(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024009568
(43)【公開日】2024-01-23
(54)【発明の名称】ポリヒドロキシアルカノエートの製造方法
(51)【国際特許分類】
C12P 7/625 20220101AFI20240116BHJP
【FI】
C12P7/625
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022111186
(22)【出願日】2022-07-11
(71)【出願人】
【識別番号】000000941
【氏名又は名称】株式会社カネカ
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】弁理士法人 HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】藤村 友乃
(72)【発明者】
【氏名】竪山 瑛人
(72)【発明者】
【氏名】金谷 健登
(72)【発明者】
【氏名】福本 明日香
【テーマコード(参考)】
4B064
【Fターム(参考)】
4B064AD83
4B064BJ04
4B064CC30
4B064CD02
4B064CD13
4B064CD23
4B064DA16
4B064DA20
(57)【要約】
【課題】PHAの製造工程で出される排水のうち、特に、培養液を再利用して、PHAを効率よく製造する製造方法を提供する。
【解決手段】PHA産生微生物を培地中で培養することにより、PHAを製造する方法であって、(a)上記培地に、PHAの製造工程において排出された特定の排水を供給する工程と、(b)上記工程(a)で排水が供給された培地に、窒素源、炭素源、およびリン化合物を添加しつつ、培養を行う工程と、を含み、上記窒素源は水に溶解させたときの溶液のpHが4.5~8.0である化合物を含む、PHAの製造方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリヒドロキシアルカノエート産生微生物を培地中で培養することにより、ポリヒドロキシアルカノエートを製造する方法であって、
(a)上記培地に、ポリヒドロキシアルカノエートの製造工程において排出された排水を供給する工程と、
(b)上記工程(a)で排水が供給された培地に、窒素源、炭素源、およびリン化合物を添加しつつ、培養を行う工程と、を含み、
上記排水は、ポリヒドロキシアルカノエートを産生する微生物を培養し、得られた培養液中の微生物細胞を破砕および/または可溶化した溶液からポリヒドロキシアルカノエートを分離して得られた排水であって、少なくとも培養液由来の排水を含み、
上記窒素源は水に溶解させたときの溶液のpHが4.5~8.0である化合物を含む、ポリヒドロキシアルカノエートの製造方法。
【請求項2】
上記排水が、微生物細胞滓を含む、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
上記微生物細胞滓が、培地に対して0.1~5.0重量%である、請求項2に記載の製造方法。
【請求項4】
上記排水のpHが4.5~8.0である、請求項1に記載の製造方法。
【請求項5】
(a’)上記工程(a)の前に、排水のpHを4.5~8.0へ調整する工程を含む、請求項1~3のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項6】
上記窒素源は、硫酸アンモニウム、塩化アンモニウム、ペプトン、肉エキス、および酵母エキスからなる群より選択される少なくとも1種を含む、請求項1~4のいずれか1項に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリヒドロキシアルカノエート(以下、「PHA」と称する場合がある。)の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
PHAの製造は、微生物培養の工程を含むため、微生物細胞に由来する有機化合物等を多量に含む処理負荷の高い排水が排出される。この排水処理のための設備費が高く、大きなエネルギーが必要となるという問題がある。
【0003】
