(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024095863
(43)【公開日】2024-07-11
(54)【発明の名称】ボールシートおよびボールバルブ
(51)【国際特許分類】
F16K 5/06 20060101AFI20240704BHJP
F16K 27/06 20060101ALI20240704BHJP
【FI】
F16K5/06 A
F16K27/06 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022212825
(22)【出願日】2022-12-29
(71)【出願人】
【識別番号】390002381
【氏名又は名称】株式会社キッツ
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】弁理士法人 HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】船渡 正澄
【テーマコード(参考)】
3H051
3H054
【Fターム(参考)】
3H051AA07
3H051BB10
3H051CC16
3H054AA03
3H054BB02
3H054CB02
(57)【要約】
【課題】ボールシートを極低温流体に使用した場合であっても、シートリングのずれおよび変形を抑制でき、使用環境に関わらずボールシートにより安定したシール性を発現可能な技術を提供する。
【解決手段】ボールシート(1)は、環状のシートリング(10)、外周側のアウターリング(20)、および内周側のインナーリング(30)によって構成される。インナーリング(30)の径方向における断面の形状は、径方向の内側に向けて凸であり、かつインナーリング(30)の幅が漸次減少する形状である。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ボールバルブにおいてボール弁体と、シートリテーナとに挟まれて両者間をシールする環状のボールシートであって、
環状のシートリングと、
前記シートリングの外周側で前記シートリングに接する環状のアウターリングと、
前記シートリングの内周側で前記シートリングに接する環状のインナーリングと、を有し、
前記インナーリングの径方向における断面の形状は、径方向の内側に向けて凸となる形状であって、前記インナーリングの幅が径方向の内側から前記シートリングに向けて漸次拡大する形状である、
ボールシート。
【請求項2】
前記インナーリングは、軸方向の一方側に第一インナーテーパ面と、軸方向の他方側に第二インナーテーパ面と、を有し、
両テーパ面間の距離は径方向の内側から前記シートリングに向けて漸次拡大する、請求項1に記載のボールシート。
【請求項3】
前記第一インナーテーパ面の径方向に対する傾斜角は、前記第二インナーテーパ面の径方向に対する傾斜角に比べて大きい、請求項2に記載のボールシート。
【請求項4】
前記シートリングは、軸方向の一方側にボール弁体に当接する第一シートテーパ面と、軸方向の他方側にシートリテーナに当接する第二シートテーパ面と、を有し、
前記ボールシートの径方向における断面において、前記第一インナーテーパ面および前記第二インナーテーパ面は、それぞれ、前記第一シートテーパ面の延長線と前記第二シートテーパ面の延長線との間に形成されており、かつ、
前記第一インナーテーパ面は、前記シートリングに近いほど前記第一シートテーパ面の延長線に近づくように傾斜し、前記第二インナーテーパ面は、前記シートリングに近いほど前記第二シートテーパ面の延長線に近づくように傾斜している、請求項2に記載のボールシート。
【請求項5】
前記シートリングは、軸方向の一方側にボール弁体に当接する第一シートテーパ面と、軸方向の他方側にシートリテーナに当接する第二シートテーパ面と、を有し、
前記ボールシートの径方向における断面において、前記インナーリングにおける前記のテーパ面の最も前記シートリング側の部分と前記第一シートテーパ面の延長線および前記第二シートテーパ面の延長線との隙間は、前記アウターリングにおける最も前記シートリング側の部分と前記第一シートテーパ面の延長線および前記第二シートテーパ面の延長線との隙間よりも小さい、請求項2に記載のボールシート。
【請求項6】
前記アウターリングは、その径方向における断面における一方側に径方向の内側へ突出するアウター突出部を有し、
前記インナーリングは、その径方向における断面における他方側に径方向の外側へ突出するインナー突出部を有し、
前記シートリングは、その径方向における断面における径方向外側の一方側に前記アウター突出部と係合する外側切り欠き部と、径方向内側の他方側に前記インナー突出部と係合する内側切り欠き部と、を有する、請求項1に記載のボールシート。
【請求項7】
ボール弁体と、シートリテーナと、それらに挟まれて両者間をシールする環状のボールシートと、を有するボールバルブであって、
前記ボールシートが請求項1~6のいずれか一項に記載のボールシートである、ボールバルブ。
【請求項8】
前記ボールシートは、前記シートリング焼失時に、前記インナーリングが前記ボール弁体および前記シートリテーナの両方に接するように構成されている、請求項7に記載のボールバルブ。
【請求項9】
径方向において、前記ボールシートの前記インナーリングにおける最も内側の部分は、前記ボール弁体における径方向の最も内側の部分および前記シートリテーナにおける径方向の最も内側の部分の一方または両方と同じかそれよりも外側に位置する、請求項7に記載のボールバルブ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ボールシートおよびボールバルブに関する。
【背景技術】
【0002】
ボールバルブは大流量の流体の流れの制御に適用されることから、様々な技術分野において、流体の制御の用途で使用されている。ボールバルブでは、流体の流路とボール弁体との間をシールするためにボールシートが使用される。ボールシートは、ボール弁体に当接するシートリングを有するが、補強の観点から、その周方向にさらなるリングを伴うことがある。このようなボールシートには、シートリングとその外周側のアウターリングとによって構成されるボールシートが知られている(例えば、特許文献1参照)。また、上記のボールシートには、シートリングとその外周側のアウターリングとその内周側のバックアップリングとによって構成されるボールシートが知られている(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】国際公開第2021/172457号
