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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024009561
(43)【公開日】2024-01-23
(54)【発明の名称】水処理装置および水処理方法
(51)【国際特許分類】
   B01D 59/48 20060101AFI20240116BHJP
   G21D 3/08 20060101ALI20240116BHJP
【FI】
B01D59/48
G21D3/08 G
【審査請求】未請求
【請求項の数】16
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022111177
(22)【出願日】2022-07-11
(71)【出願人】
【識別番号】000130259
【氏名又は名称】株式会社コベルコ科研
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【弁理士】
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100135703
【弁理士】
【氏名又は名称】岡部 英隆
(74)【代理人】
【識別番号】100199314
【弁理士】
【氏名又は名称】竹内 寛
(72)【発明者】
【氏名】井上 憲一
(72)【発明者】
【氏名】山上 達也
(72)【発明者】
【氏名】満田 正彦
(57)【要約】
【課題】効率良く処理対象の水に含まれる重水の濃度を低減するための水処理を行える水処理装置および水処理方法を提供する。
【解決手段】処理対象の水(Wa)に含まれる重水の濃度を低減する水処理装置(15)は、処理対象の水が流れる流路(3a)と、流路から水の一部を排出するように水を濾過する濾過材(31)とを備える流路部(3)と、流路部に静磁場を発生させる第1の磁場発生部(2)と、静磁場において重水素が核磁気共鳴を起こす共振周波数を有する交流磁場を流路部に発生させる第2の磁場発生部(4)と、共振周波数を有する交流電場を流路部に発生させる電場発生部(4)とを備える。流路部における濾過材において、交流電場に応じて水分子が回転可能なサイズを有する細孔(30)が設けられる。
【選択図】図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
処理対象の水に含まれる重水の濃度を低減する水処理装置であって、
前記処理対象の水が流れる流路と、前記流路から前記水の一部を排出するように前記水を濾過する濾過材とを備える流路部と、
前記流路部に静磁場を発生させる第1の磁場発生部と、
前記静磁場において重水素が核磁気共鳴を起こす共振周波数を有する交流磁場を前記流路部に発生させる第2の磁場発生部と、
前記共振周波数を有する交流電場を前記流路部に発生させる電場発生部とを備え、
前記流路部における前記濾過材において、前記交流電場に応じて水分子が回転可能なサイズを有する細孔が設けられた
水処理装置。
【請求項2】
前記共振周波数が、前記細孔における前記水分子の回転周波数の分布における半値全幅の範囲内にあるように、前記静磁場の強度と、前記細孔のサイズと、前記濾過材の材質と、前記処理対象の水の温度とが設定された
請求項1に記載の水処理装置。
【請求項3】
前記電場発生部は、前記静磁場の磁束方向とは交差する方向において、前記流路部を介して互いに対向する複数の電極である
請求項1又は2に記載の水処理装置。
【請求項4】
前記第2の磁場発生部は、前記流路部の周囲における前記複数の電極とは異なる位置に配置された少なくとも1つのコイルである
請求項3に記載の水処理装置。
【請求項5】
前記少なくとも1つのコイルは、前記流路部を介して互いに対向し、それぞれ鞍型の形成を有する複数のコイルである
請求項4に記載の水処理装置。
【請求項6】
前記複数の電極により形成されるキャパシタと、前記コイルとは、前記共振周波数において共振する共振回路として互いに電気的に接続される
請求項4に記載の水処理装置。
【請求項7】
前記第1の磁場発生部は、中空形状を有する少なくとも1つの超電導マグネットであり、
前記流路部は、前記超電導マグネットの内側に配置され、
前記キャパシタ及び前記コイルは、前記流路部と前記超電導マグネットとの間に配置された
請求項6に記載の水処理装置。
【請求項8】
前記少なくとも1つの超電導マグネットは、それぞれ中空形状を有する複数の超電導マグネットであり、
各超電導マグネットの内側には、前記流路部、前記キャパシタ及び前記コイルが配置され、
前記各超電導マグネットにおける前記キャパシタ及び前記コイルに対応する前記共振回路は、梯子回路として互いに接続される
請求項7に記載の水処理装置。
【請求項9】
前記処理対象の水を冷却水として発熱源に供給する外部の水路系と、前記流路部との間に挿入され、前記水路系から前記流路部に流入する水圧と、前記流路部から前記水路系に流出する水圧とをそれぞれ調整する制御ポンプをさらに備える
請求項1又は2に記載の水処理装置。
【請求項10】
前記制御ポンプは、並行に連結された複数のスクリューポンプである
請求項9に記載の水処理装置。
【請求項11】
前記交流電場を間欠的に発生させるように前記電場発生部に交流電力を供給する電力供給部をさらに備える
請求項1又は2に記載の水処理装置。
【請求項12】
前記流路部は、前記処理対象の水が循環する外部の水路系から、前記水を分流し、前記流路を介して、前記分流した水を前記水路系に戻すように、前記水路系に接続される
請求項1又は2に記載の水処理装置。
【請求項13】
前記流路部は、前記処理対象の水が流れる流路を第1の流路として、前記処理対象の水とは異なる外水が流れる第2の流路をさらに備え、
前記第1の流路と前記第2の流路とは、前記濾過材を介して隣接する
請求項1又は2に記載の水処理装置。
【請求項14】
前記濾過材は、複数本の中空糸を含み、
前記流路部は、前記複数本の中空糸の内部を前記第1の流路として前記処理対象の水を流し、前記流路部において前記中空糸の外部を前記第2の流路として、前記外水を流す配管構造である
請求項13に記載の水処理装置。
【請求項15】
前記濾過材は、所定の吸着等温線においてIUPACの分類におけるIV型およびV型よりも狭い相対圧力の範囲内で、前記IV型および前記V型よりも大幅に吸着量の増加と減少とを示す多孔質材料を含む
請求項1又は2に記載の水処理装置。
【請求項16】
処理対象の水に含まれる重水の濃度を低減する水処理方法であって、
流路と濾過材とを備える流路部において前記流路に前記処理対象の水を流すことと、
前記流路部に静磁場を発生させることと、
前記静磁場において重水素が核磁気共鳴を起こす共振周波数を有する交流磁場を前記流路部に発生させることと、
前記共振周波数を有する交流電場を前記流路部に発生させることと、
前記流路部における前記濾過材に設けられた細孔において、前記交流電場に応じて水分子を回転させて、前記濾過材において前記重水を含んだ前記水の一部を排出するように前記水を濾過することとを含む
水処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば原子力発電の核燃料に対する冷却水といった処理対象の水に含まれる重水の濃度を低減する水処理装置および水処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
重水は、水素の代わりに1つ以上の重水素を含む水分子からなり、自然界にある一般的な水に、軽水と共に含まれている。一般的な水から、重水(半重水を含む)の量を低減させる従来の手法として、例えば特許文献1は、水素と重水素とのごくわずかな物理的性質の差を利用して蒸留を繰り返す方法および水電解法による方法を挙げている。
【0003】
特許文献1は、水から重水を除去して重水素低減水を製造する方法を開示する。この重水素低減水の製造方法は、所定の吸着材に対し、水蒸気を、重水が吸着材に吸着して軽水が吸着しにくい圧力で供給して、重水を吸着させ、吸着材に吸着しない水蒸気を回収している。これにより、重水素低減水を容易かつ低コストで製造することができる。上記吸着材は、例えば、水蒸気吸着等温線のIUPAC(International Union of Pure and Applied Chemistry)の分類においてIV型またはV型に分類される材料から形成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開第2016/031896号
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】森 孝則、外3名、“NMRによるメソ細孔内に生成した氷の融解現象の追跡”、大阪大学低温センターだより.141 P.11-P.15、2008-01
