(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024095596
(43)【公開日】2024-07-10
(54)【発明の名称】電波吸収体、電波吸収体の製造方法、電波吸収体製造用キット
(51)【国際特許分類】
H05K 9/00 20060101AFI20240703BHJP
H01Q 1/42 20060101ALI20240703BHJP
H01Q 17/00 20060101ALI20240703BHJP
【FI】
H05K9/00 M
H01Q1/42
H01Q17/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】24
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023217663
(22)【出願日】2023-12-25
(31)【優先権主張番号】P 2022212208
(32)【優先日】2022-12-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2022212210
(32)【優先日】2022-12-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.ハステロイ
(71)【出願人】
【識別番号】000002174
【氏名又は名称】積水化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】中尾 幸子
(72)【発明者】
【氏名】澤田石 哲郎
(72)【発明者】
【氏名】武藤 勝紀
【テーマコード(参考)】
5E321
5J020
5J046
【Fターム(参考)】
5E321AA23
5E321BB23
5E321BB25
5E321BB53
5E321BB60
5E321CC16
5E321GG11
5E321GG12
5E321GH10
5J020EA03
5J020EA07
5J020EA09
5J046AA02
5J046RA03
(57)【要約】
【課題】レドームを通って入ってくる電波に対する吸収性能に優れた電波吸収体を提供すること。
【解決手段】レドームを含み、且つ0度入射の垂直偏波測定において、40~85GHzにおける反射減衰量が-15dB以下である周波数帯域の幅が2GHz以上である、電波吸収体。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
レドームを含み、且つ0度入射の垂直偏波測定において、40~85GHzにおける反射減衰量が-15dB以下である周波数帯域の幅が2GHz以上である、電波吸収体。
【請求項2】
抵抗層、誘電体層、及び反射層を含み、且つ
レドーム、抵抗層、誘電体層、及び反射層がこの順に配置されているλ/4型電波吸収体である、請求項1に記載の電波吸収体。
【請求項3】
0度入射の垂直偏波測定において、75~85GHzにおける反射減衰量が-15dB以下の周波数帯域の幅が2GHz以上である、請求項2に記載の電波吸収体。
【請求項4】
0度入射の垂直偏波測定において、40~55GHzにおける反射減衰量が-10dB以下の周波数帯域の幅が2GHz以上である、請求項3に記載の電波吸収体。
【請求項5】
0度入射の垂直偏波測定において、55~70GHzにおける反射減衰量の最大値が-10dB以上である、請求項3又は4に記載の電波吸収体。
【請求項6】
0度入射の垂直偏波測定において、55~70GHzにおける反射減衰量の最小値が-27dB以上である、請求項3又は4に記載の電波吸収体。
【請求項7】
0度入射の垂直偏波測定において、55~70GHzにおける反射減衰量の最大値が-5.5dB以上であり、且つ
0度入射の垂直偏波測定において、55~70GHzにおける反射減衰量の最小値が-9.8dB以上である、請求項3又は4に記載の電波吸収体。
【請求項8】
保護層を含み、且つ
レドーム、保護層、抵抗層、誘電体層、及び反射層がこの順に配置されている、請求項2に記載の電波吸収体。
【請求項9】
前記保護層の比誘電率が1~5であり、且つ前記保護層の厚みが100μm以上400μm以下である、請求項8に記載の電波吸収体。
【請求項10】
レドームと保護層の間に粘着剤層を含む、請求項8に記載の電波吸収体。
【請求項11】
前記粘着剤層の比誘電率が1~5であり、且つ前記粘着剤層の厚みが1μm以上200μm以下である、請求項10に記載の電波吸収体。
【請求項12】
前記レドームの比誘電率が1~5であり、且つ前記レドームの厚みが1mm以上3mm以下である、請求項2に記載の電波吸収体。
【請求項13】
絶縁層を含み、且つ
前記反射層の前記誘電体層とは反対側に絶縁層が配置されている、請求項2に記載の電波吸収体。
【請求項14】
入射角30度のTE偏波測定において、75~85GHzにおける反射減衰量が-15dB以下の周波数帯域の幅が2GHz以上である、請求項1~4のいずれかに記載の電波吸収体。
【請求項15】
前記レドームの主面の曲率半径が5mm以上100mm以下である、請求項1~4のいずれかに記載の電波吸収体。
【請求項16】
一方の面側から、レドーム、第1の抵抗層、第1の誘電体層、及び反射層がこの順に配置され、且つ他方の面側から、第2の抵抗層、第2の誘電体層、及び反射層がこの順に配置されている、
請求項1に記載の電波吸収体。
【請求項17】
前記反射層が単層であり、
レドーム、第1の抵抗層、第1の誘電体層、反射層、第2の誘電体層、及び第2の抵抗層がこの順に配置されている、請求項16に記載の電波吸収体。
【請求項18】
前記第1抵抗層の抵抗値が100~400Ω/□であり、前記第2の抵抗層の抵抗値が100~600Ω/□である、請求項16に記載の電波吸収体。
【請求項19】
前記第1の誘電体層の厚みが200~1100μmであり且つその比誘電率が1~5であり、且つ
前記第2の誘電体層の厚みが200~700μmであり且つその比誘電率が1~5である、請求項16に記載の電波吸収体。
【請求項20】
前記第1の誘電体層が下記式(1)を満たし、
前記第2の誘電体層が下記式(2)を満たす、請求項16~19いずれかに記載の電波吸収体。
式(1):400≦d×√ε≦1600
式(2):700≦d×√ε≦1200
(式中、dは誘電体層の厚み(μm)を示し、εは誘電体層の比誘電率を示す。)
【請求項21】
両面の0度入射の垂直偏波測定のいずれにおいても、50~85GHzにおける反射減衰量が-15dB以下の周波数帯域の幅が2GHz以上である、請求項16に記載の電波吸収体。
【請求項22】
抵抗層、誘電体、及び反射層がこの順に配置されている電波吸収体用部材とレドームとを積層させる、請求項2~4及び16~21のいずれかに記載の電波吸収体の製造方法。
【請求項23】
レドームと、
抵抗層、誘電体、及び反射層がこの順に配置されている電波吸収体用部材を含む、請求項2~4及び16~21のいずれかに記載の電波吸収体製造用キット。
【請求項24】
抵抗層、誘電体、及び反射層がこの順に配置されている電波吸収体用部材の使用方法であって、前記電波吸収体用部材をレドームに積層し、請求項2~4及び16~21いずれかに記載の電波吸収体とする、電波吸収体用部材の使用方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電波吸収体等に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、携帯電話やスマートフォン等の携帯通信機器の普及が急速に進んでおり、また自動車等において多くの電子機器が搭載されるようになり、これらから発生する電波・ノイズを原因とする電波障害、他の電子機器の誤動作等の問題が多発している。このような電波障害、誤動作等を防止する方策として、各種の電波吸収体が検討されている。例えば、特許文献1では、斜め入射に対する電波吸収性が良好な電波吸収体が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来、所望の電波吸収性能となるように電波吸収体を設計し、機器内部、特にICを覆うシールドカバーの内側やIC基板上に貼り付けて使われていた。しかし、レーダー装置のアンテナを保護する電波透過性部材(レドーム)を通って、不要な電波が外来から機器内部に侵入することや、不要な電波が他の周辺部材で跳ね返り機器内部に侵入することがあった。これらの不要な電波はいずれもレドームを通って入ってくる。また、反射層を持つ電波吸収体は電波入射面の逆側となる裏面に受けたノイズを反射させてしまうことがあった。