【特許文献2】実公平7-49146号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、シートリングは通常、樹脂などの変形可能な材料で構成される。また、前述のアウターリングおよびインナーリングは、シートリングの保護の観点から、金属などの、より高い剛性を有する材料で構成される。そのため、シートリングは他のリングに比べて変形しやすく、例えば熱によって膨縮しやすく、また収縮しやすい。ボールバルブを液化水素などの極低温の流体に使用する場合では、ボールシートは極低温環境に晒され、シートリングは特に内径側に縮径するように変形する。
【0005】
そのため、上述の従来技術では、ボールシートを極低温の流体に適用した場合、シートリングが径方向に収縮し、シートリングにおけるボール弁体またはシートリテーナと当接する部分の位置がずれ、あるいはシートリングの変形のためにバックアップリングが脱落し、所期のシール性が発現されなくなることがある。このように、従来技術では、使用環境に関わらずボールシートに所期のシール性を発現させる観点から検討の余地が残されている。
【0006】
本発明の一態様は、ボールシートを極低温流体に使用した場合であっても、シートリングのずれおよび変形を抑制でき、使用環境に関わらずボールシートにより安定したシール性を発現可能な技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決するために、本発明の一態様に係るボールシートは、ボールバルブにおいてボール弁体と、シートリテーナとに挟まれて両者間をシールする環状のボールシートであって、環状のシートリングと、前記シートリングの外周側で前記シートリングに接する環状のアウターリングと、前記シートリングの内周側で前記シートリングに接する環状のインナーリングと、を有し、前記インナーリングの径方向における断面の形状は、径方向の内側に向けて凸となる形状であって、前記インナーリングの幅が径方向の内側から前記シートリングに向けて漸次拡大する形状である。
【0008】
また、上記の課題を解決するために、本発明の一態様に係るボールバルブは、ボール弁体と、シートリテーナと、それらに挟まれて両者間をシールする環状の上記のボールシートと、を有する。
【発明の効果】
【0009】
本発明の一態様によれば、ボールシートを極低温流体に使用した場合であっても、シートリングのずれおよび変形を抑制でき、使用環境に関わらずボールシートより安定したシール性を発現させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明の実施形態1に係るボールシートであってその軸方向の一方側から見たボールシートを模式的に示す図である。
【
図2】本発明の実施形態1に係るボールシートであってその軸方向の他方側から見たボールシートを模式的に示す図である。
【
図3】本発明の実施形態1に係るボールシートの径方向における断面を模式的に示す図である。
【
図4】本発明の実施形態1に係るボールシートにおけるテーパ面間の関係を説明するための図である。
【
図5】本発明の実施形態1に係るボールバルブの構成を模式的に示す断面図である。
【
図6】
図5のA部を拡大して模式的に示す径方向における断面を斜めから見た図である。
【
図7】
図5のA部を拡大して模式的に示す径方向における断面を正面から見た図である。
【
図8】本発明の実施形態1に係るボールバルブにおいてシートリングが焼失したときの様子を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
〔ボールシート〕
以下、本発明の一実施形態について、詳細に説明する。
図1は、本発明の実施形態1に係るボールシートであってその軸方向の一方側から見たボールシートを模式的に示す図であり、
図2は、本発明の実施形態1に係るボールシートであってその軸方向の他方側から見たボールシートを模式的に示す図である。また、
図3は、本発明の実施形態1に係るボールシートの径方向における断面を模式的に示す図である。ボールシート1は、シートリング10、アウターリング20およびインナーリング30を有している。図中のZ方向は、ボールシート1の径方向であり、Y方向はボールシート1の軸方向である。また、ボールシート1の径方向の任意の仮想線L1とある面に沿う直線とがなす角度のうち鋭角の角度を、その面の傾斜角、とも言う。また、ボールシートについての「断面」は、特に説明がない場合には、径方向における断面を意味する。
【0012】
[シートリング]
シートリング10は、例えばグラファイト製の、あるいはポリクロロトリフロエチレン(PCTFE)および超高分子量ポリエチレン(UHMW-PE)などの樹脂製のリングである。シートリング10は、略矩形の断面形状を有する。シートリング10は、軸方向の一方側に第一シートテーパ面11を有し、軸方向の他方側に第二シートテーパ面12を有する。第一シートテーパ面11は、ボールシート1をボールバルブに適用したときにボール弁体に当接させるために設計された面である。第二シートテーパ面12は、ボールシート1をボールバルブに適用したときにシートリテーナに当接させるために設計された面である。第一シートテーパ面11の傾斜角は、第二シートテーパ面12の傾斜角よりも大きい。
【0013】
また、シートリング10は、径方向外側における一方側に外側切り欠き部13を有し、径方向内側における他方側に内側切り欠き部14を有する。外側切り欠き部13は、径方向に細長な矩形状に切り欠かれている部分である。内側切り欠き部145は、軸方向に細長な矩形状に切り欠かれている部分である。
【0014】
また、シートリング10は、外周面に溝15を有する。溝15は、径方向に細長な矩形状の断面形状を有する。
【0015】
[アウターリング]
アウターリング20は、シートリング10の外周側で前記シートリングに接する環状の部材である。アウターリング20は、例えばステンレス鋼などの金属製である。アウターリング20は、インナーリングに比べて軸方向に細長な略矩形の断面形状を有している。
【0016】
アウターリング20は、その断面における一方側に径方向の内側へ突出するアウター突出部21を有している。アウター突出部21は、軸方向に細長な略矩形状の部分である。
【0017】
また、アウターリング20は、軸方向の一方側の内側に第一アウターテーパ面22を有し、軸方向の他方側の内側に第二アウターテーパ面23を有している。第一アウターテーパ面22の傾斜角は、第二アウターテーパ面23の傾斜角よりも大きい。
【0018】
また、アウターリング20は、内周面に溝24を有する。溝24は、シートリングの溝15に対向しており、軸方向に細長な矩形状の断面形状を有する。すなわち、溝24は、溝15よりも浅い。
