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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024095824
(43)【公開日】2024-07-10
(54)【発明の名称】周波数選択反射板および反射構造体
(51)【国際特許分類】
   H01Q 15/14 20060101AFI20240703BHJP
【FI】
H01Q15/14 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024066715
(22)【出願日】2024-04-17
(62)【分割の表示】P 2024028382の分割
【原出願日】2022-03-04
(31)【優先権主張番号】P 2021034138
(32)【優先日】2021-03-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2021098586
(32)【優先日】2021-06-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000002897
【氏名又は名称】大日本印刷株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100101203
【弁理士】
【氏名又は名称】山下 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100104499
【弁理士】
【氏名又は名称】岸本 達人
(72)【発明者】
【氏名】宮崎 祐一
(72)【発明者】
【氏名】朝倉 裕之
(72)【発明者】
【氏名】中村 厚生
(72)【発明者】
【氏名】関口 毅
(72)【発明者】
【氏名】河野 茂樹
【テーマコード(参考)】
5J020
【Fターム(参考)】
5J020AA03
5J020AA06
5J020BA01
5J020DA03
(57)【要約】      (修正有)
【課題】反射特性をカスタマイズすることが容易な周波数選択反射板を提供すること。
【解決手段】特定の周波数帯の電磁波を正反射方向とは異なる方向に反射する周波数選択反射板1であって、電磁波を反射する反射部材2と、反射部材2に対して電磁波の入射側に配置され、所定の方向に厚さが増加する厚さ分布を有する単位構造10が複数配置された凹凸構造を有する電磁波を透過する誘電体層5を有する。誘電体層5の単位構造10は、厚さの異なる複数のセル領域を有し、誘電体層5が単位構造として厚さの異なる3つ以上のセル領域11a~11fを有する第1の単位構造10を少なくとも有し、誘電体層5の厚さ分布によって電磁波の相対反射位相分布を制御することで電磁波の反射方向を制御する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電磁波を正反射方向とは異なる方向に反射する周波数選択反射板と、
前記周波数選択反射板の上方に配置された保護部材と、
を有する反射構造体であって、
前記保護部材の厚さが、前記保護部材内を伝搬する前記電磁波の実効波長の1/4未満であり、
前記周波数選択反射板の前記保護部材とは反対側に、固定部材が配置されている、反射構造体。
【請求項2】
前記固定部材は、前記反射構造体を設置する設置面と前記周波数選択反射板との間隔を離す構造を有する、請求項1に記載の反射構造体。
【請求項3】
前記周波数選択反射板と前記固定部材との間に、金属層を有する、請求項1に記載の反射構造体。
【請求項4】
前記固定部材は、金属層を有する、請求項1に記載の反射構造体。
【請求項5】
前記固定部材は、前記周波数選択反射板の法線方向の角度を可変にする機構を有する、請求項1に記載の反射構造体。
【請求項6】
電磁波を正反射方向とは異なる方向に反射する周波数選択反射板と、
前記周波数選択反射板の上方に配置された保護部材と、
を有する反射構造体であって、
前記保護部材の厚さが、3.1mm以下である、反射構造体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、特定の周波数帯の電磁波を正反射方向とは異なる方向に反射する周波数選択反射板、ならびに、周波数選択反射板と、この周波数選択反射板を保護するための保護部材とを有する反射構造体に関する。
【背景技術】
【0002】
移動通信システムにおいて、伝搬環境および伝搬エリアを改善するために、リフレクトアレイの技術が検討されている。リフレクトアレイの技術は、例えば、特許文献1および特許文献2、ならびに非特許文献1および非特許文献2に記載されている。特に、第5世代通信システムに使用されるような高周波の電波は、直進性が強いため、カバレッジホールの解消が重要な課題である。第5世代通信システムは、5G通信システムともいう。カバレッジホールとは、電波が届かない領域をいう。
【0003】
リフレクトアレイは、所定の方向の基地局から入射する特定の周波数の電磁波に対し、所望の方向に電磁波を反射することが可能であることが望まれている。このようなリフレクトアレイは、例えば、複数の反射素子が配列されている。反射素子の寸法や形状を変化させることによって、反射素子毎の共振周波数を変化させ、電磁波の反射位相を制御する。電磁波の反射位相を制御することにより、電磁波の入射方向および反射方向を制御する技術が開発されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第5371633号公報
【特許文献2】特許第5162677号公報
【特許文献3】国際公開第2016/002832号
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】松野宏己ら、「可視光透過メタサーフェス反射板の開発」、電子情報通信学会技術研究報告(IEICE TechnicalReport)、2020、Vol.120、No.9、pp.13-17
【非特許文献2】芳野真弓ら、「メタ・サーフェス反射板によるL字型廊下見通し外環境の受信電力の改善」、信学技報(IEICE TechnicalReport)、A・P2020-5(2020-04)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記リフレクトアレイにおいて、反射素子のパターンは、例えば、フォトリソグラフィ技術を用い、金属層をエッチングすることによって形成することが知られている。
【0007】
ここで、移動通信システムにおいて、基地局の位置と、カバレッジホールの位置と、リフレクトアレイの設置位置との関係は、様々なシチュエーションが想定される。そのため、シチュエーションに合わせて、目的の入射角および反射角となる反射特性を有するリフレクトアレイを使用する必要がある。
【0008】
しかしながら、様々なシチュエーションに応じて反射特性をカスタマイズしようとすると、リフレクトアレイの製造コストが増大してしまう。これは、金属層のフォトリソグラフィ加工に用いられるフォトマスクをカスタマイズする必要があるためである。よって、シチュエーションに合わせてリフレクトアレイの反射特性をカスタマイズすることは現実的ではない。実際には、そのシチュエーションに最適ではない反射特性を有するリフレクトアレイを使用せざるを得なかった。
【0009】
また、上記リフレクトアレイにおいて、例えば、反射素子のピッチを狭くすることで、反射角を大きくすることができる。しかし、反射素子の平面配列において、反射素子のピッチの狭小化には限界があるため、反射角を大きくすることが困難である。さらに、シチュエーションに合わせて目的の反射角となる反射特性を有するリフレクトアレイを得るには、リフレクトアレイ面内で反射位相を細かく制御する必要がある。しかし、金属層のフォトリソグラフィ加工は加工精度に限界があるため、波長が短く加工精度を要求される高周波において、反射位相を細かく制御することが困難である。
【0010】
本開示は、上記実情に鑑みてなされたものであり、反射特性をカスタマイズすることが容易な周波数選択反射板を提供することを第一の目的とする。
【0011】
ところで、リフレクトアレイは外部環境から保護する必要がある。しかし、リフレクトアレイに保護部材を配置すると、保護部材によって電磁波が減衰してしまうという問題がある。
【0012】
ここで、リフレクトアレイではなく、アンテナの技術であるが、アンテナ本体を保護するためのレドームを備えるアンテナ装置において、レドームによる電磁波の減衰を抑制し、アンテナの指向性の乱れを抑制する技術が知られている。例えば、レドームの厚さは、電磁波の実効波長の1/2またはその整数倍、あるいは、電磁波の実効波長の1/4またはその整数倍とすることとすることが知られている。例えば、アンテナおよびレドーム間の距離は、電磁波の実効波長の1/2またはその整数倍とすることが知られている。これらは、例えば特許文献3に記載されている。
【0013】
リフレクトアレイに保護部材を配置する場合においても、保護部材の厚さならびにリフレクトアレイおよび保護部材間の距離を上述のような特定の値にすることにより、保護部材による電磁波の減衰を抑制することができると考えられる。しかし、リフレクトアレイおよび保護部材の設計に制約が生じてしまう。
【0014】
また、リフレクトアレイにおいて、電磁波の入射角および反射角が異なる場合、入射波と反射波とで、保護部材の入射側表面とリフレクトアレイ表面との間の経路長が異なる。そのため、リフレクトアレイに保護部材を配置する場合において、保護部材の厚さならびにリフレクトアレイおよび保護部材間の距離を上述のように特定の値に設定したとしても、保護部材による電磁波の減衰を十分に抑制できない。
【0015】
本開示は、上記実情に鑑みてなされたものであり、特定の周波数帯の電磁波を正反射方向とは異なる方向に反射する周波数選択反射板と、この周波数選択反射板を保護するための保護部材とを有する反射構造体において、設計に制約を与えることなく、保護部材による電磁波の減衰を抑制することが可能な反射構造体を提供することを第二の目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本開示は、反射特性をカスタマイズすることが容易な周波数選択反射板を提供することを第一の目的とする。第一の目的は、下記の本開示の実施形態によって達成される。
【0017】
本開示の一実施形態は、24GHz以上の特定の周波数帯の電磁波を正反射方向とは異なる方向に反射する周波数選択反射板であって、上記電磁波を反射する反射部材と、上記反射部材に対して上記電磁波の入射側に配置され、所定の方向に厚さが増加する厚さ分布を有する単位構造が複数配置された凹凸構造を有し、上記電磁波を透過する誘電体層と、を有し、上記誘電体層の上記単位構造は、厚さの異なる複数のセル領域を有し、上記誘電体層の各単位構造では、上記単位構造の上記所定の方向の長さを横軸とし、上記電磁波が上記誘電体層を透過し上記反射部材で反射され上記誘電体層を再度透過して上記電磁波の入射側に放出される際の相対反射位相を縦軸とし、上記電磁波の相対反射位相の値が-360度超0度以下であるグラフに、各セル領域の上記所定の方向の中心位置および各セル領域での上記電磁波の相対反射位相に対応する点をプロットし、最小厚さを有する最小厚さセル領域に対応する点を通る直線を引いたとき、各点が同一直線上にあり、上記誘電体層が、上記単位構造として、厚さの異なる3つ以上の上記セル領域を有する第1の単位構造を少なくとも有し、上記誘電体層の厚さ分布によって上記電磁波の相対反射位相分布を制御することにより、上記電磁波の反射方向を制御する、周波数選択反射板を提供する。
【0018】
本開示の他の実施形態は、24GHz以上の特定の周波数帯の電磁波を正反射方向とは異なる方向に反射する周波数選択反射板であって、上記電磁波を反射する反射部材と、上記反射部材に対して上記電磁波の入射側に配置され、所定の方向に厚さが増加する厚さ分布を有する単位構造が複数配置された凹凸構造を有し、上記電磁波を透過する誘電体層と、を有し、上記誘電体層の上記単位構造は、厚さの異なる複数のセル領域を有し、上記誘電体層の各単位構造では、最小厚さを有する最小厚さセル領域の上記所定の方向の中心位置を0とし、最大厚さを有する最大厚さセル領域の上記所定の方向の中心位置を1としたときの、相対位置を横軸とし、上記最小厚さセル領域の厚さを0とし、上記最大厚さセル領域の厚さを1としたときの、上記最大厚さセル領域の厚さに対する各セル領域の厚さの比を縦軸とするグラフに、各セル領域の上記所定の方向の中心位置および上記最大厚さセル領域の厚さに対する各セル領域の厚さの比に対応する点をプロットし、下記式(1):
y=ax (1)
の回帰直線を求めたとき、上記回帰直線の傾きaが0.7以上1.2以下であり、上記回帰直線の決定係数が0.9以上であり、上記誘電体層が、上記単位構造として、厚さの異なる3つ以上の上記セル領域を有する第1の単位構造を少なくとも有する、周波数選択反射板を提供する。
【0019】
本開示の他の実施形態は、24GHz以上の特定の周波数帯の電磁波を正反射方向とは異なる方向に反射する周波数選択反射板であって、上記電磁波を反射する反射部材と、上記反射部材に対して上記電磁波の入射側に配置され、所定の方向に厚さが増加する厚さ分布を有する単位構造が複数配置された凹凸構造を有し、上記電磁波を透過する誘電体層と、を有し、上記誘電体層の上記単位構造は、厚さの異なる複数のセル領域を有し、上記誘電体層の各単位構造では、最小厚さと最大厚さとの差が、0.2mm以上15mm以下であり、上記誘電体層が、上記単位構造として、厚さの異なる3つ以上の上記セル領域を有する第1の単位構造を少なくとも有する、周波数選択反射板を提供する。
【0020】
本開示の他の実施形態は、上述の周波数選択反射板に用いられる、誘電体層を提供する。
【0021】
本開示は、特定の周波数帯の電磁波を正反射方向とは異なる方向に反射する周波数選択反射板と、この周波数選択反射板を保護するための保護部材とを有する反射構造体において、設計に制約を与えることなく、保護部材による電磁波の減衰を抑制することが可能な反射構造体を提供することを第二の目的とする。第二の目的は、下記の本開示の実施形態によって達成される。
【0022】
本開示の他の実施形態は、特定の周波数帯の電磁波を正反射方向とは異なる方向に反射する周波数選択反射板と、上記周波数選択反射板の上方に配置された保護部材と、を有する反射構造体であって、上記保護部材の厚さが、上記保護部材内を伝搬する上記電磁波の実効波長の1/4未満である、反射構造体を提供する。
【発明の効果】
【0023】
本開示の周波数選択反射板は、反射特性をカスタマイズすることが容易であるという効果を奏する。また、本開示の周波数選択反射板は、反射特性の制御における加工精度のマージンを広げることができるという効果を奏する。
【0024】
本開示の反射構造体は、設計に制約を与えることなく、保護部材による電磁波の減衰を抑制することが可能であるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1】本開示の周波数選択反射板を例示する概略平面図および断面図、ならびに本開示の周波数選択反射板における誘電体層の単位構造の各セル領域での電磁波の相対反射位相を説明するための模式図である。
図2】本開示の周波数選択反射板における反射特性を例示する模式図である。
図3】本開示の周波数選択反射板における誘電体層の単位構造を例示する概略斜視図および平面図である。
図4】本開示の周波数選択反射板における誘電体層の単位構造を例示する概略平面図である。
図5】本開示の周波数選択反射板を例示する概略断面図である。
図6】本開示の周波数選択反射板を例示する概略断面図、ならびに本開示の周波数選択反射板における誘電体層の単位構造の各セル領域での電磁波の相対反射位相を説明するための模式図である。
図7】本開示の周波数選択反射板における反射特性を例示する模式図である。
図8】本開示の周波数選択反射板における誘電体層の単位構造を例示する概略平面図である。
図9】本開示の周波数選択反射板を例示する概略断面図、ならびに本開示の周波数選択反射板における誘電体層の単位構造の各セル領域での電磁波の相対反射位相を説明するための模式図である。
図10】本開示の周波数選択反射板における誘電体層の単位構造の構成を例示する模式図である。
図11】本開示の周波数選択反射板を例示する概略断面図である。
図12】本開示の周波数選択反射板における反射部材を例示する概略平面図および本開示の周波数選択反射板を例示する概略断面図である。
図13】本開示の周波数選択反射板における反射部材を例示する概略平面図および本開示の周波数選択反射板を例示する概略断面図である。
図14】本開示の周波数選択反射板を例示する概略断面図である。
図15】本開示の周波数選択反射板を例示する概略平面図および断面図、ならびに本開示の周波数選択反射板における誘電体層の単位構造の各セル領域の相対位置および厚さの比の関係を例示するグラフである。
図16】本開示の周波数選択反射板における誘電体層の単位構造の各セル領域の相対位置および厚さの比の関係を例示するグラフである。
図17】本開示の反射構造体を例示する概略断面図および本開示の反射構造体における周波数選択反射板を例示する概略平面図である。
図18】本開示の反射構造体を例示する概略断面図および本開示の反射構造体における周波数選択反射板を例示する概略平面図である。
図19】本開示の反射構造体を例示する概略平面図および断面図である。
図20】実施例1のシミュレーションモデルを示す概略斜視図およびシミュレーション結果を示すグラフである。
図21】実施例2のシミュレーションモデルを示す概略斜視図およびシミュレーション結果を示すグラフである。
図22】伝送線路等価回路を例示する模式図である。
図23】実施例5のシミュレーションモデルを示す概略斜視図およびシミュレーション結果を示すグラフである。
図24】実施例6の周波数選択反射板における誘電体層の単位構造の各セル領域の相対位置および厚さの比の関係を例示するグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0026】
