(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024095743
(43)【公開日】2024-07-10
(54)【発明の名称】限られたT細胞炎症反応で標的抗体産生を促進する人工的な無差別Tヘルパー細胞エピトープ
(51)【国際特許分類】
A61K 38/02 20060101AFI20240703BHJP
A61P 25/28 20060101ALI20240703BHJP
A61K 38/10 20060101ALI20240703BHJP
A61K 38/16 20060101ALI20240703BHJP
A61P 37/02 20060101ALI20240703BHJP
C07K 14/47 20060101ALN20240703BHJP
C07K 19/00 20060101ALN20240703BHJP
【FI】
A61K38/02
A61P25/28 ZNA
A61K38/10
A61K38/16
A61P37/02
C07K14/47
C07K19/00
【審査請求】有
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024060650
(22)【出願日】2024-04-04
(62)【分割の表示】P 2020561828の分割
【原出願日】2019-05-03
(31)【優先権主張番号】62/667,123
(32)【優先日】2018-05-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(71)【出願人】
【識別番号】520205970
【氏名又は名称】ユービーアイ アイピー ホールディングス
【氏名又は名称原語表記】UBI IP HOLDINGS
(74)【代理人】
【識別番号】100094640
【弁理士】
【氏名又は名称】紺野 昭男
(74)【代理人】
【識別番号】100103447
【弁理士】
【氏名又は名称】井波 実
(74)【代理人】
【識別番号】100111730
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 武泰
(74)【代理人】
【識別番号】100180873
【弁理士】
【氏名又は名称】田村 慶政
(72)【発明者】
【氏名】ワン、チャン イ
【テーマコード(参考)】
4C084
4H045
【Fターム(参考)】
4C084AA02
4C084BA18
4C084BA19
4C084BA23
4C084CA59
4C084NA14
4C084ZA161
4C084ZA162
4C084ZB071
4C084ZB072
4H045AA11
4H045BA41
4H045CA40
4H045DA86
4H045EA20
4H045EA31
4H045FA10
4H045FA74
(57)【要約】 (修正有)
【課題】免疫原性炎症応答を生じる状態を治療する方法を提供する。
【解決手段】ペプチドを、それを必要とする対象に投与することを含む状態を治療する方法であって、前記ペプチドがTヘルパー細胞エピトープ及び抗原提示エピトープを含み、前記ペプチドが、陽性対照の免疫原性炎症反応よりも少なくとも約3倍低い、免疫原性炎症応答を生じる状態を治療する、方法である。前記Tヘルパー細胞エピトープは、標的抗原性部位の最適な免疫原性を提供するように設計された新規の異種無差別かつ人工のTヘルパー細胞エピトープである。開示されたTヘルパー細胞エピトープは、ペプチド免疫原構築物中のB細胞エピトープに共有結合した場合、標的抗原性部位のB細胞エピトープに対する強力な抗体応答を誘発する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ペプチドを、それを必要とする対象に投与することを含む状態を治療する方法であって、前記ペプチドがTヘルパー細胞エピトープ及び抗原提示エピトープを含み、前記ペプチドが、陽性対照の免疫原性炎症反応よりも少なくとも約3倍低い、免疫原性炎症応答を生じる状態を治療する、前記方法。
【請求項2】
前記抗原提示エピトープがB細胞エピトープである、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記抗原提示エピトープがペプチドハプテンである、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記抗原提示エピトープがβ-アミロイド(Aβ)である、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記抗原提示エピトープが、Aβ1-14、Aβ1-16、Aβ1-28、Aβ17-42、及びAβ1-42からなる群より選択される、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記抗原提示エピトープがAβ1-14である、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記抗原提示エピトープがAβ1-42である、請求項5に記載の方法。
【請求項8】
前記Tヘルパー細胞エピトープがTh1エピトープである、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
。
【請求項10】
前記Tヘルパー細胞エピトープがTh2エピトープである、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
前記Tヘルパー細胞エピトープ及び前記抗原提示エピトープが共有結合している、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
前記Tヘルパー細胞エピトープが、前記抗原提示エピトープのN末端またはC末端に共有結合されている、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記Tヘルパー細胞エピトープ及び前記抗原提示エピトープが、チオエステル結合によって共有結合している、請求項11に記載の方法。
【請求項14】
前記Tヘルパー細胞エピトープが、スペーサーを介して前記抗原提示エピトープに付着されている、請求項1に記載の方法。
【請求項15】
前記スペーサーがGly-Glyである、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記スペーサーが(ε-N)Lysである、請求項14に記載の方法。
【請求項17】
前記ペプチドが免疫刺激配列をさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項18】
前記免疫刺激配列がインベーシンタンパク質のドメインである、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
前記状態がアルツハイマー病である、請求項1に記載の方法。
【請求項20】
前記状態が初期アルツハイマー病である、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
前記状態が軽度のアルツハイマー病である、請求項19に記載の方法。
【請求項22】
前記免疫学的炎症反応が末梢血単核細胞において測定される、請求項1に記載の方法。
【請求項23】
前記免疫学的炎症反応が、単離された末梢血単核細胞において測定される、請求項1に記載の方法。
【請求項24】
前記免疫学的炎症反応がサイトカイン濃度の増大である、請求項1に記載の方法。
【請求項25】
サイトカイン濃度の前記増大が、IL-2、IL-6、IL-10、INF-γ、またはTNF-αの濃度の増大である、請求項1に記載の方法。
【請求項26】
前記投与が静脈内である、請求項1に記載の方法。
【請求項27】
前記投与が筋肉内である、請求項1に記載の方法。
【請求項28】
前記陽性対照がフィトヘマグルチニンマイトジェンである、請求項1に記載の方法。
【請求項29】
投与が、約150μgの前記ペプチドを投与することを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項30】
前記投与が、約750μgの前記ペプチドを投与することを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項31】
請求項1に記載の方法であって、前記ペプチドが以下の式:
(A)n-(標的抗原性部位)-(B)o-(Th)m-X
または
(A)n-(B)o-(Th)m-(B)o-(標的抗原性部位)-X
または
(A)n-(Th)m-(B)o-(標的抗原性部位)-X
または
(標的抗原性部位)-(B)o-(Th)m-(A)n-X
または
(Th)m-(B)o-(標的抗原性部位)-(A)n-X
のペプチドであり、
式中:
-Aがアミノ酸または免疫刺激性配列であり、
-Bが、少なくとも1つのアミノ酸、-NHCH(X)CH2SCH2CO-、-NHCH(X)CH2SCH2CO(εN)Lys-、-NHCH(X)CH2S-スクシンイミジル(εN)Lys-、または-NHCH(X)CH2S-(スクシンイミジル)-であり、
-Thが、ヘルパーT細胞エピトープ、その類縁体、またはセグメントであり、
-標的抗原性部位がB細胞エピトープまたはその免疫学的に反応性の類縁体であり、
-Xが、アミノ酸α-COOH、-CONH2であり、
-nが1~約10であり、
-mが1~約4であり、かつ
-oが、0~約10である、
前記方法。
【請求項32】
前記T細胞エピトープが人工T細胞エピトープである、上記の請求項のいずれか1項に記載の方法。
【請求項33】
ペプチドを、それを必要とする対象に投与することを含む状態を治療する方法であって、前記ペプチドがTヘルパー細胞エピトープ及び抗原提示エピトープを含み、前記ペプチドが、陰性対照の免疫原性炎症反応よりも約3倍未満高い、対象における免疫原性炎症反応を生成する、前記方法。
【請求項34】
前記抗原提示エピトープがB細胞エピトープである、請求項33に記載の方法。
【請求項35】
前記抗原提示エピトープがペプチドハプテンである、請求項33に記載の方法。
【請求項36】
前記抗原提示エピトープがβ-アミロイド(Aβ)である、請求項33に記載の方法。
【請求項37】
前記抗原提示エピトープが、Aβ1-14、Aβ1-16、Aβ1-28、Aβ17-42、及びAβ1-42からなる群より選択される、請求項36記載の方法。
【請求項38】
前記抗原提示エピトープがAβ1-14である、請求項37に記載の方法。
【請求項39】
前記抗原提示エピトープがAβ1-42である、請求項37に記載の方法。
【請求項40】
前記Tヘルパー細胞エピトープがTh1エピトープである、請求項33に記載の方法。
【請求項41】
前記Tヘルパー細胞エピトープがTh2エピトープである、請求項33に記載の方法。
【請求項42】
前記Tヘルパー細胞エピトープ及び前記抗原提示エピトープが共有結合されている、請求項33に記載の方法。
【請求項43】
前記Tヘルパー細胞エピトープが、前記抗原提示エピトープのN末端またはC末端に共有結合されている、請求項42に記載の方法。
【請求項44】
前記Tヘルパー細胞エピトープ及び前記抗原提示エピトープが、チオエステル結合によって共有結合されている、請求項42に記載の方法。
【請求項45】
前記Tヘルパー細胞エピトープが、スペーサーを介して前記抗原提示エピトープに付着されている、請求項33に記載の方法。
【請求項46】
前記スペーサーがGly-Glyである、請求項45に記載の方法。
【請求項47】
