(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024009556
(43)【公開日】2024-01-23
(54)【発明の名称】積層体、及び軸受軌道輪の製造方法
(51)【国際特許分類】
C21D 1/00 20060101AFI20240116BHJP
C21D 9/40 20060101ALI20240116BHJP
F27D 3/12 20060101ALI20240116BHJP
C21D 1/64 20060101ALN20240116BHJP
C21D 1/18 20060101ALN20240116BHJP
C21D 1/06 20060101ALN20240116BHJP
【FI】
C21D1/00 F
C21D1/00 121
C21D9/40 A
C21D9/40 B
F27D3/12 Z
C21D1/64
C21D1/18 T
C21D1/18 U
C21D1/18 P
C21D1/06 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022111171
(22)【出願日】2022-07-11
(71)【出願人】
【識別番号】000004204
【氏名又は名称】日本精工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】弁理士法人栄光事務所
(72)【発明者】
【氏名】的場 理一郎
(72)【発明者】
【氏名】モヒット ジョシ
【テーマコード(参考)】
4K034
4K042
4K055
【Fターム(参考)】
4K034AA01
4K034AA05
4K034AA10
4K034BA10
4K034CA05
4K034DA06
4K034DB02
4K034DB03
4K034DB04
4K034DB05
4K034EA01
4K034EB01
4K034EB39
4K034FA05
4K034FA06
4K034FB12
4K034GA08
4K042AA22
4K042AA23
4K042BA01
4K042BA03
4K042BA10
4K042CA15
4K042DA01
4K042DA02
4K042DA06
4K042DB07
4K042DC02
4K042DC03
4K042DC04
4K042DD02
4K042DD03
4K042DE02
4K042DE06
4K042DF01
4K042EA01
4K055AA06
4K055BA03
4K055HA07
4K055HA12
(57)【要約】
【課題】熱処理による軸受軌道輪の変形を抑制可能な、積層体及び軸受軌道輪の製造方法を提供する。
【解決手段】積層体は、表裏方向に積み重ねられた複数のバスケットと、複数のバスケットが載置されるトレイと、を備える。バスケットは、軸受軌道輪となる複数の環状部材を載置可能なバスケット載置部を有する。トレイは、環状部材を載置可能なトレイ載置部を有する。バスケット載置部及びトレイ載置部は、複数の六角柱形状の貫通孔がバスケット及びトレイの表裏方向に貫通したハニカム形状を有する。バスケット載置部のハニカム形状を構成する貫通孔を表裏方向から見た六角形状と、トレイ載置部のハニカム形状を構成する貫通孔を表裏方向から見た六角形状と、は同一寸法である。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
表裏方向に積み重ねられた複数のバスケットと、
前記複数のバスケットが載置されるトレイと、
を備える積層体であって、
前記バスケットは、軸受軌道輪となる複数の環状部材を載置可能なバスケット載置部を有し、
前記トレイは、前記環状部材を載置可能なトレイ載置部を有し、
前記バスケット載置部及び前記トレイ載置部は、複数の六角柱形状の貫通孔が前記バスケット及び前記トレイの表裏方向に貫通したハニカム形状を有し、
前記バスケット載置部のハニカム形状を構成する前記貫通孔を表裏方向から見た六角形状と、前記トレイ載置部のハニカム形状を構成する前記貫通孔を表裏方向から見た六角形状と、は同一寸法である
ことを特徴とする積層体。
【請求項2】
前記バスケット載置部のハニカム形状と、前記トレイ載置部のハニカム形状とは、表裏方向から見て複数の貫通孔同士が重なり合うように、位相が揃えられている、
請求項1に記載の積層体。
【請求項3】
前記トレイ載置部の表裏方向の厚さは、前記バスケット載置部の表裏方向の厚さよりも、大きい、
請求項1に記載の積層体。
【請求項4】
前記バスケット載置部の表裏方向の厚さは、前記貫通孔を表裏方向から見た六角形状の対辺寸法以上である、
請求項1に記載の積層体。