下記に、図面等を参照しながら本開示の実施の形態を説明する。ただし、本開示は多くの異なる態様で実施することが可能であり、下記に例示する実施の形態の記載内容に限定して解釈されるものではない。また、図面は説明をより明確にするため、実際の形態に比べ、各部の幅、厚さ、形状等について模式的に表わされる場合があるが、あくまで一例であって、本開示の解釈を限定するものではない。また、本明細書と各図において、既出の図に関して前述したものと同様の要素には、同一の符号を付して、詳細な説明を適宜省略することがある。
【0027】
本明細書において、ある部材の上に他の部材を配置する態様を表現するにあたり、単に「上に」あるいは「下に」と表記する場合、特に断りの無い限りは、ある部材に接するように、直上あるいは直下に他の部材を配置する場合と、ある部材の上方あるいは下方に、さらに別の部材を介して他の部材を配置する場合との両方を含むものとする。ある部材の上方に他の部材を配置する態様を表現するにあたり、単に「上方に」あるいは「下方に」と表記する場合、特に断りの無い限りは、ある部材に接するように、直上あるいは直下に他の部材を配置する場合と、ある部材の上あるいは下に、さらに別の部材を介して他の部材を配置する場合と、ある部材の上方あるいは下方に、空間を介して他の部材を配置する場合とのいずれも含むものとする。また、本明細書において、ある部材の面に他の部材を配置する態様を表現するにあたり、単に「面に」と表記する場合、特に断りの無い限りは、ある部材に接するように、直上あるいは直下に他の部材を配置する場合と、ある部材の上方あるいは下方に、さらに別の部材を介して他の部材を配置する場合との両方を含むものとする。
【0028】
以下、本開示における周波数選択反射板、それに用いられる誘電体層、および反射構造体について、詳細に説明する。
【0029】
A.周波数選択反射板
本開示における周波数選択反射板は、3つの実施態様を有する。以下、各実施態様に分けて説明する。
【0030】
I.周波数選択反射板の第1実施態様
本実施態様の周波数選択反射板は、24GHz以上の特定の周波数帯の電磁波を正反射方向とは異なる方向に反射する周波数選択反射板であって、上記電磁波を反射する反射部材と、上記反射部材に対して上記電磁波の入射側に配置され、所定の方向に厚さが増加する厚さ分布を有する単位構造が複数配置された凹凸構造を有し、上記電磁波を透過する誘電体層と、を有し、上記誘電体層の上記単位構造は、厚さの異なる複数のセル領域を有し、上記誘電体層の各単位構造では、上記単位構造の上記所定の方向の長さを横軸とし、上記電磁波が上記誘電体層を透過し上記反射部材で反射され上記誘電体層を再度透過して上記電磁波の入射側に放出される際の相対反射位相を縦軸とし、上記電磁波の相対反射位相の値が-360度超0度以下であるグラフに、各セル領域の上記所定の方向の中心位置および各セル領域での上記電磁波の相対反射位相に対応する点をプロットし、最小厚さを有する最小厚さセル領域に対応する点を通る直線を引いたとき、各点が同一直線上にあり、上記誘電体層が、上記単位構造として、厚さの異なる3つ以上の上記セル領域を有する第1の単位構造を少なくとも有し、上記誘電体層の厚さ分布によって上記電磁波の相対反射位相分布を制御することにより、上記電磁波の反射方向を制御するものである。
【0031】
本実施態様の周波数選択反射板について図面を参照して説明する。図1(a)、(b)は、本実施態様の周波数選択反射板の一例を示す概略平面図および断面図であり、図1(b)は図1(a)のA-A線断面図である。図1(a)、(b)に示すように、周波数選択反射板1は、特定の電磁波を反射する反射部材2と、反射部材2に対して電磁波の入射側に配置され、所定の方向D1に厚さt1~t6が増加する厚さ分布を有する単位構造10が複数配置された凹凸構造を有し、特定の電磁波を透過する誘電体層5と、を有する。また、周波数選択反射板1は、反射部材2および誘電体層5の間に接着層6を有することができる。誘電体層5の単位構造10は、厚さt1~t6の異なる複数のセル領域11a~11fを有する。例えば図1(b)においては、誘電体層5の単位構造10は、所定の方向D1に厚さt1~t6が段階的に増加する階段形状を有しており、階段形状の段数が6段であり、誘電体層5の単位構造10は6個のセル領域11a~11fを有している。誘電体層5の単位構造10の各セル領域11a~11fでは、厚さt1~t6が異なるため、電磁波が誘電体層5を透過し反射部材2で反射され誘電体層5を再度透過して電磁波の入射側に放出される際の往復の光路長が異なることになり、これらの誘電体層での往復光路長の差、すなわち光路差が相対反射位相の差を生み出すことになる。
【0032】
ここで、本明細書において、「光路長」という用語を用いたのは、本開示において対象とする周波数帯の波長が従来のLTE以前の周波数帯に比べると光に近づき直進性も高くなることから、光に類似の挙動としたほうが説明しやすいためであり、実際には誘電体層の中を電磁波が通過する際の実効距離を意味する。
【0033】
そして、誘電体層5の単位構造10では、単位構造10の所定の方向D1の長さLを横軸とし、電磁波が誘電体層5を透過し反射部材2で反射され誘電体層5を再度透過して電磁波の入射側に放出される際の相対反射位相を縦軸とし、電磁波の相対反射位相の値が-360度超0度以下であるグラフに、各セル領域の所定の方向D1の中心位置および各セル領域での電磁波の相対反射位相に対応する点をプロットし、最小厚さを有する最小厚さセル領域に対応する点を通る直線を引いたとき、各点が同一直線上にある。
【0034】
図1(c)は、誘電体層5の単位構造10の所定の方向D1の長さLを横軸とし、電磁波が誘電体層5を透過し反射部材2で反射され誘電体層5を再度透過して電磁波の入射側に放出される際の相対反射位相を縦軸とし、電磁波の相対反射位相の値が-360度超0度以下であるグラフであり、図1(a)、(b)に示す周波数選択反射板における誘電体層の単位構造の各セル領域での電磁波の相対反射位相の例である。図1(c)に示すように、誘電体層5の単位構造10の各セル領域11a~11fでの電磁波の相対反射位相はそれぞれ、0度、-60度、-120度、-180度、-240度、-300度であり、隣接するセル領域での電磁波の相対反射位相の差の絶対値は60度である。この場合、誘電体層5の単位構造10の6個のセル領域11a~11fの厚さt1~t6は、隣接するセル領域での電磁波の相対反射位相の差の絶対値が360度を6で除した値、すなわち60度になるように、設計されている。そして、図1(c)に示すように、誘電体層5の単位構造10の各セル領域11a~11fの所定の方向D1の中心位置および各セル領域11a~11fでの電磁波の相対反射位相に対応する点をプロットし、各セル領域11a~11fのうち最小厚さt1を有する最小厚さセル領域11aに対応する点を通る直線を引いたとき、各点は同一直線上にある。すなわち、各点は、図1(c)に示すグラフ中の実線上にある。
【0035】
ここで、本明細書において、「反射位相」とは、ある表面に入射する入射波の位相に対する、反射波の位相の変化量をいう。本開示の反射部材および誘電体層を有する周波数選択反射板においては、入射波の位相に対する、入射波が誘電体層を透過し反射部材で反射され誘電体層を再度透過して放出される際の反射波の位相の変化量をいう。
【0036】
また、本明細書において、「相対反射位相」とは、誘電体層の一つの単位構造において、反射位相の遅れが最も少ないセル領域での反射位相を基準として、その基準の反射位相に対する、あるセル領域での反射位相の遅れを負号で示すものである。例えば、誘電体層の一つの単位構造において、反射位相の遅れが最も少ないセル領域での反射位相が-10度である場合、反射位相が-40度であるセル領域での相対反射位相は-30度になる。
【0037】
なお、後述するように、反射部材が反射位相制御機能を有する場合には、セル領域での電磁波の相対反射位相は、反射部材での反射位相も合成した値とする。
【0038】
また、本明細書において、「セル領域」とは、誘電体層の単位構造において、電磁波の相対反射位相が同じである領域をいう。
【0039】
なお、反射位相は、特に断りのない限り、-360度超+360度未満の範囲内であり、-360度および+360度は0度に戻る。また、相対反射位相は、特に断りのない限り、-360度超0度以下の範囲内であり、-360度は0度に戻る。
【0040】
従来のような複数の反射素子が配列されたリフレクトアレイでは、例えば、反射素子の寸法や形状を調整することで、反射位相を遅らせることも、反射位相を進めることもできる。本開示の周波数選択反射板においては、誘電体層の単位構造の各セル領域の厚さを調整することによって、基本的に反射位相が遅れることになる。そのため、相対反射位相については、反射位相の遅れが最も少ないセル領域での反射位相を基準としている。
【0041】
また、通常、誘電体層の一つの単位構造において、反射位相の遅れが最も少ないセル領域は、厚さが増加する所定の方向において最小厚さを有する最小厚さセル領域となる。そのため、上記のグラフにおいては、最小厚さを有する最小厚さセル領域に対応する点を通る直線を引くこととしている。
【0042】
上述のように、誘電体層5の単位構造10の各セル領域11a~11fでは、厚さt1~t6が変化することで、誘電体層5での往復光路長が変化し、電磁波の相対反射位相が変化する。そのため、図2に例示するように、電磁波の入射波W1を正反射方向すなわち鏡面反射方向とは異なる方向に反射させることができる。この場合、電磁波の入射波W1の入射角θ1と、電磁波の反射波W2の反射角θ2とは異なる。
【0043】
したがって、本実施態様の周波数選択反射板は、誘電体層の単位構造の各セル領域の厚さを変化させることによって、セル領域毎に誘電体層での往復光路長を変化させ、電磁波の反射位相を制御することができる。これにより、電磁波の所定の入射方向に対する反射方向を任意の方向に制御することができる。
【0044】
また、本実施態様における誘電体層の凹凸構造は、例えば、切削、レーザー加工、金型を使用した賦型、3Dプリンタ、小片パーツの接合等の種々の手法によって形成することができる。そのため、従来のリフレクトアレイにおける金属層のフォトリソグラフィ加工で必要であったフォトマスクが不要である。よって、シチュエーションに合わせて目的の入射角および反射角となる反射特性になるように、誘電体層の単位構造の各セル領域の厚さを設計し、誘電体層を形成する場合に、比較的安価かつ短期に所望の誘電体層を形成でき、少量多品種のニーズに容易に対応できる。また、反射特性の制御に影響する誘電体層の厚さや誘電体層の単位構造のサイズについては、加工が可能な範囲が比較的広い。そのため、例えば電磁波の入射角および反射角を大きくすることが可能であり、反射特性の制御域を広くすることができる。さらに、誘電体層の厚さや誘電体層の単位構造のセル領域のピッチについては、所望の反射位相を実現するための寸法加工精度のマージンが比較的広い。そのため、所望の反射特性を得られやすく、寸法ばらつきの影響も軽減することができる。したがって、周波数選択反射板の反射特性をカスタマイズすることが容易である。
【0045】
また、本実施態様の周波数選択反射板において、反射部材は、特定の電磁波のみを反射する周波数選択板とすることができる。例えば図1(a)、(b)に示すように、反射部材2は、複数のリング状の反射素子3が配列されたものであり、誘電体基板4と、誘電体基板4の誘電体層5側の面に配置された複数の反射素子3とを有している。
【0046】
さらに、本実施態様の周波数選択反射板において、反射部材は、特定の電磁波のみを反射する周波数選択板であり、かつ、電磁波の反射位相を制御する反射位相制御機能を有する部材とすることができる。このような反射部材は、反射素子の寸法や形状を変化させることによって、反射素子毎に共振周波数を変化させ、対象とする電磁波の反射位相を制御することができる。この場合、誘電体層の厚さだけでなく反射素子の寸法や形状によっても電磁波の反射位相を制御することができ、反射特性の制御についての設計自由度を向上させることができる。
【0047】
よって、本実施態様の周波数選択反射板において、上記のような反射部材を用いる場合には、上記誘電体層と組み合わせることにより、反射特性の制御の自由度を広げることができる。そのため、周波数選択反射板の反射特性のカスタマイズをより容易にすることができる。例えば、天地方向の反射特性は反射部材で複数種類を準備しておき、水平方向の反射特性を調整する誘電体層と組み合わせるといった運用がある。
【0048】
また、本開示の発明者らは、本開示の反射部材および誘電体層を有する周波数選択反射板において、反射部材を、特定の電磁波のみを反射する反射素子を有する周波数選択板とした場合に、特定の周波数帯の電磁波の反射特性のシミュレーションを行った。このシミュレーションにより、反射部材すなわち周波数選択板に誘電体層が近接することによる反射素子での反射位相のずれよりも、誘電体層の単位構造のセル領域の厚さを変化させて、セル領域毎に誘電体層での往復光路長を変化させたときの反射位相のずれのほうが大きいことを見出した。すなわち、実質的な反射特性の設計は、誘電体層の凹凸構造の設計でほぼ決めることが可能であることを見出した。このとき、反射素子の共振周波数は、近接する誘電体層の有無で変動するが、誘電体層が存在する前提で設計をしておけば、実用上の問題は解消される。さらに、周波数選択反射板における反射位相の面内分布設計を実現する誘電体層の凹凸構造の面内配置は、反射部材の反射素子の面内配置に対して一定の位置関係である必要はなく、誘電体層の凹凸構造を反射素子の面内配置に対してずらして配置しても反射特性に大きな影響を与えないことを見出した。
【0049】
よって、本実施態様の周波数選択反射板において、上記誘電体層と、上記のような反射部材とを組み合わせる場合には、誘電体層および反射部材をそれぞれ独立して設計し、組み合わせることが可能である。この場合、使用環境に応じた反射特性を実現する誘電体層をその都度作製してもよく、事前に複数仕様を準備しておいてもよい。そのため、使用環境に応じて変化する周波数選択反射板の反射方向設計をより簡便にカスタマイズすることができ、多様なシチュエーションへの適用が容易となる。なお、上述したように、反射部材および誘電体層のそれぞれの反射位相分布の組み合わせにより周波数選択反射板の全体の反射特性を調整する場合は、要求仕様に応じて反射部材および誘電体層の配置ずれの精度が求められる。一方、誘電体層の反射位相分布のみにより周波数選択反射板の反射特性を調整する場合は、反射部材および誘電体層の配置ずれの精度はあまり求められない。
【0050】
以下、本実施態様の周波数選択反射板の各構成について説明する。
【0051】
1.誘電体層
本実施態様における誘電体層は、反射部材に対して電磁波の入射側に配置され、所定の方向に厚さが増加する厚さ分布を有する単位構造が複数配置された凹凸構造を有し、特定の周波数帯の電磁波を透過する部材である。また、誘電体層の単位構造は、厚さの異なる複数のセル領域を有しており、誘電体層の各単位構造では、単位構造の所定の方向の長さを横軸とし、電磁波が誘電体層を透過し反射部材で反射され誘電体層を再度透過して電磁波の入射側に放出される際の相対反射位相を縦軸とし、電磁波の相対反射位相の値が-360度超0度以下であるグラフに、各セル領域の所定の方向の中心位置および各セル領域での電磁波の相対反射位相に対応する点をプロットし、最小厚さを有する最小厚さセル領域に対応する点を通る直線を引いたとき、各点が同一直線上にある。また、誘電体層は、単位構造として、厚さの異なる3つ以上のセル領域を有する第1の単位構造を少なくとも有する。
【0052】
(1)誘電体層の構造
誘電体層は、所定の方向に厚さが増加する厚さ分布を有する単位構造が複数配置された凹凸構造を有する。
【0053】
誘電体層の単位構造は、厚さの異なる複数のセル領域を有しており、誘電体層の各単位構造では、単位構造の上記所定の方向の長さを横軸とし、電磁波が誘電体層を透過し反射部材で反射され誘電体層を再度透過して電磁波の入射側に放出される際の相対反射位相を縦軸とし、電磁波の相対反射位相の値が-360度超0度以下であるグラフに、各セル領域の上記所定の方向の中心位置および各セル領域での電磁波の相対反射位相に対応する点をプロットし、最小厚さを有する最小厚さセル領域に対応する点を通る直線を引いたとき、各点が同一直線上にある。
【0054】
なお、各点が同一直線上にあるとは、その直線に対する各点の縦軸方向の差が±72度以内であることをいう。上記の直線に対する各点の縦軸方向の差は、好ましくは±54度以内であり、より好ましくは±36度以内であり、さらに好ましくは±18度以内である。なお、各点が上記の直線に対して縦軸方向にずれを含む場合であって、各点を通る直線を引きづらい場合には、「最小厚さを有する最小厚さセル領域に対応する点と、その単位構造に隣接する単位構造での最小厚さを有する最小厚さセル領域に対応する点とを結んだ直線」を考えるとよい。最小厚さを有する最小厚さセル領域に対応する点とは、相対反射位相0度の点である。その単位構造に隣接する単位構造での最小厚さを有する最小厚さセル領域に対応する点とは、相対反射位相-360度とみなせる点である。
【0055】
誘電体層の単位構造は、所定の方向に厚さが増加する厚さ分布を有する。誘電体層の単位構造は、例えば、一方向のみに厚さが増加する厚さ分布を有していてもよい。あるいは、誘電体層の単位構造は、第一方向および第一方向に垂直な第二方向の二方向に厚さが増加する厚さ分布を有していてもよい。例えば、図3(a)は、誘電体層の単位構造10が第一方向D1のみに厚さが増加する厚さ分布を有する例であり、図3(c)、(e)、図4(a)は、誘電体層の単位構造10が第一方向D1および第二方向D2に厚さが増加する厚さ分布を有する例である。
【0056】
誘電体層の単位構造が一方向のみに厚さが増加する厚さ分布を有する場合には、その一方向での単位構造の長さを横軸とする上記グラフに上記点をプロットしたときに、各点が同一直線上にあることになる。また、誘電体層の単位構造が互いに垂直な二方向に厚さが増加する厚さ分布を有する場合、その二方向での単位構造の長さをそれぞれ横軸とする上記グラフにそれぞれ上記点をプロットしたときに、各グラフにおいて、各点が同一直線上にあることになる。
【0057】