【0005】
本発明は、レドームを通って入ってくる電波に対する吸収性能に優れた電波吸収体を提供することを課題とする。また、本発明は、必須ではないものの解決が望ましい課題として、レドーム側(表面側)及び裏面側からの電波に対する吸収性能に優れた電波吸収体を提供することを掲げる。
【課題を解決するための手段】
【0006】
これまで、電波吸収体の設計は、レドームが電波吸収性能に与える影響を考慮せずに行われていた。しかし、レドームは一定の厚み及び比誘電率を有するので、このように設計した場合、レドームを通って入ってくる電波に対して十分に優れた吸収性能を発揮することができない。本発明者は、上記課題に鑑みて、レドームを含めた状態で電波吸収体を設計することに着目した。さらに、本発明者は、上記の望ましい課題に鑑みて鋭意研究を進めた結果、抵抗層、誘電体、及び反射層を含み、一方の面側から、レドーム、抵抗層、誘電体層、及び反射層がこの順に配置され、且つ他方の面側から、抵抗層、誘電体層、及び反射層がこの順に配置されている、λ/4型電波吸収体、であれば、当該課題を解決できることを見出した。本発明者はこれらの知見に基づいて更に研究を進めた結果、本発明を完成させた。即ち、本発明は、下記の態様を包含する。
【0007】
項1. レドームを含み、且つ0度入射の垂直偏波測定において、40~85GHzにおける反射減衰量が-15dB以下である周波数帯域の幅が2GHz以上である、電波吸収体。
【0008】
項2. 抵抗層、誘電体層、及び反射層を含み、且つ
レドーム、抵抗層、誘電体層、及び反射層がこの順に配置されているλ/4型電波吸収体である、項1に記載の電波吸収体。
【0009】
項3. 0度入射の垂直偏波測定において、75~85GHzにおける反射減衰量が-15dB以下の周波数帯域の幅が2GHz以上である、項2に記載の電波吸収体。
【0010】
項4. 0度入射の垂直偏波測定において、40~55GHzにおける反射減衰量が-10dB以下の周波数帯域の幅が2GHz以上である、項3に記載の電波吸収体。
【0011】
項5. 0度入射の垂直偏波測定において、55~70GHzにおける反射減衰量の最大値が-10dB以上である、項3又は4に記載の電波吸収体。
【0012】
項6. 0度入射の垂直偏波測定において、55~70GHzにおける反射減衰量の最小値が-27dB以上である、項3又は4に記載の電波吸収体。
【0013】
項7. 0度入射の垂直偏波測定において、55~70GHzにおける反射減衰量の最大値が-5.5dB以上であり、且つ
0度入射の垂直偏波測定において、55~70GHzにおける反射減衰量の最小値が-9.8dB以上である、項3又は4に記載の電波吸収体。
【0014】
項8. 保護層を含み、且つ
レドーム、保護層、抵抗層、誘電体層、及び反射層がこの順に配置されている、項2に記載の電波吸収体。
【0015】
項9. 前記保護層の比誘電率が1~5であり、且つ前記保護層の厚みが100μm以上400μm以下である、項8に記載の電波吸収体。
【0016】
項10. レドームと保護層の間に粘着剤層を含む、項8に記載の電波吸収体。
【0017】
項11. 前記粘着剤層の比誘電率が1~5であり、且つ前記粘着剤層の厚みが1μm以上200μm以下である、項10に記載の電波吸収体。
【0018】
項12. 前記レドームの比誘電率が1~5であり、且つ前記レドームの厚みが1mm以上3mm以下である、項2に記載の電波吸収体。
【0019】
項13. 絶縁層を含み、且つ
前記反射層の前記誘電体層とは反対側に絶縁層が配置されている、項2に記載の電波吸収体。
【0020】
項14. 入射角30度のTE偏波測定において、75~85GHzにおける反射減衰量が-15dB以下の周波数帯域の幅が2GHz以上である、項1~4のいずれかに記載の電波吸収体。
【0021】
項15. 前記レドームの主面の曲率半径が5mm以上100mm以下である、項1~4のいずれかに記載の電波吸収体。
【0022】
項16. 一方の面側から、レドーム、第1の抵抗層、第1の誘電体層、及び反射層がこの順に配置され、且つ他方の面側から、第2の抵抗層、第2の誘電体層、及び反射層がこの順に配置されている、
項1に記載の電波吸収体。
【0023】
項17. 前記反射層が単層であり、
レドーム、第1の抵抗層、第1の誘電体層、反射層、第2の誘電体層、及び第2の抵抗層がこの順に配置されている、項16に記載の電波吸収体。
【0024】
項18. 前記第1抵抗層の抵抗値が100~400Ω/□であり、前記第2の抵抗層の抵抗値が100~600Ω/□である、項16に記載の電波吸収体。
【0025】
項19. 前記第1の誘電体層の厚みが200~1100μmであり且つその比誘電率が1~5であり、且つ
前記第2の誘電体層の厚みが200~700μmであり且つその比誘電率が1~5である、項16に記載の電波吸収体。
【0026】
項20. 前記第1の誘電体層が下記式(1)を満たし、
前記第2の誘電体層が下記式(2)を満たす、項16~19いずれかに記載の電波吸収体。
式(1):400≦d×√ε≦1600
式(2):700≦d×√ε≦1200
(式中、dは誘電体層の厚み(μm)を示し、εは誘電体層の比誘電率を示す。)
【0027】
項21. 両面の0度入射の垂直偏波測定のいずれにおいても、50~85GHzにおける反射減衰量が-15dB以下の周波数帯域の幅が2GHz以上である、項16に記載の電波吸収体。
【0028】
項22. 抵抗層、誘電体、及び反射層がこの順に配置されている電波吸収体用部材とレドームとを積層させる、項2~4及び16~21のいずれかに記載の電波吸収体の製造方法。
【0029】
項23. レドームと、
抵抗層、誘電体、及び反射層がこの順に配置されている電波吸収体用部材を含む、項2~4及び16~21のいずれかに記載の電波吸収体製造用キット。
【0030】
項24. 抵抗層、誘電体、及び反射層がこの順に配置されている電波吸収体用部材の使用方法であって、前記電波吸収体用部材をレドームに積層し、項2~4及び16~21いずれかに記載の電波吸収体とする、電波吸収体用部材の使用方法。
【発明の効果】
【0031】
本発明によれば、レドームを通って入ってくる電波に対する吸収性能に優れた電波吸収体を提供することができる。本発明の好ましい態様によれば、レドーム側(表面側)及び裏面側からの電波に対する吸収性能に優れた電波吸収体を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【
図1】実施例1の電波吸収体について0度入射の垂直偏波測定で得られた、各周波数における減衰量を表す。
【
図2】実施例2の電波吸収体について0度入射の垂直偏波測定で得られた、各周波数における減衰量を表す。
【
図3】実施例3の電波吸収体について0度入射の垂直偏波測定で得られた、各周波数における減衰量を表す。
【
図4】実施例4の電波吸収体について0度入射の垂直偏波測定で得られた、各周波数における減衰量を表す。
【
図5】実施例5の電波吸収体について0度入射の垂直偏波測定で得られた、各周波数における減衰量を表す。
【
図6】実施例6の電波吸収体について0度入射の垂直偏波測定で得られた、各周波数における減衰量を表す。
【
図7】実施例7の電波吸収体について0度入射の垂直偏波測定で得られた、各周波数における減衰量を表す。
【
図8】実施例8の電波吸収体について0度入射の垂直偏波測定で得られた、各周波数における減衰量を表す。
【
図9】実施例9の電波吸収体について0度入射の垂直偏波測定で得られた、各周波数における減衰量を表す。
【
図10】実施例10の電波吸収体について0度入射の垂直偏波測定で得られた、各周波数における減衰量を表す。
【
図11】実施例11の電波吸収体について0度入射の垂直偏波測定で得られた、各周波数における減衰量を表す。
【
図12】比較例1の電波吸収体について0度入射の垂直偏波測定で得られた、各周波数における減衰量を表す。
【
図13】比較例2の電波吸収体について0度入射の垂直偏波測定で得られた、各周波数における減衰量を表す。
【
図14】比較例3の電波吸収体について0度入射の垂直偏波測定で得られた、各周波数における減衰量を表す。
【
図15】比較例4の電波吸収体について0度入射の垂直偏波測定で得られた、各周波数における減衰量を表す。
【
図16】比較例5の電波吸収体について0度入射の垂直偏波測定で得られた、各周波数における減衰量を表す。
【
図17】実施例12の電波吸収体の表面(レドームに近い方の面)について0度入射の垂直偏波測定で得られた、各周波数における減衰量を表す。