【請求項5】
前記トレイ載置部の表裏方向の厚さは、前記貫通孔を表裏方向から見た六角形状の対辺寸法の二倍以上である、
請求項1に記載の積層体。
【請求項6】
軸受軌道輪の製造方法であって、
請求項1~5のいずれか1項に記載の積層体において、前記環状部材を少なくとも前記バスケット載置部に載置する環状部材載置工程と、
前記積層体を加熱炉の内部に配置する積層体配置工程と、
前記環状部材を、熱処理する熱処理工程と、
を含む、軸受軌道輪の製造方法。
【請求項7】
前記環状部材載置工程において、前記環状部材を、前記バスケット載置部と前記トレイ載置部とに載置する、
請求項6に記載の軸受軌道輪の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、積層体、及び軸受軌道輪の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
円環状部材である軸受軌道輪は、要求される機能として、所望の機械的強度が必要である。軸受軌道輪に機械的強度を与えるため、軸受軌道輪の製造工程においては、例えば軸受鋼(SUJ2)で成形した環状部材に対して焼入れ処理を含む熱処理が実施される。
【0003】
例えば、特許文献1には、被加熱物に浸炭や焼結などの加熱処理を行う連続式の熱処理炉が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
軸受軌道輪は、楕円変形に対する剛性が低く、材料を旋削加工した真円状の素形材が焼入れ処理による熱影響や相変態による影響によって楕円変形が生じてしまうことがある。このように楕円変形は、真円状の鋼材部品が楕円形に歪む現象を示している。
【0006】
軸受軌道輪の楕円変形は、焼入れ処理後の軸受軌道輪軌道面の真円度を測定することで評価が行われる。このような熱処理によって生じた楕円変形は後の研削加工で取り除くが、軸受軌道輪の楕円変形が大きく、真円度が悪い場合には、研削量を多くしなければならず、軸受軌道輪の製造工程においてコストアップを招いていた。
【0007】
なお、軸受軌道輪となる環状部材を熱処理する場合には、例えば、連続式やバッチ式の熱処理を施すことが考えられる。連続式は、ベルトコンベア等の上に環状部材が置かれ、環状部材が炉の中を通過しながら加熱される大量生産の方式である。バッチ式は、バスケットに環状部材を入れて、バスケットを固定炉(バッチ式加熱炉)の中に載置して熱処理(加熱および冷却)を行う方式である。バッチ式加熱炉は、軸受転動体の種類や加熱条件等に応じて、その都度温度や時間などを自由に調節できる特徴を持つ。
【0008】
ところが、バッチ式加熱炉を用いて環状部材を熱処理した場合、環状部材に楕円変形が生じて真円度が悪化することが従来から問題となっていた。しかしながら、この楕円変形ならびに真円度の悪化は、何が原因であるのか明らかではなかった。
【0009】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、熱処理による軸受軌道輪の変形を抑制可能な、積層体及び軸受軌道輪の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の上記目的は、下記の構成により達成される。
(1) 表裏方向に積み重ねられた複数のバスケットと、
前記複数のバスケットが載置されるトレイと、
を備える積層体であって、
前記バスケットは、軸受軌道輪となる複数の環状部材を載置可能なバスケット載置部を有し、
前記トレイは、前記環状部材を載置可能なトレイ載置部を有し、
前記バスケット載置部及び前記トレイ載置部は、複数の六角柱形状の貫通孔が前記バスケット及び前記トレイの表裏方向に貫通したハニカム形状を有し、
前記バスケット載置部のハニカム形状を構成する前記貫通孔を表裏方向から見た六角形状と、前記トレイ載置部のハニカム形状を構成する前記貫通孔を表裏方向から見た六角形状と、は同一寸法である
ことを特徴とする積層体。
(2) 前記バスケット載置部のハニカム形状と、前記トレイ載置部のハニカム形状とは、表裏方向から見て複数の貫通孔同士が重なり合うように、位相が揃えられている、
(1)に記載の積層体。
(3) 前記トレイ載置部の表裏方向の厚さは、前記バスケット載置部の表裏方向の厚さよりも、大きい、
(1)に記載の積層体。
(4) 前記バスケット載置部の表裏方向の厚さは、前記貫通孔を表裏方向から見た六角形状の対辺寸法以上である、
(1)に記載の積層体。
(5) 前記トレイ載置部の表裏方向の厚さは、前記貫通孔を表裏方向から見た六角形状の対辺寸法の二倍以上である、
(1)に記載の積層体。