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1の方法では、水が水蒸気に気化された状態において扱われており、水から重水を除去する処理量を大量にし難い。従来技術では、例えば上述した冷却水のように大流量の処理対象において重水の濃度を低減する水処理を効率良く行うことは困難であった。
【0007】
本発明の目的は、効率良く処理対象の水に含まれる重水の濃度を低減するための水処理を行える水処理装置および水処理方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一態様において、処理対象の水に含まれる重水の濃度を低減する水処理装置は、前記処理対象の水が流れる流路と、前記流路から前記水の一部を排出するように前記水を濾過する濾過材とを備える流路部と、前記流路部に静磁場を発生させる第1の磁場発生部と、前記静磁場において重水素が核磁気共鳴を起こす共振周波数を有する交流磁場を前記流路部に発生させる第2の磁場発生部と、前記共振周波数を有する交流電場を前記流路部に発生させる電場発生部とを備える。前記流路部における前記濾過材において、前記交流電場に応じて水分子が回転可能なサイズを有する細孔が設けられる。
【0009】
一態様において、前記共振周波数が、前記細孔における前記水分子の回転周波数の分布における半値全幅の範囲内にあるように、前記静磁場の強度と、前記細孔のサイズと、前記濾過材の材質と、前記処理対象の水の温度とが設定されてもよい。
【0010】
一態様において、前記電場発生部は、前記静磁場の磁束方向とは交差する方向において、前記流路部を介して互いに対向する複数の電極であってもよい。
【0011】
一態様において、前記第2の磁場発生部は、前記流路部の周囲における前記複数の電極とは異なる位置に配置された少なくとも1つのコイルであってもよい。
【0012】
一態様において、前記少なくとも1つのコイルは、前記流路部を介して互いに対向し、それぞれ鞍型の形成を有する複数のコイルであってもよい。
【0013】
一態様において、前記複数の電極により形成されるキャパシタと、前記コイルとは、前記共振周波数において共振する共振回路として互いに電気的に接続されてもよい。
【0014】
一態様において、前記第1の磁場発生部は、中空形状を有する少なくとも1つの超電導マグネットであってもよい。前記流路部は、前記超電導マグネットの内側に配置される。前記キャパシタ及び前記コイルは、前記流路部と前記超電導マグネットとの間に配置される。
【0015】
一態様において、前記少なくとも1つの超電導マグネットは、それぞれ中空形状を有する複数の超電導マグネットであってもよい。各超電導マグネットの内側には、前記流路部、前記キャパシタ及び前記コイルが配置される。前記各超電導マグネットにおける前記キャパシタ及び前記コイルに対応する前記共振回路は、梯子回路として互いに接続される
【0016】
一態様において、水処理装置が、前記処理対象の水を冷却水として発熱源に供給する外部の水路系と、前記流路部との間に挿入され、前記水路系から前記流路部に流入する水圧と、前記流路部から前記水路系に流出する水圧とをそれぞれ調整する制御ポンプをさらに備えてもよい。
【0017】
一態様において、前記制御ポンプは、並行に連結された複数のスクリューポンプであってもよい。
【0018】
一態様において、水処理装置が、前記交流電場を間欠的に発生させるように前記電場発生部に交流電力を供給する電力供給部をさらに備えてもよい。
【0019】
一態様において、前記流路部は、前記処理対象の水が循環する外部の水路系から、前記水を分流し、前記流路を介して、前記分流した水を前記水路系に戻すように、前記水路系に接続されてもよい。
【0020】
一態様において、水処理装置が、前記流路部は、前記処理対象の水が流れる流路を第1の流路として、前記処理対象の水とは異なる外水が流れる第2の流路をさらに備えてもよい。前記第1の流路と前記第2の流路とは、前記濾過材を介して隣接する。
【0021】
一態様において、前記濾過材は、複数本の中空糸を含んでもよい。前記流路部は、前記複数本の中空糸の内部を前記第1の流路として前記処理対象の水を流し、前記流路部において前記中空糸の外部を前記第2の流路として、前記外水を流す配管構造である。
【0022】
一態様において、前記濾過材は、所定の吸着等温線においてIUPACの分類におけるIV型およびV型よりも狭い相対圧力の範囲内で、前記IV型および前記V型よりも大幅に吸着量の増加と減少とを示す多孔質材料を含んでもよい。
【0023】
一態様は、処理対象の水に含まれる重水の濃度を低減する水処理方法は、流路と濾過材とを備える流路部において前記流路に前記処理対象の水を流すことと、前記流路部に静磁場を発生させることと、前記静磁場において重水素が核磁気共鳴を起こす共振周波数を有する交流磁場を前記流路部に発生させることと、前記共振周波数を有する交流電場を前記流路部に発生させることと、前記流路部における前記濾過材に設けられた細孔において、前記交流電場に応じて水分子を回転させて、前記濾過材において前記重水を含んだ前記水の一部を排出するように前記水を濾過することとを含む。
【発明の効果】
【0024】
本発明水処理装置及び水処理方法によると、効率良く処理対象の水に含まれる重水の濃度を低減するための水処理を行える。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1】本発明の実施形態1に係る水処理装置が適用される冷却システムを例示する模式図
図2】実施形態1に係る水処理方法の基本原理を説明するための模式図
図3】水処理方法の処理対象の水における誘電損の周波数特性を例示するグラフ
図4】実施形態1に係る水処理装置の構成例を示す断面模式図
図5】水処理装置における超電導マグネットの構成を例示する透過斜視図
図6】水処理装置における電磁場変換器の構造を例示する透過斜視図
図7】水処理装置における電磁場変換器の共振回路を説明するための回路図
図8】水処理装置の変形例の共振回路を説明するための回路図
図9】水処理装置における制御ポンプの変形例を示す模式図
図10】水処理装置における間欠制御を説明するためのグラフ
図11】実施形態2に係る水処理装置の構成例を示す断面模式図
図12図11のA-A線矢視の模式断面図
図13】実施形態2に係る水処理装置の変形例を示す断面模式図
図14】水処理装置の濾過材の変形例を説明するためのグラフ
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、添付の図面を参照して本発明に係る実施の形態を説明する。以下の実施形態は、本発明の技術的思想を具体化するために例示するものであって、本発明の技術的思想はかかる実施形態に限定されるものではない。
【0027】
(実施形態1)
実施形態1では、原子力発電に関する各種の施設(以下「原子力施設」という)における核燃料等の冷却のための水処理技術に本発明を適用する一例を説明する。
【0028】
1.原子力施設の冷却システムについて
本発明の実施形態1に係る水処理装置の適用例について、図1を用いて説明する。図1は、本実施形態に係る水処理装置15が適用される冷却システム10を例示する。
【0029】
冷却システム10は、例えば図1に示すように、原子力施設1において、核燃料11が格納された発熱源12と、発熱源12に冷却水Waを循環的に供給する循環水路系13と、本実施形態に係る水処理装置15とを含む。冷却システム10は、例えば原子力施設1において冷却水Waの循環供給により発熱源12を冷却するシステムである。本実施形態の水処理装置15は、図1の例において、冷却システム10の循環水路系13から冷却水Waをバイパスする流路に組み込まれている。
【0030】
冷却水Waは、本実施形態における水処理装置15による処理対象の水の一例であり、重水及び軽水を含む。重水は、水素(H)の同位体の重水素(D)を含む各種の水分子(HDO,DO)からなり、軽水は、水素の同位体を含まない水分子(HO)からなる。例えば、冷却水Waにおける重水の濃度は、例えば質量パーセント濃度またはモル濃度等で特定される。
【0031】
本実施形態の冷却システム10が適用される原子力施設1は、例えば沸騰水型で操業する原子力発電所、原発子力発電所を転用した廃炉設備、及び使用済み核燃料の貯蔵プール施設である。また、本実施形態の冷却システム10は、核分裂炉に限らず核融合炉といった各種の原子炉を有する原子力施設1に適用可能である。
【0032】
原子力施設1における発熱源12は、例えば核燃料11を使用可能に格納する圧力容器、あるいは使用済みの核燃料11を格納する燃料プール等である。冷却システム10の循環水路系13は、発熱源12に冷却水Waを供給する各種の構造及び機構を含み、例えば水路管、循環ポンプ及び復水器などを含む。
【0033】
原子力施設1における冷却水Waについては、核燃料11が放出する中性子線に晒されることで、水素の放射性同位体であるトリチウムが発生する放射化が懸念される。こうした放射化は、冷却水Waにおいて、水素が直接トリチウムに変換されるのではなく、水素の同位体で非放射性の重水素が、トリチウムに変換される核反応に起因する。例えば、(上記核反応後の)冷却水Wa中のトリチウム水の濃度は、(上記核反応前の)冷却水Wa中の重水の濃度の2乗に比例し得る。