前記スペーサーが(ε-N)Lysである、請求項45に記載の方法。
【請求項48】
前記ペプチドが免疫刺激配列をさらに含む、請求項33に記載の方法。
【請求項49】
前記免疫刺激配列がインベーシンタンパク質のドメインである、請求項48に記載の方法。
【請求項50】
前記状態がアルツハイマー病である、請求項33に記載の方法。
【請求項51】
前記状態が初期アルツハイマー病である、請求項50に記載の方法。
【請求項52】
前記状態が軽度のアルツハイマー病である、請求項50に記載の方法。
【請求項53】
前記免疫学的炎症反応が末梢血単核細胞において測定される、請求項33に記載の方法。
【請求項54】
前記免疫学的炎症反応が、単離された末梢血単核細胞において測定される、請求項33に記載の方法。
【請求項55】
前記免疫学的炎症反応がサイトカイン濃度の増大である、請求項33に記載の方法。
【請求項56】
前記サイトカイン濃度の増大が、IL-2、IL-6、IL-10、INF-γ、またはTNF-αの濃度の増大である、請求項33に記載の方法。
【請求項57】
前記投与が静脈内である、請求項33に記載の方法。
【請求項58】
前記投与が筋肉内である、請求項33に記載の方法。
【請求項59】
前記陽性対照がフィトヘマグルチニンマイトジェンである、請求項33に記載の方法。
【請求項60】
投与が、約150μgの前記ペプチドを投与することを含む、請求項33に記載の方法。
【請求項61】
前記投与が、約750μgの前記ペプチドを投与することを含む、請求項33に記載の方法。
【請求項62】
請求項33に記載の方法であって、前記ペプチドが以下の式:
(A)n-(標的抗原性部位)-(B)o-(Th)m-X
または
(A)n-(B)o-(Th)m-(B)o-(標的抗原性部位)-X
または
(A)n-(Th)m-(B)o-(標的抗原性部位)-X
または
(標的抗原性部位)-(B)o-(Th)m-(A)n-X
または
(Th)m-(B)o-(標的抗原性部位)-(A)n-X
のペプチドであって、
式中:
-Aがアミノ酸または免疫刺激性配列であり、
-Bが、少なくとも1つのアミノ酸、-NHCH(X)CH2SCH2CO-、-NHCH(X)CH2SCH2CO(εN)Lys-、-NHCH(X)CH2S-スクシンイミジル(εN)Lys-、または-NHCH(X)CH2S-(スクシンイミジル)-であり、
-Thが、前記ヘルパーT細胞エピトープ、その類縁体、またはセグメントであり、
-標的抗原性部位がB細胞エピトープまたはその免疫学的に反応性の類縁体であり、
-Xが、アミノ酸α-COOH、-CONH2であり、
-nが1~約10であり、
-mが1~約4であり、かつ
-oが、0~約10である、
前記方法。
【請求項63】
前記T細胞エピトープが人工T細胞エピトープである、先行する請求項のいずれか1項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、本出願は、2018年5月4日に出願された米国仮出願番号62/667,123号の利益を主張するPCT国際出願であり、その全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【背景技術】
【0002】
免疫応答には、抗原提示細胞とヘルパーT細胞との間の協調的相互作用が必要である。効果的な抗体反応を引き出すには、抗原提示細胞が対象の免疫原の標的抗原性部位を認識すること、及びTヘルパー細胞がTヘルパー細胞エピトープを認識することが必要である。一般に、対象の免疫原のTヘルパーエピトープは、そのB細胞エピトープ(複数可)とは異なる。B細胞エピトープは、B細胞によって認識される所望の標的上の部位であり、その結果、所望の標的部位に対する抗体が産生される。標的の自然な立体配座は、抗体が直接結合する部位を決定する。Th細胞応答の誘発には、標的タンパク質のプロセシングされたペプチドフラグメントと関連するクラスII主要組織適合遺伝子複合体(MHC)との間で形成される抗原提示細胞の膜上の複合体を認識するTh細胞受容体が必要である。したがって、Th細胞応答には標的タンパク質のペプチドプロセシング及び三方向認識が必要である。1)重要なMHCクラスII接触残基は、異なるMHC結合ペプチド(Thエピトープ)内にさまざまに配置されており、2)異なるMHC結合ペプチドは可変長であり、異なるアミノ酸配列を持っており、3)MHCクラスII分子は、宿主の遺伝的構成に応じて非常に多様になる可能性があるので、3つの部分からなる複合体を定義することは困難である。特定のThエピトープに対する免疫応答性は、宿主のMHC遺伝子によって部分的に決定され、Thエピトープの反応性は集団の個体間で異なる。無差別なThエピトープ、すなわち、単一の種内の種間及び個体間で反応性のあるThエピトープを特定することは困難である。
【0003】
抗原プロセシング細胞による適切なペプチドプロセシング、遺伝的に決定されたクラスII MHC分子によるペプチドの提示、Th細胞上の受容体によるMHC分子またはペプチド複合体の認識など、T細胞認識の各構成要素ステップには複数の要因が必要である。幅広い応答性を提供するための無差別Thエピトープ認識の要件を決定するのは難しい場合がある。
【0004】
抗体の誘導のために、免疫原はB細胞決定基とTh細胞決定基(複数可)の両方を含まなければならないことは明らかである。一般に、標的の免疫原性を高めるために、Th応答は標的を担体タンパク質に結合することによって提供される。この手法の欠点は多くある。以下の理由により、明確で安全かつ効果的なペプチド-担体タンパク質コンジュゲートを製造することは困難である。
【0005】
a.化学的カップリングは、サイズと組成の不均一性を導入するランダム反応であり、例えば、グルタタールアルデヒドとの結合である(Borras-Cuesta et al., Eur J Immunol, 1987; 17: 1213-1215)。
【0006】
b.担体タンパク質は、アレルギー反応及び自己免疫反応などの望ましくない免疫応答の可能性を誘導する(Bixler et al., WO 89/06974)。
【0007】
c.大きなペプチド担体タンパク質は、標的部位ではなく、主に担体タンパク質に誤って向けられた無関係な免疫応答を誘発する(Cease et al., Proc Natl Acad Sci USA, 1987; 84: 4249-4253)。そして。
【0008】
d.担体タンパク質はまた、同じ担体タンパク質を含む免疫原で以前に免疫された宿主においてエピトープ抑制の可能性を導入する。引き続いて、同じ担体タンパク質が異なるハプテンに結合している別の免疫原で宿主を免疫すると、結果として生じる免疫応答は、担体タンパク質では増強されるが、ハプテンでは阻害される(Schutze et al., J Immunol, 1985; 135: 2319-2322)。
【0009】
上記のリスクを回避するために、従来の担体タンパク質を使用せずにT細胞の補助を引き出すことが望ましい。
【0010】
参照による組み込み
本出願で引用された各特許、刊行物、及び非特許文献は、あたかもそれぞれが参照により個別に組み込まれたかのように、その全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】
図1:正常なドナーのナイーブ末梢血単核細胞における無差別及び人工のThペプチド応答性T細胞の検出。
【発明の概要】
【0012】
本開示は、治療効果のために機能的な部位特異的抗体応答を刺激し得るペプチド免疫原を産生するために使用され得る無差別な人工Tヘルパー細胞(Th)エピトープを提供する。開示された人工Thエピトープは、任意選択のスペーサーを介して、合成ペプチドB細胞エピトープ(「標的抗原性部位」)に連結されて、免疫原性ペプチドを生成し得る。免疫原性ペプチドはまた、一般的な免疫刺激配列を含む他の構成要素も含み得る。
【0013】
人工Thエピトープは、強力なTヘルパー細胞性免疫応答を誘導する能力をペプチド免疫原に付与し、「標的抗原性部位」に対する高レベルの抗体を産生する。本発明はさらに、確立されたペプチド免疫原における担体タンパク質及び病原体由来Tヘルパー細胞部位の、それらの免疫原性を改善するために特別に設計された人工Thエピトープによる有利な置換を提供する。本発明の人工Thエピトープを有する短いペプチド免疫原は、著しい炎症反応を引き起こすことなく、特定の標的抗原性部位B細胞エピトープを標的とする高レベルの抗体を誘発する。
【0014】
本発明の人工Thエピトープは、標的抗原性部位に、そして任意選択で免疫刺激配列に連結され得る。本発明の免疫原性ペプチドは、以下の式で表され得る:
(A)n-(標的抗原性部位)-(B)o-(Th)m-X
または
(A)n-(B)o-(Th)m-(B)o-(標的抗原性部位)-X
または
(A)n-(Th)m-(B)o-(標的抗原性部位)-X
または
(標的抗原性部位)-(B)o-(Th)m-(A)n-X
または
(Th)m-(B)o-(標的抗原性部位)-(A)n-X
ここで:
各Aは独立して、アミノ酸であり;
各Bは独立してアミノ酸、-NHCH(X)CH2SCH2CO-、-NHCH(X)CH2SCH2CO(εN)Lys-、-NHCH(X)CH2S-スクシンイミジル(εN)Lys-、または-NHCH(X)CH2S-(スクシンイミジル)-であり;
各Thは独立して人工Th細胞エピトープ、その類縁体またはセグメントであり、
標的抗原性部位は、B細胞エピトープ、そのペプチドハプテン、または免疫学的に反応性の類縁体であり、
Xは、アミノ酸、α-COOH、または-CONH2であり、
nは、1、2、3、4、5、6、7、8、9、または10であり、
mは、1、2、3、または4であり;かつ
oは、0、1、2、3、4、5、6、7、8、9、または10である。
【0015】
標的抗原性部位としてのペプチドハプテンの例は、ベータアミロイド(Aβ)タンパク質のアミノ酸1-14(Aβ1-14)である(配列番号56)。
【0016】
本発明の組成物は、免疫された宿主において、所望の標的抗原性部位に対する抗体応答を誘発し得るペプチドを含む。標的抗原性部位は、病原性生物、通常は免疫サイレント自己抗原及び腫瘍関連標的に由来し得る。
【0017】
したがって、本発明の組成物は、多くの多様な医学的及び獣医学的用途において有用である。これらとしては、感染症からの防御免疫を提供するワクチン、正常な生理学的プロセスの機能不全から生じる障害の治療のための免疫療法、がんの治療のための免疫療法、及び正常な生理学的プロセスに望ましく介入して改変する薬剤が挙げられる。
【0018】
本発明のThエピトープに共有結合し得るいくつかの標的抗原としては、以下の部分:いくつか例を挙げれば、アルツハイマー病の治療のためのベータアミロイド(Aβ)、パーキンソン病の治療のためのアルファシヌクレイン(α-Syn)、アレルギー性疾患の治療のための膜結合IgE(またはIgE EMPD)の細胞外膜近位ドメイン、アルツハイマー病を含むタウオパチーの治療のためのタウ、及びアトピー性皮膚炎の治療のためのインターロイキン-31(IL-31)が挙げられる。さらに具体的には、Aβ1-14(米国特許第9,102,752号に記載)、α-Syn126-135(米国仮出願第62/521,287号に記載)、IgE EMPD1-39(国際PCT出願第PCT/US2017/069174号に記載)、Tau379-408(米国仮出願第62/578,124号に記載)、及びIL-3197-144(米国仮出願第62/597,130号に記載)である。
【0019】
