向外側に向けて張り出した1対の弾性接触片と、を備え、幅方向外側の側縁に応力分散部が設けられており、前記応力分散部は、前記先端部と前記弾性接触片との境界部よりも前方側に、前記側縁が幅方向内側に入り込んだ、前方凹部を有する。
【発明の効果】
【0010】
本開示にかかるプレスフィット端子によれば、スルーホールとの干渉・接触を抑制しながら、スルーホールへの挿入時の変形によって生じる応力を分散させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】
図1は、本開示の一実施形態にかかるプレスフィット端子を示す平面図である。
【
図2】
図2は、上記プレスフィット端子の応力分散部を示す拡大図である。
【
図3】
図3は、上記プレスフィット端子を回路基板のスルーホールに挿入する過程を示す平断面図である。
【
図4】
図4は、上記プレスフィット端子を回路基板のスルーホールに挿入した状態を示す平断面図である。
【
図5】
図5は、別の一実施形態にかかるプレスフィット端子について、応力分散部を示す拡大図である。
【
図6】
図6は、変形形態にかかるプレスフィット端子を示す平面図である。
【
図7】
図7は、応力分散部を有さない従来一般のプレスフィット端子を示す平面図である。
【
図8】
図8は、凸部のみより構成される応力分散部を有するプレスフィット端子を示す平面図である。
【
図9】
図9は、3種のプレスフィット端子について、スルーホール挿入前の端子形状、スルーホールに挿入した状態におけるひずみ分布、発生ひずみの大きさを示す。端子Aは応力分散部を有さない端子、端子Bは前方および後方の各凹部と凸部を備えた応力分散部を有する端子、端子Cは前方凹部のみ備えた応力分散部を有する端子である。ひずみ分布については、それぞれ、主図は平面図を示し、枠内の図は外側縁の箇所の拡大図を示している。発生ひずみは、ひずみ分布におけるひずみの最大値を、端子Aの場合を100%として表示している。
【発明を実施するための形態】
【0012】
[本開示の実施形態の説明]
最初に、本開示の実施態様を説明する。
[1]本開示のプレスフィット端子は、回路基板に設けられたスルーホール内に挿入されるプレスフィット端子であって、前記スルーホールに対する前記プレスフィット端子の挿入方向を前方、その反対の方向を後方とし、前記挿入方向に直交する方向を幅方向として、前記プレスフィット端子は、前端に位置する先端部と、前記先端部よりも後方に位置する基部と、開口部を介して互いに対向して配置され、前記先端部および前記基部の間に位置して両者を連結するとともに、幅方向外側に向けて張り出した1対の弾性接触片と、を備え、幅方向外側の側縁に応力分散部が設けられており、前記応力分散部は、前記先端部と前記弾性接触片との境界部よりも前方側に、前記側縁が幅方向内側に入り込んだ、前方凹部を有する。
【0013】
上記のプレスフィット端子は、幅方向外側の側縁に、応力分散部を有しており、その応力分散部は、先端部と弾性接触片との境界部よりも前方側に、前方凹部を有している。プレスフィット端子を回路基板のスルーホールに圧入して弾性接触片を変形させた際に、プレスフィット端子において、弾性接触片およびその近傍には応力が生じるが、各弾性接触片等、金属材料が連続している領域の幅が広くなっている箇所ほど、生じる応力が小さくなる。逆に、金属材料が連続している領域の幅を狭くすると、狭くした箇所に応力が分布しやすくなる。プレスフィット端子において、先端部と弾性接触片との境界部は、スルーホールに圧入する際に応力が集中しやすい箇所であるが、この境界部よりも前方側の位置において、幅方向外側の側縁に凹部を設け、プレスフィット端子の幅をあえて狭くすることで、応力が上記境界部ばかりに集中せず、前後方向に沿って広い領域に分布するようになる。このように弾性接触片の変形に伴う応力を広い範囲に分散させることで、境界部への応力の集中を緩和することができる。生じる応力が小さくなると、プレスフィット端子の構成材料に印加される力学的な負荷が軽減され、大きなひずみが生じにくくなる。
【0014】
一方で、前方凹部は、プレスフィット端子の外側の側縁が内側に入り込んだ凹構造として設けられるため、プレスフィット端子を回路基板のスルーホールに挿入する際に、開口縁部をはじめとして、スルーホールの各部に対して、干渉や接触を起こすものとはなりにくい。次に説明する形態における凸部等、前方凹部以外の要素を応力緩和部に設ける場合にも、前方凹部によって外側の側縁が内側に退避した構造と合わせてそれらの要素を形成することで、前方凹部が設けられない場合と比べて、応力分散部において、スルーホールとの干渉・接触が起こりにくくなる。このように、前方凹部を含んだ応力分散部を設けることで、スルーホールとの干渉・接触を抑制しながら、スルーホールへの挿入時の変形によってプレスフィット端子に生じる応力を分散させることが可能となる。
【0015】