(6) 軸受軌道輪の製造方法であって、
(1)~(5)のいずれかに記載の積層体において、前記環状部材を少なくとも前記バスケット載置部に載置する環状部材載置工程と、
前記積層体を加熱炉の内部に配置する積層体配置工程と、
前記環状部材を、熱処理する熱処理工程と、
を含む、軸受軌道輪の製造方法。
(7) 前記環状部材載置工程において、前記環状部材を、前記バスケット載置部と前記トレイ載置部とに載置する、
(6)に記載の軸受軌道輪の製造方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、熱処理による軸受軌道輪の変形を抑制可能な、積層体及び軸受軌道輪の製造方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】実施形態において、複数の環状部材をバスケット上又はトレイ上に配置した状態を示す上面図である。
【
図7】比較例において、複数の環状部材をバスケット上に配置した状態を示す上面図である。
【
図9】
図8において冷却部を左右方向から見た図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態に係る積層体、及び軸受軌道輪の製造方法について説明する。なお、以降の説明では、軸受軌道輪を単に「軌道輪」とも称する。
【0014】
軌道輪の製造方法は、軌道輪となる環状部材1を用意する環状部材用意工程と、環状部材1を少なくともバスケット10上に配置する環状部材配置工程と、複数のバスケット10と複数のバスケット10が載置されるトレイ80で構成される積層体100を加熱炉20の内部に配置する積層体配置工程と、積層体100に収容された環状部材1を熱処理する熱処理工程と、熱処理工程の後、環状部材1を研削する研削工程と、を含む。
【0015】
なお、後述するように複数の環状部材1は、バスケット10上のみならず、トレイ80上に載置しても構わない。この場合、バスケット10に加えてトレイ80にも環状部材1が載置された状態で、積層体100が加熱炉20の内部に配置されて(積層体配置工程)、複数の環状部材1の熱処理が行われる(熱処理工程)。
【0016】
(環状部材用意工程)
軌道輪(内輪または外輪)となる環状部材1を用意する工程においては、軌道輪となる素材の環状部材1を用意する。環状部材1の素材としては、浸炭処理、窒化処理、浸炭窒化処理などにより表面硬化層を形成しやすいように、肌焼き鋼が好ましい。また、焼入れ性を向上させるために、環状部材1にはCrやMn等を合金成分として添加することも好ましい。
【0017】
(環状部材配置工程)
図1は、実施形態において、複数の環状部材をバスケット上又はトレイ上に配置した状態を示す上面図である。
図1には、バスケット又はトレイの形状が簡略化して示されている。環状部材1を用意した後、
図1に示されるように、環状部材配置工程において、複数の環状部材1をバスケット10上に配置する。なお、
図1に示されるように、複数の環状部材1は、バスケット10上のみならず、トレイ80上に載置しても構わない。
【0018】
ここで、バスケット10及びトレイ80によって構成される積層体100について
図2~
図6を参照して説明する。
図2は、積層体の断面矢視図である。
図3は、バスケットの下面図である。
図4は、
図3のA-A断面図である。
図5は、トレイの下面図である。
図6は、
図5のB-B断面矢視図である。
【0019】
図2に示すように、積層体100は、表裏方向(
図2の上下方向)に積み重ねられた複数のバスケット10と、複数のバスケット10が表面側に載置されるトレイ80と、を備える。
図2において、上側がバスケット10及びトレイ80の表面側であり、下側がバスケット10及びトレイ80の裏面側である。一方、
図4及び
図6においては、上側がバスケット10及びトレイ80の裏面側であり、下側がバスケット10及びトレイ80の表面側である。
【0020】
バスケット10及びトレイ80は、鋳造等によって作製され、これらの材料としては、SCH22等の耐熱鋼が例示される。
【0021】
図3及び
図4に示すように、バスケット10は、表裏方向に対して略垂直に延び、環状部材1を載置可能なバスケット載置部11と、バスケット載置部11の外周縁を支持するバスケット外周部13と、を有する。バスケット載置部11とバスケット外周部13とは一体成形される。
【0022】
バスケット載置部11は、複数の六角柱形状の貫通孔15がバスケット10の表裏方向(厚み方向)に貫通したハニカム形状を有する。バスケット載置部11のハニカム形状は、表裏方向に延びる複数の平板部16が連続的に接続することで形成されている。そして、6個の平板部16に囲まれる部分に、六角柱形状の貫通孔15が形成される。
