(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024095598
(43)【公開日】2024-07-10
(54)【発明の名称】電線被覆材
(51)【国際特許分類】
H01B 7/295 20060101AFI20240703BHJP
H01B 7/02 20060101ALI20240703BHJP
【FI】
H01B7/295
H01B7/02 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023218010
(22)【出願日】2023-12-25
(31)【優先権主張番号】P 2022212477
(32)【優先日】2022-12-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000226932
【氏名又は名称】日星電気株式会社
(72)【発明者】
【氏名】碧木 亮太
(72)【発明者】
【氏名】黒澤 優介
【テーマコード(参考)】
5G309
5G315
【Fターム(参考)】
5G309RA11
5G309RA12
5G315CA03
5G315CB06
5G315CC08
5G315CD06
5G315CD12
5G315CD13
(57)【要約】
【課題】
電線被覆材への負荷を抑制することで、良好な難燃性を示す電線被覆材を提供することにある。
【解決手段】
導体もしくは複数本の被覆電線の周囲に設けられる電線被覆材を、少なくとも第1被覆層と第2被覆層とを積層して構成する。第1被覆層は所定の温度において収縮性を示す材料で構成し、第2被覆層は所定の温度において膨張性を示さない材料で構成する。所定の条件における熱重量測定法にて、第1被覆層を構成する材料の熱重量変化率を、第2被覆層を構成する材料の熱重量変化率より大きくする。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
導体もしくは複数本の電線を被覆する電線被覆材であって、該電線被覆材は少なくとも第1被覆層と第2被覆層とが積層されて構成されているとともに、該第1被覆層は所定の温度において収縮性を示す材料で構成されているとともに、該第2被覆層は該所定の温度において膨張性を示さない材料で構成されていることを特徴とする電線被覆材。
【請求項2】
導体もしくは複数本の電線を被覆する電線被覆材であって、該電線被覆材は少なくとも第1被覆層と第2被覆層とが積層されて構成されているとともに、
熱重量測定法にて、パージガスを乾燥空気として20℃から昇温速度20℃/minで加熱し、600℃に達した時の熱重量変化率を測定した際、
該第1被覆層を構成する材料の熱重量変化率は、該第2被覆層を構成する材料の熱重量変化率よりも大きいことを特徴とする電線被覆材。
【請求項3】
該第1被覆層を構成する材料の熱重量変化率は、該第2被覆層を構成する材料の熱重量変化率よりも10%以上大きいことを特徴とする、請求項2に記載の電線被覆材。
【請求項4】
該第1被覆層を構成する材料の熱重量変化率は30%以上であることを特徴とする、請求項3に記載の電線被覆材。
【請求項5】
該第2被覆層を構成する材料の熱重量変化率は30%より小さいことを特徴とする、請求項4に記載の電線被覆材。
【請求項6】
該第2被覆層に難燃剤が含有されていることを特徴とする、請求項1~5の何れか一項に記載の電線被覆材。
【請求項7】
該難燃剤は該第2被覆層の接炎時にチャー層の形成を促すものであることを特徴とする、請求項6に記載の電線被覆材。
【請求項8】
該第2被覆層の肉厚は、該第1被覆層の肉厚以下であることを特徴とする、請求項7に記載の電線被覆材。
【請求項9】
導体もしくは複数本の電線を被覆する電線被覆材であって、該電線被覆材は少なくとも第1被覆層と第2被覆層とが積層されて構成されているとともに、該第1被覆層は所定の温度において収縮性を示す第1シリコーンゴムで構成されているとともに、該第2被覆層は該所定の温度において膨張性を示さない第2シリコーンゴムで構成されていることを特徴とする電線被覆材。
【請求項10】
導体もしくは複数本の電線を被覆する電線被覆材であって、該電線被覆材は少なくとも第1シリコーンゴムで構成された第1被覆層と、第2シリコーンゴムで構成された第2被覆層とが積層されて構成されているとともに、
