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特開2024-95680完全ヒトグリコシル化ヒトα-L-イズロニダーゼ(IDUA)を用いたムコ多糖症I型の治療
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024095680
(43)【公開日】2024-07-10
(54)【発明の名称】完全ヒトグリコシル化ヒトα-L-イズロニダーゼ(IDUA)を用いたムコ多糖症I型の治療
(51)【国際特許分類】
   A61K 38/47 20060101AFI20240703BHJP
   A61K 45/00 20060101ALI20240703BHJP
   A61K 35/30 20150101ALI20240703BHJP
   A61K 48/00 20060101ALI20240703BHJP
   A61P 3/00 20060101ALI20240703BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20240703BHJP
   A61K 31/706 20060101ALI20240703BHJP
   A61K 31/436 20060101ALI20240703BHJP
   A61K 31/573 20060101ALI20240703BHJP
   C12N 9/26 20060101ALI20240703BHJP
   C12N 15/56 20060101ALN20240703BHJP
   C12N 15/63 20060101ALN20240703BHJP
【FI】
A61K38/47 ZNA
A61K45/00
A61K35/30
A61K48/00
A61P3/00
A61P43/00 121
A61K31/706
A61K31/436
A61K31/573
C12N9/26 Z
C12N15/56
C12N15/63 Z
【審査請求】有
【請求項の数】1
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2024040767
(22)【出願日】2024-03-15
(62)【分割の表示】P 2021502545の分割
【原出願日】2019-07-17
(31)【優先権主張番号】62/699,923
(32)【優先日】2018-07-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(71)【出願人】
【識別番号】518362720
【氏名又は名称】レジェンクスバイオ インコーポレーテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100097456
【弁理士】
【氏名又は名称】石川 徹
(72)【発明者】
【氏名】ステファン ヨー
(72)【発明者】
【氏名】リッキー ロバート ラインハルト
(72)【発明者】
【氏名】クラン マシュー シンプソン
(72)【発明者】
【氏名】ズフチュン ウー
【テーマコード(参考)】
4C084
4C086
4C087
【Fターム(参考)】
4C084AA02
4C084AA03
4C084AA13
4C084AA19
4C084BA44
4C084DC22
4C084MA02
4C084MA55
4C084MA66
4C084NA05
4C084ZB082
4C084ZC54
4C084ZC75
4C086AA01
4C086AA02
4C086CB22
4C086DA10
4C086EA04
4C086MA02
4C086MA04
4C086MA55
4C086MA66
4C086NA05
4C086ZC54
4C086ZC75
4C087AA01
4C087AA02
4C087BB65
4C087CA12
4C087MA55
4C087MA66
4C087NA05
4C087ZC54
4C087ZC75
(57)【要約】      (修正有)
【課題】ムコ多糖症I型(MPS-I)を治療するための組成物及び方法を提供する。
【解決手段】ヒト対象の脳の脳脊髄液にヒト神経細胞によって生産された治療有効量の組換えヒトα-L-イズロニダーゼ(IDUA)を送達することを含む方法。前記ヒト神経細胞はヒトグリア細胞が好ましく、また前記ヒトIDUAによる治療の前に、またはそれと同時に、前記対象に免疫抑制治療を施し、かつその後も免疫抑制治療を継続することをさらに含んでよい。
【選択図】図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ムコ多糖症I型(MPS I)と診断されたヒト対象の治療方法であって、前記ヒト対
象の脳の脳脊髄液にヒト神経細胞によって生産された治療有効量の組換えヒトα-L-イ
ズロニダーゼ(IDUA)を送達することを含む、前記方法。
【請求項2】
MPS Iと診断されたヒト対象の治療方法であって、前記ヒト対象の脳の脳脊髄液に
ヒトグリア細胞によって生産された治療有効量の組換えヒトIDUAを送達することを含
む、前記方法。
【請求項3】
前記ヒトIDUAによる治療の前に、またはそれと同時に、前記対象に免疫抑制治療を
施し、かつその後も免疫抑制治療を継続することをさらに含む、請求項1または2に記載
の方法。
【請求項4】
MPS Iと診断されたヒト対象の治療方法であって、
前記ヒト対象の脳の脳脊髄液に治療有効量のα2,6-シアル酸付加ヒトIDUAを送達
することと、
前記ヒトIDUAによる治療の前に、またはそれと同時に、前記対象に免疫抑制治療を施
し、かつその後も免疫抑制治療を継続することと、を含む、前記方法。
【請求項5】
ムコ多糖症I型(MPS I)と診断されたヒト対象の治療方法であって、
前記ヒト対象の脳の脳脊髄液に検出可能なNeuGcを含まない治療有効量のグリコシル
化ヒトIDUAを送達することと、
前記ヒトIDUAによる治療の前に、またはそれと同時に、前記対象に免疫抑制治療を施
し、かつその後も免疫抑制治療を継続することと、を含む、前記方法。
【請求項6】
ムコ多糖症I型(MPS I)と診断されたヒト対象の治療方法であって、
前記ヒト対象の脳の脳脊髄液に検出可能なNeuGc及び/またはα-Gal抗原を含ま
ない治療有効量のグリコシル化ヒトIDUAを送達することと、
前記ヒトIDUAによる治療の前に、またはそれと同時に、前記対象に免疫抑制治療を施
し、かつその後も免疫抑制治療を継続することと、を含む、前記方法。
【請求項7】
ムコ多糖症I型(MPS I)と診断されたヒト対象の治療方法であって、
前記ヒト対象の脳の脳脊髄液に、チロシン硫酸化を含む治療有効量のヒトIDUAを送達
することと、
前記ヒトIDUAによる治療の前に、またはそれと同時に、前記対象に免疫抑制治療を施
し、かつその後も免疫抑制治療を継続することと、を含む、前記方法。
【請求項8】
ムコ多糖症I型(MPS I)と診断されたヒト対象の治療方法であって、
前記ヒト対象の脳にヒトIDUAをコードする発現ベクターを投与することであって、前
記IDUAがヒト不死化神経細胞において前記発現ベクターから発現される際にα2,6
-シアル酸付加される、前記投与することと、
前記発現ベクターの投与の前に、またはそれと同時に、前記対象に免疫抑制治療を施し、
かつその後も免疫抑制治療を継続することと、を含む、前記方法。
【請求項9】
ムコ多糖症I型(MPS I)と診断されたヒト対象の治療方法であって、
前記ヒト対象の脳にヒトIDUAをコードする発現ベクターを投与することであって、前
記IDUAがヒト不死化神経細胞において前記発現ベクターから発現される際にグリコシ
ル化されるが検出可能なNeuGcを含まない、前記投与することと、
前記発現ベクターの投与の前に、またはそれと同時に、前記対象に免疫抑制治療を施し、
かつその後も免疫抑制治療を継続することと、を含む、前記方法。
【請求項10】
ムコ多糖症I型(MPS I)と診断されたヒト対象の治療方法であって、
前記ヒト対象の脳にヒトIDUAをコードする発現ベクターを投与することであって、前
記IDUAがヒト不死化神経細胞において前記発現ベクターから発現される際にグリコシ
ル化されるが検出可能なNeuGc及び/またはα-Gal抗原を含まない、前記投与す
ることと、
前記発現ベクターの投与の前に、またはそれと同時に、前記対象に免疫抑制治療を施し、
かつその後も免疫抑制治療を継続することと、を含む、前記方法。
【請求項11】
ムコ多糖症I型(MPS I)と診断されたヒト対象の治療方法であって、
前記ヒト対象の脳にヒトIDUAをコードする発現ベクターを投与することであって、前
記IDUAがヒト不死化神経細胞において前記発現ベクターから発現される際にチロシン
硫酸化される、前記投与することと、
前記発現ベクターの投与の前に、またはそれと同時に、前記対象に免疫抑制治療を施し、
かつその後も免疫抑制治療を継続することと、を含む、前記方法。
【請求項12】
ムコ多糖症I型(MPS I)と診断されたヒト対象の治療方法であって、
前記ヒト対象の脳の脳脊髄液に治療有効量のヒトIDUAをコードする組換えヌクレオチ
ド発現ベクターを投与することであって、その結果α2,6-シアル酸付加グリカンを含
む前記IDUAを放出するデポーが形成される、前記投与することと、
前記発現ベクターの投与の前に、またはそれと同時に、前記対象に免疫抑制治療を施し、
かつその後も免疫抑制治療を継続することと、を含む、前記方法。
【請求項13】
ムコ多糖症I型(MPS I)と診断されたヒト対象の治療方法であって、
前記ヒト対象の脳の脳脊髄液に治療有効量のヒトIDUAをコードする組換えヌクレオチ
ド発現ベクターを投与することであって、その結果検出可能なNeuGcを含まないグリ
コシル化ヒトIDUAを放出するデポーが形成される、前記投与することと、
前記発現ベクターの投与の前に、またはそれと同時に、前記対象に免疫抑制治療を施し、
かつその後も免疫抑制治療を継続することと、を含む、前記方法。
【請求項14】
ムコ多糖症I型(MPS I)と診断されたヒト対象の治療方法であって、
前記ヒト対象の脳の脳脊髄液に治療有効量のヒトIDUAをコードする組換えヌクレオチ
ド発現ベクターを投与することであって、その結果検出可能なNeuGc及び/またはα
-Gal抗原を含まないグリコシル化ヒトIDUAを放出するデポーが形成される、前記
投与することと、
前記発現ベクターの投与の前に、またはそれと同時に、前記対象に免疫抑制治療を施し、
かつその後も免疫抑制治療を継続することと、を含む、前記方法。
【請求項15】
ムコ多糖症I型(MPS I)と診断されたヒト対象の治療方法であって、
前記ヒト対象の脳の脳脊髄液に治療有効量のヒトIDUAをコードする組換えヌクレオチ
ド発現ベクターを投与することであって、その結果チロシン硫酸化を含む前記IDUAを
放出するデポーが形成される、前記投与することと、
前記発現ベクターの投与の前に、またはそれと同時に、前記対象に免疫抑制治療を施し、
かつその後も免疫抑制治療を継続することと、を含む、前記方法。
【請求項16】
前記免疫抑制治療が、前記ヒトIDUAによる治療の前に、またはそれと同時に、(a
)タクロリムス及びミコフェノール酸、(b)ラパマイシン及びミコフェノール酸、また
は(c)タクロリムス、ラパマイシン、及びコルチコステロイド、例えばプレドニゾロン
及び/またはメチルプレドニゾロンの組合わせを前記対象に投与し、かつその後継続する
ことを含む、請求項3~15のいずれか1項に記載の方法。
【請求項17】
前記免疫抑制治療を180日後に中止する、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
前記ヒトIDUAが配列番号1のアミノ酸配列を含む、請求項1~17のいずれか1項
に記載の方法。
【請求項19】
前記免疫抑制治療が、前記ヒトIDUAによる治療の前に、またはそれと同時に、(a
)タクロリムス及びミコフェノール酸、(b)ラパマイシン及びミコフェノール酸、また
は(c)タクロリムス、ラパマイシン、及びコルチコステロイド、例えばプレドニゾロン
及び/またはメチルプレドニゾロンの組合わせを前記対象に投与することを含む、請求項
18に記載の方法。
【請求項20】
前記免疫抑制治療を180日後に中止する、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
α2,6-シアル酸付加グリカンを含む前記IDUAの生産を、細胞培養中でヒト神経
細胞株を前記組換えヌクレオチド発現ベクターを用いて形質導入することにより確認する
、請求項12に記載の方法。
【請求項22】
検出可能なNeuGcを含まない前記グリコシル化IDUAの生産を、細胞培養中でヒ
ト神経細胞株を前記組換えヌクレオチド発現ベクターを用いて形質導入することにより確
認する、請求項13に記載の方法。
【請求項23】
検出可能なNeuGc及び/またはα-Gal抗原を含まない前記グリコシル化IDU
Aの生産を、細胞培養中でヒト神経細胞株を前記組換えヌクレオチド発現ベクターを用い
て形質導入することにより確認する、請求項14に記載の方法。
【請求項24】
チロシン硫酸化を含む前記IDUAの生産を、細胞培養中でヒト神経細胞株を前記組換
えヌクレオチド発現ベクターを用いて形質導入することにより確認する、請求項15に記
載の方法。
【請求項25】
生産をマンノース-6-リン酸の存在下及び非存在下で確認する、請求項21~24の
いずれか1項に記載の方法。
【請求項26】
前記発現ベクターまたは組換えヌクレオチド発現ベクターが、シグナルペプチドをコー
ドする、請求項8~15及び21~25のいずれか1項に記載の方法、または請求項8~
15のいずれか1項に直接的もしくは間接的に従属する場合の請求項16~17のいずれ
か1項に記載の方法。
【請求項27】
ムコ多糖症I型(MPS I)と診断されたヒト対象の治療方法であって、
前記ヒト対象の脳の脳脊髄液に治療有効量のヒトIDUAをコードする組換えヌクレオチ
ド発現ベクターを投与することであって、その結果α2,6-シアル酸付加グリカンを含
む前記IDUAを放出するデポーが形成される、前記投与することと、
前記発現ベクターの投与の前に、またはそれと同時に、前記対象に免疫抑制治療を施し、
かつその後も免疫抑制治療を継続することと、を含み、
前記組換えベクターは、培養中でヒト神経細胞への形質導入に使用する場合、前記細胞培
養中で前記α2,6-シアル酸付加グリカンを含む前記IDUAを生産する、前記方法。
【請求項28】
ムコ多糖症I型(MPS I)と診断されたヒト対象の治療方法であって、
前記ヒト対象の脳の脳脊髄液に治療有効量のヒトIDUAをコードする組換えヌクレオチ
ド発現ベクターを投与することであって、その結果検出可能なNeuGcを含まないグリ
コシル化IDUAを放出するデポーが形成される、前記投与することと、
前記発現ベクターの投与の前に、またはそれと同時に、前記対象に免疫抑制治療を施し、
かつその後も免疫抑制治療を継続することと、を含み、
前記組換えベクターは、培養中でヒト神経細胞への形質導入に使用する場合、前記細胞培
養中でグリコシル化されるが検出可能なNeuGcを含まない前記IDUAを生産する、
前記方法。
【請求項29】
ムコ多糖症I型(MPS I)と診断されたヒト対象の治療方法であって、
前記ヒト対象の脳の脳脊髄液に治療有効量のヒトIDUAをコードする組換えヌクレオチ
ド発現ベクターを投与することであって、その結果検出可能なNeuGc及び/またはα
-Gal抗原を含まないグリコシル化IDUAを放出するデポーが形成される、前記投与
することと、
前記発現ベクターの投与の前に、またはそれと同時に、前記対象に免疫抑制治療を施し、
かつその後も免疫抑制治療を継続することと、を含み、
前記組換えベクターは、培養中でヒト神経細胞への形質導入に使用する場合、前記細胞培
養中でグリコシル化されるが検出可能なNeuGc及び/またはα-Gal抗原を含まな
い前記IDUAを生産する、前記方法。
【請求項30】
ムコ多糖症I型(MPS I)と診断されたヒト対象の治療方法であって、
前記ヒト対象の脳の脳脊髄液に治療有効量のヒトIDUAをコードする組換えヌクレオチ
ド発現ベクターを投与することであって、その結果チロシン硫酸化を含む前記IDUAを
放出するデポーが形成される、前記投与することと、
前記発現ベクターの投与の前に、またはそれと同時に、前記対象に免疫抑制治療を施し、
かつその後も免疫抑制治療を継続することと、を含み、
前記組換えベクターは、培養中でヒト神経細胞への形質導入に使用する場合、前記細胞培
養中でチロシン硫酸化された前記IDUAを生産する、前記方法。
【請求項31】
前記免疫抑制治療が、前記ヒトIDUAによる治療の前に、またはそれと同時に、(a
)タクロリムス及びミコフェノール酸、(b)ラパマイシン及びミコフェノール酸、また
は(c)タクロリムス、ラパマイシン、及びコルチコステロイド、例えばプレドニゾロン
及び/またはメチルプレドニゾロンの組合わせを前記対象に投与し、かつその後継続する
ことを含む、請求項27~30のいずれか1項に記載の方法。
【請求項32】
前記免疫抑制治療を180日後に中止する、請求項31に記載の方法。
【請求項33】
前記ヒト対象が3歳未満である、請求項1~32のいずれか1項に記載の方法。
【請求項34】
前記ヒト対象が3歳未満であり、前記発現ベクターまたは前記組換えヌクレオチド発現
ベクターが、2×10GC/g脳質量、1×1010GC/g脳質量、または5×10
10GC/g脳質量の用量で投与される、請求項8~15及び21~33のいずれか1項
に記載の方法、または請求項8~15のいずれか1項に直接的もしくは間接的に従属する
場合の請求項16~20のいずれか1項に記載の方法。
【請求項35】
前記ヒト対象が3歳未満であり、前記発現ベクターまたは前記組換えヌクレオチド発現
ベクターが、2×10GC/g脳質量~1×1010GC/g脳質量の範囲の用量で投
与される、請求項8~15及び21~33のいずれか1項に記載の方法、または請求項8
~15のいずれか1項に直接的もしくは間接的に従属する場合の請求項16~20のいず
れか1項に記載の方法。
【請求項36】
前記ヒト対象が3歳未満であり、前記発現ベクターまたは前記組換えヌクレオチド発現
ベクターが、1×1010GC/g脳質量~5×1010GC/g脳質量の範囲の用量で
投与される、請求項8~15及び21~33のいずれか1項に記載の方法、または請求項
8~15のいずれか1項に直接的もしくは間接的に従属する場合の請求項16~20のい
ずれか1項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、2018年7月18日出願の米国仮特許出願第62/699,923号の優
先権を主張し、その全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【0002】
電子的に提出された配列表の参照
本願は、2019年7月8日に作成されて、81,920バイトのサイズを有する「S
equence_Listing_12656-113-228.txt」という名のテ
キストファイルとして本出願とともに提出された配列表を参照により組み込む。
【0003】
1.導入
ムコ多糖症I型(MPS I)と診断されたヒト対象の中枢神経系(CNS)の脳脊髄
液に、完全ヒトグリコシル化(HuGly)α-L-イズロニダーゼ(IDUA)を送達
するための組成物及び方法を記載する。
【背景技術】
【0004】
2.発明の背景
ムコ多糖症I型(MPS I)は、発生率が100,000件の出生のうち1件と推定
されている稀な劣性遺伝疾患である(Moore D et al.2008,Orph
anet Journal of Rare Diseases 3)。MPS Iは、
遍在する複合多糖類、ヘパラン硫酸及びデルマタン硫酸のリソソーム異化に必要な酵素で
ある、α-l-イズロニダーゼ(IDUA)の欠損によって生じる。これらの多糖類はグ
リコサミノグリカン(GAG)と呼ばれ、MPS I患者の組織に蓄積されて、特徴的な
貯蔵病変及び多様な疾患後遺症をもたらす。患者は、低身長、骨及び関節の変形、顔の特
徴の粗雑化、肝脾腫、心臓弁膜疾患、閉塞性睡眠時無呼吸、再発性上気道感染症、聴覚障
害、手根管症候群、及び角膜混濁による視覚障害を呈し得る(Beck M,et al
.,2014,The natural history of MPS I:glob
al perspectives from the MPS I Registry.
Genetics in medicine:official journal of
the American College of Medical Genetic
s 16(10):759-765)。さらに、多くの患者は水頭症、脊髄圧迫症、及び
一部の患者では認知障害を含み得る中枢神経系におけるGAGの貯蔵に関連した症状を発
症する。
【0005】
MPS I患者は、広範囲の疾患重症度及びCNS障害の程度に及ぶ。この重症度の多
様性は、残存するIDUAの発現と相関する;活性酵素の発現をもたらさない2つの突然
変異を有する患者(ナンセンス突然変異、欠失、及びいくつかのミスセンス突然変異を含
む)は、典型的に2歳になる前に症状を示し、正常な発達初期の後に例外なく重度の認知
機能低下を示す(Terlato NJ & Cox GF,2003,Genetic
s in Medicine:official journal of the Am
erican College of Medical Genetics 5(4):
286-294)。この重症型形態のMPS Iは、ハーラー(H)症候群とも呼ばれる
。少量の活性IDUAの生産をもたらす少なくとも1つの突然変異を有する患者は、ハー
ラー-シャイエ(HS)症候群またはシャイエ症候群と呼ばれる軽症型表現型を示す。こ
れらの患者は、幼少期の初期に症状を示し得るか、または人生の最初の10年を経た後ま
で特定できない場合もある。概して、発症が遅れ、重症度が低下し得るものの、軽症形態
のMPS Iを有する患者は、ハーラー症候群を有する患者と同じあらゆる身体的特徴を
経験し得る(Vijay S&Wraith JE,2005,Acta Paedia
trica 94(7):872-877)。また、減弱型MPS Iを有する患者は、
高い割合で脊髄圧迫及び水頭症を含む神経学的合併症を経験する。減弱型MPS Iを有
すると分類された患者のおよそ30%において、認知障害が報告されている(Beck
M,et al.,2014,Genetics in medicine:offic
ial journal of the American College of M
edical Genetics 16(10):759-765)。
【0006】
酵素補充療法(ERT)[Aldurazyme(登録商標)(ラロニダーゼ)]は、
MPS Iの全身症状の標準治療として認められているが、CNS症状発現を治療しない
(de Ru MH,et al.,2011,Orphanet Journal o
f Rare Diseases 6:9;Wraith JE,et al.,200
7,Pediatrics 120(1):E37-E46)。造血幹細胞移植(HSC
T)は、MPS Iの神経認知症状に影響を与えるが、手順に重大な制約がある。MPS
IのためのHSCTは、相当な病的状態及び最大20%の死亡率に関連付けられ、ID
UA発現が安定してもなお患者はHSCTの最長1年後に神経認知機能の低下に直面する
ため、治療は不完全である(de Ru MH,et al.,2011,Orphan
et Journal of Rare Diseases 6:9;Fleming
DR,et al.,1998,Pediatric transplantation
2(4):299-304;Boelens JJ,et al.,2007,Bon
e Marrow Transplantation 40(3):225-233;S
ouillet G,et al.,2003,Bone Marrow Transp
lantation 31(12):1105-1117;Whitley CB,et
al.,1993,American Journal of Medical Ge
netics 46(2):209-218)。移植に成功した患者において、知性は典
型的には、正常より著しく下回ったままである。
【発明の概要】
【0007】
3.発明の概要
本発明はハーラー、ハーラー-シャイエ、またはシャイエ症候群と診断された患者を含
むが、これらに限定されないムコ多糖症I型(MPS I)と診断されたヒト対象の中枢
神経系の脳脊髄液(CSF)に完全ヒトグリコシル化(HuGly)α-L-イズロニダ
ーゼ(HuGlyIDUA)を送達することを含む。好ましい実施形態において、治療は
遺伝子治療を介して、例えば、ヒトIDUA(hIDUA)またはhIDUAの誘導体を
コードするウイルスベクターまたは他のDNA発現コンストラクトをMPS Iと診断さ
れた患者(ヒト対象)のCSFに投与して、継続的に完全ヒトグリコシル化導入遺伝子産
物をCNSに供給する形質導入細胞の永続的なデポーを作製することにより、達成される
。デポーからCSFに分泌されるHuGlyIDUAは、CNS中の細胞によってエンド
サイトーシスされて、レシピエント細胞における酵素欠損を「横断修正(cross-c
orrection)」する。代替の実施形態において、HuGlyIDUAを細胞培養
で生産して、酵素補充療法(「ERT」)として、例えば酵素を注入することにより投与
することができる。しかしながら、遺伝子治療アプローチは、ERTを上回るいくつかの
利点を提供する-酵素は血液脳関門を通過することができないため、酵素の全身送達によ
ってはCNSは治療されず;かつ本発明の遺伝子治療アプローチとは異なり、CNSへの
酵素の直接の送達には、大きな負担となるだけでなく感染のリスクを生む反復注入が必要
となるであろう。
【0008】
導入遺伝子によってコードされるHuGlyIDUAは、これらに限定はされないが、
配列番号1のアミノ酸配列を有するヒトIDUA(hIDUA)(図1に示す)、ならび
にアミノ酸の置換、欠失、または付加を有する、例えばこれらに限定はされないが、図2
に示すIDUAのオーソログ中に対応する非保存的残基から選択されるアミノ酸置換を含
む、hIDUAの誘導体を含むことができる(ただし、そのような突然変異が、図3に示
す(その全体が参照により本明細書に組み込まれているSaito et al.,20
14,Mol Genet Metab 111:107-112の57個のMPS I
突然変異を列記する表3より)、またはその各々の全体が参照により本明細書に組み込ま
れているVenturi et al.,2002,Human Mutation #
522 Online(「Venturi 2002」)、もしくはBertola e
t al.,2011 Human Mutation 32:E2189-E2210
(「Bertola 2011」)によって報告された、重度の、中程度に重度の、中程
度の、もしくは軽症型MPS I表現型において同定されたいずれの突然変異も含まない
ことを条件とする)。
【0009】
例えば、hIDUAの特定位置でのアミノ酸置換は図2(その全体が参照により本明細
書に組み込まれているMaita et al.,2013,PNAS 110:146
28、図S8に報告されたオーソログのアラインメントを示す)に表されるIDUAオー
ソログにおけるその位置に見出される対応する非保存的アミノ酸残基から選択することが
できる(ただし、そのような置換は図3に示されるか、または上記Venturi 20
02もしくはBertola 2011において報告される有害な突然変異のいずれも含
まないことを条件とする)。結果として得られる導入遺伝子産物は、細胞培養または試験
動物で、突然変異がIDUA機能を損なわないことを保証するためのin vitroで
の従来のアッセイを使用して試験することができる。選択される好ましいアミノ酸置換、
欠失、または付加は、細胞培養または動物モデルにおけるMPS Iのためのin vi
troでの従来のアッセイによって試験されるIDUAの酵素活性、安定性、または半減
期を維持するか、または増加させるものとするべきである。例えば、導入遺伝子産物の酵
素活性は基質として4-メチルウンベリフェリルα-L-イズロニドを用いる従来の酵素
アッセイを使用して評価することができる(使用可能な例示的なIDUA酵素アッセイに
ついては、例えば、その各々の全体が参照により本明細書に組み込まれている、Hopw
ood et al.,1979,Clin Chim Acta 92:257-26
5;Clements et al.,1985,Eur J Biochem 152
:21-28;及びKakkis et al.,1994,Prot Exp Pur
if 5:225-232を参照のこと)。導入遺伝子産物がMPS I表現型を修正す
る能力は、例えば、培養中でMPS I細胞にhIDUAまたは誘導体をコードするウイ
ルスベクターもしくは他のDNA発現コンストラクトを形質導入することにより、培養中
のMPS I細胞にrHuGlyIDUAもしくは誘導体を加えることにより、またはM
PS I細胞をrHuGlyIDUAもしくは誘導体を発現及び分泌するように操作した
ヒト宿主細胞と共培養することにより、細胞培養中で評価し、例えば、培養中のMPS
I細胞におけるIDUA酵素活性及び/またはGAG貯蔵量の低下を検出することにより
、MPS I培養細胞の欠陥の修正を決定することができる(例えば、その各々の全体が
参照により本明細書に組み込まれているMyerowitz&Neufeld,1981
,J Biol Chem 256:3044-3048;及びAnson et al
.1992,Hum Gene Ther 3:371-379を参照のこと)。
【0010】
MPS Iのための動物モデルは、マウス(例えば、Clarke et al.,1
997,Hum Mol Genet 6(4):503-511を参照のこと)、短毛
の雑種ネコ(例えば、Haskins et al.,1979,Pediatr Re
s 13(11):1294-97を参照のこと)、及びいくつかの品種のイヌ(例えば
、Menon et al.,1992,Genomics 14(3):763-76
8;Shull et al.,1982,Am J Pathol 109(2):2
44-248を参照のこと)について記載されている。イヌのMPS Iモデルは、ID
UA突然変異により検出可能なタンパク質が喪失するため、MPS Iの最も重度の形態
であるハーラー症候群に類似している。IDUAタンパク質間の遺伝子相同性が高いこと
図2のアラインメントを参照のこと)は、hIDUAが動物において機能的であること
を意味し、hIDUAを包含する治療はこれらの動物モデルで試験することができる。
【0011】
好ましくは、rHuGlyIDUA導入遺伝子は、神経細胞及び/またはグリア細胞に
おいて機能する発現制御エレメント、例えば、CB7プロモーター(ニワトリβ-アクチ
ンプロモーター及びCMVエンハンサー)によって制御されるべきであり、かつベクター
によって駆動される導入遺伝子の発現を増強する他の発現制御エレメント(例えば、ニワ
トリβ-アクチンイントロン及びウサギβ-グロビンポリAシグナル)を含むことができ
る。hIDUA導入遺伝子のためのcDNAコンストラクトには、形質導入されたCNS
細胞による適切な翻訳中及び翻訳後プロセシング(グリコシル化及びタンパク質硫酸化)
を保証するシグナルペプチドのためのコード配列を含めるべきである。CNS細胞によっ
て使用されるそのようなシグナルペプチドには:
オリゴデンドロサイト-ミエリン糖タンパク質(hOMG)シグナルペプチド:
MEYQILKMSLCLFILLFLTPGILC(配列番号2)
E1A刺激遺伝子の細胞リプレッサー2(hCREG2)シグナルペプチド:
MSVRRGRRPARPGTRLSWLLCCSALLSPAAG(配列番号3)
V-セット及び膜貫通ドメイン含有2B(hVSTM2B)シグナルペプチド:MEQ
RNRLGALGYLPPLLLHALLLFVADA(配列番号4)
プロトカドヘリンα-1(hPCADHA1)シグナルペプチド:
MVFSRRGGLGARDLLLWLLLLAAWEVGSG(配列番号5)
FAM19A1(TAFA1)シグナルペプチド:
MAMVSAMSWVLYLWISACA(配列番号6)
インターロイキン-2シグナルペプチド:
MYRMQLLSCIALILALVTNS(配列番号14)があり得るが、これらに限
定されない。
シグナルペプチドは本明細書において、リーダー配列またはリーダーペプチドとも呼ぶこ
とができる。
【0012】
導入遺伝子を送達するために使用される組換えベクターは、神経細胞及び/またはグリ
ア細胞を含むがこれらに限定されない、CNSの細胞への向性を有するべきである。その
ようなベクターは非複製組換えアデノ随伴ウイルスベクター(「rAAV」)を含むこと
ができ、特にAAV9またはAAVrh10キャプシドを有するウイルスベクターが好ま
しい。これらに限定されないが、その全体が参照により本明細書に組み込まれている米国
特許第7,906,111号においてWilsonによって記載された、特に好ましくは
AAV/hu.31及びAAV/hu.32を有する、AAVバリアントキャプシド、な
らびにその各々の全体が参照により本明細書に組み込まれている米国特許第8,628,
966号、米国特許第8,927,514号、及びSmith et al.,2014
,Mol Ther 22:1625-1634においてChatterjeeによって
記載されたAAVバリアントキャプシドを使用することができる。しかしながら、「ネイ
キッドDNA」コンストラクト(5.2節を参照のこと)と呼ばれるレンチウイルスベク
ター、ワクシニアウイルスベクター、または非ウイルス性発現ベクターを含むがこれらに
限定されない、他のウイルスベクターを使用することができる。
【0013】
CSFへの投与に好適な医薬組成物は、生理的に適合性の水性緩衝剤、界面活性剤、及
び任意の賦形剤を含む製剤化緩衝液中のrHuGlyIDUAベクターの懸濁液を含む。
ある実施形態において、医薬組成物は、髄腔内投与に好適である。ある実施形態において
、医薬組成物は、大槽内投与(大槽内への注入)に好適である。ある実施形態において、
医薬組成物は、C1-2穿刺を介した、くも膜下腔内への注入に好適である。ある実施形
態において、医薬組成物は、脳室内投与に好適である。ある実施形態において、医薬組成
物は、腰椎穿刺を介する投与に好適である。
【0014】
組換えベクターの治療有効用量は、くも膜下腔内投与を介して(すなわち、くも膜下腔
内へ注入して、組換えベクターがCSFを通じて散布され、CNSの細胞が形質導入され
るようにする)、CSFに投与すべきである。このことは、いくつかの方法で、例えば、
頭蓋内(大槽または脳室内)注入、または腰椎槽への注入によって達成することができる
。例えば、(大槽内への)大槽内(IC)注入は、CTガイド後頭下穿刺によって実施す
ることができ、または、患者に実行できそうな場合は、C1-2穿刺を介してくも膜下腔