いくつかの実施形態では、本発明は、ペプチドを、それを必要とする対象に投与することを含む状態を治療する方法を提供し、このペプチドは、Tヘルパー細胞エピトープ及び抗原提示エピトープを含み、このペプチドは、陽性対照の免疫原性炎症反応よりも少なくとも約3倍低い、免疫原性炎症応答を生成する。
【発明の詳細な説明】
【0020】
本開示は、治療効果のために機能的な部位特異的抗体応答を刺激し得るペプチド免疫原を産生するために使用され得る無差別な人工Tヘルパー細胞(Th)エピトープを提供する。開示された人工Thエピトープは、任意選択のスペーサーを介して、合成ペプチドB細胞エピトープ(「標的抗原性部位」)に連結されて、免疫原性ペプチドを生成し得る。
【0021】
人工Thエピトープは、ペプチド免疫原に強力なTヘルパー細胞性免疫応答を誘導する能力を付与し、「標的抗原性部位」に対する高レベルの抗体を産生する。本発明はさらに、確立されたペプチド免疫原における担体タンパク質及び病原体由来Tヘルパー細胞部位の、それらの免疫原性を改善するために特別に設計された人工Thエピトープによる、有利な置換を提供する。本発明の人工Thエピトープを有する短いペプチド免疫原は、著しい炎症反応を引き起こすことなく、特定の標的抗原性部位B細胞エピトープを標的とする高レベルの抗体を誘発する。
【0022】
本開示のペプチド免疫原は、所望の標的抗原性部位に対して免疫化された宿主において抗体応答を誘発し得る。いくつかの実施形態では、この抗原性部位は、病原性生物(例えば、FMDV VP1、PRRSV GP5など)から取られる。いくつかの実施形態では、抗原性部位は、通常は免疫サイレントな自己抗原または腫瘍関連標的(例えば、Aβ、タウ(Tau)、アルファシヌクレイン、IgE EMPD、IL-31など)から取られる。
【0023】
本開示は、特定のタンパク質を標的とする抗体を誘発するペプチド免疫原を提供するために使用され得る人工Thエピトープを記載している。標的抗原性部位は、任意の標的ペプチドまたはタンパク質由来の任意のアミノ酸配列を含み得る。いくつかの実施形態では、本開示は、アミロイドβ(Aβ)、口蹄疫(FMD)キャプシドタンパク質、ブタ繁殖・呼吸障害症候群ウイルス(PRRSV)由来の糖タンパク質、黄体形成ホルモン放出ホルモン(LHRH)、及び任意の他のペプチドまたはタンパク質配列を標的とする抗体を誘発するペプチド免疫原を提供するために使用され得る人工Thエピトープを記載する。
【0024】
本発明のペプチドは、医学的及び獣医学的用途において有用であり得る。いくつかの実施形態では、本発明のペプチドは、感染症または神経変性疾患からの防御免疫を提供するためのワクチンとして、正常な生理学的プロセスの機能不全に起因する障害を治療するためのワクチンとして、がんを治療するための免疫療法として、及び正常な生理学的プロセスに介入する薬剤として使用され得る。
【0025】
ペプチド免疫原
本明細書で使用される「ペプチド免疫原」という用語は、単一のより大きなペプチドを形成するように従来のペプチド結合を介して、またはチオエステルなどの他の形態の共有結合を介して、標的抗原性部位に共有結合したThエピトープを含む分子を指す。
【0026】
本開示は、ペプチド免疫原及びペプチド免疫原を含む組成物を提供する。いくつかの実施形態では、免疫原性ペプチドは、人工異種Thエピトープ、B細胞エピトープを含む標的抗原性部位、及び任意選択の異種スペーサーを含む。
【0027】
ペプチド免疫原に人工Thエピトープが存在すると、強力なTh細胞性免疫応答を誘発し得る。いくつかの実施形態では、免疫原性ペプチドにおける人工的な異種Thエピトープの存在は、標的抗原性部位に向けられた高レベルの抗体を産生し得る。いくつかの実施形態では、本開示は、免疫原性を改善するように設計された人工異種Th細胞エピトープによる、確立されたペプチド免疫原における担体タンパク質及び病原体由来Th細胞部位の有利な置換を記載する。いくつかの実施形態では、人工Thエピトープを有するペプチド免疫原は、B細胞エピトープ(例えば、Aβ、タウ、アルファシヌクレイン、IgE EMPD、IL-31など)を標的とする高レベルの抗体産生を誘発し得る。
【0028】
いくつかの実施形態では、本開示の免疫原性ペプチドは、以下の式によって表され得、
(A)n-(標的抗原性部位)-(B)o-(Th)m-X
または
(A)n-(B)o-(Th)m-(B)o-(標的抗原性部位)-X
または
(A)n-(Th)m-(B)o-(標的抗原性部位)-X
または
(標的抗原性部位)-(B)o-(Th)m-(A)n-X
または
(Th)m-(B)o-(標的抗原性部位)-(A)n-X
式中:
各Aは独立してアミノ酸であり、
各Bは独立してアミノ酸、-NHCH(X)CH2SCH2CO-、-NHCH(X)CH2SCH2CO(εN)Lys-、-NHCH(X)CH2S-スクシンイミジル(εN)Lys-、または-NHCH(X)CH2S-(スクシンイミジル)-であり、
各Thは独立して人工Th細胞エピトープ、その類縁体またはセグメントであり、
標的抗原性部位は、B細胞エピトープ、そのペプチドハプテン、または免疫学的に反応性の類縁体であり、
Xは、アミノ酸、α-COOH、または-CONH2であり、
nは、1、2、3、4、5、6、7、8、9、または10であり;
mは、1、2、3、または4であり;かつ
oは、0、1、2、3、4、5、6、7、8、9、または10である。
【0029】
本開示のペプチド免疫原は、約25、約30、約35、約40、約45、約50、約55、約60、約65、約70、約75、約80、約85、約90、約95、または約100アミノ酸残基を含み得る。いくつかの実施形態では、本開示のペプチド免疫原は、約20、約30、約40、約50、約60、約70、または約80アミノ酸残基を含み得る。
【0030】
A-アミノ酸
本開示の免疫原性ペプチド中の各Aは、独立して、異種アミノ酸配列である。
【0031】
本明細書で使用される「異種」という用語は、標的抗原性部位(B細胞エピトープ)の野生型アミノ酸配列の一部でもなく、またはそれと相同でもないアミノ酸配列を指す。したがって、Aの異種アミノ酸配列は、標的抗原性部位のタンパク質またはペプチドには天然には見られないアミノ酸配列を含む。構成要素Aの配列は、標的抗原性部位と異種であるため、構成要素Aが標的抗原性部位に共有結合している場合、標的抗原性部位の天然アミノ酸配列は、N末端またはC末端のいずれの方向にも伸長されない。
【0032】
いくつかの実施形態では、各Aは、独立して、非天然または天然に存在するアミノ酸である。
【0033】
天然に存在するアミノ酸としては、アラニン、アルギニン、アスパラギン、アスパラギン酸、システイン、グルタミン酸、グルタミン、グリシン、ヒスチジン、イソロイシン、ロイシン、リジン、メチオニン、フェニルアラニン、プロリン、セリン、スレオニン、トリプトファン、チロシン及びバリンが挙げられる。
【0034】
天然に存在しないアミノ酸としては、限定するものではないが、ε-Nリジン、β-アラニン、オルニチン、ノルロイシン、ノルバリン、ヒドロキシプロリン、チロキシン、γ-アミノ酪酸、ホモセリン、シトルリン、アミノ安息香酸、6-アミノカプロン酸(Aca;6-アミノヘキサン酸)、ヒドロキシプロリン、メルカプトプロピオン酸(MPA)、3-ニトロチロシン、ピログルタミン酸などが挙げられる。
【0035】
いくつかの実施形態では、nは1より大きく、各Aは独立して同じアミノ酸である。いくつかの実施形態では、nは1より大きく、各Aは独立して異なるアミノ酸である。
【0036】
B-任意選択の異種スペーサー
本開示の免疫原性ペプチドの各Bは、任意の異種スペーサーである。
【0037】
上記のように、「異種」という用語は、標的抗原性部位(B細胞エピトープ)の野生型アミノ酸配列の一部ではない、または相同ではないアミノ酸を指す。したがって、スペーサーがアミノ酸である場合、スペーサーは、標的抗原性部位のタンパク質またはペプチドに天然には見られないアミノ酸配列を含む。構成要素Bの配列は、標的抗原性部位と異種であるため、構成要素Bが標的抗原性部位に共有結合している場合、標的抗原性部位の天然アミノ酸配列は、N末端またはC末端のいずれの方向にも伸長されない。
【0038】
構成要素Bの任意選択の異種スペーサーは、独立してアミノ酸、-NHCH(X)CH2SCH2CO-、-NHCH(X)CH2SCH2CO(εN)Lys-、-NHCH(X)CH2S-スクシンイミジル(εN)Lys-、-NHCH(X)CH2S-(スクシンイミジル)-、及び/または任意のそれらの組み合わせである。このスペーサーは、構成要素Aについて上で説明したように、1つ以上の天然または非天然に存在するアミノ酸残基を含んでもよい。
【0039】
このスペーサーは、Thエピトープと標的抗原性部位の分離を増強するための可塑性ヒンジスペーサーであってもよい。いくつかの実施形態では、可塑性ヒンジ配列は、プロリンに富んでいる場合もある。特定の実施形態では、可塑性ヒンジは、免疫グロブリン重鎖に見られる可塑性ヒンジ領域からモデル化された配列Pro-Pro-Xaa-Pro-Xaa-Pro(配列番号55)を有する。その中のXaaは、任意のアミノ酸であり得る。いくつかの実施形態では、Xaaはアスパラギン酸である。いくつかの実施形態では、スペーサーによって提供される立体配座分離は、提示されたペプチド免疫原と適切なTh細胞及びB細胞との間のより効率的な相互作用を可能にし得る。Thエピトープに対する免疫応答を増強して、免疫反応性を改善してもよい。
【0040】
o>1の場合、各Bは独立して同じまたは異なる。いくつかの実施形態では、Bは、Gly-Gly、Pro-Pro-Xaa-Pro-Xaa-Pro(配列番号55)、εNLys、εNLys-Lys-Lys-Lys(配列番号53)、Lys-Lys-Lys、-NHCH(X)CH2SCH2CO-、-NHCH(X)CH2SCH2CO(εNLys)-、-NHCH(X)CH2S-スクシンイミジル-εNLys-、または-NHCH(X)CH2S-(スクシンイミジル)-、及び/または任意のそれらの組み合わせである。
【0041】
例示的な異種スペーサーを表2に示す。
【0042】
標的抗原性部位
本開示は、特定のタンパク質を標的とする抗体を誘発するペプチド免疫原を提供するために使用され得る人工Thエピトープを記載している。標的抗原性部位は、外来または自己ペプチドまたはタンパク質を含む、任意の標的ペプチドまたはタンパク質由来の任意のアミノ酸配列を含んでもよい。
【0043】
いくつかの実施形態では、本開示は、黄体形成ホルモン放出ホルモン(LHRH)を標的とする抗体を誘発するペプチド免疫原を提供するために使用し得る人工Thエピトープを記載する(例えば、米国特許第6,025,468号、第6,228,987号、第6,559,282号、及び米国特許出願公開番号2017/0216418);アミロイドβ(Aβ)(例えば、米国特許第6,906,169号、第7,951,909号、第8,232,373号、及び第9,102,752号);口蹄疫キャプシドタンパク質(例えば、米国特許第6,048,538号、第6,107,021号、及び米国公開第2015/0306203号);HIV感染の予防及び治療のためのHIVビリオンエピトープ(例えば、米国特許第5,912,176号、第5,961,976号、及び第6,090,388号);2型ブタサーコウイルス(PCV2)由来のキャプシドタンパク質(例えば、米国公開番号2013/0236487)、ブタ繁殖・呼吸障害症候群ウイルス(PRRSV)由来の糖タンパク質(例えば、米国公開番号2014/0335118)、IgE(例えば、米国公開番号7648701号及び同第6811782号)、アルファ-シヌクレイン(α-Syn)(米国仮出願番号62/521,287)、膜結合型IgE(またはIgE EMPD)の細胞外膜近位ドメイン(国際PCT出願番号PCT/US2017/069174)、タウ(Tau)(米国仮出願第62/578,124号)、及びインターロイキン-31(IL-31)(米国仮出願第62/597,130号)、マラリア予防のためのプラスモジウムのCS抗原;動脈硬化症の予防及び治療のためのCETP;ならびに任意の他のペプチドまたはタンパク質配列。全ての特許及び特許刊行物は、それらの全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【0044】