熱重量測定法にて、パージガスを乾燥空気として20℃から昇温速度20℃/minで加熱し、600℃に達した時の熱重量変化率を測定した際、
該第1シリコーンゴムの熱重量変化率は、該第2シリコーンゴムの熱重量変化率よりも大きいことを特徴とする電線被覆材。
【請求項11】
該第2シリコーンゴムは、難燃剤が含有されたシリコーンゴムであることを特徴とする、請求項9または10に記載の電線被覆材。
【請求項12】
該難燃剤は白金系金属化合物、もしくは金属酸化物の少なくとも1つを含むことを特徴とする、請求項11に記載の電線被覆材。
【請求項13】
該第2被覆層の肉厚は、該第1被覆層の肉厚以下であることを特徴とする、請求項12に記載の電線被覆材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、絶縁電線や多芯ケーブル等に使用される電線被覆材に関わるものであり、特に難燃性の絶縁電線等に使用される電線被覆材に関するものである。
【0002】
絶縁電線や多芯ケーブルは、導体や複数本の電線の周囲に被覆材を設けた構造を有しており、被覆材はゴムや樹脂を主原料とした材料で構成される。
【0003】
絶縁電線や多芯ケーブルは用途に応じて必要な特性が異なり、自動車用や建物用の電線は絶縁性に加え、難燃性も要求されることが多い。
【0004】
難燃性を向上した電線被覆材としては、被覆材に難燃剤を含有させたもの(例えば特許文献1)や、被覆材を多層構造にしたもの(例えば、特許文献2、3)などが知られている。
【0005】
特許文献2に記載の難燃性ケーブルは、難燃シースの層間に加熱によってガス化する接着剤層を設け、加熱時に層間に空間を形成することで断熱効果を付与し、難燃性を向上させている。
【0006】
特許文献3に記載の多層絶縁電線は、外層が比較的低温で膨張開始するように構成することで、多層絶縁電線内部への伝熱を抑制し、難燃性を向上させている。
【0007】
しかしながら、特許文献2、3に記載の手法では、接着剤層のガス化や外層自体の膨張によって外層に負荷が掛かり、外層の亀裂や破裂が発生する恐れがある。外層の亀裂や破裂が発生すると、外層の存在によって得られていた難燃性の向上効果が低下してしまう。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2020―80303号公報
【特許文献2】特開昭62-172607号公報
【特許文献3】特開2019-139882号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の課題は、電線被覆材への負荷を抑制することで、良好な難燃性を示す電線被覆材を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、電線被覆材の構造を鋭意検討した結果、以下の構造を採用することで電線被覆材への負荷が抑制され、良好な難燃性を示す電線被覆材を得るに至った。
【0011】
(1)導体もしくは複数本の電線を被覆する電線被覆材であって、該電線被覆材は少なくとも第1被覆層と第2被覆層とが積層されて構成されているとともに、該第1被覆層は所定の温度において収縮性を示す材料で構成されているとともに、該第2被覆層は該所定の温度において膨張性を示さない材料で構成されていることを特徴とする電線被覆材。
(2)導体もしくは複数本の電線を被覆する電線被覆材であって、該電線被覆材は少なくとも第1被覆層と第2被覆層とが積層されて構成されているとともに、
熱重量測定法にて、パージガスを乾燥空気として20℃から昇温速度20℃/minで加熱し、600℃に達した時の熱重量変化率を測定した際、
該第1被覆層を構成する材料の熱重量変化率は、該第2被覆層を構成する材料の熱重量変化率よりも大きいことを特徴とする上記(1)に記載の電線被覆材。
(3)該第1被覆層を構成する材料の熱重量変化率は、該第2被覆層を構成する材料の熱重量変化率よりも10%以上大きいことを特徴とする、上記(1)または(2)に記載の電線被覆材。
(4)該第1被覆層を構成する材料の熱重量変化率は30%以上であることを特徴とする、上記(1)~(3)の何れかに記載の電線被覆材。
