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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024095628
(43)【公開日】2024-07-10
(54)【発明の名称】デンプン含有水性組成物
(51)【国際特許分類】
   C08L 3/02 20060101AFI20240703BHJP
   C08K 5/09 20060101ALI20240703BHJP
   C08L 33/02 20060101ALI20240703BHJP
   C08K 5/05 20060101ALI20240703BHJP
   C09D 5/02 20060101ALI20240703BHJP
   C09D 103/04 20060101ALI20240703BHJP
   C09D 133/00 20060101ALI20240703BHJP
   C09D 133/02 20060101ALI20240703BHJP
   C09D 7/63 20180101ALI20240703BHJP
【FI】
C08L3/02
C08K5/09
C08L33/02
C08K5/05
C09D5/02
C09D103/04
C09D133/00
C09D133/02
C09D7/63
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023222289
(22)【出願日】2023-12-28
(31)【優先権主張番号】P 2022212194
(32)【優先日】2022-12-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】390014856
【氏名又は名称】日本乳化剤株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000671
【氏名又は名称】IBC一番町弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】金滝 光太郎
(72)【発明者】
【氏名】桂 健太
(72)【発明者】
【氏名】焼田 悠介
(72)【発明者】
【氏名】三澤 寿之
【テーマコード(参考)】
4J002
4J038
【Fターム(参考)】
4J002AB041
4J002BF002
4J002DE028
4J002EC047
4J002EC057
4J002EF006
4J002FD206
4J002FD207
4J002GD00
4J002GH01
4J002HA01
4J038BA122
4J038CG032
4J038CG141
4J038JA36
4J038MA08
4J038MA10
4J038MA15
4J038NA23
(57)【要約】
【課題】デンプンを水性溶媒に溶解させて水性組成物を得る際に、デンプン溶液の粘度を低く抑えつつ、溶液中のデンプン濃度を高くすることができる手段を提供する。
【解決手段】熱水溶解度が30%以上であるデンプンと、ヒドロキシカルボン酸と、水を含む溶媒と、を含み、前記デンプンの溶解含有量が7質量%以上である、デンプン含有水性組成物である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記の測定方法に従って算出される熱水溶解度が30%以上であるデンプンと、ヒドロキシカルボン酸と、水を含む溶媒と、を含み、
前記デンプンの溶解含有量が7質量%以上である、デンプン含有水性組成物:
[熱水溶解度の測定方法]
デンプン6[g]を94[g]の熱水(80℃)に攪拌下で5時間浸漬した後、水相に溶出しなかったデンプンをろ過により分取して130℃にて90分間乾燥する。乾燥後のデンプンの重量W[g]を測定し、下記数式1により熱水溶解度を算出する。
(数式1)熱水溶解度[%]=(6-W)/6×100
【請求項2】
前記ヒドロキシカルボン酸が脂肪族ヒドロキシカルボン酸である、請求項1に記載のデンプン含有水性組成物。
【請求項3】
前記脂肪族ヒドロキシカルボン酸が、乳酸、クエン酸、酒石酸、リンゴ酸、イソクエン酸、タルトロン酸、グリセリン酸、グリコール酸、2-ヒドロキシ酪酸、3-ヒドロキシ酪酸、4-ヒドロキシ酪酸、ロイシン酸、メバロン酸、キナ酸、パントイン酸およびジメチロールプロピオン酸からなる群から選択される1種または2種以上である、請求項2に記載のデンプン含有水性組成物。
【請求項4】
水溶性高分子をさらに含む、請求項1に記載のデンプン含有水性組成物。
【請求項5】
前記水溶性高分子がポリアクリル酸系重合体である、請求項4に記載のデンプン含有水性組成物。
【請求項6】
前記溶媒が、多価アルコールおよびグリコールエーテルからなる群から選択される1種または2種以上をさらに含む、請求項1または4に記載のデンプン含有水性組成物。
【請求項7】
帯電防止剤、可塑剤、フィラー、界面活性剤、インキ、塗料、インクジェットインキ、接着剤、粘着剤または離型剤に用いるための、請求項1または4に記載のデンプン含有水性組成物。
【請求項8】
pHが1.5~3.5である、請求項1または4に記載のデンプン含有水性組成物。
【請求項9】
請求項1または4に記載のデンプン含有水性組成物からなる、エマルジョン用添加剤。
【請求項10】
前記エマルジョンがアクリルエマルジョンである、請求項9に記載のエマルジョン用添加剤。
【請求項11】
請求項1または4に記載のデンプン含有水性組成物とエマルジョンとを含む、水系エマルジョン塗料。
【請求項12】
下記の測定方法に従って算出される熱水溶解度が30%以上であるデンプンと、ヒドロキシカルボン酸と、水を含む溶媒と、を含む混合物を、攪拌下で70~150℃まで昇温させることにより前記混合物を均一化させることを含む、デンプン含有水性組成物の製造方法:
[熱水溶解度の測定方法]
デンプン6[g]を94[g]の熱水(80℃)に攪拌下で5時間浸漬した後、水相に溶出しなかったデンプンをろ過により分取して130℃にて90分間乾燥する。乾燥後のデンプンの重量W[g]を測定し、下記数式1により熱水溶解度を算出する。
(数式1)熱水溶解度[%]=(6-W)/6×100
【請求項13】
前記デンプン含有水性組成物における前記デンプンの溶解含有量が7質量%以上である、請求項12に記載のデンプン含有水性組成物の製造方法。
【請求項14】
