(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024095508
(43)【公開日】2024-07-10
(54)【発明の名称】陶器素地
(51)【国際特許分類】
C04B 33/13 20060101AFI20240703BHJP
C04B 33/34 20060101ALI20240703BHJP
C04B 41/86 20060101ALI20240703BHJP
【FI】
C04B33/13
C04B33/34
C04B41/86 R
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023136157
(22)【出願日】2023-08-24
(62)【分割の表示】P 2022212562の分割
【原出願日】2022-12-28
(71)【出願人】
【識別番号】000010087
【氏名又は名称】TOTO株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100094640
【弁理士】
【氏名又は名称】紺野 昭男
(74)【代理人】
【識別番号】100103447
【弁理士】
【氏名又は名称】井波 実
(74)【代理人】
【識別番号】100111730
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 武泰
(74)【代理人】
【識別番号】100187377
【弁理士】
【氏名又は名称】芳野 理之
(74)【代理人】
【識別番号】100180873
【弁理士】
【氏名又は名称】田村 慶政
(72)【発明者】
【氏名】笠原 慎吾
(72)【発明者】
【氏名】新崎 朝規
(72)【発明者】
【氏名】岩澤 亜希
(57)【要約】
【課題】 その表面の色が釉薬の色に影響を与え難い陶器素地及びそれを備えた陶器の提供。
【解決手段】 Fe2O3及びTiO2の量、及びかさ体積率が制御された陶器素地は、釉薬の色に影響を与え難いものとなる。その結果、陶器素地原料組成にばらつきがあっても、釉薬組成を変えることなく、釉薬層色の基準色からのズレを許容範囲にとどめることができ、また、種々の色の釉薬を、その釉薬組成を変えることなく、釉薬層色の基準色からのズレを許容される範囲にとどめることができる。
【選択図】 なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
陶器素地と、釉薬層とを少なくとも備えてなる陶器であって、
前記陶器素地が、
SiO2を60~75重量%、
Al2O3を20~30重量%、
Fe2O3を0.4~1.5重量%、
CaOを0.1~2.0重量%、
MgOを0.1~1.5重量%、
K2Oを0.8~5.0重量%、そして
Na2Oを0.4~4.0重量%
含んでなり、
さらにTiO2を、Fe2O3+TiO2が0.6~2.0重量%となる範囲で含み、
前記陶器素地のかさ体積率が85.0%以上であり、
前記陶器素地の表面の色をL*a*b*表色系で表したとき、a*が0.4~1.5の範囲にあり、b*が5~12の範囲にある
ことを特徴とする陶器。
【請求項2】
前記陶器素地の吸水率が、0.5%以下である、請求項1に記載の陶器。
【請求項3】
前記陶器素地のL値が、71.0~87.0である、請求項1又は2に記載の陶器。
【請求項4】
前記陶器素地が、
Fe2O3を0.5~1.4重量%、
TiO2を、Fe2O3+TiO2が0.7~1.9重量%となる範囲で含む、請求項1又は2に記載の陶器。
【請求項5】
前記陶器素地のかさ体積率が88.0%以上である、請求項1又は2に記載の陶器。
【請求項6】
前記陶器素地の表面のa*が0.5~1.4の範囲にあり、b*が6~11の範囲にある、請求項1又は2に記載の陶器。
【請求項7】
前記釉薬層のL値が、前記陶器素地のL値よりも大である、請求項1又は2に記載の陶器。
【請求項8】