このため、安価な排水処理設備、かつ、環境負荷が低いPHAの製造技術の開発が求められている。排水処理の負荷を低減する方法として、例えば、特許文献1には、微生物細胞を含む排水を培養工程に再利用する方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記特許文献1の方法では、微生物培養後の培養液が排水として排出され、依然として、有機化合物等を多量に含む処理負荷の高い排水が多く排出されるため、これらの処理負担が大きくなることから、改善の余地があった。
【0006】
そこで、本発明の一態様は、PHAの製造工程で出される排水のうち、特に、培養液を再利用して、PHAを効率よく製造する製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、水に溶解させたときの溶液のpHが4.5~8.0である窒素源を培地に添加することにより、培養液を再利用した場合でもPHAを効率よく製造できることを初めて見出し、本発明を完成させるに至った。
【0008】
したがって、本発明の一態様に係るPHAの製造方法(以下、「本製造方法」と称する。)は、PHA産生微生物を培地中で培養することにより、PHAを製造する方法であって、
(a)上記培地に、PHAの製造工程において排出された排水を供給する工程と、
(b)上記工程(a)で排水が供給された培地に、窒素源、炭素源、およびリン化合物を添加しつつ、培養を行う工程と、を含み、
上記排水は、PHAを産生する微生物を培養し、得られた培養液中の微生物細胞を破砕および/または可溶化した溶液からPHAを分離して得られた排水であって、少なくとも培養液由来の排水を含み、
上記窒素源は水に溶解させたときの溶液のpHが4.5~8.0である化合物を含む、PHAの製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明の一態様によれば、PHAの製造工程で出される排水のうち、特に、培養液を再利用して、PHAを効率よく製造する製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の実施の一形態について、以下に詳細に説明する。なお、本明細書において特記しない限り、数値範囲を表す「A~B」は、「A以上、B以下」を意味する。
【0011】
〔1.本発明の概要〕
上述した通り、PHAの製造工程において排出される、微生物培養後の培養液由来の排水は、有機化合物を多量に含むため処理負担が大きくなる。そこで、本発明者らは、上記培養液由来の排水を、PHA製造用の培地として再利用する方法について検討した。
【0012】
検討の結果、上記培養液由来の排水を培地として再利用した場合、微生物の培養挙動が不安定になることが分かった。この原因について、本発明者らがさらに検討を進めたところ、以下のメカニズムで培養挙動の不安定化が発生していると推測した。すなわち、通常であれば、窒素源として水酸化アンモニウムを添加しても培地のpHのバランスが保たれている。しかしながら、上記培養液由来の排水を用いた場合は、窒素源として十分な量の水酸化アンモニウムのみを添加すると、培養液由来の排水に含まれる成分の影響により培地のpHが高くなりすぎる傾向があり、微生物の培養挙動が不安定になる場合がある。
【0013】
上記課題を解決するために鋭意検討を行った結果、本発明者らは、培養過程において、水に溶解させたときの溶液のpHが4.5~8.0の窒素源(例えば、硫酸アンモニウム)を添加する方法を見出した。これにより、培養液由来の排水が供給された培地に対して窒素源を添加しても培地のpHを保つことができ、微生物の培養挙動を安定させることができる。
【0014】
一方、特許文献1では、水に溶解させたときの溶液のpHが4.5~8.0の範囲内である硫酸アンモニウム溶液を添加しているが、特許文献1において再利用しているのは細胞残屑のみであり、培養液由来の排水の再利用は行っていない。このため、培養液由来の排水の再処理が必要となり、この処理負担が大きいという課題は依然として存在し、本願の技術思想とは異なる。また、培養液由来の排水に含まれる成分の影響も存在しないため、上述した本願の新たな課題も発生しない。
【0015】
本願発明の上述した構成によれば、PHAの製造効率を向上できるだけでなく、培養液由来の排水処理の負荷を低減し、さらにPHAの製造効率を向上させるために炭素源(例えば、パーム油)の消費量を削減できるとの利点を有する。一般に、PHAの製造時に使用されるパーム油等の炭素源の生産は、森林破壊を引き起こすため、炭素源の製品への転換効率を向上させる技術は、環境保護の観点からも意義が大きい。