【0019】
また、アウターリング20における外周面と両側面との角のそれぞれが面取りされている。
【0020】
[インナーリング]
インナーリング30は、シートリング10の内周側でシートリング10に接する環状の部材である。インナーリング30は、例えばステンレス鋼などの金属製である。インナーリング30は、径方向の内側に向けて凸となる形状であって、インナーリング30の幅が径方向の内側からシートリング10に向けて漸次拡大する断面形状を有する。たとえば、インナーリング30は、径方向の外側に向けて広がる略三角形状の断面形状を有している。
【0021】
インナーリング30は、軸方向の一方側に第一インナーテーパ面31と、軸方向の他方側に第二インナーテーパ面32と、を有している。軸方向における両テーパ面間の距離は径方向の外側に向けて漸次拡大している。第一インナーテーパ面31の傾斜角は、第二インナーテーパ面32の傾斜角に比べて大きい。
【0022】
また、インナーリング30は、その断面における他方側に径方向の外側へ突出するインナー突出部33を有している。インナー突出部33は、矩形の断面形状を有している。
【0023】
[リング間の係合]
シートリング10の溝15はアウターリング20の溝24に対向し、両溝に跨ってCリング40が配置されている。Cリング40は、例えば金属製である。Cリング40は、周方向の一部を欠く略円環状の部材であり、矩形の断面形状を有している。シートリング10とアウターリング20とは、両者の対向面に設けた溝15、24にCリング40を嵌め込むことで、互いに固定されている。Cリング40は、切り欠き部分がわずかに余分に拡開されており、溝15、24に収容されている状態において、その全体が径方向の外側へ向けて付勢される。そのため、Cリング40は、アウターリング20に向けて付勢されて、その外周面が溝24の底面に接し、その内周面と溝15の底面との間には隙間が形成され得る。インナーリング30とシートリング10とは、このようなCリングによる連結構造とはなっていないが、シートリング10内にインナーリング30がしっかりとはめ込まれた状態である。したがって、両者が容易に離脱やずれを生じることはない。
【0024】
また、アウターリング20のアウター突出部21は、シートリング10の外側切り欠き部13と係合している。また、インナーリング30のインナー突出部33は、シートリングの内側切り欠き部14と係合している。このようにアウターリング20は、外周側における軸方向の一方側でシートリング10と係合し、インナーリング30は、内周側における軸方向の他方側でシートリング10と係合している。
【0025】
[シートリングのテーパ面に対する位置関係]
可燃性の流体を扱うボールバルブにボールシート1を適用する場合では、流路で火災などが生じた場合に、ボールシート1からシートリング10のみが焼失することがある。この場合でもボールシート1がボール弁体に対するシール性を発現すること(ファイアセーフ機能)は、火災によるボールバルブからの流体漏れなどによる被害の拡大を抑制する観点から好適である。このような観点から、ボールシート1は、シートリング10が焼失した場合に、インナーリング30が、ボールバルブにおいてボール弁体およびシートリテーナの両方に接するように構成されている。
【0026】
前述したように、シートリング10の第一シートテーパ面11は、ボール弁体への当たり面であり、シートリング10の第二シートテーパ面12は、シートリテーナへの当たり面である。上記の観点から、ボールシート1の断面におけるこれらの面の延長線とアウターリング20との軸方向における最短距離は、当該延長線とインナーリング30との軸方向における最短距離よりも大きい。図を参照してより詳しく説明する。
【0027】
図4は、本発明の実施形態1に係るボールシートにおけるテーパ面間の関係を説明するための図である。ボールシート1の断面において、第一シートテーパ面11の延長線L2は、アウターリングおよび20インナーリング30のいずれとも交差せず、離れている。同様に、第二シートテーパ面12の延長線L3も、アウターリング20およびインナーリング30のいずれとも交差せず、離れている。
【0028】
図示の通り、同断面において、インナーリング30の第一インナーテーパ面31は、第一シートテーパ面11の延長線L2よりも内側にあり、インナーリング30の第二インナーテーパ面32は、第二シートテーパ面12の延長線L3よりも内側にある。そして、第一インナーテーパ面31は、シートリング10に近いほど第一シートテーパ面11の延長線L2に近づくように傾斜し、第二インナーテーパ面32は、シートリング10に近いほど第二シートテーパ面12の延長線L3に近づくように傾斜している。つまり、第一インナーテーパ面31および第二インナーテーパ面32は、それぞれ第一シートテーパ面11の延長線L2および第二シートテーパ面12の延長線L3よりも傾斜角が大きくなっている。このように、第一インナーテーパ面31と第二インナーテーパ面32との距離は、シートリング10に最も近い位置がもっとも広くなっており、インナーリング30は、この最も広がった面でシートリング10をその内径側で支えている。
【0029】
仮に、シートリング10が焼失される場合では、アウターリング20およびインナーリング30ともに、ボール弁体側またはシートリテーナ側の部分であってシートリング10に最も近い部分が、ボール弁体またはシートリテーナに当たると考えられる。すなわち、アウターリング20であれば、シートリング10焼失時には、第一アウターテーパ面22の径方向内側の端がボール弁体と、第二アウターテーパ面23の径方向内側の端がシートリテーナと、それぞれ当接し得る。インナーリング30であれば、シートリング10の焼失時には、第一インナーテーパ面31の径方向外側の端がボール弁体と、第二インナーテーパ面32の径方向外側の端がシートリテーナと、それぞれ当接し得る。
【0030】
したがって、第一アウターテーパ面22の径方向内側の端と延長線L2との距離G21と、第二アウターテーパ面23の径方向内側の端と延長線L3との距離G22との和が、断面における当たり面の延長線とアウターリング20との軸方向における最短距離d20となる。また、第一インナーテーパ面31の径方向外側の端と延長線L2との距離G31と、第二インナーテーパ面32の径方向外側の端と延長線L3との距離G32との和が、断面における当たり面の延長線とインナーリング30との軸方向における最短距離d30となる。ボールシート1では、最短距離d30は、最短距離d20よりも小さくなるように設計されている。このように、ボールシート1の断面において、インナーリング30におけるテーパ面の最もシートリング10側の部分と第一シートテーパ面11の延長線L2および第二シートテーパ面12の延長線L3との隙間は、アウターリング20における最もシートリング10側の部分と延長線L2および延長線L3との隙間よりも小さくなっている。