への注入を実施することができ、または、腰椎穿刺(典型的にCSFの試料を収集するた
めに実施される診断手順)を、CSFにアクセスするために使用することができる。ある
いは、脳室内(ICV)投与(血液脳関門を透過しない抗感染剤または抗がん剤の導入に
使用される、より侵襲的な技術)を使用して、組換えベクターを直接脳室内に滴下するこ
とができる。あるいは、鼻腔内投与を使用して、CNSに組換えベクターを送達してもよ
い。rHuGlyIDUAのCSF濃度を少なくとも9.25μg/mLのCmin、ま
たは9.25~277μg/mLの範囲の濃度に維持する用量を使用すべきである。
【0015】
CSF濃度は、後頭部または腰椎穿刺から得られるCSF流体中のrHuGlyIDU
Aの濃度を直接測定することによってモニタリングし、または患者の血清において検出さ
れたrHuGlyIDUAの濃度から外挿によって推定することができる。ある実施形態
において、血清中のrHuGlyIDUAが10ng/mL~100ng/mLであるこ
とは、CSF中のrHuGlyIDUAが1~30mgであることを示す。ある実施形態
において、組換えベクターは、血清中のrHuGlyIDUAを10ng/mL~100
ng/mLに維持する用量で、CSFに投与する。
【0016】
背景として、ヒトIDUAは、653アミノ酸のポリペプチドとして翻訳され、図1
おいて表される6つの可能性のある部位(N110、N190、N336、N372、N
415、及びN451)でN-グリコシル化される。シグナル配列が除去され、ポリペプ
チドはリソソーム内で成熟形態にプロセシングされる:75kDaの細胞内前駆体は数時
間で72kDaまでトリミングされ、最終的に、4~5日かけて66kDaの細胞内形態
にプロセシングされる。IDUAの分泌形態(使用するアッセイに応じて76kDaまた
は82kDa)は、マンノース-6-リン酸受容体を介して細胞に容易にエンドサイトー
シスされ、より小さい細胞内形態と同様にプロセシングされる。(その各々の全体が参照
により本明細書に組み込まれている、Myerowitz&Neufeld,1981,
J Biol Chem 256:3044-3048;Clements et al
.,1989,Biochem J.259:199-208;Taylor et a
l.,1991,Biochem J.274:263-268;及びZhao et
al.,1997 J Biol Chem 272:22758-22765を参照の
こと)。
【0017】
hIDUAの全体の構造は、3つのドメインからなる:残基42-396は、古典的な
(β/α)トリオースリン酸イソメラーゼ(TIM)バレルドメインを形成し、残基27
-42及び397-545は、短いへリックス-ループ-へリックス(482-508)
を有するβ-サンドイッチドメインを形成し、かつ残基546-642は、Ig様ドメイ
ンを形成する。最後に挙げた2つのドメインは、C541及びC577間のジスルフィド
架橋によって連結される。β-サンドイッチ及びIg様ドメインは、TIMバレルの1番
目、7番目、及び8番目のα-へリックスに結合される。β-ヘアピン(β12-β13
)は、TIMバレルの8番目のβ-ストランド及び8番目のα-へリックスの間に挿入さ
れ、これは基質結合及び酵素活性に要求されるN-グリコシル化N372を含む。(図1
、及びその各々の全体が参照により本明細書に組み込まれているMaita et al
.,2013,PNAS 110:14628-14633,及びSaito et a
l.,2014,Mol Genet Metab 111:107-112に記載の結
晶構造を参照のこと)。
【0018】
本発明は部分的に、以下の原理に基づく:
(i)CNSの神経細胞及びグリア細胞はCNSにおけるロバストなプロセスである、
グリコシル化及びチロシン-O-硫酸化を含む分泌タンパク質の翻訳後プロセシングのた
めの細胞機構を有する分泌細胞である。ヒトCNS細胞が行う翻訳後修飾についての、そ
の各々の全体が参照により組み込まれている、例えばヒト脳マンノース-6-リン酸(M
6P)グリコプロテオームについて記載され、脳が他の組織に見出されるよりはるかに多
くの個々のアイソフォームを有するより多くのタンパク質及びマンノース-6-リン酸化
タンパク質を含むことを注記した、Sleat et al.,2005,Proteo
mics 5:1520-1532、及びSleat 1996,J Biol Che
m 271:19191-98、ならびに神経細胞によって分泌されたチロシン硫酸化糖
タンパク質の産生を報告しているKanan et al.,2009,Exp.Eye
Res.89:559-567及びKanan&Al-Ubaidi,2015,Ex
p.Eye Res.133:126-131を参照のこと。
(ii)hIDUAは、図1と特定される6つのアスパラギン(「N」)のグリコシル
化部位を有する(N110FT;N190VS;N336TT;N372NT;N415
HT;N451RS)。N372のN-グリコシル化は、基質との結合及び酵素活性に要
求され、かつマンノース-6-リン酸化は分泌された酵素の細胞取り込み及びMPS I
細胞の横断修正に要求される。N-結合型グリコシル化部位は、複合型、ハイマンノース
型、及びリン酸化マンノース糖質部分を含むが(図4)、分泌形態のみが細胞によって取
り込まれる(Myerowitz&Neufeld,1981,上記)。本明細書に記載
の遺伝子治療アプローチは、ポリアクリルアミドゲル電気泳動によって測定した場合に7
6~82kDaの(使用するアッセイに応じて)、2,6-シアル酸付加され、及びマン
ノース-6リン酸化された、IDUA糖タンパク質の継続的分泌をもたらすべきである。
分泌されたグリコシル化/リン酸化IDUAは、CNSの形質導入されていない神経細胞
及びグリア細胞によって取り込まれ、かつ正しくプロセシングされるべきである。
(iii)リソソームタンパク質の細胞性及び細胞内輸送/取り込みは、M6Pを介す
る。Daniele 2002(Biochimica et Biophysica
Acta 1588(3):203-9)においてイズロン酸-2-スルファターゼ酵素
について行われたように、分泌タンパク質のM6P含有量を測定することは、可能である
。(例えば、5mMの)抑制性M6Pの存在下では、非神経細胞または非グリア細胞、例
えばDaniele 2002の遺伝子操作された腎細胞によって生成された酵素前駆体
の取り込みは、Daniele 2002に示されたように、対照細胞のレベルに近いレ
ベルまで減少すると予測される。抑制性M6Pの存在下であっても、脳細胞、例えば神経
細胞及びグリア細胞によって生成される酵素前駆体の取り込みは、取り込み量が対照細胞
より4倍高く、抑制性M6Pの非存在下で遺伝子操作された腎細胞によって生成された酵
素前駆体の酵素活性(すなわち、取り込み)のレベルと同等であったDaniele 2
002に示されたように高レベルを維持すると予測される。このアッセイを用いると、脳
細胞によって生成される酵素前駆体のM6P含有量を予測し、特に、異なる種類の細胞に
よって生成される酵素前駆体中のM6P含有量を比較することが可能となる。本明細書に
記載の遺伝子治療アプローチは、そのようなアッセイにおいて抑制性M6Pの存在下で、
高レベルで神経細胞及びグリア細胞に取り込まれ得る、hIDUAの継続的分泌をもたら
すべきである。
(iv)N-結合型グリコシル化部位に加えて、hIDUAは、結合及び活性のために
要求されるN372を含有するドメインの近くに、チロシン(「Y」)硫酸化部位(AD
TPIY296NDEADPLVGWS)を含有する。(例えば、その全体が参照により
組み込まれている、タンパク質チロシン硫酸化を受けるチロシン残基を取り囲むアミノ酸
の解析についてのYang et al.,2015,Molecules 20:21
38-2164、特に、p.2154を参照のこと。「規則」は、以下の通りに要約する
ことができる:Y残基がYの+5~-5位内にEまたはDを有し、かつYの-1位が中性
または酸性荷電アミノ酸であるが、硫酸化を無効化する塩基性アミノ酸、例えばR、K、
またはHではない)。いかなる理論に束縛されることも意図するものではないが、チロシ
ン硫酸化領域内の突然変異(例えば、W306L)が酵素活性の減少及び疾患と関連する
ことは公知であるため、hIDUAのこの部位の硫酸化は活性にきわめて重要となり得る
。(Maita et al.,2013,PNAS 110:14628、pp.14
632-14633を参照のこと)。
(v)CNSのヒト細胞によるhIDUAのグリコシル化により、安定性、半減期を向
上させ、かつ導入遺伝子産物の望まない凝集を減らすことができるグリカンが付加される
。大事なことに、本発明のHuGlyIDUAに付加されるグリカンは2,6-シアル酸
を含み、Neu5Ac(「NANA」)を組み込むが、そのヒドロキシル化誘導体Neu
Gc(N-グリコリルノイラミン酸、すなわち「NGNA」または「Neu5Gc」)を
組み込まない高度にプロセシングされた複合型二分岐N-グリカンである。そのようなグ
リカンは、この翻訳後修飾を行うのに要求される2,6-シアリルトランスフェラーゼを
有さず、バイセクティングGlcNAcも産生しないが、Neu5Ac(NANA)の代
わりにヒトにとって典型的でない(かつ潜在的に免疫原性の)シアル酸であるNeu5G
c(NGNA)を付加するCHO細胞において作製されるラロニダーゼには存在しない。
例えば、Dumont et al.,2016,Critical Rev in B
iotech 36(6):1110-1122(Early Online pp.1
-13、p.5)、及びHague et al.,1998 Electrophor
19:2612-2630(「CHO細胞株は、α2,6-シアリルトランスフェラー
ゼの欠如のため、グリコシル化に関して『表現形上制限されている』と考えられている」
)を参照のこと。さらに、CHO細胞は大部分の個体に存在する抗α-Gal抗体と反応
して、高濃度でアナフィラキシーを誘発し得る免疫原性グリカン、α-Gal抗原も生産
し得る。例えば、Bosques,2010,Nat Biotech 28:1153
-1156を参照のこと。本発明のHuGlyIDUAのヒトグリコシル化パターンは、
導入遺伝子産物の免疫原性を低下させ、かつ効力を向上させるべきである。
(vi)ヒトCNS細胞におけるロバストな翻訳後プロセスである、hIDUAのチロ
シン硫酸化は、導入遺伝子産物のプロセシング及び活性を向上させるべきである。リソソ
ームタンパク質のチロシン硫酸化の意義は、明らかにされていない;しかし、他のタンパ
ク質では、タンパク質-タンパク質相互作用(抗体及び受容体)のアビディティが増大し
、タンパク質分解性プロセシング(ペプチドホルモン)が促進されることが示されている
。(Moore,2003,J Biol.Chem.278:24243-46;及び
Bundegaard et al.,1995,The EMBO J 14:307
3-79を参照のこと)。チロシン硫酸化(IDUAプロセシングの最終ステップとして
起こる場合がある)を担うチロシンタンパク質スルホトランスフェラーゼ(TPST1)
は、明らかに脳(TPST1のための遺伝子発現データは、例えば、http://ww
w.ebi.ac.uk/gxa/homeにてアクセス可能なEMBL-EBI Ex
pression Atlasに見出すことができる)でより高いレベル(mRNAに基
づいて)で発現する。そのような翻訳後修飾は、最高でも、CHO細胞産物であるラロニ
ダーゼにおいて少数しか存在しない。ヒトCNS細胞とは異なり、CHO細胞は、分泌細
胞ではなく、翻訳後チロシン硫酸化のための能力が限られている。(例えば、Mikke
lsen&Ezban,1991,Biochemistry 30:1533-153
7、特にp.1537の考察を参照のこと)。
(vii)導入遺伝子産物の免疫原性は、患者の免疫状態、注入されたタンパク質薬物
の構造及び特徴、投与経路、ならびに治療の持続時間を含む様々な因子によって誘導され
得る。プロセス関連不純物、例えば宿主細胞タンパク質(HCP)、宿主細胞DNA、及
び化学的残留物、ならびに産物関連不純物、例えばタンパク質分解物及び構造特製、例え
ばグリコシル化、酸化、及び凝集(肉眼不可視粒子)は免疫反応を増強するアジュバント
としての機能を果たすことによって免疫原性を増加させる場合がある。プロセス関連及び
産物関連不純物の量は、製造プロセス:商業的に製造されるIDUA産物に影響を及ぼし
得る細胞培養、精製、製剤化、保存、及び取扱いの影響を受け得る。遺伝子治療では、タ
ンパク質はin vivoで生産され、その結果、プロセス関連不純物は存在せず、タン
パク質産物は組換え技術によって生産されるタンパク質と関連した生産物関連不純物/分
解物、例えばタンパク質凝集物及びタンパク質酸化物を含む可能性は低い。凝集は、例え
ば、タンパク質生産及び貯蔵と関連付けられ、高いタンパク質濃度、製造装置及び容器と
の表面相互作用、ならびに特定の緩衝液システムを用いた精製プロセスに起因する。しか
し、導入遺伝子をin vivoで発現させる場合、凝集を促進するこれらの条件は存在
しない。また、酸化、例えばメチオニン、トリプトファン、及びヒスチジンの酸化は、タ
ンパク質生産及び貯蔵と関連付けられ、例えばストレス負荷された細胞培養条件、金属及
び空気との接触、ならびに緩衝液及び賦形剤中の不純物によって引き起こされる。in
vivoで発現されるタンパク質は、ストレス負荷条件下で酸化され得るが、ヒトは多く
の生物と同様に、抗酸化防衛システムを備えており、それにより酸化ストレスが低下する
だけでなく、酸化を修復、及び/または逆行させもする。したがって、in vivoで
生産されるタンパク質が、酸化形態にある可能性は低い。凝集及び酸化は両方とも、効力
、PK(クリアランス)に影響を及ぼし得、免疫原となる懸念を増大させ得る。本明細書
に記載の遺伝子治療アプローチは、商業的に製造された産物と比較して免疫原性の低下し
たhIDUAの継続的分泌をもたらすべきである。
【0019】
前述の理由のために、HuGlyIDUAの生産は、例えば、MPS I疾患(ハーラ
ー、ハーラー-シャイエ、またはシャイエを含むが、これらに限定はされない)と診断さ
れる患者(ヒト対象)のCSFにHuGlyIDUAをコードするウイルスベクターまた
は他のDNA発現コンストラクトを投与して、形質導入されたCNS細胞によって分泌さ
れる完全ヒトグリコシル化、マンノース-6-リン酸化、硫酸化導入遺伝子産物を継続的
に供給するCNS中の永続的なデポーを作製することによる、遺伝子治療によって達成さ
れるMPS Iの治療のための「バイオベター」分子をもたらすべきである。デポーから
CSF中に分泌されるHuGlyIDUA導入遺伝子産物は、CNS中の細胞によりエン
ドサイトーシスされ、MPS Iレシピエント細胞における酵素欠陥を「横断修正」する
【0020】
遺伝子治療またはタンパク質治療アプローチにおいて生産される全てのhIDUA分子
が完全にグリコシル化され、硫酸化されることは、必須ではない。むしろ、生産される糖
タンパク質の集団は、有効性を実証するのに十分なグリコシル化(2,6-シアル酸付加
及びマンノース-6-リン酸化を含む)及び硫酸化を受けるべきである。本発明の遺伝子
治療処置の目的は、疾患の進行を減速させ、または停止させることである。有効性は、認
知機能(例えば、神経認知機能の低下の防止もしくは減少);CSF及び/もしくは血清
中の疾患バイオマーカー(例えば、GAG)の低下;及び/または、CSF及び/もしく
は血清のIDUA酵素活性の増加を測定することによってモニタリングすることができる
。炎症の徴候及び他の安全事象をモニタリングすることもできる。
【0021】
遺伝子治療に対する代替または追加治療として、rHuGlyIDUA糖タンパク質は
組換えDNA技術によってヒト細胞株で生産することができ、糖タンパク質は、ERTの
ために、全身的に及び/またはCSFに、MPS Iと診断された患者に投与することが
できる。そのような組換え糖タンパク質生産のために使用することができるヒト細胞株は
、これらに限定されないが、数例を挙げればHT-22、SK-N-MC、HCN-1A
、HCN-2、NT2、SH-SY5y、hNSC11、ReNcell VM、ヒト胎
児腎293細胞(HEK293)、線維肉腫HT-1080、HKB-11、CAP、H
uH-7、及び網膜細胞株、PER.C6、またはRPEを含む(例えば、その全体が参
照により組み込まれている、rHuGlyIDUA糖タンパク質の組換え生産のために使
用することができるヒト細胞株の総説についてのDumont et al.,2016
,Critical Rev in Biotech 36(6):1110-1122
の「Human cell lines for biopharmaceutical
manufacturing: history,status,and futur
e perspectives」を参照のこと)。完全なグリコシル化、特にシアル酸付
加及びチロシン硫酸化を保証するために、生産に使用する細胞株をチロシン-O-硫酸化
を担うα-2,6-シアリルトランスフェラーゼ(またはα-2,3-及びα-2,6-
シアリルトランスフェラーゼの両方)及び/またはTPST-1及びTPST-2酵素を
共発現するように宿主細胞を操作することによって強化することができる。
【0022】
rHuGlyIDUAの送達が免疫反応を最小化すべきである一方、CNS関連遺伝子
治療に関する毒性の最も明白な潜在的源は、遺伝的にIDUAを欠損しており、したがっ
てタンパク質及び/または導入遺伝子を送達するために用いるベクターを潜在的に寛容し
ないヒト対象において、発現されたhIDUAタンパク質に対する免疫が発生する。
【0023】
したがって、好ましい実施形態では、患者を免疫抑制治療で共治療することは、特にI
DUAのレベルが0に近い重度の疾患(例えば、ハーラー)を有する患者を治療する場合
に、適切である。タクロリムスまたはラパマイシン(シロリムス)を、例えばミコフェノ
ール酸と組合わせた、もしくはプレドニゾロン及び/またはメチルプレドニゾロンなどの
コルチコステロイドと組合わせたレジメン、または組織移植手順において使用される他の
免疫抑制レジメンを伴う免疫抑制治療を、利用することができる。そのような免疫抑制治
療は、遺伝子治療の過程で投与することができ、ある実施形態において、免疫抑制治療に
よる前処理が好ましい場合がある。免疫抑制治療は、治療医師の判断に基づいて、遺伝子
治療処置の後も継続することができ、その後、免疫寛容が誘発された場合、例えば、18
0日後に、中止してもよい。
【0024】
他の利用可能な治療の送達を伴うCSFへのHuGlyIDUAの送達の組合わせは、
本発明の方法に包含される。追加治療は、遺伝子治療処置の前に、それと同時に、または
その後に投与することができる。本発明の遺伝子治療と併用することができるMPS I
のための利用可能な治療には、これらに限定はされないが、全身的に、もしくはCSFに
投与されるラロニダーゼを使用する酵素補充療法及び/またはHSCT療法が挙げられる

(例示的実施形態)
1.ムコ多糖症I型(MPS I)と診断されたヒト対象の治療方法であって、該ヒト対
象の脳の脳脊髄液にヒト神経細胞によって生産された治療有効量の組換えヒトα-L-イ
ズロニダーゼ(IDUA)を送達することを含む、方法。
2.MPS Iと診断されたヒト対象の治療方法であって、該ヒト対象の脳の脳脊髄液に
ヒトグリア細胞によって生産された治療有効量の組換えヒトIDUAを送達することを含
む、方法。
3.該ヒトIDUAによる治療の前に、またはそれと同時に、免疫抑制治療を該対象に施
し、かつその後も免疫抑制治療を継続することをさらに含む、パラグラフ1または2に記
載の方法。
4.MPS Iと診断されたヒト対象の治療方法であって、
該ヒト対象の脳の脳脊髄液に治療有効量のα2,6-シアル酸付加ヒトIDUAを送達す
ることを含む、方法。
5.ムコ多糖症I型(MPS I)と診断されたヒト対象の治療方法であって、
該ヒト対象の脳の脳脊髄液に検出可能なNeuGcを含まない治療有効量のグリコシル化
ヒトIDUAを送達することを含む、方法。
6.ムコ多糖症I型(MPS I)と診断されたヒト対象の治療方法であって、
該ヒト対象の脳の脳脊髄液に検出可能なNeuGc及び/またはα-Gal抗原を含まな
い治療有効量のグリコシル化ヒトIDUAを送達することと、
該ヒトIDUAによる治療の前に、またはそれと同時に、免疫抑制治療を該対象に施し、
かつその後も免疫抑制治療を継続することと、を含む、方法。
7.ムコ多糖症I型(MPS I)と診断されたヒト対象の治療方法であって、
該ヒト対象の脳の脳脊髄液にチロシン硫酸化を含む治療有効量のヒトIDUAを送達する
ことを含む、方法。
8.ムコ多糖症I型(MPS I)と診断されたヒト対象の治療方法であって、該ヒト対
象の脳にヒトIDUAをコードする発現ベクターを投与することであって、該IDUAが
ヒト不死化神経細胞において該発現ベクターから発現される際にα2,6-シアル酸付加
される、投与することを含む、方法。
9.ムコ多糖症I型(MPS I)と診断されたヒト対象の治療方法であって、該ヒト対
象の脳にヒトIDUAをコードする発現ベクターを投与することであって、該IDUAが
ヒト不死化神経細胞において該発現ベクターから発現される際にグリコシル化されるが検
出可能なNeuGcを含まない、投与することを含む、方法。
10.ムコ多糖症I型(MPS I)と診断されたヒト対象の治療方法であって、該ヒト
対象の脳にヒトIDUAをコードする発現ベクターを投与することであって、該IDUA
がヒト不死化神経細胞において該発現ベクターから発現される際にグリコシル化されるが
検出可能なNeuGc及び/またはα-Gal抗原を含まない、投与することを含む、方
法。
11.ムコ多糖症I型(MPS I)と診断されたヒト対象の治療方法であって、該ヒト
対象の脳にヒトIDUAをコードする発現ベクターを投与することであって、該IDUA
がヒト不死化神経細胞において該発現ベクターから発現される際にチロシン硫酸化される
、投与することを含む、方法。
12.ムコ多糖症I型(MPS I)と診断されたヒト対象の治療方法であって、
該ヒト対象の脳の脳脊髄液に治療有効量のヒトIDUAをコードする組換えヌクレオチド
発現ベクターを投与することであって、その結果α2,6-シアル酸付加グリカンを含む
該IDUAを放出するデポーが形成される、投与することを含む、方法。
13.ムコ多糖症I型(MPS I)と診断されたヒト対象の治療方法であって、
該ヒト対象の脳の脳脊髄液に治療有効量のヒトIDUAをコードする組換えヌクレオチド
発現ベクターを投与することであって、その結果検出可能なNeuGcを含まないグリコ
シル化ヒトIDUAを放出するデポーが形成される、投与することを含む、方法。
14.ムコ多糖症I型(MPS I)と診断されたヒト対象の治療方法であって、
該ヒト対象の脳の脳脊髄液に治療有効量のヒトIDUAをコードする組換えヌクレオチド
発現ベクターを投与することであって、その結果検出可能なNeuGc及び/またはα-
Gal抗原を含まないグリコシル化ヒトIDUAを放出するデポーが形成される、投与す
ることを含む、方法。
15.ムコ多糖症I型(MPS I)と診断されたヒト対象の治療方法であって、
該ヒト対象の脳の脳脊髄液に、治療有効量のヒトIDUAをコードする組換えヌクレオチ
ド発現ベクターを投与することにより、チロシン硫酸化を含む前記IDUAを放出するデ
ポーが形成される、投与することを含む、方法。
16.該ヒトIDUAによる治療の前に、またはそれと同時に、該対象に、(a)タクロ
リムス及びミコフェノール酸、(b)ラパマイシン及びミコフェノール酸、または(c)
タクロリムス、ラパマイシン、及びコルチコステロイド、例えばプレドニゾロン及び/ま
たはメチルプレドニゾロンの組合わせを投与することを含む、免疫抑制療法を該対象に施
し、かつその後も継続することをさらに含む、パラグラフ3~15のいずれか1つに記載
の方法。
17.該免疫抑制治療を180日後に中止する、パラグラフ16に記載の方法。
18.該ヒトIDUAが配列番号1のアミノ酸配列を含む、パラグラフ1~17のいずれ
か1項に記載の方法。
19.該ヒトIDUAによる治療の前に、またはそれと同時に、該対象に、(a)タクロ
リムス及びミコフェノール酸、(b)ラパマイシン及びミコフェノール酸、または(c)
タクロリムス、ラパマイシン、及びコルチコステロイド、例えばプレドニゾロン及び/ま
たはメチルプレドニゾロンの組合わせを投与することを含む、免疫抑制療法を該対象に施
すことをさらに含む、パラグラフ18に記載の方法。
20.該免疫抑制治療を180日後に中止する、パラグラフ19に記載の方法。
21.α2,6-シアル酸付加グリカンを含む該IDUAの生産を、細胞培養中でヒト神
経細胞株を該組換えヌクレオチド発現ベクターを用いて形質導入することにより確認する
、パラグラフ12に記載の方法。
22.検出可能なNeuGcを含まない該グリコシル化IDUAの生産を、細胞培養中で
ヒト神経細胞株を該組換えヌクレオチド発現ベクターを用いて形質導入することにより確
認する、パラグラフ13に記載の方法。
23.検出可能なNeuGc及び/またはα-Gal抗原を含まない該グリコシル化ID
UAの生産を、細胞培養中でヒト神経細胞株を該組換えヌクレオチド発現ベクターを用い
て形質導入することにより確認する、パラグラフ14のいずれか1つに記載の方法。
24.チロシン硫酸化を含む該IDUAの生産を、細胞培養中でヒト神経細胞株を該組換
えヌクレオチド発現ベクターを用いて形質導入することにより確認する、パラグラフ15
に記載の方法。
25.生産をマンノース-6-リン酸の存在下及び非存在下で確認する、パラグラフ21
~24のいずれか1つに記載の方法。
26.該発現ベクターまたは組換えヌクレオチド発現ベクターが、シグナルペプチドをコ
ードする、パラグラフ8~15及び21~25のいずれか1つに記載の方法、またはパラ
グラフ8~15のいずれか1つに直接的もしくは間接的に従属する場合のパラグラフ16
~17のいずれか1つに記載の方法。
27.ムコ多糖症I型(MPS I)と診断されたヒト対象の治療方法であって、
該ヒト対象の脳の脳脊髄液に治療有効量のヒトIDUAをコードする組換えヌクレオチド
発現ベクターを投与することであって、その結果α2,6-シアル酸付加グリカンを含む
該IDUAを放出するデポーが形成される、投与することと、を含み、
該組換えベクターは、培養中でヒト神経細胞への形質導入に使用する場合、該細胞培養中
で該α2,6-シアル酸付加グリカンを含む該IDUAを生産する、方法。
28.ムコ多糖症I型(MPS I)と診断されたヒト対象の治療方法であって、該ヒト
対象の脳の脳脊髄液に治療有効量のヒトIDUAをコードする組換えヌクレオチド発現ベ
クターを投与することであって、その結果検出可能なNeuGcを含まないグリコシル化
IDUAを放出するデポーが形成される、投与することを含み、該組換えベクターは、培
養中でヒト神経細胞への形質導入に使用する場合、該細胞培養中でグリコシル化されるが
検出可能なNeuGcを含まない該IDUAを生産する、方法。
29.ムコ多糖症I型(MPS I)と診断されたヒト対象の治療方法であって、該ヒト
対象の脳の脳脊髄液に治療有効量のヒトIDUAをコードする組換えヌクレオチド発現ベ
クターを投与することであって、その結果検出可能なNeuGc及び/またはα-Gal
抗原を含まないグリコシル化IDUAを放出するデポーが形成される、投与することを含
み、該組換えベクターは、培養中でヒト神経細胞への形質導入に使用する場合、該細胞培
養中でグリコシル化されるが検出可能なNeuGc及び/またはα-Gal抗原を含まな
い該IDUAを生産する、方法。
30.ムコ多糖症I型(MPS I)と診断されたヒト対象の治療方法であって、
該ヒト対象の脳の脳脊髄液に治療有効量のヒトIDUAをコードする組換えヌクレオチド
発現ベクターを投与することであって、その結果チロシン硫酸化を含む該IDUAを放出
するデポーが形成される、投与することを含み、
該組換えベクターは、培養中でヒト神経細胞への形質導入に使用する場合、該細胞培養中
でチロシン硫酸化された該IDUAを生産する、方法。
31.該ヒトIDUAによる治療の前に、またはそれと同時に、該対象に、(a)タクロ
リムス及びミコフェノール酸、(b)ラパマイシン及びミコフェノール酸、または(c)
タクロリムス、ラパマイシン、及びコルチコステロイド、例えばプレドニゾロン及び/ま
たはメチルプレドニゾロンの組合わせを投与することを含む、免疫抑制療法を該対象に施
し、かつその後も継続することをさらに含む、パラグラフ27~30のいずれかに記載の
方法。
32.該免疫抑制治療を180日後に中止する、パラグラフ31に記載の方法。
33.該ヒト対象が3歳未満である、パラグラフ1~32のいずれか1つに記載の方法。
34.該ヒト対象が3歳未満であり、該発現ベクターまたは該組換えヌクレオチド発現ベ
クターが、2×10GC/g脳質量、1×1010GC/g脳質量、または5×10
GC/g脳質量(例えば、単回固定用量)の用量で投与される(例えば、IC投与(例
えば、後頭下注入によって))、パラグラフ8~15及び21~33のいずれか1つに記
載の方法、または請求項8~15のいずれか1項に直接的もしくは間接的に従属する場合
のパラグラフ16~20のいずれか1つに記載の方法。
35.該ヒト対象が3歳未満であり、該発現ベクターまたは該組換えヌクレオチド発現ベ
クターが、2×10GC/g脳質量~1×1010GC/g脳質量(例えば、単回固定
用量)の用量で投与される(例えば、IC投与(例えば、後頭下注入によって))、パラ
グラフ8~15及び21~33のいずれか1つに記載の方法、または請求項8~15のい
ずれか1項に直接的もしくは間接的に従属する場合のパラグラフ16~20のいずれか1
つに記載の方法。
36.該ヒト対象が3歳未満であり、該発現ベクターまたは該組換えヌクレオチド発現ベ
クターが、1×1010GC/g脳質量~5×1010GC/g脳質量(例えば、単回固
定用量)の用量で投与される(例えば、IC投与(例えば、後頭下注入によって))、パ
ラグラフ8~15及び21~33のいずれか1つに記載の方法、または請求項8~15の
いずれか1項に直接的もしくは間接的に従属する場合のパラグラフ16~20のいずれか
1つに記載の方法。
【図面の簡単な説明】
【0025】
(4.図面の簡単な説明)
図1】ヒトIDUAのアミノ酸配列である。6つのN-結合型グリコシル化部位(N)は、太字にして下線を引いてある;1つのチロシン-O-硫酸化部位(Y)は太字にして下線を引き、完全な硫酸化部位配列は網掛けをつけてある;かつジスルフィド結合(2つのシステイン残基;C)は、太字にして、下線を引いてある。CHO細胞中で作製される分泌型組換え産物のN末端はA26であるが、ヒト肝臓のネイティブ細胞内酵素のN末端はE27である(Kakkis et al.,1994,Prot Exp Purif 5:225-232,p.230を参照のこと)。
【0026】
図2】hIDUAの公知のオーソログとのマルチプル配列アラインメントである。配列は、Clustal X ver.2を使用してアラインした(Larkin MA,et al.,2007,Clustal W and Clustal X version 2.0.Bioinformatics 23(21):2947-2948)。種の名前及びタンパク質IDは、以下の通りである:ヒト(Homo sapiens;NP_000194.2)、イヌ(Canis familiaris;M81893.1)、ウシ(Bos taurus;XP_002688492.1)、マウス(Mus musculus;NP_032351.2)、ラット(Rattus norvegicus;NP_001165555.1)、カモノハシ(Ornithorhynchus anatinus;XP_001514102.2)、ニワトリ(Gallus gallus;NP_001026604.1)、アフリカツメガエル(Xenopus laevis;NP_001087031.1)、ゼブラフィッシュ(Danio rerio;XP_001923689.3)、ウニ(Strongylocentrotus purpuratus;XP_796813.3)ユウレイボヤ(Ciona intestinalis;XP_002120937.1)、及びショウジョウバエ(Drosophila melanogaster;NP_609489.1)。ヒトタンパク質(N110、N190、N336、N372、T374、N415、N451)のN-グリコシル化部位;基質結合に関与する残基(R89、H91、N181、E182、H262、K264、E299、D349、及びR363)及びN372でのN-グリカンとの相互作用に関与する残基(P54、H58、W306、S307、Y355、R368及びQ370)は、網掛けによって示す。(適応元:Maita et al.,2013,PNAS 110:14628-14633;Supplementary Material,Fig.S8)。
【0027】
図3】MPS I突然変異、IDUAの構造変化及び表現型である。(Saito et al.,Mol Genet Metab 111:107-112,Table 3より)。
【0028】
図4】CHO細胞によって分泌された組換えヒトα-L-イズロニダーゼの6つのグリコシル化部位のオリゴ糖である。Cは複合型;Mはハイマンノース型;Pは、リン酸化されたハイマンノース型である。大文字はよく識別された、主要なオリゴ糖を意味するが、小文字は軽微なまたは不完全に特徴づけられた構成要素を意味する。(Zhao et al.,1997,J Biol Chem 272:22758-22765より)。
【0029】
図5】AAVキャプシド1~9のClustalマルチプル配列アラインメントである(配列番号16~26)。他のアラインされたAAVキャプシドの対応する位置からアミノ酸残基を「動員する」ことによって、アミノ酸置換(一番下の列に太字で示す)がAAV9及びAAV8キャプシドになされ得る。「HVR」=超可変領域と呼ばれる配列領域である。
【発明の詳細な説明】
【0030】
5.発明の詳細な説明
本発明はハーラー、ハーラー-シャイエ、またはシャイエ症候群と診断された患者を含
むが、これらに限定されないムコ多糖症I型(MPS I)と診断されたヒト対象の中枢
神経系の脳脊髄液(CSF)に完全ヒトグリコシル化(HuGly)α-L-イズロニダ
ーゼ(HuGlyIDUA)を送達することを含む。好ましい実施形態において、治療は
遺伝子治療を介して、例えば、ヒトIDUA(hIDUA)またはhIDUAの誘導体を
コードするウイルスベクターまたは他のDNA発現コンストラクトをMPS Iと診断さ
れた患者(ヒト対象)のCSFに投与して、継続的に完全ヒトグリコシル化導入遺伝子産
物をCNSに供給する形質導入細胞の永続的なデポーを作製することにより、達成される
。デポーからCSFに分泌されるHuGlyIDUAは、CNS中の細胞によってエンド