[2]上記[1]の態様において、前記応力分散部は、前記境界部を含む領域に設けられ、前記側縁が前方から後方に向かって内側に入り込んだ前記前方凹部の後方側に隣接して、前記側縁が幅方向外側に突出した凸部をさらに有するとよい。上記のように、プレスフィット端子において、各弾性接触片等、金属材料が連続している領域の幅が広くなっているほど、生じる応力が小さくなるため、応力分散部に凸部を設けておくことで、その凸部の位置において、応力が幅方向に広い領域に分散されるようになる。前方凹部と凸部を合わせて設けることで、前後方向と幅方向の両方への応力の分散を利用して、プレスフィット端子において、スルーホールへの挿入時の変形による応力の集中を、効果的に緩和することができる。また、応力分散部に前方凹部が設けられており、弾性接触片の外側の側縁が、前方から後方に向かって、一旦内側に入り込んだうえで、凸部の箇所で外側に突出するため、凸部の箇所が、プレスフィット端子全体としての幅方向の外側に、大きく突出したものとなりにくい。
図8に示したように、応力分散部が、上記凸部と同様に幅方向外側に突出した構造のみで構成される場合と比較して、凸部の基底部と頂部の距離である突出高さが同じであるとしても、凸部の頂部が、幅方向内側の位置に収まる。このように、プレスフィット端子全体の形状として、凸部の突出が小さく抑えられることで、プレスフィット端子を回路基板のスルーホールに挿入する際に、凸部が、開口縁部をはじめとして、スルーホールの各部に対して、干渉や接触を起こしにくい。
【0016】
[3]上記[2]の態様において、前記応力分散部はさらに、前記凸部の後方側に隣接して、前記側縁が、後方から前方に向かって内側に入り込んだ、後方凹部を有するとよい。プレスフィット端子の外側の側縁が内側に入り込んだ凹部が、応力分散部のうち前方の領域と後方の領域の両方に形成されることで、プレスフィット端子の変形に伴って応力が生じる領域を前後方向に沿って広い領域に分散させる効果が高くなる。また、凸部をプレスフィット端子全体としての幅方向に大きく突出させないようにしながら、凸部の突出高さおよび面積を大きくすることができ、凸部による応力分散の効果が大きく得られる。
【0017】
[4]上記[2]または[3]の態様において、前記弾性接触片のうち、前記応力分散部の後方に隣接する箇所の前記側縁を前方に外挿するとともに、前記先端部のうち、前記応力分散部の前方に隣接する箇所の前記側縁を後方に外挿して得られる仮想線を仮想外縁として、前記凸部は、前記仮想外縁よりも幅方向外側に突出していないとよい。仮想外縁はおおむね、
図7に示すような応力分散部を設けない平滑な側縁を有する従来一般のプレスフィット端子の形状に対応するものとなる。その仮想外縁よりも幅方向外側に突出しないように凸部を設けることで、従来一般のプレスフィット端子と比較して、スルーホールとの干渉・接触が起こる可能性を、同程度、あるいはそれよりも低く抑えながら、応力分散部の形成による応力分散の効果を享受することができる。
【0018】
[5]上記[2]から[4]のいずれか1つの態様において、前記プレスフィット端子を前記スルーホールに挿入していない自然状態において、前記1対の弾性接触片の間で前記凸部の頂部どうしを結ぶ幅方向の寸法である突出幅が、前記スルーホールの内径よりも小さいとよい。すると、スルーホールにプレスフィット端子を挿入する際に、スルーホールとの間に干渉・接触を起こしにくくなる。
【0019】
[6]上記[2]から[5]のいずれか1つの態様において、前記弾性接触片のうち、前記応力分散部の後方に隣接する箇所の前記側縁を前方に外挿するとともに、前記先端部のうち、前記応力分散部の前方に隣接する箇所の前記側縁を後方に外挿して得られる仮想線を仮想外縁として、前記プレスフィット端子を前記スルーホールに挿入していない自然状態において、前記1対の弾性接触片の間で前記凸部の頂部どうしを結ぶ幅方向の寸法である突出幅が、前記スルーホールの内径よりも小さくなっているとともに、前記凸部と同じ突出高さを有する突出構造を前記仮想外縁の幅方向外側に設けたものを、仮想凸部とした場合に、前記1対の弾性接触片の間で前記仮想凸部の頂部どうしを結ぶ幅方向の寸法である仮想突出幅が、前記スルーホールの内径よりも大きいとよい。ここで、仮想突出幅は、おおむね、
図8の形態のように、応力分散部として、前方凹部も後方凹部も設けずに、凸部のみを設けた場合の突出幅に対応する。つまり、もし応力分散部として凸部のみを設けるとすれば、凸部の突出幅がスルーホールの内径よりも大きくなり、スルーホールへの端子挿入時に、スルーホールとの間に干渉・接触が起こってしまうが、実際には、前方凹部(および後方凹部)を凸部とともに設けていることで、凸部の突出幅を、スルーホールの内径よりも小さく抑えており、端子挿入時の干渉・接触が起こりにくくなっている。
【0020】
[本開示の実施形態の詳細]
以下に、本開示の実施形態にかかるプレスフィット端子ついて、図面を用いて詳細に説明する。本明細書において、対称、同一、直線状、円弧形状等、形状や配置に関する語には、幾何的に厳密な概念のみならず、接続端子において通常許容される範囲の誤差を有する形態も含むものとする。誤差の範囲は、例えば、長さおよび角度にして±10%程度である。
【0021】
<プレスフィット端子の構造の概略>
図1に、本開示の一実施形態にかかるプレスフィット端子1の構造を示す。プレスフィット端子1は、金属の板材を打ち抜いて形成されており、全体として細長い形状を有している。プレスフィット端子1を構成する金属の種類は特に限定されるものではないが、導電性等の観点から、銅または銅合金の板材、あるいはその表面にスズ層等の金属層を形成した板材を好適に用いることができる。