SiO2を60~75重量%、
Al2O3を20~30重量%、
Fe2O3を0.4~1.5重量%、
CaO を0.1~2.0重量%、
MgO を0.1~1.5重量%、
K2O を0.8~5.0重量%、そして
Na2O を0.4~4.0重量%
含んでなり、
さらにTiO2を、Fe2O3+TiO2が0.6~2.0重量%となる範囲で含み、
前記陶器素地のかさ体積率が85.0%以上であり、
前記陶器素地の表面の色をL*a*b*表色系で表したとき、a*が0.4~1.5の範囲にあり、b*が5~12の範囲にある
ことを特徴とする、陶器素地。
【請求項9】
その吸水率が、0.5%以下である、請求項8に記載の陶器素地。
【請求項10】
その表面のL値が、71.0~87.0である、請求項8又は9に記載の陶器素地。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は陶器に関し、詳しくは種々の釉薬を、その組成を陶器素地の色に合わせる等の考慮をせずに使用できる陶器素地を備えた陶器に関する。
【背景技術】
【0002】
衛生陶器、タイルなどの陶器は、設置される空間とのデザイン性から様々な色の釉薬層を備える。また、陶器の見た目の色は、釉薬の色だけではなく、陶器素地の色の影響も受けることから、陶器素地の色についても配慮、工夫が必要となる。
【0003】
特開2019-52062号公報(特許文献1)は、釉薬層の厚みのばらつきによる衛生陶器の色のばらつきを抑制する手段として、釉薬層が形成された部分と、釉薬層が形成されていない部分とのL値の差ΔL又は色差ΔEを特定の範囲とすることを提案する。
【0004】
また、特許第7144776号公報(特許文献2)は、陶器素地の第1の部分と第2の部分における、L*a*b*表色系で表したΔE又はΔL値を指標に、陶器素地の色合いを制御することを開示する。
【0005】
また、特開2020-59618号公報(特許文献3)は、焼結による収縮や曲げや反りなどの収縮に伴う変形を抑制し、白色及び開気孔率を適切な範囲とすることができる陶磁器用素地を開示する。
【0006】
上記特許文献1及び2は、陶器素地と釉薬層との間、または釉薬層の別々の箇所の色味を合わせることに着目しており、陶器素地の組成、物性、さらにそれ自体の色の制御を提案するものではない。また特許文献3は、陶磁器用素地の焼結による収縮や曲げや反りなどの収縮に伴う変形の抑制を目的としており、陶器素地の釉薬層の色への影響については白色(明度L*で表現)の方が望ましいと開示するにとどまる(同段落0046)。
【0007】
陶器素地は、天然鉱物からその原料を調製することが一般的であり、原料ごとに陶器素地の色調が変化するおそれがある。この陶器素地の色の変化によっても、釉薬層の色が基準色から大きくずれずに陶器が製造できることが望まれる。
【0008】
また、一つのデザインの陶器素地に対し異なる色の製品を供給することも行われており、釉薬層の色によって基準色からのずれが大きくなったり小さくなったりすることなく、同形の陶器が製造できることが望まれる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2019-52062号公報
【特許文献2】特許第7144776号公報
【特許文献3】特開2020-59618号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明者らは、今般、陶器素地の組成において、とりわけFe2O3及びTiO2の量を制御し、さらに陶器素地のかさ体積率を制御することで、陶器素地を釉薬の色に影響を与え難いものとすることができるとの知見を得た。すなわち、Fe2O3及びTiO2の量、陶器素地のかさ体積率が一定範囲に置かれる限り、陶器素地原料組成にばらつきがあっても、釉薬組成を変えることなく、釉薬層色の基準色からのズレを許容範囲にとどめることができるとの知見を得た。また、このように制御のされた陶器素地の釉薬層色に影響を与え難いとの性質は、異なる色の釉薬間においても維持され、種々の色の釉薬を、その釉薬組成を変えることなく、釉薬層色の基準色からのズレを許容される範囲にとどめることができることも見出した。さらに、この陶器素地は、釉薬層の厚さが場所により変化しても、場所ごとに色調のばらつきを抑制できるとの知見も得た。