(5)該第2被覆層を構成する材料の熱重量変化率は30%より小さいことを特徴とする、上記(1)~(4)の何れかに記載の電線被覆材。
(6)該第2被覆層に難燃剤が含有されていることを特徴とする、上記(1)~(5)の何れかに記載の電線被覆材。
(7)該難燃剤は該第2被覆層の接炎時にチャー層の形成を促すものであることを特徴とする、上記(6)に記載の電線被覆材。
(8)該第2被覆層の肉厚は、該第1被覆層の肉厚以下であることを特徴とする、上記(1)~(7)の何れかに記載の電線被覆材。
(9)該第1被覆層は所定の温度において収縮性を示す第1シリコーンゴムで構成されていることを特徴とする、上記(1)~(8)の何れかに記載の電線被覆材。
(10)該第2被覆層は該所定の温度において膨張性を示さない第2シリコーンゴムで構成されていることを特徴とする、上記(1)~(9)の何れかに記載の電線被覆材。
(11)該第2シリコーンゴムは、難燃剤が含有されたシリコーンゴムであることを特徴とする、上記(10)に記載の電線被覆材。
(12)該難燃剤は白金系金属化合物、もしくは金属酸化物の少なくとも1つを含むことを特徴とする、上記(11)に記載の電線被覆材。
(13)該第2被覆層の肉厚は、該第1被覆層の肉厚以下であることを特徴とする、上記(12)に記載の電線被覆材。
【0012】
また、上記(1)~(13)に記載された構成を適宜選択、組み合わせた構成も、本開示の技術的範囲に属する。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図2】本発明の電線被覆材を設けた多芯ケーブルである
【
図3】第1被覆層の収縮により隙間が閉塞する様子の模式図である
【
図4】第1被覆層の収縮により空隙が形成される様子の模式図である
【
図5】第1被覆層を構成する材料の熱重量変化率である。
【
図6】第2被覆層を構成する材料の熱重量変化率である。
【
図7】実施例1の絶縁電線の燃焼試験後の外観写真である。
【
図8】実施例6の絶縁電線の燃焼試験後の外観写真である。
【
図9】比較例1の絶縁電線の燃焼試験後の外観写真である。
【
図10】比較例2の絶縁電線の燃焼試験後の外観写真である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の電線被覆材について、図面を参照しながら説明する。
【0015】
本発明の電線被覆材10は
図1に示したように、導体5を直接被覆して絶縁電線1を形成する場合や、
図2に示したように複数本の被覆電線50を一括被覆して多芯ケーブル100を形成する場合に使用される。
【0016】
本発明の電線被覆材10は
図1、2に示したように、第1被覆層11と、第1被覆層11に積層された第2被覆層12を少なくとも有する。
【0017】
図1、2は電線被覆材10が2層の場合を示しているが、層の数は2層に限定されず、3層以上としても良い。電線被覆材10が3層以上の場合は最外層を第2被覆層12、第2被覆層12に接する内層を第1被覆層11として扱う。
【0018】
本発明で特徴的なことは、第1被覆層11は所定の温度において収縮性を示す材料で構成されているとともに、第2被覆層12はその所定の温度において膨張性を示さない材料で構成されていることである。
【0019】
本発明における所定の温度は、周知の耐熱電線が有する耐熱温度(100~250℃程度)を越える温度であり、具体的には300℃以上、より具体的には300~600℃の温度範囲を示す。
【0020】
所定の温度において第1被覆層11が収縮性を示すことで、加熱時における第1被覆層11の挙動による第2被覆層12への負荷が軽減され、第2被覆層12による電線被覆材10の難燃効果の維持に寄与する。
【0021】
所定の温度における収縮性は、当該温度において第1被覆層11が膨張することを否定するものではなく、当該温度において第1被覆層11が一時的に膨張したとしても、初期の状態と比較して最終的に収縮した状態になれば、収縮性を示すとみなすことができる。
【0022】
所定の温度において第2被覆層12が膨張性を示さないことで、加熱時に第2被覆層12の膨張が抑制され、膨張による第2被覆層12への負荷が抑制され、第2被覆層12による電線被覆材10の難燃効果の維持に寄与する。