【0023】
バスケット載置部11の外周縁に形成された平板部16は、バスケット外周部13と接続する。バスケット載置部11の外周縁においては、バスケット外周部13と5つの平板部16とで囲まれる部分には六角柱形状の貫通孔15が形成され、バスケット外周部13と4つの平板部16とで囲まれる部分には五角柱形状の貫通孔15が形成され、バスケット外周部13と3つの平板部16とで囲まれる部分には四角柱形状の貫通孔15が形成される。
【0024】
このように、バスケット載置部11がハニカム形状を有するので、バスケット10の表裏方向(厚み方向)における変形や、表裏方向に対して垂直方向である平面方向の変形が、効果的に抑制される。特に、バスケット10の平面方向の変形が抑制されるので、バスケット10の運搬時(積層体100の運搬時)にバスケット外周部13に外力が付与された場合であっても、バスケット10が変形し難い。
【0025】
また、バスケット載置部11の厚さD1は、貫通孔15を表裏方向から見た六角形状の対辺寸法L1以上に設定される(D1≧L1)。ここで、バスケット載置部11の厚さD1は、バスケット載置部11のハニカム形状や貫通孔15の表裏方向の厚さに相当する。また、対辺寸法L1は、ハニカム形状の貫通孔15を構成する6個の平板部16のうち、互いに対向する一対の平板部16の間の距離に相当する。対辺寸法L1としては、例えば、三対の平板部16の間の距離のうち最も大きい一対の平板部16の間の距離を採用してもよい。
【0026】
このように、ハニカム形状を有するバスケット載置部11の厚さD1を厚くすることで、バスケット10の強度を向上できる。また、ハニカム形状(貫通孔15)の厚いので、後述するような焼入れ時に空気や水、油等の加熱媒体及び冷却媒体を整流し、環状部材1を均一に加熱及び冷却することができ、環状部材1の変形を抑制することができる。
【0027】
バスケット外周部13の裏面13aの四つの角部には、それぞれ略L字形状の凸部14が、裏面側に突出するように形成される。
【0028】
図2に示すように、複数のバスケット10が段積みされた場合に、上段のバスケット10の凸部14の先端が、下段のバスケット10のバスケット外周部13の表面13bに当接する。これにより、上段のバスケット10の裏面と、下段のバスケット10の表面と、の間に、環状部材1が配置される空間が形成される。
【0029】
また、複数のバスケット10のうち最下段のバスケット10の凸部14の先端は、トレイ80の後述するトレイ外周部83の表面83bに当接する。これにより、最下段のバスケット10の裏面と、トレイ80の表面と、の間に、環状部材1が配置される空間が形成される。
図2には、バスケット載置部11に加えてトレイ載置部81にも環状部材1が載置された例が示されているが、必ずしもトレイ載置部81には環状部材1が載置されなくてもよい。
【0030】
図5及び
図6に示すように、トレイ80は、表裏方向に対して略垂直に延び、環状部材1を載置可能なトレイ載置部81と、トレイ載置部81の外周縁を支持するトレイ外周部83と、を有する。トレイ載置部81とトレイ外周部83とは一体成形品である。
【0031】
トレイ載置部81は、複数の六角柱形状の貫通孔85がトレイ80の表裏方向(厚み方向)に延びたハニカム形状を有する。トレイ載置部81のハニカム形状は、表裏方向に延びる複数の平板部86が連続的に接続することで形成されている。そして、6個の平板部86で囲まれる部分に、六角柱形状の貫通孔85が形成される。
【0032】
トレイ載置部81の外周縁に形成された平板部86は、トレイ外周部83と接続する。トレイ載置部81の外周縁においては、トレイ外周部83と5つの平板部86とで囲まれる部分には六角柱形状の貫通孔85が形成され、トレイ外周部83と4つの平板部86とで囲まれる部分には五角柱形状の貫通孔85が形成され、トレイ外周部83と3つの平板部86とで囲まれる部分には四角柱形状の貫通孔85が形成される。
【0033】
このように、トレイ載置部81がハニカム形状を有するので、トレイ80の表裏方向(厚み方向)における変形や、表裏方向に対して垂直方向である平面方向の変形が、効果的に抑制される。特に、トレイ80の平面方向の変形が抑制されるので、トレイ80の運搬時(積層体100の運搬時)にトレイ外周部83に外力が付与された場合であっても、トレイ80が変形し難い。
【0034】
また、トレイ載置部81の厚さD
2は、バスケット載置部11の厚さD
1(
図4参照)よりも大きく、貫通孔85を表裏方向から見た六角形状の対辺寸法L
