(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024095812
(43)【公開日】2024-07-10
(54)【発明の名称】小児期及び若年成人期においてインスリン抵抗性を発症するリスクについてのマーカー
(51)【国際特許分類】
G01N 33/68 20060101AFI20240703BHJP
【FI】
G01N33/68
【審査請求】有
【請求項の数】9
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2024065292
(22)【出願日】2024-04-15
(62)【分割の表示】P 2021511571の分割
【原出願日】2019-09-24
(31)【優先権主張番号】18197378.5
(32)【優先日】2018-09-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(71)【出願人】
【識別番号】590002013
【氏名又は名称】ソシエテ・デ・プロデュイ・ネスレ・エス・アー
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100140453
【弁理士】
【氏名又は名称】戸津 洋介
(74)【代理人】
【識別番号】100167597
【弁理士】
【氏名又は名称】福山 尚志
(72)【発明者】
【氏名】マーティン, フランソア‐ピエール
(72)【発明者】
【氏名】ハーガー, ヨルク
(72)【発明者】
【氏名】ピンクニー, ジョナサン
(72)【発明者】
【氏名】ホスキン, ジョアン
【テーマコード(参考)】
2G045
【Fターム(参考)】
2G045AA25
2G045CA26
2G045DA35
2G045DA43
(57)【要約】 (修正有)
【課題】対象の生体液について高血糖値を予測する方法に関する。また、青年期の対象における、グルコース値の管理を改善する方法も提供される。対象の生体液について高HOMA-IRを予測する方法に関する。また、グルコース及びインスリン代謝の改善方法も提供される。
【解決手段】対象におけるインスリン抵抗性(IR)を予測するための方法であって、
a.小児又は青年である前記対象から採取した生体液試料中の、ヒスチジン、クエン酸、3-D-ヒドロキシ酪酸、リジンのうちの1つ以上、の値を測定することと、
b.測定したヒスチジン、クエン酸、3-D-ヒドロキシ酪酸、リジンのうちの1つ以上の値を、基準値と比較することと、
c.測定したヒスチジン、クエン酸、3-D-ヒドロキシ酪酸、リジンのうちの1つ以上の値が、bにおける前記基準値よりも低い場合、
成人期におけるIRのリスクが高いとして前記対象を識別することと、
を含む、方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象におけるインスリン抵抗性(IR)を予測する方法であって、
a.(i)前記対象の生体液試料中の、乳酸及びヒスチジン、並びにクエン酸と3-D-ヒドロキシ酪酸とリジンとグリシンとクレアチンとのうちの1つ以上、の値を測定すること、又は(ii)前記対象の生体液試料中の、乳酸とヒスチジンとクエン酸と3-D-ヒドロキシ酪酸とリジンとグリシンとクレアチンとのうちの1つ以上の値を測定することと、
b.乳酸、ヒスチジン、クレアチン:グリシン比、クエン酸、3-D-ヒドロキシ酪酸、リジンのうちの1つ以上の値を、基準値と比較することと、
c.
(I)乳酸、クレアチン:グリシン比のうちの1つ以上の値が、bにおける前記基準値よりも高い場合、又は
(II)ヒスチジン、クエン酸、3-D-ヒドロキシ酪酸、リジンのうちの1つ以上の値が、bにおける前記基準値よりも低い場合、
IRのリスクが高いとして前記対象を識別することと、
を含む、方法。
【請求項2】
請求項1に記載の対象におけるIRを予測する方法であって、
a.(i)小児又は青年である前記対象から採取した生体液試料中の、乳酸及びヒスチジン、並びにクエン酸と3-D-ヒドロキシ酪酸とリジンとグリシンとクレアチンとのうちの1つ以上、の値を測定すること、又は(ii)小児又は青年である前記対象から採取した生体液試料中の、乳酸とヒスチジンとクエン酸と3-D-ヒドロキシ酪酸とリジンとグリシンとクレアチンとのうちの1つ以上の値を測定することと、
b.乳酸、ヒスチジン、クレアチン:グリシン比、クエン酸、3-D-ヒドロキシ酪酸、リジンのうちの1つ以上の値を、基準値と比較することと、
c.
(I)乳酸、クレアチン:グリシン比のうちの1つ以上の値が、bにおける前記基準値よりも高い場合、又は
(II)ヒスチジン、クエン酸、3-D-ヒドロキシ酪酸、リジンのうちの1つ以上の値が、bにおける前記基準値よりも低い場合、
青年期及び/又は成人期におけるIRのリスクが高いとして前記対象を識別することと、
を含む、方法。
【請求項3】
対象におけるIRを予測する方法であって、
a.小児又は青年である前記対象から採取した前記生体液試料中の乳酸の値を測定することと、
b.乳酸の値を基準値と比較することと、
c.乳酸の値がbにおける前記基準値よりも高い場合、青年期及び/又は成人期における高IRのリスクが高いとして前記対象を識別することと、を含む、請求項1及び2に記載の方法。
【請求項4】
対象におけるIRを予測する方法であって、
a.小児又は青年である前記対象から採取した前記生体液試料中のグリシン及びクレアチンの値を測定することと、
b.クレアチン:グリシン比の値を基準値と比較することと、
c.クレアチン:グリシン比の値がbにおける前記基準値よりも高い場合、青年期及び/又は成人期における高IRのリスクが高いとして前記対象を識別することと、を含む、請求項1及び2に記載の方法。
【請求項5】
対象におけるIRを予測する方法であって、
a.小児又は青年である前記対象から採取した前記生体液試料中のヒスチジンの値を測定することと、
b.乳酸の値を基準値と比較することと、
c.ヒスチジンの値がbにおける前記基準値よりも高い場合、青年期及び/又は成人期における高IRのリスクが高いとして前記対象を識別することと、を含む、請求項1及び2に記載の方法。
【請求項6】
対象におけるIRを予測する方法であって、ステップa(i)において、前記対象から採取した生体液試料中の、乳酸、ヒスチジン、クレアチン、グリシン、及び、クエン酸と3-D-ヒドロキシ酪酸とリジンとのうちの1つ以上、の値を測定する、請求項1及び2に記載の方法。
【請求項7】
対象におけるIRを予測する方法であって、ステップa(i)において、前記対象から採取した生体液試料中の、乳酸、ヒスチジン、クレアチン、グリシン、及び、クエン酸と3-D-ヒドロキシ酪酸とリジンとのうちの2つ以上、の値を測定する、請求項1及び2に記載の方法。
【請求項8】
対象におけるIRを予測する方法であって、ステップa(i)において、前記対象から採取した生体液試料中の、乳酸、ヒスチジン、クレアチン、グリシン、クエン酸、3-D-ヒドロキシ酪酸、リジンの値を測定する、請求項1及び2に記載の方法。
【請求項9】
対象におけるIRを予測する方法であって、ステップa(i)において、小児である対象から前記生体液試料を採取し、ステップcにおいて、青年期におけるIRのリスクが高いとして前記対象を識別する、請求項1~8に記載の方法。
【請求項10】
対象におけるIRを予測する方法であって、ステップa(i)において、小児である対象から前記生体液試料を採取し、ステップcにおいて、成人期におけるIRのリスクが高いとして前記対象を識別する、請求項1~8に記載の方法。
【請求項11】
対象におけるIRを予測する方法であって、ステップa(i)において、青年期の対象から前記生体液試料を採取し、ステップcにおいて、青年期におけるIRのリスクが高いとして前記対象を識別する、請求項1~8に記載の方法。
【請求項12】
対象におけるIRを予測する方法であって、ステップa(i)において、青年期の前記対象から前記生体液試料を採取し、ステップcにおいて、成人期におけるIRのリスクが高いとして前記対象を識別する、請求項1~8に記載の方法。
【請求項13】
対象におけるIRを予測する方法であって、前記対象が5~7歳のときに、前記生体液試料を採取する、請求項1~10に記載の方法。
【請求項14】
対象におけるIRを予測する方法であって、前記対象が6歳のときに、前記生体液試料を採取する、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
対象におけるIRを予測する方法であって、前記生体液試料を採取するときに、前記対象が過体重ではない、請求項1~14のいずれか一項に記載の方法。
【請求項16】
対象におけるIRを予測する方法であって、前記生体液試料を採取するときに、前記対象が肥満ではない、請求項1~15のいずれか一項に記載の方法。
【請求項17】
