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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024095808
(43)【公開日】2024-07-10
(54)【発明の名称】呼吸空気浄化器具
(51)【国際特許分類】
   A62B 18/02 20060101AFI20240703BHJP
【FI】
A62B18/02 A
【審査請求】有
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024065047
(22)【出願日】2024-04-13
(62)【分割の表示】P 2020177304の分割
【原出願日】2020-10-22
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.BLUETOOTH
(71)【出願人】
【識別番号】709003492
【氏名又は名称】特定非営利活動法人e自警ネットワーク研究会
(72)【発明者】
【氏名】藤井 雄作
(72)【発明者】
【氏名】橋本 誠司
(72)【発明者】
【氏名】田北 啓洋
【テーマコード(参考)】
2E185
【Fターム(参考)】
2E185AA05
2E185CA03
2E185CB07
2E185CB09
2E185DA02
2E185DA12
(57)【要約】
【課題】
呼吸空気浄化器具のヘルメット内の呼気に含まれる二酸化炭素を,効率良く排出し,二酸化炭素の滞留を低減することを課題とする.
【解決手段】
ポンプ給気機能付きマスクにおいて,装着の呼吸に合わせて,呼気時には流入量目標値・設定値を小さく,および/または,内圧目標量を小さくし,吸気時には流入量目標値を大きく,および/または,内圧目標値・設定値を大きくすることを特徴とする,呼吸空気浄化器具とする.
【選択図】図3



【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポンプ給気機能付きマスクにおいて,装着の呼吸に合わせて,呼気時には流入量目標値を小さく,および/または,内圧目標値を小さくし,吸気時には流入量目標値を大きく,および/または,内圧目標値を大きくすることを特徴とする,呼吸空気浄化器具.
【請求項2】
給気ポンプ一つとヘルメット装着の流量センサ,圧力センサ,CO2センサを用いた制御により,流量,圧力,CO2濃度の設定条件を満たすことを特徴とする,ポンプ給気機能付き呼吸空気浄化器具.
【請求項3】
ポンプの流量Qが印加電圧Vと外部と内部の差圧Pの関数Q(V,P)となることを利用し,流量センサを用いずにその推定値により流量,圧力,CO2濃度の設定条件を満たすことを特徴とする,請求項2に記載のポンプ給気機能付き呼吸空気浄化器具.
【請求項4】
CO2濃度が設定値を超えた場合,流量の設定値を上げ,かつ警報(音,光など)を出すことを特徴とする,呼吸空気浄化器具.
【請求項5】
非常時に装置表面のつまみを引くことにより呼吸のための開口を開くことを特徴とする,請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の呼吸空気浄化器具.
【請求項6】
非常時に口付近の排気フィルタのつまみを引くことにより呼吸のための開口を開くことを特徴とする,請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の呼吸空気浄化器具.
【請求項7】
非常時に自動的に呼吸のための開口を開くことを特徴とする,請求項1から請求項6のいずれか1項に記載の呼吸空気浄化器具.
【請求項8】
内部にマイク及び/またはスピーカと,外部にマイク及び/またはスピーカを持ち,呼吸空気浄化器具外部の音を装着者に聞こえやすくし,及び/または,装着者の音声を外部に拡声して伝える事を特徴とする,請求項1から請求項7のいずれか1項に記載の呼吸空気浄化器具.
【請求項9】
マイクおよびスピーカを持ち,他の感染防護器具と無線通信により音声データを送受信して会話する機能を持ち,通話対象及び範囲を設定可能で,通話状況を視覚的に表示する機能を持つ事を特徴とする,請求項1から請求項8のいずれか1項に記載の呼吸空気浄化器具.
【請求項10】
GPSにより位置を,磁気センサにより方位を測定し,位置,発信者の向き,声の大きさに応じて音声の伝達範囲を自動的に設定する事を特徴とする,請求項9に記載の呼吸空気浄化器具.
【請求項11】
センサ(マイク,圧力センサ,流量センサ,二酸化炭素センサおよび脳波センサ)を用いて,装着者の健康状態をモニタする事を特徴とする,請求項1から請求項10のいずれか1項に記載の呼吸空気浄化器具.
【請求項12】
感染防護器具内部にあるセンサ(マイク,圧力センサ,流量センサ,二酸化炭素センサおよび脳波センサ)を用いて装着者の健康状態をモニタし,アロマディフューザとスピーカを用いて状況に合わせた香りと環境音を発生させる事を特徴とする,請求項1から請求項11のいずれか1項に記載の呼吸空気浄化器具.
【請求項13】
オゾン発生装置を有し,器具内部の殺菌消臭を行うことを特徴とする,請求項1から請求項12のいずれか1項に記載の呼吸空気浄化器具.


【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は,マスク装着状況や他者との接触状況の管理方法,および,管理システムに関するものである.より具体的には,「呼吸空気浄化器具」の機種,微粒子や飛沫やウイルス等の遮蔽率,装着の有無などの装着状態を,時刻や位置情報などと共に,記録装置に記録することを特徴とする,呼吸空気浄化器具装着状況の記録・管理システムに関するものである.ここで,「呼吸空気浄化器具」とは,マスクなど,呼吸する空気の浄化を行う器具である.詳しく説明すると,吸気(体内に吸い込まれる空気)をフィルタ,ウイルス死滅装置等を通して浄化したのちに器具の中に導入する機能,および/または,呼気(体内から吐き出される空気)をフィルタ,ウイルス死滅装置等を通して浄化したのちに,器具の外に排出する機能,を有する器具である.「呼吸空気浄化器具」としては,「不織布フィルタを用いる一般のマスク」,「医療用マスク」,「ポンプ給気機能付きマスク」,「自由外出マスク(Distancing-Free Mask)」,「フェイスシールド」,「感染防護服」などが挙げられる.「ポンプ給気機能付きマスク」が挙げられる.「ポンプ給気機能付きマスク」の一形態であり,圧力と流量を制御することを特徴とする「自由外出マスク(Distancing-Free Mask)」についての詳しい説明は,後述している.「給気」と「排気」をまとめて表す用語として,「給排気」を使う.また,後述の説明では, 「自由外出マスク」を含む「呼吸空気浄化器具」を,簡略化のために,単に「マスク」と称することがある.
【背景技術】
【0002】
発明者らは,ウイルスの侵入,漏洩をほぼ完全に遮蔽でき,既存の技術で製作可能なマスク「自由外出マスク(Distancing-Free Mask)」を提案している.(特許文献1,参考文献1)これが開発され,全国民に配布されれば,ロックダウンは不要となる.「自由外出マスク装着者」は,抗体保有者と同様に,マスク装着者がウイルスに感染することもなければ,他者にウイルスを感染させることもない.当初の予測が外れ,感染拡大の歯止めが利かなくなった場合でも,「自由外出マスク」を全国民一斉装着すれば,速やかに,簡単・確実に感染収束となる.すなわち,「自由外出マスクを市民一人一人に持たせること」は,ロックダウン無しで,「感染拡大・収束を迅速・確実に制御する手段」を持つことを意味する.
【0003】
【特許文献1】特願2020-113097[参考文献] 藤井雄作,田北啓洋,橋本誠司,“ウイルスをほぼ完全に遮蔽できるマスクの開発,および,ロックダウンを不要化する社会基盤の提案”, 社会安全とプライバシー, Vol.4, No.1, pp.6-10, 2020.
【0004】
現在,コロナ感染症(COVID-19)により,世界全体が,「新しい生活様式」と「ロックダウン(=外出自粛,営業自粛を含む,行動規制,経済規制)」を併用した対策を取っているが,突然変異を繰り返すコロナウイルス(SARS-CoV2)に対するワクチン,治療法の迅速な開発・普及の目途が立たない中,ロックダウン断続状態から脱却する目途は,立っていない.
【0005】
「自由外出マスク」を各国民に一人一台ずつ配布することは,いつでも,簡単・確実に感染を収束させる「決め手」を持つことを意味する.また,最悪な感染拡大状況下でも,「自由外出マスク」を着用さえすれば,外出は自由にできるので,あらゆる業種において,各事業者は,「状況により,自由外出マスク着用義務付けが有り得る」を想定し,対策を用意しておけば,事業の停止をする必要は無くなる.
【0006】
ウイルスの侵入,漏洩をほぼ完全に遮蔽するマスクとして,「自由外出マスク」を提案する.「自由外出マスク」は,様々な形態が考えられるが,最も,簡単に実現できる形態として,気密ヘルメット部と,清浄化された空気の給気,排気を行う機械部が納められたウエストパック部からなる形態を提案する.「自由外出マスク」の基本的な仕様は,以下の3点である.
【0007】
[1] 気密ヘルメット内を,僅かな陽圧に制御することにより,首のシール部からの外気侵入を完全遮断でき,ウイルスの侵入は完全遮蔽できる.ウイルスの外部漏洩は,首シール部の気密程度に依存するが,高いレベルで抑止できる.
【0008】
[2] 一定流量に制御された吸気により,ヘルメット内に,常に新鮮な空気の流れを作る.これにより,肺へ余分な負荷を加えることなく,新鮮な空気を呼吸することができる.
【0009】
[3] ウエストパック部に納めたポンプによる強制給気,強制排気により,流れ抵抗が非常に大きな高性能フィルタを挿入することができる.これにより,通常の不織布マスク着用時のような息苦しさが無い状態を作ることができる.さらに,ウイルス侵入・漏洩の遮蔽をより高いレベルで100%に近づけたい場合は,ウイルス死滅装置(紫外線照射器,プラズマクラスター発生器など)を挿入することが好適である.また,快適性の向上のため,温湿度調整装置,空気組成調整器(酸素濃縮器,二酸化炭素吸着器,など)を挿入することもできる.
【0010】
機械部の小型軽量化により,ウエストパック部は,ヘルメット部と一体化することもできる.ヘルメット部は,柔らかいフィルム素材で作ることが好適である.現在の科学技術をもってすれば,上記のような機能を有する「自由外出マスク」の開発・大量生産は容易であろう.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
上記のように,かなり凶悪なウイルスの場合でも,遮蔽率100%の「呼吸空気浄化器具」を常時(100%)装着しなくてはならない状況は,ほとんど有り得ない.多くの場合,社会全体として感染を収束させる上では,市民一人一人が,ある一定の装着率で「呼吸空気浄化器具」を装着すれば,それ以外の場面では,「呼吸空気浄化器具」をする必要性は無い.市民一人一人が,感染を収束させるために義務付けられる「呼吸空気浄化器具」の装着率の達成を知るためには,装着率の計測・記録が必要となる.同様に,市民一人一人が,感染を収束させるために義務付けられる「呼吸空気浄化器具」の装着率の達成した上で,装着せずに行動する自由を得るためには,装着率の計測・記録が必要となる.このように,社会全体として感染を収束させつつ,同時に,市民一人一人に最大限の自由を保障するためには,各人の装着率の計測・記録が必要となる.本発明は,自身,および/または,自身の周りの他者について,「呼吸空気浄化器具」の装着状態を記録する装置を提供することを課題とする.
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成するために,「呼吸空気浄化器具」の微粒子・飛沫・ウイルス等の遮蔽率,装着の有無などの装着状態を,時刻と共に,記録装置に記録することを特徴とする,呼吸空気浄化器具装着状況の記録・管理システムとしてもよい.
「呼吸空気浄化器具」が「ポンプ給気機能付きマスク」であることを特徴とする,請求項1に記載の呼吸空気浄化器具装着状況の記録・管理システムとしてもよい.
