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特開2024-9551ネジ式クランプ用ずれ防止アタッチメント
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024009551
(43)【公開日】2024-01-23
(54)【発明の名称】ネジ式クランプ用ずれ防止アタッチメント
(51)【国際特許分類】
   F16B 2/12 20060101AFI20240116BHJP
【FI】
F16B2/12 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022111160
(22)【出願日】2022-07-11
(71)【出願人】
【識別番号】390030328
【氏名又は名称】イーグルクランプ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100085589
【弁理士】
【氏名又は名称】▲桑▼原 史生
(72)【発明者】
【氏名】畠山 孝昭
(72)【発明者】
【氏名】豊岡 実
【テーマコード(参考)】
3J022
【Fターム(参考)】
3J022DA11
3J022DA13
3J022EA41
3J022EB03
3J022EC02
3J022ED03
3J022FA01
3J022FA05
3J022FB03
3J022FB07
3J022FB12
3J022GA06
3J022GA13
3J022GB32
(57)【要約】
【課題】ネジ式クランプをワークに取り外しする際の作業労力の軽減および安全性の向上に資するずれ防止アタッチメントを提供する。
【解決手段】締付ボルト先端部(15b)に係止可能な先端係止板(21)と、締付ボルト後端部に対して実質的に軸方向に相対移動不能且つ相対回転自在に係止可能な後端係止板(22)と、これらを連結するカラー(23)と、カラーの先端に設けられるマグネット(24)とを有する。先端係止板は、締付ボルト先端部を遊嵌する貫通穴(21a)を有する。後端係止板は、締付ボルトの不完全ネジ部(15c)に装着可能な開口部(22b)が形成された取付穴(22a)を有する。カラーは、回転軸を中心とする略半円領域において90度間隔で3本配置され、うち180度間隔で対向配置される2本のカラー同士の間の間隔はネジ式クランプ(10)の脚部(14)の厚さより僅かに大きく設定される。
【選択図】図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
クランプ本体の一方の脚部に設けた受部と他方の脚部に進退可能に設けた締付ボルトとの間にワークを挟んで吊り上げるように構成されたネジ式クランプに用いるずれ防止アタッチメントであって、締付ボルトの先端部に係止可能な第一の係止部材と、締付ボルトの後端部に対して実質的に軸方向に相対移動不能且つ相対回転自在に係止可能な第二の係止部材と、第一の部材と第二の部材とを連結する連結部材と、第一の係止部材または連結部材の先端に設けられるマグネットと、を有してなることを特徴とするネジ式クランプ用ずれ防止アタッチメント。
【請求項2】
前記第一の係止部材が、締付ボルトの先端部を遊嵌する貫通穴を有することを特徴とする、請求項1記載のずれ防止アタッチメント。
【請求項3】
前記第二の係止部材が、締付ボルトの雄ネジとツバ部との間においてネジ切りされていない円周面を有する不完全ネジ部に装着可能な開口部が形成された取付穴を有することを特徴とする、請求項1または2記載のずれ防止アタッチメント。
【請求項4】
前記取付穴の開口部が、締付ボルトの不完全ネジ部の径より若干小さい開口幅を有することを特徴とする、請求項3記載のずれ防止アタッチメント。
【請求項5】
前記連結部材が、アタッチメントの回転軸を中心として所定角度離れて位置する複数本のカラーからなり、各カラーは、締付ボルトにおいて前記第一の係止部材が係止する位置と前記第二の係止部材が係止する位置との間の軸方向距離に実質的に等しい長さに形成されることを特徴とする、請求項1ないし4のいずれか記載のずれ防止アタッチメント。
【請求項6】
前記連結部材が、アタッチメントの回転軸を中心とする略半円領域において90度間隔で配置される3本のカラーからなり、これら3本のカラーのうち180度間隔で対向配置される2本のカラー同士の間の間隔が、ネジ式クランプの前記他方の脚部の厚さより僅かに大きく設定されることを特徴とする、請求項1ないし4のいずれか記載のずれ防止アタッチメント。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ネジ式クランプに用いるアタッチメントに関し、特に、クランプをワークに取り付ける際およびワークから取り外す際にずれないように保持して労力を軽減すると共に安全性を高めるために用いるアタッチメントに関する。