【
図18】実施例13の電波吸収体の表面(レドームに近い方の面)について0度入射の垂直偏波測定で得られた、各周波数における減衰量を表す。
【
図19】実施例14の電波吸収体の表面(レドームに近い方の面)について0度入射の垂直偏波測定で得られた、各周波数における減衰量を表す。
【
図20】実施例15の電波吸収体の表面(レドームに近い方の面)について0度入射の垂直偏波測定で得られた、各周波数における減衰量を表す。
【
図21】実施例16の電波吸収体の表面(レドームに近い方の面)について0度入射の垂直偏波測定で得られた、各周波数における減衰量を表す。
【
図22】比較例6の電波吸収体の表面(レドームに近い方の面)について0度入射の垂直偏波測定で得られた、各周波数における減衰量を表す。
【
図23】実施例12~16の電波吸収体の裏面について0度入射の垂直偏波測定で得られた、各周波数における減衰量を表す。
【発明を実施するための形態】
【0033】
本明細書中において、「含有」及び「含む」なる表現については、「含有」、「含む」、「実質的にからなる」及び「のみからなる」という概念を含む。
【0034】
本発明は、その一態様において、レドームを含み、且つ0度入射の垂直偏波測定において、40~85GHzにおける反射減衰量が-15dB以下の周波数帯域の幅が2GHz以上である、電波吸収体(本明細書において、「本発明の電波吸収体」と示すこともある。)、に関する。以下に、これについて説明する。
【0035】
<1.特性>
本発明の電波吸収体は、レドームを含んでいながら、0度入射の垂直偏波測定において、40~85GHzにおける反射減衰量が-15dB以下の周波数帯域の幅が2GHz以上である、という特性(本明細書において、「本発明の特性」と示すこともある。)を備える。この特性を備えることにより、レドームを通って入ってくる電波に対して優れた吸収性能を発揮することができる。なお、反射減衰量が-15dB以下の周波数帯域を複数有する場合には、少なくともひとつの連続した周波数帯域において反射減衰量が-15dB以下の周波数帯域の幅が2GHz以上であることを示す。
【0036】
本発明の特性における周波数帯域の幅は、好ましくは3GHz以上、より好ましくは4GHz以上、さらに好ましくは5GHz以上である。当該周波数帯域の幅の上限は、特に制限されないが、例えば10GHz、12GHz、又は15GHzである。
【0037】
本発明の電波吸収体は、ミリ波レーダーに好適に利用可能であるという観点から、好ましくは、0度入射の垂直偏波測定において、75~85GHzにおける反射減衰量が-15dB以下の周波数帯域の幅が2GHz以上である(本明細書において、「特性A」と示すこともある。)、という特性を備えることができる。
【0038】
特性Aにおける周波数帯域の幅は、好ましくは2GHz以上、より好ましくは3GHz以上、さらに好ましくは5GHz以上である。当該周波数帯域の幅の上限は、10GHzである。
【0039】
本発明の電波吸収体は、レドームを含むので、レドームに起因する電波吸収ピークが発現し易い。当該ピークを制御してミリ波レーダーとしての性能(特に、75~85GHzにおける電波吸収性能)をより向上させる観点から、本発明の電波吸収体は、その一態様において、0度入射の垂直偏波測定において、40~55GHzにおける反射減衰量が-10dB以下の周波数帯域の幅が2GHz以上である(本明細書において、「特性B」と示すこともある。)、という特性を備えることができる。
【0040】
特性Bにおける周波数帯域の幅は、好ましくは2GHz以上、より好ましくは10GHz以上、さらに好ましくは13GHz以上である。当該周波数帯域の幅の上限は、15GHzである。
【0041】
本発明の電波吸収体は、レドームを含むので、レドームに起因する電波吸収ピークを含む2つの電波吸収ピークが発現し易く、ピーク間の電波吸収性は比較的低くなり易い。これらのピークを制御してミリ波レーダーとしての性能(特に、75~85GHzにおける電波吸収性能)をより向上させる観点から、本発明の電波吸収体は、その一態様において、0度入射の垂直偏波測定において、55~70GHzにおける反射減衰量の最大値が-10dB以上である(本明細書において、「特性C」と示すこともある。)、という特性を備えることができる。
【0042】
特性Cにおける反射減衰量の最大値は、好ましくは-7dB以上、より好ましくは-5.5dB以上、さらに好ましくは-4.5dB以上である。当該値の上限は、特に制限されないが、例えば-1dB、-2dB、又は-3dBである。
【0043】
本発明の電波吸収体は、レドームを含むので、レドームに起因する電波吸収ピークを含む2つの電波吸収ピークが発現し易く、ピーク間の電波吸収性は比較的低くなり易い。これらのピークを制御してミリ波レーダーとしての性能(特に、75~85GHzにおける電波吸収性能)をより向上させる観点から、本発明の電波吸収体は、その一態様において、0度入射の垂直偏波測定において、55~70GHzにおける反射減衰量の最小値が-27dB以上である(本明細書において、「特性D」と示すこともある。)、という特性を備えることができる。
【0044】
特性Dにおける反射減衰量の最小値は、好ましくは-26.5dB以上、より好ましくは-10dB以上、さらに好ましくは-9.8dB以上である。当該値の上限は、特に制限されないが、例えば-1dB、-2dB、又は-3dBである。
【0045】
特に、75~85GHzにおける電波吸収性能をより向上させる観点から、特性Cおよび特性Dの両方の性能を備えることが好ましく、特性Cにおける反射減衰量の最大値が-5.5dB以上、かつ、特性Dにおける反射減衰量の最小値が-9.8dB以上であることがより好ましい。
【0046】
上記した本発明の特性、特性A、特性B、特性C及び特性Dは、以下の方法により測定及び算出することができる。
【0047】
ネットワークアナライザー MS4647B(アンリツ社製)、フリースペース材料測定置 BD1-26.A(キーコム社製)を用いて電波吸収測定装置を構成し、この電波吸収測定装置を用いて得られたλ/4型電波吸収体の電波吸収量をJIS R1679に基づいて測定する。なお、λ/4型電波吸収体は、電波入射方向が垂直入射かつ抵抗層面(支持体)からの入射となるようにセットする。得られた測定結果から指定の周波数内で該当する反射減衰量を読み取る。
【0048】
本発明の電波吸収体は、斜め入射の電波に対する電波吸収性能をより高める観点から、好ましくは、入射角30度のTE偏波測定において、75~85GHzにおける反射減衰量が-15dB以下の周波数帯域の幅が2GHz以上である(本明細書において、「特性E」と示すこともある。)、という特性を備えることができる。
【0049】
特性Eにおける周波数帯域の幅は、好ましくは4GHz以上、より好ましくは6GHz以上、さらに好ましくは8GHz以上である。当該周波数帯域の幅の上限は、10GHzである。
【0050】
上記した特性Eは、以下の方法により測定及び算出することができる。
【0051】
λ/4型電波吸収体に対して電波の入射角が30度になるようにアンテナ位置を調整する以外は本発明の特性、特性A、特性B、及び特性Cと同じように測定する。
【0052】
<2.構成>
本発明の電波吸収体の構成は、レドームを含み、且つ本発明の特性を備えるものである限り特に制限されず、例えば電波吸収体の公知の構成を採用することができる。一実施形態において、本発明の電波吸収体は、抵抗層、誘電体層、及び反射層を有する、という構成を備える。すなわち、一実施形態において、本発明の電波吸収体は、λ/4型電波吸収体である。以下に、この実施形態について説明する。
【0053】
<2-1.レドーム>
レドームは、本発明の電波吸収体が使用されるレーダー装置のアンテナを保護する電波透過性部材である。レドームとしては、特に制限されないが、例えば樹脂製であることができる。
【0054】
レドームを構成する樹脂としては、例えばアクリル樹脂、四フッ化エチレン樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリブチレンテレフタレート樹脂、ポリフェニレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、シンジオタクチックポリスチレン樹脂、ABS樹脂等が挙げられる。これらは1種単独でまたは2種以上の組合せで使用することができる。
【0055】
レドームの比誘電率は、例えば1~20、好ましくは1~15、より好ましくは1~10、さらに好ましくは1~5である。