誘電体層の一つの単位構造において、隣接するセル領域での電磁波の相対反射位相の差の絶対値は、180度未満であり、120度以下であることが好ましく、60度以下であることがより好ましい。隣接するセル領域での電磁波の相対反射位相の差の絶対値が小さいほど、反射波の波面を滑らかにすることができる。また、隣接するセル領域での電磁波の相対反射位相の差の絶対値は、0度超である。
【0058】
また、隣接する単位構造において、一方の単位構造での最大厚さを有する最大厚さセル領域と、他方の単位構造での最小厚さを有する最小厚さセル領域とが隣接している場合、一方の単位構造での反射位相の遅れが最も少ないセル領域での反射位相を基準として、他方の単位構造での最小厚さを有する最小厚さセル領域での電磁波の相対反射位相を、一周期分ずらした-720度超-360度以下で示すとき、一方の単位構造での最大厚さを有する最大厚さセル領域での電磁波の相対反射位相と、他方の単位構造での最小厚さを有する最小厚さセル領域での電磁波の相対反射位相との差の絶対値は、180度未満であり、120度以下であることが好ましく、60度以下であることがより好ましい。これらの隣接するセル領域での電磁波の相対反射位相の差の絶対値が小さいほど、反射波の波面を滑らかにすることができる。また、これらの隣接するセル領域での電磁波の相対反射位相の差の絶対値は、0度超である。例えば、図1(c)においては、隣接する単位構造10a、10bにおいて、一方の単位構造10aの最大厚さt6を有する最大厚さセル領域11fでの電磁波の相対反射位相は-300度であり、他方の単位構造10bの最小厚さt1を有する最小厚さセル領域11aでの電磁波の相対反射位相は-360度である。よって、一方の単位構造10aの最大厚さt6を有する最大厚さセル領域11fでの電磁波の相対反射位相と、他方の単位構造10bの最小厚さt1を有する最小厚さセル領域11aでの電磁波の相対反射位相との差の絶対値は、60度である。
【0059】
また、誘電体層の一つの単位構造において、隣接するセル領域での電磁波の相対反射位相の差は、等しいことが好ましい。例えば、図1(b)に示すように、誘電体層5の単位構造10が6個のセル領域を有する場合、隣接するセル領域11a、11bでの電磁波の相対反射位相の差と、隣接するセル領域11b、11cでの電磁波の相対反射位相の差と、隣接するセル領域11c、11dでの電磁波の相対反射位相の差と、隣接するセル領域11d、11eでの電磁波の相対反射位相の差と、隣接するセル領域11e、11fでの電磁波の相対反射位相の差とは、それぞれ等しいことが好ましい。例えば、図1(c)においては、隣接するセル領域での電磁波の相対反射位相の差の絶対値はいずれも60度であり、等しくなっている。
【0060】
また、隣接する単位構造において、一方の単位構造での最大厚さを有する最大厚さセル領域と、他方の単位構造での最小厚さを有する最小厚さセル領域とが隣接している場合、一方の単位構造での反射位相の遅れが最も少ないセル領域での反射位相を基準として、他方の単位構造での最小厚さを有する最小厚さセル領域での電磁波の相対反射位相を、一周期分ずらした-720度超-360度以下で示すとき、一方の単位構造での全てのセル領域だけでなく、他方の単位構造での最小厚さを有する最小厚さセル領域も含めて、隣接するセル領域での電磁波の相対反射位相の差が等しいことが好ましい。例えば、図1(c)においては、隣接する単位構造10a、10bにおいて、一方の単位構造10aの各セル領域11a~11fでの電磁波の相対反射位相はそれぞれ、0度、-60度、-120度、-180度、-240度、-300度であり、他方の単位構造10bの最小厚さt1を有する最小厚さセル領域11aでの電磁波の相対反射位相は-360度である。よって、一方の単位構造10aでの全てのセル領域11a~11f、および、他方の単位構造10bでの最小厚さt1を有する最小厚さセル領域11aを含めて、隣接するセル領域での電磁波の相対反射位相の差の絶対値はいずれも60度であり、等しくなっている。
【0061】
また、誘電体層の一つの単位構造において、最小厚さを有する最小厚さセル領域での電磁波の相対反射位相と、最大厚さを有する最大厚さセル領域での電磁波の相対反射位相との差の絶対値は、360度未満である。また、誘電体層の一つの単位構造において、最小厚さを有する最小厚さセル領域での電磁波の相対反射位相と、最大厚さを有する最大厚さセル領域での電磁波の相対反射位相との差の絶対値は、180度より大きい必要があり、300度以上360度未満であることがより好ましい。例えば、図1(b)に示すように、誘電体層5の単位構造10が6個のセル領域を有する場合、一つの単位構造10において、最小厚さt1を有する最小厚さセル領域11aでの電磁波の相対反射位相と、最大厚さt6を有する最大厚さセル領域11fでの電磁波の相対反射位相との差の絶対値は、360度未満であることが好ましい。例えば、図1(c)においては、誘電体層5の一つの単位構造10では、最小厚さt1を有する最小厚さセル領域11aでの電磁波の相対反射位相は0度であり、最大厚さt6を有する最大厚さセル領域11fでの電磁波の相対反射位相は-300度であり、最小厚さt1を有する最小厚さセル領域11aでの電磁波の相対反射位相と、最大厚さt6を有する最大厚さセル領域11fでの電磁波の相対反射位相との差の絶対値は、300度である。
【0062】
誘電体層の単位構造のサイズ、具体的には、厚さが増加する所定の方向における単位構造の長さは、目的の反射特性に応じて適宜設定される。厚さが増加する所定の方向における単位構造の長さによって、1波長分すなわち位相が360度ずれることになるため、反射角を調整することができる。例えば、厚さが増加する所定の方向における単位構造の長さを短くすることで、正反射角に対する反射角の差を大きくすることができる。一方、厚さが増加する所定の方向における単位構造の長さを長くすることで、正反射角に対する反射角の差を小さくすることができる。
【0063】
また、誘電体層の単位構造の断面形状としては、例えば、所定の方向に厚さが段階的に増加する階段形状であってもよく、あるいは、所定の方向に厚さが漸次的に増加するテーパー形状であってもよい。例えば、図1(b)は、誘電体層5の単位構造10が階段形状を有する例であり、図5は、誘電体層5の単位構造10がテーパー形状を有する例である。
【0064】
なお、誘電体層の単位構造は厚さの異なる複数のセル領域を有するが、誘電体層の単位構造の断面形状がテーパー形状を有する場合は、単位構造におけるセル領域の数を無限に多くしたものとみなすことができる。この場合でも、単位構造が有する厚さ分布は、各セル領域での電磁波の相対反射位相が上述した設定になるように設計される。
【0065】
また、誘電体層は、厚さ分布を有する単位構造が複数配置されたものであるため、単位構造の平面視のパターン形状は、隙間なく配列することが可能な形状であればよく、例えば、矩形状、正六角形状等を挙げることができる。例えば、図3(a)~(f)、図4(a)は、誘電体層の単位構造10の平面視のパターン形状が矩形状である例である。
【0066】
誘電体層の単位構造において、隣接するセル領域での往復光路長の差は、各セル領域での電磁波の相対反射位相が上述した設定になるように設計されている。各セル領域の厚さは、隣接するセル領域の厚さの差が、上記の隣接するセル領域での往復光路長の差になるように設定されている。各セル領域の厚さは、電磁波の波長、誘電体層の材料の誘電率、および目的の反射特性に応じて適宜設定される。例えば、誘電体を通過する電磁波の実効波長をλとし、ベースの厚さをαとした場合、各セル領域の厚さは、α+0λ以上、α+2λ以下程度であることが好ましい。ベースの厚さαは、誘電体層の一つの単位構造において、最小厚さを有する最小厚さセル領域の最小厚さと同一とすることができる。ベースの厚さαは、全体的な強度、形成の容易さ等を考慮して適宜設定されるが、電磁波への影響を考慮すると、通常は0.1λ以下程度であることが好ましい。具体的には、電磁波の空気中の波長λが10mmであり、誘電体層の比誘電率が2.57である場合、各セル領域の厚さは、0mm以上8.6mm以下であることが好ましい。なお、セル領域の厚さが0mmである場合とは、反射部材上に位置する当該セル領域には誘電体層が形成されていない形態を意味する。
【0067】
また、誘電体層の単位構造において、最小厚さと最大厚さとの差は、例えば、0.2mm以上15mm以下であることが好ましく、2.1mm以上10.4mm以下であることがより好ましい。
【0068】
ここで、誘電体層内を伝搬する電磁波の実効波長λは、特定の電磁波の周波数fに対応する自由空間における波長をλとし、誘電体層の比誘電率をεとすると、λ=λ/√εで表される。そのため、上述したように、各セル領域の厚さが、例えば、α+0λ以上、α+2λ以下程度である場合、誘電体層の誘電率が低いと、各セル領域の厚さは厚くなり、誘電体層の誘電率が高いと、各セル領域の厚さは薄くなる。よって、誘電体層の誘電率が低いと、最小厚さと最大厚さとの差は大きくなり、誘電体層の誘電率が高いと、最小厚さと最大厚さとの差は小さくなる傾向がある。
【0069】
最小厚さと最大厚さとの差が大きすぎると、周波数選択反射板全体の厚さが厚くなるため、設置に制約が生じる可能性があり、ハンドリングが悪くなるおそれがある。また、製造コストが増大するおそれもある。一方、最小厚さと最大厚さとの差を小さくするには、上述のように、誘電体層の誘電率を高くする必要がある。しかし、誘電体層の誘電率が高いほど、誘電損失が大きい傾向があり、また誘電体界面での反射が大きくなる。その結果、設計方向への反射が減少する。そのため、最小厚さと最大厚さとの差が小さすぎると、誘電損失および界面反射を含めた損失が大きくなるおそれがある。
【0070】
なお、誘電体層の単位構造における最小厚さおよび最大厚さは、誘電体層の1つの単位構造の全体における最小厚さおよび最大厚さをいう。例えば図1(b)に示すように、誘電体層5の単位構造10が6個のセル領域11a~11fを有する場合、最小厚さはt1であり、最大厚さはt6である。また、例えば図5に示すように、誘電体層5の単位構造10がテーパー形状を有する場合、最小厚さはtaであり、最大厚さはtbである。
【0071】
誘電体層の単位構造における最小厚さと最大厚さの差は、例えば、厚み分解能が1μm程度の厚み計測手法を用いて計測した値である。また、例えば、最小厚さおよび最大厚さの差は、誘電体層の単位構造の厚さ方向の断面を光学顕微鏡で観察して測長した値を用いてもよい。
【0072】
誘電体層の単位構造において、セル領域のピッチや幅は適宜設定される。
【0073】
また、反射部材が、複数の反射素子が配列された部材である場合、誘電体層の単位構造のセル領域のピッチは、反射部材の反射素子のピッチと同じであってもよく異なっていてもよい。誘電体層の単位構造のセル領域のピッチが反射部材の反射素子のピッチと同じである場合には、設計が容易となる。また、例えば、誘電体層の単位構造のセル領域のピッチを、隣接するセル領域での電磁波の相対反射位相の差を保ったまま狭くすることにより、反射部材の反射素子のピッチとは関係なく、反射特性の制御域を広げることができる。
【0074】
また、誘電体層の一つの単位構造において、セル領域のピッチは等しいことが好ましい。
【0075】
なお、セル領域のピッチとは、1つのセル領域の中心から隣接するセル領域の中心までの距離をいう。
【0076】
また、誘電体層の一つの単位構造において、厚さが増加する所定の方向におけるセル領域の幅は等しいことが好ましい。
【0077】
誘電体層の単位構造において、セル領域の平面視のパターン形状としては、例えば、ストライプ状、同心正方形を辺に平行で互いに垂直な直線で四等分したときの一つの形状、マイクロアレイ状、同心円を互いに垂直な直径で四等分したときの一つの形状である同心四分円状、曲線階段状等が挙げられる。図3(b)は、ストライプ状の例である。図3(d)は、同心正方形を辺に平行で互いに垂直な直線で四等分したときの一つの形状の例である。図3(f)、図4(a)は、マイクロアレイ状の例である。図4(b)は、同心四分円状の例である。図4(c)は、曲線階段状の例である。図3(b)は、図3(a)の上面図である。図3(d)は、図3(c)の上面図である。図3(f)は、図3(e)の上面図である。また、これらの例示された単位構造を隙間なく配置する場合、配列の方向には特に制限はなく、例えば矩形の単位構造を平面視で時計回りに30度回転させた状態で全面に配列させることもでき、必要とされる反射特性設計に応じて単位構造を適切な角度、適切な配列方向を選択し配置すればよい。
【0078】
誘電体層の単位構造は、複数のセル領域を有する。誘電体層の一つの単位構造において、セル領域の数は、例えば、3以上であり、6以上であってもよい。誘電体層の一つの単位構造におけるセル領域の数が多いほど、隣接するセル領域での電磁波の相対反射位相の差を小さくすることができ、反射波の波面を滑らかにすることができる。また、誘電体層の一つの単位構造におけるセル領域の数について、上限は特に限定されない。なお、単位構造の断面形状が階段形状である場合、セル領域の数は、階段形状の段数に相当する。また、単位構造の断面形状がテーパー形状である場合、上述したように、テーパー形状は、セル領域の数を無限に多くしたものとみなすことができる。
【0079】
誘電体層は、単位構造として、厚さの異なる3つ以上のセル領域を有する第1の単位構造を少なくとも有する。
【0080】
また、誘電体層は、単位構造として、第1の単位構造のみを有していてもよく、第1の単位構造とは異なる第2の単位構造をさらに有していてもよい。すなわち、誘電体層は、単位構造として、同一の単位構造のみを有していてもよく、互いに異なる単位構造を有していてもよい。誘電体層が、互いに異なる単位構造が複数配置されたものである場合には、周波数選択反射板の全体の反射特性に影響を与えることができる。具体的には、偏波特性の調整、ビームプロファイルに対する影響等が例示される。ビームプロファイルに対する影響とは、例えば、高指向性のビームとすること、拡散性のビームとすること、マルチビームとすること等をいう。
【0081】
第1の単位構造および第2の単位構造は、互いに異なる反射特性とすることができる。例えば、厚さが増加する方向における単位構造の長さ、厚さ分布、セル領域の数、幅、ピッチ、単位構造の平面視のパターン形状、セル領域の平面視のパターン形状の少なくともいずれかが異なっていてもよい。
【0082】
また、誘電体層が、単位構造として、互いに異なる単位構造を有する場合、単位構造の種類の数は特に限定されない。
【0083】
誘電体層においては、所定の入射角で入射した入射波に対する反射波の同一位相面の法線ベクトルが所望の反射方向になるように、誘電体層の厚さ分布を適宜選択し、複数の単位構造を配置する。例えば、入射波を単一の方向に反射する、いわゆる平面波として反射する場合、誘電体層は、同一の単位構造のみが複数配置されたものであることが好ましく、厚さが増加する方向における単位構造の長さが同じであり、セル領域の平面視のパターン形状がストライプ状であることがより好ましい。例えば、図1(a)~(c)では、誘電体層5は同一の単位構造のみを複数有しており、所定の方向D1における単位構造10a、10bの長さLが同じであり、セル領域11a~11fの平面視のパターン形状がストライプ状である例である。この場合、図2に例示するように、所定の入射角θ1で入射した入射波W1を、単一の反射角θ2で反射させることができ、反射波W2を広がりのない平面波とすることができる。また、図1(a)には、波長選択反射板の短手方向に対してセル領域のストライプの長手方向が平行である配置が示されているが、これに限定されず、実際の波長選択反射板においては、セル領域のストライプの長手方向および短手方向は反射特性の設計に応じて任意に設定できる。
【0084】
また、例えば、電磁波を拡散する、すなわち円柱状の波として反射する場合、誘電体層は、互いに異なる単位構造が複数配置されたものであることが好ましく、厚さが増加する方向における単位構造の長さが異なり、セル領域の平面視のパターン形状がストライプ状である態様を挙げることができる。例えば、図6(a)において、誘電体層5は、互いに異なる3種類の単位構造10aと10b、10cと10dとを有しており、これらの単位構造10aと10b、10cと10dとでは、所定の方向D1における単位構造の長さL1、L2、L3が互いに異なり、セル領域11a~11g、12a~12f、13a~13eの数が互いに異なっている。これにより、図6(b)に示すように、単位構造10aの各セル領域11a~11gでの電磁波の相対反射位相はそれぞれ、0度、-51.4度、-103度、-154度、-206度、-257度、-309度であり、単位構造10b、10cの各セル領域12a~12fでの電磁波の相対反射位相はそれぞれ、0度、-60度、-120度、-180度、-240度、-300度であり、単位構造10dの各セル領域13a~13eでの電磁波の相対反射位相はそれぞれ、0度、-72度、-144度、-216度、-288度であり、単位構造10aと10b、10cと10dとは、反射特性が互いに異なっている。また、図示しないが、セル領域11a~11g、12a~12f、13a~13eの平面視のパターン形状はストライプ状である。この場合、図7に例示するように、所定の入射角θ1で入射した入射波W1を、単位構造に応じて反射角θ2、θ2’、θ2”で反射させ、広がりを持って反射させることができ、反射波W2の波面を広げることができる。
【0085】
また、誘電体層が、単位構造として、互いに異なる単位構造を有する場合、反射特性が互いに異なる複数種類の単位構造を用い、種類毎に単位構造を複数配置し、同じ種類の単位構造が複数配置された領域を平面配列してもよい。例えば、図8においては、反射特性が互いに異なる2種類の単位構造10a、10bを用い、一方の種類の単位構造10aが複数配置された第1領域5aと、他方の種類の単位構造10bが複数配置された第2領域5bとが平面配列されてなる誘電体層5としている。このような態様においては、複数のカバレッジホールに対応することができる。
【0086】
また、例えば、後述の反射部材が周波数選択板であり、互いに異なる周波数帯の電磁波を選択的に反射する複数種類の周波数選択性表面を有する場合、それらの周波数選択性表面の周波数選択性に応じて、単位構造の反射特性をそれぞれ設計し、誘電体層を、単位構造として、反射特性が互いに異なる単位構造を有するものとしてもよい。この場合も、例えば図8に示すような配置とすることができる。このような態様においては、デュアルバンドあるいはそれ以上の帯域数に対応することができる。