対象におけるIRを予測する方法であって、前記生体液試料が、ヒト血清である、請求項1~16のいずれか一項に記載の方法。
【請求項18】
小児又は青年期の対象におけるグルコース値の管理を改善する方法であって、(i)前記対象が請求項1~17のいずれか一項に記載のIRを有するかを予測することと、(ii)青年期及び/又は成人期におけるインスリン抵抗性を有するリスクが高いとして識別された対象の、生活習慣の修正方法を提示することと、を含み、食事介入によりインスリン感受性を増強し、インスリン抵抗性を低下させ、及び/又はグルコース値を低下させる、改善方法。
【請求項19】
小児又は青年期の対象におけるグルコース値の管理を改善する方法であって、前記生活習慣の修正によりインスリン抵抗性を低下させる、請求項18に記載の改善方法。
【請求項20】
小児又は青年期の対象におけるグルコース値の管理を改善する方法であって、前記生活習慣の修正を、思春期前及び/又は思春期の期間に提供する、請求項18又は19に記載の改善方法。
【請求項21】
小児又は青年期の対象におけるグルコース値の管理を改善する方法であって、特に成人期初期における、1つ以上の代謝障害、特に2型糖尿病の発症について、可能性を減少させ、又は発症を予防する、請求項18~20に記載の改善方法。
【請求項22】
小児又は青年期の対象におけるグルコース値の管理を改善する方法であって、前記生活習慣の修正を、思春期前、思春期、及び青年期の期間に提供する、請求項18~21に記載の改善方法。
【請求項23】
小児又は青年期の対象におけるグルコース値の管理を改善する方法であって、前記対象における前記生活習慣の修正が、食生活の変更を含む、請求項18~21に記載の改善方法。
【請求項24】
小児又は青年期の対象におけるグルコース値の管理を改善する方法であって、前記食生活の変更が、グルコースの値を調節する食生活の一部をなす少なくとも1つの栄養製品を前記対象に与えることを含む、請求項18~21に記載の改善方法。
【請求項25】
小児又は青年期の対象におけるグルコース値の管理を改善する方法であって、前記対象におけるグルコースの低下を促進し又はグルコース値の増加を防止する食事療法の一部をなす少なくとも1つの栄養製品を、前記対象に与えること、請求項24に記載の改善方法。
【請求項26】
小児又は青年である対象の生体液試料において、乳酸とヒスチジンとクエン酸と3-D-ヒドロキシ酪酸とリジンとグリシンとクレアチンとのうちの1つ以上の値を測定するための手段を含むパーツからなるキット。
【請求項27】
小児又は青年である対象が青年期及び/又は成人期においてIRを有すること又は前糖尿病を発症することを予測するための、請求項26に記載のパーツからなるキットの使用。
【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】
【0001】
序論
2013年の時点で、世界で18億人の青少年(世界人口の25%)及び約4千2百万人の5歳未満の小児が、過体重又は肥満であり、小児期及び青年期における前糖尿病及び2型糖尿病(T2D)の管理が重要になってきている。前糖尿病及びT2Dのいずれも、ほとんどが予防可能であり、生活習慣、食物摂取量及び運動に密接に関連していることから、栄養摂取には極めて重要な役割がある。
【0002】
更に、小児における(前)糖尿病は、インスリン、性的成熟及び成長、低血糖症に対する神経学的脆弱性、並びに自己管理能力を含む、多くの生理学的及び代謝的様相が成人とは異なる。しかしながら、インスリン抵抗性(IR)が顕著な変動の影響下にあり、特に、思春期になる時機、並びに身体組成及び身体活動の両方の変化が影響する小児のデータは、成人の研究と比較して少ない。若年者では、思春期のIRの有意性には議論の余地があり、更に、肥満とIRとを関連付ける根本的な機序についての理解が不十分である。IRは、インスリン感受性の組織におけるインスリン介在性のグルコースの取込みに対する抵抗性に関連するが、小児期及び思春期のIRは、成長ホルモンの分泌量の増加による影響(直接なもの又はIGF-1の作用を介するもののいずれか)を含む様々な代謝要件及び生理学的要件により生じ得る(Pinkney,Streeter et al.2014)。
【0003】
小児期、及び青年期の代謝面での健康において、肥満は、正常な成長及び思春期パターンを有意に障害する(Sandhu et al.,2006;Marcovecchio and Chiarelli,2013)。Earlybird調査からの最近の分析により、思春期では年齢及び性別がIRに重要な影響を及ぼすことが実証された(Jeffery S et al.Pediatric Diabetes,2017)。これは成人の表現型とは多くの点で異なっている(Jeffery S et al.2012)。この調査により、思春期の数年前の小児期中期においてIRがどのようにして増強され始めるかが実証されたが、思春期前のIRにおける60%超の変動はなお原因不明である。更に、糖尿病を検出するための、並びに糖尿病を発症するリスクが高い個体、及び成人の代謝疾患のリスクがある個体を特定するための、従来のマーカー、例えばHbA1cは、小児用途では感度及び特異性が減じるため、若年者におけるこれらのマーカーの変化には他の因子が影響していることが示唆されている(Hosking et al.,2014)。
【0004】
現在調査されており、重要である可能性のある因子には、小児期の過剰な体重によるものがある。過剰な体重は、思春期のはじまる時機及びホルモンレベルに影響して、思春期における発育にも影響することがある(Marcovecchio and Chiarelli,2013)。脂肪症と思春期との相互的影響は、複雑で遺伝特異的なものである。更に女児における、IRの制限レベルが高くなるほど長期的には体脂肪が更に増加するという観察は、IRは体重増加に対する適応的応答としてのインスリン脱感作の機序であるとする概念と合致する(Hosking et al.,2011)。最近では、体重増加及び糖代謝障害は、皮下脂肪細胞による脂肪分解が非効率的なものであることによって予測されることが示されている(Arner,Andersson et al.2018)。脂肪細胞による脂肪酸の動員(脂肪分解)は、エネルギー消費に関与する。脂肪分解は、自発的(基礎)活性及びホルモン刺激活性の両方を示す。したがって、非効率的な脂肪分解(基礎的な分解が高いこと/刺激による分解が低いこと)は、その後の体重増加及びグルコース代謝障害に関連するものであり、治療目標になり得る。
【0005】
思春期が長期身体組成に及ぼす影響を調査することを特に目的として、小児における安静時代謝量及び体重増加の役割が議論されている。肥満は、エネルギー摂取量がエネルギー消費量よりも大きい場合に進行し、超過したエネルギーは、主に脂肪として脂肪組織に蓄えられる。減量と、体重増加の予防とは、エネルギーの摂取量若しくは生物学的利用能を低減させること、エネルギー消費量を増大させること、及び/又は脂肪としての貯蔵を低減させることにより達成することができる。しかしながら、過体重の対象者又は過体重となるリスクがある対象者は、多くの場合、例えば満腹感を高めること、及び/又は体重増加を減少させることにより体重をより良く管理するために、栄養学的な補助を必要としている。
【0006】
肥満はIRの発症と強く関連しており、成人及び小児のいずれにおいても、肥満、IR、グルコース調節異常、及び2型糖尿病発症の間に強い関連性がある。しかし、肥満個体の全てが糖尿病を発症するわけではなく、また肥満とIRとを関連付ける根本的な機序は十分には解明されていない。糖尿病がインスリン分泌不全及び/又はIRの合併症から生じることは広く認められているが、ヒトのインビボでインスリン分泌及びIRを正確に測定するには問題がある。このような測定のための最も高感度の方法(例えば、高血糖クランプ、正常血糖高インスリンクランプ、又はマルチポイント経口耐糖能試験)は、反復測定を伴う長期前向き研究にあまり適しておらず、これらは概して、小児における反復使用にはあまりにも侵襲的と見られる。したがって、より単純な代替法が必要とされている。新規代謝バイオマーカーの特定は、肥満についての単純な測定又はインスリン分泌及び作用についてのより複雑な測定よりも正確に糖尿病のリスクがある個体を識別する可能性を有するのみならず、肥満及びIRを関連付ける機序を更に解明する可能性も有する。
【0007】
これらの特定のエビデンスギャップに対処するために、EarlyBird調査は、小児期及び青年期のグルコース及びインスリン代謝に対し身体形態の推移、臨床的な推移、及び代謝の推移が与える影響を調査することを意図した、健康な小児の縦断的コホート研究として設計された。EarlyBirdのコホートは、300名の健常な英国小児を小児期の間に毎年追跡調査した、非介入的な前向き調査である。研究員らは、5歳から20歳までのEarlybirdの小児期コホートにおいて、身体形態データ、臨床データ、及び血清バイオマーカー(代謝)のデータをはじめとする、これらの様々なデータ型の経時的な変動を統合及び相関させるという、困難な課題に取組んだ。