【0011】
したがって、本発明は釉薬層の色に影響を与え難い陶器素地を備えた衛生陶器の提供をその目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0012】
そして、本発明による陶器は、陶器素地と、釉薬層とを少なくとも備えてなる陶器であって、
前記陶器素地が、
SiO2を60~75重量%、
Al2O3を20~30重量%、
Fe2O3を0.4~1.5重量%、
CaOを0.1~2.0重量%、
MgOを0.1~1.5重量%、
K2Oを0.8~5.0重量%、そして
Na2Oを0.4~4.0重量%
含んでなり、
さらにTiO2を、Fe2O3+TiO2が0.6~2.0重量%となる範囲で含み、
前記陶器素地のかさ体積率が85.0%以上であり、
前記陶器素地の表面の色をL*a*b*表色系で表したとき、a*が0.4~1.5の範囲にあり、b*が5~12の範囲にある
ことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0013】
本発明は、その組成を陶器素地の色に合わせる等の考慮をせずに使用できる陶器素地を備えた陶器である。本発明によれば、陶器素地原料組成にばらつきがあっても、釉薬組成を変えることなく、釉薬層色の基準色からのズレを許容範囲にとどめることができる。さらに、本発明によれば、一つの色の釉薬にとどまらず、種々の色の釉薬が適用されても、それぞれの釉薬層色の基準色からのズレを許容される範囲にとどめることができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
陶器
本発明において、「陶器」とは、衛生陶器、タイルなど陶器素地に釉薬層が設けられた基本構成を備えた物を意味する。また、「衛生陶器」とは、バスルーム、トイレ空間、化粧室、洗面所、または台所などで用いられる陶器製品を意味する。具体的には、大便器、小便器、便器のサナ、便器タンク、洗面器、手洗い器などを意味する。
【0015】
陶器素地
本発明による陶器を構成する陶器素地は、基本的に以下の組成を有する。
SiO2を60~75重量%、好ましくは62.5~72.5重量%、
Al2O3を20~30重量%、好ましくは21.5~28.5重量%、
Fe2O3を0.4~1.5重量%、好ましくは0.5~1.4重量%、
CaO を0.1~2.0重量%、好ましくは0.2~1.6重量%、
MgO を0.1~1.5重量%、好ましくは0.2~1.2重量%、
K2O を0.8~5.0重量%、好ましくは1.0~4.5%、そして
Na2O を0.4~4.0重量%、好ましくは0.6~3.0重量%
を含む。
【0016】
さらに本発明にあって陶器素地は、以下の条件を満たすものとされる。
- TiO2を、Fe2O3+TiO2が0.6~2.0重量%、好ましくは0.7~1.9重量%となる範囲で含み、
- 陶器素地のかさ体積率が85.0%以上、好ましくは88.0%以上であり、
- 陶器素地の表面の色をL*a*b*表色系で表したとき、a*が0.4~1.5、好ましくは0.5~1.4の範囲にあり、b*が5~12、好ましくは6~11の範囲にある。
【0017】
上記において「かさ体積率」とは、陶器素地の全体の体積から「開気孔率」及び「閉気孔率」を引いた値である。「開気孔率」及び「閉気孔率」は周知又は公知の方法により測定することができる。
【0018】
開気孔率