【0087】
また、誘電体層が、単位構造として、互いに異なる単位構造を有する場合、例えば、n個の単位構造によってn波長分ずれるように、n個の単位構造の各セル領域での電磁波の相対反射位相が設定されていてもよい。この場合、位相差はn×360度である。なお、nは2以上の整数である。例えば、図9(a)~(c)は、誘電体層5は、互いに異なる2種類の単位構造10a、10bを有しており、二つの単位構造10a、10bによって2波長分ずれるように、二つの単位構造10a、10bの各セル領域11a~11c、12a~12bでの電磁波の相対反射位相が設定されている例である。この場合、位相差は720度である。なお、図9(b)は、電磁波の相対反射位相のレンジを-360度超0度以下として表記したグラフであり、図9(c)は、電磁波の相対反射位相のレンジを-720度超0度以下とし、相対反射位相が360度ずれた実質同位相の点を補完したグラフである。これらの単位構造10a、10bでは、所定の方向D1における単位構造の長さL1、L2が互いに異なり、セル領域11a~11c、12a~12bの数が互いに異なっている。
【0088】
上記の場合、一方の単位構造10aは、3つのセル領域11a~11cを有しているが、他方の単位構造10bは、2つのセル領域12a、12bを有している。このように、誘電体層が、単位構造として、互いに異なる単位構造を有する場合、少なくとも1種類の単位構造が厚さの異なる3つ以上のセル領域を有していればよく、他の種類の単位構造ではセル領域の数が3つ以上であるとは限らず、2つであってもよい。
【0089】
また、入射波および反射波を平面波とする場合、誘電体層は、単位構造が繰り返し配置されている周期構造を有する。なお、「周期構造」とは、単位構造が周期的に繰り返し配置された構造をいう。周期構造における単位構造において、反射特性が同一である単位構造では、厚さが増加する方向における単位構造の長さ、厚さ分布、セル領域の数、幅、ピッチ、単位構造の平面視のパターン形状、セル領域の平面視のパターン形状等を同じにすることができる。また、誘電体層が周期構造を有する場合においても、上述したように、反射特性の異なる単位構造を組み合わせることができる。その場合、組み合わせる単位構造の反射特性は、目的の反射特性に応じて適宜設計され、具体的には、組み合わせる単位構造における、厚さが増加する方向における単位構造の長さ、厚さ分布、セル領域の数、幅、ピッチ、単位構造の平面視のパターン形状、セル領域の平面視のパターン形状等は、目的の反射特性に応じて適宜設定される。
【0090】
一般的に、平面波を正反射方向とは異なる方向に平面波として反射させる反射特性設計においては、例えば反射板の面内x方向と面内y方向の入射・反射特性に分解したのち、x方向、y方向の反射位相分布に変換し、それを単位構造の厚さ分布として組み入れることで設計が可能である。例えば、図10に示すように、反射位相を個別に調整できる同一サイズのセル領域が10×10(i=10、j=10)配置された周波数選択反射板の一部を例として説明する。このとき、必ずしもセル領域の10×10の大きさは単位構造のサイズでないことに留意する必要がある。入射角(θin、φin)の方向から入射する平面波を、反射角(θout、φout)の方向に平面波で反射する場合の(i、j)位置のセル領域に求められる反射位相δi,jは、次式で与えられる。
【0091】
δi,j=2π{p×i×(sinθout×cosφout-sinθin×cosφin)+
p×j×(sinθout×sinφout-sinθin×sinφin)}/λ
ここで、上記式において、
δi,j:位相中心(0,0)に対して(i,j)位置にあるセル領域の反射位相
λ:反射波の波長[m]
p:セル領域の大きさ[m]
θin:入射波のθ傾き
φin:入射波のφ傾き
θout:反射波のθ傾き
φout:反射波のφ傾き
を示す。
【0092】
誘電体層は、例えば、単層であってもよく、多層であってもよい。また、誘電体層は、ベースとなる基材部と、基材部上に配置された凹凸部とを有していてもよい。また、誘電体層は、例えば、全てのセル領域が一体に形成されている単一部材であってもよく、個々のセル領域が別々に形成されており、ブロック状のセル領域が配列されたものであってもよい。
【0093】
(2)誘電体層の特性
誘電体層は、特定の周波数帯の電磁波を透過すればよく、他の周波数帯の電磁波を透過してもよく、しなくてもよい。
【0094】
誘電体層の誘電正接は、比較的小さいことが好ましい。誘電体層の誘電正接が小さいことにより、誘電損失を小さくすることができ、高周波損失を低減することができる。具体的には、対象周波数の電磁波に対する誘電体層の誘電正接は、0.01以下であることが好ましい。また、誘電体層の誘電正接は小さいほど好ましく、下限値は特に限定されない。
【0095】
また、誘電体層の誘電率は、比較的高いことが好ましい。誘電体層の誘電率が高いことにより、誘電体層の厚さを薄くできる効果が期待できる。具体的には、対象周波数の電磁波における誘電体層の誘電率は、2以上であることが好ましく、2.5以上であることがより好ましく、正反射角に対する反射角の差を大きくする場合は3以上であることがさらに好ましい。
【0096】
ここで、誘電体層の誘電正接および誘電率は、共振器法により測定することができる。
【0097】
(3)誘電体層の材料
誘電体層の材料としては、所定の電磁波を透過することができる誘電体であれば特に限定されるものではなく、例えば樹脂、ガラス、石英、セラミックス等を用いることができる。中でも、凹凸構造の形成の容易さを考慮すると、樹脂が好適である。
【0098】
樹脂は、所定の電磁波を透過することができるものであれば特に限定されないが、上記電磁波の吸収が比較的少なく、上記電磁波の透過率が比較的高いものであることが好ましい。また、樹脂は、上述の誘電正接を満たすものであることが好ましく、上述の誘電率を満たすものであることがより好ましい。このような樹脂としては、例えば、ポリカーボネート、アクリル樹脂、ABS樹脂、PLA樹脂、オレフィン系樹脂、あるいはそれらの共重合体等を挙げることができる。中でも、ポリカーボネートは、寸法安定性に優れ、高周波損失も少なく、好適である。
【0099】
また、誘電体層は、フィラーをさらに含有することができる。誘電体層がフィラーを含有することにより、誘電体層の誘電率や機械的強度を調整することができる。フィラーの誘電率は、樹脂の誘電率よりも高いことが好ましい。これにより、誘電体層の誘電率を高くすることができ、必要な誘電体層の厚さを薄くすることができる。高誘電率フィラーとしては、特に限定されるものではなく、例えば、ガラスやシリカ、チタン酸バリウム等の無機粒子や微細繊維等を挙げることができる。
【0100】
フィラーの材質、形状、サイズ、含有量は、目的とする誘電率や機械的強度、分散性の難易度等から適宜選定することができる。フィラーのサイズは、対象とする電磁波の波長よりも十分に小さい必要があり、電磁波の実効波長をλとした場合、フィラーの球相当の直径は例えば0.01λ以下であることが好ましい。ただし、フィラーのサイズがナノメートルオーダーに近づくと均一な分散が難しくなる傾向があるため、加工プロセスの負荷が増大するおそれがある。また、誘電体層中のフィラーの含有量は、誘電体およびフィラーの材質の組み合わせ、フィラーの形状、フィラーのサイズ等に応じて異なり、適宜調整される。
【0101】
また、誘電体層の凹凸構造を、金型を用いた賦型等で形成する場合、誘電体層に、例えば離型剤や帯電防止剤等を添加してもよい。これらは、一般的なものを適宜選択して使用可能である。また、誘電体層は、例えばカーボンブラックや金属粒子等の導電性を付与するような添加剤やフィラーを含有しないことが好ましい。
【0102】
(4)誘電体層の形成方法
誘電体層の形成方法としては、所定の凹凸構造を形成することが可能な方法であれば特に限定されるものではなく、例えば、樹脂シートの切削、レーザー加工、金型を用いた賦型や真空注型、3Dプリンタによる造形、小片パーツの接合等を挙げることができる。切削、レーザー加工や3Dプリンタ等の、金型を用いない形成方法の場合、目的の反射角に応じたカスタマイズが容易であるため、特殊な設置のシチュエーションや、シミュレーションが困難であるような大規模な波長選択反射板を設計、開発する場合の設計のチューニングにも好適に用いることができる。金型を用いた賦型の場合には、誘電体からなる基材の上に賦型してもよく、この場合の基材および賦型樹脂は所定の電磁波を透過する材料であれば互いに異なる材料を使用してもよい。また、例えば、反射部材および誘電体層を別々に設計し作製する場合において、所定の入射角および反射角となる反射特性を有する誘電体層を予め複数種類準備し、シチュエーションに合わせて誘電体層の種類を選択し、反射部材に対して誘電体層を、法線方向を軸として面内で回転させることで、電磁波の反射方向の微調整を行う場合には、同じ仕様の誘電体層をまとめて作製するほうがコスト的に有利になることがあり、その場合は金型を用いた賦型の手法が好適である。
【0103】
2.反射部材
本実施態様における反射部材は、特定の周波数帯の電磁波を反射する部材である。
【0104】
反射部材としては、特定の周波数帯の電磁波を反射するものであれば特に限定されるものではなく、例えば、特定の周波数帯の電磁波のみを反射するものであってもよく、あるいは、特定の周波数帯の電磁波だけでなく他の周波数帯の電磁波も反射するものであってもよい。中でも、反射部材は、特定の周波数帯の電磁波のみを反射する波長選択機能を有することが好ましい。
【0105】
特定の周波数帯の電磁波だけでなく他の周波数帯の電磁波も反射する反射部材としては、例えば、周波数選択反射板の全面に配置された反射層を挙げることができる。例えば、図11は、反射部材2が反射層7である例である。図11において、反射層7は、周波数選択反射板1の全面に配置されている。
【0106】
反射層の材料としては、特定の周波数帯の電磁波を反射することができる材料であれば特に限定されるものではなく、例えば、金属材料、カーボン、ITO等の導電性材料を挙げることができる。
【0107】
反射層の厚さとしては、特定の周波数帯の電磁波を反射することができる厚さであれば特に限定されるものではなく、適宜設定される。
【0108】
また、特定の周波数帯のみを反射する反射部材としては、特定の周波数帯の電磁波のみを反射する波長選択機能を有するものであればよい。反射部材は、周波数選択板であってもよい。
【0109】
周波数選択板は、特定の周波数帯の電磁波に対して反射、透過を制御する周波数選択性表面を有する。周波数選択性表面は、FSSまたはFrequency Selective Surfaceともいう。特定の周波数帯の電磁波に対する反射板として機能する場合、周波数選択板は、面内に複数の反射素子または散乱素子が配列されたものであってもよい。周波数選択板は、例えば、誘電体基板と、誘電体基板の誘電体層側の面に配列された複数の反射素子とを有していてもよい。図1(b)は、反射部材2が周波数選択板である例であり、反射部材2は、誘電体基板4と、誘電体基板4の誘電体層5側の面に配列された複数の反射素子3とを有している。周波数選択板は、公知の周波数選択板の中から適宜選択して用いてもよい。
【0110】
周波数選択性表面を形成する反射素子の形状としては、任意の形状を挙げることができる。周波数選択性表面を形成する反射素子の形状は、平面パターン形状であってもよい。平面パターン形状は、例えば、リング状、十字状、正方形状、長方形状、円形状、楕円形状、棒状、近接した複数領域に分割されたパターン形状等であってもよい。また、周波数選択性表面を形成する反射素子の形状は、三次元形状であってもよい。三次元形状は、スルーホールビア等であってもよい。
【0111】
また、反射素子は、例えば、単層であってもよく、多層であってもよい。反射素子が単層である場合、周波数選択板は、例えば、誘電体基板の片面に複数の反射素子が配列されたものであってもよい。反射素子が多層である場合、周波数選択板は、例えば、誘電体基板の両面に複数の反射素子が配列されたもの、誘電体基板と複数の反射素子と誘電体基板と複数の反射素子とが順に配置されたもの、電磁波の入射側の面から最も遠い面の一面に導体が配置されたもの等であってもよい。
【0112】
また、周波数選択板、すなわち反射部材は、電磁波の反射位相を制御する反射位相制御機能を有することが好ましい。反射部材は、寸法および形状の一方または両方を変化させた反射素子を有していてもよい。反射素子の寸法の変化は、徐々に縮小または拡大させるものであってもよい。反射素子の寸法や形状を変化させることによって、反射素子毎に共振周波数を変化させ、電磁波の反射位相を制御することができる。そのため、周波数選択板が反射位相制御機能を有する場合、誘電体層の厚さおよび反射素子の寸法や形状によって電磁波の反射位相分布を制御することにより、電磁波の反射特性を制御することができる。よって、例えば周波数選択反射板の面内の直交する2方向の反射特性を周波数選択板および誘電体層で個別に設計でき、また誘電体層の厚さを抑えつつ、所望の電磁波の反射特性を得ることができる。直交する2方向は、例えばx軸方向およびy軸方向であってもよい。
【0113】
反射位相制御機能を有する周波数選択板としては、一般的な周波数選択性表面を適用することができる。これらは設計に一長一短はあるが、いずれも反射素子の寸法や形状を変化させることで電磁波の反射位相を変化させることが可能である。
【0114】
反射素子の異なる寸法としては、反射素子の形状に応じて適宜選択される。
【0115】
3.電磁波の反射方向の制御
本実施態様の周波数選択反射板においては、誘電体層の単位構造の各セル領域の厚さを変えることで、セル領域毎に誘電体層での往復光路長を変化させ、電磁波の相対反射位相を制御することができる。これにより、誘電体層の単位構造のサイズおよび平面視パターン、ならびに、誘電体層の単位構造のセル領域の数および厚さを調整することで、所定の方向から入射した電磁波の反射方向を制御することができる。
【0116】
また、反射部材が、周波数選択板であり、かつ、反射位相制御機能を有する部材である場合、誘電体層の単位構造の各セル領域の厚さを変化させることによって、セル領域毎に誘電体層での往復光路長を変化させるだけでなく、反射部材の反射素子の寸法や形状を変化させることによって、反射素子毎の共振周波数を変化させ、電磁波の反射位相を制御することができ、これにより、反射特性制御に関する設計の自由度を拡大することができる。
【0117】
この場合、反射部材での反射制御方向と誘電体層での反射制御方向とを分け、周波数選択反射板の全体で二次元的な反射方向制御を行うということも可能になる。また、反射部材および誘電体層での反射制御方向をオーバーラップさせる場合は、例えば、ある程度決まった方向に反射させる反射位相分布を反射部材で実現し、さらに誘電体層で微調整することもできる。この場合、誘電体層の厚さを薄くできるという利点がある。
【0118】
誘電体層の厚さ分布および反射部材の反射素子の寸法分布の配置としては、例えば、図12に示すように、反射部材2の反射素子3の寸法が大きくなるにつれて、誘電体層5の単位構造10のセル領域11a~11fの厚さが厚くなるように、誘電体層5および反射部材2を配置することができる。このような態様においては、誘電体層の厚さを抑えることができる。これにより、誘電体層が薄くなるため、周波数選択反射板の軽量化や低コスト化を図ることができ、また、反射角が大きくなった場合でも、反射波が誘電体層に当たりにくくなる。
【0119】
また、誘電体層の厚さ分布および反射部材の反射素子の寸法分布の配置としては、例えば、図13に示すように、反射部材2の反射素子3の寸法は方向D2に沿って大きくなり、誘電体層5の単位構造10のセル領域11a~11fの厚さは方向D2に垂直な方向D1に沿って厚くなるように、誘電体層5および反射部材2を配置してもよい。
【0120】
なお、図13においては、一つのセル領域において、反射素子の寸法が異なるため、反射素子の寸法に応じて、一つのセル領域での電磁波の相対反射位相が部分的に異なることになる。このような場合においても、厚さが増加する所定の方向D1に切り取った場合、上述したグラフにおいて、各点が同一直線上にあることになる。
【0121】
また、反射部材および誘電体層を別々に設計し組み合わせる仕様の場合、反射部材に対して、誘電体層を、法線方向を軸として面内で回転させて、反射部材に対する、誘電体層の単位構造のセル領域の配列方向の向きを調整することにより、電磁波の反射方向を微調整することもできる。
【0122】
また、上述したように、誘電体層の単位構造において、厚さが増加する所定の方向における単位構造の長さを調整することにより、反射特性を制御することができる。例えば、厚さが増加する所定の方向における単位構造の長さを短くすることで、電磁波の反射角を大きくすることができ、一方、厚さが増加する所定の方向における単位構造の長さを長くすることで、電磁波の反射角を小さくすることができる。
【0123】
なお、誘電体層の単位構造において、厚さが増加する所定の方向における単位構造の長さとは、誘電体層の単位構造が、所定の方向に厚さが増加する厚さ分布を有する場合において、その所定の方向における単位構造の長さをいう。例えば図11においては、誘電体層5の単位構造10では、所定の方向D1に厚さが増加しており、この所定の方向D1における単位構造10の長さはLである。
【0124】
なお、上述したように、周波数選択反射板における反射位相の面内分布設計を実現する誘電体層の凹凸構造の面内配置は、反射部材の反射素子の面内配置に対して一定の位置関係である必要はなく、誘電体層の凹凸構造を反射素子の面内配置に対してずらして配置しても反射特性に大きな影響を与えない。そのため、反射部材が、周波数選択板であり、かつ、反射位相制御機能を有する部材である場合、誘電体層および反射部材をそれぞれ独立して設計することが可能である。
【0125】
4.他の構成
本実施態様の周波数選択反射板は、上記の反射部材および誘電体層の他に、必要に応じて他の構成を有していてもよい。