【0016】
また、上述したような構成によれば、有機化合物等を多量に含む処理負荷の高い排水を再利用できることから、PHAを用いた環境負荷の低い製造プロセスを提供することができ、例えば、目標12「持続可能な消費生産形態を確保する」や目標14「持続可能な開発のために、海・海洋資源を保全し、持続可能な形で利用する」等の持続可能な開発目標(SDGs)の達成に貢献できる。以下、本発明について詳説する。
【0017】
〔2.本製造方法〕
本処理方法は、以下の工程(a)~(b)を含む方法である:
・工程(a):PHA産生微生物を培地中で培養することにより、PHAを製造する方法において、上記培地に、PHAの製造工程において排出された排水を供給する工程。
・工程(b):上記工程(a)で排水が供給された培地に、窒素源、炭素源、およびリン化合物を含む溶液を添加しつつ、培養を行う工程。
【0018】
本発明の一実施形態において、本処理方法は、さらに以下の工程(c)および/または(a’)を含んでいてもよい。
・工程(c):さらに、PHA産生微生物を培養し、得られた培養液中の上記微生物細胞を破砕および/または可溶化した溶液からPHAを分離して、上記排水を得る工程
・工程(a’):上記工程(a)の前に、排水のpHを4.5~8.0へ調整する工程。
【0019】
なお、本明細書では、少なくともPHAを含む水性懸濁液を、「PHA水性懸濁液」と略して表記する場合がある。
【0020】
<工程(a)>
工程(a)では、PHA産生微生物を培地中で培養することにより、PHAを製造する方法において、上記培地に、PHAの製造工程において排出された排水を供給する。また、工程(a)における排水は、PHAを産生する微生物を培養し、得られた培養液中の微生物細胞を破砕および/または可溶化した溶液からPHAを分離して得られた排水であって、少なくとも培養液由来の排水を含む。
【0021】
工程(a)において、培地に上記排水を供給することにより、培養液に由来する排水を再利用できるため、培養液由来の排水の処理負担を低減することができる。
【0022】
(PHA)
本明細書において、「PHA」とは、ヒドロキシアルカン酸をモノマーユニットとする重合体の総称である。PHAを構成するヒドロキシアルカン酸としては、特に限定されないが、例えば、3-ヒドロキシブタン酸、4-ヒドロキシブタン酸、3-ヒドロキシプロピオン酸、3-ヒドロキシペンタン酸、3-ヒドロキシヘキサン酸、3-ヒドロキシヘプタン酸、3-ヒドロキシオクタン酸等が挙げられる。これらの重合体は、単独重合体でも、2種以上のモノマーユニットを含む共重合体でもよい。本発明の一実施形態において、上記PHAは、好ましくはポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)である。
【0023】
上記ポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)としては、ポリ(3-ヒドロキシブチレート)、ポリ(3-ヒドロキシブチレート-コ-3-ヒドロキシバレレート)、ポリ(3-ヒドロキシブチレート-コ-3-ヒドロキシバレレート-コ-3-ヒドロキシヘキサノエート)、ポリ(3-ヒドロキシブチレート-コ-3-ヒドロキシヘキサノエート)およびポリ(3-ヒドロキシブチレート-コ-4-ヒドロキシブチレート)からなる群より選択される1種類以上であることが好ましい。
【0024】
本製造方法において用いられるPHA産生微生物は、細胞内にPHAを生成し得る微生物である限り、特に限定されない。例えば、天然から単離された微生物および菌株の寄託機関(例えば、IFO、ATCC等)に寄託されている微生物、またはそれらから調製し得る変異体および形質転換体等を使用できる。例えば、PHAの一例であるP3HBを生成する菌体としては、1925年に発見されたBacillus megateriumが最初で、他にもカプリアビダス・ネカトール(Cupriavidus necator)(旧分類:アルカリゲネス・ユートロファス(Alcaligenes eutrophus)、ラルストニア・ユートロフア(Ralstonia eutropha))、アルカリゲネス・ラタス(Alcaligenes latus)等の天然微生物が挙げられる。これらの微生物ではPHAが菌体内に蓄積されることが知られている。
