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特開2024-9574リチウムイオン電池用被覆正極活物質粒子、リチウムイオン電池用正極及びリチウムイオン電池
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024009574
(43)【公開日】2024-01-23
(54)【発明の名称】リチウムイオン電池用被覆正極活物質粒子、リチウムイオン電池用正極及びリチウムイオン電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/36 20060101AFI20240116BHJP
   H01M 4/13 20100101ALI20240116BHJP
   H01M 4/525 20100101ALN20240116BHJP
【FI】
H01M4/36 C
H01M4/13
H01M4/525
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022111205
(22)【出願日】2022-07-11
(71)【出願人】
【識別番号】000002288
【氏名又は名称】三洋化成工業株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】519100310
【氏名又は名称】APB株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000914
【氏名又は名称】弁理士法人WisePlus
(72)【発明者】
【氏名】石賀 渉
(72)【発明者】
【氏名】磯村 省吾
(72)【発明者】
【氏名】堀江 英明
【テーマコード(参考)】
5H050
【Fターム(参考)】
5H050AA02
5H050AA14
5H050BA17
5H050CA01
5H050CA08
5H050CA09
5H050CA11
5H050CA20
5H050CA29
5H050DA10
5H050HA01
5H050HA14
(57)【要約】
【課題】 ロールプレスを用いて圧縮成形された電極に割れが発生しにくく、かつ良好なレート特性を維持できるリチウムイオン電池用被覆正極活物質粒子を提供する。
【解決手段】 リチウムイオン電池用正極活物質粒子の表面の少なくとも一部を被覆層で被覆してなるリチウムイオン電池用被覆正極活物質粒子であって、上記被覆層は、ガラス転移温度が20℃以下である高分子化合物及び導電性フィラーを含み、ゆるめ嵩密度とかため嵩密度との比(ゆるめ嵩密度/かため嵩密度)が0.35~0.55であるリチウムイオン電池用被覆正極活物質粒子。
【選択図】 なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
リチウムイオン電池用正極活物質粒子の表面の少なくとも一部を被覆層で被覆してなるリチウムイオン電池用被覆正極活物質粒子であって、
前記被覆層は、ガラス転移温度が20℃以下である高分子化合物及び導電性フィラーを含み、
ゆるめ嵩密度とかため嵩密度との比(ゆるめ嵩密度/かため嵩密度)が0.35~0.55であるリチウムイオン電池用被覆正極活物質粒子。
【請求項2】
前記高分子化合物の重量が、前記リチウムイオン電池用被覆正極活物質粒子の重量を基準として3.0~5.0重量%である請求項1に記載のリチウムイオン電池用被覆正極活物質粒子。
【請求項3】
前記導電性フィラーが、異なるアスペクト比を有する2種以上からなり、
前記導電性フィラーのアスペクト比が、いずれも2.00~7.00である請求項1又は2に記載のリチウムイオン電池用被覆正極活物質粒子。
【請求項4】
請求項1又は2に記載のリチウムイオン電池用被覆正極活物質粒子と導電助剤とを含む非結着体からなるリチウムイオン電池用正極。
【請求項5】
請求項4に記載のリチウムイオン電池用正極を備えるリチウムイオン電池。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウムイオン電池用被覆正極活物質粒子、リチウムイオン電池用正極及びリチウムイオン電池に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン電池は、高エネルギー密度、高出力密度が達成できる二次電池として、近年様々な用途に多用されている。
リチウムイオン電池を製造する方法として、ロールプレスを用いて電極活物質を圧縮成形する方法が検討されている(例えば、特許文献1及び2)。ロールプレスを用いて電極活物質を圧縮成形することで、電極作製に係る時間及びエネルギーを抑制することができる。
【0003】
特許文献1には、一対のロールと端部整流部材とで囲まれた領域に電極活物質及び結着剤を含んでなる電極材料粉末を供給し、一対のロールと端部整流部材とで囲まれた領域において供給された電極材料粉末を加圧成形することで電極層を製造する方法が開示されている。
【0004】
特許文献2には、電極活物質、バインダ及び水を含む造粒体を一対のロール間に供給し、造粒体を一対のロールで圧縮成形することにより、電極合材層を形成する工程と、電極合材層を電極集電体上に配置する工程と、を備える電極の製造方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第5772429号
【特許文献2】特開2018-85182号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1又は2に記載されているようにロールプレスを用いて電極活物質を圧縮成形すると、度々電極に割れが発生する。一方で、電極強度の向上を目的としてバインダ等の添加量を増やすと電池のレート特性(出力特性)が悪化する。
本発明は、上記課題を鑑みてなされたものであり、ロールプレスを用いて圧縮成形された電極に割れが発生しにくく、かつ良好なレート特性を維持できるリチウムイオン電池用被覆正極活物質粒子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、本発明に到達した。
本発明は、リチウムイオン電池用正極活物質粒子の表面の少なくとも一部を被覆層で被覆してなるリチウムイオン電池用被覆正極活物質粒子であって、上記被覆層は、ガラス転移温度が20℃以下である高分子化合物及び導電性フィラーを含み、ゆるめ嵩密度とかため嵩密度との比(ゆるめ嵩密度/かため嵩密度)が0.35~0.55であるリチウムイオン電池用被覆正極活物質粒子;上記リチウムイオン電池用被覆正極活物質粒子と導電助剤とを含む非結着体からなるリチウムイオン電池用正極;上記リチウムイオン電池用正極を備えるリチウムイオン電池である。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、ロールプレスを用いて圧縮成形された電極に割れが発生しにくく、かつ良好なレート特性を維持できるリチウムイオン電池用被覆正極活物質粒子を提供することができる。
【0009】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明は、リチウムイオン電池用被覆正極活物質粒子に関する。
なお、本明細書において、リチウムイオン電池と記載する場合、リチウムイオン二次電池も含む概念とする。以下では、「リチウムイオン電池用被覆正極活物質粒子」を「被覆正極活物質粒子」と記載することもある。
【0010】
[リチウムイオン電池用被覆正極活物質粒子]
本発明のリチウムイオン電池用被覆正極活物質粒子は、リチウムイオン電池用正極活物質粒子の表面の少なくとも一部を被覆層で被覆してなるリチウムイオン電池用被覆正極活物質粒子であって、上記被覆層は、ガラス転移温度が20℃以下である高分子化合物及び導電性フィラーを含み、ゆるめ嵩密度とかため嵩密度との比(ゆるめ嵩密度/かため嵩密度)が0.35~0.55である。