前記混合物を70~150℃まで昇温させた後に、70~150℃の温度で10分間~5時間熟成することをさらに含む、請求項12または13に記載のデンプン含有水性組成物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、デンプン含有水性組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、プラスチック、塗料、接着剤といった化学合成樹脂製品は生活と産業のあらゆる分野で使用されており、その生産量は莫大である。しかしながら、このような化学合成樹脂の大半は使用後、焼却、または土中に廃棄処理されており、二酸化炭素や有害性物質の放出により地球環境に悪影響を及ぼすことが近年問題となってきている。また、化学合成樹脂の原料となる石油は有限の資源であり、将来的に枯渇の不安が広がっている。そのため、枯渇資源から再生可能資源への転換による循環型社会の構築が注目を集めている。すなわち、廃棄物の処理性の向上や二酸化炭素放出量の削減等の地球環境に対する影響低減の観点や、再生可能資源への転換の観点から、天然由来の資源を積極的に利用することが求められている。
【0003】
天然由来の原料の一例として、多糖類であるデンプンがある。デンプンは植物から容易に単離することが可能であり、比較的安価で入手が可能である。また、従来から食用の他に、デンプン糊として、または可塑剤を配合したものが成型加工(キャスティング、押し出し成形、金型成形、発泡成形など)され、フィルム、食品容器、包装材、緩衝材等に利用されている。
【0004】
他方、デンプンを化学的に処理して変性されたデンプン(特許文献1)や、熱的に処理して変性されたデンプン(特許文献2)等の変性デンプンもあり、瓶、シート、フィルム、包装材料などに利用されている。
【0005】
デンプンの有する種々の特性を利用する用途の拡大や取り扱い性の向上を目的として、変性がされていないデンプンでは均一に溶解した水溶液(デンプン含有水性組成物)の開発も鋭意行われている。例えば、特許文献3では、デンプンを水に溶解させて水溶液とする際に、デンプンに界面活性剤を添加したり、油脂および/または遊離脂肪酸とアルカリ性物質とを添加した状態で加熱溶解するデンプンの溶解方法が提案されている。特許文献1によれば、このような方法を用いてデンプンを2~10%程度の濃度で水に溶解することにより、透明で安定なゲルやゾルを形成できるとされている。また、得られたデンプン糊液は透明で、老化し難いため、従来デンプン糊液が不透明なため利用できなかった各種食品の製造に応用することが可能であるとされている。
【0006】
一方、変性されたデンプンの活用について、例えば特許文献2では、変性デンプンをポリオレフィン等の熱可塑性ポリマーに混合して組成物とし、さらに当該組成物の溶融体を成形して物品を得ることができるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】国際公開第2003/014164号パンフレット
【特許文献2】特開平2-14228号公報
【特許文献3】特開平6-345802号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、本発明者らの検討によれば、特許文献1に記載の技術を用いた場合には、ゾル状で粘度が低い場合は溶液中のデンプン濃度が低いためにデンプンを多く添加しようとすると水の量も多くなり、水などの溶媒量を抑えたい製造用途での利用が難しいという問題があることが判明した。さらに、溶液中のデンプン濃度を高くするとデンプン溶液がゲルとなり粘度が高くなり、各種用途に添加利用しようとすると取扱いが困難となるという問題があることも判明した。
【0009】
そこで本発明は、デンプンを水性溶媒に溶解させて水性組成物を得る際に、デンプン溶液の粘度を低く抑えつつ、溶液中のデンプン濃度を高くすることができる手段を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記の課題を解決すべく鋭意検討を行った。その結果、デンプンおよび水性溶媒を含有する水性組成物に、ヒドロキシカルボン酸をさらに添加することによって上記課題が解決されうることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0011】
すなわち、本発明の一形態によれば、熱水溶解度が30%以上であるデンプンと、ヒドロキシカルボン酸と、水を含む溶媒と、を含み、
前記デンプンの溶解含有量が7質量%以上である、デンプン含有水性組成物が提供される。
【0012】
また、本発明の他の形態によれば、熱水溶解度が30%以上であるデンプンと、ヒドロキシカルボン酸と、水を含む溶媒と、を含む混合物を、攪拌下で70~150℃まで昇温させることにより前記混合物を均一化させることを含む、デンプン含有水性組成物の製造方法もまた、提供される。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、デンプンを水性溶媒に溶解させて水性組成物を得る際に、デンプン溶液の粘度を低く抑えつつ、溶液中のデンプン濃度を高くすることができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明を実施するための形態について、詳細に説明する。ここで示す実施形態は、本発明の技術的思想を具体化するために例示するものであって、本発明を限定するものではない。よって、本発明の要旨を逸脱しない範囲で当業者などにより考え得る実施可能な他の形態、使用方法および運用技術などは全て本発明の範囲、要旨に含まれると共に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。本明細書に記載される実施の形態は、任意に組み合わせることにより、他の実施の形態とすることができる。また、本明細書において、範囲を示す「X~Y」は「X以上Y以下」を意味し、「重量」と「質量」、「重量%」と「質量%」および「重量部」と「質量部」は同義語として扱う。また、特記しない限り、操作および物性等の測定は室温(20~25℃)/相対湿度40~60%の条件で測定する。
【0015】
本明細書において、「(メタ)アクリル」との語は、アクリルおよびメタクリルの双方を包含する。よって、例えば、「(メタ)アクリル酸」との語は、アクリル酸およびメタクリル酸の双方を包含する。同様に、「(メタ)アクリレート」との語は、アクリレートおよびメタクリレートの双方を包含し、「(メタ)アクリルアミド」との語は、アクリルアミドおよびメタクリルアミドの双方を包含する。
【0016】
[デンプン含有水性組成物]
本発明の一形態は、熱水溶解度が30%以上であるデンプンと、ヒドロキシカルボン酸と、水を含む溶媒と、を含み、前記デンプンの溶解含有量が7質量%以上である、デンプン含有水性組成物である。
【0017】
(デンプン)