例示的な標的抗原性部位を表3に示す。
【0045】
Th-Tヘルパーエピトープ
ペプチド免疫原構築物のThエピトープは、標的抗原性部位の免疫原性を高め、合理的な設計により、最適化された標的B細胞エピトープに対する特定の高力価抗体の産生を促進する。
【0046】
いくつかの実施形態では、Thエピトープは、異種配列である。上記のように、「異種」という用語は、標的抗原性部位の野生型配列の一部でもなく、それと相同でもないアミノ酸配列に由来するアミノ酸配列を指す。したがって、異種Thエピトープは、標的抗原性部位に天然には見られないアミノ酸配列に由来するThエピトープである。Thエピトープは、標的抗原性部位に対して異種であるので、異種Thエピトープが標的抗原性部位に共有結合している場合、標的抗原性部位の天然アミノ酸配列は、N末端またはC末端のいずれの方向にも伸長されない。
【0047】
Thエピトープは、任意の種(例えば、ヒト、ブタ、ウシ、イヌ、ラット、マウス、モルモットなど)に由来するアミノ酸配列を有し得る。Thエピトープは、複数の種のMHCクラスII分子への無差別結合モチーフも有してもよい。特定の実施形態では、Thエピトープは、免疫応答の開始及び調節をもたらすTヘルパー細胞の最大の活性化を可能にするために、複数の無差別MHCクラスII結合モチーフを含む。Thエピトープは、それ自体で免疫サイレントであることが好ましく、すなわち、ペプチド免疫原構築物によって生成される抗体のうち、あってもごくわずかしかThエピトープに向けられないため、標的抗原性部位に向けられる非常に集中した免疫応答が可能になる。
【0048】
エピトープのサイズは、約15~約50アミノ酸残基の範囲であり得る。いくつかの実施形態では、Thエピトープは、約15、約20、約25、約30、約35、約40、約45、または約50のアミノ酸残基を有し得る。Thエピトープは、共通の構造的特徴及び特定のランドマーク配列を共有し得る。いくつかの実施形態では、Thエピトープは、両親媒性ヘリックス、すなわち、疎水性アミノ酸残基がヘリックスの1つの面を支配し、かつ荷電及び極性残基が周囲の面を支配するアルファヘリックス構造を有する。
【0049】
WO1999/066957のThエピトープ及び開示、ならびに対応する米国特許第6,713,301号は、それらの全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【0050】
無差別なTh決定基は、免疫原性の低いペプチドを増強するのに効果的であり得る。十分に設計された無差別Th/B細胞エピトープキメラペプチドは、遺伝的に多様な集団のほとんどのメンバーのB細胞部位を標的とする抗体応答で、Th応答を誘発し得る。いくつかの実施形態では、Th細胞は、ペプチド担体を十分に特徴付けられた無差別Th決定基に共有結合させることによって、標的抗原ペプチドに供給され得る。
【0051】
無差別Thエピトープには、追加の一次アミノ酸パターンを含み得る。いくつかの実施形態では、無差別Thエピトープは、ロスバード(Rothbard)配列を含み得、ここで、無差別Thエピトープは、荷電残基(例えば、-Gly-)、続いて2から3つの疎水性残基、続いて荷電または極性残基(Rothbard and Taylor, EMBO J, 1988; 7: 93-101)を含む。無差別Thエピトープは、1、4、5、及び8の規則に従い得、ここでは正に帯電した残基の後に、同じ面に配置された位置1、4、5及び8を有する両親媒性ヘリックスと一致する4、5、及び8番目の位置に疎水性残基が続く。いくつかの実施形態では、疎水性及び荷電及び極性アミノ酸の1、4、5、8パターンは、単一のThエピトープ内で繰り返され得る。いくつかの実施形態では、無差別T細胞エピトープは、ロスバード配列または1、4、5、8の規則に従うエピトープのうちの少なくとも1つを含み得る。他の実施形態では、Thエピトープは、2つ以上のロスバード配列を含む。
【0052】
病原体に由来する無差別Thエピトープとしては、限定するものではないが、B型肝炎表面Th細胞エピトープ(HBsAg Th)、B型肝炎コア抗原Th細胞エピトープ(HBc Th)、百日咳毒素Th細胞エピトープ(PT Th)、破傷風毒素Th細胞エピトープ(TT Th)、麻疹ウイルスFタンパク質Th細胞エピトープ(MVF Th)、クラミジア・トラコマチス(Chlamydia trachomatis)主要外膜タンパク質Th細胞エピトープ(CT Th)、ジフテリア毒素Th細胞エピトープ(DT Th)、熱帯熱マラリア原虫(Plasmodium falciparum)スポロゾイト周囲(circumsporozoite)Th細胞エピトープ(PF Th)、マンソン住血吸虫(Schistosoma mansoni)トリオースリン酸イソメラーゼTh細胞エピトープ(SM Th)、及びEscherichia coli TraT Th細胞エピトープ(TraT Th)、破傷風菌(Clostridium tetani)、百日咳菌(Bordetella pertussis)、コレラ毒素(Cholera Toxin)、インフルエンザ(Influenza)MP1、インフルエンザNSP1、エプスタイン・バー(Epstein Barr)ウイルス(EBV)、ヒトサイトメガロウイルス(HCMV)。本開示で使用されるThエピトープの例を、表1に示す。
【0053】
いくつかの実施形態では、本開示のThエピトープは、類似のアミノ酸配列を含むペプチドの混合物を含むコンビナトリアルThエピトープであってもよい。コンビナトリアル人工Thエピトープとも呼ばれる、構造化合成抗原ライブラリー(SSAL)は、特定の位置に置換がある不変残基の構造フレームワークの周りに組織化されたアミノ酸配列を有する多数のThエピトープを含む。SSALエピトープの配列は、比較的不変の残基を保持し、他の残基を変化させて、多様なMHC制限要素の認識を提供することによって決定される。SSALエピトープの配列は、無差別Thの一次アミノ酸配列を整列させること、骨格フレームワークとしてThペプチドの固有の構造を担う残基を選択及び保持すること、ならびに公知のMHC制限要素に従って残りの残基を変化させることによって決定され得る。MHC制限要素の好ましいアミノ酸を有する不変及び可変位置を使用して、ThエピトープのSSALを設計するために使用し得るMHC結合モチーフを得ることが可能である。
【0054】
コンビナトリアル配列として提示される異種Thエピトープペプチドは、その特定のペプチドの相同体の可変残基に基づいて、ペプチドフレームワーク内の特定の位置に表されるアミノ酸残基の混合物を含む。いくつかの実施形態では、Thエピトープライブラリー配列は、無差別なThエピトープの構造モチーフを維持し、より広範囲のハプロタイプに対する反応性に対応するように設計されている。いくつかの実施形態では、SSALのメンバーは、麻疹ウイルスのFタンパク質から取られた無差別エピトープ(例えば、配列番号1~5)をモデルにした縮重ThエピトープSSAL1 Th1であり得る。他の実施形態では、SSALのメンバーは、HBsAg1から取られた無差別エピトープ(例えば、配列番号19~24)をモデルとした縮重ThエピトープSSAL2 Th2であり得る。
【0055】
合成後にコンビナトリアル人工Thエピトープ(またはSSAL)の混合物に存在するペプチドの総数は、各可変位置で利用可能な任意選択の数を掛け合わせることによって計算され得る。例えば、配列番号16は、5つの可変位置を含み、各可変位置には2つの異なる残基のオプションがあるので(つまり、2x2x2x2x2=25=32)、32の異なるペプチドの組み合わせに相当する。同様に、配列番号5は、524,288個の異なるペプチドの組み合わせに相当する(すなわち、2x4x2x4x2x4x4x4x2x4x2x4=25x47=524,288)。コンビナトリアル人工Thエピトープ配列には、(a)可変配列に含まれる全てのペプチドの混合物、及び(b)組み合わせ内に単一配列を含む各々の個々のペプチド、が含まれる。
【0056】
いくつかの実施形態では、荷電残基GluまたはAspを位置1に付加して、Thの疎水性面を取り巻く電荷を増加し得る。いくつかの実施形態では、両親媒性ヘリックスの疎水性面は、2、5、8、9、10、13及び16の疎水性残基によって維持され得る。いくつかの実施形態では、2、5、8、9、10、及び13のアミノ酸残基は、広範囲のMHC制限要素に結合する能力を備えたファサード(facade)を提供するために変更してもよい。いくつかの実施形態では、アミノ酸残基の変動は、人工Thエピトープの免疫応答性の範囲を拡大し得る。
【0057】
人工Thエピトープは、既知の無差別Thエピトープの全ての特性及び特徴を組み込み得る。いくつかの実施形態では、人工Thエピトープは、SSALのメンバーである。いくつかの実施形態では、人工Th部位を、自己抗原及び外来抗原から取られたペプチド配列と組み合わせて、部位特異的標的に対する増強された抗体応答を提供し得る。いくつかの実施形態では、人工Thエピトープ免疫原は、効果的かつ安全な抗体応答を提供し得、高い免疫効力を示し得、そして広い反応性応答性を示し得る。
【0058】
理想化された人工Thエピトープも提供される。これらの理想化された人工Thエピトープは、WO95/11998に開示されている2つの公知の天然Thエピトープ及びSSALペプチドプロトタイプをモデルにしている。SSALSは、遺伝的に多様な集団のメンバー間で幅広い免疫応答を誘発することを目的としたコンビナトリアルMHC分子結合モチーフ(Meister et al., 1995)を組み込んでいる。SSALペプチドのプロトタイプは、複数のMHC結合モチーフを導入することによって変更された、麻疹ウイルス及びB型肝炎ウイルス抗原のThエピトープに基づいて設計された。他のThエピトープの設計は、複数のMHC結合モチーフを単純化、追加、及び/または変更して、一連の新規な人工Thエピトープを生成することにより、他の公知のThエピトープをモデルとした。無差別な人工Th部位は、さまざまな標的抗原性部位を保有する合成ペプチド免疫原に組み込まれた。得られたキメラペプチドは、標的抗原性部位に対する効果的な抗体応答を刺激し得た。
【0059】