本発明のリチウムイオン電池用被覆正極活物質粒子は、ゆるめ嵩密度とかため嵩密度との比(ゆるめ嵩密度/かため嵩密度)が0.35~0.55であることにより、電極強度と電池のレート特性(出力特性)とを両立することができる。
【0011】
本明細書において、ゆるめ嵩密度とは、容量100cm3、直径30mmの円筒容器を用い、JIS K 6219-2(2005)に準じて測定した嵩密度であり、かため嵩密度(タップ密度ともいう)とは、落下高さを5mm、タンプ(タッピング又は上下振動ともいう)回数を2000回としてJIS K 5101-12-2(2004)に準じて測定した嵩密度である。なお、ゆるめ嵩密度及びかため嵩密度は、それぞれ5回の測定の平均値を用いる。
【0012】
以下では、上述のゆるめ嵩密度とかため嵩密度との比を有するリチウムイオン電池用被覆正極活物質粒子の構成について説明する。
【0013】
正極活物質粒子としては、リチウムと遷移金属との複合酸化物{遷移金属が1種である複合酸化物(LiCoO、LiNiO、LiAlMnO、LiMnO及びLiMn等)、遷移金属元素が2種である複合酸化物(例えばLiFeMnO、LiNi1-xCo、LiMn1-yCo、LiNi1/3Co1/3Al1/3及びLiNi0.8Co0.15Al0.05)及び金属元素が3種以上である複合酸化物[例えばLiMM’M’’(M、M’及びM’’はそれぞれ異なる遷移金属元素であり、a+b+c=1を満たす。例えばLiNi1/3Mn1/3Co1/3)等]等}、リチウム含有遷移金属リン酸塩(例えばLiFePO、LiCoPO、LiMnPO及びLiNiPO)、遷移金属酸化物(例えばMnO及びV)、遷移金属硫化物(例えばMoS及びTiS)及び導電性高分子(例えばポリアニリン、ポリピロール、ポリチオフェン、ポリアセチレン及びポリ-p-フェニレン及びポリビニルカルバゾール)等が挙げられ、2種以上を併用してもよい。
なお、リチウム含有遷移金属リン酸塩は、遷移金属サイトの一部を他の遷移金属で置換したものであってもよい。
【0014】
正極活物質粒子の体積平均粒子径は、電池の電気特性の観点から、0.01~100μmであることが好ましく、0.1~35μmであることがより好ましく、2~30μmであることがさらに好ましい。
本明細書において体積平均粒子径は、マイクロトラック法(レーザー回折・散乱法)によって求めた粒度分布における積算値50%での粒径(Dv50)を意味する。マイクロトラック法とは、レーザー光を粒子に照射することによって得られる散乱光を利用して粒度分布を求める方法である。なお、体積平均粒子径の測定には、日機装(株)製のマイクロトラック等を用いることができる。
【0015】
上記被覆層は、ガラス転移温度(Tg)が20℃以下である高分子化合物及び導電性フィラーを含む。
【0016】
Tgが20℃以下である高分子化合物としては、Tgが20℃以下の粘着性樹脂が挙げられる。粘着性樹脂は、溶媒成分を揮発させて乾燥させても固体化せずに粘着性を有する樹脂を意味し、結着剤とは異なる材料であり、これらは区別される。被覆層は被覆正極活物質粒子の最表面であり、被覆層に含まれる粘着性樹脂により、被覆正極活物質粒子の表面同士が可逆的に固定される。正極活物質粒子の表面から粘着性樹脂は容易に分離できるが、結着剤は通常、容易に分離できない。従って、結着剤と上記粘着性樹脂は異なる材料である。
Tgが20℃以下である高分子化合物としては、ウレタン樹脂、(メタ)アクリル酸アルキルエステル共重合体及びスチレン-ブタジエンゴムからなる群から選択される少なくとも1種であることが好ましい。
【0017】
ウレタン樹脂は、活性水素成分(b1)及びイソシアネート成分(b2)とを反応させて得られるウレタン樹脂であることが好ましい。
ウレタン樹脂は柔軟性を有するため、正極活物質粒子をウレタン樹脂で被覆することにより電極の体積変化を緩和し、電極の膨脹を抑制することができる。
【0018】
活性水素成分(b1)としては、ポリエーテルジオール、ポリカーボネートジオール及びポリエステルジオールからなる群から選ばれる少なくとも1種を含むことが好ましい。
【0019】
ポリエーテルジオールとしては、ポリオキシエチレングリコール(以下、PEGと略記)、ポリオキシエチレンオキシプロピレンブロック共重合ジオール、ポリオキシエチレンオキシテトラメチレンブロック共重合ジオール;エチレングリコール、プロピレングリコール、1,4-ブタンジオール、1,6-ヘキサメチレングリコール、ネオペンチルグリコール、ビス(ヒドロキシメチル)シクロヘキサン、4,4’-ビス(2-ヒドロキシエトキシ)-ジフェニルプロパンなどの低分子グリコールのエチレンオキシド付加物、数平均分子量2,000以下のPEGとジカルボン酸[炭素数4~10の脂肪族ジカルボン酸(例えばコハク酸、アジピン酸、セバシン酸など)、炭素数8~15の芳香族ジカルボン酸(例えばテレフタル酸、イソフタル酸など)など]の1種以上とを反応させて得られる縮合ポリエーテルエステルジオール及びこれら2種以上の混合物が挙げられる。
これらのうち、好ましくはPEG、ポリオキシエチレンオキシプロピレンブロック共重合ジオール及びポリオキシエチレンオキシテトラメチレンブロック共重合ジオールであり、特に好ましくはPEGである。
【0020】
ポリカーボネートジオールとしては、炭素数4~12、好ましくは炭素数6~10、更に好ましくは炭素数6~9のアルキレン基を有するアルキレンジオールの1種又は2種以上と、低分子カーボネート化合物(例えば、アルキル基の炭素数1~6のジアルキルカーボネート、炭素数2~6のアルキレン基を有するアルキレンカーボネート及び炭素数6~9のアリール基を有するジアリールカーボネートなど)から、脱アルコール反応させながら縮合させることによって製造されるポリカーボネートポリオール(例えばポリヘキサメチレンカーボネートジオール)が挙げられる。
【0021】
ポリエステルジオールとしては、低分子ジオール及び/又は数平均分子量1,000以下のポリエーテルジオールと前述のジカルボン酸の1種以上とを反応させて得られる縮合ポリエステルジオールや、炭素数4~12のラクトンの開環重合により得られるポリラクトンジオールなどが挙げられる。上記低分子ジオールとして上記ポリエーテルジオールの項で例示した低分子グリコールなどが挙げられる。上記数平均分子量1,000以下のポリエーテルジオールとしてはポリオキシプロピレングリコール、ポリテトラメチレンエーテルグリコールなどが挙げられる。上記ラクトンとしては、例えばε-カプロラクトン、γ-バレロラクトンなどが挙げられる。該ポリエステルジオールの具体例としては、ポリエチレンアジペートジオール、ポリブチレンアジペートジオール、ポリネオペンチレンアジペートジオール、ポリ(3-メチル-1,5-ペンチレンアジペート)ジオール、ポリヘキサメチレンアジペートジオール、ポリカプロラクトンジオール及びこれらの2種以上の混合物が挙げられる。
【0022】
また、活性水素成分(b1)は上記ポリエーテルジオール、ポリカーボネートジオール及びポリエステルジオールのうちの2種以上の混合物であってもよい。
【0023】
活性水素成分(b1)は数平均分子量2,500~15,000の高分子ジオール(b11)を必須成分とすることが望ましい。高分子ジオール(b11)としては上述したポリエーテルジオール、ポリカーボネートジオール及びポリエステルジオール等が挙げられる。
高分子ジオール(b11)は、ウレタン樹脂の硬さが適度に柔らかく、また、被膜の強度が強くなるため好ましい。
また、高分子ジオール(b11)の数平均分子量が3,000~12,500であることがより望ましく、4,000~10,000であることが更に望ましい。
高分子ジオール(b11)の数平均分子量は、高分子ジオールの水酸基価から算出することができる。
また、水酸基価は、JIS K1557-1の記載に準じて測定できる。
【0024】