「デンプン」とは、分子式(C10の炭水化物(多糖類)であり、多数のα-グルコース分子がグリコシド結合によって重合した天然高分子をいう。高等植物の細胞において認められるデンプンの結晶(デンプン粒)、それを取り出して集めたものもデンプンに含まれる。デンプンは分子内でミセル構造を形成しており、水に浸漬してもなじみにくいが、デンプンを水中で懸濁し加熱すると、デンプンは分子内に水分子を取り込み、吸水して次第に膨張する。加熱を続けると最終的にはデンプンのミセル構造が崩壊し、ゲル状に変化する(糊化)。糊化したデンプンを冷却すると、分子内に取り込んだ水分子が排出され(離水)、ミセル構造が再度形成され、白濁等が生じる(老化)。本形態に係るデンプン含有水性組成物は、デンプンを高濃度(7質量以上)で含有しているが、-10℃以上の温度領域でゲル化することがなく、透明度の高い均一な液状組成物である。すなわち、ゲル化、離水、白濁等が生じず、安定性が高いため取り扱い性に優れる。
【0018】
デンプンとしては、例えば、トウモロコシデンプン(コーンスターチ)、ワキシーコーンスターチ(もちトウモロコシ)、ハイアミロースコーンスターチ(ハイアミローストウモロコシ)、小麦デンプン、米デンプン、豆類(ソラマメ、緑豆、小豆等)から製造されるデンプン、馬鈴薯デンプン、甘藷デンプン、タピオカデンプン、およびくずデンプン、並びにそれらの変性デンプン等が挙げられる。デンプンは1種のみが単独で用いられてもよいし、2種以上が併用されてもよい。
【0019】
本形態に係るデンプン含有水性組成物は、デンプンとして、上述した熱水溶解度が30%以上であるものを用いる。本明細書中、デンプンの「熱水溶解度」の値としては、下記の測定方法に従って算出される値を採用するものとする。
【0020】
[熱水溶解度の測定方法]
デンプン6[g]を94[g]の熱水(80℃)に攪拌下で5時間浸漬した後、水相に溶出しなかったデンプンをろ過により分取して130℃にて90分間乾燥する。乾燥後のデンプンの重量W[g]を測定し、下記数式1により熱水溶解度を算出する:
(数式1)熱水溶解度[%]=(6-W)/6×100
上述したように30%以上の熱水溶解度を示すデンプンの具体的な形態について特に制限はない。本形態において、デンプンは変性されていない未変性デンプン(天然のデンプン)であってもよいし、化学的または物理的に変性された変性デンプンであってもよいが、上記熱水溶解度が30%以上の値を示すものはほとんど未変性デンプンである。したがって、本形態において、デンプンは未変性デンプンであることが好ましい。
【0021】
ここで、変性デンプンとしては、天然のデンプンを熱、酸、アルカリ、酵素などで処理して、その構造を物理的(形態的)または化学的に変化させたものであり、その変性方法は特に制限されない。例えば、本形態に係るデンプン含有水性組成物に用いられる変性デンプンとしては、デンプンの無水グルコース残基の水酸基に、官能基を導入し、水溶性、反応性等の化学的特性を修飾(変性)された化学的修飾(変性)デンプンであってもよく、または、デンプンを、必要に応じて酸、アルカリ、酵素等の添加剤と共に加熱し、糊化温度等の物理的特性を修飾(変性)された物理的修飾(変性)デンプンであってもよい。
【0022】
変性デンプンに化学修飾により導入される官能基としては、特に制限されないが、アセチル基、リン酸基、ヒドロキシプロピル基、等が挙げられる。化学修飾デンプンとしては、例えば、アセチル化アジピン酸架橋デンプン、アセチル化酸化デンプン、酸化デンプン、ヒドロキシプロピルデンプン、ヒドロキシプロピル化リン酸架橋デンプン、尿素リン酸エステル化デンプン、リン酸架橋デンプン、酢酸デンプン等が挙げられる。物理的修飾デンプンとしては、加熱(例えば、デンプンの糊化温度よりも高い温度で加熱)することにより80~180℃における熱吸収を消失させたデンプン等が挙げられる。
【0023】
一般的に変性デンプンは、加熱処理などによる結晶構造の変化、縮合、分解などの物理的変性、官能基導入による化学変性、酵素による変性、グリセリン、グリコール、ソルビトールなどの配合、およびそれらの組み合わせにより得られている。本発明において検討に用いた変性デンプンは、主に加熱処理などによる水和結晶構造の変化によるもので、化学変性は行われないか限定的なものであると考えられ、結晶構造の変化により熱可塑性を有するものである。
【0024】
一方、未変性デンプンは、アミロペクチンとアミロースとの水素結合によるミセル構造(結晶構造)を有していることから、水中ではミセル状のデンプン粒子を形成しており、熱可塑性を有さない。また、未変性デンプンは、80℃付近の水中では水和によるデンプン粒子の膨潤による糊化(α化)が進行し、6%以上の濃度ではゲル化が進行し、液状組成物を得られない。また、未変性デンプンは、糊化後に冷却されると、急速に老化(β化)が進行し、水とデンプンとが分離し、白濁化などが進行する。
【0025】
本発明において、「液体(液状)」とは、組成物全体が流動性を有し、ゲル化していない状態を意味する。例えば、「液体(液状)」とは、実施例で測定する粘度(25℃)が、10000mPa・s以下である。よって、本形態に係るデンプン含有水性組成物は、25℃における粘度が、好ましくは10000mPa・s以下であり、より好ましくは5000mPa・s以下であり、さらに好ましくは2500mPa・s以下であり、特に好ましくは2000mPa・s以下であり、最も好ましくは1500mPa・s以下である。さらに、本形態に係るデンプン含有水性組成物は、高温(例えば、80℃)においても液状であり、これにより取り扱い性に優れる。本形態に係るデンプン含有水性組成物は、80℃における粘度が、好ましくは10000mPa・s以下であり、より好ましくは5000mPa・s以下であり、さらに好ましくは2500mPa・s以下であり、特に好ましくは2000mPa・s以下であり、最も好ましくは1500mPa・s以下である。
【0026】
本形態に係るデンプン含有水性組成物において、デンプンの溶解含有量は7質量%以上であることが必要である。これは、デンプンの溶解含有量が7質量%未満であると、水性組成物について十分な保存安定性が得られない場合があるためである。なお、「溶解含有量」とは、組成物中に溶解した状態で含有されている量を意味する。ここでの「溶解」とは、固体として析出していない状態であり、例えば、水和されて膨潤状態となったものも「溶解」として含まれる。また、デンプン含有水性組成物の取り扱い性を向上させるという観点からは、水性組成物におけるデンプンの溶解含有量は高いほど好ましく、好ましくは10質量%以上であり、より好ましくは15質量%以上であり、さらに好ましくは20質量%以上であり、いっそう好ましくは25質量%以上であり、さらにより好ましくは30質量%以上であり、中でも好ましくは35質量%以上であり、特に好ましくは40質量%以上であり、最も好ましくは45質量%以上である。デンプンの溶解含有量の上限値については特に制限はないが、通常は50質量%以下である。水性組成物におけるデンプンの溶解含有量が高いほど、当該組成物を添加剤として用いる場合などにおけるバイオマス度を高めることができ、従来の合成樹脂等からなる添加材の代替材料として機能することで二酸化炭素排出量の削減に効果的に寄与することができる。
