IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 三井化学株式会社の特許一覧

特開2024-95580多層二軸延伸フィルムおよびその製造方法
<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024095580
(43)【公開日】2024-07-10
(54)【発明の名称】多層二軸延伸フィルムおよびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   B32B 27/32 20060101AFI20240703BHJP
   B29C 55/12 20060101ALI20240703BHJP
   B65D 65/40 20060101ALI20240703BHJP
   H01G 4/32 20060101ALI20240703BHJP
【FI】
B32B27/32 102
B29C55/12
B65D65/40 D
H01G4/32 511L
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023215155
(22)【出願日】2023-12-20
(31)【優先権主張番号】P 2022212209
(32)【優先日】2022-12-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000005887
【氏名又は名称】三井化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001070
【氏名又は名称】弁理士法人エスエス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】石原 彰太
(72)【発明者】
【氏名】安部 友裕
(72)【発明者】
【氏名】田中 正和
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 豊明
【テーマコード(参考)】
3E086
4F100
4F210
5E082
【Fターム(参考)】
3E086AB01
3E086AD01
3E086AD08
3E086BA04
3E086BA15
3E086BB85
3E086CA01
3E086CA17
3E086CA28
3E086DA08
4F100AK07B
4F100AK07C
4F100AK08A
4F100BA02
4F100BA03
4F100BA07
4F100EH202
4F100EJ38A
4F100EJ38B
4F100EJ38C
4F100GB15
4F100GB41
4F100JA04A
4F100JA06A
4F100JL11
4F100JL12
4F210AA11
4F210AA12
4F210AG01
4F210AG03
4F210AH81
4F210AR06
4F210AR17
4F210AR20
4F210QA08
4F210QC05
4F210QD25
4F210QG01
4F210QG15
4F210QG17
4F210QS10
5E082FF05
5E082FG06
5E082FG35
(57)【要約】
【課題】高倍率で延伸した場合であっても、破れ等が生じ難く、また、耐熱性、特にヒートシール耐性(ヒートシール時に低収縮)に優れる多層二軸延伸フィルムを提供すること。
【解決手段】A層とB層とを含み、前記A層が、(A1-I)~(A1-III)を満たす重合体(A1)40~60質量%と、(A2-I)~(A2-III)を満たす共重合体(A2)40~60質量%(ただし、(A1)+(A2)=100質量%)とを含有する樹脂組成物を含む、多層二軸延伸フィルム。
(A1-I)4-メチル-1-ペンテン由来の構成単位(U1)の含有率が90~100モル%、構成単位(U1)以外の炭素数3~20のα-オレフィン由来の構成単位(U2)の含有率が0~10モル%
(A1-II)融点が200~250℃
(A1-III)極限粘度が0.5~5.0dl/g
(A2-I)4-メチル-1-ペンテン由来の構成単位(U3)の含有率が65~96モル%、炭素数8~20のα-オレフィン由来の構成単位(U4)の含有率が4~35モル%
(A2-II)融点が観察されないか100~199℃
(A2-III)極限粘度が2.0~6.0dl/g
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
A層とB層とを含み、
前記A層が、下記要件(A1-I)~(A1-III)を満たす4-メチル-1-ペンテン重合体(A1)40~60質量%と、下記要件(A2-I)~(A2-III)を満たす4-メチル-1-ペンテン共重合体(A2)40~60質量%(ただし、重合体(A1)と共重合体(A2)との合計を100質量%とする)とを含有する樹脂組成物を含む、多層二軸延伸フィルム。
(A1-I)4-メチル-1-ペンテンから導かれる構成単位(U1)の含有率が90~100モル%であり、炭素数3~20のα-オレフィン(4-メチル-1-ペンテンを除く)から導かれる構成単位(U2)の含有率が0~10モル%である
(A1-II)DSCで測定した融点(Tm)が200~250℃である
(A1-III)135℃デカリン中で測定した極限粘度[η]Aが0.5~5.0dl/gである
(A2-I)4-メチル-1-ペンテンから導かれる構成単位(U3)の含有率が65~96モル%であり、炭素数8~20のα-オレフィンから導かれる構成単位(U4)の含有率が4~35モル%である
(A2-II)DSCで測定した融点(Tm)が観察されないか100~199℃である
(A2-III)135℃デカリン中で測定した極限粘度[η]Bが2.0~6.0dl/gである
【請求項2】
前記構成単位(U2)が炭素数8~20のα-オレフィンから導かれる構成単位である、請求項1に記載の多層二軸延伸フィルム。
【請求項3】
前記B層が2つ以上の層を含む、請求項1または2に記載の多層二軸延伸フィルム。
【請求項4】
前記B層がポリプロピレン層を含む、請求項1または2に記載の多層二軸延伸フィルム。
【請求項5】
前記B層が2つ以上の層を含み、該2つ以上の層が、すべて同一の樹脂を含む層である、請求項1または2に記載の多層二軸延伸フィルム。
【請求項6】
延伸面倍率が30~100倍である、請求項1または2に記載の多層二軸延伸フィルム。
【請求項7】
包装用フィルム、フィルムコンデンサ用フィルム、キャパシタフィルムまたは燃料電池用フィルムである、請求項1または2に記載の多層二軸延伸フィルム。
【請求項8】
前記A層およびB層となる層を含む原反フィルムを得る工程(1)と、
前記原反フィルムを30~100倍の面倍率で延伸する工程(2)とを含み、
前記延伸工程(2)が、3~10倍でMD方向に延伸する工程と、3~10倍でTD方向に延伸する工程とを含む、
請求項1または2に記載の多層二軸延伸フィルムの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は多層二軸延伸フィルムおよびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
建材用や光学用等の樹脂製品、金属製品、ガラス製品等は表面に表面保護フィルムを貼り付け、輸送、保管や加工による表面の傷や異物混入等を防ぐことが一般的である。表面保護フィルムには、柔軟性、機械特性等の性質のほか、保護対象、保護目的、使用環境等に応じて種々の特性が求められる。このため様々な観点から表面保護フィルムの開発が進められている。例えば、ポリエチレン成分を主体とした表面保護フィルム(特許文献1)や、ポリプロピレン成分を主体とした4-メチル-1-ペンテンと1-デセンとのオリゴマーを含む樹脂組成物の表面保護フィルムが検討されている(特許文献2)。
【0003】
二軸延伸ポリプロピレンフィルムは、軽量性、熱的安定性および機械特性に優れているため、包装用、工業用等の材料フィルムとして広く用いられている。しかし、二軸延伸ポリプロピレンフィルムを包装用フィルムとして用いる場合、耐熱性、特に、ヒートシールを行った時に収縮しやすい傾向があり、さらなる改良が要望されていた。
