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特開2024-95840T細胞の増殖を低減する交流電場を使用する自己免疫性疾患の治療
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  • 特開-T細胞の増殖を低減する交流電場を使用する自己免疫性疾患の治療 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024095840
(43)【公開日】2024-07-10
(54)【発明の名称】T細胞の増殖を低減する交流電場を使用する自己免疫性疾患の治療
(51)【国際特許分類】
   A61N 1/40 20060101AFI20240703BHJP
   A61N 1/36 20060101ALI20240703BHJP
【FI】
A61N1/40
A61N1/36
【審査請求】有
【請求項の数】16
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2024069518
(22)【出願日】2024-04-23
(62)【分割の表示】P 2021512745の分割
【原出願日】2019-09-04
(31)【優先権主張番号】62/728,174
(32)【優先日】2018-09-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(71)【出願人】
【識別番号】519275847
【氏名又は名称】ノボキュア ゲーエムベーハー
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【弁理士】
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】ヤニフ・アロン
(72)【発明者】
【氏名】タリ・ボロシン-セラ
(72)【発明者】
【氏名】モシェ・ギラディ
【テーマコード(参考)】
4C053
【Fターム(参考)】
4C053JJ02
4C053JJ04
4C053JJ13
4C053JJ14
4C053JJ24
4C053JJ25
4C053JJ26
4C053JJ27
4C053LL05
4C053LL07
4C053LL13
(57)【要約】      (修正有)
【課題】対象の体の標的領域における自己免疫性疾患による障害を予防又は最小化する方法を提供する。
【解決手段】自己免疫性疾患治療装置を治療するための組み合わせ製品であって、標的領域に対する対象の体内又は体表における配置のための複数の電極42、44であって、複数の電極の間におけるAC電圧の印加が、標的領域における自己免疫性疾患によって攻撃されている組織を通して交流電場をかけるような、複数の電極;複数の電極の間に或る時間の間AC電圧を印加するためのAC電圧発生機30であって、組織を通して交流電場が時間の間かけられるような、AC電圧発生機;及び少なくとも1種の自己免疫性疾患治療のための従来の薬物を含み、自己免疫性疾患は、T細胞の増殖により引き起こされる自己免疫性疾患であり、交流電場が、50kHz~500kHzの間の周波数及び0.2V/cm RMS~5V/cm RMSの間の電場強度を有する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
自己免疫性疾患治療装置を治療するための組み合わせ製品であって、
標的領域に対する対象の体内又は体表における配置のための複数の電極(42、44)であって、前記複数の電極(42、44)の間におけるAC電圧の印加が、前記標的領域における前記自己免疫性疾患によって攻撃されている組織を通して交流電場をかけるような、複数の電極(42、44);
前記複数の電極(42、44)の間に或る時間の間AC電圧を印加するためのAC電圧発生機(30)であって、前記組織を通して交流電場が前記時間の間かけられるような、AC電圧発生機(30);及び
少なくとも1種の自己免疫性疾患治療のための従来の薬物
を含み、
前記自己免疫性疾患は、T細胞の増殖により引き起こされる自己免疫性疾患であり、