【0008】
定義
本明細書全体にわたって使用される様々な用語は、以下に示すように定義される。
【0009】
以下の用語は、本発明の対象、特にヒト対象の様々な早期ライフステージを説明するために、本明細書を通して使用される。
【0010】
乳児、新生児:生後1ヶ月以内の対象(ヒト)、
乳児:1~23ヶ月齢の対象(ヒト)、
小児、就学前:2~5歳の対象(ヒト)、
小児:6~12歳の対象(ヒト)、
思春期前:6~7歳の対象(ヒト)、
小児期中期:7~8歳の対象(ヒト)、
青年期(又は青年期):13~18歳の対象(ヒト)(他の対象において相当する早期ライフステージは、例えば、イヌでは、6~18ヶ月齢である)。
成人期:19歳以上。
【0011】
本明細書全体にわたって記述される様々な代謝産物は、他の名称によっても知られている。例えば、代謝産物「3-D-ヒドロキシブチレート」は、(R)-(-)-β-ヒドロキシ酪酸、(R)-3-ヒドロキシブタン酸、3-D-ヒドロキシ酪酸、D-3-ヒドロキシ酪酸、(R)-(-)-b-ヒドロキシブチレート、(R)-(-)-b-ヒドロキシ酪酸、(R)-(-)-β-ヒドロキシブチレート、(R)-(-)-β-ヒドロキシブチレート、(R)-(-)-β-ヒドロキシ酪酸、(R)-3-ヒドロキシブチレート、(R)-3-ヒドロキシブタノエート、3-D-ヒドロキシブチレート、D-3-ヒドロキシブチレート、3-δ-ヒドロキシブチレート、3-δ-ヒドロキシ酪酸、BHIB、D-(-)-3-ヒドロキシブチレート、D-β-ヒドロキシブチレート、δ-(-)-3-ヒドロキシブチレート、δ-3-ヒドロキシブチレート、δ-3-ヒドロキシ酪酸、及びδ-β-ヒドロキシブチレートとも呼称される。
【0012】
代謝産物「シトレート」は、クエン酸、2-ヒドロキシ-1,2,3-プロパントリカルボン酸、2-ヒドロキシトリカルバリル酸、3-カルボキシ-3-ヒドロキシペンタン-1,5-二酸、2-ヒドロキシ-1,2,3-プロパントリカルボキシレート、2-ヒドロキシトリカルバリレート、3-カルボキシ-3-ヒドロキシペンタン-1,5-ジオエート、β-ヒドロキシトリカルバリレート、β-ヒドロキシトリカルバリル酸とも呼称される。
【0013】
代謝産物「乳酸」は、L-乳酸、(+)-乳酸、(S)-(+)-乳酸、(S)-2-ヒドロキシプロパン酸、(S)-2-ヒドロキシプロピオン酸、L-(+)-α-ヒドロキシプロピオン酸、L-(+)-乳酸、L-(+)-α-ヒドロキシプロピオネート、(S)-2-ヒドロキシプロパノエート、1-ヒドロキシエタン1-カルボキシレート、乳酸、サルコ乳酸、D-乳酸とも呼称される。
【0014】
代謝産物「クレアチン」は、((アミノ(イミノ)メチル)(メチル)アミノ)酢酸、(α-メチルグアニド)酢酸、(N-メチルカルバミミダミド)酢酸、α-メチルグアニジノ酢酸、メチルグリコシアミン、(N-アミノイミノメチル)-N-メチルグリシン、N-[(e)-アミノ(イミノ)メチル]-N-メチルグリシン、N-アミジノサルコシン、N-カルバミミドイル-N-メチルグリシン、N-メチル-N-グアニルグリシン、(α-メチルグアニド)アセテート、メチルグアニドアセテート、[[アミノ(イミノ)メチル](メチル)アミノ]アセテート、(N-メチルカルバミミダミド)アセテートとも呼称される。
【0015】
代謝産物「ヒスチジン」は、(S)-4-(2-アミノ-2-カルボキシエチル)イミダゾール、(S)-α-アミノ-1H-イミダゾール-4-プロパン酸、(S)-α-アミノ-1H-イミダゾール-4-プロピオン酸、(S)-1H-イミダゾール-4-アラニン、(S)-2-アミノ-3-(4-イミダゾリル)プロピオン酸、(S)-ヒスチジン、(S)1H-イミダゾール-4-アラニン、3-(1H-イミダゾール-4-イル)-L-アラニン、アミノ-1H-イミダゾール-4-プロパノエート、アミノ-1H-イミダゾール-4-プロパン酸、アミノ-4-イミダゾールプロピオネート、アミノ-4-イミダゾールプロピオン酸、グリオキサリン-5-アラニンとも呼称される。
【0016】
代謝産物「グリシン」は、アミノ酢酸、アミノ酢酸(Aminoessigsaeure)、アミノエタン酸、グリココール、グリココール(Glykokoll)、グリシン(Glyzin)、ライムザッカー(Leimzucker)、2-アミノアセテート、アミノ酢酸、グリコアミン、グリコリキシル、グリコステン(Glycosthene)、Gyn-ヒドラリン、パディルHMDBとも呼称される。
【0017】
代謝産物「リジン」は、(S)-2,6-ジアミノヘキサン酸、(S)-α,ε-ジアミノカプロン酸、(S)-リジン、6-アンモニオ-L-ノルロイシン、L-2,6-ジアミノカプロン酸、L-リジン、リジン(Lysina)、リジン酸、リジナム、(S)-2,6-ジアミノヘキサノエート、(+)-S-リジン、(S)-2,6-ジアミノ-ヘキサノエート、(S)-2,6-ジアミノ-ヘキサン酸、(S)-a,e-ジアミノカプロエート、(S)-a,e-ジアミノカプロン酸、2,6-ジアミノヘキサノエート、2,6-ジアミノヘキサン酸、6-アミノ-アミヌトリン、6-アミノ-L-ノルロイシン、a-リジン、α-リジン、アミヌトリン(Aminutrin)、L-2,6-ジアミノヘキサノエート、L-2,6-ジアミノヘキサン酸、エニシルMeSHとも呼称される。
【0018】
代謝産物「アルギニン」は、(2S)-2-アミノ-5-(カルバムイミドアミド)ペンタン酸、(2S)-2-アミノ-5-グアニジノペンタン酸、(S)-2-アミノ-5-グアニジノペンタン酸、(S)-2-アミノ-5-グアニジノ吉草酸、L-(+)-アルギニン、(S)-2-アミノ-5-[(アミノイミノメチル)アミノ]-ペンタノエート、(S)-2-アミノ-5-[(アミノイミノメチル)アミノ]-ペンタン酸、(S)-2-アミノ-5-[(アミノイミノメチル)アミノ]ペンタノエート、(S)-2-アミノ-5-[(アミノイミノメチル)アミノ]-ペンタン酸、2-アミノ-5-グアニジノバレラート、2-アミノ-5-グアニジノ吉草酸、5-[(アミノイミノメチル)アミノ]-L-ノルバリン、L-a-アミノ-D-グアニジノバレラート、L-a-アミノ-D-グアニジノ吉草酸、L-α-アミノ-δ-グアニジノバレラート、L-α-アミノ-δ-グアニジノ吉草酸、N5-(アミノイミノメチル)-L-オルニチンとも呼称される。
【0019】
用語「インスリン抵抗性(IR)」は、細胞がホルモンのインスリンに対して正常に応答できない病理的状態のことである。身体では、(主に)食事に含まれる炭水化物の消化によりグルコースが血流に放出され始めると、インスリンが生成される。インスリンの反応性が正常な状態では、このインスリン応答は、エネルギーとして使用するための血糖の身体細胞への取込みを生じ、身体が脂肪をエネルギーとして使用することを阻害することから、結果として血糖濃度は減少し、大量の炭水化物が摂取された場合であっても正常範囲内に留まる。しかし、インスリン抵抗性である間は、インスリンの存在下であっても過剰な血糖が細胞に十分に吸収されず、それにより血糖値の増加が引き起こされる。IRは、2型糖尿病及び前糖尿病に関与する因子の1つである。
【0020】
IRは、異なる尺度により診断することができる:
空腹時インスリン値:25mIU/L又は174pmol/Lを超える空腹時血清インスリン値は、インスリン抵抗性であるとみなされる。
耐糖能試験及びMatsuda指数。
Homeostatic Model Assessment(HOMA)、HOMA-IRの正常基準範囲は民族性及び性差に応じて異なり、集団ごとに定義する必要がある。
量的インスリン感受性検査指数(QYUICKI)。
高インスリン正常血糖クランプ。
改変したインスリン抑制試験。
【0021】
用語「前糖尿病」は、血漿の空腹時血糖値が5.6mmol/L以上であり、ただし、2型糖尿病と診断されるほどには高くない状態を示す。前糖尿病には、兆候又は症状がない。前糖尿病者では、2型糖尿病及び心血管(心臓及び循環器)疾患を発症するリスクが高い。健康的な食生活、活動量の増加、及び減量をはじめとする、継続的な生活習慣の変更がなされない場合、前糖尿病では3名のうち約1名が、2型糖尿病を発症するに至る。前糖尿病には2つの条件がある:
耐糖能異常は、75gの経口耐糖能試験において、2時間血糖値が140~199mg/dL(7.8~11.0mmol)であることとして定義される。したがって経口耐糖能試験では、糖尿病の場合の値は11mmol超である。
空腹時血糖異常(IFG)では、血糖値が空腹状態でも上昇しており、ただし、糖尿病として分類されるほどには高くない。空腹時血糖異常は、空腹時の患者において血糖値が100~125mg/dL(5.6~6.9mmol/L)であることとして定義される。したがって、糖尿病の場合の値は6.9mmol超である。