また、二軸延伸ポリプロピレンフィルムは、耐電圧特性にも優れているため、フィルムコンデンサ等の用途における誘電フィルムとしても好ましく用いられている。しかし、誘電フィルムに対しては、さらなる高温、長期課電時における耐久性の向上などの要求が厳しくなってきており、包装用フィルムと同様にさらなる改良が要望されていた。
【0004】
耐熱性や電気特性に優れるフィルムを得るために、ポリメチルペンテン重合体を用いる試みが種々なされており、例えば、ポリプロピレンにポリメチルペンテン重合体を組み合わせる試みも種々なされてきた。しかしながら、ポリメチルペンテンの含有量を増やすことで二軸延伸性が悪化すること、および、多層フィルムとした場合にデラミ(層間剥離)することが知られている。この問題点を克服するための試みも種々なされている。
【0005】
例えば、特許文献3には、4-メチル-1-ペンテン系重合体とポリプロピレンとを含むA層と、ポリプロピレンを含むB層とを含む多層二軸延伸フィルムが開示されており、この多層二軸延伸フィルムにつき、デラミを抑制できたこと、および、良好な離型性を有することも開示されている。
【0006】
また、特許文献4には、2種類の4-メチル-1-ペンテン系重合体を含む層と、ポリプロピレンを含む層とを含む多層二軸延伸フィルムが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2006-116769号公報
【特許文献2】特開2010-275340号公報
【特許文献3】特開2018-144351号公報
【特許文献4】特開2019-001139号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
前記従来の多層二軸延伸フィルムには、高倍率で延伸したフィルムを作製しようとすると、4-メチル-1-ペンテン系重合体を含む層に破れが生じる場合や、耐熱性、特に、ヒートシールを行った際に収縮しやすい傾向があり、さらなる改良の余地があることが分かった。
【0009】
本発明は以上のことに鑑みてなされたものであり、高倍率で延伸した場合であっても、破れ等が生じ難く、また、耐熱性、特にヒートシール耐性(ヒートシール時に低収縮)に優れる多層二軸延伸フィルムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは前記課題を解決すべく鋭意検討した。その結果、下記構成例によれば前記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。本発明の構成例は、以下の通りである。
【0011】
[1] A層とB層とを含み、
前記A層が、下記要件(A1-I)~(A1-III)を満たす4-メチル-1-ペンテン重合体(A1)40~60質量%と、下記要件(A2-I)~(A2-III)を満たす4-メチル-1-ペンテン共重合体(A2)40~60質量%(ただし、重合体(A1)と共重合体(A2)との合計を100質量%とする)とを含有する樹脂組成物を含む、多層二軸延伸フィルム。
(A1-I)4-メチル-1-ペンテンから導かれる構成単位(U1)の含有率が90~100モル%であり、炭素数3~20のα-オレフィン(4-メチル-1-ペンテンを除く)から導かれる構成単位(U2)の含有率が0~10モル%である
(A1-II)DSCで測定した融点(Tm)が200~250℃である
(A1-III)135℃デカリン中で測定した極限粘度[η]Aが0.5~5.0dl/gである
(A2-I)4-メチル-1-ペンテンから導かれる構成単位(U3)の含有率が65~96モル%であり、炭素数8~20のα-オレフィンから導かれる構成単位(U4)の含有率が4~35モル%である
(A2-II)DSCで測定した融点(Tm)が観察されないか100~199℃である
(A2-III)135℃デカリン中で測定した極限粘度[η]Bが2.0~6.0dl/gである
【0012】
[2] 前記構成単位(U2)が炭素数8~20のα-オレフィンから導かれる構成単位である、[1]に記載の多層二軸延伸フィルム。
【0013】
[3] 前記B層が2つ以上の層を含む、[1]または[2]に記載の多層二軸延伸フィルム。
【0014】
[4] 前記B層がポリプロピレン層を含む、[1]~[3]の何れかに記載の多層二軸延伸フィルム。
【0015】
[5] 前記B層が2つ以上の層を含み、該2つ以上の層が、すべて同一の樹脂を含む層である、[1]~[4]の何れかに記載の多層二軸延伸フィルム。
【0016】
[6] 延伸面倍率が30~100倍である、[1]~[5]の何れかに記載の多層二軸延伸フィルム。
【0017】
[7] 包装用フィルム、フィルムコンデンサ用フィルム、キャパシタフィルムまたは燃料電池用フィルムである、[1]~[6]の何れかに記載の多層二軸延伸フィルム。
【0018】
[8] 前記A層およびB層となる層を含む原反フィルムを得る工程(1)と、
前記原反フィルムを30~100倍の面倍率で延伸する工程(2)とを含み、
前記延伸工程(2)が、3~10倍でMD方向に延伸する工程と、3~10倍でTD方向に延伸する工程とを含む、
[1]~[7]の何れかに記載の多層二軸延伸フィルムの製造方法。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、高倍率で延伸した場合であっても、破れ等が生じ難く、また、耐熱性、特にヒートシール耐性(ヒートシール時に低収縮)に優れる多層二軸延伸フィルムを提供することができる。
また、本発明によれば、良好な耐熱性と良好なシール外観とを兼ね備え、良好な透明性を有し、良好な延伸性を有し、かつ、デラミ(層間剥離)し難い多層二軸延伸フィルムを提供することもできる。
さらに、本発明の一実施形態によれば、電気特性(特に破壊電圧)に優れる多層二軸延伸フィルムを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0020】
ここで、本明細書において、「重合体」なる表現は、別途の記載がない限り、単独重合体および共重合体を包括する意味で用いられる。
また、本明細書において、「~」を用いて表される数値範囲は、「~」の前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む範囲を意味する。
【0021】
本明細書において、あるモノマーXに関し、「Xから導かれる構成単位」とは、当該モノマーXに対応する構成単位を意味し、例えば、モノマーXの構造をRPQC=CRRSとする場合、「Xから導かれる構成単位」としては、-CRPQ-CRRS-で表される構造が挙げられる。例えば、「4-メチル-1-ペンテンから導かれる構成単位」という時は、4-メチル-1-ペンテンに対応する構成単位(すなわち、-CH2-CH(-CH2CH(CH32)-で表される構成単位)を意味する。
【0022】
また、本明細書において、組成物中の各成分の量について言及する場合、組成物中に各成分に該当する物質が複数存在する場合には、特に断らない限り、組成物中に存在する複数の物質の合計量を意味する。
なお、以下の説明において各種物性を記載するが、該各種物性の測定条件の詳細は実施例の欄に記載する。
【0023】
本発明に係る多層二軸延伸フィルムを構成する各成分(例:重合体(A1)、共重合体(A2)、下記その他の成分、ポリプロピレン(B))は、その原料として、バイオマス由来の原料のみを用いた成分でもよく、化石燃料由来の原料のみを用いた成分でもよく、バイオマス由来の原料と化石燃料由来の原料との両方を用いた成分でもよい。
【0024】
≪多層二軸延伸フィルム≫
本発明に係る多層二軸延伸フィルム(以下「本フィルム」ともいう。)は、B層と、下記特定のA層とを含む。
なお、本明細書では、フィルムとシートとは特に区別しているわけではなく、膜(板)状体を総称してフィルムという。
【0025】