【0056】
レドームの厚みは、例えば0.5mm以上5mm以下、好ましくは0.7mm以上4mm以下、より好ましくは1mm以上3mm以下である。
【0057】
レドームの(厚み[μm])×√(比誘電率)は、例えば500~22000、好ましくは1000~15000、より好ましくは2000~6000、さらに好ましくは3000~5700、さらにより好ましくは3500~4600、特に好ましくは3700~4500である。レドームと保護層又は抵抗層の間に配置される粘着剤層の(厚み[μm])×√(比誘電率)を上記範囲とすることで、特性Aを満たし易くなり、後述の通り、電波吸収のピークが79GHz付近に現れるように調整し易くなる。
【0058】
レドームの厚みは、Nikon DIGIMICROSTANDMS-11C+Nikon DIGIMICRO MFC-101によって測定することができる。
【0059】
レドームの比誘電率は、ネットワークアナライザー、空洞共振器などを用いて、10GHzにおける比誘電率を空洞共振器摂動法により測定することができる。
【0060】
レドームの層構成は特に制限されない。レドームは、1種単独の誘電体層から構成されるものであってもよいし、2種以上の樹脂板が複数組み合わされたものであってもよい。
【0061】
レドームの形状は、上記機能を有する限りにおいて、特に制限されない。レドームの主面は、例えば平面上であることができる。レドームの主面の曲率半径は、一態様において、5mm以上100mm以下であることができる。また、レドームの主面の曲率半径は、一態様において、5mm未満であることができる。
【0062】
レドームの曲率半径は、例えば、20mm角の電波吸収体を貼る場合の貼り付け箇所の湾曲部において、任意の3点を通る外接円の半径から測定することができる。
【0063】
<2-2.抵抗層>
抵抗層は、電波吸収体において所定の抵抗値を備える層として機能し得る限り特に制限されない。
【0064】
抵抗層の抵抗値は、特に制限されない。抵抗層の抵抗値(シート抵抗)は、例えば100~800Ω/□である。該範囲の中でも、150~750Ω/□、さらに好ましくは200~600Ω/□、さらにより好ましくは230~350Ω/□である。上記範囲とすることでレドームを含む場合でも良好な電波吸収性を発現しやすくなる。
【0065】
本発明の好ましい一態様(2つの抵抗層及び2つの誘電体層を備える態様)において、抵抗層の抵抗値(シート抵抗)は、より好ましくは100~700Ω/□、さらに好ましくは100~600Ω/□である。
【0066】
本発明の好ましい一態様(2つの抵抗層及び2つの誘電体層を備える態様)において、少なくとも一方の抵抗層の抵抗値は100~550Ω/□である。
【0067】
本発明の好ましい一態様(2つの抵抗層及び2つの誘電体層を備える態様)において、一方の抵抗層の抵抗値が100~600Ω/□であり、且つもう一方の抵抗層の抵抗値が100~400Ω/□である。また、この場合、より好ましくは、レドームに近い方の抵抗層の抵抗値が100~400Ω/□であり、もう一方の抵抗層の抵抗値が100~600Ω/□である。表面側はレドームが存在するので、電波吸収性能の設計をレドームを含めた状態で行うことが望ましく、このため、設計の一手段として、表面側と裏面側とで抵抗層の抵抗値を異なるものとすることが好ましい。両者の抵抗値の差は、例えば10Ω/□以上、20Ω/□以上、又は50Ω/□以上であることができる。レドームに近い方の抵抗層の抵抗値はより好ましくは230~350Ω/□である。
【0068】
抵抗層の抵抗値は、表面抵抗計(MITSUBISHI CHEMICALANALYTECH社製、商品名「Loresta-EP」)を用いて、4端子法により測定することができる。
【0069】
抵抗層の厚みは、特に制限されない。抵抗層の厚みは、例えば1nm以上200nm以下、好ましくは2nm以上100nm以下、より好ましくは2nm以上50nm以下である。
【0070】
抵抗層の層構成は特に制限されない。抵抗層は、1種単独の層から構成されるものであってもよいし、2種以上の層が複数組み合わされたものであってもよい。
【0071】
<2-2-1.酸化インジウム含有抵抗層>
抵抗層としては、例えば酸化インジウム等の抵抗層材料を含有する抵抗層が挙げられる。好ましい一態様において、抵抗層材料としては、酸化インジウムに他の材料(ドーパント)がドープされてなる材料を含有することが好ましい。他の材料としては、特に制限されないが、例えば酸化スズ及び酸化亜鉛、並びにそれらの混合物等が挙げられる。
【0072】
酸化インジウムに酸化スズがドープされてなる材料の中でも、好ましくは、酸化インジウム(III)(In2O3)に酸化スズ(IV)(SnO2)をドープしたもの(酸化インジウムスズ)(tin-doped indium oxide;ITO)が挙げられる。非晶質構造が極めて安定であり、高温多湿の環境下においても抵抗層のシート抵抗の変動を抑えることができる点から、ITO中のSnO2含有量は、好ましくは1~40重量%、より好ましくは2~35重量%である。
【0073】
抵抗層中の上記抵抗層材料の含有量は、例えば50質量%以上、好ましくは70質量%以上、より好ましくは90質量%以上、さらに好ましくは95質量%以上であり、通常100質量%未満である。
【0074】
<2-2-2.モリブデン含有抵抗層>
抵抗層としては、耐久性、シート抵抗の調整が容易である観点から、モリブデンを含有する抵抗層が好ましく用いられる。モリブデンの含有量の下限は特に限定されないが、より耐久性を高める観点から、5重量%が好ましく、7重量%がより好ましく、9重量%が更に好ましく、11重量%がより更に好ましく、13重量%が特に好ましく、15重量%が非常に好ましく、16重量%が最も好ましい。また、上記モリブデンの含有量の上限は、表面抵抗値の調整の容易化の観点から、30重量%が好ましく、25重量%がより好ましく、20重量%が更に好ましい。
【0075】
上記抵抗層は、モリブデンを含有している場合、さらにニッケル及びクロムを含有することがより好ましい。抵抗層にモリブデンに加えてニッケル及びクロムを含有することでより耐久性に優れた電波吸収体とすることができる。ニッケル、クロム及びモリブデンを含有する合金としては、例えば、ハステロイB-2、B-3、C-4、C-2000、C-22、C-276、G-30、N、W、X等の各種グレードが挙げられる。
【0076】
上記抵抗層がモリブデン、ニッケル及びクロムを含有する場合、モリブデンの含有量が5重量%以上、ニッケルの含有量が40重量%以上、クロムの含有量が1重量%以上であることが好ましい。モリブデン、ニッケル及びクロムの含有量が上記範囲であることで、より耐久性に優れた電波吸収体とすることができる。上記モリブデン、ニッケル及びクロムの含有量は、モリブデン含有量が7重量%以上、ニッケル含有量が45重量%以上、クロム含有量が3重量%以上であることがより好ましい。上記モリブデン、ニッケル及びクロムの含有量は、モリブデン含有量が9重量%以上、ニッケル含有量が47重量%以上、クロム含有量が5重量%以上であることが更に好ましい。上記モリブデン、ニッケル及びクロムの含有量は、モリブデン含有量が11重量%以上、ニッケル含有量が50重量%以上、クロム含有量が10重量%以上であることがより更に好ましい。上記モリブデン、ニッケル及びクロムの含有量は、モリブデン含有量が13重量%以上、ニッケル含有量が53重量%以上、クロム含有量が12重量%以上であることが特に好ましい。上記モリブデン、ニッケル及びクロムの含有量は、モリブデン含有量が15重量%以上、ニッケル含有量が55重量%以上、クロム含有量が15重量%以上であることが非常に好ましい。上記モリブデン、ニッケル及びクロムの含有量は、モリブデン含有量が16重量%以上、ニッケル含有量が57重量%以上、クロム含有量が16重量%以上であることが最も好ましい。また、上記ニッケルの含有量は、80重量%以下であることが好ましく、70重量%以下であることがより好ましく、65重量%以下であることが更に好ましい。上記クロム含有量の上限は、50重量%以下であることが好ましく、40重量%以下であることがより好ましく、35重量%以下であることが更に好ましい。
【0077】