サイトーシスされて、レシピエント細胞における酵素欠損を「横断修正(cross-c
orrection)」する。代替の実施形態において、HuGlyIDUAを細胞培養
で生産して、酵素補充療法(「ERT」)として、例えば酵素を注入することにより投与
することができる。しかしながら、遺伝子治療アプローチは、ERTを上回るいくつかの
利点を提供する-酵素は血液脳関門を通過することができないため、酵素の全身送達によ
ってはCNSは治療されず;かつ本発明の遺伝子治療アプローチとは異なり、CNSへの
酵素の直接の送達には、大きな負担となるだけでなく感染のリスクを生む反復注入が必要
となるであろう。
【0031】
導入遺伝子によってコードされるHuGlyIDUAは、これらに限定はされないが、
配列番号1のアミノ酸配列を有するヒトIDUA(hIDUA)(図1に示す)、ならび
にアミノ酸の置換、欠失、または付加を有する、例えばこれらに限定はされないが、図2
に示すIDUAのオーソログ中に対応する非保存的残基から選択されるアミノ酸置換を含
む、hIDUAの誘導体を含むことができる(ただし、そのような突然変異が、図3に示
す(その全体が参照により本明細書に組み込まれているSaito et al.,20
14,Mol Genet Metab 111:107-112の57個のMPS I
突然変異を列記する表3より)、またはその各々の全体が参照により本明細書に組み込ま
れているVenturi et al.,2002,Human Mutation #
522 Online(「Venturi 2002」)、もしくはBertola e
t al.,2011 Human Mutation 32:E2189-E2210
(「Bertola 2011」)によって報告された、重度の、中程度に重度の、中程
度の、もしくは軽症型MPS I表現型において同定されたいずれの突然変異も含まない
ことを条件とする)hIDUAの誘導体を含むことができる。
【0032】
例えば、hIDUAの特定位置でのアミノ酸置換は図2(その全体が参照により本明細
書に組み込まれているMaita et al.,2013,PNAS 110:146
28、図S8に報告されたオーソログのアラインメントを示す)に表されるIDUAオー
ソログにおけるその位置に見出される対応する非保存的アミノ酸残基から選択することが
できる(ただし、そのような置換は図3に示されるか、または上記Venturi 20
02もしくはBertola 2011において報告される有害な突然変異のいずれも含
まないことを条件とする)。結果として得られる導入遺伝子産物は、細胞培養または試験
動物で、突然変異がIDUA機能を損なわないことを保証するためのin vitroで
の従来のアッセイを使用して試験することができる。選択される好ましいアミノ酸置換、
欠失、または付加は、細胞培養または動物モデルにおけるMPS Iのためのin vi
troでの従来のアッセイによって試験されるIDUAの酵素活性、安定性、または半減
期を維持するか、または増加させるものとするべきである。例えば、導入遺伝子産物の酵
素活性は基質として4-メチルウンベリフェリルα-L-イズロニドを用いる従来の酵素
アッセイを使用して評価することができる(使用可能な例示的なIDUA酵素アッセイに
ついては、例えば、その各々の全体が参照により本明細書に組み込まれている、Hopw
ood et al.,1979,Clin Chim Acta 92:257-26
5;Clements et al.,1985,Eur J Biochem 152
:21-28;及びKakkis et al.,1994,Prot Exp Pur
if 5:225-232を参照のこと)。導入遺伝子産物がMPS I表現型を修正す
る能力は、例えば、培養中でMPS I細胞にhIDUAまたは誘導体をコードするウイ
ルスベクターもしくは他のDNA発現コンストラクトを形質導入することにより、培養中
のMPS I細胞にrHuGlyIDUAもしくは誘導体を加えることにより、またはM
PS I細胞をrHuGlyIDUAもしくは誘導体を発現及び分泌するように操作した
ヒト宿主細胞と共培養することにより、細胞培養中で評価し、例えば、培養中のMPS
I細胞におけるIDUA酵素活性及び/またはGAG貯蔵量の低下を検出することにより
、MPS I培養細胞の欠陥の修正を決定することができる(例えば、その各々の全体が
参照により本明細書に組み込まれているMyerowitz&Neufeld,1981
,J Biol Chem 256:3044-3048;及びAnson et al
.1992,Hum Gene Ther 3:371-379を参照のこと)。
【0033】
MPS Iのための動物モデルは、マウス(例えば、Clarke et al.,1
997,Hum Mol Genet 6(4):503-511を参照のこと)、短毛
の雑種ネコ(例えば、Haskins et al.,1979,Pediatr Re
s 13(11):1294-97を参照のこと)、及びいくつかの品種のイヌ(例えば
、Menon et al.,1992,Genomics 14(3):763-76
8;Shull et al.,1982,Am J Pathol 109(2):2
44-248を参照のこと)について記載されている。イヌのMPS Iモデルは、ID
UA突然変異により検出可能なタンパク質が喪失するため、MPS Iの最も重度の形態
であるハーラー症候群に類似している。IDUAタンパク質間の遺伝子相同性が高いこと
図2のアラインメントを参照のこと)は、hIDUAが動物において機能的であること
を意味し、hIDUAを包含する治療はこれらの動物モデルで試験することができる。
【0034】
好ましくは、rHuGlyIDUA導入遺伝子は、神経細胞及び/またはグリア細胞に
おいて機能する発現制御エレメント、例えば、CB7プロモーター(ニワトリβ-アクチ
ンプロモーター及びCMVエンハンサー)によって制御されるべきであり、かつベクター
によって駆動される導入遺伝子の発現を増強する他の発現制御エレメント(例えば、ニワ
トリβ-アクチンイントロン及びウサギβ-グロビンポリAシグナル)を含むことができ
る。huIDUA導入遺伝子のためのcDNAコンストラクトには、形質導入されたCN
S細胞による適切な翻訳中及び翻訳後プロセシング(グリコシル化及びタンパク質硫酸化
)を保証するシグナルペプチドのためのコード配列を含めるべきである。CNS細胞によ
って使用されるそのようなシグナルペプチドには:
オリゴデンドロサイト-ミエリン糖タンパク質(hOMG)シグナルペプチド:
MEYQILKMSLCLFILLFLTPGILC(配列番号2)
E1A刺激遺伝子の細胞リプレッサー2(hCREG2)シグナルペプチド:
MSVRRGRRPARPGTRLSWLLCCSALLSPAAG(配列番号3)
V-セット及び膜貫通ドメイン含有2B(hVSTM2B)シグナルペプチド:MEQ
RNRLGALGYLPPLLLHALLLFVADA(配列番号4)
プロトカドヘリンα-1(hPCADHA1)シグナルペプチド:
MVFSRRGGLGARDLLLWLLLLAAWEVGSG(配列番号5)
FAM19A1(TAFA1)シグナルペプチド:
MAMVSAMSWVLYLWISACA(配列番号6)
インターロイキン-2シグナルペプチド:
MYRMQLLSCIALILALVTNS(配列番号14)があり得るが、これらに限
定されない。
シグナルペプチドは本明細書において、リーダー配列またはリーダーペプチドとも呼ぶこ
とができる。
【0035】
導入遺伝子を送達するために使用される組換えベクターは、神経細胞及び/またはグリ
ア細胞を含むがこれらに限定されない、CNSの細胞への向性を有するべきである。その
ようなベクターは非複製組換えアデノ随伴ウイルスベクター(「rAAV」)を含むこと
ができ、特にAAV9またはAAVrh10キャプシドを有するウイルスベクターが好ま
しい。これらに限定されないが、その全体が参照により本明細書に組み込まれている米国
特許第7,906,111号においてWilsonによって記載された、特に好ましくは
AAV/hu.31及びAAV/hu.32を有する、AAVバリアントキャプシド、な
らびにその各々の全体が参照により本明細書に組み込まれている米国特許第8,628,
966号、米国特許第8,927,514号、及びSmith et al.,2014
,Mol Ther 22:1625-1634においてChatterjeeによって
記載されたAAVバリアントキャプシドを使用することができる。しかしながら、「ネイ
キッドDNA」コンストラクト(5.2節を参照のこと)と呼ばれるレンチウイルスベク
ター、ワクシニアウイルスベクター、または非ウイルス性発現ベクターを含むがこれらに
限定されない、他のウイルスベクターを使用することができる。
【0036】
CSFへの投与に好適な医薬組成物は、生理的に適合性の水性緩衝剤、界面活性剤、及
び任意の賦形剤を含む製剤化緩衝液中のrHuGlyIDUAベクターの懸濁液を含む。
ある実施形態において、医薬組成物は、大槽内投与(大槽内への注入)に好適である。あ
る実施形態において、医薬組成物は、C1-2穿刺を介した、くも膜下腔内への注入に好
適である。ある実施形態において、医薬組成物は、髄腔内投与に好適である。ある実施形
態において、医薬組成物は、脳室内投与に好適である。ある実施形態において、医薬組成
物は、腰椎穿刺を介する投与に好適である。
【0037】
組換えベクターの治療有効用量は、くも膜下腔内投与を介して(すなわち、くも膜下腔
内へ注入して、組換えベクターがCSFを通じて散布され、CNSの細胞が形質導入され
るようにする)、CSFに投与すべきである。このことは、いくつかの方法で、例えば、
頭蓋内(大槽または脳室内)注入、または腰椎槽への注入によって達成することができる
。例えば、(大槽内への)大槽内(IC)注入は、CTガイド後頭下穿刺によって実施す
ることができ、または、患者に実行できそうな場合は、C1-2穿刺を介してくも膜下腔
への注入を実施することができ、または、腰椎穿刺(典型的にCSFの試料を収集するた
めに実施される診断手順)を、CSFにアクセスするために使用することができる。ある
いは、脳室内(ICV)投与(血液脳関門を透過しない抗感染剤または抗がん剤の導入に
使用される、より侵襲的な技術)を使用して、組換えベクターを直接脳室内に滴下するこ
とができる。あるいは、鼻腔内投与を使用して、CNSに組換えベクターを送達してもよ
い。rHuGlyIDUAのCSF濃度を少なくとも9.25μg/mLのCmin、ま
たは9.25~277μg/mLの範囲の濃度に維持する用量を使用すべきである。
【0038】
CSF濃度は、後頭部または腰椎穿刺から得られるCSF流体中のrHuGlyIDU
Aの濃度を直接測定することによってモニタリングし、または患者の血清において検出さ
れたrHuGlyIDUAの濃度から外挿によって推定することができる。ある実施形態
において、血清中のrHuGlyIDUAが10ng/mL~100ng/mLであるこ
とは、CSF中のrHuGlyIDUAが1~30mgであることを示す。ある実施形態
において、組換えベクターは、血清中のrHuGlyIDUAを10ng/mL~100
ng/mLに維持する用量で、CSFに投与する。
【0039】
背景として、ヒトIDUAは、653アミノ酸のポリペプチドとして翻訳され、図1
おいて表される6つの可能性のある部位(N110、N190、N336、N372、N
415、及びN451)でN-グリコシル化される。シグナル配列が除去され、ポリペプ
チドはリソソーム内で成熟形態にプロセシングされる:75kDaの細胞内前駆体は数時
間で72kDaまでトリミングされ、最終的に、4~5日かけて66kDaの細胞内形態
にプロセシングされる。IDUAの分泌形態(使用するアッセイに応じて76kDaまた
は82kDa)は、マンノース-6-リン酸受容体を介して細胞に容易にエンドサイトー
シスされ、より小さい細胞内形態と同様にプロセシングされる。(その各々の全体が参照
により本明細書に組み込まれている、Myerowitz&Neufeld,1981,
J Biol Chem 256:3044-3048;Clements et al
.,1989,Biochem J.259:199-208;Taylor et a
l.,1991,Biochem J.274:263-268;及びZhao et
al.,1997 J Biol Chem 272:22758-22765を参照の
こと)。
【0040】
hIDUAの全体の構造は、3つのドメインからなる:残基42-396は、古典的な
(β/α)トリオースリン酸イソメラーゼ(TIM)バレルドメインを形成し、残基27
-42及び397-545は、短いへリックス-ループ-へリックス(482-508)
を有するβ-サンドイッチドメインを形成し、かつ残基546-642は、Ig様ドメイ
ンを形成する。最後に挙げた2つのドメインは、C541及びC577間のジスルフィド
架橋によって連結される。β-サンドイッチ及びIg様ドメインは、TIMバレルの1番
目、7番目、及び8番目のα-へリックスに結合される。β-ヘアピン(β12-β13
)は、TIMバレルの8番目のβ-ストランド及び8番目のα-へリックスの間に挿入さ
れ、これは基質結合及び酵素活性に要求されるN-グリコシル化N372を含む。(図1
、及びその各々の全体が参照により本明細書に組み込まれているMaita et al
.,2013,PNAS 110:14628-14633,及びSaito et a
l.,2014,Mol Genet Metab 111:107-112に記載の結
晶構造を参照のこと)。
【0041】
本発明は部分的に、以下の原理に基づく:
(i)CNSの神経細胞及びグリア細胞はCNSにおけるロバストなプロセスである、
グリコシル化及びチロシン-O-硫酸化を含む分泌タンパク質の翻訳後プロセシングのた
めの細胞機構を有する分泌細胞である。ヒトCNS細胞が行う翻訳後修飾についての、そ
の各々の全体が参照により組み込まれている、例えばヒト脳マンノース-6-リン酸(M
6P)グリコプロテオームについて記載され、脳が他の組織に見出されるよりはるかに多
くの個々のアイソフォームを有するより多くのタンパク質及びマンノース-6-リン酸化
タンパク質を含むことを注記した、Sleat et al.,2005,Proteo
mics 5:1520-1532、及びSleat 1996,J Biol Che
m 271:19191-98、ならびに神経細胞によって分泌されたチロシン硫酸化糖
タンパク質の産生を報告しているKanan et al.,2009,Exp.Eye
Res.89:559-567及びKanan&Al-Ubaidi,2015,Ex
p.Eye Res.133:126-131を参照のこと。
(ii)hIDUAは、図1と特定される6つのアスパラギン(「N」)のグリコシル
化部位を有する(N110FT;N190VS;N336TT;N372NT;N415
HT;N451RS)。N372のN-グリコシル化は、基質との結合及び酵素活性に要
求され、かつマンノース-6-リン酸化は分泌された酵素の細胞取り込み及びMPS I
細胞の横断修正に要求される。N-結合型グリコシル化部位は、複合型、ハイマンノース
型、及びリン酸化マンノース糖質部分を含むが(図4)、分泌形態のみが細胞によって取
り込まれる。(Myerowitz&Neufeld,1981,上記)。本明細書に記
載の遺伝子治療アプローチは、ポリアクリルアミドゲル電気泳動によって測定した場合に
76~82kDaの(使用するアッセイに応じて)、2,6-シアル酸付加され、及びマ
ンノース-6リン酸化された、IDUA糖タンパク質の継続的分泌をもたらすべきである
。分泌されたグリコシル化/リン酸化IDUAは、CNSの形質導入されていない神経細
胞及びグリア細胞によって取り込まれ、かつ正しくプロセシングされるべきである。
(iii)リソソームタンパク質の細胞性及び細胞内輸送/取り込みは、M6Pを介す
る。Daniele 2002においてイズロン酸-2-スルファターゼ酵素について行
われたように、分泌タンパク質のM6P含有量を測定することは、可能である。(例えば
、5mMの)抑制性M6Pの存在下では、非神経細胞または非グリア細胞、例えばDan
iele 2002の遺伝子操作された腎細胞によって生成された酵素前駆体の取り込み
は、Daniele 2002に示されたように、対照細胞のレベルに近いレベルまで減
少すると予測される。抑制性M6Pの存在下であっても、脳細胞、例えば神経細胞及びグ
リア細胞によって生成される酵素前駆体の取り込みは、取り込み量が対照細胞より4倍高
く、抑制性M6Pの非存在下で遺伝子操作された腎細胞によって生成された酵素前駆体の
酵素活性(すなわち、取り込み)のレベルと同等であったDaniele 2002に示
されたように高レベルを維持すると予測される。このアッセイを用いると、脳細胞によっ
て生成される酵素前駆体のM6P含有量を予測し、特に、異なる種類の細胞によって生成
される酵素前駆体中のM6P含有量を比較することが可能となる。本明細書に記載の遺伝
子治療アプローチは、そのようなアッセイにおいて抑制性M6Pの存在下で、高レベルで
神経細胞及びグリア細胞に取り込まれ得る、hIDUAの継続的分泌をもたらすべきであ
る。
(iv)N-結合型グリコシル化部位に加えて、hIDUAは、結合及び活性のために
要求されるN372を含有するドメインの近くに、チロシン(「Y」)硫酸化部位(AD
TPIY296NDEADPLVGWS)を含有する。(例えば、その全体が参照により
組み込まれている、タンパク質チロシン硫酸化を受けるチロシン残基を取り囲むアミノ酸
の解析についてのYang et al.,2015,Molecules 20:21
38-2164、特に、p.2154を参照のこと。「規則」は、以下の通りに要約する
ことができる:Y残基がYの+5~-5位内にEまたはDを有し、かつYの-1位が中性
または酸性荷電アミノ酸であるが、硫酸化を無効化する塩基性アミノ酸、例えばR、K、
またはHではない)。いかなる理論に束縛されることも意図するものではないが、チロシ
ン硫酸化領域内の突然変異(例えば、W306L)が酵素活性の減少及び疾患と関連する
ことは公知であるため、hIDUAのこの部位の硫酸化は活性にきわめて重要となり得る
。(Maita et al.,2013,PNAS 110:14628、pp.14
632-14633を参照のこと)。
(v)CNSのヒト細胞によるhIDUAのグリコシル化により、安定性、半減期を向
上させ、かつ導入遺伝子産物の望まない凝集を減らすことができるグリカンが付加される
。大事なことに、本発明のHuGlyIDUAに付加されるグリカンは2,6-シアル酸
を含み、Neu5Ac(「NANA」)を組み込むが、そのヒドロキシル化誘導体Neu
Gc(N-グリコリルノイラミン酸、すなわち「NGNA」または「Neu5Gc」)を
組み込まない高度にプロセシングされた複合型二分岐N-グリカンである。そのようなグ
リカンは、この翻訳後修飾を行うのに要求される2,6-シアリルトランスフェラーゼを
有さず、バイセクティングGlcNAcも産生しないが、Neu5Ac(NANA)の代
わりにヒトにとって典型的でない(かつ潜在的に免疫原性の)シアル酸であるNeu5G
c(NGNA)を付加するCHO細胞において作製されるラロニダーゼには存在しない。
例えば、Dumont et al.,2016,Critical Rev in B
iotech 36(6):1110-1122(Early Online pp.1
-13、p.5)、及びHague et al.,1998 Electrophor
19:2612-2630(「CHO細胞株は、α2,6-シアリルトランスフェラー
ゼの欠如のため、グリコシル化に関して『表現形上制限されている』と考えられている」
)を参照のこと。さらに、CHO細胞は大部分の個体に存在する抗α-Gal抗体と反応
して、高濃度でアナフィラキシーを誘発し得る免疫原性グリカン、α-Gal抗原も生産
し得る。例えば、Bosques,2010,Nat Biotech 28:1153
-1156を参照のこと。本発明のHuGlyIDUAのヒトグリコシル化パターンは、
導入遺伝子産物の免疫原性を低下させ、かつ効力を向上させるべきである。
(vi)ヒトCNS細胞におけるロバストな翻訳後プロセスである、hIDUAのチロ
シン硫酸化は、導入遺伝子産物のプロセシング及び活性を向上させるべきである。リソソ
ームタンパク質のチロシン硫酸化の意義は、明らかにされていない;しかし、他のタンパ
ク質では、タンパク質-タンパク質相互作用(抗体及び受容体)のアビディティが増大し
、タンパク質分解性プロセシング(ペプチドホルモン)が促進されることが示されている
。(Moore,2003,J Biol.Chem.278:24243-46;及び
Bundegaard et al.,1995,The EMBO J 14:307
3-79を参照のこと)。チロシン硫酸化(IDUAプロセシングの最終ステップとして
起こる場合がある)を担うチロシンタンパク質スルホトランスフェラーゼ(TPST1)
は、明らかに脳(TPST1のための遺伝子発現データは、例えば、http://ww
w.ebi.ac.uk/gxa/homeにてアクセス可能なEMBL-EBI Ex
pression Atlasに見出すことができる)でより高いレベル(mRNAに基
づいて)で発現する。そのような翻訳後修飾は、最高でも、CHO細胞産物であるラロニ
ダーゼにおいて少数しか存在しない。ヒトCNS細胞とは異なり、CHO細胞は、分泌細
胞ではなく、翻訳後チロシン硫酸化のための能力が限られている。(例えば、Mikke
lsen&Ezban,1991,Biochemistry 30:1533-153
7、特にp.1537の考察を参照のこと)。
(vii)導入遺伝子産物の免疫原性は、患者の免疫状態、注入されたタンパク質薬物
の構造及び特徴、投与経路、ならびに治療の持続時間を含む様々な因子によって誘導され
得る。プロセス関連不純物、例えば宿主細胞タンパク質(HCP)、宿主細胞DNA、及
び化学的残留物、ならびに産物関連不純物、例えばタンパク質分解物及び構造特製、例え
ばグリコシル化、酸化、及び凝集(肉眼不可視粒子)は免疫反応を増強するアジュバント
としての機能を果たすことによって免疫原性を増加させる場合がある。プロセス関連及び
産物関連不純物の量は、製造プロセス:商業的に製造されるIDUA産物に影響を及ぼし
得る細胞培養、精製、製剤化、保存、及び取扱いの影響を受け得る。遺伝子治療では、タ
ンパク質はin vivoで生産され、その結果、プロセス関連不純物は存在せず、タン
パク質産物は組換え技術によって生産されるタンパク質と関連した生産物関連不純物/分
解物、例えばタンパク質凝集物及びタンパク質酸化物を含む可能性は低い。凝集は、例え
ば、タンパク質生産及び貯蔵と関連付けられ、高いタンパク質濃度、製造装置及び容器と
の表面相互作用、ならびに特定の緩衝液システムを用いた精製プロセスに起因する。しか
し、導入遺伝子をin vivoで発現させる場合、凝集を促進するこれらの条件は存在
しない。また、酸化、例えばメチオニン、トリプトファン、及びヒスチジンの酸化は、タ
ンパク質生産及び貯蔵と関連付けられ、例えばストレス負荷された細胞培養条件、金属及
び空気との接触、ならびに緩衝液及び賦形剤中の不純物によって引き起こされる。in
vivoで発現されるタンパク質は、ストレス負荷条件下で酸化され得るが、ヒトは多く
の生物と同様に、抗酸化防衛システムを備えており、それにより酸化ストレスが低下する
だけでなく、酸化を修復、及び/または逆行させもする。したがって、in vivoで
生産されるタンパク質が、酸化形態にある可能性は低い。凝集及び酸化は両方とも、効力
、PK(クリアランス)に影響を及ぼし得、免疫原となる懸念を増大させ得る。本明細書
に記載の遺伝子治療アプローチは、商業的に製造された製品と比較して免疫原性が低下し
たhIDUAの継続的分泌をもたらすべきである。
【0042】
前述の理由のために、HuGlyIDUAの生産は、例えば、MPS I疾患(ハーラ
ー、ハーラー-シャイエ、またはシャイエを含むが、これらに限定はされない)と診断さ
れる患者(ヒト対象)のCSFにHuGlyIDUAをコードするウイルスベクターまた
は他のDNA発現コンストラクトを投与して、形質導入されたCNS細胞によって分泌さ
れる完全ヒトグリコシル化、マンノース-6-リン酸化、硫酸化導入遺伝子産物を継続的
に供給するCNS中の永続的なデポーを作製することによる、遺伝子治療によって達成さ
れるMPS Iの治療のための「バイオベター」分子をもたらすべきである。デポーから
CSF中に分泌されるHuGlyIDUA導入遺伝子産物は、CNS中の細胞によりエン
ドサイトーシスされ、MPS Iレシピエント細胞における酵素欠陥を「横断修正」する
【0043】
遺伝子治療またはタンパク質治療アプローチにおいて生産される全てのhIDUA分子
が完全にグリコシル化され、硫酸化されることは、必須ではない。むしろ、生産される糖
タンパク質の集団は、有効性を実証するのに十分なグリコシル化(2,6-シアル酸付加
及びマンノース-6-リン酸化を含む)及び硫酸化を受けるべきである。本発明の遺伝子
治療処置の目的は、疾患の進行を減速させ、または停止させることである。有効性は、認
知機能(例えば、神経認知機能の低下の防止もしくは減少);CSF及び/もしくは血清
中の疾患バイオマーカー(例えば、GAG)の低下;及び/または、CSF及び/もしく
は血清のIDUA酵素活性の増加を測定することによってモニタリングすることができる
。炎症の徴候及び他の安全事象をモニタリングすることもできる。
【0044】
遺伝子治療に対する代替または追加治療として、rHuGlyIDUA糖タンパク質は
組換えDNA技術によってヒト細胞株で生産することができ、糖タンパク質は、ERTの
ために、全身的に及び/またはCSFに、MPS Iと診断された患者に投与することが
できる。そのような組換え糖タンパク質生産のために使用することができるヒト細胞株は
、これらに限定されないが、数例を挙げればHT-22、SK-N-MC、HCN-1A
、HCN-2、NT2、SH-SY5y、hNSC11、ReNcell VM、ヒト胎
児腎293細胞(HEK293)、線維肉腫HT-1080、HKB-11、CAP、H
uH-7、及び網膜細胞株、PER.C6、またはRPEを含む(例えば、その全体が参
照により組み込まれている、rHuGlyIDUA糖タンパク質の組換え生産のために使
用することができるヒト細胞株の総説についてのDumont et al.,2016
,Critical Rev in Biotech 36(6):1110-1122
の「Human cell lines for biopharmaceutical
manufacturing: history,status,and futur
e perspectives」を参照のこと)。完全なグリコシル化、特にシアル酸付
加及びチロシン硫酸化を保証するために、生産に使用する細胞株をチロシン-O-硫酸化
を担うα-2,6-シアリルトランスフェラーゼ(またはα-2,3-及びα-2,6-
シアリルトランスフェラーゼの両方)及び/またはTPST-1及びTPST-2酵素を
共発現するように宿主細胞を操作することによって強化することができる。
【0045】
rHuGlyIDUAの送達が免疫反応を最小化すべきである一方、CNS関連遺伝子
治療に関する毒性の最も明白な潜在的源は、遺伝的にIDUAを欠損しており、したがっ
てタンパク質及び/または導入遺伝子を送達するために用いるベクターを潜在的に寛容し
ないヒト対象において、発現されたhIDUAタンパク質に対する免疫が発生する。
【0046】
したがって、好ましい実施形態では、患者を免疫抑制治療で共治療することは、特にI
DUAのレベルが0に近い重度の疾患(例えば、ハーラー)を有する患者を治療する場合
に、適切である。タクロリムスまたはラパマイシン(シロリムス)を、例えばミコフェノ
ール酸と組合わせた、及び/またはプレドニゾロン及び/またはメチルプレドニゾロンな
どのコルチコステロイドと組合わせたレジメン、または組織移植手順において使用される
他の免疫抑制レジメンを伴う免疫抑制治療を、利用することができる。そのような免疫抑
制治療は、遺伝子治療の過程で投与することができ、ある実施形態において、免疫抑制治
療による前処理が好ましい場合がある。免疫抑制治療は、治療医師の判断に基づいて、遺
伝子治療処置の後も継続することができ、その後、免疫寛容が誘発された場合、例えば、
180日後に、中止してもよい。
【0047】
一実施形態において、免疫抑制は、コルチコステロイド、例えばプレドニゾロン及び/
またはメチルプレドニゾロンの投与、ならびに任意にMMFとともに投与されるタクロリ
ムス及び/またはシロリムスのレジメンを含む。例えば、1回のコルチコステロイド、例
えばメチルプレドニゾロンを注入し、その後、経口コルチコステロイドを投与し、12週
の経過にわたり段階的に漸減し、続いて中断する。同時に、タクロリムス及びシロリムス
を組合わせで低用量(例えば、4~8ng/mLの血清濃度を維持する)で、またはラベ
ル用量で単独で、24~48週にわたって経口投与することができる。タクロリムスまた
はシロリムスは、MMFと組合わせてラベル用量で投与されることもできる。したがって
、患者は直ちに利用可能なステロイドの初期の注入を受け、このステロイドは続いて経口
投与によって維持されて、12週までに漸減される。さらなる免疫抑制は、任意にMMF
と組合わせて、タクロリムス及び/またはシロリムスによって48週を通じて維持される
【0048】
他の利用可能な治療の送達を伴うCSFへのHuGlyIDUAの送達の組合わせは、
本発明の方法に包含される。追加治療は、遺伝子治療処置の前に、それと同時に、または
その後に投与することができる。本発明の遺伝子治療と併用することができるMPS I
のための利用可能な治療には、これらに限定はされないが、全身的に、もしくはCSFに
投与されるラロニダーゼを使用する酵素補充療法及び/またはHSCT療法が挙げられる
【0049】
ある実施形態において、MPS Iと診断されたヒト対象を治療するための方法であっ
て、該ヒト対象の脳の脳脊髄液にヒト神経細胞によって生産される治療有効量の組換えヒ
トIDUAを送達することを含む方法が、本明細書に記載される。ある実施形態において
、MPS Iと診断されたヒト対象を治療するための方法であって、該ヒト対象の脳の脳
脊髄液にヒトグリア細胞によって生産される治療有効量の組換えヒトIDUAを送達する
ことを含む方法が、本明細書に記載される。
【0050】
ある実施形態において、ムコ多糖症I(MPS I)と診断されたヒト対象を治療する
方法であって、該ヒト対象の脳の脳脊髄液に治療有効量のα2,6-シアル酸付加ヒトα
-L-イズロニダーゼ(IDUA)を送達することと、ヒトIDUAによる治療の前また
は同時に、免疫抑制療法を該対象に施し、かつその後も免疫抑制療法を継続することと、
を含む方法が、本明細書において提供される。
【0051】
ある実施形態において、MPS Iと診断されたヒト対象を治療する方法であって、該
ヒト対象の脳の脳脊髄液に検出可能なNeuGcを含まない治療有効量のグリコシル化ヒ
トIDUAを送達することと、ヒトIDUAによる治療の前または同時に、免疫抑制療法
を該対象に施し、かつその後も免疫抑制療法を継続することと、を含む方法が、本明細書
において提供される。
【0052】
ある実施形態において、MPS Iと診断されたヒト対象を治療する方法であって、該
ヒト対象の脳の脳脊髄液に検出可能なNeuGc及び/またはα-Gal抗原を含まない
治療有効量のグリコシル化ヒトIDUAを送達することと、ヒトIDUAによる治療の前
または同時に、免疫抑制療法を該対象に施し、かつその後も免疫抑制療法を継続すること
と、を含む方法が、本明細書において提供される。
【0053】
ある実施形態において、MPS Iと診断されたヒト対象を治療する方法であって、該
ヒト対象の脳の脳脊髄液に、チロシン硫酸化を含む治療有効量のヒトIDUAを送達する
ことと、ヒトIDUAによる治療の前または同時に、免疫抑制療法を該対象に施し、かつ
その後も免疫抑制療法を継続することと、を含む方法が、本明細書において提供される。
【0054】
ある実施形態において、MPS Iと診断されたヒト対象を治療する方法であって、該
ヒト対象の脳にヒトIDUAをコードする発現ベクターを投与することであって、該ID
UAがヒト不死化神経細胞において該発現ベクターから発現される際にα2,6-シアル
酸付加される、投与することと、
【0055】
該発現ベクターの投与の前に、またはそれと同時に、該対象に免疫抑制治療を施し、か
つその後も免疫抑制治療を継続することと、を含む方法が、本明細書に記載される。
【0056】
ある実施形態において、MPS Iと診断されたヒト対象を治療する方法であって、該
ヒト対象の脳にヒトIDUAをコードする発現ベクターを投与することであって、該ID
UAがヒト不死化神経細胞において該発現ベクターから発現される際にグリコシル化され
るが検出可能なNeuGcを含まない、投与することと、該発現ベクターの投与の前に、
またはそれと同時に、該対象に免疫抑制治療を施し、かつその後も免疫抑制治療を継続す
ることと、を含む方法が、本明細書において提供される。
【0057】
ある実施形態において、MPS Iと診断されたヒト対象を治療する方法であって、a
)該ヒト対象の脳にヒトIDUAをコードする発現ベクターを投与することであって、該
ヒトIDUAがヒトまたは不死化神経細胞において該発現ベクターから発現される際にグ
リコシル化されるが検出可能なNeuGc及び/またはα-Gal抗原を含まない、投与
する工程と、b)該発現ベクターの投与の前に、及び/またはそれと同時に、及び/また
はその後に、該対象に免疫抑制治療を施し、かつその後も免疫抑制治療を継続する工程と
、を含む方法が、本明細書において提供される。
【0058】
ある実施形態において、MPS Iと診断されたヒト対象を治療する方法であって、該
ヒト対象の脳にヒトIDUAをコードする発現ベクターを投与することであって、該ID
UAがヒト不死化神経細胞において該発現ベクターから発現される際にチロシン硫酸化さ
れる、投与することと、該発現ベクターの投与の前に、またはそれと同時に、該対象に免
疫抑制治療を施し、かつその後も免疫抑制治療を継続することと、を含む方法が、本明細
書において提供される。
【0059】
ある実施形態において、MPS Iと診断されたヒト対象を治療する方法であって、該
ヒト対象の脳の脳脊髄液に治療有効量のヒトIDUAをコードする組換えヌクレオチド発
現ベクターを投与することであって、その結果α2,6-シアル酸付加グリカンを含む該
IDUAを放出するデポーが形成される、投与することと、該発現ベクターの投与の前に
、またはそれと同時に、該対象に免疫抑制治療を施し、かつその後も免疫抑制治療を継続
することと、を含む方法が、本明細書において提供される。
【0060】
ある実施形態において、MPS Iと診断されたヒト対象を治療する方法であって、該