【0023】
以下、特段の断りが無い限り、膨張性を示さないことを「非膨張性」と記す。
【0024】
所定の温度における非膨張性は、当該温度において第2被覆層12が収縮する、収縮も膨張もしない、膨張したとしても極僅かな膨張に留まる、のいずれかの状態となることを指し、当該温度において第2被覆層12の一時的な膨張があったとしても、初期の状態と比較して最終的に収縮する、収縮も膨張もしない、極僅かな膨張に留まる、いずれかの状態となっていれば、非膨張性を示すとみなすことができる。
【0025】
難燃効果は燃焼時など、電線被覆材10が高温に晒された状態で示す必要があることを考慮すると、第1被覆層11の収縮性、第2被覆層12の非膨張性は所定の温度範囲の高温側で示されるのが望ましく、具体的には400~600℃の温度範囲で示されるのが好ましい。
【0026】
第1被覆層11の収縮性、第2被覆層12の非膨張性は、それらを構成する材料を熱重量測定した際の挙動の違いとして表すことができる。
【0027】
具体的には、熱重量測定法にて、パージガスを乾燥空気として20℃から昇温速度20℃/minで加熱し、600℃に達した時の熱重量変化率(TG)を測定した際における、
第1被覆層11を構成する材料の熱重量変化率(TG1)が、第2被覆層12を構成する材料の熱重量変化率(TG2)より大きくなるよう、電線被覆材10を構成する。
【0028】
本発明においては熱重量測定時における質量減少が大きい(熱重量変化率の絶対値が大きい)材料を、熱重量変化率が大きい材料として扱い、以下、特段の断りが無い限り、上述した熱重量測定法の条件を「所定の熱重量測定条件」とする。
【0029】
被覆層の熱重量変化率が大きいほど、加熱時の熱分解によって被覆層から飛散する構成成分の量が増え、被覆層の体積が減少し、収縮することになる。第1被覆層11を構成する材料の熱重量変化率TG1を大きく設定することで、第1被覆層11が収縮性を示すことになる。
【0030】
第2被覆層12については、一定水準の熱重量変化率TG2を有することで、加熱時に収縮性を示すことになり、結果として非膨張性となる。
【0031】
一方、第2被覆層12の熱重量変化率TG2を必要以上に大きくすると、熱分解時に飛散する構成成分の量が増えてしまう。飛散した構成成分には第2被覆層12が燃焼する際の新たな燃焼源(可燃性ガス)となるものも含まれる。
【0032】
第2被覆層12は燃焼時に接炎することになるため、新たな燃焼源の発生が抑制されるよう構成するのが望ましい。このため、第2被覆層12の熱重量変化率TG2は第1被覆層11よりも小さくし、可能な範囲で小さい値にするのが好ましい。
【0033】
加熱時における第1被覆層11と第2被覆層12の挙動に明確な差を設けるため、第1被覆層11の熱重量変化率TG1は第2被覆層12に対して10%以上の差を設けるのが望ましい。
【0034】
より具体的には、第1被覆層11の熱重量変化率TG1は30%以上、第2被覆層12の熱重量変化率TG2は30%より小さく設定する。
【0035】
本発明の電線被覆材10は、第1被覆層11と第2被覆層12との界面が強固に接合した態様、弱く接合した態様、接合が無い態様を選択することができ、いずれの態様においても難燃効果が期待できる。
【0036】
第1被覆層11と第2被覆層12との界面が強固に接合した態様では
図3に示したように、第1被覆層11の収縮に追従する形で第2被覆層12も収縮することになる。
【0037】
加熱時に第2被覆層12に割れ、亀裂などによる隙間Gが発生すると難燃性の低下に繋がるが、第2被覆層12が第1被覆層11に追従して収縮するよう構成することで、
図3に示したように隙間Gが収縮する際に小さくなり、第2被覆層12による難燃性の維持、難燃性低下の抑制といった形での寄与が期待できる。
【0038】
一方、第1被覆層11と第2被覆層12との界面が弱く接合した態様、もしくは接合が無い態様では
図4に示したように、第1被覆層11の収縮に伴い、第1被覆層11と第2被覆層12との間に空隙Sが形成されることがある。
【0039】