例えば、ポリプロピレン層を用いる場合、該ポリプロピレン層からなるフィルムでは、高倍率で延伸することは可能であるが、ポリプロピレン層からなるフィルムは、ヒートシール時に収縮しやすかった。
また、従来の4-メチル-1-ペンテン重合体層は、高倍率で延伸が困難なため、該4-メチル-1-ペンテン重合体層を含む多層フィルムを高倍率で延伸することは困難であった。
一方、本フィルムは、前記B層として、ポリプロピレン層を用いた場合であっても、耐熱性および延伸性に優れる特定のA層を含むため、高倍率で延伸した場合であっても、破れ等が生じ難く、また、電気特性、耐熱性、特にヒートシール耐性(ヒートシール時に低収縮)に優れる本フィルムを得ることができる。
また、前記A層に含まれる重合体(A1)および共重合体(A2)はいずれも4-メチル-1-ペンテンから導かれる構成単位を含有するため、該重合体(A1)と共重合体(A2)とは相容性に優れ、ヘイズに優れるA層を得ることができる。
【0026】
<A層>
前記A層は、下記4-メチル-1-ペンテン重合体(A1)(以下「重合体(A1)」ともいう。)40~60質量%と、下記4-メチル-1-ペンテン共重合体(A2)(以下「共重合体(A2)」ともいう。)40~60質量%(ただし、重合体(A1)と共重合体(A2)の合計を100質量%とする。)とを含む樹脂組成物を含む。
前記A層は、前記樹脂組成物を含む層であれば特に制限されないが、前記樹脂組成物(のみ)からなる層であることが好ましい。
【0027】
前述の通り、A層は、重合体(A1)に加えて、共重合体(A2)を含むことにより、多層二軸延伸フィルムとした時に、柔軟で延伸性が良好となり、かつ耐熱性にも優れ、また、得られる多層二軸延伸フィルムをヒートシールに供した時の外観にも優れる。
【0028】
A層は、単一の層からなってもよく、2つ以上の層からなってもよいが、単一の層からなることが好ましい。A層が2つ以上の層からなる場合、当該2つ以上の層は、同一の層であってもよく、異なる層であってもよい。
【0029】
[重合体(A1)]
重合体(A1)は、下記要件(A1-I)~(A1-III)を満たす。
重合体(A1)は、4-メチル-1-ペンテンの単独重合体であってもよく、4-メチル-1-ペンテンと炭素数3~20のα-オレフィン(4-メチル-1-ペンテンを除く)とを用いた共重合体であってもよいが、後者であることが好ましい。
前記樹脂組成物に用いる重合体(A1)は、1種でもよく、2種以上でもよい。
【0030】
(A1-I)4-メチル-1-ペンテンから導かれる構成単位(U1)の含有率が90~100モル%であり、炭素数3~20のα-オレフィン(4-メチル-1-ペンテンを除く)から導かれる構成単位(U2)の含有率が0~10モル%である。
(A1-II)DSCで測定した融点(Tm)が200~250℃である。
(A1-III)135℃デカリン中で測定した極限粘度[η]Aが0.5~5.0dl/gである。
【0031】
重合体(A1)における、構成単位(U1)の含有率は、90~100モル%であり、好ましくは92~99.9モル%、より好ましくは94~99.9モル%、さらに好ましくは95~99.9モル%である。
また、重合体(A1)における、構成単位(U2)の含有率は、0~10モル%であり、好ましくは0.1~8モル%、より好ましくは0.1~6モル%、さらに好ましくは0.1~5モル%である。
但し、前記構成単位(U1)および(U2)の合計を100モル%とする。なお、この100モル%とは、重合体(A1)を構成する全構成単位100モル%を意味するものではない。
【0032】
前記構成単位(U2)における炭素数3~20のα-オレフィンは、4-メチル-1-ペンテン以外の炭素数3~20のα-オレフィンであれば特に制限されないが、具体例としては、プロピレン、1-ブテン、1-ペンテン、1-ヘキセン、1-オクテン、1-デセン、1-ドデセン、1-テトラデセン、1-ヘキサデセン、1-ヘプタデセン、1-オクタデセン、1-エイコセンが挙げられる。これらの中でも、A層がより高延伸倍率で延伸可能であり、また延伸後も高透明性を維持できる等の点から、炭素数8~20の直鎖状α-オレフィンが好ましく、炭素数10~20の直鎖状α-オレフィンがさらに好ましい。具体的には、1-オクテン、1-デセン、1-テトラデセン、1-ヘキサデセン、1-オクタデセンが好ましく、1-デセン、1-テトラデセン、1-ヘキサデセン、1-オクタデセンが特に好ましい。
【0033】
重合体(A1)は、構成単位(U2)を1種のみ有していてもよく、2種以上有していてもよい。
【0034】
重合体(A1)は、本発明の目的を損なわない範囲で、4-メチル-1-ペンテンおよび炭素数3~20のα-オレフィン以外の他の重合性化合物から導かれる構成単位をさらに有していてもよい。
重合体(A1)は、該他の重合性化合物から導かれる構成単位を1種のみ有していてもよく、2種以上有していてもよい。
【0035】
該他の重合性化合物としては、例えば、スチレン、ビニルシクロペンテン、ビニルシクロヘキサン、ビニルノルボルナン等の環状構造を有するビニル化合物;酢酸ビニル等のビニルエステル;無水マレイン酸等の不飽和有機酸またはその誘導体;ブタジエン、イソプレン、ペンタジエン、2,3-ジメチルブタジエン等の共役ジエン;1,4-ヘキサジエン、1,6-オクタジエン、2-メチル-1,5-ヘキサジエン、6-メチル-1,5-ヘプタジエン、7-メチル-1,6-オクタジエン、ジシクロペンタジエン、シクロヘキサジエン、ジシクロオクタジエン、メチレンノルボルネン、5-ビニルノルボルネン、5-エチリデン-2-ノルボルネン、5-メチレン-2-ノルボルネン、5-イソプロピリデン-2-ノルボルネン、6-クロロメチル-5-イソプロペニル-2-ノルボルネン、2,3-ジイソプロピリデン-5-ノルボルネン、2-エチリデン-3-イソプロピリデン-5-ノルボルネン、2-プロペニル-2,2-ノルボルナジエン等の非共役ポリエンが挙げられる。
【0036】
重合体(A1)において、前記他の重合性化合物から導かれる構成単位の含有割合は、重合体(A1)を構成する全構成単位100モル%に対し、通常10モル%以下、好ましくは5モル%以下、より好ましくは3モル%以下である。
【0037】
重合体(A1)の示差走査熱量計(DSC)で測定した融点(Tm)は、200~250℃であり、好ましくは200℃~245℃、より好ましくは210℃~240℃である。
融点が前記範囲にある重合体(A1)は、耐熱性および成形性等の点から好ましい。
融点は、重合体(A1)の立体規則性および構成単位(U2)の含有割合に依存する傾向がある。
【0038】
重合体(A1)の、135℃のデカリン中で測定した極限粘度[η]Aは、0.5~5.0dl/gであり、好ましくは1.0~4.0dl/g、より好ましくは1.2~3.5dl/gである。
[η]Aが前記範囲にある重合体(A1)は、樹脂組成物の調製時や成形時において良好な流動性を示し、さらに共重合体(A2)と組み合わせた場合に延伸性の向上に寄与すると考えられる。
【0039】
前記樹脂組成物における重合体(A1)の含有量は、重合体(A1)と共重合体(A2)との合計100質量%に対し、40~60質量%であり、好ましくは41~60質量%、より好ましくは43~60質量%、さらに好ましくは43~59質量%である。
重合体(A1)の含有量が前記範囲にあると、特に耐熱性に優れるA層を容易に得ることができる。
【0040】
重合体(A1)は、従来公知の方法、例えば、国際公開第2020/116368号、国際公開第2019/198694号、国際公開第2017/150265号、国際公開第2006/054613号に記載の方法により製造することができる。
【0041】
[共重合体(A2)]
共重合体(A2)は、下記要件(A2-I)~(A2-III)を満たす。
前記樹脂組成物に用いる共重合体(A2)は、1種でもよく、2種以上でもよい。
共重合体(A2)は、下記要件(A2-I)を満たし、特に、下記構成単位(U4)を有するため、このような共重合体(A2)を用いることで、耐熱性、特にヒートシール耐性に優れ、ヒートシール時に収縮し難い本フィルムを容易に得ることができる。