【0027】
(ヒドロキシカルボン酸)
本形態に係るデンプン含有水性組成物は、ヒドロキシカルボン酸を含有する点に特徴がある。水性組成物がヒドロキシカルボン酸を含有することにより、組成物の保存安定性を向上させることができる。また、組成物の均一性を向上させたり、粘度の上昇を抑制することもできる。さらには、エマルジョンに配合して塗膜を形成したときの硬度も高くすることができるという利点もある。
【0028】
ヒドロキシカルボン酸としては、特に制限されないが、乳酸、クエン酸、酒石酸、リンゴ酸、イソクエン酸、タルトロン酸、グリセリン酸、グリコール酸、2-ヒドロキシ酪酸、3-ヒドロキシ酪酸(ヒドロキシイソ酪酸)、4-ヒドロキシ酪酸、ロイシン酸、メバロン酸、キナ酸、パントイン酸、ジメチロールプロピオン酸等の脂肪族ヒドロキシカルボン酸;シキミ酸、サリチル酸(オルトヒドロキシ安息香酸)、パラヒドロキシ安息香酸、メタヒドロキシ安息香酸、2-ヒドロキシ-6-ナフトエ酸、2-ヒドロキシ-3-ナフトエ酸、1-ヒドロキシ-4-ナフトエ酸、4-ヒドロキシ-4’-カルボキシジフェニルエ-テル、2,6-ジクロロ-パラヒドロキシ安息香酸、2-クロロ-パラヒドロキシ安息香酸、2,6-ジフルオロ-パラヒドロキシ安息香酸、4-ヒドロキシ-4’-ビフェニルカルボン酸等の芳香族ヒドロキシカルボン酸等が挙げられる。これらの中でも、脂肪族ヒドロキシカルボン酸であることが好ましく、乳酸、クエン酸、酒石酸、リンゴ酸、イソクエン酸、クルトロン酸、タルトロン酸、グリセリン酸、またはグリコール酸であることがより好ましく、乳酸、クエン酸、酒石酸、リンゴ酸またはイソクエン酸であることが特に好ましく、乳酸、クエン酸または酒石酸であることが最も好ましい。これらのヒドロキシカルボン酸を用いることで、デンプンの水和を伴う凝集構造を低減させるという作用が働き、ひいては上述したような効果が発現するものと考えられる。
【0029】
本形態に係るデンプン含有水性組成物におけるヒドロキシカルボン酸としては、分子量が350以下であるのが好ましく、250以下であるのがより好ましく、220以下であるのがさらに好ましく、200以下であるのが特に好ましい。ヒドロキシカルボン酸の分子量としては、30以上であるのが好ましく、40以上であるのがより好ましく、50以上であるのがさらに好ましく、70以上であるのが特に好ましい。これらのヒドロキシカルボン酸を用いることで、デンプンの水和を伴う凝集構造を低下させるという作用が働き、ひいては上述したような効果が発現するものと考えられる。なお、ヒドロキシカルボン酸の分子量は、化合物を構成する原子の原子量の総和である。
【0030】
本形態に係るデンプン含有水性組成物におけるヒドロキシカルボン酸の含有量は特に制限されないが、デンプンの含有量100質量%に対して2~40質量%であることが好ましく、2.5~30質量%であることがより好ましく、3~20質量%であることが特に好ましく、3.5~10質量%であることが特に好ましく、4~7質量%であることが最も好ましい。
【0031】
(溶媒)
本形態に係るデンプン含有水性組成物は、溶媒を含み、当該溶媒は水を必須に含む。溶媒における水の割合は、好ましくは50~100質量%であり、より好ましくは70~100質量%であり、さらに好ましくは80~100質量%であり、いっそう好ましくは90~100質量%であり、特に好ましくは95~100質量%であり、最も好ましくは100質量%である。
【0032】
溶媒が水以外の成分を含有する場合、水以外の成分としては特に制限はないが、多価アルコールまたはグリコールエーテルからなる群から選択される1種または2種以上であることが好ましい。これらの成分は、水溶液化する際の温度が比較的低い場合に添加すると、得られる水性組成物の均一性や保存安定性の向上に寄与しうる。一方、比較的高い温度で水溶液化を行う場合には、これらの成分を用いることなく(例えば水のみを溶媒として用いて)水性組成物を得ることも好ましい実施形態である。多価アルコールとしては、例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、トリプロピレングリコール、プロピレングリコール、1,3-プロパンジオール、ジプロピレングリコ-ル、1,3-ブチレングリコール、ポリエチレングリコール、グリセリン、ジグリセリン、ポリグリセリン、ペンタンジオール、ヘキサメチレングリコールなどが挙げられる。また、グリコールエーテルとしては、例えば、メチルグリコール(エチレングリコールモノメチルエーテル)、メチルジグリコール、メチルトリグリコール、イソプロピルグリコール、イソプロピルジグリコール、ブチルグリコール、ブチルジグリコール、ブチルトリグリコール、イソブチルグリコール、イソブチルジグリコール、ヘキシルグリコール、ヘキシルジグリコール、2-エチルヘキシルグリコール、2-エチルヘキシルジグリコール、アリールグリコール、フェニルグリコール、フェニルジグリコール、ベンジルグリコール、メチルプロピレングリコール、メチルプロピレンジグリコール、メチルプロピレントリグリコール、プロピルプロピレングリコール、プロピルプロピレンジグリコール、ブチルプロピレングリコール、ブチルプロピレンジグリコール、およびフェニルプロピレングリコールなどが挙げられる。
【0033】
本形態に係るデンプン含有水性組成物における溶媒の含有量は特に制限されないが、組成物の全質量100質量%に対して20~93質量%であることが好ましく、25~91質量%であることがより好ましく、30~89質量%であることが特に好ましく、35~87質量%であることが特に好ましく、40~85質量%であることが最も好まし
本形態に係るデンプン含有水性組成物における溶媒の含有量は、デンプンの含有量100質量%に対して50~2000質量%であることが好ましく、80~1500質量%であることがより好ましく、100~1200質量%であることが特に好ましく、120~1300質量%であることが特に好ましく、150~1000質量%であることが最も好ましい。
【0034】
(水溶性高分子)
