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特開2024-95850GPR30アゴニスト化合物G-1を含む発育毛剤又は脱毛抑制剤
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  • 特開-GPR30アゴニスト化合物G-1を含む発育毛剤又は脱毛抑制剤 図1
  • 特開-GPR30アゴニスト化合物G-1を含む発育毛剤又は脱毛抑制剤 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024095850
(43)【公開日】2024-07-11
(54)【発明の名称】GPR30アゴニスト化合物G-1を含む発育毛剤又は脱毛抑制剤
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/473 20060101AFI20240704BHJP
   A61P 17/14 20060101ALI20240704BHJP
【FI】
A61K31/473
A61P17/14
【審査請求】未請求
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022212793
(22)【出願日】2022-12-29
(71)【出願人】
【識別番号】000002819
【氏名又は名称】大正製薬株式会社
(72)【発明者】
【氏名】木村 郁夫
(72)【発明者】
【氏名】大植 隆司
(72)【発明者】
【氏名】新井 良平
【テーマコード(参考)】
4C086
【Fターム(参考)】
4C086AA01
4C086AA02
4C086MA01
4C086MA04
4C086NA14
4C086ZA89
(57)【要約】      (修正有)
【課題】優れた発育毛または脱毛抑制効果を有する医薬品、医薬部外品、化粧品、試薬等の提供。
【解決手段】細胞膜受容体であるGPR30は、毛包特に毛乳頭細胞に分布することを明らかにし、さらにGPR30選択的アゴニストである(±)-1-[(3aR,4S,9bS)-4-(6-ブロモ-1,3-ベンゾジオキソール-5-イル)-3a,4,5,9b-テトラヒドロ-3H-シクロペンタ[c]キノリン-8-イル]-エタノンは、発毛を促進することを見出した。すなわち、本発明は、下記式[1]で表される化合物若しくはその医薬上許容される塩、又はそれらの溶媒和物を含むことを特徴とする発育毛剤または脱毛抑制剤、である。

【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式[1]
【化1】
で表される化合物若しくはその医薬上許容される塩、又はそれらの溶媒和物を含むことを特徴とする発育毛剤又は脱毛抑制剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、(±)-1-[(3aR,4S,9bS)-4-(6-ブロモ-1,3-ベンゾジオキソール-5-イル)-3a,4,5,9b-テトラヒドロ-3H-シクロペンタ[c]キノリン-8-イル]-エタノンを含む発育毛剤または脱毛抑制剤に関する。
【背景技術】
【0002】
脱毛症には、男性型脱毛症、女性型脱毛症、脂漏性脱毛症、老人性脱毛症、びまん性脱毛症、円形脱毛症、休止期脱毛症、感染症に伴う脱毛、明確な病名のつかない薄毛など、様々な種類が存在する。その多くは生死に関わるものではないが、特に頭髪や睫毛、眉毛など、外見上目立つ部位に存在する体毛の有無は、見た目の印象を大きく左右し、患者のQOLに顕著な影響を及ぼす。
これら脱毛症を改善・予防する方法として、医薬品・医薬部外品・化粧品の各種発育毛剤・脱毛抑制剤が存在するが、その効果は必ずしも十分とは言えず、さらに優れた効果を有するものが求められている。
女性では、閉経後、産後、更年期などのタイミングで脱毛が発生しやすいとされる。これらは女性ホルモンが著しく減少するタイミングであることから、女性ホルモン特にエストロゲン(卵胞ホルモン)が減少することが脱毛につながると信じられ、エストラジオールをはじめとするエストロゲンを補充することが脱毛症改善に有効と安易に考えられがちである。そのためエストラジオールやその誘導体は育毛成分として利用されている(特許文献1,2)。
しかし、マウスにエストラジオールを投与すると、発毛を促進するどころか、性別に関わらず著しく発毛を抑制することが明らかになっている。(非特許文献1、2、3、4)。また、エストロゲンの主要産生臓器である卵巣を摘出した影響について、週齢によって発毛への影響が異なるなど、2022年現在でもその影響は解明されていない(非特許文献5)。ヒトに対しても女性ホルモンを毛包に作用させた報告は複数あるが、その影響に対して統一見解がなく、毛包成長を抑制する、促進するの両面の報告が混在している(非特許文献6,7)。
このように女性ホルモンの毛包への作用は、実は未だ明確になっていない。先述した女性において脱毛が生じやすいタイミングでは、エストロゲン以外に、プロゲステロン、オキシトシン、リラキシン、甲状腺ホルモン、テストステロンなど数多くのホルモンが変動し、これらの上下が総合的に毛の成長に影響すると考えられるため、これらの現象においてエストロゲンの影響を他のホルモンから切り離して考察することは困難だとされる(非特許文献8)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】H S Oh et al. Proc Natl Acad Sci U S A.1996;93(22):12525-30.
