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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024095864
(43)【公開日】2024-07-11
(54)【発明の名称】ボール取付治具およびボール取付方法
(51)【国際特許分類】
   F16K 5/06 20060101AFI20240704BHJP
   F16K 27/06 20060101ALI20240704BHJP
【FI】
F16K5/06 Z
F16K27/06 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022212826
(22)【出願日】2022-12-29
(71)【出願人】
【識別番号】390002381
【氏名又は名称】株式会社キッツ
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】弁理士法人 HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】小林 哲也
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 美智雄
【テーマコード(参考)】
3H051
3H054
【Fターム(参考)】
3H051AA07
3H051BB02
3H051BB03
3H051CC16
3H054AA03
3H054BB17
(57)【要約】
【課題】トップエントリによってボール弁体およびボールシートを良好に弁室部に取り付けることができるボール取付治具および方法を提供する。
【解決手段】ボール取付治具(1)は、ボール弁体(104)とボールシート(168)とを保持する保持機構を具備し、保持機構は、ボールシート(168)を傾斜させるシート支持部(4)と、ボールシート(168)がボール弁体(104)とリテーナ(180)とによって支持されるとシート支持部(4)による支持を解除する解除機構とを有する。
【選択図】図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
流体の流路となる二以上の流路開口部とボール弁体が通過可能な収容開口部とを有する弁室部と、前記流路開口部に取り付けられたリテーナと、前記収容開口部を介して前記弁室部に連設されている寸胴部とを有するボールバルブの当該弁室部に、当該寸胴部からトップエントリによってボール弁体およびボールシートを導入する際に用いるボール取付治具であって、
前記ボール取付治具は、前記リテーナが取り付けられている状態の前記弁室部に対してボール弁体およびボールシートを導入する構成となっており、
前記ボール弁体および前記ボールシートを保持して、前記寸胴部から前記弁室部に向かって下降する保持機構を備え、
前記保持機構は、
前記ボールシートにおける下降する方向に対して前方側に位置する部分が後方側に位置する部分よりも前記ボール弁体の回転軸に近接するように、前記ボールシートを前記回転軸に対して傾斜させた状態で、前記ボール弁体に沿わせて保持するシート支持部と、
前記ボール弁体と共に前記シート支持部により傾斜した状態で前記収容開口部に導入されたボールシートが、前記ボール弁体と前記リテーナとにより支持されると、前記シート支持部による前記ボールシートの支持を解除する解除機構と、
を有する、
ボール取付治具。
【請求項2】
前記保持機構は、前記ボール弁体の下降に合わせて、前記ボールシートを下方に押すシート押し部を更に有する、
請求項1に記載のボール取付治具。
【請求項3】
前記ボールシートは、前記シート支持部による支持が前記解除機構によって解除されて以降に、前記ボール弁体とともに下降することに伴って、前記ボール弁体および前記リテーナとの接触によって、傾斜角度が変化し、
前記シート押し部は、前記傾斜角度の変化に合わせ、前記ボールシートを押す方向を、傾斜した方向から、前記回転軸に平行な方向に変化させる、
請求項2に記載のボール取付治具。
【請求項4】
前記シート支持部は、前記ボールシートの端面に当接する当接面を有するシャッターを有し、前記シャッターの当接面を傾斜させる構成となっており、
前記解除機構は、前記シャッターの前記当接面と、前記端面との当接を解除する構成となっている、
請求項1に記載のボール取付治具。
【請求項5】
前記解除機構は、前記シャッターを、前記収容開口部よりも上方に引き上げて、前記当接面と前記端面との当接を解除する、
請求項4に記載のボール取付治具。
【請求項6】
前記解除機構は、前記シャッターに連結したシリンダーを有し、
前記シャッターは、前記シリンダーによって、前記収容開口部よりも上方に引き上げられる、
請求項5に記載のボール取付治具。
【請求項7】
請求項1から6の何れか1項に記載のボール取付治具を用いて、トップエントリによって前記ボールバルブの前記弁室部に、ボール弁体およびボールシートを取り付けるボール取付方法であって、
前記リテーナが取り付けられている状態の前記弁室部に向かって、前記保持機構によって保持され、前記シート支持部によって傾斜した状態の前記ボールシートと、前記ボール弁体とを下降させて、前記収容開口部に挿入させる第1の工程と、
前記第1の工程の後に、前記収容開口部を通過しているボールシートが前記ボール弁体と前記リテーナとの間で支持された状態となると、前記シート支持部による前記ボールシートの支持を前記解除機構によって解除する第2の工程と、
前記第2の工程の後に、前記ボールシートと前記ボール弁体とを下降させる第3の工程と、
を含む、
ボール取り付け方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トップエントリによるボールバルブのボール弁体およびボールシートの取り付けを行うために用いるボール取付治具、および当該治具を用いたボール取付方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従前のボールバルブは、弁室部の上方に広く開口した部分からボール弁体、ボールシート、およびリテーナを弁室部に挿入する態様がある。また、ボデーが横方向に分割可能な構造となっている場合には、分離した状態において開いた側から、弁室部にリテーナ、ボールシートおよびボール弁体を取り付け、再びボデーを組み立てる方法も知られている。
【0003】
本発明者らは、長年、液化水素(-253℃)等の極低温流体を流すバルブについて開発を進めている。液化水素等の極低温流体を流すバルブは、流体からの熱伝導・熱伝達を最小限にして保冷効果を持たせるとともに、低温に弱い部品(パッキン等)を流体からなるべく離して配置することができるよう、バルブの操作部と弁体とをつなぐステムの長さを長く構成する(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開公報WO2021/172457