【背景技術】
【0002】
図1には、従来技術(たとえば特許文献1)によるネジ式クランプ10の一例が概略的に示されている、このクランプは、公知のように、吊穴18を有する略U字形のクランプ本体11と、その一方の脚部12に回転自在に装着される回転顎13と、他方の脚部14を螺通する締付ボルト15とを備えており、締付ボルト15の後端(図において右方に示される端部)に装着されるハンドル(図示省略)を回転させることにより、締付ボルト15を回転顎13に対して前進および後退させることができるように構成されている。
【0003】
このようなネジ式クランプ10を鋼板などのワークWの吊り上げに用いるためにワークWに取り付ける際には、図11に示すように、ワークWを、締付ボルト15の先端(先端に交換可能に先端パッドが取り付けられる場合は該先端パッド)と回転顎13との間に通して脚部12,14間の開口16の奥深くまで挿入した後、ハンドルを締付方向に回転させることにより、締付ボルト15を回転顎13に近付ける方向(図11において左方向)に移動させ、回転顎13と締付ボルト15の先端との間にワークWを圧接挟持して、ワークWに規定の締付力を与え、この状態でワークWを吊り上げる。ワークWを所定場所まで運搬した後、ハンドルを反締付方向に回転させることにより、締付ボルト15を回転顎13から離れる方向(図11において右方向)に移動させてワークWに対する締付力を解放した状態にして、クランプ10をワークWから取り外す。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2013-244538号公報(図2
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ネジ式クランプは、たとえば30~300kgなどの比較的軽量のワークの吊り上げに用いられる比較的小型軽量のものでも1kg以上の質量を有し、1トンまたはそれ以上の重量物の吊り上げに用いられるクランプになると10kg以上の質量を有するものが多くなる。上述したように、クランプ10をワークWに取り付ける際には、片方の手でハンドルを操作して締付ボルト15を回転顎13に向けて前進させる必要があるが、回転顎13と締付ボルト15の先端との間に圧接挟持したワークWに規定の締付力が与えられるまでの間、もう片方の手でクランプ10を支えて図11に示すワークWとの位置関係を維持し続けなければならず、特にクランプ10の質量が大きい場合には労力を要する困難な作業となっていた。このときにクランプ10を支える力が不十分であると、ワークWに対してクランプ10が傾いた状態で取り付けられてしまい、規定の締付力が与えられず、吊り上げや運搬中にワークWが落下する危険が生ずる。
【0006】
また、図11に示すようにしてワークWに取り付けたクランプ10をワークWから取り外す際には、片方の手でハンドルを操作して締付ボルト15を後退させる必要があるが、ワークWに対する締付力が解除された後も、もう片方の手でクランプ10を支えていなければならず、特にクランプ10の質量が大きい場合には労力を要する困難な作業となっていた。このときにクランプ10を支える力が不十分であると、ワークWに対する締付力が解除されたときにクランプ10が傾いて外れてしまい、落下したクランプ10により作業者に怪我をさせたり、落下したクランプ10が地面に衝突して損傷したりする危険が生ずる。
【0007】
また、このネジ式クランプ10の他の用法として、図11とは上下逆向きにして構造躯体の鉄骨(H型鋼など)に下から取り付けて吊穴18にチェーンブロックなどを吊り下げ(図10参照)、あるいは、横向きに取り付けたクランプ10の吊穴18に高所作業用の水平親綱を取り付けて引張用クランプとして用いることがあるが、これらの用法においてクランプ10を鉄骨に取り付ける際にクランプ10を支える力が不十分であると、クランプ10を正常に取り付けることができず、クランプ10の落下により作業者に怪我を負わせたり、落下したクランプ10が地面に衝突して損傷する危険が生ずる。
【0008】