空腹時血糖異常(IFG)及び耐糖能異常(IGT)の両方になる可能性もある。
【0022】
本明細書で使用するとき、用語「基準値」は、実質的に健常な正常血糖の集団の生体液試料において測定された平均値として定義することができる。当該集団は、5.6mmol/L未満の平均空腹時血糖値を有することがある。当該集団の平均年齢は、好ましくは対象の平均年齢と実質的に同じである。当該集団の平均BMI標準偏差は、好ましくは対象の平均BMI標準偏差と実質的に同じである。当該集団の平均身体活動レベルは、好ましくは対象の平均身体活動レベルと実質的に同じである。この集団は、対象(ヒト)と実質的に同じ人種のものであってもよい。この集団は、少なくとも2名、5名、10名、100名、200名、500名、又は1000名に達してもよい。この集団は、対象がペットである場合には実質的に同じ品種であってもよい。
【0023】
用語「高い値のグルコース」又は「高グルコース値」は、対象の生体液試料において測定したとき、5.6mmol/L以上であると定義される。
【0024】
用語「生体液」は、例えば、ヒト血液(特にヒト血清、ヒト血漿)、尿又は間質液であってもよい。
【0025】
「過体重」は、25~30のBMIを有する成人のヒトに対して定義される。「ボディマス指数」、すなわち「BMI」は、体重のキログラム値を身長のメートル値の二乗で除算した比率を意味する。「肥満」とは、動物、特にヒト及び他の哺乳類の脂肪組織に蓄えられた天然のエネルギー貯蔵が、特定の健康状態又は死亡率の増加に関係する点まで増加した状態である。「肥満の」は、30超のBMIを有する成人のヒトに対して定義される。成人のヒトに関し、「正常体重」は、BMI18.5~25として定義されるのに対し、「低体重」は、体格指数(BMI)18.5未満であるとして定義することができる。ボディマス指数(BMI)は、小児及びティーンエイジャーにおける小児期過体重及び肥満を計測するために使用する尺度である。小児及びティーンエイジャーにおける過体重は、同じ年齢及び性別の小児及びティーンエイジャーに対して、BMIが85パーセンタイル以上かつ95パーセンタイル未満であることとして定義される。肥満は、同じ年齢及び性別の小児及びティーンエイジャーに対してBMIが95パーセンタイル以上であることとして定義される。小児及びティーンエイジャーにおける正常体重は、同じ年齢及び性別の小児及びティーンエイジャーに対して、BMIが5パーセンタイル以上かつ85パーセンタイル未満であることとして定義される。小児及びティーンエイジャーにおける低体重は、同じ年齢及び性別の小児及びティーンエイジャーに対して、5パーセンタイル未満であることとして定義される。BMIは、人の体重のキログラム値を身長のメートル値の二乗で除算することによって算出される。小児及びティーンエイジャーについては、BMIは年齢特異的及び性別特異的なものであり、多くの場合、年齢別BMIと呼ばれる。小児の体重の状態は、成人に使用されるBMI分類ではなく、BMIの年齢特異的及び性別特異的なパーセンタイルを使用して評価される。これは、小児の身体組成が年齢を重ねるにつれて変わること、及び男児と女児とで変わることによる。したがって、小児及びティーンエイジャーでのBMIレベルは、同じ年齢及び性別の他の小児に対して表される必要がある。
【0026】
用語「対象」は、好ましくはヒトであり、又は例えばネコ、イヌなどといったペットであってもよい。
【0027】
用語「実質的に」は、50%以上、より好ましくは75%以上、又はより好ましくは90%以上であることを意味するものとする。用語「約」又は「およそ」は、値を指すとき、又は量若しくは百分率を指すとき、いくつかの実施形態では、±20%、いくつかの実施形態では±10%、いくつかの実施形態では±5%、いくつかの実施形態では±1%、いくつかの実施形態では±0.5%、及びいくつかの実施形態では±0.1%の、特定の値、量、又は百分率からの変動を包含することを意味する。
【発明を実施するための形態】
【0028】
本発明は、対象におけるインスリン抵抗性(IR)を予測する方法であって、
a.(i)当該対象の生体液試料中の、乳酸及びヒスチジン、並びにクエン酸と3-D-ヒドロキシ酪酸とリジンとグリシンとクレアチンとのうちの1つ以上、の値を測定すること、又は(ii)当該対象の生体液試料中の、乳酸とヒスチジンとクエン酸と3-D-ヒドロキシ酪酸とリジンとグリシンとクレアチンとのうちの1つ以上の値を測定することと、
b.乳酸、ヒスチジン、クレアチン:グリシン比、クエン酸、3-D-ヒドロキシ酪酸、リジンのうちの1つ以上の値を、基準値と比較することと、
c.
(I)乳酸、クレアチン:グリシン比のうちの1つ以上の値が、bにおける基準値よりも高い場合、及び/又は
(II)ヒスチジン、クエン酸、3-D-ヒドロキシ酪酸、リジンのうちの1つ以上の値が、bにおける基準値よりも低い場合、
IRのリスクが高いとして対象を識別することと、
を含む、方法を提供する。
【0029】
本発明は更に、対象におけるIRを予測する方法であって、
a.(i)小児又は青年である当該対象から採取した生体液試料中の、乳酸及びヒスチジン、並びにクエン酸と3-D-ヒドロキシ酪酸とリジンとグリシンとクレアチンとのうちの1つ以上の値を測定すること、及び/又は(ii)小児又は青年である当該対象から採取した生体液試料中の、乳酸とヒスチジンとクエン酸と3-D-ヒドロキシ酪酸とリジンとグリシンとクレアチンとのうちの1つ以上の値を測定することと、
b.乳酸、ヒスチジン、クレアチン:グリシン比、クエン酸、3-D-ヒドロキシ酪酸、リジンのうちの1つ以上の値を、基準値と比較することと、
c.
(I)乳酸、クレアチン:グリシン比のうちの1つ以上の値が、bにおける基準値よりも高い場合、及び/又は
(II)ヒスチジン、クエン酸、3-D-ヒドロキシ酪酸、リジンのうちの1つ以上の値が、bにおける基準値よりも低い場合、
青年期及び/又は成人期におけるIRのリスクが高いとして対象を識別することと、
を含む、方法を提供する。
【0030】
一実施形態では、対象におけるIRを予測する方法は、
a.小児又は青年である当該対象から採取した生体液試料中の乳酸の値を測定することと、
b.乳酸の値を基準値と比較することと、
c.乳酸の値がbにおける基準値よりも高い場合、青年期及び/又は成人期における高IRのリスクが高いとして当該対象を識別することと、を含む。
【0031】
一実施形態では、対象におけるIRを予測する方法は、
a.小児又は青年である当該対象から採取した生体液試料中のグリシン及びクレアチンの値を測定することと、
b.クレアチン:グリシン比の値を基準値と比較することと、
c.クレアチン:グリシン比の値がbにおける基準値よりも高い場合、青年期及び/又は成人期におけるIRのリスクが高いとして対象を識別することと、を含む。
【0032】
一実施形態では、対象におけるIRを予測する方法は、
a.小児又は青年である当該対象から採取した生体液試料中のヒスチジンの値を測定することと、
b.ヒスチジンの値を基準値と比較することと、
c.ヒスチジンの値がbにおける基準値よりも低い場合、青年期及び/又は成人期におけるIRのリスクが高いとして対象を識別することと、を含む。
【0033】
本発明は更に、対象におけるIRを予測する方法であって、
a.(i)小児である当該対象から採取した生体液試料中の、乳酸及びヒスチジン、並びにクエン酸と3-D-ヒドロキシ酪酸とリジンとグリシンとクレアチンとのうちの1つ以上、の値を測定すること、及び/又は(ii)小児である当該対象から採取した生体液試料中の、乳酸とヒスチジンとクエン酸と3-D-ヒドロキシ酪酸とリジンとグリシンとクレアチンとのうちの1つ以上の値を測定することと、
b.乳酸、ヒスチジン、クレアチン:グリシン比、クエン酸、3-D-ヒドロキシ酪酸、リジンのうちの1つ以上の値を、基準値と比較することと、
c.
(I)乳酸、クレアチン:グリシン比のうちの1つ以上の値が、bにおける基準値よりも高い場合、及び/又は
(II)ヒスチジン、クエン酸、3-D-ヒドロキシ酪酸、リジンのうちの1つ以上の値が、bにおける基準値よりも低い場合、
青年期におけるIRのリスクが高いとして対象を識別することと、
を含む、方法を提供する。
【0034】
本発明は更に、対象におけるIRを予測する方法であって、
a.(i)小児である当該対象から採取した生体液試料中の、乳酸及びヒスチジン、並びにクエン酸と3-D-ヒドロキシ酪酸とリジンとグリシンとクレアチンとのうちの1つ以上の値を測定すること、及び/又は(ii)小児である当該対象から採取した生体液試料中の、乳酸とヒスチジンとクエン酸と3-D-ヒドロキシ酪酸とリジンとグリシンとクレアチンとのうちの1つ以上の値を測定することと、
b.乳酸、ヒスチジン、クレアチン:グリシン比、クエン酸、3-D-ヒドロキシ酪酸、リジンのうちの1つ以上の値を、基準値と比較することと、
c.