【0034】
そこで、本実施形態に係る水処理装置15は、冷却水Waに含まれる重水の濃度を低減するように水処理方法を行う。これにより、中性子線に晒される冷却水Waにおけるトリチウムの発生を抑制して、冷却水Waの放射化を低減できる。こうして、原子力施設1における冷却水Waの放射化に関する安全性を向上することができる。
【0035】
本実施形態の水処理装置15は、使用済み核燃料11を冷却する冷却水Waにおいてもトリチウムの発生を抑制できることから、例えば原子力発電所が耐用年数(例えば40年)を経過した際の廃炉のシナリオに有用である。例えば、廃炉のシナリオにおいては、使用済み核燃料11を十数年以上の冷却期間にわたり燃料プールのような湿式で保管し、その後に乾式保管を行うこととなる。
【0036】
本実施形態の水処理装置15を導入すれば、廃炉対象の原子力施設1自体を、湿式保管の施設として活用するように、石棺化等でリフォームするといった廃炉工法を実現可能にすることができる。この場合、そのまま乾式保管へ移行する際にも、放射性のトリチウム水の発生抑制により、移行の工事等を容易化できる。
【0037】
2.重水濃度低減の基本原理
本実施形態の水処理装置15及び水処理方法において重水濃度の低減を実現する基本原理について、図2~3を用いて説明する。
【0038】
図2は、本実施形態に係る水処理方法の基本原理を説明するための模式図である。図3水処理方法の処理対象の水における誘電損の周波数特性を例示するグラフである。
【0039】
本実施形態の水処理装置15は、上述した冷却水Wa等の処理対象の水における重水濃度の低減を実現するために、例えば図2に示すように、磁場Ba,Bb及び電場Eaを用いて重水を選択的に励振する基本原理を用いる。この基本原理は、「電磁場による原子分子の相互作用において階層が異なる2種類の共鳴現象の共振周波数を一致させる条件を整えておけば、両者の弱い結合を介して同期連動が起こり、前者の選択特性を後者の共鳴に引継いだ連動励振に到る」との物理モデルに帰着できる。
【0040】
具体的に、前者の共鳴現象は、図2に例示する交流磁場Ba及び静磁場Bbを用いた核磁気共鳴(NMR)である。後者の共鳴現象は、例えば交流電場Eaを用いた、電気双極子としての水分子の回転自由度についての電磁励振(即ち誘電加熱)である。
【0041】
前者のNMRについて、例えば軽水の水素の原子核すなわちH核はスピン「1/2」を有する一方、重水素の原子核すなわちD核はスピン「1」を有する。このため、NMRの共振周波数は、例えば10テスラの静磁場Bbの場合に、H核が400MHzでD核が70MHzというように、軽水と重水との間で大幅に異ならせることができる。よって、本実施形態の水処理装置15において、NMRで励起するための交流磁場Baの周波数を適切に設定することにより、例えば図2に示すように、重水だけを選択励起することが容易に実現できる。励起された重水素は、スピン-格子緩和すなわちT1緩和の過程において、重水の分子回転と弱い結合になり得る。
【0042】
後者の誘電加熱については、例えば図3に示すように、通常の液体である自由水の周波数特性F1は、10GHz近傍において、分子回転による共鳴のピーク周波数を有し、電子レンジ技術等に用いられている。これに対して、例えば多孔質材のナノ細孔内に水を束縛すれば、図3に例示するように、室温環境下で数十MHzにまでピーク周波数を低減した束縛水の周波数特性C2を得られることが、水の誘電率特性から明らかにされている。この挙動は、電気双極子の水分子が水素結合で集団として振る舞うことに起因している。
【0043】
そこで、本実施形態の水処理装置15は、重水を濾過する濾過材として多孔質材を用いて、その細孔30(図2)内部で水分子が上記束縛水になる構成を備える。こうした構成において、水分子は、例えば液体クロマトグラフィのキャピラリー内と同様に、(軽水、重水問わず)内壁への吸着と脱離を繰り返しながら下流へ移動していく。この場合の移動速度は、吸着から脱離までの滞在時間により律速され、物理吸着エネルギー(eV未満)と液体の温度に比例する熱擾乱エネルギーとの差が大きいほど増大する。そこで、本実施形態の水処理装置15は、上述した2種類の共鳴現象の連動励振によって重水分子に脱離を促進するエネルギー差ΔP(図2)を与える。
【0044】
本実施形態において、前者のNMRによるD核のラーモア回転と、後者の誘電加熱による重水分子の電気双極子の回転との両者の間の弱い結合によって、後者の回転が加減速されて同期回転が促される。これは、同期モータの回転子がステータに生じる回転磁界駆動によって加減速されて同期化する動作に酷似している。後者の分子回転は、例えば環境温度に応じて熱的に(即ち、様々な位相、速度及び回転方向で)も生じるが、前者の回転速度に近いほど、加減速作用が顕著に働く。こうした同期現象は、NMRの緩和時間による束縛水の研究から明らかになっている(例えば非特許文献1)。
【0045】
非特許文献1は、既存の細孔径2.7ナノメートルのメソポーラスシリカに水分子を飽和吸着させて、NMR分光分析スペクトルから励起状態が減衰する緩和時間を測定することで、水分子の回転状態を考察している。この際、水温をパラメータとして、水分子の回転速度を変化させると、回転速度がNMR共振周波数の近傍において、緩和時間が共鳴カーブのように短く(即ち、相互作用が大きく)なる現象が観測されている。これは、NMRラーモア回転から水分子回転へのエネルギー移行(即ち、加減速からの同期化)が起こることを示している。
【0046】
ここで、非特許文献1は、物質研究のための分析を目的としており、核磁気共鳴(NMR)にパルス(フーリエ)NMR法を用いている。具体的には、励起パルスによる対象系への擾乱を極力小さくするために、励起パルスの幅と頻度との積(即ちデューティ)は極力低く、殆ど単パルスとして高周波磁場の短期の波束で励起して、その後の応答エコー信号が高感度に計測されている。これは、もしパルス頻度が多いと、タイミングが異なるエコーが重なって信号対雑音比を劣化させるためである。このサイクルを繰り返して、微小信号を蓄積し平均化するような測定が行われている。
【0047】
これに対して、本実施形態の水処理装置15において、NMRは、可及的に多くの重水素を励起して、そのエネルギーを水分子の回転に移し替えるために行われる。例えば、デューティを比較的高くして連続的なパルスで高周波磁場を連続波に近くすることで、より多くのD核を次々とNMR励起し、さらに基底状態に戻ったD核も再び励起させるように動作させることができる。
【0048】
上記の作用により、重水分子のみが前者のNMRのための交流磁場Baに同期した回転となれば、例えば交流磁場Baの源の高周波電力から同時に得られる交流電場Eaによって、重水分子を電気双極子として揺する(即ち励振加熱する)ことができる。本実施形態の水処理装置15において、交流電場Eaは、NMRに起因した重水分子の回転方向に合わせる観点から、例えば静磁場Bbの磁束に対して直交方向に設定される。
【0049】
水処理装置15において、濾過材に吸着された水分子の回転は、細孔30内壁との近接相互作用の引力によって物理吸着エネルギー等の制動を受けている。この制動に対して、上記の交流電場Eaによる励振(加熱)が勝れば、吸着された水分子の脱離が促される。よって、本実施形態の水処理装置15における重水分子の選択的な励振によると、重水分子の吸着から離脱までの滞留時間が短くなり、結果的に重水分子の細孔内の移動速度が速くなって、濾過材における重水の透過率を向上することができる。
【0050】
本実施形態の水処理装置15は、以上のような前者と後者の共鳴の周波数を所定範囲内で揃える条件に基づく装置構成を備えて動作する。所定範囲は、例えば後者の半値全幅2Δω(図3)以内の精度で両者の周波数を一致させる範囲であり、許容誤差を考慮して適宜設定される。こうした設定のパラメータとして、NMR共振周波数は、静磁場Bbの強度に依存し、水分子の回転周波数は、束縛空間(即ち、多孔質濾過材の細孔サイズ)と、液温とに依存している。
【0051】
本実施形態では、こうしたパラメータが上記の条件を満たすように水処理装置15を構成して、対応する周波数の高周波電力を供給して交流磁場Baと交流電場Eaを同時に生じさせることにより、重水の選択除去というプロセスの水処理が実現できる。本プロセスは、概括すると、NMRによる重水素の選択励起からT1緩和過程を介した双極子回転による重水分子の選択的な誘電加熱に到れば、濾過材における重水を選択に透過させることができる。例えば、上記の条件を満たす例としては、非特許文献1に開示された解に加えて、この解から水温が常温の場合への変更を考慮すると、静磁場Bbの強度が数テスラ以上、共振周波数が数メガヘルツ以上、細孔サイズが数ナノメートル径以下といった解が考えられる。
【0052】
3.水処理装置について