2の二倍以上に設定される(D
2≧2L
2)。ここで、トレイ載置部81の厚さD
2は、トレイ載置部81のハニカム形状や貫通孔85の表裏方向の厚さに相当する。また、対辺寸法L
2は、ハニカム形状の貫通孔85を構成する6個の平板部86のうち、互いに対向する一対の平板部86の間の距離に相当する。対辺寸法L
2としては、例えば、三対の平板部86の間の距離のうち最も大きい一対の平板部86の間の距離を採用してもよい。
【0035】
このように、ハニカム形状を有するトレイ載置部81の厚さD2を厚くすることで、トレイ80の強度を向上でき、トレイ80上に多くのバスケット10を積層することが可能となる。また、ハニカム形状(貫通孔85)が厚いので、後述するような焼入れ時に空気や水、油等の加熱媒体及び冷却媒体を整流し、環状部材1を均一に加熱及び冷却することができ、環状部材1の変形を抑制することができる。
【0036】
なお、バスケット外周部13と異なり、トレイ外周部83の裏面83aには、凸部は形成されない。
【0037】
ここで、バスケット載置部11のハニカム形状を構成する貫通孔15を表裏方向から見た六角形状と、トレイ載置部81のハニカム形状を構成する貫通孔85を表裏方向から見た六角形状と、は同一寸法である。すなわち、バスケット載置部11のハニカム形状を構成する貫通孔15と、トレイ載置部81のハニカム形状を構成する貫通孔85とは、表裏方向の厚さD1,D2が異なるのみであり、他の寸法(例えば対辺寸法L1,L2)は互いに同一である。このように、表裏方向から見たバスケット載置部11のハニカム形状とトレイ載置部81のハニカム形状とを同一とすることで、後述するような焼入れ時に、環状部材1を均一に加熱及び冷却することができ、環状部材1の変形を抑制することができる。
【0038】
バスケット載置部11のハニカム形状と、トレイ載置部81のハニカム形状とは、表裏方向から見て複数の貫通孔15,85同士が重なり合うように、位相が揃えられていることが好ましい。すなわち、ある一個のバスケット載置部11の複数の貫通孔15を表裏方向に延長した場合、他のバスケット載置部11の複数の貫通孔15と完全に重なり合うとともに、トレイ載置部81の複数の貫通孔85と完全に重なり合うことが好ましい。この場合、積層体100を表面側から見た場合、バスケット載置部11の複数の貫通孔15とトレイ載置部81の複数の貫通孔85を介して、積層体100の裏側を視認可能である。このようなバスケット載置部11及びトレイ載置部81のハニカム形状の配置関係を採用することで、後述するような焼入れ時に、環状部材1を均一に加熱及び冷却することができ、環状部材1の変形を抑制することができる。
【0039】
なお、バスケット載置部11のハニカム形状と、トレイ載置部81のハニカム形状とは、必ずしも位相が揃えられていなくてもよく、例えば半ピッチずらして配置しても構わない。
【0040】
図1や
図2に示すように、本実施形態においては、複数の環状部材1が互いに接触しないようにバスケット載置部11やトレイ載置部81に配置される。すなわち、隣り合う環状部材1同士の水平方向の最小距離Lは0より大きく設定される(L>0)。
【0041】
また、
図1に示されるように、複数の環状部材1の配置は、千鳥格子状とすることが好ましい。複数の環状部材1をバスケットの所定位置に精度良く設置するために、位置決め部材を用いても良い。千鳥格子状の配置を採用することで、より多くの環状部材1をバスケット10上に配置しつつ、隣り合う環状部材1同士の隙間を確保することができる。
【0042】
なお、複数の環状部材1の配置は、隣り合う環状部材1同士の隙間を確保できれば(L>0)、特に千鳥格子状に限定されず、例えば、碁盤目状(格子状)を採用しても構わない。
【0043】
複数の環状部材1を互いに隙間を有するようにバスケット10上に配置する際には、バスケット10とは別体または一体の治具を使用することで複数の環状部材1の位置決めをしてもよく、バスケット10に凹凸等を設けることで複数の環状部材1の位置決めをしてもよく、位置決めの方法は特に限定されない。
【0044】
図7は、比較例において、複数の環状部材をバスケット上に配置した状態を示す上面図である。
図7に示すように、従来技術においては、バスケット10上に複数の環状部材1が隙間無く詰め込まれていた。隣り合う環状部材1が接触するように隙間なく詰め込むことは、生産性を考慮すると通常のことである。すなわち、複数の環状部材1が隙間無く詰め込まれる場合、一回で生産できる軌道輪の数を多くできるとともに、配置する作業も非常に簡便であった。このような従来技術においては、熱処理後に環状部材1に楕円変形が発生してしまうが、取り代を多くして後の研削工程で環状部材1の真円度を確保していた。したがって、従来においては、環状部材1の楕円変形をそれほど憂慮する傾向にはなかった。しかし、実際には、研削工程で環状部材1の真円度を確保するためには多くの時間とコストがかかっていた。