(I)乳酸、クレアチン:グリシン比のうちの1つ以上の値が、bにおける基準値よりも高い場合、及び/又は
(II)ヒスチジン、クエン酸、3-D-ヒドロキシ酪酸、リジンのうちの1つ以上の値が、bにおける基準値よりも低い場合、
成人期におけるIRのリスクが高いとして対象を識別することと、
を含む、方法を提供する。
【0035】
本発明は更に、対象におけるIRを予測する方法であって、
a.(i)青年である当該対象から採取した生体液試料中の、乳酸及びヒスチジン、並びにクエン酸と3-D-ヒドロキシ酪酸とリジンとグリシンとクレアチンとのうちの1つ以上の値を測定すること、及び/又は(ii)青年である当該対象から採取した生体液試料中の、乳酸とヒスチジンとクエン酸と3-D-ヒドロキシ酪酸とリジンとグリシンとクレアチンとのうちの1つ以上の値を測定することと、
b.乳酸、ヒスチジン、クレアチン:グリシン比、クエン酸、3-D-ヒドロキシ酪酸、リジンのうちの1つ以上の値を、基準値と比較することと、
c.
(I)乳酸、クレアチン:グリシン比のうちの1つ以上の値が、bにおける基準値よりも高い場合、及び/又は
(II)ヒスチジン、クエン酸、3-D-ヒドロキシ酪酸、リジンのうちの1つ以上の値が、bにおける基準値よりも低い場合、
青年期におけるIRのリスクが高いとして対象を識別することと、
を含む、方法を提供する。
【0036】
本発明は更に、対象におけるIRを予測する方法であって、
a.(i)青年である当該対象から採取した生体液試料中の、乳酸及びヒスチジン、並びにクエン酸と3-D-ヒドロキシ酪酸とリジンとグリシンとクレアチンとのうちの1つ以上の値を測定すること、及び/又は(ii)青年である当該対象から採取した生体液試料中の、乳酸とヒスチジンとクエン酸と3-D-ヒドロキシ酪酸とリジンとグリシンとクレアチンとのうちの1つ以上の値を測定することと、
b.乳酸、ヒスチジン、クレアチン:グリシン比、クエン酸、3-D-ヒドロキシ酪酸、リジンのうちの1つ以上の値を、基準値と比較することと、
c.
(I)乳酸、クレアチン:グリシン比のうちの1つ以上の値が、bにおける基準値よりも高い場合、及び/又は
(II)ヒスチジン、クエン酸、3-D-ヒドロキシ酪酸、リジンのうちの1つ以上の値が、bにおける基準値よりも低い場合、
成人期におけるIRのリスクが高いとして対象を識別することと、
を含む、方法を提供する。
【0037】
一実施形態では、ステップa(i)において、当該対象から採取した生体液試料中の、乳酸、ヒスチジン、クレアチン、グリシン、及び、クエン酸と3-D-ヒドロキシ酪酸とリジンとのうちの1つ以上、の値を測定する。
【0038】
一実施形態では、ステップa(i)において、当該対象から採取した生体液試料中の、乳酸、ヒスチジン、クレアチン、グリシン、及び、クエン酸と3-D-ヒドロキシ酪酸とリジンとのうちの2つ以上、の値を測定する。
【0039】
一実施形態では、ステップa(i)において、当該対象から採取した生体液試料中の、乳酸、ヒスチジン、クレアチン、グリシン、クエン酸、3-D-ヒドロキシ酪酸、リジンの値を測定する。
【0040】
一実施形態では、高IRは、1.5以上のHOMA-IR値に対応している。
【0041】
一実施形態では、高IRは、2以上のHOMA-IR値に対応している。
【0042】
一実施形態では、IRは、重症であり、5以上のHOMA-IR値に対応している。
【0043】
一実施形態では、当該対象は、当該生体液試料を採取するときに、過体重ではない。
【0044】
一実施形態では、当該対象は、当該生体液試料を採取するときに、肥満ではない。
【0045】
代替実施形態では、本発明は、対象における1.5未満のHOMA-IRを予測する方法であって、
a.(i)小児又は青年である当該対象から採取した生体液試料中の乳酸及びヒスチジン、並びにクエン酸と3-D-ヒドロキシ酪酸とリジンとグリシンとクレアチンとのうちの1つ以上の値を測定すること、及び/又は(ii)小児又は青年である当該対象から採取した生体液試料中の乳酸とヒスチジンとクエン酸と3-D-ヒドロキシ酪酸とリジンとグリシンとクレアチンとのうちの1つ以上の値を測定することと、
b.乳酸、ヒスチジン、クレアチン:グリシン比、クエン酸、3-D-ヒドロキシ酪酸、リジンのうちの1つ以上の値を、基準値と比較することと、
c.
(I)乳酸、クレアチン:グリシン比のうちの1つ以上の値が、bにおける基準値よりも高い場合、及び/又は
(II)ヒスチジン、クエン酸、3-D-ヒドロキシ酪酸、リジンのうちの1つ以上の値が、bにおける基準値よりも低い場合、
青年期及び/又は成人期におけるIRのリスクが高いとして対象を識別することと、
を含む、方法を提供する。
【0046】
一実施形態では、当該生体液試料を、5歳、6歳、7歳、8歳、9歳、10歳、11歳、12歳、13歳、14歳、15歳、16歳、17歳、又は18歳の時点で、少なくとも1年の間隔を空けて対象から採取する。
【0047】
本発明の一態様では、対象が5歳のときに生体液試料を採取する。
【0048】
本発明の一態様では、対象が6歳のときに生体液試料を採取する。
【0049】
本発明の一態様では、対象が7歳のときに生体液試料を採取する。
【0050】
本発明の一態様では、ステップa(i)及び/又はa(ii)において、2つ以上の生体液試料を対象から採取する。
【0051】
本発明の一態様では、代謝産物の測定を、NMR(核磁気共鳴)によって行う。あるいは、代謝産物の測定を、質量分析によって、又は臨床アッセイによって行うことができる。
【0052】
本発明の一態様では、13~16歳の年齢による下位区分を、青年期を表すものとして選択する。
【0053】
本発明の一態様では、15歳齢を、青年期を表すものとして選択する。
【0054】
本発明の一態様では、20歳齢を、成人期を表すものとして選択する。
【0055】
本発明の一態様では、基準値は、所定の標準である。
【0056】
本発明の一態様では、生体液試料は、ヒト血清である。
【0057】
本発明はまた、小児又は青年期の対象におけるグルコース値の管理を改善する方法であって、(i)当該対象が本発明によるIRを有するかを予測することと、(ii)青年期及び/又は成人期におけるインスリン抵抗性を有するリスクが高いとして識別された対象の、生活習慣の修正方法を提示することと、を含み、当該食事介入によりインスリン感受性を増強し、インスリン抵抗性について、その可能性を減少させ、低下させ、若しくは予防し、及び/又はグルコース値を低下させる、方法を提供する。
【0058】
本発明の一態様では、当該生活習慣の修正により、インスリン抵抗性を低下させる。本発明の一態様では、当該生活習慣の修正により、インスリン抵抗性を予防する。本発明の一態様では、当該生活習慣の修正により、インスリン抵抗性を予防する。
【0059】
本発明の一態様では、当該生活習慣の修正を、思春期前の時期及び/又は思春期の期間に提供する。
【0060】
本発明の一態様では、当該方法により、特に成人期初期における、1つ以上の代謝障害、特に2型糖尿病の発症について、その可能性を低下させ、又はその発症を予防する。
【0061】
本発明の一態様では、当該生活習慣の修正を、思春期前、思春期、及び青年期の期間に提供する。
【0062】
本発明の一態様では、対象における生活習慣修正は、食生活の変更を含み、好ましくは、グルコースの値を調節する食生活の一部をなす少なくとも1つの栄養製品を対象に与えること、を含む。
【0063】
本発明の一態様では、グルコースの値を調節する食生活の一部をなす少なくとも1つの栄養製品を対象に与えることにより、対象における、グルコースの低下を促進し、又はグルコース値の増加を防止する。
【0064】
本発明の一態様では、食生活の変更は、脂肪から得るカロリーが1日分のカロリーの20%以下となるように、脂肪の摂取を減じること、及び/又は低脂肪食品の摂取を増加させることを含む。
【0065】
低脂肪食品としては、パン及び小麦粉、オート麦、朝食用シリアル、全粒米及びパスタ、野菜及び果物の生鮮品、冷凍品、及び缶詰、乾燥豆及びヒラマメ、焼いたジャガイモ又は茹でたジャガイモ、ドライフルーツ、白身の魚、甲殻類、皮を剥いだ鶏及び七面鳥の胸肉などのホワイトミートの赤身、脱脂乳及び半脱脂乳、カッテージチーズ又はカードチーズ、低脂肪ヨーグルト、又は卵白が挙げられる。ほとんどの成人は、脂肪から1日のカロリーの20%~35%を得る。1日に2,000カロリーを摂取する場合、約44~77gの脂肪に等しい。低脂肪食品はまた、全粒の小麦粉及びパン、オート麦のポリッジ、高繊維朝食用シリアル、乾燥豆及びヒラマメ、クルミ、ニシン、サバ、イワシ、キッパー、マイワシ、サケ、及びホワイトミートの赤身部分から選択することもできる。
【0066】
本発明の一態様では、食生活の変更は、身体の発育及び修復に十分なタンパク質を提供するケトン食による食生活と、年齢及び身長に対して正しい体重を維持するのに十分なカロリーと、を含む。