【0031】
このようにして、全体として、外周側から内周側に向けて軸方向の長さ(幅)が漸次減少する断面形状を有するボールシート1が構成されている。ボールシート1の断面においても、各リングにおける前述のテーパ面と同様に、軸方向の一方側の輪郭が他方側の輪郭に比べてより大きく傾いている。
【0032】
〔ボールバルブ〕
ボールシート1は、ボールバルブに適用される。
図5は、本発明の実施形態1に係るボールバルブの構成を模式的に示す断面図である。
図6は、
図5のA部を拡大して模式的に示す断面を斜めから見た図であり、
図7は、
図5のA部を拡大して模式的に示す断面を正面から見た図である。
【0033】
ボールバルブ100は、ボール弁体140と、シートリテーナ130と、それらに挟まれて両者間をシールする環状のボールシート1とを有している。以下、ボールバルブ100の構成をさらに説明する。
【0034】
ボールバルブ100は、ボデー110、中蓋部150、ボール弁体140、ステム160およびボンネット170を有している。
【0035】
ボデー110は、下から、弁室部111と、その上に連設される寸胴部112とを有する。弁室部111は、互いに対向する位置に開口する二つの流路開口部120、120を有する。弁室部111には、ボール弁体140が流路開口部120、120同士を連通、遮断するように回転可能に配置されている。また、弁室部111には、各流路開口部側からボール弁体140に密着する環状のボールシート1、1と、各流路開口部側からボールシート1、1に当接し、かつボール弁体140に向けて付勢されているシートリテーナ130、130が収容されている。シートリテーナ130は、その外周側に周設されているシール材130aを有している。シール材130aは、流路開口部120の内周壁面に当接しており、シートリテーナ130と当該内周壁面との間をシールしている。シール材130aは、火災などの発生時にも消失しないよう、耐火性のある材料、例えばグラファイトなどによって形成されている。
【0036】
寸胴部112は、鉛直方向(Z方向)に管軸を有する円管状の構造体である。寸胴部112は、その一端(図中の下端)側において、開口部を介して弁室部111に連設されている。
【0037】
中蓋部150は、弁室部111における寸胴部112側の開口部を塞いで弁室部111を寸胴部112と区切っている。
【0038】
ステム160は、中蓋部150を貫通してボール弁体140に連結する略円柱状の構造物である。ステム160は、図中のZ方向に延在する弁軸を構成する。ステム160は、ボデー110の上端よりも上方に突出している。
【0039】
ボンネット170は、寸胴部112の他端(図中の上端)側の開口を密閉する。ステム160は、ボンネット170を貫通しており、かつボンネット170に対して回転可能に配置される。ボンネット170は、ボデー110の上端部にボルトなどによって着脱可能に連結している。
【0040】
なお、中蓋部150とステム160との間には、軸シール部が介在している、また、中蓋部150の外縁部とそれに対向するボデー110の内周壁部との間には、プレッシャーシール構造を有する外周シール部が介在している。また、ボンネット170上には、不図示の操作部が固定される。当該操作部に設置されるハンドルを回転させることによって、ステム160およびボール弁体140が回転し、弁室部111における流体の流路が開閉する。
【0041】
ボールバルブ100において、ボールシート1は、第一シートテーパ面11でボール弁体140に当接しており、第二シートテーパ面12でシートリテーナ130と当接している。アウターリング20の外周面は中蓋部150に当接している。上記の状態において、アウターリング20およびインナーリング30は、いずれも、ボール弁体140およびシートリテーナ130とは離れており、接触しない。
【0042】
アウターリング20とインナーリング30とを比べたときに、インナーリング30は、径方向におけるより内側に位置し、ボール弁体140の表面およびシートリテーナ130との間隔がより狭い。
【0043】
ここで、流路内で火災が発生し、火炎が流路を伝播すると、樹脂製であるシートリング10のみが熱によって溶け、あるいは燃焼し得る。しかしながら、アウターリング20とインナーリング30とを比べたときに、インナーリング30は、径方向におけるより内側に位置し、ボール弁体140の表面およびシートリテーナ130との間隔がより狭い。また、アウターリング20は、Cリング40によって外周側に付勢される。さらに、シートリテーナ130は、軸方向に沿ってボールシート1をボール弁体140に向けて押圧している。したがって、シートリング10が焼失されている間に、シートリテーナ130の第一インナーテーパ面31および第二インナーテーパ面32がボール弁体140およびシートリテーナ130に当接する。この状態では、アウターリング20の第一アウターテーパ面および第二アウターテーパ面がボール弁体およびシートリテーナに当接することはない。このように、ボールシート1は、シートリング10の焼失時に、アウターリング20に先立ってインナーリング30がボール弁体140およびシートリテーナ130の両方に接するように構成されている。
【0044】
また、ボールバルブ100において、インナーリング30の径方向における最も内側の部分の位置P2は、ボール弁体140およびシートリテーナ130の径方向における内周面の位置P1に比べてより外周側に位置している。
【0045】
ここで、火災などによりシートリングが消失してしまった状態を
図8によりさらに説明する。
図8は、ボールバルブ100においてシートリング10が焼失したときの様子を説明するための図である。
図8は、シートリング10が完全に消失してしまった状態のボールシートおよびその周辺の断面構成を模式的に示している。
【0046】
シートリング10が消失してしまった状態では、残りのリング状の部材には、シートリテーナ130がボール弁体140側に押される方向に力が働く。これは、シートリテーナ130には、ボール弁体140と反対側にスプリングなどが配置されており、その付勢力が働くためである。また、これに加えて、シートリテーナ130は、その外径側がシール材130aでシールされる一方、ボール弁体140側ではインナーリング30と接触し、その接触位置がシールポイントとなる。そのため、それらのシール面積の相違に基づく流体による圧力差(自緊力)による力も、シートリテーナ130をボール弁体140側に押す力として発生する。