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
極低温流体を流すボールバルブは、ステムが長いことに併せてボデーのステム収納部分も長く、且つ、ボデーが溶接構造によって一体的に構成されているため、ステム収納部分の下部に収納開口部を介して連接された弁室部に対して、ステム収納部分の上端開口部からトップエントリによってボール弁体、ボールシートおよびリテーナを導入する場合に、ボデーの構造的な制限を受けて手間がかかるという問題がある。
【0006】
そこで、本発明の一態様は、トップエントリ型であって、ステム収納部分(寸胴部)が長いボールバルブに対して、ボール弁体とともにボールシートを良好に弁室部に導入することが可能なボール取付治具、および当該治具を用いたボール取付方法を実現することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決するために、本発明の一態様に係るボール取付治具は、
流体の流路となる二以上の流路開口部とボール弁体が通過可能な収容開口部とを有する弁室部と、前記流路開口部に取り付けられたリテーナと、前記収容開口部を介して前記弁室部に連設されている寸胴部とを有するボールバルブの当該弁室部に、当該寸胴部からトップエントリによってボール弁体およびボールシートを導入する際に用いるボール取付治具であって、
前記ボール取付治具は、前記リテーナが取り付けられている状態の前記弁室部に対してボール弁体およびボールシートを導入する構成となっており、
前記ボール弁体および前記ボールシートを保持して、前記寸胴部から前記弁室部に向かって下降する保持機構を備え、
前記保持機構は、
前記ボールシートにおける下降する方向に対して前方側に位置する部分が後方側に位置する部分よりも前記ボール弁体の回転軸に近接するように、前記ボールシートを前記回転軸に対して傾斜させた状態で、前記ボール弁体に沿わせて保持するシート支持部と、
前記ボール弁体と共に前記シート支持部により傾斜した状態で前記収容開口部に導入されたボールシートが、前記ボール弁体と前記リテーナとにより支持されると、前記シート支持部による前記ボールシートの支持を解除する解除機構と、
を有する。
【0008】
上記の課題を解決するために、本発明の一態様に係るボール取り付け方法は、
上述のボール取付治具を用いて、トップエントリによって前記ボールバルブの前記弁室部に、ボール弁体およびボールシートを取り付けるボール取付方法であって、
前記リテーナが取り付けられている状態の前記弁室部に向かって、前記保持機構によって保持され、前記シート支持部によって傾斜した状態の前記ボールシートと、前記ボール弁体とを下降させて、前記収容開口部に挿入させる第1の工程と、
前記第1の工程の後に、前記収容開口部を通過しているボールシートが前記ボール弁体と前記リテーナとの間で支持された状態となると、前記シート支持部による前記ボールシートの支持を前記解除機構によって解除する第2の工程と、
前記第2の工程の後に、前記ボールシートと前記ボール弁体とを下降させる第3の工程と、
を含む。
【発明の効果】
【0009】
本発明の一態様によれば、ステム収納部分(寸胴部)が長いボールバルブであっても、ボール弁体とともにボールシートをトップエントリによって弁室部に良好に導入することが可能なボール取付治具、および当該治具を用いたボール取付方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明の一実施形態に係るボール取付治具がボール弁体およびボールシートを取り付ける対象であるボールバルブの外観斜視図である。
図2図1の切断線A-A´における矢視断面図である。
図3図2の部分拡大図である。
図4】本発明の一実施形態に係るボール取付治具の主要部分に、ボール弁体およびボールシートが保持された状態の斜視図である。
図5図4に示すボール取付治具を用いたボール取付方法の動作フローを示す図である。
図6図4に示すボール取付治具を用いて、ボール弁体およびボールシートをボデー内に入れている様子を示す断面図である。
図7図4に示すボール取付治具を用いて、ボール弁体およびボールシートをボデーの弁室部に入れている様子を示す断面図である。
図8図7の部分拡大図である。
図9図4に示すボール取付治具を用いて、ボール弁体およびボールシートをボデーの弁室部に取り付けた様子を示す断面図である。
図10】本発明の他の実施形態に係るボール取付治具の主要部分に、ボール弁体およびボールシートが保持された状態の断面図である。
図11図10に示すボール取付治具を用いて、ボール弁体およびボールシートをボデーの弁室部に入れている様子を示す断面図である。
図12図11の部分拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
〔実施形態1〕
以下、本発明の一実施形態について、図1から図9を用いて説明する。本発明の一形態に係るボール取付治具は、凡そ水平方向に流路が形成されている途中に配設するトップエントリ型のボールバルブに対してボール弁体をボールシートと共に取り付けるために用いる治具である。ボールバルブを流れる流体としては、先述の極低温流体、特に液体水素であってよいが、これに限らない。
【0012】
図1は、本実施形態に係るボール取付治具を用いてボール弁体をボールシートと共に取り付ける対象であるボールバルブの外観斜視図である。図2は、図1に示す切断線A-A´においてボールバルブを切断した状態を示す矢視断面図である。なお、図面には、説明の便宜上、水平面をXY平面として、天頂方向にZ方向として規定した三次元座標を併せて図示する。なお、以下では、ボールバルブ110を構成する種々の構成要素が設置された状態のボールバルブを先ず説明し、続いて構成要素のうちの一部であるボール弁体およびボールシートの取り付けについて説明する。
【0013】
<ボールバルブ>
ボールバルブ110は、ボデー101と、ボール弁体104と、ステム103と、ボンネット102と、操作部109とを少なくとも備えている。ボデー101は、流体を流通させるための複数の配管構造部107と、複数の配管構造部107が向いている方向(後述するX軸方向)に交差する方向(後述するZ軸方向)に開口し、ボール弁体104が通過可能な上端開口部106bとを有し、流体の流路を構成する。ステム103は、図2に示す鉛直方向に延伸している弁軸を構成し、ボール弁体104に連結し、上端開口部106bよりも外側まで延在している。また、ボンネット102は、ステム103を作動可能に上端開口部106bを密封し、ボデー101の上端部にボルト等によって着脱可能に連結している。ボンネット102には、操作部109が固定されており、操作部109による操作は、このステム103を介して、ボール弁体104に伝わる。その操作は、ボンネット102に配設されたハンドル199(図1)によっておこなう。具体的には、ハンドル199の回転量に応じて、ボール弁体104が鉛直方向に延びる中心軸O(図2)を中心に回転する。ボール弁体104によって流路の開閉が行われ、90°回転することによって閉状態から開状態に状態を変えることができる。図2に図示している状態は、ボール弁体104が開状態となっており、ボール弁体104の紙面左側にある配管構造部107と、紙面右側にある配管構造部107とが連通しており、例えば紙面左側から右側に流体が流れる。