前記交流電場が、50kHz~500kHzの間の周波数及び0.2V/cm RMS~5V/cm RMSの間の電場強度を有し、前記交流電場が前記組織に前記時間の間かけられるとき、前記交流電場が、前記組織におけるT細胞の増殖を阻害し、前記自己免疫性疾患によって引き起こされる障害を低減する、
組み合わせ製品。
【請求項2】
前記複数の電極(42、44)が、前記組織に関連する少なくとも1つの流入領域リンパ節に前記交流電場がかけられるように、前記対象の体に対して配置可能である、請求項1に記載の組み合わせ製品。
【請求項3】
前記自己免疫性疾患が、
(i)1型糖尿病であり、前記複数の電極(42、44)が、膵臓に前記交流電場がかけられるように、前記対象の体に対して配置可能である;
(ii)多発性硬化症であり、前記複数の電極(42、44)が、前記対象の中枢神経系における少なくとも1つの病変に前記交流電場がかけられるように、前記対象の体に対して配置可能である;
(iii)多発性筋炎であり、前記複数の電極(42、44)が、前記対象の少なくとも1つの筋肉に前記交流電場がかけられるように、前記対象の体に対して配置可能である;
(iv)関節リウマチであり、前記複数の電極(42、44)が、前記対象の少なくとも1つの関節に前記交流電場がかけられるように、前記対象の体に対して配置可能である;
(v)ラスムッセン脳炎であり、前記複数の電極(42、44)が、前記対象の脳の罹患半球に前記交流電場がかけられるように、前記対象の体に対して配置可能である;又は
(vi)ループス腎炎であり、前記複数の電極(42、44)が、前記対象の少なくとも1つの腎臓に前記交流電場がかけられるように、前記対象の体に対して配置可能である、
請求項1に記載の組み合わせ製品。
【請求項4】
前記複数の電極(42、44)が、前記標的領域に対する前記対象の体内又は体表における配置のための第1組の電極(44)であって、前記第1組の電極(44)の間におけるAC電圧の印加が、前記組織を通して第1の配向による第1の交流電場をかけるような、第1組の電極(44)、及び、前記標的領域に対する前記対象の体内又は体表における配置のための第2組の電極(42)であって、前記第2組の電極(42)の間におけるAC電圧の印加が、前記組織を通して第2の配向による第2の交流電場をかけるような、第2組の電極(42)を含み、前記第1の及び第2の配向は、異なっており、前記第1の及び第2の交流電場が、前記第1の配向による前記第1の交流電場が前記組織を通してかけられるように前記第1組の電極(44)の間に第1のAC電圧を印加すること、及び、前記第2の配向による前記第2の交流電場が前記組織を通してかけられるように前記第2組の電極(42)の間に第2のAC電圧を印加することによって、交互に繰り返し印加される、請求項1に記載の組み合わせ製品。
【請求項5】
前記第1組及び第2組の電極(44、42)が、前記組織に関連する少なくとも1つの流入領域リンパ節に前記第1の及び第2の配向による前記第1の及び第2の交流電場がかけられるように、前記対象の体に対して配置可能である、請求項4に記載の組み合わせ製品。
【請求項6】
前記第1の配向が、前記第2の配向から少なくとも60°オフセットされる、請求項4に記載の組み合わせ製品。
【請求項7】
前記第1の及び第2の交流電場が、1ms~1000msの間の間隔で切り替えられる、請求項4に記載の組み合わせ製品。
【請求項8】
前記第1の及び第2の交流電場が、1s~100sの間の間隔で切り替えられる、請求項4に記載の組み合わせ製品。
【請求項9】
前記複数の電極(42、44)の各々が、前記対象の体に容量結合可能である、請求項1から8のいずれか一項に記載の組み合わせ製品。
【請求項10】
各交流電場が、前記自己免疫性疾患の急性期の判定後にかけられる、請求項1から9のいずれか一項に記載の組み合わせ製品。
【請求項11】
治療有効な薬物レジメンと組み合わせる、請求項1から10のいずれか一項に記載の組み合わせ製品。
【請求項12】
各交流電場が、100kHz~300kHzの間の周波数を有する、請求項1から11のいずれか一項に記載の組み合わせ製品。
【請求項13】
各交流電場が、約200kHzの周波数を有する、請求項1から11のいずれか一項に記載の組み合わせ製品。
【請求項14】
前記電場強度が、0.2V/cm RMS~1V/cm RMSの間である、請求項1から13のいずれか一項に記載の組み合わせ製品。
【請求項15】