【0042】
(A2-I)4-メチル-1-ペンテンから導かれる構成単位(U3)の含有率が65~96モル%であり、炭素数8~20のα-オレフィンから導かれる構成単位(U4)の含有率が4~35モル%である。
(A2-II)DSCで測定した融点(Tm)が観察されないか100~199℃である。
(A2-III)135℃デカリン中で測定した極限粘度[η]Bが2.0~6.0dl/gである。
【0043】
共重合体(A2)における、構成単位(U3)の含有率は、65~96モル%であり、好ましくは65~95モル%、より好ましくは70~95モル%、さらに好ましくは75~95モル%である。
また、共重合体(A2)における、構成単位(U4)の含有率は、4~35モル%であり、好ましくは5~35モル%、より好ましくは5~30モル%、さらに好ましくは5~25モル%である。
但し、前記構成単位(U3)および(U4)の合計を100モル%とする。なお、この100モル%とは、共重合体(A2)を構成する全構成単位100モル%を意味するものではない。
【0044】
前記構成単位(U4)における炭素数8~20のα-オレフィンは特に制限されないが、具体例としては、1-オクテン、1-デセン、1-ドデセン、1-テトラデセン、1-ヘキサデセン、1-ヘプタデセン、1-オクタデセン、1-エイコセンが挙げられる。これらの中でも、A層がより高延伸倍率で延伸可能であり、また延伸後も高透明性を維持できる等の点から、炭素数8~20の直鎖状α-オレフィンが好ましく、炭素数10~20の直鎖状α-オレフィンがさらに好ましい。具体的には、1-オクテン、1-デセン、1-テトラデセン、1-ヘキサデセン、1-オクタデセンが好ましく、1-デセン、1-テトラデセン、1-ヘキサデセン、1-オクタデセンが特に好ましい。
【0045】
共重合体(A2)は、構成単位(U4)を1種のみ有していてもよく、2種以上有していてもよい。
【0046】
共重合体(A2)は、本発明の目的を損なわない範囲で、4-メチル-1-ペンテンおよび炭素数8~20のα-オレフィン以外の他の重合性化合物から導かれる構成単位をさらに有していてもよい。該他の重合性化合物としては、例えば、前記重合体(A1)の欄で例示した他の重合性化合物と同様の化合物が挙げられる。
共重合体(A2)は、該他の重合性化合物から導かれる構成単位を1種のみ有していてもよく、2種以上有していてもよい。
【0047】
共重合体(A2)において、前記他の重合性化合物から導かれる構成単位の含有割合は、共重合体(A2)を構成する全構成単位100モル%に対し、通常10モル%以下、好ましくは5モル%以下、より好ましくは3モル%以下である。
【0048】
共重合体(A2)の示差走査熱量計(DSC)で測定した融点(Tm)は、観察されないか100~199℃である。
融点が観測されないとは、DSC測定における熱量曲線において結晶溶融ピークが存在しないことを意味する。
融点が観測される場合、共重合体(A2)の融点は、好ましくは110~180℃、より好ましくは110~160℃、さらに好ましくは110~150℃である。
融点が前記範囲にある共重合体(A2)を用いると、延伸性に優れるA層を容易に得ることができる。
【0049】
共重合体(A2)の、135℃のデカリン中で測定した極限粘度[η]Bは、2.0~6.0dl/gであり、好ましくは3.0~5.0dl/g、より好ましくは3.5~5.0dl/gである。
[η]Bが前記範囲にある共重合体(A2)は、樹脂組成物の調製時や成形時において良好な流動性を示し、さらに重合体(A1)と組み合わせた場合に延伸性の向上に寄与すると考えられる。特に、[η]Bが前記下限値以上であると、得られるA層は、延伸性により優れ、また剛性により優れる傾向にある。
【0050】
共重合体(A2)は、前記要件(A2-I)~(A2-III)に加え、下記要件(A2-IV)および/または(A2-V)を満たすことが好ましく、下記要件(A2-IV)および(A2-V)を満たすことがより好ましい。
(A2-IV)構成単位(U2)の含有率(モル%)に対する、構成単位(U4)の含有率(モル%)との比(U4/U2)が、1.0を超えて50.0未満である。
(A2-V)[η]B/[η]Aが、1.0を超えて6.0以下である。
【0051】
前記構成単位(U2)の含有率(モル%)に対する、前記構成単位(U4)の含有率(モル%)との比(U4/U2)は、好ましくは1.0を超えて50.0未満、より好ましくは2.0~40.0、さらに好ましくは3.0~35.0である。
比(U4/U2)が前記範囲にあるということは、共重合体(A2)に含まれる構成単位(U4)の方が、重合体(A1)に含まれる構成単位(U2)よりも多いことを意味する。比(U4/U2)が前記関係にある重合体(A1)および共重合体(A2)を用いることで、得られるA層の延伸性が向上するため好ましい。
【0052】
なお、前記樹脂組成物に、2種以上の重合体(A1)を用いる場合、比(U4/U2)における前記構成単位(U2)の含有率は、用いる2種以上の重合体(A1)の質量比と各重合体(A1)中の構成単位(U2)の含有率との積とする。
例えば、前記樹脂組成物に用いる重合体(A1)として、構成単位(U2)の含有率が5モル%である重合体(A1-a)30質量%と構成単位(U2)の含有率が10モル%である重合体(A1-b)70質量%とを用いる場合、構成単位(U2)の含有率=5×0.30+10×0.70=8.5モル%とする。
前記樹脂組成物に、2種以上の共重合体(A2)を用いる場合の、比(U4/U2)における前記構成単位(U4)の含有率も同様である。
【0053】
前記[η]Aに対する、前記[η]Bの比([η]B/[η]A)は、好ましくは1.0を超えて6.0以下、より好ましくは1.0を超えて5.0以下、さらに好ましくは1.1~4.0である。
【0054】
なお、前記樹脂組成物に、2種以上の重合体(A1)を用いる場合、比([η]B/[η]A)における[η]Aは、用いる2種以上の重合体(A1)の質量比と各重合体(A1)の[η]Aとの積とする。
例えば、前記樹脂組成物に用いる重合体(A1)として、[η]Aが1.0dl/gである重合体(A1-c)30質量%と[η]Aが4.0dl/gである重合体(A1-d)70質量%とを用いる場合、[η]A=1.0×0.30+4.0×0.70=3.1dl/gとする。
前記樹脂組成物に、2種以上の共重合体(A2)を用いる場合の、比([η]B/[η]A)における[η]Bも同様である。
【0055】
前記樹脂組成物における共重合体(A2)の含有量は、重合体(A1)と共重合体(A2)との合計100質量%に対し、40~60質量%であり、好ましくは40~59質量%、より好ましくは40~57質量%、さらに好ましくは41~57質量%である。
共重合体(A2)の含有量が前記範囲にあると、特に延伸性に優れるA層を容易に得ることができ、層間強度に優れ、デラミし難い本フィルムを容易に得ることができる。
【0056】
共重合体(A2)は、従来公知の方法、例えば、国際公開第2020/116368号、国際公開第2019/198694号、国際公開第2017/150265号、国際公開第2006/054613号に記載の方法により製造することができる。
【0057】
[その他の成分]
前記樹脂組成物は、前記重合体(A1)と共重合体(A2)とのみからなる組成物であってもよく、本発明の目的を損なわない範囲で、必要に応じて、前記重合体(A1)および共重合体(A2)以外のその他の成分をさらに含有していてもよい。
前記その他の成分としては、例えば、前記重合体(A1)および共重合体(A2)以外のその他の樹脂および添加剤が挙げられる。
前記樹脂組成物中の前記重合体(A1)および共重合体(A2)の合計含有量は、本発明の効果がより発揮される等の点から、前記樹脂組成物100質量%に対し、好ましくは60質量%以上、より好ましくは70質量%以上であり、上限は100質量%である。
【0058】
・その他の樹脂
前記その他の樹脂としては、例えば、ポリエチレン、ポリ1-ブテン、スチレン系樹脂、エチレン・α-オレフィン共重合体等のポリオレフィン系重合体が挙げられる。