ヒト対象の脳の脳脊髄液に治療有効量のヒトIDUAをコードする組換えヌクレオチド発
現ベクターを投与することであって、その結果検出可能なNeuGcを含まないグリコシ
ル化IDUAを放出するデポーが形成される、投与することと、該発現ベクターの投与の
前に、またはそれと同時に、該対象に免疫抑制治療を施し、かつその後も免疫抑制治療を
継続することと、を含む方法が、本明細書において提供される。
【0061】
ある実施形態において、MPS Iと診断されたヒト対象を治療する方法であって、該
ヒト対象の脳の脳脊髄液に治療有効量のヒトIDUAをコードする組換えヌクレオチド発
現ベクターを投与することであって、その結果検出可能なNeuGc及び/またはα-G
al抗原を含まないグリコシル化IDUAを放出するデポーが形成される、投与すること
と、該発現ベクターの投与の前に、またはそれと同時に、該対象に免疫抑制治療を施し、
かつその後も免疫抑制治療を継続することと、を含む方法が、本明細書において提供され
る。
【0062】
ある実施形態において、MPS Iと診断されたヒト対象を治療する方法であって、該
ヒト対象の脳の脳脊髄液に治療有効量のヒトIDUAをコードする組換えヌクレオチド発
現ベクターを投与することであって、その結果チロシン硫酸化を含む該IDUAを放出す
るデポーが形成される、投与することと、該発現ベクターの投与の前に、またはそれと同
時に、該対象に免疫抑制治療を施し、かつその後も免疫抑制治療を継続することと、を含
む方法が、本明細書において提供される。
【0063】
ある実施形態において、α2,6-シアル化グリカンを含むIDUAの生産は、細胞培
養中でヒト神経細胞株を組換えヌクレオチド発現ベクターを用いて形質導入することによ
り確認される。ある実施形態において、検出可能なNeuGcを含まないグリコシル化I
DUAの生産は、細胞培養中でヒト神経細胞株を組換えヌクレオチド発現ベクターを用い
て形質導入することにより確認される。ある実施形態において、検出可能なNeuGc及
び/またはα-Gal抗原を含まないグリコシル化IDUAの生産は、細胞培養中でヒト
神経細胞株を組換えヌクレオチド発現ベクターを用いて形質導入することにより確認され
る。ある実施形態において、チロシン硫酸化を含むIDUAの生産は、細胞培養中でヒト
神経細胞株を組換えヌクレオチド発現ベクターを用いて形質導入することにより確認され
る。具体的な実施形態において、IDUA導入遺伝子はシグナルペプチドをコードする。
ある実施形態において、ヒト神経細胞株は、HT-22、SK-N-MC、HCN-1A
、HCN-2、NT2、SH-SY5y、hNSC11、またはReNcellVMであ
る。
【0064】
ある実施形態において、MPS Iと診断されたヒト対象を治療する方法であって、該
ヒト対象の脳の脳脊髄液に治療有効量のヒトIDUAをコードする組換えヌクレオチド発
現ベクターを投与することであって、その結果α2,6-シアル酸付加グリカンを含む該
IDUAを放出するデポーが形成される、投与することと、該発現ベクターの投与の前に
、またはそれと同時に、該対象に免疫抑制治療を施し、かつその後も免疫抑制治療を継続
することと、を含み、該組換えベクターが、培養中でヒト神経細胞への形質導入に使用す
る場合、該細胞培養中で該α2,6-シアル酸付加グリカンを含む該IDUAを生産する
、方法が、本明細書において提供される。ある実施形態において、ヒト神経細胞は、HT
-22、SK-N-MC、HCN-1A、HCN-2、NT2、SH-SY5y、hNS
C11、またはReNcellVM細胞である。
【0065】
ある実施形態において、MPS Iと診断されたヒト対象を治療する方法であって、該
ヒト対象の脳の脳脊髄液に治療有効量のヒトIDUAをコードする組換えヌクレオチド発
現ベクターを投与することであって、その結果検出可能なNeuGcを含まないグリコシ
ル化IDUAを放出するデポーが形成される、投与することと、該発現ベクターの投与の
前に、またはそれと同時に、該対象に免疫抑制治療を施し、かつその後も免疫抑制治療を
継続することと、を含み、該組換えベクターは、培養中でヒト神経細胞への形質導入に使
用する場合、該細胞培養中でグリコシル化されるが検出可能なNeuGcを含まない該I
DUAを生産する、方法が、本明細書において提供される。ある実施形態において、ヒト
神経細胞は、HT-22、SK-N-MC、HCN-1A、HCN-2、NT2、SH-
SY5y、hNSC11、またはReNcellVM細胞である。
【0066】
ある実施形態において、MPS Iと診断されたヒト対象を治療する方法であって、該
ヒト対象の脳の脳脊髄液に治療有効量のヒトIDUAをコードする組換えヌクレオチド発
現ベクターを投与することであって、その結果検出可能なNeuGc及び/またはα-G
al抗原を含まないグリコシル化IDUAを放出するデポーが形成される、投与すること
と、該発現ベクターの投与の前に、またはそれと同時に、該対象に免疫抑制治療を施し、
かつその後も免疫抑制治療を継続することと、を含み、該組換えベクターは、培養中でヒ
ト神経細胞への形質導入に使用する場合、該細胞培養中でグリコシル化されるが検出可能
なNeuGc及び/またはα-Gal抗原を含まない該IDUAを生産する、方法が、本
明細書において提供される。ある実施形態において、ヒト神経細胞は、HT-22、SK
-N-MC、HCN-1A、HCN-2、NT2、SH-SY5y、hNSC11、また
はReNcellVM細胞である。
【0067】
ある実施形態において、MPS Iと診断されたヒト対象を治療する方法であって、該
ヒト対象の脳の脳脊髄液に治療有効量のヒトIDUAをコードする組換えヌクレオチド発
現ベクターを投与することであって、その結果チロシン硫酸化を含む該IDUAを放出す
るデポーが形成される、投与することと、該発現ベクターの投与の前に、またはそれと同
時に、該対象に免疫抑制治療を施し、かつその後も免疫抑制治療を継続することと、を含
み、該組換えベクターが、培養中でヒト神経細胞への形質導入に使用する場合、該細胞培
養中でチロシン硫酸化を含む該IDUAを生産する、方法が、本明細書において提供され
る。ある実施形態において、ヒト神経細胞は、HT-22、SK-N-MC、HCN-1
A、HCN-2、NT2、SH-SY5y、hNSC11、またはReNcellVM細
胞である。
【0068】
ある実施形態において、ヒトIDUAは、配列番号1のアミノ酸配列を含む。ある実施
形態において、免疫抑制治療は、ヒトIDUAによる治療の前に、またはそれと同時に、
(a)タクロリムス及びミコフェノール酸、または(b)ラパマイシン及びミコフェノー
ル酸の組合わせを対象に投与し、かつその後も継続することを含む。ある実施形態におい
て、免疫抑制療法は180日後に中止される。
【0069】
好ましい実施形態において、グリコシル化IDUAは、検出可能なNeuGc及び/ま
たはα-Galを含まない。本明細書で使用する語句「検出可能なNeuGc及び/また
はα-Gal」は、NeuGc及び/またはα-Gal部分が当技術分野において公知の
標準アッセイ方法によって検出可能であることを意味する。例えば、NeuGcは、Ne
uGcを検出する方法について参照により本明細書に組み込まれているHara et
al.,1989,“Highly Sensitive Determination
of N-Acetyl-and N-Glycolylneuraminic Ac
ids in Human Serum and Urine and Rat Ser
um by Reversed-Phase Liquid Chromatograp
hy with Fluorescence Detection.” J.Chrom
atogr.,B:Biomed.377:111-119に従ったHPLCによって検
出することができる。あるいは、NeuGcは、質量分析によって検出することができる
。α-Galは、ELISAを使用して(例えば、Galili et al.,199
8,“A sensitive assay for measuring alpha
-Gal epitope expression on cells by a mo
noclonal anti-Gal antibody.”Transplantat
ion.65(8):1129-32を参照のこと)、または質量分析により(例えば、
Ayoub et al.,2013,“Correct primary struc
ture assessment and extensive glyco-prof
iling of cetuximab by a combination of i
ntact,middle-up,middle-down and bottom-u
p ESI and MALDI mass spectrometry techni
ques.” Landes Bioscience.5(5):699-710を参照
のこと)検出することができる。また、Platts-Mills et al.,20
15,“Anaphylaxis to the Carbohydrate Side
-Chain Alpha-gal” Immunol Allergy Clin N
orth Am.35(2):247-260において引用されている参考文献も参照の
こと。
【0070】
(5.1N-グリコシル化及びチロシン硫酸化)
(5.1.1.N-グリコシル化)
CNSの神経細胞及びグリア細胞は、グリコシル化及びチロシン-O-硫酸化を含む分
泌タンパク質の翻訳後プロセシングのための細胞機構を備える分泌細胞である。hIDU
Aは、図1において特定される6つのアスパラギン(「N」)グリコシル化部位(N11
FT;N190VS;N336TT;N372NT;N415HT;N451RS)を
有する。N372のN-グリコシル化は、基質との結合及び酵素活性に要求され、かつマ
ンノース-6-リン酸化は分泌された酵素の細胞取り込み及びMPS I細胞の横断修正
に要求される。N-結合型グリコシル化部位は、複合型、ハイマンノース型、及びリン酸
化マンノース糖質部分を含むが(図4)、分泌形態のみが細胞によって取り込まれる。本
明細書に記載の遺伝子治療アプローチでは、2,6シアル酸付加され、かつマンノース-
6リン酸化されたIDUA糖タンパク質の継続的分泌をもたらすべきである。分泌された
グリコシル化/リン酸化IDUAは、CNSの形質導入されていない神経細胞及びグリア
細胞によって取り込まれ、かつ正しくプロセシングされるべきである。
【0071】
CNSのヒト細胞によるhIDUAのグリコシル化により、安定性、半減期を向上させ
、かつ導入遺伝子産物の望まない凝集を減らすことができるグリカンが付加される。大事
なことに、本発明のHuGlyIDUAに付加されるグリカンは2,6-シアル酸を含み
、Neu5Ac(「NANA」)を組み込むが、そのヒドロキシル化誘導体NeuGc(
N-グリコリルノイラミン酸、すなわち「NGNA」または「Neu5Gc」)を組み込
まない高度にプロセシングされた複合型二分岐N-グリカンである。そのようなグリカン
は、この翻訳後修飾を行うのに要求される2,6-シアリルトランスフェラーゼを有さず
、バイセクティングGlcNAcも産生しないが、Neu5Ac(NANA)の代わりに
ヒトにとって典型的でない(かつ潜在的に免疫原性の)シアル酸であるNeu5Gc(N
GNA)を付加するCHO細胞において作製されるラロニダーゼには存在しない。さらに
、CHO細胞は大部分の個体に存在する抗α-Gal抗体と反応して、高濃度でアナフィ
ラキシーを誘発し得る免疫原性グリカン、α-Gal抗原も生産し得る。例えば、Bos
ques,2010,Nat Biotech 28:1153-1156を参照のこと
。本発明のHuGlyIDUAのヒトグリコシル化パターンは、導入遺伝子産物の免疫原
性を低下させ、かつ効力を向上させるべきである。
【0072】
遺伝子治療またはタンパク質治療アプローチにおいて生産される全ての分子が完全にグ
リコシル化され、硫酸化されることは、必須ではない。むしろ、生産される糖タンパク質
の集団は、有効性を実証するのに十分なグリコシル化及び硫酸化を受けるべきである。
【0073】
具体的な実施形態において、本明細書に記載の方法に従って使用されるHuGlyID
UAは、神経細胞またはグリア細胞においてin vivoまたはin vitroで発
現させた場合、そのN-グリコシル化部位の100%でグリコシル化され得る。しかしな
がら、当業者であれば、グリコシル化のメリットが達成されるためには、必ずしも全ての
HuGlyIDUAのN-グリコシル化部位がN-グリコシル化される必要はないことを
認識されよう。むしろ、グリコシル化のメリットは、N-グリコシル化部位の一定の割合
のみがグリコシル化される場合、及び/または発現されたIDUA分子の一定の割合のみ
がグリコシル化される場合に実現され得る。したがって、ある実施形態において、本明細
書に記載の方法に従って使用されるHuGlyIDUAは、神経細胞またはグリア細胞に
おいてin vivoまたはin vitroで発現させた場合、その利用可能なN-グ
リコシル化部位の10%~20%、20%~30%、30%~40%、40%~50%、
50%~60%、60%~70%、70%~80%、80%~90%、または90%~1
00%でグリコシル化される。ある実施形態において、神経細胞またはグリア細胞におい
てin vivoまたはin vitroで発現させた場合、本明細書に記載の方法に従
って使用されるHuGlyIDUA分子の10%~20%、20%~30%、30%~4
0%、40%~50%、50%~60%、60%~70%、70%~80%、80%~9
0%、または90%~100%は、それらの利用可能なN-グリコシル化部位の少なくと
も1つでグリコシル化される。
【0074】
具体的な実施形態において、HuGlyIDUAを神経細胞またはグリア細胞において
in vivoまたはin vitroで発現させた場合、本明細書に記載の方法に従っ
て使用されるHuGlyIDUAに存在するN-グリコシル化部位の少なくとも10%、
20% 30%、40%、50%、60%、70%、75%、80%、85%、90%、
95%、または99%はN-グリコシル化部位に存在するAsn残基(または他の関連し
た残基)でグリコシル化される。すなわち、結果として生じるHuGlyIDUAのN-
グリコシル化部位の少なくとも50%、60%、70%、75%、80%、85%、90
%、95%または99%は、グリコシル化される。
【0075】
別の具体的な実施形態において、HuGlyIDUAを神経細胞またはグリア細胞にお
いてin vivoまたはin vitroで発現させた場合、本明細書に記載の方法に
従って使用されるHuGlyIDUA分子に存在するN-グリコシル化部位の少なくとも
10%、20% 30%、40%、50%、60%、70%、75%、80%、85%、
90%、95%、または99%は、N-グリコシル化部位に存在するAsn残基(または
他の関連した残基)に結合される同一の結合されたグリカンによりグリコシル化される。
すなわち、結果として生じるHuGlyIDUAのN-グリコシル化部位の少なくとも5
0%、60%、70%、75%、80%、85%、90%、95%、または99%は、同
一の結合されたグリカンを有する。
【0076】
重要なことに、本明細書に記載の方法に従って使用されるIDUAタンパク質が神経細
胞またはグリア細胞において発現される場合、原核生物宿主細胞(例えば、E.coli
)または真核生物宿主細胞(例えば、CHO細胞)におけるin vitro生産の必要
性は回避される。その代わりに、本明細書に記載の方法の結果(例えば、IDUAを発現
させるための神経細胞またはグリア細胞の使用)、IDUAタンパク質のN-グリコシル
化部位は、有利なことにヒトの治療に関連及び有益なグリカンで修飾される(decor
ated)。CHO細胞またはE.coliがタンパク質生産に利用される場合、そのよ
うな利点には到達できない;それは、例えばCHO細胞は、(1)2,6シアリルトラン
スフェラーゼを発現せず、したがってN-グリコシル化の間、2,6シアル酸を付加する
ことができず、かつ(2)シアル酸としてNeu5Acの代わりにNeu5Gcを付加す
ることができるためであり、ならびにE.coliは天然にはN-グリコシル化に必要な
構成要素を含まないためである。したがって、一実施形態において、神経細胞またはグリ
ア細胞において発現され、本明細書に記載の治療方法において使用されるHuGlyID
UAを生じるIDUAタンパク質は、ヒト神経細胞またはグリア細胞においてタンパク質
がN-グリコシル化される様式でグリコシル化されるが、CHO細胞においてタンパク質
がグリコシル化される様式でグリコシル化されるのではない。別の実施形態において、神
経細胞またはグリア細胞において発現されて本明細書に記載の治療方法において使用され
るHuGlyIDUAを生じるIDUAタンパク質は、神経細胞またはグリア細胞におい
てタンパク質がN-グリコシル化される様式でグリコシル化され、そのようなグリコシル
化は、原核生物宿主細胞を使用して、例えばE.coliを使用した場合は手を加えずに
は不可能である。
【0077】
タンパク質のグリコシル化パターンを決定するためのアッセイは、当技術分野において
公知である。例えば、ヒドラジン分解は、グリカンを分析するために使用することができ
る。第一に、多糖を、ヒドラジンとのインキュベーションによって、その会合するタンパ
ク質から放出させる(Ludger Liberateヒドラジン分解グリカン放出キッ
ト,Oxfordshire,UKを使用することができる)。求核剤であるヒドラジン
は、多糖及びキャリアタンパク質間のグリコシド結合を攻撃して、結合したグリカンを放
出させる。N-アセチル基は、この処理の間、失われて、再N-アセチル化によって再構
成されなければならない。遊離グリカンは、炭素カラム上で精製され、続いて蛍光色素分
子である2-アミノベンズアミドを用いて還元末端を標識することができる。標識多糖は
、Royle et al,Anal Biochem 2002,304(1):70
-90のHPLCプロトコルに従ってGlycoSep-Nカラム(GL Scienc
es)上で分離することができる。結果として生じる蛍光クロマトグラムは、多糖の長さ
及び繰り返し単位の数を示す。構造情報は、個々のピークを収集し、引き続きMS/MS
分析を実施することによって集めることができる。それにより、繰り返し単位の単糖の組
成及び配列を確認することができ、さらに多糖の組成の均一性を特定することができる。
低分子量の特定のピークは、MALDI-MS/MSによって分析でき、その結果を使用
してグリカン配列を確認することができる。各ピークは、特定の数の繰り返し単位及びそ
の断片からなるポリマーに対応する。従って、クロマトグラムを用いれば、ポリマー長の
分布の測定が可能となる。溶出時間はポリマー長の指標である一方、蛍光強度はそれぞれ
のポリマーのためのモル存在量と相関する。
【0078】
タンパク質と会合するグリカンパターンの均一性は、グリカン長及びグリコシル化部位
全体に存在するグリカンの数と関係しているため、この均一性は当技術分野で公知の方法
、例えばグリカン長及び流体力学半径を測定する方法を使用して評価することができる。
サイズ排除HPLCは、流体力学半径の測定を可能にする。タンパク質中のグリコシル化
部位の数が多いほど、グリコシル化部位がより少ないキャリアと比較して、流体力学半径
のばらつきがより大きくなる。しかしながら、単一のグリカン鎖が分析される場合、それ
らは長さがより高度に制御されているために、より均一になり得る。グリカン長は、ヒド
ラジン分解、SDS PAGE、及びキャピラリーゲル電気泳動によって測定することが
できる。さらに、また、均一であることは、特定のグリコシル化部位の使用パターンがよ
り広い/より狭い範囲に変化することを意味し得る。これらの因子は、糖ペプチドLC-
MS/MSで測定することができる。
【0079】
N-グリコシル化は、本明細書に記載の方法で使用されるHuGlyIDUAに多くの
メリットを付与する。そのようなメリットは、E.coliにおけるタンパク質生産によ
っては到達不能である。それは、E.coliは、N-グリコシル化に必要とされる構成
要素を天然には有しないためである。さらに、いくつかのメリットは例えば、CHO細胞
におけるタンパク質生産によっては到達不能である。それは、CHO細胞が特定のグリカ
ン(例えば、2,6シアル酸)の付加に必要な構成要素を欠いており、かつヒトにとって
典型的でないグリカン、例えばNeu5Gc及び大部分の個体において免疫原性であり、
かつ高濃度ではアナフィラキシーを誘発し得るα-Gal抗原を付加し得るためである。
従って、ヒト神経細胞またはグリア細胞におけるIDUAの発現により、そうせずにCH
O細胞または、E.coliにおいて生産された場合はタンパク質と会合していないであ
ろう有益なグリカンを含むHuGlyIDUAが生産される。
【0080】
(5.1.2.チロシン硫酸化)
N-結合型グリコシル化部位に加えて、hIDUAは、結合及び活性のために要求され
るN372を含有するドメインの近くに、チロシン(「Y」)硫酸化部位(ADTPIY
296NDEADPLVGWS)を含有する。(例えば、その全体が参照により組み込ま
れている、タンパク質チロシン硫酸化を受けるチロシン残基を取り囲むアミノ酸の解析に
ついてのYang et al.,2015,Molecules 20:2138-2
164、特に、p.2154を参照のこと。「規則」は、以下の通りに要約することがで
きる:Y残基がYの+5~-5位内にEまたはDを有し、かつYの-1位が中性または酸
性荷電アミノ酸であるが、硫酸化を無効化する塩基性アミノ酸、例えばR、K、またはH
ではない)。いかなる理論に束縛されることも意図するものではないが、チロシン硫酸化
領域内の突然変異(例えば、W306L)が酵素活性の減少及び疾患と関連することは公
知であるため、hIDUAのこの部位の硫酸化は活性にきわめて重要となり得る。(Ma
ita et al.,2013,PNAS 110:14628、pp.14632-
14633を参照のこと)。
【0081】
重要なことに、チロシン硫酸化タンパク質は、チロシン硫酸化に要求される酵素を天然
には有しないE.coliでは生産することができない。さらに、CHO細胞は、チロシ
ン硫酸化について欠陥がある-この細胞は、分泌細胞ではなく、翻訳後のチロシン硫酸化
のための能力が限定されている。例えば、Mikkelsen&Ezban,1991,
Biochemistry 30:1533-1537を参照のこと。有利なことに、本
明細書において提供する方法は、分泌型であり、かつチロシン硫酸化のための能力を備え
る神経細胞またはグリア細胞におけるIDUA、例えばHuGlyIDUAの発現を必要
とする。チロシン硫酸化を検出するためのアッセイは、当技術分野において公知である。
例えば、Yang et al.,2015,Molecules 20:2138-2
164を参照のこと。
【0082】
ヒトCNS細胞におけるロバストな翻訳後プロセスである、hIDUAのチロシン硫酸
化は、導入遺伝子産物のプロセシング及び活性を向上させるべきである。リソソームタン
パク質のチロシン硫酸化の意義は、明らかにされていない;しかし、他のタンパク質では
、タンパク質-タンパク質相互作用(抗体及び受容体)のアビディティが増大し、タンパ
ク質分解性プロセシング(ペプチドホルモン)が促進されることが示されている。(Mo
ore,2003,J Biol.Chem.278:24243-46;及びBund
egaard et al.,1995,The EMBO J 14:3073-79
を参照のこと)。チロシン硫酸化(IDUAプロセシングの最終ステップとして起こる場
合がある)を担うチロシンタンパク質スルホトランスフェラーゼ(TPST1)は、明ら
かに脳(TPST1のための遺伝子発現データは、例えば、http://www.eb
i.ac.uk/gxa/homeにてアクセス可能なEMBL-EBI Expres
sion Atlasに見出すことができる)でより高いレベル(mRNAに基づいて)
で発現する。そのような翻訳後修飾は、最高でも、CHO細胞産物であるラロニダーゼに
おいて少数しか存在しない。
【0083】
(5.2コンストラクト及び製剤化)
α-L-イズロニダーゼ(IDUA)、例えばヒトIDUA(hIDUA)をコードす
るウイルスベクターまたは他のDNA発現コンストラクトは、本明細書において提供する
方法における使用のためのものである。本明細書において提供するウイルスベクター及び
他のDNA発現コンストラクトは、脳脊髄液(CSF)に、導入遺伝子を送達するための
任意の好適な方法を含む。導入遺伝子の送達の手段には、ウイルスベクター、リポソーム
、他の脂質を含む複合体、他の高分子複合体、合成修飾mRNA、非修飾mRNA、小分
子、非生物活性分子(例えば、金粒子)、重合分子(例えば、デンドリマー)、ネイキッ
ドDNA、プラスミド、ファージ、トランスポゾン、コスミド、またはエピソームが挙げ
られる。いくつかの実施形態において、ベクターは、標的化ベクター、例えば、神経細胞
を標的とするベクターである。
【0084】
いくつかの態様において、本開示は、IDUA、例えばhIDUAをコードする使用の
ための核酸を提供し、該核酸はサイトメガロウイルス(CMV)プロモーター、ラウス肉
腫ウイルス(RSV)プロモーター、MMTプロモーター、EF-1αプロモーター、U
B6プロモーター、ニワトリβ-アクチンプロモーター、CAGプロモーター、RPE6
5プロモーター、及びオプシンプロモーターからなる群から選択されるプロモーターと作
用可能に連結されている。
【0085】
ある実施形態において、1以上の核酸(例えば、ポリヌクレオチド)を含む組換えベク
ターについて本明細書において提供される。核酸は、DNA、RNAまたはDNA及びR
NAの組合わせを含むことができる。ある実施形態において、DNAは、プロモーター配
列、関心対象の遺伝子配列(導入遺伝子、例えば、IDUA)、非翻訳領域、及び終結配
列からなる群から選択される1以上の配列を含む。ある実施形態において、本明細書にお
いて提供するウイルスベクターは、関心対象の遺伝子と作用可能に連結されたプロモータ
ーを含む。
【0086】
ある実施形態において、本明細書に開示する核酸(例えば、ポリヌクレオチド)及び核
酸配列は、例えば、当業者に公知の任意のコドン-最適化技術を介して、コドン最適化す
ることができる(例えば、Quax et al.,2015,Mol Cell 59
:149-161を参照のこと)。
【0087】
(5.2.1.mRNA)
ある実施形態において、本明細書において提供するベクターは、関心対象の遺伝子(例
えば、導入遺伝子、例えば、IDUA)をコードしている修飾mRNAである。CSFへ
の導入遺伝子の送達のための修飾及び非修飾mRNAの合成は、例えば、その全体が参照
により本明細書に組み込まれているHocquemiller et al.,2016
,Human Gene Therapy 27(7):478-496において教示さ
れる。ある実施形態において、IDUA、例えば、hIDUAをコードしている修飾mR
NAについて本明細書に記載する。
【0088】
(5.2.2.ウイルスベクター)
ウイルスベクターには、アデノウイルス、アデノ随伴ウイルス(AAV、例えば、AA
V9)、レンチウイルス、ヘルパー依存的アデノウイルス、単純ヘルペスウイルス、ポッ
クスウイルス、センダイウイルス(hemagglutinin virus of J
apan)(HVJ)、アルファウイルス、ワクシニアウイルス、及びレトロウイルスベ
クターがある。レトロウイルスベクターには、マウス白血病ウイルス(MLV)及びヒト
免疫不全ウイルス(HIV)ベースのベクターがある。アルファウイルスベクターには、
セムリキ森林ウイルス(SFV)及びシンドビスウイルス(SIN)がある。ある実施形
態において、本明細書において提供するウイルスベクターは、組換えウイルスベクターで
ある。ある実施形態において、本明細書において提供するウイルスベクターは、ヒトにお
いて複製欠損型となるように、改変される。ある実施形態において、ウイルスベクターは
、ハイブリッドベクター、例えば、「ヘルプレス」アデノウイルスベクターに配置される
AAVベクターである。ある実施形態において、第1のウイルスからのウイルスキャプシ
ド及び第2のウイルスからのウイルスエンベロープタンパク質を含むウイルスベクターが
、本明細書において提供される。具体的な実施形態において、第2のウイルスは、水疱性
口内炎ウイルス(VSV)である。より具体的な実施形態において、エンベロープタンパ
ク質は、VSV-Gタンパク質である。
【0089】
ある実施形態において、本明細書において提供するウイルスベクターは、HIVベース
のウイルスベクターである。ある実施形態において、本明細書において提供するHIVベ
ースのベクターは少なくとも2つのポリヌクレオチドを含み、gag及びpol遺伝子は
HIVゲノム由来のものとし、env遺伝子は別のウイルス由来のものとする。
【0090】
ある実施形態において、本明細書において提供するウイルスベクターは、単純ヘルペス
ウイルスベースのウイルスベクターである。ある実施形態において、本明細書において提
供する単純ヘルペスウイルスベースのベクターは、1以上の前初期(IE)遺伝子を含ま
ず、そのために細胞傷害性がなくなるように改変する。
【0091】
ある実施形態において、本明細書において提供するウイルスベクターは、MLVベース
のウイルスベクターである。ある実施形態において、本明細書において提供するMLVベ
ースのベクターは、ウイルス遺伝子の代わりに最高8kbの異種DNAを含む。
【0092】
ある実施形態において、本明細書において提供するウイルスベクターは、レンチウイル
スベースのウイルスベクターである。ある実施形態において、本明細書において提供する
レンチウイルスベクターは、ヒトレンチウイルスに由来する。ある実施形態において、本
明細書において提供するレンチウイルスベクターは、非ヒトレンチウイルスに由来する。
ある実施形態において、本明細書において提供するレンチウイルスベクターは、レンチウ
イルスキャプシドにパッケージングされる。ある実施形態において、本明細書において提
供するレンチウイルスベクターは、以下のエレメント:長い末端反復配列、プライマー結
合部位、ポリプリントラクト、att部位、及びキャプシド化部位の1以上を含む。
【0093】
ある実施形態において、本明細書において提供するウイルスベクターは、アルファウイ
ルスベースのウイルスベクターである。ある実施形態において、本明細書において提供す
るアルファウイルスベクターは、組換え、複製欠損アルファウイルスである。ある実施形
態において、本明細書において提供するアルファウイルスベクターのアルファウイルスレ
プリコンは、それらのビリオン表面に機能的な異種リガンドを提示することによって、特
定の細胞種に標的化される。
【0094】
ある実施形態において、本明細書において提供するウイルスベクターは、AAVベース
のウイルスベクターである。好ましい実施形態では、本明細書において提供するウイルス
ベクターは、AAV9またはAAVrh10ベースのウイルスベクターである。ある実施
形態において、本明細書において提供するAAV9またはAAVrh10ベースのウイル
スベクターは、CNS細胞への向性を保持する。複数のAAV血清型が特定されている。
ある実施形態において、本明細書において提供するAAVベースのベクターは、AAVの
1以上の血清型に由来する成分を含む。ある実施形態において、本明細書において提供す
るAAVベースのベクターは、AAV1、AAV2、AAV3、AAV4、AAV5、A
AV6、AAV7、AAV8、AAV9、AAVrh10、またはAAV11の1以上に
由来する成分を含む。好ましい実施形態において、本明細書において提供するAAVベー
スのベクターは、AAV8、AAV9、AAV10またはAAV11血清型の1以上に由
来する成分を含む。AAV9ベースのウイルスベクターは、本明細書に記載の方法で使用
する。AAVベースのウイルスベクターの核酸配列ならびに組換えAAV及びAAVキャ
プシドの作製方法は、例えばその各々の全体が参照により本明細書に組み込まれている、
米国特許第7,282,199 B2号、米国特許第7,790,449 B2号、米国
特許第8,318,480 B2号、米国特許第8,962,332 B2号、及び国際
特許出願第PCT/EP2014/076466号において教示される。一態様において
、導入遺伝子(例えば、IDUA)をコードするAAV(例えば、AAV9またはAAV
rh10)ベースのウイルスベクターが、本明細書において提供される。具体的な実施形
態において、IDUAをコードするAAV9ベースのウイルスベクターが、本明細書にお
いて提供される。より具体的な実施形態において、hIDUAをコードするAAV9ベー
スのウイルスベクターが、本明細書において提供される。
【0095】
(i)調節エレメントの制御下にあり、ITRと隣接している導入遺伝子を含む発現カ
セット;及び(ii)AAV9キャプシドタンパク質のアミノ酸配列を有するか、または
AAV9キャプシドタンパク質(配列番号26)のアミノ酸配列と少なくとも95%、9
6%、97%、98%、99%、または99.9%同一であり、同時にAAV9キャプシ
ドの生物学的機能を保持するウイルスキャプシド:を含む人工ゲノムを含むAAV9ベク
ターを、特定の実施形態において提供する。ある実施形態において、コードされたAAV
9キャプシドは、配列番号26の配列に1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、1
1、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24
、25、26、27、28、29、または30個のアミノ酸置換を有し、かつAAV9キ
ャプシドの生物学的機能を保持する。図5は、SUBSと表示された列における比較に基
づくアラインされた配列の特定の位置で置換され得る潜在的アミノ酸を有する異なるAA
V血清型のキャプシドタンパク質のアミノ酸配列の比較アラインメントを提供する。した
がって、具体的な実施形態において、AAV9ベクターは、ネイティブAAV9配列中の
その位置に存在しない図5のSUBS列において特定される1、2、3、4、5、6、7
、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21
、22、23、24、25、26、27、28、29、または30個のアミノ酸置換を有
するAAV9キャプシドバリアントを含む。
【0096】
ある実施形態において、本明細書に記載の方法で使用するAAVは、その全体が参照に
より組み込まれているZinn et al.,2015,Cell Rep.12(6
):1056-1068に記載の通り、Anc80またはAnc80L65である。ある
実施形態において、本明細書に記載の方法で使用するAAVは、その各々の全体が参照に