さらに、特に上向きにして吊下用に用いられる場合において、クランプ10を鉄骨から取り外す際に、片方の手でハンドルを操作して締付ボルト15を後退させる必要があるが、鉄骨に対する締付力が解除された後も、もう片方の手でクランプ10を支えていなければならず、特にクランプ10の質量が大きい場合には労力を要する困難な作業となっていた。このときにクランプ10を支える力が不十分であると、鉄骨に対する締付力が解除された瞬間にクランプ10が外れてしまい、落下したクランプ10により作業者に怪我をさせたり、落下したクランプ10が地面に衝突して損傷したりする危険が生ずる。
【0009】
したがって、本発明が解決しようとする課題は、ネジ式クランプをワークに取り付ける際や取り外す際の作業労力を軽減すると共に、ワークやクランプが不慮に落下することを未然に防止して安全性を高めることができる新規なずれ防止アタッチメントを提供することである。なお、本明細書で使用する「ワーク」の語は、ネジ式クランプが取り付けられる相手方の部材を広く意味するものであり、ネジ式クランプが吊上用クランプとして用いられる場合における鋼板などの被吊上物、および、吊下用クランプや引張用クランプとして用いられる場合における鉄骨などの既存構造躯体を含む概念である。
【課題を解決するための手段】
【0010】
この課題を解決するため、請求項1に係る本発明は、クランプ本体の一方の脚部に設けた受部と他方の脚部に進退可能に設けた締付ボルトとの間にワークを挟んで吊り上げるように構成されたネジ式クランプに用いるずれ防止アタッチメントであって、締付ボルトの先端部に係脱可能な第一の係止部材と、締付ボルトの後端部に対して実質的に軸方向に相対移動不能且つ相対回転自在に係脱可能な第二の係止部材と、第一の部材と第二の部材とを連結する連結部材と、第一の係止部材または連結部材の先端に設けられるマグネットと、を有してなることを特徴とする。
【0011】
請求項2に係る本発明は、請求項1記載のネジ式クランプ用ずれ防止アタッチメントにおいて、前記第一の係止部材が、締付ボルトの先端部を遊嵌する貫通穴を有することを特徴とする。
【0012】
請求項3に係る本発明は、請求項1または2記載のネジ式クランプ用ずれ防止アタッチメントにおいて、前記第二の係止部材が、締付ボルトの雄ネジとツバ部との間においてネジ切りされていない円周面を有する不完全ネジ部に装着可能な開口部が形成された取付穴を有することを特徴とする。
【0013】
請求項4に係る本発明は、請求項3記載のネジ式クランプ用ずれ防止アタッチメントにおいて、前記取付穴の開口部が、締付ボルトの不完全ネジ部の径より若干小さい開口幅を有することを特徴とする。
【0014】
請求項5に係る本発明は、請求項1ないし4のいずれか記載のネジ式クランプ用ずれ防止アタッチメントにおいて、前記連結部材が、アタッチメントの回転軸を中心として所定角度離れて位置する複数本のカラーからなり、各カラーは、締付ボルトにおいて前記第一の係止部材が係止する位置と前記第二の係止部材が係止する位置との間の軸方向距離に実質的に等しい長さに形成されることを特徴とする。
【0015】
請求項6に係る本発明は、請求項1ないし4のいずれか記載のネジ式クランプ用ずれ防止アタッチメントにおいて、前記連結部材が、アタッチメントの回転軸を中心とする略半円領域において90度間隔で配置される3本のカラーからなり、これら3本のカラーのうち180度間隔で対向配置される2本のカラー同士の間の間隔が、ネジ式クランプの前記他方の脚部の厚さより僅かに大きく設定されることを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
請求項1に係る本発明によれば、このずれ防止アタッチメントを、第一および第二の係止部材を介して、ネジ式クランプの締付ボルトに対して、したがってクランプに対して、係脱可能に装着することができる。ずれ防止アタッチメントをクランプに装着した状態で、吊り上げようとするワークを受部と締付ボルトとの間に挿入したときに、ワークがマグネットに吸着されてクランプに固定されるので、手で支えなくてもクランプがワークから抜け落ちることがない。したがって、作業者は、片手で締付ボルトを締め付ける作業のみを行えば良く、作業労力が軽減すると共に作業効率が向上する。ワークを所定場所で吊り下ろす際も、締付ボルトを緩めてワークに対する圧接が解除されても、ワークはマグネットに吸着されてクランプに固定された状態を維持するので、クランプが不慮にワークから落下することがなく、作業者に怪我を負わせたりクランプを損傷させたりすることがない。
【0017】