開気孔率は、例えば水中重量法(アルキメデス法)を用いて以下の手順で求めることができる。まず、陶器素地について、各種重量を測定できる大きさに切断し試験体とする。試験体は乾燥機により110℃で乾燥を行い、デシケータ中で室温まで冷却してから重量(乾燥重量:W1)を測定する。次に、試験体を水中で2時間以上沸騰させた後、室温で20時間冷却することで飽水(試験体の開口気孔を水で満たした)状態にする。試験体を水中に吊るした状態で測定し、得られた重量から試験体を吊るすために使用した部材の重量を差し引いた重量(水中重量:W2)を算出する。また、飽水させた試験体を水中から取り出し、試験体の表面の水分をふき取り、重量(飽水重量:W3)を測定する。測定した3つの重量W1、W2、W3と、測定時の水の温度における密度ρwにより、以下の式を用いてかさ密度ρb、見掛け密度ρa、開気孔率Poを算出する。
ρb=W1/(W3-W2)×ρw
ρa=W1/(W1-W2)×ρw
Po=(ρa-ρb)/ρa×100(%)
【0019】
閉気孔率
閉気孔率は、例えば定容積膨張法による真密度の測定結果から下記の手順で求めることができる。まず、陶器素地を微粉砕して試験体とし、乾式自動密度計(島津製作所(株)アキュピックII1340)を用いて定容積膨張法による真密度ρtを測定する。測定した真密度ρtと、アルキメデス法で算出したかさ密度ρb、開気孔率Poにより、以下の式を用いて、全気孔率Po+c、そして閉気孔率Pcを算出する。
の方法により測定することができる。
Po+c=(ρt-ρb)/ρt×100(%)
Pc=Po+c-Po
【0020】
本発明において、陶器素地の表面の色は、陶器の表面の釉薬層を削り取った後に測定された値であるか、又は、陶器を製造する陶器素地を同一組成で別途作成し、その表面を観測することにより定められる。
【0021】
本発明の好ましい態様によれば、本発明による陶器素地は、吸水率が0.5%以下とされる。
【0022】
上記要件を満たす陶器素地は、原料組成にばらつきがあっても、釉薬組成を変えることなく、釉薬層色の基準色からのズレを許容範囲にとどめることができるとの有利な効果を有する。さらに、一つの色の釉薬にとどまらず、種々の色の釉薬が適用されても、それぞれの釉薬層色の基準色からのズレを許容される範囲にとどめることができ、したがって、本発明による陶器素地を用いることで、様々な色の釉薬による陶器を、釉薬の色に合わせて陶器素地の色合いを調整する必要がないとの点でも有利である。
【0023】
ここで、釉薬層色の基準色からのズレとして許容される範囲とは、好ましくは観察された釉薬層の色と基準色とのL*a*b*表色系のL値、a値、b値、さらに色差が下記の範囲にあることをいう。
ΔLの絶対値が2.0未満、好ましくは1.5以下
Δaの絶対値が0.9未満、好ましくは0.7以下
Δbの絶対値が0.9未満、好ましくは0.7以下
ΔEが2.0未満、好ましくは1.5以下
【0024】
陶器素地は、上記組成を備える限り、任意の原料から調製されてよいが、例えば、珪砂、長石、石灰石、粘土などを原料として素地泥漿を調製し、これを成形し、焼成することにより得ることができる。長石類としては、カリ長石、ソーダ長石、灰長石の様な長石質鉱物やネフェライト、及び天然ガラス、フリットなどが挙げられる。これらの長石類としては特にアルカリ成分としてK2O及びNa2Oを豊富に含むものが好ましい。長石類としては、カリ長石、ソーダ長石、及びネフェライトが好ましい。粘土類としては、カオリナイト、ハロイサイト、メタハロイサイト、ディッカイト、パイロフィライトなどの粘土質鉱物、セリサイト、イライトなどの粘土状雲母などが挙げられる。これらの鉱物は、蛙目粘土、木節粘土、カオリン、ボールクレー、チャイナクレーなどの粘土質原料や各種陶石中に豊富に含まれており、長石質原料中にも含まれている。これらの粘土類としては、カオリナイト、ハロイサイトが特に成形時の可塑性を向上させるのに優れており、セリサイトは素地の焼成温度を低下させることに効果が大きい。これらの粘土類の鉱物は焼成中に熔融してガラス相を形成するものであるが、一部未熔融のまま結晶として残存していてもよい。また、陶器素地の原料は、α-アルミナを含んでもよい。例えば、α-アルミナとして別途粉砕したものを上記した素地原料に添加し、これらを粉砕混合して素地材料とすることができる。