【0126】
(1)接着層
本開示の周波数選択反射板は、上記反射部材と上記誘電体層との間に接着層を有していてもよい。接着層によって、反射部材および誘電体層を接着することができる。また、反射部材が複数の反射素子が配列された部材である場合には、接着層によって、反射素子による凹凸を平坦化することができ、反射部材上に誘電体層を積層する際の反射素子による凹凸の影響を抑えることができる。例えば、図1(b)において、反射部材2と誘電体層5との間には接着層6が配置されている。
【0127】
接着層には、例えば、接着剤や粘着剤を用いることができ、公知の接着剤および粘着剤の中から適宜選択して用いることができる。その場合、接着剤や粘着剤は、不導体である必要がある。また、接着剤や粘着剤が液状である場合は、均一に塗り広げることができ、気泡の噛みこみを除去できる程度の流動性を持つことが好ましい。また、接着剤や粘着剤がシート状である場合は、厚みが均一であることが好ましく、かつ貼合界面の凹凸に追従し、気泡の噛みこみを抑制することが可能な程度の柔軟性を有することが好ましい。
【0128】
接着層の厚さとしては、所望の接着力を得ることができる厚さであり、均一であることが好ましい。また、反射部材が複数の反射素子が配列された部材である場合には、接着層の厚さは、平坦化の点から、反射素子の厚さと同等以上であることが好ましい。このとき、接着層が反射素子の厚さよりも厚い場合は、反射素子が接着層に埋め込まれた状態となる。また、接着層の厚さは、対象となる電磁波の実効波長よりも十分に小さいことが好ましく、電磁波の実効波長をλとした場合、具体的には0.01λ以下であることが好ましい。
【0129】
(2)空間
本開示の周波数選択反射板は、上記反射部材と上記誘電体層との間に空間を有していてもよい。例えば、図14において、反射部材2と誘電体層5との間には空間8が配置されている。
【0130】
反射部材と誘電体層との間に空間が配置されている場合、反射部材と誘電体層との距離は一定であることが好ましい。これにより、空間での光路長を揃えることができる。
【0131】
(3)カバー部材
本開示の周波数選択反射板は、上記誘電体層の上記反射部材とは反対側の面にカバー部材を有していてもよい。カバー部材によって、誘電体層を保護することができる。また、カバー部材によって、意匠性を付与することもできる。
【0132】
(4)グラウンド層
本開示の周波数選択反射板は、上記反射部材の上記誘電体層とは反対側の面にグラウンド層を有していてもよい。グラウンド層によって、周波数選択反射板の裏面に存在する物体との干渉を遮断し、ノイズの発生を抑えることができる。また、グラウンド層は、波長選択性を有しない反射部材の一部にもなり得る。グラウンド層としては、導電性を有していればよく、例えば、金属板、金属層、金属メッシュ、カーボン、ITO膜等の一般的な導電層を用いることができる。
【0133】
(5)平坦化層
本開示の周波数選択反射板は、上記反射部材と上記誘電体層との間に平坦化層を有していてもよい。反射部材が複数の反射素子が配列された部材である場合には、平坦化層によって、反射素子による凹凸を平坦化することができ、反射部材上に誘電体層を積層する際の反射素子による凹凸の影響を抑えることができる。なお、ここでいう平坦化層は、接着層とは別に配置するものをいい、反射素子を包埋する状態で配置された電離放射線硬化樹脂層を例示することができる。また、反射部材と誘電体層との間に空間を設ける形態の場合は、平坦化層に反射素子を保護する機能を持たせてもよい。
【0134】
(6)固定層
本開示の周波数選択反射板を、例えば壁等に取り付けて使用する場合には、上記反射部材の上記誘電体層とは反対側の面に、周波数選択反射板を取り付けるための機構を有する固定層を配置してもよい。また、固定層と、反射部材および誘電体層との干渉を抑えるために、固定層と反射部材との間に金属層を配置してもよく、固定層が金属層を兼ねてもよい。また、本開示の周波数選択反射板を壁等に取り付ける場合に、設計した電磁波の入射方向および反射方向と、実際の電磁波の入射方向および反射方向とのずれを補正できるように、固定層は周波数選択反射板の法線方向の角度を可変にする機構を有していてもよい。
【0135】
(7)反射防止層
高周波の場合には誘電体層界面での反射の影響も考えられるため、本開示の周波数選択反射板においては、必要に応じて、誘電体層と空気との界面に反射防止層を配置してもよい。反射防止層は、例えば、誘電率の異なる多層構造を有していてもよく、電磁波の波長よりも小さい凹凸構造を有していてもよい。
【0136】
5.周波数選択反射板のその他の点
本開示の周波数選択反射板は、24GHz以上の特定の周波数帯の電磁波を正反射方向とは異なる方向に反射する。電磁波の周波数帯としては、24GHz以上であれば特に限定されないが、中でも、24GHz以上300GHz以下の範囲内であることが好ましい。電磁波の周波数帯が上記範囲であれば、本開示の周波数選択反射板を第5世代移動通信システム、いわゆる5Gに利用することができる。
【0137】
本開示の周波数選択反射板は、例えば、通信用の周波数選択反射板として用いることができ、中でも、移動通信用の周波数選択反射板として好適である。
【0138】
II.周波数選択反射板の第2実施態様
本実施態様の周波数選択反射板は、24GHz以上の特定の周波数帯の電磁波を正反射方向とは異なる方向に反射する周波数選択反射板であって、上記電磁波を反射する反射部材と、上記反射部材に対して上記電磁波の入射側に配置され、所定の方向に厚さが増加する厚さ分布を有する単位構造が複数配置された凹凸構造を有し、上記電磁波を透過する誘電体層と、を有し、上記誘電体層の上記単位構造は、厚さの異なる複数のセル領域を有し、上記誘電体層の各単位構造では、最小厚さを有する最小厚さセル領域における上記所定の方向の中心位置を0とし、最大厚さを有する最大厚さセル領域の上記所定の方向の中心位置を1としたときの、相対位置を横軸とし、上記最小厚さセル領域の厚さを0とし、上記最大厚さセル領域の厚さを1としたときの、上記最大厚さセル領域の厚さに対する各セル領域の厚さの比を縦軸とするグラフに、各セル領域の上記所定の方向の中心位置および上記最大厚さセル領域の厚さに対する各セル領域の厚さの比に対応する点をプロットし、下記式(1):
y=ax (1)
の回帰直線を求めたとき、上記回帰直線の傾きaが0.7以上1.2以下であり、上記回帰直線の決定係数が0.9以上であり、上記誘電体層が、上記単位構造として、厚さの異なる3つ以上の上記セル領域を有する第1の単位構造を少なくとも有する。本実施態様の周波数選択反射板は、上記第1実施態様の周波数選択反射板と同様に、上記誘電体層の厚さ分布によって上記電磁波の相対反射位相分布を制御することにより、上記電磁波の反射方向を制御する。
【0139】
図15(a)、(b)は、本実施態様の周波数選択反射板の一例を示す概略平面図および断面図であり、図15(b)は図15(a)のA-A線断面図である。図15(a)、(b)に示すように、周波数選択反射板1は、特定の電磁波を反射する反射部材2と、反射部材2に対して電磁波の入射側に配置され、所定の方向D1に厚さt1~t4が増加する厚さ分布を有する単位構造10が複数配置された凹凸構造を有し、特定の電磁波を透過する誘電体層5と、を有する。また、周波数選択反射板1は、反射部材2および誘電体層5の間に接着層6を有することができる。誘電体層5の単位構造10は、厚さt1~t4の異なる複数のセル領域11a~11dを有する。例えば図15(b)においては、誘電体層5の単位構造10は、所定の方向D1に厚さt1~t4が段階的に増加する階段形状を有しており、階段形状の段数が4段であり、誘電体層5の単位構造10は4個のセル領域11a~11dを有している。誘電体層5の単位構造10の各セル領域11a~11dでは、厚さt1~t4が異なるため、電磁波が誘電体層5を透過し反射部材2で反射され誘電体層5を再度透過して電磁波の入射側に放出される際の往復の光路長が異なることになり、これらの誘電体層での往復光路長の差、すなわち光路差が相対反射位相の差を生み出すことになる。
【0140】
このように、誘電体層5の単位構造10の各セル領域11a~11dでは、厚さt1~t4が変化することで、誘電体層5での往復光路長が変化し、電磁波の相対反射位相が変化するため、図2に例示するように、電磁波の入射波W1を正反射(鏡面反射)方向とは異なる方向に反射させることができる。この場合、電磁波の入射波W1の入射角θ1と、電磁波の反射波W2の反射角θ2とは異なる。
【0141】
そして、誘電体層5の単位構造10では、最小厚さt1を有する最小厚さセル領域11aの所定の方向D1の中心位置Pを0とし、最大厚さt4を有する最大厚さセル領域11dの所定の方向D1の中心位置Pを1としたときの、所定の方向D1における相対位置を横軸とし、最小厚さセル領域11aの厚さt1を0とし、最大厚さセル領域11dの厚さt4を1としたときの、最大厚さセル領域11dの厚さt4に対する各セル領域11a~11dの厚さt1~t4の比を縦軸とするグラフに、各セル領域11a~11dの所定の方向D1の中心位置および最大厚さセル領域11dの厚さt4に対する各セル領域11a~11dの厚さt1~t4の比に対応する点をプロットし、下記式(1):
y=ax (1)
の回帰直線を求めたとき、回帰直線の傾きaが所定の範囲内であり、回帰直線の決定係数Rが所定の範囲である。
【0142】
図15(c)は、最小厚さセル領域11aの所定の方向D1の中心位置Pを0とし、最大厚さセル領域11dの所定の方向D1の中心位置Pを1としたときの、相対位置を横軸とし、最小厚さセル領域11aの厚さt1を0とし、最大厚さセル領域11dの厚さt4を1としたときの、最大厚さセル領域11dの厚さt4に対する各セル領域11a~11dの厚さt1~t4の比を縦軸とするグラフであり、図15(a)、(b)に示す周波数選択反射板における誘電体層の単位構造の各セル領域の相対位置および厚さの比の例である。
【0143】
また、最小厚さセル領域の所定の方向の中心位置を0とし、最大厚さセル領域の所定の方向の中心位置を1としたときの、相対位置は、下記により求められる。具体的には、誘電体層の単位構造がN個(N≧3)のセル領域を有する場合、セル領域の厚さが薄いほうからn番目(n=1~Nの整数)のセル領域について、最小厚さセル領域の所定の方向の中心位置Pを0とし、最大厚さセル領域の所定の方向の中心位置Pを1としたときの、n番目のセル領域の所定の方向の中心位置Pは、下記式(2)により求められる。
=(所定の方向のPおよびP間の距離)/(所定の方向のPおよびP間の距離) (2)
【0144】
例えば図15(a)、(b)において、各セル領域11a~11dの幅が等しい場合、誘電体層5の単位構造10の各セル領域11a~11dの所定の方向D1の中心位置の相対位置はそれぞれ、0、0.33、0.67、1となる。
【0145】
また、最小厚さセル領域の厚さを0とし、最大厚さセル領域の厚さを1としたときの、最大厚さセル領域の厚さに対する各セル領域の厚さの比は、下記により求められる。具体的には、誘電体層の単位構造がN個(N≧3)のセル領域を有する場合、セル領域の厚さが薄いほうからn番目(n=1~Nの整数)のセル領域について、最小厚さセル領域の厚さTminを0とし、最大厚さセル領域の厚さTmaxを1としたときの、最大厚さセル領域の厚さTmaxに対するn番目のセル領域の厚さTの比は、下記式(3)により求められる。
厚さの比=(T-Tmin)/(Tmax-Tmin) (3)
【0146】
例えば図15(a)、(b)において、セル領域(最小厚さセル領域)11aについては、厚さの比=(T-T)/(T-T)=0となる。また、セル領域11bについては、厚さの比=(T-T)/(T-T)となる。また、セル領域11cについては、厚さの比=(T-T)/(T-T)となる。また、セル領域(最大厚さセル領域)11aについては、厚さの比=(T-T)/(T-T)=1となる。
【0147】
そして、図15(c)に示すように、誘電体層5の単位構造10の各セル領域11a~11dの所定の方向D1の中心位置および最大厚さセル領域11dの厚さt4に対する各セル領域11a~11dの厚さt1~t4の比に対応する点をプロットし、下記式(1):
y=ax (1)
の回帰直線RLを求めたとき、回帰直線RLの傾きaが所定の範囲内であり、回帰直線RLの決定係数Rが所定の範囲である。
【0148】
なお、上記式(3)で求められるように、最小厚さセル領域の厚さTminを0とし、最大厚さセル領域の厚さTmaxを1としたときの、最大厚さセル領域の厚さTmaxに対する最小セル領域の厚さTminの比は、(Tmin-Tmin)/(Tmax-Tmin)=0となる。そのため、上記式(1)の回帰直線におけるy切片は0としている。
【0149】
図16は、縦軸および横軸が図15(c)と同様であり、誘電体層の単位構造において、各セル領域での電磁波の相対反射位相が所定の設定になるように設計する場合の、設計値DVの例である。設計値DVは、通常、曲線で示される。誘電体層の単位構造において、実測値は、設計値DVと良く一致していることが好ましい。そのため、実測値から回帰曲線を導出することが考えられる。しかしながら、設計値DVの曲線は、電磁波の波長、誘電体層の誘電率、目的とする反射特性等に応じて適宜設定される。よって、実測値から回帰曲線を導出すること自体も困難であるし、実測値から回帰曲線を導出し、設計値との差を評価するのも困難である。そこで、本実施態様においては、実測値から回帰直線を求めている。
【0150】
また、誘電体層の単位構造において、実測値が設計値と多少異なっていても、電磁波を正反射方向とは異なる方向に反射することは可能である。そのため、回帰直線の決定係数Rを0.9以上としたうえで、回帰直線の傾きaを0.7以上1.2以下としている。回帰直線の決定係数Rが所定の値以上であり、かつ、回帰直線の傾きaが所定の範囲内であれば、実測値と設計値との差が所定の範囲内に収まるようにすることができる。
【0151】
したがって、本実施態様の周波数選択反射板においては、誘電体層の単位構造の各セル領域の厚さを変化させることによって、セル領域毎に誘電体層での往復光路長を変化させ、電磁波の反射位相を制御することができる。また、上記のようにして求められる回帰直線の傾きおよび決定係数を所定の範囲とすることにより、所望の反射位相を得ることができる。これにより、電磁波の所定の入射方向に対する反射方向を任意の方向に制御することができる。
【0152】
また、本実施態様の周波数選択反射板は、上記第1実施態様の周波数選択反射板と同様の効果を奏することができる。
【0153】
以下、本実施態様の周波数選択反射板の各構成について説明する。
【0154】
1.誘電体層
本実施態様における誘電体層は、反射部材に対して電磁波の入射側に配置され、所定の方向に厚さが増加する厚さ分布を有する単位構造が複数配置された凹凸構造を有し、特定の周波数帯の電磁波を透過する部材である。また、誘電体層の単位構造は、厚さの異なる複数のセル領域を有しており、誘電体層の各単位構造では、最小厚さを有する最小厚さセル領域の所定の方向の中心位置を0とし、最大厚さを有する最大厚さセル領域の所定の方向の中心位置を1としたときの、相対位置を横軸とし、最小厚さセル領域の厚さを0とし、最大厚さセル領域の厚さを1としたときの、最大厚さセル領域の厚さに対する各セル領域の厚さの比を縦軸とするグラフに、各セル領域の所定の方向の中心位置および最大厚さセル領域の厚さに対する各セル領域の厚さの比に対応する点をプロットし、下記式(1):
y=ax (1)
の回帰直線を求めたとき、回帰直線の傾きaが0.7以上1.2以下であり、回帰直線の決定係数が0.9以上である。また、誘電体層は、単位構造として、厚さの異なる3つ以上のセル領域を有する第1の単位構造を少なくとも有する。
【0155】
(1)誘電体層の構造
誘電体層は、所定の方向に厚さが増加する厚さ分布を有する単位構造が複数配置された凹凸構造を有する。
【0156】
誘電体層の単位構造は、厚さの異なる複数のセル領域を有しており、誘電体層の各単位構造では、最小厚さを有する最小厚さセル領域の所定の方向の中心位置を0とし、最大厚さを有する最大厚さセル領域の所定の方向の中心位置を1としたときの、相対位置を横軸とし、最小厚さセル領域の厚さを0とし、最大厚さセル領域の厚さを1としたときの、最大厚さセル領域の厚さに対する各セル領域の厚さの比を縦軸とするグラフに、各セル領域の所定の方向の中心位置および最大厚さセル領域の厚さに対する各セル領域の厚さの比に対応する点をプロットし、下記式(1):
y=ax (1)
の回帰直線を求めたとき、回帰直線の傾きaが0.7以上1.2以下であり、回帰直線の決定係数が0.9以上である。
【0157】
回帰直線の傾きaは、0.7以上1.2以下であり、好ましくは0.75以上1.15以下、さらに好ましくは0.8以上1.1以下である。
【0158】
また、回帰直線の決定係数Rは、0.9以上であり、好ましくは0.92以上、0.99以下、さらに好ましくは0.94以上、0.98以下である。
【0159】
ここで、回帰直線は、最小二乗法により求められる。
【0160】
また、上記グラフにおいて、横軸は、最小厚さを有する最小厚さセル領域の所定の方向の中心位置を0とし、最大厚さを有する最大厚さセル領域の所定の方向の中心位置を1としたときの、相対位置である。所定の方向は、誘電体層の単位構造の厚さ分布において最小厚さセル領域から厚さが増加する方向とする。相対位置については、各セル領域の所定の方向の中心位置に対応する点をプロットする。
【0161】
なお、誘電体層の単位構造がテーパー形状を有する場合、セル領域の数を無限に多くしたものであるとみなすことから、セル領域を特定するのが難しくなることがある。そのため、誘電体層の単位構造がテーパー形状を有する場合において、反射部材が誘電体基板と反射素子とを有する場合には、1つの反射素子が配置されている領域をセル領域とみなして、各セル領域の所定の方向の中心位置を決めることができる。また、誘電体層の単位構造がテーパー形状を有する場合において、反射部材が反射層を有する場合には、例えば、誘電体層の単位構造を、所定の方向に、反射電磁波の空気中の波長の半分未満の長さで等分し、等分された各領域をセル領域とみなして、各セル領域の所定の方向の中心位置を決めることができる。誘電体層の単位構造を所定の方向に等分する数は、例えば、3以上であり、6以上であることが好ましい。