【0025】
また、PHAの一例である、ヒドロキシブチレートとその他のヒドロキシアルカノエートとの共重合体を生成する菌体としては、アエロモナス・キヤビエ(Aeromonas caviae)、アルカリゲネス・ユートロファス(Alcaligenes eutrophus)等が挙げられる。特に、PHA合成酵素群の遺伝子を導入したアルカリゲネス・ユートロファス AC32株(Alcaligenes eutrophus AC32, FERM BP-6038)(T.Fukui,Y.Doi,J.Bateriol.,179,p4821-4830(1997))等がより好ましい。また、菌体は、上記以外にも、生産したいPHAに合わせて、各種PHA合成関連遺伝子を導入した遺伝子組換え微生物であっても良い。
【0026】
(排水)
上記排水は、ポリヒドロキシアルカノエートを産生する微生物を培養し、得られた培養液中の微生物細胞を破砕および/または可溶化した溶液からポリヒドロキシアルカノエートを分離して得られた排水であって、少なくとも培養液由来の排水を含む。
【0027】
上記排水はさらに、微生物細胞滓を含むことが好ましい。本明細書において「微生物細胞滓」とは、培養液に含まれ得る微生物細胞由来の成分を意味する。このような成分としては、例えば、細胞由来のタンパク質、核酸、膜脂質、細胞壁断片、アミノ酸、脂肪酸、ペプチド、その他の水溶性生物化合物等が挙げられる。上記微生物細胞滓は、タンパク質等の有機化合物を多量に含むため、微生物の栄養源として使用できる。また、本来であれば廃棄される微生物細胞滓を再利用することにより、環境負荷を低減することもできる。
【0028】
上記微生物細胞滓の量は、特に限定されないが、例えば、培地に対して、0.1~5.0重量%であり、好ましくは、1.0~4.0重量%、より好ましくは、1.5~2.2重量%である。微生物細胞滓の含有量が0.1重量%以上であれば、微生物が十分な栄養源を得られる。微生物細胞滓の含有量が5.0重量%以下であれば、PHAの収率が向上する。なお、微生物細胞滓の含有量は、乾熱乾燥式水分計によって測定することができる。
【0029】
上記排水は、微生物の培養に影響を及ぼさない範囲で、不可避的に含まれ得る不純物を含んでいてもよい。そのような不純物としては、例えば、上記以外の微生物代謝産物、微量のPHA、多量の残オイル等が挙げられる。
【0030】
上記排水の量は、培地全体に対して、1~80重量%が好ましく、5~70重量%がより好ましく、20~50重量%がさらに好ましい。排水の量が1重量%以上であれば、環境負荷を低減することができる。
【0031】
上記排水のpHは、特に限定されないが、例えば、4.5~8.0であり、好ましくは、5.0~7.8であり、より好ましくは、6.0~7.5であり、さらに好ましくは、7.0である。上記排水のpHが4.5~8.0であれば、後述する排水のpHを調整する工程を省略することができる。
【0032】
(培養)
本製造方法における微生物の培養方法は、例えば、流加培養、回分培養等であってもよい。これらの中でも、窒素源等の流加を行いやすいため、流加培養であることが好ましい。
【0033】
上記微生物の培養条件は、上述した排水が培地に添加されること以外は特に限定されず、公知の方法に従って実施することができる。培養時間は、例えば1~7日、好ましくは1.5~6日、より好ましくは2~4日である。また、培養温度は、例えば20~40℃、好ましくは22~38℃、より好ましくは25~35℃である。
【0034】
(工程(b))
工程(b)では、上記工程(a)で排水が供給された培地に、窒素源、炭素源、およびリン化合物を添加しつつ、培養を行う。また、工程(b)における窒素源は水に溶解させたときの溶液のpHが4.5~8.0であり、好ましくは5.0~7.8であり、より好ましくは6.0~7.5であり、さらに好ましくは7.0である。本明細書において、窒素源について「水に溶解させたときの溶液のpH」は、溶液中の窒素源の濃度が0.65mol/Lである場合のpHを意味する。
【0035】
工程(b)において、窒素源、炭素源、およびリン化合物を添加することにより、微生物を安定的に培養することができる。なお、本明細書において「微生物を安定的に培養できる」とは、培養を行っている間、微生物に十分な栄養が供給され、それにより十分な量のPHAが得られることを意味する。