【0067】
ケトン食は、デンプン質の果物及び野菜、パン、パスタ、穀物及び糖などの高炭水化物食品を除外するとともに、ナッツ、クリーム、及びバターなどの高脂肪食品の摂取は増加させることによって得ることができる。中鎖トリグリセリド(MCT)ケトン食と呼ばれる、別の古典的な食事療法では、MCTに富み、提供するカロリー量は約半分ほどであるケトン食として、ココナッツ油を用いる。この食事療法の場合、脂肪は全般的にさほど必要とされないため、摂取できる炭水化物及びタンパク質の割合が多くなり、より多様な食品を選択できる。本発明の一態様では、食生活の変更は、ケトン食への変更を含む。一実施形態では、ケトン食は、炭水化物の摂取量が1日当たり20g未満となるものである。
【0068】
本発明の一態様では、食生活の変更は、地中海食への変更を含む。
【0069】
一実施形態では、地中海食は、より高脂肪であり、断続的な断食を含むことがある。例えば、典型的な地中海諸国では、朝食を抜くこともあり、朝食と昼食を合わせたものとカロリー数が等しい、たっぷりとした昼食を取ってもよい。
【0070】
地中海食は、典型的には、1日に、3~9盛りの野菜、半盛り~2盛りの果物、1~13盛りのシリアル、及び最大8杯のオリーブ油を含む。一実施形態では、地中海食は、約9300kJ以上を含む。一実施形態では、地中海食が含む総脂質は37%以下(特に、一価不飽和脂肪として18%以下、飽和脂肪として9%以下)である。一実施形態では、地中海食は、1日当たり33g以上の繊維を含む。
【0071】
一例として、地中海食の食事の種類及び摂取並びに栄養素含有量は、Davisらによって説明されている(Reference Definition of the Mediterranean Diet:A Literature Review,Davis et al.,Nutrients,7(11),9139-9153,2015)。
【0072】
本発明の一態様では、食生活の変更は、1日の間に正常な血糖値を維持するために、又はそれに達するための、ゆるやかな低炭水化物食への変更を含む。一実施形態では、ゆるやかな低炭水化物食は、1日当たりの炭水化物の摂取量が20g~50gになるものである。比較として、標準的な食事では、1日当たりの炭水化物の摂取量は約50g~100gになる。
【0073】
本発明の一態様では、食生活の変更は、ビーガン食への変更を含む。典型的には、ビーガン食は、主要栄養素及び微量栄養素の組成のバランスがよく、その結果、1日の間の平均血糖値は低くなる。ビーガン食は、植物系の食事療法であり、肉、卵、乳製品、並びにあらゆる他の動物由来食品及び成分を排除している。
【0074】
対照的に、菜食では、植物系食品が重視されるものの、乳製品、卵、蜂蜜、及び魚も含めることがある。ビーガン食及び菜食のいずれも、タンパク質、鉄、n-3脂肪酸、ヨウ素、亜鉛、カルシウム、及びビタミンB12の栄養必要量を適切に満たすことができるよう植物性食品を適切に選択することで、全てのライフステージにとって健康的なものとなり得る。バランスがとれており、食品をまんべんなく摂取する普段どおりの食生活と交互に行う断続的ビーガン食事療法もまた、これらの栄養必要量を満たすことができる。
【0075】
本発明の一態様では、食生活の変更は、グルコース管理の改善を目的として、必須アミノ酸、脂質、及び水溶性ビタミン、ミネラル、又は栄養素の組み合わせなどといった、必須栄養素の補給を含む。
【0076】
必須栄養素の例は、アミノ酸(フェニルアラニン、バリン、スレオニン、トリプトファン、メチオニン、ロイシン、イソロイシン、リジン、及びヒスチジン)、脂肪酸(α-リノレン酸(ω-3脂肪酸)及びリノール酸(ω-6脂肪酸)、ビタミン(ビタミンA、ビタミンB(1~12)、ビタミンC、ビタミンD、ビタミンE)、ミネラル、例えば、「主要ミネラル」(カルシウム、リン、カリウム、ナトリウム、塩素、及びマグネシウム)及び「微量ミネラル」(鉄、亜鉛、マンガン、及び銅などの金属)、並びに条件付きの栄養素(コリン、イノシトール、タウリン、アルギニン、グルタミン、及びヌクレオチド)である。
【0077】
本発明の一態様では、食生活の変更は、身体活動プログラムの管理と関連している。身体活動プログラムは、対象の身体組成、医学的状態及び年齢に適したものである必要があり、最適なグルコース管理による成果のため、減量又は体重管理、並びに体脂肪量及び除脂肪量の改善を目的とする。
【0078】
例えば、この解決策を、生徒が身体的に活動的になる機会を全て使用するものであり、国が推奨する毎日の身体活動についての分単位の時間(例えば、毎日60分の中高強度活動)を満たすことができる、身体活動プログラム(Physical Activity Program)の一部とすることもできる。例えば、プログラムは、小児及び若年者の身体活動に関する公的健康指針(例えば、National institute for health and care excellence,UK:https://www.nice.org.uk/guidance)に従うものでもよい。
【0079】
本発明の一態様は更に、対象の生活習慣の修正後に対象におけるIRの値を予測するステップ、を反復するステップ、を更に含む。
【0080】
本発明はまた、思春期前における対象の生体液において、乳酸とヒスチジンとクエン酸と3-D-ヒドロキシ酪酸とリジンとグリシンとクレアチンとの値を測定するための手段を含むパーツからなるキットも提供する。
【0081】
本発明はまた、思春期前の対象が青年期及び/又は成人期にはIRを有する又は前糖尿病を発症すること、を予測する、本発明によるパーツからなるキットの使用を提供する。
【実施例0082】
実施例1
試験において使用される方法
試験集団
EarlyBirdの糖尿病調査では、1995/1996年の出生コホートを2000/2001年に募集して、5歳の小児(307名の小児、170名は男児)として組み入れている。EarlyBirdのコホートからのデータの収集は、いくつかの臨床変数及び身体形態変数を5歳から16歳までの毎年測定することにより構成されている。調査は、Declaration of Helsinki IIの倫理原則に従って行った。倫理審査の承認は、Plymouth Local Research Ethics Committee(1999)から得て、保護者からは書面による同意を得て、小児からは口頭で同意を得た。
【0083】
一部の若年者が保護者の元を離れて自身の生活を開始するだろう年齢の時点でも十分にコホートを追跡する。追跡調査は2013年6月から準備し、2015年2月に訪問調査を始め、2016年夏までとした。適合させた調査プロトコルによりデータを収集するこの追跡調査は、Earlybirdの参加者のうち合計178名が成人時(平均年齢20歳)に完了した。
【0084】
身体形態パラメータ
BMIは、身長(Leicester Height Measure;Child Growth Foundation(London,U.K.))、及び体重(Tanita Solar 1632 electronic scales)の直接測定から導出し、盲検で2重に行い、平均した。BMIの標準偏差を、英国の1990年度の標準をもとに算出した。
【0085】
5歳から毎年、加速度計(Acti-Graph[旧称MTI/CSA])により身体活動を測定した。小児に、各年のタイムポイントで加速度計を7日間連続して着用するようお願いし、少なくとも4日間は捕捉された記録のみを使用した。
【0086】
フードを介し抜き出した空気を利用する間接熱量測定法により安静時代謝量を測定した(Gas Exchange Measurement,Nutren Technology Ltd(Manchester,UK))。報告によると、パフォーマンス試験は、酸素消費量の測定において0.3±2.0%の平均誤差、及び二酸化炭素の産生の測定において1.8±1%の平均誤差を示している。少なくとも6時間の終夜絶食期間後に、静穏で常温(20℃)の室内で測定を行い、食事誘発性熱産生に起因するあらゆる影響を最小限に抑えた。データを少なくとも10分間収集し、基礎代謝率(BMR)の指標として呼吸商(RQ)を算出した。
【0087】
臨床パラメータ
毎年、終夜絶食後、末梢血をEDTA管に採取し、-80℃で保存した。小児において認証された恒常性モデル評価プログラム(HOMA-IR)を使用して、空腹時血糖(Cobas Integra 700分析器;Roche Diagnostics)及びインスリン(DPC IMMULITE)(プロインスリンとの交差反応性、1%)によりインスリン抵抗性(IR)を毎年診断した。
【0088】
血清メタボノミクス
400μLの血清を、1mMのナトリウム3-(トリメチルシリル)-[2,2,3,3-2H4]-1-プロピオネート(TSP、化学シフト基準δH=0.0ppm)を含有する、200μLの重水素化リン酸緩衝液(0.6MのKH2PO4)と混合した。550μLの混合物を、5mmのNMR管に移した。