表1に「SSAL1TH1」として示されているプロトタイプの人工ヘルパーT細胞(Th)エピトープ、4つのペプチドの混合物(配列番号1~4)は、麻疹ウイルスのFタンパク質の無差別Thエピトープからモデル化された理想的なThエピトープである(Partidos et al.1991)。表1に「MVF Th(UBITh(登録商標)5)」(配列番号6)として示されているモデルThエピトープは、麻疹ウイルスFタンパク質の残基288-302に対応する。MVF Th(配列番号6)は、1位に荷電残基Glu/Aspを付加して、エピトープの疎水性面を取り巻く電荷を増大させることによって;位置4、6、12、及び14に荷電残基またはGlyを追加または保持することによって;ならびに「ロスバード規則」に従って、位置7及び11に荷電残基またはGlyを追加または保持することによって、SSAL1 Th1プロトタイプ(配列番号1~4)に対して修飾された。Thエピトープの疎水性面は、位置2、5、8、9、10、13、及び16に残基を含む。無差別エピトープと一般的に会合する疎水性残基をこれらの位置で置換して、コンビナトリアルThSSALエピトープ、SSAL1 Th1(配列番号1~4)を得た。プロトタイプSSAL1 Th1(配列番号1~4)の別の重要な特徴は、MHC結合モチーフを模倣するために、位置1及び4が位置9の両側のパリンドロームとして不完全に繰り返されるということである。SSAL1 Th1のこの「1、4、9」パリンドロームパターンは、元のMvFモデルTh(配列番号6)の配列をより厳密に反映するように、配列番号2(表1)でさらに変更された。
【0060】
コンビナトリアル人工Thエピトープを単純化して、一連の単一配列エピトープを提供してもよい。例えば、配列番号5のコンビナトリアル配列は、配列番号1~4によって表される単一配列Thエピトープに単純化され得る。これらの単一配列のThエピトープは、標的抗原性部位に結合して、免疫原性を高め得る。
【0061】
いくつかの実施形態では、Thエピトープの免疫原性は、N末端を非極性及び極性非荷電アミノ酸、例えば、Ile及びSerで延長すること、ならびにC末端を荷電及び疎水性アミノ酸、例えば、Lys及びPheで延長することによって改善され得る。さらに、Thエピトープへのリジン残基または複数のリジン残基(例えば、KKK)の付加は、ペプチドの水への溶解度を改善し得る。さらなる改変には、一般的なMHC結合モチーフAxTxILによるC末端の置換が含まれていた(Meister et al, 1995)。
【0062】
人工Thエピトープは、公知の天然ThエピトープまたはSSALペプチドプロトタイプであり得る。いくつかの実施形態では、SSAL由来のThエピトープは、遺伝的に多様な集団のメンバーの間で広範な免疫応答を誘発することを目的としたコンビナトリアルMHC分子結合モチーフを組み込み得る。いくつかの実施形態では、SSALペプチドプロトタイプは、複数のMHC結合モチーフを導入することによって改変された、麻疹ウイルス及びB型肝炎ウイルス抗原のThエピトープに基づいて設計され得る。いくつかの実施形態では、人工Thエピトープは、複数のMHC結合モチーフを単純化、追加、または及び/または改変して、一連の新規な人工Thエピトープを生成してもよい。いくつかの実施形態では、新たに適合された無差別人工Th部位は、様々な標的抗原性部位を保有する合成ペプチド免疫原に組み込まれ得る。いくつかの実施形態では、得られるキメラペプチドは、標的抗原性部位に対する効果的な抗体応答を刺激し得る。
【0063】
本開示の人工Thエピトープは、クラスII MHC分子結合部位を含む天然または非天然アミノ酸の連続配列であり得る。いくつかの実施形態では、人工Thエピトープは、標的抗原性部位に対する抗体応答を増強または刺激し得る。いくつかの実施形態では、Thエピトープは、連続的または不連続的なアミノ酸セグメントからなってもよい。いくつかの実施形態では、Thエピトープの全てのアミノ酸がMHC認識に関与しているわけではない。いくつかの実施形態では、本発明のThエピトープは、免疫増強相同体、交差反応性相同体、及びそれらのセグメントなどの免疫学的に機能的な相同体を含んでもよい。いくつかの実施形態では、機能的Th相同体は、1、2、3、4、5、6、7、8、9、または10アミノ酸残基の保存的置換、付加、欠失、及び挿入をさらに含み得、そしてThエピトープのTh刺激機能を提供し得る。
【0064】
エピトープは標的部位に直接付着されてもよい。いくつかの実施形態では、Thエピトープは、任意の異種スペーサー、例えば、Gly-Glyまたは(ε-N)Lysなどのペプチドスペーサーを通じて標的部位に付着され得る。スペーサーは、ThエピトープをB細胞エピトープから物理的に分離し、Thエピトープまたは機能的相同体と標的抗原性部位との結合によって作成された任意の人工二次構造の形成を破壊し得、それによってTh及び/またはB細胞応答との干渉を排除する。
【0065】
Thエピトープは、表1に示されるように、理想化された人工Thエピトープ及びコンビナトリアルの理想化された人工Thエピトープを含む。いくつかの実施形態では、Thエピトープは、配列番号1~52の無差別Th細胞エピトープ、その任意の相同体、及び/またはその任意の免疫学的類縁体である。Thエピトープには、Thエピトープの免疫学的類縁体も含まれる。免疫学的Th類縁体としては、免疫増強類縁体、交差反応性類縁体、及び標的抗原性部位に対する免疫応答を増強または刺激するのに十分な任意のこれらのThエピトープのセグメントが挙げられる。
【0066】
Thエピトープペプチドの機能的免疫学的類縁体もまた有効であり、本発明の一部として含まれる。機能的免疫学的Th類縁体は、ThエピトープのTh刺激機能を本質的に改変しない、Thエピトープにおける1~約5個のアミノ酸残基の保存的置換、付加、欠失及び挿入を含み得る。保存的置換、付加、及び挿入は、標的抗原性部位について上記したように、天然または非天然アミノ酸を用いて達成され得る。表1は、Thエピトープペプチドの機能的類縁体の別のバリエーションを特定している。特に、MvF1及びMvF2 Thの配列番号6及び7は、欠失(配列番号6及び7)またはそれぞれN末端及びC末端に2つのアミノ酸を含めること(配列番号16及び17)によってアミノ酸フレームが異なるという点で、MvF4及びMvF5の配列番号16及び17の機能的類縁体である。これらの2つの一連の類縁体配列の間の相違は、これらの配列に含まれるThエピトープの機能に影響を与えない。したがって、機能的な免疫学的Th類縁体には、麻疹ウイルス融合タンパク質MvF1-4 Th(配列番号6-18)及び肝炎表面タンパク質HBsAg 1-3 Th(配列番号19-31)に由来するThエピトープのいくつかのバージョンが含まれる。
【0067】
ペプチド免疫原構築物のThエピトープは、標的抗原性部位のN末端またはC末端のいずれかで共有結合して、キメラTh/B細胞部位ペプチド免疫原を生成し得る。いくつかの実施形態では、Thエピトープは、化学的カップリングを介して、または直接合成を介して、標的抗原性部位に共有結合され得る。いくつかの実施形態では、Thエピトープは、標的抗原性部位のN末端に共有結合されている。他の実施形態では、Thエピトープは、標的抗原性部位のC末端に共有結合されている。特定の実施形態では、2つ以上のThエピトープが標的抗原性部位に共有結合されている。2つ以上のThエピトープが標的抗原性部位に連結されている場合、各Thエピトープは同じアミノ酸配列を有しても、または異なるアミノ酸配列を有してもよい。さらに、2つ以上のThエピトープが標的抗原性部位に連結されている場合、Thエピトープは任意の順序で配置されてもよい。例えば、Thエピトープは、標的抗原性部位のN末端に連続的に連結されてもよいし、もしくは標的抗原性部位のC末端に連続的に連結されてもよく、または別のThエピトープが標的抗原性部位のC末端に共有結合したままで、Thエピトープが、標的抗原性部位のN末端に共有結合されてもよい。標的抗原性部位に関連するThエピトープの配置に制限はない。
【0068】
いくつかの実施形態では、Thエピトープは、標的抗原性部位に直接共有結合されている。他の実施形態では、Thエピトープは、以下でさらに詳細に説明される異種スペーサーを通じて標的抗原性部位に共有結合されている。
【0069】
合成の方法
本開示のペプチド免疫原は、化学的方法を使用して合成してもよい。いくつかの実施形態では、本開示のペプチド免疫原は、固相ペプチド合成を使用して合成してもよい。いくつかの実施形態では、本発明のペプチドは、α-NH2または側鎖アミノ酸を保護するためにt-BocまたはFmocを使用する自動メリフィールド固相ペプチド合成を使用して合成される。
【0070】
コンビナトリアル配列として提示された異種Thエピトープペプチドは、その特定のペプチドの相同体の可変残基に基づいて、ペプチドフレームワーク内の特定の位置に表されるアミノ酸残基の混合物を含む。コンビナトリアルペプチドのアセンブリは、合成プロセス中の指定された位置に、特定の1つのアミノ酸ではなく、指定された保護されたアミノ酸の混合物を追加することにより、1つのプロセスで合成され得る。このようなコンビナトリアル異種Thエピトープペプチドアセンブリは、多様な遺伝的背景を有する動物に幅広いThエピトープカバレッジを可能にし得る。異種Thエピトープペプチドの代表的なコンビナトリアル配列には、表1に示される配列番号5、10、13、16、24、及び27が含まれる。本発明のThエピトープペプチドは、遺伝的に多様な集団由来の動物及び患者に幅広い反応性及び免疫原性を提供する。
【0071】
興味深いことに、Thエピトープ、B細胞エピトープ、及び/またはThエピトープ及びB細胞エピトープを含むペプチド免疫原構築物の合成中に導入され得る不整合及び/またはエラーは、ほとんどの場合、治療された動物において、望ましい免疫応答を妨害することも、妨げることもない。実際、ペプチド合成中に導入され得る不整合/エラーは、標的ペプチド合成とともに複数のペプチド類縁体を生成する。これらの類縁体としては、アミノ酸の挿入、欠失、置換、及び早期終了が挙げられ得る。上記のように、そのようなペプチド類縁体は、免疫診断の目的で固相抗原として、またはワクチン接種の目的で免疫原としてのいずれかで、免疫学的用途で使用される場合、抗原性及び免疫原性への寄与因子としてペプチド調製物に適している。
【0072】
Thエピトープを含むペプチド免疫原構築物は、標的抗原性部位と並行して、単一の固相ペプチド合成で同時に生成される。Thエピトープにはまた、Thエピトープの免疫学的類縁体も含まれる。免疫学的Th類縁体としては、免疫増強類縁体、交差反応性類縁体、及び標的抗原性部位に対する免疫応答を増強または刺激するのに十分なこれらのThエピトープのいずれかのセグメントが挙げられる。
【0073】
所望のペプチド免疫原の完全なアセンブリ後、固相樹脂を処理して、樹脂からペプチドを切断し、アミノ酸側鎖上の官能基を除去し得る。遊離ペプチドを、HPLCで精製し、生化学的に特徴付けし得る。いくつかの実施形態では、遊離ペプチドは、アミノ酸分析を使用して生化学的に特徴付けられる。いくつかの実施形態では、遊離ペプチドは、ペプチド配列を使用して特徴付けられる。いくつかの実施形態では、遊離ペプチドは、質量分析を使用して特徴付けられる。
【0074】
本発明のペプチド免疫原は、チオエーテル結合の形成を通じてハロアセチル化及びシステイン化(cysteinylated)ペプチドを使用して合成し得る。いくつかの実施形態では、システインは、Th含有ペプチドのC末端に付加され得、そしてシステイン残基のチオール基は、Nαクロロアセチル修飾基またはリジン残基のマレイミド誘導体化α-もしくはε-NH2基などの求電子性基への共有結合を形成するために使用され得る。得られた合成中間体は、標的抗原性部位ペプチドのN末端に結合され得る。
【0075】