前記その他の樹脂は、1種を用いてもよく、2種以上を用いてもよい。
前記樹脂組成物にその他の樹脂を配合する場合、当該その他の樹脂の配合量は、前記樹脂組成物100質量%に対し、好ましくは40質量%以下、より好ましくは30質量%以下であり、下限は0質量%である。
【0059】
・添加剤
前記添加剤としては、例えば、耐候安定剤、耐熱安定剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤、スリップ防止剤、アンチブロッキング剤、防曇剤、核剤、滑剤、顔料、染料、老化防止剤、塩酸吸収剤、無機または有機の充填剤、発泡剤、架橋剤、架橋助剤、粘着剤、軟化剤、難燃剤、二次抗酸化剤、天然油、合成油、ワックスが挙げられる。
前記添加剤はそれぞれ、1種を用いてもよく、2種以上を用いてもよい。
【0060】
[樹脂組成物の調製方法]
前記樹脂組成物は、例えば、前記重合体(A1)および共重合体(A2)と、必要に応じて、前記その他の成分とを混合することで調製することができる。
重合体(A1)および共重合体(A2)の混合物は、多段重合法により得ることもできる。
【0061】
各成分の混合方法については、種々公知の方法、例えば、プラストミル、ヘンシェルミキサー、V-ブレンダー、リボンブレンダー、タンブラーブレンダー、ニーダールーダー等の装置を用いて各成分を混合する方法が挙げられる。
また、前記混合後、得られた混合物を、一軸押出機、二軸押出機、ニーダー、バンバリーミキサー等の装置でさらに溶融混練(例:180~300℃下)した後、得られた溶融混練物を造粒または粉砕することで、各成分が均一に分散混合された高品質の樹脂組成物ペレットを得ることができる。
【0062】
<B層>
前記B層としては特に制限されないが、例えば、本フィルムに、優れた機械特性(例:優れたシール性)や電気特性等を付与するために設けられる層が挙げられる。
B層は、単一の層からなってもよく、2つ以上の層からなってもよいが、厚みの制御、シール強度の向上や他機能の付与等の点から、2つ以上の層からなることが好ましい。B層が2つ以上の層からなる場合、当該2つ以上の層は、同一の層であってもよく、異なる層であってもよい。
B層としては、ポリプロピレン(B)を含むことが好ましい。
【0063】
[ポリプロピレン(B)]
前記ポリプロピレン(B)はプロピレンを主体とする公知の重合体であり、具体例としては、プロピレン単独重合体、プロピレンとプロピレン以外のα-オレフィンとのプロピレン・α-オレフィン共重合体(例:プロピレン・エチレン共重合体、プロピレン・1-ブテン共重合体、プロピレン・エチレン・1-ブテン共重合体などのプロピレンランダム共重合体、プロピレンブロック共重合体またはこれらの混合物)が挙げられる。
【0064】
なお、本明細書において、重合体の原料となるモノマーをXとした時、「Xを主体とする重合体」とは、該重合体に含まれる全構成単位の中で、Xから導かれる構成単位を最も多く含有する重合体のことを意味し、例えば、「プロピレンを主体とする重合体」とは、重合体の全構成単位の中で、プロピレンから導かれる構成単位(すなわち、-CH2-CH(-CH3)-で表される構成単位)を最も多く含有する重合体のことをいう。
【0065】
ポリプロピレン(B)としては、アイソタクチックポリプロピレン、シンジオタクチックポリプロピレンが好適に用いられ、立体規則性を示すアイソタクチックメソペンダッド分率(mmmm)またはシンジオタクチックメソペンダッド分率(rrrr)が90%以上であることが好ましく、92%以上であることがより好ましく、93%以上であることがさらに好ましい。
立体規則性が高いポリプロピレンは、樹脂の結晶性が高く、該ポリプロピレンを用いることで、高い熱安定性、機械特性を有する本フィルムを容易に得ることができる。
【0066】
前記プロピレン・α-オレフィン共重合体におけるα-オレフィンの共重合比率としては、5質量%以下であることが好ましい。
前記プロピレン・α-オレフィン共重合体は、ランダム共重合体であってもブロック共重合体であってもよく、核剤(結晶化核剤)を含んでいてもよい。
該核剤としては特に限定されず、例えば、各種無機化合物、各種カルボン酸またはその金属塩、ジベンジリデンソルビトール系化合物、アリールフォスフェート系化合物、環状多価金属アリールフォスフェート系化合物と脂肪族モノカルボン酸アルカリ金属塩または塩基性化合物(例:塩基性アルミニウム化合物、塩基性リチウム化合物、塩基性ヒドロキシ化合物、塩基性カーボネート化合物、塩基性ハイドレート化合物)との混合物、各種高分子化合物等のα晶核剤が挙げられる。これらの核剤は1種を用いてもよく、2種以上を用いてもよい。
【0067】
ポリプロピレン(B)のJIS K 7210に準じて測定したMFR(温度230℃、2.16kg荷重)は、好ましくは0.5~25g/10分、より好ましくは1~15g/10分、さらに好ましくは2~10g/10分である。
ポリプロピレン(B)のMFRが前記範囲にあると、押出成形に好適である。
【0068】
ポリプロピレン(B)に含まれる重合触媒残渣等に起因する灰分は、本フィルム中の微小異物(フィッシュアイ)を低減するため、可能な限り少ないことが好ましく、具体的には、50ppm以下であることが好ましく、40ppm以下であることがより好ましい。
灰分が前記範囲にあると、本フィルム中の微小異物・欠点が顕著に低減され、本フィルムを電子部品用途等に用いた際の汚染を低減できる。
【0069】
B層が2つ以上の層からなる場合であって、第1の層(以下「B1層」ともいう。)と、第2の層(以下「B2層」ともいう。)とを含む場合、本フィルムは、例えば、B1層、A層、B2層(B1層/A層/B2層)の順で2つ以上のB層を含んでいてもよく、A層、B1層、B2層(A層/B1層/B2層)の順で2つ以上のB層を含んでいてもよい。ここで、前記B1層を構成するポリプロピレン(B)(以下「ポリプロピレン(B1)」ともいう。)と、前記B2層を構成するポリプロピレン(B)(以下「ポリプロピレン(B2)」ともいう。)とは、同一であってもよく、異なっていてもよいが、同一であることが好ましい。
【0070】
本フィルムが、A層、B1層、B2層(A層/B1層/B2層)の順で2つ以上のB層を含む場合であって、前記ポリプロピレン(B1)と前記ポリプロピレン(B2)とが異なる場合、前記ポリプロピレン(B1)の融点は、前記ポリプロピレン(B2)の融点以上であることが好ましく、その一態様として、前記ポリプロピレン(B1)と前記ポリプロピレン(B2)の融点とが同じ態様が挙げられる。なお、本フィルムの用途によっては、前記ポリプロピレン(B1)の融点が、前記ポリプロピレン(B2)の融点よりも高いことがより好ましい場合もある。この場合の一例としては、前記ポリプロピレン(B1)が、プロピレン単独重合体であり、前記ポリプロピレン(B2)が、プロピレンランダム共重合体である態様が挙げられる。
【0071】
B層がポリプロピレン(B)を含む場合、B層は、ポリプロピレン(B)のみからなる層であってもよく、ポリプロピレン(B)を含む樹脂組成物からなる層であってもよい。ここで、B層を形成する樹脂組成物には、前記A層の欄においてその他の成分として列挙した成分と同様の成分等が添加されていてもよい。B層が2つ以上の層からなる場合、当該2つ以上の層に含まれ得るその他の成分およびその配合量は、同一であってもよく、異なっていてもよい。
【0072】
<本フィルムの構成等>
本フィルムは、A層/B層のみからなる層構成でもよく、A層およびB層のいずれとも異なるC層をさらに含んでいてもよい。
C層は、単一の層からなってもよく、2つ以上の層からなってもよい。C層が2つ以上の層からなる場合、当該2つ以上の層は、同一の層であってもよく、異なる層であってもよい。
【0073】
本フィルムの好適な一態様としては、前記B層が単一の層(以下「B0層」ともいう。)からなる、A層/B0層からなる二層構成が挙げられる。該B0層は、例えばシール層として機能する。