また、活性水素成分(b1)が高分子ジオール(b11)を必須成分とし、上記高分子ジオール(b11)の含有量が上記ウレタン樹脂の重量を基準として20~80重量%であることが望ましい。高分子ジオール(b11)の含有量は30~70重量%であることがより望ましく、40~65重量%であることが更に望ましい。
高分子ジオール(b11)の含有量が20~80重量%であると、ウレタン樹脂の電解液の吸液の点で好ましい。
【0025】
また、活性水素成分(b1)が数平均分子量2,500~15,000の高分子ジオール(b11)及び鎖伸長剤(b13)を必須成分とすることが望ましい。
鎖伸長剤(b13)としては、例えば炭素数2~10の低分子ジオール[例えばエチレングリコール、プロピレングリコール、1,4-ブタンジオール、ジエチレングリコール、1,6-ヘキサメチレングリコールなど];ジアミン類[炭素数2~6の脂肪族ジアミン(例えばエチレンジアミン、1,2-プロピレンジアミンなど)、炭素数6~15の脂環式ジアミン(例えばイソホロンジアミン、4,4’-ジアミノジシクロヘキシルメタンなど)、炭素数6~15の芳香族ジアミン(例えば4,4’-ジアミノジフェニルメタンなど)など];モノアルカノールアミン(例えばモノエタノールアミンなど);ヒドラジンもしくはその誘導体(例えばアジピン酸ジヒドラジドなど)及びこれらの2種以上の混合物が挙げられる。これらのうち好ましいものは低分子ジオールであり、特に好ましいものはエチレングリコール、ジエチレングリコール及び1,4-ブタンジオールである。
高分子ジオール(b11)及び鎖伸長剤(b13)の組み合わせとしては、高分子ジオール(b11)としてのPEGと鎖伸長剤(b13)としてのエチレングリコールの組み合わせ、又は、高分子ジオール(b11)としてのポリカーボネートジオールと鎖伸長剤(b13)としてのエチレングリコールの組み合わせが好ましい。
【0026】
イソシアネート成分(b2)としては、従来からポリウレタン製造に使用されているものが使用できる。このようなイソシアネートには、炭素数(NCO基中の炭素を除く、以下同様)6~20の芳香族ジイソシアネート、炭素数2~18の脂肪族ジイソシアネート、炭素数4~15の脂環式ジイソシアネート、炭素数8~15の芳香脂肪族ジイソシアネート、これらのジイソシアネートの変性体(カーボジイミド変性体、ウレタン変性体、ウレトジオン変性体など)及びこれらの2種以上の混合物が含まれる。
【0027】
上記芳香族ジイソシアネートの具体例としては、1,3-又は1,4-フェニレンジイソシアネート、2,4-又は2,6-トリレンジイソシアネート、2,4’-又は4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート(以下、ジフェニルメタンジイソシアネートをMDIと略記)、4,4’-ジイソシアナトビフェニル、3,3’-ジメチル-4,4’-ジイソシアナトビフェニル、3,3’-ジメチル-4,4’-ジイソシアナトジフェニルメタン、1,5-ナフチレンジイソシアネートなどが挙げられる。
【0028】
上記脂肪族ジイソシアネートの具体例としては、エチレンジイソシアネート、テトラメチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、ドデカメチレンジイソシアネート、2,2,4-トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、リジンジイソシアネート、2,6-ジイソシアナトメチルカプロエート、ビス(2-イソシアナトエチル)カーボネート、2-イソシアナトエチル-2,6-ジイソシアナトヘキサノエートなどが挙げられる。
【0029】
上記脂環式ジイソシアネートの具体例としては、イソホロンジイソシアネート、ジシクロヘキシルメタン-4,4’-ジイソシアネート、シクロヘキシレンジイソシアネート、メチルシクロヘキシレンジイソシアネート、ビス(2-イソシアナトエチル)-4-シクロヘキシレン-1,2-ジカルボキシレート、2,5-又は2,6-ノルボルナンジイソシアネートなどが挙げられる。
【0030】
上記芳香脂肪族ジイソシアネートの具体例としては、m-又はp-キシリレンジイソシアネート、α,α,α’,α’-テトラメチルキシリレンジイソシアネートなどが挙げられる。
【0031】
これらのうち好ましいものは芳香族ジイソシアネート及び脂環式ジイソシアネートであり、更に好ましいものは芳香族ジイソシアネートであり、特に好ましいのはMDIである。
【0032】
ウレタン樹脂が高分子ジオール(b11)及びイソシアネート成分(b2)を含む場合、好ましい(b2)/(b11)の当量比は10~30/1であり、より好ましくは11~28/1である。イソシアネート成分(b2)の比率が30当量を超えると硬い塗膜となる。
ウレタン樹脂の数平均分子量は、40,000~500,000であることが好ましく、より好ましくは50,000~400,000である。ウレタン樹脂の数平均分子量が40,000未満では被膜の強度が低くなり、500,000を超えると溶液粘度が高くなって、均一な被膜が得られないことがある。
【0033】
ウレタン樹脂の数平均分子量は、DMFを溶剤として用い、ポリオキシプロピレングリコールを標準物質としてゲルパーミエーションクロマトグラフィー(以下、GPCと略記)により測定される。サンプル濃度は0.25重量%、カラム固定相はTSKgel SuperH2000、TSKgel SuperH3000、TSKgel SuperH4000(いずれも東ソー株式会社製)を各1本連結したもの、カラム温度は40℃とすればよい。
【0034】
ウレタン樹脂は活性水素成分(b1)とイソシアネート成分(b2)を反応させて製造することができる。
例えば、活性水素成分(b1)として高分子ジオール(b11)と鎖伸長剤(b13)を用い、イソシアネート成分(b2)と高分子ジオール(b11)と鎖伸長剤(b13)とを同時に反応させるワンショット法や、高分子ジオール(b11)とイソシアネート成分(b2)とを先に反応させた後に鎖伸長剤(b13)を続けて反応させるプレポリマー法が挙げられる。
また、ウレタン樹脂の製造は、イソシアネート基に対して不活性な溶媒の存在下又は溶媒[DMF、ジメチルアセトアミドなど]、スルホキシド系溶媒(ジメチルスルホキシドなど)、ケトン系溶媒[メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトンなど]、芳香族系溶媒(トルエン、キシレンなど)、エーテル系溶媒(ジオキサン、テトラヒドロフランなど)、エステル系溶媒(酢酸エチル、酢酸ブチルなど)及びこれらの2種以上の混合物が挙げられる。これらのうち好ましいものはアミド系溶媒、ケトン系溶媒、芳香族系溶媒及びこれらの2種以上の混合物である。
【0035】
ウレタン樹脂の製造の際の反応温度は、溶媒を使用する場合は20~100℃、無溶媒の場合は20~220℃であることが好ましい。
ウレタン樹脂の製造は当該業界において通常採用されている製造装置で行うことができる。また溶媒を使用しない場合はニーダーやエクストルーダーなどの製造装置を用いることができる。このようにして製造されるウレタン樹脂は、30重量%(固形分)DMF溶液として測定した溶液粘度が通常10~10,000ポイズ/20℃であり、実用上好ましいのは100~2,000ポイズ/20℃である。
【0036】
(メタ)アクリル酸アルキルエステル共重合体は、(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体由来の構成単位を必須とするアクリル系重合体であり、(メタ)アクリル酸アルキルエステル共重合体を構成する単量体中における(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体の重量割合が単量体の合計重量を基準として50重量%以上である。
(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体の重量割合(重量%)は、超臨界流体中に重合体を溶解させ、得られたオリゴマー成分をガスクロマトグラフィー質量分析(GC-MS)法で解析する等の方法で測定することができる。