より長い合成ペプチドコンジュゲートは、核酸クローニング技術を使用して合成してもよい。いくつかの実施形態では、本発明のThエピトープは、組換えDNA及びRNAを発現することによって合成され得る。本発明のTh/標的抗原性部位ペプチドを発現する遺伝子を構築するために、アミノ酸配列を、核酸配列に逆翻訳してもよい。いくつかの実施形態では、アミノ酸配列は、遺伝子が発現される生物のために最適化されたコドンを使用して、核酸配列に逆翻訳される。ペプチドをコードする遺伝子を作ってもよい。いくつかの実施形態では、ペプチドをコードする遺伝子は、ペプチド及び必要な調節エレメントをコードする重複するオリゴヌクレオチドを合成することによって作製され得る。合成遺伝子を組み立てて、所望の発現ベクターに挿入してもよい。
【0076】
本開示の合成核酸配列は、本発明のThエピトープをコードする核酸配列、Thエピトープを含むペプチド、その免疫学的に機能的な相同体、及びペプチドの免疫原性を変化させない非コード配列またはコードされたThエピトープの変化を特徴とする核酸構築物を含み得る。合成遺伝子を適切なクローニングベクターに挿入してもよく、組換え体を取得して特徴付けてもよい。次に、Thエピトープ及びそのThエピトープを含むペプチドは、選択された発現系及び宿主に適切な条件下で発現され得る。Thエピトープまたはペプチドは、精製及び特徴付けされ得る。
【0077】
医薬組成物
本開示はまた、本開示のペプチド免疫原を含む医薬組成物を記載する。いくつかの実施形態では、本開示の医薬組成物は、ペプチド免疫原の投与のための薬学的に許容される送達システムとして使用され得る。いくつかの実施形態では、本開示の医薬組成物は、免疫学的に有効な量の1つ以上のペプチド免疫原を含んでもよい。
【0078】
本発明のペプチド免疫原は、免疫原性組成物として処方され得る。いくつかの実施形態では、免疫原性組成物は、アジュバント、乳化剤、薬学的に許容される担体、またはワクチン組成物で慣用的に提供される他の構成要素を含んでもよい。本発明で使用できるアジュバントまたは乳化剤としては、ミョウバン、不完全フロイントアジュバント(IFA)、リポシン、サポニン、スクアレン、L121、エマルシゲン(emulsigen)、モノホスホリルリピドA(MPL)、ジメチルジオクタデシルアンモニウムブロミド(DDA)、QS21、及びISA720、ISA51、ISA35、ISA206、ならびにその他の有効なアジュバント及び乳化剤が挙げられる。いくつかの実施形態では、本発明の組成物は、即時放出のために処方され得る。いくつかの実施形態では、本発明の組成物は、徐放用に処方されてもよい。
【0079】
医薬組成物に使用されるアジュバントとしては、油、アルミニウム塩、ビロソーム、リン酸アルミニウム(例えば、ADJU-PHOS(登録商標))、水酸化アルミニウム(例えば、ALHYDROGEL(登録商標))、リポシン、サポニン、スクアレン、L121、エマルシゲン(登録商標)、モノホスホリルリピドA(MPL)、QS21、ISA35、ISA206、ISA50V、ISA51、ISA720、ならびに他のアジュバント及び乳化剤が挙げられ得る。
【0080】
いくつかの実施形態では、医薬組成物は、モンタニド(Montanide)(商標)ISA51(油中水型エマルジョンの製造のための植物油及びオレイン酸マンニドからなる油アジュバント組成物)、TWEEN(登録商標)80(別名:ポリソルベート80またはポリオキシエチレン(20))ソルビタンモノオレエート)、CpGオリゴヌクレオチド、及び/またはそれらの任意の組み合わせを含む。他の実施形態では、医薬組成物は、アジュバントとしてエマルシゲンまたはエマルシゲンDを有する水中油中水(すなわち、w/o/w)エマルジョンである。
【0081】
いくつかの実施形態では、組成物は、ワクチンとして使用するために処方される。ワクチン組成物は、皮下、経口、筋肉内、腹腔内、非経口、または経腸投与を含む任意の便利な経路で投与され得る。いくつかの実施形態では、免疫原は、単回投与で投与される。いくつかの実施形態では、免疫原は、複数の用量にわたって投与される。
【0082】
医薬組成物は、液体溶液または懸濁液のいずれかで、注射剤として調製され得る。タウペプチド免疫原構築物を含む液体ビヒクルもまた、注射前に調製され得る。医薬組成物は、任意の適切な適用様式、例えば、i.d.、i.v.、i.p.、i.m.、鼻腔内、経口、皮下などによって、及び任意の適切な送達デバイスで投与され得る。特定の実施形態では、医薬組成物は、静脈内、皮下、皮内、または筋肉内投与のために処方される。経口及び鼻腔内適用を含む、他の投与様式に適した医薬組成物も調製され得る。
【0083】
本発明の組成物は、有効量の1つ以上のペプチド免疫原及び薬学的に許容される担体を含んでもよい。いくつかの実施形態では、適切な単位剤形の組成物は、対象の体重1kgあたり約0.5μg~約1mgのペプチド免疫原を含んでもよい。いくつかの実施形態では、適切な単位剤形の組成物は、対象の体重1kgあたり約10μg、約20μg、約30μg、約40μg、約50μg、約60μg、約70μg、約80μg、約90μg、約100μg、約200μg、約300μg、約400μg、約500μg、約600μg、約700μg、約800μg、約900μg、または約1000μgのペプチド免疫原を含み得る。いくつかの実施形態では、適切な剤形の組成物は、対象の体重1kgあたり約100μg、約150μg、約200μg、約250μg、約300μg、約350μg、約400μg、約450μg、または約500μgのペプチド免疫原を含んでもよい。いくつかの実施形態では、適切な単位剤形の組成物は、対象の体重1kgあたり約0.5μg~約1mgのペプチド免疫原を含んでもよい。いくつかの実施形態では、適切な単位剤形の組成物は、約10μg、約20μg、約30μg、約40μg、約50μg、約60μg、約70μg、約80μg、約90μg、約100μg、約200μg、約300μg、約400μg、約500μg、約600μg、約700μg、約800μg、約900μg、または約1000μgのペプチド免疫原を含み得る。いくつかの実施形態では、適切な剤形の組成物は、約100μg、約150μg、約200μg、約250μg、約300μg、約350μg、約400μg、約450μg、または約500μgというペプチド免疫原を含んでもよい。
【0084】
複数回投与で送達される場合、組成物は、投与ごとに適切な量に分割され得る。いくつかの実施形態では、用量は、約0.2mg~約2.5mgである。いくつかの実施形態では、用量は約1mgである。いくつかの実施形態では、用量は約1mgであり、注射によって投与される。いくつかの実施形態では、用量は約1mgであり、筋肉内に投与される。いくつかの実施形態では、投与の後に、反復(ブースター)用量を続けてもよい。投与量は、対象の年齢、体重、及び一般的な健康状態に応じて最適化され得る。
【0085】
ペプチド免疫原の混合物を含むワクチンは、より広い集団で免疫効率を向上し得る。いくつかの実施形態では、ペプチド免疫原の混合物は、MVF Th及びHBsAg Thに由来するTh部位を含む。いくつかの実施形態では、ペプチド免疫原の混合物を含むワクチンは、標的抗原性部位に対する改善された免疫応答を提供し得る。
【0086】
Th/標的抗原性部位コンジュゲートに対する免疫応答は、生分解性微粒子内またはその上に捕捉されて送達されることにより改善され得る。いくつかの実施形態では、ペプチド免疫原は、アジュバントの有無にかかわらずカプセル化され得、そのような微粒子は、免疫刺激性アジュバントを運搬し得る。いくつかの実施形態では、微粒子は、免疫応答を増強するためにペプチド免疫原と同時投与され得る。
【0087】
免疫刺激複合体
本開示はまた、CpGオリゴヌクレオチドとの免疫刺激複合体の形態でタウペプチド免疫原構築物を含む医薬組成物に関する。例示的なCpGオリゴヌクレオチドを表5に示す。そのような免疫刺激複合体は、アジュバントとして、及びペプチド免疫原安定剤として作用するように特に適合されている。免疫刺激複合体は粒子状であり、タウペプチド免疫原を免疫系の細胞に効率的に提示して免疫応答を生じ得る。免疫刺激複合体は、非経口投与用の懸濁液として処方され得る。免疫刺激複合体はまた、タウペプチド免疫原の非経口投与後の宿主の免疫系の細胞への効率的な送達のために、ミネラル塩と、またはin situのゲル化ポリマーと組み合わせた懸濁液として、w/oエマルジョンの形態で処方され得る。
【0088】
安定化された免疫刺激複合体は、タウペプチド免疫原構築物を、静電会合を介してアニオン性分子、オリゴヌクレオチド、ポリヌクレオチド、またはそれらの組み合わせと複合体化することによって形成され得る。安定化された免疫刺激複合体は、免疫原送達システムとして医薬組成物に組み込まれ得る。
【0089】
特定の実施形態では、タウペプチド免疫原構築物は、5.0から8.0の範囲のpHで正に帯電するカチオン性部分を含むように設計される。タウペプチド免疫原構築物または構築物の混合物のカチオン部分の正味電荷は、各リジン(K)、アルギニン(R)、またはヒスチジン(H)に+1の電荷を割り当て、アスパラギン酸(D)またはグルタミン酸(E)それぞれに-1の電荷、及び配列内の他のアミノ酸に0の電荷を割り当てることによって計算される。電荷は、タウペプチド免疫原構築物のカチオン部分内で合計され、正味平均電荷として表される。適切なペプチド免疫原は、正味平均正電荷が+1のカチオン部分を有する。好ましくは、ペプチド免疫原は、+2よりも大きい範囲の正味の正電荷を有する。いくつかの実施形態では、タウペプチド免疫原構築物のカチオン性部分は、異種スペーサーである。特定の実施形態では、タウペプチド免疫原構築物のカチオン部分は、スペーサー配列が(α、ε-N)Lysまたはε-N-Lys-Lys-Lys-Lys(配列番号53)である場合、+4の電荷を有する。
【0090】
本明細書に記載の「アニオン性分子」は、5.0~8.0の範囲のpHで負に帯電されている任意の分子を指す。特定の実施形態では、アニオン性分子は、オリゴマーまたはポリマーである。オリゴマーまたはポリマーの正味の負電荷は、オリゴマーの各ホスホジエステルまたはホスホロチオエート基に-1の電荷を割り当てることによって計算される。適切なアニオン性オリゴヌクレオチドは、8~64ヌクレオチド塩基を有する一本鎖DNA分子であり、CpGモチーフの反復の数は、1~10の範囲である。好ましくは、CpG免疫刺激性一本鎖DNA分子は、18~48ヌクレオチド塩基を含み、CpGモチーフの繰り返し数が3から8の範囲である。
【0091】
より好ましくは、アニオン性オリゴヌクレオチドは、式:5’X1CGX23’で表され、ここで、C及びGはメチル化されておらず、X1は、A(アデニン)、G(グアニン)、及びT(チミン)からなる群より選択され、X2はC(シトシン)またはT(チミン)である。または、アニオン性オリゴヌクレオチドは、式:5’(X3)2CG(X4)23’で表され、ここで、C及びGはメチル化されておらず、そしてX3は、A、T、またはGからなる群より選択され、X4はCまたはTである。
【0092】
得られる免疫刺激複合体は、通常1~50ミクロンの範囲のサイズの粒子の形態であり、相互作用する種の相対電荷化学量論及び分子量を含む多くの要因の関数である。粒子状免疫刺激複合体には、in vivoでの特定の免疫応答のアジュバント作用及び上方制御を提供するという利点がある。さらに、安定化された免疫刺激複合体は、油中水型エマルジョン、無機塩懸濁液、及びポリマーゲルを含むさまざまなプロセスによる医薬組成物の調製に適している。
【0093】
用途