【0022】
プレスフィット端子1は、一端に、端子部として、
図1に示す構造を有しており、
図3,4に示すように、回路基板Bに設けられたスルーホールHに挿入可能となっている。また、プレスフィット端子1において、端子部が形成されているのと反対側の端部には、他の接続端子等、外部の電気接続部材に接続可能な接続部が設けられている(不図示)。以降、プレスフィット端子1の端子部をスルーホールHに挿入する挿入方向(図の下方)を前方とし、その反対の方向(図の上方)を後方とする。また挿入方向に直交する方向(図の横方向)を幅方向とする。そして、挿入方向(前後方向)に沿った中心軸の方へ、幅方向に沿って向かう方向を幅方向内側、その反対の方向を幅方向外側とする。
【0023】
プレスフィット端子1の端子部は、ニードルアイ型のプレスフィット端子として構成されており、前端に位置する先端部10と、先端部10よりも後方に位置する基部20と、先端部10および基部20の間に位置する1対の弾性接触片30を一体に有している。先端部10、基部20、1対の弾性接触片30よりなる端子部は、全体が同一の板厚を有しており、同一の面内に形成されている。また、端子部は、上記のように、板材を打ち抜いて形成されており、表裏の面と側面の間の接合箇所を除き、厚み方向(図の奥行方向)の各位置で、同一の断面形状を有している。
【0024】
先端部10は、回路基板BのスルーホールHへのプレスフィット端子1の挿入を案内する部位である。図示した形態においては、先端部10は、弾性接触片30の前端から前方に向かって直線状に延びた姿勢ガイド部11と、姿勢ガイド部11の前端から前方に向けて漸次先細り形状となった位置ガイド部12とを備えている。姿勢ガイド部11は、スルーホールHの軸に対してプレスフィット端子1の姿勢をまっすぐに誘導する役割を果たし、位置ガイド部12は、スルーホールHの中心位置にプレスフィット端子1の先端を誘導する役割を果たす(
図3参照)。基部20は、先端部10から後方に離れた位置に設けられ、前後方向に沿って直線状に延びている。
【0025】
弾性接触片30は、先端部10と基部20の間に1対設けられており、先端部10と基部20を連結するとともに、幅方向外側に向けて張り出している。1対の弾性接触片30は、前後方向に沿ったプレスフィット端子1の中心軸に対して、相互に対称な形状を有している。図示した形態においては、各弾性接触片30は、第一傾斜部31、接触部32、第二傾斜部33を、前方から後方へとこの順に、一体に連続させて有している。第一傾斜部31は、前方から後方に向けて徐々に幅方向外側に張り出した形状を有している。接触部32は、前後方向に沿って直線状に延びた部位である。第二傾斜部33は、前方から後方に向けて徐々に幅方向内側に向かう形状を有している。
【0026】
1対の弾性接触片30の間には、前後方向に延びる長孔状の開口部40が設けられている。つまり、1対の弾性接触片30は、開口部40を介して、幅方向に、互いに対向して配置されている。図示した形態においては、開口部40の内周縁が、1対の弾性接触片30の幅方向外側の側縁(外側縁)1aの形状に沿った形状に形成されており、各弾性接触片30は、前後方向に沿って、幅寸法が略同一となっている(後に説明する応力分散部50の箇所を除く)。
【0027】
プレスフィット端子1において、先端部10と弾性接触片30との境界部を含む領域には、応力分散部50が設けられている。応力分散部50は、プレスフィット端子1の外側縁1aに所定の形状の構造が形成された部位として設けられている。ここで、先端部10と弾性接触片30の間の境界部とは、先端部10の後端から1対の弾性接触片30が分岐して幅方向外側に張り出す分岐箇所を指し、おおむね、弾性接触片30の張り出し形状に沿って、開口部40の前端に対応する位置を指す。応力分散部50の詳細な構造については、後に説明する。
【0028】
プレスフィット端子1をスルーホールHに挿入していない自然状態において、弾性接触片30の張り出し幅L、つまり1対の弾性接触片30の接触部32における外側縁1aの間の幅方向に沿った距離が、プレスフィット端子1を挿入するスルーホールHの内径L0(内径が分布を有する場合には最大径;以下においても同様)よりも大きくなっており、プレスフィット端子1をスルーホールHに挿入する際には、圧入を要する。プレスフィット端子1をスルーホールHに圧入すると、
図4に示すように、1対の弾性接触片30が、相互に近接するように幅方向内側に押し縮められ、変形する。そして、弾性接触片がスルーホールHの内壁面H2と弾性的に接触した状態で、プレスフィット端子1がスルーホールHと導通接続される。プレスフィット端子1の圧入に伴う弾性接触片30の変形により、弾性接触片30と先端部10との境界の箇所に、引張応力が印加され、ひずみが生じる。この応力およびひずみが最大になる点が、おおむね、弾性接触片30と先端部10との境界部に対応する。次に詳しく説明するとおり、当該箇所に応力分散部50が設けられていることにより、その応力が分散される。
【0029】
<応力分散部の詳細>
上記のとおり、本実施形態にかかるプレスフィット端子1においては、先端部10と弾性接触片30との境界部を含む領域に、応力分散部50が設けられている。
