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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024095485
(43)【公開日】2024-07-10
(54)【発明の名称】核酸検出用PCR溶液
(51)【国際特許分類】
   C12Q 1/6876 20180101AFI20240703BHJP
   C12N 15/11 20060101ALN20240703BHJP
【FI】
C12Q1/6876 Z
C12N15/11 Z ZNA
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023051595
(22)【出願日】2023-03-28
(31)【優先権主張番号】P 2022211163
(32)【優先日】2022-12-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000001395
【氏名又は名称】杏林製薬株式会社
(72)【発明者】
【氏名】岡 正樹
(72)【発明者】
【氏名】遠藤 裕子
(72)【発明者】
【氏名】竹内 亮太
(72)【発明者】
【氏名】胡 博之
【テーマコード(参考)】
4B063
【Fターム(参考)】
4B063QR08
4B063QR55
4B063QR62
4B063QS24
(57)【要約】
【課題】
生体試料から核酸成分を分離、精製することなく直接核酸増幅することが可能な核酸増幅用組成物を提供する。
【解決手段】
以下の成分(A)~(D)を含有し、生体試料から核酸成分の単離精製をしないで核酸を増幅することを特徴とする核酸増幅用組成物。
(A)DNAポリメラーゼ
(B)フォワードプライマー及びリバースプライマー
(C)蛍光色素で標識されたプローブ
(D)尿素
【選択図】 図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の成分(A)~(D)を含有し、生体試料から核酸成分の単離精製をしないで核酸を増幅することを特徴とする核酸増幅用組成物。
(A)DNAポリメラーゼ
(B)フォワードプライマー及びリバースプライマー
(C)蛍光色素で標識されたプローブ
(D)尿素
【請求項2】
レシプロカルフロー型の核酸増幅装置を用いることを特徴とする、請求項1記載の核酸増幅用組成物。
【請求項3】
さらに(E)非イオン界面活性剤を含有する、請求項2記載の核酸増幅用組成物。
【請求項4】
さらに(F)無機塩を含有する、請求項1記載の核酸増幅用組成物。
【請求項5】
請求項4記載の核酸増幅用組成物を製造するための、(D)尿素及び(F)無機塩を含有する水溶液の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ウイルス、バクテリア等の感染、ならびに各種遺伝子疾患の検出を行うリアルタイムPCRの分野において、生体試料からの核酸成分の精製工程を経ることなく、直接遺伝子検出を可能とする組成物に関する。なお、本明細書に記載される文献は、下記先行技術文献(特許文献及び非特許文献)として挙げた文献を含め、全ての文献につき、記載される全ての内容が、参照により本明細書に組み込まれる。
【背景技術】
【0002】
核酸の検出は、医薬品の研究開発、法医学、臨床検査、農作物や病原性微生物の種類の同定など、様々な分野において中核をなしている。当該核酸の検出のために、PCR(polymerase chain reaction)が広く用いられている。PCRはDNAのある特定領域を選択的に増幅する技術である。具体的には、サーマルサイクルと呼ばれる三相もしくは二相の温度条件を繰り返すことにより、単一鎖へのDNAの変性、変性されたDNA一本鎖とプライマーのアニーリング、及び熱安定性DNAポリメラーゼ酵素によるプライマーの伸長という個々の反応を順次繰り返すことによりDNAを増幅する。
【0003】
また、PCRにより増幅されたDNAの検出を容易とするリアルタイムPCRが開発されている。
【0004】
PCRは目的のDNAを選択的に増幅できるが、増幅したDNAを確認するためには、PCRの終了後に別途ゲル電気泳動などによる確認作業が必要であった。リアルタイムPCRでは目的のDNAの増幅量に合わせ蛍光を発生もしくは消光させることにより、試料中の目的のDNAの有無を簡便に確認できるようになった。
【0005】