本形態に係るデンプン含有水性組成物は、水溶性高分子をさらに含んでもよい。水性組成物が水溶性高分子を含むことで、水性組成物におけるデンプンの溶解含有量を向上させることができるという利点がある。水溶性高分子としては、例えば、水溶性高分子としては、例えば、ゼラチン、寒天等、半合成高分子のヒドロキシプロピルメチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース等のセルロース誘導体、合成高分子のポリビニルアルコール、ポリアクリル酸系重合体、ポリアクリルアミド、ポリエチレンオキシド、ポリビニルピロリドン等が挙げられる。また、ポリオキシアルキレン付加物、アリールスルホン酸ホルマリン縮合物などの水溶性高分子が用いられてもよい。これらの水溶性高分子はデンプンの分散性を向上させるという作用を有していることから、ひいては水性組成物におけるデンプンの溶解含有量の向上が図られるものと考えられる。ポリオキシアルキレン付加物の具体例としては、特に制限されないが、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル、ポリオキシアルキレンアリールエーテル、ポリオキシアルキレンアルキルアミン、ポリオキシアルキレン脂肪酸エステル、ポリオキシアルキレングリセリンエーテル脂肪酸エステル、ポリオキシアルキレンソルビタン脂肪酸エステルおよびこれらの硫酸エステル塩(例えば、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル硫酸エステル塩、ポリオキシアルキレンアリールエーテル硫酸エステル塩等)等が挙げられる。アリールスルホン酸ホルマリン縮合物としては、アルキルベンゼンスルホン酸のホルマリン縮合物、ナフタレンスルホン酸のホルマリン縮合物、アルキルナフタレンスルホン酸のホルマリン縮合物およびそれらの塩(例えば、ナトリウム塩、カリウム塩等)が挙げられる。中でも、ポリアクリル酸系重合体が好ましく用いられ、中和度が40モル%以下、好ましくは20モル%以下、さらに好ましくは10モル%以下のポリアクリル酸系重合体が用いられることが好ましい。なお、水溶性高分子の平均分子量について特に制限はないが、GPCにより測定される重量平均分子量(Mw)として、好ましくは1000~30000であり、より好ましくは3000~20000であり、さらに好ましくは5000~15000であり、特に好ましくは7000~12000である。
【0035】
よって、一実施形態によれば、水溶性高分子は、ポリアクリル酸系重合体、ポリオキシアルキレン付加物およびアリールスルホン酸ホルマリン縮合物からなる群から選択される少なくとも1種である。また、一実施形態によれば、水溶性高分子は、ポリアクリル酸系重合体、ポリオキシアルキレン付加物およびその硫酸エステル塩、ならびにアリールスルホン酸ホルマリン縮合物およびその塩からなる群から選択される少なくとも1種である。
【0036】
これらの水溶性高分子の市販品としては、中和度がほぼ0モル%であるポリアクリル酸系重合体であるアクアリック(登録商標)HL415(Mw=10000、株式会社日本触媒製)、ポリオキシエチレンヒマシ油エーテルであるニューコール(登録商標)1545(日本乳化剤株式会社製、Mw=約3000)、ポリオキシエチレンアルキル(C12,C13混合)エーテルであるニューコール(登録商標)2399-S(日本乳化剤株式会社製、Mw=約4500)、ポリオキシエチレン多環フェニルエーテルであるニューコール(登録商標)780(日本乳化剤株式会社製、Mw=約5000)、ポリオキシエチレン多環フェニルエーテル硫酸エステル塩であるニューコール(登録商標)707-SF(日本乳化剤株式会社製、分子量=約1000)、ナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合物ソーダであるディスロール(登録商標)SH(日本乳化剤株式会社製、分子量=約1000)等が挙げられる。
【0037】
本形態に係るデンプン含有水性組成物における水溶性高分子の含有量は特に制限されないが、デンプンの含有量100質量%に対して0~30質量%であることが好ましく、0.5~20質量%であることがより好ましく、1~10質量%であることが特に好ましく、1.5~8質量%であることが特に好ましく、2~5質量%であることが最も好ましい。また、一実施形態によれば、デンプン含有水性組成物における水溶性高分子の含有量は、デンプンの含有量100質量%に対して0.01~40質量%、0.1~30質量%、0.2~20質量%、0.3~10質量%、または0.4~5質量%である。
【0038】
[pH]
本形態に係るデンプン含有水性組成物のpHは特に制限されないが、pHが、1~11であることが好ましく、1~10であることがより好ましく、1.5~9であることがさらに好ましく、1.5~8であることがいっそう好ましく、1.5~5であることがさらにより好ましく、1.5~4であることが特に好ましく、1.5~3.5であることが特に好ましい。デンプン含有水性組成物のpHが上記範囲であることにより、本発明の所期の効果がよりいっそう発揮でき、より安定性に優れたデンプン含有水性組成物を得ることができる。
【0039】
[デンプン含有水性組成物の製造方法]
上述した本発明の一形態に係るデンプン含有水性組成物の製造方法について特に制限はない。ただし、デンプンの性状を維持しつつデンプンの溶解含有量を高めるという観点からは、70~150℃程度の水溶液化温度を採用することが好ましい。すなわち、本発明の他の形態によれば、熱水溶解度が30%以上であるデンプンと、ヒドロキシカルボン酸と、水を含む溶媒と、を含む混合物を、攪拌下で70~150℃まで昇温させることにより前記混合物を均一化させることを含む、デンプン含有水性組成物の製造方法もまた、提供される。上記の温度は、水性組成物中のデンプン濃度を高めるという観点からは、好ましくは100~150℃であり、より好ましくは110~150℃であり、さらに好ましくは115~150℃であり、特に好ましくは120~140℃であり、最も好ましくは135~140℃である。この際、デンプン含有水性組成物におけるデンプンの溶解含有量が7質量%以上となるように各成分の配合量を調整することが好ましい。また、上記製造方法の好ましい実施形態においては、上記混合物を70~150℃まで昇温させた後に、70~150℃の温度で10分間~5時間熟成する熟成工程をさらに実施することが好ましい。この熟成工程の時間についても、水性組成物中のデンプン濃度を高めるという観点からは、好ましくは1~5時間であり、より好ましくは2~5時間であり、さらに好ましくは3~5時間である。
【0040】
なお、上述した製造方法において各成分を混合・攪拌する際の各種装置については特に制限はなく、従来公知の知見が適宜参照されうる。
【0041】
[デンプン含有水性組成物の用途]
本発明により提供されるデンプン含有水性組成物は、デンプンの物性を利用した各種用途に適用可能である。具体的には、例えば、帯電防止剤、可塑剤、フィラー、界面活性剤、インキ、塗料、インクジェットインキ、接着剤、粘着剤または離型剤といった用途に適用されうる。