本発明のペプチドは、医学的及び獣医学的用途において有用であり得る。いくつかの実施形態では、本発明のペプチドは、感染症からの防御免疫を提供するためのワクチン、正常な生理学的プロセスを機能不全にすることから生じる障害を治療するための免疫療法、がんを治療するための免疫療法として、及び正常な生理学的プロセスに介入または改変するための薬剤として使用され得る。
【0094】
本開示の人工Thエピトープは、様々な微生物、タンパク質、またはペプチドの標的B細胞エピトープと組み合わされる場合、免疫応答を誘発し得る。いくつかの実施形態では、本開示の人工Thエピトープは、1つの標的抗原性部位に連結され得る。いくつかの実施形態では、本開示の人工Thエピトープは、2つの標的抗原性部位に連結され得る。
【0095】
本開示の人工Thエピトープは、様々な疾患及び状態を予防及び/または治療するために、標的抗原性部位に連結してもよい。いくつかの実施形態では、本発明の組成物は、神経変性疾患、感染症、動脈硬化症、前立腺癌、イノシシ臭の予防、動物の免疫学的去勢、子宮内膜症の処置、乳癌及び性腺ステロイドホルモンの影響を受けた他の婦人科がんの予防及び/または治療のため、ならびに男性及び女性の避妊のために使用され得る。例えば、人工Thエピトープは、以下のタンパク質の抗原性部位に連結され得る:
a.家畜の成長を促進するソマトスタチン。
b.アレルギー性疾患を治療するためのIgE。
c.ヒト免疫不全ウイルス(HIV)感染症及び免疫障害を治療及び/または予防するためのTh細胞のCD4受容体。
d.FMDを予防するための口蹄疫(FMD)ウイルスキャプシドタンパク質。
e.HIV感染を予防及び治療するためのHIVビリオンエピトープ。
f.マラリアを予防及び治療するための熱帯熱マラリア原虫のスポロゾイト周囲抗原。
g.動脈硬化症を予防及び治療するためのCETP。
h.アルツハイマー病を治療または予防接種するためのAβ。
i.パーキンソン病を治療または予防接種するためのアルファ-シヌクレイン。
j.アルツハイマー病を含むタウオパチーを治療し、それに対してワクチン接種するタウ。
k.アトピー性皮膚炎を治療するためのIL-31。
【0096】
異種の人工Thエピトープの使用は、神経変性疾患に関与するタンパク質(例えば、Aβ、アルファ-シヌクレイン、タウ)を標的とするために特に重要であることがわかっている。具体的には、標的神経変性タンパク質の内因性Thエピトープを含むペプチド免疫原は、対象に投与されたときに脳の炎症を生じ得る。対照的に、神経変性タンパク質の抗原性部位に連結される異種人工Thエピトープを含むペプチド免疫原構築物は、脳の炎症を引き起こさない。
【0097】
アミロイドβ
Aβペプチドは、アルツハイマー病の発症及び進行の要であると考えられている。毒性型のAβオリゴマー及びAβ線維は、アルツハイマー病及び認知症の病状につながるシナプス及びニューロンの死の原因であることが示唆されている。アルツハイマー病の疾患修飾療法の成功には、脳内のAβの性質に影響を与える製品が含まれ得る。
【0098】
本開示のペプチド免疫原は、Th細胞エピトープ及びAβ標的化ペプチドを含み得る。いくつかの実施形態では、Th細胞エピトープは、Th1またはTh2である。いくつかの実施形態では、ペプチド免疫原は、Th1及びTh2を含み得る。Aβ標的ペプチド、またはB細胞エピトープは、Aβ1-14、Aβ1-16、Aβ1-28、Aβ17-42、またはAβ1-42であり得る。いくつかの実施形態では、Aβ標的化ペプチドは、Aβ1-14である。本明細書で使用される場合、用語Aβx-yは、全長の野生型Aβタンパク質のアミノ酸xからアミノ酸yまでのAβ配列を示す。
【0099】
本開示のペプチド免疫原は、複数のAβ標的化ペプチドを含んでもよい。いくつかの実施形態では、ペプチド免疫原は、2つのAβ標的化ペプチドを含んでもよい。いくつかの実施形態では、ペプチド免疫原は、1つのAβ1-14及び1つのAβ1-42ペプチドを含んでもよい。いくつかの実施形態では、ペプチド免疫原は、2つのAβ1-14標的化ペプチドを含んでもよい。いくつかの実施形態では、ペプチド免疫原は、それぞれが、キメラペプチドとして異なるTh細胞エピトープに連結されている、2つのAβ1-14標的化ペプチドを含んでもよい。
【0100】
本開示はまた、それぞれがキメラペプチドとして異なるTh細胞エピトープに連結された2つのAβ1-14標的化ペプチドを含むAβ1-14ペプチドワクチンを提供する。いくつかの実施形態では、キメラAβ1-14ペプチドは、T細胞の炎症反応性を最小化するために、Th1バイアス送達システムにおいて処方され得る。いくつかの実施形態では、キメラAβ1-14ペプチドは、T細胞の炎症反応性を最小化するために、Th2バイアス送達システムにおいて処方され得る。
【0101】
一般
本書で使用されているセクションの見出しは、組織的な目的でしかなく、説明されている主題を制限するものとして解釈されるべきではない。本出願で引用された全ての参考文献または参考文献の一部は、あらゆる目的のために、その全体が参照により本明細書に明示的に組み込まれる。
【0102】
別段の説明がない限り、本明細書で使用される全ての技術用語及び科学用語は、本発明が属する分野の当業者によって一般に理解されるのと同じ意味を有する。単数形の用語「ある、1つの(a:不定冠詞)」、「ある、1つの(an:不定冠詞)an」、及び「この、その(the:定冠詞)」には、文脈で明確に示されていない限り、複数の指示対象が含まれる。同様に、「または」という単語は、文脈が明確に別のことを示さない限り、「及び」を含むものとする。したがって、「AまたはBを含む」とは、AもしくはB、またはA及びBを含むことを意味する。ポリペプチドについて与えられる全てのアミノ酸サイズ、及び全ての分子量または分子量値は概算であり、かつ記述のために提供されることをさらに理解のこと。本明細書に記載されているものと類似または同等の方法及び材料を、開示された方法の実施または試験に使用してもよいが、適切な方法及び材料を以下に説明する。本明細書で言及される全ての刊行物、特許出願、特許、及び他の参考文献は、それらの全体が参照により組み込まれる。矛盾する場合は、用語の説明を含む本発明の明細書が優先される。さらに、材料、方法、及び実施例は例示にすぎず、限定することを意図するものではない。
【実施例0103】
実施例1
ペプチド及びペプチド免疫原構造の調製
ペプチド免疫原構築物を含むペプチドを、自動固相合成を使用して合成し、分取HPLCで精製し、マトリックス支援レーザー脱離イオン化飛行時間型(MALDI-TOF)質量分析、アミノ酸分析、及び逆相HPLCによって特徴付けた。
【0104】
Aβワクチン(UB-311)は、2つのペプチド免疫原を含み、それぞれがN末端Aβ1-14ペプチドを有し、アミノ酸スペーサーを通じて2つの病原体タンパク質(B型肝炎表面抗原及び麻疹ウイルス融合タンパク質)に由来する異なるTh細胞エピトープペプチド(UBITh(登録商標)エピトープ)に合成的に連結されている。具体的には、麻疹ウイルス融合タンパク質に連結されたペプチド免疫原は、Aβ1-14-εK-KKK-MvF5Th(配列番号67)であり、B型肝炎表面抗原に結合したペプチド免疫原は、Aβ1-14-εK-HBsAg3Thであった(配列番号68)。
【0105】
UB-311は、ミョウバンを含むTh2バイアス送達システムで処方され、ペプチドAβ1-14-εK-HBsAg3及びAβ1-14-εK-KKK-MvF5Thを等モル比で含んでいた。2つのAβ免疫原を、ポリアニオン性CpGオリゴデオキシヌクレオチド(ODN)と混合して、ミクロンサイズの粒子の安定した免疫刺激複合体を形成した。アルミニウムミネラル塩(ADJU-PHOS(登録商標))を、張性のための塩化ナトリウム及び防腐剤としての0.25%2-フェノキシエタノールとともに最終配合物に加えた。
【0106】
いくつかの例示的な標的抗原性部位(B細胞エピトープ)の配列を表3に示す。Thエピトープに共有結合した標的抗原性部位としてAβ1-14を含むいくつかの例示的なペプチド免疫原構築物の配列を表4に示す。
【0107】
実施例2
ThエピトープではなくAβペプチドを標的とするモルモットにおけるペプチド免疫原性構築物の排他的免疫原性
6匹のモルモットを0週目と4週目に、等モル比で一緒に処方されたペプチド免疫原構築物Aβ1-14-εK-KKK-MvF5(配列番号67)及びAβ1-14-εK-HBsAg3(配列番号68)で免疫した。8週目に、動物から採血し、血清試料を収集して、ELISA試験により抗Aβペプチド及び抗Thエピトープ抗体価(log10)を決定した。表6に示すように、6匹全てのモルモットの抗体反応は、Aβ1-42ペプチドを特異的に標的とし、2つの人工Thエピトープ(MvF5Th及びHBsAg3Th)は標的としなかった。
【0108】
実施例3
ヒヒ及びカニクイザル(macaque)の末梢血単核細胞(PBMC)培養物における細胞性免疫反応
ヒヒ及びカニクイザル(Cynomolgus macaque)由来の末梢血単核細胞(PBMC)は、Ficoll-hypaque勾配遠心分離によって単離した。ペプチド誘導増殖及びサイトカイン産生のために、細胞(1ウェルあたり2×105個)を単独で、または個々のペプチドドメイン(Aβ1-14、Aβ1-42、UBITh(登録商標)、及び関連性のないペプチドを含む)を加えて培養した。マイトジェン(PHA、PWM、Con A)を陽性対照として使用した(培養液1%v/vで10μg/mL)。6日目に、1μCiの3H-チミジン(3H-TdR)を、3つの複製培養ウェルのそれぞれに添加した。18時間のインキュベーション後、細胞を回収し、3H-TdRの取り込みを測定した。刺激指数(S.I.)は、抗原の存在下でのcpmを抗原の非存在下でのcpmで割ったものを表す。S.I.>3.0は有意であると見なされた。
【0109】
カニクイザルPBMC培養物からのサイトカイン分析(IL2、IL6、IL10、IL13、TNFα、IFNγ)は、培養液のアリコートのみで、またはペプチドドメインもしくはマイトジェンの存在下で実施した。サル特異的サイトカインサンドイッチELISAキット(U-CyTech Biosciences, Utrecht, The Netherlands)を使用して、キットの指示に従って個々のサイトカインの濃度を決定した。
【0110】
PBMCは、15、21、及び25.5週目にカニクイザル(macaque)から収集された全血から単離された。単離されたPBMCは、さまざまなAβペプチド(Aβ1-14及びAβ1-42)の存在下で培養された。
【0111】
Aβ1-14ペプチドを培養培地に添加した場合、リンパ球による増殖反応は観察されなかった。しかし、Aβ1-42ペプチドをPBMC培養物に添加すると、陽性の増殖反応が見られた。
【0112】
15、21、及び25.5週に収集されたPBMC試料を、AβペプチドまたはPHAマイトジェンの存在下でのサイトカイン分泌についても試験した。表7に示すように、3つのサイトカイン(IL2、IL6、TNFα)は、全長のAβ1-42ペプチドに応答して検出可能な分泌を示したが、Aβ1-14ペプチドには応答しなかった。プラセボワクチン試料と比較した場合、UBITh(登録商標)ADワクチン処理試料ではサイトカイン分泌の上方制御は検出されなかった。Aβペプチドの存在下で試験された他の3つのサイトカイン(IL-10、IL-13、IFNγ)は、全てのPBMC培養中でアッセイ検出限界を下回った。
【0113】
カニクイザル(macaque)は、Aβ17-42ペプチドドメインを含まない、外来Tヘルパーエピトープを有するN末端Aβ1-14ペプチド免疫原のみを有するUB-311ワクチンで免疫され、Aβ1-42ペプチドの存在下でのPBMC培養物で注目される陽性増殖結果は、UB-311ワクチンの反応とは関係がなく、ネイティブAβに対するバックグラウンドの反応であったことが示されている。