上記抵抗層は、上記モリブデン、ニッケル及びクロム以外の金属を含有してもよい。そのような金属としては、例えば、鉄、コバルト、タングステン、マンガン、チタン等が挙げられる。上記抵抗層がモリブデン、ニッケル及びクロムを含有する場合、上記モリブデン、ニッケル及びクロム以外の金属の合計含有量の上限は、抵抗層の耐久性の観点から、好ましくは45重量%、より好ましくは40重量%、更に好ましくは35重量%、より更に好ましくは30重量%、特に好ましくは25重量%、非常に好ましくは23重量%である。上記モリブデン、ニッケル及びクロム以外の金属の合計含有量の下限は、例えば1重量%以上である。
【0078】
上記抵抗層が鉄を含有する場合、抵抗層の耐久性の観点から、含有量の好ましい上限は25重量%、より好ましい上限は20重量%、更に好ましい上限は15重量%であり、好ましい下限は1重量%である。上記抵抗層がコバルト及び/又はマンガンを含有する場合、抵抗層の耐久性の観点から、それぞれ独立して、含有量の好ましい上限は5重量%、より好ましい上限は4重量%、更に好ましい上限は3重量%であり、好ましい下限は0.1重量%である。上記抵抗層がタングステンを含有する場合、抵抗層の耐久性の観点から、含有量の好ましい上限は8重量%、より好ましい上限は6重量%、更に好ましい上限は4重量%であり、好ましい下限は1重量%である。
【0079】
上記抵抗層は、ケイ素及び/又は炭素を含有してもよい。抵抗層がケイ素及び/又は炭素を含有する場合、上記ケイ素及び/又は炭素の含有量は、それぞれ独立して、1重量%以下であることが好ましく0.5重量%以下であることがより好ましい。また、抵抗層がケイ素及び/又は炭素を含有する場合、上記ケイ素及び/又は炭素の含有量は、0.01重量%以上であることが好ましい。
【0080】
<2-3.バリア層>
耐久性の観点から、抵抗層の面上にバリア層を含むことが好ましい。バリア層は、抵抗層の少なくとも一方の表面上に配置される。バリア層について以下に詳述する。
【0081】
バリア層は、抵抗層を保護し、その劣化を抑えることができる層である限り、特に制限されない。バリア層の素材としては、例えば金属化合物、半金属化合物、好ましくは金属又は半金属の酸化物、窒化物、窒化酸化物等が挙げられる。バリア層は、本発明の効果が著しく損なわれない限りにおいて、上記素材以外の成分が含まれていてもよい。その場合、バリア層中の上記素材量は、例えば80質量%以上、好ましくは90質量%以上、より好ましくは95質量%以上、さらに好ましくは99質量%以上であり、通常100質量%未満である。
【0082】
バリア層が含む金属元素としては、例えばチタン、アルミニウム、ニオブ、コバルト、ニッケル等が挙げられる。バリア層が含む半金属元素としては、例えばケイ素、ゲルマニウム、アンチモン、ビスマス等が挙げられる。
【0083】
上記酸化物としては、例えばMOX[式中、Xは式:n/100≦X≦n/2(nは金属又は半金属の価数である)を満たす数であり、Mは金属元素又は半金属元素である。]で表される化合物が挙げられる。
【0084】
上記窒化物としては、例えばMNy[式中、Yは式:n/100≦Y≦n/3(nは金属又は半金属の価数である)を満たす数であり、Mは金属元素又は半金属元素である。]で表される化合物が挙げられる。
【0085】
上記窒化酸化物としては、例えばMOXNy[式中、XとYは、n/100≦X、n/100≦Y、かつ、X+Y≦n/2(nは金属又は半金属の価数である)であり、Mは金属元素又は半金属元素である。]で表される化合物が挙げられる。
【0086】
上記酸化物又は窒化酸化物の酸化数Xに関しては、例えばMOx又はMOxNyを含む層の断面を、FE-TEM-EDX(例えば、日本電子社製「JEM-ARM200F」)により元素分析し、MOx又はMOxNyを含む層の断面の面積当たりのMとOとの元素比率からXを算出することにより、酸素原子の価数を算出することができる。
【0087】
上記窒化物又は窒化酸化物の窒素化数Yに関しては、例えばMNy又はMOxNyを含む層の断面を、FE-TEM-EDX(例えば、日本電子社製「JEM-ARM200F」)により元素分析し、MNy又はMOxNyを含む層の断面の面積当たりのMとNとの元素比率からYを算出することにより、窒素原子の価数を算出することができる。
【0088】
バリア層の素材の具体例としては、SiO2、SiOx、Al2O3、MgAl2O4、CuO、CuN、TiO2、TiN、AZO(アルミニウムドープ酸化亜鉛)等が挙げられる。
【0089】
バリア層の厚みは、特に制限されない。バリア層の厚みは、例えば1nm以上200nm以下、好ましくは1nm以上100nm以下、より好ましくは1nm以上20nm以下である。
【0090】
バリア層の層構成は特に制限されない。バリア層は、1種単独のバリア層から構成されるものであってもよいし、2種以上のバリア層が複数組み合わされたものであってもよい。
【0091】
<2-4.誘電体層>
誘電体層は、電波吸収体において目的の波長に対して誘電体として機能し得るものである限り、特に制限されない。誘電体層としては、特に制限されないが、例えば樹脂シート、粘着剤等が挙げられる。
【0092】
樹脂シートは、樹脂を素材として含むシート状のものである限り、特に制限されない。樹脂シートは、本発明の効果が著しく損なわれない限りにおいて、樹脂以外の成分が含まれていてもよい。その場合、樹脂シート中の樹脂の合計量は、例えば50質量%以上、好ましくは70質量%以上、より好ましくは90質量%以上、さらに好ましくは95質量%以上であり、通常100質量%未満である。
【0093】
樹脂としては、特に制限されず、例えばエチレン酢酸ビニル共重合体(EVA)、塩化ビニル、ウレタン、アクリル、アクリルウレタン、ポリオレフィン、ポリエチレン、ポリプロピレン、シリコーン、ポリエチレンテレフタレート、ポリエステル、ポリスチレン、ポリイミド、ポリカーボネート、ポリアミド、ポリサルフォン、ポリエーテルサルフォン、エポキシ等の合成樹脂や、ポリイソプレンゴム、ポリスチレン・ブタジエンゴム、ポリブタジエンゴム、クロロプレンゴム、アクリロニトリル・ブタジエンゴム、ブチルゴム、アクリルゴム、エチレン・プロピレンゴムおよびシリコーンゴム等の合成ゴム材料を樹脂成分として用いることが好ましい。これらは1種単独でまたは2種以上の組合せで使用することができる。
【0094】
誘電体層は、発泡体や粘着剤であってもよい。
【0095】
粘着剤としては、特に制限されず、例えばアクリル系粘着剤、ウレタン系粘着剤、ポリオレフィン系粘着剤、ポリエステル系粘着剤、ビニルアルキルエーテル系粘着剤、ポリアミド系粘着剤、ゴム系粘着剤、シリコーン系粘着剤、フッ素系粘着剤等が挙げられる。これらの中でも、耐候性が高いという観点から、アクリル系粘着剤が好ましい。
【0096】
誘電体層は、粘着性を備えるものであってもよい。このため、粘着性を有しない誘電体を粘着剤層により他の層に積層させる場合、該誘電体と粘着剤層とを合わせたものが「誘電体層」となる。隣接する層と積層し易いという観点から、誘電体層は、好ましくは粘着剤層を含む。
【0097】
誘電体層の比誘電率は、本発明の特性を満たし得るものである限り特に制限されない。誘電体層の比誘電率を調節することにより、本発明の特性における周波数帯域の幅を調節することが可能である。誘電体層の比誘電率は、例えば1~20、好ましくは1~15、より好ましくは1~10、さらに好ましくは1~5である。
【0098】
誘電体層の厚みは、本発明の特性を満たし得るものである限り特に制限されない。誘電体層の厚みを調節することにより、本発明の特性における周波数帯域の幅を調節することが可能である。誘電体層の厚みは、例えば100μm以上1000μm以下、好ましくは200μm以上800μm以下、より好ましくは400μm以上700μm以下、特に好ましくは450μm以上650μm以下である。
【0099】
本発明の好ましい一態様(2つの抵抗層及び2つの誘電体層を備える態様)において、誘電体層の厚みは、例えば200μm以上1500μm以下、好ましくは200μm以上1100μm以下、より好ましくは200μm以上1000μm以下である。
【0100】
誘電体層の(厚み[μm])×√(比誘電率)は、例えば100~4450、好ましくは200~3000、より好ましくは400~2200、さらに好ましくは450~1450、さらにより好ましくは550~1000、特に好ましくは750~950である。レドームと保護層又は抵抗層の間に配置される粘着剤層の(厚み[μm])×√(比誘電率)を上記範囲とすることで、特性Aを満たし易くなり、後述の通り、電波吸収のピークが79GHz付近に現れるように調整し易くなる。
【0101】
本発明の好ましい一態様(2つの抵抗層及び2つの誘電体層を備える態様)において、少なくとも一方の誘電体層の比誘電率が1~5であり、且つその厚みが200~1000μmであることが好ましい。