【0036】
上記窒素源としては、例えば、硫酸アンモニウム、塩化アンモニウム、ペプトン、肉エキス、酵母エキス等が挙げられる。また、これらに加えて、水に溶解させたときの溶液のpHが4.5~8.0ではない窒素源を含んでいてもよい。そのような窒素源としては、例えば、水酸化アンモニウム、尿素等が挙げられる。上記窒素源は、1種類のみが溶液に含まれていてもよいし、2種類以上が溶液に含まれていてもよい。
【0037】
上記炭素源としては、例えば、グルコース、フルクトース、スクロース、天然油脂、分別油脂、合成油脂、混合油脂等が挙げられる。上記炭素源は1種類のみが溶液に含まれていてもよいし、2種類以上が溶液に含まれていてもよい。
【0038】
上記リン化合物としては、例えば、リン酸、リン酸化合物が挙げられる。具体的には、リン酸化合物としては、リン酸一水素カリウム、リン酸二水素カリウム、リン酸ナトリウム、リン酸一水素ナトリウム、リン酸二水素ナトリウム、リン酸マグネシウム等が挙げられる。上記リン化合物は、1種類のみが溶液に含まれていてもよいし、2種類以上が溶液に含まれていてもよい。
【0039】
上記窒素源、炭素源およびリン化合物は、固体をそのまま添加してもよいし、溶媒に溶解させてから添加してもよい。取り扱い性を向上させる観点から、窒素源、炭素源およびリン化合物は、溶媒に溶解させてから添加することが好ましい。そのような溶媒としては、例えば、後述する溶媒であり得る。
【0040】
窒素源、炭素源、およびリン化合物は、それぞれ別々に添加してもよいし、2種類以上を混合して添加してもよい。すなわち、例えば、(i)窒素源、炭素源、およびリン化合物を全て、別々に添加する、(ii)炭素源および窒素源と、リン化合物とを別々に添加する、(iii)窒素源およびリン化合物と、炭素源とを別々に添加する、(iv)炭素源およびリン化合物と、窒素源とを別々に添加する、(v)炭素源、リン化合物、窒素源の全てを同時に添加する、のいずれの態様であってもよい。各成分の濃度の調節を容易にする観点から、上述した成分はそれぞれ別々に添加されることが好ましい。
【0041】
上記溶媒としては、例えば、水、または水と有機溶媒の混合溶媒であってもよい。また、当該混合溶媒において、水と相溶性のある有機溶媒の濃度としては、使用する有機溶媒の水への溶解度以下であれば特に限定されない。また、水と相溶性のある有機溶媒としては特に限定されないが、例えば、メタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール、1-ブタノール、2-ブタノール、iso-ブタノール、ペンタノール、ヘキサノール、ヘプタノール等のアルコール類;アセトン、メチルエチルケトン等のケトン類;テトラヒドロフラン、ジオキサン等のエーテル類;アセトニトリル、プロピオニトリル等のニトリル類;ジメチルホルムアミド、アセトアミド等のアミド類;ジメチルスルホキシド、ピリジン、ピペリジン等が挙げられる。中でも、メタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール、1-ブタノール、2-ブタノール、iso-ブタノール、アセトン、メチルエチルケトン、テトラヒドロフラン、ジオキサン、アセトニトリル、プロピオニトリル等であってもよい。また、メタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール、ブタノール、アセトン等が、入手容易であることからより好ましい。微生物の生育の観点から、最も好ましくは、溶媒は水のみである。
【0042】
上記窒素源の培地への添加速度は、窒素源の添加量が0.3~1.3g/hとなる速度が好ましく、0.5~1.1g/hとなる速度がより好ましく、0.6~1.0g/hとなる速度がさらに好ましい。
【0043】
(工程(c))
工程(c)では、さらに、PHA産生微生物を培養し、得られた培養液中の上記微生物の細胞を破砕および/または可溶化した溶液からPHAを分離して、上記排水を得る。工程(c)によれば、上記工程(a)において培地に供給する排水を得ることができる。
【0044】
上記微生物の細胞を破砕および/または可溶化する方法については特に限定されず、公知の方法によって行うことができる。細胞を破砕および/または可溶化する方法としては、例えば、酸性溶液処理、アルカリ溶液処理、酵素処理、高圧ホモジナイザー、超音波処理、乳化分散機、ビーズミル等が挙げられる。