また、このずれ防止アタッチメントは、第一および第二の係止部材を介してネジ式クランプに装着され、ワークがマグネットに吸着されている状態(したがってワークがクランプと一体に固定された状態)において、締付ボルトの回転を妨げず、且つ、締付ボルトの締め/緩めにより進退したときには一体となってワークと共に同方向に移動することができる。したがって、この装着状態においても、締付ボルトの動作や機能を妨げることがない。
【0018】
さらに、このずれ防止アタッチメントは、アタッチメント側に設けた第一および第二の係止部材を締付ボルトの先端部および後端部にそれぞれ係止させることによってクランプに装着することができるので、締付ボルトは既存のものをそのまま使用することができ、溝加工などの特別な加工を必要としない。したがって、加工による締付ボルトの強度低下を招くことがなく、低コストで汎用性の高いずれ防止アタッチメントとして提供することができる。
【0019】
請求項2に係る本発明によれば、第一の係止部材について、クランプに装着した状態において、締付ボルトが回転したときにも連れ回りしないことを実現する好適な一実施形態が提供される。
【0020】
請求項3に係る本発明によれば、第二の係止部材について、クランプに装着した状態において、締付ボルトが回転したときにも連れ回りしないと共に締付ボルトの進退と共に移動することを実現する好適な一実施形態が提供される。
【0021】
請求項4に係る本発明によれば、このずれ防止アタッチメントをクランプに装着する際には、第二の係止部材に形成した取付穴の開口部を拡開させながら押し込むことにより締付ボルトの不完全ネジ部に嵌着させることができ、この状態を維持して不慮の抜け落ちを防止することができる。
【0022】
請求項5に係る本発明によれば、所定の軸方向長さを有する複数本のカラーを介して第一および第二の係止部材が連結されるので、第一および第二の係止部材を締付ボルトの所定箇所に対して係止させることが容易である。
【0023】
請求項6に係る本発明によれば、対向する2本のカラーをクランプの前記他方の脚部の両側に配置し、他の1本のカラーを該脚部の先端側に配置した位置関係でクランプに装着されるので、カラーが存在せずに解放されている略半円領域を利用してクランプに装着する作業が容易であり、且つ、クランプに装着した状態においては対向する2本のカラーが該脚部の両側にほぼ隙間なく密接するので、締付ボルトを回転させたときにアタッチメントが連れ回りしようとすることを実質的に防止し、あるいはその回転量を極小化することができる。したがって、ワークに対するマグネットの吸着を維持することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】本発明によるずれ防止アタッチメントが装着されるネジ式クランプの一例を示す斜視図である。
図2】本発明の一実施形態によるずれ防止アタッチメントを示す斜視図である。
図3】このずれ防止アタッチメントの前方端面図(a)および後方端面図(b)である。
図4】このずれ防止アタッチメントの断面図である。
図5】このずれ防止アタッチメントを図1のネジ式クランプに装着した状態を示す斜視図である。
図6図3の装着状態におけるずれ防止アタッチメントと締付ボルトとの位置関係を示す斜視図である。
図7】締付ボルトを単独で示す側面図である。
図8】このずれ防止アタッチメントをネジ式クランプに装着する際の手順を示す説明図である。
図9】このずれ防止アタッチメントを装着したネジ式クランプが吊上用クランプとして用いられる場合において、該クランプがマグネットの吸着を介してワークにセットされた状態を示す断面図である。
図10】このずれ防止アタッチメントを装着したネジ式クランプが吊下用クランプとして用いられる場合において、該クランプがマグネットの吸着を介してワークにセットされた状態を示す断面図である。
図11】ずれ防止アタッチメントが装着されないネジ式クランプが吊上用クランプとして用いられる場合のワークに対する位置関係を示す断面図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
以下に本発明の一実施形態によるずれ防止アタッチメントの構成および作用について、図1ないし図10を参照して詳細に説明する。
【0026】
このずれ防止アタッチメント(以下、単に「アタッチメント」と言う。)20は、図1に示すネジ式クランプ10に装着して用いられる。既述したように、このクランプ10は、吊穴18を有する略U字形のクランプ本体11と、その一方の脚部12に回転自在に装着される回転顎13と、他方の脚部14を螺通する締付ボルト15とを備えており、締付ボルト15の後端(図1において右方に示される端部)に装着されるハンドル(図示省略)を回転させることにより、締付ボルト15を回転顎13に対して前進および後退させることができるように構成されている。