【0025】
釉薬
本発明による陶器の釉薬層を形成する釉薬は、特に限定されず種々の釉薬を利用することができ、さらに、その色も種々のものを利用することができる。
【0026】
本発明において釉薬は、珪砂、長石、石灰石などの天然鉱物粒子の混合物及び/又は非晶質釉薬に顔料及び/又は乳濁剤を添加したものを使用できる。例えば、釉薬の組成は、SiO2:52~80重量部、Al2O3:5~14重量部、CaO:6~17重量部、MgO:0.5~4.0重量部、ZnO:3~11重量部、K2O:1~5重量部、Na2O:0.5~2.5重量部、乳濁剤:0.1~15重量部、顔料:0.001~20重量部である。釉薬は、その他に糊剤、分散剤、防腐剤、抗菌剤などが含有されていてもよい。顔料としては、コバルト化合物、鉄化合物などが挙げられる。乳濁剤としては、ジルコン、酸化錫などが挙げられる。また、非晶質釉薬とは、上記のような天然鉱物粒子などの混合物からなる釉薬原料を高温で溶融し、ガラス化させた釉薬をいい、例えばフリット釉薬が好適に利用可能である。
【0027】
本発明において利用可能な釉薬の色は、ホワイト、アイボリー、グレー、ピンク、ブラウンと表現される色、またはホワイト、パステルアイボリー、ホワイトグレー、パステルピンク、ハーベストブラウンと表現される色が例示できる。ホワイト、アイボリー、グレー、ピンク、ブラウンは、例えば、マンセル値で表すと、それぞれN8.6、3.0Y 8.7/0.9、1.4Y 7.8/0.5、0.9YR8.2/1.9、8.3YR7.1/1.2に近似する色、また一般社団法人日本塗料工業会の塗料用標準色で表すと、それぞれLN93、L19-92B、LN-80、L09-80D、L19-70Bに近似する色である。
【0028】
本発明の好ましい態様によれば、釉薬層のL値が、陶器素地のL値よりも大とする。これにより、釉薬層が陶器素地の色調が変化の影響をより受けなくすることができる。特に釉薬層が白系統の色である場合に好ましい。
【0029】
本発明の一つの態様によれば、釉薬層は着色された釉薬層の上に、透明な釉薬層を設けることができる。
【0030】
焼成条件
本発明による陶器は、陶器素地及び釉薬の組成を考慮して、その焼成条件を適宜定め、製造されてよい。例えば、陶器素地に釉薬を適用した後、800~1300℃の温度で、2時間~25時間、昇温温度を1.2℃~25.0℃/分程度で焼成することにより、成形素地を焼結させ、かつ釉薬層を固着させることができる。
【0031】
本発明において陶器素地の「かさ体積率」を規定する「開気孔率」及び「閉気孔率」は、焼成条件の制御により好ましく行うことができる。上記焼成条件が好ましい範囲である。
【実施例0032】
本発明をさらに以下の実施例により説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0033】
試験1:陶器素地試験片の用意
表1に記載の組成からなる陶器素地を、原料として、骨格形成材料であるセリサイト陶石およびカオリン陶石を38~75重量%、可塑性材料であるチャイナクレー(粉体)およびボールクレー(粉体)を8~45重量%、主焼結助剤である長石を8~20重量%、およびドロマイトを1~4重量%秤量し、水と解膠剤として珪酸ソーダを適量添加したものを一括してボールミルに入れ、レーザー回折式粒度分布計を用いた粉砕後の素地スラリーの粒度測定結果が、10μm以下が53~63%、50%平均粒径(D50)が6~9μm程度になるまで湿式粉砕し、陶器素地材料を得た。得られた陶器素地材料を、石膏型を用いた泥漿鋳込み成形法により成形し、成形体を得た。得られた成形体を電気炉により焼成して、表に記載の実施例1~5及び比較例1~3の陶器素地を得た。ここで、実施例1~5及び比較例1~2については、ヒートカーブの最高温度及び昇温温度は表1に記載のとおりとし、焼成時間は18時間とした。比較例3のみ、異なり、昇温温度は表1に記載のとおりとし、焼成時間は2.25時間とした。