【0162】
また、最小厚さを有する最小厚さセル領域の所定の方向の中心位置を0とし、最大厚さを有する最大厚さセル領域の所定の方向の中心位置を1としたときの、各セル領域の所定の方向の中心位置の相対位置は、上述したように、上記式(2)により求められる。
【0163】
例えば図15(a)~(c)において、誘電体層5の単位構造10の各セル領域11a~11dの幅が等しい場合、誘電体層5の単位構造10の各セル領域11a~11dの所定の方向の中心位置の相対位置はそれぞれ、0,0.33、0.67、1となる。
【0164】
また、上記グラフにおいて、縦軸は、最小厚さセル領域の厚さを0とし、最大厚さセル領域の厚さを1としたときの、最大厚さセル領域の厚さに対する各セル領域の厚さの比である。最小厚さセル領域の厚さは、最小厚さセル領域の所定の方向の中心位置の厚さとする。また、最大厚さセル領域の厚さは、最大厚さセル領域の所定の方向の中心位置の厚さとする。また、セル領域の厚さは、セル領域の所定の方向の中心位置の厚さとする。セル領域の所定の方向の中心位置については、上述の通りである。
【0165】
また、最小厚さセル領域の厚さを0とし、最大厚さセル領域の厚さを1としたときの、最大厚さセル領域の厚さに対する各セル領域の厚さの比は、上述したように、上記式(3)により求められる。
【0166】
例えば図15(a)、(b)において、セル領域(最小厚さセル領域)11aについては、厚さの比=(T-T)/(T-T)=0となる。また、セル領域11bについては、厚さの比=(T-T)/(T-T)となる。また、セル領域11cについては、厚さの比=(T-T)/(T-T)となる。また、セル領域(最大厚さセル領域)11aについては、厚さの比=(T-T)/(T-T)=1となる。
【0167】
各セル領域の厚さは、例えば、厚み分解能が1μm程度の厚み計測手法を用いて計測した値である。また、例えば、各セル領域の厚さは、単位構造の厚さ方向の断面を光学顕微鏡で観察して測長した値を用いてもよい。
【0168】
また、最小厚さセル領域の所定の方向の中心位置と、任意のセル領域の所定の方向の中心位置との間の距離、ならびに、最大厚さセル領域の所定の方向の中心位置と、任意のセル領域の所定の方向の中心位置との間の距離は、例えば、分解能が少なくとも0.01mm程度の計測手法を用いて計測した値である。計測手法は、三次元測定機等の各種測長器から適宜選択して使用できる。また、上記の各セル領域の厚さを測定する際に、誘電体層表面の凹凸形状分布を計測する場合は、上記の距離を同時に算出してもよい。
【0169】
誘電体層の単位構造は、所定の方向に厚さが増加する厚さ分布を有する。誘電体層の単位構造は、例えば、一方向のみに厚さが増加する厚さ分布を有していてもよく、あるいは、第一方向および第一方向に垂直な第二方向の二方向に厚さが増加する厚さ分布を有していてもよい。
【0170】
誘電体層の単位構造が一方向のみに厚さが増加する厚さ分布を有する場合には、その一方向での相対位置を横軸とする上記グラフに上記点をプロットし、回帰直線を求めることになる。また、誘電体層の単位構造が互いに垂直な二方向に厚さが増加する厚さ分布を有する場合には、その二方向での相対位置をそれぞれ横軸とする上記グラフにそれぞれ上記点をプロットし、各グラフにおいて回帰直線を求めることになる。
【0171】
なお、誘電体層の構造のその他の点については、上記第1実施態様と同様とすることができる。
【0172】
(2)誘電体層の特性
誘電体層の特性については、上記第1実施態様と同様である。
【0173】
(3)誘電体層の材料
誘電体層の材料については、上記第1実施態様と同様である。
【0174】
(4)誘電体層の形成方法
誘電体層の形成方法については、上記第1実施態様と同様である。
【0175】
2.反射部材
本実施態様における反射部材は、特定の周波数帯の電磁波を反射する部材である。反射部材については、上記第1実施態様と同様である。
【0176】
3.電磁波の反射方向の制御
本実施態様において、電磁波の反射方向の制御については、上記第1実施態様と同様である。
【0177】
4.他の構成
本実施態様の周波数選択反射板は、上記の反射部材および誘電体層の他に、必要に応じて他の構成を有していてもよい。他の構成については、上記第1実施態様と同様である。
【0178】
5.周波数選択反射板のその他の点
本実施態様において、電磁波の周波数帯および用途については、上記第1実施態様と同様である。
【0179】
III.周波数選択反射板の第3実施態様
本実施態様の周波数選択反射板は、24GHz以上の特定の周波数帯の電磁波を正反射方向とは異なる方向に反射する周波数選択反射板であって、上記電磁波を反射する反射部材と、上記反射部材に対して上記電磁波の入射側に配置され、所定の方向に厚さが増加する厚さ分布を有する単位構造が複数配置された凹凸構造を有し、上記電磁波を透過する誘電体層と、を有し、上記誘電体層の上記単位構造は、厚さの異なる複数のセル領域を有し、上記誘電体層の各単位構造では、最小厚さと最大厚さとの差が、0.2mm以上15mm以下であり、上記誘電体層が、上記単位構造として、厚さの異なる3つ以上の上記セル領域を有する第1の単位構造を少なくとも有する。本実施態様の周波数選択反射板は、上記第1実施態様の周波数選択反射板と同様に、上記誘電体層の厚さ分布によって上記電磁波の相対反射位相分布を制御することにより、上記電磁波の反射方向を制御する。
【0180】
本実施態様の周波数選択反射板について図面を参照して説明する。図1(a)、(b)は、本実施態様の周波数選択反射板の一例を示す概略平面図および断面図であり、図1(b)は図1(a)のA-A線断面図である。図1(a)、(b)に示すように、周波数選択反射板1は、特定の電磁波を反射する反射部材2と、反射部材2に対して電磁波の入射側に配置され、所定の方向D1に厚さt1~t6が増加する厚さ分布を有する単位構造10が複数配置された凹凸構造を有し、特定の電磁波を透過する誘電体層5と、を有する。また、周波数選択反射板1は、反射部材2および誘電体層5の間に接着層6を有することができる。誘電体層5の単位構造10は、厚さt1~t6の異なる複数のセル領域11a~11fを有する。例えば図1(b)においては、誘電体層5の単位構造10は、所定の方向D1に厚さt1~t6が段階的に増加する階段形状を有しており、階段形状の段数が6段であり、誘電体層5の単位構造10は6個のセル領域11a~11fを有している。誘電体層5の単位構造10の各セル領域11a~11fでは、厚さt1~t6が異なるため、電磁波が誘電体層5を透過し反射部材2で反射され誘電体層5を再度透過して電磁波の入射側に放出される際の往復の光路長が異なる。よって、これらの誘電体層での往復光路長の差、すなわち光路差が相対反射位相の差を生み出すことになる。
【0181】
このように、誘電体層5の単位構造10の各セル領域11a~11fでは、厚さt1~t6が変化することで、誘電体層5での往復光路長が変化し、電磁波の相対反射位相が変化する。そのため、図2に例示するように、電磁波の入射波W1を正反射(鏡面反射)方向とは異なる方向に反射させることができる。この場合、電磁波の入射波W1の入射角θ1と、電磁波の反射波W2の反射角θ2とは異なる。
【0182】
したがって、本実施態様の周波数選択反射板においては、誘電体層の単位構造の各セル領域の厚さを変化させることによって、セル領域毎に誘電体層での往復光路長を変化させ、電磁波の反射位相を制御することができる。これにより、電磁波の所定の入射方向に対する反射方向を任意の方向に制御することができる。
【0183】
また、誘電体層5の単位構造10では、最小厚さt1と最大厚さt6との差が、所定の範囲内である。
【0184】
ここで、誘電体層内を伝搬する電磁波の実効波長λは、特定の電磁波の周波数fに対応する自由空間における波長をλとし、誘電体層の比誘電率をεとすると、λ=λ/√εで表される。そのため、上記第1実施態様に記載したように、各セル領域の厚さが、例えば、α+0λ以上、α+2λ以下程度である場合、誘電体層の誘電率が低いと、各セル領域の厚さは厚くなり、誘電体層の誘電率が高いと、各セル領域の厚さは薄くなる。よって、誘電体層の誘電率が低いと、最小厚さと最大厚さとの差は大きくなり、誘電体層の誘電率が高いと、最小厚さと最大厚さとの差は小さくなる傾向がある。
【0185】
誘電体層の単位構造において、最小厚さと最大厚さとの差が大きすぎると、周波数選択反射板全体の厚さが厚くなるため、設置に制約が生じる可能性があり、ハンドリングが悪くなるおそれがある。また、製造コストが増大するおそれもある。一方、最小厚さと最大厚さとの差を小さくするには、上述のように、誘電体層の誘電率を高くする必要がある。しかし、誘電体層の誘電率が高いほど、誘電損失が大きい傾向があり、また誘電体界面での反射が大きくなる。その結果、設計方向への反射が減少する。そのため、最小厚さと最大厚さとの差が小さすぎると、誘電損失および界面反射を含めた損失が大きくなるおそれがある。
【0186】
これに対し、本実施態様においては、誘電体層の単位構造における最小厚さと最大厚さとの差が所定の値以下であるため、周波数選択反射板全体の厚さを薄くすることができる。そのため、設置時の制約を少なくし、ハンドリングを良くすることができる。また、誘電体層の単位構造における最小厚さと最大厚さとの差が所定の値以上であるので、最小厚さと最大厚さとの差を小さくするために、誘電体層の誘電率を高くする必要がない。そのため、誘電損失および界面反射を含めた損失を低減することができる。
【0187】
また、本実施態様の周波数選択反射板は、上記第1実施態様の周波数選択反射板と同様の効果を奏することができる。
【0188】
以下、本実施態様の周波数選択反射板の各構成について説明する。
【0189】
1.誘電体層
本実施態様における誘電体層は、反射部材に対して電磁波の入射側に配置され、所定の方向に厚さが増加する厚さ分布を有する単位構造が複数配置された凹凸構造を有し、特定の周波数帯の電磁波を透過する部材である。また、誘電体層の単位構造は、厚さの異なる複数のセル領域を有しており、誘電体層の各単位構造では、最小厚さと最大厚さとの差が所定の範囲内である。
【0190】
(1)誘電体層の構造
誘電体層は、所定の方向に厚さが増加する厚さ分布を有する単位構造が複数配置された凹凸構造を有する。
【0191】
誘電体層の単位構造は、厚さの異なる複数のセル領域を有しており、誘電体層の各単位構造では、最小厚さと最大厚さとの差が所定の範囲内である。
【0192】
なお、誘電体層の単位構造における最小厚さと最大厚さとの差については、上記第1実施態様と同様である。
【0193】
また、誘電体層の構造のその他の点については、上記第1実施態様と同様とすることができる。
【0194】
(2)誘電体層の特性
誘電体層の特性については、上記第1実施態様と同様である。
【0195】
(3)誘電体層の材料
誘電体層の材料については、上記第1実施態様と同様である。
【0196】
(4)誘電体層の形成方法
誘電体層の形成方法については、上記第1実施態様と同様である。
【0197】
2.反射部材
本実施態様における反射部材は、特定の周波数帯の電磁波を反射する部材である。反射部材については、上記第1実施態様と同様である。
【0198】
3.電磁波の反射方向の制御
本実施態様において、電磁波の反射方向の制御については、上記第1実施態様と同様である。
【0199】
4.他の構成
本実施態様の周波数選択反射板は、上記の反射部材および誘電体層の他に、必要に応じて他の構成を有していてもよい。他の構成については、上記第1実施態様と同様である。
【0200】
5.周波数選択反射板のその他の点
本実施態様において、電磁波の周波数帯および用途については、上記第1実施態様と同様である。
【0201】
B.誘電体層
本開示における誘電体層は、上述の周波数選択反射板に用いられる部材である。
【0202】
なお、誘電体層については、上述の「A.周波数選択反射板」の項に記載したものと同様であるので、ここでの説明は省略する。
【0203】
C.反射構造体
本開示の反射構造体は、特定の周波数帯の電磁波を正反射方向とは異なる方向に反射する周波数選択反射板と、上記周波数選択反射板の上方に配置された保護部材と、を有する反射構造体であって、上記保護部材の厚さが、上記保護部材内を伝搬する上記電磁波の実効波長の1/4未満である。
【0204】
図17(a)は、本開示の反射構造体の一例を示す概略断面図であり、図17(b)は、本開示の反射構造体における周波数選択反射板の一例を示す概略平面図である。図17(a)に示すように、反射構造体20は、特定の周波数帯の電磁波を正反射方向とは異なる方向に反射する周波数選択反射板1と、周波数選択反射板1の上方に配置された保護部材21と、を有する。
【0205】
図17(a)、(b)に示すように、周波数選択反射板1は、特定の周波数帯の電磁波を反射する反射部材2を有しており、反射部材2は、複数のリング状の反射素子3が配列されたものであり、誘電体基板4と、誘電体基板4の保護部材21側の面に配置された複数の反射素子3とを有している。反射部材2は、電磁波の反射位相を制御する反射位相制御機能を有しており、例えば図17(b)に示す反射部材2においては、反射素子3の寸法を変化させることによって、反射素子3毎に共振周波数を変化させ、対象とする電磁波の反射位相を制御することができる。これにより、電磁波の所定の入射方向に対する反射方向を任意の方向に制御することができる。なお、図17(a)、(b)に示す反射部材について、図17(a)は図17(b)のA-A線断面図に相当する。
【0206】
また、図17(a)に示すように、保護部材21の厚さTは、保護部材21内を伝搬する特定の周波数帯の電磁波の実効波長の1/4未満となっている。
【0207】
本開示の反射構造体においては、保護部材の厚さが上記電磁波の実効波長の1/4未満となっており、上記電磁波の実効波長に対して十分に薄いことにより、保護部材による電磁波の減衰を抑制することができる。そのため、周波数選択反射板および保護部材間の距離を特定の値にする必要もない。よって、本開示においては、設計に制約を与えることなく、保護部材による電磁波の減衰を抑制することが可能である。
【0208】
ここで、電磁波の実効波長とは、電磁波が保護部材等の空気以外の材質中を通過する際の波長を意味する。なお、単に波長という場合は、空気中での波長を意味する。
【0209】
以下、本開示の反射構造体の各構成について説明する。
【0210】
1.保護部材
本開示における保護部材は、周波数選択反射板の上方に配置され、所定の厚さを有する。
【0211】
(1)保護部材の厚さ
保護部材の厚さとしては、保護部材内を伝搬する特定の周波数帯の電磁波の実効波長の1/4未満であり、中でも、上記実効波長の1/6以下であることが好ましく、上記実効波長の1/15以下であることがより好ましい。保護部材の厚さが上記範囲のように薄いことにより、保護部材による電磁波の減衰を抑制することができる。また、保護部材の厚さが上記実効波長の1/15以下である場合には、保護部材による電磁波の減衰を著しく抑制することができる。後述するように、電磁波の周波数帯は24GHz以上であることが好ましく、すなわち電磁波の空気中での波長は12.49mm以下であることが好ましい。この場合において、保護部材に電磁波の実効波長が空気中での波長に近い材料を用いた場合には、保護部材の厚さは3.1mm程度になる。そのため、保護部材の厚さは、具体的には、3.1mm程度以下とすることができる。また、保護部材の厚さは、電磁波の減衰の抑制の観点からは薄いほど好ましいが、周波数選択反射板の保護や保護部材の強度、剛性等の観点から、例えば、5μm以上であることが好ましく、50μm以上であることがより好ましく、100μm以上であることがさらに好ましい。
【0212】
なお、保護部材の厚さとは、例えば、後述するように保護部材が複数の層を有する多層構造を有する場合には、保護部材の総厚をいう。
【0213】
ここで、保護部材内を伝搬する上記電磁波の実効波長λは、特定の電磁波の周波数fに対応する自由空間における波長をλとし、保護部材の比誘電率をεとすると、λ=λ/√εで表される。よって、保護部材の厚さは、λ/4未満となる。なお、上述したように、保護部材がn個の層からなる多層構造を有する場合には、電磁波が入射する側からi番目(i=1~nの整数)の層の厚さをT、層内を伝搬する電磁波の実効波長をλgi、層の厚さが電磁波の実効波長の何波長分であるかをN=T/λgiとすると、N~Nの合計が1/4未満となる。
【0214】
(2)保護部材の構造
保護部材は、一つの層で構成される単層構造を有していてもよく、複数の層を有する多層構造を有していてもよい。
【0215】
保護部材は、例えば、少なくとも保護シートを有することができる。また、保護部材は、例えば、周波数選択反射板側から順に、接着層および保護シートを有していてもよい。
【0216】
(a)保護シート
本開示における保護部材を構成する保護シートは、周波数選択反射板を保護する部材である。
【0217】
(i)保護シートの特性
保護シートは、特定の周波数帯の電磁波を透過すればよく、他の周波数帯の電磁波を透過してもよく、しなくてもよい。
【0218】
特定の電磁波に対する保護シートの誘電正接は、比較的小さいことが好ましい。保護シートの誘電正接が小さいことにより、誘電損失を小さくすることができ、高周波損失を低減することができる。具体的には、対象周波数の電磁波に対する保護シートの誘電正接は、0.05以下であることが好ましく、0.01以下であってもよく、0.001以下であってもよい。また、保護シートの誘電正接は小さいほど好ましく、下限値は特に限定されない。
【0219】
また、対象周波数の電磁波における保護シートの誘電率は、損失を低減するには低いほうが好ましいが、本開示においては保護部材の厚さを薄くすることで損失を低減できることから、例えば、10以下であればよい。
【0220】
ここで、保護シートの誘電正接および誘電率は、共振器法により測定することができる。
【0221】
(ii)保護シートの材料
保護シートの材料としては、例えば、特定の周波数帯の電磁波を透過することができる非導電性材料であれば特に限定されるものではなく、具体的には、樹脂、ガラス、石英、セラミックス等を用いることができる。