第1被覆層11と第2被覆層12との間に形成された空隙Sは断熱層として機能し、電線被覆材10が加熱された際における第1被覆層11への熱伝導が抑制されることで、電線被覆材10の難燃性の向上が期待できる。
【0040】
電線被覆材10の燃焼時に接炎することを考慮すると、第2被覆層12は難燃剤を含有するものが好ましい。
【0041】
難燃剤を含有する第2被覆層12は、所定温度における非膨張性を第2被覆層12に付与する観点においても好ましく利用できる。
【0042】
第2被覆層12は通常、加熱によって収縮もしくは膨張する樹脂やエラストマーを主成分とする材料によって形成される。
【0043】
一方、難燃剤には白金系金属化合物、金属酸化物など、無機物を主成分とする無機系難燃剤が存在する。
【0044】
白金系金属化合物としては、白金そのもの、酸化白金、塩化白金酸、有機白金錯化合物などが挙げられる。
【0045】
金属酸化物としては、酸化チタン(二酸化チタン)、酸化鉄(酸化第一鉄、酸化第二鉄)、酸化アンチモン(二酸化アンチモン、三酸化アンチモン)、酸化マグネシウム、酸化亜鉛、酸化アルミニウム、酸化ニッケルなどが挙げられる。
【0046】
第2被覆層12に無機系難燃剤を添加することで、第2被覆層12を構成する材料が本来有する膨張性あるいは収縮性が阻害され、所定温度における非膨張性の付与に寄与する。
【0047】
また、無機系難燃剤は燃焼しても無機物が燃焼残差として残りやすいため、熱重量測定において第2被覆層12の熱重量変化率を下げる効果も有する。
【0048】
難燃剤によって直接的に得られる難燃効果と、付随的に得られる第2被覆層12への非膨張性の付与によって、電線被覆材10としての難燃性向上に寄与する。
【0049】
また、難燃剤は第2被覆層12が接炎した時にチャー層形成を促すものを使用するのが好ましい。
【0050】
チャー層は材料が燃焼した際にその表面に形成されることがある燃焼残渣の層であり、有機物が燃焼したときは主に炭化物によってチャー層が形成されると言われている。
【0051】
チャー層は材料の燃焼に必要な酸素、可燃性ガス、熱を遮断するため、チャー層の形成を促すと材料の難燃性向上に寄与する。
【0052】
チャー層の形成を促す難燃剤を使用することで、絶縁電線1の燃焼時に第2被覆層12の表面にチャー層が形成され、絶縁電線10の難燃性向上に寄与する。
【0053】
先述した無機系難燃剤であれば、燃焼時に無機物が燃焼残差として残ることでチャー層の形成を促すことができる。
【0054】
また、第2被覆層12を構成する材料の種類によっては、難燃剤が無くてもチャー層の構成成分となり得る燃焼残渣が発生するが、燃焼時に燃焼残渣が灰として飛散する場合はチャー層が十分に形成されない。
【0055】
そのような材料で第2被覆層12を形成する場合は、燃焼残渣との相互作用によって燃焼残渣の保持を促す難燃剤を添加することで、燃焼残渣の飛散を抑制し、チャー層形成を促すことができる。
【0056】
本発明の電線被覆材10は、第1被覆層11を収縮性、第2被覆層12を非膨張性かつチャー層の形成が促された状態とすることで、特に好ましい難燃性を示す。
【0057】
第2被覆層12の表面にチャー層が形成される場合は割れ、亀裂を伴って形成されることが多いが、第2被覆層12が非膨張性の場合は第2被覆層12の膨張に伴うチャー層の割れ等の進行が抑制され、チャー層による酸素などの遮断効果の維持に寄与する。
【0058】
第1被覆層11と第2被覆層12との界面が強固に接合した態様では、第1被覆層11の収縮に追従する形で第2被覆層12が収縮する際、チャー層の割れ、亀裂による隙間が収縮し、チャー層が存在しない領域が減少する。この結果、チャー層による酸素などの遮断効果の維持が期待できる。
【0059】
第1被覆層11と第2被覆層12との界面が弱く接合した態様、もしくは接合が無い態様では、第1被覆層11の収縮に伴い、第1被覆層11と第2被覆層12との間に空隙が形成され、空隙による断熱効果とチャー層による酸素などの遮断効果の相乗によって電線被覆材10の難燃性向上に寄与する。
【0060】
一方、第1被覆層11については収縮性を与える必要があるため、難燃剤を添加する場合は収縮性を喪失しない範囲に留め、望ましくは難燃剤を添加しない。
【0061】