【0089】
血清試料の1H NMR代謝プロファイルを、5mmのクライオプローブを備えたBruker Avance III 600MHzスペクトル測定器(Bruker Biospin(Rheinstetten,Germany))により310Kで取得し、TOPSPIN(バージョン2.1,Bruker Biospin,Rheinstetten,Germany)ソフトウェアパッケージを使用して、既報のとおりに処理した。98Kのデータ点で32回スキャンを行って、水抑制を用いる標準的な1H NMR1次元パルスシーケンスである、Carr-Purcell-Meiboom-Gill(CPMG)スピンエコーシーケンス(水抑制)と、拡散を編集したシーケンスとを得た。スペクトルデータ(δ0.2からδ10まで)を、22Kのデータ点の分解能を有するMatlabソフトウェア(バージョンR2013b、Mathworks Inc(Natwick MA))にインポートし、溶媒ピーク除去後の総面積に対して正規化した。質の悪い、又は非常に希薄なスペクトルについては、以降の解析では除外した。
【0090】
ヒト血漿の1H-NMRスペクトルにより、トリグリセリド、リン脂質、及びコレステリルエステルに見出される脂肪酸アシル基を結合したリポタンパク質に関連するシグナルを、トリグリセリドのグリセリル部分及びホスファチジルコリンのコリン頭部に由来するピークと共にモニタリングすることが可能になる。このデータはまた、血中に存在する主要な低分子量分子の定量的プロファイリングを網羅している。内部データベースに基づいて、1H CPMG NMRスペクトルで帰属可能な、アスパラギン、ロイシン、イソロイシン、バリン、2-ケト酪酸、3-メチル-2-オキソ吉草酸、α-ケトイソ吉草酸、(R)-3-ヒドロキシ酪酸、乳酸、アラニン、アルギニン、リジン、酢酸、N-アセチルグリコタンパク質、O-アセチルグリコタンパク質、アセト酢酸、グルタミン酸、グルタミン、クエン酸、ジメチルグリシン、クレアチン、シトルリン、トリメチルアミン、トリメチルアミンN-オキシド、タウリン、プロリン、メタノール、グリシン、セリン、クレアチニン、ヒスチジン、チロシン、ギ酸、フェニルアラニン、スレオニン、及びグルコースをはじめとする、代謝産物を表すシグナルを積分した。加えて、拡散を編集したスペクトルでは、コリン、VLDL、不飽和脂肪酸及び多価不飽和脂肪酸、を含有するリン脂質をはじめとする、異なる種類の脂質に関連するシグナルを積分した。全代謝プロファイルに対し正規化したピーク面積に対応し、血清中の代謝産物の濃度の相対的変化を表すものである任意単位でシグナルを表す。
【0091】
質量分析に基づく血清アミノ酸の測定
UPLC-MS/MSによるヒト血漿及び血清中のアミノ酸の施設内自動定量法を用い、選択した試料の血清アミノ酸を定量した。簡潔に述べると、沈降、誘導体化、及び希釈の工程に続いて、試料を、マススペクトロメトリー(Xevo TQ-XS triple quadrupole,Waters)に連結した液体クロマトグラフィ(Acquity I-class,Waters)に供する。クロマトグラフィ分取の際、勾配は、ギ酸アンモニウム(水1L当たり0.55gのギ酸アンモニウム、0.1%ギ酸)の移動相及びアセトニトロション(アセトニトリル、0.1%ギ酸)の第2の移動相から構成した。検体濃度は、対応する内部標準に対する化合物のピーク面積比から計算する。結果をμM単位で表す。ピークは、MassLynxソフトウェアに含まれるTargetLynx機能におけるAA_quantitationmethを用いて積分する。
【0092】
統計
結果変数IRの分布は歪んでいたので、解析のために対数変換した。予備及び主調査分析の両方について、全年齢データを同時に使用して、混合効果モデリングにより、IR(HOMA-IR)と個々の代謝産物との相関について、年齢、BMI標準偏差、身体活動、及び思春期になる時機(APHV)を考慮して評価した。ランダム切片、並びに年齢(IRを経時的に非線形変化させるように分類)、性差、DEXAによる脂肪%、APHV、MVPA(中等度以上の身体活動に費やした分数)、及び個々の代謝産物(別個のモデルで)を、固定効果として含めた。
【0093】
本発明者らは、5歳~14歳の参加者40名からなる部分集団に最初の調査(予備調査)を行い、5歳~16歳の参加者150名からなる別の部分集団に調査を繰り返した(主調査)した。本発明者らは、5歳~14歳の参加者40名からなる部分集団に最初の調査(予備調査)を行い、5歳~16歳の参加者150名からなる別の部分集団に調査を繰り返した(主調査)した。予備調査では、5歳及び14歳の時点でIRについて層別化し、5歳~14歳までの各タイムポイント(男児20名)について解析に利用可能な試料が全て揃っていることを基準として、40名の被験者を選択した。主調査では、調査過程の1つ以上のタイムポイントで空腹時血糖異常を示していた150名の被験者を全て選択して含めた。2つの調査で共通していた小児はわずか28名であった。選抜の結果、空腹時血糖異常を示していた被験者の性別は、男児105名及び女児45名であった。
【0094】
更に、IR関連代謝産物のうちIRトラジェクトリーの初期指標にできるものを評価するために、本発明者らは、14歳~16歳の年齢範囲での低IR状態又は高IR状態により主調査集団を層別化した。任意に、HOMA-IR分布での91パーセンタイルを閾値として用い、高IR状態を有する小児を特定した。ここで、混合効果モデリングを用いて、IRと個々の代謝産物との相関を評価した。モデリングは、Rソフトウェア(www.R-project.org)にて、パッケージlme4のlmer関数(Bates,Maechler et al.2015)を用いて行い、p値は、lmerTestパッケージ(Kuznetsova,Brockhoff et al.2016)にてSatterthwaite近似を実行して計算した。
【0095】
実施例2
代謝産物の濃度測定
5歳及び14歳での予備調査における小児の臨床特性及び身体形態特性を表1にまとめ、5歳、14歳、及び16歳での主調査における同特性を表2にまとめる。両性において、HOMA-IRは約8歳まで減少し、思春期では増加し、この傾向は、身長の発育速度が最大になる時機に応じて変化していた(「APHV」年齢の交互作用、p<0.001)。IRはまた、BMI標準偏差とも正に相関していた(p<0.001)。
【0096】
【0097】
【0098】
全年齢データを同時に使用して、混合効果モデリングにより、HOMA-IRと個々の代謝産物との相関を評価した。表3に示すように、予備調査では、BCAA、脂質、及び他のアミノ酸を含むいくつかの代謝産物は、縦断モデルにおいて、BMI標準偏差、身体活動、及び思春期になる時機とは独立して、HOMA-IRと有意な相関(p<0.05)を示した。表4は、主調査コホートで行った同じ分析の結果を報告する。
【0099】
【0100】
【0101】
分析により、小児期のHOMA-IRの変動が説明する、アミノ酸代謝、ケトン体代謝、解糖、及び脂肪酸代謝における特定の代謝産物の重要性が明らかになった。この報告は、特定の代謝プロセスの代謝がインスリン代謝の変動全体に関与することについての、縦断的かつ継続的な手法での初めての報告であると考えられる。
【0102】
中枢エネルギーに関連する代謝産物
予備及び主調査のコホートにおいて、混合効果モデリングにより、IRと、クエン酸及び3-D-ヒドロキシブチレート全体との逆相関(p<0.001)、並びにIRと乳酸との正相関(p<0.01)が示された。主調査の分析により、クエン酸については年齢間で統計的に有意な相関(r=0.28~r=0.66の範囲、p<0.05)が示されたものの、3-D-ヒドロキシブチレートについては8歳未満では有意ではなく、r=0.21~r=0.58の範囲(p<0.05)であった。主調査では、クエン酸は、5歳~16歳の各横断タイムポイントでIRと逆相関していた(r=-0.21~r=-0.52の範囲の相関、p<0.05)。3-D-ヒドロキシブチレートは、所定の年齢まで横断調査で逆相関を示した(r=-0.21~r=-0.53の範囲の相関、p<0.05)。乳酸は、IRと正の横断的相関を示した(r=0.13~r=0.45の範囲の相関、p<0.05)。
【0103】
アミノ酸代謝
混合効果モデリングにより、ヒスチジン、クレアチン、及びリジンと、IRとには統計的に有意な逆相関(p<0.05)があることが特定され、この逆相関は主調査でも再現された(p<0.001)。各代謝産物はまた、IRと横断的逆相関を示し、特に9歳~14歳で示した(r=-0.17~r=-0.46の範囲の相関、p<0.05)。
【0104】
IRと相関する脂質関連代謝産物