より本明細書に組み込まれている米国特許第9,193,956号、第9458517号
、及び第9,587,282号、ならびに米国特許出願公開第2016/0376323
号に記載の通り、以下のアミノ酸挿入:LGETTRPまたはLALGETTRPのうち
の1つを含む。ある実施形態において、その各々の全体が参照により本明細書に組み込ま
れている米国特許第9,193,956号、第9,458,517号、及び第9,587
,282号、ならびに米国特許出願公開第2016/0376323号に記載の通り、本
明細書に記載の方法で使用するAAVは、AAV.7m8である。ある実施形態において
、本明細書に記載の方法で使用するAAVは、米国特許第9,585,971号において
開示される任意のAAV(例えば、AAV-PHP.B)である。ある実施形態において
、本明細書に記載の方法で使用するAAVは、その各々の全体が参照により本明細書に組
み込まれている以下の特許及び特許出願:米国特許第7,906,111号;第8,52
4,446号;第8,999,678号;第8,628,966号;第8,927,51
4号;第8,734,809号;米国第9,284,357号;第9,409,953号
;第9,169,299号;第9,193,956号;第9458517号;及び第9,
587,282号、米国特許出願公開第2015/0374803号;第2015/01
26588号;第2017/0067908号;第2013/0224836号;第20
16/0215024号;第2017/0051257号;及び国際特許出願番号PCT
/US2015/034799;PCT/EP2015/053335のいずれかにおい
て開示されるAAVである。
【0097】
ある実施形態において、一本鎖AAV(ssAAV)は、上記の通り使用することがで
きる。ある実施形態において、自己相補的ベクター、例えば、scAAVを使用すること
ができる(例えば、その各々の全体が参照により本明細書に組み込まれているWu,20
07,Human Gene Therapy,18(2):171-82,McCar
ty et al,2001,Gene Therapy,Vol 8,Number
16,Pages 1248-1254;及び米国特許第6,596,535号;第7,
125,717号;及び第7,456,683号を参照のこと)。
【0098】
ある実施形態において、本明細書に記載の方法で使用されるウイルスベクターは、アデ
ノウイルスベースのウイルスベクターである。組換えアデノウイルスベクターは、IDU
Aの導入に使用することができる。組換えアデノウイルスは、E1欠失を有し、E3欠失
を有していてもいなくてもよく、かつ発現カセットがいずれかの欠失した領域に挿入され
ている第一世代のベクターとし得る。組換えアデノウイルスは、E2及びE4領域の完全
または部分的欠失を含む第二世代のベクターとし得る。ヘルパー依存型アデノウイルスは
、アデノウイルス逆位末端反復配列及びパッケージングシグナル(φ)のみを保持する。
導入遺伝子は、パッケージングシグナル及び3’ITRの間に挿入され、およそ36kb
の野生型のサイズの近くに人工ゲノムを維持するスタッファー配列があってもなくてもよ
い。アデノウイルスベクターの生産のための例示的なプロトコルは、その全体が参照によ
り本明細書に組み込まれているAlba et al.,2005,“Gutless
adenovirus:last generation adenovirus fo
r gene therapy,”Gene Therapy 12:S18-S27に
見出すことができる。
【0099】
ある実施形態において、本明細書に記載の方法で使用されるウイルスベクターは、レン
チウイルスベースのウイルスベクターである。組換えレンチウイルスベクターは、IDU
Aの導入に使用することができる。4つのプラスミドを、コンストラクト:Gag/po
l配列を含むプラスミド、Rev配列を含むプラスミド、エンベロープタンパク質を含む
プラスミド(すなわち、VSV-G)、ならびにパッケージングエレメント及びIDUA
遺伝子を有するCisプラスミドを作製するために使用する。
【0100】
レンチウイルスベクター作製のため、とりわけポリエチレンイミンまたはリン酸カルシ
ウムをトランスフェクション薬剤として使用し得ることにより、4つのプラスミドを細胞
(すなわち、HEK293ベースの細胞)に共トランスフェクションする。続いて、上清
中のレンチウイルスを採取する(レンチウイルスは、活性を示すために細胞から出芽する
必要があるため、細胞からの採取は行う必要がないし、するべきではない)。上清を濾過
し(0.45μm)、続いて、塩化マグネシウム及びベンゾナーゼを加える。さらに下流
のプロセスは、非常に様々なものがあり得、TFF及びカラムクロマトグラフィーの使用
が最もGMPに適合するプロセスである。他のプロセスでは、超遠心分離が使用され、カ
ラムクロマトグラフィーを伴ってもよいし、伴わなくてもよい。レンチウイルスベクター
の作製のための例示的なプロトコルは、その両方とも全体が参照により本明細書に組み込
まれている、Lesch et al.,2011,“Production and
purification of lentiviral vector genera
ted in 293T suspension cells with baculo
viral vectors,”Gene Therapy 18:531-538、及
びAusubel et al.,2012,“Production of CGMP
-Grade Lentiviral Vectors,”Bioprocess In
t.10(2):32-43に見出すことができる。
【0101】
具体的な実施形態において、本明細書に記載の方法に用いられるベクターはIDUA(
例えば、hIDUA)をコードするベクターであり、CNSの細胞または関連した細胞(
例えば、in vivoまたはin vitroの神経細胞)に形質導入した際に、ID
UAのグリコシル化バリアントが形質導入された細胞によって発現されるようになってい
る。具体的な実施形態において、本明細書に記載の方法に用いられるベクターはIDUA
(例えば、hIDUA)をコードするベクターであり、CNSの細胞または関連した細胞
(例えば、in vivoまたはin vitroの神経細胞)に形質導入した際に、I
DUAの硫酸化バリアントが細胞によって発現されるようになっている。
【0102】
(5.2.3.遺伝子発現のプロモーター及び修飾物質(modifiers))
ある実施形態において、本明細書において提供するベクターは、遺伝子送達または遺伝
子発現(例えば、「発現制御エレメント」)を調節する構成要素を含む。ある実施形態に
おいて、本明細書において提供するベクターは、遺伝子発現を調節する構成要素を含む。
ある実施形態において、本明細書において提供するベクターは、細胞との結合に影響を及
ぼすかまたは細胞を標的とする構成要素を含む。ある実施形態において、本明細書におい
て提供するベクターは、取り込みの後、細胞内でのポリヌクレオチド(例えば、導入遺伝
子)の局在化に影響を及ぼす構成要素を含む。ある実施形態において、本明細書において
提供するベクターは、例えば、ポリヌクレオチドを取り込んだ細胞を検出するか、または
選択するための検出可能な、または選択可能なマーカーとして使用することができる構成
要素を含む。
【0103】
ある実施形態において、本明細書において提供するウイルスベクターは、1以上のプロ
モーターを含む。ある実施形態において、プロモーターは、構成的プロモーターである。
代替の実施形態において、プロモーターは、誘導性プロモーターである。ネイティブのI
DUA遺伝子は、大部分のハウスキーピング遺伝子と同様に、主にGCリッチプロモータ
ーを使用する。好ましい実施形態において、hIDUAの持続的な発現を提供する強力な
構成的プロモーターを使用する。そのようなプロモーターには、「C」-サイトメガロウ
イルス(CMV)初期エンハンサーエレメント;「A」-ニワトリβアクチン遺伝子のプ
ロモーターならびに第一エキソン及びイントロン;ならびに「G」-ウサギβ-グロビン
遺伝子のスプライスアクセプターを含む「CAG」合成プロモーターがある(Miyaz
aki et al.,1989,Gene 79:269-277、及びNiwa e
t al.,Gene 108:193-199を参照のこと)。
【0104】
ある実施形態において、プロモーターはCB7プロモーターである(その全体が参照に
より本明細書に組み込まれているDinculescu et al.,2005,Hu
m Gene Ther 16:649-663を参照のこと)。いくつかの実施形態に
おいて、CB7プロモーターは、ベクターによって駆動される導入遺伝子の発現を増強す
る他の発現制御エレメントを含む。ある実施形態において、他の発現制御エレメントには
、ニワトリβ-アクチンイントロン及び/またはウサギβ-グロビンpolAシグナルが
ある。ある実施形態において、プロモーターは、TATAボックスを含む。ある実施形態
において、プロモーターは、1以上のエレメントを含む。ある実施形態において、1以上
のプロモーターエレメントは、互いに対して逆向きにしても、位置を変えてもよい。ある
実施形態において、プロモーターのエレメントは、協働的に機能するように配置する。あ
る実施形態において、プロモーターのエレメントは、独立して機能するように配置する。
ある実施形態において、本明細書において提供するウイルスベクターは、ヒトCMV前初
期遺伝子プロモーター、SV40初期プロモーター、ラウス肉腫ウイルス(RS)長鎖末
端反復配列、及びラットインスリンプロモーターからなる群から選択される1以上のプロ
モーターを含む。ある実施形態において、本明細書において提供するベクターは、AAV
、MLV、MMTV、SV40、RSV、HIV-1、及びHIV-2 LTRからなる
群から選択される1以上の長鎖末端反復配列(LTR)プロモーターを含む。ある実施形
態において、本明細書において提供するベクターは、1以上の組織特異的プロモーター(
例えば、神経細胞特異的なプロモーター)を含む。
【0105】
ある実施形態において、本明細書において提供するウイルスベクターは、1以上のプロ
モーター以外の調節エレメントを含む。ある実施形態において、本明細書において提供す
るウイルスベクターは、エンハンサーを含む。ある実施形態において、本明細書において
提供するウイルスベクターは、リプレッサーを含む。ある実施形態において、本明細書に
おいて提供するウイルスベクターは、イントロンまたはキメライントロンを含む。ある実
施形態において、本明細書において提供するウイルスベクターは、ポリアデニル化配列を
含む。
【0106】
(5.2.4.シグナルペプチド)
ある実施形態において、本明細書において提供するベクターは、タンパク質送達を調節
する構成要素を含む。ある実施形態において、本明細書において提供するウイルスベクタ
ーは、1以上のシグナルペプチドを含む。ある実施形態において、シグナルペプチドは、
導入遺伝子産物(例えば、IDUA)の細胞内での適切なパッケージング(例えば、グリ
コシル化)を達成することを可能にする。ある実施形態において、シグナルペプチドは、
導入遺伝子産物(例えば、IDUA)が細胞内で適切な局在化を達成することを可能にす
る。ある実施形態において、シグナルペプチドは、導入遺伝子産物(例えば、IDUA)
が細胞からの分泌を達成することを可能にする。ベクターに関連して使用されるシグナル
ペプチドの例及び本明細書において提供する導入遺伝子は、表3に見出すことができる。
シグナルペプチドはまた、本明細書において、リーダー配列またはリーダーペプチドと呼
ばれ得る。
表3.本明細書において提供するベクターとともに使用するためのシグナルペプチド。
【表1】
【0107】
(5.2.5.非翻訳領域)
ある実施形態において、本明細書において提供するウイルスベクターは、1以上の非翻
訳領域(UTR)(例えば、3’及び/または5’UTR)を含む。ある実施形態におい
て、UTRは、タンパク質発現の所望のレベルのために最適化される。ある実施形態にお
いて、UTRは、導入遺伝子のmRNA半減期のために最適化される。ある実施形態にお
いて、UTRは、導入遺伝子のmRNAの安定性のために最適化される。ある実施形態に
おいて、UTRは、導入遺伝子のmRNAの二次構造のために最適化される。
【0108】
(5.2.6.逆位末端反復配列)
ある実施形態において、本明細書において提供するウイルスベクターは、1以上の逆位
末端反復(ITR)配列を含む。ITR配列は、ウイルスベクターのビリオンに組換え遺
伝子発現カセットをパッケージングするために使用することができる。ある実施形態にお
いて、ITRは、AAV(例えば、AAV9)に由来するものである(その各々の全体が
参照により本明細書に組み込まれている、例えばYan et al.,2005,J.
Virol.,79(1):364-379;米国特許第7,282,199 B2号、
米国特許第7,790,449 B2号、米国特許第8,318,480 B2号、米国
特許第8,962,332 B2号、及び国際特許出願番号PCT/EP2014/07
6466を参照のこと)。
【0109】
(5.2.7.導入遺伝子)
ある実施形態において、本明細書において提供するベクターは、IDUA導入遺伝子を
コードする。具体的な実施形態において、IDUAは、神経細胞における発現に適当な発
現制御エレメントによって制御される:ある実施形態において、IDUA(例えば、hI
DUA)導入遺伝子は、配列番号1のアミノ酸配列を含む。ある実施形態において、ID
UA(例えば、hIDUA)導入遺伝子は、配列番号1に記載の配列と少なくとも85%
、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%
、96%、97%、98%、または99%同一のアミノ酸配列を含む。
【0110】
導入遺伝子によってコードされるHuGlyIDUAは、これらに限定はされないが、
配列番号1のアミノ酸配列を有するヒトIDUA(hIDUA)(図1に示す)、ならび
にアミノ酸の置換、欠失、または付加を有する、例えばこれらに限定はされないが、図2
に示すIDUAのオーソログ中に対応する非保存的残基から選択されるアミノ酸置換を含
む、hIDUAの誘導体を含むことができる(ただし、そのような突然変異が、図3に示
す(その全体が参照により本明細書に組み込まれているSaito et al.,20
14,Mol Genet Metab 111:107-112の57個のMPS I
突然変異を列記する表3より)、またはその各々の全体が参照により本明細書に組み込ま
れているVenturi et al.,2002,Human Mutation #
522 Online(「Venturi 2002」)、もしくはBertola e
t al.,2011 Human Mutation 32:E2189-E2210
(「Bertola 2011」)によって報告された、重度の、中程度に重度の、中程
度の、もしくは軽症型MPS I表現型において同定されたいずれの突然変異も含まない
ことを条件とする)hIDUAの誘導体を含むことができる。
【0111】
例えば、hIDUAの特定位置でのアミノ酸置換は図2(その全体が参照により本明細
書に組み込まれているMaita et al.,2013,PNAS 110:146
28、図S8に報告されたオーソログのアラインメントを示す)に表されるIDUAオー
ソログにおけるその位置に見出される対応する非保存的アミノ酸残基から選択することが
できる(ただし、そのような置換は図3に示されるか、または上記Venturi 20
02もしくはBertola 2011において報告される有害な突然変異のいずれも含
まないことを条件とする)。結果として得られる導入遺伝子産物は、細胞培養または試験
動物で、突然変異がIDUA機能を損なわないことを保証するためのin vitroで
の従来のアッセイを使用して試験することができる。選択される好ましいアミノ酸置換、
欠失、または付加は、細胞培養または動物モデルにおけるMPS Iのためのin vi
troでの従来のアッセイによって試験されるIDUAの酵素活性、安定性、または半減
期を維持するか、または増加させるものとするべきである。例えば、導入遺伝子産物の酵
素活性は基質として4-メチルウンベリフェリルα-L-イズロニドを用いる従来の酵素
アッセイを使用して評価することができる(使用可能な例示的なIDUA酵素アッセイに
ついては、例えば、その各々の全体が参照により本明細書に組み込まれている、Hopw
ood et al.,1979,Clin Chim Acta 92:257-26
5;Clements et al.,1985,Eur J Biochem 152
:21-28;及びKakkis et al.,1994,Prot Exp Pur
if 5:225-232を参照のこと)。導入遺伝子産物がMPS I表現型を修正す
る能力は、例えば、培養中でMPS I細胞にhIDUAまたは誘導体をコードするウイ
ルスベクターもしくは他のDNA発現コンストラクトを形質導入することにより、培養中
のMPS I細胞にrHuGlyIDUAもしくは誘導体を加えることにより、またはM
PS I細胞をrHuGlyIDUAもしくは誘導体を発現及び分泌するように操作した
ヒト宿主細胞と共培養することにより、細胞培養中で評価し、例えば、培養中のMPS
I細胞におけるIDUA酵素活性及び/またはGAG貯蔵量の低下を検出することにより
、MPS I培養細胞の欠陥の修正を決定することができる(例えば、その各々の全体が
参照により本明細書に組み込まれているMyerowitz&Neufeld,1981
,J Biol Chem 256:3044-3048;及びAnson et al
.1992,Hum Gene Ther 3:371-379を参照のこと)。
【0112】
(5.2.8.コンストラクト)
ある実施形態において、本明細書において提供されるウイルスベクターは、以下の順序
で以下のエレメント:a)第1のITR配列、b)第1のリンカー配列、c)プロモータ
ー配列、d)第2のリンカー配列、e)イントロン配列、f)第3のリンカー配列、g)
導入遺伝子(例えば、IDUA)をコードする配列、h)第4のリンカー配列、i)ポリ
A配列、j)第5のリンカー配列、及びk)第2のITR配列を含む。
【0113】
ある実施形態において、本明細書において提供するウイルスベクターは、以下の順序で
以下のエレメント:a)プロモーター配列、及びb)導入遺伝子(例えば、IDUA)を
コードする配列を含む。ある実施形態において、本明細書において提供するウイルスベク
ターは、以下の順序で以下のエレメント:a)プロモーター配列、及びb)導入遺伝子(
例えば、IDUA)をコードする配列を含み、ここで導入遺伝子はシグナルペプチドを含
む。
【0114】
ある実施形態において、本明細書において提供するウイルスベクターは、以下の順序で
以下のエレメント:a)第1のITR配列、b)第1のリンカー配列、c)プロモーター
配列、d)第2のリンカー配列、e)イントロン配列、f)第3のリンカー配列、g)第
1のUTR配列、h)導入遺伝子(例えば、IDUA)をコードする配列、i)第2のU
TR配列、j)第4のリンカー配列、k)ポリA配列、l)第5のリンカー配列、及びm
)第2のITR配列を含む。
【0115】
ある実施形態において、本明細書において提供されるウイルスベクターは、以下の順序
で以下のエレメント:a)第1のITR配列、b)第1のリンカー配列、c)プロモータ
ー配列、d)第2のリンカー配列、e)イントロン配列、f)第3のリンカー配列、g)
第1のUTR配列、h)導入遺伝子(例えば、IDUA)をコードする配列、i)第2の
UTR配列、j)第4のリンカー配列、k)ポリA配列、l)第5のリンカー配列、及び
m)第2のITR配列を含み、ここで導入遺伝子はシグナルペプチドを含み、かつ導入遺
伝子はhIDUAをコードする。
【0116】
(5.2.9.ベクターの製造及び試験)
本明細書において提供するウイルスベクターは、宿主細胞を使用して製造することがで
きる。本明細書において提供するウイルスベクターは、哺乳動物の宿主細胞、例えば、A
549、WEHI、10T1/2、BHK、MDCK、COS1、COS7、BSC 1
、BSC 40、BMT 10、VERO、W138、HeLa、293、Saos、C
2C12、L、HT1080、HepG2、初代線維芽細胞、肝細胞、及び筋芽細胞を使
用して製造することができる。本明細書において提供するウイルスベクターは、ヒト、サ
ル、マウス、ラット、ウサギ、またはハムスターから宿主細胞を使用して製造することが
できる。
【0117】
宿主細胞は、導入遺伝子及び関連するエレメント(すなわち、ベクターゲノム)、及び
ウイルスを宿主細胞で生産する手段、例えば、複製及びキャプシド遺伝子(例えば、AA
Vのrep及びcap遺伝子)をコードする配列を用いて安定的に形質転換する。AAV
8キャプシドを有する組換えAAVベクターを生産する方法については、その全体が参照
により本明細書に組み込まれている米国特許第7,282,199 B2号の詳細な説明
の第IV節を参照のこと。上記ベクターのゲノムコピー力価は、例えばTAQMAN(登
録商標)分析によって決定することができる。ビリオンは、例えばCsCl沈降によっ
て回収することができる。
【0118】
in vitroアッセイ、例えば細胞培養アッセイは、本明細書に記載のベクターか
らの導入遺伝子発現を測定するために使用することができ、従って例えば、ベクターの効
力を示すことができる。例えば、HT-22、SK-N-MC、HCN-1A、HCN-
2、NT2、SH-SY5y、hNSC11、もしくはReNcell VM細胞株、ま
たは神経細胞もしくはグリア細胞、または神経細胞もしくはグリア細胞の前駆細胞に由来
する他の細胞株を、導入遺伝子発現を評価するために使用することができる。発現される
と、HuGlyIDUAと関連したグリコシル化及びチロシン硫酸化のパターンの決定を
含む、発現された産物(すなわち、HuGlyIDUA)の特徴を決定することができる
【0119】
(5.2.10.組成物)
本明細書に記載の導入遺伝子をコードしているベクター及び好適な担体を含む組成物を
記載する。好適な担体(例えば、CSF、及び例えば神経細胞への投与のために)は、当
業者によって容易に選択される。
【0120】
(5.3遺伝子治療)
MPS Iを有するヒト対象への、治療有効量の導入遺伝子コンストラクトの投与のた
めの方法を記載する。より詳細には、MPS Iを有する患者に、治療有効量の導入遺伝
子コンストラクトを、投与するため、特にCSFに投与のための方法を記載する。特定の
実施形態において、そのような治療有効量の導入遺伝子コンストラクトのCSFへの投与
方法は、ハーラー症候群またはハーラー-シャイエ症候群を有する患者を治療するために
使用することができる。
【0121】
(5.3.1.標的患者集団)
ある実施形態において、治療有効用量の組換えベクターをMPS Iと診断された患者
に投与する。具体的な実施形態において、患者は、ハーラー-シャイエ症候群と診断され
た。具体的な実施形態において、患者は、シャイエ症候群と診断された。具体的な実施形
態において、患者は、ハーラー症候群と診断された。
【0122】
ある実施形態において、治療有効用量の組換えベクターを、重度のMPS Iと診断さ
れた患者に投与する。ある実施形態において、治療有効用量の組換えベクターを、減弱型
MPS Iと診断された患者に投与する。
【0123】
ある実施形態において、治療有効用量の組換えベクターを、MPS Iと診断され、I
DUA(例えば、hIDUA)を用いた治療に反応すると特定された患者に投与する。
【0124】
ある実施形態において、治療有効用量の組換えベクターを、小児患者に投与する。ある
実施形態において、治療有効用量の組換えベクターを、3歳未満である患者に投与する。
ある実施形態において、治療有効用量の組換えベクターを、2~4歳である患者に投与す
る。ある実施形態において、治療有効用量の組換えベクターを、3~8歳である患者に投
与する。ある実施形態において、治療有効用量の組換えベクターを、8~16歳である患
者に投与する。ある実施形態において、治療有効用量の組換えベクターを、6~18歳で
ある患者に投与する。ある実施形態において、治療有効用量の組換えベクターを、6歳以
上の患者に投与する。ある実施形態において、治療有効用量の組換えベクターを、3歳未
満の患者に投与する。ある実施形態において、治療有効用量の組換えベクターを、4ヶ月
齢以上であるが9ヶ月齢未満である患者に投与する。ある実施形態において、治療有効用
量の組換えベクターを、9ヶ月齢以上であるが18ヶ月齢未満である患者に投与する。あ
る実施形態において、治療有効用量の組換えベクターを、18ヶ月以上であるが3歳未満
である患者に投与する。ある実施形態において、治療有効用量の組換えベクターを、10
歳を超える患者に投与する。ある実施形態において、治療有効用量の組換えベクターを、
青年期の患者に投与する。ある実施形態において、治療有効用量の組換えベクターを、成
人の患者に投与する。
【0125】
ある実施形態において、治療有効用量の組換えベクターを、MPS Iと診断され、遺
伝子治療処置の前にCSFに注入されたIDUA、例えばhIUAによる治療に反応する
と特定された患者に投与する。
【0126】
(5.3.2.投薬量及び投与様式)
ある実施形態において、治療有効用量の組換えベクターは、くも膜下腔内投与(すなわ
ち、くも膜下腔に注入して、組換えベクターがCSFを通じて散布され、CNSの細胞が
形質導入されるようにする)を介して、CSFに投与する。このことは、いくつかの方法
で、例えば、頭蓋内(大槽または脳室内)注入、または腰椎槽への注入によって達成する
ことができる。ある実施形態において、くも膜下腔内投与は、大槽内(IC)注入(例え
ば、大槽に)により実施する。具体的な実施形態において、大槽内注入は、CTガイド後
頭下穿刺によって実施する。具体的な実施形態において、くも膜下腔内注入は、腰椎穿刺
によって実施する。具体的な実施形態において、患者に実行できそうな場合は、くも膜下
腔への注入はC1-2穿刺によって実施する。ある実施形態において、治療有効用量の組
換えベクターは、鼻腔内投与を介してCNSに投与する。ある実施形態において、治療有
効用量の組換えベクターは、脳実質内注入によりCNSに投与する。ある実施形態におい
て、脳実質内注入は、線条体を標的とする。ある実施形態において、脳実質内注入は、白
質を標的とする。ある実施形態において、治療有効用量の組換えベクターは、当技術にお
いて公知の任意の手段、例えばその全体が参照により本明細書に組み込まれているHoc
quemiller et al.,2016,Human Gene Therapy
27(7):478-496において開示された任意の手段によって、CSFに投与す
る。
【0127】
組換えベクターは、rHuGlyIDUAのCSF濃度を少なくとも9.25~277
μg/mLのCminに維持する用量で、CSFに投与するべきである。ある実施形態に
おいて、組換えベクターは、rHuGlyIDUAのCSF濃度を少なくとも9.25、
16、46、92、185、または277μg/mL)のCminに維持する用量で、C
SFに投与する。ある実施形態において、組換えベクターは、rHuGlyIDUAのC
SF濃度を少なくとも9.25、16、46、92、185、または277μg/mL)
のCminに維持する用量で、CSFに投与する。ある実施形態において、組換えベクタ
ーは、rHuGlyIDUAのCSF濃度を少なくとも9.25μg/mLのCmin
維持する用量で、CSFに投与する。ある実施形態において、組換えベクターは、rHu
GlyIDUAのCSF濃度を少なくとも16μg/mLのCminに維持する用量で、
CSFに投与する。ある実施形態において、組換えベクターは、rHuGlyIDUAの
CSF濃度を少なくとも46μg/mLのCminに維持する用量で、CSFに投与する
。ある実施形態において、組換えベクターは、rHuGlyIDUAのCSF濃度を少な
くとも92μg/mLのCminに維持する用量で、CSFに投与する。ある実施形態に
おいて、組換えベクターは、rHuGlyIDUAのCSF濃度を少なくとも185μg
/mLのCminに維持する用量で、CSFに投与する。ある実施形態において、組換え
ベクターは、rHuGlyIDUAのCSF濃度を少なくとも277μg/mLのCmi
に維持する用量で、CSFに投与する。
【0128】
ある実施形態において、小児患者の場合、組換えベクターは、CSF中の総rHuGl
yIDUAの1.00~30.00mgを維持する用量でCSFに投与される。ある実施
形態において、小児患者の場合、組換えベクターは、CSF中の総rHuGlyIDUA
の1.00、1.74、5.00、10.00、20.00、または30.00mgを維
持する用量でCSFに投与される。ある実施形態において、小児患者の場合、組換えベク
ターは、CSF中の総rHuGlyIDUAの1.00mgを維持する用量でCSFに投
与される。ある実施形態において、小児患者の場合、組換えベクターは、CSF中の総r
HuGlyIDUAの1.74mgを維持する用量でCSFに投与される。ある実施形態
において、小児患者の場合、組換えベクターは、CSF中に総rHuGlyIDUAの5
.00mgを維持する用量でCSFに投与される。ある実施形態において、小児患者の場
合、組換えベクターは、CSF中の総rHuGlyIDUAの10.00mgを維持する
用量でCSFに投与される。ある実施形態において、小児患者の場合、組換えベクターは
、CSF中の総rHuGlyIDUAの20.00mgを維持する用量でCSFに投与さ
れる。ある実施形態において、小児患者の場合、組換えベクターは、CSF中の総rHu
GlyIDUAの30.00mgを維持する用量でCSFに投与される。
【0129】
ある実施形態において、成人患者の場合、組換えベクターは、CSF中の総rHuGl
yIDUAの1.29~38.88mgを維持する用量でCSFに投与される。ある実施
形態において、成人患者の場合、組換えベクターは、CSF中の総rHuGlyIDUA
の1.29、2.25、8.40、12.96、25.93、または38.88mgを維
持する用量でCSFに投与される。ある実施形態において、成人患者の場合、組換えベク
ターは、CSF中の総rHuGlyIDUAの1.29mgを維持する用量でCSFに投
与される。ある実施形態において、成人患者の場合、組換えベクターは、CSF中の総r
HuGlyIDUAの2.25mgを維持する用量でCSFに投与される。ある実施形態
において、成人患者の場合、組換えベクターは、CSF中の総rHuGlyIDUAの8
.40mgを維持する用量でCSFに投与される。ある実施形態において、成人患者の場
合、組換えベクターは、CSF中の総rHuGlyIDUAの12.96mgを維持する
用量でCSFに投与される。ある実施形態において、成人患者の場合、組換えベクターは
、CSF中の総rHuGlyIDUAの25.93mgを維持する用量でCSFに投与さ
れる。ある実施形態において、成人患者の場合、組換えベクターは、CSF中の総rHu
GlyIDUA38.88mgを維持する用量でCSFに投与される。
【0130】
くも膜下腔内投与について、治療有効用量の組換えベクターは、注入容量を好ましくは
最高約20mLとしてCSFに投与するべきである。くも膜下腔内注入に好適な担体、例
えばElliotts B溶液は、組換えベクターのためのビヒクルとして使用するべき
である。Elliots B溶液(一般名:塩化ナトリウム、重炭酸ナトリウム、無水デ
キストロース、硫酸マグネシウム、塩化カリウム、塩化カルシウム、及びリン酸ナトリウ
ム)は、静菌保存剤を含んでいない無菌の、非発熱性の、等張溶液であり、化学療法薬の
くも膜下腔内投与のための希釈剤として使用する。
【0131】
CSF濃度は、後頭部または腰椎穿刺から得られるCSF流体中のrHuGlyIDU
Aの濃度を直接測定することによってモニタリングし、または患者の血清において検出さ
れたrHuGlyIDUAの濃度から外挿によって推定することができる。ある実施形態
において、血清中のrHuGlyIDUAが10ng/mL~100ng/mLであるこ
とは、CSF中のrHuGlyIDUAが1~30mgであることを示す。ある実施形態
において、組換えベクターは、血清中のrHuGlyIDUAを10ng/mL~100
ng/mLに維持する用量で、CSFに投与する。
【0132】
ある実施形態において、投薬量は、患者のCSFに投与される(例えば、後頭下穿刺ま
たは腰椎穿刺を介して注入される)ゲノムコピーの数により測定する。ある実施形態にお
いて、1×1012~2×1014ゲノムコピーを投与する。ある実施形態において、5
×1012~2×1014のゲノムコピーを投与する。具体的な実施形態において、1×
1013~1×1014のゲノムコピーを投与する。具体的な実施形態において、1×1
13~2×1013のゲノムコピーを投与する。具体的な実施形態において、6×10
13~8×1013のゲノムコピーを投与する。具体的な実施形態において、1.2×1
12のゲノムコピーを投与する。別の具体的な実施形態において、2.0×1012
ゲノムコピーを投与する。別の具体的な実施形態において、2.2×1012のゲノムコ
ピーを投与する。別の具体的な実施形態において、6.0×1012のゲノムコピーを投
与する。別の具体的な実施形態において、1.0×1013のゲノムコピーを投与する。
別の具体的な実施形態において、1.1×1013のゲノムコピーを投与する。別の具体
的な実施形態において、3.0×1013のゲノムコピーを投与する。別の具体的な実施
形態において、5.0×1013のゲノムコピーを投与する。別の具体的な実施形態にお
いて、5.5×1013のゲノムコピーを投与する。具体的な実施形態において、1.2
×1012~6.0×1012のゲノムコピーを投与する。別の具体的な実施形態におい
て、2.0×1012~1.0×1013のゲノムコピーを投与する。別の具体的な実施
形態において、2.2×1012~1.1×1013のゲノムコピーを投与する。別の具
体的な実施形態において、6.0×1012~3.0×1013のゲノムコピーを投与す
る。別の具体的な実施形態において、1.0×1013~5.0×1013のゲノムコピ
ーを投与する。別の具体的な実施形態において、1.1×1013~5.5×1013
ゲノムコピーを投与する。
【0133】
ある実施形態において、1×1013のゲノムコピーの固定用量を、小児患者に投与す
る。ある実施形態において、5.6×1013のゲノムコピーの固定用量を、小児患者に
投与する。ある実施形態において、1×1012~5.6×1013のゲノムコピーの固
定用量を、小児患者に投与する。ある実施形態において、1×1013~5.6×10
のゲノムコピーの固定用量を、小児患者に投与する。具体的な実施形態において、1.