また、従来のPCRでは、PCR前の試料中のテンプレートDNA量が一定量を超えると、PCR後の増幅DNA量はプラトーに達していることが多く、PCR前のテンプレートDNA量を定量することはできない。しかし、リアルタイムPCRにおいては、プラトーに達する前に、PCR途中の増幅DNA量をリアルタイムに検出できるため、DNA増幅の様子からPCR前のテンプレートDNA量を定量することが可能である。そのためリアルタイムPCRは、定量的PCRとも呼ばれる。
【0006】
PCRに使用される汎用のサーマルサイクラー装置は、ヒーターであるアルミブロック部の巨大な熱容量のため温度制御が遅く、30~40サイクルのPCR操作に従来1~2時間、場合によってはそれ以上を要する。そのため、最新の遺伝子検査装置を用いても分析にはトータルで、通常1時間以上を要しており、PCR操作の高速化は、技術登場以来の大きな課題であった。
【0007】
PCRの高速化のための手法として、レシプロカルフロー型の核酸増幅装置が提案されている(特許文献1)。
【0008】
レシプロカルフロー型の核酸増幅装置を用いるPCRにおいては、マイクロプロア等の送液機構を使用し、中間流路を介して連通している変性温度帯に維持されている流路と伸長およびアニーリング温度帯に維持されている流路との間で試料液を行き来させ、短時間でのDNA増幅を可能としている。
【0009】
しかしながら、PCR法は、たんぱく、糖類や未知の夾雑物によって反応が阻害されることがある。すなわち、多くのDNAポリメラーゼは、生体由来の夾雑物がPCR反応液中に混在すると、活性が強く阻害されることが知られている。
【0010】
このため、PCR法によるDNA増幅にあたり、被験物から細菌、ウィルス等(以下、遺伝子包含体)を分離し、さらに遺伝子包含体から核酸を抽出する操作が必要となる。分離・抽出方法としては、酵素、界面活性剤等により遺伝子包含体を分解し、その後にフェノール等を用いて、遺伝子包含体の分解物から核酸を抽出する方法が使用されている。また、核酸抽出の過程において、イオン交換樹脂、ガラスフィルター、ガラスビーズあるいはタンパク凝集作用を有する試薬等が使用される。
【0011】
しかし、これら分離、精製の工程は、煩雑な操作を必要とするため、これを省くことができれば時間と手間を大きく軽減できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】国際公開第2016/006612号
【特許文献2】国際公開第2020/189581号
【特許文献3】国際公開第2022/153999号
【特許文献4】米国特許2005/042627
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明の目的は、生体試料から核酸成分を分離、精製することなく直接核酸増幅することが可能な核酸増幅用組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明は、以下のとおりである。
1)以下の成分(A)~(D)を含有し、生体試料から核酸成分の単離精製をしないで核酸を増幅することを特徴とする核酸増幅用組成物。
(A)DNAポリメラーゼ
(B)フォワードプライマー及びリバースプライマー
(C)蛍光色素で標識されたプローブ
(D)尿素
2)レシプロカルフロー型の核酸増幅装置を用いることを特徴とする、1)記載の核酸増幅用組成物。
3)さらに(E)非イオン界面活性剤を含有する、2)記載の核酸増幅用組成物。
4)以下の成分(A)、(B)及び(D)を含有し、生体試料から核酸成分の単離精製をしないで核酸を増幅することを特徴とする核酸増幅用組成物。
(A)DNAポリメラーゼ
(B)フォワードプライマー及びリバースプライマー
(D)尿素
5)さらに(F)無機塩を含有する、1)又は4)記載の核酸増幅用組成物。
6) 5)の核酸増幅用組成物を製造するための、(D)尿素及び(F)無機塩を含有する水溶液の使用。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、生体試料から核酸成分を分離、精製することなく直接核酸増幅することが可能な核酸増幅用組成物の提供を可能とした。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】レシプロカルフロー型の核酸増幅装置に係る流路であって、DNA変性に適する温度に維持される流路(high)、および伸長およびアニーリングに適する温度に維持される流路(low)を有する流路の例を示す図である。
図2】レシプロカルフロー型の核酸増幅装置に係る流路であって、逆転写反応に適する温度に維持される流路(R)、DNA変性に適する温度に維持される流路(high)、および伸長およびアニーリングに適する温度に維持される流路(low)を有する流路の例を示す図である。