本フィルムの他の好適な態様としては、B層は2つ以上の層からなり、例えば、A層/B1層/B2層の順に積層されてなる三層構成が挙げられる。該B2層は、例えばシール層として機能する。
【0074】
B層を構成する前記2つ以上の層の好適例は、すべて同一の樹脂を含む層である。該B層を構成する前記2つ以上の層は、シール層として機能する。
B層を構成する前記2つ以上の層の他の好適例は、少なくとも2層が異なる層である。例えば、前記B1層と前記B2層とは、前記ポリプロピレン(B)以外の他の成分の有無および種類によって異なっていてもよく、前記ポリプロピレン(B)の種類によって異なっていてもよい。
【0075】
前記C層としては、例えば、前記A層およびB層以外のシール層として適切に機能しうる層、例えば、低密度ポリエチレン(LDPE)、中密度ポリエチレン(MDPE)、直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)、エチレン-酢酸ビニル共重合体(EVA)、エチレン-α-オレフィン共重合体、エチレン-(メタ)アクリル酸共重合体などのエチレン系樹脂や、ポリエチレンとポリブテンとのブレンド樹脂等からなる層が挙げられる。
前記C層を含む本フィルムの一例としては、A層/B層/C層の順に積層されてなる三層構成が挙げられる。
【0076】
本フィルムの総厚みは、透明性および機械特性に優れる等の点から、好ましくは0.1~120μm、より好ましくは1~40μm、さらに好ましくは1~20μmである。
【0077】
本フィルムにおけるA層全体の厚みは、延伸性とヒートシール耐性とにバランスよく優れる本フィルムを容易に得ることができる等の点から、好ましくは0.1~20μm、より好ましくは0.3~20μm、さらに好ましくは0.5~10μmである。
本フィルムが2つ以上のA層を含有する場合、各A層の厚みは同じであってもよいし、異なっていてもよい。
【0078】
本フィルムにおけるB層全体の厚みは、延伸性とヒートシール耐性とにバランスよく優れる本フィルムを容易に得ることができる等の点から、好ましくは0.1~100μm、より好ましくは1~20μm、さらに好ましくは1~10μmである。
本フィルムが2つ以上のB層を含有する場合、各B層の厚みは同じであってもよいし、異なっていてもよい。
延伸性とヒートシール耐性とにバランスよく優れる本フィルムを容易に得ることができる等の点から、本フィルムにおけるB1層の厚みは、好ましくは1~50μm、より好ましくは1~15μmであり、本フィルムにおけるB2層の厚みは、好ましくは0.1~50μm、より好ましくは0.1~15μmである。
【0079】
本フィルムにおけるA層1層の厚みは、B層全体の厚み100%に対し、好ましくは0.1~250%、より好ましくは0.5~100%である。
【0080】
本フィルムにおける延伸面倍率は、好ましくは30~100倍、より好ましくは30~80倍、さらに好ましくは30~60倍である。
本フィルムは、このような高延伸面倍率であっても、破れ等が生じ難い所望の多層二軸延伸フィルムとなる。
【0081】
本フィルムのヒートシール(温度:130℃、ゲージ圧:2.0MPa、ヒートシール時間:2秒)時における収縮率は、本フィルムのMD方向およびTD方向のいずれにおいても、好ましくは13.0%以下、より好ましくは12.0%以下、さらに好ましくは11.0%以下、さらに好ましくは8.0%以下である。
本フィルムのヒートシール(温度:130℃、ゲージ圧:2.0MPa、ヒートシール時間:2秒)時における面積換算の収縮率は、好ましくは23.0%以下であり、より好ましくは22.5%以下である。
【0082】
本フィルムの23℃、昇圧速度500V/secにおける絶縁破壊耐電圧は、好ましくは450V/μm以下であり、より好ましくは430V/μm以下であり、さらに好ましくは415V/μm以下である。
本フィルムの100℃、昇圧速度500V/secにおける絶縁破壊耐電圧は、好ましくは300V/μm以下であり、より好ましくは295V/μm以下であり、さらに好ましくは290V/μm以下である。
【0083】
<用途>
本フィルムの具体的な用途としては、例えば、以下のような一般的なフィルム用途が挙げられる。
包装用フィルム(例:食品包装用フィルム、ストレッチフィルム、ラップフィルム、シュリンクフィルム、イージーピールフィルム、アルミ蒸着フィルム、PVDCコートフィルム;
通気性フィルム(例:紙おむつ、生理用品、手術衣、手術用手袋、サージカルダウン、ハウスラップ(透湿防水シート)、使い捨てカイロ、家庭用除湿剤、乾燥剤、脱酸素剤、鮮度保持剤、堆肥化シート、簡易ジャンバー、などとして用いられるフィルム);
防錆フィルム(例:自動車部品、ノックダウン用部品、機械・機械部品、鉄・クロム製品、鋼管、線材、ボルトナット、ベアリング、金型、工具、刃物、切削工具、建築用具などの輸送梱包、保管梱包、輸出梱包、などとして用いられるフィルム);
防曇フィルム(例:青果物用フィルム、加工食品用フィルム);
方向性フィルム;
菓子類のひねり包装、農業資材、ラミネート基材、コイン包装、電線束ね材、果菜類包装、段ボールカットテープ、洗剤詰め替え容器、おにぎり包装、ピロー包装、スティック包装、ボイル・レトルト包装、水物食品包装、輸液バッグ、などとして用いられるフィルム);
セルフクリーニングフィルム(例:道路標識、一般標識、看板、窓ガラス、道路資材、サイドミラーなどとして用いられるフィルム);
セパレーター(例:バッテリーセパレーター、リチウムイオン電池用セパレーター、粘着・接着材セパレーター);
延伸フィルム(例:フィルムコンデンサ用フィルム、キャパシタフィルム);
燃料電池用フィルム(例:燃料電池用電解質膜、燃料電池用キャパシタフィルム、燃料電池用離型フィルム);
半導体工程フィルム(例:ダイシングテープ、バックグラインドテープ、ダイボンディングフィルム、偏光板用フィルム、表面保護フィルム(例:偏光板用保護フィルム、液晶パネル用保護フィルム、光学部品用保護フィルム、レンズ用保護フィルム、電気部品・電化製品用保護フィルム、携帯電話用保護フィルム、パソコン用保護フィルム、マスキングフィルム、タッチパネル用保護フィルム));
電子部材用フィルム(例:拡散フィルム、反射フィルム、耐放射線フィルム、耐γ線フィルム、多孔フィルム);
建材フィルム(例:建材用ウインドウフィルム、合わせガラス用フィルム、防弾材、防弾ガラス用フィルム、遮熱フィルム);
転写フィルム(例:自動車・産業用転写フィルム、包装用転写フィルム);
離型フィルム(例:フレキシブルプリント基板用離型フィルム(FPC)、ACM基板用離型フィルム、リジットフレキシブル基板用離型フィルム、先端複合材料用離型フィルム、炭素繊維複合材硬化用離型フィルム、ガラス繊維複合材硬化用離型フィルム、アラミド繊維複合材硬化用離型フィルム、ナノ複合材硬化用離型フィルム、フィラー充填材硬化用離型フィルム、半導体封止用離型フィルム、偏光板用離型フィルム、拡散シート用離型フィルム、プリズムシート用離型フィルム、反射シート用離型フィルム、離型フィルム用クッションフィルム、各種ゴムシート用離型フィルム、ウレタン硬化用離型フィルム、エポキシ硬化用離型フィルム(例:金属バットやゴルフクラブなどの製造工程部材))
【0084】
本フィルムは、これらの中でも、特に包装用フィルム、フィルムコンデンサ用フィルム、キャパシタフィルムまたは燃料電池用フィルムとして好適に用いられ、燃料電池用キャパシタフィルムとして特に好適に用いられる。
本フィルムを包装用フィルムとして用いる場合、ヒートシール後においても、外観に優れる包装用フィルムを容易に得ることができる。
また、電気特性に優れる本フィルムは、フィルムコンデンサ用フィルム、キャパシタフィルムまたは燃料電池用フィルムとして好適に用いることができ、燃料電池用キャパシタフィルムとして特に好適に用いることができる。
【0085】
≪多層二軸延伸フィルムの製造方法≫
本フィルムの製造方法は特に制限されないが、通常、まず、前記A層およびB層となる層、および、必要に応じて前記C層となる層が積層されてなる原反フィルム(二軸延伸前のフィルム)を成形し、次に、その原反フィルムを二軸延伸する方法が挙げられ、下記工程(1)および(2)を含む方法が好ましい。