【非特許文献2】S Chanda et al. Am J Physiol Endocrinol Metab.2000;278(2):E202-10.
【非特許文献3】U Ohnemus et al. Endocrinology.2005;146(3):1214-25.
【非特許文献4】S Moverare et al. J Invest Dermatol.2002;119(5):1053-8.
【非特許文献5】S Togo et al. Med Mol Morphol.2022;55(3):210-26.
【非特許文献6】S Kondo et al. Arch Dermatol Res.1990;282(7):442-5.
【非特許文献7】F Conrad et al. J Invest Dermatol.2004;122(3):840-2.
【非特許文献8】U Ohnemus et al. Endocr Rev.2006;27(6):677-706.
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2021-31438号公報
【特許文献2】特開2009-256267号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、優れた発育毛作用を示す発育毛剤・脱毛抑制剤を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
発明者らは、エストロゲンの毛包への作用の複雑性は、受容体ごとに異なった方向性の反応を示すことに起因すると考えた。
近年、性ホルモンの細胞膜受容体が明らかになってきた。エストロゲンの細胞膜受容体にはGタンパク質共役エストロゲン受容体1(G Protein-Coupled Estrogen Receptor 1、G protein-coupled estrogen receptor 30)がある。
【0007】
発明者らは鋭意検討したところ、細胞膜受容体であるGPR30は、毛包特に毛乳頭細胞に分布することを明らかにし、さらにGPR30選択的アゴニストである(±)-1-[(3aR,4S,9bS)-4-(6-ブロモ-1,3-ベンゾジオキソール-5-イル)-3a,4,5,9b-テトラヒドロ-3H-シクロペンタ[c]キノリン-8-イル]-エタノン(後述の式[1]で表される化合物。以下、G-1とも言う)は、発毛を促進することを見出した。つまりGPR30を活性化することによって発育毛効果を発揮することができ、GPR30のアゴニストは発育毛及び脱毛抑制剤として使用できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち本発明は、
(1)下記式[1]
[化1]
【0009】
で表される化合物若しくはその医薬上許容される塩、又はそれらの溶媒和物を含むことを特徴とする発育毛剤又は脱毛抑制剤
である。
【発明の効果】
【0010】
本発明のG-1若しくはその医薬上許容される塩、又はそれらの溶媒和物を含む発育毛剤または脱毛抑制剤は、優れた発毛作用及び脱毛抑制作用を有することにより、各種脱毛症の予防及び改善効果を有する。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1図1は、試験例1における、G-1の発毛促進作用を野生型マウスで評価した結果である。値は各群の発毛スコアの平均値を示す。
図2図2は、試験例2における、G-1の発毛促進作用をGPR30欠損(ノックアウト)マウスで評価した結果である。値は各群の発毛スコアの平均値を示す。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明におけるG-1とは、GPR30 agonist-1とも言われ、Cas No.881639-98-1で表される化合物である。G-1は、ERα/βなどの他の卵胞ホルモン受容体には作用せず、GPR30に選択的に作用して活性化させる。G-1は既知の方法で合成可能であり、市販品として、Cayman Chemical Company等の各種試薬メーカーより購入可能である。また、GPR30への作用を失わない範囲でその医薬的に許容される塩、又はG-1フリー体若しくはその医薬的に許容される塩の溶媒和物を利用しても問題ない。
【0013】
本発明のG-1における医薬的に許容される塩としては、例えば、塩酸、リン酸、硫酸等との鉱酸塩;メタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、p-トルエンスルホン酸、10-カンファースルホン酸等とのスルホン酸塩;アルミニウム、カルシウム、リチウム、マグネシウム、カリウム、ナトリウム、亜鉛等との金属塩;シュウ酸、酒石酸、クエン酸、マレイン酸、コハク酸、酢酸、安息香酸、マンデル酸、アスコルビン酸、乳酸、グルコン酸、リンゴ酸等との有機酸の付加塩が挙げられる。また、本発明の化合物であるG-1又はその医薬的に許容される塩は、エタノールや水など各種溶媒和物としても存在し得る。なお、医薬としての適用性の面から、溶媒和物としては、水和物が好ましい。
【0014】