図3】1M又は2Mの尿素水溶液で検体を処理した場合のリアルタイムPCR結果を表すグラフである。尿素水溶液で処理した場合、処理液を長時間放置したとしてもリアルタイムPCR測定が可能であることが示される。
図4】8Mの尿素水溶液で検体を処理した場合及び既成のPCR前処理キットで検体を処理した場合のリアルタイムPCR結果を表すグラフである。高濃度の尿素水溶液で処理した場合でもリアルタイムPCR測定が可能であることが示される。
図5】ヒートブロック型核酸増幅装置とレシプロカルフロー型の核酸増幅装置を使用した場合のリアルタイムPCR結果を表すグラフである。
図6】終濃度100 mMの尿素水溶液でPCRを行った場合及び終濃度100 mM尿素、1mM塩化マグネシウム水溶液でPCRを行った場合の結果を表すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本実施形態の核酸増幅用組成物は、成分(A)~(D)を含有する。
本実施形態の組成物に使用される成分(A)の「DNAポリメラーゼ」は、4種のデオキシリボオヌクレオシド三リン酸を基質として鋳型DNAの塩基配列のDNA鎖の重合を触媒する酵素である。熱に対して抵抗性を示す耐熱性DNAポリメラーゼが好ましく、公知のものを使用することができる。例えば、ファミリーA(PolI型)に属するTaq DNAポリメラーゼやTth DNAポリメラーゼ、ファミリーB(α型)に属するKOD DNAポリメラーゼ、Pfu DNAポリメラーゼ、Pwo DNAポリメラーゼ、Ultima DNAポリメラーゼ、PrimeSTAR(登録商標) DNAポリメラーゼのシリーズ(HS、GXL、Max)やこれらの変異体などが挙げられる。
成分(A)の「DNAポリメラーゼ」は、抗DNAポリメラーゼ抗体が結合したポリメラーゼが好ましい。
「抗DNAポリメラーゼ抗体が結合したポリメラーゼ」とは、特異的な抗体が結合することによりDNAポリメラーゼ活性が阻害されており、最初の高温変性ステップ(例えば、95℃)でこの結合した抗体が外れ、DNAポリメラーゼが活性化されるホットスタート特性を持つポリメラーゼを意味する。
本実施形態の組成物に使用される成分(B)の「フォワードプライマー及びリバースプライマー」は、一つの標的遺伝子領域に対応して1種のフォワードプライマー及び1種のリバースプライマーを用いる。但し、フォワードプライマーとリバースプライマーについて対が成立していればよく、溶液中、フォワードプライマーとリバースプライマーについて種類の数が同数である必要はない。例えば、本実施形態の溶液中、1種のフォワードプライマーと2種のリバースプライマーとが含有されるようにしてもよい。
【0018】
成分(B)の含有量は、本実施形態の組成物に対して終濃度0.5~4μMであることが好ましい。
本実施形態の組成物に使用される成分(C)の「蛍光色素で標識されたプローブ」は、蛍光色素と結合したオリゴヌクレオチドであり、相補的な配列とハイブリダイゼーションすることにより標的配列を検出することを目的とする。
本実施形態に係る「蛍光色素で標識されたプローブ」の蛍光色素の例としては、ABY、アクリジン、アレクサフルーア488、アレクサフルーア532、アレクサフルーア594、アレクサフルーア633、アレクサフルーア647、ATTO(ATTO-TEC蛍光色素)、バイオサーチブルー、Cy3、Cy3.5、Cy5、Cy5.5、クマリン、DANSYL、FAM(例えば、5-FAM、6-FAM)、FITC、GPF、5-HEX、6-HEX、JOE、JUN、マリーナブルー、NED、オレゴングリーン488、オレゴングリーン500、オレゴングリーン514、パシフィックブルー、PET、パルサー、クエザー570、クエザー670、クエザー705、ローダミングリーン、ローダミンレッド、5-ROX、6-ROX、5-TAMRA、6-TAMRA、5-TET、6-TET、テキサスレッド、TRITC、VICが挙げられる。
また、蛍光色素で標識したプローブは、さらにクエンチャー色素と結合したオリゴヌクレオチドであることが好ましい。クエンチャー色素とは、蛍光色素の発する蛍光を消失させることができる限り特に制限されず、例えば、TAMRA、BHQ(BHQ-1~3)、NFQなどが挙げられる。
本実施形態の組成物に使用される成分(D)の「尿素」は、タンパク質の水素結合を切る作用を有し、これらはタンパク質や核酸の変性剤として知られている。
成分(D)の「尿素」の含有量は、本実施形態の組成物に対して終濃度50~1500mMであることが好ましく、さらに好ましくは100mM~1200mM、特に好ましくは150mM~1000mMである。