図2に応力分散部50の近傍の拡大図を示す。応力分散部50は、プレスフィット端子1の外側縁1aに凹凸構造を有する部位として構成されており、前方から後方に向かって順に、前方凹部51a、凸部52、後方凹部51bを有している。なお、本開示のプレスフィット端子において、応力分散部は、先端部10と弾性接触片30との境界部を含む領域またはその近傍に、前方凹部51aを少なくとも有するものとして構成される。よって、後方凹部51bおよび凸部52は必須に設けられるものではなく、応力分散部50が、前方凹部51aと凸部52のみ、あるいは前方凹部51aのみから構成されていてもよいが、後に説明するように、応力分散の効果を高める観点から、後方凹部51および凸部52bが設けられていることが好ましく、まずは、前方凹部51a、凸部52、後方凹部51bを備えた応力分散部50について詳細に説明する。
【0030】
(1)凹部と凸部を有する形態
図2に示すとおり、応力分散部50において最も前方側に位置する前方凹部51aは、外側縁1aが、前方から後方に向かって、内側に入り込んだ(退避した、落ち込んだ)部位である。つまり、前方凹部51aにおいて、外側縁1aが、それよりも前方の部位に比べて急な角度で、前方から後方へと内側に向かって傾斜している。前方凹部51aの傾斜は、曲線状であっても直線状であってもよいが、前後方向両側において、それぞれ先端部10および凸部52の外側縁1aと滑らかに連続していることが好ましい。図示した形態では、前方凹部51aの外側縁1aがおおむね直線に近似される傾斜を有し、先端部10および凸部52の外側縁1aと滑らかに連続している。前方凹部51aは、先端部10と弾性接触片30の間の境界部よりも前方に設けられることが好ましい。つまり、少なくとも前方凹部51aの凹構造の底部(最も幅方向内側に入った箇所)が、上記境界部よりも前方に位置するとよい。
【0031】
凸部52は、前方凹部51aの後方側に隣接しており、外側縁1aが幅方向外側に突出(膨出)した部位として構成されている。凸部52の具体的な突出形状は特に限定されるものではないが、三角形や矩形等、角部を有する構造よりは、円弧形状をはじめとして、緩やかな曲線形状をとって突出していることが好ましい。また、前後方向両側において、それぞれ前方凹部51aおよび後方凹部51b(後方凹部51bが設けられない場合には弾性接触片30)の外側縁1aと滑らかに連続していることが好ましい。なお、凸部52が前方凹部51aの後方側に隣接しているとは、前方から後方に向かって、内側に入り込む前方凹部51aの傾斜と、外側に突出する凸部52の傾斜とが、直接連結されている形態のみならず、傾斜を実質的に有さない領域を間に挟んで滑らかに連結された形態でもよい。
【0032】
後方凹部51bは、凸部52の後方側に隣接しており、外側縁1aが、後方から前方に向かって、内側に入り込んだ(退避した、落ち込んだ)部位である。つまり、後方凹部51bにおいて、外側縁1aが、それよりも後方の部位に比べて急な角度で、後方から前方へと内側に向かって傾斜している。後方凹部51bの傾斜も、前方凹部51aの傾斜と同様に、曲線状であっても直線状であってもよいが、前後方向両側において、それぞれ凸部52および弾性接触片30の外側縁1aと滑らかに連続していることが好ましい。図示した形態では、後方凹部51bの外側縁1aがおおむね直線状に近似される傾斜を有し、凸部52および弾性接触片30の外側縁1aと滑らかに連続している。なお、後方凹部51bが凸部52の後方側に隣接しているとは、後方から前方に向かって、内側に入り込む後方凹部51bの傾斜と、外側に突出する凸部52の傾斜とが、直接連結されている形態のみならず、傾斜を実質的に有さない領域を間に挟んで滑らかに連結された形態でもよい。
【0033】
ここで、プレスフィット端子1において、応力分散部50の箇所に、仮想的な外側縁として、仮想外縁Vを想定する。仮想外縁Vは、弾性接触片30のうち、応力分散部50の後方に隣接する箇所の外側縁1aを前方へ外挿した後方仮想線と、先端部10のうち、応力分散部50の前方に隣接する箇所の外側縁1aを後方へ外挿した前方仮想線との、集合体として得られる。図示した形態では、後方仮想線と前方仮想線がほぼ一致しており、仮想外縁Vが1本の直線状になっている。ここで、外挿とは、応力分散部50を外れた箇所の外側縁1aの形状を、直線または滑らかな曲線で近似し、その直線または曲線を応力分散部50が形成された位置まで延長するものである。例として、後方仮想線として、弾性接触片30の第一傾斜部31のうち、応力分散部50よりも後方の領域(例えば第一傾斜部31の前方半分のうち、応力分散部50にかからない領域)の外側縁1aを直線近似したものを設定し、前方仮想線として、先端部10の姿勢ガイド部11と、弾性接触片30とを滑らかにつなぐ箇所の傾斜を直線近似したものを、設定すればよい。仮想外縁Vは、応力分散部50を設けないとした場合のプレスフィット端子1、つまり
図7に示すような応力分散部を有さない従来一般のプレスフィット端子9の外側縁9aに、近似的に対応づけることができる。
【0034】
本実施形態にかかるプレスフィット端子1においては、