2×1012のゲノムコピーの固定用量を、小児患者に投与する。別の具体的な実施形態
において、2.0×1012のゲノムコピーの固定用量を、小児患者に投与する。別の具
体的な実施形態において、2.2×1012のゲノムコピーの固定用量を、小児患者に投
与する。別の具体的な実施形態において、6.0×1012のゲノムコピーの固定用量を
、小児患者に投与する。別の具体的な実施形態において、1.0×1013のゲノムコピ
ーの固定用量を、小児患者に投与する。別の具体的な実施形態において、1.1×10
のゲノムコピーの固定用量を、小児患者に投与する。別の具体的な実施形態において、
3.0×1013のゲノムコピーの固定用量を、小児患者に投与する。別の具体的な実施
形態において、5.0×1013のゲノムコピーの固定用量を、小児患者に投与する。別
の具体的な実施形態において、5.5×1013のゲノムコピーの固定用量を、小児患者
に投与する。具体的な実施形態において、1.2×1012~6.0×1012のゲノム
コピーの固定用量を、小児患者に投与する。別の具体的な実施形態において、2.0×1
12~1.0×1013のゲノムコピーの固定用量を、小児患者に投与する。別の具体
的な実施形態において、2.2×1012~1.1×1013のゲノムコピーの固定用量
を、小児患者に投与する。別の具体的な実施形態において、6.0×1012~3.0×
1013のゲノムコピーの固定用量を、小児患者に投与する。別の具体的な実施形態にお
いて、1.0×1013~5.0×1013のゲノムコピーの固定用量を、小児患者に投
与する。別の具体的な実施形態において、1.1×1013~5.5×1013のゲノム
コピーの固定用量を、小児患者に投与する。ある実施形態において、2.6×1012
ゲノムコピーの固定用量を、成人患者に投与する。ある実施形態において、1.3×10
13のゲノムコピーの固定用量を、成人患者に投与する。ある実施形態において、1.4
×1013のゲノムコピーの固定用量を、成人患者に投与する。ある実施形態において、
7.0×1013のゲノムコピーの固定用量を、成人患者に投与する。ある実施形態にお
いて、1.4×1013~7.0×1013のゲノムコピーの固定用量を、成人患者に投
与する。ある実施形態において、1×1012~5.6×1013のゲノムコピーの固定
用量を、成人患者に投与する。
【0134】
ある実施形態において、投薬量は、患者のCSFに脳質量のグラム当たりで投与される
(例えば、後頭下穿刺または腰椎穿刺を介して注入される)ゲノムコピーの数により測定
する。ある実施形態において、脳質量のグラム当たり2×10のゲノムコピーを投与す
る。ある実施形態において、脳質量のグラム当たり1×1010のゲノムコピーを投与す
る。ある実施形態において、脳質量のグラム当たり5×1010のゲノムコピーを投与す
る。ある実施形態において、脳質量のグラム当たり1×10~2×1010のゲノムコ
ピーを投与する。ある実施形態において、脳質量のグラム当たり2×10~1×10
のゲノムコピーを投与する。ある実施形態において、脳質量のグラム当たり5×10
~2×1010のゲノムコピーを投与する。具体的な実施形態において、脳質量のグラム
当たり9×10~1×1010のゲノムコピーを投与する。具体的な実施形態において
、脳質量のグラム当たり1×1010~1.5×1010のゲノムコピーを投与する。具
体的な実施形態において、脳質量のグラム当たり1×1010~5×1010のゲノムコ
ピーを投与する。具体的な実施形態において、脳質量のグラム当たり5×1010~6×
1010のゲノムコピーを投与する。
【0135】
一実施形態において、hIDUA発現カセットを含む血清型9キャプシドの非複製組換
えAAV(rAAV9.hIDUA)を、治療用に使用する。AAV9血清型を用いると
、IC投与の後、CNS中でhIDUAタンパク質の効率的発現が可能となる。ベクター
ゲノムは、AAV2の逆位末端反復配列(ITR)と隣接したhIDUA発現カセットを
含む。カセットからの発現は、強力な構成的プロモーターによって駆動される。
【0136】
ある実施形態において、本明細書に記載の組換えベクター(例えば、rAAV9.hI
DUA)は、1.4×1013GC(1.1×1010GC/g脳質量)~7.0×10
13GC(5.6×1010GC/g脳質量)の範囲にわたる単回固定用量(好ましくは
、約5~20mlの容量、または約5ml以下の容量中)として、(後頭下注入によって
)IC投与することができる。患者がAAVに対する中和抗体を有する場合、高い範囲の
用量を使用することができる。ある実施形態において、本明細書に記載の組換えベクター
(例えば、rAAV9.hIDUA)は、2.6×1012GC(2×10GC/g脳
質量)~1.3×1013GC(1×1010GC/g脳質量)の範囲にわたる単回固定
用量(好ましくは、約5~20mlの容量、または約5ml以下の容量中)として、(後
頭下注入によって)IC投与することができる。患者が4ヶ月齢以上であるが9ヶ月齢未
満の場合、一実施形態において、本明細書に記載の組換えベクター(例えば、rAAV9
.hIDUA)は、6.0×1012GC(1.0×1010GC/g脳質量)~3.0
×1013GC(5×1010GC/g脳質量)の範囲にわたる単回固定用量として(好
ましくは、約5~20mlの容量、または約5ml以下の容量中)、ICで(後頭下注入
によって)投与することができ、別の実施形態において、本明細書に記載の組換えベクタ
ー(例えば、rAAV9.hIDUA)は、1.2×1012GC(2×10GC/g
脳質量)~6.0×1012GC(1×1010GC/g脳質量)の範囲にわたる単回固
定用量(好ましくは、約5~20mlの容量、または約5ml以下の容量中)として、(
後頭下注入によって)IC投与することができる。患者が9ヶ月齢以上であるが18ヶ月
齢未満の場合、一実施形態において、本明細書に記載の組換えベクター(例えば、rAA
V9.hIDUA)は、1.0×1013GC(1.0×1010GC/g脳質量)~5
.0×1013GC(5×1010GC/g脳質量)の範囲にわたる単回固定用量として
(好ましくは、約5~20mlの容量、または約5ml以下の容量中)、ICで(後頭下
注入によって)投与することができ、別の実施形態において、本明細書に記載の組換えベ
クター(例えば、rAAV9.hIDUA)は、2.0×1012GC(2×10GC
/g脳質量)~1.0×1013GC(1×1010GC/g脳質量)の範囲にわたる単
回固定用量(好ましくは、約5~20mlの容量、または約5ml以下の容量中)として
、(後頭下注入によって)IC投与することができる。患者が18ヶ月齢以上であるが3
歳未満の場合、一実施形態において、本明細書に記載の組換えベクター(例えば、rAA
V9.hIDUA)は、1.1×1013GC(1.0×1010GC/g脳質量)~5
.5×1013GC(5×1010GC/g脳質量)の範囲にわたる単回固定用量として
(好ましくは、約5~20mlの容量、または約5ml以下の容量中)、ICで(後頭下
注入によって)投与することができ、別の実施形態において、本明細書に記載の組換えベ
クター(例えば、rAAV9.hIDUA)は、2.2×1012GC(2×10GC
/g脳質量)~1.1×1013GC(1×1010GC/g脳質量)の範囲にわたる単
回固定用量(好ましくは、約5~20mlの容量、または約5ml以下の容量中)として
、(後頭下注入によって)IC投与することができる。具体的な実施形態において、本明
細書に記載の組換えベクター(例えば、rAAV9.hIDUA)は、以下の表1に列記
され、それに従って、用量1または用量2で単回固定用量として(後頭下注入によって)
IC投与することができる。別の具体的な実施形態において、本明細書に記載の組換えベ
クター(例えば、rAAV9.hIDUA)は、以下の表2に列記され、それに従って、
用量1または用量2で単回固定用量として(後頭下注入によって)IC投与することがで
きる。
【0137】
表1.投薬時の患者の年齢に基づいて患者に投与する用量。
【表2】
【0138】
表2.投薬時の患者の年齢に基づいて患者に投与する用量
【表3】
【0139】
(5.4併用療法)
(5.4.1.免疫抑制との併用療法)
rHuGlyIDUAの送達が免疫反応を最小化すべきである一方、CNS関連遺伝子
治療に関する毒性の最も明白な潜在的源は、遺伝的にIDUAを欠損しており、したがっ
てタンパク質及び/または導入遺伝子を送達するために用いるベクターを潜在的に寛容し
ないヒト対象において、発現されたhIDUAタンパク質に対する免疫が発生する。した
がって、好ましい実施形態では、患者を免疫抑制治療で共治療することは、特にIDUA
のレベルが0に近い重度の疾患(例えば、ハーラー症候群を有する患者)を有する患者を
治療する場合に望ましい。タクロリムスまたはラパマイシン(シロリムス)を、ミコフェ
ノール酸と組合わせたレジメン、または組織移植手順において使用される他の免疫抑制レ
ジメンを伴う免疫抑制治療を、利用することができる。そのような免疫抑制治療は、遺伝
子治療の過程で投与することができ、ある実施形態において、免疫抑制治療による前処理
が好ましい場合がある。免疫抑制治療は、治療医師の判断に基づいて、遺伝子治療処置の
後も継続することができ、その後、免疫寛容が誘発された場合、例えば、180日後に、
中止してもよい。
【0140】
ある実施形態において、本明細書において提供する治療方法は、プレドニゾロン、ミコ
フェノール酸、及びタクロリムスを含む免疫抑制レジメンとともに施す。ある実施形態に
おいて、本明細書において提供する治療方法は、プレドニゾロン、ミコフェノール酸、及
びラパマイシン(シロリムス)を含む免疫抑制レジメンとともに施す。ある実施形態にお
いて、本明細書において提供する治療方法は、タクロリムスを含まない免疫抑制レジメン
とともに施す。ある実施形態において、本明細書において提供する治療方法は、1以上の
コルチコステロイド、例えばメチルプレドニゾロン及び/またはプレドニゾロン、ならび
にタクロリムス及び/またはシロリムスを含む免疫抑制レジメンとともに施す。ある実施
形態において、免疫抑制治療は、ヒトIDUAによる治療の前に、またはそれと同時に、
対象に(a)タクロリムス及びミコフェノール酸、または(b)ラパマイシン及びミコフ
ェノール酸の組合わせを投与し、かつその後も継続することを含む。ある実施形態におい
て、免疫抑制療法は180日後に中止される。ある実施形態において、免疫抑制治療は、
30、60、90、120、150、または180日後に中止する。
【0141】
ある実施形態において、タクロリムスは、血清濃度を5~10ng/mLとする用量で
投与する。ある実施形態において、タクロリムスは、血清濃度を4~8ng/mLとする
用量で投与する。ある実施形態において、特に、患者が3歳未満である場合、タクロリム
スは、血清濃度を2~4ng/mLとする用量で投与する。ある実施形態において、MM
Fは、血清濃度を2~3.5μg/mLとする用量で投与する。ある実施形態において、
タクロリムスは、血清濃度を5~10ng/mLとする用量で投与し、かつMMFは、血
清濃度を2~3.5μg/mLとする用量で投与する。ある実施形態において、血清濃度
は、タクロリムス及び/またはMMFのトラフレベルの測定後、タクロリムス及び/また
はMMFのタイトレーションによって達成する。
【0142】
ある実施形態において、メチルプレドニゾロンは、10mg/kgの用量で1回静脈内
投与する。ある実施形態において、プレドニゾロンは、0.5mg/kgの用量で1日1
回経口投与する。ある実施形態において、プレドニゾロンは、段階的に漸減し、その後中
断する。ある実施形態において、タクロリムスは、4~8ng/mlの目標血中レベルを
維持するために、1日2回1mgを経口投与する。ある実施形態において、特に、患者が
3歳未満である場合、タクロリムスは、2~4ng/mlの目標血中レベルを維持するた
めに1日2回0.05mg/kgを経口投与する。ある実施形態において、シロリムスも
投与する。患者にシロリムスを事前投与し、続いてレジメンの間、目標血中レベルを4~
8ng/mlに維持する。しかしながら、ある実施形態において、患者が3歳未満である
場合、好ましくは患者にシロリムスを事前投与し、続いてレジメンの間、目標血中レベル
を1~3ng/mlに維持する。ある実施形態において、メチルプレドニゾロンを10m
g/kgの用量で1回静脈内投与し、プレドニゾロンを0.5mg/kgの用量で1日1
回経口投与し、タクロリムスを1日1回0.2mg/kg経口投与し、かつシロリムスを
投与する。
【0143】
ある実施形態において、ラパマイシンを2または4mg/kgの用量で1日1回経口投
与する。ある実施形態において、MMFを25mg/kgの用量で1日2回経口投与する
。ある実施形態において、ラパマイシンを2または4mg/kgの用量で1日1回経口投
与し、かつMMFを25mg/kgの用量で1日2回経口投与する。ある実施形態におい
て、ラパマイシンは、血清濃度を5~15ng/mLとする用量で投与する。ある実施形
態において、MMFは、血清濃度を2~3.5μg/mLとする用量で投与する。ある実
施形態において、ラパマイシンは血清濃度を5~15ng/mLとする用量で投与し、か
つMMFは血清濃度を2~3.5μg/mLとする用量で投与する。ある実施形態におい
て、血清濃度は、ラパマイシン及び/またはMMFのトラフレベルの測定後、ラパマイシ
ン及び/またはMMFのタイトレーションによって達成する。
【0144】
(5.4.2.標準治療を含む他の治療との共治療)
CSFへのHuGlyIDUAの投与及びこれに伴う他の利用可能な治療を施すことの
組合わせは、本発明の方法に包含される。追加治療は、遺伝子治療処置の前に、それと同
時に、またはその後に投与することができる。本発明の遺伝子治療と併用することができ
るMPS Iのための利用可能な治療には、これらに限定はされないが、全身的に、もし
くはCSFに投与されるラロニダーゼを使用する酵素補充療法(ERT)及び/またはH
SCT療法が挙げられる。別の実施形態において、ERTは、組換えDNA技術によって
ヒト細胞株において生産されたrHuGlyIDUA糖タンパク質を使用して投与するこ
とができる。そのような組換え糖タンパク質生産のために使用することができるヒト細胞
株は、これらに限定されないが、数例を挙げればHT-22、SK-N-MC、HCN-
1A、HCN-2、NT2、SH-SY5y、hNSC11、ReNcell VM、ヒ
ト胎児腎293細胞(HEK293)、線維肉腫HT-1080、HKB-11、CAP
、HuH-7、及び網膜細胞株、PER.C6、またはRPEを含む(例えば、その全体
が参照により組み込まれている、rHuGlyIDUA糖タンパク質の組換え生産のため
に使用することができるヒト細胞株の総説についてのDumont et al.,20
16,Critical Rev in Biotech 36(6):1110-11
22の「Human cell lines for biopharmaceutic
al manufacturing:history,status,and futu
re perspectives」を参照のこと)。完全なグリコシル化、特にシアル酸
付加及びチロシン硫酸化を保証するために、生産に使用する細胞株をチロシン-O-硫酸
化を担うα-2,6-シアリルトランスフェラーゼ(またはα-2,3-及びα-2,6
-シアリルトランスフェラーゼの両方)及び/またはTPST-1及びTPST-2酵素
を共発現するように宿主細胞を操作することによって強化することができる。
【0145】
(5.5バイオマーカー/採取/モニタリング効率)
有効性は、認知機能(例えば、神経認知機能の低下の防止もしくは減少);CSF及び
/もしくは血清中の疾患バイオマーカー(例えば、GAG)の低下;及び/または、CS
F及び/もしくは血清のIDUA酵素活性の増加を測定することによってモニタリングす
ることができる。炎症の徴候及び他の安全事象をモニタリングすることもできる。
【0146】
(5.5.1.疾患マーカー)
ある実施形態において、組換えベクターによる治療の有効性は、患者における疾患バイ
オマーカーのレベルを測定することによってモニタリングする。ある実施形態において、
疾患バイオマーカーのレベルは、患者のCSFにおいて測定する。ある実施形態において
、疾患バイオマーカーのレベルは、患者の血清において測定する。ある実施形態において
、疾患バイオマーカーのレベルは、患者の尿において測定する。ある実施形態において、
疾患バイオマーカーは、GAGである。ある実施形態において、疾患バイオマーカーは、
IDUA酵素活性である。ある実施形態において、疾患バイオマーカーは、炎症である。
ある実施形態において、疾患バイオマーカーは、安全事象である。
【0147】
(5.5.2.神経認知機能の試験)
ある実施形態において、組換えベクターによる治療の有効性は、患者の認知機能のレベ
ルを測定することによってモニタリングする。認知機能は、当業者に知られている任意の
方法で測定することができる。ある実施形態において、認知機能は、知能指数(IQ)を
測定するための認証された機器を介して測定する。具体的な実施形態において、IQは、
Wechsler Abbreviated Scale of Intelligen
ce,Second Edition(WASI-II)によって測定する。ある実施形
態において、認知機能は、記憶力を測定するための認証された装置を介して測定する。具
体的な実施形態において、記憶力は、ホプキンス言語学習試験(HVLT)によって測定
する。ある実施形態において、認知機能は、注意力を測定するための認証された装置を介
して測定する。具体的な実施形態において、注意力は、注意変数試験(TOVA)によっ
て測定する。ある実施形態において、認知機能は、IQ、記憶力、及び注意力の1以上を
測定するための認証された装置を介して測定する。
【0148】
(5.5.3.身体的変化)
ある実施形態において、組換えベクターによる治療の有効性は、患者のリソソーム蓄積
症に関連する身体的な特徴を測定することによってモニタリングする。ある実施形態にお
いて、身体的な特徴は、保存障害(storage lesion)である。ある実施形
態において、身体的な特徴は、低身長である。ある実施形態において、身体的な特徴は、
顔の特徴の粗雑化である。ある実施形態において、身体的な特徴は、閉塞性睡眠無呼吸で
ある。ある実施形態において、身体的な特徴は、聴覚障害である。ある実施形態において
、身体的な特徴は、視覚障害である。具体的な実施形態において、視覚障害は、角膜混濁
に起因する。ある実施形態において、身体的な特徴は、水頭症である。ある実施形態にお
いて、身体的な特徴は、脊髄圧迫症である。ある実施形態において、身体的な特徴は、肝
脾腫である。ある実施形態において、身体的な特徴は、骨及び関節の変形である。ある実
施形態において、身体的な特徴は、心臓弁膜疾患である。ある実施形態において、身体的
な特徴は、再発性上気道感染症である。ある実施形態において、身体的な特徴は、手根管
症候群である。ある実施形態において、身体的な特徴は、巨舌症(舌の肥大)である。あ
る実施形態において、身体的な特徴は、声帯肥大及び/または変声である。そのような身
体的な特徴は、当業者に公知の任意の方法によって測定することができる。
配列表
【表4】
【実施例0149】
(6.実施例)
(6.1実施例1:hIDUA cDNA)
hIDUA(配列番号1)を含む導入遺伝子を含むhIDUA cDNAベースのベク
ターが構築される。また、導入遺伝子は、表3に列記される群から選択されるシグナルペ
プチドを含む核酸を含む。任意に、ベクターは、さらにプロモーターを含む。
【0150】
(6.2実施例2:置換hIDUA cDNA)
配列番号1のhIDUA配列と比較してアミノ酸置換、欠失、または付加を有する、例
えばこれに限定はされないが、図2に示すIDUAのオーソログ中の対応する非保存的残
基から選択されるアミノ酸置換を含むhIDUAを含む、導入遺伝子を含むhIDUA
cDNAベースのベクターを構築する(ただし、そのような突然変異が図3に示す(その
全体が参照により本明細書に組み込まれているSaito et al.,2014,M
ol Genet Metab 111:107-112、57個のMPS I突然変異
を列記する表3より);またはその各々の全体が参照により本明細書に組み込まれている
Venturi et al.,2002,Human Mutation #522
Online(“Venturi 2002”)、もしくはBertola et al
.,2011 Human Mutation 32:E2189-E2210(“Be
rtola 2011”)によって報告された、重度の、中程度に重度の、中程度の、も
しくは軽症型MPS I表現型において同定されたいずれの突然変異も含まないことを条
件とする)。また、導入遺伝子は、表3に列記される群から選択されるシグナルペプチド
を含む核酸を含む。任意に、ベクターは、さらにプロモーターを含む。
【0151】
(6.3実施例3:hIDUAまたは置換hIDUAを用いた動物モデルにおけるMP
S Iの治療)
導入遺伝子として発現される場合、hIDUA cDNAベースのベクターはMPS
Iの治療に有用であると考えられる。MPS Iのための動物モデル、例えば、Clar
ke et al.,1997,Hum Mol Genet 6(4):503-51
1(マウス)、Haskins et al.,1979,Pediatr Res 1
3(11):1294-97(雑種のイエネコ)、Menon et al.,1992
,Genomics 14(3):763-768(イヌ)、またはShull et
al.,1982,Am J Pathol 109(2):244-248(イヌ)に
記載される動物モデルに、導入遺伝子産物を送達し、動物のCSF中でCminを少なく
とも9.25μg/mLの濃度に維持するのに十分な用量で、くも膜下腔内にhIDUA
をコードする組換えベクターを投与する。治療の後、動物を、特定の動物モデルの疾患と
一致した症状の改善について評価する。
【0152】
(6.4実施例4:hIDUAまたは置換hIDUAを用いたMPS Iの治療)
導入遺伝子として発現される場合、hIDUA cDNAベースのベクターはMPS
Iの治療に有用であると考えられる。MPS Iを呈する対象に導入遺伝子産物を送達し
、CSF中でCminを少なくとも9.25μg/mLの濃度に維持するのに十分な用量
で、くも膜下腔内にhIDUAをコードするcDNAベースのベクターを投与する。治療
の後、対象を、MPS Iの症状の改善について評価する。hIDUAをコードするcD
NAベースのベクターの投与の前に、それと同時に、またはその後に、患者に、ラパマイ
シン、MMF、及びプレドニゾロンを含む免疫抑制治療薬を投与する。
【0153】
(6.5実施例5:MPS I治療の臨床プロトコル)
以下の実施例は、MPS Iを治療するためにヒト対象をrAAV9.hIDUAベク
ターで治療するために使用することができるプロトコルを記載する。
【0154】
患者集団。治療されることとなる患者は:
血漿、線維芽細胞、または白血球において測定された酵素活性によって確認されるMP
S Iの診断、
任意の他の神経学的または精神医学的な因子によって説明可能でない場合、以下のいず
れかとして定義されるMPS Iに起因する初期段階の神経認知機能低下:
IQ試験での、または神経心理的機能(言語理解、記憶力、注意力、または知覚推理)
の1つの領域において平均を下回る標準偏差≧1のスコア、
逐次試験での標準偏差が>1低下していることを証明する文書化された過去の証拠(医
療記録)、を有する男性または女性を含み得る。
【0155】
患者には、ERT(例えば、ALDURAZYME[ラロニダーゼ]IV)の安定レジ
メンを受けている患者を含み得る。出産可能性のある女性は、治療の日に血清妊娠試験陰
性であるべきである。性的に活発な対象(女性及び男性の両方とも)は、ベクター投与の
24週間後まで医学的に認められたバリア避妊法(例えば、コンドーム、ダイアフラム、
または禁欲法)を使用するべきである。大槽内(IC)治療から除外され得る患者には、
IC注入または腰椎穿刺についての禁忌を有する対象が含まれ得る。IC注入のための禁
忌には、以下のいずれかを含むことができる:
過去の頭部/頸部手術の既往歴の結果、IC注入が禁忌となっている、
CT(もしくは造影剤)または全身麻酔に任意の禁忌を有する、
MRI(またはガドリニウム)に任意の禁忌を有する、
推算糸球体濾過量(eGFR)<30mL/分/1.73mを有する。
【0156】
いずれかの時にIT治療を受けて、IT投与に関係すると考えられる重大な有害反応を
経験した患者は、ICで治療されるべきではない。
【0157】
治療医師が免疫抑制治療に適当でないと考える任意の状態を有する患者は、治療を受け
るべきではない(例えば、好中球の絶対数が<1.3×10/μL、血小板数<100
×10/μL、及びヘモグロビン<12g/dL[男性]または<10g/dL[女性
])。代替免疫抑制レジメンは、シロリムス、MMF、またはプレドニゾロンに対する過
敏性反応の任意の既往歴を有する任意の患者に対し使用すべきである。
【0158】
リンパ腫または皮膚の扁平上皮細胞または基底細胞癌以外の別のがんの病歴を有する患
者は、治療前少なくとも3ヶ月にわたって完全寛解にない限り、治療するべきではない。
【0159】
アラニンアミノトランスフェラーゼ(ALT)もしくはアスパラギン酸アミノトランス
フェラーゼ(AST)が>3×正常値上限(ULN)であるか、または総ビリルビンが>
1.5×ULNである患者は、対象が過去ギルバート症候群の既往歴を有する、及び総ビ
リルビンの<35%の抱合型ビリルビンを示す分画ビリルビンを有することが分かってい
る場合を除いては、治療するべきではない。
【0160】
感染症または薬物乱用の既往歴を有する患者は、治療の候補とすることはできない。例
えば、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)試験陽性の既往歴、活動性もしくは再発性のB型
肝炎もしくはC型肝炎、またはB型肝炎、C型肝炎、もしくはHIVスクリーニング試験
陽性の既往歴;治療前1年以内のアルコールまたは薬物乱用の既往歴である。
【0161】
一実施形態において、患者は、成人の患者である。別の実施形態において、患者は、小
児患者である。
【0162】
施される治療-免疫抑制治療による前治療。遺伝子治療の前に、患者は、導入遺伝子及
び/またはAAVキャプシドへの免疫反応を防止するために、免疫抑制治療で治療すべき
である。そのような免疫抑制治療は、プレドニゾロン(-2~8日に60mgを1日1回
、経口)、MMF(第-2~60日に1gを1日2回、経口)、及びシロリムス(第-2
日に6mgを経口で、その後第-1日~第48週まで2mgを1日1回)を含む。シロリ
ムスの用量は、全血トラフ濃度を16~24ng/mL以内に維持するように調整する。
大部分の対象において、用量調整は、式:新規用量=現在の用量×(目標濃度/現在の濃
度)に基づくことができる。対象は、さらなる用量調整前に、濃度をモニタリングしなが
ら少なくとも7~14日間にわたり新しい維持用量を継続するべきである。好中球減少症
を発症する場合(絶対好中球数<1.3×10/μL)、MMFの投薬は中断するか、
または用量を低下させるべきである。
【0163】
遺伝子治療。hIDUA発現カセット(rAAV9.hIDUA)を含む血清型9キャ
プシドの非複製組換えAAVを、治療に使用する。AAV9血清型を用いると、IC投与
の後、CNS中でhIDUAタンパク質の効率的発現が可能となる。ベクターゲノムは、
AAV2の逆位末端反復配列(ITR)と隣接したhIDUA発現カセットを含む。カセ
ットからの発現は、強力な構成的CAGプロモーターによって駆動する。rAAV9.h
IDUAベクターは、くも膜下腔内注入のためのElliotts B溶液中に懸濁させ
る。
【0164】
rAAV9.hIDUAは、IC投与による単回固定用量として投与する:1.4×1
13GC(1.1×1010GC/g脳質量)の低用量、または7.0×1013GC
(5.6×1010GC/g脳質量)の高用量を、約5~20mlの容量中で使用するこ
とができる。患者がAAVに対する中和抗体を有する場合、高用量を使用することができ
る。
【0165】
rAAV9.IDUAの投与のために、対象を全身麻酔下におく。腰椎穿刺を行い、最
初にCSFを5cc除去し、その後、造影剤をIT注入して大槽の視覚化を助ける。CT
(造影剤を伴う)を利用して、針挿入及び後頭下空間への選択された用量のrAAV9.