【0014】
ボールバルブ110は、図1に示すように、ボデー101が天地方向に長く、下端部から上端部まで径がほぼ変わらない寸胴な外観フォルムを有している。ボデー101は、収納空間の下部にボール弁体104を収納し、上部にボール弁体104に連結したステム103を収納する溶接構造のボデーである。具体的には、ボデー101は、ボール弁体104(図2)を収納している弁室部105と、連通口106aを介して弁室部105に連結される、ステム103(図2)を収納しているステム収納部106と、弁室部105の側面から水平方向に延びた配管構造部107とを有している。
【0015】
弁室部105は、ボール弁体104を回転可能に配置することができる中空の中央領域151を有する。中央領域151は、ボール弁体104の下面と当接する内面を有し、この内面に、ボール弁体104の下面に設けられた凸部104bが嵌合する凹部151aが設けられている。また、中央領域151の上部には、中央領域151の中空部分とステム収納部106の内部空間と連通する連通口106aが開設されている。
【0016】
弁室部105は、中央領域151と配管構造部107との間に、当該中央領域151の中空部分と配管構造部107の管内とを連通する端領域152(流路開口部)を更に有している。端領域152は、図2の紙面左右方向に沿って延びる管軸を有した円管状の内周面を有し、この内周面には、ボール弁体104を側方から支持するボールシート168およびリテーナ180が配設されている。端領域152は、配管構造部107の管に連通する開口部を含む。
【0017】
図3は、図2に示す一点破線の枠囲み部分Cの拡大断面図である。リテーナ180は、ボール弁体104側から、シートリテーナ182およびリテーナグランド183が配置されている。リテーナグランド183は、スプリング184およびスプリングホルダー186によってボール弁体104側に付勢されている。シートリテーナ182の外径側には段部182aが設けられている。リテーナグランド183の外径側は、このシートリテーナ182の段部182aの位置においてボール弁体104側に突出し、リテーナパッキン185を介してシートリテーナ182の段部182aの端面を押している。すなわち、スプリング184の力は、リテーナグランド183、リテーナパッキン185、シートリテーナ182の順に伝わり、ボールシート168をボール弁体104に押し付けるように働いている。この構造により、ボール弁体104とボールシート168との間、ボールシート168とシートリテーナ182との間が密着し、これらの部分がシールとして機能し、流路から外部への流体の漏出が防がれる。
【0018】
ボールシート168は、金属より軟質な樹脂材料等からなる。そのため、流体圧が加わった場合等に変形せずに形状が維持されるように、その外径側をアウターリング167によって支持されている。ボールシート168とアウターリング167とは、両者の対向面に設けた溝にCリング190を嵌め込むことで、互いに固定された状態となっている。
【0019】
ボール弁体104は、流路104aが貫通形成され球体型の弁体である。流路104aの口径は、弁室部105の側面から水平方向(X軸方向)に延びた配管構造部107の管径(Z軸方向に沿った長さ)および端領域152の開口部の開口径と等しい。ボール弁体104は、ステム103と連結する上面と、その反対側にある下面とを有し、下面には下方に向かって突出する凸部104bが設けられている。また、この凸部104bは、ステム103に近い側の部分(基部)の径よりも、ステム103から遠い側の先端部分(突出端104b´)の径のほうが小径である。このように突出端104b´を小径とすることにより、凸部104bの突出端104b´が弁室部105の凹部151aへの嵌合のガイドとして機能するため、バルブ組み立て時のボール弁体104の設置操作が容易になる。
【0020】
ステム収納部106は、鉛直方向(Z方向)に管軸を有する円管状の構造体であり、その下端部に、中央領域151の中空部分と連通する連通口106a(収容開口部)が設けられている。連通口106aの水平方向に沿った開口径は、ボール弁体104の水平方向に沿った径よりも大きい構成となっている。また、ステム収納部106の上端部には、ボール弁体104の水平方向に沿った径よりも大きく開口した上端開口部106bが設けられている。また、ステム収納部106の下端部と上端部とに挟まれた中間部分106cの内径も、ボール弁体104の水平方向に沿った径よりも大きい。また、具体的には、図2に示すように、連通口106aよりも、上端開口部106bおよび中間部分106cのほうが、内径が大きい。このように、ステム収納部106の内径(連通口106aおよび上端開口部106bを含む)が、ボール弁体104の水平方向に沿った径よりも大きく構成されていることにより、ボール弁体104をステム103とともに引き上げ、ボデー101の外に取り出すことが可能である。これにより、ボール弁体104のメンテナンスをおこなうことができる。また、反対に、上端開口部106bからボール弁体104をボデー101内に下ろすことにより、弁室部105にボール弁体104を設置することができる。本明細書では、このようにボール弁体104等を、ボデー101上部から出し入れするタイプを「トップエントリ(型)」と称する。
【0021】
ステム収納部106内には、ボール弁体104を上方から押圧する中蓋体160が、中間部分106cに設置されている。中蓋体160は、ステム103を作動可能にボデー101内におけるボール弁体104側の空間(弁室部105)を液密または気密に仕切る。中蓋体160は、ステム103を貫通させた状態で、ステム収納部106側から連通口106aを封止してボデー101の収納空間を仕切っており、且つ弁室部105内にボール弁体104を回転可能に収容する。中蓋体160は、弁室部105に近い側から、トラニオンプレート161と、押さえプレート162とをこの順で有したプレート構造から構成することができるが、中蓋体160は、このプレート構造に限らない。中蓋体160がステム収納部106に取り付けられていることにより、ボール弁体104を弁室部105に確実に収納することができる。且つ、中蓋体160によって連通口106aが封止されるため、ボール弁体104が不都合に上方に飛び出す事態を回避することができ、液体水素のステム収納部106への漏れ出しを防ぐことができる。