【0045】
溶液からPHAを分離する方法についても特に限定されず、公知の方法によって行うことができる。PHAを分離する方法としては例えば、上述した方法により細胞を破砕および/または可溶化した後、遠心分離、濾過、沈降分離、膜分離等の工程を経ることによって、PHAを分離することができる。
【0046】
(工程(a’))
工程(a’)では、上記工程(a)の前に、排水のpHを4.5~8.0へ調整する。上述した通り、排水のpHが既に4.5~8.0である場合は、当該工程は不要である。工程(a’)によれば、排水のpHを調整することにより、排水を培地に添加した場合にpHが変化しにくくなるため、微生物の培養効率を向上させることができる。
【0047】
工程(a’)において、排水のpHは5.0~7.8に調整されることが好ましく、6.0~7.5に調整されることがより好ましく、7.0に調整されることがさらに好ましい。
【0048】
排水のpHを4.5~8.0に調整する方法は特に限定されず、公知の方法に従って行うことができる。そのような方法としては例えば、酸性またはアルカリ性溶液の添加等が挙げられる。
【0049】
(その他の工程)
上記工程(c)では、排水と分離したPHAが得られる。このPHAを後処理工程に供することにより、所望の物性を有するPHAを得ることができる。したがって、本発明の一実施形態において、本製造方法は、後処理工程を含み得る。
【0050】
後処理工程としては、特に限定されないが、例えば、凝集工程、脱水工程、乾燥工程等が挙げられる。これらの工程は、目的に応じて、適宜選択され得る。
【0051】
本発明は上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【0052】
すなわち、本発明の一態様は、以下を含む。
<1>ポリヒドロキシアルカノエート産生微生物を培地中で培養することにより、ポリヒドロキシアルカノエートを製造する方法であって、
(a)上記培地に、ポリヒドロキシアルカノエートの製造工程において排出された排水を供給する工程と、
(b)上記工程(a)で排水が供給された培地に、窒素源、炭素源、およびリン化合物を添加しつつ、培養を行う工程と、を含み、
上記排水は、ポリヒドロキシアルカノエートを産生する微生物を培養し、得られた培養液中の微生物細胞を破砕および/または可溶化した溶液からポリヒドロキシアルカノエートを分離して得られた排水であって、少なくとも培養液由来の排水を含み、
上記窒素源は水に溶解させたときの溶液のpHが4.5~8.0である化合物を含む、ポリヒドロキシアルカノエートの製造方法。
<2>上記排水が、微生物細胞滓を含む、<1>に記載の製造方法。
<3>上記微生物細胞滓が、培地に対して0.1~5.0重量%である、<2>に記載の製造方法。
<4>上記排水のpHが4.5~8.0である、<1>~<3>のいずれかに記載の製造方法。
<5>(a’)上記工程(a)の前に、排水のpHを4.5~8.0へ調整する工程を含む、<1>~<3>のいずれかに記載の製造方法。
<6>上記窒素源は、硫酸アンモニウム、塩化アンモニウム、ペプトン、肉エキス、および酵母エキスからなる群より選択される少なくとも1種である、<1>~<5>のいずれかに記載の製造方法。
【実施例0053】
〔実施例1〕
(種母培養)
KNK-631株(国際公開2016/114128号を参照)のグリセロールストック(50μL)を種母培地に接種して、30℃で24時間培養して、種母培養液を得た。
【0054】
種母培地の組成は、1w/v% Meat-extract、1w/v% Bacto-Tryptone、0.2w/v% Yeast-extract、0.9w/v% Na2HPO4・12H2O、0.15w/v% KH2PO4とし、pHを6.8とした。
【0055】
(前培養)
3.7Lの前培養培地を入れたジャーファーメンター(丸菱バイオエンジン製MDL-1000型)に種母酵母を1.0v/v%接種し、培養して前培養種母培養液を得た。培養条件は以下の通りである:培養温度30℃、攪拌速度400rpm、通気量4L/min、14%水酸化アンモニウム水溶液を使用してpHを6.5に制御、培養時間28時間。
【0056】