【0042】
また、本発明により提供されるデンプン含有水性組成物は、エマルジョン用添加剤としても用いられうる。これにより、エマルジョンを塗布して得られた塗膜の硬度を高めることができる。
【0043】
添加の対象となるエマルジョンとしては、例えば、ビニル系単量体より製造したエマルジョンが挙げられる。ビニル系単量体として、具体的には、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸プロピル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸ヘキシル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸2-エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸ラウリル、(メタ)アクリル酸ステアリル等の(メタ)アクリル酸アルキルエステル類、(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸3-ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシシクロヘキシル、(メタ)アクリル酸ヒドロキシデシル等の(メタ)アクリル酸ヒドロキシアルキルエステル類、(メタ)アクリル酸エチレングリコール、(メタ)アクリル酸ジエチレングリコール、(メタ)アクリル酸プロピレングリコール、(メタ)アクリル酸ジプロピレングリコール等の(ポリ)オキシエチレン(メタ)アクリレート類、(メタ)アクリルアミド、N-メチロール(メタ)アクリルアミド、N-ブトキシメチル(メタ)アクリルアミド、ダイアセトンアクリルアミド等の(メタ)アクリルアミド類、グリシジル(メタ)アクリレート等のエポキシ基含有アクリレート類、(メタ)アクリル酸、イタコン酸、マレイン酸等のカルボキシル基含有不飽和単量体、スチレン、ビニルトルエン等のビニル芳香族化合物、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、安息香酸ビニル、バーサチック酸ビニル等のカルボン酸ビニルエステル類、(メタ)アクリロニトリル等のシアン化ビニル類、トリフルオロエチル(メタ)アクリレート、ペンタフルオロプロピル(メタ)アクリレート等のフッ素含有ビニル系単量体、ビニルメチルジメトキシシラン、ビニルメチルジエトキシシラン等のシラン含有ビニル単量体等が挙げられる。エマルジョンは、かような単量体を少なくとも1種含み、(メタ)アクリル酸ヒドロキシアルキルエステル類からなるアクリルエマルジョン、アクリル酸エステル-スチレンコポリマーエマルジョン等が好適に使用される。好ましい一実施形態において、本発明にかかるエマルジョン用添加剤はアクリルエマルジョンに使用される。
【0044】
本発明の他の実施形態において、上述したデンプン含有水性組成物とアクリルエマルジョンとを含む、水系エマルジョン塗料が提供される。かような水系エマルジョン塗料を使用することで、高い硬度を有する塗膜が得られる。
【0045】
本発明の水系エマルジョン塗料は、本発明のデンプン含有水性組成物とアクリルエマルジョン等のエマルジョンを含み、樹脂分(固形分)の量は、水系エマルジョン塗料に対して、5~80%であるのが好ましく、30~70%であるのがより好ましい。
【0046】
本発明の水系エマルジョン塗料は必要に応じて他の公知の添加剤を含有してもよく、公知の添加剤としては、例えば、顔料、溶剤、可塑剤、分散剤、増粘剤、消泡剤、防腐剤、紫外線吸収剤、香料等を使用することができる。これらの含有量は、特に限定されないが、樹脂分(固形分)に対して、0.1~30質量%が好ましい。
【0047】
本発明の水系エマルジョン塗料の製造方法は、特に制限されず、例えば、重合開始剤および乳化剤の存在下、水性媒体中で単量体成分を乳化重合させて、さらに造膜助剤等の添加剤を添加する方法が挙げられる。乳化重合としては、(1)単量体成分を乳化剤および水性媒体中に滴下しながら重合を行う方法(単量体滴下法);(2)原料(単量体成分、乳化剤、および水性媒体)の全量を混合したものから一括で重合を行う方法(単量体一括仕込み法);(3)原料のうちの一部(単量体成分のうちの1種または2種以上等、乳化剤、水性媒体、および重合開始剤)を用いてプレ重合しシードエマルジョンを製造した後、シードエマルジョンへ残りの原料を添加して乳化重合を行う方法(シードエマルジョン法);等が挙げられる。中でも、粒子径制御、重合安定性良好なエマルジョンを得られるという観点から、エマルジョンを得る方法としては、上記(3)の方法が好ましい。
【0048】
本発明の水系エマルジョン塗料は、上記方法により得られたアクリルエマルジョンと、本発明のデンプン含有水性組成物とを、0~80℃で混合することにより得ることができる。水系エマルジョン塗料におけるデンプン含有水性組成物の含有量は特に制限されず、例えば、水系エマルジョンの全質量に対して、デンプンが1~50質量%となるようにデンプン含有水性組成物をアクリルエマルジョンに混合すればよい。
【0049】
本発明の実施形態を詳細に説明したが、これは説明的かつ例示的なものであって限定的ではなく、本発明の範囲は添付の特許請求の範囲によって解釈されるべきであることは明らかである。
【0050】
本発明は、下記態様および形態を包含する。
【0051】
[1]下記の測定方法に従って算出される熱水溶解度が30%以上であるデンプンと、ヒドロキシカルボン酸と、水を含む溶媒と、を含み、
前記デンプンの溶解含有量が7質量%以上である、デンプン含有水性組成物:
[熱水溶解度の測定方法]
デンプン6[g]を94[g]の熱水(80℃)に攪拌下で5時間浸漬した後、水相に溶出しなかったデンプンをろ過により分取して130℃にて90分間乾燥する。乾燥後のデンプンの重量W[g]を測定し、下記数式1により熱水溶解度を算出する;
(数式1)熱水溶解度[%]=(6-W)/6×100
[2]前記ヒドロキシカルボン酸が脂肪族ヒドロキシカルボン酸である、[1]に記載のデンプン含有水性組成;
[3]前記脂肪族ヒドロキシカルボン酸が、乳酸、クエン酸、酒石酸、リンゴ酸、イソクエン酸、タルトロン酸、グリセリン酸、グリコール酸、2-ヒドロキシ酪酸、3-ヒドロキシ酪酸、4-ヒドロキシ酪酸、ロイシン酸、メバロン酸、キナ酸、パントイン酸およびジメチロールプロピオン酸からなる群から選択される1種または2種以上である、[2]に記載のデンプン含有水性組成物;
[4]水溶性高分子をさらに含む、[1]~[3]のいずれかに記載のデンプン含有水性組成物;