【0022】
なお、ボデー101の外側には、気密に密閉される真空ジャケットを設けることが可能である。真空ジャケットは、図2に示すステム収納部106の上端部において側方に突設されたフランジ部106dに取り付けることができる。
【0023】
液体水素用であるボールバルブ110は、先述のように、ステム103が、低温に弱い部品を含む操作部109と、流体が通るボール弁体104とを大きく離間させるために、長く構成されている。ステム収納部106の鉛直方向(Z方向)の長さは、ステム103の長さによって決めることができる。
【0024】
以上までがボールバルブ110の構成である。本実施形態のボール取付治具は、以上に示したボールバルブ110を製造する場合、およびメンテナンスする場合の少なくとも一方の場合に、ボデー101の弁室部105(図2)に、ボール弁体104およびボールシート168を取り付けるために用いる治具である。
【0025】
<ボール取付治具の構成>
図4は、ボール弁体104およびボールシート168を保持した状態の、ボール取付治具1の外観斜視図である。ボール取付治具1は、ボール保持部2(保持機構)と、シート支持部4(保持機構)と、駆動機構7(保持機構)とを備える。
【0026】
ボール保持部2は、ボール弁体104を保持する軸状の構造体である。この軸状の構造体の一方の端部が、ボール弁体104の上面に設けられた、ステム103と連結する構成に接続する。
【0027】
駆動機構7は、ボール保持部2を軸方向(Z軸方向)に沿って移動させる。駆動機構7は、ボール弁体104を保持したボール保持部2を、ステム収納部106(寸胴部)から弁室部105に向かってZ軸負方向に下降させる。駆動機構7は、ボール保持部2をボデー101外部からステム収納部106内に挿入するところまで移動させるクレーン等の装置と、ボール弁体104およびボールシート168がステム収納部106から弁室部105まで下降するまでのボール保持部2の移動を担うハンドル機構と、を有する。クレーン等の装置は、一例として、ボール弁体104を保持したボール保持部2を吊り下げて降ろす態様とすることができる。ハンドル機構は、先述のボンネットに配設されたハンドル199と同様に、ボデー101の上端部にボルト等によって着脱可能に連結されるベースであって、ボール保持部2をZ軸方向に進出退行可能に保持するベースと、ハンドルを有する操作部とを有する。ハンドルを回転させることにより、ベースに挿通されたボール保持部2がZ軸方向に進出退行する構成とすることができる。
【0028】
シート支持部4は、ボール保持部2が保持したボール弁体104に対してボールシート168を押圧して支持する。具体的には、シート支持部4は、ボールシート168と、その外径側を支持するアウターリング167と、ボールシート168とアウターリング167とを支持するCリング190との一体構成を、支持する。すなわち、シート支持部4は、これら一体構成を、ボール保持部2が保持したボール弁体104に対して押圧して支持する。なお、以下では、特段説明しない限り、この一体構成を纏めて、単に「ボールシート168」と記載するが、本発明における「ボールシート」とは必ずしもこのような構造を有するものに限定されず、ボール弁体の流路開口をシールするための部材(いわゆるボールシート)を含む限り、その他の部材等を有するかどうか、またどのような部材を有するかについては任意である。
【0029】
シート支持部4は、ボール保持部2に連結している。シート支持部4は、シャッター5と、エアシリンダー6(解除機構、シリンダー)とを有する。シャッター5は、ボールシート168における下降する方向に対して前方側に位置する部分168bが後方側に位置する部分168tよりもボール弁体104の回転軸104cに近接するように、ボールシート168を回転軸104cに対して傾斜させて支持する。エアシリンダー6は、シャッター5によるボールシート168の支持を解除する。
【0030】
シャッター5は、図4に示すように、ボールシート168の端面、すなわち弁室部105内においてリテーナ180(図3)に対向する面、に当接する当接面5aを有する板状構造物である。当接面5aは、環状のボールシート168の端面のうちの全周ではなく、ボール弁体104の上面に近い部分の円弧部分に当接し、ボール弁体104の回転軸104cに近づける方向に当接面5aがボールシート168をボール弁体104に向かって押圧して支持している。この状態において、ボール弁体104を挟んで両側にそれぞれ配設された当接面5aは、ボール弁体104が下降する方向(Z軸負方向)に向かって前方側の部分が、後方側の部分よりも、当接面5a同士の間隔が短くなるように、YZ平面に対して傾斜している。これにより、ボール弁体104を挟んで両側にそれぞれ配設されたボールシート168も、下降する方向に対して前方側に位置する部分168bが後方側に位置する部分168tよりもボール弁体104の回転軸104cに近接するように、回転軸104cに対して傾斜して支持される。
【0031】
シャッター5の当接面5aのサイズは、シャッター5によって傾斜したボールシート168が、連通口106aに挿入されて、弁室部105内に配置されているリテーナ180と、ボール弁体104と、当接面5aとの3点によって支持された状態となったときに、上方に飛び出ている部分のボールシート168の上半分以上を保持できるサイズであると好ましい。これにより、当接面5aによる当接の解除によってボールシート168が脱落等の不具合が発生することがない。
【0032】
回転軸104c(Z軸)に対するシャッター5の当接面5aの傾斜角度は、ボール弁体104を挟んで両側にそれぞれ配設されたボールシート168同士の、下降する方向に対して前方側に位置する部分168b間の距離が、ボール弁体104の流路104aの両端開口部間の長さよりも小さくなっていればよい。
【0033】
エアシリンダー6は、ピストン部6aを下方に向けて延ばして配設されており、ピストン部6aの先端は、シャッター5に連結されている。エアシリンダー6が、ピストン部6aを引き上げると、シャッター5が上方(略Z軸正方向)に引き上げられる構成となっている。これにより、シャッター5の当接面5aと、ボールシート168の端面との当接が解除される。
【0034】
以下、シャッター5の引き上げのタイミングを中心としたボール取付治具1の詳細を、ボール取付治具1を用いたボール弁体104およびボールシート168の取り付け方法と併せて説明する。図5は、ボール取付治具1を用いた取り付け方法の処理フローを示す図である。
【0035】
ボール弁体104およびボールシート168の取り付け方法の処理フローとしては、図5に示すステップS1~ステップS4を含む;