以上のような基本原理に基づいた、本実施形態における水処理装置15の構成及び動作の詳細を以下説明する。図4は、本実施形態に係る水処理装置15の構成例を示す。図4では、水処理装置15の構成を例示するためにその模式的な断面を図示している。
【0053】
本構成例において、水処理装置15は、処理対象とする冷却水Waの重水濃度を低減するべく、重水分子を外界水Wbへ効果的に排出するように構成される。下界水Wbは、例えば冷却システム10(図1)の外部から補給される外水の一例である。下界水Wbは、例えば流路部3を介して海洋などの外部に放出可能である。
【0054】
本実施形態の水処理装置15は、例えば図4に示すように、中空形状を有する超電導マグネット2(図5参照)と、超電導マグネット2の内側に配置された流路部3と、超電導マグネット2と流路部3との間に配置された電磁場変換器4とを備える。更に、本構成例の水処理装置15は、冷却システム10(図1)の循環水路系13と流路部3との間に挿入された制御ポンプ5と、電磁場変換器4に電気的に接続された電力供給部6とを備える。
【0055】
電磁場変換器4は、例えば電力供給部6から供給される電力が有する高周波等の交流周波数に応じて交流電場Eaと交流磁場Baとを発生させる装置である。電磁場変換器4の詳細については後述する。
【0056】
制御ポンプ5は、循環水路系13(図1)において発熱源12に循環する冷却水Waと、流路部3(図4)において濾過膜31の上流側に流れる処理対象の冷却水Wa間の圧力差を調整するための自己圧再生型(双方向加減圧並列)ポンプである。制御ポンプ5の詳細については後述する。
【0057】
電力供給部6は、高周波などの交流周波数における電力を生成する交流電源、および高周波電力の供給タイミング及び交流周波数などを制御する制御回路を備える。例えば、電力供給部6は、インバータ及びコンバータなどの各種電力変換器を含む。
【0058】
図5は、水処理装置15における超電導マグネット2の構成を例示する。超電導マグネット2は、例えば中空形状の内側の空間に均一な静磁場Bbを発生させる。超電導マグネット2は、例えばソレノイドコイル、冷却器、及び制御回路などを備える。超電導マグネット2には、例えば超電導電力貯蔵装置(SMES)など、種々の他目的において開発済みの既存のエンジニアリング技術を適宜適用可能である。超電導マグネット2は、本実施形態における第1の磁場発生部の一例である。
【0059】
流路部3は、水処理装置15において冷却水Waのような処理対象の水が流れる流路3aを形成する部分であり、例えば管状部材で形成される。本構成例において、流路部3は、冷却水Waの流路3aに加えて、例えば冷却水Waの対向流として下界水Wbが流れる流路3bを備える。
【0060】
本実施形態の流路部3は、上述した細孔30(図2)を有する濾過材の一例である濾過膜31を備える。本構成例の流路部3では、例えば冷却システム10(図1)において発熱源12と水処理装置15との間を循環する冷却水Waの流路3aと、外部から絶えず入替る外界水Wbとが、数ナノメートル径以下の細孔を持つ濾過膜31で仕切られている。
【0061】
本構成例の流路部3において、濾過膜31は、超電導マグネット2が発生させる数テスラ以上の均一な静磁場Bb中に保持される。本構成例の水処理装置15は、こうした流路部3内に、数メガヘルツ以上の高周波電力に基づき電磁場変換器4により交流磁場Baおよび交流電場Eaが生じるように構成される。例えば、流路部3は、上記のように外部から印加される各種の電磁場Ea,Ba,Bbを遮蔽せず内部に導入可能な材質で構成される。
【0062】
更に、電磁場変換器4の電極(後述)が流路部3近傍に配置されても交流電場Eaを阻害しないようにする観点から、流路部3にて濾過膜31を保持する容器の部材等の材質は、各磁場Ba,Bbの内部到達のための非磁性に加えて、絶縁性及び非誘電性を有する。こうした特性の流路部3の材質は、例えば樹脂系構造材料、無機系のパイレックス(登録商標)(溶融石英)、及び、それら複合系のFRP(Fiber Reinforced Plastics)、GRP(Glass-fiber Reinforced Plastics)、CRP(Carbon-fibre Reinforced Plastic)等である。上記の樹脂系構造材料としては、例えばテフロン(登録商標)、塩化ビニール、ABS(Acrylonitrile Butadiene Styrene)、PEN(PolyEthylene Naphtahalate)、ポリカ―ボネート、及びセルロースなどが挙げられる。
【0063】
濾過膜31等の濾過材としては、上述した基本原理を実現するために所望の細孔サイズを有する種々の多孔質材を適宜、採用できる。例えば、濾過材としては、シリカゲルのようなメソポーラスシリカFSM-16(Folded Structure of Mesoporous material 16)、又はMCM-41(Mobil Crystalline Material 41)といった材質が候補として挙げられる。
【0064】
MCM-41は、鋳型となる界面活性剤のアルキル鎖長を変化させることで、細孔径を数nm付近で変化させることができるため、水分子の回転周波数を適切な値となるように材料設計することが可能である。又、2つの流路3a,3bを仕切る濾過膜31の実効面積を可及的に大きく確保する観点から、濾過膜31の立体構造の形態として、浄水器及び人工透析器にある中空糸、或いは逆浸透圧型海水淡水化装置の巻物型などの3次元構造が採用されてもよい。
【0065】
本構成例の水処理装置15を動作させることにより、冷却水Wa中の軽水と重水が濾過膜31の細孔30内を通過する際に、重水分子のD核のみが核磁気共鳴で励起され、すぐにT1緩和現象によって重水分子の熱回転を加減速して同期回転が促される(図2参照)。その結果、重水分子は、同時に発生している交流電場Eaにも同期して、その励振(加熱)によって脱離が促され、重水分子のみが短時間に細孔30を通過しやすくなる。
【0066】
こうした水処理装置15の動作により、各種電磁場Ea,Ba,Bbを用いた冷却水Waの水処理において重水の濾過効率を大きくすることができる。上記の動作は、単一周波数の高周波電力によって、濾過膜31の細孔30内に生じる交流磁場BaによるD核の核磁気共鳴と、交流電場Eaによる重水分子の双極子回転の振動共鳴が、同期して同時連動することで実現可能である。
【0067】
3-1.電磁場変換器について
本実施形態の水処理装置15における電磁場変換器4の詳細を、図6~8を用いて説明する。
【0068】
図6は、本実施形態の水処理装置15における電磁場変換器4の構造を例示する。図7は、電磁場変換器4の共振回路40を説明するための回路図である。
【0069】
本実施形態の電磁場変換器4は、例えば図6に示すように、1対の鞍型コイル41と、1対の対向電極42とを備える。
【0070】
1対の鞍型コイル41は、例えば図6に示すように、流路部3の周囲において或る方向から濾過膜31が収まる位置を挟み込むように対向配置される。1対の鞍型コイル41に高周波電力が供給されることで、濾過膜31の細孔30内に交流磁場Baが生じる(図2,4参照)。電磁場変換器4の鞍型コイル41は、本実施形態における第2の磁場発生部の一例である。鞍型コイル41の対向配置によると、例えば流路部3における交流磁場Baの磁束の方向を直線的にし易い。
【0071】
1対の対向電極42は、例えば、図6に示すように交流磁場Baの磁束及び静磁場Bbの磁束とは直交する方向から濾過膜31を挟み込むように配置される。1対の対向電極42にも、上記と同じ高周波電力が供給されて、濾過膜31の細孔30内に、交流磁場Baと同期した交流電場Eaを生じる(図2,4参照)。1対の対向電極42は、本実施形態における電場発生部の一例である。
【0072】
さらに、本実施形態の電磁場変換器4は、例えば図7に示すように、1対の鞍型コイル41のインダクタンスLと、1対の対向電極42が形成するキャパシタの静電容量Cとから構成されるLC梯子型の共振回路40を形成する。こうした共振回路40に、高周波電力を供給することで、濾過膜31の細孔30内に、同一周波数の交流磁場Baと交流電場Baを同時に生じさせることが容易に行える。
【0073】
図7には、こうした電磁場変換器4の共振回路40の機能を説明するための等価的な回路40a,40bを併記している。以下、L,Cについて、回路素子と回路定数とを同一視して用いる場合がある。
【0074】
高周波電力から交流磁場Baを強く発生させることは、例えばコイル41に大電流を流すことによって実現できる。このためには、例えば図7に示すように、コイル(L)とキャパシタ(C)とを並列接続したLC並列回路40aを用いることができる。この場合、コイルLに流れる電流は、キャパシタCとの間で行き交うことによって、外部からの入力電流Iinのq倍になる。例えばqは、周波数ω、インダクタンスL及びコイル抵抗rを用いて、q=ωL/rである。
【0075】