ヒト血清の1H-NMRスペクトルにより、トリグリセリド、リン脂質、及びコレステリルエステルに見出される脂肪酸アシル基を結合したリポタンパク質に関連するシグナルを、トリグリセリドのグリセリル部分及びホスファチジルコリンのコリン頭部に由来するピークと共にモニタリングすることが可能になる。
【0105】
ここで、コリンを含有するリン脂質中のメチル脂肪アシル基に由来するシグナルは、IRと逆相関を示したのに対し、LDL粒子中のメチル脂肪アシル基に由来するシグナルは、IRと正相関を示した。脂質シグナルは、互いに高度に相関していた(5歳~13歳でr>0.8、14歳でr=0.6)。これらの相関はまた、主調査において、混合効果モデル及びそれぞれのタイムポイントの両方で見出された。IRとリン脂質との間の横断的相関は逆相関であり、7歳から統計的に有意であった(r=-0.19~r=-0.54の範囲の相関)一方で、IRと、LDL粒子中の脂肪族アシル基との相関は正であり、7歳~14歳で統計的に有意であった(r=0.24~r=0.41の範囲の相関)。予備調査では有意ではなかったものの(p=0.06)、VLDL粒子中の脂肪アシル基は、混合効果モデルにおいてIRと正相関を示し、この相関は、5歳で、及び7歳~14歳で正であり統計的に有意であった横断的相関と一致した(r=0.25~r=0.46の範囲の相関)。
【0106】
実施例3
青年期で高くなるHOMA-IRを示す代謝産物
本発明者らは、IRと経時的に有意な相関を示す各代謝産物について、それらの代謝産物の血清濃度が14歳~16歳の年齢範囲にわたって低IR状態又は高IR状態についての情報を示した場合に、更に評価した。任意に、HOMA-IR分布での91パーセンタイルを閾値として用いて、高IRの状態を有する小児を特定した(表5)。小児期のHOMA-IRの変動に最も関係する代謝産物のなかでも、青年期での高HOMA-IRについてより早期により情報を提供することができるものを更に探索した。
【0107】
【0108】
したがって、小児期の高HOMA-IRに関係する生化学種のうち最も影響の強いものについて、分析は次のことを示している。
混合効果モデリングにより、高IR状態と、乳酸、LDL及びVLDL粒子中の脂肪族アシル基、及びクレアチン:グリシン比との、有意な正相関が経時的に特定された。
高IR状態と、クエン酸、ヒスチジン、3-D-ヒドロキシ酪酸、グリシン、クレアチン、リジン、及びリン脂質との間には、経時的に有意な負の相関が見出された。
脂肪量(腰部周囲)も、高IR群において経時的に増加する統計的に有意(p<0.001)な変数であり、年齢と群との間の交互作用は有意であった(p<0.001)。
【0109】
近年、Mayer-Davisらによって、米国の若年者(10~19歳)において1型糖尿病及び2型糖尿病のいずれもの年間発症率が有意に増加していることが報告されている(Incidence Trends of Type 1 and Type 2 Diabetes among Youths,2002-2012,The New England Journal of Medicine,376:1419-1429,2017)。人種群間及び民族群間に変動が存在することは十分に認められている。Mayer-Davisらによって示されているように、この変動の一例としては、米国における非ヒスパニック系白人以外の人種群及び民族群における2型糖尿病の発生率の高相関での増加を含む。人口統計的下位群にわたる変動は、糖尿病に寄与する遺伝因子、環境因子、及び行動因子の様々な組み合わせを反映している場合がある。したがって、提案されるマーカーについて適宜基準値を作成する必要がある。
【0110】
本調査コホートの一例として、群間の変動率は、人数から求められ、代表的な年齢で提示される(表6)。
【0111】
【0112】
5歳で過体重又は肥満の小児集団は、思春期及び青年期の期間に過剰量の脂肪の増加及び体重増加を維持して更に発育し、他の小児よりも高いHOMA-IRを有する。特に、青年期のHOMA-IRについて91パーセンタイルの対象は、9歳から血清中ヒスチジン濃度が顕著に低く、これは、群間でIRトラジェクトリーが分岐する期間に対応する。かかる対象はまた、小児期を通して、より体脂肪増加及び中心性肥満(腰部周囲)を示す。ヒスチジンの状態は、Earlybird集団の各年齢におけるC反応性タンパク質の値と負に相関している。
【0113】
本発明者らによる結果はまた、小児期、成長期、及び発達段階の期間の血中リン脂質種の再構築を説明するものである。これは、IR及びT2Dの分野で十分に実証された現象(Szymanska,Bouwman et al.2012)であるが、成長、発育、及び過剰な脂肪増加に関しては、小児期にはないものである。リン脂質種の再構築は、多くの場合、酸化ストレスに対応したエーテル脂質(プラズマローゲン)の値の低下と関連するものであり、いくつかの疾患、例えば、糖尿病、血管疾患、及び肥満で報告されている。
【0114】
ヒスチジンとリジンとは、酸化による変性の2種類の代表的な標的である。ヒスチジンは、金属に触媒される酸化に極めて敏感であり、2-オキソ-ヒスチジン及びその開環生成物が生じるのに対して、リジンの酸化では、アミノアジピンセミアルデヒドなどのカルボニル生成物が生じる。一方で、ヒスチジンとリジンとは両方とも求核性アミノ酸であり、したがって、脂質過酸化に由来する求電子物質、例えば2-アルケナール、4-ヒドロキシ-2-アルケナール、及びケトアルデヒドによる変性を受けやすい。ヒスチジンは、2-アルケナール及び4-ヒドロキシ-2-アルケナールに対して特異的な反応性を示すのに対し、リジンは、アルデヒドの一般的な標的であり、様々な種類の付加体が生じる。反応性アルデヒドと、ヒスチジン及びリジンとの共有結合は、カルボニル反応性及びタンパク質の抗原性の形成に関係する。これらのアミノ酸のなかで、成人肥満対象におけるIRマーカーであることが報告されているものはない。ヒスチジン及びアルギニンの状態は、メタボリックシンドロームを有する肥満成人女性における炎症及び酸化ストレスと関連していた(Niu,Feng et al.2012)。更にまた、ヒスチジンの補給は、メタボリックシンドロームを有する肥満女性における炎症を低減することによって、IRを改善すると考えられる(Feng,Niu et al.2013)。
【0115】
非効率的な脂肪分解(基礎的な分解が高いこと/刺激による分解が低いこと)は、その後の体重増加及びグルコース代謝障害に関連していたこと、及び治療標的となり得ることから(Arner,Andersson et al.2018)、本発明者らの観察は、健常な脂肪代謝を促進するための、成長期及び発達段階に特徴的な栄養必要量を示す。Earlybirdのコホートにおいて、5歳で過体重の小児は、小児期を通して過体重を維持し、10歳から思春期の期間には高IR状態を獲得し、脂肪量が更に増大する。したがって、本発明者らによる、ヒスチジン、リジン、及びアルギニン状態との負の相関についての観察は、IRの発症に付随する又は関与する、成長期及び発達段階の酸化ストレス並びに脂肪細胞による脂肪分解に関し、潜在的な脱調節を直接示すものであり得る。
【0116】
実施例4
青年期のアミノ酸及びHOMA-IRの状態は、成人期のHOMA-IRの状態と相関している。
【0117】
本発明者らは、インスリン及びHOMA-IRの両方についてスピアマンの相関分析を用い、小児期及び青年期でのインスリン及びHOMA-IIの状態が、11歳から小児期及び青年期を通して一貫して成人での状態と統計的に優位に相関することを示した(表7)。このことから、小児期におけるHOMA-IRの変動に最も関係する代謝産物は、小児期においてHOMA-IRが高くなることについてのさらなる指標であり、かつ成人期における高HOMA-IR状態に関連するマーカーである。
【0118】
【0119】
更に、同じ健康な対象から15歳及び20歳の時点で収集した血清試料に対してアミノ酸の定量的測定を行い、健康な基準範囲についての指針とした。
【0120】
【0121】
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対象におけるIRを予測するための方法であって、ステップaにおいて、前記対象から採取した生体液試料中の、ヒスチジン、クエン酸、3-D-ヒドロキシ酪酸、リジンのうちの2つ以上、の値を測定する、請求項1又は2に記載の方法。
対象におけるIRを予測するための方法であって、ステップaにおいて、前記対象から採取した生体液試料中の、ヒスチジン、クエン酸、3-D-ヒドロキシ酪酸、及び、リジンの全ての値を測定する、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
対象におけるIRを予測するための方法であって、前記生体液試料が、5~7歳である対象から採取された生体液試料である、請求項1~4のいずれか一項に記載の方法。