図2に示すように、凸部52が上記仮想外縁Vよりも幅方向外側に突出していないことが好ましい。つまり、凸部52の頂部が、仮想外縁Vの上、あるいは仮想外縁Vよりも幅方向内側に位置しているとよい。このことは、プレスフィット端子1全体の形状として、応力分散部50を設けない場合の外側縁9aよりも、凸部52が外側に突出していないことを意味する。
【0035】
また、凸部52が仮想外縁Vよりも幅方向外側に突出していないということは、凸部52の突出幅L1、つまり1対の弾性接触片30の間で、凸部52の頂部どうしを結ぶ幅方向の寸法が、プレスフィット端子1の張り出し幅L以下であることを意味する。さらに、その突出幅L1が、自然状態において、スルーホールHの内径L0よりも小さくなっていることが好ましい(
図3参照)。
【0036】
本実施形態にかかるプレスフィット端子1をスルーホールHに挿入する際には、まず、
図3に示すように、先端部10によって、プレスフィット端子1が、スルーホールHの中心軸に沿ってまっすぐな姿勢で、スルーホールHの中央部に案内される。そして、弾性接触片30の第一傾斜部31がスルーホールHの開口縁部H1に当接する。
【0037】
ここで、
図8に示すプレスフィット端子9’のように、突出形状のみで構成された応力分散部95を有するとすれば、スルーホールHの内径L0が小さい場合には、その応力分散部95の突出形状の頂部が、スルーホールHの開口縁部H1に接触する可能性がある。あるいは、接触にまでは至らなくても、応力分散部95の突出形状とスルーホールHの間に干渉が生じる可能性がある。これら接触や干渉が生じると、さらなるプレスフィット端子9’の挿入を円滑に行えなくなる可能性や、挿入に大きな力を要するようになる可能性がある。しかし、本実施形態にかかるプレスフィット端子1においては、応力分散部50が、凸部52だけでなく、凹部51(前方凹部51aおよび後方凹部51bを指し、後方凹部51bが設けられない場合には前方凹部51aのみを指す;以下同様)を備えており、それら凹部51によって外側縁1aが幅方向内側に入り込んだうえで、凸部52の突出形状が形成されている。換言すると、凹部51の底部を基底として、凸52が突出したような状態となっている。このように、凸部52とともに凹部51が形成されていることで、凸部52の頂部が、プレスフィット端子1全体としての幅方向に、大きく突出したものとはならない。そのため、スルーホールHの内径L0が小さい場合であっても、凸部52の頂部が、スルーホールHの開口縁部H1に対して干渉や接触を起こしにくい。結果として、それら干渉や接触の影響を低減して、プレスフィット端子1の挿入を、円滑に、また小さい力で進めることができる。
【0038】
特に、凸部52の突出幅L1が、スルーホールHの内径L0よりも小さい場合には、プレスフィット端子1をスルーホールHの中心にまっすぐ挿入すれば、スルーホールHの開口縁部H1に対して凸部52の接触が起こらないことになる。この場合には、プレスフィット端子1の挿入に伴って、最初にスルーホールHの開口縁部H1に接する部位は、
図3に示したとおり、弾性接触片30の第一傾斜部31のうち、応力分散部50よりも後方の箇所となる。ここで、自然状態において、本実施形態にかかるプレスフィット端子1における応力分散部50の凸部52と同じ突出高さ(凹部51によって最も内側に入り込んだ位置を基準として、凸部52の頂部が幅方向外側に突出している高さ)を有する突出構造を、上記仮想外縁Vの幅方向外側に設けたもの、つまり凸部52を幅方向外側に向かって仮想外縁Vの位置までずらしたものを、仮想凸部V1として想定する。仮想凸部V1は、
図8に示すような、突出構造のみで構成される応力分散部95に近似的に対応づけることができる。1対の弾性接触片30の間で、この仮想凸部V1の頂部どうしを結ぶ幅方向の寸法を仮想突出幅として、その仮想突出幅がスルーホールHの内径L0よりも大きく、かつ、凹部51を凸部52とともに備える実際の応力分散部50において、凸部52の突出幅L1がスルーホールHの内径L0よりも小さくなっている形態を、好ましいものとして挙げることができる。この場合には、凹部を設けないとすれば、仮想凸部V1によって模擬される凸部の頂部がスルーホールHの開口縁部H1と接触を起こしてしまうが、凹部51を設けることで、凸部52の突出高さが同じであっても、凸部52の頂部とスルーホールHの開口縁部H1との接触を回避できることになる。
【0039】
図3のように、弾性接触片30の第一傾斜部31がスルーホールHの開口縁部H1に当接した状態から、さらにプレスフィット端子1の挿入を進めると、弾性接触片30の外側縁1aがスルーホールHの開口縁部H1に押圧されることにより、弾性接触片30が幅方向内側に向かって徐々に撓みながらスルーホールHの内部に進入する。そして、
図4に示すとおり、弾性接触片30の接触部32が、スルーホールHの内壁面H2に押し付けられた状態となる。弾性接触片30は、変形を起こし、幅方向内側に押し縮められた状態となっている。
【0040】
このように、弾性接触片30が変形し、幅方向内側に押し縮められた状態では、弾性接触片30に応力が生じる。この際、プレスフィット端子1の挿入に従って最初に変形が開始する領域、つまり先端部10と弾性接触片30との境界部において、弾性接触片30が前後方向に引き伸ばされる力を受け、その境界部の外側縁1aの近傍の位置において、応力の集中が起こりやすい。応力の集中は、プレスフィット端子1を構成する金属材への過剰な負荷の印加につながり、大きなひずみを生じる可能性がある。