【0047】
これらの力により、シートリテーナ130が、ボール弁体側に押され、それによってインナーリング30およびアウターリング20のシートリテーナ130側の端面に接触する。この際、シートリテーナ130とインナーリング30との接触位置は、第二インナーテーパ面32の外径側の位置となり、シートリテーナ130とアウターリング20との接触位置は、第二アウターテーパ面23の内径側の位置となる。これらのテーパ面の形成により、それぞれの接触は線状に形成される。よって、シートリング10の消失状態でも、シートリテーナ130とインナーリング30またはアウターリング20とは、互いに高いシール性を発揮することができる。
【0048】
一方、ボール弁体140側においては、シートリテーナ130によってボール弁体140側に押されたインナーリング30が、ボール弁体140と接触する。その接触位置は、第一インナーテーパ面31の外径側の位置となる。この接触も線状に形成されるため、高いシール性を発揮することができる。
【0049】
これに対し、アウターリング20は、シートリテーナ130によってボール弁体140側に押されるものの、上述した距離G21、G22、G31およびG32の関係によって、先にインナーリング30とボール弁体140との接触が生じる。そのため、シートリテーナ130およびボール弁体140の両方に接触したインナーリング30がつっかえとなって、アウターリング20とボール弁体140とは接触せず、両者の間には、わずかな隙間cが形成される。
【0050】
このように、本実施形態では、万が一火災などによりボールシートが焼失してしまった場合であっても、インナーリング30によるシール性を維持することが可能なファイアセーフ機能を発揮することができる。
【0051】
上記の説明のみによれば、例えば火災などの発生によりシートリング10が失われてしまう状態では、インナーリング30がボール弁体140とシートリテーナ130の両方に接してシール性を発揮するものの、アウターリング20はボール弁体140との隙間があるので、シール性を発揮しないことになる。ただし、実際には、シートリング10が完全に消失することなく一部分が残存したり、また流体圧の影響によりインナーリング30やアウターリング20に傾きが生じたりすることがあるため、インナーリング30によるシールが形成されずに、アウターリング20がボール弁体140とシートリテーナ130に接触してシール性を発揮することもあり得る。
【0052】
このように、本実施形態のボールバルブ100では、火災などの発生によりシートリング10が失われても、インナーリング30による高いシール性が発揮される。またインナーリング30によるシールがうまく形成されなくてもアウターリング20によるシール性が発揮される。ボールバルブ100ではこのような二重のファイアセーフ機能が発揮され得るため、火災などの発生時にも流体漏れを生じない高い安全性が発現され得る。
【0053】
ただし、アウターリング20によるシールは、そのシール位置がシートリテーナ130の外径側のシール材130aの径の位置に近いため、上述した自緊力が弱くなり、その分シール性も弱くなってしまう可能性がある。本実施形態では、アウターリングおよびインナーリングの両側のテーパ面について、上述した所定の距離G21,G22、G31、G32を満たすように設計することによって、シートリング10の焼失時にもインナーリング30によるシールが形成されやすくなる。そのため、特に優れたファイアセーフ機能を発揮し得る。
【0054】
〔主な作用効果〕
ボールシート1は、環状のシートリング10と、シートリング10の外周側でシートリング10を保持する環状のアウターリング20と、シートリング10の内周側でシートリング10を保持する環状のインナーリング30とを有している。そして、インナーリング30は、径方向の内側に向けて凸となる形状であって、前記インナーリングの幅が径方向の外側に向けて漸次拡大する形状である断面形状を有する。
【0055】
本実施形態におけるボールシート1は、ボール弁体140とシートリテーナ130との間に挟まれるだけで弁室部111内に配置されており、ボールバルブ100では、上部が中蓋部150と当接してはいるものの、それ以外にはボールシート1を弁室部111内に固定する構造は無い。つまり、ボールシート1は、基本的には、第一シートテーパ面11でのボール弁体140との当接と、第二シートテーパ面12でのシートリテーナ130との当接によって固定および位置決めがなされている。したがって、ボール弁体140の回転に伴うシール面の摺動、あるいは流路からの流体圧の印加などによって、ボールシート1には、位置ずれおよび変形などをもたらす力が加わりやすい。
【0056】
これに対し、ボールシート1では、そのシートリング10が、その外径側をアウターリング20に、また内径側をインナーリング30に挟み込まれた状態となっている。したがって、ボールシート1には、例えばボール弁体140が回転する場合には、第一シートテーパ面11でのボール弁体140との摺動により、ボールシート1にはねじれ方向への力が加わる。しかしながら、アウターリング20とインナーリング30とによってねじれの変形が防がれている。
【0057】
また、ボールシート1には流路側から流体圧が加わる場合には、流体が第一シートテーパ面11とボール弁体140との接触面または第二シートテーパ面12とシートリテーナ130との接触面に流出しようとする力が加わり、ボールシート1をボール弁体140側またはシートリテーナ130側に傾倒させる力が働く。しかしながら、アウターリング20およびインナーリング30による保持によって、そのような力にも抗することができ、ボールシート1の変形は生じ難い。
【0058】
その結果、弁室部111内でのボールシート1の位置の固定が比較的緩いにも関わらず、外部力によってもねじれなどの変形などを生じにくい。そのため、ボールシート1は、高いシール性を発揮することができる。
【0059】
このように、ボールシート1では、インナーリング30が、シートリング10の径方向内側をシートリング10が変形しないように保持している。そのため、ボールシート1が極低温に晒された場合であっても、シートリング10が縮径するような変形も抑えることができ、ボールシート1のシール位置を適切に維持することができる。
【0060】
特に、インナーリング30は、径方向外側に向けて幅広となる形状を有し、相対的に幅広な周方向外側の面でシートリング10の内周側の面の大部分と当接し、シートリング10を保持している。そのため、シートリング10がより強固に保持され、シートリング10が収縮しようとする際に、インナーリング30から外れることを防止する観点から有効である。特に、インナーリング30は、外径側に向かって幅広となる肉厚状の断面形状を有しているため、径が収縮する方向の力に対して特に対抗する強度を有しており、極低温流体を流す際のシートリング10の収縮を防止する効果に優れる。