【0045】
本願の発明者は、バッチ式加熱炉を用いて環状部材1を熱処理した場合、上記従来技術の方法では環状部材1に楕円変形が生じて真円度が悪化することに着目し、この楕円変形ならびに真円度の悪化は、隣り合う環状部材1同士が互いに接触したまま熱処理(特に焼入れ時の冷却)されることが原因であることを突き止めた。そこで、上述の通り、複数の環状部材1を互いに接触しないように配置することに思い至った。
【0046】
(積層体配置工程)
次に、複数の環状部材1を配置した積層体100を、加熱炉20の内部に配置する積層体配置工程を説明する。
図8は、加熱炉の概略断面図である。
【0047】
図8に示されるように、加熱炉20は、バッチ式加熱炉であり、積層体100が搬入される搬入部30と、複数の環状部材1を加熱するための加熱部40と、複数の環状部材1を冷却するための冷却部50と、搬入部30と加熱部40の間および搬入部30と冷却部50との間においてバスケット10を搬送するための搬送部60と、を備える。なお、
図8においては、冷却部50に設けられる循環装置55の図示が省略されている。循環装置55については、
図9を用いて後述する。
【0048】
搬入部30、加熱部40、冷却部50、および搬送部60のそれぞれは、積層体100を移動させるための複数のローラー31,41,51,61と、ローラー31,41,51,61を支持する基台33,43,53,63と、を有する。
【0049】
搬入部30と搬送部60との間には、開閉可能な第一扉71が設けられ、搬送部60と加熱部40との間には、開閉可能な第二扉73が設けられる。
【0050】
加熱部40は、加熱部40内を加熱するためのバーナ45と、加熱部40内の雰囲気を撹拌するためのファン47と、を備える。
【0051】
冷却部50の基台53と搬送部60の基台63とは、互いに連結されており、上方に設けられたシリンダ65によって、一体的に上下方向に移動可能とされている。
【0052】
冷却部50は、冷却液が貯留された液槽であり、本例では、冷却油Oが貯留された油槽である。なお、冷却液は、冷却油に限定されず、水や水溶液等でも構わない。冷却部50内に配置された積層体100の全体が冷却油O内に液浸されるように、冷却油Oの液面の高さは設定される。
【0053】
図9に示されるように、冷却部50は、油槽内で冷却油を循環させる循環装置55を備える。
図9は、
図8において冷却部50を左右方向から見た図である。循環装置55は、基台53の両側方に配置され、上下方向への冷却油Oの流れを生成する一対のスクリュー56と、一対のスクリュー56をそれぞれ外側から囲み、一対のスクリュー56による冷却液の流れを案内する一対の案内部材57と、を備える。
【0054】
したがって、一対のスクリュー56近辺において下方向への冷却油Oの流れが生成された場合、基台53に載置された積層体100には上方向に冷却油Oが通過する(
図9中の破線の矢印を参照)。一方、一対のスクリュー56近辺において上方向への冷却油Oの流れが生成された場合には、基台53に載置された積層体100には下方向に冷却油Oが通過する。
【0055】
このような加熱炉20の内部に積層体100を配置する際には、先ず、搬入部30の基台33(ローラー31)上に、複数の環状部材1をそれぞれ収容した複数のバスケット10が、トレイ80上に積み重ねられる。図示の例では、9個のバスケット10が、トレイ80上に、積み重ねられている。なお、トレイ80にも複数の環状部材1を収容しても構わない。
【0056】
次に、第一扉71が開けられ、積層体100が搬送部60の基台63上まで移動され、第一扉71が閉められる。そして、第二扉73が開けられ、積層体100が加熱部40の基台43上まで移動され、第二扉73が閉められる。このようにして、複数の環状部材1を収容した積層体100が、加熱部40内に配置される。
【0057】
(熱処理工程)
積層体100に収容された複数の環状部材1を熱処理する熱処理工程では、焼入れ(加熱および冷却)を行った後、焼戻し(加熱および冷却)の熱処理を行う。
【0058】