ステップS1(第1の工程):ボール保持部2によって保持されたボール弁体104、およびシート支持部4によって支持されたボールシート168を、ステム収納部106から、リテーナ180が取り付けられている弁室部105に向かって下降させ、シャッター5によってボールシート168をボール弁体104の回転軸104cに対して傾斜させた状態で支持されたボールシート168を連通口106a(収容開口部)に挿入させる工程、
ステップS2(第2の工程):ステップS1の後に、連通口106aを通過しているボールシート168がボール弁体104とリテーナ180との間で支持された状態となると、シャッター5によるボールシート168の支持をエアシリンダー6によって解除する工程と、
ステップS3(第3の工程):ステップS2の後に、ボールシート168を、ボール保持部2によって保持され下降するボール弁体104と共に下降させる工程、
ステップS4(第4の工程):ステップS3の後に、ボール弁体104およびボールシート168が弁室部105の所定の箇所に取り付けられると、ボール弁体104へのボール保持部2の保持が解除され、ボール取付治具1は上昇してボデー101の外に出す。
【0036】
図6は、ボデー101(ステム収納部106)の上端開口部106bから、ボール取付治具1をボデー101内に挿入している状態を示している(ステップS1)。なお、この段階において、弁室部105の端領域152にはリテーナ180が既に取り付けられている。弁室部105の両側にある端領域152にそれぞれ取り付けられたリテーナ180間の距離は、連通口106aの口径よりも小さい。すなわち、図6に示すように、連通口106aの周壁部よりもリテーナ180がステム収納部106の中心軸側に突出している。
【0037】
ここで、図6に示すように、ボール取付治具1には、ステム収納部106の上端開口部106bの縁部に相当する上端面101aに設けられた、ボンネット102を取り付けるために使用するボルト留め部101bに挿入される位置決めロッド8が設けられている。位置決めロッド8は、上端面101aにおける上端開口部106bの中心を挟んだ両端のボルト留め部101bにそれぞれ挿入できるように対で構成される。各ボルト留め部101bに位置決めロッド8を挿入することにより、ボール保持部2の軸状の構造体が、ステム収納部106の中心軸に位置決めされる。
【0038】
このように位置決めロッド8を用いてボール保持部2の軸状の構造体をセンタリングすることにより、ボール取付治具1によってステム収納部106を下降させるボール弁体104の回転軸104cを、ステム収納部106の中心軸に一致させることができる。
【0039】
ボールシート168は、ボール保持部2に保持されたボール弁体104がステム収納部106に挿入される前の段階で、シート支持部4によってボール弁体に対して押圧されて支持されている。また、その段階で、図6に示すように、シート支持部4は、シャッター5によってボールシート168を傾斜させている。ボール弁体104を挟んで両側にあるボールシート168は、それぞれがシャッター5によって傾斜させられて下降方向に向かって先すぼみの姿勢となる。これにより、先述したように前方側の部分168b間の距離tは、ボール弁体104の流路104aの両端開口部間の長さtよりも短く構成されている。具体的には、前方側の部分168b間の距離tは、連通口106aの開口径よりも小さく、且つ、連通口106aの周壁部よりも中心軸に向かって突出しているリテーナ180同士の離間距離tよりも小さい。すなわち、t<t<tの関係となる。
【0040】
図7は、ボール弁体104およびボールシート168が弁室部105に向かって更に下降し、連通口106aを通過している様子を示す断面図である。上述のようにボールシート168を傾斜させているため、ボールシート168の前方側の部分168bは、リテーナ180の上方の部分に接触することなく、下降する。ボールシート168の前方側の部分168bがリテーナ180の上方の部分を通過して以降、暫くの間は、ボールシート168の前方側の部分168bはリテーナ180と非接触である一方で、ボールシート168における前方側の部分168bよりも上方の部分では、傾斜により広がった部分、具体的には、ボールシート168の上下間中央付近におけるボールシート間の距離tが、リテーナ180同士の離間距離tと一致した位置で、ボールシート168がリテーナ180に接触するようになり、ボール弁体104とリテーナ180との間に互い違いのような状態で挟み込まれ、この状態でリテーナ180を押し拡げつつ挿入されていく。これにより、ボールシート168が、リテーナ180による支持を受け始める。
【0041】
このようにボールシート168がボール弁体104とリテーナ180によって支持され、シャッター5の当接面5aによる当接が解除されてもボールシート168が脱落等の不具合が発生することがなくなれば、当接面5aによる当接を解除する(第2の工程:S2)。ボールシート168に対する当接面5aの当接解除は、先述のようにエアシリンダー6によって行う。当接解除のタイミングに関しては、図8を用いて説明する。
【0042】
図8は、図7の破線の囲み部分Pの拡大図である。図8に示す状態では、シャッター5の下端部5bは、連通口106aの周壁部と接触していない。本実施形態のボール取付治具1は、シャッター5の下端部5bが連通口106aの周壁部の上縁と接触する直前まで、シャッター5が傾斜している当接面5aをボールシート168に当接させてボールシート168を傾斜状態で支持するように設計されている。そして、シャッター5の下端部5bが、連通口106aの周壁部の上縁に接触する直前に、エアシリンダー6のピストン部6aが上方に引き上げられることによってシャッター5が上方に引き上げられ、ボールシート168の支持が解除されるように設計されている。このように、シャッター5の下端部5bが連通口106aの周壁部の上縁に接触する直前にシャッター5を引き上げるのは、シャッター5が連通口106aに到達してしまい、万が一、シャッター5がボールシート168とともにボール弁体104と連通口106aとの間に挟まれてしまうことになると、その後、シャッター5を引き上げることはできるが、その摺動により、シール性に影響するボールシート168のシール面を損傷してしまうなどの不都合を生じるおそれがあるからである。したがって、シャッター5の下端部5bは、ボールシート168の、ボール弁体104とリテーナ180とによる支持が行われるまでは、連通口106aの周壁部の上縁には接触しないような高さ位置に設定することが必要となる。
【0043】