前記電場強度が、1V/cm RMS~5V/cm RMSの間である、請求項1から13のいずれか一項に記載の組み合わせ製品。
【請求項16】
前記組織が、腫瘍を含まない、請求項1から15のいずれか一項に記載の組み合わせ製品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願への相互参照
本出願は、参照により本明細書にその全体が組み込まれる、2018年9月7日に出願の米国特許仮出願第62/728,174号の利益を主張する。
【背景技術】
【0002】
自己免疫性疾患では、ヒトの自身の免疫系は、人体の特定の部分を誤って攻撃する。T細胞依存性自己免疫性疾患の例には、以下のものが含まれる:真性糖尿病I型(免疫系が膵臓のベータ細胞を攻撃する);関節リウマチ(免疫系が関節の滑膜を攻撃する);多発性硬化症(免疫系が中枢神経系を攻撃する);多発性筋炎(免疫系がある特定の筋肉を攻撃する);ループス腎炎(免疫系が腎臓の糸球体を攻撃する);及びラスムッセン脳炎(免疫系が脳の一部を攻撃する)。
【0003】
別の分野では、腫瘍に200kHzの交流電場を印加することによって腫瘍(例えば、神経膠芽腫)を治療できることが立証されている。これは米国特許第7,016,725号及び米国特許第7,565,205号に記載され、そのそれぞれが参照により本明細書にその全体が組み込まれる。腫瘍の治療との関連で、これらの交流電場は「腫瘍治療電場」又は「TTField」と呼ばれる。TTFieldは、Novocure(商標)によって作製されるOptune(登録商標)と呼ばれる装着携帯型の装置を使用して送達される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】米国特許第7,016,725号
【特許文献2】米国特許第7,565,205号
【特許文献3】米国特許出願公開第2018/0001075号
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Evaluating the In-Vitro Effects of Tumor Treating Fields on T Cell Responses、G. Diamantら、Proceedings of the AACR、58巻、Abstract #617、2017年4月
【0006】
本発明の一態様は、対象の体の標的領域における自己免疫性疾患による障害を予防又は最小化する第1の方法に関する。第1の方法は、複数の電極間におけるAC電圧の印加が、標的領域の自己免疫性疾患によって攻撃されている組織を通して交流電場をかけるように、標的領域に対して配置される対象の体内又は体表に複数の電極を配置する工程と;組織を通して交流電場が或る時間の間かけられるように、複数の電極間にその時間の間AC電圧を印加する工程とを含む。交流電場は、その時間の間、組織にかけられるとき、自己免疫性疾患によって引き起こされる障害を低減する程度まで、組織中のT細胞の増殖を阻害するような周波数及び電場強度を有する。
【0007】
第1の方法の一部の場合では、複数の電極は、攻撃されている組織に関連する少なくとも1つの流入領域リンパ節に交流電場がかけられるように対象の体に対して同様に配置される。
【0008】
第1の方法の一部の場合では、自己免疫性疾患は1型糖尿病であり、複数の電極は、膵臓に交流電場がかけられるように対象の体に対して配置される。これらの場合の一部では、複数の電極は、少なくとも1つの膵臓の流入領域リンパ節に交流電場がかけられるように対象の対に関して同様に配置される。
【0009】
第1の方法の一部の場合では、自己免疫性疾患は多発性硬化症であり、複数の電極は、対象の中枢神経系の少なくとも1つの病変に交流電場がかけられるように、対象の体に対して配置される。
【0010】
第1の方法の一部の場合では、自己免疫性疾患は多発性筋炎であり、複数の電極は、対象の少なくとも1つの筋肉に交流電場がかけられるように対象の体に対して配置される。これらの場合の一部では、複数の電極は、少なくとも1つの筋肉に関連する少なくとも1つの流入領域リンパ節に交流電場がかけられるように対象の体に対して同様に配置される。
【0011】