【0013】
「呼吸空気浄化器具」が「スマートフォン」と通信を行い,「スマートフォン」のソフトウェアにより「呼吸空気浄化器具」の装着状態を,時刻と共に記録することを特徴とする,呼吸空気浄化器具装着状況の記録・管理システムとしてもよい.
【0014】
「呼吸空気浄化器具」の漏れ率などの装着状態を,ヘルメット内の内圧,および/または,ポンプ出力から推定することを特徴とする,呼吸空気浄化器具装着状況の記録・管理システムとしてもよい.
【0015】
近隣の他者の存在,および/または,近隣の他者との距離,および/または,近隣の他者の「呼吸空気浄化器具」の装着状態を,ブルートゥースなどの無線通信手段で検知し,記録することを特徴とする,呼吸空気浄化器具装着状況の記録・管理システムとしてもよい.ブルートゥースは登録商標であるが,広く利活用されており,本発明の説明においても,好適な通信手段の一つとして挙げる必要がある.
【0016】
近隣の他者の存在,および/または,近隣の他者との距離,および/または,近隣の他者の「呼吸空気浄化器具」の装着状態を,通常のカメラや赤外線カメラなどで撮影されたカメラ画像を画像解析することで検知し,記録することを特徴とする,呼吸空気浄化器具装着状況の記録・管理システムとしてもよい.
【0017】
ウイルスの遮蔽率を,「呼吸空気浄化器具」の外部から内部への侵入に対する遮蔽率と,「呼吸空気浄化器具」の内部から外部への漏洩に対する遮蔽率とに分離して取り扱うことを特徴とする,呼吸空気浄化器具装着状況の記録・管理システムとしてもよい.
【0018】
請求項1に関わる発明は,ポンプ給気機能付きマスクにおいて,装着の呼吸に合わせて,呼気時には流入量目標値を小さく,および/または,内圧目標値を小さくし,吸気時には流入量目標値を大きく,および/または,内圧目標値を大きくすることを特徴とする,呼吸空気浄化器具である.
【0019】
請求項2に関わる発明は,給気ポンプ一つとヘルメット装着の流量センサ,圧力センサ,CO2センサを用いた制御により,流量,圧力,CO2濃度の設定条件を満たすことを特徴とする,ポンプ給気機能付き呼吸空気浄化器具である.
【0020】
請求項3に関わる発明は,ポンプの流量Qが印加電圧Vと外部と内部の差圧Pの関数Q(V,P)となることを利用し,流量センサを用いずにその推定値により流量,圧力,CO2濃度の設定条件を満たすことを特徴とする,請求項2に記載のポンプ給気機能付き呼吸空気浄化器具である.
【0021】
請求項4に関わる発明は,CO2濃度が設定値を超えた場合,流量の設定値を上げ,かつ警報(音,光など)を出すことを特徴とする,呼吸空気浄化器具である.
【0022】
請求項5に関わる発明は,非常時に装置表面のつまみを引くことにより呼吸のための開口を開くことを特徴とする,請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の呼吸空気浄化器具である.
【0023】
請求項6に関わる発明は,非常時に口付近の排気フィルタのつまみを引くことにより呼吸のための開口を開くことを特徴とする,請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の呼吸空気浄化器具である.
【0024】
請求項7に関わる発明は,非常時に自動的に呼吸のための開口を開くことを特徴とする,請求項1から請求項6のいずれか1項に記載の呼吸空気浄化器具である.
【0025】
周囲の他者の装着している感染防護器具装着状況の記録・管理システムと通信し,周囲の人のマスク着用状況と感染予防指数を表示することを特徴とする,呼吸空気浄化器具装着状況の記録・管理システムとしてもよい.
【0026】
感染者の移動経路をサーバに問合せ,表示装置内の地図や装着者の視野に感染の危険度を色分けして表示することを特徴とする,呼吸空気浄化器具装着状況の記録・管理システムとしてもよい.
【0027】
感染防護器具のカメラを利用して,周囲の映像と音声を記録し,後に再生する機能と,再生権は装着者本人のみが所有し,警察等の捜査依頼に関して一時的に再生権を委譲できることを特徴とする,呼吸空気浄化器具装着状況の記録・管理システムとしてもよい.
【0028】
スマートフォンのアプリを用いて感染防護器具を装着した写真を撮影することにより,画像解析にて装着されている感染防護器具の種類を判定する機能を有し,さらに複数の角度から撮影された写真から装着方法の正誤を判定し,正しい装着方法を教示する機能を有する事を特徴とする,呼吸空気浄化器具装着状況の記録・管理システムとしてもよい.
【0029】
請求項8に関わる発明は,内部にマイク及び/またはスピーカと,外部にマイク及び/またはスピーカを持ち,呼吸空気浄化器具外部の音を装着者に聞こえやすくし,及び/または,装着者の音声を外部に拡声して伝える事を特徴とする,請求項1から請求項7のいずれか1項に記載の呼吸空気浄化器具である.
【0030】
請求項9に関わる発明は,マイクおよびスピーカを持ち,他の感染防護器具と無線通信により音声データを送受信して会話する機能を持ち,通話対象及び範囲を設定可能で,通話状況を視覚的に表示する機能を持つ事を特徴とする,請求項1から請求項8のいずれか1項に記載の呼吸空気浄化器具である.
【0031】
請求項10に関わる発明は,GPSにより位置を,磁気センサにより方位を測定し,位置,発信者の向き,声の大きさに応じて音声の伝達範囲を自動的に設定する事を特徴とする,請求項9に記載の呼吸空気浄化器具である.
【0032】
請求項11に関わる発明は,センサ(マイク,圧力センサ,流量センサ,二酸化炭素センサおよび脳波センサ)を用いて,装着者の健康状態をモニタする事を特徴とする,請求項1から請求項10のいずれか1項に記載の呼吸空気浄化器具である.
【0033】
請求項12に関わる発明は,感染防護器具内部にあるセンサ(マイク,圧力センサ,流量センサ,二酸化炭素センサおよび脳波センサ)を用いて装着者の健康状態をモニタし,アロマディフューザとスピーカを用いて状況に合わせた香りと環境音を発生させる事を特徴とする,請求項1から請求項11のいずれか1項に記載の呼吸空気浄化器具である.
【0034】
請求項13に関わる発明は,オゾン発生装置を有し,器具内部の殺菌消臭を行うことを特徴とする,請求項1から請求項12のいずれか1項に記載の呼吸空気浄化器具である.
【発明の効果】
【0035】
以下に,「自由外出マスク」などの「呼吸空気浄化器具」による“疑似”集団免疫の獲得について,説明する.
【0036】
基本再生産数R0は,感染症に感染した1人の感染者が,誰も免疫を持たない集団(社会)に加わったとき,感染期間中に直接感染させる平均人数として定義される.定義から,“周りに感染者が殆どいない状態”においては,当該集団(社会)についてR0=1なら定常状態,R0<1なら収束,R0>1なら拡大,ということになる.R0は,ウイルスの性質だけでなく,当該集団の性質(人種的体質,状態,公衆衛生の状態,各人の健康状態,など)にも依存する.公衆衛生を向上させることにより,あらゆるウイルスに対してR0を低減できる.
【0037】
基本再生産数R0は,模式的に次式で表せる.
R0 = β× k × D
β:一回の接触当たりの感染確率
k:単位時間あたりに一人の人間が集団内で他者(=未感染者)と接触する平均回数
D:平均感染期間
【0038】
すなわち,基本再生産数R0を低減する上では,以下が有効.
βの低減: 個人免疫力の向上,マスク着用,手洗い励行,社会的距離の確保.
kの低減: 在宅勤務・在宅学習の導入,営業規制,外出規制.
「新しい生活様式」は,β,kを低減させた状態,「ロックダウン」はkを極端に低減させた状態,と言える.
【0039】
「呼吸空気浄化器具」着用者の割合Wrにより,基本再生産数R0は修正され,修正基本再生産数R0mとなる.
【0040】
未感染者がWrの割合で「呼吸空気浄化器具」を装着すると,感染し難くなる未感染者の割合がWrとなり,感染し易いままの未感染者の割合は(1-Wr)となる.「呼吸空気浄化器具」のウイルス遮蔽率をSrとしたとき,マスク装着者の感染確率は,マスク非着用者のそれの(1-Sr)倍になると考えられる.以上より,近似的に以下の関係式が導かれる.
R0m = [(1-Wr)+Wr(1-Sr)]R0
=(1-WrSr)R0
Wr = [1-R0m/R0] /Sr
例: R0=5のときに, R0m=1 とするのに必要な「呼吸空気浄化器具(Sr=1)」着用者の割合は,Wr =1-1/5=0.8 (80%)となる.これにより,感染拡大は止まり,定常状態に落ち着くことになる.なお,上記の計算式では,マスク装着者の割合,感染拡大の状況が変化しても,個々人の移動や接触の様態は変化しないことを仮定している点で,少し無理があるので,参考程度として考えるべきである.
【0041】
さらに上記に加えて,感染者もWrの割合で「呼吸空気浄化器具」を装着すると,感染させ難くなる感染者の割合がWrとなり,感染させ易いままの感染者の割合は(1-Wr)となる.「呼吸空気浄化器具」のウイルス遮蔽率をSrとしたとき,マスク装着感染者の感染能力は,マスク非着用感染者のそれの(1-Sr)倍になると考えられる.以上より,近似的に以下の関係式が導かれる.
R0m = (1- WrSr)2 R0
Wr = [1 &#8211; (R0m/R0)0.5]/ Sr
【0042】
図1に,基本再生産数R0を修正基本再生産数R0m=0.5,または,1.0に修正するために必要な「呼吸空気浄化器具(Sr=1)」の着用必要割合Wr_targetを示す.未感染者のみが着用するとした場合,及び,未感染者と感染者の両方が着用するとした場合,それぞれについて示す.図1に示す例は,全ての国民,または,当該集団の全ての構成員が,同一の遮蔽率(Sr=1)の呼吸空気浄化器具を使用する場合である.
【0043】
例えば,当該ウイルスの社会に対する基本再生産数R0=5の時は,修正再生産数を1として感染定常化を図るために必要な「呼吸空気浄化器具(Sr=1)」着用者の割合Wrは,未感染者のみが着用することを考慮するとWr_target = 0.8(80%)となり,未感染者に加えて感染者もマスク着用することを考慮するとWr_target = 0.55(55%)となる.すなわち,それぞれの場合において,全国民が,接触人数の80%以上,あるいは,55%以上,に対して「呼吸空気浄化器具(Sr=1)」を着用して接触すれば感染は収束に向かう. なお,これまでに,COVID-19の基本再生産数R0として報告されている数値は,概ね5程度以下であるので,上記の議論は現実的である.
【0044】
「呼吸空気浄化器具」におけるウイルス遮蔽率Srが1(100%)ではない場合,マスク着用必要割合Wr_targetとしては,「Sr=1とした図1で読み取れるWr_target」をSrで割った値を用いれば良い.なお,前述の自由外出マスクなど,概ねSr≧0.8とSr値が高い「呼吸空気浄化器具」を「呼吸空気浄化器具(高Sr)」と称することとする.
【0045】
低コストで製造し,配布・普及させる上では,最低限の性能を見極めることも重要である.個々の「呼吸空気浄化器具」について,ウイルス遮蔽率Srを推定することにより,様々な種類のマスクについて,上記の議論を適用することが可能となる.なお,市販の不織布マスクは,通常の装着状態では,大部分の空気はフィルタ部(不織布)を透過せずに,回りの隙間を流れていることが示されている.このことは,市販の不織布マスクなど「隙間が出来やすいマスク」については,フィルタ部そのものの遮蔽率ではなく,装着時の隙間の影響を含めた遮蔽率を見積もることが重要となってくることを示唆している.