IDUAの投与をガイドする。
【0166】
(6.6実施例6:MPS I治療の臨床プロトコル)
以下の実施例は、MPS Iを治療するためにヒト対象をrAAV9.hIDUAベク
ターで治療するために使用することができるプロトコルを記載する。
【0167】
患者集団。治療されることとなる患者は:
血漿、線維芽細胞、または白血球において測定された酵素活性によって確認されるMP
S Iの診断(これには、過去にHSCTを受けたことがあり、または過去もしくは現在
ラロニダーゼ治療を受けている患者を含む)、
任意の他の神経学的または精神医学的な因子によって説明可能でない場合、以下のいず
れかとして定義されるMPS Iに起因する初期段階の神経認知機能低下:
IQ試験での、または神経心理的機能(言語理解、注意力、または知覚推理)の1つの
領域において平均を下回る標準偏差≧1のスコア、
逐次試験での>1の標準偏差の低下、を有する6歳以上の男性または女性を含み得る。
【0168】
患者は、補助具の有無にかかわらず、要求されるプロトコル試験を完了するのに十分な
聴覚的及び視覚的能力を有し、適用できる場合、試験日に進んで補助具を着用することに
従うべきである。
【0169】
出産可能性のある女性は、治療の日に血清妊娠試験陰性であるべきである。全ての性的
に活発な対象は、スクリーニング受診からベクター投与の24週間後まで医学的に認めら
れたバリア避妊法を進んで使用しなければならない。性的に活発な女性は、スクリーニン
グ受診からシロリムスの最後の投与後12週間のいずれか遅い方まで、効果的な避妊方法
を進んで使用しなければならない。大槽内(IC)治療から除外され得る患者には、IC
注入または腰椎穿刺についての禁忌を有する対象が含まれ得る。IC注入のための禁忌に
は、以下のいずれかを含むことができる:
過去の頭部/頸部手術の既往歴の結果、IC注入が禁忌となっている、
CT(もしくは造影剤)または全身麻酔に任意の禁忌を有する、
MRI(またはガドリニウム)に任意の禁忌を有する、
推算糸球体濾過量(eGFR)<30mL/分/1.73mを有する。
【0170】
いずれかの時にIT治療を受けて、IT投与に関係すると考えられる重大な有害反応を
経験した患者は、ICで治療されるべきではない。治療医師が免疫抑制治療に適当でない
と考える任意の状態を有する患者は、治療を受けるべきではない(例えば、絶対好中球数
<1.3×10/μL、血小板数<100×10/μL、及びヘモグロビン<12g
/dL[男性]または<10g/dL[女性])。代替免疫抑制レジメンは、シロリムス
、MMF、またはプレドニゾロンに対する過敏性反応の任意の既往歴を有する任意の患者
に対し使用すべきである。
【0171】
リンパ腫または皮膚の扁平上皮細胞または基底細胞癌以外の別のがんの病歴を有する患
者は、治療前少なくとも3ヶ月にわたって完全寛解にない限り、治療するべきではない。
【0172】
最大限の医学的治療にもかかわらず、コントロール不良高血圧症(収縮期BP>180
mmHg、拡張期BP>100mmHg)の患者は治療するべきではない。
【0173】
アラニンアミノトランスフェラーゼ(ALT)もしくはアスパラギン酸アミノトランス
フェラーゼ(AST)が>3×正常値上限(ULN)であるか、または総ビリルビンが>
1.5×ULNである患者は、対象が過去ギルバート症候群の既往歴を有する、及び総ビ
リルビンの<35%の抱合型ビリルビンを示す分画ビリルビンを有することが分かってい
る場合を除いては、治療するべきではない。
【0174】
感染症または薬物乱用の既往歴を有する患者は、治療の候補とすることはできない。例
えば、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)もしくはB型肝炎もしくはC型肝炎ウイルス感染
の既往歴、またはB型肝炎表面抗原もしくはB型肝炎コア抗体、またはC型肝炎もしくは
HIV抗体のスクリーニング試験陽性の履歴;スクリーニング前1年以内のアルコールま
たは薬物乱用の履歴である。
【0175】
30日以内または5半減期前のいずれか長い方の期間内にいずれかの治験薬を投与され
た患者は、事前にいつでも投与可能なITラロニダーゼを投与された患者を除き、治療す
るべきではない。
【0176】
妊娠中の患者、産後6週未満の患者、スクリーニング時に授乳中の患者、または52週
目までの間に妊娠を予定している患者は、治療するべきではない。
【0177】
臨床的に重要なECG異常があり、対象の安全が損なわれるような患者は、治療するべ
きではない。対象の安全を損なうような重篤または不安定な医学的または精神的状態の患
者は、治療するべきではない。
【0178】
施される治療-免疫抑制治療による前治療。遺伝子治療の前に、患者は、導入遺伝子及
び/またはAAVキャプシドへの免疫反応を防止するために、免疫抑制治療で治療すべき
である。そのような免疫抑制治療は、プレドニゾロン(-2~8日に60mgを1日1回
、経口)、MMF(第-2~60日に1gを1日2回、経口)、及びシロリムス(第-2
日に6mgを経口で、その後第-1日~第48週まで2mgを1日1回)を含む。シロリ
ムスの用量は、全血トラフ濃度を16~24ng/mL以内に維持するように調整する。
大部分の対象において、用量調整は、式:新規用量=現在の用量×(目標濃度/現在の濃
度)に基づくことができる。対象は、さらなる用量調整前に、濃度をモニタリングしなが
ら少なくとも7~14日間にわたり新しい維持用量を継続するべきである。
【0179】
免疫抑制レジメンの基本的原則は、免疫を完全に抑制するためにコルチコステロイドを
投与することである-用量を負荷するためのIVメチルプレドニゾロンから始まり、徐々
に漸減する経口プレドニゾロンが続き、患者は12週までにステロイドをやめる。コルチ
コステロイド治療は、タクロリムス(24週間)及び/またはシロリムス(12週間)に
よって補なわれ、さらにMMFで補うことができる。タクロリムス及びシロリムスの両方
を使用する場合、それぞれの用量は、4~8ng/mlの血中トラフレベルを維持するよ
うに調整された低用量であるべきである。薬剤を1つだけ使用する場合は、ラベル用量(
高用量)を使用するべきであり、例えば、タクロリムスを0.15~0.20mg/kg
/日を12時間ごとに2回に分けて投与、及び1mg/m/日でシロリムス;その負荷
用量は3mg/mであるべきである。MMFがレジメンに追加された場合、作用機序が
異なるため、タクロリムス及び/またはシロリムスの用量を維持することができる。
【0180】
遺伝子治療。hIDUA発現カセット(rAAV9.hIDUA)を含む血清型9キャ
プシドの非複製組換えAAVを、治療に使用する。AAV9血清型を用いると、IC投与
の後、CNS中でhIDUAタンパク質の効率的発現が可能となる。ベクターゲノムは、
AAV2の逆位末端反復配列(ITR)と隣接したhIDUA発現カセットを含む。カセ
ットからの発現は、強力な構成的CAGプロモーターによって駆動する。rAAV9.h
IDUAベクターは、くも膜下腔内注入のためのElliotts B溶液中に懸濁させ
る。
【0181】
rAAV9.hIDUAは、IC投与による単回固定用量:2×10GC/g脳質量
(2.6×1012GC)の用量、または1×1010GC/g脳質量(1.3×10
GC)の用量のいずれか、として投与する。用量は、約5~20mlの容量にすること
ができる。
【0182】
rAAV9.IDUAの投与のために、対象を全身麻酔下におく。
【0183】
(6.7実施例7:MPS I治療の臨床プロトコル)
以下の実施例は、MPS Iを治療するためにヒト対象をrAAV9.hIDUAベク
ターで治療するために使用することができるプロトコルを記載する。
【0184】
患者集団。治療されることとなる患者は:
血漿、線維芽細胞、または白血球で測定された酵素活性によって確認されたMPS I
の診断(これには、過去または現在HSCTまたはラロニダーゼ治療を受けた可能性のあ
る患者を含む)、
任意の他の神経学的または精神医学的な因子によって説明可能でない場合、以下のいず
れかとして定義されるMPS Iに起因する初期段階の神経認知機能低下:
IQ試験での、または神経心理的機能(言語理解、注意力、または知覚推理)の1つの
領域において平均を下回る標準偏差≧1のスコア、
逐次試験での>1の標準偏差の低下、を有する男性または女性を含み得る。
【0185】
患者は、補助具の有無にかかわらず、要求されるプロトコル試験を完了するのに十分な
聴覚的及び視覚的能力を有し、適用できる場合、試験日に進んで補助具を着用することに
従うべきである。
【0186】
出産可能性のある女性は、治療の日に血清妊娠試験陰性であるべきである。全ての性的
に活発な対象は、スクリーニング受診からベクター投与の24週間後まで医学的に認めら
れたバリア避妊法を進んで使用しなければならない。性的に活発な女性は、スクリーニン
グ受診からシロリムスの最後の投与後12週間のいずれか遅い方まで、効果的な避妊方法
を進んで使用しなければならない。大槽内(IC)治療から除外され得る患者には、IC
注入または腰椎穿刺についての禁忌を有する対象が含まれ得る。IC注入のための禁忌に
は、以下のいずれかを含むことができる:
過去の頭部/頸部手術の既往歴の結果、IC注入が禁忌となっている、
CT(もしくは造影剤)または全身麻酔に任意の禁忌を有する、
MRI(またはガドリニウム)に任意の禁忌を有する、
推算糸球体濾過量(eGFR)<30mL/分/1.73mを有する。
【0187】
いずれかの時にIT治療を受けて、IT投与に関係すると考えられる重大な有害反応を
経験した患者は、ICで治療されるべきではない。治療医師が免疫抑制治療に適当でない
と考える任意の状態を有する患者は、治療を受けるべきではない(例えば、絶対好中球数
<1.3×10/μL、血小板数<100×10/μL、及びヘモグロビン<12g
/dL[男性]または<10g/dL[女性])。
【0188】
代替免疫抑制レジメンは、タクロリムス、シロリムス、またはプレドニゾロンに対する
過敏性反応の任意の既往歴を有する任意の患者に対し使用すべきである。原発性免疫不全
症、脾臓摘出術、または感染症に罹患しやすい基礎疾患の既往歴のある患者は、免疫抑制
療法で治療するべきではない。帯状疱疹、サイトメガロウイルス、またはエプスタイン・
バール・ウイルス(EBV)感染症の患者で、スクリーニング前の少なくとも12週間は
完全に解消されていない場合は、免疫抑制療法で治療するべきではない。(1)2回目の
受診の少なくとも8週間前に消散しておらず、入院または親世代抗感染症薬による治療を
必要とする任意の感染症を有する患者、または(2)2回目の受診前10日以内に経口抗
感染症薬(抗ウイルス薬を含む)を必要とする任意の活発な感染症、もしくは活発な結核
の既往歴を有する患者、または(3)スクリーニングの間のQuantiferon_T
B Gold試験で陽性となった患者、または(4)インフォームドコンセント用紙に署
名をする前8週間以内に任意の生ワクチンを受けた患者、または(5)インフォームドコ
ンセントに署名をする前8週間以内に大手術を行った患者、または(6)試験期間中に大
手術を予定している患者は、免疫抑制治療で治療するべきではない。好中球の絶対数が<
1.3×10/μLである患者は、免疫抑制治療で治療するべきではない。
【0189】
リンパ腫または皮膚の扁平上皮細胞または基底細胞癌以外の別のがんの病歴を有する患
者は、治療前少なくとも3ヶ月にわたって完全寛解にない限り、治療するべきではない。
【0190】
最大限の医学的治療にもかかわらず、コントロール不良高血圧症(収縮期BP>180
mmHg、拡張期BP>100mmHg)の患者は治療するべきではない。
【0191】
アラニンアミノトランスフェラーゼ(ALT)もしくはアスパラギン酸アミノトランス
フェラーゼ(AST)が>3×正常値上限(ULN)であるか、または総ビリルビンが>
1.5×ULNである患者は、対象が過去ギルバート症候群の既往歴を有する、及び総ビ
リルビンの<35%の抱合型ビリルビンを示す分画ビリルビンを有することが分かってい
る場合を除いては、治療するべきではない。
【0192】
感染症または薬物乱用の既往歴を有する患者は、治療の候補とすることはできない。例
えば、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)もしくはB型肝炎もしくはC型肝炎ウイルス感染
の既往歴、またはB型肝炎表面抗原もしくはB型肝炎コア抗体、またはC型肝炎もしくは
HIV抗体のスクリーニング試験陽性の履歴;スクリーニング前1年以内のアルコールま
たは薬物乱用の履歴である。
【0193】
一実施形態において、患者は、成人の患者である。別の実施形態において、患者は、小
児患者である。
【0194】
施される治療-免疫抑制治療による前治療。遺伝子治療の前に、患者は、導入遺伝子及
び/またはAAVキャプシドへの免疫反応を防止するために、免疫抑制治療で治療すべき
である。そのような免疫抑制治療は、コルチコステロイド(第1日にメチルプレドニゾロ
ン10mg/kgを1回静脈内[IV]に前投与し、第2日に経口プレドニゾンを0.5
mg/kg/日から開始し、段階的に漸減させて、第12週までに中断する)、タクロリ
ムス(第2日から第24週まで1日2回[BID]1mgを経口的に[PO]、目標血中
レベルを4~8ng/mLとし、第24週から第32週にかけての8週間にわたり漸減す
る)、及びシロリムス(第-2日に4時間ごとに1mg/m×3用量の負荷用量、続い
て第-1日からシロリムス0.5mg/m/日をBIDに分けて、第48週まで目標血
中レベルを4~8ng/mlとして投薬する)を含む。神経学的評価及びタクロリムス/
シロリムス血中レベルのモニタリングを実施する。シロリムス及びタクロリムスの用量は
、目標範囲の血中レベルを維持するように調整する。48週の経過後は、免疫抑制治療は
予定されない。大部分の対象において、用量調整は、式:新規用量=現在の用量×(目標
濃度/現在の濃度)に基づくことができる。対象は、さらなる用量調整前に、濃度をモニ
タリングしながら少なくとも7~14日間にわたり新しい維持用量を継続するべきである
【0195】
遺伝子治療。hIDUA発現カセット(rAAV9.hIDUA)を含む血清型9キャ
プシドの非複製組換えAAVを、治療に使用する。AAV9血清型を用いると、IC投与
の後、CNS中でhIDUAタンパク質の効率的発現が可能となる。ベクターゲノムは、
AAV2の逆位末端反復配列(ITR)と隣接したhIDUA発現カセットを含む。カセ
ットからの発現は、強力な構成的CAGプロモーターによって駆動する。rAAV9.h
IDUAベクターは、くも膜下腔内注入のためのElliotts B溶液中に懸濁させ
る。
【0196】
rAAV9.hIDUAは、IC投与による単回固定用量:2×10GC/g脳質量
(2.6×1012GC)の用量、または1×1010GC/g脳質量(1.3×10
GC)の用量のいずれか、として投与する。用量は、約5~20mlの容量にすること
ができる。
【0197】
rAAV9.IDUAの投与のために、対象を全身麻酔下におく。
【0198】
(6.8実施例8:MPS I治療の臨床プロトコル)
以下の実施例は、MPS Iを治療するためにヒト対象をrAAV9.hIDUAベク
ターで治療するために使用することができるプロトコルを記載する。
【0199】
患者集団。治療されることとなる患者は:
血漿、線維芽細胞、または白血球で測定された酵素活性によって確認されたMPS I
の診断(これには、過去または現在HSCTまたはラロニダーゼ治療を受けた可能性のあ
る患者を含む)、
任意の他の神経学的または精神医学的な因子によって説明可能でない場合、以下のいず
れかとして定義されるMPS Iに起因する初期段階の神経認知機能低下:
IQ試験での、または神経心理的機能(言語理解、注意力、または知覚推理)の1つの
領域において平均を下回る標準偏差≧1のスコア、
逐次試験での>1の標準偏差の低下、を有する、6歳以上の男性または女性を含み得る
【0200】
患者は、補助具の有無にかかわらず、要求されるプロトコル試験を完了するのに十分な
聴覚的及び視覚的能力を有し、適用できる場合、試験日に進んで補助具を着用することに
従うべきである。
【0201】
出産可能性のある女性は、治療の日に血清妊娠試験陰性であるべきである。全ての性的
に活発な対象は、スクリーニング受診からベクター投与の24週間後まで医学的に認めら
れたバリア避妊法を進んで使用しなければならない。性的に活発な女性は、スクリーニン
グ受診からシロリムスの最後の投与後12週間のいずれか遅い方まで、効果的な避妊方法
を進んで使用しなければならない。大槽内(IC)治療から除外され得る患者には、IC
注入または腰椎穿刺についての禁忌を有する対象が含まれ得る。IC注入のための禁忌に
は、以下のいずれかを含むことができる:
過去の頭部/頸部手術の既往歴の結果、IC注入が禁忌となっている、
CT(もしくは造影剤)または全身麻酔に任意の禁忌を有する、
MRI(またはガドリニウム)に任意の禁忌を有する、
推算糸球体濾過量(eGFR)<30mL/分/1.73mを有する。
【0202】
いずれかの時にIT治療を受けて、IT投与に関係すると考えられる重大な有害反応を
経験した患者は、ICで治療されるべきではない。治療医師が免疫抑制治療に適当でない
と考える任意の状態を有する患者は、治療を受けるべきではない(例えば、好中球数の絶
対数が<1.3×10/μL、血小板数<100×10/μL、及びヘモグロビン<
12g/dL[男性]または<10g/dL[女性])。
【0203】
代替免疫抑制レジメンは、タクロリムス、シロリムス、またはプレドニゾロンに対する
過敏性反応の任意の既往歴を有する任意の患者に対し使用すべきである。原発性免疫不全
症、脾臓摘出術、または感染症に罹患しやすい基礎疾患の既往歴のある患者は、免疫抑制
療法で治療するべきではない。帯状疱疹、サイトメガロウイルス、またはエプスタイン・
バール・ウイルス(EBV)感染症の患者で、スクリーニング前の少なくとも12週間は
完全に解消されていない場合は、免疫抑制療法で治療するべきではない。(1)2回目の
受診の少なくとも8週間前に消散しておらず、入院または親世代抗感染症薬による治療を
必要とする任意の感染症を有する患者、または(2)2回目の受診前10日以内に経口抗
感染症薬(抗ウイルス薬を含む)を必要とする任意の活発な感染症、もしくは活発な結核
の既往歴を有する患者、または(3)スクリーニングの間のQuantiferon_T
B Gold試験で陽性となった患者、または(4)インフォームドコンセント用紙に署
名をする前8週間以内に任意の生ワクチンを受けた患者、または(5)インフォームドコ
ンセントに署名をする前8週間以内に大手術を行った患者、または(6)試験期間中に大
手術を予定している患者は、免疫抑制治療で治療するべきではない。好中球数の絶対数が
<1.3×10/μLである患者は、免疫抑制治療で治療するべきではない。
【0204】
リンパ腫または皮膚の扁平上皮細胞または基底細胞癌以外の別のがんの病歴を有する患
者は、治療前少なくとも3ヶ月にわたって完全寛解にない限り、治療するべきではない。
【0205】
最大限の医学的治療にもかかわらず、コントロール不良高血圧症(収縮期BP>180
mmHg、拡張期BP>100mmHg)の患者は治療するべきではない。
【0206】
アラニンアミノトランスフェラーゼ(ALT)もしくはアスパラギン酸アミノトランス
フェラーゼ(AST)が>3×正常値上限(ULN)であるか、または総ビリルビンが>
1.5×ULNである患者は、対象が過去ギルバート症候群の既往歴を有する、及び総ビ
リルビンの<35%の抱合型ビリルビンを示す分画ビリルビンを有することが分かってい
る場合を除いては、治療するべきではない。
【0207】
感染症または薬物乱用の既往歴を有する患者は、治療の候補とすることはできない。例
えば、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)もしくはB型肝炎もしくはC型肝炎ウイルス感染
の既往歴、またはB型肝炎表面抗原もしくはB型肝炎コア抗体、またはC型肝炎もしくは
HIV抗体のスクリーニング試験陽性の履歴;スクリーニング前1年以内のアルコールま
たは薬物乱用の履歴である。
【0208】
施される治療-免疫抑制治療による前治療。遺伝子治療の前に、患者は、導入遺伝子及
び/またはAAVキャプシドへの免疫反応を防止するために、免疫抑制治療で治療すべき
である。そのような免疫抑制治療は、コルチコステロイド(第1日にメチルプレドニゾロ
ン10mg/kgを1回静脈内[IV]に前投与し、第2日に経口プレドニゾンを0.5
mg/kg/日から開始し、段階的に漸減させて、第12週までに中断する)、タクロリ
ムス(第2日から第24週まで1日2回[BID]1mgを経口的に[PO]、目標血中
レベルを4~8ng/mLとし、第24週から第32週にかけての8週間にわたり漸減す
る)、及びシロリムス(第-2日に4時間ごとに1mg/m×3用量の負荷用量、続い
て第-1日からシロリムス0.5mg/m/日をBIDに分けて、第48週まで目標血
中レベルを4~8ng/mlとして投薬する)を含む。神経学的評価及びタクロリムス/
シロリムス血中レベルのモニタリングを実施する。シロリムス及びタクロリムスの用量は
、目標範囲の血中レベルを維持するように調整する。48週の経過後は、免疫抑制治療は
予定されない。大部分の対象において、用量調整は、式:新規用量=現在の用量×(目標
濃度/現在の濃度)に基づくことができる。対象は、さらなる用量調整前に、濃度をモニ
タリングしながら少なくとも7~14日間にわたり新しい維持用量を継続するべきである
【0209】
遺伝子治療。hIDUA発現カセット(rAAV9.hIDUA)を含む血清型9キャ
プシドの非複製組換えAAVを、治療に使用する。AAV9血清型を用いると、IC投与
の後、CNS中でhIDUAタンパク質の効率的発現が可能となる。ベクターゲノムは、
AAV2の逆位末端反復配列(ITR)と隣接したhIDUA発現カセットを含む。カセ
ットからの発現は、強力な構成的CAGプロモーターによって駆動する。rAAV9.h
IDUAベクターは、くも膜下腔内注入のためのElliotts B溶液中に懸濁させ
る。
【0210】
rAAV9.hIDUAは、IC投与による単回固定用量:2×10GC/g脳質量
(2.6×1012GC)の用量、または1×1010GC/g脳質量(1.3×10
GC)の用量のいずれか、として投与する。用量は、約5~20mlの容量にすること
ができる。
【0211】
rAAV9.IDUAの投与のために、対象を全身麻酔下におく。
【0212】
(6.9実施例9:MPS I治療の臨床プロトコル)
以下の実施例は、MPS Iを治療するためにヒト対象をrAAV9.hIDUAベク
ターで治療するために使用することができるプロトコルを記載する。
【0213】
患者集団。治療されることとなる患者は:
血漿、線維芽細胞、または白血球で測定された酵素活性によって確認されたMPS I
の診断(これには、過去または現在HSCTまたはラロニダーゼ治療を受けた可能性のあ
る患者を含む)、
任意の他の神経学的または精神医学的な因子によって説明可能でない場合、以下のいず
れかとして定義されるMPS Iに起因する初期段階の神経認知機能低下:
IQ試験での、または神経心理的機能(言語理解、注意力、または知覚推理)の1つの
領域において平均を下回る標準偏差≧1のスコア、
逐次試験での>1の標準偏差の低下、を有する、6歳以上の男性または女性及び3歳未
満の男性または女性を含み得る。
3歳未満の患者は、神経認知機能低下を伴うハーラー症候群をもたらすことが知られる
突然変異(複数可)によって確認される、重度形態のMPS I(ハーラー症候群)を有
する。
【0214】
患者は、補助具の有無にかかわらず、要求されるプロトコル試験を完了するのに十分な
聴覚的及び視覚的能力を有し、適用できる場合、試験日に進んで補助具を着用することに
従うべきである。
【0215】
出産可能性のある女性は、治療の日に血清妊娠試験陰性であるべきである。全ての性的
に活発な対象は、スクリーニング受診からベクター投与の24週間後まで医学的に認めら
れたバリア避妊法を進んで使用しなければならない。性的に活発な女性は、スクリーニン
グ受診からシロリムスの最後の投与後12週間のいずれか遅い方まで、効果的な避妊方法
を進んで使用しなければならない。大槽内(IC)治療から除外され得る患者には、IC
注入または腰椎穿刺についての禁忌を有する対象が含まれ得る。IC注入のための禁忌に
は、以下のいずれかを含むことができる:
過去の頭部/頸部手術の既往歴の結果、IC注入が禁忌となっている、
CT(もしくは造影剤)または全身麻酔に任意の禁忌を有する、
MRI(またはガドリニウム)に任意の禁忌を有する、
推算糸球体濾過量(eGFR)<30mL/分/1.73mを有する。
【0216】
いずれかの時にIT治療を受けて、IT投与に関係すると考えられる重大な有害反応を
経験した患者は、ICで治療されるべきではない。治療医師が免疫抑制治療に適当でない
と考える任意の状態を有する患者は、治療を受けるべきではない(例えば、好中球数の絶
対数が<1.3×10/μL、血小板数<100×10/μL、及びヘモグロビン<
12g/dL[男性]または<10g/dL[女性])。
【0217】
代替免疫抑制レジメンは、任意の患者に使用すべきであるか、またはタクロリムス、シ
ロリムス、もしくはプレドニゾロンに対する過敏性反応の任意の既往歴を有する患者を除
外すべきである。原発性免疫不全症、脾臓摘出術、または感染症に罹患しやすい基礎疾患
の既往歴のある患者は、免疫抑制療法で治療するべきではない。帯状疱疹、サイトメガロ
ウイルス、またはエプスタイン・バール・ウイルス(EBV)感染症の患者で、スクリー
ニング前の少なくとも12週間は完全に解消されていない場合は、免疫抑制療法で治療す
るべきではない。(1)2回目の受診の少なくとも8週間前に消散しておらず、入院また
は親世代抗感染症薬による治療を必要とする任意の感染症を有する患者、または(2)2
回目の受診前10日以内に経口抗感染症薬(抗ウイルス薬を含む)を必要とする任意の活
発な感染症、もしくは活発な結核の既往歴を有する患者、または(3)スクリーニングの
間のQuantiferon_TB Gold試験で陽性となった患者、または(4)イ
ンフォームドコンセント用紙に署名をする前8週間以内に任意の生ワクチンを受けた患者
、または(5)インフォームドコンセントに署名をする前8週間以内に大手術を行った患
者、または(6)試験期間中に大手術を予定している患者は、免疫抑制治療で治療するべ
きではない。好中球数の絶対数が<1.3×10/μLである患者は、免疫抑制治療で
治療するべきではない。
【0218】
リンパ腫または皮膚の扁平上皮細胞または基底細胞癌以外の別のがんの病歴を有する患
者は、治療前少なくとも3ヶ月にわたって完全寛解にない限り、治療するべきではない。
【0219】
最大限の医学的治療にもかかわらず、コントロール不良高血圧症(収縮期BP>180
mmHg、拡張期BP>100mmHg)の患者は治療するべきではない。
【0220】
アラニンアミノトランスフェラーゼ(ALT)もしくはアスパラギン酸アミノトランス
フェラーゼ(AST)が>3×正常値上限(ULN)であるか、または総ビリルビンが>
1.5×ULNである患者は、対象が過去ギルバート症候群の既往歴を有する、及び総ビ
リルビンの<35%の抱合型ビリルビンを示す分画ビリルビンを有することが分かってい
る場合を除いては、治療するべきではない。
【0221】
感染症または薬物乱用の既往歴を有する患者は、治療の候補とすることはできない。例
えば、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)もしくはB型肝炎もしくはC型肝炎ウイルス感染
の既往歴、またはB型肝炎表面抗原もしくはB型肝炎コア抗体、またはC型肝炎もしくは
HIV抗体のスクリーニング試験陽性の履歴;スクリーニング前1年以内のアルコールま
たは薬物乱用の履歴である。
【0222】
施される治療-免疫抑制治療による前治療。遺伝子治療の前に、患者は、導入遺伝子及
び/またはAAVキャプシドへの免疫反応を防止するために、免疫抑制治療で治療すべき
である。そのような免疫抑制治療は、6歳以上の患者に対し、コルチコステロイド(第1
日にメチルプレドニゾロン10mg/kgを1回静脈内[IV]に前投与し、第2日に経
口プレドニゾンを0.5mg/kg/日から開始し、段階的に漸減させて、第12週まで
に中断する)、タクロリムス(第2日から第24週まで1日2回[BID]1mgを経口
的に[PO]、目標血中レベルを4~8ng/mLとし、第24週から第32週にかけて
の8週間にわたり漸減する)、及びシロリムス(第-2日に4時間ごとに1mg/m×
3用量の負荷用量、続いて第-1日からシロリムス0.5mg/m/日をBIDに分け
て、第48週まで目標血中レベルを4~8ng/mlとして投薬する)を含む。そのよう
な免疫抑制治療は、3歳未満の患者に対し、コルチコステロイド(第1日にメチルプレド
ニゾロン10mg/kgを1回静脈内[IV]に前投与し、第2日に経口プレドニゾンを
0.5mg/kg/日から開始し、段階的に漸減させて、第12週までに中断する)、タ
クロリムス(第2日から第24週まで1日2回[BID]0.05mg/kgを経口的に
[PO]、目標血中レベルを2~4ng/mLとし、第24週から第32週にかけての8
週間にわたり漸減する)、及びシロリムス(第-2日に4時間ごとに1mg/m×3用
量の負荷用量、続いて第-1日からシロリムス0.5mg/m/日をBIDに分けて、
第48週まで目標血中レベルを1~3ng/mlとして投薬する)を含む。神経学的評価
及びタクロリムス/シロリムス血中レベルのモニタリングを実施する。シロリムス及びタ
クロリムスの用量は、目標範囲の血中レベルを維持するように調整する。48週の経過後
は、免疫抑制治療は予定されない。大部分の対象において、用量調整は、式:新規用量=
現在の用量×(目標濃度/現在の濃度)に基づくことができる。対象は、さらなる用量調
整前に、濃度をモニタリングしながら少なくとも7~14日間にわたり新しい維持用量を
継続するべきである。
【0223】
遺伝子治療。hIDUA発現カセット(rAAV9.hIDUA)を含む血清型9キャ
プシドの非複製組換えAAVを、治療に使用する。AAV9血清型を用いると、IC投与
の後、CNS中でhIDUAタンパク質の効率的発現が可能となる。ベクターゲノムは、
AAV2の逆位末端反復配列(ITR)と隣接したhIDUA発現カセットを含む。カセ
ットからの発現は、強力な構成的CAGプロモーターによって駆動する。rAAV9.h
IDUAベクターは、くも膜下腔内注入のためのElliotts B溶液中に懸濁させ
る。
【0224】
6歳以上の患者の場合、rAAV9.hIDUAは、IC投与による単回固定用量:2
×10GC/g脳質量(2.6×1012GC)の用量、または1×1010GC/g
脳質量(1.3×1013GC)の用量のいずれか、として投与する。用量は、約5ml
以下の容量にすることができる。
【0225】
3歳未満の患者の場合、rAAV9.hIDUAは、IC投与による単回固定用量:1
×1010GC/g脳質量の用量(4ヶ月齢以上であるが9ヶ月齢未満の患者については
6.0×1012GC;9ヶ月齢以上であるが18ヶ月齢未満の患者については1.0×
1013GC;18ヶ月以上であるが3歳未満の患者については1.1×1013GC)
、または5×1010GC/g脳質量の用量(4ヶ月齢以上であるが9ヶ月齢未満の患者
については3.0×1013GC;9ヶ月齢以上であるが18ヶ月齢未満の患者について
は5.0×1013GC;18ヶ月以上であるが3歳未満の患者については5.5×10
13GC)のいずれか、として投与する。用量は、約5ml以下の容量にすることができ
る。
【0226】
rAAV9.IDUAの投与のために、対象を全身麻酔下におく。
【0227】
(6.10実施例10:MPS I治療の臨床プロトコル)
以下の実施例は、MPS Iを治療するためにヒト対象をrAAV9.hIDUAベク
ターで治療するために使用することができるプロトコルを記載する。
【0228】
患者集団。治療されることとなる患者は:
MPS I-Hに適合する臨床的徴候及び症状、及び/または重度表現型に排他的に関
連する突然変異のホモ接合性もしくは複合ヘテロ接合性の存在によって確認される重度M
PS I-ハーラーの診断、
55以上の知能指数(IQ)スコア、を有する3歳未満の男性または女性を含み得る。
【0229】
患者は、補助具の有無にかかわらず、要求されるプロトコル試験を完了するのに十分な
聴覚的及び視覚的能力を有し、適用できる場合、試験日に進んで補助具を着用することに
従うべきである。
【0230】
大槽内(IC)治療から除外され得る患者には、IC注入または腰椎穿刺についての禁
忌を有する対象が含まれ得る。IC注入のための禁忌には、以下のいずれかを含むことが
できる:
過去の頭部/頸部手術の既往歴の結果、IC注入が禁忌となっている、
CT(もしくは造影剤)または全身麻酔に任意の禁忌を有する、
MRI(またはガドリニウム)に任意の禁忌を有する、
推算糸球体濾過量(eGFR)<30mL/分/1.73mを有する。
【0231】
いずれかの時にIT治療を受けて、IT投与に関係すると考えられる重大な有害反応を
経験した患者は、ICで治療されるべきではない。治療医師が免疫抑制治療に適当でない
と考える任意の状態を有する患者は、治療を受けるべきではなく(例えば、好中球数の絶
対数が<1.3×10/μL、血小板数<100×10/μL)、ヘモグロビンを評
価する。
【0232】
代替免疫抑制レジメンは、任意の患者に使用すべきであるか、またはタクロリムス、シ
ロリムス、もしくはプレドニゾロンに対する過敏性反応の任意の既往歴を有する患者を除
外すべきである。原発性免疫不全症、脾臓摘出術、または感染症に罹患しやすい基礎疾患
の既往歴のある患者は、免疫抑制療法で治療するべきではない。帯状疱疹、サイトメガロ
ウイルス、またはエプスタイン・バール・ウイルス(EBV)感染症の患者で、スクリー
ニング前の少なくとも12週間は完全に解消されていない場合は、免疫抑制療法で治療す
るべきではない。(1)2回目の受診の少なくとも8週間前に消散しておらず、入院また
は親世代抗感染症薬による治療を必要とする任意の感染症を有する患者、または(2)2
回目の受診前10日以内に経口抗感染症薬(抗ウイルス薬を含む)を必要とする任意の活
発な感染症、もしくは活発な結核の既往歴を有する患者、または(3)スクリーニングの
間のQuantiferon_TB Gold試験で陽性となった患者、または(4)イ
ンフォームドコンセント用紙に署名をする前8週間以内に任意の生ワクチンを受けた患者
、または(5)インフォームドコンセントに署名をする前8週間以内に大手術を行った患
者、または(6)試験期間中に大手術を予定している患者は、免疫抑制治療で治療するべ
きではない。好中球数の絶対数が<1.3×10/μLである患者は、免疫抑制治療で
治療するべきではない。
【0233】
リンパ腫または皮膚の扁平上皮細胞または基底細胞癌以外の別のがんの病歴を有する患
者は、治療前少なくとも3ヶ月にわたって完全寛解にない限り、治療するべきではない。
【0234】
最大限の医学的治療にもかかわらず、コントロール不良高血圧症(収縮期BP>180
mmHg、拡張期BP>100mmHg)の患者は治療するべきではない。
【0235】
アラニンアミノトランスフェラーゼ(ALT)もしくはアスパラギン酸アミノトランス
フェラーゼ(AST)が>3×正常値上限(ULN)であるか、または総ビリルビンが>
1.5×ULNである患者は、対象が過去ギルバート症候群の履歴を有することが分かっ
ている場合を除いては、治療するべきではない。
【0236】
感染症または薬物乱用の既往歴を有する患者は、治療の候補とすることはできない。例
えば、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)もしくはB型肝炎もしくはC型肝炎ウイルス感染
の既往歴、またはB型肝炎表面抗原もしくはB型肝炎コア抗体、またはC型肝炎もしくは
HIV抗体のスクリーニング試験陽性の履歴;スクリーニング前1年以内のアルコールま
たは薬物乱用の履歴である。
【0237】
施される治療-免疫抑制治療による前治療。遺伝子治療の前に、患者は、導入遺伝子及
び/またはAAVキャプシドへの免疫反応を防止するために、免疫抑制治療で治療すべき
である。プレドニゾンの投薬は、0.5mg/kg/日から開始し、第12週の受診まで
段階的に漸減させる。タクロリムスの用量は、最初の24週にわたり全血中トラフ濃度を
2~4ng/mL以内に維持するように調整する。第24週に、用量をおよそ50%まで
減少させる。第28週に、用量をおよそ50%までさらに減少させる。タクロリムスは、
第32週に中断する。シロリムスの用量は、全血中トラフ濃度を1~3ng/mL以内に