一方、交流電場Eaを強く発生させることは、流路部3を挟む1対の対向電極42間に高電圧を印加することによって実現できる。このためには、例えば図7に示すように、コイルLとキャパシタCとを直列接続したLC直列回路40bを用いることができる。この場合、キャパシタCの両端電圧は、キャパシタCからコイルLに急速に流れ込む電流に応じて、外部印加電圧VinのQ倍の高電圧となる。これにより、キャパシタCの電極間に挟まれた流路部3内の領域に強い交流電場Eaを生じさせる。
【0076】
本実施形態の電磁場変換器4によると、図7に例示するように上記のLC並列回路40aおよびLC直列回路40bを組み合わせたLC梯子型の共振回路40を用いて、コイルにおける大電流と、キャパシタにおける高電圧とを同時に生じさせることができる。又、図6に例示するように、コイルを鞍型コイル41として濾過膜31を内蔵した流路部3を挟み、それと交差するように、1対の対向電極42で挟んでキャパシタとしている。これにより、高周波電力に同期して、流路部3内に強い交流磁場Baと強い交流電場Eaとを交差形成することができる。
【0077】
本実施形態の電磁場変換器4においては、上述した重水の選択的励振のための共振周波数(例えば数十~百MHz)に、共振回路40の共振周波数を合わせるように、インダクタンスLおよび静電容量Cが設計される。この際、濾過膜31内蔵の流路部3を挟んだ1対の対向電極42の静電容量Cは、流路部3内の大部分を占める自由水の比誘電率が「(例えばMHz帯にて)約60」であること等を考慮して算出される。インダクタンスLについては、流路部3内は比透磁率「1」として扱って、コイルの内径と巻き数から算定すればよい。
【0078】
以上のように構成される電磁場変換器4において、高周波の交流磁場BaによるNMRによって重水素が励起されるラーモア回転運動は、NMRの静磁場Bbの方向に回転軸を持つ(図2参照)。すると、T1緩和現象において、同じ回転軸で熱回転する重水分子のみへの結合により、加減速効果による同期回転が導かれる。同期回転を始めた電気双極子の重水分子は、本実施形態の電磁場変換器4が同時に流路部3に生じさせる高周波の交流電場Eaの誘電加熱によって、同期励起される。
【0079】
以上のように、電磁場変換器4からの電磁場Ea,Baに基づき、細孔30内壁との近接相互作用に誘電加熱が対抗することで、重水分子の脱離が促されることになる。一方、流路部3に多数存在する軽水分子については、NMRによる熱回転の同期化がないため、誘電加熱の作用が、位相が偶々同じ極少数の分子だけにしか起こらないようにすることができる。
【0080】
本実施形態の水処理装置15は、複数の電磁場変換器4等を備えてもよい。例えば、超電導マグネット2に内側に設置された流路部3及び電磁場変換器4の組合せからなる重水の濾過促進のシステムが、複数並列されてもよい。これにより、例えば原子力発電所の操業中の多大な水流量の冷却水Waへの適用について、単位時間当たりの処理量を確保し易くできる。超電導マグネット2としては、例えばSMES等の現存する構成が利用されてもよい。例えば、SMESに用いられる複数のソレノイドコイル中心に、濾過膜31内蔵の流路部3が挿入されるような構成が採用されてもよい。
【0081】
図8は、こうした水処理装置15の変形例の共振回路40を例示する。上記のような並列のシステム構成における複数の電磁場変換器4は、例えば図8に示すように、梯子回路として直列連結された共振回路40を形成するように構成されてもよい。こうすることによって、高周波電力の入力供給を1ヵ所に共通化でき、電力供給部6(図4)といった電源構成を簡単化できる。
【0082】
3-2.制御ポンプについて
実際の原子力発電所においては、循環させる冷却水Waが諸運転事情に伴い圧力変動を生じ得る。本実施形態の水処理装置15は、制御ポンプ5により、こうした圧力変動に対して濾過膜31での重水の選択透過性を安定化させる。こうした制御ポンプ5の詳細について、以下説明する。
【0083】
制御ポンプ5は、例えば図4に示すように、循環水路系13から流路部3へ流入する冷却水Waを減圧する減圧ポンプ51と、流路部3から循環水路系13へ流出する冷却水Waを加圧する加圧ポンプ52と含む。図4の例において、制御ポンプ5は、減圧ポンプ51と加圧ポンプ52との間で仕事を相殺するように2機が連結されたレシプロポンプとして構成される。
【0084】
水処理装置15(図4)において、濾過膜31の細孔30内を流れる冷却水Waの速度と水量は、濾過膜31の上流側の処理対象の冷却水Waと、下流側の外界水Wbとの圧力差に比例する。そこで、本実施形態では、例えば制御ポンプ5により、濾過膜31の下流側の外界水Wbに対して微差で加圧するように、上流側の処理対象の冷却水Waの圧力を調整して安定化させる。これにより、本実施形態の水処理装置15による重水の選択除去の性能を向上できる。また、こうした圧力制御の機能を水処理装置15に持たせることで、最上流にある循環水路系13の冷却水Waの操業圧力の自由度を確保し易い。
【0085】
3-2-1.バイパス経路について
本実施形態の水処理装置15は、例えば図1に示すように、冷却水Waの循環水路系13の本流から間引き分流させ、また本流に戻すバイパス経路に組み込まれる。例えば、水処理装置15における制御ポンプ5の各ポンプ51,52(図4)が、循環水路系13のバイパス経路にそれぞれ接続される。
【0086】
これにより、例えば操業中の原子力発電所のように、炉心発熱を、沸騰、蒸気のタービン発電及び復水と順次、エネルギー変換するための大流量の冷却水Waをバイパス経路で間引いて水処理を行う構成にして、水処理装置15を付帯設備として導入し易くできる。
【0087】
なお、本実施形態の水処理装置15は、必ずしも循環水路系13のバイパス経路に組み込まれなくてもよい。例えば、水処理装置15は、導入される原子力施設1の冷却システム10における冷却水Waの流量と水処理装置15の処理量とを勘案して、適宜許容範囲内であれば循環水路系13の本流に組み込まれてもよい。
【0088】
3-2-2.制御ポンプの変形例
以上の説明では、本実施形態の水処理装置5における制御ポンプ5として、図4では2機連結のレシプロポンプを例示したが、その代わりに、並行連結したスクリューポンプが採用されてもよい。こうした変形例について、図9を用いて説明する。
【0089】
図9は、水処理装置15における制御ポンプ5の変形例を示す。本変形例において、水処理装置15は、制御ポンプ5として、例えば図9に示すように2機連動のスクリューポンプ5Aを採用する。これによって、加圧と減圧との並行動作を連続運転で行えるとともに、その動作中に生じ得る圧力変動(即ち、脈動)を低減できる。
【0090】
上記の2連スクリューポンプ5Aは、例えば機構系の摺動摩擦抵抗といった機械損失(メカロス)および配管圧損の分の動力はモータで与える程度で、エネルギー効率良く駆動できる。2連スクリューポンプ5Aは、例えば図9に示すように、スクリュー圧縮機51Aとスクリュー膨張機52Aとを平行軸式(並列)に接続して回転させる。
【0091】
2連スクリューポンプ5Aにおける両機51A,52Aの接続は、並行動作が実行可能な連結であれば特に図9の例に限らず、例えば直列接続であってよい。例えば、両機51A,52Aの回転軸の間に減速機を設けてもよい。或いは、両機51A,52Aを、インバータを用いて任意の回転数及び位相に制御したり、減圧弁又は流量調整弁を用いたりすることによって、冷却水Waの循環水路系13側と水処理装置15の流路部3側との間に一定の圧力差を安定に維持できるように制御することができる。
【0092】
3-3.間欠制御について
本実施形態の水処理装置15は、例えば電磁場変換器4に対する高周波電力の供給を、ON/OFF間欠パルスで制御する。この間欠制御によって、定期的に高周波電力の供給を停止することで、大多数存在する軽水分子の中に少数割合で存在し得る、電子レンジ加熱のように励振される軽水分子の増殖を抑制して、重水分子の選択透過率を向上することができる。
【0093】
例えば、間欠パルスがONの加熱時間Tonは1ミリ秒よりも長く設定される。又、間欠パルスがOFFの休止時間Toffは0.1~1ミリ秒未満に設定される。こうしたインターバルで高周波電力を供給するように水処理装置15を動作させることで、重水分子の加熱を促進し易い。
【0094】
仮に連続的に高周波電力を加えたなら、冷却水Wa中に大勢(絶対的多数)として存在する軽水分子のうち、当初に偶々、交流電場Eaに同期した少数が、偶発的な熱擾乱を重ねることによって、徐々に同期していく事態が考えられる。この場合、交流電場Eaへの同期回転(励振)が増殖していき、やがて大勢に成長してしまう。すると、当初、重水分子だけをNMR共振でトリガーをかけて選択性を確保していても、その選択性が損なわれてしまう。
【0095】
このような増殖現象が、高周波電力の供給を間欠的に制御することによって、回避できる。間欠的に高周波電力の供給を停止することで、NMR励起で同期化する重水以外の水分子(軽水分子)が、交流電場Eaで同期化加熱する事態を抑制できる。こうした間欠制御について、図10を用いてより詳細に説明する。
【0096】