なお、環状部材1には、浸炭処理、窒化処理、または浸炭窒化処理により、表面硬化層を形成することが好ましい。なぜなら、本実施形態の環状部材1のように楕円変形が抑制される場合、表面硬化層を周方向に均一に研削できるため、環状部材1の表面にムラの少ない硬化層を形成できるからである。なお、浸炭処理、窒化処理、または浸炭窒化処理は、900~1000℃で炭素や窒素のガス雰囲気中に数時間~数十時間保持されることにより行われる。これにより、所望の表面硬化層を得ることができる。
【0059】
加熱部40内に配置された複数の環状部材1には、焼入れ(加熱)が行われる。なお、複数の環状部材1には、ズブ焼入れを施すことが好ましい。なお、ズブ焼入れの条件は、焼入れ温度800~850℃での油冷である。
【0060】
次に、シリンダ65を駆動することで冷却部50の基台53、および一体の基台63を上昇させ、搬入部30の基台33および加熱部40の基台43と同一の高さに位置させる。そして、複数の環状部材1の焼入れ(加熱)が完了した後、第二扉73が開けられ、積層体100が冷却部50の基台53まで移動される。そして、積層体100が冷却油O内に浸漬されるように、冷却部50の基台53が下降させられる。
【0061】
上述したように、一対のスクリュー56によって、積層体100のバスケット載置部11及びトレイ載置部81には、ハニカム形状を構成する複数の貫通孔15,85を介して上方向または下方向に冷却油Oが通過する。なお、焼入れ(冷却)は、60~100℃の冷却油Oを攪拌することで行われる。
【0062】
ここで、加熱炉20はバッチ式加熱炉であり、上述の構成を有するので、積層体100において複数の環状部材1の配置が維持されたまま焼入れ(加熱)および焼入れ(冷却)が行われる。すなわち、複数の環状部材1は、
図1に示されたように、互いに接触しないように千鳥格子状に積層体100上に配置されたまま、その配置が維持された状態で(複数の環状部材1が動くこと無く)、搬入部30、加熱部40、冷却部50、搬送部60の間を移動する。
【0063】
したがって、冷却部50において、複数の環状部材1に焼入れ(冷却)が行われる際にも、複数の環状部材1は互いに接触しないように積層体100上に配置されている。これにより、隣り合う環状部材1の間を、冷却油Oが上下方向に流れるので、環状部材1に対する冷却が均一となる。一方で、冷却油Oが左右方向(両側、片側)に流れる場合は、環状部材1を配置する場所によって冷却油の流速の差によって冷却に差ができて、同一バスケット内の環状部材全てが均一に冷却されず環状部材1の変形が大きくなる。本実施形態のように、冷却油Oが上下方向に流れると、環状部材1の一部のみが冷却されて他の部分が冷却されない等の不具合は起こらず、環状部材1の全体が均一に冷却される。
【0064】
本願発明者は、この焼入れ(冷却)時に、環状部材1を均一に冷却できるか否かが、熱処理後の環状部材の楕円変形(真円度の悪化)に関係していることを突き止めた。すなわち、焼入れ(冷却)時に、環状部材1同士が接触している部分は十分に冷却されない一方で、環状部材1同士が接触していない部分は冷却されるという冷却の不均一さが、熱処理後の環状部材1の楕円変形の原因であることに発見した。そして、環状部材1を均一に冷却するために、複数の環状部材1を互いに接触しないように積層体100上に配置する構成に思い至った。
【0065】
なお、上記のような複数の環状部材1の配置は、積層体100上の複数の環状部材1の配置が維持されたまま焼入れ(加熱)および焼入れ(冷却)が行われる場合、すなわち、バッチ式加熱炉20を用いる場合、に特に好適である。バッチ式加熱炉20では、加熱炉20内に環状部材1が搬入される前の環状部材配置工程から、バスケット配置工程および熱処理工程まで、積層体100上の複数の環状部材1の配置が維持されるので、環状部材配置工程時の複数の環状部材1の配置が非常に重要となる。
【0066】
これに対し、連続式の加熱炉では、複数の環状部材1の配置が焼入れ(加熱)と焼入れ(冷却)とで異なることがある。すなわち、焼入れ(冷却時)に、複数の環状部材1がそれぞれ個別に、冷却油が貯留された油槽に投入される。この場合、複数の環状部材1の配置は維持されない。このような場合、複数の環状部材1を互いに接触しないように並べて焼入れ(加熱)しても、焼入れ(冷却時)に環状部材1同士が接触し、環状部材1に楕円変形が生じる可能性がある。
【0067】
また、上述の通り、バスケット載置部11のハニカム形状を構成する貫通孔15を表裏方向から見た六角形状と、トレイ載置部81のハニカム形状を構成する貫通孔85を表裏方向から見た六角形状と、は同一寸法であるので、焼入れ時に、環状部材1を均一に加熱及び冷却することができ、環状部材1の変形を抑制することができる。
【0068】