[5]前記水溶性高分子がポリアクリル酸系重合体である、[4]に記載のデンプン含有水性組成物;
[6]前記溶媒が、多価アルコールおよびグリコールエーテルからなる群から選択される1種または2種以上をさらに含む、[1]~[5]のいずれかに記載のデンプン含有水性組成物;
[7]帯電防止剤、可塑剤、フィラー、界面活性剤、インキ、塗料、インクジェットインキ、接着剤、粘着剤または離型剤に用いるための、[1]~[6]のいずれかに記載のデンプン含有水性組成物;
[8]pHが1.5~3.5である、[1]~[7]のいずれかに記載のデンプン含有水性組成物;
[9][1]~[8]のいずれかに記載のデンプン含有水性組成物からなる、エマルジョン用添加剤;
[10]前記エマルジョンがアクリルエマルジョンである、[9]に記載のエマルジョン用添加剤;
[11][1]~[8]のいずれかに記載のデンプン含有水性組成物とエマルジョンとを含む、水系エマルジョン塗料;
[12]下記の測定方法に従って算出される熱水溶解度が30%以上であるデンプンと、ヒドロキシカルボン酸と、水を含む溶媒と、を含む混合物を、攪拌下で70~150℃まで昇温させることにより前記混合物を均一化させることを含む、デンプン含有水性組成物の製造方法:
[熱水溶解度の測定方法]
デンプン6[g]を94[g]の熱水(80℃)に攪拌下で5時間浸漬した後、水相に溶出しなかったデンプンをろ過により分取して130℃にて90分間乾燥する。乾燥後のデンプンの重量W[g]を測定し、下記数式1により熱水溶解度を算出する;
(数式1)熱水溶解度[%]=(6-W)/6×100
[13]前記デンプン含有水性組成物における前記デンプンの溶解含有量が7質量%以上である、[12]に記載のデンプン含有水性組成物の製造方法。
【0052】
[14]前記混合物を70~150℃まで昇温させた後に、70~150℃の温度で10分間~5時間熟成することをさらに含む、[12]または[13]に記載のデンプン含有水性組成物の製造方法。
【実施例0053】
本発明の効果を、以下の実施例および比較例を用いて説明する。ただし、本発明の技術的範囲が以下の実施例のみに制限されるわけではない。なお、下記実施例において、特記しない限り、操作は25℃で行われた。
【0054】
《コーンスターチ含有水性組成物の調製》
[コーンスターチの熱水溶解度の測定]
まず、未変性デンプンであるコーンスターチ(株式会社トーホー製)を準備した。このコーンスターチについて、以下の方法に従って熱水溶解度を測定した。
【0055】
[熱水溶解度の測定方法]
コーンスターチ6[g]を94[g]の熱水(80℃)に攪拌下で5時間浸漬した後、水相に溶出しなかったデンプンをろ過により分取して130℃にて90分間乾燥する。乾燥後のデンプンの重量W[g]を測定し、下記数式1により熱水溶解度を算出する。
【0056】
(数式1)熱水溶解度[%]=(6-W)/6×100
その結果、コーンスターチの熱水溶解度は、90%以上であった。
【0057】
[実施例1]
コーンスターチ(株式会社トーホー製)250.0質量部、水736.4質量部、および乳酸13.6質量部をオートクレーブに仕込み、攪拌下で2時間をかけて113℃まで昇温し、さらに113℃にて1時間熟成した後に冷却して、コーンスターチ含有水性組成物1000.0質量部を得た。
【0058】
[実施例2]
コーンスターチ(株式会社トーホー製)349.7質量部、水609.6質量部、乳酸16.5質量部、およびポリアクリル酸11.4質量部(株式会社日本触媒製、アクアリック(登録商標)HL415(47%水溶液として24.2質量部))をオートクレーブに仕込み、攪拌下で2時間をかけて115℃まで昇温し、さらに115℃にて1時間熟成した後に冷却して、コーンスターチ含有水性組成物1000.0質量部を得た。
【0059】
[実施例3]
コーンスターチ(株式会社トーホー製)250.0質量部、水716.4質量部、乳酸13.6質量部、およびポリアクリル酸9.4質量部(株式会社日本触媒製、アクアリック(登録商標)HL415(47%水溶液として20.0質量部))をオートクレーブに仕込み、攪拌下で2時間をかけて110℃まで昇温し、さらに110℃にて1時間熟成した後に冷却して、コーンスターチ含有水性組成物1000.0質量部を得た。
【0060】
[実施例4]
コーンスターチ(株式会社トーホー製)150.0質量部、水672.0質量部、乳酸54.0質量部、ポリアクリル酸30.1質量部(株式会社日本触媒製、アクアリック(登録商標)HL415(47%水溶液として64.0質量部))、およびエチレングリコールモノエチルエーテル60.0質量部をオートクレーブに仕込み、攪拌下で2時間をかけて80℃まで昇温し、さらに80℃にて1時間熟成した後に冷却して、コーンスターチ含有水性組成物1000.0質量部を得た。
【0061】
[比較例1]
コーンスターチ(株式会社トーホー製)250.0質量部、および水750.0質量部をオートクレーブに仕込み、攪拌下で2時間をかけて120℃まで昇温し、さらに120℃にて1時間熟成した後に冷却して、コーンスターチ含有水性組成物1000.0質量部を得た。
【0062】
[実施例5]
コーンスターチ(株式会社トーホー製)70.0質量部、水923.0質量部、乳酸3.0質量部、およびポリアクリル酸1.9質量部(株式会社日本触媒製、アクアリック(登録商標)HL415(47%水溶液として4.0質量部))をオートクレーブに仕込み、攪拌下で2時間をかけて80℃まで昇温し、さらに80℃にて1時間熟成した後に冷却して、コーンスターチ含有水性組成物1000.0質量部を得た。
【0063】
[比較例2]
コーンスターチ(株式会社トーホー製)60.0質量部、および水940.0質量部をオートクレーブに仕込み、攪拌下で2時間をかけて80℃まで昇温し、さらに80℃にて1時間熟成した後に冷却して、コーンスターチ含有水性組成物1000.0質量部を得た。
【0064】
[実施例6]
コーンスターチ(株式会社トーホー製)350.0質量部、水612.0質量部、クエン酸21.4質量部、およびポリアクリル酸16.0質量部(株式会社日本触媒製、アクアリック(登録商標)HL415(47%水溶液として34.0質量部))をオートクレーブに仕込み、攪拌下で2時間をかけて115℃まで昇温し、さらに115℃にて1時間熟成した後に冷却して、コーンスターチ含有水性組成物999.4質量部を得た。
【0065】
[実施例7]
コーンスターチ(株式会社トーホー製)350.0質量部、水612.0質量部、酒石酸21.4質量部、およびポリアクリル酸16.0質量部(株式会社日本触媒製、アクアリック(登録商標)HL415(47%水溶液として34.0質量部))をオートクレーブに仕込み、攪拌下で2時間をかけて115℃まで昇温し、さらに115℃にて1時間熟成した後に冷却して、コーンスターチ含有水性組成物999.4質量部を得た。