図10は、水処理装置15における間欠制御を説明するためのグラフである。図10では、間欠制御による交流電場Eaの信号波形と、交流電場Eaに同期回転する重水分子の割合すなわち同期率を示すグラフGaと、軽水分子の同期率を示すグラフGbとを、それぞれ時系列で示している。
【0097】
例えば、図10の交流電場Eaと同じ高周波電力が起源の交流磁場BaによってNMR励起されたD核の回転運動は、緩和現象によって、重水分子の回転を同期化させる(図2参照)。このため、重水分子の同期率は、例えばグラフGaに示すように、当初は線形的に増加し、交流電場Eaの加熱によって加速される。しかしながら、周囲の水分子との水素結合および細孔内壁との物理吸着といった相互作用によって制動負荷がかかることから、仮に交流電場Eaを連続的に印加したとしても、重水分子の同期率は、やがて飽和することとなる。
【0098】
一方、軽水分子は、ランダムな回転位相を有する集団であることから、図10のグラフGbに例示するように、交流電場Eaによる加速を受ける回転位相で同期する分子は、最初はごく少数である。しかしながら、仮に交流電場Eaが連続的に印加された場合、上記同様の制動と加速が繰り返されていくうちに、軽水分子の集団は、徐々に同期位相に引き込まれる。こうして、同期した軽水分子の数は指数関数的に増加していき、やがて、上述した重水分子の場合と同様に加速(加熱)と制動(損失)とが拮抗して、その同期率は飽和することとなる。
【0099】
図10のグラフGa,Gbに示すように、両者分子の同期率について、重水分子の同期率は、先行してNMR緩和によって底上げされている。このため、重水分子の同期率と、軽水分子の同期率との比Ra:Rb(重水分子の選択加熱)は、当初はRa>Rbの大差があるものの、やがて1:1に近づき、選択性は消失してしまう事態が懸念される。
【0100】
そこで、本実施形態の水処理装置15は、上記の間欠制御を行って、交流電場Eaの発生を、休止時間Toff毎に停止させる。こうした休止時間Toff中においては、両者分子とも、加速(加熱)が中断し、制動(損失)のみとなって、指数関数的に減少する。
休止時間Toffの経過によりグラフGb等の同期率が適度に減少してから、再度、交流電場Eaを印加し、再び休止するといった間欠変調した場合の両者分子の同期率は、例えば図10に示すように変動する。こうした間欠変調において、例えば両者分子の同期率の比Ra:Rbを最大化すると、重水分子の選択的加熱を精度良く実現することができる。
【0101】
例えば、図4の水処理装置15において、電力供給部6は、加熱時間Ton及び休止時間Toffの間欠パルス制御により、間欠的に高周波電力を電磁場変換器4に供給する。これにより、上述した交流電場Eaの間欠制御を容易に実現できる。
【0102】
加熱時間Tonは、例えば図10のグラフGbのような軽水分子の同期率が、増加から飽和に遷移する時間長さ以下となるように設定される。こうした実時間は、交流電場Eaの強度に依存し、実際のシステムを用いて実験的に決めることが考えられる。
【0103】
休止時間Toffの下限は、例えば水の誘電損の特性から推定できる。この推定では、種々の物理現象の共振系において共通した、周波数分布における共鳴の鋭さ即ちQ値(半値半幅Δωと共振周波数ωoの比率で表される)と、その系に蓄積されるエネルギーと1振動周期あたりの損失エネルギー間の比率との対応関係に着目する。
【0104】
具体的に、まず誘電損の周波数分布(図3参照)より、自由水のQ値が「1/2(~5GHz/10GHz)」程度であることから、束縛水のQ値もこれと同様の値と推定される。このことから、束縛水の共振周波数について1振動周期(例えば70MHzで0.014マイクロ秒)が3回程度あれば、「(1/2)~1/10」というように充分減衰することが解る。すなわち、この系は損失と加熱とがほぼ近い強制振動系であることが解る。よって、休止時間Toffは、数周期~十周期以上(例えば70MHzで略0.04マイクロ秒以上)に設定すれば充分との推定ができる。
【0105】
なお、本実施形態の水処理装置5において、交流磁場Baは間欠制御されなくてもよい。例えば、本実施形態の水処理装置15は、交流電場Eaを間欠制御しつつ、交流磁場Baは連続制御するようにしてもよい。例えば、一対の対向電極42等の電場発生部への高周波電力の供給がスイッチング制御されてもよい。
【0106】
4.まとめ
以上説明したように、本実施形態の水処理装置15は、処理対象の水として冷却水Waに含まれる重水の濃度を低減する。水処理装置15は、流路部3と、第1の磁場発生部の一例の超電導マグネット2と、第2の磁場発生部及び電場発生部の一例の電磁場変換器4と、電場発生部とを備える。流路部3は、冷却水Waが流れる流路3aと、流路3aから冷却水Waの一部を排出するように冷却水Waを濾過する濾過材の一例としての濾過膜31とを備える。第1の磁場発生部は、流路部3に静磁場Bbを発生させる。第2の磁場発生部は、静磁場Bbにおいて重水素が核磁気共鳴を起こす共振周波数を有する交流磁場Baを流路部3に発生させる。電場発生部は、上記の共振周波数を有する交流電場Eaを流路部3に発生させる。流路部3における濾過材において、交流電場Eaに応じて水分子が回転可能なサイズを有する細孔30が設けられる。
【0107】
以上の水処理装置15によると、冷却水Wa等の処理対象の水において、重水素に対するNMRおよび分子回転といった2種類の共鳴現象を利用するための各種電磁場Ea,Ba,Bbを用いた水処理を実行できる。こうして、水処理装置15により、効率良く処理対象の水に含まれる重水の濃度を低減するための水処理を行える。
【0108】
例えば、本実施形態の水処理装置15において、冷却水Wa中の軽水と重水が濾過膜31の細孔30内を通過する際に、細孔30内の内壁に吸着脱離を繰り返すとき、重水分子の重水素のみが核磁気共鳴で励起される。そのT1緩和現象によって、熱回転する重水分子だけが加減速同期して交流電場Eaに同期することになる。それに伴う加熱作用で脱離が促され、重水分子のみが短時間に細孔を通過する。その結果、重水の濾過効率を大きくすることができる。
【0109】
本実施形態の水処理装置15において、共振周波数は、細孔30における水分子の回転周波数の分布における半値全幅2Δωの範囲内にあるように、静磁場Bbの強度と、細孔03のサイズと、濾過材の材質と、処理対象の水の温度とが設定される。
【0110】
これにより、例えば単一周波数の高周波電力によって、濾過膜31の細孔30内に生じる、交流磁場Baによって、重水を構成する重水素の核磁気共鳴と、交流電場Eaによる重水分子の双極子回転の振動共鳴が、同期して同時に連動して生じるようにすることができる。こうした設定方法の一例としては、NMRの共振周波数が静磁場Bbの強度に比例し、その比例係数が重水素の核磁気能率として既知であることから、利用する濾過材の材質及び細孔サイズと想定される水温とに基づき、静磁場Bbの強度を調整する方法がある。
【0111】
本実施形態において、電場発生部の一例である一対の対向電極42は、静磁場Bbの磁束方向とは交差する方向において、流路部3を介して互いに対向する複数の電極である。これにより、NMR励起からの緩和現象により分子回転に到った重水分子に、交流電場Eaによる誘電加熱を作用させ易くすることができる。交流電場Eaの方向は、磁束方向と厳密に直交しなくてもよく、上記作用を得られる範囲内の交差角度であってもよい。
【0112】
本実施形態において、第2の磁場発生部は、流路部3の周囲における対向電極42とは異なる位置に配置された少なくとも1つのコイルであってもよい。これにより、交流電場Eaと共に、流路部3において交流磁場Baを発生させて、NMRによる重水の選択的な励起を行える。
【0113】
本実施形態において、第2の磁場発生部としての少なくとも1つのコイルは、流路部3を介して互いに対向し、それぞれ鞍型の形成を有する複数のコイルの一例として、一対の鞍型コイル41である。これにより、流路部3内で交流磁場Baを交流電場Eaと交差するように発生させ易い。
【0114】
本実施形態において、複数の対向電極42により形成されるキャパシタと、上記コイルとは、共振周波数において共振する共振回路40として互いに電気的に接続される。これにより、同一周波数の同期した交流磁場Baと交流電場Eaを同時に流路部3に生じさせることが簡単な構成で行える。
【0115】
本実施形態において、第1の磁場発生部は、中空形状を有する少なくとも1つの超電導マグネット2である。流路部3は、超電導マグネット2の内側に配置される。上記キャパシタ及び上記コイルを含む電磁場変換器4は、流路部3と超電導マグネット2との間に配置される。これにより、超電導マグネット2の中空形状を通過する処理対象の水に対して順次、本実施形態の水処理を行え、効率良い水処理を実現し易い。
【0116】
本実施形態において、少なくとも1つの超電導マグネット2は、それぞれ中空形状を有する複数の超電導マグネット2であってもよい。各超電導マグネット2の内側には、流路部3、キャパシタ及びコイルが配置されてもよい。各超電導マグネット2におけるキャパシタ及びコイルに対応する共振回路40は、梯子回路として互いに接続されてもよい(図8)。これにより、水処理の処理量を大きく確保し易く、且つ電源系統を共通化できる。