また、バスケット載置部11のハニカム形状と、トレイ載置部81のハニカム形状とは、表裏方向から見て複数の貫通孔15,85同士が重なり合うように、位相が揃えられているので、焼入れ時に、環状部材1を均一に加熱及び冷却することができ、環状部材1の変形を抑制することができる。
【0069】
また、トレイ載置部81の厚さD2は、バスケット載置部11の厚さD1よりも大きいので、ハニカム形状を有するトレイ載置部81の厚さD2が厚くなり、焼入れ時に空気や水、油等の加熱媒体及び冷却媒体を整流する効果が高まり、環状部材1を均一に加熱及び冷却することができ、環状部材1の変形を抑制することができる。
【0070】
また、バスケット載置部11の厚さD1は、貫通孔15を表裏方向から見た六角形状の対辺寸法L1以上に設定される(D1≧L1)ので、ハニカム形状(貫通孔15)の厚さが厚くなり、焼入れ時に空気や水、油等の加熱媒体及び冷却媒体を整流し、環状部材1を均一に加熱及び冷却することができ、環状部材1の変形を抑制することができる。
【0071】
また、トレイ載置部81の厚さD2は、貫通孔85を表裏方向から見た六角形状の対辺寸法L2の二倍以上に設定される(D2≧2L2)ので、ハニカム形状(貫通孔85)の厚さが厚くなり、焼入れ時に空気や水、油等の加熱媒体及び冷却媒体を整流し、環状部材1を均一に加熱及び冷却することができ、環状部材1の変形を抑制することができる。
【0072】
以上のように、焼入れ(冷却)が行われた後、再度、積層体100を搬入部30の基台33まで移動させ、さらに不図示の焼戻し炉に移動させ、複数の環状部材1の焼戻し(加熱および冷却)が行われる。なお、焼戻しは、150~300℃で1~2時間行われる。
【0073】
(研削工程)
熱処理工程の後、環状部材1を研削する研削工程が行われる。研削工程では環状部材1の内径面及び外径面が研削され、軸受軌道輪が製造される。本願の製造方法によれば、熱処理による環状部材1の楕円変形が抑えられ、環状部材1の真円度も良好であるので、研削工程で必要な研削量を少なくでき、研削工程の回数を少なくできるので、大きなコスト削減効果がある。
【0074】
そして、上記方法によって完成した軸受軌道輪を、転動体や保持器とともに組み立てて、軸受を構成することができる。
【0075】
以上説明したように、本明細書には、以下の内容が開示されている。
(1) 表裏方向に積み重ねられた複数のバスケットと、
前記複数のバスケットが載置されるトレイと、
を備える積層体であって、
前記バスケットは、軸受軌道輪となる複数の環状部材を載置可能なバスケット載置部を有し、
前記トレイは、前記環状部材を載置可能なトレイ載置部を有し、
前記バスケット載置部及び前記トレイ載置部は、複数の六角柱形状の貫通孔が前記バスケット及び前記トレイの表裏方向に貫通したハニカム形状を有し、
前記バスケット載置部のハニカム形状を構成する前記貫通孔を表裏方向から見た六角形状と、前記トレイ載置部のハニカム形状を構成する前記貫通孔を表裏方向から見た六角形状と、は同一寸法である
ことを特徴とする積層体。
(2) 前記バスケット載置部のハニカム形状と、前記トレイ載置部のハニカム形状とは、表裏方向から見て複数の貫通孔同士が重なり合うように、位相が揃えられている、
(1)に記載の積層体。
(3) 前記トレイ載置部の表裏方向の厚さは、前記バスケット載置部の表裏方向の厚さよりも、大きい、
(1)又は(2)に記載の積層体。
(4) 前記バスケット載置部の表裏方向の厚さは、前記貫通孔を表裏方向から見た六角形状の対辺寸法以上である、
(1)~(3)のいずれかに記載の積層体。
(5) 前記トレイ載置部の表裏方向の厚さは、前記貫通孔を表裏方向から見た六角形状の対辺寸法の二倍以上である、
(1)~(4)のいずれかに記載の積層体。
(6) 軸受軌道輪の製造方法であって、
(1)~(5)のいずれかに記載の積層体において、前記環状部材を少なくとも前記バスケット載置部に載置する環状部材載置工程と、
前記積層体を加熱炉の内部に配置する積層体配置工程と、
前記環状部材を、熱処理する熱処理工程と、
を含む、軸受軌道輪の製造方法。
(7) 前記環状部材載置工程において、前記環状部材を、前記バスケット載置部と前記トレイ載置部とに載置する、
(6)に記載の軸受軌道輪の製造方法。
【符号の説明】
【0076】
1 環状部材
10 バスケット
11 バスケット載置部
13 バスケット外周部
13a 裏面
13b 表面
14 凸部
16 平板部
20 加熱炉
30 搬入部
40 加熱部
50 冷却部
60 搬送部
80 トレイ
81 トレイ載置部
83 トレイ外周部
83a 裏面
83b 表面
85 貫通孔
86 平板部
100 積層体
D1,D2 厚さ
L1,L2 対辺寸法