(メタ)アクリル酸アルキルエステル共重合体を構成する単量体中における(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体の重量割合が単量体の合計重量を基準として50重量%未満であると、適度な粘着力を有さず、電極形状の安定性が低くなる。
【0037】
上記(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体としては、2-エチルヘキシルアクリレート、2-エチルヘキシルメタクリレート、n-ブチルアクリレート、n-ブチルメタクリレート、iso-ブチルメタクリレート、メタクリル酸メチル、アクリル酸メチル、またアルキル鎖の末端に水酸基を含有する2-ヒドロキシエチルアクリレート、2-ヒドロキシエチルメタクリレート等が挙げられる。
また、多官能アクリレートも上記(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体に含まれる。上記多官能アクリレートとしては、1,6-ヘキサンジオールメタクリレート、エチレングリコールジメタクリレート等が挙げられる。電極形状の安定性の観点から、上記多官能アクリレートの重量割合は単量体の合計重量を基準としては0.1~3重量%であることが好ましい。
【0038】
(メタ)アクリル酸アルキルエステル共重合体は2種類以上の(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体を構成単量体として含み、その合計含有量が構成単量体の合計重量を基準として50重量%以上であることが好ましい。上記(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体の好ましい組合せとして、n-ブチルアクリレートと2-ヒドロキシエチルアクリレートとアクリロニトリルの組み合わせ、2-エチルヘキシルメタクリレートと2-エチルヘキシルアクリレートの組み合わせ、n-ブチルアクリレートと2-エチルヘキシルアクリレートの組合せ、アクリル酸メチルとn-ブチルアクリレートの組合せ、又は、メタクリル酸メチルとiso-ブチルメタクリレートの組合せが挙げられる。
【0039】
(メタ)アクリル酸アルキルエステル共重合体は、上記(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体以外の単量体として、(メタ)アクリル酸単量体を構成単量体として含むことが好ましい。(メタ)アクリル酸単量体を構成単量体として含むと電池内で生成する水酸化リチウム等の副生成物を中和し、電極の腐食を防止することができる。
(メタ)アクリル酸単量体の重量割合は構成単量体の合計重量を基準として0.1~15重量%であることが好ましい。
【0040】
(メタ)アクリル酸アルキルエステル共重合体は、(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体と共重合可能なモノビニル単量体を構成単量体として含んでいてもよい。
モノビニル単量体としては、フルオロ基、シロキサン等を含有したモノビニル単量体(ジメチルシロキサン等)を使用することができる。
【0041】
(メタ)アクリル酸アルキルエステル共重合体の重量平均分子量の好ましい下限は10,000、より好ましくは50,000、更に好ましくは100,000であり、好ましい上限は1,000,000、より好ましくは800,000、更に好ましくは500,000、特に好ましくは400,000である。
【0042】
(メタ)アクリル酸アルキルエステル共重合体の製造は、構成成分とする単量体組成物を重合することで得ることができ、重合方法としては、公知の重合方法(塊状重合、溶液重合、乳化重合、懸濁重合等)を用いることができる。
重合に際しては、公知の重合開始剤{アゾ系開始剤[2,2’-アゾビス(2-メチルプロピオニトリル)、2,2’-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)及び2,2’-アゾビス(2-メチルブチロニトリル)等]、パーオキシド系開始剤(ベンゾイルパーオキシド、ジ-t-ブチルパーオキシド及びラウリルパーオキシド等)等}を使用して行うことができる。
重合開始剤の使用量は、単量体組成物に含まれる単量体成分の合計重量に基づいて好ましくは0.01~5重量%、より好ましくは0.05~2重量%である。
【0043】
溶液重合の場合に使用される溶媒としては、エステル溶剤[好ましくは炭素数2~8のエステル化合物(例えば酢酸エチル及び酢酸ブチル)]、アルコール[好ましくは炭素数1~8の脂肪族アルコール(例えばメタノール、エタノール、イソプロパノール及びオクタノール)]、炭素数5~8の直鎖、分岐又は環状構造を持つ炭化水素(例えばペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、シクロヘキサン、トルエン及びキシレン)、アミド溶剤[例えばN,N-ジメチルホルムアミド(以下、DMFと略記)及びジメチルアセトアミド]及びケトン溶剤[好ましくは炭素数3~9のケトン化合物(例えばメチルエチルケトン)]等が挙げられ、使用量は単量体組成物に含まれる単量体成分の合計重量に基づいて通常50~200重量%であり、単量体組成物の濃度としては、通常30~70重量%である。
【0044】
乳化重合及び懸濁重合の場合に使用される溶媒(分散媒)としては、水、アルコール(例えばエタノール)、エステル溶剤(例えばプロピオン酸エチル)及び軽ナフサ等が挙げられ、乳化剤としては、高級脂肪酸(炭素数10~24)金属塩(例えばオレイン酸ナトリウム及びステアリン酸ナトリウム)、高級アルコール(炭素数10~24)硫酸エステル金属塩(例えばラウリル硫酸ナトリウム)、エトキシ化テトラメチルデシンジオール、メタクリル酸スルホエチルナトリウム及びメタクリル酸ジメチルアミノメチル等が挙げられる。更に安定剤としてポリビニルアルコール及びポリビニルピロリドン等を加えてもよい。
乳化重合又は懸濁重合における単量体組成物の濃度は通常5~95重量%、重合開始剤の使用量は、単量体組成物の合計重量に基づいて通常0.01~5重量%、粘着力及び凝集力の観点から好ましくは0.05~2重量%である。
重合に際しては、公知の連鎖移動剤、例えばメルカプト化合物(ドデシルメルカプタン及びn-ブチルメルカプタン等)及びハロゲン化炭化水素(四塩化炭素、四臭化炭素及び塩化ベンジル等)を使用することができる。使用量は単量体組成物に含まれる単量体成分の合計重量に基づいて通常2重量%以下、樹脂強度等の観点から好ましくは0.5重量%以下である。
【0045】
また、重合反応における系内温度は通常-5~150℃、好ましくは30~120℃、反応時間は通常0.1~50時間、好ましくは2~24時間であり、重合反応の終点は、未反応単量体の量が、単量体組成物に含まれる単量体成分の合計重量に基づいて通常5重量%以下、好ましくは1重量%以下となる点であり、未反応単量体の量はガスクロマトグラフィー等の公知の単量体含有量の定量方法により確認できる。
【0046】
スチレン-ブタジエンゴムとしては、例えば電池バインダ用として市販されているもの等を用いることができる。スチレン-ブタジエンゴムの市販品としては、例えば、製品名:TRD104A(JSR社製)、BM-400B(日本ゼオン社製)等が挙げられる。
スチレン-ブタジエンゴムの結合スチレン量は、特に限定されないが、電極の強度を向上させる観点から、例えば10~60質量%であり、好ましくは15~55質量%である。なお、結合スチレン量は、H-NMRにより測定することができる。
【0047】