【0222】
なお、非導電性材料とは、体積抵抗率が1012Ω・cm以上である材料をいう。保護シートの体積抵抗率は、JIS C2151に準拠して測定することができる。
【0223】
中でも、保護シートの材料としては、成形性やコスト等の観点から、樹脂が好適である。
【0224】
樹脂としては、特定の周波数帯の電磁波を透過することができるものであれば特に限定されないが、上記電磁波の吸収が比較的少なく、上記電磁波の透過率が比較的高いものであることが好ましい。また、樹脂は、上述の誘電正接および誘電率を満たすものであることがより好ましい。さらに、樹脂は、強度、剛性、耐候性等が比較的高いものであることが特に好ましい。このような樹脂としては、例えば、汎用プラスチック、エンジニアリングプラスチック等を挙げることができる。また、樹脂として、熱硬化型樹脂または電離放射線硬化型樹脂等の硬化型樹脂も挙げられる。電離放射線としては、可視光線、紫外線、X線、電子線、イオン線等がある。また、樹脂として、メラミン樹脂、ジアリルフタレート樹脂を用いることもできる。
【0225】
また、保護シートが樹脂を含有する場合、必要に応じて、例えば、紫外線吸収剤、光安定剤、酸化防止剤等の添加剤を含有していてもよい。
【0226】
(iii)保護シートの構造
保護シートは、一つの層で構成される単層構造を有していてもよく、複数の層を有する多層構造を有していてもよい。
【0227】
保護シートの材料が樹脂であり、すなわち保護シートが樹脂シートである場合、保護シートは、少なくとも樹脂層を有する。
【0228】
また、保護シートが樹脂シートである場合、保護シートによって意匠性を付与することもできる。この場合、保護シートは、例えば、樹脂層および意匠層を少なくとも有していてもよく、あるいは、意匠層を兼ねる樹脂層を少なくとも有していてもよい。
【0229】
(iii-1)保護シートが樹脂層および意匠層を少なくとも有する場合
保護シートが、樹脂層および意匠層を少なくとも有する場合、例えば、樹脂基材である樹脂層と意匠層とを有していてもよく、紙基材と意匠層とコート層である樹脂層とを有していてもよい。
【0230】
(iii-1-1)保護シートが樹脂基材である樹脂層と意匠層とを有する場合
保護シートが、樹脂基材である樹脂層と意匠層とを有する場合、保護シートの層構成は特に限定されるものではない。保護シートは、例えば、周波数選択反射板側から順に、樹脂層、意匠層、表面保護層を有していてもよく、樹脂層、意匠層、プライマー層、表面保護層を有していてもよく、第1の樹脂層、意匠層、接着剤層、第2の樹脂層、表面保護層を有していてもよく、第1の樹脂層、意匠層、接着剤層、第2の樹脂層、プライマー層、表面保護層を有していてもよく、意匠層、樹脂層、表面保護層を有していてもよく、意匠層、接着剤層、樹脂層、プライマー層、表面保護層を有していてもよい。また、保護機能を有する樹脂層上に意匠層が配置されている場合、意匠層のみを変更可能なように、樹脂層と意匠層とを分離可能にする、あるいは樹脂層と意匠層および表面保護層とを分離可能にしてもよい。この場合、各層の間に再剥離性を有する粘着層や接着層を配置してもよく、あるいは各層を構造的に密着させるような構成にしてもよい。
【0231】
上記の場合、樹脂層の材料としては、樹脂基材を得ることが可能なものであればよく、上述の樹脂の中から適宜選択して用いることができる。樹脂層の厚さとしては、保護部材の厚さを所定の範囲にすることができれば特に限定されるものではなく、例えば、数十μmから数百μm程度とすることができる。樹脂層は、必要に応じて着色されていてもよい。また、樹脂層は、隣接する層との密着性を高めるために、例えばコロナ処理、プラスマ処理、オゾン処理等の表面処理が施されていてもよく、プライマー層が配置されていてもよい。
【0232】
また、上記の場合、意匠層は、保護部材に意匠性を付与する層であり、例えば、着色層や絵柄模様層、図案層等を挙げることができる。意匠層は、例えば、印刷法または転写法により形成することができる。意匠層の厚さとしては、保護部材の厚さを所定の範囲にすることができれば特に限定されるものではなく、例えば、数百nmから数十μm程度とすることができる。
【0233】
また、上記の場合、表面保護層は、保護部材に耐擦傷性、耐摩耗性、耐水性、耐汚染性等の表面物性を付与するための層である。表面保護層の材料としては、熱硬化型樹脂または電離放射線硬化型樹脂等の硬化型樹脂を用いることができる。中でも、電離放射線硬化型樹脂が好ましく、紫外線硬化型樹脂または電子線硬化型樹脂がより好ましく、電子線硬化型樹脂がさらに好ましい。電離放射線としては、可視光線、紫外線、X線、電子線、イオン線等があるが、中でも、紫外線、電子線が好ましく、電子線がより好ましい。
【0234】
また、表面保護層は、撥水性を有することが好ましい。保護部材の表面に水が付着することによって反射構造体の反射特性が低下するのを抑制することができる。表面保護層の撥水性としては、例えば、表面保護層の表面における水との接触角が90°以上であることが好ましい。なお、水の接触角は、θ/2法により測定することができる。
【0235】
表面保護層に撥水性を付与するには、例えば、シリコーン系撥水剤やフッ素系撥水剤等の撥水剤を添加する、あるいは、主鎖または側鎖にシロキサン結合またはフッ素を導入することができる。
【0236】
表面保護層の厚さとしては、保護部材の厚さを所定の範囲にすることができれば特に限定されるものではなく、例えば、数μmから数十μm程度とすることができる。
【0237】
また、上記の場合、接着剤層には、例えば、一般的なドライラミネート用接着剤を用いることができる。接着剤層の厚さとしては、保護部材の厚さを所定の範囲にすることができれば特に限定されるものではなく、例えば、数百nmから数十μm程度とすることができる。
【0238】
また、上記の場合、プライマー層には、例えば、一般的なプライマー剤を用いることができる。プライマー層の厚さとしては、保護部材の厚さを所定の範囲にすることができれば特に限定されるものではなく、例えば、数百nmから数十μm程度とすることができる。
【0239】
(iii-1-2)保護シートが紙基材と意匠層とコート層である樹脂層とを有する場合
保護シートが、紙基材と意匠層とコート層である樹脂層とを有する場合、保護シートの層構成は特に限定されるものではなく、保護シートは、例えば、周波数選択反射板側から順に、紙基材、意匠層、樹脂層を有することができる。
【0240】
上記の場合、樹脂層の材料としては、コーティング可能なものであればよく、上述の硬化型樹脂を用いることができる。
【0241】
樹脂層は、撥水性を有することが好ましい。保護部材の表面に水が付着することによって反射構造体の反射特性が低下するのを抑制することができる。樹脂層の撥水性としては、上記(iii-1-1)の表面保護層の撥水性と同様とすることができる。
【0242】
樹脂層に撥水性を付与するには、例えば、シリコーン系撥水剤やフッ素系撥水剤等の撥水剤を添加する、あるいは、主鎖または側鎖にシロキサン結合またはフッ素を導入することができる。
【0243】
樹脂層の厚さとしては、保護部材の厚さを所定の範囲にすることができれば特に限定されるものではなく、例えば、数μmから数十μm程度とすることができる。
【0244】
また、上記の場合、意匠層は、保護部材に意匠性を付与する層であり、例えば、着色層や絵柄模様層等を挙げることができる。意匠層は、例えば、紙基材に印刷することにより形成することができる。
【0245】
また、上記の場合、紙基材としては、例えば、薄葉紙、チタン紙等が挙げられる。紙基材の厚さとしては、保護部材の厚さを所定の範囲にすることができれば特に限定されるものではなく、例えば、25μm以上135μm以下程度とすることができる。
【0246】
(iii-2)保護シートが意匠層を兼ねる樹脂層を少なくとも有する場合
保護シートが、意匠層を兼ねる樹脂層を少なくとも有する場合、樹脂層としては、例えば、印刷が施された紙基材に樹脂を含浸させた樹脂含浸紙を挙げることができる。
【0247】
樹脂含浸紙を構成する樹脂としては、例えば、メラミン樹脂、ジアリルフタレート樹脂等が挙げられる。
【0248】
樹脂含浸紙を構成する紙基材は、例えば、上記の樹脂を含浸させることが可能なものであれば特に限定されるものではない。樹脂含浸紙を構成する紙基材としては、例えば、チタン紙、薄葉紙、クラフト紙、コート紙、アート紙、硫酸紙、グラシン紙、パーチメント紙、パラフィン紙、和紙等が挙げられる。
【0249】
樹脂層の厚さとしては、保護部材の厚さを所定の範囲にすることができれば特に限定されるものではなく、例えば、25μm以上250μm以下程度とすることができる。
【0250】
上記の場合、保護シートの層構成としては特に限定されるものではなく、保護シートは、例えば、周波数選択反射板側から順に、樹脂層、表面保護層を有していてもよく、基材層、樹脂層、表面保護層を有していてもよい。
【0251】
上記の場合、表面保護層としては、例えば、紙基材に樹脂を含浸させた樹脂含浸紙を挙げることができる。表面保護層に用いられる樹脂含浸紙を構成する樹脂としては、例えば、メラミン樹脂が挙げられる。また、表面保護層に用いられる樹脂含浸紙を構成する紙基材としては、上記樹脂層に用いられる樹脂含浸紙を構成する紙基材と同様とすることができる。表面保護層の厚さとしては、保護部材の厚さを所定の範囲にすることができれば特に限定されるものではなく、例えば、25μm以上250μm以下程度とすることができる。
【0252】
また、上記の場合、基材層としては、例えば、紙基材に樹脂を含浸させた樹脂含浸紙を挙げることができる。基材層に用いられる樹脂含浸紙を構成する樹脂としては、例えば、フェノール樹脂層の熱硬化型樹脂が挙げられる。また、基材層に用いられる樹脂含浸紙を構成する紙基材としては、例えば、クラフト紙等が挙げられる。基材層として、樹脂が含浸されたクラフト紙を複数枚積層して用いてもよい。基材層の厚さとしては、保護部材の厚さを所定の範囲にすることができれば特に限定されるものではない。クラフト紙の厚さは、例えば、50μm以上200μm以下程度とすることができる。
【0253】
(b)接着層
本開示における保護部材21は、例えば図18(a)に示すように、周波数選択反射板1側から順に、接着層23と、保護シート22とを有することができる。接着層は、保護部材を周波数選択反射板に直接的または間接的に接着させるための層である。
【0254】
接着層に用いられる接着剤としては、特に限定されるものではなく、例えば、エポキシ系接着剤、ウレタン系接着剤、アクリル系接着剤、エマルション系接着剤等を挙げることができる。また、接着剤は、感圧接着剤や光学透明接着剤であってもよい。また、接着剤は、液状の接着剤を用いてもよく、シート状の接着剤を用いてもよい。感圧接着剤は、PSAともいう。光学透明接着剤は、OCAともいう。
【0255】
また、接着層は、再剥離性を有していてもよく、有していなくてもよい。接着層が再剥離性を有する場合、保護部材を周波数選択反射板の上方に配置する際に貼り直しが可能であり、また保護部材を貼り替える場合には糊残りを生じることなく保護部材を剥離することが可能である。
【0256】
なお、「再剥離性」とは、保護部材を周波数選択反射板または後述の支持部材の表面に貼付した後で、周波数選択反射板または支持部材を破壊せず、かつ、周波数選択反射板または後述の支持部材の表面に粘着剤を残さずに容易に剥離できる性質をいう。
【0257】
接着層の厚さとしては、保護部材の厚さを所定の範囲にすることができれば特に限定されるものではなく、例えば、数百nmから数百μm程度とすることができる。
【0258】
(3)保護部材の配置
本開示において、保護部材は、周波数選択反射板の上方に配置されていればよく、周波数選択反射板に接するように配置されていてもよく、周波数選択反射板に接しないように配置されていてもよい。保護部材が周波数選択反射板に接するように配置されている場合には、保護部材を周波数選択反射板によって支持することができ、保護部材の厚さが薄い場合においても保護部材のたわみを抑制することができる。
【0259】
例えば、後述するように、周波数選択反射板が、特定の電磁波を反射する反射部材を有し、この反射部材が、上記電磁波の反射位相を制御する反射位相制御機能を有する場合、保護部材は周波数選択反射板の反射部材に接しないように配置されていることが好ましい。周波数選択反射板の反射部材に保護部材が接していると、反射部材の反射特性が変化してしまう可能性がある。なお、剛性等の観点から保護部材を周波数選択反射板の反射部材に接するように配置する必要がある場合は、保護部材による反射特性変化を考慮して反射部材の反射特性を再設計すればよい。
【0260】
また、例えば、後述するように、周波数選択反射板が、保護部材側から順に、所定の方向に厚さが増加する厚さ分布を有する単位構造が複数配置された凹凸構造を有し、特定の電磁波を透過する誘電体層と、特定の電磁波を反射する反射部材とを有する場合、保護部材は周波数選択反射板に接するように配置されていることが好ましい。上述したように、保護部材を周波数選択反射板によって支持することができ、保護部材の厚さが薄い場合においても保護部材のたわみを抑制することができる。
【0261】
また、保護部材は、周波数選択反射板および後述の支持部材の少なくともいずれかによって支持されていることが好ましく、周波数選択板および支持部材の両方によって支持されていることがより好ましい。保護部材が支持されていることにより、保護部材の厚さが薄い場合においても保護部材のたわみを抑制することができる。また、保護部材が周波数選択板および支持部材の両方によって支持されている場合には、保護部材を確実に支持することができ、保護部材の厚さが薄い場合においても保護部材のたわみを効果的に抑制することができる。この場合には、保護部材の厚さをより薄くすることが可能である。
【0262】
保護部材が周波数選択反射板に接するように配置されている場合であって、周波数選択反射板が、保護部材側から順に、所定の方向に厚さが増加する厚さ分布を有する単位構造が複数配置された凹凸構造を有し、特定の電磁波を透過する誘電体層と、特定の電磁波を反射する反射部材とを有する場合、保護部材は、誘電体層における最大厚さを有する最大厚さ部に接するように配置されていることが好ましい。具体的には、後述するように、例えば図18(a)、(b)に示すように、周波数選択反射板1が、保護部材21側から順に、所定の方向D1に厚さが増加する厚さ分布を有する単位構造10が複数配置された凹凸構造を有し、特定の電磁波を透過する誘電体層5と、特定の電磁波を反射する反射部材2とを有し、誘電体層5の単位構造10が、厚さt1~t6の異なる複数のセル領域11a~11fを有する場合、保護部材21は、誘電体層5の単位構造10における最大厚さt6を有する最大厚さセル領域11fに接するように配置されていることが好ましい。誘電体層における最大厚さ部、具体的には、誘電体層の単位構造における最大厚さセル領域は、誘電体層において複数存在することから、保護部材が上記のように配置されていることにより、保護部材を確実に支持することができる。よって、保護部材の厚さが薄い場合においても保護部材のたわみを効果的に抑制することができる。そのため、保護部材が上記のように配置されている場合には、保護部材の厚さをより薄くすることが可能である。なお、図18(a)、(b)に示す周波数選択反射板について、図18(a)は図18(b)のA-A線断面図に相当する。
【0263】
また、保護部材が周波数選択反射板に接しないように配置されている場合、周波数選択反射板および保護部材間の距離は、特に限定されるものではない。
【0264】
2.周波数選択反射板
本開示における周波数選択反射板は、特定の周波数帯の電磁波を正反射方向とは異なる方向に反射する部材である。
【0265】
周波数選択反射板は、特定の周波数帯の電磁波を正反射方向とは異なる方向に反射する部材であれば特に限定されるものではない。周波数選択反射板は、例えば、上記電磁波を反射する反射部材を有し、この反射部材が、上記電磁波の反射位相を制御する反射位相制御機能を有していてもよい。あるいは、周波数選択反射板は、例えば、保護部材側から順に、所定の方向に厚さが増加する厚さ分布を有する単位構造が複数配置された凹凸構造を有し、上記電磁波を透過する誘電体層と、上記電磁波を反射する反射部材とを有していてもよい。
【0266】
以下、周波数選択反射板が、上記電磁波を反射する反射部材を有し、この反射部材が、上記電磁波の反射位相を制御する反射位相制御機能を有する第1態様と、保護部材側から順に、所定の方向に厚さが増加する厚さ分布を有する単位構造が複数配置された凹凸構造を有し、上記電磁波を透過する誘電体層と、上記電磁波を反射する反射部材とを有する第2態様とに分けて説明する。
【0267】
(1)周波数選択反射板の第1態様
本開示における周波数選択反射板の第1態様は、上記電磁波を反射する反射部材を有し、この反射部材が、上記電磁波の反射位相を制御する反射位相制御機能を有する。
【0268】
(a)反射部材
本態様における反射部材は、特定の周波数帯の電磁波を反射し、電磁波の反射位相を制御する反射位相制御機能を有する部材である。
【0269】
本態様において、反射部材は、通常、特定の周波数帯の電磁波のみを反射する波長選択機能を有する。このような反射部材としては、例えば、周波数選択板を挙げることができる。
【0270】
なお、周波数選択反射板については、上述の「A.周波数選択反射板」の項に記載した内容と同様である。例えば、図17(b)は、反射部材2が周波数選択板である例であり、反射部材2は、誘電体基板4と、誘電体基板4の電磁波入射側の面に配列された複数の反射素子3とを有している。
【0271】
また、反射素子の形状や構成についても、上述の「A.周波数選択反射板」の項に記載した内容と同様である。
【0272】
本態様において、反射部材は、電磁波の反射位相を制御する反射位相制御機能を有する。このような反射部材においては、反射素子の寸法や形状を変化させることによって、反射素子毎に共振周波数を変化させ、電磁波の反射位相を制御することができ、これにより、所定の方向から入射した電磁波の反射方向を制御することができる。
【0273】