【0046】
上記の議論において,ウイルス遮蔽率をSrを,ヘルメット外部から内部への侵入に対する遮蔽率をSr_in,ヘルメット内部から外部への漏洩に対する遮蔽率をSr_outと分離して考えると,近似的に以下の関係式が導かれる.
R0m = (1- Wr Sr_in) (1- Wr Sr_out) R0
上記を,R0m,R0,Sr_in,Sr_outを定数, Wrを未知数としたWrの二次方程式として解くことにより,自由外出マスク着用必要割合Wr_targetを求めることができる.0≦Sr_in≦1,0≦Sr_out≦1より,解は,以下となる.
Wr_target = Wr = [[(Sr_in+Sr_out)-[(Sr_in+Sr_out)2-4(Sr_in)(Sr_out)(1-R0m/R0)]0.5] /[2(Sr_in)(Sr_out)]
【0047】
一般に,「呼吸空気浄化器具」は,実際の装着状態において,Sr_inとSr_outが大きく異なることがありえるので,上記のように,Sr_inとSr_outを分けて取り扱うことは,より精密に「呼吸空気浄化器具の着用必要割合Wr_target」を求める上で有効である.
【0048】
ここでは,遮蔽率Srは,0.1μmの微粒子が濾過された率として定義する.あるいは,呼吸器防護規格(NIOSH)に基づく,「エアロゾル化した塩化ナトリウム」の捕集効率として定義することも考えられる.様々な定義を使うことが考えられる.対象とするウイルスの感染経路,感染様態により,より実態に即した定義を模索し,決定することが好ましい.
【0049】
ここで,着目すべき点は,「呼吸空気浄化器具(高Sr)を全国民が保有する」は,「政府がロックダウンすることなく,感染拡大・収束を制御する手段を持つこと」を意味するという点である.現在のように,感染拡大に対して,過剰に怯える必要は無くなるという点である.
【0050】
図2に示すように,「現状」は,感染拡大懸念が増大する際には,ロックダウンの強度を上げるという対応をとっている.しかし,「将来」は感染拡大懸念が増大する際には,自由外出マスクなどの呼吸空気浄化器具の装着必要割合を上げてくだけで十分であり,ロックダウンは完全に不要となると予想している.
【0051】
コロナ時代の社会様態は,自由外出マスクなどの呼吸空気浄化器具(高Sr)の普及による新しい社会基盤の出現により,以下の3点に指摘するような状況になると予想している.
【0052】
[1] 全国民が一人一個の「呼吸空気浄化器具(高Sr)」を保有する.
【0053】
[2] 感染拡大の恐れが出た場合,政府は非常事態宣言を出し,外出時の「呼吸空気浄化器具(高Sr)」の着用必要割合Wr_target以上での着用を義務付ける.
【0054】
[3] ウイルス感染収束が確認された時点で,政府は非常事態宣言を解除し,外出時の「呼吸空気浄化器具(高Sr)」着用の義務は無くなる.
【0055】
上記[2]において,「呼吸空気浄化器具(高Sr)」着用を義務付ける際の数値目標の設定法について,以下に,いくつかの例を示す.以下の議論においては,特に指定しない限り,呼吸空気浄化器具の遮蔽率Sr= Sr_in=Sr_out=1とし,また,目標設定等については一日当たりを対象として,議論する.また,特に断りがない場合は,Srは,Sr_inとして定義される.マスクへ外部から導入される空気に対しるウイルス遮蔽率Sr_inと,マスクの内部から外部に排出される空気に対するウイルス遮蔽率Sr_outを,両方とも,等しく重視する場合,Srは,Sr_inとSr_outの平均値として定義される場合がある.
【0056】
[1] 呼吸空気浄化器具(高Sr)必要割合Wr_targetを,装着時間について数値目標として設定する例.
装着の有無のみを検出し,一日毎に,屋外での呼吸空気浄化器具の着用時間Tout_mask (秒),および,屋外での呼吸空気浄化器具の非着用時間Tout_nomask(秒)を計数して,呼吸空気浄化器具着用割合実績Wr_avd(秒)を次式により計算する.
Wr_avd = (Tout_mask)/(Tout_mask + Tout_nomask)
運用例として,国民一人一人は,自身の呼吸空気浄化器具着用割合実績Wr_avdが,政府が設定する呼吸空気浄化器具着用割合Wr以上になるように努力する義務を負うという仕組みが考えられる.達成割合(Wr_avd - Wr_target)に応じ,達成割合Wr_avd - Wr_target)がプラスの場合は報奨金が与えられ,達成割合Wr_avd - Wr_target)がマイナスの場合はマイナスの大きさに応じて,罰金などが科せられる仕組みも考えられる.
【0057】
[2]屋外での呼吸空気浄化器具(高Sr)の非着用時間Tout_nomaskの上限として,数値目標を設定する例.
装着の有無のみを検出し,自宅外での呼吸空気浄化器具の非着用時間Tout_nomaskを計数し,それが,政府が設定する上限値Tout_nomask_targetを超えないように努力する義務を負うという仕組みが考えられる.自宅外での呼吸空気浄化器具の非着用時間上限値Tout_nomask_targetの決定方法としては,市民の平均外出時間の推定値Tout_meanを用いて,次式で計算することが近似的に妥当であると考えられる.
Tout_nomask_target = (1- Wr) Tout_mean
達成割合(Tout_nomask_target - Tout_nomask)に応じ,達成割合(Tout_nomask_target - Tout_nomask)がプラスの場合は報奨金が与えられ,達成割合(Tout_nomask_target - Tout_nomask)がマイナスの場合は罰金などが科せられる仕組みも考えられる.
【0058】
[3] 呼吸空気浄化器具(高Sr)非装着で濃厚接触する人数Ncの上限として,数値目標を設定する例.
呼吸空気浄化器具非装着で濃厚接触する人数Ncを計数し,それが,政府が設定する上限値Nc_targetを超えないように努力する義務を負うという仕組みが考えられる.
濃厚接触数としては,相手も呼吸空気浄化器具非装着の状態で,「1メートル以内で,会話を2-3往復」,または,「1メートル以内で,15分間以上にわたり接触」,または,「それと同様かそれ以上の濃厚な接触と考えられる状況」を以て,「濃厚接触1」とカウントする方法が考えられる.相手が,自由外出マスクなど,遮蔽率の大きなマスクを装着している場合は,濃厚接触としてはカウントしない.
近隣にいる他者の存在とマスク装着状態を確実に検知する必要がある.後述の,カメラ画像の画像処理による検知する方式,他者の持つマスク・スマートファンとの通信により通知してもらう方式などが考えられる.
Nc_targetの設定方法としては,市民が屋外で接触する人数の平均値の推定値Nc_meanを用いて,次式で計算することが近似的に妥当であると考えられる.
Nc_target = (1- Wr) Nc_mean
達成割合(Nc_target - Nc)に応じ,達成割合(Nc_target - Nc)がプラスの場合は報奨金が与えられ,達成割合(Nc_target - Nc)がマイナスの場合は罰金などが科せられる仕組みも考えられる.
【0059】
[4] 汚染環境との接触の総量Ecの上限値として,数値目標を設定する例.
汚染環境との接触の総量Ecを計数し,それが,政府が設定する上限値Ec_targetを超えないように努力する義務を負うという仕組みが考えられる.
汚染環境との接触の総量Ecは,各場所,各時刻について,次式で算出されるか,あるいは,適当に設定されているものとする.
Ec = ∫E(L, t)dt
ここで,E(L, t)は環境汚染係数を表し,Lは場所を表し,tは時刻を表す.
想定されるウイルスの濃度が高いほど,環境汚染係数E(L, t)は大きな値となる.
環境汚染係数E(L, t)は,人間のその場所での滞在の様態(マスク装着の有り無し,マスクの性能,活動内容,など),その場所の換気や空気清浄化の状態,などの履歴により,計算される.または,環境汚染係数E(L, t)は,適当な仮定に基づき設定された関数として与えられる.
【0060】
Ec_targetの設定方法としては,市民が経験する汚染環境との接触の総量の平均値の推定値Ec_meanを用いて,次式で計算することが近似的に妥当であると考えられる.
Ec_target = (1- Wr) Ec_mean
達成割合(Ec_target - Ec)に応じ,達成割合(Ec_target - Ec)がプラスの場合は報奨金が与えられ,達成割合(Ec_target - Ec)がマイナスの場合は罰金などが科せられる仕組みも考えられる.
【0061】
以上の議論においては,特に指定しない限り,呼吸空気浄化器具の遮蔽率Sr= Sr_in=Sr_out=1とし,また,目標設定等については一日当たりを対象として,議論した.
【0062】
原始人と異なり,現代人は,「川や水溜まりの水」でなく「浄化された水」を飲む.一方,「空気」は,ウイルス,PM2.5,花粉,ホコリを始めとする様々な汚染物質を含んでいるが,現代人は,原始人と同様に,周りに存在する「自然の空気」を呼吸している.「自由外出マスク」などの「呼吸空気浄化器具(高Sr)」の登場により,空気も「自然の空気」ではなく,「浄化された空気」を呼吸したいという強力な需要が顕在化してくることが予想される.すなわち,ウイルスの感染拡大の有無に拘わらず,また,政府による着用要請の有無に拘わらずに,多くの国民が外出時に,「呼吸空気浄化器具(高Sr)」を着用するようになることも予想される.そのような社会は,あらゆる感染症に対して,基本再生産数R0がゼロに近くなり,あらゆる感染症に対して極めて強靭な社会となる.
【0063】
人々は,外出時には,(足が汚れたり,ケガをしたりしないように)「靴」を履く.同じ様に,外出時には,(肺が汚れたり,ウイルス感染したりしないように)「自由外出マスク」を着用するようになることもあり得る.そうなると,多くの国民が,様々な種類の「靴」を所有するように,様々な種類の「呼吸空気浄化器具(高Sr)」を所有することになる.最低限の機能の「呼吸空気浄化器具(高Sr)」は市販価格2,000円程度を実現できると予想している.一方で,様々な機能が付加されたモデルも開発・生産され,市販価格で1万円,10万円,100万円の「呼吸空気浄化器具(高Sr)」も出てくると予想する.
【0064】
「呼吸空気浄化器具(高Sr)」,及び,その周辺システム(乗り物・施設におけるサービス給排気ポートの提供,家庭用消毒エアロックシステム,など)は,コロナ時代における,必要不可欠な社会基盤となると考えている.そして,快適さ,便利さ,機能性,デザインが,世界中の多くの企業による集中的な努力によって、急速かつ大幅に改良・向上されていくと予想している.
【0065】
図3に「呼吸空気浄化器具(高Sr)」の一例としての「自由外出マスク」のデザイン例を示す.図4に試作機の外観写真を示す.図4に示した試作機のサイズは,約38cm(幅)×約26cm(奥行)×約29cm(高さ)であり,バッテリ(約180g)を含む総重量は約664g (約0.7kg)であり,搭載バッテリによる連続駆動時間は約8時間である. 試作機の特長は,以下の3点である.
【0066】
[1] ポンプによる強制給気により,流れ抵抗が非常に大きな高性能フィルタを挿入できる.ウイルス死滅装置(紫外線照射器,プラズマクラスター発生器など),温湿度調整装置を給気側・排気側に挿入することも可能である.