【0041】
図7に示す応力分散部が設けられていない従来一般のプレスフィット端子9においては、先端部91と弾性接触片93との境界部を含む領域において、応力の集中が起きやすい。しかし、凹部51と凸部52を含んだ応力分散部50を有する本実施形態にかかるプレスフィット端子1においては、応力が広い範囲に分散され、応力集中が緩和される。応力集中の緩和の機構としては、以下のようなものが考えられる。プレスフィット端子1においては、各弾性接触片30等、金属材料が連続している領域において、幅寸法が小さくなっている箇所ほど、大きな応力が発生しやすいが、先端部10と弾性接触片30の間の境界部の近傍に凹部51を設けて、あえて幅寸法が小さくなった箇所を設けることで、その箇所に応力が分布しやすくなり、プレスフィット端子1の前後方向に沿って広い範囲にわたって、応力が分布することになる。これにより、前後方向に沿って、各位置の応力が小さくなる。さらに、上記のとおり最も応力が集中しやすい箇所である、先端部10と弾性接触片30の間の境界部、あるいはそのすぐ近くに凸部52が設けられていることで、その凸部52の位置において、プレスフィット端子1の幅寸法が大きくなり、幅方向に沿って広い領域に応力が分散されることになる。これにより、幅方向に沿って、各位置の応力が小さくなる。このように、凹部51と凸部52をともに含む応力分散部50を、先端部10と弾性接触片30との境界部を含む領域に設けることで、前後方向と幅方向の両方向に応力を広く分散させ、各位置における応力を小さくし、応力の集中を緩和することができる。その結果として、金属材への過剰な負荷の印加によってプレスフィット端子1に大きなひずみが生じるのを、抑制することができる。
【0042】
図9に、端子Aとして、
図7のような応力分散部を有さない従来一般のプレスフィット端子、および端子Bとして、
図1のような凹部と凸部を含む応力分散部を有するプレスフィット端子について、ひずみの分布を実際に解析した結果を示す。解析は、図の上段に示した形状を有する端子に対して、コンピュータ支援エンジニアリング(CAE)を用いた有限要素法による弾塑性解析によって行った。図中、中段のひずみ分布については、スルーホールに挿入したプレスフィット端子について、ひずみの分布をコンター図として表示しており、濃色で表示している箇所ほど、大きなひずみが生じていることを示す。主図は正面図であり、枠内に示しているのは外側縁の箇所の拡大図である。下段には、発生ひずみとして、上記ひずみ分布におけるひずみの最大値を、端子Aの場合を100%として表示している。
【0043】
得られたひずみ分布において、応力分散部を有さない端子Aの場合には、矢印で示すように、先端部と弾性接触片との境界部の箇所が、周囲の箇所に比べて顕著に濃色で表示されており、ひずみの集中が大きく生じている。一方で、応力分散部を有する端子Bの場合には、先端部と弾性接触片との境界部およびその近傍の領域の中に、顕著にひずみが集中した箇所は生じておらず、端子Aの場合と比べて、明らかに広い範囲にひずみが分布している。表示色の濃淡によって表されるひずみの最大値も小さくなっている。つまり、端子Aと比べて、各箇所で、ひずみが小さくなっていることが分かる。発生ひずみの定量評価の結果を見ても、端子Bにおいて、発生ひずみが、端子Aの85%に低減されている。ひずみの分布は、応力の分布と高い相関を示すものであり、端子Bの場合の方が、端子Aの場合よりも、各箇所に発生する応力が小さくなっており、応力集中が緩和されていることが分かる。このように、凹部と凸部を有する応力分散部をプレスフィット端子の先端部と弾性接触片との境界部を含む領域に形成することで、応力集中を緩和できることが、シミュレーションによっても確認される。
【0044】
以上に説明したとおり、プレスフィット端子1の先端部10と弾性接触片30との境界部を含む領域に、凹部51と凸部52を有する応力分散部50を形成することにより、開口縁部H1をはじめとするスルーホールHの各部と凸部52が干渉・接触を起こすのを抑制するとともに、スルーホールHへの挿入時の変形によって生じる応力の集中を緩和させることができる。近年、スルーホールHが小径化される傾向があるが、プレスフィット端子1とスルーホールHの間で十分な保持力を確保する必要性から、スルーホールHの小径化に対して、比例的にプレスフィット端子1の幅を小さくすることは難しく、スルーホールHの内径に対する相対的なプレスフィット端子1の幅が大きくなってしまう。しかし、上記応力分散部50を備えた本実施形態にかかるプレスフィット端子1を用いれば、そのように相対的なプレスフィット端子1の幅を小さくできない状況でも、小径のスルーホールHに対するプレスフィット端子1の干渉や接触を起こりにくい状態に保ちながら、応力の集中を抑制することが可能となる。
【0045】
上記のとおり、凸部52とともに応力分散部50を構成する凹部51としては、前方凹部51aのみを設け、後方凹部51bを設けない形態としてもよいが、