【0061】
また、インナーリング30は、単なる薄板からなるリングではなく、このように断面略台形状で、ある程度肉厚を有している。そのため、例えば、その製造時に、第一インナーテーパ面31や第二インナーテーパ面32を切削などにより加工する際に、当該加工に耐え得る強度を有する。さらには、薄板状のものに比して加工の際の治具による固定なども行いやすい。このように、インナーリング30は、製造上の利点も有している。
【0062】
また、ボールバルブ100内においては、インナーリング30がこのようにシートリング10の径方向内側にあっても、径方向内側に幅狭となる形状を有するため、中心方向に向かって径が大きくなる形状のボール弁体140に対して接触することがなく、その回転動作にも干渉せず、スムーズな弁体動作を可能とする。
【0063】
さらに、ボールシート1は、シール性の向上の観点からも優れている。通常、ボールバルブにおけるボールシートは、シートリテーナとボール弁体とに挟まれることによってのみ保持され、ボールシートの径方向においては支持されない。また、ボールバルブにおいてボール弁体を回転させた場合、中間開度ではキャビティ(弁室部111におけるボール弁体140を収容している空間)に流体が流れ込むことがある。この場合、流体は、ボールシートとボール弁体の貫通孔とが形成する隙間など、狭い空間を流れる。そのため流速が速く、ボールシートをキャビティに向けて引き込む力がボールシートに強く作用することがある。また、その逆に、キャビティ内の流体圧が異常昇圧した場合などには、キャビティから弁室部内の流路に向けて、前述の隙間を通って流体が急速に流れ込むことがある。この場合にも、ボールシートを流路に向けて引き込む力がボールシートに強く作用することがある。従来のボールシートでは、上記のような中間開度で生じ得る流体の強い流れによってシートリングが潰れるなど変形し、ボールバルブにおける所定の位置から外れることがある。
【0064】
これに対して、本実施形態におけるボールシート1において、シートリング10がインナーリング30およびアウターリング20によって径方向において挟まれた状態で固定されている。そのため、上記のような流路外の流体の流れによってもシートリング10が変形しにくく、ボールシート1がボールバルブ100における所定の位置から移動しない。したがって、シート外れなどの不具合が生じにくい。特に、シートリング10の外周側の軸方向における実質的に全幅を覆うようにアウターリング20が配置され、またインナーリング30が外径側に拡径する特定の断面形状を有しているので、シートリング10の内周側の軸方向における実質的に全幅を覆うようにインナーリング30が配置され得る。この場合、ボールシート1においてシートリング10がボール弁体140側またはシートリテーナ130側に傾くような変形も生じがたく、ボールシート1からのシートリング10の脱落がさらに生じにくくなる。
【0065】
また、ボールシート1において、インナーリング30は、軸方向の一方側(ボール弁体140側)に第一インナーテーパ面31と、軸方向の他方側(シートリテーナ130側)に第二インナーテーパ面32とを有し、両テーパ面間の距離は径方向の外側に向けて漸次拡大している。
【0066】
このように、インナーリング30の両側面がそれぞれテーパ面となっている。特に、上述した通り、第一インナーテーパ面31および第二インナーテーパ面32は、それぞれ第一シートテーパ面11の延長線L2および第二シートテーパ面12の延長線L3よりも傾斜角が大きくなっている。そのため、インナーリング30のシートリング10を保持する外径側の面の幅を最大としつつ、インナーリング30の厚みは最小限とすることが可能となる。したがって、シートリング10の保持と、スムーズな弁体動作と、を高いレベルで両立することが可能となる。
【0067】
さらに、万が一、ボールシート1が焼失した場合など、シートリング10のみが消失した場合に、ボール弁体140の表面に第一インナーテーパ面31が接し、シートリテーナ130に対しては第二インナーテーパ面32が接し得る。したがって、シートリング10が焼失した場合にも、インナーリング30によってボール弁体140およびシートリテーナ130との間のシール性が維持される。このように、上記のボールシート1では、ファイアセーフ機能がさらに発現され得る。特に、両テーパ面がボール弁体140またはシートリテーナ130と接する際には、シールに有利な線状の接触を形成し得るため、ファイアセーフ時にも高いシール性が発揮され得る。
【0068】
また、ボールシート1では、第一インナーテーパ面31の径方向に対する傾斜角が第二インナーテーパ面32のそれよりも大きい。
【0069】
ボール弁体140は球状の表面を有し、シートリテーナ130は径方向内側が軸方向においてボール弁体140表面との距離が漸次減少するテーパ面を有する。このようなシートリテーナ130におけるボール弁体140側のテーパ面は、ボールシート1をボール弁体140側に押すために、ボール弁体140の球面よりも「立った」面となる。前述のインナーリング30の両側面も、このような軸方向において隣り合う構成要素の表面形状と同様の傾向を有し得る。これにより、上述したファイアセーフ時の線シールがより一層良好に形成され得る。
【0070】
また、ボールバルブ100はトップエントリー型のボールバルブである。そのため、ボールバルブ100の組み立て時には、ボールシート1は、ボール弁体140とともに、シートリテーナ130が予め設置されている弁室部111に、寸胴部112を通って挿入される。したがって、インナーリング30の両側のテーパ面がシートリテーナ130およびボール弁体140に対する良好なガイドの機能も果たす。よって、上記の構造は、ボールバルブ100にボールシート1をより容易に配置する観点からも有利である。
【0071】
また、ボールシート1では、シートリングは、軸方向の一方側にボール弁体に当接する第一シートテーパ面と、軸方向の他方側にシートリテーナに当接する第二シートテーパ面と、を有する。そして、ボールシートの断面において、インナーリングにおけるテーパ面の最もシートリング側の部分と第一シートテーパ面の延長線および第二シートテーパ面の延長線との隙間は、アウターリングにおける最もシートリング側の部分と第一シートテーパ面の延長線および第二シートテーパ面の延長線との隙間よりも小さくなっている。このように、シートリング10におけるテーパ面を基準とする、インナーリング30の両側に形成される間隔を、アウターリング20の両側に形成される間隔よりも小さくする構成も、ファイアセーフ機能を発現させる観点から有効である。