反射位相制御機能を有する反射部材としては、一般的な周波数選択性表面を適用することができる。これらは設計に一長一短はあるが、いずれも反射素子の寸法や形状を変化させることで電磁波の反射位相を変化させることが可能である。
【0274】
反射素子の異なる寸法としては、反射素子の形状に応じて適宜選択される。
【0275】
(b)他の構成
本態様の周波数選択反射板は、上記の反射部材の他に、必要に応じて他の構成を有していてもよい。
【0276】
(i)グラウンド層
本態様の周波数選択反射板は、上記反射部材の上記保護部材とは反対側の面にグラウンド層を有していてもよい。グラウンド層については、上述の「A.周波数選択反射板」の項に記載した内容と同様である。
【0277】
(ii)平坦化層
本態様の周波数選択反射板は、上記反射部材の上記保護部材側の面に平坦化層を有していてもよい。平坦化層については、上述の「A.周波数選択反射板」の項に記載した内容と同様である。
【0278】
(2)周波数選択反射板の第2態様
本開示における周波数選択反射板の第2態様は、上記保護部材側から順に、所定の方向に厚さが増加する厚さ分布を有する単位構造が複数配置された凹凸構造を有し、上記電磁波を透過する誘電体層と、上記電磁波を反射する反射部材と、を有し、上記誘電体層の上記単位構造は、厚さの異なる複数のセル領域を有し、上記誘電体層が、上記単位構造として、厚さの異なる3つ以上の上記セル領域を有する第1の単位構造を少なくとも有し、上記誘電体層の厚さ分布によって上記電磁波の相対反射位相分布を制御することにより、上記電磁波の反射方向を制御するものである。
【0279】
本開示における周波数選択反射板の第2態様は、3つの実施態様を有する。各実施態様の周波数選択反射板は、上述の「A.周波数選択反射板」の項に記載した3つの実施態様と同様である。
【0280】
なお、各セル領域の厚さは、電磁波の実効波長の1/2またはその整数倍である必要はない。
【0281】
(3)周波数選択反射板のその他の点
本開示における周波数選択反射板は、特定の周波数帯の電磁波を正反射方向とは異なる方向に反射する。電磁波の周波数帯については、上述の「A.周波数選択反射板」の項に記載した内容と同様である。一方、電磁波の周波数帯が高すぎると、保護部材の厚さをかなり薄くする必要があり、保護に必要な機械強度等を考慮した場合、電磁波の減衰を十分に抑制することができない可能性がある。
【0282】
本開示における周波数選択反射板は、例えば、通信用の周波数選択反射板として用いることができ、中でも、移動通信用の周波数選択反射板として好適である。
【0283】
3.他の構成
本開示の反射構造体は、上記の周波数選択反射板および保護部材の他に、必要に応じて他の構成を有していてもよい。
【0284】
(1)支持部材
本開示の反射構造体においては、例えば図19(a)、(b)に示すように、周波数選択反射板1の外周に支持部材24が配置されており、保護部材21が支持部材24によって支持されていてもよい。すなわち、保護部材は、支持部材に接するように配置されていてもよい。保護部材が支持部材に支持されていることにより、保護部材の厚さが薄い場合においても保護部材のたわみを抑制することができる。また、保護部材および支持部材によって、周波数選択反射板を封止することができ、周波数選択反射板への異物の付着を抑制することができる。
【0285】
支持部材としては、非導電性を有し、保護部材を支持することができれば特に限定されるものではない。
【0286】
支持部材の材料は、非導電性材料であることが好ましい。非導電性材料としては、例えば、上記保護部材の保護シートに用いられる材料や、上記誘電体層に用いられる材料を挙げることができる。
【0287】
支持部材の誘電率は空気に近いことが好ましい。また、支持部材の誘電正接は小さいことが好ましい。この場合、支持部材による周波数選択反射板の反射特性への影響をほぼ無くすことができる。
【0288】
支持部材の厚さとしては、保護部材を支持することができる厚さであれば特に限定されない。
【0289】
中でも、周波数選択反射板が、保護部材側から順に、上記の誘電体層および保護部材を有する場合、支持部材の周波数選択反射板の底面からの高さは、誘電体層における最大厚さ部の周波数選択反射板の底面からの高さと等しいことが好ましい。具体的には、誘電体層の単位構造が、厚さの異なる複数のセル領域を有する場合、支持部材の周波数選択反射板の底面からの高さは、誘電体層の単位構造における最大厚さセル領域の底面からの高さと等しいことが好ましい。例えば、図19(b)において、支持部材24の周波数選択反射板1の底面からの高さh1は、誘電体層5の単位構造における最大厚さセル領域の底面からの高さh2と等しくなっている。また、例えば図19(b)に示すように、支持部材24が、誘電体層5と同一平面上に配置されている場合には、支持部材の厚さは、誘電体層の単位構造における最大厚さセル領域の厚さ、すなわち最大厚さと等しいことが好ましい。支持部材の周波数選択反射板の底面からの高さが上記のような高さであることにより、支持部材および周波数選択反射板の両方によって保護部材を確実に支持することができ、保護部材の厚さが薄い場合においても保護部材のたわみを効果的に抑制することができる。
【0290】
支持部材の幅としては、保護部材を支持することができ、支持部材を周波数選択反射板の外周に配置することが可能な幅であれば特に限定されるものではなく、例えば、上記電磁波の波長未満とすることができる。
【0291】
支持部材は、周波数選択反射板の外周に配置されていればよく、例えば、周波数選択反射板の外周の一部に配置されていてもよく、周波数選択反射板の外周の全部に配置されていてもよいが、周波数選択反射板の外周の全部に配置されていることが好ましい。周波数選択反射板の外周部全てに支持部材を配置することにより、保護部材の厚さが薄い場合においても保護部材のたわみをより抑制することができる。また、保護部材および支持部材によって、周波数選択反射板を封止することができ、周波数選択反射板への異物の付着や水分の侵入等を抑制することができる。
【0292】
また、保護部材を効果的に支持するため、周波数選択反射板の外周だけでなく、周波数選択反射板の外周以外の領域にも、支持部材が配置されていてもよい。
【0293】
周波数選択反射板の外周以外の領域にも支持部材が配置されている場合において、第1態様の周波数選択反射板の場合であって、保護部材を周波数選択反射板に接しないように配置する場合には、必要な反射特性が確保できる範囲で、周波数選択反射板の外周以外の領域に支持部材を配置することができる。
【0294】
また、周波数選択反射板の外周以外の領域にも支持部材が配置されている場合において、第2態様の周波数選択反射板の場合には、誘電体層における最大厚さ部が、周波数選択反射板の外周以外の領域に配置された支持部材を兼ねることができる。また、第2態様の周波数選択反射板の場合、周波数選択反射板の外周に配置される支持部材と誘電体層とを一括形成してもよい。この際、誘電体層において、誘電体層の外周を誘電体層における最大厚さ部で囲むような配置とすることにより、周波数選択反射板の外周に配置される支持部材と誘電体層とを一括形成することができる。また、この際、誘電体層が、上述したように、個々のセル領域が別々に形成されており、ブロック状のセル領域が配列されたものである場合には、反射構造体全体の外周部が支持部材として機能するよう、誘電体層における最大厚さ部のレイアウトを適宜調整すればよい。
【0295】
(2)固定部材
本開示の反射構造体を、例えば壁等に取り付けて使用する場合には、上記周波数選択反射板の上記保護部材とは反対側の面に、反射構造体を取り付けるための機構を有する固定部材を配置してもよい。また、壁等の設置面と、周波数選択反射板との干渉を抑えるために、固定部材は、設置面と周波数選択反射板との距離を所定の間隔離す構造を有していてもよく、空気に近い誘電率を持つ所定の厚さの層を有していてもよい。また、固定部材と、周波数選択反射板との干渉を抑えるために、固定部材と周波数選択反射板との間に金属層を配置してもよく、固定部材が金属層を兼ねてもよい。また、本開示の反射構造体を壁等に取り付ける場合に、設計した電磁波の入射方向および反射方向と、実際の電磁波の入射方向および反射方向とのずれを補正できるように、固定部材は周波数選択反射板の法線方向の角度を可変にする機構を有していてもよい。
【0296】
(3)封止部材
本開示においては、反射構造体の外周に封止部材が配置されていてもよい。周波数選択反射板の外周の全部に支持部材が配置されていない場合、具体的には、第1態様の周波数選択反射板の場合であって、保護部材が周波数選択反射板に接して配置されている場合や、第2態様の周波数選択反射板の場合であって、誘電体層が、個々のセル領域が別々に形成されており、ブロック状のセル領域が配列されたものである場合等において、反射構造体の外周に封止部材が配置されていることにより、反射構造体の外周からの異物や水分等の侵入を抑制することができる。
【0297】
封止部材としては、例えば、一般的なコーキング材やバリアテープ等を適用できるが、非導電性を有するものであることが好ましい。
【0298】
なお、本開示は、上記実施形態に限定されない。上記実施形態は、例示であり、本開示における特許請求の範囲に記載された技術的思想と実質的に同一な構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなるものであっても本開示における技術的範囲に包含される。
【実施例0299】
以下、実施例を挙げて本開示を具体的に説明する。
【0300】
[実施例1]
周波数選択反射板の反射特性のシミュレーションを行った。シミュレーションでは、誘電体層の単位構造は、図20(a)に示すように、一方向に厚さが増加する厚さ分布を有し、厚さの異なる6個のセル領域を有しており、誘電体層は、単位構造が一方向に繰り返し配置された周期構造を有するモデルを用いた。また、シミュレーションでは、反射部材は、リング状の反射素子が規則的に配列されており、入射波の周波数で共振し、その周波数の電磁波を反射するモデルとした。また、シミュレーションでは下記のパラメータを用いた。
【0301】
入射波の周波数:28GHz
入射波の入射角:0度、-10度
反射波の所望反射角:27度、37度
隣接するセル領域での相対反射位相の差:60度
【0302】
シミュレーション結果を図20(b)に示す。入射角が0度である場合、すなわち正面方向31からの入射に対する反射は符号32で示す実線で示した。また、入射角が-10度である場合、すなわち-10度方向33からの入射に対する反射は符号34で示す実線で示した。入射角が0度の場合は正反射方向から+27度方向に反射し、入射角が-10度である場合は正反射方向から+37度方向に反射していることが分かる。
【0303】
[実施例2]
周波数選択反射板の反射特性のシミュレーションを行った。シミュレーションでは、誘電体層の単位構造は、図21(a)に示すように、一方向に厚さが増加する厚さ分布を有し、厚さの異なる10個のセル領域を有しており、誘電体層は、単位構造が一方向に繰り返し配置された周期構造を有するモデルを用いた。また、シミュレーションでは、反射部材は、リング状の反射素子が規則的に配列されており、入射波の周波数で共振し、その周波数の電磁波を反射するモデルとした。また、シミュレーションでは下記のパラメータを用いた。
【0304】
入射波の周波数:28GHz
入射波の入射角:0度
反射波の所望反射角:16度
隣接するセル領域での相対反射位相の差:36度
【0305】
シミュレーション結果を図21(b)に示す。入射角が0度である場合、すなわち正面方向35からの入射に対する反射は符号36で示す実線で示した。入射角が0度の場合は正反射方向から+16度方向に反射していることが分かる。また、図21(b)では、図20(b)と比べて、反射方向が正反射方向に近い。これは誘電体層の単位構造が、図20(a)では6個のセル領域を有するのに対し、図21(a)では10個のセル領域を有しており、厚さが増加する所定の方向における単位構造の長さが長いからである。
【0306】
[実施例3]
まず、実施例1の反射部材のモデルに合わせて、銅箔付きPETフィルムをエッチングして、リング状の反射素子が規則的に配列された反射部材を作製した。また、実施例1の誘電体層のモデルに合わせて、3Dプリンタで誘電体層を成形した。次に、反射部材上に誘電体層を貼り付けて、周波数選択反射板を作製した。
【0307】
コンパクトレンジ測定系とネットワークアナライザを用いて、周波数選択反射板の反射特性を測定した。実施例3の周波数選択反射板の反射特性は、実施例1のシミュレーション結果とほぼ一致した。
【0308】
[実施例4]
リフレクトアレイの解析で、図22に示すような、一般的な伝送線路等価回路を用いて、FSSを有する反射部材と誘電体層とを有する周波数選択反射板について反射位相を算定した。なお、図22における記号は下記の通りである。
ZVAC:空気の特性インピーダンスを持つ伝送線路を示す。線路長は、誘電体層の最上面より遠くの任意の距離に設定された位相観測面から、誘電体層の厚さを減じた長さである。
ZPC:誘電体層の特性インピーダンスをもつ伝送線路を示す。線路長は誘電体層hの厚さである。
r:FSSのリング状の反射素子の抵抗を示す。
L:FSSのリング状の反射素子のインダクタンスを示す。
C:FSSのリング状の反射素子の容量を示す。
ZPET:FSSのリング状の反射素子を配置する誘電体基板の誘電率を持つ伝送線路を示す。線路長は誘電体基板の厚さである。
ZL:誘電体基板の裏面の空間の特性インピーダンスを示す。この空間は、空気で満たされている。
【0309】
その結果、反射位相のうち、異なる厚さの誘電体層を重ねたことで生じる共振周波数ずれによる反射位相変化はせいぜい数十度であり、これは最大反射位相360度の25%前後であり、それ以外の反射位相変化は誘電体層内の波長短縮によることが算定された。さらに、周波数選択性表面を有する反射部材と誘電体層との位置がずれたとしても、そのずれは周波数選択反射板全体を通じて均等になるが、反射波を平面波とするには隣接するセル領域との反射位相が均等であればよいことを考えれば、反射方向に対する影響はほとんどないと結論できた。
【0310】
[実施例5]
反射構造体の反射特性のシミュレーションを行った。シミュレーションでは、周波数選択反射板の誘電体層の単位構造は、図23(a)に示すように、一方向に厚さが増加する厚さ分布を有し、厚さの異なる6個のセル領域を有しており、誘電体層は、単位構造が一方向に繰り返し配置された周期構造を有するモデルを用いた。また、シミュレーションでは、反射部材は、リング状の反射素子が規則的に配列されており、入射波の周波数で共振し、その周波数の電磁波を反射するモデルとした。また、シミュレーションでは、周波数選択反射板について、下記のパラメータを用いた。また、シミュレーションでは、保護部部材の厚さは、上記電磁波の実効波長λの1/3~1/15とした。
【0311】
入射波の周波数:28GHz
入射波の入射角:0度
反射波の所望反射角:27度
隣接するセル領域での相対反射位相の差:60度
【0312】
シミュレーション結果を図23(b)に示す。また、図23(c)に、保護部材の厚さと、保護部材を配置しない場合の反射波の強度を1としたときの反射波の強度比との関係を示す。保護部材の厚さがλ/4未満である場合には、保護部材の厚さが薄くなるのに伴って反射波の強度比が高くなった。さらに、保護部材の厚さがλ/15以下になると、反射波の強度比がほぼ一定になった。これにより、保護部材の厚さをλ/4未満になるように薄くすることで、電磁波の減衰を抑制できることが示唆された。
【0313】
[実施例6]
周波数選択反射板の反射特性のシミュレーションを行った。シミュレーションでは、誘電体層の単位構造は、一方向に厚さが増加する厚さ分布を有し、厚さの異なる3個、5個または8個のセル領域を有しており、誘電体層は、単位構造が一方向に繰り返し配置された周期構造を有するモデルを用いた。また、シミュレーションでは、反射部材は、リング状の反射素子が規則的に配列されており、入射波の周波数で共振し、その周波数の電磁波を反射するモデルとした。そして、誘電体層の単位構造において、各セル領域での電磁波の相対反射位相が所定の設定になるように設計を行った。
【0314】
次に、上記の設計値に基づいて、誘電体層のモデルに合わせて、3Dプリンタで誘電体層を成形した。
【0315】
得られた誘電体層について、最小厚さセル領域における所定の方向の中心位置を0とし、最大厚さセル領域の所定の方向の中心位置を1としたときの、相対位置を横軸とし、最小厚さセル領域の厚さを0とし、最大厚さセル領域の厚さを1としたときの、最大厚さセル領域の厚さに対する各セル領域の厚さの比を縦軸とするグラフに、各セル領域の所定の方向の中心位置および最大厚さセル領域の厚さに対する各セル領域の厚さの比に対応する点をプロットしたグラフを、図24(a)~(c)に示す。図24(a)~(c)はそれぞれ、誘電体層の単位構造を構成するセル領域の数が3個、5個、8個の場合のグラフである。そして、上記グラフから、回帰直線を求めた。
【0316】
図24(a)~(c)に示すように、いずれの場合も、回帰直線の傾きaおよび決定係数Rが所定の範囲であった。
【0317】
また、コンパクトレンジ測定系とネットワークアナライザを用いて、周波数選択反射板の反射特性を測定した。周波数選択反射板の反射特性はいずれも、シミュレーション結果とほぼ一致した。
【0318】
よって、回帰直線の傾きaおよび決定係数Rが所定の範囲である場合には、所望の反射特性を満たすことが示唆された。
【符号の説明】
【0319】
1 … 周波数選択反射板
2 … 反射部材
3 … 反射素子
4 … 誘電体基板
5 … 誘電体層
6 … 接着層
7 … 反射層
8 … 空間
10、10a、10b … 単位構造
11a~11g、12a~12f、13a~13e … セル領域
20 … 反射構造体
21 … 保護部材
22 … 保護シート
23 … 接着層
24 … 支持部材
D1 … 所定の方向
L … 厚さが増加する所定の方向における単位構造の長さ
t1、t2、t3、t4、t5、t6 … セル領域の厚さ
T … 保護部材の厚さ
図1
図2
図3
図4
図5
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