【0034】
【0035】
物性評価
得られた実施例及び比較例の陶器素地について、以下の項目及び方法につき測定を行った。結果は表2に記載のとおりであった。
【0036】
色の測定
L*a*b*表色系の測定は下記の装置及び条件により行った。
装置:分光測色計CM-3700A(コニカミノルタ製)
バージョン:2.06
測定パラメータ:SCE
表色系:L*a*b*
UV設定:UV100%
光源:D65(A、F6)
観察視野角:10°
測定径:LAV(φ25.4mm)
測定波長間隔:10nm
測定回数:3回
測定前待ち時間:0秒
校正:ゼロ校正後、白色校正(ゼロ校正:遠方の空間で校正、白色校正:校正用の白色板で校正)
【0037】
吸水率
吸水率は、JIS A1509-3に則して測定した。素地材料の焼成体サンプルを110℃で24hr乾燥させ、冷却した後、質量W1を測定した。次に、サンプルをデシケータ内で水中に浸漬し、真空状態で1hr保持することで、強制的に開気孔を飽水させ、このときの質量W2を測定した。吸水率を下記式にて求めた。
吸水率=(W2-W1)/W1×100(%)
【0038】
陶器素地の密度の測定並びに開気孔率及び閉気孔率の測定
かさ密度ρb、見掛け密度ρa、及び開気孔率Poを、水中重量法(アルキメデス法)により以下の手順で求めた。陶器素地について、各種重量を測定できる大きさに切断して試験体を得て、これを乾燥機により110℃で乾燥し、その後、デシケータ中で室温まで冷却してから重量(乾燥重量:W1)を測定した。次に、試験体を水中で2時間以上沸騰させた後、室温で20時間冷却し、飽水(試験体の開気孔率を水で満たした)状態にした。試験体を水中に吊るした状態で測定し、得られた重量から試験体を吊るすために使用した部材の重量を差し引いた重量(水中重量:W2)を算出した。また、飽水させた試験体を水中から取り出し、試験体の表面の水分をふき取り、重量(飽水重量:W3)を測定した。測定した3つの重量W1、W2、W3と、測定時の水の温度における密度ρwにより、以下の式を用いてかさ密度ρb、見掛け密度ρa、開気孔率Poを算出した。
ρb=W1/(W3-W2)×ρw
ρa=W1/(W1-W2)×ρw
Po=(ρa-ρb)/ρa×100(%)
【0039】
次に、真密度ρtを定容積膨張法により下記の手順で求めた。まず、陶器素地を微粉砕して試験体とし、乾式自動密度計(島津製作所(株)アキュピックII1340)を用いて定容積膨張法による真密度ρtを測定した。測定した真密度ρtと、上記したアルキメデス法により算出したかさ密度ρb、開気孔率Poから、以下の式を用いて、全気孔率Po+c、そして閉気孔率Pcを算出した。
Po+c=(ρt-ρb)/ρt×100(%)
Pc=Po+c-Po
【0040】
【0041】
試験2:陶器の製造
釉薬の用意
表3の組成からなる釉薬原料2Kgと水1Kg及び球石4Kgを、容積6リットルの陶器製ポットに入れ、レーザー回折式粒度分布計を用いた粉砕後の着色性釉薬スラリーの粒度測定結果が、10μm以下が65%、50%平均粒径(D50)が6.0μm程度になるように、ボールミルにより粉砕を行い、釉薬を得た。釉薬の色は、Fe-Zr系の茶顔料、Pr-Zr系の黄顔料、Co系の青顔料、Ni-Zr-Co系の灰顔料を組み合わせて調整することで、焼成後の釉薬層の色が、ホワイト、アイボリー、ピンク、グレー、及びブラウンの5色になるよう調整した。
【0042】
【0043】
陶器素地の用意及び釉薬の適用
上記試験1の実施例1~5及び比較例1~3と同様の陶器素地材料の成型体を用意した。この成型体に、上で用意した5種の釉薬をそれぞれスプレーコーティング法により塗布した後、上記試験1と同様の焼成条件で焼成することにより陶器を得た。