不織布フィルタ(HEPA H13規格,0.3μmまでの粒子を99.97%吸着)を給気側,排気側に使用している.米国労働安全衛生研究所(NIOSH)による微粒子用マスクの規格の最高ランク(N100/R100/P100)である,「0.1~0.3μmの微粒子を99.97%以上除去できる性能」と同等の性能を有している.
【0067】
[2] ヘルメット内を,僅かな陽圧に制御することにより,首のシール部からの外気進入を完全遮断でき,ウイルスの侵入はほぼ完全に遮蔽できる.ウイルスの外部漏洩は,首シール部の気密程度に依存するが,ドライスーツ用の首回り気密シールなど,高性能な首回り気密シールを用いることにより,高いレベルでの気密保持が可能である.
【0068】
[3] 一定流量に制御された吸気により,フード内に,常に新鮮な空気の流れを作る.これにより,肺へ余分な負荷を加えることなく,新鮮な空気を呼吸できる.「通常形式マスク」着用時のような息苦しさが無い状態となる.
【図面の簡単な説明】
【0069】
図1図1は,R0m=0.5,1.0を達成する上で必要となる,呼吸空気浄化器具(Sr=1.0)の着用必要割合Wr(%)と,現時点での基本再生産数R0の関係を示すグラフである.
図2図2は,現状におけるロックダウンが選択肢としてあるコロナ対策と,本発明に基づいた社会基盤が構築され,ロックダウンが不要化したコロナ対策を模式的に示した図である.
図3図3は,呼吸空気浄化器具(高Sr,ヘルメット一体型)の実施例の模式図である.
図4図4は,呼吸空気浄化器具(高Sr,試作機)の外観写真である.
図5図5に示す実施例1は,本発明に基づく呼吸空気浄化器具装着状況の記録・管理システムの通常形式マスクをベースとした実施例である.
図6図6に示す実施例2は,「呼吸空気浄化器具」が「ポンプ給気機能付きマスク」である呼吸空気浄化器具装着状況の記録・管理システムの実施例である.
図7図7は,実施例2の外観写真である.
【0070】
図8図8に示す実施例3は,「呼吸空気浄化器具」が「スマートフォン」と通信を行い,「スマートフォン」のソフトウェアにより「呼吸空気浄化器具」の装着状態を,時刻,位置情報などと共に記録することを特徴とする呼吸空気浄化器具装着状況の記録・管理システムの実施例である.
図9図9は,実施例4におけるQin(ΔP,V)とQout(ΔP)の変化の様子を示した図である.Qinは,駆動電圧V=12,11,10(V)の3水準について示している.
図10図10に示す実施例5は,近隣の他者の存在,および/または,距離,および/または,「呼吸空気浄化器具」の装着状態を,ブルートゥースなどの無線通信手段で検知し,記録することを特徴とする,呼吸空気浄化器具装着状況の記録・管理システムの実施例である.
図11図11に示す実施例6は,近隣の他者の存在,および/または,距離,および/または,「呼吸空気浄化器具」の装着状態を,カメラ画像で検知し,記録することを特徴とする,呼吸空気浄化器具装着状況の記録・管理システムの実施例である.
【0071】
図12図12は,R0m=0.5,1.0を達成する上で必要となる,呼吸空気浄化器具(Sr,in=1.0,Sr,out=0.9)の着用必要割合Wr(%)と,現時点での基本再生産数R0の関係を示すグラフである.
図13図13は,実施例9における基本制御系のブロック図である.
図14図14は,実施例9におけるポンプ制御方法のイメージ図である.
図15図15は,実施例10における使用するポンプ単体での印加電圧に対する圧力-流量の特性を示している.
図16図16は,実施例10における電圧-傾き特性を示している.
図17図17は,実施例10における電圧-切片特性を示している.
図18図18は,実施例10における流量推定値Qを用いたポンプ給気機能付きマスクの制御ブロック図を示している.
【0072】
図19図19は,検出したCO2濃度が設定値を超えた場合,すばやく流量の設定値を増加させる制御法に対する実施例11を示している.
図20図20は,2つのポンプによる流量と圧力の個別の制御系において,検出したCO2濃度が閾値を超えた場合に,上記と同様に,CO2濃度制御器により流量の設定値Q*を増加させるとともに装着者に警報を促す,実施例11の図19とは別の形態を示している.
図21図21は,実施例12におけるゴム栓式緊急換気口付きポンプ給気機能付きマスクの装着時の模式図とゴム栓部分の側面拡大図である.
図22図22は,実施例13における緊急時フィルタ取り外し式ポンプ給気機能付きマスクの装着時の模式図とフィルタ部分の側面拡大図である.
図23図23は,実施例13における二重フィルタの通常時と解放時の側面図である.
【0073】
図24図24は,実施例14における緊急時自動開放機構の通常時と解放時の側面図である.
図25図25は,実施例19における拡声・補聴機能を有するポンプ給気機能付きマスクの装着時の模式図である.
図26図26は,実施例21における発信者と受信者の位置関係を示した図である.
図27図27は,実施例22における健康モニタ機能を有するポンプ給気機能付きマスクの装着時の模式図である.
図28図28は,実施例23におけるQOL向上機能を有するポンプ給気機能付きマスクの装着時の模式図である.
図29図29は,実施例24におけるマスク殺菌消臭機能を有するポンプ給気機能付きマスクの外観図である.
【発明を実施するための形態】
【実施例0074】
図5に示す実施例1は,本発明に関連する実施例である.実施例1は,「呼吸空気浄化器具」の微粒子・飛沫・ウイルス等の遮蔽率,装着の有無などの装着状態を,時刻と共に,記録装置に記録することを特徴とする,呼吸空気浄化器具装着状況の記録・管理システムである.実施例1では,「呼吸空気浄化器具」は,不織布をフィルタとして用いた通常形態のマスクに,記録装置が取り付けられている形態となっている.記録装置は,マイクロプロセッサ,圧力センサ(差圧センサ,測定範囲:±200Pa,測定誤差:1Pa),メモリカードスロット,バッテリなどにより構成され,顎にフィットする湾曲した形状の樹脂製ケースに収められている.マスク生地には記録装置をスナップ式に固定(スナップフィット,snap-fit)するためのプレートが接着されており,記録装置とマスク生地は工具無しで簡単に構造となっている.圧力センサにより,マスクの内側と外側の圧力差を計測する.呼吸に伴う圧力変動に類似の圧力変動を検知している時間帯を,マスク装着時として判断し,GPSセンサからの位置情報とともに,記録する.記録内容は,メモリカードに記録し,メモリカードを抜き出すことで,外部機器に転送することができる.
【0075】
記録装置に,LEDとスピーカを付加して,次のような装着状態の確認・警報機能を与えてもよい.すなわち,圧力変動の振幅が基準よりも小さいときは,マスクと顔表面の隙間が大きいと判断し,LEDを赤色で点滅させるとともに,警報音を発する.圧力変動が基準の範囲内の時は,マスクと顔表面の隙間が十分に小さく,気密が保たれていると判断し,LEDを青色で点灯させる.
記録装置に,Bluetoothなどの通信機能などを付加して,記録内容を,スマートフォンや解析装置に転送できるようにすることは,利便性を高める上で有用である.
【0076】
記録装置に,GPSユニットを付加して位置情報を取得し,装着状態,時刻,場所をセットとして記録していくことは,濃厚接触者の特定や感染経路の特定などにおいて,特に,有効である.
【0077】
「呼吸空気浄化器具」の微粒子・飛沫・ウイルス等に対する遮蔽率Srは,機種毎に校正されている.遮蔽率は,適正に装着され,マスクと顔との間の気密が十分に確保され,マスクと顔の間の隙間からの空気の漏れ率が十分に小さい場合と,不適切に装着され漏れ率が大きい場合とでは,大きく異なる.遮蔽率は,装着状態での漏れ率の推定値により補正される.
【0078】
遮蔽率は,粒子の大きさの範囲毎に計測・校正することにより,「呼吸空気浄化器具(高Sr)」着用を義務付ける際の数値目標の設定・運用を,より精密に行うことが可能となる.例えば,以下のような分類が考えられる.
飛沫:粒子直径5μm以上
飛沫核:粒子直径1μm-5μm
微小エアロゾル:粒子直径:0.1μm-1μm
極小エアロゾル:粒子直径:0.01μm-0.1μm
粒子の大きさに応じて,空気中での動きの形態(気流にどの程度,沿って動くか?重力により落下速度,など),移動距離,滞在時間が決まってくるので,粒子の大きさに応じて,遮蔽率を計測することは,よりきめ細かい運用をする上で,有効である.
【0079】
圧力センサの代わりに皮膚との接触を検知する接触センサを記録装置,あるいは,マスク生地に内蔵させ,装着の有無の判断を,圧力センサの出力ではなく,接触センサの出力に基づいて行うことも考えられる.接触センサとしては,「マスク生地に対して着脱可能な生体電極」も好適である.
【実施例0080】
図6に示す実施例2は,本発明に関連する実施例である.実施例2は,「呼吸空気浄化器具」が「ポンプ給気機能付きマスク」であることを特徴とする,呼吸空気浄化器具装着状況の記録・管理システムである.図7は,実施例2の外観写真である.コントローラとして,Arduino Unoを使用している.
【0081】
「呼吸空気浄化器具」(=本マスク)は,ヘルメット部,バックパック部からなる.図6には,本マスクにおける,清浄化された空気の給気,排気の仕組みが示されている.本マスクの特長は,以下の3点である.
【0082】
[1] ヘルメット内を,僅かな陽圧に制御することにより,首のシール部からの外気の進入を完全に遮断することができる.また,内圧をある程度高く保つことにより,ヘルメットドーム部を軽量な透明樹脂素材で製作することができる.ウイルスの侵入は100%遮蔽できる.ウイルスの外部への漏洩は,首シール部の気密程度に依存するが,高いレベルで抑止できる.
【0083】
[2] 一定流量に制御された吸排気により,ヘルメット内に,常に新鮮な空気の流れを作る.これにより,肺へ余分な負荷を加えることなく,新鮮な空気を呼吸することができる.

[3] バックパックに納めたポンプ・圧力バッファ・電磁制御弁による強制給気,強制排気により,流れ抵抗が非常に大きな高性能フィルタを挿入することができる.これにより,マスク着用時のような息苦しさが一切無い状態を作ることができる.ウイルス死滅装置(紫外線照射器,プラズマクラスター発生器など)を給気側,排気側に装備することは,感染者が高密度に集められた病院等,ウイルスが空気に浮遊する密度が高い環境等において,ウイルスをより完全に排除する上で有効である.
【0084】
実施例2では,温湿度調整装置を給気側に設置している.温度・湿度が調整された清浄な空気が,ヘルメット部に供給される.これにより,高温多湿な夏季,低温低湿な冬季などにおいても,快適な呼吸が実現されている.
【0085】
図6に示した全てのセンサ,ポンプなどの装置はコントローラに接続され,装置全体が設定パラメタで動作するように制御されている.コントローラは,計測・制御の全過程を記録する.コントローラは,一連の計測・制御ループを,10回/sの速さで回し,そこで使用される全てのパラメタを時系列で記録する.
【0086】
コントローラの動作状態のモニタ,設定値の変更は,無線通信(Bluetooth)により接続されたスマートフォンでも行える.
【実施例0087】
図8に示す実施例3は,本発明に関連する実施例である.実施例3は,「呼吸空気浄化器具」が「スマートフォン」と無線通信を行い,「スマートフォン」のソフトウェアにより「呼吸空気浄化器具」の装着状態を,時刻と共に記録することを特徴とする呼吸空気浄化器具装着状況の記録・管理システムである.実施例3の「呼吸空気浄化器具」は,ヘルメット部とウエストパック部で構成されている.実施例3の「呼吸空気浄化器具」の特長は,以下の3点である.