第1の方法の一部の場合では、自己免疫性疾患は関節リウマチであり、複数の電極は、対象の少なくとも1つの関節に交流電場がかけられるように対象の体に対して配置される。これらの場合の一部では、複数の電極は、少なくとも1つの関節に関連する少なくとも1つの流入領域リンパ節に交流電場がかけられるように対象の体に対して同様に配置される。
【0012】
第1の方法の一部の場合では、自己免疫性疾患はラスムッセン脳炎であり、複数の電極は、対象の脳の罹患半球に交流電場がかけられるように対象の体に対して配置される。
【0013】
第1の方法の一部の場合では、自己免疫性疾患はループス腎炎であり、複数の電極は、対象の少なくとも1つの腎臓に交流電場がかけられるように対象の体に対して配置される。これらの場合の一部では、複数の電極は、少なくとも1つの腎臓に関連する少なくとも1つの流入領域リンパ節に交流電場がかけられるように対象の体に対して同様に配置される。
【0014】
第1の方法の一部の場合では、配置する工程は、対象の体内又は体表に電極の第1組を配置する工程と、対象の体内又は体表に電極の第2組を配置する工程とを含む。電極の第1組は、第1組の電極間におけるAC電圧の印加が、標的領域の自己免疫性疾患によって攻撃されている組織を通して第1の配向で交流電場をかけるように、標的領域に対して配置される。電極の第2組は、第2組の電極間におけるAC電圧の印加が、組織を通して第2の配向で交流電場をかけるように、標的領域に対して配置される。第1の配向及び第2の配向は異なる。印加する工程は、(a)第1の配向による交流電場が組織を通してかけられるように、第1組の電極間に第1のAC電圧を印加する工程と、(b)第2の配向による交流電場が組織を通してかけられるように、第2組の電極間に第2のAC電圧を印加する工程とを交互に繰り返すことを含む。第1の配向による交流電場は、第1の配向による交流電場が組織にかけられるとき、第1の配向による交流電場が組織中のT細胞の増殖を阻害するような周波数及び電場強度を有する。第2の配向による交流電場は、第2の配向による交流電場が組織にかけられるとき、第2の配向による交流電場が組織中のT細胞の増殖を阻害するような周波数及び電場強度を有する。組織中のT細胞の増殖の阻害は、自己免疫性疾患によって引き起こされる障害を低減する。
【0015】
必要に応じて、前の段落に記載される第1の方法の場合では、電極の第1及び第2組は、攻撃されている組織に関連する少なくとも1つの流入領域リンパ節に第1及び第2の配向による交流電場が同様にかけられるように対象の体に対して同様に配置することができる。必要に応じて、前の段落に記載される第1の方法の場合では、第1の配向は、第2の配向から少なくとも60°オフセットされる。
【0016】
本発明の別の態様は、自己免疫性疾患によって攻撃されている組織で自己免疫性疾患による障害を予防又は最小化する第2の方法に関する。第2の方法は、複数の電極間におけるAC電圧の印加が、少なくとも1つの流入領域リンパ節を通して交流電場をかけるように、攻撃されている組織に関連する少なくとも1つの流入領域リンパ節に対して配置される対象の体内又は体表に複数の電極を配置する工程と;交流電場が少なくとも1つの流入領域リンパ節を通して或る時間の間かけられるように、複数の電極間にその時間の間AC電圧を印加する工程とを含む。交流電場は、その時間の間少なくとも1つの流入領域リンパ節にかけられるとき、自己免疫性疾患によって引き起こされる障害を低減する程度まで、少なくとも1つの流入領域リンパ節中のT細胞の増殖を阻害するような周波数及び電場強度を有する。
【0017】
第2の方法の一部の場合では、配置する工程は、対象の体内又は体表に電極の第1組を配置する工程と、対象の体内又は体表に電極の第2組を配置する工程とを含む。電極の第1組が、第1組の電極間におけるAC電圧の印加が、少なくとも1つの流入領域リンパ節を通して第1の配向で交流電場をかけるように、攻撃されている組織に関連する少なくとも1つの流入領域リンパ節に関して配置され、電極の第2組が、第2組の電極間におけるAC電圧の印加が、少なくとも1つの流入領域リンパ節を通して第2の配向で交流電場がかけられるように、少なくとも1つの流入領域リンパ節に関して配置される。第1の配向及び第2の配向は異なる。