【0072】
また、ボールシート1では、アウターリング20は、その断面における一方側に径方向の内側へ突出するアウター突出部21を有し、インナーリング30は、その断面における他方側に径方向の外側へ突出するインナー突出部33を有している。そして、シートリング10は、その断面における径方向外側の一方側の外側切り欠き部13でアウター突出部21と係合し、径方向内側の他方側の内側切り欠き部14でインナー突出部33と係合している。
【0073】
このように、シートリング10は、ボール弁体側からは径方向外側で、シートリテーナ側からは径方向内側で、それぞれ断面形状の角部が対角方向から囲まれてアウターリング20およびインナーリング30によって保持されている。上述したような流路からキャビティへの流体の流れは、主に、ボールシート1をボール弁体140の方向に拡径させるようにして生じるが、ボールシート1において、この方向にはアウター突出部21が形成されている。そのため、この方向へのボールシート1の抜け出しおよび変形を確実に抑えることができる。
【0074】
また、キャビティの異常昇圧によるキャビティから流路内への流れが発生した場合は、ボールシート1には、弁体から遠ざかる方向に内径側に向かって引き込まれるような力が加わるが、ボールシート1において、この方向にはインナー突出部33が形成されている。そのため、上記の引き込まれる方向の力に抗するのに有利である。このように、アウター突出部21およびインナー突出部33は、前述した流体の流路内外への高速の流れの発生方向にちょうど抗することができる対角位置に設けられている。そのため、当該流れによって引き込まれる力がボールシート1にかかった場合でも、ボールシート1の変形がより一層抑制され得る。また、ボールシート1が極低温に晒される場合でもシートリング10の形状を維持する観点からより有効である。
【0075】
また、アウターリング20に設けたアウター突出部21およびインナーリング30に設けたインナー突出部33は、それぞれ、シートリング10への装着の際にも効果を発揮する。すなわち、まず、シートリング10に対してアウターリング20を装着する場合は、シートリング10の溝15にCリング40を装着し、その状態でアウターリング20の内周側にシートリング10をはめ込む。この場合、シートリング10に設けた外側切り欠き部13が、アウターリング20のアウター突出部21による段部とちょうど係合するようにはまり込む。このとき両段部同士によりシートリング10とアウターリング20との位置合わせが自然と行われ、両者が正しい位置関係で固定される。インナーリング30とシートリング10も同様に、シートリング10の内周側にインナーリング30をはめ込む際、インナーリング30のインナー突出部33が、シートリング10の内側切り欠き部14にはまり込むように位置合わせされる。したがって、両者が正しい位置関係に固定される。上述したインナーリング30およびアウターリング20によるシートリング10のずれおよび変形の防止効果は、シートリング10とインナーリング30とが、およびシートリング10とアウターリング20とが互いに確実にしっかりと嵌まりあっていることで特に大きく発揮され得る。したがって、これらの段部同士の係合によって、そのような効果がさらに増大し得る。
【0076】
また、インナーリング30にはインナー突出部33が形成され、アウターリング20にはアウター突出部21が形成されていることで、インナーリング30およびアウターリング20は、いずれも略L字状の断面形状を有している。このような形状は、単なる板状のリングに比べて、ねじれおよび折れ曲がりに対する高い強度を発揮し得る。このような断面形状を有することによって、インナーリング30およびアウターリング20による上述した補強効果は一層高められている。
【0077】
また、ボールバルブ100では、ボールシート1は、シートリング10を焼失する時に、アウターリング20に先立ってインナーリング30がボール弁体140およびシートリテーナ130の両方に接するように構成されている。このような構成は、シートリング10焼失時にインナーリング30のテーパ面の接触が優先して形成される種々の構成要素、またはそれらの組み合わせによって適宜に構成し得る。こうすれば、火災などによるシートリングの焼失時に、確実にインナーリング30によるシールが形成され得る。
【0078】
アウターリング20は、その断面形状が軸方向に長い(横長の)形状を有している。そのため、シートリング10が焼失した状態で圧縮方向に圧力が加わると、傾きなどが生じるおそれがある。しかしながら、インナーリング30は、その断面形状がアウターリング20ほど横長の形状ではない。そのため、傾きなどを生じずにボール弁体140とシートリテーナ130との間で両者に接した状態で支持されやすく、より優れたシール性を発揮しやすい。このような構成は、前述のファイアセーフ機能を発現させる観点からより有効である。
【0079】
また、ボールバルブ100では、径方向において、ボールシート1のインナーリング30における最も内側の部分が、ボール弁体140における最も内側の部分およびシートリテーナ130における最も内側の部分の一方または両方と同じかそれよりも外側に位置している。このような構成は、インナーリング30ボールバルブ100の所期の流路に干渉せず、ボールバルブ100において流体をスムーズに流す観点から好適である。また、ボール弁体140の動作への干渉を防止する観点からもより効果的である。
【0080】
〔変形例〕
インナーリングの断面形状は、径方向の内側に向けて凸となる形状であり、かつインナーリングの幅が径方向の外側に向けて漸次拡大する形状であれば、前述のテーパ面以外の側面を有していてもよい。
【0081】
また、ファイアセーブ機能をもたらす構成には、様々な構成とその組み合わせが考えられる。前述したようなテーパ面、その位置関係、Cリングの採用以外の他の構成をさらに含んでいてもよい。
【0082】
また、ボールバルブにおけるインナーリングの内周面の位置は、ボールシートにおけるシートリングの当たり面の位置に対する特定の位置、と規定してもよい。インナーリングの内周面の位置は、少なくとも、第一シートテーパ面11の延長線L2および第二シートテーパ面12の延長線L3を結んでなる交点よりも外径側に位置することが、ボールバルブの動作への干渉を防ぐ観点から望ましい。この内周面の好適な位置は、ボールバルブにおける流体の流れへの干渉を防ぐ観点からは、ボールシートをボールバルブに装着したときのボール弁体およびシートリテーナとの位置関係によって定まることになる。
【0083】