【0088】
[1] ヘルメット内を,僅かな陽圧に制御することにより,首のシール部からの外気の進入を完全に遮断することができる.また,内圧をある程度高く保つことにより,ヘルメットドーム部を軽量な透明樹脂素材で製作することができる.ウイルスの侵入は100%遮蔽できる.ウイルスの外部への漏洩は,首シール部の気密程度に依存するが,高いレベルで抑止できる.
【0089】
[2] 一定流量に制御された吸排気により,ヘルメット内に,常に新鮮な空気の流れを作る.これにより,肺へ余分な負荷を加えることなく,新鮮な空気を呼吸することができる.
[3] ウエストパック部に納めたポンプ・圧力バッファ・電磁制御弁による強制給気,強制排気により,流れ抵抗が非常に大きな高性能フィルタを挿入することができる.(マスク着用時のような息苦しさが一切無い状態を作ることができる.)ウイルス死滅装置(紫外線照射器,プラズマクラスター発生器など),温湿度調整装置を給気側,排気側に挿入することも自由にできる.
【0090】
図8に示した全てのセンサ,ポンプなどの装置はコントローラに接続され,装置全体が設定パラメタで動作するように制御されている.コントローラは,計測・制御の全過程のデータを記録し,同時に,無線通信(Bluetooth)により,スマートフォンにも伝送され,スマートファンにも記録される.スマートフォンのアプリケーションにより,記録内容は解析・表示される.また,スマートフォンのアプリケーションから,「呼吸空気浄化器具」の各種設定を調節できる.
【0091】
実施例3では,装着の有無のみを検出し,自宅外での呼吸空気浄化器具の非着用時間Tout_nomaskを計数し,それが,政府が設定する上限値Tout_nomask_targetを超えないように努力する義務を負うという仕組みを想定した仕様としている.スマートフォンは自身のGPS位置情報に基づき,現在地を自宅か,自宅外かを判定する.自宅外での呼吸空気浄化器具の非着用時間上限値Tout_nomask_targetの決定方法としては,市民の平均外出時間の推定値Tout_meanを用いて,次式で計算することが近似的に妥当であると考えられる.
Tout_nomask_target = (1- Wr) Tout_mean
達成割合(Tout_nomask_target - Tout_nomask)に応じ,達成割合(Tout_nomask_target - Tout_nomask)がプラスの場合は報奨金が与えられ,達成割合(Tout_nomask_target - Tout_nomask)がマイナスの場合は罰金などが科せられる仕組みも考えられる.
【0092】
記録装置は,メモリカード(マイクロSDカードなど),無線通信(Bluetoothなど)などを介して,計測・記録したデータを,スマートフォン以外の外部機器に伝達することもできる.
【実施例0093】
実施例4は,本発明に関連する実施例である.実施例4においては,「呼吸空気浄化器具」の装着状態を,ヘルメット内の内圧,および,ポンプ出力から推定することを行っている.圧力と流量の制御が適正に行われている状況では,ポンプ出力は呼吸のタイミングに合わせて変動する.この変動から,装着の有無,空気漏れ率を検知・推定する.図3に示したヘルメット型の呼吸空気浄化器具に実装した,漏れ率などの推定方法を,以下に説明する.
【0094】
ポンプ2台分の給気量Qin(L/min)は,ヘルメットの内側と外側の差圧ΔP(Pa),および,ポンプ印加電圧V(V)により,次式により,近似的に校正されている.
Qin(ΔP,V) = (-0.21V+1.15)ΔP+ 46.8V-299.0
【0095】
また,自然排気フィルタからの排気Qout(L/min)は,次式で近似的に校正されてる.
Qout(ΔP) = 1.1ΔP
なお,ポンプによる排気とする場合は,吸気Qin(ΔP,V) (L/min)と同様に,排気Qout(ΔP,V)(L/min)のように,ヘルメット内外の圧力差ΔPと,ポンプに印加する電圧の関数で近似的に表すことができる.
【0096】
温湿度調整装置や二酸化炭素吸着装置への接続切替がある場合など,ポンプとヘルメットの間の流れ抵抗が変化する場合は,その影響も吸気Qin(ΔP,V) (L/min),吸気Qout(ΔP,V) (L/min)の校正時に考慮する必要がある.
【0097】
図9に,Qin(ΔP,V)とQout(ΔP)の変化の様子を示す.吸気ポンプへの印加電圧についてはV=12,11,10(V)の3水準について示した.
【0098】
漏れ流量Qleakage(L/min)は,次式で近似的に計算できる.
Qleakage - Qbreeth - Qv = Qin-Qout
= (-0.21V+1.15)ΔP+ 46.8V-299.0 - 1.1ΔP
= (-0.21V+0.05)ΔP+ 46.8V-299.0
ここで, Qbreeth(L/min)は呼吸による流量であり呼気時に正,吸気時に負の値をとり,Qv(L/min)はヘルメット筐体の体積変化率であり収縮時に正,膨張時に負の値をとる.
【0099】
ここで,呼吸による流量Qbreeth(L/min)と,ヘルメット筐体の体積変化率Qv(L/min)は,長い時間で平均をとれば,十分に小さな値になり,無視できると考えられる.
【0100】
この実施例では,60秒間の時間平均値としてQ1= Qin-Qout(L/min)を求め,校正式の誤差を考慮して,以下のような判定を行っている.
Q1 < 0.1 Qin : 装着状態(漏れ無)
0.1Qin ≦ Q1 < 0.5Qin : 装着状態(漏れ有)
0.5Qin ≦ Q1 : 非装着状態
【0101】
Qin,Qoutの校正を高精度化することにより,より精密な判定が可能となる.
【0102】
一般に流量計(マスフローメータなど)は,流れ抵抗が大きい場合が多くある.一方,「呼吸空気浄化器具」の内部と外部の圧力差としては, 0.1-0.5kPa程度の比較的小さな設定値が適している.そのため,「流量計」を,「呼吸空気浄化器具」に出入りする空気の流量の測定する際には,流量計による圧力損失,および,それによる,ポンプへの負荷に対して注意が必要となる.ヘルメット内の空気圧力は大気圧と比べてあまり変化しない(大気圧との差は0.1-0.5kPa程度)ので,上記のように,圧力差ΔP,ポンプ印加電圧Vから,Qin,Qoutを高精度に推定する方法が,より効率的であると考えられる.
【0103】
ポンプ制御を,PWM(Pulse Width Modulation)で行う場合,上記の印加電圧Vの代わりに,DUTY(%)を用いることになる.例えば,定格電圧DC12Vのポンプを使う場合,PWM制御のDUTY(%)とほぼ等価になる,直流電圧制御時の印加電圧Vとの関係を調べることで,上記の校正式を,PWM制御においても使うことができる.当然のことながら,PWM制御を行う場合は,Qin(ΔP,Duty),Qin(ΔP,Duty)のように,差圧ΔP(Pa)とDUTY(%)とに基づく校正を行う方が,より正確な校正式となる.すなわち,ポンプを一定電圧のオンオフ比率(PWM Dutyとも称する)を用いる場合は,オンオフ比率から流量Qin(PWM Duty)までのモデルを同定し,校正式を準備しておく.モデルは簡便な一次遅れの伝達関数などでよい.
【0104】
実施例では,漏れ流量Qleakage(L/min)は,圧力差ΔPに比例すると近似し,以下のように表している.
【0105】
Qleakage = aΔP
ここで,aは比例定数である.一方,上述のように,以下が成り立つ.
Qleakage(ΔP,V)- Qbreeth - Qv = Qin -Qout
したがって,
aΔP= [Qin + Qbreeth + Qv] - Qout
両辺を時間積分すると,
∫(aΔP)dt= ∫{[Qin + Qbreeth + Qv] - Qout}dt
十分長い時間で積分すると,
∫Qbreeth + Qv)dt=0
であるので
a∫(ΔP)dt= ∫(Qin &#8211; Qout)dt
したがって,比例定数は,次式で求めることができる.
a = [∫(Qin-Qout)dt]/[∫(ΔP)]
【0106】
以上より,次の関係式が求まる.
Qleakage- Qbreeth - Qv = Qin -Qout
aΔP - Qbreeth - Qv = Qin - Qout
ここで,ヘルメット内の体積変化率Qv(L/min)を無視できる場合,以下となる.
aΔP - Qbreeth = Qin - Qout
Qbreeth = Qout-Qin + aΔP (L/min)
= Qout(ΔP) - Qin(ΔP,V) + aΔP (L/min)
以上より,呼吸の流量は,ΔPとVの関数Qbreeth(ΔP,V)として,計算することができる.
【0107】
このように,装着者の呼吸によるヘルメット内への空気の出入りQbreeth(ΔP,V)(L/min)も,圧力差ΔPとポンプ印加電圧Vの関数として表すことができる.
【0108】
記録装置は,装着の有無,漏れ流量,呼吸による空気の流れQbreeth,などを,毎秒10回程度の割合で計測・計算・記録する.
【0109】
無線通信(Bluetooth)により,近隣の「呼吸空気浄化器具」と通信し,自身と自身の周りの他者の「呼吸空気浄化器具」の機種,微粒子・飛沫・ウイルス等の遮蔽率Sr,装着の有無などの装着状態を,時刻,および,位置情報と共に,記録装置に記録する.
【実施例0110】
図10に示す実施例5は,本発明に関連する実施例である.実施例5は,近隣の他者の存在,および/または,距離,および/または,「呼吸空気浄化器具」の装着状態を,ブルートゥース,WiFi接続,赤外線通信,超音波通信などの無線通信手段で検知し,記録することを特徴とする,呼吸空気浄化器具装着状況の記録・管理システムである.
スマートフォン内蔵のブルートゥース機能を用いても良いが,「呼吸空気浄化器具」内臓のブルートゥース機能を用いることで,近隣に存在する他の「呼吸空気浄化器具」の距離だけでなく,距離と位置(方角)の両方を検知することが可能となる.
本実施例は,本発明に基づく「呼吸空気浄化器具」が,社会基盤として定着し,緊急事態時には,全ての国民に「呼吸空気浄化器具の装着」がWrで義務図けられる近未来の社会での実施を想定している.
厚生労働省の接触確認アプリ「COCOA」に,追加機能として,近隣の他者の呼吸空気浄化器具の装着状態を通知しあうという機能を加えることも想定している.
【実施例0111】
図11に示す実施例6は,本発明に関連する実施例である.実施例6は,近隣の他者の存在,および/または,距離,および/または,「呼吸空気浄化器具」の装着状態を,カメラ画像で検知し,記録することを特徴とする呼吸空気浄化器具装着状況の記録・管理システムである.画像処理により,近隣に存在する人の「呼吸空気浄化器具」の種類,装着の有無を判定し,その結果を記録する.
実施例6では,視野120°の口角レンズを備えたカメラ3台を収めたカメラユニットを,ヘルメット上部に設置し,装着者の全周囲(360°)を常時撮影し,リアルタイムで,画像処理を行っている.コントローラは,ヘルメットに取り付け,一体型の「呼吸空気浄化器具」としている.スマートフォンと接続(ブルートゥース接続など)し,画像処理の一部,または,全部をスマートフォン側に担わせることも考えられる.
ヘルメットの複数個所に可視光LED,もしくはカメラで検出できる波長の赤外線を発行するLEDを設置し,その発光(点灯や点滅パターン)により,ブルートゥース通信の通信相手との対応付けを行うことも有効である.