印加する工程は、(a)第1の配向による交流電場が少なくとも1つの流入領域リンパ節を通してかけられるように、第1組の電極間に第1のAC電圧を印加する工程と、(b)第2の配向による交流電場が少なくとも1つの流入領域リンパ節を通してかけられるように、第2組の電極間に第2のAC電圧を印加する工程とを交互に繰り返すことを含む。第1の配向による交流電場は、第1の配向による交流電場が少なくとも1つの流入領域リンパ節にかけられるとき、第1の配向による交流電場が少なくとも1つの流入領域リンパ節中のT細胞の増殖を阻害するような周波数及び電場強度を有する。第2の配向による交流電場は、第2の配向による交流電場が少なくとも1つの流入領域リンパ節にかけられるとき、第2の配向による交流電場が少なくとも1つの流入領域リンパ節中のT細胞の増殖を阻害するような周波数及び電場強度を有する。少なくとも1つの流入領域リンパ節中のT細胞の増殖の阻害は、自己免疫性疾患によって引き起こされる障害を低減する。
【0018】
必要に応じて、前の段落に記載される第2の方法の場合では、第1の配向は、第2の配向から少なくとも60°オフセットされる。
【0019】
必要に応じて、上記の第1又は第2の方法の場合のいずれでも、複数の電極の各々は、対象の体に容量結合している。必要に応じて、上記の第1又は第2の方法の場合のいずれでも、配置する工程及び印加する工程は、自己免疫性疾患の急性期が開始していると判定された後に実行される。
【0020】
必要に応じて、上記の第1又は第2の方法の場合のいずれも、自己免疫性疾患を治療有効な薬物レジメンで治療することを更に含む。
【0021】
必要に応じて、上記の第1又は第2の方法の場合のいずれでも、交流電場は、約200kHzの周波数を有する。必要に応じて、上記の第1又は第2の方法の場合のいずれでも、交流電場は、50から500kHzの間の周波数を有する。必要に応じて、上記の第1又は第2の方法の場合のいずれでも、交流電場は、1から5V/cm RMSの間の電場強度を有する。必要に応じて、上記の第1又は第2の方法の場合のいずれでも、組織は腫瘍を含有しない。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】自己免疫性疾患によって引き起こされる脳組織への障害を最小化するために使用される、ヒトの脳の組織に交流電場を印加するためのシステムの概略図である。
【0023】
付随図を参照して様々な実施形態が以下に詳細に記載され、ここで、類似の参照数字は類似の要素を表す。
【発明を実施するための形態】
【0024】
下記の実施形態では、腫瘍を治療する代わりに自己免疫性疾患を治療するために、腫瘍をTTFieldで治療するためのOptune(登録商標)システムに類似したシステムが使用される。神経膠芽腫を治療するためのOptune(登録商標)システムの使用は関連分野の当業者によく理解されているが、完全性のためにそれをここで簡潔に記載する。容量結合した電極の4つのアレイ(「トランスデューサアレイ」とも呼ばれる)が、対象の剃られた頭部に配置される(例えば、前部に1つ、後部に1つ、右側に1つ、左側に1つ)。AC電圧発生機は、前部/後部の対の電極アレイの間に200kHzのAC電圧を1秒間印加し、次に右/左の対の電極アレイの間に同じ周波数のAC電圧を1秒間印加し、この二段階シーケンスを治療の期間繰り返す。これは、対象の脳を通して第1及び第2の配向でTTFieldを交互に誘導する。第1の配向及び第2の方向がかなり(例えば、少なくとも60°又は少なくとも80°)オフセットされるように、電極アレイは配置される。
【0025】
体の免疫系のT細胞は、腫瘍との闘いで非常に重要な役割をすることができる。これを考慮して、TTFieldがT細胞の作動を妨害するかどうかを確認するための研究を実行した。1つのそのような研究は、以下のように結論づけた:「多機能T細胞の存在は有効な抗腫瘍応答と関連するので、活性化T細胞の単細胞レベルの多機能性分析を実行した。分析は、TTField条件の下で、非増殖細胞が免疫機能の全ての他の組合せを保持したことを実証した。TTFieldは、非活性化T細胞の生存に微かな効果を有することが見出された。活性化細胞では、増殖しようとしなかった細胞に中程度の効果があったが、増殖した細胞の生存率をTTFieldは相当低減した。これらの知見は、ヘルパー及び細胞障害性T細胞の両方に当てはまった。」Evaluating the In-Vitro Effects of Tumor Treating Fields on T Cell Responses、G. Diamantら、Proceedings of the AACR、58巻、Abstract #617、2017年4月。