図1,2に示したとおり、前方凹部51aと後方凹部51bをともに設ける形態が好ましい。凹部51を前後2か所に設けることで、応力を前後方向に沿って広い範囲に分散させやすくなるからである。また、プレスフィット端子1全体として、凸部52を大きく幅方向外側に突出しないように保ちながら、凸部52の突出高さおよび突出面積を大きく確保しやすくなり、応力集中の緩和に高い効果が得られるからである。
【0046】
凹部51と凸部52を有する応力分散部50について、応力分散部50の具体的な形状および位置は、1つまたは2つの凹部51と、凸部52を含み、先端部10と弾性接触片30との境界部を含む領域に設けられるかぎりにおいて、特に限定されるものではない。しかし、凸部52の前後方向位置を、最も応力集中が起こりやすい箇所に設定し、その前後両側にそれぞれ凹部51を設ける形態が好ましい。例えば、目安として、開口部40の前端部に対応する前後方向位置、あるいはそれよりもわずかに前方の位置に、凸部52を配置するとよい。
【0047】
(2)凹部のみを有する形態
上記のとおり、本開示のプレスフィット端子においては、外側縁に形成される応力分散部は、少なくとも前方凹部を有するものであればよい。そこで、応力分散部が前方凹部のみを有する形態について、簡単に説明する。以下、上記にて詳細に説明したプレスフィット端子1、およびそこに含まれる応力分散部50と異なる構成についてのみ説明し、共通する構成については、対応する要素を図中に対応する番号で表示し、説明を省略する。
【0048】
図5に、本開示の一実施形態にかかるプレスフィット端子2について、応力分散部50’の箇所を拡大した平面図を示す。応力分散部50’は、前方凹部51aより構成されている。前方凹部51aは、プレスフィット端子2において、外側縁2aが幅方向内側に入り込んだ凹構造として構成されている。詳細には、前方凹部51aにおいては、底部を挟んで前方側で、プレスフィット端子2の外側縁2aが前方側から後方側に向かって内側に入り込み、底部を挟んで後方側で、外側縁2aが後方側から前方側に向かって内側に入り込んでいる。前方凹部51aは、プレスフィット端子2の先端部10と弾性接触片30の間の境界部よりも前方の位置に形成されている。つまり、少なくとも前方凹部51aの底部、好ましくは前方凹部51aの全域が、その境界部よりも前方に形成されている。上記のとおり、先端部10と弾性接触片30の間の境界部は、おおむね、弾性接触片30の張り出し形状に沿って、開口部40の前端部に対応する位置を有するので、前方凹部51aは、開口部40の少し前方の位置に形成されていればよいことになる。好ましくは、前方凹部51aは、先端部10と弾性接触片30の間の境界部に対して、弾性接触片30の張り出し幅Lの5%~40%だけ前方に底部が位置するものであるとよい。
【0049】
上で凹部51と凸部52を有する応力分散部50について説明したように、プレスフィット端子2にあえて幅寸法が小さくなった箇所を設けることで、プレスフィット端子2をスルーホールHに挿入した際に、弾性接触片30の変形によって生じる応力を、プレスフィット端子2の前後方向に沿って分散させ、前後方向に沿った各位置において生じる応力を小さく抑えることができる。応力分散部50’がプレスフィット端子2に設けられないとすれば、弾性接触片30の変形による応力は、先端部10と弾性接触片30の間の境界部に集中しやすいが、その応力が集中しやすい境界部から外れた位置において、前方凹部51aを設けて幅寸法を小さくし、応力を分散させることで、その境界部への応力の集中を緩和することができる。応力分散部50’が凸部を有さないことで、幅方向に応力を分散させる効果を利用できないので、凹部51に加えて凸部52を有する上記の応力分散部50よりは、応力分散の効果は小さくなるが、応力分散部50’を設けない場合と比較すると、応力が分布する範囲を広げ、各位置における応力を低減する効果が得られる。その結果として、金属材への過剰な負荷の印加によってプレスフィット端子2に大きなひずみが生じるのを、抑制することができる。
【0050】
また、応力分散部50’が、外側縁2aが内側に入り込んだ構造である前方凹部51aより構成されており、応力分散部50’の全域が、仮想外縁Vに対して幅方向内側に位置することになる。よって、プレスフィット端子2をスルーホールHに挿入する際のスルーホールHの各部との干渉・接触が、応力分散部50’の形成によって起こりやすくなるものではない。
【0051】
図9に、端子Cとして、
図5のような前方凹部を含む応力分散部を有するプレスフィット端子について、スルーホールに挿入した際のひずみの分布を解析した結果を示す。解析方法および表示方法は、上に端子A,Bについて説明したのと同様である。端子Cについて、ひずみ分布を見ると、応力分散部が2つの凹部と凸部を含む端子Bの場合と同様に、先端部と弾性接触片の間の境界部およびその近傍の領域の中に、顕著にひずみが集中した箇所は生じておらず、応力分散部を有さない端子Aの場合と比べて、明らかに広い範囲にひずみが分布している。表示色の濃淡によって表されるひずみの最大値も小さくなっている。つまり、端子Aと比べて、各箇所で、ひずみが小さくなっていることが分かる。発生ひずみの定量評価の結果を見ても、端子Cの発生ひずみは、端子Bの値よりは大きいものの、端子Aの値の93%に低減されている。このように、前方凹部のみを含む応力分散部を有する端子Cにおいては、応力分散部が、2つの凹部に加えて凸部を備えた応力分散部を有する端子Bほどではないものの、応力分散部を設けない端子Aよりも、スルーホール挿入時の変形によるひずみの集中が緩和されている。ひずみの分布と相関して、応力集中も緩和される。つまり、凹部のみを応力分散部としてプレスフィット端子に設ける場合でも、その応力分散部により、応力集中を緩和する効果が得られることが確認される。