【0102】
本発明の好ましい一態様(2つの抵抗層及び2つの誘電体層を備える態様)において、一方の面の誘電体層の厚みが200~1100μmであり且つその比誘電率が1~5であり、且つもう一方の誘電体層の厚みが200~700μmであり且つその比誘電率が1~5である。また、この場合、より好ましくは、レドームに近い方の誘電体層の厚みが200~1100μmであり且つその比誘電率が1~5であり、且つもう一方の誘電体層の厚みが200~700μmであり且つその比誘電率が1~5である。表面側はレドームが存在するので、電波吸収性能の設計をレドームを含めた状態で行うことが望ましく、このため、設計の一手段として、表面側と裏面側とで誘電体層の厚み及び比誘電率を異なるものとすることが好ましい。両者の厚みの差は、例えば20μm以上、50μm以上、又は100μm以上であることができる。
【0103】
本発明の好ましい一態様(2つの抵抗層及び2つの誘電体層を備える態様)において、レドームに近い方の誘電体層が下記式(1)を満たし、他方の誘電体層が下記式(2)を満たす。
式(1):400≦d×√ε≦1600
式(2):700≦d×√ε≦1200
(式中、dは誘電体層の厚み(μm)を示し、εは誘電体層の比誘電率を示す。)
式(1)におけるd×√εの下限は、より好ましくは420、さらに好ましくは6000であり、上限は、より好ましくは1500、さらに好ましくは700である。式(2)におけるd×√εの下限は、より好ましくは750、さらに好ましくは760であり、上限は、より好ましくは1000、さらに好ましくは800である。
【0104】
誘電体層が複数の層からなる場合は、それぞれの層についての値を出して合算して算出する。例えば、誘電体層が、誘電体層1及び誘電体層2(例えば粘着テープ等)からなる場合は、「d×√ε」は、「誘電体層1の厚み×(誘電体層1の比誘電率)0.5」と「誘電体層2の厚み×(誘電体層2の比誘電率)0.5」とを合算して算出する。
【0105】
誘電体層の厚みは、Nikon DIGIMICROSTANDMS-11C+Nikon DIGIMICRO MFC-101によって測定することができる。
【0106】
誘電体層の比誘電率は、ネットワークアナライザー、空洞共振器などを用いて、10GHzにおける比誘電率を空洞共振器摂動法により測定することができる。
【0107】
誘電体層の層構成は特に制限されない。誘電体層は、1種単独の誘電体層から構成されるものであってもよいし、2種以上の誘電体層が複数組み合わされたものであってもよい。例えば、粘着性を有しない誘電体とその両面に配置された粘着剤層とからなる3層構造の誘電体層、粘着性を有する誘電体からなる1層構造の誘電体層等が挙げられる。
【0108】
<2-5.反射層>
反射層は、電波吸収体において電波の反射層として機能し得るものである限り、特に制限されない。反射層としては、特に制限されないが、例えば金属層が挙げられる。
【0109】
金属層は、金属を素材として含む層である限り、特に制限されない。金属層は、本発明の効果が著しく損なわれない限りにおいて、金属以外の成分が含まれていてもよい。その場合、金属層中の金属の合計量は、例えば30質量%以上、好ましくは50質量%以上、より好ましくは75質量%以上、さらに好ましくは80質量%以上、さらにより好ましくは90質量%以上、特に好ましくは95質量%以上、非常に好ましくは99質量%以上であり、通常100質量%未満である。
【0110】
金属としては、特に制限されず、例えばアルミニウム、銅、鉄、銀、金、クロム、ニッケル、モリブデン、ガリウム、亜鉛、スズ、ニオブ、インジウム等が挙げられる。また、金属化合物、例えばITO等も、金属層の素材として使用することができる。これらは1種単独であってもよいし、2種以上の組み合わせであってもよい。
【0111】
反射層の厚みは、特に制限されない。反射層の厚みは、例えば1μm以上500μm以下、好ましくは2μm以上200μm以下、より好ましくは5μm以上100μm以下である。
【0112】
反射層の層構成は特に制限されない。反射層は、1種単独の反射層から構成されるものであってもよいし、2種以上の反射層が複数組み合わされたものであってもよい。
【0113】
<2-6.保護層>
本発明の電波吸収体は、さらに保護層を有することが好ましい。これにより、抵抗層を保護することができ、電波吸収体としての耐久性を高めることが可能である。保護層は、抵抗層の誘電体層とは反対側に配置される。表面の場合は、レドームと抵抗層との間に配置される。保護層は、シート状のものである限り、特に制限されない。保護層としては、特に制限されないが、例えば樹脂基材が挙げられる。
【0114】
樹脂基材は、樹脂を素材として含む基材であって、シート状のものである限り、特に制限されない。樹脂基材は、本発明の効果が著しく損なわれない限りにおいて、樹脂以外の成分が含まれていてもよい。例えば、比誘電率を調整する観点から酸化チタン等が含まれていてもよい。樹脂基材中の樹脂の合計量は、例えば80質量%以上、好ましくは90質量%以上、より好ましくは95質量%以上、さらに好ましくは99質量%以上であり、通常100質量%未満である。
【0115】
樹脂としては、特に制限されず、例えばポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート、変性ポリエステル等のポリエステル系樹脂、ポリエチレン(PE)樹脂、ポリプロピレン(PP)樹脂、ポリスチレン樹脂、環状オレフィン系樹脂等のポリオレフィン類樹脂、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン等のビニル系樹脂、ポリビニルブチラール(PVB)等のポリビニルアセタール樹脂、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)樹脂、ポリサルホン(PSF)樹脂、ポリエーテルサルホン(PES)樹脂、ポリカーボネート(PC)樹脂、ポリアミド樹脂、ポリイミド樹脂、アクリル樹脂、トリアセチルセルロース(TAC)樹脂等が挙げられる。これらは1種単独でまたは2種以上の組合せで使用することができる。
【0116】
これらの中でも、生産性や強度の観点から、好ましくはポリエステル系樹脂、より好ましくはポリエチレンテレフタレートが挙げられる。
【0117】
保護層の比誘電率は、特に制限されない。保護層の比誘電率は、例えば1~20、好ましくは1~15、より好ましくは1~10、さらに好ましくは1~5である。
【0118】
保護層の厚みは、特に制限されない。保護層の厚みは、例えば5μm以上500μm以下、好ましくは10μm以上300μm以下、より好ましくは20μm以上200μm以下、特に好ましくは25μm以上150μm以下である。
【0119】
保護層の(厚み[μm])×√(比誘電率)は、例えば5~2200、好ましくは10~1100、より好ましくは20~630、さらに好ましくは25~330、特に好ましくは150~250である。レドームと保護層又は抵抗層の間に配置される粘着剤層の(厚み[μm])×√(比誘電率)を上記範囲とすることで、特性Aを満たし易くなり、後述の通り、電波吸収のピークが79GHz付近に現れるように調整し易くなる。
【0120】
保護層の厚みは、Nikon DIGIMICROSTANDMS-11C+Nikon DIGIMICRO MFC-101によって測定することができる。
【0121】
保護層の比誘電率は、ネットワークアナライザー、空洞共振器などを用いて、10GHzにおける比誘電率を空洞共振器摂動法により測定することができる。
【0122】
保護層の層構成は特に制限されない。保護層は、1種単独の保護層から構成されるものであってもよいし、2種以上の保護層が複数組み合わされたものであってもよい。
【0123】
<2-7.絶縁層>
本発明の電波吸収体は、一態様において、絶縁層を含み、且つ反射層の誘電体層とは反対側に絶縁層が配置されていることが好ましい。これにより、反射層と他の通電部材との接触により生じる短絡を防ぐことができる。絶縁層は、絶縁性能を有するものである限り特に制限されないが、例えば上記した樹脂や、ガラス、セラミック等が挙げられる。
【0124】
絶縁層の厚みは、特に制限されない。絶縁層の厚みは、例えば5μm以上195μm以下、好ましくは40μm以上130μm以下、より好ましくは70μm以上90μm以下である。
【0125】