エアシリンダー6がピストン部6aを引き上げるタイミングは、駆動機構7を操作する作業員が、ボデー101の上端開口部106bの外から、ボール保持部2の軸状の構造体の下降位置を目視することにより計ることができ、そのタイミングで作業員がエアシリンダー6のスイッチを押下する。シャッター5は、ボール保持部2に連結しているため、ボール保持部2の位置を特定することにより、シャッター5の位置を特定することができる。この態様においては、ボール保持部2の軸状の構造体における作業員が目視できる位置に、スイッチを押下するタイミングを示す目印が付されていてもよい。ただし、目視の態様に限らず、ボール保持部2の降下位置等を検出して機械的に信号を送出するような態様で、エアシリンダー6が起動する構成となっていてもよい。
【0044】
図9は、シャッター5が引き上げられて、ボール弁体104およびボールシート168が、弁室部105の所定箇所に取り付けられた状態を示す(第3の工程:S3)。ここで、シート支持部4は、図8および図9に示すように、ボールシート168の上端(詳細にはアウターリング167の上端)を下方に押すシート押し部44を有する。シート押し部44は、シャッター5の当接面5aに対して略垂直な面を有し、シート支持部4がボールシート168を支持している間は、ボールシート168の上端の面に面接触する。すなわち、シャッター5によってボールシート168が傾斜している間も、傾斜したボールシート168の上端には、シート押し部44が面接触している。
【0045】
シート押し部44は、シート支持部4の支持ベース部40の下端面によって構成されている。支持ベース部40は、その中間の高さ位置において、第1規制体41の一端に連結している。規制体41の他端は、ボール保持部2に連結固定されている。規制体41は、一端に連結した支持ベース部40を、その連結部を中心に回動可能に支持している。また、支持ベース部40における当該連結部よりも下方の位置には、第2規制体42が連結している。第2規制体42は、一端側において、支持ベース部40を、Y軸を中心軸として回動可能に連結しており、他端側には、X軸方向に長い長孔43が設けられている。ボール保持部2は、長孔43を摺動可能に連結されている。これら2つの規制体41,42によって、シート支持部4は、ボールシート168を支持した状態で、シャッター5によって傾斜させることができるとともに、当該傾斜を解除することができ、且つ、ボールシート168の上端の面に対して、ボールシート168が傾斜しているか否かを問わず常に面接触することができる。
【0046】
シャッター5による傾斜が解除されたボールシート168は、ボールシート168の外周面をリテーナ180のボール弁体104側の端面に沿わせながら、ボール弁体104の下降に併せて下降する。また、ボールシート168は、その内周面もボール弁体104の外周面に沿わせながら下降する。ここで、ボールシート168の内外周面は、ボール弁体104の外周面(曲面)とリテーナ180の端面(曲面)にそれぞれ合わせた曲面を有しているため、これらの面との接触により、ボールシート168は弁室部105内の所定位置及び所定の傾き(垂直)となるように自動的に調節されることになる。これにより、ボールシート168は、徐々に傾斜が無くなる。このとき、ボールシート168は、弁室部105に取り付けられたリテーナ180の端面(外周面の一部を構成する面)に摺動しながら下降するため、リテーナ180の外周面から抵抗を受ける。また、ボール弁体104の球面からも抵抗を受ける。そのため、ボール取付治具1は、ボールシート168が弁室部105から上方に飛び出さないように、シート押し面44によってボールシート168を押し込む。要するに、ボールシート168は、ボール弁体104とともに下降することに伴って、ボール弁体104およびリテーナ180との接触によって傾斜角度が変化し、シート押し部44は、その傾斜角度の変化に合わせ、ボールシート168を押す方向を、傾斜した方向から、ボール弁体104の回転軸に平行な方向(Z軸負方向)に変化させる。これらにより、ボールシート168がボール弁体104とリテーナ180との間で支持された状態となり、シャッター5によるボールシートの支持を解除した後でも、ボール弁体104に合わせたボールシート168のシート押し部44による押し込みを継続するだけで、ボールシート168は自動的に弁室部105内の最適な位置に配置されることになる。逆に言えば、このような自動的なボールシート168の位置合わせが可能となる位置まで、シート支持部4(シャッター5)によるボールシート168の支持を行えばよい。
【0047】
図9に示すようにボール弁体104およびボールシート168が、弁室部105の所定箇所に取り付けられると、ボール保持部2とボール弁体104との連結を解除する。解除方法としては、上端開口部106bから作業員がボルト留めを解除する器具を挿入して行うことが有り得る。ボール取付治具1は、その後、クレーン等で上方に引き上げられ、ボデー101の外に出される(ステップS4)。
【0048】
以上の手順で、ボール取付治具1は、ボール弁体104およびボールシート168を弁室部105に取り付ける。
【0049】
本実施形態1のボール取付治具1によれば、シャッター5を用いてボールシートを上述のように傾斜させることにより、ボール弁体の両側に押圧されて支持されたボールシートは、下降する方向に向かって先すぼみの形状になる。そのため、トップエントリ型の弁室部105に既にリテーナ180が取り付けられていて弁室部105上方の連通口106a部分の開口サイズがリテーナ180によって制限されているボデー101(弁室部105)であっても、この先すぼみとなっている方向から両側部のリテーナ180を押し拡げながらボール弁体104とボールシート168の両方を弁室部105内に導入することができるので、ボール弁体104とボールシート168とを一体的に良好に弁室部105に取り付けることができる。また、ボール取付治具1を用いれば、ステム収納部106内を、ボール弁体104および傾斜させたボールシート168を下降させて連通口106aを通過させた後、ボールシートがシャッター5による付勢が解除されてもボール弁体とリテーナとの間で支持される状態となったところで、解除機構によってシャッター5による傾斜を解除できる構成となっている。そのため、先述のようにステム収納部106が長く、弁室部105まで作業員の手が届かないような胴長の液体水素用ボールバルブであっても、ボールシート168をボール弁体104とともに、トップエントリによって良好に弁室部105に導入することができる。
【0050】
〔実施形態2〕
本発明の他の実施形態について、図10から図12を用いて以下に説明する。なお、説明の便宜上、上記実施形態にて説明した部材と同じ機能を有する部材については、同じ符号を付記し、その説明を繰り返さない。
【0051】
上述の実施形態1では、シート支持部4が、シャッター5の傾斜をエアシリンダー6によって解除する構成を具備している。これに対して、本実施形態では、エアシリンダー6とは異なる構成によって、シャッター5の傾斜を解除するシート支持部4を具備する。
【0052】