リチウムイオン電池用被覆正極活物質粒子における高分子化合物の重量割合は、リチウムイオン電池用被覆正極活物質粒子の重量を基準として0.1~11.0重量%であることが好ましい。高分子化合物の重量割合が上記範囲内であると、電極強度を向上させることができる。高分子化合物の重量割合は、より好ましくは3.0~5.0重量%である。
【0048】
上記被覆層は、高分子化合物とともに導電性フィラーを含む。
導電性フィラーとしては、金属[アルミニウム、ステンレス(SUS)、銀、金、銅及びチタン等]、カーボン[グラファイト(薄片状黒鉛(UP))、カーボンブラック(アセチレンブラック、ケッチェンブラック、ファーネスブラック、チャンネルブラック及びサーマルランプブラック等)及びカーボンナノファイバー(CNF)等]、及びこれらの混合物等が挙げられる。
【0049】
上記導電性フィラーは、異なるアスペクト比を有する2種以上からなることが好ましい。上記導電性フィラーのアスペクト比は、いずれも2.00~7.00であることが好ましい。上記導電性フィラーは、アスペクト比が2.00以上4.00未満の導電性フィラーAと、4.00以上7.00未満の導電性フィラーBとを含有することがより好ましい。このような導電性フィラーを含有することにより、導電性フィラーAが正極活物質粒子を覆うように被覆して正極活物質粒子表面の導電性の向上に寄与し、導電性フィラーBが被覆層内の外側、すなわち被覆正極活物質粒子の表面側に存在して被覆正極活物質粒子間を接続する役割をして被覆正極活物質粒子間の導電性を向上させることができる。
なお、導電性フィラーは、導電性フィラーAを2種以上、導電性フィラーBを2種以上含有してもよい。
【0050】
導電性フィラーのアスペクト比は、例えば以下の測定条件により測定することができる。
測定機器:PITA-04(粒子形状画像解析装置、株式会社セイシン企業製)
カメラ:モノクロCCDカメラ(1画素2.8μm×2.8μm)、最大54fps
観測粒子数:5000個
【0051】
導電性フィラーの形状(形態)は、上述したアスペクト比を満たすものであれば、粒子形態に限られず、粒子形態以外の形態であってもよく、繊維状(カーボンナノファイバー)等、いわゆるフィラー系導電性樹脂組成物として実用化されている形態であってもよい。
【0052】
導電性フィラーは、薄片状黒鉛と繊維状黒鉛とからなることが好ましい。
薄片状黒鉛は、上述した導電性フィラーAに該当するものであり、正極活物質粒子を覆うように被覆して正極活物質粒子表面の導電性を向上させることができる。
また、繊維状黒鉛は、上述した導電性フィラーBに該当するものであり、正極活物質粒子間を接続する役割をして正極活物質粒子間の導電性を向上させることができる。
【0053】
薄片状黒鉛の具体例としては、UP-5-α(日本黒鉛(株)製、アスペクト比:2.3)、CNP15(伊藤黒鉛工業(株)製、アスペクト比:3.9)FT-4(東日本カーボン(株)製、アスペクト比:3.2)等が挙げられる。
【0054】
繊維状黒鉛の具体例としては、ZEONANO SG101(カーボンナノチューブ、日本ゼオン(株)製、アスペクト比:6.8)、SWNTカーボンナノチューブ((株)名城ナノカーボン製、アスペクト比:6.7)、VGCF(昭和電工製、アスペクト比:6.64)等が挙げられる。
【0055】
導電性フィラーが粒子状である場合の平均粒子径や、繊維状である場合の繊維径等については、上述したアスペクト比を満たせば特に限定されない。
導電性フィラーが粒子状である場合、平均粒子径は、例えば0.01~10μmであればよい。
また、導電性フィラーが繊維状である場合、平均繊維径は0.1~20μmであればよい。
なお、本明細書中において、「導電性フィラーの平均粒子径」とは、粒子の輪郭線上の任意の2点間の距離のうち、最大の距離Lを意味する。「平均粒子径」の値としては、走査型電子顕微鏡(SEM)や透過型電子顕微鏡(TEM)等の観察手段を用い、30個の粒子の粒子径の平均値として算出される値を採用するものとする。
【0056】
本発明のリチウムイオン電池用被覆正極活物質粒子は、導電性フィラーの重量割合が、リチウムイオン電池用被覆正極活物質粒子の重量を基準として1~6重量%であることが好ましい。
【0057】
導電性フィラーとして、上述する導電性フィラーA及び導電性フィラーBを含有する場合、導電性フィラーAの重量割合が、リチウムイオン電池用被覆正極活物質粒子の重量を基準として1.5~4.5重量%であることが好ましい。
また、導電性フィラーBの重量割合が、リチウムイオン電池用被覆正極活物質粒子の重量を基準として0.5~2重量%であることが好ましい。
また、導電性フィラーAの方が導電性フィラーBよりも重量割合が大きい方が好ましい。
【0058】
上記被覆層は、セラミック粒子を含んでいてもよい。セラミック粒子としては、金属炭化物粒子、金属酸化物粒子、ガラスセラミック粒子等が挙げられる。
【0059】
金属炭化物粒子としては、例えば、炭化ケイ素(SiC)、炭化タングステン(WC)、炭化モリブデン(MoC)、炭化チタン(TiC)、炭化タンタル(TaC)、炭化ニオブ(NbC)、炭化バナジウム(VC)、炭化ジルコニウム(ZrC)等が挙げられる。
【0060】
金属酸化物粒子としては、例えば、酸化亜鉛(ZnO)、酸化アルミニウム(Al)、二酸化ケイ素(SiO)、酸化スズ(SnO)、チタニア(TiO)、ジルコニア(ZrO)、酸化インジウム(In)、Li、LiTi12、LiTi、LiTaO、LiNbO、LiAlO、LiZrO、LiWO、LiTiO、LiPO、LiMoO、LiBO、LiBO、LiCO、LiSiOや、ABO(但し、Aは、Ca、Sr、Ba、La、Pr及びYからなる群より選択される少なくとも1種であり、Bは、Ni、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Mo、Ru、Rh、Pd及びReからなる群より選択される少なくとも1種)で表されるペロブスカイト型酸化物粒子等が挙げられる。
金属酸化物粒子としては、電解液と被覆正極活物質粒子との間で起こる副反応を好適に抑制する観点から、酸化亜鉛(ZnO)、酸化アルミニウム(Al)、二酸化ケイ素(SiO)、及び、四ほう酸リチウム(Li)が好ましい。
【0061】
セラミック粒子としては、電解液と被覆正極活物質粒子との間で起こる副反応を好適に抑制する観点から、ガラスセラミック粒子であることが好ましい。
これらは1種単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0062】
ガラスセラミック粒子としては、菱面体晶系を有するリチウム含有リン酸化合物であることが好ましく、その化学式は、LiM”12(X=1~1.7)で表される。
ここでM”はZr、Ti、Fe、Mn、Co、Cr、Ca、Mg、Sr、Y、Sc、Sn、La、Ge、Nb、Alからなる群より選ばれた1種以上の元素である。また、Pの一部をSi又はBに、Oの一部をF、Cl等で置換してもよい。例えば、Li1.15Ti1.85Al0.15Si0.052.9512、Li1.2Ti1.8Al0.1Ge0.1Si0.052.9512等を用いることができる。
また、異なる組成の材料を混合又は複合してもよく、ガラス電解質等で表面をコートしてもよい。又は、熱処理によりNASICON型構造を有するリチウム含有リン酸化合物の結晶相を析出するガラスセラミック粒子を用いることが好ましい。
ガラス電解質としては、特開2019-96478号公報に記載のガラス電解質が挙げられる。
【0063】
ここで、ガラスセラミック粒子におけるLiOの配合割合は酸化物換算で8質量%以下であることが好ましい。
NASICON型構造でなくとも、Li、La、Mg、Ca、Fe、Co、Cr、Mn、Ti、Zr、Sn、Y、Sc、P、Si、O、In、Nb、Fからなり、LISICON型、ぺロブスカイト型、β-Fe(SO型、LiIn(PO型の結晶構造を、持ち、Liイオンを室温で1×10-5S/cm以上伝導する固体電解質を用いても良い。
【0064】