【実施例0112】
実施例7は,本発明に関連する実施例である.実施例7は,ウイルスの遮蔽率を,「呼吸空気浄化器具」の外部から内部への侵入に対する遮蔽率と,「呼吸空気浄化器具」の内部から外部への漏洩に対する遮蔽率とに分離して取り扱うことを特徴とする呼吸空気浄化器具装着状況の記録・管理システムである.一般に,「呼吸空気浄化器具」は,実際の装着状態において,Sr_inとSr_outが大きく異なることがありえるので,上記のように,Sr_inとSr_outを分けて取り扱うことは,より精密に「呼吸空気浄化器具の着用必要割合Wr_target」を求める上で有効である.
【0113】
前述のように,ウイルス遮蔽率をSrを,ヘルメット外部から内部への侵入に対する遮蔽率をSr_in,ヘルメット内部から外部への漏洩に対する遮蔽率をSr_outと分離して,取り扱う.近似的に以下の関係式が導かれる.
R0m = (1- Wr Sr_in) (1- Wr Sr_out) R0
上記を,R0m,R0,Sr_in,Sr_outを定数, Wrを未知数としたWrの二次方程式として解くことにより,各マスク(呼吸空気浄化器具)の着用必要割合Wrを求めることができる.0≦Sr_in≦1,0≦Sr_out≦1より,解は,以下となる.
Wr = [[(Sr_in+Sr_out)-[(Sr_in+Sr_out)2-4(Sr_in)(Sr_out)(1-R0m/R0)]0.5] /[2(Sr_in)(Sr_out)]
上式により,政府が発表するR0,R0mに基づき,当該マスク(呼吸空気浄化器具)の,着用必要割合Wr_targetを計算することができる.
【0114】
図12に,基本再生産数R0を修正基本再生産数R0m=0.5,または,1.0に修正するために必要な「呼吸空気浄化器具(Sr,in=1.0, Sr,out=0.9)」の着用必要割合Wr_targetを示す.未感染者のみが着用するとした場合,及び,未感染者と感染者の両方が着用するとした場合,それぞれについて示す.図12に示す例は,全ての国民,または,当該集団の全ての構成員が,同一の遮蔽率(Sr,in=1.0, Sr,out=0.9)の呼吸空気浄化器具を使用する場合である.
【0115】
図12から,例えば,基本再生産数R0=5の場合,修正基本再生産数R0m=0.5,または,1.0に修正するために必要な「呼吸空気浄化器具(Sr,in=1.0, Sr,out=0.9)」の着用必要割合Wr_targetは,未感染者のみがマスク着用するとした場合で0.58 (58%) ,未感染者と感染者の両方が着用するとした場合で0.72 (72%) であると読み取れる.
【0116】
この実施例では,装着の有無のみを検出し,一日毎に,屋外での当該マスク(呼吸空気浄化器具)の着用時間Tout_mask,および,屋外での当該マスク(呼吸空気浄化器具)の非着用時間Tout_nomaskを計数して,当該マスク(呼吸空気浄化器具)の着用割合実績Wr_avdを次式により計算する.
Wr_avd = (Tout_mask)/Tout_mask + Tout_nomask)
運用例として,国民一人一人は,自身の当該マスク(呼吸空気浄化器具)の割合実績Wr_avdが,政府が設定するマスク(呼吸空気浄化器具)着用割合Wr以上になるように努力する義務を負うという仕組みが考えられる.
【実施例0117】
実施例8は,請求項1の実施例である.実施例8は,ポンプ給気機能付きマスクにおいて,装着の呼吸に合わせて,呼気時には流入量目標値・設定値を小さく,および/または,内圧目標量を小さくし,吸気時には流入量目標値を大きく,および/または,内圧目標値・設定値を大きくすることを特徴とする,呼吸空気浄化器具の実施例である.
図3に示すヘルメット一体型の呼吸空気浄化器具のソフトウェアを改編することにより,実施例8を実施した.実施例8では,呼吸に合わせて,呼気(吐き出す)時は流入量・圧力を弱め,吸気(吸い込む)時は流入量・圧力を高める制御を行う.これにより,ヘルメット内の呼気に含まれる二酸化炭素を,効率良く排出し,二酸化炭素の滞留を低減できる
実施例8においては,以下のような2種類の制御法を選択できるようにしている.
【0118】
[制御法1]
上述の方法で計算される時々刻々と変化するQbreethの値により,流量設定値Qin, setを以下のように設定する.
Qbreeth(L/min)≧ 2 (L/min) : 流量設定値Qin, set ≧ 50 (L/min)
Qbreeth(L/min)≦ -2 (L/min) : 流量設定値Qin, set ≧ 150 (L/min)
-2 (L/min) <Qbreeth(L/min)<2 (L/min) : 流量設定値Qin, set ≧ 100 (L/min)
圧力設定値ΔP set≧50 (Pa),CO2濃設定値Cco2≦2000 (ppm)は,それぞれ,固定値とする.
流量設定値Qin, set,圧力設定値ΔP set,CO2濃設定値Cco2の条件を満たす範囲において,最低限の出力でポンプを駆動する制御を行う.流量設定値Qin, set,圧力設定値ΔP set,CO2濃設定値Cco2のいずれかの条件が満たされない場合,ポンプ出力設定は増やされていく.
【0119】
[制御法2]
上述の方法で計算される時々刻々と変化するQbreethの値により,圧力設定ΔP setを以下のように設定する.
Qbreeth(L/min)≧ 2 (L/min) : 流量設定ΔP set ≧ 50 (Pa)
Qbreeth(L/min)≦ -2 (L/min) : 流量設定ΔP set ≧ 150 (Pa)
-2 (L/min) <Qbreeth(L/min)<2 (L/min) : 流量設定ΔP set = 100 (Pa)
流量設定値Qin, set≧ 100(L/min),CO2濃設定値Cco2≦2000 (ppm)は,それぞれ,固定値とする.
流量設定値Qin, set,圧力設定値ΔP set,CO2濃設定値Cco2の条件を満たす範囲において,最低限の出力でポンプを駆動する制御を行う.流量設定値Qin, set,圧力設定値ΔP set,CO2濃設定値Cco2のいずれかの条件が満たされない場合,ポンプ出力設定は増やされていく.
【0120】
上記の議論では,ヘルメット内の体積変化率Qv(L/min)を無視できるものをしてきた.無視できない場合においては,第一近似としてヘルメット・フード部の体積変化が,ヘルメット内外の圧力差ΔPによる弾性変形によるものと仮定できる場合は,次式で校正することが有効である.
Qv= a ΔP (L/min)
ここで,a(L/min/Pa)は定数である.
【0121】
吸気をポンプにより強制吸気とすることに加え,排気もポンプによる強制排気とする場合は,吸気ポンプの総給気量Qin(L/min)は,ヘルメットの内側と外側の差圧ΔP(Pa),および,吸気ポンプ印加電圧V(V)により,次式により,近似的に校正できる.
Qin(ΔP,V) = aΔP+ bV + c
同様に,排気ポンプの総排気量Qout(L/min)は,ヘルメットの内側と外側の差圧ΔP(Pa),および,排気ポンプ印加電圧V(V)により,次式により,近似的に校正できる.
Qout(ΔP,V) = aΔP+ bV + c
ここで,a,b,cは定数である.なお,より精密な校正式が必要な場合は,多項式近似とすると良い.
【0122】
単純な内圧一定制御,または,単純な流入流量一定制御,または,流出流量一定制御を行った場合では,呼吸に合わせてポンプの出力は変化する.実施例8の制御は,より,呼吸を助け,ヘルメット内のCO2濃度を低減する上で効果がある.CO2濃度低減のためには,清浄化された空気のヘルメット内部への吹き出し口の位置・形状,ヘルメット内の構造,ヘルメット内への吐き出し口の位置・形状が,呼気を滞留させることなくヘルメット外部へ速やかに吐き出されるようなヘルメット内の気流の流れを決める上で重要な要素である.実施例8では,清浄化された空気のヘルメット内部への吹き出し口の位置・形状を,外部からの清浄化された空気の流れが装着者の口元へ向かうように,設計している.
【実施例0123】
実施例9は,請求項2の実施例である.実施例9は,給気ポンプ一つとヘルメット装着の流量センサ,圧力センサ,CO2センサを用いた制御により,流量,圧力,CO2濃度の設定条件を満たすことを特徴とする,ポンプ給気機能付き呼吸空気浄化器具の実施例である.
【0124】
図13は,本実施形態に係る基本制御系のブロック図である.本実施形態に係る制御系は,1つの給気ポンプ付いたヘルメットと流量センサ,圧力センサ,CO2濃度センサ各1個とフィードバック制御器から構成される.制御対象への入力信号は,ポンプへの入力で,例えば一定電圧のオンオフ比率(PWM Dutyとも称する)信号である.また,制御対象の出力信号は,各種センサ出力である流量Q,圧力P,CO2濃度である.ヘルメットからの排気については,フィルタを介した自然排気である.
【0125】
図14にポンプ制御方法のイメージ図を示す.流量Q,圧力P,CO2に対しそれぞれ満たすべき閾値Q*,P*,CO2*を設定する.Q*は人の呼吸(10L/min)に対して十分大きな値とし,P*はヘルメット内が微陽圧となるような値とし,CO2*はヘルメット内のCO2濃度が人体に影響を与えないよう十分低い値とする.フィードバック制御においては,この閾値に対し,下記の3つの条件が同時に満たされた場合にポンプへの入力Dutyを減少させ,一つでも満たされない場合には入力Dutyを増大させる.
Q>Q*, P>P*, CO2<CO2*
この制御法により,1つの給気ポンプで圧力,流量,CO2濃度の全ての閾値条件を満たしつつ,ポンプの過駆動によるエネルギー消費を抑えた制御が可能である.
【実施例0126】
実施例10は,請求項3の実施例である.実施例10は,ポンプの流量Qが印加電圧Vと外部と内部の差圧Pの関数Q(V, P)となることを利用し,流量センサを用いずにその推定値により流量,圧力,CO2濃度の設定条件を満たすことを特徴とする,ポンプ給気機能付き呼吸空気浄化器具である.同様に,ポンプの圧力Pが印加電圧Vと流量Qの関数P(V, Q)となることを利用し,圧力センサを用いずにその推定置により,流量,圧力,CO2濃度の設定条件を満たすことを特徴とする,ポンプ給気機能付き呼吸空気浄化器具の実施例である.
【0127】
請求項9に記載のマスクにおいて,ポンプの流量Qが印加電圧Vと圧力Pの関数Q(V, P)となることを利用し,流量センサを用いずにその推定値により流量,圧力,CO2濃度の設定条件を満たすことを特徴とする,ポンプ給気機能付きマスク.同様に,ポンプの圧力Pが印加電圧Vと流量Qの関数P(V, Q)となることを利用し,圧力センサを用いずにその推定置により,流量,圧力,CO2濃度の設定条件を満たすことを特徴とする,ポンプ給気機能付きマスクである.
【0128】
図15は,使用するポンプ単体での印加電圧に対する圧力-流量の特性を示している.事前にこのような特性を取得することで,そのポンプをマスクに設置したときの流量を,ポンプの印加電圧と圧力から推定できる.