【0026】
腫瘍の治療の場面では、腫瘍細胞を攻撃するためにより少ないT細胞が有効であるので、T細胞の増殖を低減することは欠点である。しかし、自己免疫性疾患の治療の場面では、この全く同じ欠点は有益性に有利に転換される。より具体的には、本出願は、人体への免疫系の攻撃における主要な当事者であるT細胞の増殖を阻害するために交流電場(「AEF」)を使用することによって、自己免疫性疾患をどのように治療することができるかについて説明する。AEFはT細胞の増殖を阻害することができるので、T細胞が自己免疫性疾患の場面で人体に加える障害をAEFは予防又は低減することができ、そのことは疾患の進行を減速することができる。
【0027】
更に、多くの自己免疫性疾患は、対象の体内で免疫系が組織を攻撃する明確な段階を有する。これらの自己免疫性疾患のために、AEFの印加は、免疫系が関連する組織を活発に攻撃する時間的間隔と一致するようにタイミングを計ることができる。多くの好ましい実施形態では、電極は、免疫系によって攻撃されている組織で電場を最大にするように配置される。本明細書に記載される概念は、下で個々に特定される疾患を非限定的に含む、多種多様の自己免疫性疾患に適用可能である。
【0028】
1型糖尿病では、免疫系は、病期1期(対象はなお正常血糖である)及び病期2期(機能的ベータ細胞質量の減少から異常血糖)の膵臓のベータ細胞に損傷を与えるので、疾患の進行を減速させるために疾患のそれらの病期の間に関連する解剖学的組織にAEFを印加すべきである。しかし、1型糖尿病が病期3期に進行した後は、対象のベータ細胞は修復できないほど既に障害を受けているので、治療を続ける意味はない。免疫系が膵臓を攻撃しているので、電極の最良の配置は、一対の電極を対象の体の膵臓の前後に及び/又は膵臓の流入領域リンパ節に置き、第2の対の電極を膵臓及び/又は膵臓の流入領域リンパ節に対応する高さの対象の体の側に置くことである。
【0029】
多発性硬化症(MS)では、免疫系は中枢神経系の有髄軸索を攻撃する。この疾患では、疾患の進行を減速させるために、二次性の進行性MS、原発性の進行性MS、再発寛解型MS又は進行性の再発性MSと診断された対象の関連する解剖学的組織にAEFを印加すべきである。電極の配置に関しては、中枢神経系全体にAEFを印加することは非実用的であるので、MRIを使用してCNS中の病変を検出することができ、病変が検出された領域だけにAEFをかけることができる。或いは、脳病変の形成を防止する予防的対策として、AEFを対象の頭皮に連続的に印加することができる。
【0030】
多発性筋炎(PM)では、免疫系は、ヒトの筋肉、特に臀部、腿、上腕、肩、頸部及び背中の上部分の筋肉を攻撃する。この疾患では、疾患の進行を減速させるために、上記の領域及び/又は関連した流入領域リンパ節にAEFを印加すべきである。この疾患のために、電極は、上記の体部分に沿って近位から遠位の方向に走るストリップ形状の領域に沿って配置することができ、例えば、一対の電極は関連する体部分の前後に配置され、第2の対の電極は関連する体部分の右側及び左側に配置される。
【0031】
関節リウマチ(RA)では、免疫系は、ヒトの関節(例えば膝、臀部、肩、肘、手首、足首等)を攻撃する。この疾患では、疾患の進行を減速させるために、多周期的又は進行性RAと診断された対象において上記の領域及び/又は関連した流入領域リンパ節にAEFを印加すべきである。電極は、活動的な疾患の間に、及び多周期的RAの寛解期間中の予防的対策として関節の近くに配置されるべきである。AEFをある特定の関節(例えば膝、肘及び手首)に印加するために、参照により本明細書にその全体が組み込まれる米国特許出願公開第2018/0001075号に開示される電極配置構成を使用することができることに留意されたい。
【0032】