工程(1):前記A層およびB層となる層を含む原反フィルムを得る工程
工程(2):前記原反フィルムを、30~100倍の面倍率で延伸する工程であり、該延伸が、3~10倍でMD方向に延伸する工程と、3~10倍でTD方向に延伸する工程とを含む
【0086】
前記工程(1)における原反フィルムを得る方法は、例えば、予めT-ダイ成形またはインフレーション成形等にて得られたフィルム上に、押出ラミネーション、押出コーティング等の公知の積層法により他のフィルムを積層する方法や、複数のフィルムを独立して成形した後、各々のフィルムをドライラミネーションにより積層する方法が挙げられるが、生産性等の点から、各層を形成する成分を多層の押出機に供して成形する共押出成形が好ましい。
前記共押出成形にて原反シートを形成する際には、例えば、各層を形成する成分(例:樹脂組成物のペレット)を、シリンダー温度を通常180~300℃の範囲で溶融押出しする方法が挙げられる。
【0087】
前記原反フィルムの厚みは特に限定されないが、通常100~1000μm、好ましくは150~800μm、より好ましくは200~500μmである。
【0088】
前記原反フィルムにおける前記A層となる層1層の厚みは、前記B層となる層全体の厚み100%に対し、好ましくは0.1~250%、より好ましくは0.5~100%である。
なお、前記A層となる層とは、前記原反フィルムを構成する層であり、かつ、二軸延伸後には、前記A層となる層であり、前記B層となる層とは、前記原反フィルムを構成する層であり、かつ、二軸延伸後には、前記B層となる層である。
【0089】
前記工程(2)における原反シートを二軸延伸する方法としては、バッチ式二軸延伸でも、逐次二軸延伸でも、同時二軸延伸でもよい。
例えば、逐次二軸延伸の方法の具体例としては、原反シートを、100~165℃に保ち、速度差を設けたロール間に通して、原反シートを成形した際のMD方向(流れ方向)に3~10倍に延伸し、次いで、当該MD方向に延伸したフィルムをテンターに導き、150℃以上の温度で、原反シートを成形した際のTD方向(幅方向)に3~10倍に延伸した後、緩和、熱固定を施し、巻き取る方法が挙げられる。
【0090】
前記MD方向への延伸倍率は、用いる装置にもよるが、好ましくは3~10倍、より好ましくは5~10倍である。
前記TD方向への延伸倍率は、用いる装置にもよるが、好ましくは3~10倍、より好ましくは5~10倍である。
なお、前記工程(2)における、MD方向およびTD方向は、原反シートを成形した際のMD方向(流れ方向)およびTD方向(幅方向)である。なお、原反フィルムの成形方法によっては、MD方向、TD方向がない場合があるが、この場合、MD方向=TD方向であるため、便宜上、該原反フィルムの長さおよび幅方向の一方向をMD方向とし、他方向をTD方向とする。
【0091】
前記工程(2)における面倍率は、好ましくは30~80倍、より好ましくは30~60倍である。
本フィルムによれば、このような高倍率で延伸した場合であっても、破れ等が生じ難い所望の多層二軸延伸フィルムを容易に得ることができる。
【実施例0092】
以下、実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されない。
【0093】
<各構成単位の量>
下記製造例で得られた重合体中の4-メチル-1-ペンテンから導かれる構成単位の量(4-メチル-1-ペンテン含量)および4-メチル-1-ペンテン以外のα-オレフィンから導かれる構成単位の量(α-オレフィン含量)は、以下の装置および条件により、13C-NMRスペクトルより算出した。結果を表1および2に示す。
【0094】
日本電子(株)製のECP500型核磁気共鳴装置を用い、溶媒としてo-ジクロロベンゼン/重ベンゼン(80/20容量%)混合溶媒を用い、試料濃度は55mg/0.6mL、測定温度は120℃、観測核は13C(125MHz)、シーケンスはシングルパルスプロトンデカップリング、パルス幅は4.7μ秒(45°パルス)、繰り返し時間は5.5秒、積算回数は1万回以上とし、27.50ppmをケミカルシフトの基準値として13C-NMRスペクトルを得た。得られた13C-NMRスペクトルにより、4-メチル-1-ペンテンおよびα-オレフィン含量を定量化した。
【0095】
<極限粘度[η]>
下記製造例で得られた重合体の極限粘度[η]は、デカリン溶媒を用いて、135℃で測定した。結果を表1および2に示す。
具体的には、重合体約20mgをデカリン15mLに溶解し、135℃のオイルバス中で比粘度ηspを測定した。このデカリン溶液にデカリン溶媒を5mL追加して希釈後、同様にして比粘度ηspを測定した。この希釈操作をさらに2回繰り返し、濃度(C)を0に外挿した時のηsp/Cの値である極限粘度[η]を、以下の式から求めた。
[η]=lim(ηsp/C) (C→0)
【0096】
<融点(Tm)>
下記製造例で得られた重合体の融点(Tm)は、セイコーインスツル(株)製のDSC測定装置(DSC220C)を用い、以下の手順で測定した。結果を表1および2に示す。
まず、測定用アルミパンに重合体約5mgを入れ、封止した。100℃/minで290℃まで昇温し、290℃で5分間保持した後、10℃/minで-100℃まで降温させ、ついで-100℃から10℃/minで290℃まで昇温させた。2回目の昇温時における熱量曲線において観測される、結晶溶融ピークのピーク頂点から融点(Tm)を算出した。ピークが複数検出された場合は、温度が最大のものを融点(Tm)とした。
【0097】
[製造例1~3および5~7]
国際公開第2017/150265号の比較例1に記載の方法に準じて、α-オレフィン種を下記表1に記載のα-オレフィンに変更し、得られる重合体中の物性が下記表1の値になるように、4-メチル-1-ペンテン、α-オレフィン、水素の使用割合を変更することによって、4-メチル-1-ペンテン重合体(A1-1)~(A1-3)および(A1-5)~(A1-7)を合成した。
【0098】
[製造例4]
国際公開第2006/054613号の比較例9に記載の方法に準じて、コモノマー種を下記表1に記載のα-オレフィンに変更し、得られる重合体中の物性が下記表1の値になるように、4-メチル-1-ペンテン、α-オレフィン、水素の使用割合を変更することによって、4-メチル-1-ペンテン重合体(A1-4)を合成した。
すなわち、4-メチル-1-ペンテン重合体(A1-4)は、無水塩化マグネシウム、2-エチルヘキシルアルコール、2-イソブチル-2-イソプロピル-1,3-ジメトキシプロパンおよび四塩化チタンを反応させて得られる固体状チタン触媒を重合用触媒として用いて単段重合で得られた重合体である。
【0099】
【表1】
【0100】
[製造例8~13]
国際公開第2017/150265号の比較例1に記載の方法に準じて、α-オレフィン種を下記表2に記載のα-オレフィンに変更し、得られる共重合体中の物性が下記表2の値になるように、4-メチル-1-ペンテン、α-オレフィン、水素の使用割合を変更することによって、4-メチル-1-ペンテン共重合体(A2-1)~(A2-6)を合成した。
【0101】
[製造例14]
特開2019-1139号公報に記載の方法に準じて、α-オレフィンを下記表2に記載のα-オレフィンに変更し、得られる共重合体中の物性が下記表2の値になるように、4-メチル-1-ペンテン、α-オレフィン、水素の使用割合を変更することによって、4-メチル-1-ペンテン共重合体(A2'-7)を合成した。
【0102】
【表2】
【0103】
[実施例1]
[樹脂組成物の調製]
前記製造例で得られた重合体(A1-1)43質量部および共重合体(A2-1)57質量部に対して、二次抗酸化剤としてトリ(2,4-ジ-t-ブチルフェニル)ホスフェートを0.1質量部、耐熱安定剤としてn-オクタデシル-3-(4’-ヒドロキシ-3’,5’-ジ-t-ブチルフェニル)プロピオネートを0.1質量部配合して混合物を得た。