【0114】
これらの結果、Aβ1-14と外来Tヘルパーエピトープのみを含むUB-311ワクチンの安全性を裏付けており、正常なカニクイザル(macaque)のAβペプチドに対する潜在的に炎症性の抗自己細胞性免疫応答を生成しないことが示されている。対照的に、AN-1792ワクチンの臨床試験研究における脳炎に関連する有害事象は、そのワクチンの原線維/凝集Aβ1-42免疫原内にT細胞エピトープが含まれていることに一部起因していた。
【0115】
実施例4
リンパ球増殖分析及びサイトカイン分析
アルツハイマー病患者由来の末梢血単核細胞(PBMC)は、Ficoll-hypaque勾配遠心分離によって単離した。ペプチド誘導増殖及びサイトカイン産生のために、細胞(1ウェルあたり2.5×105)を、三重で単独で培養するか、またはAβ1-14(配列番号56)、Aβ1-16(配列番号57)、Aβ1-28(配列番号59)、Aβ17-42(配列番号58)、Aβ1-42(配列番号60)及び非関連38-merペプチド(p1412)を含む個々のペプチドドメインを追加して(最終濃度10μg/mLで)培養した。培養物を37℃で5%CO2とともに72時間インキュベートした後、100μLの上清を各ウェルから取り出し、サイトカイン分析のために-70℃で凍結した。0.5μCiの3H-チミジン(3H-TdR、Amersham、カタログ番号TRK637)を含む10μLの培養培地を各ウェルに添加し、18時間インキュベートした後、液体シンチレーションカウンティングによって放射性同位元素の取り込みを検出した。マイトジェンフィトヘマグルチニン(PHA)を、リンパ球増殖の陽性対照として使用した。AβペプチドまたはPHAマイトジェンなしで単独で培養された細胞を、陰性及び陽性対照として使用した。刺激指数(SI)は、Aβペプチドを用いた3回の実験培養の1分あたりの平均カウント(cpm)を3回の陰性対照培養の平均cpmで割ったものとして計算された。SI>3.0は、有意な増殖反応と見なされた。
【0116】
a.増殖分析
末梢血単核細胞試料は、0週目(ベースライン)及び16週目(3回目の投与から4週間後)に収集された全血から単離され、次いで、さまざまなAβペプチドの有無の下で培養した。表8に示すように、Aβ1-14、他のAβペプチド、またはp1412(関連性のない対照ペプチド)を培養培地に添加した場合、リンパ球による有意な増殖反応は観察されなかった。予想どおり、PHAマイトジェンを培養培地に添加すると陽性の増殖反応が認められた。UB 311免疫の前後のPHAに対する同様の反応の観察(p=0.87)では、研究対象の免疫機能に有意な変化がないことが示唆される(表8)。
【0117】
統計分析。0週目と16週目のリンパ球増殖の相違を、対応のあるt検定で調べた。統計的有意水準は、両側検定によって決定された(p<0.05)。Rバージョン2.14.1は、全ての統計分析に使用された。
【0118】
b.サイトカイン分析
PBMC培養物からのサイトカイン分析(IL-2、IL-6、IL-10、TNF-α、IFN-γ)は、細胞のみを含むか、またはAβペプチドドメインもしくはPHAの存在下で、培養培地のアリコートで実施された。ヒト特異的サイトカインサンドイッチELISAキット(U-CyTech Biosciences, Utrecht, The Netherlands)を使用して、製造元の指示(Clin Diag Lab Immunol. 5(1): 78-81(1998))に従って個々のサイトカインの濃度(pg/mL)を決定した。
【0119】
0週目と16週目に収集されたPBMC試料は、細胞のみ(陰性対照)またはAβペプチド、p1412(関連性のないペプチド)もしくはPHAマイトジェン(陽性対照)の存在下で3日間培養した後、サイトカイン分泌についても試験された。キットの定量範囲は5~320pg/mLである。5pg/mL未満または320pg/mLを超える任意の測定濃度は、それぞれ定量限界未満(BQL)または定量限界超(AQL)として示された。ただし、統計上の考慮事項として、BQLまたはAQLは、それぞれ定量可能な下限(5pg/mL)または上限(320pg/mL)に置き換えられた。0週目と16週目の各サイトカインの平均濃度を表9に示す。予想どおり、IL-2を除いて、陽性対照であるPHAの存在下でサイトカイン産生が有意に増加した。Aβ1-14または他のAβペプチドによる刺激に応答したサイトカインの産生は、ベースライン(0週目)及び16週目に観察されたが、ほとんどの値は対応する陰性対照(細胞のみ)と同様に見えた。
【0120】
免疫後の細胞性免疫応答の変化を評価するために、ベースラインから16週までの平均サイトカイン濃度の変化を、陰性対照の変化と比較し、対応のあるウィルコクソンの符号付き順位検定で調べた。4つのサイトカイン(IFN-γ、IL-6、IL-10、TNF-α)は、全長のAβ1-42ペプチドに応答して分泌の顕著な増大を示した。この観察結果は、Aβ1-42凝集体の立体配座エピトープに起因し得る。サイトカイン分泌の上方制御は、Aβ1-14または他のAβペプチドでは検出されなかった。
【0121】
c.概要
UB-311ワクチンには、それぞれMvF5Th及びHBsAg3Thエピトープに合成的に結合したN末端Aβ1-14ペプチドを有する2つのペプチド免疫原が含まれている。細胞性免疫応答に対するUB-311ワクチンの免疫化の影響を評価するために、in vitroのリンパ球増殖及びサイトカイン分析を使用した。表8に示すように、Aβ1-14ペプチドまたは任意の他のAβペプチドを培養培地に添加した場合、リンパ球による増殖反応は観察されなかった。UB-311ワクチン免疫患者のリンパ球によるサイトカイン分泌の上方制御は、治療前の0週目のレベルで比較した場合(表9)、16週目のUB-311免疫後に4つのサイトカイン(IFN-γ、IL-6、IL-10、TNF-α)のかなりの増加を誘発した、Aβ1-14及びAβ1-42を除く他のAβペプチドによる治療時には検出されなかった。Th2型のT細胞応答によるサイトカイン放出の増大は、Aβ1-14のみでは上方制御が検出されないため、UB-311ワクチン応答とは無関係である可能性が高い。Aβ1-42に対する応答は、Aβ1-42で同定されたネイティブTヘルパーエピトープに関連している可能性のあるネイティブAβに対するバックグラウンド応答であると疑われている。PHAに応答したIL-2産生の欠如が観察され、これは、正常なヒトPBMCと同様の実験条件下、Katial RK, et al. Clin Diagn Lab Immunol 1998; 5: 78-81によって報告される知見と一致している。結論として、これらの結果は、UB-311ワクチンが、第I相臨床試験に参加した軽度から中等度のアルツハイマー病患者において潜在的に炎症性の抗自己細胞性免疫応答を生成しなかったことを示し、したがって、UB-311ワクチンの安全性をさらに実証している。
【0122】
実施例5
無差別な人工Th応答性細胞は、陰性対照と比較した場合、中程度の免疫原性炎症反応を伴う正常な献血者のナイーブ末梢血単核細胞(PMBC)で検出され得る
ELISpotアッセイを使用して、正常な献血者のナイーブ末梢血単核細胞の無差別人工Th応答細胞を検出し、強力なマイトジェンであるフィトヘマグルチニン(PHA)及び陰性対照と比較した場合の炎症反応を誘発する効力を評価した。
【0123】
ELISpotアッセイは、サンドイッチ酵素結合免疫吸着測定法(ELISA)技術を採用している。T細胞の活性化を検出するために、IFN-γまたは関連するサイトカインが分析物として検出された。選択した分析物に特異的なモノクローナル抗体またはポリクローナル抗体のいずれかを、PVDF(ポリフッ化ビニリデン)で裏打ちされたマイクロプレートにプレコートした。適切に刺激された細胞を、ピペットでウェルに入れ、マイクロプレートを加湿した37℃のCO2インキュベーターに指定された時間入れた。このインキュベーション期間中、分泌細胞のすぐ近くにある固定化抗体は、分泌された分析物に結合した。細胞と未結合物質を洗い流した後、選択した分析物に特異的なビオチン化ポリクローナル抗体をウェルに添加した。未結合のビオチン化抗体を除去するために洗浄した後、ストレプトアビジンに結合したアルカリホスファターゼを添加した。続いて、未結合の酵素を洗浄により除去し、基質溶液(BCIP/NBT)を加えた。青黒色の沈殿物が形成され、サイトカイン局在化の部位にスポットとして現れ、各々の個々のスポットは個々の分析物分泌細胞を表す。スポットは、自動化されたELISpotリーダーシステムを使用して、または実体顕微鏡を使用して手動でカウントした。
【0124】
実施されたin vitro研究では、10μg/mL培養のPHAを陽性対照として使用した。UBITh(登録商標)1(配列番号17)及びUBITh(登録商標)5(配列番号6)ペプチドを、通常の正常な献血者の末梢血単核細胞に存在する応答性細胞の数について試験した。配列番号33~52を有する無差別な人工Thエピトープペプチドの混合物を、別の陽性対照として調製した。標準的なT細胞刺激細胞培養条件では、培地のみを陰性対照として使用した。簡単に説明すると、マイトジェン(10μg/mLのPHA)またはTh抗原(UBITh(登録商標)1、UBITh(登録商標)5、または10μg/mLのmulti-Thの混合物)で刺激した100μL/ウェルのPBMC(2x105細胞)を、37℃で、CO2インキュベーター中で48時間、インキュベートした。ウェル/プレート由来の上清を収集した。プレート上の細胞を洗浄し、標的分析物であるIFN-γの検出のために処理した。
【0125】
図1に示すように、代表的なドナー1、2、及び3を、無差別な人工UBITh(登録商標)1またはUBITh(登録商標)5エピトープペプチドに対する応答性細胞について試験した。圧倒的なIFN-γELISPOT数は、常にナイーブドナー(PHAで培養されたPBMC;数えるには多すぎる)で検出されたが、対照培地で培養されたPBMCは、5~50のバックグラウンドIFN-γ ELISPOT数を示した。中程度のELISPOT数が、UBITh(登録商標)1またはUBITh(登録商標)5で20~約120まで培養されたナイーブなドナーPBMCについて検出された。配列番号33-52のマルチThペプチドの混合物もナイーブなドナーPBMCで培養され、ELISPOT数と比較して、予想どおり、20~約300になる。UBITh(登録商標)1またはUBITh(登録商標)5ペプチドによって引き起こされるこのような刺激反応は、陰性対照と比較して約3~5倍である。
【0126】
要約すると、無差別な人工Th応答性細胞は、免疫応答を開始して、シグネチャーサイトカインを分泌することによってB細胞抗体産生及び対応するエフェクターT細胞応答を助ける準備ができているナイーブドナーPBMCで容易に検出され得る。ここでは、IFN-γを1つの例として使用して、これらのThエピトープペプチドのこの刺激性を説明した。しかしながら、そのような刺激性炎症反応は、ワクチン接種プロセス中に有害な炎症性病態生理学的反応を引き起こさないように、適切なエフェクター細胞反応(抗体産生のためのB細胞、標的抗原細胞の殺傷のための細胞傷害性T細胞)を開始するのに十分穏やかである。
【0127】
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