本実施形態の組成物に使用される成分(E)の「非イオン界面活性剤」は、水溶液中でイオンに解離する基を持たない界面活性剤であり、例えば、プロピレンオキシドーエチレンオキシドブロック共重合体、アルキルグリコシド、ノニルフェニルエトキシレート、ポリエチレングリコールトリメチルノニルエーテル、ポリオキシエチレンp-t-オクチルフェニルエーテル(トリトンX100、トリトンX45、トリトンX114(ダウケミカル社製)など)、ポリエチレンアルキルエーテル(ブリッジ30)、ソルビタン脂肪酸エステル(スパン系界面活性剤、アラセル系界面活性剤)、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル(トゥイーン系界面活性剤、例:トゥイーン20)、ポリオキシエチレンアルキルルエーテル(ブリッジ系界面活性剤)、グリセリン脂肪酸エステルが挙げられる。
(E)非イオン界面活性剤の含有量は、本実施形態の組成物に対して終濃度0.001~0.5w/w%であることが好ましい。
【0019】
本実施形態の組成物は、さらに成分(F)無機塩を含むことが好ましい。無機塩を共存させることにより、より効率的にPCRを行うことが可能となる。本発明に用いられ得る成分(F)無機塩は、例えば、二価の陽イオンを生じる塩を挙げることができ、好ましくはマグネシウム塩である。成分(F)の「無機塩」の含有量は、本実施形態の組成物に対して終濃度0.1mM~5mMであることが好ましく、さらに好ましくは 1mM~3mMである。
【0020】
その他の成分としては、本発明の効果を損なわない限り、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、TE(10mM Tris-HCl(pH 8.0)、1mM EDTA)等のバッファー、デオキシヌクレオチド三リン酸(dNTP)、及びSYBR Green色素の蛍光色素などが挙げられる。
図1はレシプロカルフロー型の核酸増幅装置において鋳型をDNAとする場合の流路の概要を示す図である。また、図2はレシプロカルフロー型の核酸増幅装置において鋳型をRNAとする場合の流路の概要を示す図である。
レシプロカルフロー型の核酸増幅装置は、特許文献1、2、3に記載の装置を使用することができる。流路が形成された核酸増幅用チップに試料液を投入し、前述の流路の両端に送液用機構を接続する。送液用機構として、マイクロブロアまたは送風機を用いることで、サーマルサイクラーのDNA変性に必要な温度帯とDNAの伸長およびアニーリング反応に必要な温度帯の間の往復運動(送液、停止)が可能となる。
【0021】
図1中、highとして示した流路はPCRにおけるDNA変性反応に必要な温度帯(例えば90~100℃)に維持されている流路である。また、lowとして示した流路はPCRにおけるDNAの伸長およびアニーリング反応に必要な温度帯(例えば40~75℃)に維持されている流路である。highとして示した流路とlowとして示した流路とは中間流路aを介して連通している。レシプロカルフロー型の核酸増幅装置においては、流路内に投入された試料液をhighとして示した流路とlowとして示した流路とを行き来させることにより、PCRに係るサーマルサイクリングを行い、DNAを増幅する。なお、PCRに係るプロトコールについても特に限定されず、例えば公知のものを用いることができる。
【0022】
また、図1と同様に、図2中、highとして示した流路はPCRにおけるDNA変性反応に必要な温度帯に維持されている流路であり、lowとして示した流路はPCRにおけるDNAの伸長およびアニーリング反応に必要な温度帯に維持されている流路である。また、Rとして示した流路は逆転写酵素による逆転写反応が行われる流路であって、逆転写反応に必要な温度帯(例えば37~45℃)に維持されている流路である。highとして示した流路とlowとして示した流路とは中間流路 aを介して連通しており、lowとして示した流路とRとして示した流路とは流路 bを介して連通している。
【0023】
鋳型をRNAとする場合は、試料液はまずRとして示した流路に投入され、逆転写酵素による逆転写反応が行われ、RNAに相補的なDNA(cDNA)が生成される。その後、試料液はhighとして示した流路およびlowとして示した流路に送られ、highとして示した流路およびlowとして示した流路の間で試料液を行き来させることによりPCRに係るサーマルサイクリングを行い、DNAを増幅する。
【0024】