第1被覆層11を構成する材料の種類によっては、チャー層の構成成分となり得る燃焼残渣が発生するが、第1被覆層11においては必ずしも燃焼残渣を保持する必要はなく、燃焼残渣が飛散しても構わない。
【0062】
本発明においては、第1被覆層11に特段の難燃性を有さない材料を使用したとしても、上記に従って第2被覆層12を形成することで、電線被覆材10として良好な難燃性を得ることができる。
【0063】
なお、本発明は第1被覆層11への難燃剤の添加を妨げるものではなく、本発明の技術的思想の範囲内で第1被覆層11に難燃剤を添加しても良い。
【0064】
本発明において、第1被覆層11の肉厚と第2被覆層12の肉厚との比は1:1~5:1の範囲内で設定されるのが望ましく、1:1~3:1の範囲内とするのが特に好ましい。
【0065】
第1被覆層11の肉厚を厚く設定することで電線被覆材1の難燃性が向上する理由は定かではないが、一般的に、被覆層の肉厚が厚いと熱容量が大きくなり、温度上昇に時間を要すると言われている。
【0066】
第1被覆層11の肉厚を厚く設定した場合は第1被覆層11の温度上昇が緩やかになり、過度な熱分解が抑制されることで難燃性に寄与すると考えられる。
【0067】
一方、第2被覆層12については、第2被覆層12自体に難燃性を付与することを考慮すると、一定量の肉厚とするのが好ましく、望ましくは0.25mm以上である。
【0068】
第1被覆層11と第2被覆層12の肉厚の合計は特に制限されず、電線被覆材10の用途に応じて適宜設定すれば良いが、概ね0.5~5mm程度に設定され、難燃性の安定化と外径の細径化を考慮すると0.8~3mmの範囲とするのが好ましい。
【0069】
本発明の第1被覆層11として好ましく利用できる材料として、シリコーンゴムが挙げられる。
【0070】
通常、シリコーンゴムは加熱時に収縮性を示すとともに、分子鎖に無機物であるケイ素が存在する。ケイ素はチャー層の構成成分となり得るため好ましく利用できる。
【0071】
また、シリコーンゴムを硬化させる手法として有機過酸化物加硫と付加加硫とがあるが、第1被覆層11に使用されるシリコーンゴムの硬化にはどちらの手法を使用してもよく、公知のシリコーンゴム用の加硫剤の中から適宜選択して使用することができる。
【0072】
有機過酸化物加硫剤としては、公知のパーオキサイドを使用することができ、公知のパーオキサイドの中から1種を選択して使用しても、2種以上を選択して併用してもよい。
【0073】
有機過酸化物加硫剤の添加量は、シリコーンゴムを硬化させるのに十分な有効量であればよいが、シリコーンゴムの主成分であるオルガノポリシロキサン100質量部に対して0.01~10質量部が好ましく、特に0.1~5質量部が好ましい。
【0074】
また、有機過酸化物加硫剤を用いる場合、耐熱性を高めるために白金系触媒を併用してもよい。白金系触媒を併用する際の配合量としては、オルガノポリシロキサン100質量部に対して白金族金属の質量換算で1~2000ppmが好ましく、特に10~1000ppmが好ましい。
【0075】
付加加硫を使用する際は、付加加硫剤として、オルガノハイドロジェンポリシロキサン(硬化剤または架橋剤として使用)と白金系触媒(硬化触媒として使用)との組合せが使用できる。また、硬化触媒としては白金系触媒の他、ロジウム系触媒、パラジウム系触媒、イリジウム系触媒、ニッケル系触媒なども使用することができる。
【0076】
第2被覆層12についても、非膨張性を付与する観点とチャー層の構成成分を含んでいる観点から、第1被覆層11と同様シリコーンゴムが好ましく利用できる。
【0077】
この時、第2被覆層12を難燃剤が添加されたシリコーンゴムとすることで、第2被覆層12の非膨張性を高めるとともに、難燃性を付与することができる。
【0078】
第2被覆層12に使用されるシリコーンゴムを硬化する手法については、第1被覆層11に使用されるシリコーンゴムと同様、有機過酸化物加硫または付加加硫から適宜選択して使用することができる。
【0079】
シリコーンゴムで構成された第2被覆層12に添加される難燃剤としては、白金系金属化合物や、酸化チタンなどの金属酸化物が好ましく利用できる。
【0080】
これらの難燃剤は燃焼時にケイ素と相互作用することで燃焼残渣の形状を保持し、燃焼残渣の飛散を抑制する効果があると言われており、ケイ素由来のチャー層形成を促進する効果が期待できる。