図10は、本実施形態のボール取付治具1を用いて、ボール弁体104およびボールシート168をボデー101の弁室部105に取り付ける様子を示す拡大断面図である。図10は、ボール弁体104およびボールシート168が、ステム収納部106を下降して連通口106aに挿しかかった段階を示しており、実施形態1における図6に対応する図である。本実施形態では、シート支持部4が、シャッター5とともに、シャッター5を傾斜させた傾斜状態に固定するロック機構50を有する。シャッター5は実施形態1において説明した構成と同様であるため、ここでの説明は省略する。
【0053】
ロック機構50は、傾斜姿勢をとったシャッター5を、ボールシート168の端面に接触してボールシート168をボール弁体104に押圧して支持できる位置に下げ、且つその状態を維持させるための構成である。シャッター5の位置(高さ)は、ロック機構50の上方に設けられたバネを傾斜方向に伸縮させることによって変化させることができ、バネを伸長させた状態とすることにより、シャッター5の位置を、ボールシート168の端面の上方寄りの部分(後方側に位置する部分168t)に対向する位置とすることができる。ロック機構50は、当該バネを伸長させた状態で維持させる構成となっている。
【0054】
また、シート支持部4は、シャッター5の傾斜を解除する機構として、連通口106aの周壁部の上面に接触する接触部61と、接触部61に連結した解除部62であって、接触部61が連通口106aの周壁部の上面に接触することによってロック機構50に作用して、シャッター5の傾斜状態の固定を解除する解除部62とを有する。
【0055】
図11は、図10に示す状態よりもボール弁体104およびボールシート168が更に弁室部105に挿入された状態を示す。図11の状態は、ボールシート168がリテーナ180の支持を受け始めた段階である。ここで、図12は、図11の二点破線の囲み部分Pの拡大断面図であるが、説明の便宜上、斜視から見た断面図としている。
【0056】
図12に示すように、接触部61の先端部は、連通口106aの周壁部の上面に接触するように、位置決めされている。接触部61の先端部が連通口106aの周壁部の上面に接触することにより、接触部61の更なる下降が規制される。一方、ボール保持部2は更なる下降を継続し、シート支持部4の他の構成も下降を継続する。そのため、接触部61は、解除部62を図12に示すX軸負方向にスライドするように動き、ロック機構50を、矢印で示す方向に回動させる。ここで、ロック機構50は、図12に示すようにフック型の構造を有し、突部46に係合することによって、シャッター5の傾斜姿勢を維持させている。解除部62はロック機構50を矢印で示す方向に回動させることによって、突部46へのロック機構50の係合を外すことができる。これにより、先述のバネが収縮して、シャッター5が上方に上がり、ボールシート168に当接しない状態となる。これ以降の動作は、実施形態1において説明しているため、ここでの説明は省略する。
【0057】
なお、接触部61は、先端部の位置が調整可能なように、例えば、当該先端部が基部に対して螺合している態様で、螺合の度合いを調整することによって、基部に対する当該先端部の突出量を調整することができる。このような接触部61の先端部の位置調整により、シャッター5が上がるタイミング、すなわちシャッター5による傾斜支持を解除するタイミングの調整が可能である。タイミングの調整は、シャッター5の当接面5aのサイズが変わるなどして、ボールシート168の端面への当接領域が変わった場合に、必要となる。
【0058】
以上のように本実施形態のボール取付治具1を用いることにより、実施形態1のボール取付治具1と同等の効果を奏する。
【0059】
〔変形例〕
上述の各実施形態のボール取付治具1は、図6および図10に示すように、シャッター5の当接面5aを傾斜させた状態でボールシート168の円弧を有する端面の上方(後方側に位置する部分168t)に押圧してボールシート168を傾斜させる態様である。しかしながら、この態様に限定されず、ボールシート168を傾斜させて支持し、ボールシート168が下降する過程で或る位置(高さ)となったところで、傾斜を解除できる構成であればよい。
【0060】
例えば、ボールシート168の外周面(正確にはボールシート168と、その外径側を支持するアウターリング167と、ボールシート168とアウターリング167とを支持するCリング190との一体構成における、アウターリング167の外周面)に着脱可能に吸着する吸着チャッキを備え、吸着チャッキがボールシート168の外周面に吸着しつつ傾斜させて支持する態様のシート支持部であってもよい。
【0061】
本変形例においては、吸着チャッキは、ボデーの外に配備された吸引ポンプによって吸引されて、その吸引力によってボールシート168をボール弁体104に対して押圧して支持する。十分な吸着性を確保するために、吸着チャッキは、ボールシート168の外周面の上方に周方向に複数個配備されていることが好ましい。
【0062】
本変形例のボール取付治具では、吸引を制御する制御装置を具備することにより、ボールシート168が弁室部105内のリテーナ180による支持を受け始めた段階で、吸着チャッキの吸引を停止することができる。これ以降の動作は、実施形態1において説明している同じ態様とすればよい。
【0063】
また、上述した例では、ボールシート168をシャッター5や吸着チャッキによりボール弁体104に沿わせて支持した例を示したが、ボールシートの支持は、これらに限定されず、他の方法を適用することもできる。例えば、アウターリング167の外周に所定の孔を設け、その孔に何らかの保持手段を固定する方法、例えば、ボルトや、孔内で膨張して対象物を保持し、収縮して保持を解除するようなクリッパー等を適用することも可能である。
【0064】
本発明は上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、それらについても本発明の技術的範囲に含まれる。
【0065】
〔まとめ〕
本発明の態様1に係るボール取付治具は、
流体の流路となる二以上の流路開口部(端領域152)とボール弁体が通過可能な収容開口部とを有する弁室部と、前記流路開口部に取り付けられたリテーナと、前記収容開口部を介して前記弁室部に連設されている寸胴部とを有するボールバルブの当該弁室部に、当該寸胴部からトップエントリによってボール弁体およびボールシートを導入する際に用いるボール取付治具であって、
前記ボール取付治具は、前記リテーナが取り付けられている状態の前記弁室部に対してボール弁体およびボールシートを導入する構成となっており、
前記ボール弁体および前記ボールシートを保持して、前記寸胴部から前記弁室部に向かって下降する保持機構を備え、
前記保持機構は、