上述したセラミック粒子は、1種単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0065】
セラミック粒子の体積平均粒子径は、エネルギー密度の観点及び電気抵抗値の観点から、1~1000nmであることが好ましく、1~500nmであることがより好ましく、1~150nmであることがさらに好ましい。
【0066】
セラミック粒子の重量割合は、被覆正極活物質粒子の重量を基準として0.5~5.0重量%であることが好ましい。
セラミック粒子を上記範囲で含有することにより、電解液と被覆正極活物質粒子との間で起こる副反応を好適に抑制することができる。
セラミック粒子の重量割合は、被覆正極活物質粒子の重量を基準として2.0~4.0重量%であることがより好ましい。
【0067】
正極活物質粒子は、表面の少なくとも一部が被覆層で被覆されている。
正極活物質粒子は、サイクル特性の観点から、下記計算式で得られる被覆率が30~95%であることが好ましい。
被覆率(%)={1-[被覆正極活物質粒子のBET比表面積/(未被覆時の正極活物質粒子のBET比表面積×被覆正極活物質中に含まれる正極活物質粒子の重量割合+導電性フィラーのBET比表面積×被覆正極活物質粒子中に含まれる導電性フィラーの重量割合+セラミック粒子のBET比表面積×被覆正極活物質粒子中に含まれるセラミック粒子の重量割合)]}×100
【0068】
本発明の被覆正極活物質粒子を製造する方法は特に限定されないが、例えば、正極活物質粒子、高分子化合物、導電性フィラー及び有機溶剤を混合した後に脱溶剤する被覆工程を有する。任意でセラミック粒子を用いる場合、上記工程でセラミック粒子を正極活物質粒子等とともに混合することができる。
【0069】
有機溶剤としては高分子化合物を溶解可能な有機溶剤であれば特に限定されず、公知の有機溶剤を適宜選択して用いることができる。
【0070】
上記被覆工程では、正極活物質粒子、被覆層を構成する高分子化合物及び導電性フィラーを有機溶剤中で混合する。
正極活物質粒子、被覆層を構成する高分子化合物及び導電性フィラーを混合する順番は特に限定されず、例えば、事前に混合した被覆層を構成する高分子化合物と導電性フィラーとからなる樹脂組成物を正極活物質粒子とさらに混合してもよいし、正極活物質粒子、被覆層を構成する高分子化合物及び導電性フィラーを同時に混合してもよいし、正極活物質粒子に被覆層を構成する高分子化合物を混合し、さらに導電性フィラーを混合してもよい。
【0071】
本発明の被覆正極活物質粒子は、正極活物質粒子を、高分子化合物と導電性フィラーとを含む被覆層で被覆することで得ることができ、例えば、正極活物質粒子を万能混合機に入れて30~500rpmで撹拌した状態で、被覆層を構成する高分子化合物を含む樹脂溶液を1~90分かけて滴下混合し、導電性フィラー及び任意でセラミック粒子を混合し、撹拌したまま50~200℃に昇温し、0.007~0.04MPaまで減圧した後に10~150分保持して脱溶剤することにより得ることができる。
【0072】
上記被覆工程において、上記高分子化合物の重量割合は、上記高分子化合物及び上記溶剤の合計重量を基準として25~40重量%であることが好ましい。より好ましくは25~35重量%である。
【0073】
正極活物質粒子と、被覆層を構成する高分子化合物、導電性フィラー及び任意でセラミック粒子とを含む樹脂組成物との配合比率は特に限定されるものではないが、重量比率で正極活物質粒子:樹脂組成物=1:0.001~0.1であることが好ましい。
【0074】
[リチウムイオン電池用正極]
本発明のリチウムイオン電池用正極(以下、単に「正極」ともいう)は、本発明のリチウムイオン電池用被覆正極活物質粒子と導電助剤とを含む非結着体からなることを特徴とする。
【0075】
ここで、非結着体とは、リチウムイオン電池用被覆正極活物質粒子と導電助剤とが結着剤(バインダともいう)により位置を固定されていないことを意味する。すなわち、リチウムイオン電池用被覆正極活物質粒子と導電助剤は、それぞれ外力に応じて移動できる状態である。
【0076】
正極が非結着体からなる場合、被覆正極活物質粒子と導電助剤とが結着剤によって不可逆的に固定されていない。不可逆的な固定とは、被覆正極活物質粒子と導電助剤とが下記の公知の溶剤乾燥型のリチウムイオン電池用結着剤によって接着固定されていることを意味し、接着固定された被覆正極活物質粒子と導電助剤が分離するためには被覆正極活物質粒子と導電助剤の界面を機械的に破壊する必要がある。一方、非結着体の場合は、被覆正極活物質粒子と導電助剤は不可逆的な接着固定がされていないため、被覆正極活物質粒子と導電助剤の界面を機械的に破壊することなく分離することができる。
【0077】
本発明の正極においては、溶剤乾燥型結着剤を含まないことが好ましい。
溶剤乾燥型結着剤としてはデンプン、ポリフッ化ビニリデン、ポリビニルアルコール、カルボキシメチルセルロース、ポリビニルピロリドン、テトラフルオロエチレン、ポリエチレン及びポリプロピレン等の公知のリチウムイオン電池用結着剤等が挙げられる。これらの結着剤は溶剤に溶解又は分散して用いられ、溶剤を揮発、留去することで表面が粘着性を示すことなく固体化して、被覆正極活物質粒子と導電助剤同士、及び、被覆正極活物質粒子と導電助剤と集電体とを強固に固定するものである。
【0078】
本発明の正極は、被覆正極活物質粒子と、導電助剤と、電解質及び溶媒を含有する電解液とを含む正極活物質層を備えていることが好ましい。
【0079】
電解質としては、公知の電解液に用いられている電解質が使用でき、例えば、LiPF、LiBF、LiSbF、LiAsF、LiClO及びLiN(FSO等の無機アニオンのリチウム塩、LiN(CFSO、LiN(CSO及びLiC(CFSO等の有機アニオンのリチウム塩が挙げられる。これらの内、電池出力及び充放電サイクル特性の観点から好ましいのはLiN(FSOである。
【0080】
溶媒としては、公知の電解液に用いられている非水溶媒が使用でき、例えば、ラクトン化合物、環状又は鎖状炭酸エステル、鎖状カルボン酸エステル、環状又は鎖状エーテル、リン酸エステル、ニトリル化合物、アミド化合物、スルホン、スルホラン及びこれらの混合物を用いることができる。
【0081】
ラクトン化合物としては、5員環(γ-ブチロラクトン及びγ-バレロラクトン等)及び6員環(δ-バレロラクトン等)のラクトン化合物等が挙げられる。
【0082】
環状炭酸エステルとしては、プロピレンカーボネート、エチレンカーボネート(EC)及びブチレンカーボネート(BC)等が挙げられる。
鎖状炭酸エステルとしては、ジメチルカーボネート(DMC)、メチルエチルカーボネート(MEC)、ジエチルカーボネート(DEC)、メチル-n-プロピルカーボネート、エチル-n-プロピルカーボネート及びジ-n-プロピルカーボネート等が挙げられる。
【0083】
鎖状カルボン酸エステルとしては、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル及びプロピオン酸メチル等が挙げられる。
【0084】
環状エーテルとしては、テトラヒドロフラン、テトラヒドロピラン、1,3-ジオキソラン及び1,4-ジオキサン等が挙げられる。鎖状エーテルとしては、ジメトキシメタン及び1,2-ジメトキシエタン等が挙げられる。
【0085】
リン酸エステルとしては、リン酸トリメチル、リン酸トリエチル、リン酸エチルジメチル、リン酸ジエチルメチル、リン酸トリプロピル、リン酸トリブチル、リン酸トリ(トリフルオロメチル)、リン酸トリ(トリクロロメチル)、リン酸トリ(トリフルオロエチル)、2-エトキシ-1,3,2-ジオキサホスホラン-2-オン、2-トリフルオロエトキシ-1,3,2-ジオキサホスホラン-2-オン及び2-メトキシエトキシ-1,3,2-ジオキサホスホラン-2-オン等が挙げられる。
【0086】
ニトリル化合物としては、アセトニトリル等が挙げられる。アミド化合物としては、DMF等が挙げられる。スルホンとしては、ジメチルスルホン及びジエチルスルホン等が挙げられる。