また、ボールシートは、ボールバルブに装着する際のボールシートの装着向きを示す構成をさらに有していてもよい。このような構成の例には、例えば装着されたときのボール弁体の位置を示す矢印、が含まれる。
【0084】
〔まとめ〕
以上の説明から明らかなように、本発明の第一の態様のボールシート(1)は、ボールバルブ(100)においてボール弁体(140)と、シートリテーナ(130)とに挟まれて両者間をシールする環状のボールシートであって、環状のシートリング(10)と、シートリングの外周側でシートリングに接する環状のアウターリング(20)と、シートリングの内周側でシートリングに接する環状のインナーリング(30)と、を有し、インナーリングの径方向における断面の形状が、径方向の内側に向けて凸となる形状であって、インナーリングの幅が径方向の内側からシートリングに向けて漸次拡大する形状である。第一の態様によれば、使用環境に関わらずボールシートに所期のシール性を発現可能な技術が提供され得る。
【0085】
本発明の第二の態様のボールシートは、第一の態様において、インナーリングが、軸方向の一方側に第一インナーテーパ面(31)と、軸方向の他方側に第二インナーテーパ面(32)と、を有し、両テーパ面間の距離が径方向の内側からシートリングに向けて漸次拡大する。第二の態様は、ファイアセーフ時におけるシール性を高める観点からより一層効果的である。
【0086】
本発明の第三の態様のボールシートは、第二の態様において、第一インナーテーパ面の径方向に対する傾斜角が、第二インナーテーパ面の径方向に対する傾斜角に比べて大きい。第三の態様は、ファイアセーフ時におけるシール性を高める観点、および、トップエントリーによるボールシートの装着を容易にする観点、からより一層効果的である。
【0087】
本発明の第四の態様のボールシートは、第二の態様または第三の態様において、シートリングが、軸方向の一方側にボール弁体に当接する第一シートテーパ面(11)と、軸方向の他方側にシートリテーナに当接する第二シートテーパ面(12)と、を有する。そして、ボールシートの径方向における断面において、第一インナーテーパ面および第二インナーテーパ面は、それぞれ、第一シートテーパ面の延長線(L2)と第二シートテーパ面の延長線(L3)との間に形成されている、さらに、第一インナーテーパ面は、シートリングに近いほど第一シートテーパ面の延長線に近づくように傾斜し、第二インナーテーパ面は、シートリングに近いほど第二シートテーパ面の延長線に近づくように傾斜している。第四の態様は、ファイアセーフ機能を発現させる観点からより一層効果的である。
【0088】
本発明の第五の態様のボールシートは、第二の態様から第四の態様のいずれかにおいて、シートリングが、軸方向の一方側にボール弁体に当接する第一シートテーパ面と、軸方向の他方側にシートリテーナに当接する第二シートテーパ面と、を有する。そして、ボールシートの径方向における断面において、インナーリングにおけるテーパ面の最もシートリング側の部分と第一シートテーパ面の延長線および第二シートテーパ面の延長線との隙間は、アウターリングにおける最もシートリング側の部分と第一シートテーパ面の延長線および第二シートテーパ面の延長線との隙間よりも小さい。第五の態様は、ファイアセーフ機能を発現させる観点からより一層効果的である。
【0089】
本発明の第六の態様のボールシートは、第一の態様から第五の態様のいずれかにおいて、アウターリングが、その径方向における断面における一方側に径方向の内側へ突出するアウター突出部(21)を有し、インナーリングが、その径方向における断面における他方側に径方向の外側へ突出するインナー突出部(33)を有し、シートリングが、その径方向における断面における径方向外側の一方側にアウター突出部と係合する外側切り欠き部(13)と、径方向内側の他方側にインナー突出部と係合する内側切り欠き部(14)と、を有する。第六の態様は、ボールシートにおけるシートリンクの変形および脱落を防止する観点からより一層効果的である。
【0090】
本発明の第七の態様のボールバルブは、ボール弁体と、シートリテーナと、それらに挟まれて両者間をシールする環状のボールシートと、を有し、当該ボールシートが第一の態様から第六の態様のいずれかに記載のボールシートである。第七の態様によれば、使用環境に関わらずボールシートに所期のシール性を発現可能な技術が提供され得る。
【0091】
本発明の第八の態様のボールバルブは、第七の態様において、ボールシートが、シートリング焼失時に、アウターリングに先立ってインナーリングがボール弁体およびシートリテーナの両方に接するように構成されている。第八の態様は、ファイアセーフ機能を発現させる観点からより一層効果的である。
【0092】
本発明の第九の態様のボールバルブは、第七の態様または第八の態様において、径方向において、ボールシートのインナーリングにおける最も内側の部分が、ボール弁体における最も内側の部分およびシートリテーナにおける最も内側の部分の一方または両方と同じかそれよりも外側に位置している。第九の態様は、ボールバルブにおける正規の流体の流れおよびボール弁体の動作に対する干渉を抑制する観点からより一層効果的である。
【0093】
本発明によれば、極低温環境においても優れたボールシートが得られ、かつ消失時でもシール性を発現し得るファイアセーブ機能をも発現し得る。よって、液体水素の流体用のボールバルブおよびそのためのボールシートに好適である。このような本発明には、水素社会の構築への多大な貢献が期待され、例えば、国連が提唱する持続可能な開発目標(SDGs)の目標7「エネルギーをみんなにそしてクリーンに」などの達成への貢献することが期待される。
【0094】
本発明は上述した各実施形態に限定されず、請求項に示した範囲で種々の変更が可能である。異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態も、本発明の技術的範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0095】
1 ボールシート
10 シートリング
11 第一シートテーパ面
12 第二シートテーパ面
13 外側切り欠き部
14 内側切り欠き部
15、24 溝
20 アウターリング
21 アウター突出部
22 第一アウターテーパ面
23 第二アウターテーパ面
30 インナーリング
31 第一インナーテーパ面
32 第二インナーテーパ面
33 インナー突出部
40 Cリング
100 ボールバルブ
110 ボデー
111 弁室部
112 寸胴部
120 流路開口部
130 シートリテーナ
130a シール材
140 ボール弁体
150 中蓋部
160 ステム
170 ボンネット