ラスムッセン脳炎(RE)では、免疫系は、ヒトの脳の一半球を攻撃する。この疾患は、3つのW病期:前駆期、急性期及び残遺期(residual stage)を通して一般的に進行する。この疾患では、疾患の進行を減速させるために、REの急性期テージと診断された対象の脳の罹患半球にAEFを印加すべきである。疾患が残遺期に進行した後は、治療を中止してもよい。罹患半球での電場を最大にするために、電極は対象の頭皮に配置すべきである。神経膠芽腫の場面で電極の最適な配置を判定するための手法の多くを、REの場面で使用することができる。
【0033】
ループス腎炎では、免疫系はヒトの腎臓を攻撃する。この疾患のための電極の最良の配置は、一対の電極を対象の体の腎臓の前後に及び/又は関連した流入領域リンパ節に置き、第2の対の電極を腎臓及び/又は関連した流入領域リンパ節に対応する高さの対象の体の側に置くことである。
【0034】
上記の疾患のいずれに関しても、対象の体の侵された部分をかなりの期間AEFで治療することが好ましい(例えば、少なくとも75%の期間、それは1日につき少なくとも18時間にあたる)。
【0035】
上で特定される疾患のいくつかを含む多くの自己免疫性疾患は、関連する流入領域リンパ節を有する体の部分(例えば、膵臓、腎臓等)に影響を及ぼす。ほとんどのT細胞増殖は流入領域リンパ節で起こるので、AEFを使用するこれらの自己免疫性疾患の治療は、(a)AEFを関連した体部分だけ(例えば、膵臓、腎臓等)に印加すること、(b)AEFを関連した1つ又は複数の流入領域リンパ節だけに印加すること;又は(c)AEFを関連した体部分及び関連した1つ又は複数の流入領域リンパ節の両方に印加することのいずれかで達成することができる。どのリンパ節が関連した体部分に関連しているかに関する決定は、文献に基づくことができるか(すなわち、体部分と特定のリンパ節の間の関連が医学文献で公知である状況)、又は、画像化(例えば、CT、MRI、超音波等)を使用して各個々の対象に個人化することができる。
【0036】
図1は、自己免疫性疾患(例えば、ラスムッセン脳炎)によって引き起こされる脳組織への障害を最小化するために使用される、ヒトの脳の組織にAEFを印加するためのシステム20の例を表す。システム20は、AC電圧発生機30、頭部の右側及び左側に配置される電極44の第1組、並びに頭部の前後に配置される電極42の第2組を含む。(図1は頭皮40の正面図を表すので、後頭部に配置される電極42はこの図では見られない。)例示される実施形態では、電極42、44の各々は、並列に配線される9つの環状要素を含む。しかし、代わりの実施形態では、任意の所与の自己免疫性疾患のために電極が配置される解剖学的位置によって、異なるいくつかの要素及び/又は異なる形状の要素を使用することができる。
【0037】
このシステムを使用するために、電極44の第1組は、対象の体(すなわち、例示される実施形態における頭部の右側及び左側)に印加される。電極44の第1組は、電極44の間におけるAC電圧の印加が、標的領域(すなわち、例示される実施形態における脳)の自己免疫性疾患によって攻撃されている組織を通して第1の配向(すなわち、例示される実施形態で右から左)で交流電場をかけるように、標的領域に対して配置される。電極42の第2組も、対象の体(すなわち、例示される実施形態における頭部の前部及び後部)に印加される。電極の第2組は、電極42の間におけるAC電圧の印加が、組織(すなわち、例示される実施形態で前部から後部の)を通して第2の配向で交流電場をかけるように、標的領域に対して配置される。第1の配向及び第2の配向は異なる(例示される実施形態ではおおよそ直角をなす)。
【0038】
電極42、44の第1及び第2組を対象の体に貼り付けた後、AC電圧発生機30は以下の工程を交互に繰り返す:(a)第1の配向による交流電場が組織を通してかけられるように、第1組の電極44の間に第1のAC電圧を印加する工程、及び(b)第2の配向による交流電場が組織を通してかけられるように、電極42の第2組の間に第2のAC電圧を印加する工程。第1の配向による交流電場は、第1の配向による交流電場が組織にかけられるとき、第1の配向による交流電場が組織中のT細胞の増殖を阻害するような周波数及び電場強度を有する。第2の配向による交流電場は、第2の配向による交流電場が組織にかけられるとき、第2の配向による交流電場が組織中のT細胞の増殖を阻害するような周波数及び電場強度を有する。組織中のT細胞の増殖の阻害は、自己免疫性疾患によって引き起こされる障害を低減する。
【0039】