【0087】
これらの溶媒は1種を単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0088】
電解液中の電解質の濃度は、1.2~5.0mol/Lであることが好ましく、1.5~4.5mol/Lであることがより好ましく、1.8~4.0mol/Lであることが更に好ましく、2.0~3.5mol/Lであることが特に好ましい。
このような電解液は、適当な粘性を有するので、被覆正極活物質粒子間に液膜を形成することができ、被覆正極活物質粒子に潤滑効果(被覆正極活物質粒子の位置調整能力)を付与することができる。
【0089】
本発明の正極は、上述した被覆正極極活物質粒子の被覆層中に含まれる導電性フィラーとは別に、導電助剤を含んでいる。被覆層中に含まれる導電性フィラーが被覆正極活物質粒子と一体であるのに対し、導電助剤は被覆正極活物質粒子と別々に含まれている点で区別できる。
導電助剤は、被覆層に含まれる導電性フィラーと同じであってもよいし、異なっていてもよい。
本発明の正極が含んでいてもよい導電助剤としては、導電性フィラーとして例示したものと同じものを用いることができる。
【0090】
正極中に含まれる導電助剤と被覆層中に含まれる導電性フィラーとの合計含有量は、特に限定されないが、正極活物質層から電解液を除いた重量を基準として0.5~20重量%であることが好ましい。
【0091】
本発明の正極において、正極活物質層の厚みは、電池性能の観点から、150~600μmであることが好ましく、200~450μmであることがより好ましい。
【0092】
本発明の正極は、例えば、被覆正極活物質粒子と、導電助剤と、電解液とを含む正極スラリーを集電体に塗布した後、乾燥させることによって作製することができる。具体的には、正極スラリーを、集電体上にバーコーター等の塗工装置で塗布後、不織布を活物質上に静置して吸液すること等で、溶媒を除去し、プレス機でプレスする方法等が挙げられる。
【0093】
本発明の正極において、集電体を構成する材料としては、銅、アルミニウム、チタン、ステンレス鋼、ニッケル及びこれらの合金等の金属材料、並びに、焼成炭素、導電性高分子材料、導電性ガラス等が挙げられる。
集電体の形状は特に限定されず、上記の材料からなるシート状の集電体、及び、上記の材料で構成された微粒子からなる堆積層であってもよい。
集電体の厚さは、特に限定されないが、50~500μmであることが好ましい。
【0094】
このように、本発明の正極は、集電体を更に備え、上記集電体の表面に上記正極活物質層が設けられていることが好ましい。例えば、本発明の正極は、導電性高分子材料からなる樹脂集電体を備え、上記樹脂集電体の表面に上記正極活物質層が設けられていることが好ましい。
【0095】
樹脂集電体を構成する導電性高分子材料としては例えば、樹脂に導電剤を添加したものを用いることができる。
導電性高分子材料を構成する導電剤としては、上記被覆層の導電性フィラーと同様のものを好適に用いることができる。
導電性高分子材料を構成する樹脂としては、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリメチルペンテン(PMP)、ポリシクロオレフィン(PCO)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエーテルニトリル(PEN)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、スチレン-ブタジエンゴム(SBR)、ポリアクリロニトリル(PAN)、ポリメチルアクリレート(PMA)、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)、エポキシ樹脂、シリコーン樹脂又はこれらの混合物等が挙げられる。
電気的安定性の観点から、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリメチルペンテン(PMP)及びポリシクロオレフィン(PCO)が好ましく、更に好ましくはポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)及びポリメチルペンテン(PMP)である。
樹脂集電体は、特開2012-150905号公報及び再表2015/005116号等に記載された公知の方法で得ることができる。
【0096】
[リチウムイオン電池]
本発明のリチウムイオン電池は、本発明のリチウムイオン電池用正極を備えることを特徴とする。
【0097】
本発明のリチウムイオン電池は、対極となる電極を組み合わせて、セパレータと共にセル容器に収納し、電解液を注入し、セル容器を密封することで得られる。
また、集電体の一方の面に正極を形成し、もう一方の面に負極を形成してバイポーラ(双極)型電極を作製し、バイポーラ(双極)型電極をセパレータと積層してセル容器に収納し、電解液を注入し、セル容器を密封することでも得られる。
本発明の正極を用いることにより、本発明のリチウムイオン電池が得られる。
【0098】
セパレータとしては、ポリエチレン又はポリプロピレン製の多孔性フィルム、多孔性ポリエチレンフィルムと多孔性ポリプロピレンとの積層フィルム、合成繊維(ポリエステル繊維及びアラミド繊維等)又はガラス繊維等からなる不織布、及びそれらの表面にシリカ、アルミナ、チタニア等のセラミック微粒子を付着させたもの等の公知のリチウムイオン電池用のセパレータが挙げられる。
【実施例0099】
次に本発明を実施例によって具体的に説明するが、本発明の主旨を逸脱しない限り本発明は実施例に限定されるものではない。なお、特記しない限り部は重量部、%は重量%を意味する。
【0100】
<Tg測定法>
セイコー電子工業(株)製DSC20、SSC/580を用いて、ASTM D3418-82に規定の方法(DSC法)で測定した。
【0101】
<被覆用高分子化合物の作製>
攪拌機、温度計、還流冷却管、滴下ロート及び窒素ガス導入管を付した4つ口コルベンに、2-エチルヘキシルアクリレート30部、2-エチルヘキシルメタクリレート60部、アクリル酸5部、n-ブチルメタクリレート4.5部、1,6-ヘキサンジオールジメタクリレート0.5部、トルエン390部を仕込み75℃に昇温した。トルエン10部及び2,2’-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)0.200部及び2,2’-アゾビス(2-メチルブチロニトリル)0.200部を混合した。得られた単量体混合液をコルベン内に窒素を吹き込みながら、重合開始剤混合液を滴下ロートで4時間かけて連続的に滴下してラジカル重合を行った。滴下終了後、2,2’-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)0.800部をトルエン12.4部に溶解した溶液を滴下ロートを用いて、重合を開始してから6~8時間目にかけて連続的に追加した。更に、重合を2時間継続し、トルエンを488部加えて樹脂濃度10重量%の高分子化合物溶液を得た。得られた高分子化合物の分子量をGPCにて測定したところ、Mwは510,000であった。得られた高分子化合物のTgを測定したところ、-21℃であった。
【0102】
<電解液の作製>
エチレンカーボネート(EC)とプロピレンカーボネート(PC)の混合溶媒(体積比率1:1)にLiN(FSOを2.0mol/Lの割合で溶解させて電解液を作製した。
【0103】
<実施例1>
[被覆正極活物質粒子の作製]
被覆用高分子化合物をDMFに溶解し、固形分濃度30%の被覆用高分子化合物溶液を得た。
正極活物質粒子(LiNi0.8Co0.15Al0.05粉末、体積平均粒子径4μm)89.3部を万能混合機ハイスピードミキサーFS25[(株)アーステクニカ製]に入れ、室温、720rpmで撹拌した状態で、被覆用高分子化合物溶液11.7部(固形分3.5部)を2分かけて滴下し、さらに5分撹拌した。