試料液を変性温度帯内に保持させる時間及び試料液を伸長・アニーリング温度帯内に保持させる時間のそれぞれは、標的遺伝子領域(遺伝子の種類、領域の長さ等)に応じて適宜設定することができる。例えば、試料液を変性温度帯内に保持させる時間としては、2~10秒程度、試料液を伸長・アニーリング温度帯内に保持させる時間としては、2~60秒程度とすることができる。
【0025】
実験例1
(試験方法)
100 μMフォワードプライマー(配列番号1)、100 μMリバースプライマー(配列番号2)、100 μMプローブ (配列番号3)、GeneSoC SARS-CoV-2 N2検出キット (杏林製薬社製) に付属のPCR buffer、Enzyme mix(DNAポリメラーゼ及び逆転写酵素を含む)、RNase-Free Waterを1反応当たり 0.48 μL : 0.64 μL : 0.08 μL : 11.6 μL: 1.4 μL:0.8 μLで混合し、RT-PCRマスターミックスとした。
健常人から採取された鼻咽頭スワブ (BIOMEDICA製) 1本を1 mLの生理食塩水で懸濁し、鼻咽頭スワブ懸濁液を調製した。本スワブ懸濁液で熱不活化SARS-CoV-2 (ATCC製) を希釈し、100 copies /μLの鼻咽頭スワブ懸濁液を検体とした。尿素水溶液の影響を検討するために、1 Mまたは 2 M尿素水溶液4 μLと検体1 μLを混合して室温で5、30、270分間静置後、RT- RT-PCRマスターミックス15 μLを混合し、GeneSoC mini(杏林製薬社製)及びその専用チップを用いて、リアルタイムPCRを実施した。また、8 M尿素水溶液1 μLと検体1 μLを混合して室温で5、30、270分間静置後、RT-PCRマスターミックス15 μL及びRNase-Free Water 3 μLを混合し、GeneSoC mini及びその専用チップ(杏林製薬社製)を用いて、リアルタイムPCRを行った。コントロールとして、既成の PCR 前処理キット 5 μLと検体1 μLを混合して室温で5、30、240分間静置後、RT-PCR 溶液15 μLを混合してGeneSoC mini(杏林製薬社製)及びその専用チップを用いて、リアルタイムPCRを実施した。いずれの実験条件もN=3で実施した。
PCR条件はいずれも活性化反応: 96℃, 10秒、熱変性反応 (DN): 96℃, 4秒、アニーリングおよび伸長反応 (AE): 58℃, 8秒とし、DNとAEを50サイクル行い、GeneSoC mini(杏林製薬社製)の画面上に表示される増幅曲線を目視することにより、増幅の有無を判断した。
フォワードプライマー: AAATTTTGGGGACCAGGAAC
リバースプライマー: TGGCAGCTGTGTAGGTCAAC
プローブ: FAM-ATGTCGCGCATTGGCATGGA-TAMRA
【0026】
(試験結果)
1 M、2 M、8 Mの尿素水溶液と混合したSARS-CoV-2スパイク鼻咽頭スワブ懸濁液(100 copies /μL)では、室温静置5から270分までの間でいずれも全例(3/3例)で明確な増幅曲線が認められた。一方で既成のPCR前処理キットと混合したSARS-CoV-2スパイク鼻咽頭スワブ懸濁液(100 copies/μL)は室温静置5及び30分では、全例で明確な増幅曲線が認められたが、270分では3例中2例で増幅が認められなかった。以上の結果から、レシプロカルフロー型の核酸増幅装置において、尿素水溶液はウイルス粒子を含む生体試料を用いたダイレクトRT-PCR検出に有用であることが明らかとなった。さらに、一般的なダイレクトPCR試薬よりも、処理後の標的核酸の安定性を高める効果が高いことが明らかとなった。
【0027】
実験例2
(試験方法)
100 μMフォワードプライマー(配列番号1)、100 μMリバースプライマー(配列番号2)、100 μMプローブ (配列番号3) 、2×Buffer for rTth/TTx (DNA)(東洋紡社製)、Hot Start TTx DNA polymerase (東洋紡社製)、および250 copies/μLに調製したポジティブコントロールDNA pUC57-N2を1反応当たり 0.48 μL : 0.64 μL : 0.08 μL : 10.0 μL:0.25 μL : 2.0 μLで混合した。ポジティブコントロールDNA pUC57-N2は、pUC57ベクターのEcoRVサイトにN2を含む配列(配列番号4)を挿入し、直鎖状にしたものである。