【0081】
シリコーンゴムの他、ふっ素ゴムなどの耐熱性に優れたゴム材料やその他の耐熱樹脂も、第1被覆層11、第2被覆層12を構成する材料として利用することができる。
【0082】
導体5に本発明の電線被覆材10を施すことで難燃性に優れた絶縁電線1を得ることができる。導体5の態様は特に限定されず、各種の絶縁電線で使用されている導体を適宜選択して利用できる。具体的には銅線、軟銅線、銅合金線といった銅系の金属素線や、純アルミ線、アルミ合金線といったアルミ系の金属素線、これらの金属素線に錫、銀、ニッケルなどのメッキを施したメッキ素線などが利用される。
【0083】
導体5の構成も金属素線1本のみで構成された単線、複数の金属素線を撚り合わせた撚り線、複数本の撚り線を撚り合わせた複合撚り線などを、絶縁電線1の用途や求められる性能などに応じて適宜選択して利用できる。
【0084】
また、複数本の被覆電線50に本発明の電線被覆材10を施すことで、難燃性に優れた多芯ケーブル100を得ることができる。被覆電線50は導体に絶縁被覆等を設けた周知の電線の他、同軸ケーブル、光ファイバーなど、各種の多芯ケーブルで使用されている電気、信号等の伝送体を適宜選択、組み合わせて使用することができる。
【実施例0085】
以下、本発明の実施例を示す。
【0086】
[実施例1~4]
図1に示した2層の電線被覆材10を有する絶縁電線1を実施例1~4とする。実施例1~4では第2被覆層12の肉厚を一定の値に固定し、第1被覆層11の肉厚を変化させた絶縁電線1を作成した。
【0087】
導体5は直径0.2mmのスズめっき軟銅線を7本撚り合わせた直径0.6mmの撚り線導体を使用する。
【0088】
次いで、押出成型機を用いて、導体5の外周に、電線被覆材10となるシリコーンゴムを押出被覆した後、熱処理によってシリコーンゴムを架橋させて絶縁電線1を得る。
【0089】
実施例1~4における電線被覆材10は、導体5の外周に肉厚0.55~1.4mmの第1被覆層11を押出被覆した後、肉厚0.35mmの第2被覆層12を押出被覆することで形成し、第1被覆層11と第2被覆層12の界面が接合されていない状態とする。具体的な態様は表1に示す。
【0090】
第1被覆層11を構成する第1シリコーンゴムは、難燃剤は未添加だが、充填剤としてシリカが添加されたものを使用する。この第1シリコーンゴムはチャー層形成が促進されていない非難燃仕様のものであるが、充填材であるシリカの燃焼残渣はチャー層の構成成分となり得るものである。
【0091】
第1シリコーンゴム10mgを所定の熱重量測定条件で熱重量測定した際の熱重量変化率を
図5に示す。350℃付近から熱重量変化が大きくなり、600℃到達時の熱重量変化率は約52%の減少である。
【0092】
第2被覆層12を構成する第2シリコーンゴムは、難燃剤として酸化チタンが添加されたものを使用する。この第2シリコーンゴムはUL94燃焼試験においてV-1の難燃性を有するものである。
【0093】
第2シリコーンゴム10mgを所定の熱重量測定条件で熱重量測定した際の熱重量変化率を
図6に示す。350℃付近から熱重量変化が大きくなり、600℃到達時の熱重量変化率は約18%の減少である。
【0094】
[実施例5~8]
導体5、第1シリコーンゴム、第2シリコーンゴムは実施例1~4と同じものを使用し、第1被覆層11と第2被覆層12の肉厚の合計は0.9mmに固定した状態で、第1被覆層11の肉厚と第2被覆層12の肉厚との比を種々変更したものを実施例5~8の絶縁電線1とする。具体的な態様は表1に示す。
【0095】
実施例5~8では、第1被覆層11と第2被覆層12を同時に押出被覆することで、両者の界面を接合した。
【0096】
[比較例1、2]
実施例1~8と同じ導体5に第2シリコーンゴムで構成された被覆層11’、12’を2層設けた絶縁電線1’を比較例1、第2シリコーンゴムで構成された被覆層10’を1層のみ設けた絶縁電線1’を比較例2とする。各比較例の具体的な態様は表1に示す。
【0097】
【0098】
以上のように作成した実施例、比較例の絶縁電線に対し、難燃性試験を行う。