絶縁層の層構成は特に制限されない。絶縁層は、1種単独の絶縁層から構成されるものであってもよいし、2種以上の絶縁層が複数組み合わされたものであってもよい。
【0126】
<2-8.層構成>
本発明の電波吸収体において、各層は、電波吸収性能を発揮することができる順に配置される。本発明の電波吸収体が抵抗層、誘電体層、及び反射層を含む場合、一例として、レドーム、抵抗層、誘電体層、及び反射層は、この順に配置される。本発明の電波吸収体がさらに保護層を有する場合、一例として、レドーム、保護層、抵抗層、誘電体層、及び反射層は、この順に配置される。
【0127】
本発明の特性を満たす限りにおいては、上記層以外に、さらに他の層を含むものであってもよい。他の層は、保護層、抵抗層、誘電体層、及び反射層それぞれの層の、どちらか一方の表面上に配置され得る。
【0128】
他の層としては、例えば、反射層の誘電体層側とは反対側の面上に配置される粘着剤層が挙げられる。この粘着剤層により、本発明の電波吸収体を、他の部材(例えば、自動車内のデバイス等)により容易に取り付けることが可能になる。この観点から、本発明の電波吸収体は、反射層の誘電体層側とは反対側の面上に粘着剤層が配置されていることが好ましい。また、この粘着剤層により、2つの電波吸収体の反射層側を貼り合わせることにより簡便に、好ましい一態様の(2つの抵抗層及び2つの誘電体層を備える態様の)本発明の電波吸収体を得ることができる。
【0129】
他の層の別の例としては、レドームと保護層又は抵抗層の間に配置される粘着剤層が挙げられる。この粘着剤層により、保護層又は抵抗層をレドームに安定に固定することができる。この場合、粘着剤層は、本発明の特性の観点から、比誘電率が1以上5以下であり、且つ厚みが1μm以上200μm以下であることが好ましい。
【0130】
レドームと保護層又は抵抗層の間に配置される粘着剤層の厚みは、例えば5μm以上1000μm以下、好ましくは10μm以上500μm以下、より好ましくは20μm以上100μm以下である。
【0131】
レドームと保護層又は抵抗層の間に配置される粘着剤層の比誘電率は、例えば1~20、好ましくは1~15、より好ましくは1~10、さらに好ましくは1~5である。
【0132】
レドームと保護層又は抵抗層の間に配置される粘着剤層の(厚み[μm])×√(比誘電率)は、例えば5~4500、好ましくは10~1900、より好ましくは20~315、さらに好ましくは50~100である。レドームと保護層又は抵抗層の間に配置される粘着剤層の(厚み[μm])×√(比誘電率)を上記範囲とすることで、特性Aを満たし易くなり、後述の通り、電波吸収のピークが79GHz付近に現れるように調整し易くなる。
【0133】
粘着剤層の粘着剤としては、特に制限されず、例えばアクリル系粘着剤、ウレタン系粘着剤、ポリオレフィン系粘着剤、ポリエステル系粘着剤、ビニルアルキルエーテル系粘着剤、ポリアミド系粘着剤、ゴム系粘着剤、シリコーン系粘着剤、フッ素系粘着剤等が挙げられる。
【0134】
本発明の一態様においては、上記した位置の粘着剤層以外の他の層は存在しない。
【0135】
本発明の電波吸収体は、好ましい一態様において、一方の面側(レドーム側:表面側)から、レドーム、抵抗層、誘電体層、及び反射層がこの順に配置され、且つ他方の面側(レドーム側とは反対側:裏面側)から、抵抗層、誘電体層、及び反射層がこの順に配置されている。この場合、本発明の電波吸収体は、2つの抵抗層及び2つの誘電体層を備えている。この態様によって、レドーム側(表面側)及び裏面側からの電波に対する吸収性能に優れた電波吸収体を提供することができる。
【0136】
本発明の一態様において、本発明の電波吸収体は、表面側から、レドーム、抵抗層、誘電体層、反射層、反射層、誘電体層、及び抵抗層がこの順に配置されている。すなわち、当該態様においては、本発明の電波吸収体は、2つの反射層を備えている。
【0137】
本発明の一態様において、本発明の電波吸収体は、反射層が単層(1つ)である態様である、すなわち、表面側から、レドーム、第1の抵抗層、第1の誘電体層、反射層、第2の誘電体層、及び第2の抵抗層がこの順に配置されている。これは、表面側と裏面側とで反射層を共有している態様であり、このような構成とすることにより全体の厚みを小さく抑えることができる。
【0138】
本発明の好ましい一態様(2つの抵抗層及び2つの誘電体層を備える態様)の電波吸収体は、レドーム側(表面側)及び裏面側からの電波に対する吸収性能に優れている。例えば、当該電波吸収体は、両面の0度入射の垂直偏波測定のいずれにおいても、50~85GHzにおける反射減衰量が-15dB以下の周波数帯域の幅が2GHz以上である、という性能を有する。
【0139】
周波数帯域の幅は、好ましくは1GHz以上、より好ましくは2GHz以上、さらに好ましくは3GHz以上である。当該周波数帯域の幅の上限は、特に制限されないが、例えば10GHz、15GHz、又は20GHzである。
【0140】
上記した性能は、以下の方法により測定及び算出することができる。
【0141】
ネットワークアナライザー MS4647B(アンリツ社製)、フリースペース材料測定置 BD1-26.A(キーコム社製)を用いて電波吸収測定装置を構成し、この電波吸収測定装置を用いて得られたλ/4型電波吸収体の電波吸収量をJIS R1679に基づいて測定する。なお、λ/4型電波吸収体は、電波入射方向が垂直入射かつ抵抗層面(支持体)からの入射となるようにセットする。得られた測定結果から指定の周波数内で該当する反射減衰量を読み取る。
【0142】
<2-9.製造方法>
本発明の電波吸収体は、その構成に応じて、様々な方法、例えば公知の製造方法に従って又は準じて得ることができる。例えば、保護層上に抵抗層、誘電体層、及び反射層を順に積層させる工程(工程1)、及び得られた電波吸収体用部材とレドームとを積層させる工程(工程2)を含む方法により、得ることができる。
【0143】
本発明の好ましい一態様(2つの抵抗層及び2つの誘電体層を備える態様)の電波吸収体は、その構成に応じて、様々な方法、例えば公知の製造方法に従って又は準じて得ることができる。例えば、保護層上に抵抗層、誘電体層、反射層、誘電体層、抵抗層を順に積層させる工程(工程A)、或いは保護層上に抵抗層、誘電体層、反射層を順に積層させて得られた2つの積層体の反射層側を貼り合わせる工程(工程B)、及び得られた電波吸収体用部材とレドームとを積層させる工程(工程2)を含む方法により、得ることができる。
【0144】
本発明は、一態様において、抵抗層、誘電体、及び反射層がこの順に配置されているλ/4型電波吸収体用部材とレドームとを積層させる、本発明の電波吸収体の製造方法、に関する。
【0145】
積層方法は特に制限されない。
【0146】
抵抗層は、例えば、スパッタリング法、真空蒸着法、イオンプレーティング法、化学蒸着法、パルスレーザーデポジション法等により行うことができる。これらの中でも、層厚制御性の観点から、スパッタリング法が好ましい。スパッタリング法としては、特に限定されないが、例えば、直流マグネトロンスパッタ、高周波マグネトロンスパッタ及びイオンビームスパッタ等が挙げられる。また、スパッタ装置は、バッチ方式であってもロール・ツー・ロール方式であってもよい。
【0147】
誘電体層や反射層は、例えば誘電体層が有する粘着性を利用して、積層することができる。
【0148】
λ/4型電波吸収体の吸収性能は、各層の「(厚み)×√(比誘電率)」や、その組み合わせによって減衰量ピークの位置(GHz)、減衰量(dB)が変動する。通常、抵抗層/誘電体層/反射層の順に積層して得られる電波吸収体は、40~90GHzの間に減衰量ピークが1つ発生し、任意の周波数に減衰量ピークが位置するように設計する。レドームは電波透過性のケース・カバーであり、一定の厚み及び一定の比誘電率を有するので、「(厚み)×√(比誘電率)」が比較的高い。特に限定されるものではないが、一般的には厚みが2000μm以上、比誘電率が3.0以上のレドームが用いられるため、「(厚み[μm])×√(比誘電率)」の値は、3464以上となる場合が多い。この影響で、レドーム/抵抗層/誘電体層/反射層の順に積層する場合、レドームを透過する電波に対しては40~90GHzの間に減衰量ピークが2つ発生する。本発明の好ましい一態様においては、40Hz側から数えて2つ目のピークを狙いの周波数(例えば79GHz)に位置するように、誘電体層の厚み、誘電体層の比誘電率、抵抗値等を、積層するレドームを考慮して設計することができる。40Hz側から数えて2つ目のピークを狙いの周波数(例えば79GHz)に位置に調整する方法としては例えば、レドームと保護層又は抵抗層の間に配置される粘着剤層、保護層、誘電体層の(厚み)×√(比誘電率)をそれぞれ調整する方法が挙げられる。特に、粘着剤層の(厚み)×√(比誘電率)を10~1900、保護層の(厚み)×√(比誘電率)を0~1100、誘電体層の(厚み)×√(比誘電率)を200~3000の範囲に調整することにより、2つ目の減衰量ピークが79GHz付近に位置し易くなるので、特性Aを満たし易くなる。また、抵抗層の抵抗値を370Ω/□以下に設計すると40Hz側から数えて1つ目の減衰量ピークが大きくなるので、特性Bを満たし易くなる(但し、高周波数側にピークシフトする場合があるので、各層の(厚み)×√(比誘電率)と併せて設計必要)。