【0129】
図15を例に,導出例を以下に示す.印加電圧V1時の近似曲線からその傾きは,-Q1/P1,切片はQ1となる.同様に,V2, V3に対する傾きはそれぞれ,-Q2/P2,-Q3/P3となり,切片はQ2,Q3となる.導出した電圧に対する傾き座標(V1, -Q1/P1), (V2, -Q2/P2), (V3, -Q3/P3)から,図16の電圧-傾き特性を導出し,その近似直線をy1=aV+bとする.同様に導出した電圧に対する切片座標(V1, Q1), (V2, Q2),(V3, Q3)から,図17の電圧-切片特性を導出し,その近似直線をy2=cV+dとする.ここで,近似直線の導出は最小2乗法などで導出すればよい.また,近似直線は曲線による近似でもよい.
【0130】
導出した傾きと切片に対する近似直線y1,y2を利用し,流量QはP, Vの計測値から,次式により近似的に推定できる.
Qest(P,V) = y1 P+y2 = (aV+b) P + (cV+d)
流量推定値Qestを用いたポンプ給気機能付きマスクの制御ブロック図を図18に示す.ポンプへの入力PWM Duty値から電圧を算出し,圧力センサ値とともに圧力推定を行う.その推定値Qestを計測値の代わりにフィードバックすることで,すべての閾値条件を満たす制御が可能である.
【0131】
同様に,事前測定した図15の特性からPest(Q,V)の特性を導出し,流量センサではなく,圧力センサを用いずにその推定置により同様の制御を行うことも可能である.
【0132】
この制御法により,ポンプ給気機能付きマスクに流量センサ(または圧力センサ)を設置せずとも,流量,圧力,CO2濃度の閾値条件を満たす制御が給気ポンプ,圧力センサ(または流量センサ),CO2センサ各一つで可能である.
【実施例0133】
実施例11は,請求項4の実施例である.実施例11は,CO2濃度が設定値を超えた場合,流量の設定値を上げ,かつ警報(音,光など)を出すことを特徴とする,呼吸空気浄化器具である.
【0134】
図19に検出したCO2濃度が設定値を超えた場合,すばやく流量の設定値を増加させる制御法に対する実施例を示す.この例では,1つのポンプによる流量と圧力の制御系において,CO2濃度の検出値が閾値を超えた場合,CO2濃度制御器により流量の設定値Q*を増加させる.同時に,装着者にLEDや音により視覚,聴覚を通した警報を促す.また,図20に別の実施例を示す.2つのポンプによる流量と圧力の個別の制御系において,検出したCO2濃度が閾値を超えた場合に,上記と同様に,CO2濃度制御器により流量の設定値Q*を増加させるとともに装着者に警報を促す.本発明手法は,ポンプの数量に関係なく,各種のフィードバック制御系において付加的に適用できる.CO2濃度,圧力,流量に加え,脈拍,呼吸数,バッテリ残量などのセンサをさらに付加し,スマホに表示,スマホで設定変更が可能となるように機能を構築してもよい.
【0135】
本発明のCO2濃度が閾値を超えた場合に流量の設定値を増大させる手法により,ヘルメット内のCO2濃度を素早く設定値以下に制御するとともに,装着者に注意喚起を促し,人体に影響が出ないように制御することが可能である.
【実施例0136】
実施例12は,請求項5の実施例である.実施例12は非常時に装置表面のつまみを引くことにより呼吸のための開口を開くことを特徴とする,呼吸空気浄化器具である.
図21は,ヘルメット型呼吸空気浄化器具の前面に,ゴム栓で蓋をされた開口部を持ち,非常時に呼吸のための開口部を開くことのできる呼吸空気浄化器具の実施例である.本装置は,口付近のマスクのウィンドウに開けられた開口部と,その開口を塞ぐゴム栓で構成される.開口部は,普段はゴム栓で蓋がされており,空気の出入りはできない.緊急時には,ゴム栓を引き抜くことで開口が開き,換気されて新鮮な空気を呼吸することができる.ゴム栓には,引き抜きやすいようにつまみを付けても良い.開口部はマスクのウィンドウではなくビニールフード部に設けても良い.ビニールフードに開口を設ける際は,樹脂またはゴムのリングでビニールが破れないように補強してもよい.
本発明の,非常時に装置表面のつまみを引くことにより呼吸のための開口を開く手法により,ポンプの故障またはバッテリ電圧の低下により,所定の空気供給量を確保できなくなった際に,マスクを脱ぐ手間無く,素早く新鮮な空気の呼吸用の開口を開くことができ,非常時のマスク内の酸素濃度の低下とCO2濃度の上昇による人体への影響を防ぐことができる.
【実施例0137】
実施例13は,請求項6の実施例である.実施例13は,非常時に口付近の排気フィルタのつまみを引くことにより呼吸のための開口を開くことを特徴とする,呼吸空気浄化器具である.
図22は,ヘルメット型呼吸空気浄化器具の前面に,取り外し可能なフィルタを持ち,非常時に呼吸のための開口部を開くことのできる呼吸空気浄化器具の実施例である.本装置は装着者の口近辺のウィンドウに空いた開口部と,開口部を塞ぐ排気フィルタで構成されている.通常時は,開口部は排気フィルタで覆われており,ヘルメット内の正圧で内部の空気が外に排出されている.ポンプの動作が停止した非常時には,フィルタ表面のつまみを引いてフィルタを取り外すことで開口が開き,マスク内の空気が換気されて新鮮な空気を呼吸することができる.開口部はマスクのウィンドウではなくビニールフード部に設けても良い.開口部は,フィルタを支えるために樹脂またはゴムのリングで補強してもよい.
図23は,排気フィルタを通気性の高い薄いフィルタと通気性は悪いがウイルス遮蔽率の高い厚いフィルタに分けた2重フィルタの実施例である.本フィルタは,緊急時に厚いフィルタのみ外す事ができる.通気性の高い薄いフィルタにより,換気が可能であり,加えて,薄いフィルタのみであっても,大きな飛沫は防げるため,感染の確率を大きく下げることが可能である.より高い通気性が必要な場合は,薄いフィルタも外すことができても良い.
【0138】
本発明の,非常時に口付近の排気フィルタのつまみを引くことにより呼吸のための開口を開く機構により,ポンプの故障またはバッテリ電圧の低下により,所定の空気供給量を確保できなくなった際に,マスクを脱ぐ手間無く,素早く新鮮な空気の呼吸用の開口を開くことができ,非常時のマスク内の酸素濃度の低下とCO2濃度の上昇による人体への影響を防ぐことができる.加えて,2重フィルタを用いると,感染の確率を下げつつマスク内の換気を行うことが可能である.
【実施例0139】
実施例14は,請求項7実施例である.実施例14は,非常時に自動的に呼吸のための開口を開くことを特徴とする,呼吸空気浄化器具である.
本装置は口近辺のウィンドウに空いた開口部と,開口部を塞ぐフィルタ,ソレノイドとバネで構成されたフィルタのロック・解放機構,バッテリ及びコントローラで構成される.ポンプの動作状況は,コントローラにおいてバッテリ電圧及びポンプのモーターの逆起電力を測定することで確認される.バッテリ電圧がしきい値以下に低下,またはモーターの逆起電力がしきい値以下に低下した際は,それぞれバッテリ切れ,ポンプの故障として判断され,フィルタロック機構のソレノイドが動作される.バッテリが瞬時に切断された場合も対応できるように,コントローラ内部のコンデンサにソレノイドの駆動に必要な電力を貯めておいてもよい.ソレノイドが動作してプランジャがソレノイド内部に引き込まれると,ロックが外れバネの力により排気フィルタが外れ開口が開く.その際,フィルタ部を通気性の高い薄いフィルタと通気性は悪いがウイルス遮蔽率の高い厚いフィルタに分けた2重フィルタ構造としておき,緊急時には厚いフィルタのみ外れるようにしても良い.薄いフィルタのみであっても,大きな飛沫は防げるため,感染の確率を大きく下げることが可能である.図24は2重フィルタの自動解放機構の実施例である.
本発明の,非常時に自動的に呼吸のための開口を開く機構により,ポンプの停止を自動で検出し,自動で外気を取り入れることが可能となるため,非常時のマスク内の酸素濃度の低下とCO2濃度の上昇による人体への影響を防ぐことが可能である.
【実施例0140】
実施例15は,本発明に関連する実施例である.実施例15は,周囲の他者の装着している呼吸空気浄化器具装着状況の記録・管理システムと通信し,周囲の人のマスク着用状況と感染予防指数を表示することを特徴とする,呼吸空気浄化器具装着状況の記録・管理システムである.
本システムは,Wi-FiやBluetooth等の無線通信手段を持ち,周囲の記録・管理システムと通信して,呼吸空気浄化器具の位置,呼吸空気浄化器具の装着状況,呼吸空気浄化器具の種類を相互に情報交換する.集められた情報は,呼吸空気浄化器具の表示装置に地図とともに表示される.表示装置が拡張現実機能を持つ場合,視界内の人に重畳して呼吸空気浄化器具の装着状況や呼吸空気浄化器具の種類と感染予防の性能を表示しても良い.また,拡張現実表示装置のカメラを用いて呼吸空気浄化器具を未装着の人がいる際は,危険人物として強調表示しても良い.
本発明の,周囲の他者の装着している呼吸空気浄化器具装着状況の記録・管理システムと通信し,周囲の人のマスク着用状況と感染予防指数を表示するという特徴により,呼吸空気浄化器具を付けていない人物を避けたり,知人の装着状況を見て食事に誘うかどうかを判断したりすることが可能である.
【実施例0141】
実施例16は,本発明に関連する実施例である.実施例16は,感染者の移動経路をサーバに問合せ,表示装置内の地図や装着者の視野に感染の危険度を色分けして表示することを特徴とする,呼吸空気浄化器具装着状況の記録・管理システムである.
本システムはWi-Fiやモバイルデータ通信により,インターネットへ接続する機能とGPSおよびWi-Fiおよびモバイル通信の基地局からの電波状況を用いた位置計測機能と呼吸空気浄化器具の表示装置に情報を表示する機能で構成される.また,インターネット上には感染者の過去の移動経路のデータベースが設置されているとする.本システムは,インターネットを通じて,感染者の移動経路データベースへアクセスし,自身のこれまでの経路および現在地周辺において感染者が付近にいなかったかを照合する.照合の結果,過去の経路で感染者と遭遇していた場合は,場所と日時を装着者の呼吸空気浄化器具に表示し,感染者が周囲を一定期間以内に通過していた場合は,その付近の空間を危険度の高い空間として,呼吸空気浄化器具に地図上とともに危険度を色分けして表示する.表示装置が拡張現実機能を持つ場合,視界内の床に危険度を色分けして表示しても良い.
本発明の,感染者の移動経路をサーバに問合せ,表示装置内の地図や装着者の視野に感染の危険度を色分けして表示する特徴により,本システム利用者は,周囲の危険度を直感的に知ることができ,危険な場所への立ち入りを避けることが可能になる.
【実施例0142】
実施例17は,本発明に関連する実施例である.実施例17は,呼吸空気浄化器具のカメラを利用して,周囲の映像と音声を記録し,後に再生する機能と,再生権は装着者本人のみが所有し,警察等の捜査依頼に関して一時的に再生権を委譲できることを特徴とする,呼吸空気浄化器具装着状況の記録・管理システムである.