【0066】
[実施例8]
コーンスターチ(株式会社トーホー製)400.0質量部、水351.0質量部、グリセリン100.0質量部、乳酸21.4質量部、およびポリアクリル酸16.0質量部(株式会社日本触媒製、アクアリック(登録商標)HL415(47%水溶液として34.0質量部))をオートクレーブに仕込み、攪拌下で2時間をかけて115℃まで昇温し、さらに115℃にて5時間熟成した後に冷却して、コーンスターチ含有水性組成物888.4質量部を得た。
【0067】
[実施例9]
コーンスターチ(株式会社トーホー製)200.0質量部、水278.0質量部、乳酸12.3質量部、およびポリアクリル酸9.0質量部(株式会社日本触媒製、アクアリック(登録商標)HL415(47%水溶液として19.1質量部))をオートクレーブに仕込み、攪拌下で2時間をかけて120℃まで昇温し、さらに120℃にて3時間熟成した後に冷却して、コーンスターチ含有水性組成物499.3質量部を得た。
【0068】
[実施例10]
コーンスターチ(株式会社トーホー製)200.0質量部、水278.0質量部、乳酸12.3質量部、およびポリアクリル酸9.0質量部(株式会社日本触媒製、アクアリック(登録商標)HL415(47%水溶液として19.1質量部))をオートクレーブに仕込み、攪拌下で2時間をかけて135℃まで昇温し、さらに135℃にて5時間熟成した後に冷却して、コーンスターチ含有水性組成物499.3質量部を得た。
【0069】
[実施例11]
コーンスターチ(株式会社トーホー製)350.0質量部、水612.0質量部、乳酸21.4質量部、およびポリアクリル酸16.0質量部(株式会社日本触媒製、アクアリック(登録商標)HL415(47%水溶液として34.0質量部))をオートクレーブに仕込み、攪拌下で2時間をかけて110℃まで昇温し、さらに110℃にて1時間熟成した後に冷却して、コーンスターチ含有水性組成物999.4質量部を得た。
【0070】
[実施例12]
コーンスターチ(株式会社トーホー製)350.0質量部、水620.0質量部、乳酸21.4質量部、およびポリアクリル酸8.0質量部(株式会社日本触媒製、アクアリック(登録商標)HL415(47%水溶液として17.0質量部))をオートクレーブに仕込み、攪拌下で2時間をかけて110℃まで昇温し、さらに110℃にて1時間熟成した後に冷却して、コーンスターチ含有水性組成物999.4質量部を得た。
【0071】
《コーンスターチ含有水性組成物のpH》
上記の実施例および比較例において得られた未変性デンプン含有水性組成物のpHについて測定し、溶解条件(製造時pH)とした。 なお、pH測定は、室温(25℃)の未変性デンプン含有水性組成物に対してpH METER F-51(HORIBA社製)を用いて行った。これらの結果を下記の表1および表2に示す。
【0072】
《コーンスターチ含有水性組成物の評価》
上記の実施例および比較例において得られたコーンスターチ含有水性組成物について、均一性、保存安定性および粘度を測定した。また、エマルジョンとの混和性および混合液の塗膜硬度を測定した。これらの結果を下記の表1および表2に示す。
【0073】
[均一性の評価]
均一性の評価は、得られた水性組成物を300mLガラス瓶に採取し、目視にて下記の基準に従って評価した:
均一性評価 〇:目視にて沈降物・凝集物がない
○’:若干の凝集物あり
△:沈降・凝集物あり
×:多量の沈降・凝集物
[保存安定性の評価]
保存安定性の評価は、得られた水性組成物を200mLメスシリンダーに採取し、目視にて200mLメスシリンダーの目盛から下記の基準に従って評価した:
保存安定性 〇:1週間後分離なし
○’:1週間後若干の分離(上澄み部分10体積%未満)
△:1週間後一部分離(上澄み部分10体積%以上30体積%未満)
×:1週間後分離(上澄み部分30体積%以上)。
【0074】
[粘度の評価]
粘度については、25℃、E型粘度計(1°34’×R24)を用いて1~100rpmにて測定し、下記の基準に従って評価した:
粘度 ◎:50mPa・s以下
〇:51mPa・sを超え1000mPa・s以下であり、かつ、低せん
断速度領域(E型粘度計10rpm以下)では1000mPa・s以

○’:51mPa・sを超え1000mPa・s以下であるが低せん断速
度領域(E型粘度計10rpm以下)では1000mPa・sを超え

△:1000mPa・sを超え10000mPa・s以下
×:10000mPa・sを超える。
【0075】
[エマルジョンとの混和性および混合液の塗膜硬度の評価]
まず、エマルジョンとして、塗料組成(モノマー:ブチルアクリレート(50質量%)/メチルメタクリレート(35質量%)/スチレン(15質量%)/アクリル酸(2質量%)、界面活性剤:ニューコール(登録商標)707-SF(日本乳化剤株式会社製、略称:N-707-SF)2質量%(対モノマー100質量%)、モノマー揮発分:50質量%、平均粒子径:74nm)のアクリルエマルジョンを準備した。
【0076】
次いで、上記アクリルエマルジョン5gに、実施例または比較例で得られた水性組成物2gを混合し、混和性を確認し、下記の基準に従って評価した:
混和性 ○:均一に混和(混和により粒子の増大はない)
×:凝集物生成(明らかにエマルジョンブレークが発生)。
【0077】
また、アクリルエマルジョンと水性組成物との混合物を、3MILアプリケーターを用いてガラス板に塗工し、110℃にて1時間乾燥後、硬度試験(鉛筆)を行った。なお、コーンスターチ含有組成物を添加していないアクリルエマルジョン(ブランク)を用いて硬度試験を行った結果、鉛筆硬度は3Bであった。
【0078】
【表1】
【0079】
【表2】
【0080】
表1および表2に示す結果から、実施例1~12に係るデンプン含有水性組成物によれば、デンプンを水性溶媒に溶解させて水性組成物を得る際に、デンプン溶液の粘度を低く抑えつつ、溶液中のデンプン濃度を高くすることができることがわかる。また、実施例1~12の組成物は、液状であり、組成物の調製時直後だけでなく、1ヶ月経過後においても組成物の粘度が大きく変化せず、均一性、保存安定性に優れることがわかった。さらに、実施例1~12の組成物は、保存安定性やアクリルエマルジョンの混和性にも優れ、ひいては当該組成物が添加されたアクリルエマルジョンにより形成される塗膜の硬度を向上させることができることもわかる。
【0081】
また、乳酸以外にもクエン酸、酒石酸といった各種のヒドロキシカルボン酸が本発明のいて有用であることもわかる。さらに、水溶液化する際の熟成時間を長めに設定することで、得られる水性組成物中のデンプン濃度をさらに高めることができることもわかる。