維持するように調整する。大部分の対象において、用量調整は、式:新規用量=現在の用
量×(目標濃度/現在の濃度)に基づくことができる。対象は、さらなる用量調整前に、
濃度をモニタリングしながら少なくとも7~14日間にわたり新しい維持用量を継続する
べきである。さらなる詳細については以下を参照のこと。
【0238】
コルチコステロイド
【0239】
ベクター投与(第1日、前投与)の朝において、患者に、少なくとも30分間にわたる
メチルプレドニゾロン10mg/kg(最大500mg)をIVで与える。メチルプレド
ニゾロンは、IPの腰椎穿刺及びIC注入の前に投与するべきである。アセトアミノフェ
ン及び抗ヒスタミン剤による前投薬は、治験責任医師の裁量で任意に行う。
【0240】
第12週までにプレドニゾンを中断することを目標として、第2日に経口プレドニゾン
を開始する。プレドニゾンの用量は、以下の通りである:
第2日から第2週の終わりまで:0.5mg/kg/日
第3週及び4週:0.35 mg/kg/日
第5週~8週:0.2mg/kg/日
第9週~12週:0.1mg/kg
プレドニゾンは、第12週の後に中断する。プレドニゾンの正確な用量は、一段階高めた
臨床上実用的な用量に調整することができる。
【0241】
シロリムス
【0242】
ベクター投与の2日前(第-2日):4時間ごとに1mg/m2×3用量のシロリムス
の負荷用量を投与する。
【0243】
第-1日から:目標血中レベルを1~3ng/mlとする、1日2回の投薬に分割した
0.5mg/m/日のシロリムス。
【0244】
シロリムスを、第48週の受診後に中断する。
【0245】
タクロリムス
【0246】
第2日(IP投与の次の日)にタクロリムスを1日2回0.05mg/kgの用量で開
始し、24週間にわたり2~4ng/mLの血中レベルを達成するように調整した。
【0247】
タクロリムスは第24週の受診から開始し、8週にわたって漸減する。第24週に、用
量をおよそ50%まで減少させる。第28週に、用量をおよそ50%までさらに減少させ
る。タクロリムスは、第32週に中断する。
【0248】
遺伝子治療。hIDUA発現カセット(rAAV9.hIDUA)を含む血清型9キャ
プシドの非複製組換えAAVを、治療に使用する。AAV9血清型を用いると、IC投与
の後、CNS中でhIDUAタンパク質の効率的発現が可能となる。ベクターゲノムは、
AAV2の逆位末端反復配列(ITR)と隣接したhIDUA発現カセットを含む。カセ
ットからの発現は、強力な構成的CAGプロモーターによって駆動する。rAAV9.h
IDUAベクターは、くも膜下腔内注入のためのElliotts B溶液中に懸濁させ
る。
【0249】
rAAV9.hIDUAは、IC投与による単回固定用量:1×1010GC/g脳質
量の用量(4ヶ月齢以上であるが9ヶ月齢未満の患者については6.0×1012GC;
9ヶ月齢以上であるが18ヶ月齢未満の患者については1×1013GC;18ヶ月以上
であるが3歳未満の患者については1.1×1013GC)、または5×1010GC/
g脳質量の用量(4ヶ月齢以上であるが9ヶ月齢未満の患者については3×1013GC
;9ヶ月齢以上であるが18ヶ月齢未満の患者については5×1013GC;18ヶ月以
上であるが3歳未満の患者については5.5×1013GC)のいずれか、として投与す
る。用量は、約5~20mlの容量にすることができる。
【0250】
rAAV9.IDUAの投与のために、対象を全身麻酔下におく。
【0251】
(6.11実施例11:MPS I治療の臨床プロトコル)
以下の実施例は、MPS Iを治療するためにヒト対象をrAAV9.hIDUAベク
ターで治療するために使用することができるプロトコルを記載する。
【0252】
患者集団。治療されることとなる患者は:
血漿、線維芽細胞、または白血球で測定された酵素活性によって確認されたMPS I
の診断(これには、過去または現在HSCTまたはラロニダーゼ治療を受けた可能性のあ
る患者を含む)、
任意の他の神経学的または精神医学的な因子によって説明可能でない場合、以下のいず
れかとして定義されるMPS Iに起因する初期段階の神経認知機能低下:
IQ試験での、または神経心理的機能(言語理解、注意力、または知覚推理)の1つの
領域において平均を下回る標準偏差≧1のスコア、
逐次試験での>1の標準偏差の低下、を有する、6歳以上の男性または女性及び3歳未
満の男性または女性を含み得る。
3歳未満の患者は、神経認知機能低下を伴うハーラー症候群をもたらすことが知られる
突然変異(複数可)によって確認される、重度形態のMPS I(ハーラー症候群)を有
する。
【0253】
患者は、補助具の有無にかかわらず、要求されるプロトコル試験を完了するのに十分な
聴覚的及び視覚的能力を有し、適用できる場合、試験日に進んで補助具を着用することに
従うべきである。
【0254】
出産可能性のある女性は、治療の日に血清妊娠試験陰性であるべきである。全ての性的
に活発な対象は、スクリーニング受診からベクター投与の24週間後まで医学的に認めら
れたバリア避妊法を進んで使用しなければならない。性的に活発な女性は、スクリーニン
グ受診からシロリムスの最後の投与後12週間のいずれか遅い方まで、効果的な避妊方法
を進んで使用しなければならない。大槽内(IC)治療から除外され得る患者には、IC
注入または腰椎穿刺についての禁忌を有する対象が含まれ得る。IC注入のための禁忌に
は、以下のいずれかを含むことができる:
過去の頭部/頸部手術の既往歴の結果、IC注入が禁忌となっている、
CT(もしくは造影剤)または全身麻酔に任意の禁忌を有する、
MRI(またはガドリニウム)に任意の禁忌を有する、
推算糸球体濾過量(eGFR)<30mL/分/1.73mを有する。
【0255】
いずれかの時にIT治療を受けて、IT投与に関係すると考えられる重大な有害反応を
経験した患者は、ICで治療されるべきではない。治療医師が免疫抑制治療に適当でない
と考える任意の状態を有する患者は、治療を受けるべきではない(例えば、好中球数の絶
対数が<1.3×10/μL、血小板数<100×10/μL、及びヘモグロビン<
12g/dL[男性]または<10g/dL[女性])。
【0256】
代替免疫抑制レジメンは、任意の患者に使用すべきであるか、またはタクロリムス、シ
ロリムス、もしくはプレドニゾロンに対する過敏性反応の任意の既往歴を有する患者を除
外すべきである。原発性免疫不全症、脾臓摘出術、または感染症に罹患しやすい基礎疾患
の既往歴のある患者は、免疫抑制療法で治療するべきではない。帯状疱疹、サイトメガロ
ウイルス、またはエプスタイン・バール・ウイルス(EBV)感染症の患者で、スクリー
ニング前の少なくとも12週間は完全に解消されていない場合は、免疫抑制療法で治療す
るべきではない。(1)2回目の受診の少なくとも8週間前に消散しておらず、入院また
は親世代抗感染症薬による治療を必要とする任意の感染症を有する患者、または(2)2
回目の受診前10日以内に経口抗感染症薬(抗ウイルス薬を含む)を必要とする任意の活
発な感染症、もしくは活発な結核の既往歴を有する患者、または(3)スクリーニングの
間のQuantiferon_TB Gold試験で陽性となった患者、または(4)イ
ンフォームドコンセント用紙に署名をする前8週間以内に任意の生ワクチンを受けた患者
、または(5)インフォームドコンセントに署名をする前8週間以内に大手術を行った患
者、または(6)試験期間中に大手術を予定している患者は、免疫抑制治療で治療するべ
きではない。好中球数の絶対数が<1.3×10/μLである患者は、免疫抑制治療で
治療するべきではない。
【0257】
リンパ腫または皮膚の扁平上皮細胞または基底細胞癌以外の別のがんの病歴を有する患
者は、治療前少なくとも3ヶ月にわたって完全寛解にない限り、治療するべきではない。
【0258】
最大限の医学的治療にもかかわらず、コントロール不良高血圧症(収縮期BP>180
mmHg、拡張期BP>100mmHg)の患者は治療するべきではない。
【0259】
アラニンアミノトランスフェラーゼ(ALT)もしくはアスパラギン酸アミノトランス
フェラーゼ(AST)が>3×正常値上限(ULN)であるか、または総ビリルビンが>
1.5×ULNである患者は、対象が過去ギルバート症候群の既往歴を有する、及び総ビ
リルビンの<35%の抱合型ビリルビンを示す分画ビリルビンを有することが分かってい
る場合を除いては、治療するべきではない。
【0260】
感染症または薬物乱用の既往歴を有する患者は、治療の候補とすることはできない。例
えば、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)もしくはB型肝炎もしくはC型肝炎ウイルス感染
の既往歴、またはB型肝炎表面抗原もしくはB型肝炎コア抗体、またはC型肝炎もしくは
HIV抗体のスクリーニング試験陽性の履歴;スクリーニング前1年以内のアルコールま
たは薬物乱用の履歴である。
【0261】
施される治療-免疫抑制治療による前治療。遺伝子治療の前に、患者は、導入遺伝子及
び/またはAAVキャプシドへの免疫反応を防止するために、免疫抑制治療で治療すべき
である。そのような免疫抑制治療は、6歳以上の患者に対し、コルチコステロイド(第1
日にメチルプレドニゾロン10mg/kgを1回静脈内[IV]に前投与し、第2日に経
口プレドニゾンを0.5mg/kg/日から開始し、段階的に漸減させて、第12週まで
に中断する)、タクロリムス(第2日から第24週まで1日2回[BID]1mgを経口
的に[PO]、目標血中レベルを4~8ng/mLとし、第24週から第32週にかけて
の8週間にわたり漸減する)、及びシロリムス(第-2日に4時間ごとに1mg/m×
3用量の負荷用量、続いて第-1日からシロリムス0.5mg/m/日をBIDに分け
て、第48週まで目標血中レベルを4~8ng/mlとして投薬する)を含む。そのよう
な免疫抑制治療は、3歳未満の患者に対し、コルチコステロイド(第1日にメチルプレド
ニゾロン10mg/kgを1回静脈内[IV]に前投与し、第2日に経口プレドニゾンを
0.5mg/kg/日から開始し、段階的に漸減させて、第12週までに中断する)、タ
クロリムス(第2日から第24週まで1日2回[BID]0.05mg/kgを経口的に
[PO]、目標血中レベルを2~4ng/mLとし、第24週から第32週にかけての8
週間にわたり漸減する)、及びシロリムス(第-2日に4時間ごとに1mg/m×3用
量の負荷用量、続いて第-1日からシロリムス0.5mg/m/日をBIDに分けて、
第48週まで目標血中レベルを1~3ng/mlとして投薬する)を含む。神経学的評価
及びタクロリムス/シロリムス血中レベルのモニタリングを実施する。シロリムス及びタ
クロリムスの用量は、目標範囲の血中レベルを維持するように調整する。48週の経過後
は、免疫抑制治療は予定されない。大部分の対象において、用量調整は、式:新規用量=
現在の用量×(目標濃度/現在の濃度)に基づくことができる。対象は、さらなる用量調
整前に、濃度をモニタリングしながら少なくとも7~14日間にわたり新しい維持用量を
継続するべきである。
【0262】
遺伝子治療。hIDUA発現カセット(rAAV9.hIDUA)を含む血清型9キャ
プシドの非複製組換えAAVを、治療に使用する。AAV9血清型を用いると、IC投与
の後、CNS中でhIDUAタンパク質の効率的発現が可能となる。ベクターゲノムは、
AAV2の逆位末端反復配列(ITR)と隣接したhIDUA発現カセットを含む。カセ
ットからの発現は、強力な構成的CAGプロモーターによって駆動する。rAAV9.h
IDUAベクターは、くも膜下腔内注入のためのElliotts B溶液中に懸濁させ
る。
【0263】
6歳以上の患者の場合、rAAV9.hIDUAは、IC投与による単回固定用量:2
×10GC/g脳質量(2.6×1012GC)の用量、または1×1010GC/g
脳質量(1.3×1013GC)の用量のいずれか、として投与する。用量は、約5ml
以下の容量にすることができる。
【0264】
3歳未満の患者の場合、rAAV9.hIDUAは、IC投与による単回固定用量:2
×10GC/g脳質量の用量(4ヶ月齢以上であるが9ヶ月齢未満の患者については1
.2×1012GC;9ヶ月齢以上であるが18ヶ月齢未満の患者については2.0×1
12GC;18ヶ月以上であるが3歳未満の患者については2.2×1012GC)、
または1×1010GC/g脳質量の用量(4ヶ月齢以上であるが9ヶ月齢未満の患者に
ついては6.0×1012GC;9ヶ月齢以上であるが18ヶ月齢未満の患者については
1.0×1013GC;18ヶ月以上であるが3歳未満の患者については1.1×10
GC)のいずれか、として投与する。用量は、約5ml以下の容量にすることができる
【0265】
rAAV9.IDUAの投与のために、対象を全身麻酔下におく。
【0266】
(6.12実施例12:MPS I治療の臨床プロトコル)
以下の実施例は、MPS Iを治療するためにヒト対象をrAAV9.hIDUAベク
ターで治療するために使用することができるプロトコルを記載する。
【0267】
患者集団。治療されることとなる患者は:
MPS I-Hに適合する臨床的徴候及び症状、及び/または重度表現型に排他的に関
連する突然変異のホモ接合性もしくは複合ヘテロ接合性の存在によって確認される重度M
PS I-ハーラーの診断、
55以上の知能指数(IQ)スコア、を有する3歳未満の男性または女性を含み得る。
【0268】
患者は、補助具の有無にかかわらず、要求されるプロトコル試験を完了するのに十分な
聴覚的及び視覚的能力を有し、適用できる場合、試験日に進んで補助具を着用することに
従うべきである。
【0269】
大槽内(IC)治療から除外され得る患者には、IC注入または腰椎穿刺についての禁
忌を有する対象が含まれ得る。IC注入のための禁忌には、以下のいずれかを含むことが
できる:
過去の頭部/頸部手術の既往歴の結果、IC注入が禁忌となっている、
CT(もしくは造影剤)または全身麻酔に任意の禁忌を有する、
MRI(またはガドリニウム)に任意の禁忌を有する、
推算糸球体濾過量(eGFR)<30mL/分/1.73mを有する。
【0270】
いずれかの時にIT治療を受けて、IT投与に関係すると考えられる重大な有害反応を
経験した患者は、ICで治療されるべきではない。治療医師が免疫抑制治療に適当でない
と考える任意の状態を有する患者は、治療を受けるべきではなく(例えば、好中球数の絶
対数が<1.3×10/μL、血小板数<100×10/μL)、ヘモグロビンを評
価する。
【0271】
代替免疫抑制レジメンは、任意の患者に使用すべきであるか、またはタクロリムス、シ
ロリムス、もしくはプレドニゾロンに対する過敏性反応の任意の既往歴を有する患者を除
外すべきである。原発性免疫不全症、脾臓摘出術、または感染症に罹患しやすい基礎疾患
の既往歴のある患者は、免疫抑制療法で治療するべきではない。帯状疱疹、サイトメガロ
ウイルス、またはエプスタイン・バール・ウイルス(EBV)感染症の患者で、スクリー
ニング前の少なくとも12週間は完全に解消されていない場合は、免疫抑制療法で治療す
るべきではない。(1)2回目の受診の少なくとも8週間前に消散しておらず、入院また
は親世代抗感染症薬による治療を必要とする任意の感染症を有する患者、または(2)2
回目の受診前10日以内に経口抗感染症薬(抗ウイルス薬を含む)を必要とする任意の活
発な感染症、もしくは活発な結核の既往歴を有する患者、または(3)スクリーニングの
間のQuantiferon_TB Gold試験で陽性となった患者、または(4)イ
ンフォームドコンセント用紙に署名をする前8週間以内に任意の生ワクチンを受けた患者
、または(5)インフォームドコンセントに署名をする前8週間以内に大手術を行った患
者、または(6)試験期間中に大手術を予定している患者は、免疫抑制治療で治療するべ
きではない。好中球数の絶対数が<1.3×10/μLである患者は、免疫抑制治療で
治療するべきではない。
【0272】
リンパ腫または皮膚の扁平上皮細胞または基底細胞癌以外の別のがんの病歴を有する患
者は、治療前少なくとも3ヶ月にわたって完全寛解にない限り、治療するべきではない。
【0273】
最大限の医学的治療にもかかわらず、コントロール不良高血圧症(収縮期BP>180
mmHg、拡張期BP>100mmHg)の患者は治療するべきではない。
【0274】
アラニンアミノトランスフェラーゼ(ALT)もしくはアスパラギン酸アミノトランス
フェラーゼ(AST)が>3×正常値上限(ULN)であるか、または総ビリルビンが>
1.5×ULNである患者は、対象が過去ギルバート症候群の履歴を有することが分かっ
ている場合を除いては、治療するべきではない。
【0275】
感染症または薬物乱用の既往歴を有する患者は、治療の候補とすることはできない。例
えば、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)もしくはB型肝炎もしくはC型肝炎ウイルス感染
の既往歴、またはB型肝炎表面抗原もしくはB型肝炎コア抗体、またはC型肝炎もしくは
HIV抗体のスクリーニング試験陽性の履歴;スクリーニング前1年以内のアルコールま
たは薬物乱用の履歴である。
【0276】
施される治療-免疫抑制治療による前治療。遺伝子治療の前に、患者は、導入遺伝子及
び/またはAAVキャプシドへの免疫反応を防止するために、免疫抑制治療で治療すべき
である。プレドニゾンの投薬は、0.5mg/kg/日から開始し、第12週の受診まで
段階的に漸減させる。タクロリムスの用量は、最初の24週にわたり全血中トラフ濃度を
2~4ng/mL以内に維持するように調整する。第24週に、用量をおよそ50%まで
減少させる。第28週に、用量をおよそ50%までさらに減少させる。タクロリムスは、
第32週に中断する。シロリムスの用量は、全血中トラフ濃度を1~3ng/mL以内に
維持するように調整する。大部分の対象において、用量調整は、式:新規用量=現在の用
量×(目標濃度/現在の濃度)に基づくことができる。対象は、さらなる用量調整前に、
濃度をモニタリングしながら少なくとも7~14日間にわたり新しい維持用量を継続する
べきである。さらなる詳細については以下を参照のこと。
【0277】
コルチコステロイド
【0278】
ベクター投与(第1日、前投与)の朝において、患者に、少なくとも30分間にわたる
メチルプレドニゾロン10mg/kg(最大500mg)をIVで与える。メチルプレド
ニゾロンは、IPの腰椎穿刺及びIC注入の前に投与するべきである。アセトアミノフェ
ン及び抗ヒスタミン剤による前投薬は、治験責任医師の裁量で任意に行う。
【0279】
第12週までにプレドニゾンを中断することを目標として、第2日に経口プレドニゾン
を開始する。プレドニゾンの用量は、以下の通りである:
第2日から第2週の終わりまで:0.5mg/kg/日
第3週及び4週:0.35mg/kg/日
第5週~8週:0.2mg/kg/日
第9週~12週:0.1mg/kg
プレドニゾンは、第12週の後に中断する。プレドニゾンの正確な用量は、一段階高めた
臨床上実用的な用量に調整することができる。
【0280】
シロリムス
【0281】
ベクター投与の2日前(第-2日):4時間ごとに1mg/m2×3用量のシロリムス
の負荷用量を投与する。
【0282】
第-1日から:目標血中レベルを1~3ng/mlとする、1日2回の投薬に分割した
0.5mg/m/日のシロリムス。
【0283】
シロリムスを、第48週の受診後に中断する。
【0284】
タクロリムス
【0285】
第2日(IP投与の次の日)にタクロリムスを1日2回0.05mg/kgの用量で開
始し、24週間にわたり2~4ng/mLの血中レベルを達成するように調整した。
【0286】
タクロリムスは第24週の受診から開始し、8週にわたって漸減する。第24週に、用
量をおよそ50%まで減少させる。第28週に、用量をおよそ50%までさらに減少させ
る。タクロリムスは、第32週に中断する。
【0287】
遺伝子治療。hIDUA発現カセット(rAAV9.hIDUA)を含む血清型9キャ
プシドの非複製組換えAAVを、治療に使用する。AAV9血清型を用いると、IC投与
の後、CNS中でhIDUAタンパク質の効率的発現が可能となる。ベクターゲノムは、
AAV2の逆位末端反復配列(ITR)と隣接したhIDUA発現カセットを含む。カセ
ットからの発現は、強力な構成的CAGプロモーターによって駆動する。rAAV9.h
IDUAベクターは、くも膜下腔内注入のためのElliotts B溶液中に懸濁させ
る。
【0288】
rAAV9.hIDUAは、IC投与による単回固定用量:2×10GC/g脳質量
の用量(4ヶ月齢以上であるが9ヶ月齢未満の患者については1.2×1012GC;9
ヶ月齢以上であるが18ヶ月齢未満の患者については2.0×1012GC;18ヶ月以
上であるが3歳未満の患者については2.2×1012GC)、または1×1010GC
/g脳質量の用量(4ヶ月齢以上であるが9ヶ月齢未満の患者については6.0×10
GC;9ヶ月齢以上であるが18ヶ月齢未満の患者については1.0×1013GC;
18ヶ月以上であるが3歳未満の患者については1.1×1013GC)のいずれか、と
して投与する。用量は、約5~20mlの容量にすることができる。
【0289】
rAAV9.IDUAの投与のために、対象を全身麻酔下におく。
【0290】
均等物
本発明がその具体的な実施形態に関して詳細に記載されるにもかかわらず、機能的に等
価である変形が本発明の範囲内にあることが理解されよう。実際、本明細書において示さ
れ、説明される発明に加え、本発明の様々な修正が、上記明細書及び添付される図面から
当業者にとって明らかとなるであろう。そのような修正は、添付の特許請求の範囲の範囲
内にあることを意図する。当業者であれば、本明細書に記載の発明の具体的な実施形態と
の多くの等価物を認識するかまたは定型的な実験の範囲の域でこれを使用し、確認するこ
とが可能である。そのような等価物は、以下の特許請求の範囲に包含されることを意図す
る。
【0291】
この明細書に言及のある全ての刊行物、特許、及び特許出願は、各個別の刊行物、特許
、または特許出願の全体が参照により本明細書に組み込まれていることが具体的かつ個別
的に示されているのと同程度に、明細書中に参照により本明細書に組み込まれる。
図1
図2-1】
図2-2】
図2-3】
図2-4】
図3-1】
図3-2】
図3-3】
図4
図5-1】
図5-2】
図5-3】
図5-4】
図5-5】
図5-6】
図5-7】
【配列表】
2024095680000001.app
【手続補正書】
【提出日】2024-04-11
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
本願明細書に実質的に記載された、新規な物、方法及び製造方法。
【手続補正書】
【提出日】2024-04-11
【手続補正1】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0291
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0291】
この明細書に言及のある全ての刊行物、特許、及び特許出願は、各個別の刊行物、特許
、または特許出願の全体が参照により本明細書に組み込まれていることが具体的かつ個別
的に示されているのと同程度に、明細書中に参照により本明細書に組み込まれる。
本件出願は、以下の態様の発明を提供する。
(態様1)
ムコ多糖症I型(MPS I)と診断されたヒト対象の治療方法であって、前記ヒト対
象の脳の脳脊髄液にヒト神経細胞によって生産された治療有効量の組換えヒトα-L-イ
ズロニダーゼ(IDUA)を送達することを含む、前記方法。
(態様2)
MPS Iと診断されたヒト対象の治療方法であって、前記ヒト対象の脳の脳脊髄液に
ヒトグリア細胞によって生産された治療有効量の組換えヒトIDUAを送達することを含
む、前記方法。
(態様3)
前記ヒトIDUAによる治療の前に、またはそれと同時に、前記対象に免疫抑制治療を
施し、かつその後も免疫抑制治療を継続することをさらに含む、態様1または2に記載の
方法。
(態様4)
MPS Iと診断されたヒト対象の治療方法であって、
前記ヒト対象の脳の脳脊髄液に治療有効量のα2,6-シアル酸付加ヒトIDUAを送達
することと、
前記ヒトIDUAによる治療の前に、またはそれと同時に、前記対象に免疫抑制治療を施
し、かつその後も免疫抑制治療を継続することと、を含む、前記方法。
(態様5)
ムコ多糖症I型(MPS I)と診断されたヒト対象の治療方法であって、
前記ヒト対象の脳の脳脊髄液に検出可能なNeuGcを含まない治療有効量のグリコシル
化ヒトIDUAを送達することと、
前記ヒトIDUAによる治療の前に、またはそれと同時に、前記対象に免疫抑制治療を施
し、かつその後も免疫抑制治療を継続することと、を含む、前記方法。
(態様6)
ムコ多糖症I型(MPS I)と診断されたヒト対象の治療方法であって、
前記ヒト対象の脳の脳脊髄液に検出可能なNeuGc及び/またはα-Gal抗原を含ま
ない治療有効量のグリコシル化ヒトIDUAを送達することと、
前記ヒトIDUAによる治療の前に、またはそれと同時に、前記対象に免疫抑制治療を施
し、かつその後も免疫抑制治療を継続することと、を含む、前記方法。
(態様7)
ムコ多糖症I型(MPS I)と診断されたヒト対象の治療方法であって、
前記ヒト対象の脳の脳脊髄液に、チロシン硫酸化を含む治療有効量のヒトIDUAを送達
することと、
前記ヒトIDUAによる治療の前に、またはそれと同時に、前記対象に免疫抑制治療を施
し、かつその後も免疫抑制治療を継続することと、を含む、前記方法。
(態様8)
ムコ多糖症I型(MPS I)と診断されたヒト対象の治療方法であって、
前記ヒト対象の脳にヒトIDUAをコードする発現ベクターを投与することであって、前
記IDUAがヒト不死化神経細胞において前記発現ベクターから発現される際にα2,6
-シアル酸付加される、前記投与することと、
前記発現ベクターの投与の前に、またはそれと同時に、前記対象に免疫抑制治療を施し、
かつその後も免疫抑制治療を継続することと、を含む、前記方法。
(態様9)
ムコ多糖症I型(MPS I)と診断されたヒト対象の治療方法であって、
前記ヒト対象の脳にヒトIDUAをコードする発現ベクターを投与することであって、前
記IDUAがヒト不死化神経細胞において前記発現ベクターから発現される際にグリコシ
ル化されるが検出可能なNeuGcを含まない、前記投与することと、
前記発現ベクターの投与の前に、またはそれと同時に、前記対象に免疫抑制治療を施し、
かつその後も免疫抑制治療を継続することと、を含む、前記方法。
(態様10)
ムコ多糖症I型(MPS I)と診断されたヒト対象の治療方法であって、
前記ヒト対象の脳にヒトIDUAをコードする発現ベクターを投与することであって、前
記IDUAがヒト不死化神経細胞において前記発現ベクターから発現される際にグリコシ
ル化されるが検出可能なNeuGc及び/またはα-Gal抗原を含まない、前記投与す
ることと、
前記発現ベクターの投与の前に、またはそれと同時に、前記対象に免疫抑制治療を施し、
かつその後も免疫抑制治療を継続することと、を含む、前記方法。
(態様11)
ムコ多糖症I型(MPS I)と診断されたヒト対象の治療方法であって、
前記ヒト対象の脳にヒトIDUAをコードする発現ベクターを投与することであって、前
記IDUAがヒト不死化神経細胞において前記発現ベクターから発現される際にチロシン
硫酸化される、前記投与することと、
前記発現ベクターの投与の前に、またはそれと同時に、前記対象に免疫抑制治療を施し、
かつその後も免疫抑制治療を継続することと、を含む、前記方法。
(態様12)
ムコ多糖症I型(MPS I)と診断されたヒト対象の治療方法であって、
前記ヒト対象の脳の脳脊髄液に治療有効量のヒトIDUAをコードする組換えヌクレオチ
ド発現ベクターを投与することであって、その結果α2,6-シアル酸付加グリカンを含
む前記IDUAを放出するデポーが形成される、前記投与することと、
前記発現ベクターの投与の前に、またはそれと同時に、前記対象に免疫抑制治療を施し、
かつその後も免疫抑制治療を継続することと、を含む、前記方法。
(態様13)
ムコ多糖症I型(MPS I)と診断されたヒト対象の治療方法であって、
前記ヒト対象の脳の脳脊髄液に治療有効量のヒトIDUAをコードする組換えヌクレオチ
ド発現ベクターを投与することであって、その結果検出可能なNeuGcを含まないグリ
コシル化ヒトIDUAを放出するデポーが形成される、前記投与することと、
前記発現ベクターの投与の前に、またはそれと同時に、前記対象に免疫抑制治療を施し、
かつその後も免疫抑制治療を継続することと、を含む、前記方法。
(態様14)
ムコ多糖症I型(MPS I)と診断されたヒト対象の治療方法であって、
前記ヒト対象の脳の脳脊髄液に治療有効量のヒトIDUAをコードする組換えヌクレオチ
ド発現ベクターを投与することであって、その結果検出可能なNeuGc及び/またはα
-Gal抗原を含まないグリコシル化ヒトIDUAを放出するデポーが形成される、前記
投与することと、
前記発現ベクターの投与の前に、またはそれと同時に、前記対象に免疫抑制治療を施し、
かつその後も免疫抑制治療を継続することと、を含む、前記方法。
(態様15)
ムコ多糖症I型(MPS I)と診断されたヒト対象の治療方法であって、
前記ヒト対象の脳の脳脊髄液に治療有効量のヒトIDUAをコードする組換えヌクレオチ
ド発現ベクターを投与することであって、その結果チロシン硫酸化を含む前記IDUAを
放出するデポーが形成される、前記投与することと、
前記発現ベクターの投与の前に、またはそれと同時に、前記対象に免疫抑制治療を施し、
かつその後も免疫抑制治療を継続することと、を含む、前記方法。
(態様16)
前記免疫抑制治療が、前記ヒトIDUAによる治療の前に、またはそれと同時に、(a
)タクロリムス及びミコフェノール酸、(b)ラパマイシン及びミコフェノール酸、また
は(c)タクロリムス、ラパマイシン、及びコルチコステロイド、例えばプレドニゾロン
及び/またはメチルプレドニゾロンの組合わせを前記対象に投与し、かつその後継続する
ことを含む、態様3~15のいずれか1項に記載の方法。
(態様17)
前記免疫抑制治療を180日後に中止する、態様16に記載の方法。
(態様18)
前記ヒトIDUAが配列番号1のアミノ酸配列を含む、態様1~17のいずれか1項に
記載の方法。
(態様19)
前記免疫抑制治療が、前記ヒトIDUAによる治療の前に、またはそれと同時に、(a
)タクロリムス及びミコフェノール酸、(b)ラパマイシン及びミコフェノール酸、また
は(c)タクロリムス、ラパマイシン、及びコルチコステロイド、例えばプレドニゾロン
及び/またはメチルプレドニゾロンの組合わせを前記対象に投与することを含む、態様1
8に記載の方法。
(態様20)
前記免疫抑制治療を180日後に中止する、態様19に記載の方法。
(態様21)
α2,6-シアル酸付加グリカンを含む前記IDUAの生産を、細胞培養中でヒト神経
細胞株を前記組換えヌクレオチド発現ベクターを用いて形質導入することにより確認する
、態様12に記載の方法。
(態様22)
検出可能なNeuGcを含まない前記グリコシル化IDUAの生産を、細胞培養中でヒ
ト神経細胞株を前記組換えヌクレオチド発現ベクターを用いて形質導入することにより確
認する、態様13に記載の方法。
(態様23)
検出可能なNeuGc及び/またはα-Gal抗原を含まない前記グリコシル化IDU
Aの生産を、細胞培養中でヒト神経細胞株を前記組換えヌクレオチド発現ベクターを用い
て形質導入することにより確認する、態様14に記載の方法。
(態様24)
チロシン硫酸化を含む前記IDUAの生産を、細胞培養中でヒト神経細胞株を前記組換
えヌクレオチド発現ベクターを用いて形質導入することにより確認する、態様15に記載
の方法。
(態様25)
生産をマンノース-6-リン酸の存在下及び非存在下で確認する、態様21~24のい
ずれか1項に記載の方法。
(態様26)
前記発現ベクターまたは組換えヌクレオチド発現ベクターが、シグナルペプチドをコー
ドする、態様8~15及び21~25のいずれか1項に記載の方法、または態様8~15
のいずれか1項に直接的もしくは間接的に従属する場合の態様16~17のいずれか1項
に記載の方法。
(態様27)
ムコ多糖症I型(MPS I)と診断されたヒト対象の治療方法であって、
前記ヒト対象の脳の脳脊髄液に治療有効量のヒトIDUAをコードする組換えヌクレオチ
ド発現ベクターを投与することであって、その結果α2,6-シアル酸付加グリカンを含
む前記IDUAを放出するデポーが形成される、前記投与することと、
前記発現ベクターの投与の前に、またはそれと同時に、前記対象に免疫抑制治療を施し、
かつその後も免疫抑制治療を継続することと、を含み、
前記組換えベクターは、培養中でヒト神経細胞への形質導入に使用する場合、前記細胞培
養中で前記α2,6-シアル酸付加グリカンを含む前記IDUAを生産する、前記方法。
(態様28)
ムコ多糖症I型(MPS I)と診断されたヒト対象の治療方法であって、
前記ヒト対象の脳の脳脊髄液に治療有効量のヒトIDUAをコードする組換えヌクレオチ
ド発現ベクターを投与することであって、その結果検出可能なNeuGcを含まないグリ
コシル化IDUAを放出するデポーが形成される、前記投与することと、
前記発現ベクターの投与の前に、またはそれと同時に、前記対象に免疫抑制治療を施し、
かつその後も免疫抑制治療を継続することと、を含み、
前記組換えベクターは、培養中でヒト神経細胞への形質導入に使用する場合、前記細胞培
養中でグリコシル化されるが検出可能なNeuGcを含まない前記IDUAを生産する、
前記方法。
(態様29)
ムコ多糖症I型(MPS I)と診断されたヒト対象の治療方法であって、
前記ヒト対象の脳の脳脊髄液に治療有効量のヒトIDUAをコードする組換えヌクレオチ
ド発現ベクターを投与することであって、その結果検出可能なNeuGc及び/またはα
-Gal抗原を含まないグリコシル化IDUAを放出するデポーが形成される、前記投与
することと、
前記発現ベクターの投与の前に、またはそれと同時に、前記対象に免疫抑制治療を施し、
かつその後も免疫抑制治療を継続することと、を含み、
前記組換えベクターは、培養中でヒト神経細胞への形質導入に使用する場合、前記細胞培
養中でグリコシル化されるが検出可能なNeuGc及び/またはα-Gal抗原を含まな
い前記IDUAを生産する、前記方法。
(態様30)
ムコ多糖症I型(MPS I)と診断されたヒト対象の治療方法であって、
前記ヒト対象の脳の脳脊髄液に治療有効量のヒトIDUAをコードする組換えヌクレオチ
ド発現ベクターを投与することであって、その結果チロシン硫酸化を含む前記IDUAを
放出するデポーが形成される、前記投与することと、
前記発現ベクターの投与の前に、またはそれと同時に、前記対象に免疫抑制治療を施し、
かつその後も免疫抑制治療を継続することと、を含み、
前記組換えベクターは、培養中でヒト神経細胞への形質導入に使用する場合、前記細胞培
養中でチロシン硫酸化された前記IDUAを生産する、前記方法。
(態様31)
前記免疫抑制治療が、前記ヒトIDUAによる治療の前に、またはそれと同時に、(a
)タクロリムス及びミコフェノール酸、(b)ラパマイシン及びミコフェノール酸、また
は(c)タクロリムス、ラパマイシン、及びコルチコステロイド、例えばプレドニゾロン
及び/またはメチルプレドニゾロンの組合わせを前記対象に投与し、かつその後継続する
ことを含む、態様27~30のいずれか1項に記載の方法。
(態様32)
前記免疫抑制治療を180日後に中止する、態様31に記載の方法。
(態様33)
前記ヒト対象が3歳未満である、態様1~32のいずれか1項に記載の方法。
(態様34)
前記ヒト対象が3歳未満であり、前記発現ベクターまたは前記組換えヌクレオチド発現
ベクターが、2×10 GC/g脳質量、1×10 10 GC/g脳質量、または5×10
10 GC/g脳質量の用量で投与される、態様8~15及び21~33のいずれか1項に
記載の方法、または態様8~15のいずれか1項に直接的もしくは間接的に従属する場合
の態様16~20のいずれか1項に記載の方法。
(態様35)
前記ヒト対象が3歳未満であり、前記発現ベクターまたは前記組換えヌクレオチド発現
ベクターが、2×10 GC/g脳質量~1×10 10 GC/g脳質量の範囲の用量で投
与される、態様8~15及び21~33のいずれか1項に記載の方法、または態様8~1
5のいずれか1項に直接的もしくは間接的に従属する場合の態様16~20のいずれか1
項に記載の方法。
(態様36)
前記ヒト対象が3歳未満であり、前記発現ベクターまたは前記組換えヌクレオチド発現
ベクターが、1×10 10 GC/g脳質量~5×10 10 GC/g脳質量の範囲の用量で
投与される、態様8~15及び21~33のいずれか1項に記載の方法、または態様8~
15のいずれか1項に直接的もしくは間接的に従属する場合の態様16~20のいずれか
1項に記載の方法。

【外国語明細書】