本発明のG-1は3個の不斉炭素を含む化合物である。本発明化合物は、一方の光学異性体のみであったり、任意の割合の光学異性体の混合物であったりしても良い。
【0015】
本発明により、他のGPR30アゴニストであっても同様の発毛促進・脱毛抑制効果を発揮することが期待できる。ERへの作用が懸念される場合は、ERアンタゴニスト(例えば、フルベストラントなど)を併用することで、GPR30に特異的に活性化させ、目的の効果を発揮することができる。
【0016】
さらに、他のGPR30アゴニストは、公知の方法で見出すことが可能であり、これにより発育毛候補物質を見出すことが可能である。例えば、HEK293やMCF-7などの各種細胞にGPR30の遺伝子を導入しGPR30安定発現もしくは一過性発現細胞を作製した上で、又は市販のGPR30強制発現細胞を使用して、これら細胞に各種物質を接触させた際のGPR30シグナルの活性化を見ることで、新規のGPR30アゴニストをスクリーニングすることができる。このスクリーニングで見出した物質は発育毛候補物質として活用することが可能である。GPR30シグナルの活性化は、既知の手法(セカンドメッセンジャーとしてのcAMPやカルシウムの増減、さらに下流のErkのリン酸化など)を用いて検出可能である。
【0017】
本発明中のG-1の投与量は、GPR30を少しでも活性化する範囲であれば特に制限されるものではないが、0.0001~10質量%が好ましく、より好ましくは0.001~5質量%、さらに好ましくは0.01~0.5質量%である。
【0018】
本発明の発育毛剤又は脱毛抑制剤は、医薬品、医薬部外品、化粧品、試薬等として利用可能である。投与形態としては、特に限定されるものではないが、外用や内服が挙げられ、好ましくは頭皮を含む皮膚及び/又は毛髪に適用する皮膚外用である。本発明を皮膚外用で適用する場合の剤形としては、例えば、ローション剤、液剤、クリーム剤、軟膏剤、ゲル剤、スプレー剤、シャンプー、コンディショナー、石鹸等が挙げられ、内服で適用する場合の剤形としては、錠剤、粉末剤、散剤、顆粒剤、液剤、カプセル剤、ドライシロップ剤、ゼリー剤等が挙げられる。
【0019】
また、下記実施例の通り正常マウスでの作用が確認できており、女性ホルモン異常に起因すると考えられる脱毛以外の各種脱毛症、薄毛への適用も可能である。
【実施例0020】
以下に実施例および試験例を挙げ、本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は実施例に限定されない。
(試験例1)G-1の野生型マウスにおける発毛試験
C57BL/6マウス(雌、7週齢)を麻酔下にて、シェービングフォームを馴染ませた上で、背部体毛をカミソリで剃毛した。その3日後より基剤又は基剤に被験物質であるG-1を目的の投与量になるように溶解させた被験液を、1日1回100μLずつ各動物の剃毛部に毎日投与(塗布)した。基剤としては、2%ジメチルスルホキシドを含むエタノールを用いた。基剤群を比較例として、投与開始日から表1に示したスコアで発毛状態を判定し、全個体がスコア5に達した時点で評価を終了した。
【0021】
【表1】
【0022】
(試験例2)G-1のGPR30欠損マウスにおける発毛試験
C57BL/6マウスに遺伝子改変操作を施すことにより、GPR30を欠損させたマウスを作製した。本マウス(雌、7週齢)を麻酔下にて、シェービングフォームを馴染ませた上で、背部体毛をカミソリで剃毛した。その3日後より基剤又は基剤に被験物質であるG-1を目的の投与量になるように溶解させた被験液を、1日1回100μLずつ各動物の剃毛部に毎日投与(塗布)した。基剤としては、2%ジメチルスルホキシドを含むエタノールを用いた。基剤群を比較例として、投与開始日から表1に示したスコアで発毛状態を判定し、全個体がスコア5に達した時点で評価を終了した。
【0023】
<試験結果1>
試験例1における、各群の発毛スコアの推移を図1に示した。横軸の経過日数は、投与開始日を1日目とした。G-1投与群は常に溶媒群以上のスコアを示し、また6、7、9及び11日目の時点においては、溶媒群と比較して有意に高いスコアを示した(*:P<0.05、Wilcoxon検定)。つまり、G-1投与による発毛の促進が確認された。
【0024】
<試験結果2>
試験例2における、各群の発毛スコアの推移を図2に示した。横軸の経過日数は、投与開始日を1日目とした。試験結果1とは異なり、G-1投与群が溶媒群以上のスコアを示したのはごく一部の時点のみで、また両群のスコアに有意な差が検出されたポイントはなく(Wilcoxon検定)、発毛が促進されている様子は見られなかった。つまり、GPR30の非存在下では、G-1の発毛促進作用は消失した。
【0025】
以上のことから、G-1の発毛促進作用の発揮にはGPR30の存在が必要であり、G-1は確かにGPR30を活性化することによって発育毛作用を発揮していること、GPR30を活性化する物質は発育毛効果を発揮できることが示された。
【産業上の利用可能性】
【0026】
本発明は、発育毛剤及び脱毛抑制剤を目的とする、医薬品、医薬部外品、化粧品、試薬等として利用可能である。
図1
図2