【0117】
本実施形態において、水処理装置15は、制御ポンプ5をさらに備える。制御ポンプ5は、処理対象の水を冷却水Waとして発熱源12に供給する外部の水路系の一例の循環水路系13と、流路部3との間に挿入され、水路系から流路部3に流入する水圧と、流路部3から水路系に流出する水圧とをそれぞれ調整する。これにより、例えば原子力施設1の冷却システム10において、循環水路系13の操業圧力を保持しながら、水処理装置15における水圧を調整でき、水処理を効率良く行える。なお、こうした制御ポンプ5は、水処理装置15の外部構成であってもよい。
【0118】
本実施形態において、制御ポンプは、並行に連結された複数のスクリューポンプ5Aであってもよい。これにより、例えば水処理装置15において、加減圧を並行して連続運転する際に想定される脈動といった圧力変動を抑制できる。
【0119】
本実施形態において、水処理装置15は、電力供給部6をさらに備える。電力供給部6は、交流電場Eaを間欠的に発生させるように電場発生部に高周波電力などの交流電力を供給する。これにより、交流電場Eaが偶発的に軽水分子に作用して軽水分子の加熱が増長する事態を抑制でき、重水分子の選択的濾過率を向上できる。
【0120】
本実施形態において、流路部3は、例えば制御ポンプ5を介して、処理対象の水が循環する外部の水路系としての循環水路系13から、冷却水Waを分流し、流路3aを介して、分流した冷却水Waを水路系に戻すように、水路系に接続される。こうしたバイパス経路により、例えば操業中の原子力発電所のような原子力施設1の冷却システム10における大流量の冷却水Waに対する重水濃度の低減のための水処理を実現し易くできる。
【0121】
本実施形態において、流路部3は、処理対象の水が流れる流路3aを第1の流路として、処理対象の水とは異なる外水の一例の下界水Wbが流れる第2の流路3bをさらに備える。第1の流路3aと第2の流路3bとは、濾過膜31等の濾過材を介して隣接する。これにより、第1の流路3aを流れる冷却水Wa等から、重水を濾過して第2の流路3bの下界水に排出でき、処理対象の水における重水濃度の低減を効率良く行える。なお、流路部3は、必ずしも第2の流路3bを備えなくてもよく、例えば濾過材を境界として流路部3の外部に第2の流路3bが形成される構造であってもよい。
【0122】
本実施形態における水処理方法は、処理対象の水に含まれる重水の濃度を低減するための水処理を行う方法である。本方法は、例えば水処理装置15の動作により、流路と濾過材とを備える流路部3において流路に処理対象の水を流すことと、流路部3に静磁場Bbを発生させることと、静磁場Bbにおいて重水素が核磁気共鳴を起こす共振周波数を有する交流磁場Baを流路部3に発生させることと、共振周波数を有する交流電場Eaを流路部3に発生させることと、流路部3における濾過材に設けられた細孔30において、交流電場Eaに応じて水分子を回転させて、濾過材において重水を含んだ水の一部を排出するように水を濾過することとを含む。これにより、効率良く処理対象の水に含まれる重水の濃度を低減するための水処理を行うことができる。
【0123】
(実施形態2)
上記の実施形態1では、濾過材の一例の濾過膜31を用いる水処理装置15の構成例を説明したが、濾過材は特にこれに限定されず、種々の構成を採用可能である。実施形態2では、濾過材の表面積を増大させた水処理装置の構成例を説明する。
【0124】
図11は、実施形態2に係る水処理装置15Aの構成例を示す。図12は、図11の水処理装置15Aの中央断面に対応するA-A線矢視の模式断面図を示す。各図では、本実施形態の水処理装置15Aにおいて、流路部3A及び超電導マグネット2以外の構成の図示は省略している。
【0125】
本実施形態の水処理装置15Aは、実施形態1の水処理装置15と同様の構成において、濾過膜31を用いた流路部3の代わりに、例えば図11,12に示すように、シェルアンドチューブ型において濾過材を備えた流路部3Aを備える。本実施形態の流路部3Aは、例えば水平円筒型のシェル部32と、濾過材の一例としてのチューブ部33とを備える。
【0126】
本実施形態の水処理装置15Aによると、濾過材の厚みを増やすのでなく、例えば流路部3Aのチューブ部33によって濾過材の表面積を増加させて、重水分子の選択透過率を向上させることができる。これにより濾過材の圧力損失を抑制して、流路部3Aの小型化を図ることができる。
【0127】
本実施形態の水処理装置15において、流路部3Aのシェル部32の外側に超電導コイル2が配置される。シェル部32は、チューブ部33の容器を構成する部材である。例えば、シェル部32の材質は、上述した非磁性、絶縁性及び非誘電性の材質である。チューブ部33は、濾過材を中空糸(長尺柔軟細管)形状として構成される。シェル部32の内部において磁場が発生する長手円筒空間の中に、多数本のチューブ部33を納めるといった、浄水器の濾過器と同様の構造を採用できる。
【0128】
本実施形態の流路部3Aにおいて、チューブ部33の内部が冷却水Waの流路3aを構成する。シェル部32においてチューブ部33の外部が外界水Wbの流路3bを構成する。チューブ部33の中空内に圧力の高い冷却水Waを供給し、外側に圧力の低い外界水Wbを供給し、双方それぞれの水が循環するように配管構造が設けられる。
【0129】
本実施形態の流路部3Aによると、シェル部32の円筒形状は、冷却水Waと外界水Wb間の圧力差に耐えることに適している。シェル部32は、要求される耐圧性能を満足するように、肉厚を最小化したり、重量最小化したりすることができる。又、柔軟細管形状のチューブ部33によると、例えばソレノイド状の超電導マグネット2による静磁場が発生する長手円筒空間の中に、数多くの本数を収納することで、冷却水Waと下界水Wbとの間の仕切り界面の広い面積を確保することができる。このように、本実施形態の水処理装置15Aによると、重水分子の選択透過率を向上できる。
【0130】
上記の構成例は、シェルアンドチューブ型の流路部3Aにおいて冷却水Waと外界水Wbとを対向流とする基本的な構造であり、様々な変形が可能である。こうした変形例について、図13を用いて説明する。
【0131】
本実施形態の流路部3Aにおいて、冷却水Waが流れるチューブ部33は、例えば図13に示すように、シェル部32内で折り返して複数パス化されてもよい。例えば、チューブ部33は、シェル部32の長手方向にわたる部分を1パスとして、シェル部32内を往復する毎に3パス、5パスというように複数パス化することができる。こうしたチューブ部33の複数パス化により、冷却水Waが重水のろ過のために水処理装置15Aに滞留する時間を長くすることができ、重水分子の選択透過率を向上させることができる。
【0132】
また、本実施形態の流路部3Aにおいて、例えば図13に示すように、シェル部32の内部にバッフル34が設けられてもよい。バッフル34は、例えばチューブ部33が挿通された板状に構成され、外界水Wbの水流を撹拌する。これにより、冷却水Waと外界水Wbとを、完全な対向流と同様の状態に近づけることができる。すなわち、冷却水Wa内の重水濃度と外界水Wbの重水濃度との間の濃度差がシェル部32内にわたり均一に近づけられ、重水分子の選択透過率を向上させることができる。
【0133】
以上説明したように、実施形態2の水処理装置15Aにおいて、濾過材の一例のチューブ部33は、複数本の中空糸を含む。流路部3は、複数本の中空糸の内部を第1の流路3aとして処理対象の水を流し、流路部3において中空糸の外部を第2の流路3bとして、外水を流す配管構造である。これにより、水処理装置15Aにおける重水の選択的濾過のための仕切り界面について、広い面積を確保することができる。
【0134】
(他の実施形態)
上記の実施形態1,2では、それぞれ濾過膜31又はチューブ部33といった構造の濾過材を用いる水処理装置15の構成例を説明した。水処理装置15の濾過材の材質に関する変形例について、図14を用いて説明する。
【0135】
図14は、水処理装置15の濾過材の変形例を説明するためのグラフである。本実施形態の水処理装置15において、軽水と重水とをそれぞれ選択的に吸着/脱離し易くする特性を向上して制御を容易にする観点から、濾過材として、特定の狭い相対圧力範囲で大幅な吸着量の増減を示す多孔質材料が用いられてもよい。具体的には、シリンダ状の細孔形状を有するメソポーラスシリカ等が、本実施形態の濾過材の候補として挙げられる。
【0136】
多孔質材料における液体の吸着現象は、材料表面と液体との相互作用だけでなく、細孔の大きさ、構造および規則性などにも依存する。吸着特性は、一般に、等温条件における吸着量と圧力との関係を表す吸着等温線で評価される。図14に、IUPACにより分類された吸着等温線において、ヒステリシスを有する分類を例示する。
【0137】