【0027】
図7に示されるように、締付ボルト15には、その所定の軸方向長さに亘って雄ネジ15aが刻設形成され、その先端にはワークW側面に喰い込んで保持力を高めるための係合歯を備えた先端部15bが一体形成または別部材として着脱可能に設けられている。また、締付ボルト15の後端側には、ネジ加工されていない不完全ネジ部15cを介して、雄ネジ15aより大径のツバ部15dと、ハンドル(図示省略)を取り付けるための取付穴17(図6)が貫通形成された回転操作部15eが設けられている。ツバ部15dを有する軸部材にネジ加工して雄ネジ15aを形成する際に、ネジ加工の治具がツバ部15dに干渉してしまうので、ツバ部15dまでネジ加工することができない。このため、この部分を、雄ネジ15aの谷径より僅かに小さい径に溝加工して、ネジ切りされていない円滑表面の不完全ネジ部15cが形成されることになる。
【0028】
アタッチメント20は、先端係止板21と、後端係止板22と、これらを同軸に連結する連結部材23と、マグネット24と、を有する。アタッチメント20をクランプ10に装着することによる重量増を極小化するため、アタッチメント20は可能な限り軽量な材料で形成されることが好ましい。また、後述するように、後端係止板22については、外力が作用したときに開口部22aが拡開することを許容するに十分な可撓性と、外力から解放されたときに元の開口幅Bに復帰する復元性を備えた材料で形成されることが好ましく、たとえば、薄い金属板や合成樹脂板で形成される。また、軽量化と強度を両立させる観点から、アタッチメント20を構成する各部材をMCナイロンなどのエンジニアプラスチックで形成することも好適な実施例である。
【0029】
先端係止板21は、締付ボルト15の先端部15bが貫通可能な径寸法の貫通穴21aを有する。先端係止板21は、貫通穴21aと同心状に90度間隔で外方に延長するアーム部21b,21c,21dを有し、各アーム部の先端にマグネット24a,24b,24cが取り付けられている。マグネット24a,24b,24cには強力な磁力を有するものを用いることが好ましく、たとえばネオジム磁石が好適な一例である。これらマグネットのうち、マグネット24aとマグネット24bは、貫通穴21aを挟んで180度に対向して位置しており、マグネット24cはこれらマグネット24a,24bに対してその一方側に90度間隔で位置している。
【0030】
後端係止板22は、先端係止板21と略同様の外形状を有し、締付ボルト15の不完全ネジ部15cに取付可能な取付穴22aを有する。後端係止板22の取付穴22aは、締付ボルト15の不完全ネジ部15cの径Rより若干大きい径の円形穴であるが、その半周より若干小さい領域に亘って欠損され、不完全ネジ部15cの径Rより僅かに小さい開口幅Bで開口する開口部22bが形成されている。開口部22bは、90度間隔で配置される3本のカラー23a,23b,23c(後述)が存在しない領域、言い換えれば、貫通穴21aおよび固定穴22aを挟んでカラー23cと反対側の領域に形成されている。
【0031】
連結部材23は、この実施例では、先端係止板21のアーム部21b,21c,21dと後端係止板22の同様のアーム部22c,22d,22eの各先端同士を連結する3本のパイプ状部材ないしカラー23a,23b,23cとして形成されている。カラー23a,23b,23cは、締付ネジ15の雄ネジ部15aの長さL(図7)と略同一の長さに形成されている。また、3本のカラー23a,23b,23cのうち、回転軸(貫通穴21aと取付穴22aの中心を通る軸線、締付ボルト15の回転軸と同じ)について対向する位置にあるカラー23aとカラー23bとの間の間隔Pが、クランプ10の脚部14の厚さより僅かに大きくなるように、先端係止板21および後端係止板22のアーム部の長さが設定されている。マグネット24a,24b,24cはカラー23a,23b,23cの各先端に内蔵または固着され、マグネット24a,24b,24cを貫通するネジ25a,25b,25cがカラー23a,23b,23cの中心を通って後方に延長し、後端係止板22を貫通してその外側でナット26a,26b,26cで締め付けて固定されている。
【0032】
このアタッチメント20をクランプ10の締付ボルト15に装着する手順について、図8を参照して説明する。