さらに2.4 μMのCy5-Azide (sigma社製)、0.24 μMのDMSO (富士フィルム和光純薬社製)、4 x ROX Reference Dye (東洋紡社製、50xを希釈して調製)、2vol%のTween 20 (富士フィルム和光純薬社製) を混合した溶液を1 μL加えた。次に尿素水溶液の影響を検討するために、2 M、4 M、8 M尿素水溶液を2 μL、或いは8 M尿素水溶液を4μL加えた。PCR反応液の容量が20 μLになるよう上記の混合液にRNase-Free Waterを加え、尿素濃度200 mM、400 mM、800 mM、1600 mMのPCR反応液とした。これらのPCR反応液をGeneSoC mini(杏林製薬社製)、及びLightCycler96(ロシュ社製)を使用してリアルタイムPCRを実施した。
GeneSoC mini(杏林製薬社製)のPCR条件はいずれも活性化反応: 96℃, 10秒、熱変性反応 (DN): 96℃, 4秒、アニーリングおよび伸長反応 (AE): 58℃, 8秒とし、DNとAEを50サイクル行い、表示された増幅曲線から増幅の有無を判断した。
LightCycler96(ロッシュ社製)のPCR条件はいずれも活性化反応: 95℃, 5分、熱変性反応 (DN): 95℃, 15秒、アニーリングおよび伸長反応 (AE): 60℃, 60秒とし、DNとAEを45サイクル行い、表示された増幅曲線から増幅の有無を判断した。
フォワードプライマー: AAATTTTGGGGACCAGGAAC
リバースプライマー: TGGCAGCTGTGTAGGTCAAC
プローブ: FAM-ATGTCGCGCATTGGCATGGA-TAMRA
【0028】
(試験結果)
GeneSoC mini (杏林製薬社製)におけるPCR反応液の増幅曲線は、尿素濃度0、200、400、800 mMでは明確であったが、尿素濃度1600 mMでは立ち上がりが弱く、PCR反応の阻害が認められた。一方で、LightCycler96(ロッシュ社製)におけるPCR反応液の増幅曲線は、尿素濃度0 mMでのみ明確に認められたが、尿素濃度200、400、800、1600 mMでは立ち上がりが認められず、明らかなPCR反応の阻害が認められた。以上の結果から、レシプロカルフロー型の核酸増幅装置では、同一反応組成のPCR反応液であっても、尿素によるPCR反応の阻害の影響を受けにくいことが明らかとなった。
【0029】
実験例3
(試験方法)
100 μMフォワードプライマー(配列番号1)、100 μMリバースプライマー(配列番号2)、100 μMプローブ (配列番号3)、GeneSoC SARS-CoV-2 N2検出キット (杏林製薬社製) に付属のPCR buffer、Enzyme mix(DNAポリメラーゼ及び逆転写酵素を含む)、RNase-Free Waterを1反応当たり 0.48 μL : 0.64 μL : 0.08 μL : 11.6 μL: 1.4 μL:0.8 μLで混合し、計15 μL のRT-PCRマスターミックスとした。この15 μLのRT-PCRマスターミックスに50コピー/μLのSARS-CoV-2 RNA断片 (Exact Diagnostics)を1 μLを混合した。ここに3 μLの鼻咽頭スワブ懸濁液を混合した。鼻咽頭スワブ懸濁液は、健常人のスワブを100 μLのRNase Free dH2O (タカラバイオ) に懸濁して調製した。これら計19 μLの溶液に対し、1 μLの尿素 (Sigma Aldrich)または尿素と塩化マグネシウム (東洋紡) の混合液を添加し、GeneSoC mini (杏林製薬) にてリアルタイムPCRを実施した。尿素のみ配合したPCR反応液の尿素の終濃度は100 mM、尿素と塩化マグネシウムを配合したPCR反応液はそれぞれ終濃度100 mMと1 mMに調製した。
PCR条件は、酵素活性化反応を96℃で10秒、熱変性反応 (DN) を96℃で4秒、アニーリングおよび伸長反応 (AE) を58℃で8秒とし、DNとAEを50サイクル行い、塩化マグネシウムがPCRに与える影響をCt値および最終蛍光強度で判断した。
【0030】
(試験結果)
リアルタイムPCRの結果を図6に示した。塩化マグネシウムを含んでいない場合のCt値は37.5で最終蛍光強度は192だった。一方、塩化マグネシウムを含んでいる場合のCt値は36.7で最終蛍光強度は225だった。以上のことから、PCR溶液に塩化マグネシウムが追加されることにより、効率よく核酸増幅を行うことが可能となった。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
【配列表】
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