本システムは,呼吸空気浄化器具が持つカメラの映像を暗号化して記録する機能と,暗号化パスワードを時間とともに変化させる機能と,装着者本人を認証する機能と,特定時間の暗号化パスワードを再発行する機能を持つ.カメラの撮影した画像または映像は暗号化されて本システムに保存される.その暗号化パスワードは時間とともに変動する.本人認証が成功すると,本システムは要求された時刻のパスワードを再発行し,呼吸空気浄化器具または別の表示装置で,再発行されたパスワードを用いて暗号化を解除することで,本システムで録画された画像または映像を見ることができる.警察等からの捜査への協力依頼が来た場合は,本人の認証と同意がある場合のみ,システムは要求された時間帯の暗号化されたデータと再発行したパスワードを警察のもつ記録媒体,または警察の管理するWEB上の記録領域へ転送する.
本発明の,呼吸空気浄化器具のカメラを利用して,周囲の映像と音声を記録し,後に再生する機能と,再生権は装着者本人のみが所有し,警察等の捜査依頼に関して一時的に再生権を委譲できる特徴により,装着者本人は生活ログとして本システムに記録された映像を鑑賞することができるほか,プライバシーを守りつつ事件や事故の捜査にも役立てることが可能である.
【実施例0143】
実施例18は,本発明に関連する実施例である.実施例18は,スマートフォンのアプリを用いて呼吸空気浄化器具を装着した写真を撮影することにより,画像解析にて装着されている呼吸空気浄化器具の種類を判定する機能を有し,さらに複数の角度から撮影された写真から装着方法の正誤を判定し,正しい装着方法を教示する機能を有する事を特徴とする,呼吸空気浄化器具装着状況の記録・管理システムである.
本システムは,スマートフォンアプリと呼吸空気浄化器具により構成される.呼吸空気浄化器具を装着し,装着者の頭部をスマートフォンのカメラで撮影すると,スマートフォン内で,または,インターネット経由でサーバへ画像が送られて,画像解析により呼吸空気浄化器具の種類が判別されスマートフォンに表示される.加えて,呼吸空気浄化器具が正しく装着されているかどうかを判定し,正しく装着できていない場合は正しい装着方法をスマートフォン画面に表示する.
本発明の,スマートフォンのアプリを用いて呼吸空気浄化器具を装着した写真を撮影することにより,画像解析にて装着されている呼吸空気浄化器具の種類を判定する機能,複数の角度から撮影された写真から装着方法の正誤を判定し正しい装着方法を教示する機能により,マスクの種類ごとに異なるマスクの装着方法を間違えることによる感染を防ぐ事が可能である.
【実施例0144】
実施例19は,請求項8の実施例である.実施例19は,内部にマイク及び/またはスピーカと,外部にマイク及び/またはスピーカを持ち,呼吸空気浄化器具外部の音を装着者に聞こえやすくし,及び/または,装着者の音声を外部に拡声して伝える事を特徴とする,呼吸空気浄化器具である.
図25は,マスク内側にあって装着者本人の声を拾うマイク1とマスク外側にあって外部に拡声するスピーカ1と,マスク外側にあって外部の音を拾うマイク2とマスク内側にあって外部の音を装着者へ伝えるスピーカ2とで構成される実施例である.マイク1で拾われた装着者の音声は,スピーカ1により増幅されて放射される.マイク2で拾われたマスク外部の音声は,スピーカ2により装着者に増幅されて伝達される.マスク外側のスピーカ1及びマイク2はスマートフォンを用いても良い.
本発明の,呼吸空気浄化器具外部の音を装着者に聞こえやすくし,装着者の音声を外部に拡声して伝えるという特徴により,内部の遮音性が高い呼吸空気浄化器具を装着していても,周囲の人と会話することが可能である.
【実施例0145】
実施例20は,請求項9の実施例である.実施例20は,マイクおよびスピーカを持ち,他の呼吸空気浄化器具と無線通信により音声データを送受信して会話する機能を持ち,通話対象及び範囲を設定可能で,通話状況を視覚的に表示する機能を持つ事を特徴とする,呼吸空気浄化器具である.
本装置は,装着者本人の声を拾うマイクと装着者に音を伝えるスピーカ,無線通信装置で構成される.装着者同士の会話はBluetoothもしくは無線LANを経由して行われる.会話は1対1およびグループ間通話でもよいし,1対多で会話するためのブロードキャストモードを持っていても良い.ブロードキャストモードでは,近くにいる受信者全員に音声データが送信される.受信者の呼吸空気浄化器具では,無線LANまたはBluetoothの電波強度から推定される発信者との距離に応じて,音声データを再生するか無視するかが決定される.その際,声の大きさによって発信者の音声が再生される距離を自動的に変えても良い.たとえば,ブロードキャストモードで小さな声で発話した場合は,距離の近い呼吸空気浄化器具のみで再生され,大きな声で発話した場合は離れた場所にある呼吸空気浄化器具でも再生される.また,声の大きさによって,1対1もしくは,グループ通話から,ブロードキャストモードに自動で切り替わっても良い.たとえば,離れた場所にいる呼吸空気浄化器具装着者と会話している際に,周囲にいる人に危険が迫っているのに気がついた際に,とっさに大きな声で「危ない!」と発言することでブロードキャストモードに切り替わり,周囲にいる呼吸空気浄化器具装着者に注意喚起することが可能になる.発話者と受信者のリストは呼吸空気浄化器具の表示装置に表示される.表示装置が拡張現実機能を持つ場合,装着者の視界内で発話者と受信者の頭上に発話と受信の様子をアイコンで表示してもよい.
本発明の,マイクおよびスピーカを持ち,他の呼吸空気浄化器具と無線通信により音声データを送受信して会話する機能を持ち,通話対象及び範囲を設定可能で,通話状況を視覚的に表示する機能を持つという特徴により,工事現場のような騒音環境下でも音声による会話が可能となり,通話対象以外の呼吸空気浄化器具装着者にも注意喚起を行うことが可能になるため,呼吸空気浄化器具の利便性を高めるとともに,安全な運用が可能である.
【実施例0146】
実施例21は,請求項10の実施例である.実施例21は,GPSにより位置を,磁気センサにより方位を測定し,位置,発信者の向き,声の大きさに応じて音声の伝達範囲を自動的に設定する事を特徴とする,呼吸空気浄化器具である.
本装置は,装着者本人の声を拾うマイクと装着者に音を伝えるスピーカ,無線通信装置,GPS,地磁気センサで構成される.装着者同士の会話はBluetoothもしくは無線LANを経由して行われる.会話は1対1およびグループ間通話でもよいし,1対多で会話するための選択的ブロードキャストモードを持っていても良い.図26に選択的ブロードキャスト機能利用時の発信者と受信者の位置関係を示す.発信者および受信者の呼吸空気浄化器具は,GPSにより位置,地磁気センサにより向きを測定し,発信者および受信者の位置および向いている方向の情報を互いに共有する.発信者の前方に扇形の領域が設定され,発信者からの距離に応じて,範囲境界線A,範囲境界線B,範囲境界線Cで区切られている.発信者の声が小さい場合は,範囲境界線Aの内部にいる受信者Aの呼吸空気浄化器具のみで発信者の音声が再生され,それ以外の受信者の呼吸空気浄化器具では再生されない.発信者が大きな声で発言した場合,範囲境界線Bまでを再生範囲とし,受信者Aと受信者Bの呼吸空気浄化器具で発信者の音声が再生される.受信者Cは,発信者からの扇形の範囲から外れているため,発信者の音声が再生されない.
発話者と受信者のリストは呼吸空気浄化器具の表示装置に表示される.表示装置が拡張現実機能を持つ場合,装着者の視界内で発話者と受信者の頭上に発話と受信の様子をアイコンで表示してもよい.
本発明の,GPSにより位置を,磁気センサにより方位を測定し,位置,発信者の向き,声の大きさに応じて音声の伝達範囲を自動的に設定するという特徴により,1対多の無線通話においては,声の届く範囲を直感的に制御できることに加え,誰に声が届いていて誰に届いていないかが視覚的に明らかとなり,盗み聞きを防ぐことが可能となる.
【実施例0147】
実施例22は,請求項11の実施例である.実施例22は,センサ(マイク,圧力センサ,流量センサ,二酸化炭素センサおよび脳波センサ)を用いて,装着者の健康状態をモニタする事を特徴とする,呼吸空気浄化器具である.
図27に,呼吸空気浄化器具の持つセンサ(マイク,圧力センサおよび脳波センサ)を用いて,装着者の健康状態をモニタする機能を有する呼吸空気浄化器具の実施例を示す.マイクにより呼吸音,いびきの大きさと頻度を計測し,圧力センサで呼吸の深さを計測し,脳波センサで脳の活動状態を計測する.それぞれのセンサの値は装置内に記録され,解析される.
本発明の,センサ(マイク,圧力センサ,流量センサ,二酸化炭素センサおよび脳波センサ)を用いて,装着者の健康状態をモニタする特徴により,肺炎や睡眠時無呼吸症候群などの呼吸器系の疾患の発見と睡眠の質の測定を行うことが可能になる.
【実施例0148】
実施例23は,請求項12の実施例である.実施例23は,呼吸空気浄化器具内部にあるセンサ(マイク,圧力センサ,流量センサ,二酸化炭素センサおよび脳波センサ)を用いて装着者の健康状態をモニタし,アロマディフューザとスピーカを用いて状況に合わせた香りと環境音を発生させる事を特徴とする,呼吸空気浄化器具である.
図28は,マイク,圧力センサ,脳波センサ,スピーカ,アロマディフューザを持つ呼吸空気浄化器具の実施例である.本システムは,装着者の健康状態をマイク,圧力センサ,脳波センサでモニタし,状況に合わせた香りと環境音をアロマディフューザとスピーカで発生させる.たとえば,仕事中は覚醒を促すミントの香りとリズミカルな曲,睡眠前は気持ちを落ち着かせるラベンダーの香りと遠くから聞こえるさざ波の音などである.
本装置の,センサ(マイク,圧力センサ,流量センサ,二酸化炭素センサおよび脳波センサ)を用いて装着者の健康状態をモニタし,アロマディフューザとスピーカを用いて状況に合わせた香りと環境音を発生させるという特徴により,状況に応じて装着者の気持ちを切り替える手助けをし,装着者の生活の質(QOL)を向上させることが可能である.
【実施例0149】
実施例24は,請求項13の実施例である.実施例24は,オゾン発生装置を有し,器具内部の殺菌消臭を行うことを特徴とする,呼吸空気浄化器具である.
図29は,オゾン発生器を持ち,呼吸空気浄化器具内部へオゾンを放出して内部の殺菌と消臭を行う呼吸空気浄化器具の実施例である.オゾン発生器で発生したオゾンは,ポンプの風にのって呼吸空気浄化器具内部へ拡散される.人が呼吸空気浄化器具を装着している間は,人体に影響がない程度の低濃度(0.01ppm以下)のオゾンを発生し,人が呼吸空気浄化器具を脱いだあとは,高濃度(1ppm以上)のオゾンを発生させ,呼吸空気浄化器具内部の細菌とウイルスを殺菌・不活性化し,同時に臭いの元となる有機物を分解し消臭する.
呼吸空気浄化器具は,皮脂の付着,呼吸器に含まれる湿気により細菌が繁殖しやすい状況にあり,細菌による有機物の分解過程で発生する悪臭も発生しやすい状況である.本装置の,オゾン発生装置を有し,器具内部の殺菌消臭を行うという特徴により,呼吸空気浄化器具を清潔に保ち,不快な悪臭の発生を抑えることが可能である.
【産業上の利用可能性】
【0150】
ロックダウンを不要化する社会基盤として提案している「自由外出マスク」の装着率を自動的に測定できるシステムは,極めて大きな潜在的な需要があると考えている.本発明に基づく「呼吸空気浄化器具装着状況の記録・管理システム.」について,巨大な新産業が創出されることが予想される.

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