次いで、撹拌した状態で導電性フィラーAであるグラファイト(UP)[薄片状黒鉛、体積平均粒子径4.5μm、アスペクト比2.20]3.0部及び導電性フィラーBである繊維状黒鉛[昭和電工(株)製、商品名「VGCF」、アスペクト比6.64]1.0部、並びに、セラミック粒子であるSiO(商品名「AEROSIL200 PE」、日本アエロジル(株)製、体積平均粒子径12nm)2.0部を分割しながら2分間で投入し、30分撹拌を継続した。
その後、撹拌を維持したまま0.01MPaまで減圧し、次いで撹拌と減圧度を維持したまま温度を140℃まで昇温し、撹拌、減圧度及び温度を8時間維持して揮発分を留去した。
得られた粉体を目開き200μmの篩いで分級し、被覆正極活物質粒子を得た。
【0104】
[樹脂集電体の作製]
2軸押出機にて、ポリプロピレン[商品名「サンアロマーPL500A」、サンアロマー(株)製]70部、カーボンナノチューブ[商品名「FloTube9000」、CNano社製]25部及び分散剤[商品名「ユーメックス1001」、三洋化成工業(株)製]5部を200℃、200rpmの条件で溶融混練して樹脂混合物を得た。
得られた樹脂混合物を、Tダイ押出しフィルム成形機に通して、それを延伸圧延することで、膜厚100μmの樹脂集電体用導電性フィルムを得た。次いで、得られた樹脂集電体用導電性フィルムを17.0cm×17.0cmとなるように切断し、片面にニッケル蒸着を施した後、電流取り出し用の端子(5mm×3cm)を接続した樹脂集電体を得た。
【0105】
[リチウムイオン電池用正極の作製]
電解液42部とカーボンナノファイバー[大阪ガスケミカル(株)製ドナカーボ・ミルドS-243:平均繊維長500μm、平均繊維径13μm:電気伝導度200mS/cm]0.5部と、ケッチェンブラック[ライオン・スペシャリティ・ケミカルズ(株)製EC300J]0.7部とを遊星撹拌型混合混練装置{あわとり練太郎[(株)シンキー製]}を用いて2000rpmで5分間混合し、続いて上記電解液30部と上記の被覆正極活物質粒子206部を追加した後、更にあわとり練太郎で2000rpmで2分間混合し、上記電解液20部を更に追加した後、あわとり練太郎による撹拌を2000rpmで1分間行い、更に上記電解液を2.3部更に追加した後あわとり練太郎による撹拌を2000rpmで2分間混合して、正極活物質層用スラリーを作製した。得られた正極活物質層用スラリーを目付量が80mg/cmとなるよう、上記樹脂集電体の片面に塗布し、1.4MPaの圧力で約10秒プレスし、厚さが340μmの実施例1に係るリチウムイオン電池用正極(16.2cm×16.2cm)を作製した。
【0106】
[リチウムイオン電池の作製]
上記で得られた正極を、セパレータ(セルガード製#3501)を介し、対極Li金属と組み合わせ、ラミネートセルを作製した。
【0107】
<実施例2~3、比較例1~3>
正極活物質粒子と高分子化合物の配合量を表1の値に変更したこと以外は、実施例1と同様にして実施例2~3、比較例1~3の被覆正極活物質粒子を得た。得られた被覆正極活物質粒子を用いて、実施例1と同様にリチウムイオン電池用正極、リチウムイオン電池を作製した。
【0108】
実施例及び比較例で得られた被覆正極活物質粒子のゆるめ嵩密度及びかため嵩密度について、下記に記載の手順で測定し、ゆるめ嵩密度とかため嵩密度との比(ゆるめ嵩密度/かため嵩密度)を算出した。結果を表1に示す。
<ゆるめ嵩密度の測定>
JIS K 6219-2(2005)に準じ、容量100cm、直径30mmであり重量既知の円筒容器に実施例1~3及び比較例1~3で得られた被覆正極活物質粒子をそれぞれ円筒容器の縁から300mmの高さから、円筒容器の縁の上に三角錐を形成するまで注ぎ込んだ。次いで、直定規を容器の縁に垂直に当て垂直方向に移動して円筒容器の縁の上にある被覆正極活物質粒子を払い落とした。次いで、被覆正極活物質粒子の入った円筒容器の合計重量を量り、空の円筒容器の重量と円筒容器の容量とから円筒容器内の被覆正極活物質粒子の密度を計算し、これを5回測定した計算値の平均値をゆるめ嵩密度とした。
<かため嵩密度の測定>
JIS K 5101-12-2(2004)に準じ、100gの被覆正極活物質粒子を直径30mmの測定用シリンダに入れ、タッピング式密充填かさ密度測定器[筒井理化学器械(株)製、Model TPM-3A]を用いて、落下高さ5mmで2000回タッピングし、タッピング後の被覆正極活物質粒子の体積を測定することにより、タッピング後のシリンダ内の被覆正極活物質粒子の嵩密度を測定し、これを5回測定した計算値の平均値をかため嵩密度とした。
【0109】
<電極強度>
得られたリチウムイオン電池用正極(サンプルサイズ:直径16mmの円形)の降伏応力をISO178(プラスチック-曲げ特性の求め方)に準拠して、オートグラフ[(株)島津製作所製]を用いて測定し、以下の基準で電極強度を評価した。
まず、リチウムイオン電池用正極の各サンプルを支点間距離5mmの治具にセットし、オートグラフにセットされたロードセル(定格荷重:20N)を1mm/minの速度で電極に向かって降下させ、降伏点での降伏応力を算出した。結果を表2に示す。
【0110】
<リチウムイオン電池のレート特性の測定>
45℃下、充放電測定装置「HJ-SD8」[北斗電工(株)製]を用いて以下の方法により正極評価用リチウムイオン電池の評価を行った。
定電流定電圧充電方式(CCCVモードともいう)で0.1Cの電流で4.2Vまで充電し、その後20分間の休止した後、0.01Cの電流で2.5Vまで放電した。
次いで、0.1Cの電流で4.2Vまで充電し、その後20分間の休止した後、0.2Cの電流で2.5Vまで放電した。
その後、0.1Cの電流で4.2Vまで充電し、その後20分間の休止した後、0.23Cの電流で2.5Vまで放電した。
更に0.1Cの電流で4.2Vまで充電し、その後20分間の休止した後、0.25Cの電流で2.5Vまで放電した。
最後に0.1Cの電流で4.2Vまで充電し、その後20分間の休止した後、0.3Cの電流で2.5Vまで放電した。
0.3Cの電流で2.5Vまで放電した時の放電容量と最後に0.01Cの電流で2.5Vまで放電を行った時の放電容量から、以下の式でレート特性(0.01Cでの放電容量と0.3Cでの放電容量の比率)を算出した。なお、レート特性の値が大きいほど容量の低下が少なく優れた電池特性を有することを意味する。結果を表2に示す。
[レート特性(%)]=[0.3Cにおける放電容量]÷[0.01Cにおける放電容量]×100
【0111】
【表1】
【0112】
【表2】
【0113】
実施例1~3のリチウムイオン電池用被覆正極活物質粒子を用いて得られた正極及び電池は、比較例1~3の被覆正極活物質粒子を用いた場合と比較して、電極強度が高く、かつレート特性が高かった。ゆるめ嵩密度とかため嵩密度との比が0.55を超える比較例1、2の被覆正極活物質粒子を用いた場合は、実施例1~3と比較して電極強度が低かった。ゆるめ嵩密度とかため嵩密度との比が0.35未満の比較例3の被覆正極活物質粒子を用いた場合は、実施例1~3と比較してレート特性が低かった。
実施例1~3の被覆正極活物質粒子は、被覆層作製工程での高分子化合物の配合量が多いほど、ゆるめ嵩密度とかため嵩密度との比が小さくなり、電極強度が高かった。一方、ゆるめ嵩密度とかため嵩密度との比が高いほど、レート特性が高かった。
【産業上の利用可能性】
【0114】
本発明のリチウムイオン電池用被覆正極活物質粒子、及び、リチウムイオン電池用正極は、特に、定置用電源、携帯電話、パーソナルコンピューター、ハイブリッド自動車及び電気自動車用等に用いられるリチウムイオン電池を作製するために有用である。本発明のリチウムイオン電池は、特に、定置用電源、携帯電話、パーソナルコンピューター、ハイブリッド自動車及び電気自動車用のリチウムイオン電池として有用である。