図14において、メソ細孔を有するシリカゲル及びメソポーラスシリカは、図中左側のIV型及びV型に分類され、ある範囲の相対圧力において、吸着量の増加及び減少となるヒステリシスを有する。特に、均一な細孔サイズと規則的な構造を有するメソポーラスシリカの中で、シリンダ状の細孔形状は、図中右側のH1型であり、吸着/脱離過程において特定の狭い相対圧力範囲で大幅な吸着量の増加/減少のヒステリシスを有する。
【0138】
上記の相変化のような吸着量の増加/減少は、メソ細孔内部での毛管凝縮/毛管蒸発に起因する。この性質を利用して、軽水分子に対して吸着状態となり、励起された重水分子に対しては脱離状態となる圧力に調整することで、選択的な吸着/脱離の特性を向上させることが考えられる。又、こうした吸着特性に応じた圧力調整を考慮することにより、本実施形態の水処理装置15の安定稼働が可能な制御方法を特定し易くすることができる。
【0139】
以上説明したように、本実施形態の水処理装置15において、濾過材は、所定の吸着等温線においてIUPACの分類におけるIV型およびV型よりも狭い相対圧力の範囲内で、IV型およびV型よりも大幅に吸着量の増加と減少とを示す多孔質材料を含む。例えば、H1型の多孔質材料が濾過材に用いられる。これにより、特定の狭い相対圧力範囲で大幅な吸着量の増加・減少を示す多孔質材料を用いて、軽水分子に対して吸着状態となり、励起された重水分子に対して脱離状態となる圧力に調整することで、選択的な吸着/脱離の特性を向上できる。更には、安定稼働が可能な制御方法を同定できる。
【0140】
また、上記の各実施形態では、水処理装置15における電場発生部及び第2の磁場発生部の一例として電磁場変換器4を説明したが、電場発生部及び第2の磁場発生部の構成は特にこれに限定されない。例えば、第2の磁場発生部は、特に1対の鞍型コイル41に限らず、種々の形状のコイルであってもよい。第2の磁場発生部のコイルの個数は、特に2つに限定されず、1つ又は3つ以上であってもよい。
【0141】
また、本実施形態において、電磁場変換器4の共振回路40は、特に上述した例(図7,8)に限らず、例えばコイル41(第2の磁場発生部)及び対向電極42(電場発生部)に加えて又は代えて、別のインダクタ及びキャパシタを備えてもよい。例えば、共振回路40においてインダクタンス及び静電容量が可変な回路素子が設けられてもよい。共振回路40は、特に複数段の梯子回路でなくてもよく、1段分であってもよい。又、コイル41(第2の磁場発生部)と対向電極42(電場発生部)とで別々の共振回路が設けられてもよい。
【0142】
また、本実施形態において、第2の磁場発生部と電場発生部とは、特に一体的な電磁場変換器4を構成しなくてもよく、適宜別体で構成されてもよい。また、本実施形態において、電場発生部及び第2の磁場発生部の構造は、交流電磁場Ea,Baに求められる強度に応じて適宜、選択可能である。例えば、こうした要求が満たされる場合には電磁波を照射するアンテナ構造等が用いられてもよい。
【0143】
また、上記の各実施形態において、原子力施設1において冷却水Waを処理対象とする水処理装置15の適用例を説明した。本実施形態において、水処理装置15の適用例は、必ずしも原子力施設1に限定されず、例えば重水素低減水を製造する用途に適用されてもよい。本実施形態の水処理装置15は、生物、化学および医療などの各種用途において、重水の濃度を低減したい水を処理対象として適用可能である。
【0144】
(態様のまとめ)
本発明に係る各種態様を以下に付記する。
【0145】
本発明に係る第1の態様は、処理対象の水に含まれる重水の濃度を低減する水処理装置であって、前記処理対象の水が流れる流路と、前記流路から前記水の一部を排出するように前記水を濾過する濾過材とを備える流路部と、前記流路部に静磁場を発生させる第1の磁場発生部と、前記静磁場において重水素が核磁気共鳴を起こす共振周波数を有する交流磁場を前記流路部に発生させる第2の磁場発生部と、前記共振周波数を有する交流電場を前記流路部に発生させる電場発生部とを備える。前記流路部における前記濾過材において、前記交流電場に応じて水分子が回転可能なサイズを有する細孔が設けられる。
【0146】
第2の態様は、第1の態様に記載の水処理装置において、前記共振周波数が、前記細孔における前記水分子の回転周波数の分布における半値全幅の範囲内にあるように、前記静磁場の強度と、前記細孔のサイズと、前記濾過材の材質と、前記処理対象の水の温度とが設定される。
【0147】
第3の態様は、第1又は第2の態様に記載の水処理装置において、前記電場発生部は、前記静磁場の磁束方向とは交差する方向において、前記流路部を介して互いに対向する複数の電極である。
【0148】
第4の態様は、第3の態様に記載の水処理装置において、前記第2の磁場発生部は、前記流路部の周囲における前記複数の電極とは異なる位置に配置された少なくとも1つのコイルである。
【0149】
第5の態様は、第4の態様に記載の水処理装置において、前記少なくとも1つのコイルは、前記流路部を介して互いに対向し、それぞれ鞍型の形成を有する複数のコイルである。
【0150】
第6の態様は、第4の態様に記載の水処理装置において、前記複数の電極により形成されるキャパシタと、前記コイルとは、前記共振周波数において共振する共振回路として互いに電気的に接続される。
【0151】
第7の態様は、第6の態様に記載の水処理装置において、前記第1の磁場発生部は、中空形状を有する少なくとも1つの超電導マグネットである。前記流路部は、前記超電導マグネットの内側に配置される。前記キャパシタ及び前記コイルは、前記流路部と前記超電導マグネットとの間に配置される。
請求項6に記載の水処理装置。
【0152】
第8の態様は、第7の態様に記載の水処理装置において、前記少なくとも1つの超電導マグネットは、それぞれ中空形状を有する複数の超電導マグネットである。各超電導マグネットの内側には、前記流路部、前記キャパシタ及び前記コイルが配置される。前記各超電導マグネットにおける前記キャパシタ及び前記コイルに対応する前記共振回路は、梯子回路として互いに接続される
【0153】
第9の態様は、第1~第8の何れかの態様に記載の水処理装置が、前記処理対象の水を冷却水として発熱源に供給する外部の水路系と、前記流路部との間に挿入され、前記水路系から前記流路部に流入する水圧と、前記流路部から前記水路系に流出する水圧とをそれぞれ調整する制御ポンプをさらに備える。
【0154】
第10の態様は、第9の態様に記載の水処理装置において、前記制御ポンプは、並行に連結された複数のスクリューポンプである。
【0155】
第11の態様は、第1~第10の何れかの態様に記載の水処理装置が、前記交流電場を間欠的に発生させるように前記電場発生部に交流電力を供給する電力供給部をさらに備える。
【0156】
第12の態様は、第1~第11の何れかの態様に記載の水処理装置において、前記流路部は、前記処理対象の水が循環する外部の水路系から、前記水を分流し、前記流路を介して、前記分流した水を前記水路系に戻すように、前記水路系に接続される。
【0157】
第13の態様は、第1~第12の何れかの態様に記載の水処理装置が、前記流路部は、前記処理対象の水が流れる流路を第1の流路として、前記処理対象の水とは異なる外水が流れる第2の流路をさらに備える。前記第1の流路と前記第2の流路とは、前記濾過材を介して隣接する。
【0158】
第14の態様は、第13の態様に記載の水処理装置において、前記濾過材は、複数本の中空糸を含む。前記流路部は、前記複数本の中空糸の内部を前記第1の流路として前記処理対象の水を流し、前記流路部において前記中空糸の外部を前記第2の流路として、前記外水を流す配管構造である。
【0159】
第15の態様は、第1~第14の何れかの態様に記載の水処理装置において、前記濾過材は、所定の吸着等温線においてIUPACの分類におけるIV型およびV型よりも狭い相対圧力の範囲内で、前記IV型および前記V型よりも大幅に吸着量の増加と減少とを示す多孔質材料を含む。
【0160】
第16の態様は、処理対象の水に含まれる重水の濃度を低減する水処理方法であって、流路と濾過材とを備える流路部において前記流路に前記処理対象の水を流すことと、前記流路部に静磁場を発生させることと、前記静磁場において重水素が核磁気共鳴を起こす共振周波数を有する交流磁場を前記流路部に発生させることと、前記共振周波数を有する交流電場を前記流路部に発生させることと、前記流路部における前記濾過材に設けられた細孔において、前記交流電場に応じて水分子を回転させて、前記濾過材において前記重水を含んだ前記水の一部を排出するように前記水を濾過することとを含む。
【符号の説明】
【0161】
1 原子力施設
12 発熱源
13 循環水路系
15 水処理装置
2 超電導マグネット
3,3A 流路部
3a,3b 流路
30 細孔
31 濾過膜
33 チューブ部
4 電磁場変換器
40 共振回路
41 鞍型コイル
42 対向電極
5 制御ポンプ
5A スクリューポンプ
6 電力供給部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14