【0149】
<2-10.用途>
本発明の電波吸収体は、不要な電磁波を吸収する性能を有するため、例えば光トランシーバや、次世代移動通信システム(5G)、近距離無線転送技術等における電波対策部材として好適に利用できる。また、その他の用途として自動車、道路、人の相互間で情報通信を行う高度道路交通システム(ITS)や自動車衝突防止システムに用いるミリ波レーダーにおいても、電波干渉抑制やノイズ低減の目的で用いることができる。
【0150】
本発明は、その一態様において、成形品と、前記成形品に取り付けられた本発明の電波吸収体とを備える、電波吸収シート付成形品、に関する。成形品としては、例えば上記各種用途において使用される部材等が挙げられる。本発明の電波吸収体を成形品に取り付ける方法としては、特に制限されず、例えば粘着剤を介して取り付ける方法や、固定具により取り付ける方法が挙げられる。電波吸収シート付成形品の好ましい一例としては、ミリ波レーダーが挙げられる。
【0151】
本発明の電波吸収体が対象とする電波の周波数は、好ましくは10~150GHz、より好ましくは20~120GHz、さらに好ましくは30~100GHz、さらにより好ましくは55~90GHz、特に好ましくは70~90GHzである。
【実施例0152】
以下に、実施例に基づいて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。
【0153】
(1)λ/4型電波吸収体の製造1
(実施例1)
支持体として、厚み125μmのポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム(比誘電率3.4)(東洋紡フィルムソリューション社製、U2L92W)を用意した。上記PETフィルム上に、DCパルススパッタリングにより、厚み10nm且つシート抵抗値330Ω/□の抵抗層を形成し抵抗層及び保護層とした。スパッタリングはハステロイC-276をターゲットに用い、出力0.4kW、Arガス流量100sccmで導入して圧力0.12Paとなるように調整して行った。次いで、形成した抵抗層上に厚み485μm且つ比誘電率2.5のアクリル両面粘着テープからなる誘電体層を積層し、更に誘電体層上に厚み62μmのアルペット(パナック社製、アルミ箔:12μm、PET:50μm)からなる反射層のアルミ箔面を積層した。次いで、保護層に厚み50μm且つ比誘電率2.8のアクリル両面粘着テープを用いて、厚み2mm且つ比誘電率3.5の板状のPBTに貼り合わせてレドーム付きのλ/4型電波吸収シートを得た。
【0154】
(実施例2~11及び17~18、比較例1~5)
レドームの物性、厚み、有無; 保護層・抵抗層の物性; 誘電体層の物性、厚み を表1及び表2の通りに変更する以外は実施例1と同様にして、λ/4型電波吸収体を得た。
【0155】
(2)測定1
(2-1)0度入射の垂直偏波測定
実施例1~11及び比較例1~2の電波吸収体について0度入射の垂直偏波測定を行い、以下の項目を算出した。
・40~85GHzにおける反射減衰量が-15dB以上の周波数帯域の幅
・75~85GHzにおける反射減衰量-15dB以下の周波数帯域の幅
・75~85GHzにおける反射減衰量の最小値
・40~55GHzにおける反射減衰量-10dB以下の周波数帯域の幅
・55~70GHzにおける反射減衰量の最大値
・55~70GHzにおける反射減衰量の最小値
測定及び算出方法は以下のとおりである。
【0156】
ネットワークアナライザー MS4647B(アンリツ社製)、フリースペース材料測定置 BD1-26.A(キーコム社製)を用いて電波吸収測定装置を構成し、この電波吸収測定装置を用いて得られたλ/4型電波吸収体の電波吸収量をJIS R1679に基づいて測定した。なお、λ/4型電波吸収体は、電波入射方向が垂直入射かつ抵抗層面(支持体)からの入射となるようにセットした。得られた測定結果から指定の周波数内で該当する反射減衰量を読み取った。
【0157】
(2-2)入射角30度のTE偏波測定
実施例1~11及び比較例1~2の電波吸収体について入射角30度のTE偏波測定を行い、75~85GHzにおける反射減衰量-15dB以下の周波数帯域の幅を算出した。
【0158】
測定及び算出方法は以下のとおりである。
【0159】
λ/4型電波吸収体に対して電波の入射角が30度になるようにアンテナ位置を調整する以外は(2-1)0度入射の垂直偏波測定と同じように測定した。
【0160】
(2-3)曲面追従性の評価
実施例17~18の電波吸収体について曲面追従性を評価した。評価方法は以下のとおりである。
【0161】
曲率半径100mmに湾曲させた板状のPBTを用意し、表面をアルコールで拭き取り2時間乾燥させた後に電波吸収体をおよそ荷重0.3MPaで貼り合わせた。貼り合わせ後に24時間放置し、吸収体に浮きやシワが発生していなかった場合を〇、発生していた場合を×とした。
【0162】
(3)結果
結果を表1及び表2に示す。また、実施例1~11及び比較例1~5の電波吸収体について0度入射の垂直偏波測定で得られた、各周波数における減衰量を表すグラフを
図1~16に示す。
【0163】
【0164】
【0165】
(4)λ/4型電波吸収体の製造2
(実施例12)
支持体として、厚み125μmのポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム(比誘電率3.4)(東洋紡フィルムソリューション社製、U2L92W)を用意した。上記PETフィルム上に、DCパルススパッタリングにより、厚み10nm且つシート抵抗値330Ω/□の抵抗層を形成し抵抗層及び保護層とした。スパッタリングはハステロイC-276をターゲットに用い、出力0.4kW、Arガス流量100sccmで導入して圧力0.12Paとなるように調整して行った。次いで、形成した抵抗層上に厚み485μm且つ比誘電率2.5のアクリル両面粘着テープからなる誘電体層を積層し、更に誘電体層上に厚み12μmの銅(福田金属箔粉社製)からなる反射層を積層して表面用のλ/4型電波吸収シートを得た。次に、表面用と同じ手順で裏面用のλ/4型電波吸収シートを用意し、それぞれの反射層を厚み50μm且つ比誘電率2.8のアクリル両面粘着テープを用いて積層した。次に、厚み2.2mm且つ誘電率3.5のPBT-GF30を用意し、厚み50μm且つ比誘電率2.8のアクリル両面粘着テープを用いて表面の保護層に貼り合わせてレドーム付きのλ/4型電波吸収シートを得た。
【0166】
(実施例13~16、比較例6)
レドームの物性、厚み、有無; 抵抗層の物性; 誘電体層の物性;裏面の電波吸収体の有無 を表3の通りに変更する以外は実施例12と同様にして、λ/4型電波吸収体を得た。
【0167】
(5)測定2
(5-1)0度入射の垂直偏波測定
実施例12~16及び比較例6の電波吸収体の表面(レドームに近い方の面)及び裏面それぞれについて0度入射の垂直偏波測定を行い、40~85GHzにおける反射減衰量-15dB以下の周波数帯域の幅を、算出した。
【0168】
測定及び算出方法は以下のとおりである。
【0169】
ネットワークアナライザー MS4647B(アンリツ社製)、フリースペース材料測定置 BD1-26.A(キーコム社製)を用いて電波吸収測定装置を構成し、この電波吸収測定装置を用いて得られたλ/4型電波吸収体の電波吸収量をJIS R1679に基づいて測定した。なお、λ/4型電波吸収体は、電波入射方向が垂直入射かつ抵抗層面(支持体)からの入射となるようにセットした。得られた測定結果から指定の周波数内で該当する反射減衰量を読み取った。
【0170】
(6)結果
結果を表3に示す。また、0度入射の垂直偏波測定で得られた、各周波数における減衰量を表すグラフを
図17~23に示す。
図17~22は表面の結果を示し、
図23は裏面の結果を示す。
【0171】