前培養培地の組成は、1.1w/v% Na2HPO4・12H2O、0.19w/v% KH2PO4、1.29w/v% (NH4)2SO4、0.1w/v% MgSO4・7H2O、0.5v/v% 微量金属塩溶液(0.1N塩酸に1.6w/v% FeCl3・6H2O、1w/v% CaCl2・2H2O、0.02w/v% CoCl2・6H2O、0.016w/v% CuSO4・5H2O、0.012w/v% NiCl2・6H2Oを溶かしたもの。)とした。炭素源としてはパーム油を10g/Lの濃度で一括添加した。
【0057】
(排水)
培養液を60~80℃で1時間滅菌し、50℃まで冷却後、pHが8.5になるように水酸化ナトリウムを添加した。その後、リゾチームを25mg添加し、pH6.0~7.0で50℃~55℃にコントロールしながら2時間半攪拌した。その後、アルカラーゼを添加してpH8.0~8.5で50℃~55℃にコントロールしながら2時間攪拌した。その後、遠心分離によりPHAと培養液由来の排水に分離した。なお、上述した培養液としては、後述する比較例1に記載の方法により得られた培養液を使用した。乾熱乾燥式水分計により微生物細胞滓の含有量を測定したところ、培養液中の微生物細胞滓は3.0~6.5%であり、排水中の微生物細胞滓は、4.5%であった。
【0058】
(PHA生産のための培養)
1Lの排水、および2.7mLの生産培地を入れたジャーファーメンター(丸菱バイオエンジン製、MDL-1000型)に、前培養種母培養液を5.0v/v%接種し、培養した。培養条件は以下の通りである:培養温度30℃、撹拌速度600rpm、通気量5mL/min。培養中、炭素源としてパーム油を、培養液中に濃度を制御しつつ流加した。また、培養途中からリン酸溶液を一定速度で流加した。さらに、培養途中から窒素源として、pH6.5~7.0の硫酸アンモニウム水溶液を0.8g/hで流加し、さらに、14%水酸化アンモニウム水溶液も流加した。
【0059】
生産培地の組成は、0.385w/v% Na2HPO4・12H2O、0.067w/v% KH2PO4、0.291w/v% (NH4)2SO4、0.1w/v% MgSO4・7H2O、0.5v/v% 微量金属塩溶液(0.1N 塩酸に1.6w/v% FeCl3・6H2O、1w/v% CaCl2・2H2O、0.02w/v% CoCl2・6H2O、0.016w/v% CuSO4・5H2O、0.012w/v% NiCl2・6H2Oを溶かしたもの。)、0.05w/v% BIOSPUREX200K(消泡剤:コグニスジャパン社製)とした。
【0060】
(PHA測定方法)
培養終了後、遠心分離によって菌体を回収し、エタノールで洗浄してから、50℃で一晩真空乾燥し、乾燥菌体を得た。乾燥菌体の重量を測定してから、得られた乾燥菌体1gに10mlの蒸留水、8mlの10%SDSを加え懸濁した。懸濁液に超音波破砕を60Sで4回行い、菌体を可溶化および破砕した。遠心分離によってPHAを回収し、エタノールで洗浄した後、50℃で一晩真空乾燥し、PHA量を測定した。得られたPHA重量と炭素源の添加重量から、下記式に基づいて炭素源収率を算出した。なお、計算式中の炭素源重量には排水由来の炭素の重量は含まない。
炭素源収率=(PHA重量)/(炭素源の添加重量)
〔比較例1〕
培養液中に排水を加えず、かつ硫酸アンモニウムを流加しなかったこと以外は実施例1と同様にして菌体を得て、PHA量を測定し、炭素源収率を算出した。
【0061】
〔比較例2〕
培養液中に硫酸アンモニウムではなく、水に溶解させたときの溶液のpHが8以上となる水酸化アンモニウムを流加したこと以外は実施例1と同様にして、菌体を得て、PHA量を測定し、炭素源収率を算出した。
【0062】
【0063】
<結果>
表1より、培養液を再利用した排水を使用している実施例1は、排水を使用していない比較例1と比べて、PHA収率において優れていることがわかった。また、比較例2の結果より、排水を使用したとしても硫酸アンモニウムを流加しなければ、PHAの収率は低下することがわかった。したがって、本発明の一実施形態に係るPHAの製造方法によれば、培養液を再利用して、PHAを効率よく製造できることが示された。
本製造方法は、PHAの製造工程で出される排水のうち、特に、培養液を再利用して、PHAを効率よく製造することができることから、PHAの製造において有利に使用できる。また、本製造方法により得られたPHAは、農業、漁業、林業、園芸、医学、衛生品、衣料、非衣料、包装、自動車、建材、その他の分野に好適に利用することができる。