一部の実施形態では、全ての電極は対象の体に配置される(図1に表されるように)。他の実施形態では、全ての電極は、対象の体内に埋め込むことができる(例えば、対象の皮膚の直ぐ下又は治療される臓器の近くに)。他の実施形態では、電極の一部は対象の皮膚に配置され、残りの電極は対象の体内に埋め込まれる。
【0040】
前述のように、T細胞の増殖を阻害することによって自己免疫性疾患を治療するために、神経膠芽腫を治療するためにOptune(登録商標)システムで使用されるのと同じ周波数(すなわち、200kHz)を使用することもできる。しかし、代わりの実施形態では、異なる周波数を使用することができる。例えば、自己免疫性疾患を治療するために使用されるAEFの周波数は、100から300kHzの間、50から500kHzの間、又は25kHzから1MHzの間であってよい。各個々の自己免疫性疾患のために、最適な周波数を実験的に決定することができる。好ましくは、選択された周波数のAEFは対象の体の部分を有害に加熱しないことを確実にするように注意する。
【0041】
AEFの電場強度は、0.2から1V/cm RMSの間、1から5V/cm RMSの間、又は5から25V/cm RMSの間にあってよい。各個々の自己免疫性疾患のために、最適な電場強度を実験的に決定することができる。ここで再び、好ましくは、使用される電場強度のAEFは対象の体の部分を有害に加熱しないことを確実にするように注意する。
【0042】
Optune(登録商標)システムで実行されるように、AEFの配向は、2つの異なるセットの電極間にAC電圧を印加することによって2つの異なる配向の間で1秒間隔で切り替えることができる。しかし、代わりの実施形態では、AEFの配向は、より速い速度(例えば、1から1000msの間の間隔)で、又はより遅い速度(例えば、1から100秒の間の間隔)で切り替えることができる。他の代わりの実施形態では、電極は一対ずつ配列する必要はない。例えば、参照により本明細書に組み込まれる、米国特許第7,565,205号に記載される電極配置を参照する。他の代わりの実施形態では、電場の配向は全く切り替える必要はなく、その場合、単一の対の電極だけが必要とされる。
【0043】
一部の実施形態では、電極は、対象の体に容量結合している(例えば、導電プレートを含み、導電プレートと対象の体の間に配置される誘電層も有する電極を使用することによって)。しかし、代わりの実施形態では、誘電層を省略することができ、その場合、導電プレートは対象の体と直接接触するだろう。
【0044】
必要に応じて、熱センサー(示さず)が電極に含まれてもよく、AC電圧発生機30は、電極で感知した温度が高くなりすぎた場合に電極に印加されるAC電圧の振幅を低下させるように構成することができる。
【0045】
一部の実施形態では、追加の電極を1対又は複数対加え、その順序に含めてもよい。他の実施形態では、電場を単一配向で標的領域にかけるだけであり、その場合、上記の交互順序は、一組の電極(例えば、標的領域の反対側に配置される)に印加される連続的ACシグナルで置き換えてもよい。
【0046】
図1はAEFが脳に印加される実施形態を表すが、代わりの実施形態では、前述のように、AEFは対象の体の異なる部分に印加されてもよいことに留意されたい。
【0047】
腫瘍を含有しない組織(例えば、REをもつ第1のヒトの脳)で自己免疫性疾患を治療するために、AEFを使用することができる。或いは、AEFは、腫瘍を含有する組織(例えば、RE及び神経膠芽腫の両方をもつ異なるヒトの脳)で自己免疫性疾患を治療するために使用することができる。
【0048】
最後に、AEFをベースとした自己免疫性療法は、必要に応じて、それぞれの疾患を治療するために使用される従来の薬物と組み合わせることができる。
【0049】
本発明はある特定の実施形態を参照して開示されたが、添付の請求項で規定される本発明の領域及び範囲を逸脱せずに、記載された実施形態への多くの修正、改変及び変更が可能である。したがって、本発明は記載される実施形態に限定されるものでなく、それは以下の請求項及びその同等物の言語によって規定される完全な範囲を有するものである。
【符号の説明】
【0050】
20 システム
30 AC電圧発生機
40 頭皮
42 電極
44 電極
図1
【外国語明細書】