【0044】
色の評価
得られた陶器について、陶器素地と同様に、釉薬層が形成された部分の色の測定を行った。結果は表4及び表5に記載のとおりであった。さらに、この結果と標準色のL*、a*、b*とから、ΔL、Δa、Δb、及びΔEを求めた。また試験1で得られた陶器素地の色値との色差も求めた。以上の結果は、結果は表4及び表5に記載のとおりであった。
【0045】
表中の「評価」は、基準色と釉薬面を視感で評価したものである。具体的には、基準色との差異を感じないものに〇を、やや差異を感じるものに△を、差異を感じるものに×を付した。基準色と釉薬面の色差の数値が下記の範囲の何れかを満たさない場合、視感に差異を感じるものが増えた。
ΔLの絶対値が2.0未満
Δaの絶対値が0.9未満
Δbの絶対値が0.9未満
ΔEが2.0未満
例えば、表5の比較例1の陶器素地にアイボリーの釉薬を塗布して得られた陶器では、L*a*b*表色系において、ΔLは0.78、Δaは0.39、Δbは1.42、ΔEは1.66であり、基準色として黄色を強く感じるため、差異を感じると判断した。
【0046】
【0047】
表4及び表5に記載の結果から、本発明の実施例1~5では、Fe2O3及びTiO2の量及びかさ体積率が特定の範囲に制御される限り、陶器素地の組成が変わっても、ホワイト、アイボリー、ピンク、グレー、及びブラウンの5色において標準色が再現できたことが分かる。他方、比較例1~3の結果から、Fe2O3及びTiO2の量及びかさ体積率が本発明の範囲から外れると、一部の色については標準色が再現出来ても、標準色が再現出来ない色があることが分かる。
【0048】
本発明の好ましい態様
本発明の好ましい態様は以下のとおりである。
(1)陶器素地と、釉薬層とを少なくとも備えてなる陶器であって、
前記陶器素地が、
SiO2を60~75重量%、
Al2O3を20~30重量%、
Fe2O3を0.4~1.5重量%、
CaOを0.1~2.0重量%、
MgOを0.1~1.5重量%、
K2Oを0.8~5.0重量%、そして
Na2Oを0.4~4.0重量%
含んでなり、
さらにTiO2を、Fe2O3+TiO2が0.6~2.0重量%となる範囲で含み、
前記陶器素地のかさ体積率が85.0%以上であり、
前記陶器素地の表面の色をL*a*b*表色系で表したとき、a*が0.4~1.5の範囲にあり、b*が5~12の範囲にある
ことを特徴とする陶器。
(2) 前記陶器素地の吸水率が、0.5%以下である、(1)に記載の陶器。
(3) 前記陶器素地のL値が、71.0~87.0である、(1)又は(2)に記載の陶器。
(4) 前記陶器素地が、
Fe2O3を0.5~1.4重量%、
TiO2を、Fe2O3+TiO2が0.7~1.9重量%となる範囲で含む、(1)乃至(3)に記載の陶器。
(5) 前記陶器素地のかさ体積率が88.0%以上である、(1)乃至(4)に記載の陶器。
(6) 前記陶器素地の表面のa*が0.5~1.4の範囲にあり、b*が6~11の範囲にある、(1)乃至(5)に記載の陶器。
(7) 前記釉薬層のL値が、前記陶器素地のL値よりも大である、(1)乃至(6)に記載の陶器。
(8)SiO2を60~75重量%、
Al2O3を20~30重量%、
Fe2O3を0.4~1.5重量%、
CaO を0.1~2.0重量%、
MgO を0.1~1.5重量%、
K2O を0.8~5.0重量%、そして
Na2O を0.4~4.0重量%
含んでなり、
さらにTiO2を、Fe2O3+TiO2が0.6~2.0重量%となる範囲で含み、
前記陶器素地のかさ体積率が85.0%以上であり、
前記陶器素地の表面の色をL*a*b*表色系で表したとき、a*が0.4~1.5の範囲にあり、b*が5~12の範囲にある
ことを特徴とする、陶器素地。
(9) その吸水率が、0.5%以下である、(8)に記載の陶器素地。
(10) その表面のL値が、71.0~87.0である、(8)又は(9)に記載の陶器素地。