難燃性試験は、長さ500mmに切断した絶縁電線に対し、難燃性規格UL1581に規定される垂直難燃試験VW-1を5回行い、合格率を表1に示した。
【0099】
比較例2の絶縁電線1’については、UL94燃焼試験においてV-1の難燃性を有する材料のみで電線被覆材10’を形成したが、VW-1試験の合格に至らなかった。
【0100】
一方、実施例の絶縁電線1については、非難燃仕様の第1シリコーンゴムを併用して電線被覆材10を構成したのにも関わらず、VW-1試験に概ね合格した。収縮性を有する第1被覆層11と、難燃性と非膨張性とを有する第2被覆層12を併用して電線被覆材10を構成することで、第2被覆層12を構成する材料のみで電線被覆材10’を構成した絶縁電線1’と比べて難燃性が向上しており、本願発明による顕著な効果と評価できる。
【0101】
比較例1の絶縁電線1’については、難燃性の第2シリコーンゴムの2層構造としたことで、2層構造に起因する難燃性を示すようになったと考えられるが、寸法が近い実施例5の絶縁電線1でも同等の難燃性が得られている点、及び比較例2よりも第1被覆層の肉厚が厚く、第2被覆層12の肉厚が薄い他の実施例の中に合格率100%のものがある点から、収縮性を有する第1被覆層11を併用した本願発明の難燃性は特に優れていると評価できる。
【0102】
第1シリコーンゴムと第2シリコーンゴムとを併用した電線被覆材10を設けた態様の中で比較すると、第1被覆層11の肉厚と第2被覆層12の肉厚との比が5:1以下の範囲で難燃性を有していることが確認でき、肉厚の比が1:1~3:1の範囲で特に優れた難燃性を示すと言える。
【0103】
燃焼試験後の絶縁電線の中から代表として実施例1、6、比較例1、2を選択し、外観を比較評価した。
【0104】
図7は実施例1の燃焼試験後の外観写真である。表面に隙間は存在するものの、第1被覆層11の露出に至るような大きな隙間は無く、全体的に滑らかな表面状態を示しており、第1被覆層11の存在によって第2被覆層12への負荷が抑制され、難燃性の向上に寄与したと推測される。
【0105】
加えて、燃焼試験後の実施例1の絶縁電線1の表面に発生した隙間を手触すると、灰(燃焼残渣)が詰まっている隙間が存在することを確認できた。隙間に灰が詰まった理由は定かでは無いが、第1被覆層11が一時的に燃焼した際に飛散した灰が隙間に入り込んだものと推測され、第1被覆層11を構成する第1シリコーンゴムはチャー層の構成成分となり得るシリカの燃焼残渣が灰として発生するため、隙間に詰まった灰も難燃性の向上に寄与すると考えられる。
【0106】
図8は実施例6の燃焼試験後の外観写真である。実施例1と同様、表面に隙間は存在するものの全体的に滑らかな表面状態を示し、灰が詰まっている隙間も確認された。実施例1と同様、第1被覆層11の存在によって第2被覆層12への負荷が抑制され、難燃性の向上に寄与したと推測される。
【0107】
図9は比較例1の燃焼試験後の外観写真である。実施例1、6と異なり、第1被覆層11’の露出に至る大きな隙間が形成され、全体的に荒れた表面状態となった。第1被覆層11’と第2被覆層12’を有するも、両者の熱に対する挙動が同じであるため、第2被覆層12’への負荷が緩和されず大きな隙間の形成に至ったと推測される。
【0108】
図10は比較例2の燃焼試験後の外観写真である。絶縁電線1’の長さ方向に沿った大きい隙間が複数形成され、比較例1と同様荒れた表面状態となった。被覆層10’が単層構造のため燃焼時に発生する負荷が集中した結果大きな隙間が形成され、難燃性が不十分になったと推測される。
【0109】
以上の結果から本発明の電線被覆材は、収縮性を有する第1被覆層と非膨張性を有する第2被覆層とを併用することで、難燃性を有する材料のみで構成した電線被覆材よりも高い難燃性を有すると評価できる。
【0110】
以上、本発明の実施の態様について述べたが、本発明は上記実施例に何ら限定されるものではなく、本発明の思想の範囲内で種々の変更および応用が可能であり、適宜変更されて供されることは言うまでもない。
本発明の絶縁電線は自動車、電気電子機器、産業機械等に使用される、高電圧電力ケーブルに好適なものであるが、利用用途はこれらに限定されるものでなく、その他のケーブル、絶縁電線に本発明を適用しても良い。