【0052】
なお、応力分散部50’が、前方凹部51aに加えて後方凹部51bを有し、凸部52を有さない形態であっても、スルーホールHとの干渉・接触を抑制しながら、応力を分散させる効果が得られる。しかし、その形態においては、必然的に、2つの凹部の間に、それら凹部よりも幅方向外側に突出した部位としの凸部が形成される。よって、そのような形態は、上に説明した2つの凹部51a,51bの間に凸部52を備えた応力分散部50を有するプレスフィット端子1に分類される。
【0053】
<その他の形態>
本開示のプレスフィット端子は、上記で詳細に説明したプレスフィット端子1,2の形態に限られるものではなく、先端部と弾性接触片との境界部を含む領域に、上記のとおり、前方凹部51aを有し、さらに任意に凸部52、あるいは凸部52と後方凹部51bを有する応力分散部50,51が設けられてさえいればよい。
【0054】
例えば、プレスフィット端子の全体形状は、
図1に示したものに限られない。全体形状が異なる変形形態にかかるプレスフィット端子の一例を、
図6に示す。
図6のプレスフィット端子1’においては、弾性接触片30’の形状が
図1のものと異なっている。ここでは、弾性接触片30’が前後方向に延びた平坦な接触部32を有しておらず、前後方向の中央にあたる頂部35において、最も幅方向外側に張り出した形状を有している。また、先端部10’が、
図1の形態の姿勢ガイド部11に対応する直線状の部分を有しておらず、単純な先細り形状に形成されている。この場合にも、先端部10’と弾性接触片30’との境界部を含む領域に、前方凹部51a、凸部52(および後方凹部51b)を有する応力分散部50が設けられる。あるいは、先端部10’と弾性接触片30’との境界部よりも前方側に、前方凹部51aのみを有する応力分散部50’が設けられる。ここに説明した以外の各要素の構成は、上記で説明した
図1,5の実施形態と同様であり、対応する要素を図中に対応する番号で表示している。
【0055】
また、
図1,5,6の形態では、応力分散部50(または50’;以下同)を、先端部10(または10’;以下同)と弾性接触片30(または30’;以下同)との境界部を含む領域にのみ設けているが、合わせて、基部20と弾性接触片30との境界部を含む領域にも、応力分散部を設けてもよい。
図9のひずみ分布によると、端子Aの基部と弾性接触片との境界部およびその近傍の位置でもひずみの集中が起こっているが、基部20と弾性接触片30との境界部を含む領域に応力分散部を設けることで、そのような弾性接触片30の後方側での応力集中を、弾性接触片30の前方側での応力集中と合わせて緩和することができる。弾性接触片30の後方側に設ける応力分散部としては、特許文献3に開示されているような突出構造のみよりなるものであってもよいが、上記で説明したプレスフィット端子1,2で弾性接触片30の前方側に設けている応力分散部50,50’と同様に、凹部を有し、さらに任意に凸部を有するもののとすることが好ましい。その場合に、後方側に設ける応力分散部は、前方側の応力分散部50,50’を前後方向に反転させた形状を有するものとすればよい。つまり、後方側の応力分散部を、基部20と弾性接触片30との境界部よりも後方側に、外側縁1a(または2a;以下同)が後方から前方に向かって内側に入り込んだ後方凹部を有するものとすればよい。あるいはその応力分散部を、基部20と弾性接触片30との境界部を含む領域に設け、外側縁1aが前方から後方に向かって内側に入り込んだ上記後方凹部の前方側に隣接して、外側縁1aが外側に突出した凸部を有するものとすればよい。さらに、凸部の前方側に隣接して、外側縁1aが前方から後方に向かって内側に入り込んだ前方凹部を設けることが好ましい。
【0056】
さらに、上記では、プレスフィット端子として、ニードルアイ型のものを用いたが、それに限られず、例えば、S型、N型、H型、M型、船型等の種々のプレスフィット形状を適用することもできる。
【0057】
以上、本開示の実施の形態について詳細に説明したが、本発明は上記実施の形態に何ら限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の改変が可能である。
【符号の説明】
【0058】
1,1’,2,9,9’ プレスフィット端子
1a,2a,9a,9’a 外側縁
10,10’ 先端部
20,92 基部
30,30’,93 弾性接触片
31 第一傾斜部
32 接触部
33 第二傾斜部
35 弾性接触片の頂部
40,94 開口部
50,50’,95 応力分散部
51 凹部
51a 前方凹部
51b 後方凹部
52 凸部
B 回路基板
H スルーホール
H1 開口縁部
H2 内壁面
L 弾性接触片の張り出し幅
L0 スルーホールの内径
L1 凸部の突出幅
V 仮想外縁
V1 仮想凸部