前記ボールシートにおける下降する方向に対して前方側に位置する部分が後方側に位置する部分よりも前記ボール弁体の回転軸に近接するように、前記ボールシートを前記回転軸に対して傾斜させた状態で、前記ボール弁体に沿わせて保持するシート支持部と、
前記ボール弁体と共に前記シート支持部により傾斜した状態で前記収容開口部に導入されたボールシートが、前記ボール弁体と前記リテーナとにより支持されると、前記シート支持部による前記ボールシートの支持を解除する解除機構と、
を有する。
【0066】
前記態様1の構成によれば、トップエントリ型のボールバルブに対して、ステム収納部分(寸胴部)が長いボールバルブであっても、ボール弁体とともにボールシートを良好に弁室部に導入することができる。
【0067】
具体的には、前記シート支持部を用いてボールシートを上述のように傾斜させることにより、ボール弁体と、およびボールシートに押圧して支持されるボールシートとは、下降する方向に向かって先すぼみの形状になる。そのため、収容開口部および弁室部への挿入時に、収容開口部および収容開口部付近のリテーナに対して、不都合にボールシートが接触して挿入が妨げられることがない。
【0068】
また、ボールシートがボール弁体と前記リテーナとの間で支持されると、解除機構によって、シート支持部によるボールシートの支持を解除する構成となっている。そのため、シート支持部による支持が解除されたボールシートは、ボール弁体とともに弁室部に挿入される過程で、ボール弁体とリテーナとの支持を受けて、適切な箇所に取り付けられる。
【0069】
本発明の態様2に係るボール取付治具は、前記態様1において、
前記保持機構(シート支持部4)は、前記ボール弁体の下降に合わせて、前記ボールシートを下方に押すシート押し部を更に有する。
【0070】
前記態様2の構成によれば、シート押し部によってボールシートを下方に押すことができるため、弁室部に取り付けられているリテーナとボールシートとの接触による抵抗に抗して、ボールシートをボール弁体とともに下降させることができる。
【0071】
本発明の態様3に係るボール取付治具は、前記態様2において、
前記ボールシートは、前記シート支持部による支持が前記解除機構によって解除されて以降に、前記ボール弁体とともに下降することに伴って、前記ボール弁体および前記リテーナとの接触によって、傾斜角度が変化し、
前記シート押し部は、前記傾斜角度の変化に合わせ、前記ボールシートを押す方向を、傾斜した方向から、前記回転軸に平行な方向に変化させる。
【0072】
前記シート支持部による支持が解除されたボールシートは、ボール弁体とリテーナとから支持されつつ下降を継続することにより、ボールシートがボール弁体の回転軸に対して平行となる。前記態様3の構成によれば、シート押し部の押す方向がボールシートの傾斜角度の変化に合わせて変化することで、前記シート支持部が、ボールシートが所定箇所に取り付けられるまでボールシートを支持することができる。
【0073】
本発明の態様4に係るボール取付治具は、前記態様1から態様3において、
前記シート支持部は、前記ボールシートの端面に当接する当接面を有するシャッターを有し、前記シャッターの当接面を傾斜させる構成となっており、
前記解除機構は、前記シャッターの前記当接面と、前記端面との当接を解除する構成となっている。
【0074】
前記態様4の構成によれば、シャッターをボールシートに対して当接させるか否かによって、傾斜か傾斜解除かを実現することができる。
【0075】
本発明の態様5に係るボール取付治具は、前記態様4において、
前記解除機構は、前記シャッターを、前記収容開口部よりも上方に引き上げて、前記当接面と前記端面との当接を解除する。
【0076】
前記態様5の構成によれば、ステム収納部の空間に前記シャッターを引き上げることによって、前記当接面と前記端面との当接を解除できる。
【0077】
本発明の態様6に係るボール取付治具は、前記態様4または態様5において、
前記解除機構は、前記シャッターに連結したシリンダーを有し、
前記シャッターは、前記シリンダーによって、前記収容開口部よりも上方に引き上げられる。
【0078】
前記態様6の構成によれば、前記シリンダーによって前記シャッターが引き上げられることによって前記シート支持部による支持が解除される。
【0079】
前記態様1から6の何れかのボール取付治具を用いて、トップエントリによって前記ボールバルブの前記弁室部に、ボール弁体およびボールシートを取り付けるボール取付方法であって、
前記リテーナが取り付けられている状態の前記弁室部に向かって、前記保持機構によって保持され、前記シート支持部によって傾斜した状態の前記ボールシートと、前記ボール弁体とを下降させて、前記収容開口部に挿入させる第1の工程と、
前記第1の工程の後に、前記収容開口部を通過しているボールシートが前記ボール弁体と前記リテーナとの間で支持された状態となると、前記シート支持部による前記ボールシートの支持を前記解除機構によって解除する第2の工程と、
前記第2の工程の後に、前記ボールシートと前記ボール弁体とを下降させる第3の工程と、
を含む。
【0080】
前記態様7の構成によれば、トップエントリ型のボールバルブに対して、ステム収納部分(寸胴部)が長いボールバルブであっても、ボール弁体とともにボールシートを良好に弁室部に導入することができる。
【0081】
具体的には、前記シート支持部を用いてボールシートを上述のように傾斜させることにより、ボール弁体と、およびボールシートに押圧して支持されるボールシートとは、下降する方向に向かって先すぼみの形状になる。そのため、収容開口部および弁室部への挿入時に、収容開口部および収容開口部付近のリテーナに対して、不都合にボールシートが接触して挿入が妨げられることがない。
【0082】
また、ボールシートがボール弁体と前記リテーナとの間で支持されると、解除機構によって、シート支持部によるボールシートの支持を解除するため、シート支持部による傾斜支持が解除されたボールシートは、ボール弁体とともに弁室部に挿入される過程で、ボール弁体とリテーナとの支持を受けて、適切な箇所に取り付けられる。
【符号の説明】
【0083】
1 ボール取付治具
2 ボール保持部
4 シート支持部
5 シャッター
5a 当接面
5b 下端部
6 エアシリンダー
6a ピストン部
7 駆動機構
8 位置決めロッド
40 支持ベース部
41 第1規制体
42 第2規制体
43 長孔
46 突部
50 ロック機構
61 接触部
62 解除部
101 ボデー
101a 上端面
103 ステム
104 ボール弁体
104b 凸部
104c 回転軸
105 弁室部
106 ステム収納部
106a 連通口
106b 上端開口部
110 ボールバルブ
152 端領域(流路開口部)
168 ボールシート
180 リテーナ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12