【0033】
最初に、図8(a)に示すように、アタッチメント20のカラー23cが下方に(クランプ10から最も離れて)位置し、アタッチメント20の上方が広く開放された位置関係にアタッチメント20を保持しながら、カラー23a,23bの間にクランプ10の脚部14を跨ぐようにして、先端係止板21の貫通穴21aに締付ボルト15の先端部15bを差し込む。既述したように、この実施例では、回転軸を中心とする略半円領域に90度間隔で3本のカラー23a,23b,23cを設け、他方の略半円領域が大きく開放されていると共に、180度間隔で対向するカラー23aとカラー23bとの間の間隔Pがクランプ10の脚部14の厚さより大きく形成されているので、、アタッチメント20が全体に軽量であることと相俟って、この作業は容易に行うことができる。
【0034】
次いで、図8(b)に示すように、アタッチメント20の後端係止板22を持ち上げて締付ボルト15に近付けていき、取付穴22aの開口部22bに締付ボルト15の不完全ネジ部15cに嵌着させる。既述したように、開口部22bの開口幅Bは不完全ネジ部15cの径Rより僅かに小さい寸法に形成されているが、強い力で押し込むことにより、後端係止板22の可撓性を介して、開口部22bが拡開してその開口幅が不完全ネジ部15cの径Rと略同等になり、不完全ネジ部15cに完全に嵌まり込んだときに、後端係止板22の復元性を介して、開口部22bが元の開口幅Bに復帰する。これにより、アタッチメント20が締付ボルト15に装着され、且つ、その装着状態が維持される。
【0035】
このようにしてアタッチメント20が装着されたクランプ10にワークWをセットした状態が図9に示されている。公知のように、締付ボルト15を後退させて回転顎13との間にワークWの板厚より十分に大きい隙間を与えた状態にして、ワークWを開口16の最奥まで挿入する。アタッチメントが装着されない従来技術によると、図11を参照して既述したように、この位置関係を保持するためにクランプ10を手で支えていなければならなかったが、アタッチメント20が装着されたクランプ10が用いられることにより、アタッチメント20の先端に設けられたマグネット24a,24b,24cの磁力によってワークWがアタッチメント10に吸着されるので、手で支えなくても、クランプ10は図11の位置を保持することができる。
【0036】
したがって、作業者は、この状態から、片手でハンドルを操作して締付ボルト15を締付方向に移動する作業だけを行えば良く、不安定な体勢での締付作業であっても、ワークWに対する適正な位置関係を確保する(ずれを防止する)ことができるので、作業労力が大きく軽減されると共に作業効率が大幅に向上する。アタッチメント20は、先端係止板21の貫通穴21aに締付ボルト先端部15bが遊嵌され、後端係止板22の取付穴22aに締付ボルト15の不完全ネジ部15cが嵌まり込むことによって締付ボルト15に装着されているにすぎないので、締付ボルト15に対して回転自在であり、アタッチメント20が装着された状態であっても、締付ボルト15の回転およびそれによる軸方向移動を妨げない。一方、アタッチメント20は、後端係止板22の取付穴22aは、雄ネジ部15aのネジ山とツバ部15dとの間に挟まれた状態で、締付ボルト15の不完全ネジ部15cに嵌まり込んでいる。したがって、アタッチメント20は、ワークWの側面に吸着された状態のまま、締付ボルト15が軸方向に移動したときには一体になって同方向に移動する。
【0037】
上記のようにして締付ボルト15を回転顎13に向けて移動させ、これらの間に挟持したワークWに規定の締付力が働いたことを確認した後に、ワークWを吊り上げて所定場所まで運搬する。なお、図9の状態から締付ボルト15を締め付けていくと、その回転を受けて、アタッチメント20も連れ回りしようとするが、カラー23aとカラー23bとの間の間隔Pはクランプ10の脚部14の厚さより僅かに大きい寸法に設定されているので、仮にアタッチメント20が連れ回りしたとしてもその回転量はごく僅かであり、ワークWに対する吸着が損なわれることはない。
【0038】
所定場所でワークWを吊り下ろした後、アタッチメント20をクランプ10から取り外す。この作業は、図8を参照して説明したアタッチメント取付時の作業を実質的に逆順に行えば良い。
【0039】
すなわち、まず、締付ボルト15を緩めることによって図9に示す状態にする。アタッチメント20はマグネット24a,24b,24cの磁力によってワークWに吸着されているので、締付ボルト15を緩めていってワークWに対する締付力が失われても、クランプ10が不慮にワークWから脱落することはない。