次いで、得られた混合物を、(株)プラスチック工学研究所製の二軸押出機BT-30(スクリュー径30mmφ、L/D=46)を用い、設定温度270℃、樹脂押出量60g/minおよび200rpmの条件で造粒し、樹脂組成物のペレットを調製した。
【0104】
<コモノマー量および極限粘度[η]>
重合体の代わりに、調製した樹脂組成物を用いた以外は、前記重合体の、各構成単位の量および極限粘度[η]と同様にして、調製した樹脂組成物のコモノマー量(4-メチル-1-ペンテン以外のα-オレフィンから導かれる構成単位の量)および極限粘度[η]を測定・算出した。結果を表3および4に示す。
【0105】
[原反フィルムの作製]
リップ幅330mmのTダイと、3つのホッパー投入口と、30mmφスクリューとを有する3種3層式Tダイシート成形機(サーモ・プラスティックス工業(株)製)を用いて多層フィルムを作製した。
前記で調製した樹脂組成物のペレットを1つのホッパーに投入し、シリンダー温度は270℃に設定した。また、ポリプロピレン((株)プライムポリマー製、プライムポリプロ F113G、MFR(230℃、2.16kg荷重):3.0g/10min)を、残りの2つのホッパーに投入し、これらのホッパーに関するシリンダー温度はそれぞれ230℃に設定した。
ダイス温度を270℃に設定し、Tダイから、前記樹脂組成物およびポリプロピレンそれぞれの溶融混練物を多層フィルムとして押し出した。押し出したフィルムを、前記樹脂組成物を含む層が80℃に制御した金属冷却ロール上に密着するようにエアー圧をかけながら、引取速度2.5m/minの条件で引き取ることで、厚さ250μmの冷却固化された、A層/B1層/B2層の層構成を有する未延伸の多層フィルム(原反フィルム)を得た。このようにして得られた原反フィルムの両端部を、レザー刃を用いたレザーカットで切断したのち、ロール状に巻き取った。
得られた原反フィルムは、厚さが45μmである前記樹脂組成物を含むA層、厚さが190μmであるプロピレンを含むB1層、および、厚さが15μmであるプロピレンを含むB2層がこの順で積層された積層体であった。なお、各層の厚さは、押出量から算出した。
【0106】
[多層二軸延伸フィルムの作製(最大延伸倍率の評価)]
バッチ式二軸延伸機(ブルックナー社製、KARO IV)を用い、作製した原反フィルムを二軸延伸した。
具体的には、前記原反フィルムのロールから10cm角の原反フィルム片をカッターで切り出した後、予熱温度160℃、予熱時間30秒、延伸温度160℃、延伸速度300%/秒の延伸条件で、熱セット条件を162℃、60秒とし、切り出した原反フィルム片を流れ方向(MD)に2~5倍延伸して一軸延伸フィルムを得た。次いで同条件で、得られた一軸延伸フィルムを幅方向(TD)に2~9倍延伸して、多層二軸延伸フィルムを作製した。
作製した原反フィルムを前記のようにして延伸した場合、得られる多層二軸延伸フィルム全体が破れずに延伸可能であった最大の延伸倍率を、最大延伸倍率として評価した。結果を表3および4に示す。
ここで、用いたバッチ式二軸延伸機(ブルックナー社製、KARO IV)の最大延伸倍率はMD方向が5倍であり、TD方向が9倍であり、実施例で得られた原反フィルムは、用いた二軸延伸機の最大倍率である5倍×9倍(面倍率:45倍)で延伸した際に、得られる多層二軸延伸フィルム全体に破れが生じなかったことを示す。このように、用いた二軸延伸機の最大倍率でも、得られる多層二軸延伸フィルム全体が破れずに延伸可能であった場合、最大延伸倍率を5×9と示す。
なお、比較例1で得られた原反フィルムは、MD方向への延伸倍率が3倍を超えた場合にはフィルムが破れ、TD方向への延伸倍率が5倍を超えた場合にはフィルムが破れたため、得られる多層二軸延伸フィルム全体が破れなかった最大の延伸倍率は、3×5となる。同様に、比較例3~5で得られた原反フィルムについて、得られる多層二軸延伸フィルム全体が破れなかった最大の延伸倍率は、それぞれ3×7、3×8.3、3×7.5であった。
【0107】
<多層二軸延伸フィルムの厚さ測定>
最大延伸倍率まで延伸させた多層二軸延伸フィルムから、長さ10mm、幅10mmの試験片を切り出した。この試験片を液体窒素で冷却した後、厚さ方向に剃刀で裁断し、断面をSEM(日本電子(株)製、JSM-6380)で観察した。画像解析より、多層二軸延伸フィルムの各層の厚さ(A層厚さ、B層厚さ)および総厚さを計測した。
【0108】
<A層(表層のみ)の破れ評価>
前記で得られた最大延伸倍率まで延伸させた多層二軸延伸フィルムのA層を、光学顕微鏡(オリンパス(株)製、SZX-16)で観察した。顕微鏡倍率を300倍に設定し、多層二軸延伸フィルムのA層の任意の10カ所を観察し、該A層に破れが観測されるか確認した。結果を表3および4に示す。
ここで、A層の破れとは、二軸延伸フィルム全体が破れるのではなく、B層は破れず、A層のみに破れや穴あきが観察されたことを示す。
【0109】
<ヒートシール後の収縮(HS収縮率)>
前記で得られた最大延伸倍率まで延伸させた多層二軸延伸フィルムから、長さ150mm、幅30mmの試験片を2枚得た。フィルムの長さ方向は、原反フィルム作製工程における流れ方向(MD方向)に対応する方向とした。
得られた試験片2枚をB2層(A層に接していないB層)同士が内側になるように重ね合わせ、ヒートシーラーを用いて温度130℃、ゲージ圧2.0MPaの条件で2秒間ヒートシールした。
ノギスを用いてヒートシール前後の試験片の長さおよび幅を測定し、下記式からMD方向、TD方向および面積換算の収縮率(%)を算出した。結果を表3および4に示す。
MD方向収縮率 =(LM0-LM1)/LM0×100(%)
TD方向収縮率 =(LT0-LT1)/LT0×100(%)
面積換算の収縮率=100-(LM1×LT1)/(LM0×LT0)×100(%)
[LM0:ヒートシール前の試験片の長さ、LM1:ヒートシール後の試験片の長さ、LT0:ヒートシール前の試験片の幅、LT1:ヒートシール後の試験片の幅]
【0110】
<破壊電圧(23℃、100℃)>
破壊電圧(V/μm)は、ASTM-D149に準じ、ヤマヨ試験器(有)製絶縁破壊試験機を用いて測定した。
前記で得られた最大延伸倍率まで延伸させた多層二軸延伸フィルムに対し、23℃および100℃それぞれにおいて、昇圧速度500V/secにて電圧を印加して絶縁破壊耐電圧を測定し、多層二軸延伸フィルムの厚みで除することで破壊電圧(V/μm)を求めた。
【0111】
[実施例2~13、比較例1および3~5]
表3および4に示す重合体を用い、表3および4に示す組成で配合した以外は、実施例1と同様の方法で樹脂組成物および多層二軸延伸フィルムを得、評価を行った。
【0112】
[比較例2]
多層二軸延伸フィルム作製時に、ポリプロピレン((株)プライムポリマー製、プライムポリプロ F113G、MFR(230℃、2.16kg荷重):3.0g/10min)のみ用いて単層のフィルムを成形した以外は、実施例1と同様の方法で二軸延伸フィルムを得、評価を行った。
【0113】
【表3】
【0114】
【表4】
【0115】
比較例1および3~5は、表4の通り、二軸延伸機の最大面倍率である45倍では、得られる多層二軸延伸フィルム全体が破れずに延伸することが不可能であった。また、比較例1および3では、得られる多層二軸延伸フィルム全体が破れなかった最大の延伸倍率(それぞれ3×5および3×7)で延伸した場合であっても、A層に破れが発生した。
さらに、比較例2では、二軸延伸機の最大倍率である45倍でも得られる単層二軸延伸フィルム全体が破れずに延伸可能であったが、ヒートシール時の収縮率が大きく(特に面積換算の収縮率)、ヒートシール耐性に劣るものであった。
これら比較例に対して、実施例1~13はいずれも、二軸延伸機の最大倍率である45倍でも得られる多層二軸延伸フィルム全体が破れずに延伸可能であったうえ、A層に破れが発生しなかった。また、23℃および100℃におけるいずれの破壊電圧も高い数値であり、優れた電気特性を有することもわかった。