【0040】
この状態から、マグネット24a,24b,24cの磁力を上回る力でクランプ10をワークWから外した後、アタッチメント20の後端係止板22を締付ボルト15から引き離して、締付ボルト15の不完全ネジ部15cに嵌着していた後端係止板22を取り外し、さらに、前端係止板21を締付ボルト先端部15bから取り外して、アタッチメント20をクランプ10から離脱させる。後端係止板22を締付ボルト15から取り外す作業も、後端係止板22の可撓性を介して、容易に行うことができる。
【0041】
なお、上記の説明においては、このアタッチメント20を装着したネジ式クランプ10をワークWの吊上用クランプとして用いることを想定しているが、従来技術に関連して既述したように、ネジ式クランプは吊下用または引張用のクランプとしても使用可能であり、これらの用法においても、アタッチメント20を装着したネジ式クランプ10を好適に用いることができ、同様に、ワークW(鉄骨)に対する取り付け/取り外しの際の労力を軽減すると共に、クランプやワークの落下ないし脱落を防止して安全性を高めることができる。一例として、アタッチメント20を装着したネジ式クランプ10が吊下用クランプとして用いられる場合は、図10に示すように、図9とは逆にクランプ10が下方から押し上げるようにしてワークWの下端にセットされ、マグネット24でワークWに吸着して固定される。
【0042】
以上に本発明によるネジ式クランプ用ずれ防止アタッチメントについて図示実施形態に基づいて詳細に説明したが、本発明はこれに限定されることなく、特許請求の範囲に記載された発明の範囲内において多種多様に変形ないし変更して実施可能である。
【0043】
たとえば、図示実施形態によるずれ防止アタッチメントでは、回転軸を中心とする略半円領域に90度間隔で3本のカラーを設け、各カラーの先端にマグネットを設けており、既述したように、クランプに対するアタッチメントの取り付け/取り外し作業を容易にすると共に、締付ボルト回転時にアタッチメントが連れ回りすることを規制してワークに対する吸着状態を維持することに役立つものであるが、ワークに対する吸着力が十分に発揮される限りにおいて、カラーやマグネットの個数および配置は特に限定されない。他の実施形態として、たとえば、回転軸を中心とする円領域に120度間隔で配置した3本のカラーの各先端にマグネットを設けた実施形態や、回転軸を中心とする円領域に90度間隔で配置した4本のカラーの各先端にマグネットを設けた実施形態を採用しても良い。
【0044】
また、本発明によるずれ防止アタッチメントは、ネジ式クランプであれば、その形状・構造(プレッシャナット採用型など)・大きさ・用途(縦吊り用、横吊り用、全方向吊り用など)などを問わずに適用可能である。ずれ防止アタッチメントの各部の形状や大きさは、装着対象となるネジ式クランプの対応する部分または部材の形状や大きさに応じて適宜設計すれば良い。
【0045】
また、図示実施形態によるずれ防止アタッチメントでは、締付ボルトに対して実質的に軸方向相対移動不能且つ相対回転自在に取り付けるための係止手段として、締付ボルトの不完全ネジ部を利用して、後端部台座に形成した取付穴の開口部を介して該不完全ネジ部に嵌着させる構成が採用されているが、これに限定されることなく、他の構成を採用しても良い。たとえば、締付ボルトのツバ部を軸方向に若干隔てた2地点に二重に形成して、これらの間に後端部台座を遊嵌させるような構成を採用することができる。
【符号の説明】
【0046】
10 ネジ式クランプ
11 クランプ本体
12 脚部
13 回転顎(受部)
14 脚部
15 締付ボルト
15a 雄ネジ
15b 先端部
15c 不完全ネジ部
15d ツバ部
15e 回転操作部
16 開口
17 ハンドル取付穴
18 吊穴
20 ずれ防止アタッチメント
21 先端係止板(第一の係止部材)
21a 貫通孔
21b,21c,21d アーム部
22 後端係止板(第二の係止部材)
22a 取付穴
22b 開口部
22c,22d,22e アーム部
23 連結部材
23a,23b,23c カラー
24a,24b,24c マグネット
25a,25b,25c ネジ
26a,26b,26c ナット

図1
図2
図3
図4
図5
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図9
図10
図11